(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(c)において、前記改変が、前記マッチング残基の少なくとも1個をそれぞれ、前記マッチング残基とマッチングする前記ホットスポット残基と同じアミノ酸の残基と置き換えることを含む、請求項1または2に記載の方法。
前記対応する少なくとも3個のホットスポットサブ構造に特徴的な原子に重ね合わせることができる、前記マッチング残基サブ構造に特徴的な少なくとも3個の原子は、前記マッチング残基のα原子と、前記マッチング残基のカルボキシル基に由来する骨格炭素、前記マッチング残基の骨格窒素、前記マッチング残基の骨格酸素および前記マッチング残基の側鎖のβ炭素の少なくとも2つとを含む、請求項4に記載の方法。
前記第1のマッチング残基が、前記対応するホットスポットサブ構造に特徴的な原子に重ね合わせることができる前記マッチング残基サブ構造に特徴的な少なくとも2個の原子を含み、前記第2のマッチング残基が、前記対応するホットスポットサブ構造の原子に重ね合わせることができる少なくとも前記マッチング残基サブ構造に特徴的な1個の原子を含む、請求項6に記載の方法。
前記第1のマッチング残基、前記第2のマッチング残基、および前記第3のマッチング残基のそれぞれが、前記対応するホットスポットサブ構造に特徴的な原子に重ね合わせることができる前記マッチング残基サブ構造に特徴的な3個の原子を含む、請求項8に記載の方法。
請求項1の工程(b)の選択が、マッチングが得られるまで、前記第1の距離のセットと前記第2の距離のセットを比較することによって、前記データベース中の抗体構造のサブセットを予備選択し、その後に、前記マッチング残基サブ構造に特徴的な原子の少なくとも3個を、前記対応する少なくとも3個のホットスポットサブ構造に特徴的な原子に重ね合わせることができるかどうかを、前記重ね合わされた特徴的な原子のそれぞれの対の間の空間偏差を、全ての対に対して平均化し、これが所定の閾値未満であるかで判定することによって、候補抗体構造を得るためのさらなる選択を行うことにより行われる、請求項11または12に記載の方法。
前記設計された抗体を作成することが、前記標的エピトープに結合するときに、前記候補抗体構造の中の1個以上の原子と前記標的エピトープ中の1個以上の原子との間で、1個以上の原子が、物理的に可能な状態よりもお互いに近い位置を占めると予想される場合に、幾何学的な衝突を検出することを含む、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
前記検出された幾何学的な衝突が、任意の候補抗体残基の骨格またはβ炭素原子によるかどうかを判定し、それによる場合には、選択された候補抗体構造を破棄し、前記データベースから選択される異なる候補抗体構造を用い、この決定を繰り返すことをさらに含む、請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
前記設計された抗体を作成することが、さらに、前記候補抗体構造の残基のアミノ酸タイプを繰り返し変異させ、前記設計された抗体と前記標的エピトープとの推定アフィニティを高めることを含む、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
前記設計された抗体を作成することが、さらに、前記候補抗体構造の1つ以上のCDRループのそれぞれと、CDRループデータベースからのCDRループとを繰り返しスワッピングし、前記候補抗体構造と前記標的エピトープとの推定アフィニティを高めることを含む、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
前記CDRループをスワッピングすることが、さらに、スワッピングするCDRループの中の残基のアミノ酸タイプを繰り返し変異させ、前記候補抗体構造と前記標的エピトープとの推定アフィニティを高めることを含む、請求項21から25のいずれかに記載の方法。
前記ホットスポット残基の特定が、前記残基を含む抗体と前記標的エピトープとの間で不釣合いな量の結合エネルギーが与えられることと一致させて、前記標的エピトープとの相互作用を与えることが予想される残基を繰り返し発見するための数値的な方法を使用することによって得られる、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
前記ホットスポット残基と、前記標的エピトープ上の前記対応するホットスポット部位とのそれぞれの対が、前記残基を含む抗体と前記標的エピトープとの間で不釣合いな量の結合エネルギーが与えられることと一致させて、前記ホットスポット残基と前記標的エピトープとの相互作用を規定する、請求項1から28のいずれかに記載の方法。
工程(b)の選択が、前記抗体構造の上の相互作用部位内のマッチング残基をもっぱら探すことによって行われ、前記相互作用部位は、抗体Fvドメインの表面にあるCDRループまたはCDRループと任意の領域からなる、請求項1〜29のいずれかに記載の方法。
前記抗体を製造する工程が、宿主細胞において抗体のポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを発現し、前記抗体を精製し、場合により、前記抗体をさらなる分子に接合させることを含む、請求項36に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施形態によれば、標的エピトープに結合し得る抗体を設計する、コンピュータにより実施される方法が提供される。
図1〜
図9は、フローチャート形式での方法の例示的な態様を概略的に示す。
【0015】
本方法は、a)標的エピトープの上の1個以上のホットスポット部位のうち対応する1つにそれぞれ結合し得る1個以上のホットスポット残基を特定すること(
図1の工程100)を含む。各ホットスポット残基は、ホットスポットサブ構造を含む。ホットスポットサブ構造は、1個以上のホットスポットサブ構造に特徴的な原子を含む。ホットスポットサブ構造に特徴的な原子は、ホットスポット残基とは潜在的に異なる(すなわち、異なるアミノ酸に由来する)残基のマッチングのために使用される原子である。したがって、特徴的な原子は、異なる種類のアミノ酸の残基に共通する原子である。
【0016】
本方法は、さらに、b)抗体構造のデータベースから1個以上の候補抗体構造を選択すること(
図1の工程200)を含む。抗体構造、または抗体構造の関連部分は、抗体足場と呼ばれる場合がある。この選択は、ホットスポット残基(以下に記載する)とマッチングする残基を有するように改変することができる抗体構造または足場を見つけるために行われる。データベースの性質または由来は、特に限定されない。データベースのエントリーは、必要に応じてフィルタリングされてもよく、または再フォーマットされてもよい。例えば、一実施形態では、X線結晶学によって解明された構造を表すデータベースエントリーのみが使用される。一実施形態では、複数の結晶のコピーが、異なる鎖識別子を有する同じ抗体構造のために利用可能である場合、PDBファイルに現れる最初のコピーのみを使用のために保持してもよい。一実施形態では、Fv領域のみがFab構造から保たれる。一実施形態では、Abnum手順(Abhinandan,K.R.&Martin,A.C.R.Analysis and improvements to Kabat and structurally correct numbering of antibody variable domains.Mol.Immunol.45,3832−3839(2008))を使用し、Chothia番号付けスキーム(Al−Lazikani,B.,Lesk,A.M.&Chothia,C.Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins.J.Mol.Bio.273,927−948(1997))に従ってFv構造中の残基の番号を付け直す。一実施形態では、ポリペプチドCDRループが破壊された構造は廃棄される。
【0017】
それぞれの候補抗体構造は、1個以上のマッチング残基を有する。それぞれのマッチング残基は、ホットスポット残基の対応する1つとマッチングする(以下に説明される意味で)。それぞれのマッチング残基は、マッチング残基サブ構造を含む。それぞれのマッチング残基サブ構造は、1個以上のマッチング残基サブ構造に特徴的な原子を含む。この選択は、抗体構造内のマッチング残基サブ構造に特徴的な原子の相対的な位置と、ホットスポットサブ構造に特徴的な原子の相対的な位置が、標的エピトープに結合したときに、マッチング残基サブ構造に特徴的な原子のうち少なくとも3個を、対応する少なくとも3個のホットスポットサブ構造に特徴的な原子の上に計算的に重ね合わせることができ、重ね合わされた特徴的な原子のそれぞれの対の間の空間偏差が、全ての対に対して平均化され、これが所定の閾値未満であるように行われる。平均化は、例えば、重ね合わされた特徴的な原子のそれぞれの対の間の空間的な分離を計算し、空間的な分離の平均値による平均または二乗平均平方根による平均を計算することによって達成することができる。対応するマッチング残基サブ構造に特徴的な原子およびホットスポットサブ構造に特徴的な原子のそれぞれは、一般的に、同じ種類の特徴的な原子を含む(例えば、α炭素、カルボキシル基に由来する骨格炭素、骨格窒素、骨格酸素、側鎖のβ炭素など)。したがって、2つの残基それぞれからの対応する特徴的な原子が、比較的高精度で互いに重なり合うことができるとき、マッチング残基を、ホットスポット残基とマッチングさせる(その結果、全体的に、平均偏差は、上述の所定の閾値を満足する)。マッチング残基は、ホットスポット残基と同じ種類の(すなわち、同じ側鎖を有する)アミノ酸である必要はない。マッチングは、2つの残基が、比較的高い精度で重ね合わせることができるサブ構造内の特徴的な原子を有するかどうかにのみ依存する。所与の抗体構造について、この要求を満たしたかどうかを判定するための手法の一例を、
図8を参照しつつ以下に記載する。
【0018】
少なくとも3個のマッチング残基サブ構造に特徴的な原子と、対応する少なくとも3個のホットスポットサブ構造に特徴的な原子とを用いたマッチングは、1つ以上の特定されたホットスポット残基および標的エピトープのパラトープ/エピトープ相互作用の幾何形状の機能的に関連する態様を少なくとも部分的に保持するために、標的エピトープに対する候補抗体構造の位置および向きを制約する。3個より多い特徴的な原子のマッチングおよび/または1個より多いマッチング残基を用いたマッチングは、幾何形状の制約を増やし、パラトープ/エピトープ相互作用の幾何形状をもっと密に保持する傾向がある(以下の実施例を参照)。
【0019】
一実施形態では、工程(b)の選択は、抗体構造の上の相互作用部位内のマッチング残基を排他的に探すことによって行われ、この相互作用部位は、抗体Fvドメインの表面にあるCDRループまたはCDRループと任意の領域からなる。
【0020】
本方法は、さらに、c)工程b)で選択される候補抗体構造の1つを使用し、設計された抗体を作成すること(
図1の工程300)を含む。一実施形態では、候補抗体構造は、設計された抗体と標的エピトープとの間の推定アフィニティが、候補抗体構造と標的エピトープとの間の推定アフィニティよりも大きくなるように、マッチング残基の少なくとも1個を異なる残基と置き換えることによって改変される。異なる残基は、例えば、対応するホットスポット残基と同じ種類のアミノ酸の残基であってもよい。マッチング残基を異なる残基と置き換えることは、異なる残基の接合と呼ばれることがある。別の実施形態では、候補抗体構造は、それぞれのマッチング残基が、既に、マッチング残基とマッチングするホットスポット残基と同じアミノ酸の残基である場合には、この段階で改変することなく、設計された抗体構造として出力される。上述のいずれかの手順に従って製造された、設計された抗体構造は、設計された抗体と標的エピトープとのアフィニティをさらに高めるために、後の工程で改変されてもよい。
【0021】
一実施形態では、工程(b)で使用される所定の閾値は、2.0オングストロームであり、場合により1.75オングストロームであり、場合により1.5オングストロームであり、場合により1.25オングストロームであり、場合により1.0オングストロームである。所定の閾値を選択するために、ある程度の自由度がある。比較的高い閾値を選択することにより、データベースからより多くの候補抗体構造が選択されるだろう。このことは、高いアフィニティで設計された抗体構造を見つける機会が増える可能性がるが、例えば、選択された候補抗体構造の可能性を評価するために使用されるさらなる処理工程に対する要求も増える傾向がある(例えば、実際のアフィニティまたは推定アフィニティと、さらなる改変がどの程度までアフィニティを向上させ得るかを評価することによって)。比較的小さな閾値を選択することにより、データベースから選択される候補抗体構造が少なくなる可能性があるが、これらの選択された構造は平均して、より大きな可能性があるだろう。これにより、さらなる処理工程を、より集約させることが可能となり、それにより、高アフィニティの新規抗体構造をより迅速に発見する可能性がある。
【0022】
一実施形態では、工程(c)において、改変することが、マッチング残基の少なくとも1個をそれぞれ、マッチング残基とマッチングするホットスポット残基と同じアミノ酸の残基と置き換えることを含む。多くの場合、これにより、側鎖という観点でホットスポット残基と同じ少なくとも1つの残基を提示することによって、比較的高いアフィニティを達成し、ホットスポット残基が標的エピトープに結合している場合には(定義によれば、これは高アフィニティで起こる)、ホットスポット残基と非常によく似た様式で配置され、向けられている、設計された抗体構造が得られるだろう。しかし、全てのマッチング残基が、対応するホットスポットと同じ種類のアミノ酸残基と置き換わっていることは必須ではない。いくつかの場合には、マッチング残基の少なくともサブセットについて、マッチング残基を置き換えないことによって、またはマッチング残基と、対応するホットスポット残基と同じではない種類のアミノ酸残基とを置き換えることによって、さらに高いアフィニティが得られる場合がある。
【0023】
特徴的な原子(ホットスポット残基サブ構造またはマッチング残基サブ構造のいずれか)は、α炭素、カルボキシル基に由来する骨格炭素原子、骨格窒素、骨格酸素、側鎖のβ炭素のうち1つ以上を含んでいてもよい。
【0024】
一実施形態では、マッチング残基の少なくとも1個のα炭素原子は、重ね合わされた特徴的な原子の対の1つの中にある。
【0025】
一実施形態では、重ね合わされた特徴的な原子の対は、α炭素と、カルボキシル基に由来する骨格炭素原子、骨格窒素、骨格酸素、および少なくとも1個のマッチング残基のそれぞれの側鎖のβ炭素のうちの少なくとも1つとを含む。したがって、この実施形態では、マッチング残基の少なくとも1つは、重ね合わせプロセスに関与する2個の特徴的な原子を含む。これにより、選択プロセスを過度に制約することなく、位置および向きに関し、比較的良好なマッチングを与える。
【0026】
一実施形態では、重ね合わされた特徴的な原子の対は、α炭素と、カルボキシル基に由来する骨格炭素原子、骨格窒素、骨格酸素、および少なくとも1個のマッチング残基のそれぞれの側鎖のβ炭素のうちの少なくとも2つとを含む。したがって、この実施形態では、マッチング残基の少なくとも1つは、重ね合わせプロセスに関与する3個の特徴的な原子を含む。これは、残基の位置および向きの比較的高いマッチング度を与える。
【0027】
一実施形態では、1個以上のマッチング残基は、1個のマッチング残基のみからなる。そのような実施形態では、重ね合わされた特徴的な原子の対のそれぞれは、単一のマッチング残基からの異なる特徴的な原子を含む。この種の実施形態例では、対応する少なくとも3個のホットスポットサブ構造に特徴的な原子に重ね合わせることができる、少なくとも3個のマッチング残基サブ構造に特徴的な原子は、場合により、マッチング残基のα原子と、マッチング残基のカルボキシル基に由来する骨格炭素、マッチング残基の骨格窒素、マッチング残基の骨格酸素、およびマッチング残基の側鎖のβ炭素のうちの少なくとも2つとを含む。
【0028】
一実施形態では、1個以上のマッチング残基は、第1のマッチング残基と、第2のマッチング残基とからなる(場合により、第1のマッチング残基と第2のマッチングのみ)。この種の一実施形態の例では、第1のマッチング残基は、対応するホットスポットサブ構造に特徴的な原子に重ね合わせることができる少なくとも2個のマッチング残基サブ構造に特徴的な原子を含み、第2のマッチング残基は、対応するホットスポットサブ構造の原子に重ね合わせることができる少なくとも1個のマッチング残基サブ構造に特徴的な原子を含む。
【0029】
一実施形態では、1個以上のマッチング残基は、第1のマッチング残基と、第2のマッチング残基と、第3のマッチング残基とからなる(場合により、第1のマッチング残基、第2のマッチングおよび第3のマッチング残基のみ)。この種の一実施形態の例では、第1のマッチング残基、第2のマッチング残基、第3のマッチング残基のそれぞれが、対応するホットスポットサブ構造に特徴的な原子に重ね合わせることができる3個のマッチング残基サブ構造に特徴的な原子を含む。この手法は、3個のマッチング残基の相対的な位置および向きに比較的高い制約を課し、それによって、アフィニティをさらに高めるためのさらなる改変を行うことなく、(候補抗体構造の制限がより少ない選択と比較して)比較的高い平均アフィニティを有する候補抗体構造に比較的集中した選択を与える。この実施形態の特定の例では、重ね合わせに関与する3個のマッチング残基それぞれにおける3個のマッチング残基サブ構造に特徴的な原子は、α炭素原子、骨格炭素原子、骨格窒素原子を含む。本願発明者らは、以下に記載する詳細なKeap1の例に示されるように、この組み合わせが特に有効であることを見出した。
【0030】
図2に示されるように、一実施形態では、1個以上の候補抗体構造の選択(
図1の工程200)は、抗体構造のサブセットの予備選択(
図2の工程210)、その後、さらなる選択(
図2の工程220)を含む。
【0031】
一実施形態では、予備選択(工程210)は、
図3に示され、
図4に示される概略的な幾何形状の例を参照しつつ以下に説明される工程を含む。予備選択は、ホットスポット残基の異なるサブ構造中の同じ特徴的な原子間の全ての可能な対の間の分離を表す第1の距離のセットを決定すること(工程211A)を含む。これは、
図4に概略的に示されており、二次元図で簡略化されている。
図4は、3個の異なるホットスポット残基について、ホットスポット残基サブ構造に特徴的な原子を示す。円A1〜A3は、第1のホットスポット残基の特徴的な原子を表し、円B1〜B3は、第2のホットスポット残基の特徴的な原子を表し、円C1〜C3は、第3のホットスポット残基の特徴的な原子を表す。破線は、同じ種類の特徴的な原子(例えば、α炭素、カルボキシル基に由来する骨格炭素、骨格窒素、骨格酸素、側鎖のβ炭素など)の特徴的な原子の全ての可能な対を一緒に接続している。全ての破線の長さは、第1の距離のセット{s11、s12、s13、s21、s22、s23、s31、s32、s33}を表す。
【0032】
予備選択は、さらに、マッチング残基の異なるサブ構造中の同じ特徴的な原子間の全ての可能な対の間の分離を表す第2の距離のセットを決定すること(工程212A)を含む。このプロセスは、ホットスポット残基の代わりにマッチング残基の特徴的な原子を使用する点を除き、工程211Aのプロセスと同じである。第2の距離のセットは、第1の距離のセット(例えば、9個の数字を含むセット)と同じ形態をとるだろう。一実施形態では、数値は、所定の精度レベル(例えば、最も近いオングストロームに丸められる)で表される。一実施形態では、第1の距離のセットおよび第2の距離のセットは、異なる抗体構造から得られた配列間の比較を容易にするために、正規化された形態の一連の数字として表される。一連の数字は、抗体構造のデータベースを検索するための指数として使用されてもよい(以下のKeap1の例を参照)。
【0033】
予備選択は、さらに、第1の距離のセットと第2の距離のセットを比較し、所定の分離閾値内でマッチングが得られたかどうかを判定すること(工程213A)を含む。例えば、所定の精度レベル(所定の分離閾値を効果的に規定する。これより低い精度レベルは、もっと大きな所定の分離閾値に対応し、その逆も成り立つ)で表されている第1のセットを表す一連の数字を、同じ所定の精度レベルで表されている第2のセットを表す一連の数字と比較する。「はい」の場合、このプロセスは工程215Aに進み、さらなる処理のために、抗体構造が出力される。「いいえ」の場合、このプロセスは、工程214A、212Aおよび213Aを通ってループし、第2の距離のセットの決定と、第1の距離のセットとの比較を、マッチングが得られるまで反復して繰り返す。このプロセスは、さらなる処理のために複数の抗体構造を選択するために、出力工程215Aの後に工程214A、212Aおよび213Aを通ってループしてもよい。
【0034】
一実施形態では、予備選択(工程210)は、
図5に示され、
図6および7に示される概略的な幾何形状の例を参照しつつ以下に説明される工程を含む。この実施形態では、予備選択は、1個のホットスポット残基のサブ構造中の異なる特徴的な原子間の全ての可能な対の間の分離を表す第1の距離のセットを決定すること(工程211B)を含む。これは、
図6および7の異なる例のホットスポットサブ構造について概略的に示されており、二次元図で簡略化されている。
図6は、3個の特徴的な原子A1、A2およびA3が、対応するマッチング残基サブ構造(対応する種類の対応する3個の特徴的な原子を含む)との重ね合わせに関与する、ホットスポットサブ構造の一例を示す。
図7は、4個の特徴的な原子A1、A2、A3およびA4が、対応するマッチング残基サブ構造(対応する種類の対応する4個の特徴的な原子を含む)との重ね合わせに関与する、ホットスポットサブ構造の代替例を示す。
図6および7において、破線は、ホットスポット残基中の特徴的な原子の全ての可能な対を一緒に接続している。定義によれば、それぞれの対は、異なる種類の特徴的な原子間の対を含む。これらが同じ残基内にあるからである。全ての破線の長さは、
図6の{d1、d2、d3}と
図7の{d1、d2、d3、d4、d5、d6}の第1の距離のセットを表す。
【0035】
予備選択は、さらに、マッチング残基のサブ構造中の異なる特徴的な原子間の全ての可能な対の間の分離を表す第2の距離のセットを決定すること(工程212B)を含む。このプロセスは、ホットスポット残基の特徴的な原子の代わりにマッチング残基の特徴的な原子を使用する点を除き、工程S211Bのプロセスと同じである。第2の距離のセットは、第1の距離のセット(例えば、
図6および7に示される特定の幾何形状について、3個または6個の数字を含むセット)と同じ形態をとるだろう。一実施形態では、数値は、所定の精度レベル(例えば、最も近いオングストロームに丸められる)で表される。一実施形態では、第1の距離のセットおよび第2の距離のセットは、異なる抗体構造から得られた配列間の比較を容易にするために、正規化された形態の一連の数字として表される。
【0036】
予備選択は、さらに、第1の距離のセットと第2の距離のセットを比較し、所定の分離閾値内でマッチングが得られたかどうかを判定すること(工程213B)を含む。例えば、所定の精度レベル(所定の分離閾値を効果的に規定する。これより低い精度レベルは、もっと大きな所定の分離閾値に対応し、その逆も成り立つ)で表されている第1のセットを表す一連の数字を、同じ所定の精度レベルで表されている第2のセットを表す一連の数字と比較する。「はい」の場合、このプロセスは工程215Bに進み、さらなる処理のために、抗体構造が出力される。「いいえ」の場合、このプロセスは、工程214B、212Bおよび213Bを通ってループし、第2の距離のセットの決定と、第1の距離のセットとの比較を、マッチングが得られるまで反復して繰り返す。このプロセスは、さらなる処理のために複数の抗体構造を選択するために、出力工程215Bの後に工程214B、212Bおよび213Bを通ってループしてもよい。
【0037】
一実施形態では、
図2のさらなる選択工程220は、重ね合わされた原子のそれぞれの対の間の空間偏差が、全ての対に対して平均化され、これが所定の閾値未満であるように、マッチング残基サブ構造に特徴的な原子のうち少なくとも3個を、対応する少なくとも3個のホットスポットサブ構造に特徴的な原子に重ね合わせることができるかどうかを判定することを含む。
図8は、所与の抗体構造について、いつこの要求を満たしたかを判定するための手法の例を示す。
【0038】
図8の工程221において、マッチング残基サブ構造に特徴的な原子は、ホットスポットサブ構造に特徴的な原子の上に、標的エピトープに結合したときにこれらの原子が占める1つ以上の相対的な位置において、計算的に重ね合わせられる(すなわち、オーバーレイされる)。この最初の重ね合わせが実行される様式は、特に限定されない。工程222では、マッチング残基と、対応するホットスポット残基とのそれぞれの対において、同じ特徴的な原子のそれぞれの対について、空間偏差を計算する。次いで、これらの空間偏差の平均は、例えば、平均値による平均または二乗平均平方根による平均を計算することによって得られる。特徴的な原子が、全て正確に重ね合わされている場合、平均空間偏差はゼロになるだろう。そうなっていない場合、平均空間偏差は、この反復のための抗体構造の特定の相対的な位置および向きについて、特徴的な原子対のセットがどの程度重なり合っているかの指標となるだろう。工程223では、平均空間偏差が所定の閾値より下であるかどうかが判定される。この判定は、このフィッティングが満足のいくものに十分に近いかどうかを試験する。「はい」であれば、その抗体構造が候補抗体構造であると結論付けられ、その結果が、さらなる処理のために出力される(工程227)。「いいえ」であれば、このプロセスは、工程224、225、222および223を通ってループし、抗体構造は、ホットスポット残基に対してシフトされ、平均空間偏差が再び計算され、閾値と比較される。このプロセスは、十分に良好なマッチングが得られるまで(例えば、工程227に達することによって)、または所定の最大反復数が達成されるまで続き、この場合、工程224の「はい」の枝分かれの後、工程226に続き、プロセスは、異なる抗体構造を用い、工程221から再び開始する。
【0039】
一実施形態では、設計された抗体を作成することは、候補抗体構造を改変し、標的エピトープとの推定アフィニティをさらに高めるために(例えば、残基を繰り返し変異させることによって、またはCDRループを繰り返しスワッピングすることによって。以下を参照)、またはうまく機能しない(例えば、衝突に起因して。以下を参照)抗体構造を破棄するために、1つ以上のさらなる処理工程を含む。これらのさらなる処理工程は、設計された抗体が、特定されたホットスポット残基にマッチングすることによって規定される結合位置にありつつ、候補抗体構造を計算によって改変することを含む。したがって、上述の選択工程(b)の重ね合わせに使用されるサブ構造に特徴的な原子に対応する抗体構造のサブ構造の原子は、対応するホットスポットサブ構造に特徴的な原子と同じ位置にある標的エピトープに対して配置される。この様式で、この重ね合わせプロセスは、データベースから最も適した候補抗体構造を選択するのに役立つだけではなく、重要なパラトープ/エピトープ相互作用の幾何形状を保存する様式で抗体構造を固定するための効果的なリファレンスを与えるのにも役立つため、効率的かつ効果的な様式でさらなる処理工程を行うことができる。
【0040】
一実施形態では、設計された抗体を作成することは、幾何学的な衝突を検出することを含む。幾何学的な衝突は、候補抗体構造が標的エピトープに計算によって結合するときに、1個以上の原子が、物理的に可能な状態よりもお互いに近い位置を占めると予想される場合である。幾何学的な衝突に対処するための手順の例を
図9に示す。
【0041】
工程301において、幾何学的な衝突が起こったかどうかが判定され、起こった場合には、どの原子が幾何学的な衝突に関与しているかが判定される。「いいえ」の場合、このプロセスは、工程306に進み、さらなる処理のために、候補抗体構造が出力される。「はい」であれば、このプロセスは、工程302に進む。
【0042】
工程302において、幾何学的な衝突が、任意の候補抗体残基の骨格を含むかどうかが判定される。「はい」の場合、このプロセスは、工程304および301に進み、その候補抗体構造は破棄され、異なる候補抗体構造を用い、このプロセスが繰り返される。「いいえ」であれば、このプロセスは、工程303に進む。
【0043】
工程303において、幾何学的な衝突が、任意の候補抗体残基のβ炭素原子を含むかどうかが判定される。「はい」の場合、このプロセスは、工程304および301に進み、その候補抗体構造は破棄され、異なる候補抗体構造を用い、このプロセスが繰り返される。「いいえ」であれば、このプロセスは、工程305に進む。
【0044】
工程305において、幾何学的な衝突が、候補抗体構造の残基の側鎖を伴うかどうかが判定される。「はい」の場合、このプロセスは、工程307に進み、側鎖が改変される。この改変は、側鎖を異なるアミノ酸の側鎖(例えば、もっと小さなアミノ酸)にスワッピングすることを含んでいてもよい。例えば、側鎖は、アラニン側鎖、グリシン側鎖、バリン側鎖、セリン側鎖、スレオニン側鎖またはホモアラニン側鎖に改変されていてもよい。次に、このプロセスは、工程301に進み、幾何学的な衝突が依然として存在しているかどうかが判定される。工程305で「いいえ」の場合、このプロセスは、工程306に進み、さらなる処理のために、候補抗体構造が出力される。
【0045】
一実施形態では、設計された抗体を作成することは、さらに、候補抗体構造の中の残基のアミノ酸タイプを繰り返し変異させ、設計された抗体と標的エピトープとの推定アフィニティを高めることを含む。このプロセスは、in silico変異誘発と呼ばれることがある。一実施形態では、繰り返し変異される残基の選択は、ホットスポット残基が変異されないように制約される。他の実施形態において、残基の選択は、ホットスポット残基の変異を避けるように制限されない。上述の潜在的な制約に付随して、反復的な突然変異は、標的エピトープ(例えば、界面領域)との相互作用に有意に関与することが期待される候補抗体上の領域中の全ての残基を、例えば全ての他のアミノ酸型(グリシン、プロリン、およびシステインを除く)に単純に突然変異させることを含んでいてもよい。当業者は、タンパク質の標的への結合に関連する自由エネルギーを減少させるために、残基の繰り返し突然変異を含む計算分析を行うための様々なアルゴリズムを知っているだろう。例えば、Rosettaソフトウェア群を使用してもよい(https://www.rosettacommons.org/)。
【0046】
一実施形態では、設計された抗体を作成することは、さらに、候補抗体構造の1つ以上のCDRループのそれぞれと、CDRループデータベースからのCDRループとを繰り返しスワッピングし、候補抗体構造と標的エピトープとの推定アフィニティを高めることを含む。アフィニティは、例えば、Rosettaソフトウェア群などの公的に入手可能なソフトウェアを用いて予測することができる。CDRループのスワッピングにより、設計の自由度が大幅に向上し、元のデータベースで利用可能な抗体構造の数に比べて試験可能な抗体構造の数が効果的に増加する。
【0047】
一実施形態では、CDRループのスワッピングは、ホットスポット残基の全てが保持されるように制約される。本発明者らは、この手法が、コンピューティングリソースに過剰な要求を課すことなく、高アフィニティの設計された残基を得ることを可能にすることを見出した。
【0048】
代替的な実施形態では、CDRループのスワッピングは、ホットスポット残基の少なくとも1つが保持されるように制約される。本発明者らは、この手法が、全てのホットスポット残基が必要とされる実施形態よりも突然変異の自由度が高く、コンピューティングリソースに対する要求が高くなりすぎず、より高いアフィニティを有する抗体が見出される可能性があることを発見した。
【0049】
一実施形態では、CDRループのスワッピングは、CDRH3ループおよびCDRL3ループのうち少なくとも1つをスワッピングすることを含む。これらのループは、最も高い変動性を示す。これらのループをスワッピングすることに焦点を当てることで、アフィニティをさらに効率的に改善することができる。
【0050】
一実施形態では、CDRループのスワッピングは、CDRH3ループを少なくともスワッピングすることを含む。このループは、最も変動性が高い。このループをスワッピングすることに焦点を当てることで、アフィニティをさらに効率的に改善することができる。
【0051】
一実施形態では、CDRループをスワッピングすることは、さらに、スワッピングするCDRループの中の残基のアミノ酸タイプを繰り返し変異させ、候補抗体構造と標的エピトープとの推定アフィニティを高めることを含む。この工程により、アフィニティをさらに増加させることができる。
【0052】
1個以上のホットスポット残基自体が、様々な異なる方法で特定されてもよい(
図1の工程100)。一実施形態では、ホットスポット残基は、標的エピトープに結合することが知られている同族タンパク質のバインダーから特定される。この手法は、高レベルの信頼性および予測可能なアフィニティを有するホットスポット残基を提供する。しかし、この方法で特定することができるホットスポット残基の範囲は限られている。以下に詳述するKeap1の例において、ホットスポット残基は、既知の同族結合相手であるNrf2に基づいて決定された。
【0053】
これに代えて、またはこれに加えて、1個以上のホットスポット残基は、残基を含む抗体と標的エピトープとの間の不釣合いな量の結合エネルギーを与えることと一致する標的エピトープとの相互作用を与えることが予想される残基を繰り返し発見するための数値的な方法を使用して特定されてもよい。
【0054】
タンパク質結合の観点における「ホットスポット(hotspot)」という用語は、当該技術分野において周知である。当業者は、ホットスポット残基と、標的エピトープに対する対応するホットスポット部位とのそれぞれの対が、ホットスポット残基と標的エピトープとの相互作用を規定し、これは、ホットスポット残基を含む抗体と標的エピトープとの間の不釣合いな量の結合エネルギーを与えることと一致していることを理解するだろう。例えば、Fleishman,S.J.ら、Computational design of proteins targeting the conserved stem region of influenza hemagglutinin.Science 332, 816−821(2011);Liu,S.ら、Nonnatural protein−protein interaction−pair design by key residues grafting.Proc.Natl Acad.Sci.USA,104,5330−5335(2007);およびFleishman,S.J.ら、Hotspot−centric de novo design of protein binders.J.Mol.Biol.413,1047−1062(2011)を参照。
【0055】
一実施形態では、複数の設計された抗体が得られ、好ましい設計された抗体は、例えば、表面プラズモン共鳴を用いて決定された標的エピトープに対するその実際のアフィニティに基づいて選択される。
【0056】
本発明の実施形態の工程のいずれかまたは全ては、適切なソフトウェアおよび/またはファームウェアと組み合わせて当業者に知られている計算装置を使用して実行することができる。ソフトウェアは、外部ソースからの信号として提供されてもよいし、メモリまたはコンピュータ可読媒体に記録されていてもよい。
さらなる詳細、具体的な例と結果
Keap1の例
【0057】
特定の例において、本発明の実施形態は、酸化ストレスに応答してNrf2、bZIP転写因子の定常状態でのレベルを制御するBTB−Kelch基質アダプタータンパク質であるKeap1に対して結合する抗体を設計するために適用された。Nrf2は、結合アフィニティがそれぞれ5μMおよび5nMの2つのヘアピンループモチーフを介し、1:2の化学量論比率でKeap1に結合する。高アフィニティNrf2ループ中のホットスポット残基Glu79、Thr80およびGlu82から誘導される3種類の相互作用パターン(補足の表1を参照)を、設計された抗体の結合界面に接合させ、計算された結合エネルギーによってランク付けした(
図10および補足の表2)。5種類の設計を選択し、in silico突然変異誘発を行い、Keap1に対する結合エネルギーが改善したCDRループにおける余分な潜在的な界面点突然変異を特定し、元々の設計の変異体を作成した。in silico突然変異誘発の前後で10種類の設計された抗体は、Fab形態で発現し、その結合アフィニティは、プラズモン共鳴(SPR)によって測定された。10種類の選択された抗体のFab設計のうち8種類が、Keap1に対する検出可能な結合を示し、最良の2種類(G54.1およびG85)は、低モル濃度から中程度のモル濃度までの範囲で結合アフィニティを示した(
図11、
図12および補足の表2〜4)。同族のNrf2ペプチドバインダーを競合剤として添加すると結合が減少し(
図13)、Keap1上の設計された抗体のエピトープはNrf2のものと重複していることが示唆された。G54.1およびG85の元々の抗体足場(Protein Data Bank(PDB)の寄託コードはそれぞれ3IVKおよび2JB5)は、Keap1に結合せず、対応する天然抗原はどれも、Keap1またはNrf2と生物学的に会合せず(補足の表4)、このことは、両抗体のKeap1結合が、計算により設計された界面によって媒介されることを強く示唆している。モデル化された構造は、2個の抗体足場のCDRH2ループに接合した3個のNrf2ホットスポットが、Nrf2ペプチドと同様の配座を示し、CDRH1およびCDRH3ループと共にKeap1に対するNrf2結合部位を完全に占有していることを示唆していた(
図14)。
【0058】
高アフィニティ抗体を設計する上での障壁は、現在の手法が、その骨格の自由度の乱れを最小限にしつつ、その足場を剛性構造として処理することである。しかし、異なるループ型の構造的保存のために異なる抗体フレームワークにCDRループを移植するための実験的に検証された先例が存在し、これにより、これまで剛性骨格による設計方法によって未開拓であった代替的なさらなる立体配座の自由度が提供される。例えば、以下の刊行物を参照:Clark,L.A.ら、An antibody loop replacement design feasibility study and a loop−swapped dimer structure.Protein Eng.Des.Sel.22,93−101(2009);Soderlind,E.ら、Recombining germline−derived CDR sequences for creating diverse single−framework antibody libraries.Nat.Biotechnol.18,852−856(2000);North,B.,Lehmann,A.,Dunbrack,R.L.A New clustering of antibody CDR loop conformations.J.Mol.Bio.406,228−256(2011)。
【0059】
CDRH3は、6種類のCDRの中で長さおよび配座という観点で最も多様な抗体として知られており、この場合には、ホットスポット残基を与えないことから(
図14および
図16)、さらに結合アフィニティを改善するために、G54.1のCDRH3ループと、キュレーションされたCDRH3ループフラグメント構造ライブラリからのものとをスワッピングするための計算方法が開発された(
図15)。Keap1との複合体の状態で生成されたキメラFvフラグメントのCDRH3配列を、RosettaDesign(Kuhlman,B.ら、Design of a novel globular protein fold with atomic−level accuracy.Science 302,1364−1368(2003))を用いてさらに最適化し、計算された結合エネルギーによってランク分けした。19のG54.1のCDRH3−スワップ改変体を選択し(
図17および補足の表5〜7)、そのうち4つは、明らかに向上したアフィニティを示し、最良のアフィニティである4.1nMおよび5.4nMは、LS171およびLS145から測定され、それぞれ、親のG54.1と比べて、それぞれ30倍および23倍のアフィニティの向上を表しており(
図18および補足の表7)、同族Nrf2のアフィニティに匹敵する。LS148およびLS146は、より弱いアフィニティを有するにもかかわらず、それぞれ13倍および6倍の改善を示す。これら4種類のCDRH3スワップ設計は、G54.1とは異なる配座を有する完全に新しいCDRH3ループを有しており(配列および長さ、
図17)、Keap1との改善された形状相補性スコアを示す(補足の表5)。モデル化された構造(
図19および
図20)に示されるように、これらのアフィニティが改良されたG54.1変異体は、より短いCDRH3(G54.1の13に対して10)における芳香族残基置換を採用して、G54.1とKeap1表面(LS171のV
H99LおよびV
H100Y、LS168のV
H97WおよびLS146のV
H97Yなど)の間の空洞を埋めるか、またはKeap1との大きなCDRH3接触表面積を有する(G54.1の2583Å
2に対し、LS168で2734Å
2)。
【0060】
回折品質の結晶を生じる他の3つの最も高いアフィニティを有するCDRH3スワップ設計による結晶学的試験の失敗のために、LS146との複合体におけるKeap1の高分解能(1.85Å)結晶構造(
図21〜
図23)を解決した。一本鎖Fv(scFv)として作られるLS146は、Keap1のNrf2結合部位(
図24)に設計されたものとほとんど同一に結合し、CDRH2はKeap1残基との最も広い接触(界面水素結合の網目構造)を形成する(
図25および
図26))。12マー長のCDRH3ループは、ヘアピン様配座に折り畳まれ、予測されるように2つのKeap1プロペラブレードの終わりにループと相互作用する(
図27)。結合に関与する他のCDRループは、CDRH1(
図28)およびV
Hフレームワーク3の一部(
図29)である。Keap1に結合されたLS146−scFvの構造は、設計モデルと、一般的に原子レベルの一致を示す(界面−Cα原子二乗平均平方根偏差(RMSD)=2.5Å、2つの複合体構造が、Keap1側に重ね合わされている、
図30)。3つの接合されたホットスポットは、V
H53Eの骨格アミドとの予期しない分子内水素結合に起因するV
H52Dの反転した側鎖を除き、予想通り、ほぼ同一の側鎖の向きをとる(重原子RMSD=1.6Å;
図31)。V
H96Y、V
H100
CY、V
L49YおよびV
L55Yの側鎖の再編成によって生じるCDRH3ループの先端で、明らかな配座の移動が起こり(
図32)、CDRH1とL1との間のねじれ角が変化し、VLがKeap1から完全に切り離される(補足の表8)。scFvへの変換は、V
H/V
Lの向きの変動およびその後のアフィニティの喪失につながる場合があることが知られており、このことは、なぜLS146−scFvの効力がそのFab形態の効力の3分の1と低いのかを説明することができる(
図33)。
【0061】
LS146のCDRH2は、同様の構造配座(Cα−原子RMSD=0.27Å)と、ホットスポット残基ドナーNrf2「DEETGE」ペプチドセグメントを含み、高い配列同一性(83%)を示すが、CDRH2は、抗体足場接合で特定される唯一のホットスポット残基アクセプターではなかった。トリプレットハッシング(以下参照)が、全ての表面CDR残基に対して実施されたので、CDRH3も、かなり弱いアフィニティであるにもかかわらず、いくつかの設計ではNrf2由来のホットスポットを与えることがわかった(補足の表4)。強い結合設計と弱い結合設計の特性の比較は、より望ましい計算されたKeap1−抗体結合エネルギー、より大きな界面表面積、およびより少ない埋め込まれた不飽和極性原子が、最も重要な因子であることを示唆している(
図11および補足の表2)。これらは、計算による抗原−抗体界面設計(大きな極性結合表面がループの相互作用を支配した)のよく知られた課題を連想させる。CDR配座を合理的にスワッピングすることにより、限られた数の足場構造に依存するホットスポットによって導かれる接合設計によって開発されていない代替形状および化学的相補性の探索が可能になる(補足の表5)。試験されるループスワップ設計は、固有のCDRH3骨格配座および配列を有し、同じエピトープを標的とすることによって、改良された結合アフィニティを示し、このことは、記載した計算によるCDRスワップ戦略を使用することにより、よりアフィニティが高い改変体を実験的に選択するためのin silicoで設計された抗体の最適化が可能になることを示唆している。
【0062】
細胞内タンパク質であることを前提として、治療抗体のための従来からある標的ではないが、Keap1−Nrf2相互作用は、予備選択されたエピトープを標的とする新規抗体の構造に基づく設計のための理想的な概念実証システムを与える、容易に識別可能なホットスポット残基を特徴とし、同族のタンパク質−タンパク質相互作用を直接的に遮断するか、または予想される遷移状態を捕捉し、一時的な配座を単離または安定化する必要性を回避する。設計された配列空間の計算による精度および並行したプロービングをさらに改良しつつ、より強い結合変異体の効率的な選択のために、現代のオリゴヌクレオチドアセンブリ法(例えば、集中的なディスプレイライブラリ設計)および次世代のシーケンシングを使用して、構造に基づく設計方法は、治療用途および診断用途のための抗体を迅速に作成する可能性を与える。
Keap1の例に適用される計算方法のさらなる詳細
一般的な計算方法
【0063】
CDRにおいて幾何学的にマッチングする位置にNrf2ホットスポットが介在する相互作用パターンを収容することができる抗体足場結晶構造を検索するために、残基に基づくトリプレットハッシング法によって、次いで、選択した設計の代替的なループ構成を探索するためのCDRH3スワップによって、Nrf2結合部位を標的とする抗−Keap1抗体を設計した。Keap1に対する推定結合エネルギーを改良するために、RosettaDesignを利用し、これら2つの段階の間に、設計のCDRループの配列を最適化した。ホットスポット接合、CDRH3スワップ、および使用されるRosettaScripts設計プロトコルのための擬似コードは、本記載の最後に記載されている。
ホットスポット接合
【0064】
トリプレット系ハッシング法は、
図1の工程200を参照しつつ上に記載したプロセスの一例であり、3個のマッチング残基が使用される場合には、それぞれが、重ね合わせに関与する3個のサブ構造に特徴的な原子を含む。トリプレットハッシングを実行するためのさらなる情報は、以下の刊行物に記載されている。Wolfson,H.J.&Rigoutsos,I.Geometric hashing:an overview.J.Comput.Sci.Eng.4,10−21(1997)。トリプレットハッシングは、SAbDabデータベース中の1417の抗体結晶構造から、ホットスポットが介在する相互作用パターンを与えることができる抗体構造(「足場」)を検索するために実施された(補足の表9)。「トリプレット」は、それぞれ3個の残基の骨格Cα、NおよびC原子に接続する3個の仮想三角形からなるものと定義された。任意の3個のNrf2ホットスポットを、トリプレットにまとめ、検索するための固有のキーと共にインデックスを付けた。抗体足場構造中のCDR残基の全ての可能なトリプレットを列挙し、同じ様式でインデックスを付けた。ホットスポットおよび抗体足場からの同一のトリプレットを、それぞれのインデックスキーを比較することによって特定した。3個のトリプレット三角形における9個の頂点の2つのセット間のRMSDを最小化するために、対応する同一のホットスポットの上に足場トリプレットを重ね合わせることによって、ホットスポットの上に抗体足場を接合させた。3個の足場トリプレット残基を、対応するホットスポット残基と置き換えた。接合した抗体足場中の残基の骨格原子が、Keap1と衝突した場合には、トリプレットの重ね合わせおよびホットスポット接合の後、設計された構造を破棄した。
CDRH3ループのスワップ
【0065】
全ての外因性CDRH3ループを上記の1417抗体骨格構造から切断した。元々のCDRH3ループを同じ様式でG54.1/Keap1複合体構造から除去し、その上に、それぞれの外因性CDRH3ループを、アンカー残基の骨格原子を重ね合わせることによって接合し、次いで、新しいCDRH3アンカー残基と、隣接するG54.1フレームワーク残基とを接続することによって、G54.1フレームワークに接続した。新しいCDRH3ループの骨格原子が元のG54.1 FvまたはKeap1のいずれかと衝突した場合、その設計された構造は、廃棄された。
Rosetta配列設計
【0066】
それぞれホットスポットの接合およびCDRH3ループのスワップから得られた設計について、計算された結合エネルギーを最適化することを目的として、2回のRosetta配列設計を使用した。1回目の間、3個のNrf2ホットスポットが介在する相互作用パターンを収容する5種類の設計された抗体構造から出発し、抗体側でのそれぞれの界面の位置は、他の全ての種類のアミノ酸(グリシン、プロリンおよびシステインを除く)へと単独で変異された。それぞれの突然変異構造は、全ての界面残基のリパックおよび最小化によって最適化された。それぞれの点変異に対する計算された結合エネルギーの変化(ΔΔGと呼ばれる)を、ロングレンジ静電補正を伴うRosetta全原子スコアリング補正で評価した(Fleishman,S.J.ら、RosettaScripts:A scripting language interface to the Rosetta macromolecular modelling suite.PLoS ONE 6,e20161(2011)を参照)。高い方から5位までの単一点突然変異を、最小ΔΔGスコアという観点で、それぞれの元々の設計の組み合わせた変異体への手動での組み込みのために選択した。2回目の間、G54.1のCDRH3スワップ変異体中の全てのCDRH3残基を、他の全ての種類のアミノ酸(グリシン、プロリンおよびシステインを除く)へと同時に変異させ、バックラブ法(変異側鎖の予測を改良するのに役立つことが報告されている)を用いてCDRおよびKeap1の上の全ての界面残基の骨格配座を局所的に乱させた(Smith,C.A.,Kortemme,T.Backrub−like backbone simulation recapitulates natural protein conformational variability and improves mutant side−chain prediction.J.Mol.Biol.380,742−756(2008)。3個の反復配列設計を使用し、軟らかい反発力から始め、デフォルトの標準的なファンデルワールスパラメータまでで終わり、さらに高いアフィニティの相互作用を見つけることができる可能性を高めた。
設計スコアリング
【0067】
計算された結合エネルギー(RosettaΔGスコア)、埋め込まれた溶媒接近可能表面領域(SASA)および形状相補性(Sc)スコアによって、設計を評価した(Lawrence,M.C.,Colman,P.M.Shape complementarity at protein/protein interfaces.J.Mol.Biol.234.946−950(1993)を参照)。ホットスポット接合においてSc<0.5、CDRH3スワップにおいてSc<0.6である設計を拒絶することにより、高い形状相補性が得られた。それぞれの設計された複合体構造についてのRosettaの総エネルギー、埋め込まれた不飽和極性原子の数(Stranges,P.B.&Kuhlman,B.A comparison of successful and failed protein interface designs highlights the challenges of designing buried hydrogen bonds.Protein Sci.22,74−82(2013))を、同様に設計の品質評価のリファレンスとして使用した。
一般的な実験方法
【0068】
Keap1タンパク質の詳細な手順、抗体の発現、クローニング、精製、結晶化を以下および補足の表10、11に示す。
結合分析
【0069】
表面プラズモン共鳴(SPR)実験を、Biacore 3000システム(GE Healthcare)で行い、詳細実験の詳細を以下に示す。簡単に言うと、発現したFabを含む上清(または偽トランスフェクト上清コントロール)を、CM5チップの上に固定された抗−ヒトF(ab’)
2ポリクローナルの上に注入した。Keap1の滴定またはゼロ検体コントロールの2回目の注入によって、会合と解離の動態を監視することができた。各センサグラムサイクルで、チップの再生を完了した。捕捉したFabがゆっくりと解離することによって起こるベースラインドリフトについて、隣接するゼロ検体コントロールサイクルを引き算することによって、センサグラムを補正した。各濃度でのKeap1の非特異的な結合を、等価なベースライン補正されたコントロール上清サイクルのセンサグラムを引き算することによって補正した。Biaevaluation(商標)ソフトウェアを使用して会合および解離動の動態をフィッティングさせ、それによりアフィニティ定数(K
D)を決定した。Keap1に対するFab結合の特異性を、一定濃度のKeap1に対するNrf2ペプチドアナログの滴定によって、同じプロトコルによって評価した。
補足情報
Nrf2ホットスポットの識別
【0070】
Keap1への結合を支配する3個のNrf2ホットスポット残基を、Rosettaのin silicoアラニンスキャニングスクリプトAlaScan.xmlを用いて特定した(Das,R.,Baker,D.Macromolecular modeling with Rosetta.Annu.Rev. Biochem.77,363−382(2008)を参照)。複合体構造におけるNrf2とKeap1の結合エネルギー(PDB寄託コード2FLU−Lo,S.C.,Li,X.,Henzl,M.T.,Beamer,L.J.&Hannink,M.Structure of the Keap1:Nrf2 interface provides mechanistic insight into Nrf2 signalling.Embo J.25,3605−3617(2006)を参照)を、結合した構造と結合していない構造との間のデフォルトの全原子力場(スコア12の重み付け)を用い、Rosetta総エネルギーを計算することによって予測した(以下、RosettaのΔGスコアと呼ぶ)。それぞれのNrf2残基をin silicoでアラニンへと変異させ、上から3位までのNrf2残基(Glu79、Thr80およびGlu82)のRosettaのΔGスコアは、アラニン変異後に少なくとも0.8Rosettaエネルギー単位(REU)まで減少し、これがホットスポットであることを確認した(補足の表1)。ホットスポットの配座は、RosettaスクリプトInverseRotamers.xml.を用い、Keap1表面に最も近い側鎖の原子から出発し、逆ロータマーを生成することによって多様化した。余分なロータマーのサンプリング(2つの半値幅の標準偏差)を、全ての側鎖のねじれ角の周囲で行った。
抗体V領域足場構造
【0071】
PDBに保存された少なくとも1つの対になったV
H/V
Lを含む抗体V領域足場構造を、2014年にSabDab(http://opig.stats.ox.ac.uk/webapps/sabdab)データベースから抽出した。FabおよびscFvフォーマットを含む、X線結晶学によって解明された構造のみを使用した。複数の結晶のコピーが、異なる鎖識別子を有する同じ抗体構造のために利用可能である場合、PDBファイルに現れる最初のコピーのみを保存した。Fv領域のみがFab構造から保たれた。Abnum手順(Abhinandan,K.R.&Martin,A.C.R.Analysis and improvements to Kabat and structurally correct numbering of antibody variable domains.Mol.Immunol.45,3832−3839(2008))を使用し、Chothia番号付けスキームに従ってFv構造中の残基の番号を付け直した(Al−Lazikani,B.,Lesk,A.M.&Chothia,C.Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins.J.Mol.Bio.273,927−948(1997))。ポリペプチドCDRループが破壊された構造は廃棄された。最後に、1417抗体Fv足場構造を、ホットスポット接合設計のために保存した(補足の表8)。
抗体足場構造上へのNrf2ホットスポットの接合
【0072】
残基に基づくトリプレットハッシング法を実施し、Keap1との元々のホットスポットの相互作用パターンを維持しつつ、3種類のNrf2ホットスポットを接合するのに最良の抗体足場構造を検索した。本願発明者らは、「残基のトリプレット」を、それぞれ3個の残基の骨格Cα、NおよびC原子に接続する3個の仮想三角形からなるものと定義した。トリプレットは、9個の頂点(Vα1、Vα2、Vα3、VN1、VN2、VN3、VC1、VC2およびVC3、トリプレットからなる3個の残基の9個の骨格Cα、NおよびC原子の位置に対応する)と、9個の辺(Eα1、Eα2、Eα3、EN1、EN2、EN3、EC1、EC2およびEC3、3個の三角形からの辺に対応する)を特徴とする。ホットスポット側では、3個のNrf2ホットスポット残基(Glu79、Thr80およびGlu82)から任意の3個の逆ロータマーを列挙し、これを残基のトリプレットにまとめた。各トリプレットは、最も長いCα辺と二番目に長いCα辺が、常にそれぞれEα1およびEα2に確実に対応するようにすることによって標準化された。各トリプレットは、6個の辺の丸めた(RO)長さを順に連結することによって、固有の文字列キーのインデックスが付けられた。例えば、Eα1=6.32、Eα2=4.67、Eα3=8.8、EN1=4.3、EN2=3.93、EN3=7.21、EC1=5.28、EC2=5.4およびEC3=9.82を有する所与のトリプレットでは、キーは、以下のように表される。
Key=Concatenate[RO(E)]=6594475510。
【0073】
ホットスポットのトリプレットの非冗長インデックスキーは全て、対応するホットスポットトリプレットの情報に迅速にアクセスするために、抗体足場構造のCDRへの後の接合を容易にするための頂点の残基の種類および原子軌道を含め、ルックアップテーブルに格納された。
【0074】
抗体足場側では、任意の3つのCDR残基を列挙し、トリプレットにまとめた。インデックスキーのルックアップテーブルは、ホットスポットトリプレットと同じ方法で生成された。CDRの幾何学的にマッチングした位置に3個のホットスポット残基を収容することができる抗体足場構造を発見するために、同一のホットスポットと抗体足場トリプレットを、それぞれのインデックスキーと直接比較することによって特定した。3個のトリプレット三角形における9個の頂点の2つのセット間のRMSDを最小化するために、対応する同一のホットスポットの上に足場トリプレットを重ね合わせることによって、ホットスポットの上に抗体足場を接合させた。抗体トリプレットの残基のいずれかに対し、ホットスポット骨格原子をフィッティングすることによって、3個の足場トリプレットの残基を、対応するホットスポットの残基と置き換えた。
【0075】
ホットスポット接合から得られた各抗体設計について、Keap1原子と衝突する抗体足場中の界面残基の側鎖をアラニンに突然変異させ、衝突を減らした。置き換え前後のホットスポット側鎖原子の重原子RMSDを計算した。Rosetta ppk.xmlスクリプトを使用し、全ての残基を再充填し、最小化した。以下に記載するいくつかのフィルターを適用し、設計を分類した。
・抗体足場への置き換え前後のホットスポットの重原子RMSDは、2.0Åより小さかった。
・結合の際の埋め込まれた溶媒接近可能表面領域(SASA)は、1200Åより大きかった(Hu,Z.,Ma,B.,Wolfson,H.&Nussinov,R.Conservation of polar residues as hot spots at protein interfaces.Proteins 39,331−342(2000)。
・形状相補性(Sc)スコアは、0.5より大きかった。
・RosettaΔGスコア(結合エネルギー)は、0.0REUより低かった。
【0076】
フィルタリング規則を通過した生き残った設計は、最終的に、RosettaΔGスコアによってランク付けされた。
CDRH3ループのスワップ
【0077】
G54.1のRosettaΔGスコアに対する個々のCDRループの寄与は、モデル化されたG54.1/Keap1複合体構造のFv領域から各CDRループを切断することによって計算された(
図16)。各CDR切断変異体のRosettaΔGスコアを再計算した。個々のCDRの結合への寄与は、各CDR切断変異体と元のG54.1抗体との間のRosettaΔGスコアの差を計算することによって推定した。
【0078】
以前のホットスポット接合段階で使用された抗体足場結晶構造からの外因性CDRH3ループは全て、Fv構造のV
H93からV
H103(Chothia番号付けスキームによる)の位置で切断され、CDRH3アンカー残基として標識された。外因性CDRH3ループをG54.1に接合するために、G54.1の元のCDRH3ループをV
H94からV
H102の位置で除去し、V
H93およびV
H103をFvアンカー残基として残した。各外因性CDRH3ループを、2セットのアンカー残基からの骨格原子を重ね合わせることによってG54.1Fv構造に対してフィッティングした。G54.1のFvアンカー残基を後で除去し、CDRH3アンカー残基と、隣接するG54.1残基(V
H92およびV
H104)とを連結することによって、G54.1の上に、接合した外因性CDRH3ループを結合させた。新しいCDRH3ループの骨格原子が元のG54.1Fv/Keap1複合体構造と衝突した場合、その得られた構造は、廃棄された。衝突を減らすために、G54.1/Keap1残基と衝突するCDRH3残基側鎖はアラニンに変異させた。CDRH3スワップから得られた最終構造は、工程2のようにRosetta ppk.xmlスクリプトを使用して再充填し、最小化し、RosettaΔGスコアによってランク付けした。
Rosetta配列設計
【0079】
ホットスポット接合およびCDRH3スワップからそれぞれ設計された抗体の結合アフィニティを最適化するために、2回のRosetta配列設計を行った。
【0080】
1回目の間、3個のNrf2ホットスポットが介在するKeap1相互作用パターンを収容する5種類の設計された抗体構造から出発し、抗体側でのそれぞれの界面CDR残基は、他の全ての種類のアミノ酸(システイン、グリシンおよびプロリンを除く)へと変異され、設計された抗体とKeap1との計算された結合エネルギーを改良することができる可能性を有する変異体を特定するために、RosettaΔGスコアに対する変異体の影響を調べた。改変された静電スコアリング項目を有するスコアリング関数を用い、in silico突然変異誘発中の結合遊離エネルギーの変化を計算するためのRosettaスクリプトMutationScanPB.xmlを使用し、単一点突然変異体リストを作成した。点突然変異は、RosettaΔGスコアの変化、または各突然変異体と対応する野生型構造との間の変化を計算することによってランク付けした。最上位ランクの単一点突然変異を選択し、組み合わせ(最大5個の突然変異)、元の抗体接合の改変体を作成した。
【0081】
2回目の間、G54.1に対するスワッピングされたCDRH3ループの全ての残基を、バックラブ法を用いてCDRおよびKeap1の上の全ての界面残基の骨格配座を局所的に乱されながら、Rosettaのflexbb−interfacedesign.xml スクリプトを用い、他の全ての種類のアミノ酸(グリシン、プロリンおよびシステインを除く)へと同時に変異させた。明白な静電気は、スコアリング機能には使用されなかった。再設計と最小化の3回の反復を使用し、軟らかい反発力(soft_rep weights)から始め、デフォルトの全原子の力場(スコア12の重み付け)までで終わり、さらに高いアフィニティの相互作用を見つけることができる可能性を高めた。ホットスポット接合設計について既に記載したのと同様のフィルタリングルールを使用し、得られたCDRH3スワップ設計された構造を選別し、ランク分けした。
・結合の際に埋め込まれたSASAは、2000Åより大きかった。
・RosettaΔGスコアは、−20.0REUより低かった。
・Scスコアは、0.6より大きかった。
設計スコアリング
【0082】
設計のフィルタリングまたはランク付けに使用される全ての既に記載した計算特徴(補足の表2、5)は、Rosetta3.4 InterfaceAnalyzerアプリケーションによって計算された。
・Rosetta ΔGスコアまたは結合エネルギーは、結合した状態および結合していない状態の系全体のエネルギーの差であると定義される。それぞれの状態において、界面残留物を再充填した。
・モデル化された複合体構造のRosetta総エネルギー。
・埋め込まれた溶媒接近可能面積(SASA)は、結合した状態および結合していない状態の系全体のSASAの差であると定義された。
・モデル化された抗体/Keap1複合体構造の形状相補性(Sc)スコア。
・埋め込まれた不飽和極性原子。
【0083】
最後に、ホットスポット接合の後の5種類の固有の足場における10個の設計(補足の表3)およびG54.1の19のCDRH3スワップ変異体を実験的試験のために選択した(補足の表6)。
Keap1の発現と精製
【0084】
Keap1のKelchドメインをコードする遺伝子を、N末端のHisタグおよびTEVプロテアーゼ開裂部位を有するフレーム内で発現ベクターpET−28aへとクローニングした。この構築物をE.coli株BL21(DE3)内で形質転換し、続いて、25ug/mlのカナマイシンを含む2TY培地中、37℃で培養した。タンパク質の産生は、0.3mMのイソプロピル β−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を用い、O.D.600の4で誘発された。IPTGを添加してすぐに、グリセロール系供給物(50mM MOPS、1mM MgSO4/MgCl2、2%のグリセロール)を、培養物に添加し、培養物を17℃で一晩、さらにインキュベートした。細胞を遠心分離によって採取し、50mM Tris pH8.5、50mM NaCl、10%グリセロール、0.5%トリトーム−X100、20mMイミダゾールおよび十分な量のプロテアーゼ阻害剤(Roche)を含有するバッファーに溶解した。遠心分離によって予め清澄化した溶解物を0.2μMフィルターでろ過し、次いでNi−NTAビーズ(Qiagen)と混合した。ビーズを、50mMトリスpH8、150mM NaCl、50mMイミダゾールおよび1mM DTTで洗浄した後、Keap1を、250mMの濃度にイミダゾールを補充した上述のバッファーを用いて溶出させた。Hisタグが切断された後、サンプルをNi−NTA(Qiagen)カラムに適用し、Ni結合性タンパク質を除去した。フロースルーを回収し、サイズ排除(Superdex 75、GE Healthcare)および必要に応じてイオン交換(Mono Q、GE Healthcare)クロマトグラフィーによりさらに精製した。精製されたkeap1を濃縮し、−80℃で20mMトリスpH7.5および5mM DTT中に保存した。
抗体のクローニングと発現
【0085】
in silicoで設計された重鎖および軽鎖の可変領域遺伝子を、DNA2.0,Inc.によって化学合成した。転写活性なPCR(TAP)を使用し、重鎖および軽鎖の可変領域を別個に増幅させ、その後、hCMVプロモーター配列、ヒトγ1C
H1およびCκ(Km3アロタイプ)定常領域およびポリ(A)尾部をコードするDNA配列を導入した。得られた構築物は、一過性の細胞発現のために必要な成分の全てを含有していた。SPR分析のためのFabフラグメントを生成するために、HEK−293細胞を293Fectin脂質トランスフェクション(Life Technologies、製造業者の説明書に従って)を用いてTAP産物と共に一時的にトランスフェクトした。
【0086】
Fabフォーマットにおける上位4位までの高アフィニティCDRH3スワップ抗体を用いた結晶学的試験では、Keap1との複合体において回折品質の結晶が得られなかった。LS146をFabからscFv構築物に変換するために、(Gly
4Ser)
4リンカーを介してV
Lに融合したV
Hをコードする遺伝子、TEVプロテアーゼ開裂部位を有するHis
10タグを合成し、DNA2.0,Inc.によってUCB独自の発現ベクターにクローニングした。遺伝子産物のアミノ酸配列を補足の表10に示す。CHO−S XE細胞、CHO−K1由来細胞株をエレクトロポレーションを用いてプラスミドDNAで一過的にトランスフェクトした。細胞を遠心分離により除去し、scFv−TEV−Hisタグ化タンパク質をIMACにより精製した。上清を0.2uMフィルターでろ過し、次いでHisTrap excelカラム(GE healthcare)に入れた。カラムを50mM Tris pH8、150mM NaCl、45mMイミダゾールで洗浄した後、抗体を50mM Tris pH8、150mM NaCl、250mMイミダゾールで溶出させた。Hisタグを除去した後、サンプルをHisTrap excelカラムに再び適用し、Ni結合性の混入タンパク質を除去した。フロースルーを回収し、サイズ排除(Superdex 75、GE Healthcare)クロマトグラフィーによりさらに精製した。精製した抗体を50mM HEPES pH7.5、150mM NaCl、5%グリセロールで濃縮し、必要になるまで−80℃で、等分に分けて保存した。
結合分析
【0087】
表面プラズモン共鳴(SPR)実験を、同じ製造業者から得た試薬を用い、Biacore 3000システム(GE Healthcare)で行った。Fabは、抗−ヒトF(ab’)
2に特異的なアフィニティ精製されたヤギポリクローナルトF(ab’)
2フラグメント(Jackson 109−006−097)を介し、CM5センサーチップの表面に捕捉された。後者を、活性化したカルボキシメチルデキストラン表面に、アミンカップリングによって以下のように固定した。50mMのN−ヒドロキシコハク酸イミドおよび200mMの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミドの新鮮な混合物を、流速10μl/分で5分間注入し、その後、10mM酢酸塩pH5.0バッファー中の50μg/mlの抗−ヒトF(ab’)
2を同じ流速で5分間注入した。最後に、表面を、1Mエタノールアミン・HCl pH8.5を10分間断続的に流して失活させた。チップ上のリファレンスフローセルは、上述の手順からタンパク質を省くことによって調製し、次いで、以下の実験において、抗−F(ab’)
2とリファレンスフローセルとの間の応答単位の差としてセンサグラムを得た。発現したFabに対するKeap1の初期の結合を、操作バッファーで5分の1に希釈した50μlの上清を、リファレンスおよび抗−F(ab’)
2フローセルに流速10μl/分で注入し、次いで、操作バッファー中、0、500または5000nMのKeap1を含む150μlを流速30μl/分で注入することによって評価した。少なくとも5分間続く解離段階の後、チップ表面を、40mMのHClを60秒間、間に同じ流速で5mM NaOHを30秒間用いて再生した。捕捉されたFabに対するKeap1の結合の会合および解離の動態は、以下の濃度で少なくとも8個の値で、同じプロトコルによって決定された。75、100、150、250、350、500、750、1000、1500、2500、3500および5000nM。ベースラインドリフトを補正するために、ゼロKeap1コントロールを前のサイクルの間に挟み、Keap1の非特異的結合を決定し、補正するために、偽トランスフェクト上清を各Keap1濃度で評価した。Keap1に対するFab結合の特異性を、より強いKeap1結合ループモチーフを含むNrf2残基74〜87に対応する高アフィニティNrf2ペプチド類似体、ビオチン−PEG−LQLDEETGEFLPIQ−アミドとの競合によって評価した。捕捉されたFabへのペプチド滴定存在下でのペプチドKeap1の結合を、上述のプロトコルを用いて追跡した。BIAevaluation(商標)ソフトウェアを使用し、全てのセンサグラムを、解離および会合速度論を適合させる前に、ゼロKeap1制御サイクルおよび対応する非特異的制御サイクルを差し引くことによって最初に変換した。解離定数(K
D)は、少なくとも6つのKeap1濃度にわたって測定された値の対数平均として推定された。IC
50値は、GraphPad Prism(商標)ソフトウェアを用いて、以下の式で表される正規化された応答/可変勾配モデル対数濃度にフィッティングすることによって計算した。ここで、3つの報告点についての阻害値のパーセントを各濃度での繰り返しとして処理した。
【数2】
結晶化
【0088】
Keap1を、複合体形成の前にLS146−scFv(50mM HEPES pH7.5、150mM NaClおよび5%グリセロール)の保存バッファーと交換した。これにより、Keap1保存バッファーからDTTが除去され、抗体中のジスルフィド結合を破壊することが防止された。次いで、Keap1を1:1.5のモル比でLS146−scFvと混合し、室温で30分間インキュベートした。この複合体をサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 75(商標)26/60、GE Healthcare)によって精製し、5mg/mlになるまで濃縮した。シッティングドロップ蒸気拡散形式の200nlのタンパク質溶液と200nlのリザーバー溶液(Qiagen)を用いた最初の結晶化試験は、2つの条件で結晶を生成した。最初のスクリーニングから得られた種結晶を用いて、ヒットした結晶化条件の1つ(0.2M酢酸ナトリウムおよび20%PEG3500)の再現および最適化により、回折品質の結晶が生成した。結晶を母液中で凍結保護し、PEG3350を35%(w/v)まで補充し、データ収集前に液体窒素中でガラス化した。
結晶学的データの収集と処理
【0089】
結晶LS146−scFv/Keap1複合体からのデータセットをDiamond Light Source synchrotron設備(ジドコット、英国)で、ビームライン104−1、波長0.917Åで集めた。Keap1(PDB 寄託コード1X2J
12)、CDRループを含まないV
HおよびV
Kのフレームワーク(PDB寄託コード3IVK
13)をモデルとして用い、CCP4ソフトウェア群
10、11のプログラムPHASER
9を用いて分子の置き換えを行った。参照:McCoy,A.J.ら、Phaser crystallographic software.J.Appl.Crystallogr.40,658−674(2007);Potterton,E.,Briggs,P.,Turkenburg,M.およびDodson,E.A graphical user interface to the CCP4 program suite.Acta Crystallogr.Sect.D 59,1131−1137(2003);Winn,M.D.ら、Overview of the CCP4 suite and current developments.Acta Crystallogr.Sect.D 67,235−242(2011);Padmanabhan,B.ら、Structural basis for defects of Keap1 activity provoked by its point mutations in lung cancer.Mol.Cell 3,689−700(2006);およびShechner,D.M.ら、Crystal Structure of the Catalytic Core of an RNA−Polymerase Ribozyme.Science 326,1271−1275(2009)。
【0090】
結晶の溶媒含有量は46.09%と決定され、非対称単位中に錯体のコピーが2つ存在する。解決策は3つの段階で見つかった。Keap1の2つのコピーの位置を最初に検索して得、次いで重鎖および2つの軽鎖の2つのコピーを得た。Refmac5.4(MACromolecular構造のREFinement)とCOOT(Crystallography Object−Oriented Toolkit)をそれぞれ用いて、洗練とモデル構築を行った。Rampage、ProCheck、SFCheck、およびRCSB Proteinデータベースが提供する検証ツールを使用して、最終モデルの幾何学的品質を検証した。LS146−scFv/Keap1のデータ収集および精密化した統計は補足の表11に示されている。参照:Murshudov,G.N.,Vagin,A.A.&Dodson,E.J.Refinement of macromolecular structures by the maximum−likelihood method.Acta Cryst.D53,240−255(1997);Emsley,P.&Cowtan,K.Coot:model−building tools for molecular graphics.Acta Crystallogr.Sect.D 60,2126−2132(2004);Lovell,C.Structure validation by Calpha geometry:phi,psi and Cbeta deviation.Proteins 50,437−450(2002).17.Laskowski,R.A.,MacArthur,M.W.,Moss,D.S.,&Thornton,J.M.PROCHECK:a program to check the stereochemical quality of protein structures.J.Appl.Crystallogr.26,283−291(1993);およびVaguine,A.A.,Richelle,J.,&Wodak,S.J.SFCHECK:a unified set of procedures for evaluating the quality of macromolecular structure−factor data and their agreement with the atomic model.Acta Crystallogr.Sect.D 55,191−205(1999)。
さらなる例−天然のTGFβ受容体および公知の抗TGFβ抗体からの組み合わされたホットスポット残基を移植することによる新規pan−TGFβブロッキング抗体Fab断片のコンピュテーショナルデザイン
【0091】
Keap1を標的とした抗体設計の成功に影響を受けて、本願発明者らは、pan特異的な抗TGFβ抗体を設計するために同じ手法をTGFβに適用した。TGFβは広く発現され、免疫恒常性および線維化調節を含む多数の異なる機能を有する。TGFβはホモダイマー形式で存在し、TGFβダイマーと3つの膜受容体(TGFβR1、TGFβR2、およびTGFβR3)からなる同じ受容体複合体を介してシグナル伝達する少なくとも3つの相同アイソフォーム(TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3)が存在する。TGFβR2は、最初にTGFβ上の「フィンガー」の先端に結合し、その後、TGFβ二量体界面に結合する他の2つの受容体を動員する。TGFβ1の結晶複合体構造およびTGFβR1およびTGFβR2の細胞外ドメインが解明されている。本願発明者らは、2つの受容体からの5種類の界面ホットスポット残基を移植することによって、この2つの受容体と同じ領域に結合する抗体を設計しようと企てたが、残念なことに、実験的に有効な結合を生成しなかった。受容体によって誘発されるホットスポットは、ホットスポットドナーであるTGFβ受容体のアフィニティが非常に弱いため、所望の結合部位で抗体足場テンプレートを固定するのに十分なほど強くないと推測された(TGFβR1およびTGFβR2のK
D値は、それぞれ2.5μMおよび0.4μM)。フレソリムマブ(GC−1008)は、低ナノモル濃度のアフィニティを有するpan−TGFβブロッキング抗体である。TGFβ3との複合体におけるフレソリムマブの結晶構造から、フレソリムマブのエピトープが受容体結合部位と高度に重複していることが明らかになっている。したがって、2つの受容体からのホットスポット残基とフレソリムマブを、組み合わせクエリとして混合することによって、同じ領域に結合する抗体バインダーを生成する機会が増えることが推測される。フレソリムマブからの受容体1および2および9の残基からの5個の残基を、仮想アラニンスキャニングによって選択し、混合クエリホットスポットとして使用した。本願発明者らのホットスポット移植手法は、残基のトリプレットハッシングに基づくものであり、各回に、14のホットスポット残基のうち3個のみが最初に移植され、所与の抗体テンプレートのための向きを決定し、これにより、残ったホットスポットを、現在のホットスポットトリプレットによって固定された抗体テンプレートの向きに対してその骨格原子の位置が、任意の残基の位置に近いかどうかを確認することによって移植することを注記しておく。ホットスポット移植後、抗体テンプレートのCDRループ上の残基をRosettaによって突然変異させ、Keap1の場合と同じ上述の方法を用いて現在の移植および向きを安定化させる新しい配列を作成する。3つのTGFβの受容体結合部位での相同性が高いことから、TGFβR1とTGFβR2の複合体由来のTGFβ1構造のみを抗原標的として用いて、設計された各抗体Fab構造モデルのRosetta結合エネルギーを計算した。
【0092】
設計した抗体Fabフラグメントのアフィニティを、上述のBiacoreを用いて測定した。1つの設計されたFabのみがTGFβ1およびTGFβ3に対して明らかなアフィニティを示し(K
Dはそれぞれ106および32.9nMである)、TGFβ2に対するアフィニティは、はるかに弱い(結合曲線をフィッティングするのは困難であった)。アフィニティは、リファレンス抗体であるフレソリムマブよりもはるかに弱いが、受容体のアフィニティよりはわずかに強い。設計された抗体が受容体の結合を遮断し、開始された下流のシグナル伝達を妨害することができるかどうかを試験するために、TGFβ結合によって駆動される細胞レポーター遺伝子アッセイを開発して、設計された抗体の遮断効果を決定した。抗体結合に際して、対応する受容体と結合する3つのTGFβの全てによって開始された下流シグナル伝達が、濃度依存的な様式で部分的に妨害されたことが実証されている。IC
50を決定し、生物物理学的結合アッセイからのK
Dとの相関を示した。設計された抗体Fabは、弱いアフィニティを示すが、受容体およびフレソリムマブのエピトープと重複する領域でおそらく結合しており、したがってpan−特異的な様式で期待されるように受容体結合を遮断することが示される。
【0093】
設計したFabとTGFβ1との複合体を結晶化させ、構造を解明した。予測したように、FabはTGFβ1上の両方の受容体結合部位を完全に占有し、予想される結合状態と非常によく重なっている。抗体の重鎖は、受容体およびフレソリムマブからの4つのホットスポット残基を含むCDR H2およびH3を含む疎水性残基を使用して、結合部位の大部分を占有している。
【0094】
補足の表12は、ホットスポット接合からの規則的な抗体Fab設計の結合アフィニティを示す。解離定数(K
D)は、SPRによって決定した。
【0095】
補足の表13は、ホットスポット接合からの規則的な抗体設計のFv領域のアミノ酸配列を示す。
【0096】
補足の表14は、レポーター遺伝子アッセイ(n=2)における、ホットスポット接合からのFab184設計のパンブロッキングIC
50を示す。
【0097】
図34〜
図37は、受容体によって誘発されたホットスポット残基とフレソリムマブによって誘発されたホットスポ
ット残基の組み合わせを移すことによる、pan−TGFbブロッキングFabフラグメントの設計を示す。
図34−TGFβR1および2と、フレソリムマブとからの組み合わせたホットスポット残基。
図35−チップに固定された、設計された抗体Fabを用いたFab184/TGFβ複合体のSPR動態プロフィール。
図36−HEK Blueレポーター遺伝子細胞アッセイにおけるFab184 TGFβの滴定による、TGFβ受容体結合の中和。
図37−結晶Fab184と、TGFβ1側に重ね合わせることによってモデル化されたものとの結合様式の比較。
補足の表
【0106】
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
【表9-4】
【表9-5】
【0109】
補足の表12.ホットスポット接合からの規則的な抗体Fab設計の結合アフィニティ解離定数(K
D)は、SPRによって決定した。
【表12】
【0110】
補足の表13.ホットスポット接合からの規則的な抗体設計のFv領域のアミノ酸配列
【表13】
【0111】
補足の表14.レポーター遺伝子アッセイ(n=2)における、ホットスポット接合からのFab184設計の受容体のpan−ブロッキングIC
50。
【表14】
擬似コード
【0112】
抗体足場構造に接合するホットスポットの擬似コード:
# Main function:iterate all antibody scaffold structures, do graftScaffoldOntoHotspots
DEF Main (String AntigenPDB, String HotspotsPDB, String ScaffoldsPath):
# load antigen and hotspots
Protein antigen = readPDB (AntigenPDB)
Protein hotspots = readPDB (HotspotsPDB)
# Iterate each template
FOR scaffoldPDB IN ScaffoldsPath:
Protein scaffold = readPDB (scaffoldPDB)
# generate grafted complex structure
Protein graft = graftScaffoldOntoHotspots (antigen, hotspots, scaffold)
# dump the transplant structure
dumpPDB (graft)
# FUNCTION graftScaffoldOntoHotspots:graft one antibody scaffold onto the hotspots
DEF graftScaffoldOntoHotspots (Protein Antigen, Protein Hotspots, Protein Scaffold):
# Enumerate all hotspots triplets and store in hotspotsTripletList
List hotspotsTripletList = []
FOR r1, r2, r3 IN hotspots:
Triplet hotspotsTriplet = setupTriplet (r1, r2, r3)
hotspotsTripletList.append (hotspotsTriplet)
# Enumerate all template CDR triplets and store in scaffoldTripletList
List scaffoldTripletList = []
FOR r1, r2, r3 IN scaffold’s CDR residues:
Triplet scaffoldTriplet = setupTriplet (r1, r2, r3)
scaffoldTripletList.append (scaffoldTriplet)
# iterate each pair of scaffoldTriplets and hotspotsTriplets, find the pair with identical key, and align the corresponding triplets
List SolutionList = []
FOR hotspotsTriplet IN hotspotsTripletList:
FOR scaffoldTriplet IN scaffoldTripletList:
IF hotspotsTriplet.key == scaffoldTriplet.key:
# Alignment and residue mutation
Align the antibody template onto the Hotspots by corresponding triplets using rms fitting
Replace the three template triplet residues with the corresponding hotspots
# Clashing check
Mutate any clashing residues on antibody with antigen’s backbones to alanines
IF clashes remain after alanine mutation:
Discard current Graft
ELSE:
Append current Graft to the SolutionList
Sort SolutionList by ascending hotspots RMSD
# Output the complex structure of antigen and transplanted antibody scaffold (with mutated Hotpots)
Return SolutionList.top
# CLASS Triplet and FUNCTION setupTriplet:Setup residue triplets
CLASS Triplet:
Residue residue1, residue2, residue3
String key
DEF setupTriplet (Residue r1, Residue r2, Residue r3):
# Edge lengths of the resdue triangle by residue1.Cα, residue2.Cα, residue3.Cα
dC
α12 = Distance (r1.C
α, r2.C
α), dC
α23 = Distance (r2.C
α, r3.C
α), dC
α13 = Distance (r1.C
α, r3.C
α)
# Edge lengths of the resdue triangle by residue1.N, residue2.N, residue3.N
dN12 = Distance (r1.N, r2.N), dN23 = Distance (r2.N, r3.N), dN13 = Distance (r1.N, r3.N)
# Edge lengths of the resdue triangle by residue1.C, residue2.C, residue3.C
dC12 = Distance (r1.C, r2.C), dC23 = Distance (r2.C, r3.C), dC13 = Distance (r1.C, r3.C)
# Filter the triangles with any length less than 3.5 A
IF any dC
α, dN, or dC <= 3.5:
Return False
# r1 and r2 corresponds to the longest Cα edge, r1 and r3 corresponds to the shortest Cα edge
Reorder r1, r2, r3 corresponding to descending dC
α12, dC
α23, dC
α13
# Indexing key of the triplets by rounding up the edge lengths and concatenating into string
key = String (roundup (dC
α1)) + String (roundup (dC
α2)) + String (roundup (dC
α3)) + String (roundup (dN1)) + String (roundup (dN2)) + String (roundup (dN3)) + String (roundup (dC1)) + String (roundup (dC2)) + String (roundup (dC3))
# return reordered r1, r2, r3 and key into a triplet
Return Triplet (r1, r2, r3, key)
G54.1のCDRH3ループスワッピングの擬似コード:
# Main function:iterate all antibody CDRH3 loop structures, do swapCDRH3
DEF Main (String AntibodyAntigenComplexPDB, String CDRH3sPath):
# load antibody-antigen complex PDB structure
Protein system = readPDB (AntibodyAntigenComplexPDB)
# chop off wt CDRH3 loop
Protein truncatedH3System = chopCDRH3 (system)
# Iterate each exogenous CDRH3 loop structure
FOR CDRH3LoopPDB IN CDRH3sPath:
Protein h3loop = readPDB (CDRH3LoopPDB)
# generate H3 swapped complex structure
Protein loopswap = swapCDRH3 (truncatedH3System, h3loop)
# dump the transplant structure
dumpPDB (loopswap)
# FUNCTION swapCDRH3:graft one exogenous CDRH3 loop onto the CDRH3-truncated antibody-antigen complex structure
DEF swapCDRH3 (Protein truncatedH3System, Protein h3loop):
# Alignment of the anchor residues of exogenous H3 loop onto those of CDRH3-truncated Fv
Align the h3loop anchor residues (V
H93 and V
H103) onto those of truncatedH3System
Remove the original V
H93 and V
H103 residues from truncatedH3System
Ligate the backbones of new h3loop’s V
H93 and V
H103 with V
H92 and V
H104 of truncatedH3System, respectively, generating a swappedH3System (new H3 loop inserted into original Fv in complex with antigen)
# Clashing check
FOR any clashing residues on h3loop with rest of swappedH3System’s backbones, mutate them to alanine
IF clashes remain after alanine mutation:
Discard current swappedH3System
ELSE:
# Output the complex structure of antigen-Fv and transplanted new H3 loop
Return current swappedH3System
RosettaScripts:AlaScan.xml:
<dock_design>
<FILTERS>
<AlaScan name=scan partner1=0 partner2=1 scorefxn=score12 interface_distance_cutoff=8.0 repeats=3/>
</FILTERS>
<MOVERS>
<RepackMinimize name=intermin scorefxn_repack=score12 scorefxn_minimize=score12 interface_cutoff_distance=8.0 repack_partner1=0 repack_partner2=0 design_partner1=0 design_partner2=0 minimize_bb=0 minimize_sc=1 minimize_rb=0/>
</MOVERS>
<PROTOCOLS>
<Add mover_name=intermin/>
<Add filter_name=scan/>
</PROTOCOLS>
</dock_design>
RosettaScripts:InverseRotamers.xml:
<dock_design>
<FILTERS>
<EnergyPerResidue name=energy pdb_num=79B energy_cutoff=0.0/>
<Ddg name=ddg threshold=-1.0/>
</FILTERS>
<MOVERS>
<TryRotamers name=try pdb_num=79B/>
</MOVERS>
<PROTOCOLS>
<Add mover_name=try/>
<Add filter_name=energy/>
<Add filter_name=ddg/>
</PROTOCOLS>
</dock_design>
RosettaScripts:ppk.xml:
<dock_design>
<MOVERS>
<Prepack name=ppk jump_number=0 scorefxn=score12/> Jump_number=0 to prepack the entire structure without moving the partners apart.
<MinMover name=min scorefxn=score12 chi=1 bb=0 jump=0/>
</MOVERS>
<PROTOCOLS>
<Add mover_name=ppk/>
<Add mover_name=min/>
</PROTOCOLS>
</dock_design>
RosettaScripts:MutationScanPB.xml:
<dock_design>
<SCOREFXNS>
<local_score weights=score12_full patch=’’pb_elec.wts_patch’’/>
<local_score_soft weights=soft_rep patch=’’pb_elec.wts_patch’’/>
</SCOREFXNS>
<TASKOPERATIONS>
<InitializeFromCommandline name=init/>
<ProteinInterfaceDesign name=pid repack_chain1=1 repack_chain2=1 design_chain1=0 design_chain2=1 interface_distance_cutoff=8/>
<ProteinInterfaceDesign name=pio repack_chain1=1 repack_chain2=1 design_chain1=0 design_chain2=0 interface_distance_cutoff=8/>
</TASKOPERATIONS>
<MOVERS>
<AtomTree name=docking_tree docking_ft=1/>
<MinMover name=min_sc scorefxn=local_score bb=0 chi=1 jump=1/> minimize sc, rb
<PackRotamersMover name=pack_interface scorefxn=local_score task_operations=init,pio/>
<PackRotamersMover name=pack_interface_soft scorefxn=local_score_soft task_operations=init,pio/>
<ParsedProtocol name=relax_before_baseline>
<Add mover=docking_tree/>
<Add mover=pack_interface/>
<Add mover= min_sc/>
</ParsedProtocol>
</MOVERS>
<FILTERS>
<Ddg name=ddg scorefxn=local_score confidence=0.0/>
<Delta name=delta_ddg filter=ddg upper=1 lower=0 range=-0.5 relax_mover=relax_before_baseline/>
<FilterScan name=scan_binding scorefxn=local_score relax_mover=relax_before_baseline task_operations=pid,init filter=delta_ddg triage_filter=delta_ddg resfile_name=’’scan.resfile’’/>
<Time name=scan_binding_timer/>
</FILTERS>
<PROTOCOLS>
<Add mover=docking_tree/>
<Add filter=scan_binding_timer/>
<Add filter=scan_binding/>
<Add filter=scan_binding_timer/>
</PROTOCOLS>
</dock_design>
RosettaScripts:FlexbbInterfaceDesign.xml:
<dock_design>
<TASKOPERATIONS>
<ProteinInterfaceDesign name=pio repack_chain1=1 repack_chain2=1 design_chain1=0 design_chain2=0 interface_distance_cutoff=10/>
<ReadResfile name=resfile filename=’’design.resfile’’/>
</TASKOPERATIONS>
<FILTERS>
<Ddg name=ddG scorefxn=score12 threshold=-20 repeats=2/>
<Sasa name=sasa threshold=2000/>
<CompoundStatement name=ddg_sasa>
<AND filter_name=ddG/>
<AND filter_name=sasa/>
</CompoundStatement>
</FILTERS>
<MOVERS>
<BackrubDD name=backrub partner1=0 partner2=1 interface_distance_cutoff=8.0 moves=1000 sc_move_probability=0.25 scorefxn=score12 small_move_probability=0.15 bbg_move_probability=0.25 task_operations=pio/>
<RepackMinimize name=des1 scorefxn_repack=soft_rep scorefxn_minimize=soft_rep minimize_bb=0 minimize_rb=1 task_operations=resfile/>
<RepackMinimize name=des2 scorefxn_repack=score12 scorefxn_minimize=score12 minimize_bb=0 minimize_rb=1 task_operations=resfile/> Design &minimization at the interface
<RepackMinimize name=des3 minimize_bb=1 minimize_rb=0 task_operations=resfile/>
<ParsedProtocol name=design>
<Add mover_name=backrub/>
<Add mover_name=des1/>
<Add mover_name=des2/>
<Add mover_name=des3 filter_name=ddg_sasa/>
</ParsedProtocol>
<GenericMonteCarlo name=iterate scorefxn_name=score12 mover_name=design trials=3/>
<InterfaceAnalyzerMover name=IAM scorefxn=score12 packstat=1 interface_sc=1 pack_input=1 pack_separated=1 tracer=0 fixedchains=H,L/>
</MOVERS>
<PROTOCOLS>
<Add mover=iterate/>
<Add mover=IAM/>
</PROTOCOLS>
</dock_design >