(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976067
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】紫外線受光素子を有する半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20211118BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-59971(P2017-59971)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-163968(P2018-163968A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小山 威
【審査官】
佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−197243(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/146816(WO,A1)
【文献】
特開2010−040805(JP,A)
【文献】
特開平10−107312(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0163759(US,A1)
【文献】
特開2016−111142(JP,A)
【文献】
特開平07−162025(JP,A)
【文献】
特開2009−158570(JP,A)
【文献】
特開2003−197947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/08−31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半導体受光素子と第2の半導体受光素子とを備えた紫外線受光素子を有する半導体装置であって、
前記第1の半導体受光素子は、半導体基板に形成された第1の第1導電型半導体領域と前記第1の第1導電型半導体領域内に形成された第1の第2導電型半導体領域からなるPN接合を有する第1のフォトダイオードを備え、前記第2の半導体受光素子は、前記半導体基板に形成された第2の第1導電型半導体領域と前記第2の第1導電型半導体領域内に形成された第2の第2導電型半導体領域からなるPN接合を有する、前記第1のフォトダイオードと同じ構成を持つ第2のフォトダイオードを備え、
前記第1の半導体受光素子は前記第1のフォトダイオード上に膜厚が50nm〜90nmである第1の単層のシリコン酸化膜を有し、前記第2の半導体受光素子は前記第2のフォトダイオード上に前記第1の単層のシリコン酸化膜の膜厚よりも20〜40nm薄い膜厚の第2の単層のシリコン酸化膜を有するとともに、
前記第1の第2導電型半導体領域の上に配置された第1の配線と前記第2の第2導電型半導体領域の上に配置された第2の配線は、ともに前記第1の単層のシリコン酸化膜と同じ膜厚を有する単層のシリコン酸化膜上に設けられていることを特徴とする紫外線受光素子を有する半導体装置。
【請求項2】
前記第1の半導体受光素子の第1の受光領域の大きさが前記第2の半導体受光素子の第2の受光領域の大きさと異なることを特徴とする請求項1記載の紫外線受光素子を有する半導体装置。
【請求項3】
前記第1の受光領域の大きさが前記第2の受光領域の大きさよりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の紫外線受光素子を有する半導体装置。
【請求項4】
前記第1の第2導電型半導体領域と前記半導体基板の表面との間に第2の第1導電型半導体領域を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の紫外線受光素子を有する半導体装置。
【請求項5】
前記第1のフォトダイオードのPN接合および前記第2のフォトダイオードのPN接合よりも前記半導体基板の裏面に近い位置に変質層を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の紫外線受光素子を有する半導体装置。
【請求項6】
第1の半導体受光素子と第2の半導体受光素子とを備えた紫外線受光素子を有する半導体装置であって、
前記第1の半導体受光素子は、半導体基板に形成された第1の第1導電型半導体領域と前記第1の第1導電型半導体領域内に形成された第1の第2導電型半導体領域からなるPN接合を有する第1のフォトダイオードを備え、前記第2の半導体受光素子は、前記第1のフォトダイオードと同じ構成を有する第2のフォトダイオードを備え、
前記第1の半導体受光素子は前記第1のフォトダイオード上に膜厚が50nm〜90nmである第1の単層のシリコン酸化膜を有し、前記第2の半導体受光素子は前記第2のフォトダイオード上に前記第1の単層のシリコン酸化膜の膜厚よりも20〜40nm薄い膜厚の第2の単層のシリコン酸化膜を有し、
前記第1のフォトダイオードのPN接合および前記第2のフォトダイオードのPN接合よりも前記半導体基板の裏面に近い位置に変質層が設けられており、
前記変質層が前記半導体基板の裏面に露出していることを特徴とする紫外線受光素子を有する半導体装置。
【請求項7】
第1の半導体受光素子と第2の半導体受光素子とを備えた紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法であって、
前記第1の半導体受光素子および前記第2の半導体受光素子の形成領域において、
半導体基板に第1の第1導電型半導体領域および第2の第1導電型半導体領域を形成する工程と、
前記第1の第1導電型半導体領域内に第1の第2導電型半導体領域を設けて、前記第1の第1導電型半導体領域と前記第1の第2導電型半導体領域とのPN接合を有する第1のフォトダイオードおよび前記第2の第1導電型半導体領域内に第2の第2導電型半導体領域を設けて、前記第2の第1導電型半導体領域と前記第2の第2導電型半導体領域とのPN接合を有する第2のフォトダイオードをそれぞれ形成する工程と、
前記第1の半導体受光素子の前記第1のフォトダイオード上に膜厚が50nm〜90nmである第1の単層のシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記第2の半導体受光素子の前記第2のフォトダイオード上に前記第1の単層のシリコン酸化膜よりも20〜40nm薄い膜厚の第2の単層のシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記第1の第2導電型半導体領域の上に配置される第1の配線と前記第2の第2導電型半導体領域の上に配置される第2の配線が、ともに前記第1の単層のシリコン酸化膜と同じ膜厚を有する単層のシリコン酸化膜上に配置されるように配線を形成する工程と、を備えることを特徴とする紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記配線を形成する工程において、前記第1の半導体受光素子の受光領域の配線開口幅と前記第2の半導体受光素子の受光領域の開口配線幅を異なる寸法で形成することを特徴とする請求項7記載の紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1の第1導電型半導体領域内に前記第1の第2導電型半導体領域を設けた後に、前記第1の第2導電型半導体領域と前記半導体基板との間に第2の第1導電型半導体領域を形成する工程をさらに備えることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記配線を形成する工程の後に、前記第1のフォトダイオードのPN接合および前記第2のフォトダイオードのPN接合よりも前記半導体基板の裏面に近い位置に変質層を設ける工程をさらに備えることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法。
【請求項11】
第1の半導体受光素子と第2の半導体受光素子とを備えた紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法であって、
前記第1の半導体受光素子および前記第2の半導体受光素子の形成領域において、
半導体基板に第1の第1導電型半導体領域を形成する工程と、
前記第1の第1導電型半導体領域内に第1の第2導電型半導体領域を設けて、前記第1の第1導電型半導体領域と前記第1の第2導電型半導体領域とのPN接合を有する第1および第2のフォトダイオードをそれぞれ形成する工程と、
前記第1の半導体受光素子の前記第1のフォトダイオード上に膜厚が50nm〜90nmである第1の単層のシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記第2の半導体受光素子の前記第2のフォトダイオード上に前記第1の単層のシリコン酸化膜よりも20〜40nm薄い膜厚の第2の単層のシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記第1の単層のシリコン酸化膜および前記第2の単層のシリコン酸化膜上に配線を形成する工程と、
前記配線を形成する工程の後に、前記第1のフォトダイオードのPN接合および前記第2のフォトダイオードのPN接合よりも前記半導体基板の裏面に近い位置に変質層を設ける工程と、を備え、
前記変質層を設ける工程において、前記半導体基板の裏面から透過性のある波長のレーザ光対物レンズ光学系で前記半導体基板の内部に焦点を結ぶように集光する方法を用いることを特徴とする紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法。
【請求項12】
第1の半導体受光素子と第2の半導体受光素子とを備えた紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法であって、
前記第1の半導体受光素子および前記第2の半導体受光素子の形成領域において、
半導体基板に第1の第1導電型半導体領域を形成する工程と、
前記第1の第1導電型半導体領域内に第1の第2導電型半導体領域を設けて、前記第1の第1導電型半導体領域と前記第1の第2導電型半導体領域とのPN接合を有する第1および第2のフォトダイオードをそれぞれ形成する工程と、
前記第1の半導体受光素子の前記第1のフォトダイオード上に膜厚が50nm〜90nmである第1の単層のシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記第2の半導体受光素子の前記第2のフォトダイオード上に前記第1の単層のシリコン酸化膜よりも20〜40nm薄い膜厚の第2の単層のシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記第1の単層のシリコン酸化膜および前記第2の単層のシリコン酸化膜上に配線を形成する工程と、
前記配線を形成する工程の後に、前記第1のフォトダイオードのPN接合および前記第2のフォトダイオードのPN接合よりも前記半導体基板の裏面に近い位置に変質層を設ける工程と、を備え、
前記変質層を設ける工程において、前記半導体基板の裏面からイオン注入を行い、その後に結晶性回復工程を伴わないことを特徴とする紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線受光素子を有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光に含まれる、波長400nm以下の紫外線が人体や環境に与える影響について注目されており、紫外線量の指標であるUVインデックスを用いた紫外線情報が提供されている。紫外線は、波長によって、UV−A(波長315〜400nm)、 UV−B(波長280〜315nm)、 UV―C(波長200〜280nm)に分類される。UV−Aは皮膚を黒化させ、老化の原因となり、UV−Bは皮膚の炎症を引き起こし皮膚癌の原因となるおそれがあり、UV−Cはオゾン層に吸収され地表には届かないものの強い殺菌作用があり、殺菌灯として活用されている。このような背景のもと、近年、各紫外線領域の強度検出用センサの開発に期待が高まっている。
【0003】
紫外線の波長領域にのみに検出感度を持たせるため、屈折率の異なる薄膜層を複数積層させた多層膜光学フィルタ(例えば、特許文献1参照)や、紫外光を吸収する有機膜フィルタ(例えば、特許文献2参照)の活用などが提案されている。また、紫外光を透過するSiN層を積層させた受光素子と紫外光を透過しないSiN層を積層させた受光素子と
の差分特性により、紫外線の波長領域にのみに感度を持つ素子が提案されている。(例えば、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−341122号公報
【特許文献2】特開2016−111142号公報
【特許文献3】特開2008−251709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多層膜光学フィルタや有機膜フィルタの製造プロセスは、通常の半導体製造プロセスとは異なり、工程数が非常に多くコストが高くなる。さらに、有機膜フィルタの場合は、エネルギーの強い短波長紫外光を長時間照射すると組成変化を生じる可能性がある。また、フォトダイオード上に異種の膜が存在すると膜同士の界面で光の反射・干渉が生じ、出力にリップルが生じることがある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、単層ながらも紫外光に対し耐性のある絶縁膜を有するダイオードタイプの紫外線受光素子を有する半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では以下の手段を用いた。
まず、第1の半導体受光素子と第2の半導体受光素子とを備えた紫外線受光素子を有する半導体装置であって、
前記第1の半導体受光素子は、半導体基板に形成された第1の第1導電型半導体領域と前記第1の第1導電型半導体領域内に形成された第1の第2導電型半導体領域からなるPN接合を有する第1のフォトダイオードを備え、前記第2の半導体受光素子は、前記第1のフォトダイオードと同じ構成を有する第2のフォトダイオードを備え、
前記第1の半導体受光素子は前記第1のフォトダイオード上に膜厚が50nm〜90nmである第1の絶縁酸化膜を有し、前記第2の半導体受光素子は前記第2のフォトダイオード上に前記第1の絶縁酸化膜の膜厚よりも20〜40nm薄い膜厚の第2の絶縁酸化膜を有することを特徴とする紫外線受光素子を有する半導体装置とする。
【0008】
また、第1の半導体受光素子と第2の半導体受光素子とを備えた紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法であって、
前記第1の半導体受光素子および前記第2の半導体受光素子の形成領域において、
半導体基板に第1の第1導電型半導体領域を形成する工程と、
前記第1の第1導電型半導体領域内に第1の第2導電型半導体領域を設けて、前記第1の第1導電型半導体領域と前記第1の第2導電型半導体領域とのPN接合を有する第1および第2のフォトダイオードをそれぞれ形成する工程と、
前記第1の半導体受光素子の前記第1のフォトダイオード上に膜厚が50nm〜90nmである第1の絶縁酸化膜を形成する工程と、
前記第2の半導体受光素子の前記第2のフォトダイオード上に前記第1の絶縁酸化膜よりも20〜40nm薄い膜厚の第2の絶縁酸化膜を形成する工程と、
前記第1の絶縁酸化膜および前記第2の絶縁酸化膜上に配線を形成する工程と、を備えることを特徴とする紫外線受光素子を有する半導体装置の製造方法とする。
【発明の効果】
【0009】
上記手段を用いることで、単層ながらも紫外光に対し耐性のある絶縁膜を有するダイオードタイプの紫外線受光素子を有する半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の平面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
【
図3】各波長に対するシリコン基板とシリコン酸化膜の屈折率nを示す図である。
【
図4】各波長に対するシリコン基板とシリコン酸化膜の消衰係数kを示す図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の透過率を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
【
図8】本発明の第4の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
【
図9】本発明の第5の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の第1の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の平面図、
図2は第1の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
図2は
図1のII−II線に沿った断面図である。
【0013】
図1において、紫外線受光素子を有する半導体装置1は第1の半導体受光素子1aと第2の半導体受光素子1bとから構成されている。第1の半導体受光素子1aおよび第2の半導体受光素子1bは、共にN型の半導体基板11に形成された第1のP型半導体領域21と、第1のP型半導体領域21内に形成された第1のN型半導体層領域22と、第1のP型半導体領域21内に形成された高濃度のP型半導体領域23と、第1のN型半導体層領域22内に設けられた高濃度のN型半導体領域24と、をそれぞれ備え、半導体基板11上には例えばシリコン酸化膜より構成される絶縁酸化膜31が設けられている。
【0014】
絶縁酸化膜31中に形成されたカソード電極41は高濃度のN型半導体領域24を介して第1のN型半導体層領域22に接続され、アノード電極42は高濃度のP型半導体領域23を介して第1のP型半導体領域21に接続されている。また、アノード電極42は半導体基板11と接続されるので、P型層領域21は接地端子に接続されることになる。ちなみに、本発明の第1の実施形態においては、第1のP型半導体領域21の接合深さは0.8μm、第1のN型半導体層領域22の接合深さは0.3μmである。
【0015】
第1の半導体受光素子1aおよび第2の半導体受光素子1bにそれぞれ設けられたフォトダイオード51は第1のN型半導体層領域22と第1のP型半導体領域21とからなるPN接合形式の構造を有している。アノード電極42に対しカソード電極41の電位が高くなるようにバイアスを印加することで、第1のN型半導体層領域22と第1のP型半導体領域21の界面に空乏層が広がり、この空乏層が電荷を取り込むための紫外線感知領域として機能することになる。
【0016】
ここで、第1の半導体受光素子1aおよび第2の半導体受光素子1bは半導体基板11内における構造は同じであるが、半導体基板11上に形成された絶縁酸化膜31に違いを設けている。すなわち、第1の半導体受光素子1aでは絶縁酸化膜31の厚さを90nmから50nmとしている。これに対し第2の半導体受光素子1bでは絶縁酸化膜31の厚さを第1の半導体受光素子1aの絶縁酸化膜31の厚さより20〜40nm薄くなるように形成している。
【0017】
半導体受光素子1に光が入射すると、入射光は、その一部が絶縁酸化膜31により吸収され、残りの一部は絶縁酸化膜31と半導体基板11との界面において反射されるため入射光は幾分減衰したのち半導体基板11に到達することになる。そして入射光の各波長成分は光エネルギーに従い、半導体基板11内でキャリアを発生させる。発生したキャリアは半導体基板11内を拡散し、第1のP型半導体領域21と第1のN型半導体層領域22とからなるPN接合の空乏層領域まで達すると、空乏層内の電界により、高濃度のP型半導体領域23あるいは高濃度のN型半導体領域24である端子へと移動し、配線61から電圧または電流としての出力となる。なお、半導体基板深部にて発生するキャリアはPN接合の空乏層領域には達せずに基板へ流れるため出力には関与しない。
【0018】
図3にシリコン基板とシリコン酸化膜の屈折率n、
図4にシリコン基板とシリコン酸化膜の消衰係数kを示す。この両係数から計算した、80nmの絶縁酸化膜31を有する第1の半導体受光素子1a及び60nmの絶縁酸化膜31を有する第2の半導体受光素子1bでの光の透過率の波長依存性、およびそれらの差分特性を
図5に示す。差分特性は、絶縁酸化膜31の薄い第2の半導体受光素子1bの透過率から絶縁酸化膜31の厚い第1の半導体受光素子1aの透過率を引いた値を示すもので、250〜400nmの紫外線波長領域にピークを有する特性を示す。実際の出力は半導体基板11に到達した光子が、キャリアを発生させる内部量子効率と透過率との積となるが、第1の半導体受光素子1aと第2の半導体受光素子1bは、PN接合のフォトダイオード構造は同じであるため内部量子効率が等しく、絶縁酸化膜31の厚さのみが変わっているため、その透過率の差がそのまま出力の差となる。
【0019】
図5に示すように、80nmのシリコン酸化膜を絶縁酸化膜31として有する第1の半導体受光素子1aは250〜400nmの光を透過しにくく、絶縁酸化膜31であるシリコン酸化膜が20nm薄い第2の半導体受光素子1bは、第1の半導体受光素子に比べて、250〜400nmの光を透過しやすいため、その差分をとることで、250〜400nmの紫外線領域の特定光にのみ感度を持つ特性を得ることが出来る。400nm以上の可視光の帯域においては、差分はほぼ一様となっている。
【0020】
また、本構造ではフォトダイオード51上には絶縁酸化膜31が単層で形成されるのみであるから光干渉の影響を小さく出来るという効果も有する。そして、絶縁酸化膜31がシリコン酸化膜という安定した材料であることから紫外線に対し長期の耐性を有する紫外線受光素子を有する半導体装置1とすることができる。
【0021】
第1の半導体受光素子1aの絶縁酸化膜31の厚さが50nm〜90nmで、これと対となる第2の半導体受光素子1bの絶縁酸化膜31の厚さが第1の半導体受光素子1aの絶縁酸化膜31の厚さより20〜40nm薄くなるような範囲、より好ましくは第1の半導体受光素子1aの絶縁酸化膜31の厚さが60nm〜80nmで、これと対となる第2の半導体受光素子1bの絶縁酸化膜31の厚さが第1の半導体受光素子1aの絶縁酸化膜31の厚さより20〜40nm薄くなるような範囲であれば、
図5に示した透過率や差分特性と同様の特性が得られる。
【0022】
第1の半導体受光素子1aにおいて絶縁酸化膜31の厚さを50nmから90nmとするのは、90nmより厚いと干渉の影響により、可視光領域における透過率を示す曲線が平坦でなくなるとともに、膜厚への依存性を示すようになり、20〜40nm薄くした絶縁酸化膜31との差分を取った場合に、前述したような可視光領域における一様な差分特性を得ることができないためである。50nm以上とするのは第2の半導体受光素子1bの絶縁酸化膜31との差分を取れるようにするためである。
【0023】
さらに、第2の半導体受光素子1bの絶縁酸化膜31の厚さを第1の半導体受光素子1aの絶縁酸化膜31の厚さより20〜40nm薄くなるような範囲とするのは、UV波長帯における差分が大きくなるようにするためである。
【0024】
次に、本発明の第1の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置1を得るための製造方法について説明する。
まず、半導体基板11内にイオン注入および熱拡散処理にて第1のP型半導体領域21を形成し、次いで、同様の方法にて第1のP型半導体領域21内に第1のN型半導体層領域22を形成して、第1のP型半導体領域21と第1のN型半導体層領域22とのPN接合を有するフォトダイオード51を形成する。そして、第1の半導体受光素子1aを形成する領域には相対的に厚い絶縁酸化膜31を形成し、第2の半導体受光素子1bを形成する領域には相対的に薄い絶縁酸化膜31を形成する。
【0025】
このような厚さの異なる絶縁酸化膜31の形成には様々な方法がある。例えば、まず、第1の半導体受光素子1aおよび第2の半導体受光素子1bの半導体基板上に50nm〜80nm以下の同一厚さの酸化膜を形成し、次いで、第2の半導体受光素子1bの表面の絶縁酸化膜を20nm〜40nmエッチングにより減じるという方法によって異なる膜厚の絶縁酸化膜31を形成することが可能である。エッチング方法としてはウェットエッチングを用いることで表面にエッチング残渣のない良質な絶縁酸化膜31とすることができ、好ましい。そして、絶縁酸化膜31の形成後に配線を形成する工程になるが、その際、受光領域に配線61が重畳しないようにすることが求められる。
【0026】
図2は配線工程後に第2の半導体受光素子1bの絶縁酸化膜の厚さを減じる処理を行ったときの断面図であり、配線61の端部下の絶縁酸化膜31には段差が生じている。これに対し配線工程前に第2の半導体受光素子1bの絶縁酸化膜の厚さを減じる処理を行った場合は、配線61下の絶縁酸化膜自身の膜厚を配線61間の受光領域の絶縁酸化膜31の厚さと同じにすることができるので、段差が形成されず、段差部から侵入する斜光の影響を抑制することが可能となる。
【0027】
配線形成後は、第1の半導体受光素子1aと第2の半導体受光素子1bの表面を被覆するシリコン窒化膜等からなる保護膜を形成することになるが、フォトダイオード51直上以外の領域、すなわち、受光領域外のみに保護膜などを積層すると良い。フォトダイオード51直上の絶縁酸化膜31の表面には保護膜は無く、大気と接するように構成されることになる。
【実施例2】
【0028】
図6は本発明の第2の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
図5では、250〜400nmの紫外線波長領域にピークを有する特性を示すが、一方で、紫外線波長領域外の他の波長領域における差分は負の特性値を示し、同一の特性とはなっていない。第2の実施形態はこの点を解決するためのものである。
【0029】
図2に示した第1の実施形態では第1の半導体受光素子1aと第2の半導体受光素子1bの受光領域の大きさを同一としたが、
図6により示す第2実施形態では、第1の半導体受光素子1aの受光領域の配線開口幅6aと第2の半導体受光素子1bの受光領域の配線開口幅6bとを異なる大きさとした。これにより、第1の半導体受光素子1aと第2の半導体受光素子1bの受光領域の大きさを異なるものとした。
【0030】
例えば、
図5のように紫外線以外の波長領域における差分が負の特性値である場合には、配線開口幅6aを配線開口幅6bよりも小さくすることで、第1の半導体受光素子1aの受光領域の大きさは第2の半導体受光素子の受光領域の大きさより小さくなり、紫外線以外の他の波長領域における第1の半導体受光素子1aと第2の半導体受光素子1bとの差分をゼロに近づけることが可能となる。
【0031】
このように、半導体受光素子の受光領域の大きさを調整することで紫外線波長領域外の他の波長領域での透過率を同等とし、目的とする紫外線領域における差分特性のみを得ることが可能となる。
【実施例3】
【0032】
図7は本発明の第3の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
図2と対応する部分には同じ符号が付してある。
図2に示した第1の実施形態と異なる点は、第1のN型半導体層領域22上の半導体基板表面に第2のP型半導体領域25を形成し、半導体基板表面付近で発生するキャリアの取り込みを促進している点である。
【0033】
この構造においては、フォトダイオード51は第1のN型半導体層領域22と第1のP型半導体領域21とのPN接合と第2のP型半導体領域25と第1のN型半導体層領域22とのPN接合の両方を有する。前者の第1のN型半導体層領域22と第1のP型半導体領域21とのPN接合付近の空乏層には比較的長波長の紫外線起因のキャリアが捕獲されるのに対し、後者のP型半導体領域25と第1のN型半導体層領域22とのPN接合付近の空乏層には比較的短波長の紫外線起因のキャリアが捕獲され、これにより、半導体基板表面近くで吸収された短波長領域の内部量子効率を向上させることが可能となる。なお、第1のN型半導体層領域22上の半導体基板表面に第2のP型半導体領域25を形成する構造は第1の半導体受光素子1aと第2の半導体受光素子1bで同じである。
【実施例4】
【0034】
図8は本発明の第4の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
図2に示した第1の実施形態と異なる点は、第1のP型半導体領域21を形成せずにP型半導体基板12を用い、これと第1のN型半導体層領域26の接合によるフォトダイオード構造としている点である。
【実施例5】
【0035】
図9は本発明の第5の実施形態に係る紫外線受光素子を有する半導体装置の断面図である。
図2と対応する部分には同じ符号が付してある。
図5では、250〜400nmの紫外線波長領域にピークを有する特性を示すが、同時に紫外線波長領域外の他の波長領域における差分は負の特性値を示し、他の波長領域では必ずしも同一の特性ではない。本実施形態はこの問題を解決するためのものである。
【0036】
図2に示した第1の実施形態と異なる点は、半導体基板11の深部であり、半導体基板11の裏面に近い位置に変質層71を形成した点である。400nm以上の可視光領域の光は、半導体基板11の深くまで達し、半導体基板の深い位置でキャリアを発生させ、このキャリアが拡散して空乏層に捕獲されることで可視光領域における出力を得ることになるが、深部に変質層71を形成することで可視光領域ではキャリアが発生せず、紫外光領域ではキャリアは発生するという半導体受光素子が得られる。
図9では変質層71が半導体基板11内に埋め込み形成される構造を図示しているが、この変質層71が半導体基板11の裏面に露出する構造でも構わない。
【0037】
本実施形態では、変質層71の形成方法にレーザ照射を用いた。半導体ウェハに対して半導体ウェハの裏面から透過性のある波長のレーザ光対物レンズ光学系で半導体ウェハの内部に焦点を結ぶように集光する。集光点を半導体ウェハ内部の所定の深さに合わせることで多光子吸収により変質層71が形成される。本発明の紫外線受光素子を有する半導体装置1では、第1の半導体受光素子1aと第2の半導体受光素子1bの半導体基板11内の構造を同一とするため、第1の半導体受光素子1aと第2の半導体受光素子1bの両方の領域に同一の変質層71を設ける構成としている。
【0038】
図9に示すように広い範囲に変質層71を形成する場合は半導体ウェハ全面に対しレーザ光を走査すれば良い。変質層71を形成する深さが広い範囲に及ぶときには焦点の結ぶ集光点を深さ方向に複数設けて複数回走査すれば深さ方向に厚さのある変質層71が形成されることになる。本発明の実施形態となる紫外線受光素子を有する半導体装置1では、半導体基板11の深い位置に発生したキャリアは、変質層71にトラップされ、再結合後に消滅する。長波長成分の内部量子効率が低くなるため、紫外領域のみの感度を選択的に取り出すことが可能となる。
【0039】
変質層71の深さは、所望の波長により任意に設定される。例えば、波長400nm以下の感度のみを取り出したいときは、変質層71の深さは、半導体ウェハの表面から1〜100umの深さに形成すると良い。この範囲の深さは可視光領域である400〜1000nmの光に対して吸収効率の大きく、キャリアの消滅に有効的である。
【0040】
レーザ照射に代えてイオン注入法を用いて変質層71を形成しても良いが、その場合は、あらかじめバックグラインドにより半導体ウェハの厚みを薄くした後に、半導体基板の裏面から高エネルギーでイオン注入をして変質層71を形成すると良い。この際、イオン注入後のアニール等、変質層71の結晶性回復につながる処理は不要である。
【0041】
さらには、レーザ照射に代えてバックグラインド法を用いて変質層71を形成しても良い。バックグラインドを行うと半導体基板の裏面に破砕層が形成されるが、通常のプロセスではこの破砕層を無くすために目の細かい砥石で研削し、化学処理を施したりするが、半導体基板の裏面を目の粗い砥石で研削し洗浄することで、膜厚の厚い破砕層を残すことができ、これが長波長起因で生じるキャリアの消滅に寄与することになる。
【符号の説明】
【0042】
1 紫外線受光素子を有する半導体装置
1a 第1の半導体受光素子
1b 第2の半導体受光素子
11 N型半導体基板
12 P型半導体基板
21 第1のP型半導体領域
22、26 第1のN型半導体層領域
23、27 高濃度のP型半導体領域
24、28 高濃度のN型半導体領域
25 第2のP型半導体領域
31 絶縁酸化膜
41 カソード電極
42 アノード電極
51 フォトダイオード
61 配線
6a 第1の受光領域の配線開口幅
6b 第2の受光領域の配線開口幅
71 変質層