【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来から、機械式定着工法には、様々なものがあり、軸方向鉄筋用と横方向鉄筋用とに区分され、それぞれ、公的審査機関による評定を取得しているが、軸方向鉄筋用として認められているものは、建築評定が多く、土木評定はほとんどない(例えば、非特許文献1参照。)。そのため、土木構造物においては、軸方向鉄筋への機械式定着工法の採用が進んでいない。また、各種の機械式定着工法の性能評価試験(静的耐力、高応力繰返し性能等)では、軸方向鉄筋をマッシブなコンクリートに埋め込んだ状態、すなわち、十分なかぶり(鉄筋表面からコンクリート表面までの最短距離)が確保された状態で行われており、実際のRC柱梁接合部のように、かぶりが100〔mm〕前後である状態での軸方向鉄筋の挙動が十分に解明されていない。
【非特許文献1】土木学会、「コンクリートライブラリー128号 鉄筋定着・継手指針〔2007年版〕」、2007.8
【0009】
なお、実際の使用状況を想定した要素試験又は要素実験として、かぶりや横方向鉄筋比をパラメータとして一軸引張特性を確認する静的引張試験や、RC柱梁接合部におけるL型接合部の軸方向鉄筋に機械式定着部材を有する鉄筋を適用した正負交番載荷実験が行われている(例えば、非特許文献2及び3参照。)。
【非特許文献2】田所敏弥、谷村幸裕、徳永光宏、米田大樹、「高架橋接合部における機械式定着を用いた定着部の静的引張特性」、コンクリート工学年次論文集、Vol.31、No.2、2009
【非特許文献3】吉住陽行、他、「RCラーメン高架橋の柱梁接合部における柱軸方向鉄筋の定着性能に関する実験的検討」、土木学会第64回年次学術講演会、V−500、2009.9
【0010】
図2は従来のコンクリートに埋め込まれた軸方向鉄筋の引張試験を説明する図、
図3は従来の正負交番載荷実験を説明する図である。なお、
図2において、(a)は一軸引張特性試験の概念図、(b)はコンクリートの破壊状況を示す写真であり、
図3において、(a)は正負交番載荷実験の概念図、(b)はコンクリートの破壊状況を示す写真である。
【0011】
図2に示されるような一軸引張特性を確認する静的引張試験の場合、機械式定着部材である定着板を有する鉄筋は設計引張耐力を満足したものの、鉄筋が引張降伏する前に、接合部内における定着板の位置におけるかぶり部分のコンクリートにひび割れが発生し、側面剥離破壊が生じ、脆性的な破壊状態を示す試験体があった。
【0012】
また、
図3に示されるような正負交番載荷実験の場合、鉄筋が引張降伏した後に、
図2に示される例と同様に、機械式定着部材である定着板の位置におけるかぶり部分のコンクリートに剥落が生じて定着力を失い、設計耐力に到達する前に荷重が低下した。
【0013】
前記静的引張試験及び正負交番載荷実験の結果から、RC柱梁接合部のように、かぶりが小さい部位における鉄筋に機械式定着工法を採用すると、要求性能を満足することができない可能性があることが分かる。
【0014】
機械式定着部材を有する鉄筋の引張耐力には、機械式定着部材の取付位置からの鉄筋の長さである定着長さと、機械式定着部材からコンクリートに伝達される支圧力とが寄与する。しかし、鉄筋が引張降伏すると、塑性域が進展して鉄筋の表面に沿う付着力が小さくなっていき、終局状態での鉄筋の引張耐力は、ほぼ機械式定着部材からコンクリートに伝達される支圧力によって決定される。
【0015】
図4は従来の鉄筋の標準フック及び機械式定着部材からコンクリートに伝達される支圧力の相違を説明する図、
図5は従来の鉄筋の標準フック及び機械式定着部材の定着具合を示す写真である。なお、
図4及び5において、(a)は鉄筋が標準フックを有する場合の図及び写真、(b)は鉄筋が機械式定着部材を有する場合の図及び写真である。
【0016】
図において、21はコンクリートであり、11は、コンクリート21に埋め込まれた軸方向鉄筋としての主鉄筋である。そして、
図4(a)における主鉄筋11は、その上端に標準フックとしての半円形フック13が形成され、
図4(b)における主鉄筋11は、その上端に機械式定着部材としての定着板14が取り付けられている。該定着板14は、例えば、主鉄筋11よりも外径の大きな円板であって、主鉄筋11の端部にねじ止めによって取り付けられる板材であるが、いかなる種類の部材であってもよい。
【0017】
図4(a)に示されるように、主鉄筋11に矢印で示されるような引張力P1が付与されると、半円形フック13からの力である支圧力P2は、コンクリート21の内側へ向かって伝達される。一方、
図4(b)に示されるように、定着板14は、半円形フック13と比較すると、定着部として機能する部分の体積や占める範囲が小さいので、局所的に、かつ、コンクリート21の表面21aに向かって支圧力P2を伝達する。そのため、定着板14におけるかぶり、すなわち、定着板14の表面からコンクリート21の表面21aまでの最短距離が小さい場合、かぶり部分にひび割れが発生し、
図5(b)に示されるように、側面剥離破壊のようなかぶり部分におけるコンクリート21の剥離や剥落が発生する。この場合、定着板14が完全に露出し、引張抵抗を失ってしまう。一方、半円形フック13の場合、
図5(a)に示されるように、かぶり部分におけるコンクリート21の剥離や剥落が発生しても、半円形フック13の定着部として機能する部分がコンクリート21の内側に位置するので、ある程度の引張力を期待することができる。このように、機械式定着工法を採用すると変形性能が低下する可能性がある(例えば、非特許文献4参照。)。
【非特許文献4】古屋卓稔、渡辺健、田所敏弥、服部尚道、「ラーメン高架橋の柱梁接合部の配筋・定着方式が柱の部材性能に及ぼす影響」、コンクリート工学年次論文集、Vol.39、No.2、2017
【0018】
ここでは、前記従来の技術の問題点を解決して、鉄筋コンクリート柱梁接合部における機械式定着部材を有する軸方向鉄筋と並んで延在する補強鉄筋を配設することによって、軸方向鉄筋に機械式定着工法を採用することができるとともに、鉄筋の降伏に起因する損傷箇所を柱のスパン中央寄りに移動させることができ、変形性能が向上した鉄筋コンクリート構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そのために、鉄筋コンクリート構造物においては、コンクリートと、該コンクリート に埋め込まれた軸方向鉄筋と、該軸方向鉄筋と少なくとも一部がオーバーラップして前記コンクリートに埋め込まれ
、重ね継手と同様の応力伝達メカニズムによって前記軸方向鉄筋の受ける引張力が伝達される補強鉄筋とを備え、前記軸方向鉄筋は先端に取り付けられた機械式定着部材を含み、前記補強鉄筋は、前記軸方向鉄筋の受ける引張力が伝達されるために必要な長さ以上の必須オーバーラップ範囲に亘って、前記軸方向鉄筋の内側において、該軸方向鉄筋と並んで延在する鉄筋コンクリート構造物であって、前記軸方向鉄筋は柱の延在方向に直線的に延在し、前記機械式定着部材は柱と梁との接合部内に位置し、前記必須オーバーラップ範囲は、接合部端面の柱側において、前記補強鉄筋が軸方向鉄筋に近接して平行に並んで直線的に延在する範囲である。
【0021】
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記軸方向鉄筋が引張力を受けた場合、前記軸方向鉄筋に生じるひずみは、前記必須オーバーラップ範囲の端であって接合部端面と反対側の端の近傍で最大となる。
【0022】
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記補強鉄筋は、前記必須オーバーラップ範囲外において、前記軸方向鉄筋から受けた引張力を周囲のコンクリートに伝達するために必要な長さ以上の必要定着範囲に亘って延在する。
【0023】
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記必要定着範囲は、接合部端面の接合部側において、前記補強鉄筋が軸方向鉄筋に近接して平行に並んで直線的に延在する範囲である。
【0024】
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記必要定着範囲は、接合部端面の接合部側において、前記補強鉄筋が湾曲して延在する範囲である。
【0025】
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記必要定着範囲において、前記補強鉄筋は、曲げ内半径が直径の10倍以上となるように湾曲している。