(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記緩衝層は、前記低溶融率部よりも溶融率が高い熱伝導部であって、前記緩衝層の前記熱媒体流路側の第1端面から金型表面側の第2端面まで連続する熱伝導部をさらに含む、請求項1に記載の金型。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者がさらに検討を進めたところ、付加製造技術で金型を製造する場合、冷却能力は向上するものの、クラックの発生による冷却水の漏れが懸念されることがわかった。
【0009】
金型表面には、熱疲労に起因するクラックが発生し得る。熱疲労の原因は、溶湯と離型剤との温度差である。例えばアルミニウム合金の溶湯の温度が600℃程度であるのに対し、離型剤の温度は約30℃である。また、冷却水流路の内周面には、金型表面との温度差に起因する引張熱応力が作用し、クラックが発生し得る。冷却水流路が金型表面に近いほど、温度変化の勾配が急峻になるので、クラックが発生しやすくなる。
【0010】
このように、金型表面および冷却水流路の内周面のそれぞれにはクラックが発生し得るので、それぞれにおいて発生したクラックが進展すると、冷却水が金型の外部に漏れるおそれがある。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、付加製造技術により形成される金型においてクラックの進展に起因する熱媒体の漏れを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態による金型は、付加製造技術により形成された金型であって、金型内部に設けられ、熱媒体が流れる熱媒体流路と、前記熱媒体が金型内部に導入される媒体導入口と、前記熱媒体が金型外部に排出される媒体排出口と、金型表面と前記熱媒体流路との間に位置する緩衝層と、を有し、前記緩衝層は、金型内部のうちの前記緩衝層以外の部分よりも溶融率が低い低溶融率部を含む。
【0013】
ある実施形態において、前記低溶融率部の溶融率は、50%以下である。
【0014】
ある実施形態において、前記低溶融率部は、未焼結・未溶融の金属粉末で構成されている。
【0015】
ある実施形態において、前記緩衝層は、前記低溶融率部よりも溶融率が高い熱伝導部であって、前記緩衝層の前記熱媒体流路側の第1端面から金型表面側の第2端面まで連続する熱伝導部をさらに含む。
【0016】
ある実施形態において、前記熱伝導部の溶融率は、金型内部のうちの前記緩衝層以外の部分と実質的に同じである。
【0017】
ある実施形態において、前記熱伝導部は、三次元メッシュ状である。
【0018】
ある実施形態において、前記熱伝導部は、三次元ハニカム状である。
【0019】
ある実施形態において、前記熱伝導部は、二次元ハニカム状である。
【0020】
ある実施形態において、前記熱伝導部は、前記第1端面から前記第2端面に延びる複数の柱状体である。
【0021】
ある実施形態において、前記緩衝層の厚さは、2.0mm以上である。
【0022】
ある実施形態において、前記熱媒体流路は、三次元ハニカム状である。
【0023】
ある実施形態において、前記熱媒体流路は、二次元ハニカム状である。
【0024】
ある実施形態において、前記金型は、車両用ホイール、車両用フレーム部品、シリンダブロックまたはクランクケースの少なくとも一部を形成するための金型である。
【0025】
本発明の実施形態による金型は、金型表面と熱媒体流路との間に位置する緩衝層を有しており、緩衝層は、金型内部のうちの緩衝層以外の部分よりも溶融率が低い低溶融率部を含んでいる。緩衝層の低溶融率部は、他の部分よりも構造体としての連続性が低い、つまり、不連続性が高い部分であるので、クラックが進展しにくい部分である。従って、緩衝層が金型表面と熱媒体流路との間に位置していることにより、熱媒体流路側でクラックが発生したとしても、その金型表面側への進展を緩衝層で防止することができる。そのため、本発明の実施形態による金型では、熱媒体の漏れを防止することができる。
【0026】
クラックの進展を防止する観点からは、低溶融率部の溶融率は低いほど好ましく、具体的には、50%以下であることが好ましい。
【0027】
低溶融率部が、未焼結・未溶融の金属粉末で構成されていると、低溶融率部の溶融率は実質的に0%であり、クラックの進展を防止する効果が高い。
【0028】
緩衝層が、低溶融率部よりも溶融率が高い熱伝導部であって、緩衝層の熱媒体流路側の第1端面から金型表面側の第2端面まで連続する熱伝導部を含んでいてもよい。熱伝導部は、金型表面側からの熱を熱媒体流路側に(あるいはその逆に熱媒体流路側からの熱を金型表面側に)伝導させる役割を果たすので、緩衝層が熱伝導部を含むことにより、熱媒体流路による温度制御をより好適に行うことができる。
【0029】
金型表面側から熱媒体流路側への、または、熱媒体流路側から金型表面側への熱の伝導を好適に行う観点からは、熱伝導部の溶融率は高いほど好ましく、金型内部のうちの緩衝層以外の部分と実質的に同じであることがもっとも好ましい。
【0030】
熱伝導部は、例えば、三次元メッシュ状、三次元ハニカム状、または、二次元ハニカム状である。あるいは、熱伝導部は、第1端面から第2端面に延びる複数の柱状体であってもよい。熱伝導部が上述したいずれの構成を有している場合でも、熱伝導を好適に行うことができる。
【0031】
緩衝層の厚さは、2.0mm以上であることが好ましい。緩衝層の厚さが2.0mm以上であることにより、クラックの進展を防止する効果をより確実に得ることができる。
【0032】
熱媒体流路が三次元ハニカム状または二次元ハニカム状であると、熱媒体を金型内に均一に、且つ、乱流として流すことが可能になる。そのため、熱媒体流路による金型の温度制御を好適に行うことができる。また、熱媒体流路が三次元ハニカム状または二次元ハニカム状であると、金型内部において熱媒体流路が占める割合を高くすることが容易である。そのため、金型の製造に要する原材料の量を低減したり、製造に要する時間を短縮したりすることができる。さらに、熱媒体流路が三次元ハニカム状または二次元ハニカム状であるということは、金型の内部がほぼ一様に肉抜き(肉盗み)されているということができる。そのため、付加製造技術による金型の製造時(造形時)に発生する残留応力を低減できるので、反りなどの変形や亀裂の発生を抑制できるという利点も得られる。
【0033】
本発明の実施形態は、車両用ホイールまたは車両用フレーム部品の少なくとも一部を形成するための金型に好適に用いられる。また、本発明の実施形態は、シリンダブロックやクランクケースなどのエンジン部品の少なくとも一部を形成するための金型に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の実施形態によると、付加製造技術により形成される金型においてクラックの進展に起因する熱媒体の漏れを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0037】
図1を参照しながら、本実施形態における金型1を説明する。
図1は、金型1を模式的に示す斜視図である。
【0038】
金型1は、車両用ホイールの一部、より具体的には、ハブを形成するための金型である。車両用ホイールを形成するための金型全体の形状は、公知の種々の形状であり得るので、ここではその説明を省略する。
図1には、互いに直交する3つの方向(X方向、Y方向およびZ方向)を示している。X方向およびY方向は、ホイールの径方向に対応している。
【0039】
金型1は、後に詳述するように、付加製造技術により形成される。
【0040】
金型1は、Z方向(垂直方向)に延びる複数(ここでは5つ)の凸部2と、複数の凸部2を支持するベース部3とを有する。
【0041】
また、金型1は、その内部に設けられた熱媒体流路(
図1では不図示)を有する。熱媒体流路には、熱媒体が流れ、それによって金型1の冷却および/または加温が行われる。冷却用の熱媒体は、例えば水である。加温用の熱媒体は、例えば油である。ここでは、熱媒体流路は、複数の凸部2のそれぞれに対応して設けられている。
【0042】
ここで、
図2、
図3および
図4を参照しながら、金型1のより具体的な構成を説明する。
図2は、
図1に示した金型1の一部(1つの凸部2に対応する部分)を拡大して示す斜視図であり、金型1の内部の熱媒体流路10を点線で併せて示している。
図3は、熱媒体流路10を示す斜視図である。
図4は、熱媒体流路10をX方向に対してわずかに傾斜した方向から見た図である。
【0043】
図2、
図3および
図4に示すように、金型1は、熱媒体流路10と、媒体導入口4と、媒体排出口5とを有する。媒体導入口4は、熱媒体の入り口、つまり、熱媒体が金型1の内部に導入される部分である。媒体排出口5は、熱媒体の出口、つまり、熱媒体が金型1の外部に排出される部分である。媒体導入口4および媒体排出口5は、それぞれベース部3に設けられている。また、媒体導入口4および媒体排出口5は、それぞれ熱媒体流路10に接続されている。
【0044】
本実施形態の熱媒体流路10は、三次元ハニカム状である。つまり、熱媒体流路10は、実質的に同じ形状の単位構造が隙間なく並べられた、三次元の網目構造を有する。熱媒体流路10が三次元ハニカム状であることにより、後に詳述するように、熱媒体を金型1内に均一に、且つ、乱流として流すことが可能になる。そのため、熱媒体流路10による金型1の温度制御を好適に行うことができる。熱媒体流路10の具体的な構造については後に詳述する。
【0045】
図2には示していないが、金型1は、その内部に緩衝層をさらに有する。以下、この緩衝層の構成を、
図5および
図6を参照しながら説明する。
図5は、
図2中の5A−5A’線を含むXY平面に沿った断面図であり、
図6は、
図2中の6A−6A’線を含むZX平面に沿った断面図である。なお、
図5および
図6では、説明の簡単さのために熱媒体流路10の詳細な形状を簡略化して示している。
【0046】
図5および
図6に示すように、金型1は、その内部に緩衝層20を有する。緩衝層20は、金型表面1aと熱媒体流路10との間に位置する。緩衝層20は、金型内部のうちの緩衝層20以外の部分よりも溶融率が低い部分(以下では「低溶融率部」と呼ぶ)を含む。金型1は、後述するように、堆積された金属粉末にレーザを照射して焼結または溶融させることによって製造される。「溶融率」は、ある領域における全金属粉末のうち、焼結・溶融した金属粉末の割合を示す。溶融率は、例えば顕微鏡観察によって測定することができる。緩衝層20以外の部分の溶融率は、典型的には、99.90%以上である。
【0047】
ここで、
図7および
図8を参照しながら、緩衝層20の具体的な構成を説明する。
図7は、緩衝層20の例を示す図であり、厚さ方向に直交する平面に沿った断面図である。
図8は、緩衝層20およびその近傍を示す図であり、緩衝層20の厚さ方向に沿った断面図である。
【0048】
図7および
図8に示す例では、緩衝層20は、低溶融率部21と、熱伝導部22とを含む。
【0049】
低溶融率部21は、金型内部のうちの緩衝層20以外の部分よりも溶融率が低い部分である。ここでは、低溶融率部21は、未焼結・未溶融の金属粉末で構成されている。つまり、低溶融率部21の溶融率は、実質的に0%である。
【0050】
熱伝導部22は、低溶融率部21よりも溶融率が高い部分である。熱伝導部22の溶融率は、例えば、金型1内部のうちの緩衝層20以外の部分の溶融率と同じである。また、熱伝導部22は、緩衝層20の熱媒体流路10側の端面(以下では「第1端面」と呼ぶ)20aから金型表面1a側の端面(以下では「第2端面」と呼ぶ)20bまで連続している。図示している例では、熱伝導部22は、三次元メッシュ状(三次元的な格子状)であり、緩衝層20の厚さ方向に延びる複数の直線状部分22aと、緩衝層20の層面内方向に延びる複数の直線状部分22bとを含む。
【0051】
上述したように、本実施形態の金型1は、金型表面1aと熱媒体流路10との間に位置する緩衝層20を有しており、この緩衝層20は、相対的に溶融率が低い低溶融率部21を含んでいる。緩衝層20の低溶融率部21は、他の部分よりも構造体としての連続性が低い、つまり、不連続性が高い部分であるので、クラックが進展しにくい部分である。従って、緩衝層20が金型表面1aと熱媒体流路10との間に位置していることにより、熱媒体流路10側でクラックが発生したとしても、その金型表面1a側への進展を緩衝層20で防止することができる。そのため、本実施形態の金型1では、熱媒体の漏れを防止することができる。
【0052】
また、
図7および
図8に示した例では、緩衝層20が熱伝導部22を含んでいる。熱伝導部22は、低溶融率部21よりも溶融率が高く、かつ、緩衝層20の第1端面20aから第2端面20bまで連続しているので、金型表面1a側からの熱を熱媒体流路10側に(あるいはその逆に熱媒体流路10側からの熱を金型表面1a側に)伝導させる役割を果たす。緩衝層20がこのような熱伝導部22を含むことにより、熱媒体流路10による温度制御をより好適に行うことができる。
【0053】
金型表面1a側から熱媒体流路10側への、または、熱媒体流路10側から金型表面1a側への熱の伝導を好適に行う観点からは、熱伝導部22の溶融率は高いほど好ましく、金型内部のうちの緩衝層20以外の部分と実質的に同じであることがもっとも好ましい。
【0054】
緩衝層20の厚さt(
図8参照)は、2.0mm以上であることが好ましい。緩衝層20の厚さtが2.0mm以上であることにより、クラックの進展を防止する効果をより確実に得ることができる。
【0055】
緩衝層20から金型表面1aまでの距離d1および緩衝層20から熱媒体流路10までの距離d2(いずれも
図8参照)については、特に制限はない。また、三次元メッシュ状の熱伝導部22のメッシュ孔のサイズや線径についても特に制限はない。つまり、熱伝導部22を構成する複数の直線状部分22a、22bの幅や間隔に特に制限はない。
【0056】
[金型の製造方法]
本実施形態における金型1の製造方法を説明する。
【0057】
金型1は、付加製造技術を用いて形成される。付加製造技術としては、3Dプリンタを用いた種々の手法を用いることができ、例えば、レーザ焼結法またはレーザ溶融法を好適に用いることができる。
【0058】
本実施形態における製造方法は、具体的には、金属粉末を所定の厚さで層状に堆積する堆積工程と、堆積工程の後、堆積された金属粉末にレーザを照射して焼結または溶融させるレーザ照射工程とを包含する。堆積工程とレーザ照射工程とを交互に繰り返し行うことによって、熱媒体流路10および緩衝層20を内部に含む金型1を形成することができる。
【0059】
金属粉末としては、種々の金属粉末を用いることができ、例えばマルエージング鋼やSKD61相当鋼を好適に用いることができる。1回の堆積工程において堆積される金属粉末の厚さは、例えば20μm〜100μmである。
【0060】
[低溶融率部の溶融率]
上記の説明では、低溶融率部21の溶融率が実質的に0%である場合、つまり、低溶融率部21が実質的に未焼結・未溶融の金属粉末のみで構成されている場合を例示したが、本発明の実施形態はこのような構成に限定されるものではない。低溶融率部21の溶融率は、0%超であってもよい。つまり、低溶融率部21は、金型1の製造時にレーザ照射が行われなかった領域であってもよいし、レーザ照射が他の部分よりも弱い強度および/または短い時間で行われた領域であってもよい。
【0061】
ただし、溶融率が低いほど、その領域の不連続性が高いといえる。そのため、クラックの進展を防止する観点からは、低溶融率部21の溶融率は低いほど好ましく、具体的には、50%以下であることが好ましく、実質的に0%であること、つまり、低溶融率部21が実質的に未焼結・未溶融の金属粉末のみで構成されていることがより好ましい。
【0062】
[三次元ハニカム状の熱媒体流路]
図2、
図3および
図4に加えて
図9も参照しながら、熱媒体流路10の構造をより詳しく説明する。
図9は、熱媒体流路10の一部をXY平面、YZ平面およびZX平面で切断して示す斜視図である。
【0063】
図9に示すように、金型1内部のうちの熱媒体流路10が設けられている領域は、三次元ハニカム状の熱媒体流路10によって、三次元アレイ状に配置された複数の部分(金型1を構成する金属材料が存在する部分であり、以下では「中実部」と呼ぶ)11に区画されている。ここで示している例では、各中実部11は、略球状である。
【0064】
図9に示す例では、複数の中実部11は、面心立方格子状に配置されている。つまり、単位格子に対応する領域の各頂点および各面の中心に中実部11が位置している。なお、
図9には、1つの単位格子に相当する部分を示しているため、中実部11は半球状または1/8球状に示されている。
図10は、
図9に示されているすべての中実部11を完全な球状に示した図である。
【0065】
複数の中実部11のそれぞれは、隣接する中実部11とその一部で接している。つまり、各中実部11は、隣接する中実部11に接続されている。
【0066】
上述したように複数の中実部11が配置されているので、三次元ハニカムの単位構造は、面心立方格子の1つの単位格子から、中実部11を除いた部分である。従って、三次元ハニカムの単位構造(熱媒体流路10の単位構造)は、単位格子内で連続しているとともに、隣接する単位格子の単位構造と連続している。
【0067】
ここで、熱媒体流路10が三次元ハニカム状であることにより、金型1の温度制御を好適に行うことができる理由を説明する。
【0068】
熱媒体は、上述した構造を有する熱媒体流路10内を流れる際、中実部11にぶつかって分岐することを繰り返しながら進む。熱媒体が熱媒体流路10内を進む径路はいくつも存在するが、いずれの径路においてもこのような分岐が繰り返されるので、突出して速く熱媒体が進む径路は存在しない。そのため、熱媒体は、金型1内を比較的均一に流れる。また、いずれの径路においても分岐が繰り返されるので、熱媒体が層流ではなく乱流となりやすい。
【0069】
このように、熱媒体流路10が三次元ハニカム状であることにより、熱媒体を金型1内に均一に、且つ、乱流として流すことが可能になる。そのため、熱媒体流路10による金型1の温度制御を好適に行うことができる。また、特許文献1のように1本の流路を長く引き回す場合とは異なり、圧力損失によって熱媒体が流れにくくなることを防止でき、また、熱媒体の温度が上がりすぎたり下がりすぎたりすることを防止できる。
【0070】
また、熱媒体流路が三次元ハニカム状であると、金型1内部において熱媒体流路10が占める割合を比較的高くすることが可能になる。そのため、付加製造技術により金型1を形成する際に用いる材料の量を少なくしたり、形成に要する時間を短くしたり、金型1内部に流す熱媒体の量を多くしたりすることができる。
【0071】
さらに、熱媒体流路10が三次元ハニカム状であるということは、金型1の内部がほぼ一様に肉抜き(肉盗み)されているということができる。そのため、付加製造技術による金型1の製造時(造形時)に発生する残留応力を低減できるので、反りなどの変形や亀裂の発生を抑制できるという利点も得られる。
【0072】
また、複数の中実部11のそれぞれは、隣接する中実部11とその一部で接している。つまり、各中実部11は、隣接する中実部11に接続されている。そのため、複数の中実部11は、いわば三次元的なトラス構造である。そのため、金型1内で熱媒体流路10の占める割合を比較的高くしても十分な剛性を確保することができる。
【0073】
なお、三次元ハニカムの単位構造の形状は、ここで例示したものに限定されない。つまり、中実部11の形状は、ここで例示したものに限定されない。中実部11は、略多面体状であってもよい。略多面体状の中実部11としては、高い対称性を有する形状、例えば切頂二十面体状(サッカーボール型として知られる)の中実部11を好適に用いることができる。中実部11が略球状および略多面体状のいずれであっても、熱媒体を均一に、且つ、乱流として流す効果が得られる。
【0074】
中実部11のサイズ(例えば中実部11が略球形状の場合の球径)は、各中実部11が隣接する中実部11に接し、かつ、熱媒体流路10が途切れない範囲で適宜設定される。
【0075】
また、中実部11の配置は、面心立方格子状に限定されない。例えば、中実部11は、
図11に示すように、体心立方格子状に配置されていてもよい。中実部11が体心立方格子状に配置されている場合、立方体形の単位格子の各頂点と中心に中実部11が位置している。あるいは、中実部11は、
図12に示すように、六方格子(六方最密充填構造とも呼ばれる)状に配置されていてもよい。なお、
図12中に点線で示している六角柱状の領域は、3つの単位格子に対応する領域である。
【0076】
また、中実部11の配置は、これまで例示した3つの配置に限定されるものではない。例えば、イオン結晶の結晶構造として、塩化ナトリウム型構造が知られている。塩化ナトリウム型構造では、塩化物イオンが面心立方格子構造をとり、その八面体型6配位の位置にナトリウムイオンが入る。ナトリウムイオンも別の面心立方格子を作っている。このような塩化ナトリウム型構造を模した配置を採用してもよい。つまり、塩化物イオンの位置に中実部11を配置するとともに、ナトリウムイオンの位置に、塩化物イオンの位置の中実部11とはサイズ(中実部11が略球形状の場合は球径)が異なる中実部11を配置してもよい。
【0077】
熱媒体を均一に、且つ、乱流として流す効果を得る観点からは、複数の中実部11は、規則的に配置されていることが好ましい。上記の説明で例示した中実部11の配置は、この点から好ましい配置である。
【0078】
なお、ここでは、金型1の各凸部2内に、熱媒体流路10、媒体導入口4および媒体排出口5のセットを1つ設ける例(つまり金型1全体では5セットの例)を示したが、勿論、本発明はこの例に限定されるものではない。熱媒体流路10、媒体導入口4および媒体排出口5のセットの個数は、1以上であり、金型の種類やサイズ、用途等に応じて適宜設定される。
【0079】
また、
図2などに示した例では、熱媒体流路10に対し、媒体導入口4および媒体排出口5が1つずつ設けられているが、媒体導入口4および/または媒体排出口5が複数設けられてもよい。例えば、
図13に示すように、熱媒体流路10に対し、1つの媒体導入口4と、3つの媒体排出口5とを設けてもよい。
【0080】
[熱媒体流路の他の構成]
これまでの説明では、熱媒体流路10が三次元ハニカム状である場合を例示したが、熱媒体流路10の形状は、これに限定されるものではない。例えば、熱媒体流路10は、二次元ハニカム状であってもよい。
【0081】
二次元ハニカム状の熱媒体流路10の例を、
図14に示す。
図14は、熱媒体流路10を模式的に示す斜視図である。
【0082】
図14に示す熱媒体流路10は、二次元ハニカム状である。つまり、熱媒体流路10は、実質的に同じ形状の単位構造が隙間なく並べられた、二次元の網目構造を有する。熱媒体流路10が二次元ハニカム状であることにより、後に詳述するように、熱媒体を金型1内に均一に、且つ、乱流として流すことが可能になる。そのため、熱媒体流路10による金型1の温度制御を好適に行うことができる。
【0083】
以下、さらに
図15も参照しながら、熱媒体流路10の構造をより詳しく説明する。
図15は、熱媒体流路10の一部を拡大して示す平面図である。
【0084】
図15に示すように、金型1内部のうちの熱媒体流路10が設けられている領域は、二次元ハニカム状の熱媒体流路10によって、アレイ状に配置された複数の部分(中実部)11に区画されている。
図14および
図15に示している例では、二次元ハニカムの単位構造は、略六角形の枠状、より具体的には略正六角形の枠状である。そのため、各中実部11は、略六角形状、より具体的には略正六角形状である。ただし、中実部11の形状は、ここで例示したものに限定されない。
【0085】
図15には、媒体導入口4側から媒体排出口5側に向かって熱媒体流路10内を熱媒体が全体として流れる方向(以下では「第1方向」と呼ぶ)D1と、第1方向D1に略直交する方向(以下では「第2方向」と呼ぶ)D2とを示している。複数の中実部11は、複数の中実部列11Cを構成するように配置されている。各中実部列11Cは、第2方向D2に沿って配置された2個以上の中実部11を含んでおり、複数の中実部列11Cは、第1方向D1に沿って並んでいる。
図14に示す例では、4個の中実部11を含む中実部列11Cと、3個の中実部11を含む中実部列11Cとが交互に配置されている。なお、中実部列11Cの数や、各中実部列11Cに含まれる中実部11の数は、
図14などに例示しているものに限定されない。
【0086】
各中実部列11Cに含まれる2個以上の中実部11は、第2方向D2に沿って所定のピッチPで配置されている。図示している例では、互いに隣接する2つの中実部列11Cは、それぞれの中実部11の第2方向D2における位置がピッチPの略半分ずれているように配置されている。
【0087】
なお、
図14に示した例では、熱媒体流路10(つまり二次元ハニカム状の部分)は、第2方向D2(ここではZ方向)に沿って延びる板状の幅広部6(
図15参照)を介して媒体導入口4や媒体排出口5に接続されているが、この幅広部6は省略されてもよい。
【0088】
図16に、熱媒体流路10の一部をさらに拡大して示す。熱媒体流路10は、
図16に示すように、第1方向D1に略平行に延びる部分(以下では「第1部分」と呼ぶ)10aと、第1部分10aの端部から第1方向D1とは異なる第3方向D3に略平行に延びる部分(以下では「第2部分」と呼ぶ)10bと、第1部分10aの端部から第1方向D1および第3方向D3とは異なる第4方向D4に略平行に延びる部分(以下では「第3部分」と呼ぶ)10cとから構成される。図示している例では、第3方向D3は、第1方向D1に対して+α°(時計回りにα°)の角をなしており、第4方向D4は、第1方向D1に対して−α°(反時計回りにα°)の角をなしている。つまり、第3方向D3と第4方向D4とは、第1方向D1に対して互いに対称な方向である。
【0089】
ここで、熱媒体流路10が二次元ハニカム状であることにより、金型1の温度制御を好適に行うことができる理由を説明する。
【0090】
熱媒体は、上述した構造を有する熱媒体流路10内を流れる際、
図16中に白抜き矢印で模式的に示すように、第1部分10aを流れてきて第1部分10aの端部で中実部11にぶつかって第2部分10bおよび第3部分10cに分岐する。熱媒体が熱媒体流路10内を進む径路はいくつも存在するが、いずれの径路においてもこのような分岐が繰り返されるので、突出して速く熱媒体が進む径路は存在しない。そのため、熱媒体は、金型1内を比較的均一に流れる。また、いずれの径路においても分岐が繰り返されるので、熱媒体が層流ではなく乱流となりやすい。
【0091】
このように、熱媒体流路10が二次元ハニカム状であることにより、熱媒体を金型1内に均一に、且つ、乱流として流すことが可能になる。そのため、熱媒体流路10による金型1の温度制御を好適に行うことができる。また、特許文献1のように1本の流路を長く引き回す場合とは異なり、圧力損失によって熱媒体が流れにくくなることを防止でき、また、熱媒体の温度が上がりすぎたり下がりすぎたりすることを防止できる。
【0092】
また、熱媒体流路が二次元ハニカム状であると、金型1内部において熱媒体流路10が占める割合を比較的高くすることが可能になる。そのため、付加製造技術により金型1を形成する際に用いる材料の量を少なくしたり、形成に要する時間を短くしたり、金型1内部に流す熱媒体の量を多くしたりすることができる。
【0093】
さらに、熱媒体流路10が二次元ハニカム状であるということは、金型1の内部がほぼ一様に肉抜き(肉盗み)されているということができる。そのため、付加製造技術による金型1の製造時(造形時)に発生する残留応力を低減できるので、反りなどの変形や亀裂の発生を抑制できるという利点も得られる。
【0094】
なお、二次元ハニカムの単位構造の形状は、ここで例示したものに限定されない。つまり、中実部11の形状は、ここで例示したものに限定されない。中実部11は、略多角形状、略円形状または略楕円形状であり得る。
図17および
図18に、中実部11の形状の他の例を示す。
図17に示す例では、中実部11は、略円形状である。また、
図18に示す例では、中実部11は、略正方形状である。中実部11が略多角形状、略円形状または略楕円形状のいずれであっても、熱媒体を均一に、且つ、乱流として流す効果が得られる。
【0095】
熱媒体を均一に流す観点からは、互いに隣接する2つの中実部列11Cは、
図15などに示したように、それぞれの中実部11の第2方向D2における位置がピッチPの略半分ずれているように配置されていることが好ましい。
【0096】
また、熱媒体流路10は、
図16などに示したように、第1方向D1に略平行に延びる第1部分10aと、第1部分10aの端部から第1方向D1に対して互いに対称な第3方向D3および第4方向D4に略平行にそれぞれ延びる第2部分10bおよび第3部分10cとを含むことが好ましい。熱媒体流路10がこのような第1部分10a、第2部分10bおよび第3部分10cから構成されることにより、第1部分10aを流れる熱媒体が第1部分10aの端部に到達したときに第2部分10bおよび第3部分10cに流れようとする確率がほぼ等しくなるので、熱媒体を金型1内に均一に流すことがいっそう容易となる。
【0097】
熱媒体流路10の流路径に特に制限はない。また、中実部列11Cの数や、各中実部列11Cに含まれる中実部11の数についても特に制限はない。熱媒体流路10の流路径や、中実部列11Cの数、各中実部列11Cに含まれる中実部11の数は、金型1の大きさ、用途等によって適宜設定される。
【0098】
二次元ハニカム状の熱媒体流路10を有する金型1についても、金型表面1aと熱媒体流路10との間に緩衝層20を配置することにより、クラックの進展を防止することができる。
【0099】
なお、ここでは、金型1内に、熱媒体流路10、媒体導入口4および媒体排出口5のセットを1つ設ける例を示したが、これらのセットを金型1内に複数設けてもよい。
図19に、そのような構成の一例を示す。
【0100】
図19には、金型1内に設けられる2つのセットを示している。2つのセットのうちの一方は、金型1内でY方向における一側(図中の手前側)に配置されており、他方は、Y方向における他側(図中の奥側)に配置されている。熱媒体流路10、媒体導入口4および媒体排出口5のセットの数は、金型1の大きさや用途等によって決定され得る。なお、
図19に示す例では、熱媒体流路10の各中実部列11Cに含まれる中実部11の個数が5つであり、
図14などに示した例とは異なっている。
【0101】
また、熱媒体流路10は、三次元ハニカム状および二次元ハニカム状のいずれかでなくてもよい。
図20および
図21に、熱媒体流路10の他の例を示す。
図20には、本発明の実施形態による他の金型1Aを模式的に示す斜視図であり、
図21は、金型1Aの熱媒体流路10を模式的に示す図である。
【0102】
図20および
図21に示す例では、熱媒体流路10は、U字状である。このような熱媒体流路10を有する金型1Aにおいても、熱媒体流路10と金型表面1aとの間に緩衝層20を配置することにより、クラックの進展を防止することができる。
【0103】
[緩衝層の他の構成]
これまでの説明では、三次元メッシュ状の熱伝導部22を例示したが、緩衝層20が有する熱伝導部22の形状は、これに限定されるものではない。
【0104】
図22および
図23に、緩衝層20の他の例を示す。
図22は、緩衝層20の他の例を示す図であり、厚さ方向に直交する平面に沿った断面図である。
図23は、緩衝層20およびその近傍を示す図であり、緩衝層20の厚さ方向に沿った断面図である。
【0105】
図22および
図23に示す例では、緩衝層20の熱伝導部22は、三次元ハニカム状である。つまり、熱伝導部22は、実質的に同じ形状の単位構造が隙間なく並べられた、三次元の網目構造を有する。
図23に示すように、熱伝導部22は、緩衝層20の第1端面20aから第2端面20bまで連続している。緩衝層20のうち、三次元ハニカム状の熱伝導部22以外の領域が低溶融率部21である。ここでは、低溶融率部21は、複数の略球状の領域である。
【0106】
緩衝層20の熱伝導部22が三次元ハニカム状である場合でも、熱伝導部22によって、金型表面1a側からの熱を熱媒体流路10側に(あるいはその逆に熱媒体流路10側からの熱を金型表面1a側に)伝導させ得るので、熱媒体流路10による温度制御をより好適に行うことができる。
【0107】
図24および
図25に、緩衝層20のさらに他の例を示す。
図24は、緩衝層20のさらに他の例を示す図であり、厚さ方向に直交する平面に沿った断面図である。
図25は、緩衝層20およびその近傍を示す図であり、緩衝層20の厚さ方向に沿った断面図である。
【0108】
図24および
図25に示す例では、緩衝層20の熱伝導部22は、二次元ハニカム状である。つまり、熱伝導部22は、実質的に同じ形状の単位構造が隙間なく並べられた、二次元の網目構造を有する。
図25に示すように、熱伝導部22は、緩衝層20の第1端面20aから第2端面20bまで連続している。緩衝層20のうち、二次元ハニカム状の熱伝導部22以外の領域が低溶融率部21である。ここでは、低溶融率部21は、複数の略六角柱状の領域である。
【0109】
緩衝層20の熱伝導部22が二次元ハニカム状である場合でも、熱伝導部22によって、金型表面1a側からの熱を熱媒体流路10側に(あるいはその逆に熱媒体流路10側からの熱を金型表面1a側に)伝導させ得るので、熱媒体流路10による温度制御をより好適に行うことができる。
【0110】
図26および
図27に、緩衝層20のさらに他の例を示す。
図26は、緩衝層20のさらに他の例を示す図であり、厚さ方向に直交する平面に沿った断面図である。
図27は、緩衝層20およびその近傍を示す図であり、緩衝層20の厚さ方向に沿った断面図である。
【0111】
図26および
図27に示す例では、緩衝層20の熱伝導部22は、緩衝層20の第1端面20aから第2端面20bに延びる複数の柱状体である。また、緩衝層20のうち、熱伝導部22以外の領域(複数の柱状体を除いた領域)が低溶融率部21である。
【0112】
緩衝層20の熱伝導部22が複数の柱状体である場合でも、熱伝導部22によって、金型表面1a側からの熱を熱媒体流路10側に(あるいはその逆に熱媒体流路10側からの熱を金型表面1a側に)伝導させ得るので、熱媒体流路10による温度制御をより好適に行うことができる。なお、ここでは、複数の柱状体のそれぞれが円柱状である場合を例示しているが、柱状体の形状はこれに限定されず、四角柱、六角柱などの角柱状であってもよい。
【0113】
また、緩衝層20は、これまで例示したのとは異なる構造を有してもよい。例えば、3Dプリンタにおいて、金属粉末へのレーザ照射の条件を調節する(例えばランダムな照射を行う)ことにより、ポーラス(多孔質)構造を形成できることが知られている。緩衝層20が、そのようなポーラス構造に類似した構造を有していてもよい。ポーラス構造の「孔」に対応する部分内には、未焼結・未溶融の金属粉末が存在しており、低溶融率部として機能する。
【0114】
また、
図28に示すように、緩衝層20が熱伝導部22を有していなくてもよい。つまり、緩衝層20が低溶融率部21のみを有していてもよい。
【0115】
ここで、熱伝導部22を有しない緩衝層20について、冷却性能への影響をシミュレーションにより検証した結果を説明する。
【0116】
シミュレーションは、
図29、
図30および
図31に示す3つのモデル(それぞれ「モデルA」、「モデルB」、「モデルC」と呼ぶ)について行った。いずれのモデルについても、金型1Mの周囲に溶湯9が位置しており、金型1Mの表面近傍に熱媒体流路10が配置されている。熱媒体流路10の断面形状は円形であり、金型1Mの表面から熱媒体流路10の中心軸までの距離は10mmである。
【0117】
図29に示すモデルAでは、熱媒体流路10の直径は6mmである。
図30に示すモデルBでは、熱媒体流路10の直径は3mmである。
図31(a)および(b)に示すモデルCでは、熱媒体流路10の直径は3mmである。
【0118】
また、モデルCでは、熱媒体流路10を囲むように、緩衝層20が配置されている。緩衝層20の厚さは1.5mmである。緩衝層20の断面は円環状であり、緩衝層20の内周面から熱媒体流路10の外周面までの距離は2mm以上である。
【0119】
いずれのモデルについても、溶湯9の初期温度は630℃、金型1Mおよび緩衝層20の初期温度は150℃とした。溶湯9と金型1Mとの間の熱伝達係数は、3000W/m
2・Kとした。熱媒体流路10内を流れる熱媒体の対流係数は5000W/m
2・K、温度は30℃とした。金型1Mの材料は金型用鋼、溶湯9の材料はダイカスト用アルミニウム合金とした。金型用鋼およびダイカスト用アルミニウム合金の熱伝導率および比熱は、表1に示す通りである。また、表1からわかるように、緩衝層20の熱伝導率および比熱は、それぞれ鉄の熱伝導率および比熱の1/2とした。
【0121】
解析ソフト(シーメンス社製NX)を用いて初期状態から2秒後の金型1Mの内部の温度プロファイルを検証したところ、モデルCでは、モデルAおよびBと遜色ない冷却が行われていることが確認された。
【0122】
[他の金型への適用]
上記の説明では、車両用ホイールの少なくとも一部を形成するための金型1を例示したが、本発明の実施形態は、これらの金型に限定されるものではない。本発明の実施形態は、種々の金型に広く用いることができ、例えば、車両用のフレーム部品やエンジン用のシリンダブロック、クランクケースなどの少なくとも一部を形成するための金型にも好適に用いることができる。
【0123】
上述したように、本発明の実施形態による金型1(または1A)は、付加製造技術により形成された金型1であって、金型内部に設けられ、熱媒体が流れる熱媒体流路10と、熱媒体が金型内部に導入される媒体導入口4と、熱媒体が金型外部に排出される媒体排出口5と、金型表面1aと熱媒体流路10との間に位置する緩衝層20と、を有し、緩衝層20は、金型内部のうちの緩衝層20以外の部分よりも溶融率が低い低溶融率部21を含む。
【0124】
本発明の実施形態による金型1は、金型表面1aと熱媒体流路10との間に位置する緩衝層20を有しており、緩衝層20は、金型内部のうちの緩衝層20以外の部分よりも溶融率が低い低溶融率部21を含んでいる。緩衝層20の低溶融率部21は、他の部分よりも構造体としての連続性が低い、つまり、不連続性が高い部分であるので、クラックが進展しにくい部分である。従って、緩衝層20が金型表面1aと熱媒体流路10との間に位置していることにより、熱媒体流路10側でクラックが発生したとしても、その金型表面1a側への進展を緩衝層20で防止することができる。そのため、本発明の実施形態による金型1では、熱媒体の漏れを防止することができる。
【0125】
ある実施形態において、低溶融率部21の溶融率は、50%以下である。
【0126】
クラックの進展を防止する観点からは、低溶融率部21の溶融率は低いほど好ましく、具体的には、50%以下であることが好ましい。
【0127】
ある実施形態において、低溶融率部21は、未焼結・未溶融の金属粉末で構成されている。
【0128】
低溶融率部21が、未焼結・未溶融の金属粉末で構成されていると、低溶融率部21の溶融率は実質的に0%であり、クラックの進展を防止する効果が高い。
【0129】
ある実施形態において、緩衝層20は、低溶融率部21よりも溶融率が高い熱伝導部22であって、緩衝層20の熱媒体流路10側の第1端面20aから金型表面1a側の第2端面20bまで連続する熱伝導部22をさらに含む。
【0130】
緩衝層20が、低溶融率部21よりも溶融率が高い熱伝導部22であって、緩衝層20の熱媒体流路10側の第1端面20aから金型表面1a側の第2端面20bまで連続する熱伝導部22を含んでいてもよい。熱伝導部22は、金型表面1a側からの熱を熱媒体流路10側に(あるいはその逆に熱媒体流路10側からの熱を金型表面1a側に)伝導させる役割を果たすので、緩衝層20が熱伝導部22を含むことにより、熱媒体流路10による温度制御をより好適に行うことができる。
【0131】
ある実施形態において、熱伝導部22の溶融率は、金型内部のうちの緩衝層20以外の部分と実質的に同じである。
【0132】
金型表面1a側から熱媒体流路10側への、または、熱媒体流路10側から金型表面1a側への熱の伝導を好適に行う観点からは、熱伝導部22の溶融率は高いほど好ましく、金型内部のうちの緩衝層20以外の部分と実質的に同じであることがもっとも好ましい。
【0133】
ある実施形態において、熱伝導部22は、三次元メッシュ状である。
【0134】
熱伝導部22が、例えば三次元メッシュ状であることによって、熱伝導を好適に行うことができる。
【0135】
ある実施形態において、熱伝導部22は、三次元ハニカム状である。
【0136】
熱伝導部22が、例えば三次元ハニカム状であることによって、熱伝導を好適に行うことができる。
【0137】
ある実施形態において、熱伝導部22は、二次元ハニカム状である。
【0138】
熱伝導部22が、例えば二次元ハニカム状であることによって、熱伝導を好適に行うことができる。
【0139】
ある実施形態において、熱伝導部22は、第1端面20aから第2端面20bに延びる複数の柱状体である。
【0140】
熱伝導部22が、例えば第1端面20aから第2端面20bに延びる複数の柱状体であることによって、熱伝導を好適に行うことができる。
【0141】
ある実施形態において、緩衝層20の厚さtは、2.0mm以上である。
【0142】
緩衝層の厚さは、2.0mm以上であることが好ましい。緩衝層の厚さが2.0mm以上であることにより、クラックの進展を防止する効果をより確実に得ることができる。
【0143】
ある実施形態において、熱媒体流路10は、三次元ハニカム状である。
【0144】
熱媒体流路10が三次元ハニカム状であると、熱媒体を金型1内に均一に、且つ、乱流として流すことが可能になる。そのため、熱媒体流路10による金型1の温度制御を好適に行うことができる。また、熱媒体流路10が三次元ハニカム状であると、金型内部において熱媒体流路10が占める割合を高くすることが容易である。そのため、金型1の製造に要する原材料の量を低減したり、製造に要する時間を短縮したりすることができる。さらに、熱媒体流路10が三次元ハニカム状であるということは、金型1の内部がほぼ一様に肉抜き(肉盗み)されているということができる。そのため、付加製造技術による金型1の製造時(造形時)に発生する残留応力を低減できるので、反りなどの変形や亀裂の発生を抑制できるという利点も得られる。
【0145】
ある実施形態において、熱媒体流路10は、二次元ハニカム状である。
【0146】
熱媒体流路10が二次元ハニカム状であると、熱媒体を金型1内に均一に、且つ、乱流として流すことが可能になる。そのため、熱媒体流路10による金型1の温度制御を好適に行うことができる。また、熱媒体流路10が二次元ハニカム状であると、金型内部において熱媒体流路10が占める割合を高くすることが容易である。そのため、金型1の製造に要する原材料の量を低減したり、製造に要する時間を短縮したりすることができる。さらに、熱媒体流路10が二次元ハニカム状であるということは、金型1の内部がほぼ一様に肉抜き(肉盗み)されているということができる。そのため、付加製造技術による金型1の製造時(造形時)に発生する残留応力を低減できるので、反りなどの変形や亀裂の発生を抑制できるという利点も得られる。
【0147】
ある実施形態において、金型1は、車両用ホイール、車両用フレーム部品、シリンダブロックまたはクランクケースの少なくとも一部を形成するための金型である。
【0148】
本発明の実施形態は、車両用ホイールまたは車両用フレーム部品の少なくとも一部を形成するための金型に好適に用いられる。また、本発明の実施形態は、シリンダブロックやクランクケースなどのエンジン部品の少なくとも一部を形成するための金型に好適に用いられる。