特許第6976327号(P6976327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6976327化学塞栓用エマルジョン組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976327
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】化学塞栓用エマルジョン組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/704 20060101AFI20211125BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20211125BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 49/18 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 49/04 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   A61K31/704
   A61K31/407
   A61K31/4745
   A61K31/337
   A61K9/107
   A61K47/34
   A61P35/00
   A61K49/18
   A61K49/04 210
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-526476(P2019-526476)
(86)(22)【出願日】2017年9月22日
(65)【公表番号】特表2020-502061(P2020-502061A)
(43)【公表日】2020年1月23日
(86)【国際出願番号】KR2017010498
(87)【国際公開番号】WO2018093037
(87)【国際公開日】20180524
【審査請求日】2019年7月9日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0154321
(32)【優先日】2016年11月18日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521268484
【氏名又は名称】サムヤン、ホールディングス、コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】SAMYANG HOLDINGS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ユン・ヘジョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ヘジン
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2004−0066300(KR,A)
【文献】 特表2005−505674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 47/00−47/69
A61K 9/00−9/72
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分として水溶性抗癌剤、水不溶性抗癌剤またはこれらの組み合わせ、および親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ナノ粒子;
水溶性造影剤;および、
水不溶性造影剤を含む、化学塞栓用エマルジョン組成物であって、
前記水溶性抗癌剤は、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、マイトマイシンCおよびイリノテカンからなる群より選択された1以上であるか、前記水不溶性抗癌剤は、パクリタキセルおよびドセタキセルからなる群より選択された1以上のものであり、
前記親水性(A)ブロックは、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリールアミド、およびその誘導体から構成された群より選択された1種以上のものであり、前記疎水性(B)ブロックは、ポリエステル、ポリアンハイドライド、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、およびポリフォスファゼンから構成された群より選択される1種以上のものであり、
前記水溶性造影剤は、イオパミドール(iopamidol)であ、前記水不溶性造影剤は、ケシの実由来のヨード化油、大豆由来のヨード化油およびエチオドール(ethiodol)からなる群より選択された1以上のものである、化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項2】
前記水不溶性抗癌剤は、パクリタキセルである、請求項1に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項3】
前記親水性(A)ブロックは、モノメトキシポリエチレングリコール、モノアセトキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンとプロピレングリコールの共重合体、およびポリビニルピロリドンから構成された群より選択された1種以上のものであり、
前記疎水性(B)ブロックは、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリラクチドとグリコライドの共重合体、ポリラクチドとポリジオキサン−2−オンの共重合体、ポリラクチドとポリカプロラクトンの共重合体およびポリグリコライドとポリカプロラクトンの共重合体から構成された群より選択される1種以上のものである、請求項1に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項4】
前記親水性(A)ブロックまたは疎水性(B)ブロックの数平均分子量が500乃至50,000Daであるものである、請求項1に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項5】
前記親水性(A)ブロックと疎水性(B)ブロックの重量比が2:8乃至8:2であるものである、請求項1に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項6】
前記高分子ナノ粒子がカルボン酸末端基を含有するポリ乳酸誘導体を追加的に含むものである、請求項1に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項7】
前記カルボン酸末端基を含有するポリ乳酸誘導体が化学式1乃至6の化合物からなる群より選択される1以上であるものである、請求項6に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物:
【化1】
前記化学式1で、
Aは−COO−CHZ−であり;
Bは−COO−CHY−、−COO−CHCHCHCHCH−または−COO−CHCHOCHであり;
Rは水素原子、アセチル、ベンゾイル、テカノイル、パルミトイル、メチル、またはエチル基であり;
ZとYは、それぞれ水素原子、メチルまたはフェニル基であり;
MはNa、K、またはLiであり;nは1乃至30の整数であり;mは0乃至20の整数である。
【化2】
前記化学式2で、
Xはメチル基であり;
Y’は水素原子またはフェニル基であり;
pは0乃至25の整数であり、qは0乃至25の整数であって、ただし、p+qは5乃至25の整数であり;
Rは水素原子、アセチル、ベンゾイル、テカノイル、パルミトイル、メチルまたはエチル基であり;
MはNa、K、またはLiであり;
Zは水素原子、メチルまたはフェニル基である。
【化3】
前記化学式3で、
W−M’は
【化4】
または
【化5】
であり;
PADはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体およびD,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体から構成されたグループより選択されるものであり;
Rは水素原子、アセチル、ベンゾイル、テカノイル、パルミトイル、メチルまたはエチル基であり;
Mは独立にNa、K、またはLiである。
【化6】
前記化学式4で、
Sは
【化7】
であり;Lは−NR1−または−0−であり、ここでR1は水素原子またはC1−10アルキルであり;QはCH、CHCH、CHCHCH、CHCHCHCH、またはCHであり;aは0乃至4の整数であり;bは1乃至10の整数であり;MはNa、K、またはLiであり;
PADはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体、およびD,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体からなる群より選択されるものである。
【化8】
前記化学式5で、R’は−PAD−O−C(O)−CHCH−C(O)−OMであり、
ここでPADはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体、D,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体から構成されたグループより選択されるものであり、MはNa、K、またはLiであり;aは1乃至4の整数である。
【化9】
前記化学式6で、
XおよびX’は独立に水素、炭素数が1〜10であるアルキルまたは炭素数が6〜20であるアリールであり;
YおよびZは独立にNa、K、またはLiであり;
mおよびnは独立に0乃至95の整数であって、5<m+n<100であり;
aおよびbは独立に1乃至6の整数であり;
Rは−(CH)k−、炭素数が2乃至10である2価アルケニル(divalent alkenyl)、炭素数が6乃至20である2価アリール(divalent aryl)またはこれらの組み合わせであり、ここでkは0乃至10の整数である。
【請求項8】
前記ポリ乳酸誘導体のカルボキシ末端基が2価または3価金属イオンで固定されたものである、請求項7に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項9】
前記2価または3価金属イオンが、カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、バリウム(Ba2+)、クロム(Cr3+)、鉄(Fe3+)、マンガン(Mn2+)、ニッケル(Ni2+)、銅(Cu2+)、亜鉛(Zn2+)およびアルミニウム(Al3+)からなるグループより選択されるものである、請求項8に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項10】
前記水溶性造影剤または水不溶性造影剤の粘度は、それぞれ37℃で10乃至40mPaであるものである、請求項1に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項11】
前記全体エマルジョン組成物基準に抗癌剤の濃度が1乃至40mg/mlになるように高分子ナノ粒子が水溶性造影剤中に溶解されているものである、請求項1に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項12】
前記高分子ナノ粒子が溶解されている水溶性造影剤と水不溶性造影剤の体積比が1:2乃至1:10であるものである、請求項11に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【請求項13】
前記エマルジョン組成物の粘度が37℃で20乃至50mPaであるものである、請求項1に記載の化学塞栓用エマルジョン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学塞栓術に用いることができる、抗癌剤および生分解性高分子を含む高分子ナノ粒子と水溶性造影剤および水不溶性造影剤を含むエマルジョン組成物およびこれを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TACE(Transarterial chemoembolization、動脈化学塞栓術)は癌組織に繋がる動脈に抗癌剤を注入し、塞栓物質を利用して癌組織に栄養供給を遮断して癌を治療する方法である。代表的な動脈塞栓術は肝動脈塞栓術があり、肝癌に対する局所抗癌効果を極大化し、多くの場合、姑息的治療(palliative therapy)としての役割を担当する。
【0003】
肝癌は癌腫による死亡の原因のうち、韓国で2位、全世界で3位である予後が不良な悪性腫瘍である。肝癌患者の70%以上で根治的手術が不可能であり、根治的切除術を施行した場合にも5年以内に他の部位で再発する確率が50%以上である。進行性肝癌で全身抗癌療法に反応する可能性は10%以内に非常に低く、これに対する代案として非手術的な治療方法として多様な画像誘導治療法(Image−guided therapy)が発達している。肝癌に適用される画像誘導治療法として代表的なものは2種類があり、その一つは肝動脈を通じて肝癌に抗癌剤を局所的に注入し、肝動脈に対する塞栓術を併行する治療法である経動脈化学塞栓術(Transarterial Chemoembolization;TACE)であり、他の一つは高周波熱治療(Radiofrequency Ablation;RFA)である。
【0004】
肝癌組織に供給される血流の95%以上が肝動脈に伝達されるが、周辺部の健康な組織に供給される血流は75%以上肝門脈に伝達され、25%だけが肝動脈に伝達されるため、TACEは正常組織に損傷を起こさずに安全かつ有効な治療法である。
【0005】
TACEは、普通1年に3〜4回にわたって繰り返して施術されるため、投与物質が安全であることが要求される。既存の動脈塞栓術に主に使用される薬物は、ドキソルビシン、シスプラチン、エピルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシンCなどである。この水溶性抗癌剤は、水不溶性造影剤に直接溶解され得ないため、パミレイのような水溶性造影剤に溶解した後、リピオドールのような水不溶性造影剤(ヨード化油)に均質に分散させた水中油型または油中水型のエマルジョン形態に調製する。このエマルジョンは一定時間以降に相分離が起こるため、患者投与直前に調製して用いる。化学塞栓を実施し、追加的にゼラチンスポンジ粒子、ポリビニルアルコール粒子などを投与して癌組織の虚血性壊死を促進し、薬物の消失を防止する。しかし、投与されたエマルジョンは投与後短時間に相分離が発生して抗癌剤が一時に吸収されるため、抗腫瘍効果が持続的でなく、全身暴露による副作用が発生することがある。TACEに投与された大部分の細胞毒性抗癌剤は肝で代謝されるため、肝毒性を示すことがある。このような理由で患者は塞栓後症候群(postembolization syndrome)を示し、日常生活が困難で2〜3日間入院しなければならないため、医療費用が高い。
【0006】
最近は、選択的に使用される化学塞栓用粒子(drug eluting bead、DEB)は非吸収性ポリビニルアルコールなどで作って塞栓粒子に薬物をイオン交換方式で吸着させて投与する製品であり、粒子の大きさは40〜900μm範囲である。エマルジョンの液滴に比べて粒子の範囲が均質化し、再現性があり、薬物が徐々に放出されるため、薬物の全身暴露が少ないという長所がある。しかし、投与以降に薬物が完全に放出されないため、投与後28日まで50%未満が放出され、90日経過以降に90%程度放出され、比較的に徐々に癌組織に薬物が高濃度に蓄積される。それだけでなく、薬物を吸着させる時間が1〜2時間以上かかかり、非吸収性で薬物が完全に放出された以降にも粒子が体内に残留するため、正常組織の壊死を誘発することがあり、TACE反復施術が困難になることがある。しかも、既存のTACE方法に比べて薬剤費が高くて患者の費用負担が大きい。
【0007】
前述したように、既存のTACEおよびDEBに使用される薬物は水溶性抗癌剤に限定され、パクリタキセルのような水不溶性抗癌剤は使用されていない。パクリタキセルは、卵巣癌、乳癌、非小細胞肺癌などの各種癌に対して強力な抗腫瘍効果が検証された細胞毒性抗癌剤であるが、水不溶性であるため、エマルジョンの形態で投与することが不可能である。リピオドールに抗癌剤を溶解して投与する場合、リピオドールが癌組織だけでなく、正常組織まで侵入して肝以外の組織、特に肺に簡単に蓄積されて毒性が現れることがある。水溶性造影剤を含む油中水型エマルジョンに比べて粘度が低くて癌組織滞留時間が短い。市販されたパクリタキセル注射剤はブリストル・マイヤーズスクイブ社により開発されたタキソール注射液(登録商標)がある。可溶化剤としてクレモフォールELを用い、投与前にマイクロエマルジョン形態で投与する。しかし、可溶化剤による過敏反応などの毒性が誘発されるため、TACEに適しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水溶性抗癌剤、水不溶性抗癌剤またはこれらの組み合わせ、および親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ナノ粒子;水溶性造影剤;および、水不溶性造影剤を含む、化学塞栓用エマルジョン組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、前記化学塞栓用エマルジョン組成物の製造方法および前記化学塞栓用エマルジョン組成物を含む癌の予防または治療用医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、前記目的を達成するために、活性成分である抗癌剤と両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ナノ粒子を製造し、水溶性造影剤に溶解した後、これを再び水不溶性造影剤に分散させて形成されたエマルジョン組成物を製造して水溶性抗癌剤だけでなく、水不溶性抗癌剤を安定的に投与することができ、薬物の放出速度を調節することができる組成物を開発した。
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
本発明の一例は、活性成分として水溶性抗癌剤、水不溶性抗癌剤またはこれらの組み合わせ、および親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ナノ粒子;水溶性造影剤;および、水不溶性造影剤を含む、化学塞栓用エマルジョン組成物を提供する。
【0013】
前記活性成分として使用される抗癌剤は、化学塞栓術に使用可能な抗癌剤であれば制限なしに含まれ、例えば前記水溶性抗癌剤は、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、マイトマイシンCおよびイリノテカンからなる群より選択された1以上であってもよく、前記水不溶性抗癌剤は、パクリタキセルおよびドセタキセルからなる群より選択された1以上であってもよい。現在までは化学塞栓術に水不溶性抗癌剤、特にパクリタキセルが使用されたことがないが、本発明のエマルジョン組成物は、パクリタキセルを適用して化学塞栓用エマルジョン組成物形態で投与可能である。
【0014】
前記抗癌剤の含有量は、高分子ナノ粒子100重量%を基準に、0.01乃至30重量%、好ましくは1乃至20重量%、より好ましくは5乃至10重量%で含まれてもよい。また本発明の組成物に含まれる抗癌剤は、エマルジョン組成物全体を基準に1乃至40mg/ml、好ましくは1乃至10mg/mlの濃度で含まれてもよい。
【0015】
本発明の組成物に含まれる両親媒性高分子は、親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む高分子である。前記両親媒性高分子に含まれる親水性(A)ブロックは、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリールアミド、およびその誘導体から構成された群より選択された1種以上であってもよい。例えば、前記親水性(A)ブロックは、モノメトキシポリエチレングリコール、モノアセトキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンとプロピレングリコールの共重合体、およびポリビニルピロリドンから構成された群より選択された1種以上であってもよい。また前記両親媒性高分子に含まれる疎水性(B)ブロックは、ポリエステル、ポリアンハイドライド、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、およびポリフォスファゼンから構成された群より選択される1種以上であってもよく、例えば、前記疎水性(B)ブロックは、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリラクチドとグリコライドの共重合体、ポリラクチドとポリジオキサン−2−オンの共重合体、ポリラクチドとポリカプロラクトンの共重合体およびポリグリコライドとポリカプロラクトンの共重合体から構成された群より選択される1種以上またはこれらの塩であってもよい。
【0016】
前記親水性ブロック(A)または疎水性(B)ブロックの数平均分子量は、500乃至50,000Da、好ましくは1,000乃至5,000Daであるものを用いることができる。
【0017】
本発明の組成物に含まれる両親媒性ブロック共重合体は、高分子ナノ粒子100重量%を基準に1乃至30重量%、好ましくは1乃至20重量%であってもよい。また両親媒性ブロック共重合体に含まれている親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックの重量比は、2:8乃至8:2であってもよく、好ましくは6:4乃至4:6であってもよい。
【0018】
例えば本発明の両親媒性ブロック共重合体として、mPEG−ポリ(D,L−ラクチド)を用いることができる。
【0019】
本発明の組成物に含まれている高分子ナノ粒子は、コアに薬物を含み、両親媒性ブロック共重合体が膜をなしてミセル(micelle)を形成したものであってもよい。高分子ナノ粒子の内部には両親媒性ブロック共重合体の疎水性基または水不溶性抗癌剤を含む場合、水不溶性抗癌剤が位置し、外部は両親媒性ブロック共重合体の親水性グループまたは水溶性抗癌剤を含む場合、水溶性抗癌剤が位置する。
【0020】
前記高分子ナノ粒子の大きさは、水溶性造影剤に溶解可能な大きさであることが好ましく、例えば高分子ナノ粒子の直径は10乃至60nmであってもよい。
【0021】
本発明の組成物に含まれている高分子ナノ粒子は、カルボン酸末端基を含有するポリ乳酸誘導体を追加的に含んでもよい。前記ポリ乳酸誘導体を追加的に含む場合、両親媒性ブロック共重合体およびポリ乳酸誘導体は、5:95乃至95:5、好ましくは60:40乃至90:10の重量比に含まれてもよい。
【0022】
前記ポリ乳酸誘導体のカルボン酸末端基は、2価または3価金属イオンで固定されてもよい。前記2価または3価金属イオンは、ポリ乳酸誘導体のカルボン酸末端基とイオン結合してより固いナノ粒子を形成することができる。前記2価または3価金属イオンは、ポリ乳酸誘導体のカルボキシ基末端基の1当量に対して0.5乃至10当量、好ましくは0.5乃至1当量で結合されてもよい。
【0023】
例えば、前記2価または3価金属イオンは、カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、バリウム(Ba2+)、クロム(Cr3+)、鉄(Fe3+)、マンガン(Mn2+)、ニッケル(Ni2+)、銅(Cu2+)、亜鉛(Zn2+)およびアルミニウム(Al3+)からなるグループより1以上選択されてもよいが、これに限定されない。
【0024】
例えば、前記カルボン酸末端基を含有するポリ乳酸誘導体は、下記の化学式1乃至6の化合物からなる群より選択された1以上であってもよい。
【0025】
【化1】
前記化学式1で、Aは−COO−CHZ−であり;Bは−COO−CHY−、−COO−CHCHCHCHCH−または−COO−CHCHOCHであり;Rは水素原子、アセチル、ベンゾイル、テカノイル、パルミトイル、メチル、またはエチル基であり;ZとYは、それぞれ水素原子、メチルまたはフェニル基であり;MはNa、K、またはLiであり;nは1乃至30の整数であり;mは0乃至20の整数である。
【0026】
【化2】
前記化学式2で、
Xはメチル基であり;
Y’は水素原子またはフェニル基であり;
pは0乃至25の整数であり、qは0乃至25の整数であって、ただし、p+qは5乃至25の整数であり;
Rは水素原子、アセチル、ベンゾイル、テカノイル、パルミトイル、メチルまたはエチル基であり;
MはNa、K、またはLiであり;
Zは水素原子、メチルまたはフェニル基である。
【0027】
【化3】
前記化学式3で、
W−M’は
【化4】
または
【化5】
であり;
PADはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体およびD,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体から構成されたグループより選択されるものであり;
Rは水素原子、アセチル、ベンゾイル、テカノイル、パルミトイル、メチルまたはエチル基であり;Mは独立にNa、K、またはLiである。
【0028】
【化6】
前記化学式4で、
Sは
【化7】
であり;Lは−NR1−または−0−であり、ここでR1は水素原子またはC1−10アルキルであり;QはCH、CHCH、CHCHCH、CHCHCHCH、またはCHであり;aは0乃至4の整数であり;bは1乃至10の整数であり;MはNa、K、またはLiであり;
PADはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体、およびD,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体からなる群より選択されるものである。
【0029】
【化8】
前記化学式5で、
R’は−PAD−O−C(O)−CHCH−C(O)−OMであり、
ここでPADはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体、D,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体から構成されたグループより選択されるものであり、MはNa、K、またはLiであり;
aは1乃至4の整数である。
【0030】
【化9】
前記化学式6で、
XおよびX’は独立に水素、炭素数が1〜10であるアルキルまたは炭素数が6〜20であるアリールであり;
YおよびZは独立にNa、K、またはLiであり;
mおよびnは独立に0乃至95の整数であって、5<m+n<100であり;
aおよびbは独立に1乃至6の整数であり;
Rは−(CH)k−、炭素数が2〜10である2価アルケニル(divalent alkenyl)、炭素数が6〜20である2価アリール(divalent aryl)またはこれらの組み合わせであり、ここでkは0乃至10の整数である。
【0031】
本発明のエマルジョン組成物に使用される水溶性造影剤は、ヨードを含む水溶性溶液として、好ましくはイオパミドール(iopamidol)を、製品名でパミレイ(商品名)を用いることができる。また、前記水不溶性造影剤は、ヨード化油として、楊貴妃の果実由来のヨード化油、大豆由来のヨード化油およびエチオドール(ethiodol)からなる群より選択された1以上であってもよく、好ましくケシの実由来のヨード化油として、製品名でリピオドール(商品名)を用いることができる。
【0032】
本発明に使用される水不溶性造影剤および水溶性造影剤の粘度は、それぞれ37℃で10乃至40mPaである。これは抗癌剤ナノ粒子をエマルジョン化して投与する時、血管通過が容易であり、癌組織にエマルジョンが滞留する時間を十分に確保するためである。より好ましくは、水不溶性造影剤および水溶性造影剤の粘度は、それぞれ37℃で20乃至30mPaである。
【0033】
好ましくは、前記高分子ナノ粒子が溶解されている水溶性造影剤および水不溶性造影剤の体積比が1:2乃至1:10であってもよく、より好ましくは1:3乃至1:5であってもよい。
【0034】
本発明によるエマルジョン組成物は、ナノ粒子が水溶性造影剤に溶解された溶液が水不溶性造影剤内で液滴になって油中水型エマルジョンをなした形態であってもよい。そのために、エマルジョン組成物を体内投与する場合、エマルジョンの液滴により薬物の放出を1次調節することができ、ナノ粒子により薬物放出を2次制御することができる。そのために、急速な薬物放出による全身毒性を減少させることができ、特に癌組織で薬物の放出が持続して抗腫瘍効果を高めることができる。
【0035】
好ましくは、前記エマルジョン組成物の液滴の大きさは、10乃至100μmであってもよく、好ましくは20乃至40μmであってもよい。
【0036】
前記エマルジョン組成物の粘度は、化学塞栓術に適するように調節して用いることができ、37℃で20乃至50mPa、好ましくは25乃至45mPaであってもよい。
【0037】
前記エマルジョン組成物が使用される用途として化学塞栓術は、好ましくは動脈化学塞栓術(TACE、Transarterial chemoembolization)であり、癌組織に繋がる動脈に抗癌剤を注入し、塞栓物質を利用して癌組織に栄養供給を遮断して癌を治療する方法であってもよい。
【0038】
また他の例として、本発明は、前記エマルジョン組成物を含む、癌の予防または治療用医薬組成物に関するものである。前記癌は血管形成依存的なものを含み、好ましくは肝癌、卵巣癌、乳癌および非小細胞肺癌からなる群より選択された1以上であり、より好ましくは肝癌である。肝門脈の内径は50乃至100μmであり、肝門脈末端の内径は15乃至50μmであり、肝類洞は5乃至8μmであり、末端毛細管後細静脈は25μm以下であり、肝動脈は35乃至45μmである。本発明の組成物は、特に液滴の大きさの特性のため、肝動脈のような内径の血管に対して選択性を有することができ、肝類洞のような非常に狭い血管に入ることは難しい。
【0039】
本発明の医薬組成物は、エマルジョン製造後0乃至2時間、好ましくは0乃至1時間内に投与されることを特徴とし、従来の化学塞栓術に使用される組成に比べて長時間の間に高分子ナノ粒子内抗癌剤の移動が低く維持されることによって安定性に優れている。
【0040】
前記医薬組成物の投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状の重症度により医師が判断して調節することができ、例えば少なくとも3ヶ月ごとに反復施術が可能である。肝動脈のように固形癌に血液を供給する動脈を通じて例えば1回に5乃至15mlずつ投与することができる。
【0041】
また他の例として、本発明は、前記エマルジョン組成物を用いて動物、好ましくは人間を除いた動物に化学塞栓術を行う方法を含む。前記エマルジョン組成物に関する事項は、エマルジョン組成物の使用方法に適用可能である。
【0042】
また他の例として、本発明は、活性成分として水溶性抗癌剤、水不溶性抗癌剤またはこれらの組み合わせ、および親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を含むナノ粒子を製造する段階;高分子ナノ粒子を水溶性造影剤に溶解する段階;および水溶性造影剤に溶解された高分子ナノ粒子溶液を水不溶性造影剤に分散させてエマルジョンを製造する段階を含む、化学塞栓用エマルジョン組成物製造方法を提供する。
【0043】
前記エマルジョン組成物に関する事項はエマルジョン組成物製造方法に適用可能である。
【0044】
前記ナノ粒子製造段階で、薬物および生分解性高分子を有機溶媒に溶解した後、これを乾燥してナノ粒子を製造することができる。製造されたナノ粒子は、水溶性造影剤に溶解させ、前記ナノ粒子が水溶性造影剤に溶解された溶液が液滴になるように水不溶性造影剤に分散させてエマルジョン組成物を製造することができる。
【0045】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、メチレンクロライドおよびアセトニトリルからなる群より選択された1以上であってもよいが、これに限定されない。
【0046】
前記ナノ粒子を製造する段階は具体的に、抗癌剤および両親媒性ブロック共重合体が溶解された有機溶媒を減圧および加温して溶媒を除去して均質なマトリックスになるようにした後、注射用精製水を加えて再び溶解する。以降、ポリ乳酸ナトリウム塩またはポリマンデル酸ナトリウム塩が使用された場合には、前記2価金属を加えてイオン結合をなすようにして固い粒子になるようにした後、濾過滅菌して凍結乾燥して製造することができる。
【0047】
本発明による具体的な一実施例として、前記方法により製造された溶液は25℃で5時間以上安定しており、37℃で2時間以上安定していることができ、溶液中の薬物の濃度は1乃至40mg/mlであり、より好ましくは10乃至30mg/mlである。
【0048】
前記エマルジョンを製造する段階で、前記溶液を水不溶性造影剤に分散させる方法は3−ウェイストップコックを利用したポンプ法、超音波を利用する方法などを用いることができるが、これに限定されない。
【0049】
本発明の一例は、活性成分として水溶性抗癌剤、水不溶性抗癌剤またはこれらの組み合わせ、および親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ナノ粒子;水溶性造影剤;および、水不溶性造影剤を含む、化学塞栓用エマルジョン組成物を薬剤学的有効量でこれを必要とする対象に投与する段階を含む癌予防または治療方法を提供する。
【0050】
本明細書で「対象」は、任意の人間または非人間動物を含む。用語「非人間動物」は非人間脊椎動物、例えば非人間霊長類、羊、犬、および齧歯類、例えばマウス、ラットおよびギニアピッグを含むが、これに制限されない。
【0051】
本明細書で「抗癌剤」は、対象から癌退行を増進させる。他の実施様態で、治療上、有効量の薬物は癌を除去する地点まで癌退行を増進させる。「癌退行を増進させる」ことは、有効量の抗癌剤を単独で投与したり他の抗癌剤と調合して投与すれば、腫瘍成長または大きさが減少したり、腫瘍が壊死したり、少なくとも一つの疾患症状の重症度が減少したり、疾患症状がない期間の頻度および持続性が増加したり、または疾患の苦痛による損傷または障害が防止されるということを意味する。
【0052】
本発明の方法は、血管形成依存的な癌に適用することができ、好ましくは肝癌、卵巣癌、乳癌および非小細胞肺癌からなる群より選択された1以上、より好ましくは肝癌に適用することができる。前記エマルジョン組成物は、動脈内に(intra−arterially)投与されてもよく、例えば、前記癌は肝癌であり、動脈内投与は肝動脈注入法または経動脈化学塞栓法(transarterial chemoembolization)であってもよい。
【発明の効果】
【0053】
本発明のエマルジョン組成物は、抗癌剤を油中水型のエマルジョン形態で投与することができるため、水溶性抗癌剤だけでなく、水不溶性抗癌剤を化学塞栓用で用いることができ、狭い動脈血管より大きい動脈血管に対して選択性を有することができる。
【0054】
本発明によるエマルジョン組成物は、両親媒性ブロック共重合体で製造されて生体適合性に優れ、薬物が2次にかけて徐々に放出されるため、抗腫瘍効果が持続的であり、全身毒性が低い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】パクリタキセル高分子ナノ粒子溶液を保管した後の薬物の沈澱量変化を示したものである。
図2】パクリタキセル高分子ナノ粒子エマルジョンの薬物放出試験結果を示したものである。
図3】パクリタキセル高分子ナノ粒子エマルジョンおよびドキソルビシンエマルジョン投与後の癌組織の大きさ変化を示したものである。
図4】パクリタキセル高分子ナノ粒子エマルジョン、ドキソルビシンエマルジョンおよびパクリタキセル溶液投与後の生存腫瘍比率(viable tumor portion)結果を示したものである。
図5】パクリタキセル高分子ナノ粒子エマルジョン、ドキソルビシンエマルジョンおよびパクリタキセル溶液でTACE実施した後のAST変化量を示したものである。
図6】パクリタキセル高分子ナノ粒子エマルジョン、ドキソルビシンエマルジョンおよびパクリタキセル溶液でTACE実施した後のALT変化量を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明が下記の実施例により限定されるのではない。
【実施例】
【0057】
<実施例1>高分子ナノ粒子の製造
パクリタキセル450mg、mPEG−ポリ(D,L−ラクチド)7600mg、ポリ乳酸ナトリウム塩1642mgを称量して丸いフラスコに入れてジクロロメタン(Dichloromethane)少量に完全に溶解した後、回転蒸発器を利用して40℃の温度で溶媒を完全に除去した。ここに精製水を加えて完全に溶解して滅菌濾過し、薬物濃度が20mg/mlになるようにした後、凍結乾燥して高分子ナノ粒子を製造した。
【0058】
<実施例2>ナノ粒子および水溶性造影剤の溶液製造および溶解度の確認
水溶性造影剤としてパミレイ250(Pamiray 250、商品名、DONGKOOK製薬社製)に前記実施例1で製造したパクリタキセル高分子ナノ粒子を溶解してパクリタキセル濃度が20mg/mlになるようにした。製造された溶液を37℃の温度で200RPMで攪拌しながら時間経過による薬物の沈澱量を定量して薬物の溶解度変化を確認した。試験液は500μlずつ分注し、0、0.5、1、2、3、4および8時間後に試験液を濾過(Millex HV、PVDF、0.22μm)して濾過液中のナノ粒子に含まれている薬物濃度をHPLCで測定した。HPLC測定条件を下表1に示した。
【表1】


前記パクリタキセルナノ粒子溶液の37℃の温度保管後の薬物沈澱量変化を図1に示し、調製後37℃の温度で2時間まで薬物の溶解度は約20mg/mlに維持されたことを確認した。
【0059】
<実施例3>油中水型(W/O)エマルジョンの製造および安定性の評価
前記実施例2の溶液と水不溶性造影剤としてリピオドール(商品名)を体積比が1:4になるようにそれぞれ注射器に満たした後、3−ウェイストップコックを利用して50回以上ポンピングしてエマルジョンを製造した。
前記製造されたエマルジョンの安定性を評価するために25℃で時間により光学顕微鏡で観察して液滴の大きさ変化を観察した。その結果、製造直後10乃至30μmの大きさで均質な液滴が形成されることを確認することができた。
【0060】
また、前記製造されたエマルジョンで連続相として水不溶性造影剤であるリピオドール層 に移動するパクリタキセルの量を確認するために500μlずつ分注して200rpmで攪拌しながら37℃の温度で保管1時間経過後にウルトラフィルトレーション(分子量cut off:100kDa)してリピオドール層内薬物の量を前記表1の分析条件でHPLC分析した。
【0061】
その結果を図2に示しており、製造直後および1時間経過後のリピオドール層に移行されたパクリタキセルは全体の10%未満であることを確認した。
【0062】
<実施例4>肝癌動物での化学塞栓術
4.1 動物モデルの製作
Sprague Dawley ratを開腹して肝左葉を暴露させた後、1x10個のN1−S1 rat hepatoma tumor cell(ソウル大学病院)を接種して肝癌動物モデルを製作した。12日後にMRIを施行して腫瘍の形成の有無を確認し、腫瘍の大きさを測定した。
【0063】
4.2 化学塞栓術
前記実施例4.1で製造されたラットの頸動脈を剥離し、糸で縛って止血を予防した後、24G medicutを利用して頸動脈を穿刺した。以降、微細ガイドワイヤー(microguidewire)と微細カテーテル(microcatheter)を順次に挿入した。蛍光透視法(fluoroscopy)誘導下に腹部大動脈血管照影術を施行した後、肝動脈に前記実施例3のエマルジョンを投与し、対照薬としてドキソルビシンを水性造影剤でパミレイ250(商品名)に20mg/mlの濃度に溶解し、これをリピオドールと1:4(パミレイ:リピオドール)の体積比に混合した液と、パクリタキセルを水不溶性造影剤としてリピオドール(商品名)に溶解したものを同一容量投与した。以降、コンピュータ断層撮影と磁気共鳴画像でリピオドールが腫瘍内部に沈着したことを確認し、モデルラットの頸動脈を通じてカテーテルを挿入した後に化学塞栓術を施行した。
【0064】
4.3 癌組織の大きさ測定
実施例4.2の塞栓術実施1週、2週および3週以降に磁気共鳴(magnetic resonance)を利用して癌組織の大きさ変化を測定し、その結果を図3に示した。図3に示したように、パクリタキセル高分子ナノ粒子を水性造影剤および油性造影剤を利用したエマルジョンで投与する場合、ドキソルビシンエマルジョンに比べて癌組織の大きさが増加しないことを確認した。
【0065】
4.4 生存腫瘍比率の測定
実施例2で製造されたパクリタキセル高分子ナノ粒子エマルジョンおよび比較例としてドキソルビシンエマルジョンおよびパクリタキセル溶液でTACE実施後7日にバイオプシーを実施して正常肝潮職と癌組織を分離した。分離された組織をヘマトキシリンおよびエオシン染色して生存腫瘍比率を確認してその結果を図4に示した。
【0066】
図4に示したように、パクリタキセル高分子ナノ粒子エマルジョン投与群は、水不溶性抗癌剤を用いたにも拘わらず、水溶性抗癌剤であるドキソルビシンエマルジョン対照群と生存腫瘍比率が類似し、パクリタキセル溶液を投与した対照群と比較する場合、腫瘍生存比率が低いことを確認した。
【0067】
4.5 ASTおよびALTの測定
肝毒性の有無を確認するためにパクリタキセル高分子ナノ粒子エマルジョン、ドキソルビシンエマルジョンおよびパクリタキセル溶液にTACE実施前、実施後1日、3、7日に採血してASTおよびALTを測定した。
【0068】
測定結果を図5および図6に示しており、すべての試験群でTACE実施1日目にASTおよびALTが大きく上昇したが、3日目にはほぼ完全に回復したことを確認した。特にパクリタキセルナノ粒子エマルジョン剤形投与時、パクリタキセルリピオドール溶液投与時に比べて投与1日目にASTおよびALT増加が比較的に小さいことを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6