(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。さらに人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0010】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0011】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0012】
またさらに、「記録要素」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0013】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0014】
以下に用いる記録ヘッド用の素子基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0015】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built−in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0016】
本発明に係る記録ヘッドは、その記録幅が記録媒体の幅に相当するようなフルラインタイプの記録ヘッドを備えた記録装置に用いられる。なお、これに限定するものではなく、シリアルタイプの記録ヘッドを備えた記録装置に用いられてもよい。
【0017】
[記録装置の概要説明]
図1はフルラインのインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)101K、101C、101M、101Yと常に安定したインク吐出を保証するための回復系ユニットを備えた記録装置100の構造を説明するための斜視透視図である。
【0018】
記録装置100において、記録媒体15は、フィーダユニット17から、これら記録ヘッド101による印刷位置に供給され、記録装置100の筐体18に具備された搬送ユニット16によって搬送される。
【0019】
記録媒体15への画像の印刷は、記録媒体15を搬送しながら、記録媒体15の基準位置がブラック(K)インクを吐出する記録ヘッド101Kの下に到達したときに、記録ヘッド101Kからブラックインクを吐出する。同様に、シアン(C)インクを吐出する記録ヘッド101C、マゼンタ(M)インクを吐出する記録ヘッド101M、イエロ(Y)インクを吐出する記録ヘッド101Yの順に、各基準位置に記録媒体15が到達すると各色のインクを吐出してカラー画像が形成される。こうして画像が印刷された記録媒体15はスタッカトレイ20に排出されて堆積される。
【0020】
記録装置100は、更に搬送ユニット16、記録ヘッド101K、101C、101M、101Yにインクを供給するためのインク毎に交換可能なインクカートリッジ(不図示)を有している。またさらに、記録ヘッド101へのインク供給や回復動作のためのポンプユニット(不図示)、記録装置100全体を制御する制御基板(不図示)等を有している。またフロントドア19は、インクカートリッジの交換用の開閉扉である。
【0021】
[制御構成]
次に、
図1を用いて説明した記録装置の記録制御を実行するための制御構成について説明する。
【0022】
図2は、記録装置100の制御回路の構成を示すブロック図である。
図2において、コントローラ30は、MPU31、ROM32、ゲートアレイ(G.A.)33、及びDRAM34を含んで構成される。インタフェース40は、記録データを入力するインタフェースである。ROM32は、不揮発性の記憶領域であり、MPU31が実行する制御プログラムを格納する。DRAM34は、記録データや記録ヘッド101に供給される記録信号等のデータを保存しておくDRAMである。ゲートアレイ33は、記録ヘッド101に対する記録信号の供給制御を行うゲートアレイであり、インタフェース40、MPU31、DRAM34間のデータ転送制御も行う。キャリッジモータ90は、記録ヘッド101(101K、101C、101M、101Y)を搬送するためのモータである。搬送モータ70は、記録紙搬送のためのモータである。ヘッドドライバ50は、記録ヘッド101を駆動する。モータドライバ60、80はそれぞれ、搬送モータ70、キャリッジモータ90を駆動するためのモータドライバである。
【0023】
なお、
図1に示すようなフルライン記録ヘッドを用いる構成の記録装置では、キャリッジモータ90やそのモータを駆動するモータドライバ80は存在しない。このために、
図2ではカッコ符号をつけている。
【0024】
上記制御構成の動作を説明すると、インタフェース40に記録データが入るとゲートアレイ33とMPU31との間で記録データが記録用の記録信号に変換される。そして、モータドライバ60、80が駆動されると共に、ヘッドドライバ50に送られた記録データに従って記録ヘッド101が駆動され、記録が行われる。
【0025】
<第1の実施形態>
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明にて示す各構成要素に対する第1、第2、・・・、の表記は説明のために便宜上付与しているものであり、特許請求の範囲にて示す表記とは必ずしも一致するものではない。
【0026】
[記録ヘッド構成]
図3は、本発明の第1の実施形態に係る記録装置100が備える記録ヘッド101周りの概略を示す図である。
図3では、フルライン型の記録ヘッド101の例を示している。記録ヘッド101の斜視図を
図12に示す。フルライン型の記録ヘッド101は、
図12に示すように、複数の記録素子基板103が配置され、記録媒体700以上の印刷幅を持つ。なお、記録素子基板103の配置構成や形状は、
図12に示すものに限定するものではなく、他の構成であってもよい。
【0027】
記録素子基板103は、第1の信号111(DATA)を受信する第1の受信回路106、第2の信号112(CLK)を受信する第2の受信回路107、および第3の信号113を受信する第3の受信回路108を備える。第1の信号111、第2の信号112及び第3の信号113は、記録装置本体基板102に配置されるヘッド制御IC109から伝送線路110を介して、それぞれの記録素子基板103へと供給される。
図3において、n個の記録素子基板103−1〜103−nが示されており、ここではいずれも同じ構成を備えているものとする。以下、個別に説明を要する場合には添え字を付して示し、説明が共通する場合には添え字を省略して示すものとする。
【0028】
第1の信号111、第2の信号112、及び第3の信号113は、補正回路105に入力される。補正回路105は、第3の信号113の周期毎に、第1の信号111(DATA)と第2の信号112(CLK)の位相差を補正して、第4の信号114(Dadj)と第5の信号115(CKadj)を出力する。第4の信号114(Dadj)は、第1の信号111(DATA)の位相を補正した信号である。第5の信号115(CKadj)は、第2の信号112(CLK)の位相を補正した信号である。補正回路105から出力された第4の信号114(Dadj)と第5の信号115(CKadj)は、駆動回路104に入力される。駆動回路104は、位相差が補正された第4の信号114(Dadj)と第5の信号115(CKadj)で駆動されるため、画像データ信号とクロック信号の同期を確実に取ることができ、正確な画像データを受信する事が可能となる。駆動回路104はそれぞれ記録素子(不図示)に対応し、対応する記録素子を駆動させる。
【0029】
図4は、第1の実施形態に係る記録装置100のタイミングチャートを示す図である。第1の信号111を画像データ信号(DATA)として、第2の信号112をクロック信号(CLK)として、第3の信号113をラッチ信号(LT)として説明を行う。ライン時間とは、記録媒体に1列分ないしは1行分の画像を印刷するための時間を指す。記録素子基板103は、1ライン時間を所定の数のブロックに分割して、記録素子を順次駆動していく時分割駆動を行っており、ラッチ時間は1ブロックあたりの時間を指す。また、ラッチ信号(LT)は、1ブロックを識別するための信号である。
図4において、1のライン時間は、mのラッチ時間に分割される。
【0030】
1ラッチ時間は、テストフラグ信号200を送信する期間、画像データ信号201を送信する期間、及び休止期間203から構成される。休止期間203は、画像データ信号(DATA)及びクロック信号(CLK)の論理は遷移しない期間となる。第1の実施形態に係る記録装置100は、休止期間203後のテストフラグ信号200の送信期間で瞬時に画像データ信号(DATA)とクロック信号(CLK)の位相ずれの補正を行う。
【0031】
具体的には、休止期間203後に送信されるテストフラグ信号200と、クロック信号(CLK)の位相差を把握し、最適な位相補正量を決定する。画像データ信号201を送信する期間中、決定した位相補正量を維持し、ラッチ信号(LT)の立ち上がりで位相補正量をリセットする。このような動作を1ラッチ時間毎に繰り返し行うことで、記録装置100は、温度変化や経時変化による位相の変化に追随することが可能で、信頼性を確保することが可能となる。
【0032】
図5は、第1の実施形態に係る記録装置100における補正回路105のブロック構成の例を示す図である。補正回路105は、第1の信号111(DATA)の位相を補正する第1の信号補正回路300と、第2の信号112(CLK)の位相を補正する第2の信号補正回路301から構成される。第1の信号補正回路300は、第1の遅延回路302、第2の遅延回路303、第1の判定回路304、第2の判定回路305、第1のマルチプレクサ306、第1のタイミング信号生成回路340、及び第1の微小遅延回路330から構成される。また、第2の信号補正回路301は、第3の遅延回路320、第4の遅延回路321、第3の判定回路322、第4の判定回路323、第2のマルチプレクサ324、第2のタイミング信号生成回路341及び第2の微小遅延回路331から構成される。遅延回路および微小遅延回路として示す信号遅延回路の動作について以下で説明する。
【0033】
以下に
図5を参照して、補正回路105の動作を説明する。第1の遅延回路302は、第1の信号111(DATA)を遅延させた(n+1)/2個の第1の遅延信号309(D_0、D_2、D_4・・・D_n−1)を生成する。第1の判定回路304は、第1の遅延信号309と第2の信号112(CLK)の位相を比較する。第1の判定回路304は、第1の遅延信号309(D_0、D_2、D_4・・・D_n−1)のうち、どの遅延信号の立ち上がりエッジが第2の信号112(CLK)の立ち上がりエッジと同一もしくは最も近いかを判定し、その判定結果に基づき第1の判定信号307を出力する。
【0034】
また、第2の遅延回路303は、入力側に第1の微小遅延回路330が接続される。これにより、第2の遅延回路303には第1の信号111(DATA)が第1の微小遅延回路330で遅延された信号が入力され、これを、第2の遅延回路303でさらに遅延させることで、(n+1)/2個の第2の遅延信号310(D_1、D_3、D_5・・・D_n)を生成する。第2の判定回路305は、第2の遅延信号310と第2の信号112(CLK)の位相を比較する。第2の判定回路305は、第2の遅延信号310(D_1、D_3、D_5・・・D_n)のうち、どの遅延信号の立ち上がりエッジが第2の信号112(CLK)の立ち上がりエッジと同一もしくは最も近いかを判定し、その判定結果に基づき第2の判定信号308を出力する。なお、補足すると、第2の遅延信号310のD_1は、第1の遅延信号309のD_0より第1の微小遅延回路330の遅延量に相当する時間遅延している。第2の遅延信号310のD_3は、第1の遅延信号309のD_2より第1の微小遅延回路330の遅延量に相当する時間遅延している。このように、第2の遅延信号310のそれぞれは、第1の遅延信号309のそれぞれと比較すると所定時間遅れている。
【0035】
第1のマルチプレクサ306は、第1の判定信号307及び第2の判定信号308に基づいて、第1の判定回路304及び第2の判定回路305で判定されたエッジが近い遅延信号を、第1の遅延信号309及び第2の遅延信号310のうちから一つ選択して第4の信号114(Dadj)として出力する選択回路として機能する。つまり、第1のマルチプレクサ306は、第1の判定信号307及び第2の判定信号308に基づいて、DATA(第1の信号111)の位相を特定する。ここでの動作の詳細は後述する。
【0036】
第3の遅延回路320は、第2の信号112(CLK)を遅延させた(m+1)/2個の第3の遅延信号327(CK_0、CK_2、CK_4・・・CK_m−1)を生成する。第3の判定回路322は、第3の遅延信号327と第4の信号114の位相を比較する。第3の判定回路322は、第3の遅延信号327(CK_0、CK_2、CK_4・・・CK_m−1)のうち、どの遅延信号の立ち上がりエッジが第4の信号114(Dadj)の立下りエッジと同一もしくは最も近いかを判定し、第3の判定信号325を出力する。
【0037】
第4の遅延回路321は、第2の信号112(CLK)を第2の微小遅延回路331で遅延させた信号をさらに遅延させ、(m+1)/2個の第4の遅延信号328(CK_1、CK_3、CK_5・・・CK_m)を生成する。第4の判定回路323は、第4の遅延信号328と第4の信号114の位相を比較する。第4の判定回路323は、第4の遅延信号328(CK_1、CK_3、CK_5・・・CK_m)のうち、どの遅延信号の立ち上がりエッジが第4の信号114(Dadj)の立下りエッジと同一もしくは最も近いかを判定し、その判定結果に基づき第4の判定信号326を出力する。なお、補足すると、第2の微小遅延回路331のために、第4の遅延信号328のそれぞれは、第3の遅延信号327のそれぞれと比較すると所定時間遅れている。例えば、CK_1は、CK_0より第2の微小遅延回路331の遅延量に相当する時間遅延している。CK_3は、CK_2より第2の微小遅延回路331の遅延量に相当する時間遅延している。
【0038】
第2のマルチプレクサ324は、第3の判定信号325及び第4の判定信号326に基づいて、第3の判定回路322及び第4の判定回路323で判定されたエッジと同一もしくは最も近い遅延信号の遅延時間に対して、半分の遅延時間である遅延信号を、第3の遅延信号327及び第4の遅延信号328のうちから一つ選択して、第5の信号115(CKadj)として出力する。つまり、第2のマルチプレクサ324は、第3の判定信号325及び第4の判定信号326に基づいて、DATA(第1の信号111)とCLK(第2の信号112)のずれを特定した上で、補正を行うこととなる。ここでの動作の詳細は後述する。
【0039】
なお、
図5において、第1の信号補正回路300と、第2の信号補正回路301における、各遅延回路を構成する単位遅延回路の数を異なる添え字n、mを用いて示しているが、nとmは同じ数であってよい。
【0040】
第1の遅延回路302、第2の遅延回路303、第3の遅延回路320、及び第4の遅延回路321は、複数段の単位遅延回路350で構成される。
図13(a)は、単位遅延回路350の回路例を示しており、例えば、8段のインバータ回路で構成される。第1の微小遅延回路330及び第2の微小遅延回路331で発生する遅延時間は、単位遅延回路350で発生する遅延時間(td)の半分の遅延時間(td/2)となるように構成する。
図13(b)は、第1の微小遅延回路330及び第2の微小遅延回路331の別の回路例を示しており、単位遅延回路350の回路例の半分である、4段のインバータ回路で構成された例である。
【0041】
図6は、第1の信号補正回路300のタイミングチャートを、
図7は、第2の信号補正回路301のタイミングチャートをそれぞれ示した図である。
図8は、第1の判定回路304及び第2の判定回路305の回路例を、
図10は、第3の判定回路322及び第4の判定回路323の回路例を示した図である。第1の判定回路304、第2の判定回路305、第3の判定回路322、及び第4の判定回路323は、ラッチ回路やフリップフロップ回路などのデジタル回路のみで構成が可能である。
【0042】
図9は、第1のマルチプレクサ306の回路を示した図である。第1のマルチプレクサ306は、
図9に図示される真理値表の通りに、第1の判定信号307及び第2の判定信号308に基づいて、第1の遅延信号309(D_0、D_2、D_4・・・D_n−1)及び第2の遅延信号310(D_1、D_3、D_5・・・D_n)のうちから一つの信号を選択して、第4の信号114(Dadj)として出力する。また、
図11は、第2のマルチプレクサ324の回路を示した図である。第2のマルチプレクサ324は、
図11に図示される真理値表の通りに、第3の判定信号325及び第4の判定信号326に基づいて、第3の遅延信号327(CK_0、CK_2、CK_4・・・CK_m−1)及び第4の遅延信号328(CK_1、CK_3、CK_5・・・CK_m)のうちから一つの信号を選択して、第5の信号115(CKadj)として出力する。真理値表に示す論理は、ANDゲートやCMOSスイッチなどのデジタル回路のみで実現が可能である。なお、
図9および
図11の真理値表に示す「*」は、don‘t careという意味である。
【0043】
以下に
図6、
図8、および
図9を参照して、第1の信号補正回路300の詳細な動作を説明する。
図6の例では、第2の信号112(CLK)が第1の信号111(DATA)に対して、理想状態のaの位置から時間ts分遅れが発生し、位相差が生じた例を示している。またテストフラグ信号200を2bitの信号「10」とした場合の例である。
【0044】
図8の複数のラッチ回路600は第1の遅延信号309がラッチパルスとして入力されているため、第1の遅延信号309(D_0、D_2、D_4・・・D_n−1)それぞれに同期して、初段のラッチ600−0から後段のラッチ600−n−1へ論理“High”レベルが転送される。同様に、複数のラッチ回路602は第2の遅延信号310がラッチパルスとして入力されているため、第2の遅延信号310(D_1、D_3、D_5・・・D_n)それぞれに同期して、初段のラッチ602−1から後段のラッチ602−nへ論理“High”レベルが転送される。ここで、第1の遅延信号D_0とD_2の間には、単位遅延回路350で発生する遅延時間(td)分の時間差が発生する。同様に、第2の遅延信号D_1とD_3の間には、単位遅延回路350で発生する遅延時間(td)分の時間差が発生する。さらに、第1の遅延信号D_0と第2の遅延信号D_1の間には、第1の微小遅延回路330で発生する遅延時間(td/2)分の時間差が発生する。これにより、第1の遅延信号309(D_0、D_2、D_4・・・D_n−1)及び第2の遅延信号310(D_1、D_3、D_5・・・D_n)は、
図6に示すように、遅延時間td/2ずつ遅延した信号となる。
【0045】
次に、第1のタイミング信号生成回路340によって、第2の信号112(CLK)の立ち上がりに同期した信号edge2が生成され、そのedge2が複数のフリップフロップ回路601及び603に入力される。フリップフロップ回路601及び603は、edge2の立ち上がり時点で、前述した“High”レベルの論理がラッチ回路600、602におけるどの段のラッチまで転送されたかを示す、第1の判定信号307(Qd)及び第2の判定信号308(Qd)を出力する。
【0046】
図6の例では、Qdは0bit目から3bit目までが“High”レベル、4bit目以降は“Low”レベルであり、遅延信号D_3で駆動されるラッチ回路602の2段目のラッチ602−3まで“High”レベルが転送されたことを示している。これは、第2の信号112(CLK)の立ち上がりエッジと一致しているのは、遅延信号D_3であるということを意味する。
図9のマルチプレクサ306は、第1の判定回路304及び第2の判定回路305から出力された第1の判定信号307(Qd)及び第2の判定信号308(Qd)に従って、D_3を第4の信号114(Dadj)として出力する。
【0047】
次に、
図7、
図10、および
図11を参照して、第2の信号補正回路301の詳細な動作を説明する。
図10の複数のラッチ回路800は第3の遅延信号327(CK_0,CK_2,CK_4・・・CK_m−1)それぞれに同期して、初段のラッチ800−0から後段のラッチ800−m−1へ論理“High”レベルが転送される。同様に、複数のラッチ回路802は第4の遅延信号328(CK_1,CK_3,CK_5・・・CK_m)それぞれに同期して、初段のラッチ802−0から後段のラッチ802−mへ論理“High”レベルが転送される。ここで、第3の遅延信号CK_0とCK_2の間には、単位遅延回路350で発生する遅延時間(td)分の時間差が発生する。同様に、第4の遅延信号CK_1とCK_3の間には、単位遅延回路350で発生する遅延時間(td)分の時間差が発生する。さらに、第3の遅延信号CK_0と第4の遅延信号CK_1の間には、第2の微小遅延回路330で発生する遅延時間(td/2)分の時間差が発生する。これにより、第3の遅延信号327(CK_0、CK_2、CK_4・・・CK_n−1)及び第4の遅延信号328(CK_1、CK_3、CK_5・・・CK_n)は、
図7に示すように、遅延時間td/2ずつ遅延した信号となる。
【0048】
次に、第2のタイミング信号生成回路341によって、第4の信号114(Dadj)の立下りに同期した信号edge4が生成され、そのedge4が複数のフリップフロップ回路801及び803に入力される。フリップフロップ回路801及び803がedge4の立ち上がり時点で、前述した“High”レベルの論理がラッチ回路800、802におけるどの段のラッチまで転送されたかを示す、第3の判定信号325(Qc)及び第4の判定信号326(Qc)を出力する。また、信号edge5はedge4をCLKの立ち上がりエッジで取り込んだ信号であり、第2のマルチプレクサ324に供給しマスキング信号として使用する。
【0049】
図7の例では、Qcは0bit目から4bit目までが“High”レベル、5bit目以降は“Low”レベルであり、遅延信号CK_4で駆動されるラッチ回路800の3段目のラッチ800−4まで“High”レベルが転送されたことを示している。これは第4の信号114(Dadj)の立下りエッジと一致しているのは、遅延信号CK_4であるということを意味する。
図11のマルチプレクサ324は、第3の判定信号325(Qc)及び第4の判定信号326(Qc)に従って、CK_4に対して半分の遅延時間を持つCK_2を選択し、ANDゲート901によって信号edge5で不要な部分をマスクして第5の信号115(CKadj)として出力する。その結果、時間ts分が補正され、クロック信号のエッジが理想状態のaの位置に戻り、データ信号との同期が確実に取れるようになる。
【0050】
第1の信号補正回路300は、第1の信号111を遅延させた(n+1)個の遅延信号を生成するために、第1の遅延回路302及び第2の遅延回路303の2系統の遅延回路を設けていることが特徴である。また、第1の微小遅延回路330によって第2の遅延回路303に入力される第1の信号111を、(td/2)時間分遅延させていることが特徴である。このような構成にすることで、(td/2)時間ずつ遅延した(n+1)個の遅延信号を生成し、(td/2)時間の分解能で細かく位相調整ができるようにしている。
【0051】
図14に示すように、単位遅延回路350の遅延時間tdは、ラッチ回路が“High”レベル論理を次段のラッチ回路に転送するのに必要な出力遅延時間tlatよりも、長くする必要がある(td>tlat)。これは正しい位相判定を行うために、ラッチ1段がHighレベルを次段に確実に転送できた後に、ラッチパルス(遅延信号)をラッチ回路に入力する必要があるためである。ラッチ回路の出力遅延時間tlatはトランジスタの動作速度によって決まるため、トランジスタの動作速度が遅い半導体プロセスを用いた場合、tdを長くする必要がある。一方、本実施形態では、
図14(b)に示すように遅延回路及び判定回路を2系統にし、微小遅延回路を設けることで(td>tlat)の制約を満たしつつ、(td/2)時間の分解能で位相調整ができるような構成になっている。したがって、tdを長くする必要がある場合でも細かい分解能で位相調整が可能となる。
【0052】
尚、単位遅延回路350の遅延時間tdは、上述したようにラッチ回路の出力遅延時間tlatよりも大きくする必要があるが、なるべく分解能は細かくしたいため、ラッチ回路の2段分の出力遅延時間2tlatよりも短くするのが望ましい。つまり(tlat<td<2tlat)の条件で構成されるのが望ましい。また、本実施形態では微小遅延回路の遅延時間をtd/2で構成されている例を示したが、これに限定するものではなく、単位遅延回路の遅延時間tdよりも小さければ同一の効果を得ることが可能である。
【0053】
第2の信号補正回路301の第3の遅延回路320、第4の遅延回路321、及び第2の微小遅延回路331も、上記と同様な理由により設けられている。詳細については、第1の信号補正回路300と同様であるので説明は割愛する。つまり、本実施形態では、補正回路105において、第1の信号補正回路300および第2の信号補正回路301はそれぞれ、2系統の遅延回路を備える。したがって、第1の信号補正回路300および第2の信号補正回路301それぞれの遅延回路の数をn個、m個とした場合、それぞれが2個となる。また、各信号補正回路に設けられる微小遅延回路の数は、n−1個、m−1個にて示され、本実施形態において、微小遅延回路の数は、第1の信号補正回路300および第2の信号補正回路301それぞれにおいて1個となる。
【0054】
以上のような構成により、本発明の第1の実施形態に係る記録装置は、回路が安定動作をするためのトレーニング期間が不要で、位相差を瞬時に補正することが可能となる。また位相の補正を定期的(例えば、1ラッチ時間毎)に行うことで、温度変化や経時変化による位相の変化に追随することが可能で、信頼性を確保することが可能となる。
【0055】
また、前述したように本実施形態に係る補正回路は、DLL回路やPLL回路のようなアナログ回路に必要とされる容量(コンデンサ)が不要である。容量(コンデンサ)を基板内に設けるには非常に大きな面積が必要となるが、本実施形態に係る補正回路は、前述したようにデジタル回路のみで構成できるため、省面積化が可能である。
【0056】
また本実施形態に係る補正回路は、デジタル回路のみで実現できるため、DLL回路やPLL回路などのアナログ回路を用いた従来技術に比べ耐ノイズ性に優れる。特に、記録素子基板は記録素子を駆動する際にA(アンペア)オーダの電流が瞬時に流れ、電磁ノイズが多く発生するため、本実施形態に係る補正回路は記録素子基板に適する。
【0057】
<第2の実施形態>
図15は、本発明の第2の実施形態に係る記録装置の補正回路105の構成例を示す図である。補正回路105以外の構成は、第1の実施形態と同様であるため、説明は省略する。また、補正回路105においても、第1の実施形態と同じ構成については、同じ参照番号を付して示す。
【0058】
補正回路105は、第1の信号111(DATA)の位相を補正する第1の信号補正回路300と、第2の信号112(CLK)の位相を補正する第2の信号補正回路301から構成される。第1の信号補正回路300は、第1の遅延回路302、第2の遅延回路303、第3の遅延回路1301、第1の判定回路304、第2の判定回路305、第3の判定回路1302、第1のマルチプレクサ306、第1のタイミング信号生成回路340、第1の微小遅延回路1305、及び第2の微小遅延回路1306から構成される。また、第2の信号補正回路301は、第4の遅延回路320、第5の遅延回路321、第6の遅延回路1307、第4の判定回路322、第5の判定回路323、第6の判定回路1308、第2のマルチプレクサ324、第2のタイミング信号生成回路341、第3の微小遅延回路1311、及び第4の微小遅延回路1312から構成される。第1の実施形態と異なる点は、第1の信号補正回路300と第2の信号補正回路301において、遅延回路及び判定回路がそれぞれ3系統ずつ設けられている点である。更に、第1の微小遅延回路1305及び第3の微小遅延回路1311の遅延時間が(td/3)となっている点と、第2の微小遅延回路1306及び第4の微小遅延回路1312の遅延時間が(2td/3)となっている点が、第1の実施形態と異なる。
【0059】
図16(a)は、第2の実施形態に係る単位遅延回路350の回路例を示しており、例えば、6段のインバータ回路で構成される。
図16(b)は、第2の微小遅延回路1306及び第4の微小遅延回路1312の回路例を示しており、4段のインバータ回路で構成された例である。これにより、単位遅延回路350の遅延時間tdの2/3の遅延時間を実現する。また、
図16(c)は、第1の微小遅延回路1305及び第3の微小遅延回路1311の回路例を示しており、2段のインバータ回路で構成された例である。これにより、単位遅延回路350の遅延時間tdの1/3の遅延時間を実現する。
【0060】
上述した構成により、本発明の第2の実施形態では、第1の信号111を(td/3)時間ずつ遅延した(n+1)個の遅延信号と、第2の信号112を(td/3)時間ずつ遅延した(m+1)個の遅延信号を生成することで、(td/3)時間の分解能で細かく位相調整ができる。第2の実施形態は、第1の実施形態に比べ、より細かい分解能で位相調整ができることが優位な点である。動作については第1の実施形態と同等であるので、詳細な説明は割愛する。
【0061】
したがって、第1の信号補正回路300および第2の信号補正回路301それぞれの遅延回路の数をn個、m個とした場合、それぞれが3個となる。そして、各信号補正回路に設けられる微小遅延回路の数は、本実施形態において、第1の信号補正回路300および第2の信号補正回路301それぞれにおいて2個となる。
【0062】
なお、上記において、第1、第2の実施形態ではそれぞれ、信号に対する遅延回路と判定回路を多段的(複数の系統)に設けることで、より細かい分解能による位相調整を実現した。しかし、上記の段数に限定するものではなく、更に多くの系統を設けることで、より細かい分解能を実現することも可能である。