特許第6976209号(P6976209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976209
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】プランジャポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/26 20060101AFI20211125BHJP
【FI】
   F02M59/26 330N
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-62042(P2018-62042)
(22)【出願日】2018年3月28日
(65)【公開番号】特開2019-173639(P2019-173639A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2020年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】大金 雄弥
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−51110(JP,A)
【文献】 特開2000−80977(JP,A)
【文献】 特開2017−115791(JP,A)
【文献】 実公昭51−12581(JP,Y1)
【文献】 特開平6−299931(JP,A)
【文献】 特開2007−177704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00−71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の内周壁を持つ加圧室と、ガイド部により前記内周壁が延在する向きに摺動自在に保持された略円筒形状の外周面をもつプランジャとを備えるプランジャポンプであって、
前記内周壁は、前記プランジャの軸芯を中心とする周方向の一部に、前記加圧室に連通しかつ前記加圧室に燃料を取り込むための吸入開口を有し、
前記周方向における、前記吸入開口の形成位置を避けた位置の少なくとも一部に、前記吸入開口の形成位置におけるプランジャ周面から内周壁内周面までの前記プランジャの径方向の寸法よりも寸法が大きな拡大間隙部が形成されている
ことを特徴とするプランジャポンプ。
【請求項2】
前記内周壁は、前記吸入開口の形成位置に対して前記プランジャを挟んで対向する位置に前記加圧室から燃料を吐出するための吐出開口を有し、
前記加圧室は、前記プランジャの軸芯に直交する断面形状が楕円形状とされ、
前記吸入開口及び前記吐出開口は、前記内周壁の短軸側に設けられ、
前記楕円形状の長軸側の内周壁と前記プランジャ外周面との間隔が前記拡大間隙部となる
ことを特徴とする請求項1記載のプランジャポンプ。
【請求項3】
前記プランジャは、前記プランジャの軸芯が前記加圧室の中心を基準として前記吸入開口側に偏心して配置されることを特徴とする請求項2記載のプランジャポンプ。
【請求項4】
前記内周壁は、前記プランジャの軸芯に直交する断面形状が円形状とされ、
前記プランジャの軸芯は、前記円形状の中心を基準として前記吸入開口側に偏心して配置される
ことを特徴とする請求項1記載のプランジャポンプ。
【請求項5】
前記拡大間隙部は、前記内周壁に形成される凹部であることを特徴とする請求項1記載のプランジャポンプ。
【請求項6】
前記内周壁には前記加圧室から燃料を吐出するための吐出開口が設けられ、
前記凹部は、前記周方向において前記吸入開口と前記吐出開口との間に設けられることを特徴とする請求項5記載のプランジャポンプ。
【請求項7】
前記凹部は、前記周方向において、前記吸入開口より前記吐出開口に近い領域に設けられることを特徴とする請求項6記載のプランジャポンプ。
【請求項8】
前記吸入開口と前記吐出開口とは、前記プランジャの軸芯を挟んで対向しない位置に設けられ、
前記凹部は、前記内周壁の内周面に形成されると共に、前記周方向において、前記吸入開口または前記吐出開口に対して前記プランジャの軸芯を挟んで対向する位置に設けられることを特徴とする請求項6または7に記載のプランジャポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、シリンダに挿入されたプランジャを加圧室に向けて往復動させることにより、内部の燃料を加圧する高圧燃料供給ポンプが開示されている。このようなプランジャと加圧室の内壁面との間には間隙が形成され、燃料が充満している。このようなプランジャポンプにおいて、燃料は20MPa以上の高圧に加圧されるため、液体である燃料であっても微量ながら圧縮される。燃料の加圧はプランジャが加圧室を減容させることによってなされるので、燃料が圧縮されることを考慮すると加圧室の最大容積がプランジャによって加圧室が減容される容積と等しいとき、加圧室からの吐出量は最大となり容積効率は最大となる。容積効率を向上させるために、上記の間隙などに代表されるデッドボリュームを小さくすることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−108784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プランジャが内周壁内を往復動することにより、上記間隙に充満した燃料の内部にはプランジャ軸方向に剪断応力が発生する。このとき、上記間隙の小さいプランジャポンプにおいては、加圧室の内壁面からプランジャの周面に至るまでの燃料の速度は急激に変化するため剪断応力も大きなものとなり、燃料の圧力が急激に低下する。これにより、間隙の燃料では、圧力が局所的に飽和蒸気圧以下となり、キャビテーションが発生する可能性がある。キャビテーションはエロージョンを引き起こしポンプの耐久性に悪影響を及ぼしかねない。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、プランジャポンプにおいて、プランジャの周面におけるキャビテーションを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の手段として、筒状の内周壁を持つ加圧室と、ガイド部により前記内周壁が延在する向きに摺動自在に保持された略円筒形状の外周面をもつプランジャとを備えるプランジャポンプであって、前記内周壁は、前記プランジャの軸芯を中心とする周方向の一部に、前記加圧室に連通しかつ前記加圧室に燃料を取り込むための吸入開口を有し、前記周方向における、前記吸入開口の形成位置を避けた位置の少なくとも一部に、前記吸入開口の形成位置におけるプランジャ周面から内周壁内周面までの前記プランジャの径方向の寸法よりも寸法が大きな拡大間隙部が形成されている、という構成を採用する。
【0007】
第2の手段として、上記第1の手段において、前記内周壁は、前記吸入開口の形成位置に対して前記プランジャを挟んで対向する位置に前記加圧室から燃料を吐出するための吐出開口を有し、前記加圧室は、前記プランジャの軸芯に直交する断面形状が楕円形状とされ、前記吸入開口及び前記吐出開口は、前記内周壁の短軸側に設けられ、前記楕円形状の長軸側の内周壁と前記プランジャ外周面との間隔が前記拡大間隙部となる、という構成を採用する。
【0008】
第3の手段として、上記第2の手段において、前記プランジャは、前記プランジャの軸芯が前記加圧室の中心を基準として前記吸入開口側に偏心して配置されるという構成を採用する。
【0009】
第4の手段として、上記第1の手段において、前記内周壁は、前記プランジャの軸芯に直交する断面形状が円形状とされ、前記プランジャの軸芯は、前記円形状の中心を基準として前記吸入開口側に偏心して配置される、という構成を採用する。
【0010】
第5の手段として、上記第1の手段において、前記拡大間隙部は、前記内周壁に形成される凹部である、という構成を採用する。
【0011】
第6の手段として、上記第5の手段において、前記内周壁には前記加圧室から燃料を吐出するための吐出開口が設けられ、凹部は、前記周方向において前記吸入開口と前記吐出開口との間に設けられる、という構成を採用する。
【0012】
第7の手段として、上記第6の手段において、前記凹部は、前記周方向において、前記吸入開口より前記吐出開口に近い領域に設けられる、という構成を採用する。
【0013】
第8の手段として、上記第6または第7の手段において、前記吸入開口と前記吐出開口とは、前記プランジャの軸芯を挟んで対向しない位置に設けられ、前記凹部は、前記内周壁の内周面に形成されると共に、前記周方向において、前記吸入開口または前記吐出開口に対して前記プランジャの軸芯を挟んで対向する位置に設けられる、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内周壁に拡大間隙部が形成されている。このため、内周壁とプランジャとの間の間隙に存在する燃料内の速度変化は小さく抑えられ、燃料の飽和蒸気圧以下となることを抑制することができる。したがって、プランジャポンプにおいて、プランジャの周面におけるキャビテーションを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態のプランジャポンプの概略構成を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態におけるプランジャポンプが備える吸入機構の一部を含む拡大断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るプランジャポンプの昇圧プランジャに垂直な面におけるボディ、吸入機構及び吐出機構を含む断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係るプランジャポンプの一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態のプランジャポンプ1の概略構成を示す断面図である。この図に示すように、本実施形態のプランジャポンプ1は、ボディ2と、吸入機構3と、昇圧機構4と、吐出機構5と、ダンパ機構6とを備えている。なお、以下の説明では、燃料の昇圧を行うプランジャの軸芯を中心軸Lとし、この中心軸Lと直交する方向を径方向と称し、径方向における中心軸L側を径方向内側、径方向における中心軸Lと反対側を径方向外側と称する。また、プランジャポンプ1の設置姿勢は限定されないものの、説明の便宜上、図1における上側を上方、図1における下側を下方と称する。
【0018】
ボディ2は、吸入機構3、昇圧機構4、吐出機構5及びダンパ機構6が取り付けられる基部であり、内部に燃料を案内する燃料流路が形成されている。図1に示すように、本実施形態のプランジャポンプ1においては、燃料流路として、吸入機構3の一部が嵌入される吸入流路R1と、吐出機構5の一部が嵌入される吐出流路R2とがボディ2の内部に形成されている。また、ボディ2の内部には、吸入流路R1と吐出流路R2とを繋ぐと共に燃料の加圧が行われる加圧室R3が設けられている。この加圧室R3は、径方向においてボディ2の中央部に配置されている。
【0019】
また、ボディ2の上部には、天面から上方に向けて突出する円筒状の囲壁部2aが設けられている。この囲壁部2aは、後述するダンパ室Rdの一部を形成している。また、ボディ2の内部には、ダンパ室Rdの底部(すなわちボディ2の天面)から吸入流路R1に貫通する供給流路R4(燃料流路)が形成されている。また、図1には示されていないが、ボディ2は、ダンパ室Rdの外部からダンパ室Rdに燃料を供給する流路等、他の燃料流路も有している。
【0020】
また、ボディ2は、加圧室R3から下方に貫通すると共に後述の昇圧プランジャ4bが移動可能に収容される円柱状の貫通空間R5を有している。なお、加圧室R3を構成する壁面であって、中心軸Lを囲む壁面によって、本発明における内周面が形成されている。また、ボディ2は、吸入流路R1に延出され、後述する吸入弁体3bに対して燃料の流れ方向の下流側(径方向内側)から対向配置されるスプリング保持部2bを有している。このスプリング保持部2bは、吸入弁体3bを付勢する後述の吸入スプリング3cが取り付けられると共に、吸入弁体3bの移動を燃料の流れ方向の下流側(径方向内側)から規制するストッパとしても機能する。
【0021】
図3は、本実施形態に係るプランジャポンプ1の昇圧プランジャ4bの中心軸Lに垂直な面におけるボディ2、吸入機構3及び吐出機構5を含む断面図である。
図3(a)に示すように、加圧室R3の内周面に凹部2c(拡大間隙部)が形成されている。この凹部2cは、後述する昇圧プランジャ4bの周方向において吸入機構3と吐出機構5から離れた最もキャビテーションの発生しやすい位置であって、昇圧プランジャ4bの中心軸Lを含み吸入機構3の中心を通る平面を挟んで対向する2か所に設けられている。このような凹部2cは、昇圧プランジャ4bの中心軸Lに垂直な面によって切断される形状が円弧状となるような曲面を有している。なお、この凹部2cは、昇圧プランジャ4bの加圧室R3側端部の上死点から下死点までの間の少なくとも一部に連なって加圧室R3に露出するように形成されている。
【0022】
図2に示すように、吸入機構3は、バルブシート3aと、吸入弁体3bと、吸入スプリング3cと、ソレノイドユニット3dとを備えている。バルブシート3aは、吸入流路R1に配置されており、吸入弁体3bにより開閉される開口を有している。吸入弁体3bは、バルブシート3aのボディ径方向内側に配置されており、吸入スプリング3cによりボディ径方向に移動可能に保持されている。吸入スプリング3cは、ボディ2のスプリング保持部2bにボディ径方向内側の端部が外嵌されることにより保持され、ボディ径方向外側の端部が吸入弁体3bの中央部に設けられた突部に外嵌されている。この吸入スプリング3cは、吸入弁体3bの上流側の圧力が下流側の圧力に対して相対的に高くなった場合に、差圧により収縮可能とされた圧縮コイルバネであり、吸入弁体3bをボディ径方向外側に向けて付勢している。
【0023】
ソレノイドユニット3dは、ベース部3eと、ガイド部材3f(ストッパ)と、吸入プランジャ3g(直動部品)と、吸入スプリング3hと、可動コア3iと、コイル3jと、固定コア3kと、コネクタ3mと、弾性体3nとを備えている。ベース部3eは、ボディ2に固定されると共に、ガイド部材3f、吸入プランジャ3g、吸入スプリング3h、可動コア3i、コイル3j、固定コア3k及びコネクタ3mを直接あるいは間接的に支持している。このベース部3eは、中央部に貫通孔が形成された略円筒状に形状設定されており、先端部がボディ径方向外側からボディ2の吸入流路R1に挿入されている。
【0024】
ガイド部材3fは、ベース部3eと同軸状に配置された略円筒形状の部品であり、ベース部3eに設けられた貫通孔に内嵌されている。このガイド部材3fは、吸入プランジャ3gが径方向に移動可能に挿入される貫通孔を有する内周壁3f1と、内周壁3f1の外周面から突出して設けられると共にベース部3eに固定されるガイドフランジ3f2とを有している。
【0025】
吸入プランジャ3gは、軸部3g1と、プランジャフランジ3g2とを有する。軸部3g1は、ガイド部材3fの内周壁3f1の貫通孔に移動可能に挿入され、ガイド部材3fよりも径方向に長い棒状の部位である。この軸部3g1は、径方向内側の端部がガイド部材3fよりもさらに径方向内側に、径方向外側の端部がガイド部材3fよりもさらに径方向外側に位置されている。プランジャフランジ3g2は、軸部3g1の外周面から突出して設けられる板状の部位であり、ガイド部材3fよりも径方向内側の位置に配置されている。このような吸入プランジャ3gは、ガイド部材3fの径方向内側の端面と、バルブシート3aの径方向外側の端面との間で、径方向に移動可能とされている。また、吸入プランジャ3gは、プランジャフランジ3g2がフランジストッパ3pに径方向外側から当接した場合に径方向内側への移動が規制され、プランジャフランジ3g2がガイド部材3fに径方向内側から当接した場合に径方向外側への移動が規制される。また、吸入プランジャ3gは、プランジャフランジ3g2がフランジストッパ3pに当接する場合には、軸部3g1の径方向内側の端面が、吸入弁体3bと当接可能とされている。
【0026】
吸入スプリング3hは、ガイド部材3fの内周壁3f1に外嵌された圧縮コイルバネであり、径方向内側の端面がガイド部材3fのガイドフランジ3f2に当接され、径方向外側の端面が吸入プランジャ3gのプランジャフランジ3g2に当接されている。このような吸入スプリング3hは、吸入プランジャ3gを径方向内側に付勢している。このような吸入スプリング3hは、コイル3jに通電されていない場合には、吸入弁体3bが開姿勢となるように、吸入プランジャ3gを径方向内側に付勢する。
【0027】
可動コア3iは、吸入プランジャ3gの軸部3g1の径方向外側の端部に固定されている。この可動コア3iは、ベース部3eの貫通孔の内部に収容されており、径方向に移動可能とされている。この可動コア3iは、コイル3jに通電されることで生じる磁界により径方向外側に移動され、コイル3jへの通電が停止されると吸入スプリング3hの復元力により径方向内側に移動される。コイル3jは、ベース部3eと略同一の径で巻線が巻回されて略円筒形状とされており、ベース部3eの径方向外側の端部と接続されている。このコイル3jは、コネクタ3mを介して外部より通電されることにより、磁界を発生する。固定コア3kは、コイル3jの中央に設けられた開口を径方向外側から閉塞するようにコイル3jの内部に配設されている。コネクタ3mは、固定コア3kに支持されており、コイル3jと電気的に接続されている。このコネクタ3mは、本実施形態のプランジャポンプ1の外部に設置された電源装置(例えば車載用バッテリ)と接続されている。
【0028】
図1に戻り、昇圧機構4は、バレル4aと、昇圧プランジャ4bと、下部フランジ4cと、昇圧スプリング4dとを備えている。バレル4aは、ボディ2の貫通空間R5に内嵌されており、昇圧プランジャ4bを昇降可能に支持する筒状の部品である。昇圧プランジャ4bは、上端面がボディ2の加圧室R3に臨むように昇降可能に保持されている。この昇圧プランジャ4bは、下端面が不図示のカムと当接しており、車両に搭載されるエンジンの駆動によりカムが回転されると、カムの回転に応じて昇降される。下部フランジ4cは、昇圧プランジャ4bの下端部に接続されており、昇圧プランジャ4bの周面から径方向外側に突出されている。昇圧スプリング4dは、ボディ2と下部フランジ4cとの間に介挿された圧縮コイルバネであり、下部フランジ4cを介して、下方に向けて昇圧プランジャ4bを付勢している。このような昇圧機構4は、昇圧プランジャ4bが上昇して加圧室R3を減容することにより、加圧室R3内の燃料を昇圧する。
【0029】
吐出機構5は、吸入機構3に対して昇圧プランジャ4bを挟んで対向する位置に配置されている。このような吐出機構5は、吐出ノズル5aと、吐出バルブシート5bと、吐出弁体5cと、スプリング保持部5dと、吐出スプリング5eとを備えている。吐出ノズル5aは、吐出流路R2に接続されるようにボディ2に固定された略円筒状の部品であり、本実施形態のプランジャポンプ1によって昇圧された燃料を外部に吐出する。
【0030】
吐出バルブシート5bは、吐出流路R2の内部であって、吐出機構5の構成部品のうち最も加圧室R3寄り(径方向内側寄り)に配置されている。この吐出バルブシート5bは、吐出弁体5cにより開閉される開口を有している。吐出弁体5cは、吐出バルブシート5bの径方向外側に配置されており、吐出スプリング5eにより径方向に移動可能に保持されている。スプリング保持部5dは、吐出弁体5cを囲うように吐出バルブシート5bに外嵌されており、内部に吐出弁体5c及び吐出スプリング5eを収容している。このスプリング保持部5dは、周面や底面等に貫通孔が設けられた略円筒形状とされており、内部から外部に燃料が通過可能とされている。吐出スプリング5eは、スプリング保持部5dの内周面と吐出弁体5cとの間に介挿された圧縮コイルバネであり、吐出弁体5cを径方向内側(吐出バルブシート5b側)に向けて付勢している。
【0031】
ダンパ機構6は、カバー6aと、座バネ6bと、リテーナ6cと、パルセーションダンパ6dとを備えている。カバー6aは、ドーム形に形状設定されており、ボディ2との間にダンパ室Rdを形成するように、ボディ2の囲壁部2aに固定されている。座バネ6bは、ダンパ室Rdの底部(すなわちボディ2の天面)に載置されている。この座バネ6bは、リテーナ6cの下方に配置されており、リテーナ6cをカバー6aの内周面に向けて付勢している。リテーナ6cは、パルセーションダンパ6dを保持する略リング状の部材であり、周面に対して複数の貫通孔が形成されている。パルセーションダンパ6dは、2枚のダイアフラムを内部空間が形成されるように上下方向に貼り合せた部材であり、リテーナ6cに囲まれた領域に収容されている。このパルセーションダンパ6dは、ダンパ室Rdの圧力に応じて、圧縮あるいは膨張し、ダンパ室Rdの圧力変動を吸収する。
【0032】
このような構成を有する本実施形態のプランジャポンプ1では、昇圧プランジャ4bが下降され、加圧室R3の圧力が低下するタイミングに合わせて、吸入機構3のコイル3jへの通電を停止(あるいは通電される電流量を低減)する。これによって、吸入スプリング3hの復元力によって吸入プランジャ3gが径方向内側に移動され、バルブシート3aと吸入弁体3bとの間に隙間が形成される。バルブシート3aと吸入弁体3bとの間に隙間が形成されると、ダンパ室Rdに貯留されていた燃料が供給流路R4及び吸入流路R1を通じて加圧室R3に供給される。なお、コイル3jへの通電によって吸入プランジャ3gは極短時間で径方向外側に引き戻されるが、加圧室R3が燃料で満たされて燃料の昇圧が開始されるまでの間は、バルブシート3aと吸入弁体3bとの間に隙間を流れる燃料の圧力によって吸入弁体3bが開いた状態が維持される。
【0033】
吸入行程初期において、昇圧プランジャ4bが下降されることにより、加圧室R3の圧力が低下し、加圧室R3に流入した燃料が減圧される。そして、昇圧行程において昇圧された燃料の一部は、凹部2cに残留する。
【0034】
なお、吸入行程において、吸入流路R1及び吐出流路R2の近傍にでは、昇圧プランジャ4bの周囲には燃料が存在する空間が広がっているため急激な減圧は発生しにくい。さらに吸入流路R1の近傍には、吸入流路R1を通過して加圧室R3に流入する燃料が豊富に流通するため減圧が起きたとしても減圧箇所へ燃料が供給されやすく、吐出流路R2の近傍と比較してより急激な減圧が発生しにくい。これに対して、吸入機構3及び吐出機構5から周方向において離れた位置においては、貫通空間R5の内周面と昇圧プランジャ4bとの間の間隙が小さく、燃料の急激な減圧によるキャビテーションが発生しやすい。本実施形態においては、凹部2cには燃料が存在しているため、凹部2cの径方向外側の面と昇圧プランジャ4bとの間の間隙に存在する燃料内の速度変化は小さく抑えられ、燃料の飽和蒸気圧以下となることを抑制することができる。また、凹部2cは前述のとおり、昇圧プランジャ4bの加圧室R3側端部の上死点から下死点までの間の少なくとも一部に連なって加圧室R3に露出するように形成されているため、昇圧プランジャ4bが下降するにしたがって加圧室R3に凹部2cが露出していき、加圧室R3に流れ込んだ燃料は凹部2cの径方向外側の面と昇圧プランジャ4bとの間の間隙の内部を通過して昇圧プランジャ4bと内周面との間の圧力が低下しやすい隙間に周方向に流れ込見やすくなる。したがって、プランジャポンプにおいて、昇圧プランジャ4bの周面におけるキャビテーションを抑制することが可能である。
【0035】
昇圧プランジャ4bが上昇して加圧室R3が減容され、加圧室R3内の燃料が昇圧される。燃料が昇圧されると、吸入弁体3bが径方向外側に押し戻され、吸入弁体3bが閉じた状態となる。なお、吸入弁体3bが完全に閉じた状態となるまでの間、昇圧された燃料の一部は吸入流路R1及び供給流路R4を通じてダンパ室Rdに逆流する。このとき、パルセーションダンパ6dが圧縮され、これによってダンパ室Rdの圧力変動が吸収される。
【0036】
加圧室R3において燃料が昇圧されると、吐出機構5の吐出弁体5cが径方向外側に押圧されて、吐出弁体5cと吐出バルブシート5bとの間に隙間が形成される。この結果、加圧室R3にて昇圧された燃料は、吐出流路R2及び吐出ノズル5aを通じて、本実施形態のプランジャポンプ1の外部に吐出される。
【0037】
このような本実施形態に係るプランジャポンプ1によれば、貫通空間R5の内周面に形成された凹部2cに残留する燃料は、凹部2cの径方向外側の面と昇圧プランジャ4bとの間の間隙に存在する燃料内の速度変化は小さく抑えられる。これにより燃料が、飽和蒸気圧以下まで減圧されることを防止し、燃料のキャビテーションを抑制することができる。
さらに、凹部2cは、局所的な窪みであるため、デッドボリュームの増大を最小限に抑制することができる。
【0038】
また、凹部2cは、キャビテーションが発生しやすい周方向における吸入機構3と吐出機構5から離れた最もキャビテーションの発生しやすい位置に形成されていることにより、より効果的に燃料のキャビテーションを抑制することができる。
【0039】
また、凹部2cの底面形状は、昇圧プランジャ4bの中心軸L方向に対して垂直な断面において、底部形状が円弧状とされている。これにより、凹部2cの内部に燃料が流入した際に、凹部2cの内部から周方向に向けて燃料が流れ出しやすい。したがって、貫通空間R5の内周面における燃料のキャビテーションを効果的に抑制することができる。
【0040】
[第2実施形態]
上記第1実施形態に係るプランジャポンプ1の変形例を第2実施形態として説明する。なお、同一の機構については符号を同一とし、説明を省略する。
【0041】
図3(b)に示すように、本実施形態に係るプランジャポンプ1において、吸入流路R1と吐出流路R2とが、昇圧プランジャ4bを挟んで角度を形成するように設けられている。すなわち、吸入流路R1は、昇圧プランジャ4bの周方向において、昇圧プランジャ4bを挟んで吐出流路R2と対向しておらず、昇圧プランジャ4bを挟んで凹部2cと対向している。なお、凹部2cは、略三角錐形状であり、底部がすり鉢状とされている。
【0042】
このような本実施形態に係るプランジャポンプ1によれば、吸入機構3と対向する貫通空間R5の内周面に凹部2cが形成されている。これにより、吸入機構3を取り付けるためにボディ2に形成された開口から、凹部2cを形成する加工を行うことが可能であり、凹部2cの形成が容易である。
【0043】
[第3実施形態]
上記第1実施形態に係るプランジャポンプ1の変形例を第3実施形態として説明する。なお、同一の機構については符号を同一とし、説明を省略する。
【0044】
図3(c)に示すように、本実施形態に係るプランジャポンプ1は、加圧室R3が、昇圧プランジャ4bの中心軸Lに直交する断面において楕円形状とされている。また、吸入流路R1及び吐出流路R2は、中心軸Lを挟んで楕円形状の短軸側において対向して設けられている。さらに、貫通空間R5に挿入される昇圧プランジャ4bは、中心軸Lが加圧室R3の中心を基準として、吸入流路R1側に偏心した位置に設けられている。これにより、内周壁の吸入流路R1と吐出流路R2との間の領域(楕円形状の長軸側の内周壁)において、加圧室R3の内周面と昇圧プランジャ4bとの間に他の間隙より広い間隙(拡大間隙部)が形成される。
【0045】
このような本実施形態に係るプランジャポンプ1によれば、吸入流路R1の開口端(吸入開口)から離れるにつれて間隙が広くなるように設定されている。これにより、プランジャ周方向において、最も燃料の急減圧が発生しやすい吸入開口から離れた領域における燃料の急減圧を抑制し、キャビテーションの発生を効果的に抑制することができる。さらに、吸入開口側よりもキャビテーションが発生しやすい吐出開口側の間隙が広く設定されることにより、より効果的にキャビテーションを抑制することができる。
【0046】
また、凹部2cを設けることなく、加圧室R3と昇圧プランジャ4bとの間に広い間隙(拡大間隙部)を形成でき、加圧室R3の内周面に凹部2cを形成する場合と比較して、加工が容易である。
【0047】
[第4実施形態]
上記第1実施形態に係るプランジャポンプ1の変形例を第4実施形態として説明する。なお、同一の機構については符号を同一とし、説明を省略する。
【0048】
図3(d)に示すように、本実施形態に係るプランジャポンプ1は、吸入流路R1と吐出流路R2とが、昇圧プランジャ4bを挟んで直角を形成するように形成されている。加圧室R3及び昇圧プランジャ4bの断面形状は、それぞれ円形とされており、さらに、加圧室R3の中心に対して、昇圧プランジャ4bの中心が吸入流路R1側に偏心幅S1の距離だけ偏心し、吐出流路R2側へ偏心幅S2の距離だけ偏心した状態で配置されている。さらに、偏心幅S2は偏心幅S1よりも小さく設定されている。これにより、拡大間隙部は、吸入流路R1の加圧室R3における開口端(吸入開口)と昇圧プランジャ4bとの間隙が小さく、吐出流路R2の加圧室R3における開口端(吐出開口)と昇圧プランジャ4bとの間隙が吸入開口と昇圧プランジャ4bとの間隙よりも広く設定される。さらに、拡大間隙部は、昇圧プランジャ周方向において吸入流路R1と吐出流路R2との間であって吸入流路R1と吐出流路R2との距離が大きい側の領域が、昇圧プランジャ4bと加圧室R3の内壁との間隙が最も広い領域とされている。
【0049】
このような本実施形態のプランジャポンプ1は、プランジャ周方向において、吸入開口及び吐出開口から離れた最もキャビテーションの発生しやすい領域において、昇圧プランジャ4bと加圧室R3の内周面との間の間隙が広くなるように設定されている。このため、プランジャ周方向において、最も燃料の急減圧が発生しやすい吸入開口及び吐出開口から離れた領域における燃料の急減圧を抑制し、キャビテーションの発生を効果的に抑制することができる。さらに、吸入開口側よりもキャビテーションが発生しやすい吐出開口側の間隙が広く設定されることにより、より効果的にキャビテーションを抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態は、凹部2cを設けることなく、加圧室R3と昇圧プランジャ4bとの間に広い間隙(拡大間隙部)を形成でき、加圧室R3の内周面に凹部2cを形成する場合と比較して、形成が容易である。
【0051】
[第5実施形態]
上記第1実施形態に係るプランジャポンプ1の変形例を第5実施形態として説明する。なお、同一の機構については符号を同一とし、説明を省略する。
【0052】
図3(e)に示すように、本実施形態に係るプランジャポンプ1は、吸入流路R1と吐出流路R2とが120度を形成するように設けられている。そして、加圧室R3の内周面には、周方向において吸入流路R1と吐出流路R2との間の領域に2つの凹部2cが形成されている。一方の凹部2cは、周方向において吸入流路R1と吐出流路R2との距離が短い領域に設けられている。また、他方の凹部2cは、周方向において吸入流路R1と吐出流路R2との距離が長い領域に設けられている。そして、周方向において吸入流路R1と吐出流路R2との距離が長い領域に形成された凹部2cは、周方向において吸入流路R1と吐出流路R2との距離が短い領域に形成された凹部2cよりも体積が大きく設定されている。
【0053】
これにより、加圧室R3における燃料が流入しにくい領域である周方向において吸入流路R1と吐出流路R2との間の領域において、吸入行程時に燃料を残存させ、キャビテーションを防止することが可能となる。
【0054】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0055】
上記第1実施形態においては、凹部2cは、昇圧プランジャ4bを挟んで対向する2か所に形成される構成としたが、本発明はこれに限定されない。凹部2cは、周方向において吸入機構3と吐出機構5との間の位置であれば、形成される位置が限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
1……プランジャポンプ
2……ボディ
2a……囲壁部
4……昇圧機構
4a……バレル
4b……昇圧プランジャ
R3……加圧室
R5……貫通空間
図1
図2
図3