特許第6976154号(P6976154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6976154液体吐出装置、インプリント装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976154
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】液体吐出装置、インプリント装置および方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20211125BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20211125BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20211125BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20211125BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   B05C5/00 101
   H01L21/30 502D
   B05C11/10
   B41J2/165 101
   B41J2/165 211
   B41J2/165 505
   B41J2/175 201
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-232740(P2017-232740)
(22)【出願日】2017年12月4日
(65)【公開番号】特開2019-98258(P2019-98258A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 剛
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−141032(JP,A)
【文献】 特開2004−291242(JP,A)
【文献】 特開2017−120928(JP,A)
【文献】 特開2010−120294(JP,A)
【文献】 特開2006−095766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00
H01L 21/027
B05C 11/10
B41J 2/165
B41J 2/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出部を有する吐出ヘッドと、
底部を形成する底壁部と、側部を形成する側壁部とを含み、前記吐出部をキャッピングするキャップと、
前記キャップが前記吐出部をキャッピングした状態で、前記キャップの内部に連通した第一の流体通路を介して該内部を吸引する吸引手段と、
前記キャップの前記内部に連通した第二の流体通路を開閉する開閉手段であって、前記吸引手段による吸引によって生じた前記キャップの前記内部の負圧状態を解消させる際に開状態とされる開閉手段と、
前記第二の流体通路に設けられたフィルタと、を備える液体吐出装置であって、
前記第二の流体通路は、途中部と、一端が前記側壁部に開口し他端が前記途中部に接続される出口通路部とを含み、前記側壁部において前記途中部と前記出口通路部とで屈曲した通路を形成していることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記出口通路部は、前記吐出部よりも前記底部の側を指向していることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
記フィルタは、前記開閉手段よりも前記キャップの側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
記フィルタは、粒径が10nm以上の異物を補足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記第二の流体通路には、絞りが設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記出口通路部の開口端には、拡大断面積部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記第二の流体通路に、該第二の流体通路を流れる流体が通過する多孔部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
記開閉手段が前記開状態の場合、前記第二の流体通路を介して前記キャップの前記内部が大気に連通することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
基板に樹脂を吐出する請求項1乃至のいずれか1項に記載の液体吐出装置と、
基板を移動させるステージと、を備え、
前記液体吐出装置は、
前記吐出ヘッドを吐出位置とメンテナンス位置とに移動させる移動機構と、
前記キャップをキャッピング位置と前記メンテナンス位置との間で移動する駆動機構と、を備えたことを特徴とするインプリント装置。
【請求項10】
請求項に記載のインプリント装置によりインプリントを行う工程と、
インプリントがなされた基板を処理する工程と、を含む、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する液体吐出装置では、吐出性能の維持・回復処理として吐出部を吸引する機構が知られている。この機構では、キャップにより吐出部をキャッピングした状態で、ポンプ等によってキャップ内を吸引する(特許文献1等)。キャップ内が負圧状態とされ、吐出部のノズルやその周辺に付着した液体、泡、ゴミ等を強制的に除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−43540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸引後、吐出部からキャップを分離するためにはキャップ内の負圧状態を解消する必要がある。その手法としては、例えば、キャップ内に連通した通路を開放してキャップ内を大気に開放する。これによりキャップ内の負圧状態を解消して吐出部からキャップを分離することができる。しかし、通路を開放した際に、外部雰囲気に存在するパーティクルがキャップ内に吸引される場合がある。吸引されたパーティクルが吐出部に付着すると、液体を吐出する際に、液体にパーティクルが混入する場合がある。これは吐出対象物の品質を低下させる原因となる。
【0005】
本発明は、負圧状態を解消させる際に、吐出部にパーティクルが付着することを防止する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、例えば、
液体を吐出する吐出部を有する吐出ヘッドと、
底部を形成する底壁部と、側部を形成する側壁部とを含み、前記吐出部をキャッピングするキャップと、
前記キャップが前記吐出部をキャッピングした状態で、前記キャップの内部に連通した第一の流体通路を介して該内部を吸引する吸引手段と、
前記キャップの前記内部に連通した第二の流体通路を開閉する開閉手段であって、前記吸引手段による吸引によって生じた前記キャップの前記内部の負圧状態を解消させる際に開状態とされる開閉手段と、
前記第二の流体通路に設けられたフィルタと、を備える液体吐出装置であって、
前記第二の流体通路は、途中部と、一端が前記側壁部に開口し他端が前記途中部に接続される出口通路部とを含み、前記側壁部において前記途中部と前記出口通路部とで屈曲した通路を形成していることを特徴とする液体吐出装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、負圧状態を解消させる際に、吐出部にパーティクルが付着することを防止する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一実施形態に係るインプリント装置の概略図。
図2】吐出ヘッドの概略図。
図3】回復ユニットの説明図。
図4】比較例の回復ユニットの説明図。
図5】第二実施形態に係る回復ユニットの説明図。
図6】(A)及び(B)は流速低減部の他の例を示す説明図である。
図7】第三実施形態に係る回復ユニットの説明図。
図8】(A)は規制部材の説明図、(B)は他の例の規制部材の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施形態>
図1は本発明の第一実施形態に係るインプリント装置100の概略図である。ここでは本発明の液体吐出装置をナノインプリント装置に適用した例について説明する。しかし、本発明の液体吐出装置が適用可能な装置はインプリント装置に限定されない。例えば、半導体製造装置、液晶製造装置、インクジェットプリンタ等、液体を吐出する機構を持つ装置に広く適用可能である。また、インプリント装置100は、一例としてUV光(紫外光)の照射によって樹脂(レジスト)を硬化させるUV光硬化型インプリント装置を想定する。しかし、本発明は他の波長域の光の照射によって樹脂を硬化させるインプリント装置や、他のエネルギー(例えば、熱)によって樹脂を硬化させるインプリント装置にも適用可能である。
【0010】
インプリント装置100は、液体のレジスト8を基板4に塗布し、塗布されたレジスト8にモールド1を接触させ、その状態でレジスト8に紫外光を照射してレジスト8を硬化させる。これによりレジスト8にモールド1のパターンを転写することができる。モールド1には微細な凹凸状のパターンが形成されており、基板4上にモールドパターンに対応した素子パターンを作成することができる。
【0011】
インプリント装置は、基板4を保持する基板ステージ6を備える。基板ステージ6は下側のベースフレーム5上を移動可能に構成されている。基板ステージ6が図1において実線で示す位置にある場合にモールド1のパターンをレジスト8に転写する処理が可能であり、また、破線で示す位置にある場合に液体吐出装置10の吐出ヘッド11から基板4へレジスト8を吐出する処理が可能である。
【0012】
上側のベースフレーム3には駆動機構2が支持されている。駆動機構2はモールド1を保持し、かつ、上下に移動する機構である。駆動機構2がモールド1を降下することでモールド1を基板4に近接させ、レジスト8を押し付ける動作が可能である。紫外光発生装置7は、モールド1の上方の位置に配置されている。紫外光発生装置7は、モールド1を介してレジスト8に紫外光9を照射して硬化させる。紫外光発生装置7は、例えば、i線、g線を発生するハロゲンランプなどの光源や、光源が発生した光を集光する光学系の構成を含む。
【0013】
インプリント装置100は液体吐出装置10を備える。図1及び図2を参照して液体吐出装置10について説明する。液体吐出装置10は吐出ヘッド11を備える。吐出ヘッド11は、レジスト8を収容する収容部を含むと共に、その下部には液体(レジスト8)を吐出する吐出部12が設けられている。吐出部12には複数のノズルが開口しており、収容部に収容されたレジスト8はノズルから下向きに吐出される。本実施形態の場合、吐出部12は面状の吐出面として形成されており、かつ、吐出ヘッド11の下面に形成されている。
【0014】
各ノズルには吐出素子が設けられている。吐出素子は、ノズル内に圧力を発生させてノズル内のレジスト8を吐出させる素子である。吐出素子としては、例えば、発熱素子や圧電素子を採用可能である。発熱素子の場合、その熱によりレジスト8を発泡させて液滴を吐出させる。圧電素子の場合、その変形により液滴を吐出させる。吐出ヘッド11には、インクジェットプリンタの記録ヘッドの技術が適用可能である。
【0015】
吐出ヘッド11および吐出部12内部のレジスト8の圧力は、圧力制御部13によって、吐出部12における吐出界面(メニスカス)の形状が安定するように制御される。圧力制御部13は、レジスト8を貯留する液体タンク、圧力センサ、ポンプ、制御弁等から構成されている。なお、吐出界面の圧力は、水頭差を用いて制御してもよいし、ポンプにより空気圧を用いて制御してもよい。
【0016】
液体吐出装置10は、また、吐出ヘッド11を移動させる移動機構14を備えている。移動機構14はベースフレーム3に支持され、図1において実線で示す吐出位置と、破線で示すメンテナンス位置との間で吐出ヘッド11を移動可能である。吐出位置は、基板4上にレジスト8を吐出する位置である。メンテナンス位置は、基板ステージ6の移動範囲外の位置であって、回復ユニット15によって、吐出ヘッド11の性能を維持・回復する処理を行う位置である。
【0017】
回復ユニット15は、吐出部11をキャッピングするキャップ20と、キャップ20をキャッピング位置と退避位置との間で移動する駆動機構16とを含む。キャッピング位置においてキャップ20は、メンテナンス位置にある吐出ヘッド11の吐出部12を気密に覆う。退避位置は、キャップ20が吐出ヘッド11から離間した位置である。回復ユニット15の他の構成や詳細については後述する。
【0018】
インプリント装置100のインプリント動作の例について説明する。インプリント装置100は不図示の制御装置によって制御されて動作する。制御装置は、制御プログラムを記憶した記憶デバイスや、制御プログラムを実行するプロセッサや、外部デバイスとのインタフェースを含む。
【0019】
まず、基板4が基板ステージ6に搭載される。基板4は基板ステージ6の移動によって液体吐出装置10の吐出ヘッド11の下方へ配置される。基板ステージ6の移動により基板4を移動させながら吐出ヘッド11からレジスト8を基板4上に吐出することで、レジスト8が基板4上の所望の位置に塗布される。
【0020】
次に、基板ステージ6の移動によって、基板4のレジスト8を塗布した部分がモールド1の下方に配置される。駆動機構2によりモールド1を降下させて、モールド1と基板4とが近接した状態とする。その状態で、不図示のアライメントスコープによりモールド1上のアライメントマークと基板上4のアライメントマークとを重ね合わせることで、両者の相対位置調整をおこなう。
【0021】
次に、駆動機構2によりモールド1を基板4側へ方向にさらに降下させ、レジスト8にモールド1のパターンを押しつける。その後、紫外光発生装置7から紫外光9を照射する。モールド1を透過した紫外光9はレジスト8に照射される。レジスト8の光硬化反応が開始してレジスト8が硬化する。最後に、駆動機構2によってモールド1を上昇させ、硬化したレジスト8からモールド1をから剥離させる。これにより、基板4上にパターンが形成されてインプリント動作が終了する。
【0022】
このようなインプリント装置100を用いれば、デバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)を製造することができる。この製造方法は、上述したインプリント装置100を用いて基板(ウェハ、ガラスプレート、フィルム状基板)にパターンを形成する工程を含む。さらに、該製造方法は、パターンを形成された基板を処理する工程(例えばエッチングする工程)を含む。
【0023】
なお、パターンドメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、該製造方法は、エッチングの代わりに、パターンを形成された基板を加工する他の処理を含みうる。
【0024】
<吐出ヘッドのメンテナンス>
インプリント装置100においては、レジスト8における異物(微小パーティクル)や金属イオンを低減し、基板4に吐出されるまでその性質を保つことで、製品の品質が向上する。吐出ヘッド11や吐出部12を、清浄化した環境で製造し、また、インプリント工程中およびメンテナンス作業時においても常に清浄度を保つことも製品の品質向上に寄与する。ナノインプリントにおいては、吐出部12へのパーティクル付着は、基板4やレジスト8へのパーティクルの付着或いは混入の要因となり、モールド1の破壊や欠陥の原因になり得る。
【0025】
一連のインプリントシーケンスにおいて、吐出部12からは繰り返しレジスト8が吐出される。長期間に渡って吐出を繰り返すうちに、吐出部12の吐出口にレジスト8が固化して付着したり、吐出部12のノズルの内部に気泡が混入する場合がある。また、一定の期間、吐出が行われなかった吐出部12のノズル内に残留しているレジスト6は、揮発などの影響で粘度や特性が変化する可能性がある。
【0026】
このような吐出口およびレジストの状態の変化は、吐出部12から吐出されるレジスト8の量、吐出速度、吐出方向等の吐出特性を乱す要因となる。回復ユニット15は、吐出部12の吐出性能を回復させるために設けられている。ここでは、主に、吐出部12の内部に残留する、或いは、周辺に付着したレジスト8等を強制的に排出するクリーニング機能について説明する。
【0027】
図3は、回復ユニット15の構成のうち、特に吐出部12の吸引回復動作を行う構成を示している。キャップ20は、吐出部12を囲む形状を有しており、本実施形態の場合、全体として直方体形状を有している。キャップ20は、矩形の底壁部20aと、底壁部20aから立ち上がる四つの側壁部20bと、を含み、天部は開放されて吐出部12を囲む矩形の開口部20cを構成している。図3はキャップ20がキャッピング位置に位置している場合を示しており、側壁部20bの上端が吐出ヘッド11の底面に気密に当接する。
【0028】
キャップ20の内部Sは、底部BT及び側部SDによって画定された上方が開放した空間である。図3に示すキャッピング状態においては、内部Sの開口部20cは吐出ヘッド11によって塞がれて気密な空間となり、かつ、この気密な空間に吐出部12が位置している。
【0029】
底部BTは底壁部20aによって平面状に形成されており、側部SDは側壁部20bによって平面状に形成されている。底壁部20aには排出口23が貫通しており、ここに通路形成部材21が接続されている。本実施形態のように排出口23を底壁部20aに形成した場合、排出すべきレジスト8が自重で排出口23に流れ込み易くなる。なお、底部BTを排出口23に向かって傾斜したテーパ形状としてもよく、これにより排出すべきレジスト8が自重で排出口23に更に流れ込み易くなる。
【0030】
通路形成部材21は例えば可撓性を有する配管(ゴムチューブ等)である。通路形成部材21により、キャップ20の内部に連通した流体通路C1が形成される。通路形成部材21の途中部位には吸引機構22が配置され、その端部には、排出したレジスト8を気液分離して回収するタンク24が配置されている。流体通路C1にはミストセパレータを設けてもよい。
【0031】
吸引機構22は、ポンプやエジェクター(真空発生器)等の負圧源と、流体通路C1を開閉する制御弁とを含む。吐出部12の吸引回復動作を行う場合、キャップ20が吐出部12をキャッピングした状態で吸引機構22の制御弁を開放して負圧源を作動し、流体通路C1を介して内部Sを吸引する。内部Sは負圧となって、吐出部12からレジスト8が吸い出され、流体通路C1を介してタンク24に回収される。その際、圧力制御部13によって吐出ヘッド11内を大気に開放すると吐出部12からレジスト8をより効率的に吸い出すことができる。また、圧力制御部13によって吐出ヘッド11内を加圧すれば吐出部12からレジスト8を更に効率的に吸い出すことができる。
【0032】
このようにして吐出部12の内部のレジスト8を強制的に排出してその性能を回復乃至維持するクリーニングを行うことができる。この動作を終了してキャップ20を退避位置に移動する場合、内部Sの負圧状態を解消する必要がある。そのための構成として、通路形成部材26、フィルタ27及び制御弁28が設けられている。
【0033】
底壁部20aには負圧解消口25が貫通しており、通路形成部材26はここに接続されている。通路形成部材26は例えば可撓性を有する配管(ゴムチューブ等)である。通路形成部材26により、キャップ20の内部に連通した流体通路C2が形成される。流体通路C2の端部は本実施形態の場合、キャップ20の周囲雰囲気(ここでは大気)に開放されている。
【0034】
制御弁28は、流体通路C2を開閉する。上述した吸引回復動作中は、制御弁28は閉状態とされ、内部Sの負圧の発生を阻害しない。内部Sの負圧状態を解消させる際には、吸引機構22の制御弁を閉状態として流体通路C1を閉鎖し、制御弁28が開状態とされる。これにより内部Sが流体通路C2を介して大気と連通した状態となり、内部Sの負圧状態が解消される。
【0035】
内部Sの負圧状態の解消方法として、本実施形態のように流体通路C2を設けず、流体通路C1を利用する構成も考えられる。この構成例は図4に比較例として図示されている。この構成の場合、吸引機構22の負圧源を停止し、制御弁を開放することで内部Sの負圧状態を解消することになる。しかし、内部Sの負圧を解除するとき、流体通路C1や、排出口23近傍に存在するレジスト8が逆流して内部Sに噴出する可能性がある。これでは吐出部12のクリーニング効果が低下する。
【0036】
これに対して図3に示した本実施形態の構成例では、負圧吸引用の流体通路C1とは別に、負圧解消用の流体通路C2を設けているため、吸い出したレジスト8が内部Sに戻ることはない。一方、本実施形態の構成例によれば、流体通路C2を介して大気が内部Sに流入し、負圧の程度によっては吐出部12に大気が吹き付ける場合がある。大気にパーティクルが含まれていると、吐出部12にパーティクルが付着する場合があり、これはインプリント作業の際に、レジスト8の吐出対象である基板4へパーティクルが付着する要因になる。
【0037】
そこで、本実施形態では流体通路C2にフィルタ27を設けている。流体通路C2を介して内部Sに導入される大気はフィルタ27で濾過され、パーティクルが除去される。こうして、負圧状態を解消させる際に、吐出部12にパーティクルが付着することを防止することができる。インプリント装置100への適用を考えた場合、フィルタ27として10nm以上の粒径の異物を補足するフィルタを用いることにより、インプリントの品質に影響し得るパーティクルの付着の防止に効果的である。流体通路C2におけるフィルタ27の位置は任意の位置を採用できる。しかし、本実施形態のように、制御弁28等の機器よりも負圧解消口25側の位置を採用することで、制御弁28等の機器からパーティクルが発生したとしても、フィルタ27により内部Sへの侵入を防止できる点で有利である。
【0038】
なお、本実施形態では、流体通路C2を介してキャップ20の周囲の空気が、負圧状態にある内部Sに吸引されることにより、負圧状態を解消する構成としたが、内部Sに導入される流体は空気に限られない。例えば、破線で示すタンクTを通路形成部材26の端部に接続してタンクT内の流体を内部Sに導入する構成であってもよい。タンクT内の流体は、例えば、空気よりも清浄度や純度の管理が容易な窒素などの気体であってもよい。また、タンクT内の流体は、レジストの蒸気を満たした気体であってもよい。内部Sをレジストの蒸気で満たすことで、吐出部11を保湿し、ノズル内のレジストの濃縮や固化を防ぐことができる。
【0039】
<第二実施形態>
図5を参照して第二実施形態について説明する。以下、第一実施形態と異なる構成について説明する。
【0040】
本実施形態では、流体通路C1上の吸引機構22、タンク24の配置が異なっている。本実施形態では、排出口23と吸引機構22との間にタンク24が配置されている。吸引機構22による吸引動作によりキャップ20の内部Sと共にタンク24の内部も負圧状態となる。キャップ20の負圧状態を解消する際、制御弁28を開放すると共に吸引機構22が備える制御弁を開放してもよい。タンク24が負圧状態のため、排出口23とタンク24との間において流体通路C1に存するレジスト8がキャップ20へ逆流せずに、タンク24へ吸い込まれることになる。
【0041】
流体通路C2には流速低減部29が設けられている。流速低減部29は本実施形態では、通路径を局所的に小さくしたピンホール状の絞りである。絞りの開口は、例えば、直径0.5mmから1mm程度である。流速低減部29の位置は流体通路C2上の任意の位置でよいが、本実施形態では端部としている。キャップ20の負圧状態を解消する際、流体通路C2には周囲の大気が吸い込まれるが、流体低減部29を通過する際に流速を低減することができる。例えば、流入する流体の流速を1m/s以下まで遅くするように流体低減部29が設計される。これにより、流体通路C2を介してキャップ20内に導入された流体が吐出部12に強く吹き付けることを防止でき、吐出部12にパーティクルが付着することを抑制できる。
【0042】
本実施形態の場合、流体通路C2の負圧解消口25は側部SBに開口している。第一実施形態のように底部BTに開口した構成よりも、負圧吸引動作の間に負圧解消口25にレジスト8が侵入することを抑制できる。このため、キャップ20の内部Sの負圧状態の解消の際に、負圧解消口25に存するレジスト8がキャップ20の内部Sに逆流することを防止できる。
【0043】
本実施形態の場合、流体通路C2は、負圧解消口25を含む出口通路部C2aと、途中部C2bとを含み、これらは側壁部20bの内部に形成されている。出口通路部C2aの通路方向dは、吐出部12よりも底部BTの側を指向している。これにより、キャップ20の内部Sの負圧状態の解消の際、負圧解消口25から内部Sに導入される流体の気流が底部BTへ向かう傾向となり、吐出部12へ気流が指向して流体が直接吹き付けられることを防止できる。
【0044】
出口通路部C2aの一端部は負圧解消口25を形成し、他端部は途中部C2bに接続されている。出口通路部C2aと途中部C2bとは屈曲した通路を形成している。このため、通路内を通過する流体の流速を低減することができ、流体通路C2を介してキャップ20内に導入された流体が吐出部12に強く吹き付けることを更に防止できる。
【0045】
本実施形態の場合、途中部C2bは底壁部20aの側から開口部20cの側へ延設されている。換言すると途中部C2bはキャップ20の厚さ方向に延びている。出口通路部C2aは、途中部C2bの開口部20cの側の端部から内部Sの底部BTへ向かって斜めに延設されている。途中部C2bと出口通路部C2aとで、通路が楔形に急激に屈曲しているため、通路内を通過する流体の流速を低減する効果を高められる。
【0046】
なお、本実施形態では第一実施形態と同様にフィルタ27を設けているがフィルタ27が無い構成も採用可能であり、上述した吐出部12への吹き付け抑制機能の働きにより、吐出部12にパーティクルが付着することを抑制できる。
【0047】
<第三実施形態>
第二実施形態で例示した流速低減部29の構成例としては、絞り以外も採用可能である。図6(A)及び図6(B)は他の例を示している。図6(A)の例は、流体通路C2の開口端(図の例では出口通路部C2aの負圧解消口25付近)において、通路の断面積を拡大した拡大断面積部として流速低減部が構成されている。負圧解消口25の開口を広げることでキャップ20の内部Sに流入する流体の流速を下げることができる。
【0048】
図6(B)の例は、多孔部材30を設けた例を示している。同図の例では負圧解消口25の位置に多孔部材30を設けた構成としているが、流体通路C2の任意の位置に多孔部材30を設けることができる。多孔部材30は、流体通路C2の通路方向に開口した小孔を複数有する部材であり、メッシュ状の部材やハニカム状の部材である。こうした多孔部材30を設けることでキャップ20の内部Sに流入する流体の流速を下げることができる。
【0049】
<第四実施形態>
図7を参照して第三実施形態について説明する。以下、第二実施形態と異なる構成について説明する。本実施形態では、キャップ20と吐出ヘッド11との間にシール部材33が設けられており、キャッピングの際のキャップ20の内部Sの気密性を向上する。シール部材33は、例えば、Oリング、ガスケット、リップシール等である。
【0050】
キャップ20の内部Sに規制部材32が設けられている。規制部材32は、流体通路C2bから吐出部12へ向かう流体流の発生を規制するように構成されている。図7図8(A)を参照して規制部材32を説明する。
【0051】
規制部材32は、負圧解消口25からキャップ20の内部Sに流入する流体流と干渉するように負圧解消口25に対向する位置に設けられたブロック状の部材である。規制部材32は梁部32cがキャップ20の側壁部20bに接続されることで、内部Sにおいて底部BTから浮いた態様でキャップ20に支持されている。
【0052】
規制部材32の底部には、吐出部12よりも底部BTの側に向いて形成され、流体通路C2から内部Sに流入する流体を底部BTへ促す案内面32a’が形成されている。本実施形態の場合、案内面32a’は、負圧解消口25に対向する位置から排出口23へ向かって延設されて傾斜面である。キャップ20の内部Sの負圧状態の解消の際、負圧解消口25から内部Sに導入される流体の気流が案内面32a’によって吐出部12へ向かうことを抑制しつつ底部BTへ向かうことを促すことができる。これにより、吐出部12へ気流が指向して流体が直接吹き付けられることを防止できる。
【0053】
規制部材32の上部には、吐出部12に対向するように吐出部12へ向かって櫛歯状に配列された複数の突起32bが設けられている。突起32bの間には、溝部が形成され、負圧吸引動作の際、吐出部12から排出されるレジスト8はこの溝部で受けることができる。隣接する突起32bの間隔を例えば0.2mmから0.5mm程度とすると、吐出部12から排出されたレジスト8の液滴は、櫛歯構造の毛管力によって回収されやすくなる。溝部に流れ込んだレジスト8の液滴は、凝集して大きくなり、規制部材32の側面側へ流れた後に、自重で側面上を底部BTへ流れ落ちて排出口23へ流れていくことになる。なお、このようなレジスト8の回収促進構造は櫛歯構造に限られない。金属の粉末に熱をかけて固めた多孔質体も採用可能である。また、スポンジのような発泡体や、刷毛のように毛状体を密集させたものも採用可能である。さらには毛管力を利用しない構造でも良い。吐出部12の面に対向して平面を近接させ、平面上に溝や模様などを構成して液体を導く構造体としてもよい。構造体の表面は親液性とすると良い。
【0054】
このように本実施形態の規制部材32は、負圧状態の解消の際の流体の吐出部12へ流体の吹き付け抑制機能を有するだけでなく、負圧吸引動作の際のレジスト8の回収促進機能をも有している。
【0055】
なお、規制部材32としては、図8(B)に例示する規制部材31も採用可能である。規制部材31は、負圧解消口25からキャップ20の内部Sに流入する流体流と干渉するように負圧解消口25に対向する位置に設けられた板状の部材である。規制部材31の下面は、吐出部12よりも底部BTの側に向いて形成され、流体通路C2から内部Sに流入する流体を底部BTへ促す案内面31aを構成している。
【0056】
また、本実施形態では第一実施形態と同様にフィルタ27を設けているがフィルタ27が無い構成も採用可能である。フィルタ27が無くても上述した規制部材32(又は31)による吐出部12への吹き付け抑制機能の働きにより、吐出部12にパーティクルが付着することを抑制できる。
【0057】
また、本実施形態では第二実施形態と同様に流体通路C2が出口通路部C2aと途中部C2bとを含む構成としている。しかし、第一実施形態のように底部BTに開口した構成の流体通路C2等、流体通路C2の構造として他の構造を採用可能である。上述した規制部材32(又は31)による吐出部12への吹き付け抑制機能の働きにより、吐出部12にパーティクルが付着することを抑制できる。
【0058】
また、本実施形態では第二実施形態と同様に流体通路C2が流速低減部29を含む構成としているが、流速低減部29が無い構成も採用可能である。
【0059】
<他の実施形態>
上記各実施形態は互いに組合せ可能であり、一の実施形態の各構成要素は他の実施形態の構成要素としても適宜採用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 液体吐出装置、11 吐出ヘッド、20 キャップ、22 吸引機構、28 制御弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8