【実施例1】
【0010】
まず、電動パワーステアリング装置1の構成について説明する。
【0011】
図1は実施例に係る電動パワーステアリング装置1の全体概略図である。電動パワーステアリング装置1は、運転者による操舵操作力を伝達する操舵機構として、運転者が操舵操作を行うステアリングホイール2と、ステアリングホイール2に接続された中間軸3と、中間軸3と自在継手4を介して接続された操舵軸5と、操舵軸5に接続されたピニオン軸6と、ピニオン軸6と噛み合うラックバー7とを有している。ステアリングホイール2に入力された運転者による操舵操作は、中間軸3、操舵軸5、ピニオン軸6を介して、ラックバー7に伝達される。ピニオン軸6の回転運動がラックバー7の車幅方向の運動へと変換される。
【0012】
電動パワーステアリング装置1は、運転者による操舵操作力をアシストする操舵アシスト機構として、アシストトルクを発生する電動モータ20と、電動モータ20の出力軸21と一体に回転する第1プーリ22と、ラックバー7の外周に設けられた第2プーリ23と、第1プーリ22と第2プーリ23との間に巻回されるベルト24とを有している。ラックバー7と第2プーリ23との間はボールねじ機構となっている。電動モータ20の出力は第1プーリ22と第2プーリ23との間で減速される。第2プーリ23の回転運動はボールねじ機構によってラックバー7の車幅方向の運動へと変換される。
【0013】
ラックバー7の両端には、ボールジョイント8を介してタイロッド9が接続されている。タイロッド9の先端には、ナックルアーム10を介して転舵輪11が連結されている。ラックバー7の車幅方向の運動は、ナックルアーム10により転舵輪11の転舵方向の運動へと変換される。
操舵軸5およびピニオン軸6を覆うようにセンサハウジング30が設けられている。センサハウジング30内には、運転者の操舵操作によるステアリングホイール2の操舵角を検出する操舵角センサ31と、操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ32が収容されている。操舵角センサ31および操舵トルクセンサ32は、ケーブル33を介してモータコントローラ34と接続している。モータコントローラ34は、操舵角センサ31が検出した操舵角と、操舵トルクセンサ32が検出した操舵トルクに基づき電動モータ20の制御信号を出力している。
【0014】
次に操舵角センサ31の構成について説明する。
【0015】
図2は操舵軸5の軸方向から見た操舵角センサ31付近を示す図である。
図3は操舵角センサ31付近の斜視図である。
図3では操舵軸5は記載していない。
図4は操舵角センサ31付近の軸方向断面図である。
図5は操舵角センサ31付近の斜視図である。
図6はメインギヤ40を操舵軸の回転軸方向と直交する方向から見た側面図である。
図5はセンサハウジング30のカバー30aが組み付けられており、操舵角センサ31の内部構造が見えない状態となっている。
【0016】
操舵角センサ31は、操舵軸5と一体に回転するメインギヤ40(第1歯車)と、メインギヤ40と噛み合うプライマリディテクションギヤ41(第2歯車)と、プライマリディテクションギヤ41と噛み合うセカンダリディテクションギヤ42(第3歯車)とを有している。
【0017】
メインギヤ40は、樹脂材料により形成されている。メインギヤ40は、センサハウジング30に回転可能に設けられる。メインギヤ40は、操舵軸5を包囲する環形状のメインギヤ本体部40a(第1歯車本体部)を有する。メインギヤ本体部40aは円筒状に形成されている。メインギヤ本体部40aの外周側には複数の歯を有する歯部40b(第1の歯)が形成されている。複数の歯部40bは、メインギヤ本体部40aの外周側に設けられており、例えば40歯有している。
【0018】
操舵軸5は、操舵軸5の外周を一周する溝が形成されており、この溝はOリング保持部5aを構成している。Oリング保持部5aにはOリング12が保持されている。Oリング12は弾性材料により形成されている。Oリング12をOリング保持部5aに保持された状態で、Oリング12は、Oリング12の外径が操舵軸5とメインギヤ40のメインギヤ本体部40aの内径よりも大径となるように形成されている。換言すると、Oリング12は、Oリング12を操舵軸5の外周面の接線と直角な面で切ったときの断面のうち、操舵軸5の径方向における寸法が、自然長の状態において、操舵軸5とメインギヤ40(メインギヤ本体部40a)の内周面との間の隙間の操舵軸5の径方向における寸法よりも大きくなるように形成されている。そのため、メインギヤ40が操舵軸5に装着された状態で、Oリング12の断面は圧縮変形する。Oリング12とメインギヤ本体部40aとの間のフリクションにより、メインギヤ40は操舵軸5と一体に回転する。
【0019】
メインギヤ40は、メインギヤ40と操舵軸5との相対回転を規制する回転規制部40cを有している。回転規制部40cは、操舵軸5の回転軸線方向に沿った第1の方向に向かってメインギヤ本体部40aから延びる形状を有している延設部40c1と、延設部40c1の先端部分において径方向内側に突出する係合凸部40c2とをから構成される。係合凸部40c2はメインギヤ本体部40aの内周面よりも、内周側に突出している。回転規制部40cがメインギヤ40の周方向に対して半周毎(2か所)に設けられている。
【0020】
回転規制部40cは、メインギヤ40が操舵軸5に対して所定の位置に装着された状態で、係合凸部40c2が操舵軸5の外周面に溝状に形成された凹部5bに挿入されるようになっている。凹部5bの操舵軸5に対する周方向の幅は、係合凸部40c2の操舵軸5に対する周方向の幅よりも若干大きく形成されている。
【0021】
Oリング12とメインギヤ本体部40aとの間のフリクションによりOリング12がメインギヤ本体部40aを周方向に押圧する力よりも、メインギヤ40の歯部40bに作用する力の方が大きいときにはメインギヤ40は操舵軸5に対して相対移動しようとする。このとき、係合凸部40c2の周方向側面が凹部5bの周方向側面と当接し、メインギヤ40が操舵軸5に対する相対回転を規制する。係合凸部40c2は、環境温度の上昇によりメインギヤ40が熱膨張したときであっても、係合凸部40c2が凹部5bに挿入された状態で係合凸部40c2の先端が凹部5bの底部に当接しないように形成されている。
【0022】
メインギヤ40は、2つの回転規制部40cの間に壁部40dを有している。壁部40dは、本外部から軸方向に沿って延びる。
図6に示すように壁部40dの軸方向高さは、回転規制部40cの延設部40c1の軸方向高さよりもαだけ高く形成されている。換言すると、治具係合用傾斜部45は回転規制部40cよりも第1の方向に突出する形状を有している。回転規制部40cと壁部40dとは周方向において接続しないように形成されている。
【0023】
壁部40dの周方向端部には、治具係合用傾斜部45が形成されている。治具係合用傾斜部45は、メインギヤ本体部40aに設けられ、操舵軸5の回転線の方向において延設部40c1の一方側設けられた第1傾斜部45aと、他方側に設けられた第2傾斜部45bを備えている。第1傾斜部は操舵軸5の回転軸線の周方向における延設部40c1との距離がメインギヤ本体部40aから第1の方向(
図6において上方向)に進むほど大きくなるように操舵軸5の回転軸線に対し傾斜した第1傾斜面45a1を有している。同様に、第2傾斜部は操舵軸5の回転軸線の周方向における延設部40c1との距離がメインギヤ本体部40aから第1の方向(
図6において上方向)に進むほど大きくなるように操舵軸5の回転軸線に対し傾斜した第2傾斜面45b1を有している。回転規制部40cは2つの傾斜部40eの間に位置している。
【0024】
また、メインギヤ40は、底面46を備えている。底面46は、第1底面46aと、第2底面46bを有している。第1底面46aは、操舵軸5の回転軸線の周方向において、第1傾斜面45a1と回転規制部40cの間に設けられており、操舵軸5の回転軸線に対し直角な面を形成している。第2底面46bは、操舵軸5の回転軸線の周方向において、第2傾斜面45b1と回転規制部40cの間に設けられており、操舵軸5の回転軸線に対し直角な面を形成している。第1底面46a、第2底面46bの周方向の長さは、第1傾斜面45a1、第2傾斜面45b1の傾斜角の設定に合わせ適宜調整すれば良い。
【0025】
プライマリディテクションギヤ41は、センサハウジング30に回転可能に設けられ、N極およびS極を1組有する磁性部材41a(第2歯車用磁性部材)が装着されている。磁性部材41aはN極およびS極を2組以上有しても良く、所定間隔をもってN極およびS極が着磁されていれば良い。プライマリディテクションギヤ41の外周には複数の歯を有する歯部41b(第2の歯)が形成されている。歯部41bは例えば20歯有している。歯部41bはメインギヤ40の歯部40bと噛み合っており、メインギヤ40の回転に伴い回転する。
【0026】
セカンダリディテクションギヤ42は、センサハウジング30に回転可能に設けられ、N極およびS極を1組有する磁性部材42a(第3歯車用磁性部材)が装着されている。磁性部材42aはN極およびS極を2組以上有しても良く、所定間隔をもってN極およびS極が着磁されていれば良い。セカンダリディテクションギヤ42の外周には複数の歯を有する歯部42b(第3の歯)が形成されている。歯部42bは、プライマリディテクションギヤ41の歯部41bの歯数とは割り切れない数の歯数を有し、例えば19歯有している。歯部42bはプライマリディテクションギヤ41の歯部41bと噛み合っており、プライマリディテクションギヤ41の回転に伴って回転する。磁性部材41a,42aと対向する位置には磁性部材41a,42aのN極およびS極の間に発生する磁界の変化を抵抗素子の抵抗値の変化として検出し、プライマリディテクションギヤ41,セカンダリディテクションギヤ42のそれぞれの回転角を検出する磁気抵抗効果素子41c(第2歯車用検出部材), 磁気抵抗効果素子42c(第3歯車用検出部材)が設けられている。磁気抵抗効果素子41c,42cは、基盤43に装着されている。操舵角センサ31の各要素は、センサハウジング30に収容されている。センサハウジング30は一方が開口し、操舵角センサ31の各要素を収容した後に、センサハウジング30の開口する側に基盤43が収容され、カバー30aにより閉塞されている。
【0027】
次に操舵軸5の構成について説明する。
【0028】
操舵軸5は金属製である。操舵軸5の一端側(自在継手4と接続する側)から操舵軸5の軸方向の中間部にかけて小径部5cが形成されている。操舵軸5の他端側(ピニオン軸6に接続する側)から軸方向の中間部にかけて大径部5dが形成されている。小径部5cの外径は、大径部5dの外径よりも小さく形成されている(
図5参照)。操舵軸5の軸方向の中間部であって、小径部5cと大径部5dの境目には段部5eが形成されている。段部5eは、操舵軸5が自在継手4に接続するときに自在継手4に形成された当接面と当接する。これにより、操舵軸5に対する自在継手4の軸方向における位置決めが行われる。
【0029】
操舵軸5の一端部には操舵軸係合部5fが形成されている。操舵軸係合部5fは、円柱状の小径部5cの側面の一部を切り欠いて形成される(
図5参照)。操舵軸係合部5fは、2面形成される。操舵軸5を軸方向から見たときに、2面の操舵軸係合部5fの延長線は角度を有するように形成されている。操舵軸係合部5fは、操舵軸5を自在継手4に接続するときに自在継手4の自在継手係合部と係合する。これにより操舵軸5に対する自在継手4の回転方向における位置決めが行われる。操舵軸5には軸方向に穿設された軸方向孔5gが形成されている。軸方向孔5gは、操舵軸5の他端側に開口している(
図4参照)。軸方向孔5gには、トーションバー13が挿入されている。トーションバー13は一端側が操舵軸5に固定され、他端側がピニオン軸6に固定されている。操舵トルクセンサ32は、運転者がステアリングホイール2を操舵操作したときのトーションバー13の捩じれによる操舵軸5とピニオン軸6の相対回転量から操舵トルクを検出する。
【0030】
次に治具50の構成について説明する。
【0031】
メインギヤ40は治具50を用いて、操舵軸5に組み付けられる。
図7は治具50を示す図である。
図8は治具50の斜視図である。
図9は治具50と操舵軸5の断面図である。
図10は治具50と操舵軸5の断面図である。
図11及び
図12はメインギヤ40を操舵軸の軸方向と直交する方向から見た状態における治具当接部55と治具係合用傾斜部45の関係を示す側面図である。
【0032】
治具50は円筒状に形成された筒状本体部53を有する。筒状本体部53の外周面であって、一端側の一部にはローレット51が施されている。治具50は操舵軸5の軸方向に貫通する貫通孔52が形成されている。メインギヤ40を操舵軸5に組み付けるときには、まずメインギヤ40のメインギヤ本体部40aの内周に操舵軸5を挿入した状態で、メインギヤ40を操舵軸5に仮組み付けを行う。その後、治具50の貫通孔52に操舵軸5を挿入した状態で、治具50を操舵軸5に対して他端側に移動させることにより、治具50がメインギヤ40を押圧し、メインギヤ40を操舵軸5に対して所定の位置に組み付ける。なお、治具50の貫通孔52に操舵軸5を挿入した状態では、治具50の中心軸と操舵軸5の中心軸(回転軸)は、ほぼ一致する。以下、治具50について一端側と記載した場合には、治具50の貫通孔52に操舵軸5を挿入した状態で、操舵軸5の一端側(自在継手4と接続する側)と一致する側を示す。また治具50について他端側と記載した場合には、治具50の貫通孔52に操舵軸5を挿入した状態で、操舵軸5の他端側(ピニオン軸6に接続する側)と一致する側を示す。
【0033】
貫通孔52の内周面は操舵軸5の外周面の形状に沿って形成されている。治具50の貫通孔52の一端側から軸方向の中間部にかけて小径部52aが形成されている。貫通孔52の軸方向の中間部から他端側にかけて大径部52bが形成されている。小径部52aの内径は、操舵軸5の小径部5cの外径よりも若干大きく形成されている。大径部52bの内径は、操舵軸5の大径部5dの外径よりも若干大きく形成されている。
【0034】
貫通孔52軸方向の中間部であって、小径部52aと大径部52bとの間には段部52cが形成されている。治具50を操舵軸5に対して他端側に移動させたときに、段部52cと操舵軸5の段部5eとが当接することにより、操舵軸5に対する治具50の軸方向の移動が規制される。
【0035】
治具50の係合溝52eは、操舵軸5の段部5eと治具50の段部52cとが当接した状態で、回転規制部40cの延設部40c1の先端が、係合溝52eの本体部52e1の側面と当接しないように形成されている。治具50の他端側の面は、段部5eと段部52cとが当接した状態で、メインギヤ40のメインギヤ本体部40aおよび操舵角センサ31のメインギヤ40以外の部材に接触しないように形成されている。
【0036】
治具50の貫通孔52の一端側には、操舵軸5の操舵軸係合部5fに沿って形成された治具係合部52dを有する。治具50の貫通孔52内に操舵軸5を挿入したときに、操舵軸係合部5fと治具係合部52dとが係合する。これにより、操舵軸5に対する治具50の回転位置を合わせることができる。
【0037】
治具50の貫通孔52の他端側開口部には、軸方向に伸びる溝状に形成された係合溝52eが形成されている。係合溝52eは、治具50の治具係合部52dと操舵軸5の操舵軸係合部5fとが係合した状態で、操舵軸5の凹部5bと係合溝52eとの周方向位置が一致するように形成されている。係合溝52eには回転規制部40cの延設部40c1が挿入される。係合溝52eは本体部52e1を有している。また、治具50の貫通孔52の他端側開口部には、治具50の周方向に帯状に伸びる挿入部52fが形成されている。治具50に操舵軸5を挿入したときに、メインギヤ40の壁部40dが挿入される。挿入部52fの端部には、治具当接部55が形成されている。治具当接部55は、第1傾斜部45aと当接する第1治具当接部55aと、第2傾斜部45bと当接する第2治具当接部55bとを有している。係合溝52eは、周方向において第1治具当接部55aと第2治具当接部55bの間に位置している。また、係合溝52e、第1治具当接部55a、第2治具当接部55bは周方向において、それぞれ2つ備えている。
【0038】
治具50によりメインギヤ40を操舵軸5に装着をする作業中において、係合溝52eの本体部52e1の治具50の径方向における深さは、回転規制部40cの延設部40c1に対して次に関係を有するように形成されている。
【0039】
本体部52e1の深さは、回転規制部40cの係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入されている状態(係合凸部40c2が操舵軸5に当接していない状態)のときに、延設部40c1の径方向外側の面に対して、本体部52e1の径方向外側の面(底面)が径方向外側となるように形成されている。
【0040】
また本体部52e1の深さは、回転規制部40cの係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入されていない状態(係合凸部40c2が操舵軸5の外周に当接している状態)のときに、回転規制部40cの延設部40c1の径方向外側の面に対して、本体部52e1の径方向外側の面(底面)が径方向内側となるように形成されている。
【0041】
係合溝52eの本体部52e1の治具50における周方向の幅は、次に関係を有するように形成されている。本体部52e1の幅は、回転規制部40cの延設部40c1が係合可能なように延設部40c1の周方向における幅に対して広く形成されている。
【0042】
本体部52e1の一端側側面は、操舵軸5の段部5eと治具50の段部52cとが当接した状態で、回転規制部40cの延設部40c1の一端側側面と当接しないように形成されている。治具50の貫通孔52の他端側開口部には、治具50の周方向に帯状に伸びる挿入部52fが形成されている。治具50に操舵軸5を挿入したときに、メインギヤ40の壁部40dが挿入される。
【0043】
次にメインギヤ40の組み付け方法について説明する。
【0044】
メインギヤ40を操舵軸5に組み付ける作業は、作業者の手作業によって行われる。操舵軸5のOリング保持部5aにOリング12を装着し、メインギヤ40のメインギヤ本体部40aの内周に操舵軸5を挿入して仮組み付けを行う(メインギヤ本体部40aに操舵軸5を挿入する挿入工程)。このとき、メインギヤ40の回転規制部40cの周方向位置と、操舵軸5の凹部5bの周方向位置とがある程度一致するように組み付ける。その後、操舵軸5の操舵軸係合部5fと治具50の治具係合部52dとが係合するようにして、操舵軸5を治具50の貫通孔52に挿入する。
【0045】
操舵軸5に対して治具50を他端側に移動させる際(治具50でメインギヤ40を付勢する)、
図11に示すように、治具50の第1治具当接部55aは第1傾斜部45aと当接する。この工程において、治具係合用傾斜部45の軸方向高さは、回転規制部40cの延設部40c1の軸方向高さよりもαだけ高く形成されている(
図6)ので、回転規制部40cの先端は治具50に接触しない。換言すると、治具係合用傾斜部45は回転規制部40cよりも第1の方向に突出する形状を有しているので、回転規制部40cの先端は治具50に接触しない。
【0046】
治具50をさらに他端側に移動させると、第1治具当接部55aは第1傾斜部45aの第1傾斜面45b1に沿って他端側に移動し、治具50の第2治具当接部55bと第2傾斜部45bが当接する。本実施例は、第1治具当接部55aと第2治具当接部55bを第1傾斜部45aと第2傾斜部45bの夫々に当接させ、メインギヤ40に対し治具50を係合させる治具係合工程を有する。
【0047】
メインギヤ40は、第1治具当接部55aが第1傾斜面45a1と当接するとき、操舵軸5の回転軸線の周方向において、回転規制部40cと第2治具当接部55bの間に隙間βができる形状を有している。このような構成を採用することにより、第1治具当接部55a、第2治具当接部55bが誤って回転規制部40cと接触することが抑制され、回転規制部40cの損傷を抑制することができる。
【0048】
図11に示す工程では、最初に治具50の第1治具当接部55aと第1傾斜部45aが当接する例で説明したが、最初に治具50の第2治具当接部55bと第2傾斜部45bが当接するようにしても良い。
【0049】
本実施例ではメインギヤ40に対し治具50を係合させる治具係合工程において、メインギヤ40の回転規制部40cの周方向位置と、操舵軸5の凹部5bの周方向位置が若干ずれていたとしても、治具当接部55と治具係合用傾斜部45とを当接させることにより、メインギヤ40が回転しメインギヤ40の回転方向位置を調整することができる。
【0050】
回転規制部40cの係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入されていない状態では、係合凸部40c2は操舵軸5の大径部5dの外周面に当接している。そのため、延設部40c1は根元(メインギヤ本体部40a側)から先端部にかけて径方向外側に反った形状となっている。このとき、延設部40c1の先端が第1テーパ部52e2に軸方向において当接する。また第1テーパ部52e2の治具50の周方向における幅は、延設部40c1の周方向における幅より広く形成されている。そのため、延設部40c1が第1テーパ部52e2と接触している状態で、治具50でメインギヤ40を付勢すると、メインギヤ40が治具50とともに回転する。治具50を治具係合部52dが操舵軸5の操舵軸係合部5fと係合するように付勢して回転させれば、メインギヤ40も治具50とともに回転し、回転規制部40cと操舵軸5の凹部5bとの周方向位置を一致させることができる。治具50が操舵軸5の他端側へ移動すると、メインギヤ40も移動する。治具50を介してメインギヤ40を付勢し、メインギヤ40が所定の位置まで移動すると、回転規制部40cの係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入される。このとき、係合凸部40c2は操舵軸5には当接していないため、延設部40c1は軽方向外側に反った状態が解消される。そして、メインギヤ40は所定の位置に留まったまま、治具50のみが操舵軸5に対して他端側に移動し、延設部40c1は治具50の係合溝52eの本体部52e1と係合する(回転規制部係合工程)。治具50は、治具50の貫通孔52内の段部52cと操舵軸5の段部5eとが当接するまで、操舵軸5の他端側に向かって移動することができる。
【0051】
以下、本実施例に作用について説明する。
【0052】
本実施例では、操舵軸5のOリング保持部5aにOリング12を設け、操舵軸5とメインギヤ40のメインギヤ本体部40aの内周面との間で、Oリング12が圧縮変形した状態とするようにした。Oリング12とメインギヤ本体部40aの内周面との間のフリクションにより、メインギヤ40を操舵軸5と一体に回転させることができる。しかし、メインギヤ40の歯部40bに入力される力が、Oリング12とメインギヤ本体部40aの内周面との間のフリクションによる周方向の力以上となると、メインギヤ40は操舵軸5に対して相対回転しようとする。そのため、メインギヤ40の歯部40bに入力される力が過大になったときに備えて、別にメインギヤ40の操舵軸5に対する相対回転を規制する機構が必要となる。その機構として、メインギヤ40を操舵軸5に対して所定の位置に組み付けた状態で、メインギヤ40に設けた回転規制部40cの係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入するようにした。メインギヤ40の歯部40bに入力される力が、Oリング12とメインギヤ本体部40aの内周面との間のフリクションによる周方向の力以上となると、メインギヤ40は操舵軸5に対して相対回転しようとする。このとき、係合凸部40c2の周方向側面が凹部5bの周方向側面と当接し、メインギヤ40の操舵軸5に対する相対回転を規制する。
【0053】
メインギヤ40は、作業員によって手作業で、Oリング12を圧縮変形させながら操舵軸5に装着される。メインギヤ40を操舵軸5に装着するにあたっては、治具50を用いる。治具50を用いてメインギヤ40を操舵軸5に装着させる際、治具50が回転規制部40cと当接し、回転規制部40cが損傷する恐れがある。
【0054】
そこで本実施例では、治具50を用いてメインギヤ40を操舵軸5に装着する際、メインギヤ40に治具50と係合する治具係合用傾斜部45を形成した。
【0055】
治具50でメインギヤ40(第1歯車)を付勢する際、治具50は、治具係合用傾斜部45と当接する。本実施例によれば、治具係合用傾斜部45は、テーパ形状を有するため、治具50とメインギヤ40の相対回転位置を固定することができ、係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入されるようにメインギヤ40の回転方向位置を調整しながらメインギヤ40を付勢することができる。また、本実施例によれば、治具50は、回転規制部40cではなく、治具係合用傾斜部45と当接するため、メインギヤ40の組付け作業時における回転規制部40cの負荷が抑制され、回転規制部40cの損傷を抑制することができる。
【0056】
さらに、治具係合用傾斜部45は、回転規制部40cよりも第1の方向に突出する形状を有する。本実施例によれば、治具係合用傾斜部45が回転規制部40cよりも突出しているため、回転規制部40cが誤って他の部材等と接触することが抑制され、回転規制部40cの損傷を抑制することができる。
【0057】
また本実施例では、治具50の貫通孔52の他端側開口部に、回転規制部40cの延設部40c1と係合する係合溝52eを形成した。よって、係合溝52eに延設部40c1が係合した状態で、メインギヤ40を治具50とともに回転させることができ、操舵軸5に対するメインギヤ40の回転位置調整が容易となる。
【0058】
また本実施例では、治具50を治具係合部52dが操舵軸係合部5fと係合した状態において、係合溝52eと操舵軸5の凹部5bとの回転位置が一致するようにした。よって、治具係合部52dと操舵軸係合部5fとが係合するように操舵軸5に対する治具50の回転位置を調整することにより、係合凸部40c2と凹部5bとの回転位置を合わせることができる。これによりメインギヤ40の操舵軸5に対する回転位置調整を容易にすることができる。また本実施例では、操舵軸係合部5fを、操舵軸5と自在継手4との回転位置調整に用いるとともに、操舵軸5と治具50との回転位置調整にも用いるようにした。よって、操舵軸5の構成を簡略化することができる。
【0059】
また本実施例では、治具50の係合溝52eの本体部52e1の径方向の深さを、回転規制部40cの係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入された状態で、延設部40c1の径方向外側の面が、本体部52e1の底面よりも径方向内側となるように形成した。また本体部52e1の径方向の深さを、係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入されていない状態(係合凸部40c2が操舵軸5の外周面に当接している状態)のときに、延設部40c1の径方向外側の面が、本体部52e1の底面よりも径方向外側となるように形成した。よって、係合凸部40c2が凹部5bに挿入されていない状態では、延設部40c1の先端部が第1テーパ部52e2に当接し、治具50の操舵軸5の軸方向他端側に向う移動に対してメインギヤ40は一体に移動する。一方、係合凸部40c2が凹部5bに挿入された状態では、延設部40c1が本体部52e1に挿入され、治具50の軸方向他端側に向かう移動に対してメインギヤ40は移動しない。これにより、係合凸部40c2を確実に凹部5bに挿入させることができる。
【0060】
また本実施例では、治具50は、操舵軸5の段部5eと治具50の段部52cとが当接する位置まで操舵軸5を治具50に挿入した状態で、回転規制部40cの延設部40c1の先端が、係合溝52eの本体部52e1の側面と当接しないように形成されている。また治具50は、段部5eと段部52cとが当接する位置まで操舵軸5を治具50に挿入した状態で、治具50の他端側端面が操舵角センサ31のメインギヤ40以外の部材およびメインギヤ40のメインギヤ本体部40aに接触しないように形成されている。よって、操舵軸5に対する治具50の移動が規制されるため、治具50からメインギヤ40に対して過剰な力を作用させることがない。これによりメインギヤ40の破損を抑制することができる。
【0061】
さらに、本実施例では、メインギヤ40は、第1底面46aと、第2底面46bを有している。第1底面46aは、操舵軸5の回転軸線の周方向において、第1傾斜面45a1と回転規制部40cの間に設けられており、操舵軸5の回転軸線に対し直角な面を形成している。第2底面46bは、操舵軸5の回転軸線の周方向において、第2傾斜面45b1と回転規制部40cの間に設けられており、操舵軸5の回転軸線に対し直角な面を形成している。本実施例によれば、第1底面46a、第2底面46bを設けることで、回転規制部40cと第1傾斜面45a1、第2傾斜面45b1との距離を離すことができ、治具50と回転規制部40cとの接触による回転規制部40cの損傷を抑制することができる。また、第1底面46a、第2底面46bの周方向長さを適宜調整することで、第1傾斜面45a1、第2傾斜面45b1の傾斜角の設定時における制約を減らすことができる。
【0062】
さらにまた、本実施例では、メインギヤ40は、第1治具当接部55aが第1傾斜面45a1と当接するとき、操舵軸5の回転軸線の周方向において、回転規制部40cと第2治具当接部55bの間に隙間βができる形状を有している。このような構成を採用することにより、第1治具当接部55a、第2治具当接部55bが誤って回転規制部40cと接触することが抑制され、回転規制部40cの損傷を抑制することができる。
【0063】
以上説明した本実施例の実施態様を纏めると以下の通りである。
【0064】
操舵角センサ31の組み立て方法であって、操舵角センサ31は、
回転する操舵軸5を包囲するように設けられたセンサハウジング30と、
メインギヤ40(第1歯車)であって、メインギヤ本体部40a(第1歯車本体部)と、複数の歯を有する歯部40b(第1の歯)と、回転規制部40cと、治具係合用傾斜部45を備え、センサハウジング30の中に回転可能に設けられ、
メインギヤ本体部40a(第1歯車本体部)は、操舵軸5を包囲する環形状を有しており、
複数の歯部40bは、メインギヤ本体部40aの外周側に設けられており、
回転規制部40cは、延設部40c1と、係合凸部40c2を有し、
延設部40c1は、操舵軸5の回転軸線の方向に沿った第1の方向に向かってメインギヤ本体部40aから延びる形状を有しており、
係合凸部40c2は、操舵軸5の外周側に設けられた凹部5bに挿入可能な凸形状を有しており、
治具係合用傾斜部45は、メインギヤ本体部40aに設けられ、操舵軸5の回転軸線の周方向において延設部40c1の一方側に設けられた第1傾斜部45aと他方側に設けられた第2傾斜部45bを備え、
第1傾斜部45aは、操舵軸5の回転軸線の周方向における延設部40c1との距離がメインギヤ本体部40aから前記第1の方向に進むほど大きくなるように操舵軸5の回転軸線に対し傾斜した第1傾斜面45a1を有し、
第2傾斜部45bは、操舵軸5の回転軸線の周方向における延設部40c1との距離がメインギヤ本体部40aから前記第1の方向に進むほど大きくなるように操舵軸5の回転軸線に対し傾斜した第2傾斜面45b1を有する、
メインギヤ40と、
プライマリディテクションギヤ41(第2歯車)であって、歯部40bと噛合う複数の歯部41b(第2の歯)を備え、メインギヤ40の回転に伴い回転可能にセンサハウジング30に設けられるプライマリディテクションギヤ41と、
セカンダリディテクションギヤ42(第3歯車)であって、歯部40bまたは歯部41bと噛合う複数の歯部42b(第3の歯)を備え、メインギヤ40の回転に伴い回転可能にセンサハウジング30に設けられ、
セカンダリディテクションギヤ42は、歯部41bの数と互いに割り切れない数設けられている、
セカンダリディテクションギヤ42と、
プライマリディテクションギヤ41に設けられ、プライマリディテクションギヤ41の回転軸線の周りにN極とS極が並ぶように設けられた磁性部材41a(第2歯車用磁性部材)と、
セカンダリディテクションギヤ42に設けられ、セカンダリディテクションギヤ42の回転軸の周りにN極とS極が並ぶように設けられた磁性部材42a(第3歯車用磁性部材)と、
磁性部材41aの磁界の変化に基づきプライマリディテクションギヤ41の回転角を検出する磁気抵抗効果素子41c(第2歯車用検出部材)と、
磁性部材42aの磁界の変化に基づきセカンダリディテクションギヤ42の回転角を検出する磁気抵抗効果素子42c(第3歯車用検出部材)と、
を備えており、
メインギヤ本体部40aに操舵軸5を挿入する挿入工程と、
治具係合工程であって、治具50は、第1傾斜部45aと当接する第1治具当接部55aと第2傾斜部45bと当接する第2治具当接部55bを有し、第1治具当接部55aと第2治具当接部55bを第1傾斜部45aと第2傾斜部45bの夫々に当接させ、メインギヤ40に対し治具50を係合させる治具係合工程と、
回転規制部係合工程であって、治具50を介してメインギヤ40を付勢し、係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入される位置まで操舵軸5に対しメインギヤ40を移動させる回転規制部係合工程と、
を有することを特徴とする操舵角センサの組み立て方法。
【0065】
治具50でメインギヤ40(第1歯車)を付勢する際、治具50は、治具係合用傾斜部45と当接する。本実施態様によれば、治具係合用傾斜部45は、テーパ形状を有するため、治具50とメインギヤ40の相対回転位置を固定することができ、係合凸部40c2が操舵軸5の凹部5bに挿入されるようにメインギヤ40の回転方向位置を調整しながらメインギヤ40を付勢することができる。また、本実施態様によれば、治具50は、回転規制部40cではなく、治具係合用傾斜部45と当接するため、メインギヤ40の組付け作業時における回転規制部40cの負荷が抑制され、回転規制部40cの損傷を抑制することができる。
【0066】
また、より好ましい態様では、上記態様において、
治具係合用傾斜部45は、回転規制部40cよりも前記第1の方向に突出する形状を有することを特徴とする操舵角センサの組み立て方法。
【0067】
本実態様によれば、治具係合用傾斜部45が回転規制部40cよりも突出しているため、回転規制部40cが誤って他の部材等と接触することが抑制され、回転規制部40cの損傷を抑制することができる。
【0068】
さらに、より好ましい態様では、上記態様において、
メインギヤ40は、第1底面46aと、第2底面46bを有し、
第1底面46aは、操舵軸5の回転軸線の周方向において、第1傾斜面45a1と回転規制部40cの間に設けられ、操舵軸5の回転軸線に対し直角な面であって、
第2底面46bは、操舵軸5の回転軸線の周方向において、第2傾斜面45b1と回転規制部40cの間に設けられ、操舵軸5の回転軸線に対し直角な面であることを特徴とする操舵角センサの組み立て方法。
【0069】
本実態様によれば、第1底面46a、第2底面46bを設けることで、回転規制部40cと第1傾斜面45a1、第2傾斜面45b1との距離を離すことができ、治具50と回転規制部40cとの接触による回転規制部40cの損傷を抑制することができる。また、第1底面46a、第2底面46bの周方向長さを適宜調整することで、第1傾斜面45a1、第2傾斜面45b1の傾斜角の設定時における制約を減らすことができる。
【0070】
さらにまた、より好ましい態様では、上記態様において、
メインギヤ40は、第1治具当接部55aが第1傾斜面45a1と当接するとき、操舵軸5の回転軸線の周方向において、回転規制部40cと第2治具当接部55bの間に隙間βができる形状を有することを特徴とする操舵角センサの組み立て方法。
【0071】
本実態様によれば、第1治具当接部55a、第2治具当接部55bが誤って回転規制部40cと接触することが抑制され、回転規制部40cの損傷を抑制することができる。
【0072】
なお、本発明は、上述した実施例に限定するものではなく、様々な変形例が含まれる。上述した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定するものではない。