(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
バインダ樹脂と、鱗片状の熱伝導性フィラー及び/又は繊維状の熱伝導性フィラーからなる第1の熱伝導性フィラーと、非鱗片状かつ非繊維状の熱伝導性フィラーからなる第2の熱伝導性フィラーとを含有し、上記第1の熱伝導性フィラーと上記第2の熱伝導性フィラーとが上記バインダ樹脂に分散している熱伝導性シートであって、
当該熱伝導性シートの厚み方向と面方向とで、比誘電率及び熱伝導率が異なる、熱伝導性シート。
上記第1の熱伝導性フィラーの配向方向における熱伝導率が、上記第1の熱伝導性フィラーの非配向方向における熱伝導率の2倍以上である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
鱗片状の熱伝導性フィラー及び/又は繊維状の熱伝導性フィラーからなる第1の熱伝導性フィラーと、非鱗片状かつ非繊維状の熱伝導性フィラーからなる第2の熱伝導性フィラーとを、バインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、
上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、
上記成形体ブロックをシート状にスライスして、厚み方向と面方向とで、比誘電率及び熱伝導率が異なる熱伝導性シートを得る工程Cとを有する、熱伝導性シートの製造方法。
上記工程Bでは、上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から、押出成形法又は金型成形法により成形体ブロックを形成する、請求項12に記載の熱伝導性シートの製造方法。
上記工程Bでは、上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から未硬化状態のグリーンシートを作製し、該グリーンシートを積層させることで上記成形体ブロックを形成する、請求項12に記載の熱伝導性シートの製造方法。
上記工程Bでは、上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から、ダイヘッドを用いて得られたシートを積層させることで上記成形体ブロックを形成する、請求項12に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、熱伝導性フィラーの平均粒径(D50)とは、熱伝導性フィラーの粒径分布の小粒径側から累積50%の面積長(μm)であり、熱伝導性フィラーの集団の全面積を100%として、熱伝導性フィラーの粒径分布の小粒径側から累積カーブを求めたとき、その累積値が50%となるときの面積長をいう。なお、熱伝導性フィラーが繊維状の熱伝導性フィラーである場合のD50とは、繊維状の熱伝導性フィラーの繊維長分布における短繊維長側から累積50%の面積繊維長(μm)であり、繊維状の熱伝導性フィラーの集団の全面積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積値が50%となるときの面積繊維長をいう。本明細書における粒度分布(粒子径分布)は、体積基準によって求められたものである。粒度分布の測定方法としては、例えば、レーザー回折型粒度分布測定機を用いる方法が挙げられる。
【0012】
<熱伝導性シート>
図1は、本技術に係る熱伝導性シート1の一例を示す断面図である。熱伝導性シート1は、バインダ樹脂2と、鱗片状の熱伝導性フィラー及び/又は繊維状の熱伝導性フィラーからなる第1の熱伝導性フィラー3と、非鱗片状かつ非繊維状の熱伝導性フィラーからなる第2の熱伝導性フィラー4とを含有し、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とがバインダ樹脂2に分散している。また、熱伝導性シート1は、熱伝導性シート1の厚み方向Bと面方向Aとで、比誘電率及び熱伝導率が異なる、すなわち、熱伝導性シート1は、厚み方向Bと面方向Aとで比誘電率及び熱伝導率が異方性を有する。このように、熱伝導性シート1は、熱伝導率とともに比誘電率がコントロールされているため、例えばシールドやアンテナの分野において新たな応用が期待できる。以下、熱伝導性シート1の構成要素について説明する。
【0013】
<バインダ樹脂>
バインダ樹脂2は、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とを熱伝導性シート1内に保持するためのものである。バインダ樹脂2は、熱伝導性シート1に要求される機械的強度、耐熱性、電気的性質等の特性に応じて選択される。バインダ樹脂2としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂の中から選択することができる。
【0014】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−αオレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリフェニレン−エーテル共重合体(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル等のポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、アイオノマー等が挙げられる。
【0015】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン− ブタジエンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン−イソプレンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0016】
熱硬化性樹脂としては、架橋ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。架橋ゴムの具体例としては、天然ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0017】
バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂としては、例えば、アルケニル基を有するシリコーンを主成分とし、硬化触媒を含有する主剤と、ヒドロシリル基(Si−H基)を有する硬化剤とからなる、2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いることができる。アルケニル基を有するシリコーンとしては、例えば、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。硬化触媒は、アルケニル基を有するシリコーン中のアルケニル基と、ヒドロシリル基を有する硬化剤中のヒドロシリル基との付加反応を促進するための触媒である。硬化触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられ、例えば、白金族系硬化触媒、例えば白金、ロジウム、パラジウムなどの白金族金属単体や塩化白金などを用いることができる。ヒドロシリル基を有する硬化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。バインダ樹脂2は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量の下限値は、20体積%以上とすることができ、25体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量の上限値は、70体積%以下とすることができ、60体積%以下であってもよく、50体積%以下であってもよい。熱伝導性シート1の柔軟性の観点から、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、25〜60体積%とすることが好ましい。
【0019】
<第1の熱伝導性フィラー>
第1の熱伝導性フィラー3は、鱗片状の熱伝導性フィラーであってもよく、繊維状の熱伝導性フィラーであってもよく、鱗片状の熱伝導性フィラーと繊維状の熱伝導性フィラーとを併用してもよい。
【0020】
鱗片状の熱伝導性フィラーは、高アスペクト比で、かつ面方向に等方的な熱伝導率を有する。鱗片状の熱伝導性フィラーは、鱗片状のものであれば特に限定されず、例えば、窒化ホウ素(BN)、雲母、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素、シリカ、酸化亜鉛、二硫化モリブデン等を用いることができる。
【0021】
また、繊維状の熱伝導性フィラーは、繊維状であって必要な熱伝導性を有するものであれば特に限定されず、例えば、高い熱伝導性と絶縁性の観点からは、窒化アルミニウム繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンビスオキサゾール繊維などが好ましい。また、熱伝導性シート1における比誘電率の特性を損なわない限り、繊維状の熱伝導性フィラーは、導電性を有するものであってもよく、炭素繊維や、金属(例えば、銅、ステンレス、ニッケルなど)からなる繊維などが挙げられる。
【0022】
図2は、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素3Aを模式的に示す斜視図である。鱗片状の熱伝導性フィラーとしては、熱伝導性シート1の比誘電率及び熱伝導率の観点から、
図2に示すように結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素3Aを用いることが好ましい。鱗片状の熱伝導性フィラーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本技術に係る熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3として、球状の熱伝導性フィラー(例えば球状の窒化ホウ素)よりも安価な鱗片状の熱伝導性フィラー(例えば、鱗片状の窒化ホウ素3A)を用いて、優れた熱特性と誘電特性を発揮させることができる。
【0023】
鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径(D50)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径の下限値は、10μm以上とすることができ、20μm以上であってもよく、30μm以上であってもよく、35μm以上であってもよい。また、鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径の上限値は、150μm以下とすることができ、100μm以下であってもよく、90μm以下であってもよく、80μm以下であってもよく、70μm以下であってもよく、50μm以下であってもよく、45μm以下であってもよい。熱伝導性シート1の熱伝導率の観点から、鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径は、20〜100μmとすることが好ましい。また、繊維状の熱伝導性フィラーのD50は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、20〜250μmとすることができる。
【0024】
第1の熱伝導性フィラー3のアスペクト比(平均長径/平均短径)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、鱗片状の熱伝導性フィラーのアスペクト比は、10〜100の範囲とすることができる。第1の熱伝導性フィラー3の平均長径及び平均短径は、例えば、マイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)、粒度分布計などにより測定することができる。一例として、鱗片状の熱伝導性フィラーとして、
図2に示すような結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素3Aを用いた場合、SEMで撮影された画像から200個以上の窒化ホウ素3Aを任意に選択し、それぞれの長径aと短径bの比(a/b)を求めて平均値を算出すればよい。
【0025】
熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量の下限値は、15体積%以上とすることができ、20体積%以上であってもよく、25体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量の上限値は、45体積%以下とすることができ、40体積%以下であってもよく、35体積%以下であってもよく、30体積%以下であってもよい。熱伝導性シート1の熱伝導率及び柔軟性の観点から、熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量を20〜35体積%とすることが好ましい。熱伝導性シート1の比誘電率の異方性の観点では、熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量を20体積%以上40体積%未満とすることが好ましく、20〜27体積%とすることがより好ましい。
【0026】
<第2の熱伝導性フィラー>
第2の熱伝導性フィラー4は、上述した第1の熱伝導性フィラー3以外の熱伝導性フィラーである。第2の熱伝導性フィラー4は、非鱗片状かつ非繊維状であり、例えば、球状、粉末状、顆粒状、扁平状等の熱伝導性フィラーが挙げられる。第2の熱伝導性フィラー4の材質は、本技術の効果を考慮して、熱伝導性シート1の絶縁性を確保できる材料が好ましく、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、サファイア)、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ジルコニア、炭化ケイ素などが挙げられる。第2の熱伝導性フィラー4は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
特に、第2の熱伝導性フィラー4としては、熱伝導性シート1の比誘電率及び熱伝導率の観点から、窒化アルミニウム粒子と、球状のアルミナ粒子とを併用することが好ましい。窒化アルミニウム粒子の平均粒径は、熱硬化前の熱伝導性シート1の粘度低下の観点から、1〜5μmとすることが好ましく、1〜3μmであってもよく、1〜2μmであってもよい。また、球状のアルミナ粒子の平均粒径は、熱硬化前の熱伝導性シート1の粘度低下の観点から、1〜3μmとすることが好ましく、1.5〜2.5μmであってもよい。
【0028】
熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量の下限値は、10体積%以上とすることができ、15体積%以上であってもよく、20体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量の上限値は、50体積%以下とすることができ、40体積%以下であってもよく、30体積%以下であってもよく、25体積%以下であってもよい。熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量の合計は、例えば、30〜60体積%とすることができる。
【0029】
第2の熱伝導性フィラー4として、球状のアルミナ粒子を単独で用いる場合、熱硬化前の熱伝導性シート1の粘度低下の観点から、熱伝導性シート1中、球状のアルミナ粒子の含有量は10〜45体積%とすることが好ましい。また、上述のように、第2の熱伝導性フィラー4として、窒化アルミニウム粒子と、球状のアルミナ粒子とを併用する場合、熱硬化前の熱伝導性シート1の粘度低下の観点から、熱伝導性シート1中、球状のアルミナ粒子の含有量は10〜25体積%とすることが好ましく、窒化アルミニウム粒子の含有量は10〜25体積%とすることが好ましい。
【0030】
熱伝導性シート1は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、例えば、分散剤、硬化促進剤、遅延剤、粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤などが挙げられる。
【0031】
以上のように、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とがバインダ樹脂2に分散している熱伝導性シート1は、
図1に示す厚み方向Bと面方向Aとで、比誘電率及び熱伝導率が異なる。特に、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とを併用することにより、第2の熱伝導性フィラー4で第1の熱伝導性フィラー3の配向を支え、第1の熱伝導性フィラー3を可能な限り熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向させることができる。
【0032】
熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3が、熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向しており、厚み方向Bの熱伝導率が面方向Aの熱伝導率よりも大きく、かつ、厚み方向Bの比誘電率が面方向Aの比誘電率よりも大きいことが好ましい。例えば、熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3の配向方向(例えば、熱伝導性シート1の厚み方向B)における熱伝導率が、第1の熱伝導性フィラー3の非配向方向(例えば、熱伝導性シート1の面方向A)における熱伝導率の2倍以上であってもよい。熱伝導性シート1の厚み方向Bの熱伝導率は、例えば、1W/m・K以上とすることができ、4W/m・K以上とすることもでき、7W/m・K以上とすることもでき、9W/m・K以上とすることもできる。熱伝導性シート1の面方向Aの熱伝導率は、例えば、1W/m・K以上とすることができ、3W/m・K以上とすることもでき、3.5W/m・K以上とすることもできる。
【0033】
熱伝導性シート1の厚み方向Bの比誘電率(30GHz)は、例えば、4.0以上とすることができ、5.0以上とすることもでき、30以上とすることもでき、60以上とすることもできる。熱伝導性シート1の面方向Aの比誘電率(30GHz)は、例えば、3.0以上とすることができ、4.0以上とすることもでき、4.5以上とすることもでき、10以上とすることもでき、20以上とすることもできる。熱伝導性シートの熱伝導率及び比誘電率は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0034】
熱伝導性シート1の平均厚みは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導性シートの平均厚みの下限値は、0.05mm以上とすることができ、0.1mm以上とすることもできる。また、熱伝導性シートの平均厚みの上限値は、5mm以下とすることができ、4mm以下であってもよく、3mm以下であってもよい。熱伝導性シート1の取り扱い性の観点から、熱伝導性シート1の平均厚みは、0.1〜4mmとすることが好ましい。熱伝導性シート1の平均厚みは、例えば、熱伝導性シートの厚みを任意の5箇所で測定し、その算術平均値から求めることができる。
【0035】
<熱伝導性シートの製造方法>
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、下記工程Aと、工程Bと、工程Cとを有する。
【0036】
<工程A>
工程Aでは、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とをバインダ樹脂2に分散させることにより熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する。熱伝導性シート形成用の樹脂組成物は、第1の熱伝導性フィラー3と、第2の熱伝導性フィラー4と、バインダ樹脂2との他に、必要に応じて各種添加剤や揮発性溶剤とを公知の手法により均一に混合することにより調製することができる。
【0037】
<工程B>
工程Bでは、調製された熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する。成形体ブロックの形成方法としては、押出成形法、金型成形法などが挙げられる。押出成形法、金型成形法としては、特に制限されず、公知の各種押出成形法、金型成形法の中から、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物の粘度や熱伝導性シートに要求される特性等に応じて適宜採用することができる。
【0038】
例えば、押出成形法において、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物をダイより押し出す際、あるいは金型成形法において、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を金型へ圧入する際、バインダ樹脂が流動し、その流動方向に沿って第1の熱伝導性フィラー3が配向する。
【0039】
工程Bでは、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から、バーコーターを用いて未硬化状態のシート(グリーンシート)を作製し、このグリーンシートを積層させることで成形体ブロックを形成してもよい。例えば、この方法では、バーコーターを用いて50〜500μm厚のシートを作製し、80〜120℃のオーブンで5〜20分間乾燥することで、グリーンシートを得る。次に、未硬化状態のグリーンシートを所望の高さに積層させた積層体を形成する。そして、この積層体をさらに硬化させることで成形体ブロックが得られる。
【0040】
成形体ブロックの大きさ・形状は、求められる熱伝導性シート1の大きさに応じて決めることができる。例えば、断面の縦の大きさが0.5〜15cmで横の大きさが0.5〜15cmの直方体が挙げられる。直方体の長さは必要に応じて決定すればよい。
【0041】
<工程C>
工程Cでは、成形体ブロックをシート状にスライスして、厚み方向と面方向とで、比誘電率及び熱伝導率が異なる熱伝導性シートを得る。スライスにより得られるシートの表面(スライス面)には、第1の熱伝導性フィラー3が露出する。スライスする方法としては特に制限はなく、成形体ブロックの大きさや機械的強度により公知のスライス装置(好ましくは超音波カッタ)の中から適宜選択することができる。成形体ブロックのスライス方向としては、成形方法が押出成形法である場合、押出し方向に第1の熱伝導性フィラー3が配向しているものもあるため、押出し方向に対して60〜120度であることが好ましく、70〜100度の方向であることがより好ましく、90度(垂直)の方向であることがさらに好ましい。成形体ブロックのスライス方向は、特に制限はなく、熱伝導性シート1の使用目的等に応じて適宜選択することができる。
【0042】
このように、工程Aと、工程Bと、工程Cとを有する熱伝導性シートの製造方法では、バインダ樹脂2と、第1の熱伝導性フィラー3と、第2の熱伝導性フィラー4とを含有し、第1の熱伝導性フィラー3と第2の熱伝導性フィラー4とがバインダ樹脂2に分散しており、厚み方向Bと面方向Aとで、比誘電率及び熱伝導率が異なる熱伝導性シート1を得ることができる。
【0043】
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、上述した例に限定されず、例えば、工程Cの後に、スライス面をプレスする工程Dをさらに有していてもよい。熱伝導性シートの製造方法がプレスする工程Dを有することで、工程Cで得られるシートの表面がより平滑化され、他の部材との密着性をより向上させることができる。プレスの方法としては、平盤と表面が平坦なプレスヘッドとからなる一対のプレス装置を使用することができる。また、ピンチロールでプレスしてもよい。プレスの際の圧力としては、例えば、0.1〜100MPaとすることができる。プレスの効果をより高め、プレス時間を短縮するために、プレスは、バインダ樹脂2のガラス転移温度(Tg)以上で行うことが好ましい。例えば、プレス温度は、0〜180℃とすることができ、室温(例えば25℃)〜100℃の温度範囲内であってもよく、30〜100℃であってもよい。
【0044】
<電子機器>
本技術に係る熱伝導性シートは、例えば、発熱体と放熱体との間に配置させることにより、発熱体で生じた熱を放熱体に逃がすためにそれらの間に配された構造の電子機器(サーマルデバイス)とすることができる。電子機器は、発熱体と放熱体と熱伝導性シートとを少なくとも有し、必要に応じて、その他の部材をさらに有していてもよい。
【0045】
発熱体としては、特に限定されず、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱体には、通信機器における光トランシーバ等の光信号を受信する部品も含まれる。
【0046】
放熱体としては、特に限定されず、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバ筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。放熱体としては、ヒートスプレッダやヒートシンク以外にも、熱源から発生する熱を伝導して外部に放散させるものであればよく、例えば、放熱器、冷却器、ダイパッド、プリント基板、冷却ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、金属カバー、筐体等が挙げられる。
【0047】
図3は、本技術に係る熱伝導性シート1を適用した半導体装置50の一例を示す断面図である。例えば、熱伝導性シート1は、
図3に示すように、各種電子機器に内蔵される半導体装置50に実装され、発熱体と放熱体との間に挟持される。
図3に示す半導体装置50は、電子部品51と、ヒートスプレッダ52と、熱伝導性シート1とを備え、熱伝導性シート1がヒートスプレッダ52と電子部品51との間に挟持される。熱伝導性シート1が、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に挟持されることにより、ヒートスプレッダ52とともに、電子部品51の熱を放熱する放熱部材を構成する。熱伝導性シート1の実装場所は、ヒートスプレッダ52と電子部品51との間や、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に限らず、電子機器や半導体装置の構成に応じて、適宜選択できる。
【実施例】
【0048】
以下、本技術の実施例について説明する。実施例では、熱伝導性シートを作製し、熱伝導性シートの厚み方向と面方向の比誘電率及び熱伝導率を測定した。なお、本技術は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
シリコーン樹脂33体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50が40μm)27体積%と、窒化アルミニウム(D50が1.2μm)20体積%と、球状アルミナ粒子(D50が2μm)20体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製した。押出成形法により、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、60℃のオーブンで4時間加熱させて成形体ブロックを形成した。なお、金型の内面には、剥離処理面が内側となるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けておいた。得られた成形体ブロックの長さ方向に直交する方向に、成形体ブロックを超音波カッターで1mm厚のシート状にスライスすることにより、鱗片状の窒化ホウ素がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0050】
<実施例2>
シリコーン樹脂37体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50が40μm)23体積%と、窒化アルミニウム(D50が1.2μm)20体積%と、球状アルミナ粒子(D50が2μm)20体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱伝導性シートを得た。
【0051】
<実施例3>
シリコーン樹脂60体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50が40μm)20体積%と、窒化アルミニウム(D50が1.2μm)10体積%と、球状アルミナ粒子(D50が2μm)10体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱伝導性シートを得た。
【0052】
<実施例4>
シリコーン樹脂35体積%と、炭素繊維(D50が150μm)23体積%と、球状アルミナ粒子(D50が3μm)42体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製したこと、100℃のオーブンで6時間加熱させて成形体ブロックを形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、炭素繊維がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0053】
<実施例5>
シリコーン樹脂33体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50が40μm)27体積%と、窒化アルミニウム(D50が1.2μm)20体積%と、球状アルミナ粒子(D50が2μm)20体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製した。バーコーターを用いて1mm厚のシートを作製し、60℃のオーブンで30分硬化することで、未硬化状のグリーンシートを得て、当該シートを積層させ50mm×50mmの積層体を形成させ、60℃のオーブンで4時間加熱させて成形体ブロックを形成した。得られた成形体ブロックを超音波カッターで1mm厚のシート状にスライスすることにより、鱗片状の窒化ホウ素がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0054】
<実施例6>
シリコーン樹脂33体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50が40μm)27体積%と、窒化アルミニウム(D50が1.2μm)20体積%と、球状アルミナ粒子(D50が2μm)20体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を形成した。ダイヘッド(開口部:高さ1mm×スリット幅0.5mm)を用いて50mm×50mmの積層体を調整し、60℃のオーブンで4時間加熱させて成形体ブロックを形成した。得られた成形体ブロックを超音波カッターで1mm厚のシート状にスライスすることにより、鱗片状の窒化ホウ素がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0055】
<比較例1>
シリコーン樹脂60体積%と、球状の窒化ホウ素(D50が25μm)20体積%と、窒化アルミニウム(D50が1.2μm)10体積%と、球状アルミナ粒子(D50が2μm)10体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱伝導性シートを得た。
【0056】
<比較例2>
シリコーン樹脂60体積%と、球状の窒化ホウ素(D50が50μm)20体積%と、窒化アルミニウム(D50が1.2μm)10体積%と、球状アルミナ粒子(D50が2μm)10体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱伝導性シートを得た。
【0057】
<比較例3>
シリコーン樹脂60体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50が40μm)40体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱伝導性シートを得た。
【0058】
<熱伝導率>
ASTM−D5470に準拠した熱抵抗測定装置を用いて、荷重1kgf/cm
2をかけて熱伝導性シートの厚み方向及び面方向の実効熱伝導率(W/m・K)をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。表1中、「厚み方向」及び「面方向」とは、熱伝導性シートにおける実効熱伝導率の測定方向を表す。また、シートにおいて炭素繊維や鱗片状の窒化ホウ素が配向させられている方向が「厚み方向」であり、厚み方向の角度を90度変えた方向が「面方向」であるとも換言できる。
【0059】
<比誘電率>
JIS K6911に準じた方法で、熱伝導性シートの厚み方向及び面方向の比誘電率(30GHz)を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例1〜6では、バインダ樹脂と、第1の熱伝導性フィラーと、第2の熱伝導性フィラーとを含有し、第1の鱗片状の熱伝導性フィラーと第2の熱伝導性フィラーとがバインダ樹脂に分散しており、厚み方向と面方向とで比誘電率及び熱伝導率が異なる熱伝導性シートが得られることが分かった。すなわち、実施例1〜6で得られた熱伝導性シートは、厚み方向と面方向とで比誘電率及び熱伝導率の異方性を有することが分かった。
【0062】
また、実施例1〜6で得られた熱伝導性シートは、第1の熱伝導性フィラーの配向方向(厚み方向)における熱伝導率が、第1の熱伝導性フィラーの非配向方向(面方向)における熱伝導率の2倍以上であることが分かった。
【0063】
比較例1,2では、第1の熱伝導性フィラーを含有しない樹脂組成物を用いたため、厚み方向と面方向とで比誘電率及び熱伝導率が異なる熱伝導性シートが得られないことが分かった。すなわち、比較例1,2で得られた熱伝導性シートは、厚み方向と面方向とで比誘電率及び熱伝導率の異方性を有しないことが分かった。
【0064】
比較例3では、第2の熱伝導性フィラーを含有しない樹脂組成物を用いたため、厚み方向と面方向とで比誘電率及び熱伝導率が異なる熱伝導性シートが得られないことが分かった。具体的には、比較例3で得られた熱伝導性シートは、厚み方向と面方向とで比誘電率の異方性を有しないことが分かった。