【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、前記目的を達成するために、活性成分である抗癌剤と両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ナノ粒子を製造し、水溶性造影剤に溶解した後、これを再び水不溶性造影剤に分散させて形成されたエマルジョン組成物を製造して水溶性抗癌剤だけでなく、水不溶性抗癌剤を安定的に投与することができ、薬物の放出速度を調節することができる組成物を開発した。
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
本発明の一例は、活性成分として水溶性抗癌剤、水不溶性抗癌剤またはこれらの組み合わせ、および親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ナノ粒子;水溶性造影剤;および、水不溶性造影剤を含む、化学塞栓用エマルジョン組成物を提供する。
【0013】
前記活性成分として使用される抗癌剤は、化学塞栓術に使用可能な抗癌剤であれば制限なしに含まれ、例えば前記水溶性抗癌剤は、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、マイトマイシンCおよびイリノテカンからなる群より選択された1以上であってもよく、前記水不溶性抗癌剤は、パクリタキセルおよびドセタキセルからなる群より選択された1以上であってもよい。現在までは化学塞栓術に水不溶性抗癌剤、特にパクリタキセルが使用されたことがないが、本発明のエマルジョン組成物は、パクリタキセルを適用して化学塞栓用エマルジョン組成物形態で投与可能である。
【0014】
前記抗癌剤の含有量は、高分子ナノ粒子100重量%を基準に、0.01乃至30重量%、好ましくは1乃至20重量%、より好ましくは5乃至10重量%で含まれてもよい。また本発明の組成物に含まれる抗癌剤は、エマルジョン組成物全体を基準に1乃至40mg/ml、好ましくは1乃至10mg/mlの濃度で含まれてもよい。
【0015】
本発明の組成物に含まれる両親媒性高分子は、親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む高分子である。前記両親媒性高分子に含まれる親水性(A)ブロックは、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリールアミド、およびその誘導体から構成された群より選択された1種以上であってもよい。例えば、前記親水性(A)ブロックは、モノメトキシポリエチレングリコール、モノアセトキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンとプロピレングリコールの共重合体、およびポリビニルピロリドンから構成された群より選択された1種以上であってもよい。また前記両親媒性高分子に含まれる疎水性(B)ブロックは、ポリエステル、ポリアンハイドライド、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、およびポリフォスファゼンから構成された群より選択される1種以上であってもよく、例えば、前記疎水性(B)ブロックは、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリラクチドとグリコライドの共重合体、ポリラクチドとポリジオキサン−2−オンの共重合体、ポリラクチドとポリカプロラクトンの共重合体およびポリグリコライドとポリカプロラクトンの共重合体から構成された群より選択される1種以上またはこれらの塩であってもよい。
【0016】
前記親水性ブロック(A)または疎水性(B)ブロックの数平均分子量は、500乃至50,000Da、好ましくは1,000乃至5,000Daであるものを用いることができる。
【0017】
本発明の組成物に含まれる両親媒性ブロック共重合体は、高分子ナノ粒子100重量%を基準に1乃至30重量%、好ましくは1乃至20重量%であってもよい。また両親媒性ブロック共重合体に含まれている親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックの重量比は、2:8乃至8:2であってもよく、好ましくは6:4乃至4:6であってもよい。
【0018】
例えば本発明の両親媒性ブロック共重合体として、mPEG−ポリ(D,L−ラクチド)を用いることができる。
【0019】
本発明の組成物に含まれている高分子ナノ粒子は、コアに薬物を含み、両親媒性ブロック共重合体が膜をなしてミセル(micelle)を形成したものであってもよい。高分子ナノ粒子の内部には両親媒性ブロック共重合体の疎水性基または水不溶性抗癌剤を含む場合、水不溶性抗癌剤が位置し、外部は両親媒性ブロック共重合体の親水性グループまたは水溶性抗癌剤を含む場合、水溶性抗癌剤が位置する。
【0020】
前記高分子ナノ粒子の大きさは、水溶性造影剤に溶解可能な大きさであることが好ましく、例えば高分子ナノ粒子の直径は10乃至60nmであってもよい。
【0021】
本発明の組成物に含まれている高分子ナノ粒子は、カルボン酸末端基を含有するポリ乳酸誘導体を追加的に含んでもよい。前記ポリ乳酸誘導体を追加的に含む場合、両親媒性ブロック共重合体およびポリ乳酸誘導体は、5:95乃至95:5、好ましくは60:40乃至90:10の重量比に含まれてもよい。
【0022】
前記ポリ乳酸誘導体のカルボン酸末端基は、2価または3価金属イオンで固定されてもよい。前記2価または3価金属イオンは、ポリ乳酸誘導体のカルボン酸末端基とイオン結合してより固いナノ粒子を形成することができる。前記2価または3価金属イオンは、ポリ乳酸誘導体のカルボキシ基末端基の1当量に対して0.5乃至10当量、好ましくは0.5乃至1当量で結合されてもよい。
【0023】
例えば、前記2価または3価金属イオンは、カルシウム(Ca
2+)、マグネシウム(Mg
2+)、バリウム(Ba
2+)、クロム(Cr
3+)、鉄(Fe
3+)、マンガン(Mn
2+)、ニッケル(Ni
2+)、銅(Cu
2+)、亜鉛(Zn
2+)およびアルミニウム(Al
3+)からなるグループより1以上選択されてもよいが、これに限定されない。
【0024】
例えば、前記カルボン酸末端基を含有するポリ乳酸誘導体は、下記の化学式1乃至6の化合物からなる群より選択された1以上であってもよい。
【0025】
【化1】
前記化学式1で、Aは−COO−CHZ−であり;Bは−COO−CHY−、−COO−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−または−COO−CH
2CH
2OCH
2であり;Rは水素原子、アセチル、ベンゾイル、テカノイル、パルミトイル、メチル、またはエチル基であり;ZとYは、それぞれ水素原子、メチルまたはフェニル基であり;MはNa、K、またはLiであり;nは1乃至30の整数であり;mは0乃至20の整数である。
【0026】
【化2】
前記化学式2で、
Xはメチル基であり;
Y’は水素原子またはフェニル基であり;
pは0乃至25の整数であり、qは0乃至25の整数であって、ただし、p+qは5乃至25の整数であり;
Rは水素原子、アセチル、ベンゾイル、テカノイル、パルミトイル、メチルまたはエチル基であり;
MはNa、K、またはLiであり;
Zは水素原子、メチルまたはフェニル基である。
【0027】
【化3】
前記化学式3で、
W−M’は
【化4】
または
【化5】
であり;
PADはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体およびD,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体から構成されたグループより選択されるものであり;
Rは水素原子、アセチル、ベンゾイル、テカノイル、パルミトイル、メチルまたはエチル基であり;Mは独立にNa、K、またはLiである。
【0028】
【化6】
前記化学式4で、
Sは
【化7】
であり;Lは−NR1−または−0−であり、ここでR1は水素原子またはC
1−10アルキルであり;QはCH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
2CH
3、またはCH
2C
6H
5であり;aは0乃至4の整数であり;bは1乃至10の整数であり;MはNa、K、またはLiであり;
PADはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体、およびD,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体からなる群より選択されるものである。
【0029】
【化8】
前記化学式5で、
R’は−PAD−O−C(O)−CH
2CH
2−C(O)−OMであり、
ここでPADはD,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、D,L−乳酸とグリコール酸の共重合体、D,L−乳酸とマンデル酸の共重合体、D,L−乳酸とカプロラクトンの共重合体、D,L−乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンの共重合体から構成されたグループより選択されるものであり、MはNa、K、またはLiであり;
aは1乃至4の整数である。
【0030】
【化9】
前記化学式6で、
XおよびX’は独立に水素、炭素数が1〜10であるアルキルまたは炭素数が6〜20であるアリールであり;
YおよびZは独立にNa、K、またはLiであり;
mおよびnは独立に0乃至95の整数であって、5<m+n<100であり;
aおよびbは独立に1乃至6の整数であり;
Rは−(CH
2)k−、炭素数が2〜10である2価アルケニル(divalent alkenyl)、炭素数が6〜20である2価アリール(divalent aryl)またはこれらの組み合わせであり、ここでkは0乃至10の整数である。
【0031】
本発明のエマルジョン組成物に使用される水溶性造影剤は、ヨードを含む水溶性溶液として、好ましくはイオパミドール(iopamidol)を、製品名でパミレイ(商品名)を用いることができる。また、前記水不溶性造影剤は、ヨード化油として、楊貴妃の果実由来のヨード化油、大豆由来のヨード化油およびエチオドール(ethiodol)からなる群より選択された1以上であってもよく、好ましくケシの実由来のヨード化油として、製品名でリピオドール(商品名)を用いることができる。
【0032】
本発明に使用される水不溶性造影剤および水溶性造影剤の粘度は、それぞれ37℃で10乃至40mPaである。これは抗癌剤ナノ粒子をエマルジョン化して投与する時、血管通過が容易であり、癌組織にエマルジョンが滞留する時間を十分に確保するためである。より好ましくは、水不溶性造影剤および水溶性造影剤の粘度は、それぞれ37℃で20乃至30mPaである。
【0033】
好ましくは、前記高分子ナノ粒子が溶解されている水溶性造影剤および水不溶性造影剤の体積比が1:2乃至1:10であってもよく、より好ましくは1:3乃至1:5であってもよい。
【0034】
本発明によるエマルジョン組成物は、ナノ粒子が水溶性造影剤に溶解された溶液が水不溶性造影剤内で液滴になって油中水型エマルジョンをなした形態であってもよい。そのために、エマルジョン組成物を体内投与する場合、エマルジョンの液滴により薬物の放出を1次調節することができ、ナノ粒子により薬物放出を2次制御することができる。そのために、急速な薬物放出による全身毒性を減少させることができ、特に癌組織で薬物の放出が持続して抗腫瘍効果を高めることができる。
【0035】
好ましくは、前記エマルジョン組成物の液滴の大きさは、10乃至100μmであってもよく、好ましくは20乃至40μmであってもよい。
【0036】
前記エマルジョン組成物の粘度は、化学塞栓術に適するように調節して用いることができ、37℃で20乃至50mPa、好ましくは25乃至45mPaであってもよい。
【0037】
前記エマルジョン組成物が使用される用途として化学塞栓術は、好ましくは動脈化学塞栓術(TACE、Transarterial chemoembolization)であり、癌組織に繋がる動脈に抗癌剤を注入し、塞栓物質を利用して癌組織に栄養供給を遮断して癌を治療する方法であってもよい。
【0038】
また他の例として、本発明は、前記エマルジョン組成物を含む、癌の予防または治療用医薬組成物に関するものである。前記癌は血管形成依存的なものを含み、好ましくは肝癌、卵巣癌、乳癌および非小細胞肺癌からなる群より選択された1以上であり、より好ましくは肝癌である。肝門脈の内径は50乃至100μmであり、肝門脈末端の内径は15乃至50μmであり、肝類洞は5乃至8μmであり、末端毛細管後細静脈は25μm以下であり、肝動脈は35乃至45μmである。本発明の組成物は、特に液滴の大きさの特性のため、肝動脈のような内径の血管に対して選択性を有することができ、肝類洞のような非常に狭い血管に入ることは難しい。
【0039】
本発明の医薬組成物は、エマルジョン製造後0乃至2時間、好ましくは0乃至1時間内に投与されることを特徴とし、従来の化学塞栓術に使用される組成に比べて長時間の間に高分子ナノ粒子内抗癌剤の移動が低く維持されることによって安定性に優れている。
【0040】
前記医薬組成物の投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状の重症度により医師が判断して調節することができ、例えば少なくとも3ヶ月ごとに反復施術が可能である。肝動脈のように固形癌に血液を供給する動脈を通じて例えば1回に5乃至15mlずつ投与することができる。
【0041】
また他の例として、本発明は、前記エマルジョン組成物を用いて動物、好ましくは人間を除いた動物に化学塞栓術を行う方法を含む。前記エマルジョン組成物に関する事項は、エマルジョン組成物の使用方法に適用可能である。
【0042】
また他の例として、本発明は、活性成分として水溶性抗癌剤、水不溶性抗癌剤またはこれらの組み合わせ、および親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を含むナノ粒子を製造する段階;高分子ナノ粒子を水溶性造影剤に溶解する段階;および水溶性造影剤に溶解された高分子ナノ粒子溶液を水不溶性造影剤に分散させてエマルジョンを製造する段階を含む、化学塞栓用エマルジョン組成物製造方法を提供する。
【0043】
前記エマルジョン組成物に関する事項はエマルジョン組成物製造方法に適用可能である。
【0044】
前記ナノ粒子製造段階で、薬物および生分解性高分子を有機溶媒に溶解した後、これを乾燥してナノ粒子を製造することができる。製造されたナノ粒子は、水溶性造影剤に溶解させ、前記ナノ粒子が水溶性造影剤に溶解された溶液が液滴になるように水不溶性造影剤に分散させてエマルジョン組成物を製造することができる。
【0045】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、メチレンクロライドおよびアセトニトリルからなる群より選択された1以上であってもよいが、これに限定されない。
【0046】
前記ナノ粒子を製造する段階は具体的に、抗癌剤および両親媒性ブロック共重合体が溶解された有機溶媒を減圧および加温して溶媒を除去して均質なマトリックスになるようにした後、注射用精製水を加えて再び溶解する。以降、ポリ乳酸ナトリウム塩またはポリマンデル酸ナトリウム塩が使用された場合には、前記2価金属を加えてイオン結合をなすようにして固い粒子になるようにした後、濾過滅菌して凍結乾燥して製造することができる。
【0047】
本発明による具体的な一実施例として、前記方法により製造された溶液は25℃で5時間以上安定しており、37℃で2時間以上安定していることができ、溶液中の薬物の濃度は1乃至40mg/mlであり、より好ましくは10乃至30mg/mlである。
【0048】
前記エマルジョンを製造する段階で、前記溶液を水不溶性造影剤に分散させる方法は3−ウェイストップコックを利用したポンプ法、超音波を利用する方法などを用いることができるが、これに限定されない。
【0049】
本発明の一例は、活性成分として水溶性抗癌剤、水不溶性抗癌剤またはこれらの組み合わせ、および親水性(A)ブロックおよび疎水性(B)ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を含む高分子ナノ粒子;水溶性造影剤;および、水不溶性造影剤を含む、化学塞栓用エマルジョン組成物を薬剤学的有効量でこれを必要とする対象に投与する段階を含む癌予防または治療方法を提供する。
【0050】
本明細書で「対象」は、任意の人間または非人間動物を含む。用語「非人間動物」は非人間脊椎動物、例えば非人間霊長類、羊、犬、および齧歯類、例えばマウス、ラットおよびギニアピッグを含むが、これに制限されない。
【0051】
本明細書で「抗癌剤」は、対象から癌退行を増進させる。他の実施様態で、治療上、有効量の薬物は癌を除去する地点まで癌退行を増進させる。「癌退行を増進させる」ことは、有効量の抗癌剤を単独で投与したり他の抗癌剤と調合して投与すれば、腫瘍成長または大きさが減少したり、腫瘍が壊死したり、少なくとも一つの疾患症状の重症度が減少したり、疾患症状がない期間の頻度および持続性が増加したり、または疾患の苦痛による損傷または障害が防止されるということを意味する。
【0052】
本発明の方法は、血管形成依存的な癌に適用することができ、好ましくは肝癌、卵巣癌、乳癌および非小細胞肺癌からなる群より選択された1以上、より好ましくは肝癌に適用することができる。前記エマルジョン組成物は、動脈内に(intra−arterially)投与されてもよく、例えば、前記癌は肝癌であり、動脈内投与は肝動脈注入法または経動脈化学塞栓法(transarterial chemoembolization)であってもよい。