特許第6976413号(P6976413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976413
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/12 20060101AFI20211125BHJP
   F16D 41/16 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   F16D41/12 A
   F16D41/16
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-506033(P2020-506033)
(86)(22)【出願日】2018年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2018010032
(87)【国際公開番号】WO2019176026
(87)【国際公開日】20190919
【審査請求日】2021年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】大池栄弥
(72)【発明者】
【氏名】加藤忠彦
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0102848(US,A1)
【文献】 特表2005−522643(JP,A)
【文献】 特表2013−521453(JP,A)
【文献】 米国特許第7086514(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/12,41/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクの伝達と遮断とを切り換えるクラッチ装置であって、
軸線に交差する第1面に第1穴が形成され、前記軸線を中心に回転する第1部材と、
前記第1面と前記軸線の方向に対向する第2面を有し、前記第2面に第2穴が形成されると共に前記軸線を中心に回転する第2部材と、
前記第2穴に係合する端部が設けられた支柱と、前記支柱の前記端部の反対側の部分から前記第1面の径方向の両側に延びる腕と、を備え、前記第1穴の前記第2部材側を向く第3面に配置される係合子と、
前記第1穴の内側に配置され、弾性力を前記支柱の力点に加え、前記端部を前記係合子の支点を中心に前記第2部材側へ動かす圧縮ばねと、を備え、
前記第1穴のうち前記第1面および前記第3面に連絡する第4面であって、前記係合子に対して径方向の外側に位置する第4面は、前記第1部材の回転時に前記支柱の側面が接触する接触部を備え、
前記接触部は、前記第3面に垂直に設けられており、
前記接触部と前記支柱の前記側面とが接触したときに、前記側面の前記端部と前記第4面との間に隙間があり、前記第2穴に前記端部が係合したときも前記接触部に前記支柱が接触するクラッチ装置。
【請求項2】
前記接触部は、前記係合子の重心から前記支点までを前記第4面に投影した範囲にある請求項1記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記接触部は、前記第4面から径方向の内側へ向かって突出している請求項1又は2記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルクの伝達と遮断とを切り換えるクラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸線に交差する第1面を有し軸線を中心に回転する第1部材と、第1面と軸線の方向に対向する第2面を有し軸線を中心に回転する第2部材と、第1部材の第1面と第2部材の第2面との間に介在する係合子と、を備えるクラッチ装置が知られている(特許文献1及び2)。特許文献1及び2に開示される技術では、第1面に形成された第1穴に係合子が配置される。係合子は、第1穴の内側に配置された圧縮ばねによって、端部側が支点を中心に第2部材側へ起き上がる。第2部材の第2面に形成された第2穴に係合子の端部が係合すると、第1部材と第2部材とが一体に回転する。係合子が起き上がるために、圧縮ばねはある程度の弾性力が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5145019号公報
【特許文献2】特許第6209608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の技術では、第1部材と第2部材とが相対回転するときは、圧縮ばねの弾性力によって係合子の端部が第2部材に押し付けられ、互いに擦れ合う。このフリクションを小さくするために、圧縮ばねは弾性力が小さい方が有利である。しかし、第1部材の回転数が高くなると係合子の遠心力が増加するため、圧縮ばねは、遠心力に打ち勝って係合子を起き上がらせるための大きな弾性力が必要となる。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、圧縮ばねの弾性力を小さくできるクラッチ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のクラッチ装置は、トルクの伝達と遮断とを切り換えるものであり、軸線を中心に回転する第1部材は、軸線に交差する第1面に第1穴が形成され、軸線を中心に回転する第2部材は、第1面と軸線の方向に対向する第2面を有し、第2面に第2穴が形成される。第1穴の第2部材側を向く第3面に配置される係合子は、第1穴の内側に配置される圧縮ばねの弾性力が力点に加えられ、第2穴に係合する係合子の端部が、係合子の支点を中心に第2部材側へ動く。第1穴のうち第1面および第3面に連絡する第4面であって、係合子に対して径方向の外側に位置する第4面は、第1部材の回転時に係合子の側面が接触する接触部を備える。接触部と係合子の側面とが接触したときに、側面の端部と第4面との間に隙間がある。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のクラッチ装置によれば、第1部材が回転するときは係合子に遠心力が作用する。力点に加わる圧縮ばねの弾性力による支点の回りの第1モーメントが、係合子の遠心力によって接触部に加わる摩擦力による支点の回りの第2モーメントよりも大きいときに、圧縮ばねは係合子を起き上がらせる。接触部と係合子の支柱の側面とが接触したときに、側面の端部と第4面との間に隙間があるので、支柱の側面の端部が第4面に接触する場合に比べて、第2モーメントに関係する支点から接触部までの距離を短くできる。その分だけ第2モーメントを小さくできるので、第1モーメントとのつり合いによって圧縮ばねの弾性力を小さくできる。
接触部は第1部材の第3面に垂直に設けられているので、係合子が起き上がったときも支柱が接触部に接触する。接触部によって係合子が起き上がったときの係合子の径方向の位置を規制できる。
【0008】
請求項2記載のクラッチ装置によれば、接触部は、係合子の支点から係合子の重心までを第4面に投影した範囲にある。その結果、接触部が、係合子の重心から端部まで(但し重心は含まない)を第4面に投影した範囲にある場合に比べて、第2モーメントに関係する支点から接触部までの距離をさらに短くできる。第2モーメントをさらに小さくできるので、圧縮ばねの弾性力をさらに小さくできる。
【0009】
また、係合子の重心から端部まで(但し重心は含まない)を第4面に投影した範囲に接触部がある場合に比べて、重心周りの係合子の回転による係合子の端部と第4面との接触を防ぎ易くできる。係合子の端部が第4面に接触すると係合子の側面の角が摩耗し易くなるので、係合子の重心や質量が変わってしまい、モーメントのつり合いが経時的に変化することになる。これを防止できるので、初期の設計どおりにクラッチ装置を長期間作動させ易くできる。
【0010】
請求項3記載のクラッチ装置によれば、接触部は第4面から径方向の内側へ向かって突出しているので、係合子の側面の一部を突出させて接触部を設ける場合に比べ、接触部が摩耗しても係合子の重心の位置や質量が変わらないようにできる。接触部が摩耗してもモーメントのつり合いが変わらないようにできるので、請求項1又は2の効果に加え、初期の設計どおりにクラッチ装置を長期間作動させ易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施の形態におけるクラッチ装置の断面図である。
図2】第2部材の背面図である。
図3図1のIII−III線におけるクラッチ装置の断面図である。
図4】(a)は図3のIVa−IVa線におけるクラッチ装置の断面図であり、(b)は一部を拡大した第1部材および係合子の正面図である。
図5】(a)は図4(b)のVa−Va線における第1部材および係合子の断面図であり、(b)は第2実施の形態におけるクラッチ装置の第1部材および係合子の正面図であり、(c)は図5(b)のVc−Vc線における第1部材および係合子の断面図である。
図6】(a)は第3実施の形態におけるクラッチ装置の一部を拡大した第1部材および係合子の正面図であり、(b)は第4実施の形態におけるクラッチ装置の一部を拡大した第1部材および係合子の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず図1を参照してクラッチ装置10の概略構成について説明する。図1は第1実施の形態におけるクラッチ装置10の軸線Oを含む断面図である。クラッチ装置10は、軸線Oを中心に回転する第1部材20及び第2部材50を備えている。本実施の形態では入力軸11及び出力軸12が同一の軸線O上に配置され、第1部材20は入力軸11に結合し、第2部材50は出力軸12に結合している。
【0013】
第1部材20は、軸線Oを中心とする輪状に形成される部材であり、軸線Oに交差する(本実施形態では軸線Oに直交する)平坦面状の第1面21に第1穴22,28(図3参照)が複数形成されている。第1面21は、第2部材50の平坦面状の第2面51と軸線O方向に対向する。第1穴22,28には、第2部材50側を向く第3面23がそれぞれ形成されている。第3面23よりも第2部材50から離れた位置にある第1穴22,28の底面24には、第1部材20の第1面21の反対側の端面26に開口する油穴25が形成されている。
【0014】
第1穴22,28(図3参照)の第3面23には係合子30,33(図3参照)が配置され、第1穴22,28の底面24と係合子30,33との間に、圧縮ばね34が配置されている。圧縮ばね34は、係合子30,33を第2部材50側へ付勢する。第1部材20の第1面21には、係合子30,33と干渉するリテーナ40が配置されている。
【0015】
第2部材50は、軸線Oを中心とする輪状に形成される部材であり、軸線Oに交差する(本実施形態では軸線Oに直交する)平坦面状の第2面51に第2穴52が複数形成されている。第2穴52は、第1部材20に配置された係合子30,33(図3参照)が係合する部位である。
【0016】
図2は第2部材50の背面図である。第2穴52は、周方向に互いに間隔をあけて第2部材50に形成されている。第2穴52は軸線O方向から見て略矩形状である。第2部材50は、第2穴52を周方向に繋ぐリング溝53が第2面51に形成されている。第2部材50は、リング溝53の溝底に連通するピン穴54が複数形成されている。
【0017】
図1に戻って説明する。ピン穴54は、第2部材50の第2面51の反対側の端面55に開口する。リング溝53(図2参照)にリング56が収容され、ピン穴54にピン57が収容される。ピン57は、出力軸12の周囲に配置された円環状の板部材58を介して、アクチュエータ59の軸線O方向の力をリング56に伝達する。アクチュエータ59は板部材58及びピン57を介してリング56を軸線O方向へ移動させる。
【0018】
図3図1のIII−III線におけるクラッチ装置10の断面図である。第1部材20は、第1穴22,28が周方向に交互に並んでいる。第1穴22,28は軸線O方向から見て略矩形状である。本実施形態では、第1穴28の周方向の長さは第1穴22の周方向の長さよりも長い。第1部材20は、第1穴22,28を周方向に繋ぐ円弧状の溝21aが第1面21に形成されている。溝21aは、第2部材50(図1参照)に配置されたリング56が進入する窪みである。
【0019】
第1部材20は、第1穴22の周方向の一方の端から径方向の両側に延びる凹部27が第1面21に形成されており、第1穴28の周方向の他方の端から径方向の両側に延びる凹部29が第1面21に形成されている。本実施形態では、凹部29の周方向の長さは凹部27の周方向の長さよりも長い。
【0020】
係合子30は第1穴22に配置され、係合子33は第1穴28に配置される。係合子30,33は、矩形の板状の支柱31と、支柱31の端から支柱31の幅方向の両側に突出する腕32と、をそれぞれ備えている。係合子30,33は、第1部材20に配置される周方向の向きが異なる以外は同一の部品である。
【0021】
係合子30,33の腕32は凹部27,29に収容される。係合子30,33の支柱31は、第1穴22,28のうち径方向の外側に位置する第4面60と、第4面60と径方向に対向する第5面62と、の間に配置される。第1穴28及び凹部29の周方向の長さは係合子33の支柱31及び腕32の周方向の長さよりも長いので、係合子33は、第1穴28の第3面23及び凹部29の内部を周方向にスライドできる。
【0022】
リテーナ40は円板状の部材であり、放射状に延びる複数の第1腕41及び第2腕42が、周方向に交互に配置されている。リテーナ40は、第1部材20に配置された圧縮ばね(図示せず)の復元力により、軸線Oを中心に第1方向(矢印R方向)に付勢されている。リテーナ40が第1方向(矢印R方向)に付勢された状態で、第1腕41は係合子33の支柱31の周方向の端面に当接し、第2腕42は係合子30の支柱31の一部を覆う。
【0023】
図4(a)は図3のIVa−IVa線におけるクラッチ装置10の断面図である。図4(a)では、説明を容易にするため、第1部材20の第1面21に第2部材50の第2面51を向かい合わせた状態が図示されている。
【0024】
係合子33は支柱31が第1穴28の第3面23に配置される。第1穴28の底面24と係合子33との間に圧縮ばね34が配置される。本実施形態では、圧縮ばね34はねじりコイルばねである。圧縮ばね34は、係合子33の支柱31のうち腕32(図3参照)が設けられた部分と反対側の部分(力点35)に弾性力(復元力)を加える。リテーナ40(図3参照)の第1腕41は係合子33の腕32側の支柱31の端面に押し当てられており、係合子33の腕32は第2部材50の第2面51に押さえられるので、力点35に圧縮ばね34の弾性力が加えられた係合子33は、支柱31の支点36を中心にして端部37が第2部材50側へ移動できる。
【0025】
第1部材20の第1穴28の位置と第2部材50の第2穴52の位置とがずれている場合、及び、第2部材50に配置されたリング56が第2穴52に進入している場合は、圧縮ばね34の弾性力を受けた係合子33は、端部37が、第2部材50の第2面51やリング56に当たる。リング56が第2穴52から退出して、リング56が係合子33の端部37に接触しなくなると、係合子33の端部37は第2穴52に進入できる。一方、係合子30は、リテーナ40の第2腕42に支柱31の一部が覆われているので、第2穴52に進入できない。この状態で、第2部材50に対して第1部材20が第1方向(矢印R方向)へ相対回転すると、係合子33の端部37が第2穴52に係合して、第1部材20と第2部材50とは一体に回転する。
【0026】
係合子33が第1部材20及び第2部材50と一体に回転すると、第1腕41が係合子33に押され、リテーナ40は第2方向(反矢印R方向)へ回転する。リテーナ40の第2腕42(図3参照)は係合子30を覆えなくなるので、係合子30は圧縮ばね34の弾性力によって第2部材50側へ起き上がる。第2部材50の第2穴52は、第2部材50側へ起き上がった係合子30が進入できる位置に形成されているので、係合子30も第2部材50の第2穴52に係合する。
【0027】
一方、リテーナ40が係合子30の起き上がりを阻止している状態で、第2部材50に対して第1部材20が第2方向(反矢印R方向)へ相対回転すると、係合子33は第2穴52に係合できない。そのときの係合子33は、第2部材50の第2面51を端部37が擦りながら支点36を中心に揺動する。これが第2部材50に対して第1部材20が第2方向(反矢印R方向)へ相対回転するときのフリクションとなる。このフリクションはできるだけ小さい方が望ましい。
【0028】
図4(b)は一部を拡大した第1部材20及び係合子33の正面図である。図4(b)は、第1部材20の回転時であって、その遠心力によって、係合子33が第1穴28内を径方向の外側(図4(b)上側)へ移動した状態が図示されている(図5(b)、図6(a)及び図6(b)においても同じ)。なお、第1部材20の第1穴22も第1穴28と同様に構成されているので、以下、第1穴28について説明し、第1穴22の説明は省略する。
【0029】
係合子33は、支柱31のうち腕32の付け根31a(腕32よりも端部37側の部分)は、側面39間の幅が狭く設定されている。第1部材20に形成された第1穴28のうち係合子33の支柱31に対して径方向の外側に位置する第4面60は、第1面21(図4(a)参照)と第3面23とを連絡する。第4面60には、第1部材20の回転時に、係合子33の側面39が接触する接触部61が形成されている。接触部61は、第4面60のうち凹部29に近い部分から径方向の内側(図4(b)下側)へ向かって突出した凸部63と係合子33の側面39とが接触する部位である。係合子33が接触部61に接触したときは、係合子33は第4面60に対向する第5面62には接触しない。
【0030】
図5(a)は図4(b)のVa−Va線におけるクラッチ装置10の断面図である。接触部61は第3面23に垂直に設けられている。接触部61は、係合子33(支柱31)の側面39が、支柱31の角に付けられた丸みを除いて、厚さ方向(図5(a)上下方向)の全長に亘って接触する。
【0031】
図4(b)に戻って説明する。接触部61は、係合子33の支点36から端部37までを軸線Oに垂直に第4面60(凹部29を含む)に投影した範囲にある。係合子33の側面39が接触部61に接触したときに、係合子33の側面39の端部37と第4面60との間に隙間がある。また、第4面60に設けられた凸部63と係合子33の付け根31aとの間には隙間ができ、そこは接触しないので、接触部61は、係合子33の支点36から重心38までを軸線Oに垂直に第4面60(凹部29を含む)に投影した範囲にある。さらに、接触部61は、係合子33の支点36から力点35までを軸線Oに垂直に第4面60(凹部29を含む)に投影した範囲にある。
【0032】
なお、係合子33を第4面60(凹部29を含む)に投影した範囲とは、係合子33の支点36を通り軸線Oに平行な平面と第4面60(凹部29を含む)とが交わるところから、係合子33の端部37を通り軸線Oに平行な平面と第4面60とが交わるところまでの範囲をいう。また、係合子33の支点36から重心38までを第4面60に投影した範囲とは、係合子33の支点36を通り軸線Oに平行な平面と第4面60(凹部29を含む)とが交わるところから、係合子33の重心38を通り軸線Oに平行な平面と第4面60とが交わるところまでの範囲をいう。
【0033】
ここで、第1部材20が軸線Oを中心に回転するときは、係合子33に遠心力が作用する。係合子33の遠心力Fcは、係合子33の質量m、係合子33の重心38から軸線Oまでの半径r、第1部材20の角速度ωの場合、Fc=mrωである。この遠心力Fcによる接触部61の摩擦力Ffは、静止摩擦係数μのとき、Ff=Fc・μである。
【0034】
本実施形態では、支点36から接触部61の中心までの周方向における距離D1、及び、支点36から力点35までの周方向における距離D2の関係はD2>D1である。なお、力点35の位置は、係合子33の端部37が第3面23に接触したとき(係合子33の揺動角度0°)の支柱31にばね荷重が加わる位置である。係合子33の端部37が第3面23に接触したときの力点35から支点36までの距離D2は、圧縮ばね34の弾性力によって係合子33の端部37が第2面51に接触したとき(揺動角度0°+α)の力点35から支点36までの距離D2と同じである。
【0035】
力点35に加わる圧縮ばね34の弾性力Pによる支点36の回りの第1モーメントD2・Pが、係合子33の遠心力Fcによって接触部61に加わる摩擦力Ffによる支点36の回りの第2モーメントD1・Ff(=D1・Fc・μ)よりも大きいときに、圧縮ばね34は係合子33を起き上がらせる。第1部材20の角速度ωが速くなり遠心力Fcが大きくなるほど、係合子33を起き上がらせる圧縮ばね34は大きな弾性力Pを必要とする。圧縮ばね34の弾性力Pが大きくなると、係合子33が第2部材50を擦りながら第1部材20が回転するときのフリクションが増加する。また、圧縮ばね34の弾性力Pが大きくなると、第2部材50の第2穴52に係合した係合子33を第2穴52から退出させるリング56を駆動するアクチュエータ59は、出力の大きなものが必要となる。
【0036】
これに対しクラッチ装置10は、係合子33の側面39が接触部61に接触したときに、係合子33の側面39の端部37と第4面60との間に隙間ができる。これにより、第1部材20が角速度ωで回転するときに係合子33の側面39の端部37が第4面60に接触する場合に比べて、支点36から接触部61までの距離D1を短くできる。その分だけ第2モーメントD1・Ffを小さくできるので、第1モーメントD2・Pと第2モーメントとのつり合いによって、圧縮ばね34の弾性力Pを小さくできる。よって、第2部材50の第2面51を係合子33の端部37が擦りながら第1部材20が回転するときのクラッチ装置10のフリクションを抑制できる。また、出力の小さいアクチュエータ59を採用できる。
【0037】
本実施形態では、接触部61が、係合子33の支点36から重心38までを第4面60(凹部29を含む)に投影した範囲にある。その結果、接触部61が、係合子33の重心38から端部37まで(但し重心38は含まない)を第4面60に投影した範囲にある場合に比べて、支点36から接触部61までの距離D1をさらに短くできる。第2モーメントD1・Ffをさらに小さくできるので、圧縮ばね34の弾性力をさらに小さくできる。
【0038】
また、係合子33の重心38から端部37まで(但し重心38は含まない)を第4面60に投影した範囲に接触部がある場合に比べて、重心38周りの係合子33の回転(図4(b)時計回り)による係合子33の端部37と第4面60との接触を防ぎ易くできる。係合子33の端部37が第4面60に接触すると係合子33の側面39の角が摩耗し易くなるので、係合子33の重心38や質量が変わってしまい、モーメントのつり合いが経時的に変化することになる。これを防止できるので、初期の設計どおりにクラッチ装置10を長期間作動させ易くできる。
【0039】
特に、接触部61が、係合子33の重心38を第4面60に投影した位置にあるので、第3面23内のモーメント(図4(b)時計回りのモーメント)をほぼ無視できる。よって、第2モーメントD1・Ffと第1モーメントD2・Pとのつり合いにより、圧縮ばね34の弾性力Pをさらに小さくできる。
【0040】
また、接触部61は、係合子33の支点36から力点35までを第4面60に投影した範囲にある。その結果、接触部61が、係合子33の力点35から端部37まで(但し力点35は含まない)を第4面60に投影した範囲にある場合に比べて、支点36から接触部61までの距離D1を短くできる。その分だけ、第2モーメントD1・Ffを小さくできるので、第2モーメントD1・Ffと第1モーメントD2・Pとのつり合いによって、圧縮ばね34の弾性力Pをさらに小さくできる。
【0041】
係合子33(支柱31)の側面39は、支柱31の角に付けられた丸みを除いて、厚さ方向(図5(a)上下方向)の全長に亘って接触部61に接触している。これにより、係合子33の側面39の厚さ方向の一部が接触部61に接触する場合に比べ、面圧を抑制できるので、係合子33や接触部61を摩耗し難くできる。
【0042】
接触部61は第3面23に垂直に設けられているので、係合子33が起き上がったときも、支柱31の一部が接触部61に接触する。これにより、接触部61によって、係合子33が起き上がったときの係合子33の径方向の位置を規制できる。
【0043】
接触部61は、凸部63によって、第4面60から径方向の内側へ向かって突出しているので、係合子33の側面39の一部を突出させて接触部61を設ける場合に比べ、接触部61が摩耗しても係合子33の重心38や質量が変わらないようにできる。接触部61が摩耗してもモーメントのつり合いが変わらないようにできるので、初期の設計どおりにクラッチ装置10を長期間作動させ易くできる。
【0044】
係合子33は支柱31の付け根31aの部分の幅が狭いので、係合子33が揺動するときに第1穴28や凹部29と支柱31とが擦れ合わないようにできる。さらに、第4面60のうち凹部29の縁に凸部63が連なり、付け根31aが凸部63と重複することにより凸部63の一部に接触部61が形成されるので、接触部61を形成するための第4面60の加工を容易にできる。
【0045】
図5(b)及び図5(c)を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、第3面23に接触部61が垂直に設けられる場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、第3面23と接触部73とが鈍角をなす場合について説明する。なお、第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0046】
図5(b)は第2実施の形態におけるクラッチ装置の第1部材70及び係合子74の正面図である。図5(c)は図5(b)のVc−Vc線における第1部材70及び係合子74の断面図である。第1部材70及び係合子74は、第1実施形態で説明したクラッチ装置10の第1部材20及び係合子33に代えて配置される。
【0047】
図5(b)に示すように第1部材70は、第1部材70の回転時に、係合子74の側面76の一部が接触する接触部73が、第4面72に形成されている。図5(c)に示すように接触部73は、第3面23から第1面21へ近づくにつれて径方向の外側(図5(c)右側)へ向かって広がっている。即ち、第3面23と接触部73とは鈍角をなしている。接触部73は、係合子74(支柱75)の側面76が、支柱75の角に付けられた丸みを除いて、厚さ方向(図5(c)上下方向)の全長に亘って接触する。
【0048】
第1部材70の第3面23と接触部71とは鈍角をなし、第1部材70の回転時に、係合子74の側面76は接触部73に接触する。接触部73が傾斜している分だけ、接触部73に加わる係合子74の遠心力Fcによる垂直分力を小さくできる。その結果、接触部73に加わる摩擦力Ffによる第2モーメントD1・Ffを小さくできるので、第2モーメントD1・Ffと第1モーメントD2・Pとのつり合いによって、圧縮ばね34の弾性力Pをさらに小さくできる。
【0049】
図5(b)に示すように、係合子74の腕77がそれぞれ収容される凹部78,79のうち、径方向の外側の凹部78の径方向の内側の面は、腕77の径方向の側面77aに接触する。凹部78の径方向の内側の面のうち腕77の側面77aが接触する部分は、接触部78aである。また、径方向の内側の凹部79の周方向の内側の面は、腕77の周方向の外側の面77bに接触する。
【0050】
係合子74が起き上がったときは、係合子74の支柱75の一部は接触部73に接触しない。しかし、凹部78の径方向の内側の面の一部の接触部78aが、腕77の径方向の側面77aに接触し、凹部79の周方向の内側の面が、腕77の周方向の内側の面77bに接触する。これにより、係合子74が起き上がったときの係合子74の径方向の位置を規制できる。腕77の位置は支点36からの距離が短いので、係合子74が支点36を中心に揺動するときに、腕77の側面77a及び面77bと凹部78(接触部78a),79との摩擦に係るモーメントはほとんど問題にならない。よって、圧縮ばね34の弾性力を小さくできる。
【0051】
図6(a)を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施形態および第2実施形態では、第4面60,72に接触部61,73が1箇所ずつ設けられる場合について説明した。これに対し第3実施形態では、第4面82に接触部61,83が複数設けられる場合について説明する。なお、第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0052】
図6(a)は第3実施の形態におけるクラッチ装置の一部を拡大した第1部材80及び係合子33の正面図である。第1部材80は、第1実施形態で説明したクラッチ装置10の第1部材20と第1穴81の形状が異なる。第1部材80は、第1実施形態で説明したクラッチ装置10の第1部材20に代えて配置される。
【0053】
第1部材80に形成された第1穴81のうち、係合子33の支柱31に対して径方向の外側に位置する第4面82には、接触部61に加え、第1部材80の回転時に係合子33の側面39の一部が接触する接触部83が形成されている。接触部83は、第4面82から径方向の内側(図6(a)下側)へ向かって突出している。
【0054】
接触部83は、係合子33の支点36から端部37までを軸線Oに垂直に第4面82(凹部29を含む)に投影した範囲にあり、係合子33の側面39が接触部61,83に接触したときに、係合子33の側面39の端部37と第4面82との間に隙間ができる。また、接触部83は、係合子33の支点36から力点35までを軸線Oに垂直に第4面82(凹部29を含む)に投影した範囲にある。接触部61,83が複数あるので、各々の面圧を抑制し、係合子33や接触部61,83を摩耗し難くできる。
【0055】
図6(b)を参照して第4実施の形態について説明する。第1実施形態から第3実施形態では、第1穴22,28,81の第4面60,82の一部を突出させて接触部を形成する場合について説明した。これに対し第4実施形態では、係合子93の一部を突出させて第4面92に接触部97を形成する場合について説明する。図6(b)は第4実施の形態におけるクラッチ装置の一部を拡大した第1部材90及び係合子93の正面図である。第1部材90及び係合子93は、第1実施形態で説明したクラッチ装置10の第1部材20及び係合子33に代えて配置される。
【0056】
第1部材90に形成された第1穴91の第4面92と第5面62との間に係合子93は配置される。第4面92は係合子93の支柱94に対して径方向の外側に位置する。係合子93は、支柱94の側面95の一部から凸部96が突出している。凸部96は、支柱94の厚さ方向(図6(b)紙面垂直方向)の全長に亘って設けられている。凸部96は第1部材90の回転時に第4面92に接触する。第4面92のうち凸部96が接触する部分は、接触部97である。
【0057】
接触部97は、係合子93の支点36から端部37までを軸線Oに垂直に第4面92(凹部29を含む)に投影した範囲にあり、係合子93の側面95が接触部97に接触したときに、係合子93の側面95の端部37と第4面92との間に隙間ができる。特に、接触部97は係合子93の支点36から重心38までを軸線Oに垂直に第4面92(凹部29を含む)に投影した範囲にある。さらに、接触部97は、係合子93の支点36から力点35までを軸線Oに垂直に第4面92(凹部29を含む)に投影した範囲にある。これにより、凸部96が摩耗すると係合子93の重心38や質量が変わる以外は、第1実施形態と同様の作用効果を実現できる。
【0058】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、係合子30,33,74,93の数や形状、係合子が係合する第2穴52の数は例示であり、適宜設定できる。接触部61,73,78a,83,97の位置や大きさも一例であり、適宜設定できる、
実施形態では、係合子30,33,74,93の腕32の付け根31aが、支柱31,75,94の他の部分の幅よりも狭い場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。付け根31aを省略して支柱31,75,94の幅を一定にすることは当然可能である。
【0059】
実施形態では、第4面60,72,82のうち凹部29,78の縁に凸部63が連なる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。凸部63は、第4面60,72,82のうち、係合子30,33,74の支点36から端部37までを第4面60,72,82に投影した範囲の任意の位置に任意の大きさで設けることが可能である。
【0060】
実施形態では、第1部材20,70,80,90が入力軸11に結合し、第2部材50が出力軸12に結合する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。これとは逆に、第1部材が出力軸12に結合し、第2部材が入力軸11に結合することは当然可能である。また、第1部材が一体に形成された場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1部材を軸線O方向に複数に分割することは当然可能である。
【0061】
実施形態では、第1部材20,70,80,90や第2部材50の中心にそれぞれ入力軸11や出力軸12が結合する場合、即ち第1部材や第2部材の軸線Oと入力軸や出力軸とが一致する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、軸で支持された第1部材や第2部材の外周面に歯形を付け、この歯形と入力軸や出力軸に設けられたギヤとのかみ合いによって、軸を中心に回転する第1部材や第2部材にトルクを伝達することは当然可能である。
【0062】
実施形態では、圧縮ばね34としてねじりコイルばねを用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ねじりコイルばねの代わりに、圧縮コイルばね等の他の圧縮ばねを用いることは当然可能である。
【0063】
実施形態では、第1部材20,70,80,90に係合子30,33を配置し二方向クラッチとするクラッチ装置10の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。係合子30,33のいずれかを省略して、クラッチ装置を、一方向に回転を伝達する一方向クラッチとすることは当然可能である。
【0064】
実施形態では、係合子30の揺動を規制するリテーナ40が第1部材20に配置された場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、リテーナ40を省略することは当然可能である。リテーナ40を省略する場合には、係合子33が第1穴28内をスライドできないように、第1穴28の周方向の長さを短くする。リテーナ40が省略された場合、係合子33は、第1穴28の隅の近くを支点36として揺動する。
【0065】
実施形態では、リング56を介して係合子30,33を軸線O方向に押し付ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。リング56を省略し、ピン57の先端形状や係合子30,33の形状を変更することで、ピン57を介して係合子30,33を軸線O方向に押し付けることは当然可能である。クラッチ装置の種類によって、リング56、ピン57及びアクチュエータ59等を省略することは当然可能である。
【0066】
実施形態では、係合子30,33が同一形状の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。係合子30,33の長さ、幅、厚さが互いに異なるようにすることは当然可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 クラッチ装置
20,70,80,90 第1部材
21 第1面
22,28,81,91 第1穴
23 第3面
30,33,74,93 係合子
31,94 支柱
32
34 圧縮ばね
35 力点
36 支点
37 端部
38 重心
39,76,77a,95 側面
50 第2部材
51 第2面
52 第2穴
60,72,82,92 第4面
61,73,78a,83,97 接触部
O 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6