(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976272
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】トランスミッションの同期装置用のスライドスリーブおよび当該スライドスリーブを備える同期装置
(51)【国際特許分類】
F16D 11/10 20060101AFI20211125BHJP
F16D 23/06 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
F16D11/10 A
F16D23/06 H
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-554747(P2018-554747)
(86)(22)【出願日】2017年4月21日
(65)【公表番号】特表2019-516045(P2019-516045A)
(43)【公表日】2019年6月13日
(86)【国際出願番号】DE2017100325
(87)【国際公開番号】WO2017182039
(87)【国際公開日】20171026
【審査請求日】2020年4月17日
(31)【優先権主張番号】102016206873.3
(32)【優先日】2016年4月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルデマー ヤープス
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー ノイハウス
【審査官】
西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−120729(JP,A)
【文献】
実開昭63−092831(JP,U)
【文献】
特開2003−222161(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102105708(CN,A)
【文献】
独国特許出願公開第102012223761(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00−11/16
F16D 23/00−23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッションの同期装置(1)または爪クラッチ用のスライドスリーブ(6)であって、
前記スライドスリーブ(6)は、リング体として形成され、主軸線(H)を規定しており、前記リング体には、複数のピッチ位置(T)が規定されており、前記ピッチ位置(T)は、前記主軸線(H)回りに1ピッチ(t)間隔で規則的に分配されており、
前記スライドスリーブ(6)は、複数の係合歯(12)を備え、前記係合歯(12)は、内歯として形成されており、前記係合歯(12)の各々は、ピッチ位置(T)に配置されており、
前記スライドスリーブ(6)は、少なくとも1つの係合領域(14)を備え、前記係合領域(14)内には、少なくとも2つの係合歯(12)が、回転方向で隣接するピッチ位置(T)に配置されており、
前記スライドスリーブ(6)は、前記スライドスリーブ(6)の軸方向運動を制限する少なくとも1つの制限歯(13)を備え、前記制限歯(13)は、少なくとも一部領域において、2つのピッチ位置(T)間の隙間内に配置されており、
軸方向に関して前記制限歯(13)の中央部を通って半径方向に延びる切断平面における歯形は、前記制限歯(13)と、前記複数の係合歯(12)のうちの少なくとも1つの係合歯とで、同じに形成されている、
スライドスリーブ(6)において、
前記制限歯(13)は、前記ピッチ(t)に関して、隣接する係合歯(12)に対してずらされて配置されており、かつトルクを伝達する歯面を有することを特徴とする、トランスミッションの同期装置(1)または爪クラッチ用のスライドスリーブ(6)。
【請求項2】
前記制限歯(13)は、前記主軸線(H)に関して軸方向で延在するすぐ歯として形成されていることを特徴とする、請求項1記載のスライドスリーブ(6)。
【請求項3】
前記制限歯(13)は、隣接する係合歯(12)に対して回転方向でピッチ(t)の1.1〜1.9倍の間隔を置いて配置されていることを特徴とする、請求項1または2記載のスライドスリーブ(6)。
【請求項4】
前記制限歯(13)は、前記隣接する係合歯(12)に対して回転方向でピッチの1.5倍の間隔を置いて配置されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のスライドスリーブ(6)。
【請求項5】
前記制限歯(13)は、前記複数の係合歯(12)のうちの1つの係合歯と比較して、少なくとも一方の軸方向で短縮されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のスライドスリーブ(6)。
【請求項6】
前記制限歯(13)は、少なくとも一方の軸方向で制限面(15)を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載のスライドスリーブ(6)。
【請求項7】
前記制限面(15)は、前記主軸線(H)に関して一半径方向平面内に延在していることを特徴とする、請求項6記載のスライドスリーブ(6)。
【請求項8】
トランスミッションの同期装置(1)であって、
請求項1から7までのいずれか1項記載のスライドスリーブ(6)と、
キャリア体(4)であって、キャリア歯列(5)を有し、前記キャリア歯列(5)は、外歯列として形成されており、前記係合歯(12)とトルク伝達のために係合する、キャリア体(4)と、
少なくとも1つのクラッチ部分(10)であって、クラッチ歯列(11)を有し、前記クラッチ歯列(11)は、前記係合歯(12)の前記ピッチ(t)に配置されている、クラッチ部分(10)と、
を備える同期装置(1)。
【請求項9】
前記キャリア歯列(5)は、前記少なくとも1つの制限歯(13)とトルク伝達のために係合することを特徴とする、請求項8記載の同期装置(1)あるいは爪クラッチ。
【請求項10】
前記複数の係合歯(12)と、前記少なくとも1つの制限歯(13)との各歯は同じ大きさのトルクを伝達するように形成されていることを特徴とする、請求項8または9記載の同期装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部の特徴を備える、自動車トランスミッションの同期装置用のスライドスリーブに関する。さらに本発明は、当該スライドスリーブを備える同期装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のトランスミッション内では、軸とギヤホイールとを同じ回転数にし、この同期後、相対回動不能に連結するために、同期装置が使用される。このために、一般的には、キャリア体(同期体またはスリーブキャリアともいう)が軸に配置されており、キャリア体は、外歯列を有している。キャリア体には、内歯列を有するスライドスリーブが配置されており、内歯列は、スライドスリーブが軸方向でキャリア体に対して相対的に摺動され得るように上述の外歯列に係合する。
【0003】
ギヤホイールは、軸に遊嵌ホイールとして配置されている。スライドスリーブとの相対回動不能な連結のために、ギヤホイール自体が外歯列を有していてもよい。代替的には、ギヤホイールに相対回動不能にクラッチ体が結合されており、クラッチ体が、スライドスリーブと係合可能な外歯列を有している。シフト動作時、スライドスリーブは、軸方向で動かされ、その結果、内歯列は、クラッチ体の外歯列と係合するので、形状結合(formschluessig)式の相対回動不能な結合が、軸とギヤホイールとの間で形成されている。
【0004】
軸の回転数とギヤホイールの回転数とを予め同化させるために、キャリア体と、クラッチ体あるいはギヤホイールとの間に、単数または複数のシンクロナイザリングが配置されている。スライドスリーブの軸方向摺動により、シンクロナイザリングによって、まず、摩擦結合(Reibschluss)が形成され、ひいてはギヤホイールが、軸の回転数に加速あるいは減速され、その後、クラッチ体が、スライドスリーブ、ひいては軸に形状結合式に結合される。
【0005】
しかし、スライドスリーブの軸方向摺動は、過シフト、ひいては歯列その他の構成部材の損傷を防止すべく、制限されねばならない。これには様々なアプローチが存在し、例えばシンクロナイザリングとクラッチ体との間に、ストッパを形成するディスクが配置されることがある。
【0006】
独国特許出願公開第102012223761号明細書において、ギヤホイール切り換え式トランスミッションの、内歯列を備えるスライドスリーブが公知である。このスライドスリーブは、2つの異種の歯を備え、第1種の歯は、規定通りクラッチ体の外歯列に係合するものであり、第2種の歯は、スライドスリーブの軸方向摺動時の軸方向のストッパを形成している。
【0007】
独国特許発明第10164203号明細書は、上位概念を形成するスライドスリーブを示しており、このスライドスリーブの場合、幾つかの歯が、ストッパ歯として形成されており、この目的のために、半径方向内側に向かって突出する、シフト行程を制限するためのストッパを備えている。
【0008】
このように構成されたストッパ歯における欠点は、変更された形状付与に基づいて製造に手間あるいはコストを要することである。ストッパ歯が切削により製造されているときは、歯たけが高ければ高いほど、残余の歯においてより強い除去が行われねばならず、このことは、材料コストと時間コストとを高めてしまう。ストッパ歯が変形加工技術により製造されているときは、製造公差に難がある。而してこの公差に基づき、歯面は、一般に、クラッチ体がその尾根の先端(Dachspitze)でもって衝接するのをいずれにしても防止するために、係合から除外されねばならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、改善された機能特性を有するスライドスリーブと、スライドスリーブを備える相応の同期装置とを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、請求項1の特徴を備えるスライドスリーブと、請求項8の特徴を備える同期装置とにより解決される。本発明の好ましいまたは有利な実施の形態は、従属請求項、以下の説明および添付の図面から看取可能である。
【0011】
本発明の対象は、トランスミッションの同期装置用に形成されたスライドスリーブである。トランスミッションは、特に好ましくは、車両のための駆動トルクを伝達する車両トランスミッションである。トランスミッションは、オートマチックトランスミッションとして形成されていてもよいし、マニュアルシフトトランスミッションとして形成されていてもよい。特にトランスミッションは、ギヤホイール切り換え式トランスミッションとして形成されている。同期装置は、トランスミッションの軸を、遊嵌ホイールとして軸に配置されたギヤホイールに、回転数に関して同期させ、相対回動不能に据えるまたは連結するという役割を有している。
【0012】
スライドスリーブは、基体を備え、基体は、リング体として形成されている。特に基体は、トランスミッションの軸に関して同軸かつ/または同心に配置されている。軸および/または基体は、主軸線を規定している。
【0013】
基体には、複数のピッチ位置が規定されており、ピッチ位置は、主軸線回りの回転方向において1ピッチ(t)間隔で規則的に分配されている。基体および/またはリング体を軸方向平面図で見て1つの円と捉えると、ピッチ位置は、この円を同じ大きさの円弧に分割した区切りを形成している。好ましくは、ピッチは、間隔、特に弧長間隔または角度間隔として、かつ/またはモジュールmと数値piの積(t=m×pi)として規定されている。モジュールmは、ピッチ円直径と歯数の商(m=d/z)として規定されている。ピッチ位置は、以下において導入する係合歯あるいは制限歯の配置について説明するために補助線のように用いられる。
【0014】
スライドスリーブは、複数の係合歯を備え、係合歯は、内歯として形成されている。特に係合歯は、半径方向内側に向かって方向付けられている。好ましくは、係合歯は、その歯の背(Zahnruecken)でもってそれぞれ主軸線に関して軸方向で延在し、かつ/または同じ方向に方向付けられ、かつ/または主軸線に対して平行に方向付けられている。係合歯の各々は、ピッチ位置に配置されている。しかし、すべてのピッチ位置に係合歯が設けられていることは、必ずしも必要ではない。したがって、ピッチ位置が歯隙間として形成されているかつ/または別のコンポーネントを有していることも、もちろん可能である。ただし、スライドスリーブは、少なくとも1つの係合領域を備え、係合領域内には、少なくとも2つの係合歯が、回転方向で隣接するピッチ位置に配置されている。2つの係合歯の最小の間隔により、好ましくはピッチが規定される。好ましくは、スライドスリーブは、少なくとも2つの係合領域を備え、係合領域の各々は、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つの係合歯を有し、係合歯は、それぞれ、回転方向で隣接するピッチ位置に配置されている。
【0015】
さらにスライドスリーブは、スライドスリーブの軸方向運動を制限する少なくとも1つの制限歯を備えている。制限歯は、2つのピッチ位置間に配置されている。特に制限歯は、回転方向で見て少なくとも一部領域において、2つのピッチ位置間の現実のまたは仮想の歯隙間内に配置されている。この歯隙間は、2つのピッチ位置にそれぞれ1つの係合歯が観念的に置かれることにより形成され、その結果、歯隙間が具現されている。制限歯は、少なくとも一部領域において、歯隙間内に突入している。これにより制限歯は、基体と同じピッチを有する相手側歯列のための干渉輪郭をなしており、その結果、スライドスリーブを、同じピッチを有する相手側歯列に向かって挿入したとき、制限歯は、スライドスリーブの軸方向運動を制限する。
【0016】
本発明の範囲内で提案することは、主軸線の軸方向に関して制限歯を通って、好ましくはその中央部を通って延びる切断平面、特に半径方向平面における歯形が、制限歯と、複数の係合歯のうちの少なくとも1つの係合歯とで、同じに形成されていることである。好ましくは、制限歯と、少なくとも1つの係合歯、特に幾つかの係合歯、好ましくはすべての係合歯とは、同じ歯形を有している。特に好ましくは、係合歯の歯形と、制限歯の歯形とが、一切断平面内で同じであるだけでなく、歯形が、制限歯と、複数の係合歯のうちの少なくとも1つの係合歯とで、より広い軸方向の範囲、例えば少なくとも3ミリメートル、好ましくは少なくとも5ミリメートル、特に少なくとも10ミリメートルの範囲にわたって同じである。
【0017】
この場合、本発明の思想は、制限歯と係合歯とが同じに形成されているとき、制限歯が、トルクを伝達するための条件を十分に満たした歯として使用可能であるということにある。これにより、スライドスリーブの回転方向での歯の数が、制限歯の数の分だけ、従来技術の構成に比べて増加するので、本発明に係るスライドスリーブは、より高いトルクを伝達することができる。加えて、曲げ剛性は、従来技術に比して減じられる。加えて、制限歯の歯形を係合歯の歯形に同化させたことで、制限歯が、トルク伝達時に負荷がかかったとき、係合歯と同じ挙動を示すことが達成されるので、制限歯における局所的な変形や、スライドスリーブの動的な挙動における偏差も、想定せずに済む。
【0018】
これにより、制限歯のすぐ歯は、さらに、トルクをキャリア体とギヤホイールとの間で伝達するのに利用可能である。これによりキャリア体は、より多くの係合する歯をもち、負荷は軽減される。
【0019】
ずらされた歯幾何学形状に基づき、曲げ剛性は、差し当たり、僅かに高められていることがある。この効果は、本発明の一形態において制限歯が軸方向で短縮されて形成されていると、相殺される。
【0020】
本発明において、制限歯は、係合歯列のピッチに対してずらされて配置されている。好ましくは、回転方向でのずれは、基体のピッチの1.1倍〜1.9倍である。好ましくは、制限歯は、回転方向で2つの隣接する係合歯間の中央部に配置されている。好ましくは、2つの隣接する係合歯は、互いに3ピッチの間隔を有している。このとき制限歯は、隣接する係合歯の各々に対して、制限歯の中央部から計算して、回転方向で1.5ピッチの間隔を有している。
【0021】
本発明の好ましい一実現形態において、制限歯は、すぐ歯として形成されており、すぐ歯は、特に好ましくは、軸方向ですぐ歯の長さの少なくとも50パーセント、特に少なくとも80パーセントにわたって、一定の歯形を有している。特に制限歯は、主軸線に関して軸方向で延在している。
【0022】
本発明の好ましい一発展形において、制限歯は、複数の係合歯のうちの1つの係合歯と比較して、少なくとも一方の軸方向で、好ましくは両方の軸方向で短縮されている。これにより、制限歯の軸方向の端面は、複数の係合歯のうちの1つの係合歯の自由端に対して軸方向でセットバックされている。好ましくは、制限歯の両端は、係合歯の自由端に対してセットバックされている。本構成は、相対回動不能な連結を達成するには、スライドスリーブの係合歯をクラッチ部分のクラッチ歯列内に、所定の重なりに至るまで進入させねばならないという思想から生じる。制限歯は、スライドスリーブの軸方向運動を制限するために用いられるので、これに応じて制限歯の軸方向の端面は、係合歯に対してセットバックされていなければならない。
【0023】
本発明の好ましい一発展形において、制限歯は、少なくとも一方の軸方向で制限面を有しており、制限面は、軸方向の端面を形成している。特に好ましくは、制限面は、主回転軸線に関して一半径方向平面内に延在している。本構成において、係合歯は、クラッチ部分の外歯列に進入可能であるが、制限面は、軸方向で外歯列に、特に外歯列の端面に、面接触するように突き当たり、而してスライドスリーブの軸方向運動をエンドストッパにより制限するようになっていてよい。歯は、一変化態様では、鈍に形成されている。
【0024】
本発明の別の対象は、トランスミッション用の同期装置に関する。同期装置は、上述したようなスライドスリーブを備えている。さらにキャリア体を備えており、キャリア体は、相対回動不能にトランスミッションの軸に配置されている。軸を同期装置あるいは爪クラッチの一部とするかは、任意選択的である。例えばキャリア体は、軸に噛み合わされている。キャリア体は、キャリア歯列を有し、キャリア歯列は、外歯列として形成されている。外歯列は、スライドスリーブの係合歯とトルク伝達のために係合している。これにより、キャリア体とスライドスリーブとは、回転方向で互いに相対回動不能に結合されている。
【0025】
さらに、少なくとも1つのクラッチ部分が設けられており、クラッチ部分は、用途に応じて、同期装置の場合はギヤホイールに、または爪クラッチとして形成された同期装置の場合は爪部分に、相対回動不能に結合されている。クラッチ部分は、クラッチ歯列を有し、クラッチ歯列は、同じく外歯列として形成されている。クラッチ歯列、特にクラッチ歯列の歯は、係合歯のピッチおよび/またはピッチ位置に配置されている。これによりスライドスリーブをクラッチ部分に外嵌させることが可能であり、その結果、クラッチ部分、ひいてはギヤホイール、あるいはクラッチ歯列を有する爪部分が、係合歯のピッチで配置される。
【0026】
本構成において、スライドスリーブは、クラッチ部分に軸方向で外嵌されることができ、その結果、ギヤホイールと軸との間の、クラッチ部分、スライドスリーブ、キャリア体を介した相対回動不能な結合が形成可能である。これとは代替的に、爪部分、クラッチ部分、スライドスリーブ、キャリア体および軸間の相対回動不能な結合が形成されてもよい。
【0027】
好ましくは、キャリア歯列は、少なくとも1つの制限歯とトルク伝達のために係合する。これにより制限歯は、トルクまたは少なくともその一部を軸からスライドスリーブを介してギヤホイールあるいは爪部分に伝達するために利用される。こうしてスライドスリーブの負荷容量が、制限歯によって高められる。
【0028】
同期装置および/または爪クラッチの好ましい設計において、トルクは、一様にシフトスリーブの歯に分配され、歯は、複数の係合歯と、少なくとも1つの制限歯とを有している。特に、シフトスリーブの、トルクを伝達する歯は、係合歯と、単数または複数の制限歯とに限定されている。
【0029】
本発明の別の特徴、利点および作用は、本発明の好ましい一実施例の以下の説明と、添付の図面とから看取可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施例としての同期装置の概略的な3次元の半径方向平面図である。
【
図2】
図1に示した同期装置のスライドスリーブを著しく概略化した、歯の位置を説明するための軸方向平面図である。
【
図3】スライドスリーブとクラッチ部分との間の接触領域の概略的な3次元の軸方向平面図である。
【
図4】先行の図面に示したスライドスリーブの複数の制限歯のうちの1つの制限歯を一部断面して示した半径方向平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、著しく概略化した形で、車両のトラクションモーメントを伝達する、車両のトランスミッション用の同期装置1を示している。同期装置1は、トルクを、概略的にのみ示した軸2から、同じく概略的にのみ示したギヤホイール3に選択的に導くという機能を有している。特に同期装置1は、軸2とギヤホイール3との間のモーメント経路を開閉するために用いられる。さらに同期装置1は、ギヤホイール3の回転数を軸2の回転数に同化させるために用いられる。同期装置1は、1つのギヤホイール3しか有していないこともあれば、各側に1つずつギヤホイール3を有していることもある。
【0032】
同期装置1は、キャリア体4を有し、キャリア体4は、相対回動不能に軸2に外嵌されている。例えばキャリア体4は、歯列を介して軸2に相対回動不能に結合されている。キャリア体4は、キャリア歯列5を有し、キャリア歯列5は、外歯列として形成されており、複数の、軸2に関してかつ/または軸2により規定された主軸線Hに関して軸方向で、軸方向で方向付けられている。
【0033】
キャリア体4には、スライドスリーブ6が配置されており、スライドスリーブ6は、主軸線Hに関して軸方向で矢印7に示したように摺動可能である。スライドスリーブ6は、環状に延びる溝8を備え、溝8には、シフトフォークまたは類似のシフト部材が係合する。スライドスリーブ6は、主軸線Hおよび/または軸2に関して同軸かつ/または同心に配置されたリング体として形成されている。その半径方向の内面に、スライドスリーブは、複数の歯9を有しており、歯9は、同じく主軸線Hに関して軸方向で延在し、キャリア歯列5と係合しているので、軸2からキャリア体4を介してスライドスリーブ6にトルクを導入することができる。トルクを反対方向に導くことも可能である。
【0034】
図1に示したシフト位置では、スライドスリーブ6は、量dの分だけ左方に変位され、相対回動不能にギヤホイール3に結合されたクラッチ部分10と係合している。クラッチ部分10は、クラッチ歯列11を有し、クラッチ歯列11は、外歯列として形成されている。スライドスリーブ6の歯9は、少なくとも一部において、クラッチ歯列11と係合している。これにより、スライドスリーブ6を介して、クラッチ部分10、ひいてはギヤホイール3は、キャリア体4、ひいては軸2に、主軸線H回りの回転方向で相対回動不能に結合される。
【0035】
キャリア体4とクラッチ部分10との間に配置されていて、スライドスリーブ6の軸方向摺動時、キャリア体4の回転数とギヤホイール3の回転数とを摩擦結合により同期させる機能を有するシンクロナイザリングセットは、図示していない。
【0036】
図2には、スライドスリーブ6を著しく概略化して軸方向平面図で示してある。この軸方向平面図には、再度、スライドスリーブ6が主軸線Hあるいは軸2に関して同軸に配置されていることが看取可能である。歯9は、2種類の歯、すなわち、係合歯12と制限歯13とに分類可能である。歯9を主軸線H回りの周方向で分配すべく、まず、ピッチtおよびピッチ位置Tを規定する。スライドスリーブ6は、周方向で、同じ大きさの複数の円セグメントに分割され、円セグメントは、それぞれ1つのピッチtを有し、ピッチtにより、ピッチ位置Tは、互いに離間している。ピッチとは、主軸線H回りの周方向での弧長または角度と解される。
【0037】
スライドスリーブ6は、少なくとも1つの係合領域14を備え、係合領域14内には、複数の係合歯12が、ピッチtの間隔でピッチ位置Tに配置されている。これによりピッチtは、係合歯12の最短の間隔(弧長または角度)を規定している。
【0038】
スライドスリーブ6が係合歯12でもってクラッチ歯列11に、具体的には回転方向に関して自由選択的に係合すべきであるため、クラッチ歯列11も、同じピッチtを有している。これに対して制限歯13は、ピッチt外にかつ/または複数のピッチ位置Tのうちの1つのピッチ位置の横に配置されている。比喩的にいえば、制限歯13は、係合歯12間の歯隙間内に配置されている。
図2から看取可能であるように、制限歯13と、隣接する係合歯12との間の間隔は、ピッチtの1.5倍である。これにより制限歯13は、回転方向で見て、制限歯13がクラッチ歯列11に挿入され得ないように配置されている。
【0039】
この実態は、
図3に、クラッチ部分10と、スライドスリーブ6、あるいはスライドスリーブ6の歯9との間の接触領域の軸方向平面図に再度示してある。小径のピッチ円直径により、ピッチtを有するクラッチ歯列11が看取可能である。これに対して、大径のピッチ円直径により、スライドスリーブ6の内歯列が看取可能であり、係合歯12と制限歯13との間の間隔は、1.5tである。これにより制限歯13は、クラッチ歯列11の2つの歯間の歯隙間内には配置されず、軸方向平面図に看取可能であるように、歯9を軸方向でクラッチ歯列11に挿入する際、乗り越えることのできない干渉輪郭を形成している。これにより、単数の制限歯13または複数の制限歯13は、クラッチ部分10あるいはギヤホイール3に向かうスライドスリーブ6の軸方向運動をエンドストッパとして制限するという役割を担っている。
【0040】
図4には、複数の制限歯13のうちの1つの制限歯を半径方向平面図で示してある。看取可能であるように、制限歯13は、軸方向で2つの制限面15を有し、制限面15は、主回転軸線Hに関して一半径方向平面内に方向付けられている。これらの制限面15でもって、制限歯13は、軸方向でクラッチ歯列11に突き当たるので、エンドストッパが形成されている。軸方向の延在長さに関して、制限歯13は、係合歯12より短く形成されており、この軸方向の延在長さの差は、単数の係合歯12あるいは複数の係合歯12が、クラッチ歯列11に形状結合式に係合し、相対回動不能な結合を形成することができるようにするために用いられる。
【0041】
看取可能であるように、制限歯13は、その軸方向の延在長さの少なくとも90パーセントにわたって、一定の歯形を有している。制限歯13の歯形は、係合歯12の歯形と同一に形成されている。
【0042】
キャリア体4あるいはキャリア歯列5は、係合歯12も、制限歯13も、トルク伝達のために利用されるように形成されている。これによりキャリア歯列5は、係合歯12と制限歯13とに係合する歯を有している。歯形が制限歯13と係合歯12とで同一にまたは同じ構造に形成されていることにより、制限歯13と係合歯12とは、キャリア歯列5と係合したとき、同じ動的な特性および同じ静的な特性も有しているので、制限歯13は、キャリア体4とスライドスリーブ6との間でトルクを伝達するための条件を十分に満たした歯9として利用可能である。特に歯9は、制限歯13と係合歯12とを介してそれぞれ同じ大きさのトルクを伝達し得るように形成されている。
【0043】
スライドスリーブ6の上述の構成により、制限歯13は、トルク伝達に利用されることができ、その結果、係合歯12間の、トルク伝達に利用されない隙間が減じられている。これにより、スライドスリーブ6の負荷容量が高められる。係合歯12の歯形と、制限歯13の歯形とが、同じに形成されていることにより、主軸線H回りの周方向で一様なまたは少なくとも略一様なトルク伝達も得られる。
【符号の説明】
【0044】
1 同期装置
2 軸
3 ギヤホイール
4 キャリア体
5 キャリア歯列
6 スライドスリーブ
7 矢印
8 溝
9 歯
10 クラッチ部分
11 クラッチ歯列
12 係合歯
13 制限歯
14 係合領域
15 制限面
H 主軸線
d 量
t ピッチ