(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図は、構造ないし構成を説明する目的で記載されたものに過ぎず、図示された各部材の寸法は必ずしも現実のものを反映するものではない。また、各図において、同一の部材または同一の構成要素には同一の参照番号を付しており、以下、重複する内容については説明を省略する。
【0010】
本明細書において、ある部材に加わる電圧の変化とは、電圧値が変わることだけでなく、ある部材が、フローティング状態から何らかの電位を有する状態に変化する場合を含む。また、ある部材に流れる電流の変化とは、電流値が変化することだけでなく、ある部材に電流が流れてない状態から電流が流れる状態になることを含む。また、ある部材を非活性状態にすることは、ある部材を活性状態から非活性状態に変える場合だけでなく、非活性状態に維持する場合も含む。
【0011】
(液体吐出装置の構成例)
図1を参照しながら、液体吐出装置1の構成を述べる。液体吐出装置1は、例えば、インクジェット記録方式のプリンタ(記録装置、画像形成装置等と称されてもよい。)である。
図1は、液体吐出装置1の外観構成の一例を示す斜視図である。液体吐出装置1は、液体吐出ヘッド3を、それを搭載したキャリッジ2を用いて、矢印A方向に往復移動させ、プリント用紙等の記録媒体Pに対して液体吐出ヘッド3から液体(インク)を吐出する。記録媒体Pは、給紙機構5を介して供給され、液体吐出ヘッド3による液体の吐出位置まで搬送される。
【0012】
キャリッジ2には、液体吐出ヘッド3の他、例えば、液体吐出ヘッド3に供給するための液体を貯留するカートリッジ6(インクカートリッジ)が搭載される。カートリッジ6は、キャリッジ2に対して着脱自在になっている。液体吐出装置1がカラー印刷対応のプリンタの場合、キャリッジ2には、例えば、複数の色(例えば、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)等)の液体をそれぞれ貯留する複数のカートリッジが搭載される。
【0013】
液体吐出ヘッド3は、液体の吐出面に形成された複数のノズル(液体の吐出口)と、該複数のノズルに対応する複数の液体吐出素子(発熱素子、電気熱変換素子等)を備える液体吐出ヘッド用基板と、を具備する。各液体吐出素子は、例えば、印刷ジョブに含まれる画像データ(記録データ)に基づいて駆動される。該駆動された液体吐出素子では熱エネルギーが発生し、それによって、その近傍の液体で気泡が発生し、その結果、対応ノズルから液体が吐出される。
【0014】
図2(a)〜(c)は、液体吐出ヘッド3及び液体吐出ヘッド用基板100の構造を説明するための模式図である。図中には、本構造の理解を容易にするため、互いに交差するX方向、Y方向及びZ方向を示す。X方向とY方向とは互いに直交し、Z方向は、X方向とY方向とが形成する平面(水平面)に対して垂直な方向である。
【0015】
図2(a)は、液体吐出ヘッド3の液体の吐出面におけるレイアウト図である。液体吐出ヘッド3は、Y方向に沿って形成された液体供給路110と、液体供給路110の両側に設けられた2つのノズル列120A及び120Bとを有する。ノズル列120A及び120Bは、それぞれ、Y方向に沿って配列された複数のノズルNZを含む。
図2(b)は、
図2(a)における領域Kに対応する液体吐出ヘッド用基板100のレイアウト図である。図中には、理解を容易にするため、液体吐出ヘッド用基板100と共にノズルNZが示される。
図2(c)は、
図2(b)におけるカットラインA1−A2での断面構造を示す。
【0016】
液体吐出ヘッド用基板100は液体吐出素子HTを備える。液体吐出素子HTは、半導体基板SUBの上方、より具体的には、半導体基板SUBの上に配された配線構造STの上に配されている。液体吐出素子HTは、例えば、金属膜130と、金属膜130の一端の上に配された電極131Aと、金属膜130の他端の上に配された電極131Bとを含む。また、液体吐出ヘッド用基板100は、液体吐出素子HTを駆動するための後述の駆動部(不図示)を更に備え、該駆動部は半導体基板SUBに形成される。
【0017】
配線構造STは、例えば、絶縁部材及びそれに内包された配線部を含む構造であり、詳細な説明を省略するが、例えば、複数の配線層と複数の絶縁層とが積層されて成る多層配線構造でもよい。
図2(c)では、配線構造STに含まれる配線層と絶縁層とは、互いに区別されずに、一体として示されている。
【0018】
また、液体吐出ヘッド用基板100は配線パターン132を更に備え、配線パターン132は、配線構造STの上において、液体吐出素子HTからX方向にずれた位置に配されている。つまり、Z方向に沿った視線で見たときに、液体吐出素子HTと配線パターン132とは、X方向に沿って並ぶ。配線パターン132は、X方向に延在しており、後述のモニタ部(不図示)に接続されうる。配線パターン132は、電極131Aに接続され且つX方向に延在する配線パターン133Aと、電極131Bに接続され且つX方向に延在する配線パターン133Bとの間に、これらと平行に配されている。
【0019】
配線構造ST、並びに、液体吐出素子HT、配線パターン132、133A及び133Bを覆うように絶縁膜140が配されている。
【0020】
液体吐出ヘッド用基板100は導電性の保護膜150を更に備える。保護膜150は、液体吐出素子HTの上方において、絶縁膜140を介して液体吐出素子HTを覆うように配されている。保護膜150は、液体吐出時のキャビテーションによる衝撃から液体吐出素子HTを保護するための膜(耐キャビテーション膜)である。保護膜150は、例えば、タンタル、イリジウム、白金等の導電性材料で構成されうる。保護膜150は、半導体基板SUBの上面に対する平面視(即ち、Z方向と平行な方向での正射影。以下、本明細書では単に「平面視」という。)において、液体吐出素子HT(金属膜130並びに電極131A及び131B)と重なり、かつ、配線パターン132の一部と重なるように配される。
図2(b)において、保護膜150の平面視における形状が点線で示されている。配線パターン132は、保護膜150に、コンタクトプラグ134を介して接続される。コンタクトプラグ134は、絶縁膜140に設けられたコンタクトホールに形成されている。これにより、保護膜150は、配線パターン132を介して後述のモニタ部に接続される。
【0021】
液体吐出ヘッド用基板100は、液体供給路110及びそれに連結された流路161が設けられた液体供給部材160を更に備え、液体供給部材160は、絶縁膜140及び保護膜150の上に配されている。半導体基板SUB、配線構造ST及び絶縁膜140には、半導体基板SUBの底面側から絶縁膜140の上面まで貫通し且つ液体供給路110及び流路161に連通した開口170が設けられている。液体供給路110及び流路161には開口170を介して液体が充填される。流路161とコンタクトプラグ134とは平面視において重ならない。壊れやすいコンタクトプラグ134を、キャビテーションが起こる場所から離れた位置に配置することで、基板100の信頼性を向上させることができる。また、液体供給部材160には、液体吐出素子HTの上方に開口が設けられており、該開口はノズルNZに対応する。
【0022】
以上に説明した液体吐出装置1および液体吐出ヘッド用基板100の構成は、後述する実施形態について共通である。
【0023】
(第1実施形態)
図3は、第1実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板100aを説明するためのブロック図である。基板100aは、液体吐出素子HT、保護膜150及び駆動部U
D1を備える。駆動部U
D1は、駆動スイッチSW_D、論理部310およびレベルコンバータ320を備える。例えば、
図3において、液体吐出素子HT、保護膜150、駆動スイッチSW_D、論理部310およびレベルコンバータ320が、同一基板上に設けられる。液体吐出素子HTと駆動スイッチSW_Dとは、電源電圧VH(24〜32[V])を伝搬する電源配線と、接地用の電圧GNDH(0[V])を伝搬する電源配線との間に直列に接続されている。なお、説明を容易にするため、以下において、電圧VHを伝搬する電源配線を電源配線VHと表現し、電圧GNDHを伝搬する電源配線を電源配線GNDHと表現する場合がある。
【0024】
基板100aには制御部U
C1が接続されており、制御部U
C1は、液体を吐出する吐出動作を制御するための吐出制御部300と、保護膜150で短絡が発生した場合にそのことを検知する検知部400とを備える。制御部U
C1の一部は、基板100aに配されてもよい。吐出制御部300は、吐出動作を行うための吐出モードにおいて、外部からの画像信号(画像データを構成する信号)に従って、駆動スイッチSW_Dを制御するための信号を生成する。検知部400は、吐出モードでの動作を開始する前に基板100aが適切に動作可能か否かを検査するための検出モードにおいて、保護膜150の電圧の変化または保護膜150に流れる電流の変化を検知する。この構成により、制御部U
C1は、検出モードにおいて保護膜150の電圧の変化または保護膜150に流れる電流の変化が検知された場合、吐出モードにおいて、画像信号によらず、該保護膜150に対応する駆動部U
D1を非活性状態にする制御信号を出力する。非活性状態になった駆動部U
D1では、吐出モードの際、画像信号に関わらず(具体的には、液体の吐出を示す信号が入力されたとしても)その動作が抑制される。
【0025】
論理部310は、吐出制御部300からデータを受けて、駆動スイッチSW_Dを制御するための信号、即ち、液体吐出素子HTを駆動するための駆動信号を、ヒートイネーブル信号HEとして生成する。信号HEは、レベルコンバータ320によって所望の信号レベルにレベル変換され(例えば、3.3[V]の信号レベルから12[V]の信号レベルに変換され)、駆動スイッチSW_Dの制御端子に供給される。駆動スイッチSW_Dは、レベル変換された信号HEに応答して導通状態になり(即ち、液体吐出素子HTを通電させ)、液体吐出素子HTを駆動する。駆動スイッチSW_Dには、例えば、DMOSトランジスタ等の高耐圧トランジスタが用いられうる。
【0026】
吐出制御部300は、液体吐出装置1の本体に搭載され得、液体吐出ヘッド3を用いて液体吐出動作を行うための吐出モードにおいて、装置全体の動作を制御するシステムコントローラである。液体吐出ヘッド3との関係では、吐出制御部300は、外部から印刷ジョブを受信して、それに含まれる画像データを処理し、液体吐出ヘッド3を駆動するための駆動用データを生成して論理部310に出力する。本実施形態では、吐出制御部300にはASIC(Application Specific Integrated Circuit)が用いられうるが、これに限られない。例えば、他の例では、各機能をプログラムすることが可能な集積回路ないしデバイス(FPGA(Field Programmable Gate Array)等のPLD(Programmable Logic Device))が用いられてもよい。或いは、各機能は、所定のプログラムが格納されたパーソナルコンピュータ等によりソフトウェア上で実現されてもよい。
【0027】
保護膜150は、
図2を参照しながら述べた配線パターン132を介して、検知部400に接続されている。検知部400は、保護膜150の電圧の変化、または、保護膜150を流れる電流の変化(以下、本明細書では、これらをまとめて、保護膜150からの電気信号という場合がある。)を検知し、その結果を吐出制御部300に出力する。
【0028】
保護膜150は、前述のとおり、液体吐出素子HTの上に絶縁膜140を介して配されており、液体吐出素子HTや他の電気素子(以下、「液体吐出素子HT等」という。)とは実質的に絶縁されている。しかし、液体でのキャビテーションによる衝撃が発生した結果、絶縁膜140が破壊する可能性がある。この状態で、吐出モードでの動作が開始され又は継続されると、液体吐出素子HTが適切に駆動されないだけでなく、電圧が印加された保護膜150が陽極として作用した結果、該保護膜150が液体に溶けてしまう等、予期しない動作不良が発生する場合もある。そこで、保護膜150が液体吐出素子HT等と電気的に短絡した場合には、検知部400は、そのことを保護膜150からの電気信号に基づいて検知し、吐出制御部300に通知する。これにより、制御部U
C1は、保護膜150の短絡が発生したと判定することができる。
【0029】
なお、ここでいう「短絡」とは、保護膜150と液体吐出素子HT等とが直接的に接触した場合だけでなく、それらの間に意図しない電気的な干渉が発生した場合をも包含する。したがって、上述の絶縁膜140の破壊によって、保護膜150は、必ずしも、0[Ω]又は比較的低いインピーダンスで、液体吐出素子HT等に接続されるわけではない。以下において、液体吐出素子HT等との保護膜150の短絡を、単に「短絡」と表現する場合がある。
【0030】
上述のとおり、保護膜150は、液体吐出素子HT等とは絶縁されている。そのため、絶縁膜140が破壊されていない状態では、保護膜150からの電流は、保護膜150と液体吐出素子HT等との間に流れうるリーク電流のみであり、即ち、保護膜150からの電流は実質的にない、と言える。このような例では、検知部400は、保護膜150からの電流値が基準値より大きくなった場合に、保護膜150の短絡が発生したと判定すればよい。この他に、絶縁膜140が破壊されていない状態において保護膜150に所定の電流が流れる構成の場合、保護膜150を流れる電流の変化を検知することにより、保護膜150の短絡が発生したことを判定してもよい。
【0031】
他の例では、保護膜150は、流路161の液体と接触するため、該液体を介して(比較的高いインピーダンスで)半導体基板SUB等の基準電圧(ここでは0[V])に接続されうる。或いは、保護膜150は、比較的高い抵抗値(例えば数[KΩ]又はそれ以上)の抵抗素子を介して基準電圧に接続されてもよい。このような例では、検知部400は、保護膜150の電圧が変化し、保護膜150の電圧値が許容範囲から外れた場合に、そのことを吐出制御部300に通知する。これにより、制御部U
C1は、保護膜150の短絡が発生したと判定することができる。
【0032】
なお、検知部400は、基板100aとは異なる他の基板に配されてもよいが、基板100aに配されてもよいし、検知部400の一部が基板100aに配される構成としてもよい。また、ここでは説明を容易にするため、単一の液体吐出素子HTに着目して説明したが、実際には、基板100aは複数の液体吐出素子HTを備える。
【0033】
吐出制御部300は、動作モード(吐出モード及び検出モード)に応じて異なる制御信号を出力することができる。例えば、吐出モードでは、吐出制御部300は、外部からの画像信号に応じて駆動部U
D1の状態(活性状態または非活性状態)を制御する制御信号を出力する。一方、検出モードでは、吐出制御部300は、検知部400により、保護膜150を流れる電流の変化または保護膜150に加わる電圧の変化を検出する。前述のとおり、吐出制御部300は、上記電圧または電流の変化があった場合、吐出モードでは、画像信号に関わらず(液滴吐出素子HTを駆動する指令を受け取っていても)駆動部U
D1を非活性状態にする制御信号を出力する。
【0034】
まとめると、制御部U
C1は吐出制御部300及び検知部400を含み、吐出制御部300は、検知部400からの信号に基づいて基板100aを制御し、吐出モードでの動作を実行し又は停止することができる。即ち、検知部400が保護膜150の短絡を検知した場合には、それに応答して、吐出制御部300は、吐出モードでの動作を抑制するための制御信号を発生し、基板100aの制御に反映させる。これにより、上記短絡に起因する動作不良の発生を適切に防ぐことができる。このことを、以下、
図4(a)〜(e)を用いて、第1実施形態に係る実施例を説明する。
【0035】
図4(a)に示される第1実施例では、検知部400には電流計が用いられ、検知部400は、該電流計による計測結果に基づいて吐出制御部300に制御信号を出力する。また、第1実施例では、電源配線VHと電源配線GNDHとの間には、液体吐出素子HT及び駆動スイッチSW_Dの他、それらと直列に接続されたモード切り替え用の制御スイッチSW_X(以下、単に「制御スイッチ」という。)が配されている。少なくとも制御スイッチSW_Xが導通状態にならないと液体吐出素子HTは駆動されないので、この観点で、制御スイッチSW_Xは駆動部U
D1の一部を構成していると言える。
【0036】
吐出モードでは、制御スイッチSW_Xは導通状態に維持され、その下で、駆動スイッチSW_Dはヒートイネーブル信号HEに基づいて導通状態/非導通状態になる。即ち、信号HEがアクティブレベルの場合に、液体吐出素子HTが通電し、駆動され、それによって、前述のノズルNZから液体が吐出される。
【0037】
検査モードでは、制御スイッチSW_Xは非導通状態に維持され且つ駆動スイッチSW_Dは導通状態に維持される。ここで、保護膜150の短絡が発生していない場合、保護膜150と液体吐出素子HT等との間には電流が実質的に流れないため、保護膜150からの電流は実質的にない。そのため、該電流の値が基準値より小さく、検知部400は、保護膜150の短絡が発生していないことを示す制御信号を吐出制御部300に出力する。一方、保護膜150の短絡が発生した場合、保護膜150と液体吐出素子HT等との間に電流が流れる。そして、該電流の値が基準値より大きくなったことに応じて、検知部400は該短絡が発生したことを検知し、そのことを示す制御信号を吐出制御部300に出力する。
【0038】
吐出制御部300は、保護膜150の短絡が発生したことを示す制御信号を検知部400から受けた場合、その後の吐出モードにおいて、該短絡に対応する液体吐出素子HTの駆動が画像信号に関わらず抑制ないし制限されるように、論理部310に送信するデータを生成する。換言すると、該短絡に対応する液体吐出素子HTの駆動が抑制されるように、この液体吐出素子HTに対応するスイッチSW_Dを非活性状態にさせる(この液体吐出素子HTを駆動させない。)。このとき、この液体吐出素子HTを駆動させない代わりに、他の液体吐出素子HTを駆動させて補完することが可能である。例えば、
図2(a)の例では、一方のノズル列120AのノズルNZの液体吐出素子HTについて該短絡が発生した場合には、その液体吐出素子HTの代わりに、他方のノズル列120Bの対応ノズルNZの液体吐出素子HTを駆動させることができる。また、吐出制御部300は、液体吐出装置1のユーザに対して該短絡が発生したことを通知することも可能である。
【0039】
また、検知部400は、検査モードだけでなく、吐出モードにおいても上記短絡を検知することも可能である。その場合、吐出制御部300は、吐出モードでの動作そのものを停止することも可能であるし、又は、吐出モードでの動作を中断した後、該短絡に対応する液体吐出素子HTの駆動が抑制されるように、論理部310に送信するためのデータを生成し直してもよい。
【0040】
液体吐出素子HT、駆動スイッチSW_D及び制御スイッチSW_Xは、電源配線VHと電源配線GNDHとの間に直列に接続されていればよく、それらの位置は入れ替えられてもよい。例えば、電源配線GNDH側にスイッチSW_Dが配され、電源配線VH側にスイッチSW_Xが配されてもよい。また、制御スイッチSW_Xは、液体吐出素子HT及び駆動スイッチSW_Dと同一基板上に配されてもよいが、他の基板に配されてもよい。これらのことは、以降の各例においても同様である。
【0041】
図4(b)に示される第2実施例では、検知部400は、電圧計401、第1の容量素子C1および第2の容量素子C2を含み、電圧計401による計測結果に基づいて吐出制御部300に制御信号を出力する。容量素子C1は、一方の端子として保護膜150(又はその一部)を含む(或いは、該一方の端子は、保護膜150に直接的に接続されている。)。容量素子C2は、容量素子C1の他方の端子と、基準ノード(例えば電源配線)との間に配されている。電圧計401は、容量素子C1と容量素子C2との間のノードの電圧を計測する。
【0042】
保護膜150は、前述のとおり、比較的高いインピーダンスで基準電圧(例えば0[V])に接続されうるが、第2実施例では、フローティング状態であってもよい。ここで、保護膜150の短絡が発生した場合、保護膜150の電圧が変動し得、それに応じて、容量素子C1と容量素子C2との間のノードの電圧も変動しうる。より具体的には、該ノードの電圧は、保護膜150の電圧の変動量と、容量素子C1及びC2の容量値の比とに基づいて変動しうる。よって、検知部400は、該ノードの電圧に基づいて保護膜150の電圧を算出し、その結果を保護膜150からの電気信号として取得することができる。検知部400は、このような構成によっても、保護膜150の短絡が発生したことを検知することができる。即ち、検知部400は、保護膜150からの電気信号を、必ずしも直接的に検知する必要はなく、間接的に検知してもよい。
【0043】
上記検出モードにおいて、制御部U
C1は、保護膜150の短絡が検知部400により検知された場合、吐出制御部300により、画像信号に関わらず駆動部U
D1を非活性状態にするための制御信号を出力する。これにより、短絡した保護膜150に液滴吐出素子HTを駆動するための電流が流れるのを抑制し又は防ぐことができる。
【0044】
図4(c)に示される第3実施例では、電源配線VHと電源配線GNDHとの間に、液体吐出素子HT及び駆動スイッチSW_Dの他、それらと直列に接続された第2の駆動スイッチSW_Dbが配されている。また、駆動スイッチSW_Dbに対応するように、吐出制御部300からの画像データを処理する第2の論理部310bが配されている。吐出モードでは、駆動スイッチSW_Dbは、論理部310bからの駆動信号に基づいて導通状態/非導通状態になる。論理部310bと駆動スイッチSW_Dbとの間にはレベルコンバータ(不図示)が更に配されてもよい。そして、検査モードでは、駆動スイッチSW_Dbは非導通状態に維持されうる。このような構成によっても、検知部400は、第1実施例同様に、保護膜150の短絡が発生したことを適切に検知することができる。よって、第1〜第2実施例同様に、制御部U
C1は、短絡した保護膜150に対応する駆動部U
D1を非活性状態とする制御信号を出力し、短絡した保護膜150に液滴吐出素子HTを駆動するための電流が流れるのを抑制し又は防ぐことができる。
【0045】
図4(d)に示される第4実施例は、制御スイッチSW_Xが更に配されている点で第3実施例(
図4(c))と異なる。制御スイッチSW_Xは、駆動スイッチSW_Dbと電源配線GNDHとの間に配され、即ち、液体吐出素子HT、スイッチSW_D、SW_Db及びSW_Xは、電源配線VHと電源配線GNDHとの間に直列に接続される。また、スイッチSW_DbとスイッチSW_Xとの間のノードn1は、基準電圧VREF1を与えるための端子に接続される。
【0046】
吐出モードでは、ノードn1に基準電圧VREF1が供給されない。そして、スイッチSW_Xは導通状態に維持され、スイッチSW_D及びSW_Dbは、それぞれ、論理部310及び310bからの信号に基づいて導通状態/非導通状態になる。
【0047】
一方、検査モードでは、ノードn1には基準電圧VREF1が供給されると共に、スイッチSW_D及びSW_Xは非導通状態に維持され、スイッチSW_Dbは導通状態に維持される。検知部400は、この状態の下で、保護膜150と基準電圧VREF1との間に流れうるリーク電流(又は、その変化量)を検知部400により検知する。このような構成によっても、前述の実施例同様に、保護膜150の短絡が発生しているか否かを判定することができる。
【0048】
図4(e)に示される第5実施例では、液体吐出素子HT、駆動スイッチSW_D、保護膜150およびレベルコンバータ320をまとめて「要素E
1」としたときに、複数の要素E
1が配列されている(1つの要素E
1は1つのノズルNZに対応する。)。なお、簡易化のため、
図4(e)には3つの要素E
1を図示したが、この数量に限られない。それ以外については、第1実施例(
図4(a))と同様である。
【0049】
第5実施例によると、検知部400は、複数の要素E
1のそれぞれの保護膜150に接続されており、これにより、制御部U
C1は、複数の保護膜150のいずれかにおいて短絡が発生した場合に、そのことを検知することができる。制御部U
C1は、検知部400の出力から、複数の保護膜150のいずれかにおいて短絡が発生したことを判定することができる。このような構成によっても、制御部U
C1は、短絡した保護膜150に対応する駆動部U
D1を非活性状態にする制御信号を出力することができ、該短絡した保護膜150に液滴吐出素子HTを駆動するための電流が流れるのを抑制し又は防止することができる。
【0050】
なお、第5実施例では、1つの保護膜150が1つの液体吐出素子HTに対応しており、即ち、
図2(b)に図示されるように、複数の液体吐出素子HTにそれぞれ対応する複数の保護膜150は、互いに分離されている。しかしながら、他の例では、1つの保護膜150が複数の液体吐出素子HTに対応するように配されてもよく(即ち、保護膜150は、複数の液体吐出素子HTの全体を保護するように一体に設けられてもよく)、この場合についても第5実施例同様の効果が得られる。
【0051】
上述のいくつかの実施例は、それぞれの趣旨を逸脱しない範囲で、互いに組み合わせられてもよく、即ち、ある実施例の構成の一部は他の実施例の構成に適用されてもよい。このことは、以下の他の実施形態およびその実施例においても同様である。
【0052】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板100bを説明するためのブロック図である。第2実施形態は、主に、1つの検知部400が1つの保護膜150に対応している、という点で前述の第1実施形態と異なる。即ち、保護膜150の短絡が発生した場合、第1実施形態では、該短絡が発生したことを吐出制御部300(例えばASIC)に通知し、吐出制御部300により、該短絡に対応する液体吐出素子HTの駆動を抑制した。これに対し、第2実施形態では、保護膜150の短絡が発生したことに応答して、該短絡に対応する液体吐出素子HTに直列に接続されたスイッチを直接制御する。
【0053】
本実施形態では、制御部(制御部U
C2とする。)は、吐出制御部300及び検知部400に対応し、駆動部(駆動部U
D2とする。)は、スイッチSW_D及びSW_X、論理部310、並びに、レベルコンバータ320に対応する。本実施形態では、検出モードと吐出モードとは個別に設定されていなくてもよい(例えば、これらのうちの吐出モードのみが設けられてもよい)。本実施形態では、制御部U
C2において、第1実施形態での吐出制御部300の機能の一部(具体的には、保護膜150の短絡が発生した場合に吐出動作を制限する機能)を、検出部400が兼ねている。そのため、第2実施形態によると、吐出制御部300が、画像信号に基づいて駆動スイッチSW_Dを制御する一方、検出部400により、制御スイッチSW_Xを制御する。よって、吐出モードにおいて、該短絡に対応する液体吐出素子HTの駆動を、画像信号である信号HEに関わらず非活性状態にすることができる。また、第2実施形態によると、第1実施形態よりも短い時間で上述の制御を行うことができる。
【0054】
また、第2実施形態では、1つの検知部400が1つの保護膜150に対応するため、複数の液体吐出素子HTが配列されている場合には、それらに対応する複数の保護膜150に、それぞれ、複数の検知部400が配される。そのため、第2実施形態によると、複数の保護膜150のいずれにおいて短絡が発生したのかが適切に特定され得、よって、該短絡が発生した保護膜150に対応する液体吐出素子HTについて、適切に駆動が抑制される。
【0055】
図6(a)に示される第6実施例では、複数(図中では3つ)の要素E
2が配列されており、各要素E
2は、液体吐出素子HT、駆動スイッチSW_D、制御スイッチSW_X、保護膜150、レベルコンバータ320および検知部400を含む。検知部400は、保護膜150からの電気信号を受け、それに応じた信号を制御スイッチSW_Xの制御端子に供給する。即ち、複数の要素E
2に対応する複数の検知部400のうちの1つが、対応する保護膜150の短絡を検知した場合、それに応答して、対応する制御スイッチSW_Xを非導通状態にする。よって、短絡が発生した保護膜150に対応する液体吐出素子HTの駆動は、適切に抑制される。なお、要素E
2は、レベルコンバータ320を有さない構成としてもよい。
【0056】
また、第6実施例では、基板100bはOR回路510を備えており、OR回路510は、複数の検知部400からの出力信号を受け、それに応じた信号を吐出制御部300に出力する。即ち、複数の検知部400のいずれかにおいて保護膜150の短絡が検知された場合、そのことは、OR回路510により、第1実施形態同様に、吐出制御部300に通知される。また、OR回路510の代わりに又はOR回路510に付随してエンコーダを用い、複数の検知部400のいずれにおいて保護膜150の短絡が検知されたかを示す情報を、吐出制御部300に送信することも可能である。
【0057】
図6(b)は、第6実施例における要素E
2の具体的な構成例を示している。図中では液体吐出素子HTを抵抗素子として示す。この例では、駆動スイッチSW_DにNMOSトランジスタを用い、また、制御スイッチSW_XにPMOSトランジスタを用いた。また、検知部400には、NOR回路411及び412で構成されたRSフリップフロップを用いた。NOR回路411の一方の入力端子には、リセット信号RSTが入力され、他方の入力端子は、NOR回路412の出力端子に接続される。NOR回路412の一方の入力端子には、保護膜150からの電気信号である信号MONI_INが入力され、他方の入力端子は、NOR回路411の出力端子に接続される。NOR回路411及び412は、それぞれ、信号RST及び信号MONI_INに従う論理レベルの信号を、出力信号MONI_OUT1及びMONI_OUT2として出力する。
【0058】
第6実施例では、出力信号MONI_OUT1は、各要素E
2における制御スイッチSW_XであるPMOSトランジスタのゲートに供給されると共に、OR回路510に入力される。なお、第6実施例では、出力信号MONI_OUT2は用いられなくてもよい。
【0059】
図6(c)は、吐出モードの間に保護膜150の短絡が発生した場合における基板100bの制御方法を説明するためのタイミングチャートである。図中の横軸を時間軸とし、縦軸には、信号MONI_IN、RST、HE及びMONI_OUT1の信号レベル、スイッチSW_X及びSW_Dの状態、並びに、液体吐出素子HTである抵抗素子に流れる駆動電流I_DRVの電流量をそれぞれ示す。図中では、スイッチSW_X及びSW_Dについて、導通状態の場合を「ON」と示し、非導通状態の場合を「OFF」と示す。また、駆動電流I_DRVについて、液体吐出素子HTに電流が流れた状態をハイレベル(Hレベル)で示し、液体吐出素子HTに電流が実質的に流れていない状態をローレベル(Lレベル)で示す。即ち、駆動電流I_DRVのHレベルは、液体吐出素子HTが駆動されたことを示し、駆動電流I_DRVのLレベルは、液体吐出素子HTが駆動されていないことを示す。
【0060】
時刻t61では、信号RSTをHレベルからLレベルにし、これにより、検知部400であるRSフリップフロップのリセットが完了する。このとき、保護膜150の短絡は発生しておらず、保護膜150は、第1実施形態で述べたとおり、比較的高いインピーダンスで基準電圧(ここでは0[V])に接続され得、よって、信号MONI_INはLレベルである。よって、信号MONI_OUT1はLレベルであり、信号MONI_OUT2はHレベルである。また、信号MONI_OUT1がLレベルであるので、制御スイッチSW_XであるPMOSトランジスタは導通状態である。
【0061】
信号HEがLレベルからHレベルになる時刻を時刻t62とする。時刻t62では、信号HEがHレベルになったことにより、駆動スイッチSW_DであるNMOSトランジスタが導通状態になるため、液体吐出素子HTである抵抗素子が通電して駆動電流I_DRVが流れ、即ち、液体吐出素子HTが駆動される。
【0062】
信号HEがHレベルからLレベルになる時刻を時刻t63とする。時刻t63では、信号HEがLレベルになったことにより、駆動スイッチSW_Dが非導通状態になるため、駆動電流I_DRVは実質的に流れない。
【0063】
その後、保護膜150の短絡が発生した時刻を時刻t64とする。保護膜150は、典型的には液体吐出素子HTと短絡し得、保護膜150には、該短絡が発生した時点において導通状態である制御スイッチSW_Xと、液体吐出素子HTとを介して、電源電圧VHが供給されうる。その結果、保護膜150の電圧値が上がり、即ち、信号MONI_INがLレベルからHレベルになる。信号MONI_INがHレベルになったことに応じて、信号MONI_OUT1はHレベルになり、よって、制御スイッチSW_Xは非導通状態になる。即ち、時刻t64では、保護膜150の短絡が発生し、そのことが検知部400により検出された結果、制御スイッチSW_Xは非導通状態になる。
【0064】
信号HEが再びLレベルからHレベルになる時刻を時刻t65とする。時刻t65では、信号HEがHレベルになったことにより、駆動スイッチSW_Dは導通状態になるが、制御スイッチSW_Xが非導通状態であるため、駆動電流I_DRVは流れない。その後の時刻t66において信号HEは再びLレベルになり、駆動スイッチSW_Dは非導通状態になる。
【0065】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板100cを説明するためのブロック図である。第3実施形態は、主に、駆動スイッチSW_Dの機能と制御スイッチSW_Xの機能とを1つのスイッチSW_DXで実現するように構成された、という点で前述の第2実施形態と異なる。スイッチSW_DXは、電源配線VHと電源配線GNDHとの間に液体吐出素子HTと直列に接続されており、レベルコンバータ320によりレベル変換された信号HEと、検知部400からの信号との論理積により駆動される。具体的には、基板100cはAND回路520を備えており、AND回路520は、信号HEおよび検知部400からの信号に従う論理レベルをスイッチSW_DXに供給する。
【0066】
本実施形態では、制御部(制御部U
C3とする。)は、吐出制御部300及び検知部400に対応し、駆動部(駆動部U
D3とする。)は、スイッチSW_DX、論理部310、レベルコンバータ320及びAND回路520に対応する。このような構成によっても、第2実施形態同様の効果が得られる。
【0067】
図8(a)〜(c)は、第7実施例を、それぞれ
図6(a)〜(c)(第6実施例)同様に示している。第7実施例は、
図8(a)に例示されるように、要素E
3の構成が
図6(a)の要素E
2の構成と異なることを除いて、ほぼ同様である。
図8(b)は、第7実施例における要素E
3の具体的な構成例を示している。スイッチSW_DXには、NMOSトランジスタ(例えば、Nチャネル型のDMOSトランジスタ)を用いた。検知部400には、第6実施例同様、RSフリップフロップを用いた(
図6(b)参照)。AND回路520には、レベルコンバータ320によりレベル変換された信号HEの他、検知部400の出力信号MONI_OUT2が入力される。なお、出力信号MONI_OUT1は、第6実施例同様、OR回路510に入力される。
【0068】
図8(c)は、吐出モードの間に保護膜150の短絡が発生した場合における基板100cの制御方法を説明するためのタイミングチャートである。縦軸には、信号MONI_IN、RST、HE、MONI_OUT1及びMONI_OUT2の信号レベル、AND回路520の出力信号AND_OUTの信号レベル、スイッチSW_DXの状態、並びに、駆動電流I_DRVの電流量をそれぞれ示す。
【0069】
時刻t81では、信号RSTをHレベルからLレベルにし、これにより、検知部400であるRSフリップフロップのリセットが完了する。このとき、信号MONI_OUT1はLレベルであり、信号MONI_OUT2はHレベルである。このことは、第6実施例において時刻t61についての説明で述べたとおりである(
図6(c)参照)。また、時刻t81では、信号MONI_OUT2はHレベルであるが、信号HEがLレベルであるため、AND回路520の出力信号AND_OUTはLレベルであり、よって、スイッチSW_DXであるNMOSトランジスタは非導通状態である。
【0070】
信号HEがLレベルからHレベルになる時刻を時刻t82とする。時刻t82では、信号HEがHレベルになったことにより、信号AND_OUTがHレベルになる。よって、スイッチSW_DXが導通状態になるため、駆動電流I_DRVが流れる。
【0071】
信号HEがHレベルからLレベルになる時刻を時刻t83とする。時刻t83では、信号HEがLレベルになったことにより、信号AND_OUTがLレベルになり、即ち、駆動スイッチSW_DXが非導通状態になる。よって、駆動電流I_DRVは流れない。
【0072】
信号HEが再びLレベルからHレベルになる時刻を時刻t84とする。時刻t84では、時刻t82同様、駆動電流I_DRVが流れる。
【0073】
その後、保護膜150の短絡が発生した時刻を時刻t85とする。該短絡が発生した結果、保護膜150の電圧値が上がり、即ち、信号MONI_INがLレベルからHレベルになる。信号MONI_INがHレベルになったことに応じて、信号MONI_OUT2はLレベルになり、それに応答して、信号AND_OUTはLレベルになる。よって、制御スイッチSW_DXは非導通状態になる。即ち、時刻t85では、保護膜150の短絡が発生し、そのことが検知部400により検出された結果、制御スイッチSW_DXは非導通状態になる。
【0074】
その後の時刻t86まで、信号HEはHレベルであるが、制御スイッチSW_DXが非導通状態であるため、駆動電流I_DRVは流れない。
【0075】
信号HEが再びLレベルからHレベルになる時刻を時刻t87とする。時刻t87では、信号MONI_OUT2がLレベルに固定されているため、信号HEがHレベルになっても、スイッチSW_DXは非導通状態のままである。よって、駆動電流I_DRVは流れない。その後の時刻t88において信号HEが再びLレベルになるが、各信号の変化は実質的に発生しないので説明を省略する。
【0076】
図9(a)〜(c)は、第8実施例を、それぞれ
図8(a)〜(c)(第7実施例)同様に示している。第8実施例では、要素E
4は、主に、第7実施例の要素E
3に、制御スイッチSW_X及びそれを制御するためのAND回路530が加えられて成る。具体的には、第8実施例では、
図9(a)及び(b)に示されるように、制御スイッチSW_Xは、電源配線VHと電源配線GNDHとの間に液体吐出素子HT及びスイッチSW_DXと直列に配される。制御スイッチSW_Xは、AND回路530から、検知部400からの信号MONI_OUT2と基準信号VREF2との論理積に基づいて制御される。
【0077】
例えば、吐出モードでは、基準信号VREF2はHレベルに固定されうる(即ち、検知部400からの信号がHレベルである限り、制御スイッチSW_Xは導通状態に維持されうる。)。これに対して、検査モードでは、基準信号VREF2はLレベルに固定されうる(即ち、制御スイッチSW_Xは非導通状態に維持されうる。)。
【0078】
なお、第8実施例では、
図9(b)に示されるように、制御スイッチSW_XにNMOSトランジスタを用いたが、他の例では、制御スイッチSW_XにPMOSトランジスタを用い、且つ、AND回路530の代わりにNAND回路が用いられてもよい。この場合でも同様の機能が実現される。
【0079】
図9(c)は、吐出モードの間に保護膜150の短絡が発生した場合における基板100cの制御方法を説明するためのタイミングチャートである。縦軸には、
図8(c)で示された信号(MONI_IN等)に加え、AND回路530の出力信号AND_OUT2の信号レベル、及び、スイッチSW_Xの状態を更に示す。図中の時刻t91〜t98は、それぞれ、第7実施例の時刻t81〜88に対応し(
図8(c)参照)、各要素Eにおいて第7実施例同様の動作が為されるため、第7実施例との差異のみを以下に述べる。
【0080】
時刻t91〜t95では、保護膜150の短絡が発生していないため、信号MONI_INはLレベルであり、信号MONI_OUT2はHレベルである。また、吐出モードでは基準信号VREF2はHレベルに固定されている。よって、AND回路530の出力信号AND_OUT2はHレベルであり、制御スイッチSW_Xは導通状態に維持されている。よって、時刻t91〜t95では、信号HEの信号レベルに応じてスイッチSW_DXが導通状態/非導通状態になる(即ち、信号HEがHレベルのときに駆動電流I_DRVが流れ、信号HEがLレベルのときに駆動電流I_DRVは流れない。)。
【0081】
保護膜150の短絡が発生する時刻t95では、信号MONI_INがLレベルからHレベルになるため、信号MONI_OUT2はHレベルからLレベルになり、よって、信号AND_OUT2はHレベルからLレベルとなる。よって、時刻t95以降、制御スイッチSW_Xは非導通状態に固定され、そのため、信号HEの信号レベルに関わらず、駆動電流I_DRVは流れない。
【0082】
(第4実施形態)
特許公開2012−101557号公報には、液体を吐出するための液体吐出素子と、液体でのキャビテーションによる衝撃から該液体吐出素子を保護するための保護膜(耐キャビテーション膜)とを備える液体吐出ヘッド用基板が開示されている。特許公開2012−101557号公報によれば、保護膜に電圧を印加することにより、保護膜上のコゲが除去される。以下の説明において、このコゲを除去することを「コゲ取り」という。
【0083】
液体でのキャビテーションの結果、該絶縁膜の破壊等によって、保護膜が液体吐出素子やその周辺回路の一部(液体吐出素子を駆動するための信号配線、電源配線等)と短絡してしまう場合がある。ここで、コゲを除去する為に保護膜に電圧を印加した際に、保護膜の短絡先が電源配線等の様に電位を有する部材であった場合、所望の電圧を印加することが出来ず、コゲ取りを適切に実現できなくなる可能性がある。
【0084】
また、コゲを除去しない状態(保護膜に0[V]が印加された状態)において上記短絡が発生すると、0[V]の電位へも電流が流れる。そのため、前述の第1実施例(
図4(a)参照)等に例示された電流検知方式の場合には、モニタ部400に流れる電流が減少してしまい、上記短絡の検出精度が下がってしまう。また、前述の第2実施例(
図4(b)参照)等に例示された電圧検知方式の場合、モニタ部400では、保護膜とその短絡先との間の短絡インピーダンスと、保護膜から0[V]迄のインピーダンスで分圧された低電圧を検出する事になる。そのため、この場合においても上記短絡の検出精度が下がってしまう。
【0085】
本実施形態およびその後の第5〜第6実施形態では、保護膜上のコゲ取りを行うことが可能で、かつ、保護膜の短絡が発生した場合に、それに伴う動作不良の発生を防ぐのに有利な態様を例示する。
【0086】
図10は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板100dを説明するためのブロック図である。本実施形態は、主に、保護膜電圧印加部600と制御スイッチSW_Xとが設けられた、という点で前述の第1実施形態と異なる。
液体吐出素子HTと駆動スイッチSW_Dと制御スイッチSW_Xは、電源電圧VH(24〜32[V])を伝搬する電源配線と、接地用の電圧GNDH(0[V])を伝搬する電源配線との間に直列に接続されている。
【0087】
保護膜電圧印加部600は、
図2(b)〜(c)を参照しながら述べた配線パターン132を介して、保護膜150に接続されている。保護膜電圧印加部600は、保護膜上のコゲ取りを行う時、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に該電圧を印加する。コゲ取り時を行わない時には、保護膜電圧印加部600は、オープン状態、即ち、保護膜150から電気的に分離された状態になり、保護膜150は、流路161の液体を介して、0[V]に接続されうる。なお、保護膜電圧印加部600と保護膜150との接続は、保護膜150が保護膜電圧印加部600まで延設されることで実現されても良い。
【0088】
なお、保護膜電圧印加部600は、基板100dとは異なる他の基板に配されてもよいが、基板100dに配されてもよい。
【0089】
以下、
図11(a)〜(e)を用いて、いくつかの具体例または変形例を実施例として参照しながら説明する。
【0090】
図11(a)に示される第9実施例は、主に、保護膜電圧印加部600が設けられた、という点で前述の第1実施例(
図4(a)参照)と異なる。第9実施例では、例えば、制御部300は、動作モードとして、吐出モードおよび検査モードに加え、保護膜150上のコゲを除去するコゲ取りモードを含む。コゲ取りモードでは、制御スイッチSW_Xと駆動スイッチSW_Dとは共に非導通状態に維持される。保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。コゲ取りモード以外の動作モード(ここでは、吐出モードおよび検査モード)では、保護膜電圧印加部600は、出力をオープンにする事によって、保護膜150の短絡が発生した場合の電流値の減少等、検査モードへの影響が抑制ないし低減される。
【0091】
図11(b)に示される第10実施例は、主に、保護膜電圧印加部600と制御スイッチSW_Xとが設けられた、という点で前述の第2実施例(
図4(b)参照)と異なる。コゲ取りモードでは、制御スイッチSW_Xと駆動スイッチSW_Dとは共に非導通状態に維持される。保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。コゲ取りモード以外の動作モードでは、制御スイッチSW_Xは導通状態に維持される。そして、保護膜電圧印加部600は、出力をオープンにする事によって、保護膜150の短絡が発生した場合の容量素子C1及びC2から計測される電圧の減少等、検査モードへの影響が抑制ないし低減される。
【0092】
図11(c)に示される第11実施例は、主に保護膜電圧印加部600が設けられ、かつ、駆動スイッチSW_Dbから制御スイッチSW_Xに変更された、という点で前述の第3実施例(
図4(c)参照)と異なる。第11実施例では、電源配線VHと電源配線GNDHとの間には、液体吐出素子HT及び駆動スイッチSW_Dの他、それらと直列に接続された制御スイッチSW_Xが配されている。また、制御スイッチSW_Xに対応するように、制御部300からの画像データを処理する第2の論理部310bが配されている。
【0093】
吐出モードでは、制御スイッチSW_Xは、論理部310bからの駆動信号に基づいて導通状態/非導通状態になる。論理部310bと制御スイッチSW_Xとの間にはレベルコンバータ(不図示)が更に配されてもよい。そして、検査モードでは、制御スイッチSW_Xは非導通状態に維持されうる。このような構成によっても、モニタ部400は、第9実施例同様に、保護膜150の短絡が発生したことを適切に検知することができる。
【0094】
一方、コゲ取りモードでは、制御スイッチSW_Xと駆動スイッチSW_Dとは共に非導通状態に維持される。保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。コゲ取りモード以外の動作モードでは、保護膜電圧印加部600は、出力をオープンにする事によって、保護膜150の短絡が発生した場合の電流値の減少等、検査モードへの影響が抑制ないし低減される。
【0095】
図11(d)に示される第12実施例は、保護膜電圧印加部600が設けられた、という点で前述の第4実施例(
図4(d)参照)と異なる。コゲ取りモードでは、駆動スイッチSW_Dと制御スイッチSW_Dbとは共に非導通状態に維持される。または、駆動スイッチSW_Dを非導通状態にして、ノードn1に基準電圧VREF1を供給しないで、駆動スイッチSW_Dbを導通状態にし、制御スイッチSW_Xを非導通状態にする。保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。コゲ取りモード以外の動作モードでは、保護膜電圧印加部600は、出力をオープンにする事によって、保護膜150の短絡が発生した場合の電流値の減少等、検査モードへの影響を抑制ないし低減する。
【0096】
図11(e)に示される第13実施例は、主に、保護膜電圧印加部600が設けられた、という点で前述の第5実施例(
図4(e)参照)と異なる。コゲ取りモードでは、制御スイッチSW_Xと駆動スイッチSW_Dとは共に非導通状態に維持される。保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。コゲ取りモード以外の動作モードでは、保護膜電圧印加部600は、出力をオープンにする事によって、保護膜150の短絡が発生した場合の電流値の減少等、検査モードへの影響が抑制ないし低減される。
【0097】
上述のいくつかの実施例は、それぞれの趣旨を逸脱しない範囲で、互いに組み合わせられてもよく、即ち、ある実施例の構成の一部は他の実施例の構成に適用されてもよい。このことは、以下の他の実施形態およびその実施例においても同様である。
【0098】
(第5実施形態)
図12に示される第5実施形態は、主に、保護膜電圧印加部600と抵抗体610とが設けられた、という点で前述の第2実施形態と異なる。保護膜電圧印加部600は、保護膜150に抵抗体610を介して接続される。抵抗体610のインピーダンス(抵抗値)は、例えば数[KΩ]程度で設定され、保護膜150とその短絡先との短絡インピーダンスより大きな値に設定される。
【0099】
本実施形態においても、コゲ取りモードでは、保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。一方、コゲ取りモード以外の動作モードでは、保護膜電圧印加部600は、0[V]を出力する。本実施形態によれば、抵抗体610のインピーダンスは上記短絡インピーダンスより大きく設定されている。そのため、モニタ部400による検出電圧の低下を防止することができ、それにより、モニタ部400への影響が抑制ないし低減される。
【0100】
抵抗体610は、保護膜150と保護膜電位印加部600との間を接続する配線132(
図2(b)〜(c)参照)の配線を長尺化または幅狭化することで実現されても良い。他の例として、抵抗体610は、保護膜150の一部を長尺化または幅狭化することで実現されても良いし、保護膜150と保護膜電位印加部600との間に高抵抗の配線層や拡散抵抗等の他の抵抗体が付与されても良い。
【0101】
図13に示される第14実施例では、主に、保護膜電圧印加部600と抵抗体610とが設けられた、という点で前述の第6実施例(
図6参照)と異なる。第14実施例では、複数(図中では3つ)の要素Eが配列されており、各要素Eは、液体吐出素子HT、駆動スイッチSW_D、制御スイッチSW_X、保護膜150、モニタ部400、抵抗体610を含む。保護膜電圧印加部600は、各要素Eの抵抗体610に接続される。
【0102】
コゲ取りモードでは、保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。一方、コゲ取りモード以外の動作モードでは、保護膜電圧印加部600は、0[V]を出力する。抵抗体610のインピーダンスは、上記短絡インピーダンスに比べて充分に大きい。そのため、保護膜150で短絡が発生した場合でも該短絡部分の電圧が殆ど低下することなく、保護膜150の電圧はモニタ部400に入力され、それにより、モニタ部400への影響が抑制ないし低減される。なお、保護膜150の一部が短絡していても、短絡していない他の部分には0[V]が印加されるので、該短絡していない他の部分についてのモニタ部400の誤検知は防止される。
【0103】
(第6実施形態)
図14に示される第6実施形態は、主に、保護膜電圧印加部600と抵抗体610とが設けられた、という点で前述の第3実施形態と異なる。保護膜電圧印加部600は、保護膜150に抵抗体610を介して接続される。抵抗体610のインピーダンスは、前述の第5実施形態同様、保護膜150とその短絡先との短絡インピーダンスより大きな値(例えば数[KΩ]程度)に設定される。
【0104】
コゲ取りモードでは、保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。コゲ取りモード以外の動作モードでは、保護膜電圧印加部600は、0[V]を出力する。本実施形態によれば、抵抗体610のインピーダンスは上記短絡インピーダンスより大きく設定されている。そのため、モニタ部400による検出電圧の低下を防止することができ、それにより、モニタ部400への影響が抑制ないし低減される。
【0105】
抵抗体610は、保護膜150と保護膜電位印加部600との間を接続する配線132の配線を長尺化または幅狭化することで実現されても良い。また、保護膜150の一部を長尺化または幅狭化することで実現されても良いし、保護膜150と保護膜電位印加部600との間に高抵抗の配線層や拡散抵抗等の他の抵抗体が付与されても良い。
【0106】
図15に示される第15実施例では、主に、保護膜電圧印加部600と抵抗体610とが設けられた、という点で前述の第7実施例(
図8参照)と異なる。第15実施例では、保護膜電圧印加部600は、各要素Eの抵抗体610を経由し、保護膜150に接続される。
【0107】
コゲ取りモードでは、保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。コゲ取りモード以外の動作モードでは、保護膜電圧印加部600は、0[V]を出力する。抵抗体610のインピーダンスは、上記短絡インピーダンスに比べて充分に大きい。そのため、保護膜150で短絡が発生した場合でも該短絡部分の電圧が殆ど低下することなく、保護膜150の電圧はモニタ部400に入力され、それにより、モニタ部400への影響が抑制ないし低減される。なお、保護膜150の一部が短絡していても、短絡していない他の部分には0[V]が印加されるので、該短絡していない他の部分についてのモニタ部400の誤検知は防止される。
【0108】
図16に示される第16実施例では、主に、保護膜電圧印加部600と抵抗体610を備えた、という点で前述の第7実施例(
図8参照)と異なる。第16実施例では、保護膜電圧印加部600は、各要素Eの抵抗体610を経由し、保護膜150に接続される。
【0109】
コゲ取りモードでは、保護膜電圧印加部600は、電圧(1〜5[V]程度)を出力し、保護膜150に印加して、コゲを除去する。コゲ取りモード以外の動作モードでは、保護膜電圧印加部600は、0[V]を出力する。抵抗体610のインピーダンスは、上記短絡インピーダンスに比べて充分に大きい。そのため、保護膜150で短絡が発生した場合でも該短絡部分の電圧が殆ど低下することなく、保護膜150の電圧はモニタ部400に入力され、それにより、モニタ部400への影響が抑制ないし低減される。なお、保護膜150の一部が短絡していても、短絡していない他の部分には0[V]が印加されるので、該短絡していない他の部分についてのモニタ部400の誤検知は防止される。
【0110】
(その他)
以上、いくつかの好適な態様を例示したが、本発明はこれらの例に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その一部が変更されてもよい。また、本明細書に記載された個々の用語は、本発明を説明する目的で用いられたものに過ぎず、本発明は、その用語の厳密な意味に限定されるものでないことは言うまでもなく、その均等物をも含みうる。