特許第6976438号(P6976438)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976438
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20211125BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20211125BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20211125BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20211125BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   C08L69/00ZNM
   C08L51/08
   C08L51/04
   C08L67/00
   C08L101/00
【請求項の数】11
【全頁数】57
(21)【出願番号】特願2020-528989(P2020-528989)
(86)(22)【出願日】2019年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2019026180
(87)【国際公開番号】WO2020009076
(87)【国際公開日】20200109
【審査請求日】2020年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2018-126744(P2018-126744)
(32)【優先日】2018年7月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-207304(P2018-207304)
(32)【優先日】2018年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】稲澤 泰規
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/066210(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 51/08
C08L 51/04
C08L 67/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A成分)および(B)ポリエステル系樹脂(B成分)の合計100重量部に対し、
(C)ポリオルガノシロキサンゴムおよびアルキル(メタ)アクリレ−トゴムを含む成分からなる複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物単量体単位およびアルキル(メタ)アクリレート化合物単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単位がグラフト重合されたコアシェル構造を有するグラフト共重合体(C成分)3重量部〜15重量部、並びに
(D)防汚性付与剤(D成分)0.5重量部〜6重量部
を含み、
前記D成分が、シリコーンオイル、シリコーンガム、シリコーン樹脂微粒子、又はシリコーン変性ポリオレフィンである
ことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記D成分が、シリコーンガム、又はシリコーン変性ポリオレフィンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリコーン変性ポリオレフィンが、シリコーン変性ポリプロピレンであることを特徴とする、請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記D成分が、分子量10万以上のシリコーンガムであることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記D成分が、ポリオルガノシロキサングラフトポリオレフィン樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
(E)ハロゲン系難燃剤(E成分)5重量部〜35重量部、および
(F)下記式(1)で表される構造を有するリン系難燃剤(F成分)0.5重量部〜5重量部
をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
(式中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記一般式(I)で表される芳香族置換アルキル基である。)
【化2】
(式中、ALは炭素数1〜5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、nは1〜3の整数を示し、ArはALの任意の炭素原子に結合することができる。)
【請求項7】
B成分の含有量が、A成分とB成分との合計100重量部中、20重量部〜70重量部であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
B成分が、ポリエチレンテレフタレート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
C成分の複合ゴム中のポリオルガノシロキサンゴム成分の割合が、15%以上であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
A成分とB成分との合計100重量部に対し、(G)ドリップ防止剤(G成分)0.05重量部〜2重量部を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
G成分が、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーであることを特徴とする、請求項10に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関するものである。さらに詳細には、本開示は、ポリカーボネート系樹脂およびポリエステル系樹脂に、ポリオルガノシロキサンゴムおよびアルキル(メタ)アクリレ−トゴムを含む成分からなる複合ゴムに芳香族アルケニル化合物単量体単位およびアルキル(メタ)アクリレート化合物単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単位がグラフト重合されたコアシェル構造を有するグラフト共重合体、並びに防汚性付与剤を添加することにより、機械特性、耐薬品性、防汚性および外観が改善されたポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。本開示はさらに、機械特性、耐薬品性、防汚性および外観に加えて、難燃性および熱安定性も改善された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、優れた機械特性、熱的性質を有しているため工業的に広く利用されている。しかしながら芳香族ポリカーボネート樹脂は非晶性樹脂であるため、耐薬品性が劣るという欠点がある。そのため、種々のポリマーとのアロイ化検討が実施されているが、中でもポリエチレンテレフタレート樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂を代表とするポリエステル系樹脂とアロイ化されることにより(特許文献1参照)、芳香族ポリカーボネート樹脂の弱点である耐薬品性が改良され、そのバランスに優れた特性から、自動車分野、電気電子機器分野だけでなく、住宅設備分野やインフラ分野での利用も検討されるようになってきている。
【0003】
これまでに、特に低温での衝撃強度を改質するために、Si共重合PCを適用した例(特許文献2参照)やSi系ゴムを適用した例(特許文献3、4参照)が報告されている。また、流動改質や更なる耐薬品性の向上を目的として、シリコーンオイルやジアルキルシリコーンといったようなシロキサン化合物を添加した例(特許文献5、6、7参照)が報告されている。
【0004】
また、電気電子機器等の用途では難燃化の要求が高まっており、種々の難燃性樹脂組成物が提案されている。例えば、ポリカーボネート樹脂とポリエステル系樹脂にハロゲン系難燃剤とアンチモン化合物を併用する方法(特許文献8参照)があるが、アンチモン化合物による触媒作用により熱安定性が著しく低下する。また、難燃剤としてホウ素化合物(特許文献9参照)、赤燐(特許文献10参照)、リン酸エステル(特許文献11参照)を適用する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−36323号公報
【特許文献2】特開平2−43255号公報
【特許文献3】特開平1−261454号公報
【特許文献4】特開2008−88334号公報
【特許文献5】特開2004−162014号公報
【特許文献6】特開平1−272661号公報
【特許文献7】特開2005−133087号公報
【特許文献8】特開2015−081327号公報
【特許文献9】特開2000−001610号公報
【特許文献10】特開2000−136297号公報
【特許文献11】特開平08−012864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、主に屋外や水回り(浴室、トイレ、キッチンなど)用途といったような「製品が汚れやすい環境でも快適に製品を利用できる」ようにするために、樹脂に対して高い耐薬品性と防汚性が要求されるようになってきている。しかしながら、従来の報告では、防汚性に着眼されておらず、現状では、市場の要求を満たし得る機械特性、耐薬品性、防汚性および外観を併せ持つポリカーボネート樹脂組成物を提供するには至っていない。
【0007】
上記に鑑み、本開示の目的は、機械特性、耐薬品性、防汚性、および外観を高次元で満足するポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂およびポリエステル系樹脂を有するポリカーボネート樹脂組成物が、防汚性付与剤、および、特定の複合ゴムに特定の単量体単位がグラフトされたコアシェル構造を有するグラフト共重合体をさらに有していることによって、上記の課題が解決されることを見出した。
【0009】
すなわち、本件発明者は、上記課題が下記のポリカーボネート樹脂組成物によって達成されることを見出した。
〈態様1〉
(A)ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A成分)および(B)ポリエステル系樹脂(B成分)の合計100重量部に対し、
(C)ポリオルガノシロキサンゴムおよびアルキル(メタ)アクリレ−トゴムを含む成分からなる複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物単量体単位およびアルキル(メタ)アクリレート化合物単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単位がグラフト重合されたコアシェル構造を有するグラフト共重合体(C成分)3重量部〜15重量部、並びに
(D)防汚性付与剤(D成分)0.5重量部〜6重量部
を含むことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
〈態様2〉
(E)ハロゲン系難燃剤(E成分)5重量部〜35重量部、および
(F)下記式(1)で表される構造を有するリン系難燃剤(F成分)0.5重量部〜5重量部、
をさらに含むことを特徴とする、態様1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
(式中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記一般式(I)で表される芳香族置換アルキル基である。)
【化2】
(式中、ALは炭素数1〜5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、nは1〜3の整数を示し、ArはALの任意の炭素原子に結合することができる。)
〈態様3〉
B成分の含有量が、A成分とB成分との合計100重量部中、20重量部〜70重量部であることを特徴とする、態様1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
〈態様4〉
B成分が、ポリエチレンテレフタレート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする、態様1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
〈態様5〉
D成分が、分子量10万以上のシリコーンガムであることを特徴とする、態様1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
〈態様6〉
D成分が、ポリオルガノシロキサングラフトポリオレフィン樹脂であることを特徴とする、態様1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
〈態様7〉
C成分の複合ゴム中のポリオルガノシロキサンゴム成分の割合が、15%以上であることを特徴とする、態様1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
〈態様8〉
A成分とB成分との合計100重量部に対し、(G)ドリップ防止剤(G成分)0.05重量部〜2重量部を含むことを特徴とする、態様1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
〈態様9〉
G成分が、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーであることを特徴とする、態様8に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本開示のポリカーボネート樹脂組成物は、機械特性、耐薬品性、防汚性、および外観を高い次元で満たしていることから、屋外/屋内に限らず、住宅設備用途、建材用途、生活資材用途、インフラ設備用途、自動車用途、OA・EE用途、屋外機器用途、その他の各種分野において幅広く有用である。したがって本開示に係る発明の奏する産業上の効果は極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る発明の詳細について説明する。
【0012】
≪ポリカーボネート樹脂組成物≫
本開示に係るポリカーボネート樹脂組成物は、
(A)ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A成分)および
(B)ポリエステル系樹脂(B成分)を含有しており、
かつA成分およびB成分の合計100重量部に対し、
(C)ポリオルガノシロキサンゴムおよびアルキル(メタ)アクリレ−トゴムを含む成分からなる複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物単量体単位およびアルキル(メタ)アクリレート化合物単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単位がグラフト重合されたコアシェル構造を有するグラフト共重合体(C成分)3重量部〜15重量部、並びに
(D)防汚性付与剤(D成分)0.5重量部〜6重量部
を含んでいる。
【0013】
本願の樹脂組成物によれば、機械特性、耐薬品性および外観に加えて防汚性においても優れた性質が得られる。このような効果が得られる機構は必ずしも明らかではないが、下記のような機構が考えられる:すなわち、理論によって限定する意図はないが、(A)ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A成分)において該樹脂の表面に出ているポリジオルガノシロキサン、および(C)グラフト共重合体(C成分)において該共重合体の表面に出ているオルガノシロキサンゴム成分が、(D)防汚性付与剤(D成分)とともに、シロキサン部分によって防汚性を向上させていると考えられる。
【0014】
また、本開示の組成物によれば、(A)ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A成分)に加えて(B)ポリエステル系樹脂(B成分)が用いられることによって、機械特性、防汚性および外観に加えて、耐薬品性においても優れた性質がもたらされると考えられる。
【0015】
(A成分:ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂)
本開示の樹脂組成物は、A成分としてポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂を含有する。
【0016】
A成分としてポリジオルガノシロキサンを含有しないポリカーボネート樹脂を使用した場合、耐衝撃性、防汚性および耐薬品性が改善されない。
【0017】
本開示で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A成分)は、下記一般式(2)で表されるポリカーボネートブロック、および下記一般式(4)で表されるポリジオルガノシロキサンブロックから構成される共重合樹脂であることが好ましい。
【0018】
【化3】
[(上記一般式(2)において、R及びRは夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜14のアリール基、炭素原子数6〜14のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、e及びfは夫々1〜4の整数であり、Wは単結合もしくは下記一般式(3)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。)
【0019】
【化4】
[上記一般式(3)においてR11,R12,R13,R14,R15,R16,R17及びR18は夫々独立して水素原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数6〜14のアリール基及び炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群から選ばれる基を表し、R19及びR20は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜14のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、gは1〜10の整数、hは4〜7の整数である。]
【0020】
【化5】
[上記一般式(4)において、R、R、R、R、R及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12の置換若しくは無置換のアリール基であり、R及びR10は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは10〜300の自然数である。Xは炭素数2〜8の二価脂肪族基である。]
【0021】
本開示で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A成分)は、好ましくは、下記一般式(5)で表される二価フェノールおよび下記一般式(6)で表されるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサンを共重合させることにより調製することができる。
【0022】
【化6】
[(上記一般式(5)において、R及びRは夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のアルキル基、炭素原子数1〜18のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜14のアリール基、炭素原子数6〜14のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、e及びfは夫々1〜4の整数であり、Wは単結合もしくは上記一般式(3)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。)
【0023】
【化7】
[上記一般式(6)において、R、R、R、R、R及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12の置換若しくは無置換のアリール基であり、R及びR10は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは10〜300の自然数である。Xは炭素数2〜8の二価脂肪族基である。]
【0024】
一般式(5)で表される二価フェノール(I)としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,3’−ビフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル、4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2’−ジメチル−4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、2,2’−ジフェニル−4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルジフェニルスルフィド、1,3−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’−(1,3−アダマンタンジイル)ジフェノール、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
【0025】
なかでも、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4’−スルホニルジフェノール、2,2’−ジメチル−4,4’−スルホニルジフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,3−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼンが好ましく、殊に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、4,4’−スルホニルジフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンが好ましい。中でも強度に優れ、良好な耐久性を有する2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが最も好適である。また、これらは単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
上記一般式(6)で表されるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサンとしては、例えば下記に示すような化合物が好適に用いられる。
【0027】
【化8】
【0028】
ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)は、オレフィン性の不飽和炭素−炭素結合を有するフェノール類、好適にはビニルフェノール、2−アリルフェノール、イソプロペニルフェノール、2−メトキシ−4−アリルフェノールを所定の重合度を有するポリシロキサン鎖の末端に、ハイドロシリレーション反応させることにより容易に製造される。なかでも、(2−アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサン、(2−メトキシ−4−アリルフェノール)末端ポリジオルガノシロキサンが好ましく、殊に(2−アリルフェノール)末端ポリジメチルシロキサン、(2−メトキシ−4−アリルフェノール)末端ポリジメチルシロキサンが好ましい。ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)は、その分子量分布(Mw/Mn)が3以下であることが好ましい。さらに優れた高温成形時の低アウトガス性と低温衝撃性を発現させるために、かかる分子量分布(Mw/Mn)はより好ましくは2.5以下であり、さらに好ましくは2以下である。かかる好適な範囲である場合には、高温成形時のアウトガス発生量が抑制され、かつ低温衝撃性に優れる場合がある。
【0029】
また、高度な耐衝撃性を実現するためにヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)のジオルガノシロキサン重合度(p+q)は10〜300が適切である。かかるジオルガノシロキサン重合度(p+q)は好ましくは10〜200、より好ましくは12〜150、更に好ましくは14〜100である。かかる好適な範囲では、重合度(p+q)が十分大きいことによって、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体の特徴である耐衝撃性が有効に発現し、かつ重合度(p+q)が大きすぎないことによって、良好な外観がもたらされる。
【0030】
A成分で使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂全重量に占めるポリジオルガノシロキサン含有量は、0.1重量%〜50重量%が好ましい。かかるポリジオルガノシロキサン成分含有量は、より好ましくは0.5重量%〜30重量%、さらに好ましくは1重量%〜20重量%である。かかる好適な範囲の下限以上では、耐衝撃性や難燃性に優れ、かかる好適な範囲の上限以下では、成形条件の影響を受けにくい安定した外観が得られやすい。かかるポリジオルガノシロキサン重合度、ポリジオルガノシロキサン含有量は、H−NMR測定により算出することが可能である。
【0031】
本開示において、ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)は1種のみを用いてもよく、また、2種以上を用いてもよい。
【0032】
また、本開示に係る発明の妨げにならない範囲で、上記二価フェノール(I)およびヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)以外の他のコモノマーを、共重合体の全重量に対して10重量%以下の範囲で、併用することもできる。
【0033】
本開示においては、あらかじめ水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中における二価フェノール(I)と炭酸エステル形成性化合物の反応により末端クロロホルメート基を有するオリゴマーを含む混合溶液を調製する。
【0034】
二価フェノール(I)のオリゴマーを生成するにあたり、本開示の方法に用いられる二価フェノール(I)の全量を一度にオリゴマーにしてもよく、又は、その一部を後添加モノマーとして後段の界面重縮合反応に反応原料として添加してもよい。後添加モノマーとは、後段の重縮合反応を速やかに進行させるために加えるものであり、必要のない場合には敢えて加える必要はない。
【0035】
このオリゴマー生成反応の方式は特に限定はされないが、通常、酸結合剤の存在下、溶媒中で行う方式が好適である。
【0036】
炭酸エステル形成性化合物の使用割合は、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調整すればよい。また、ホスゲン等のガス状の炭酸エステル形成性化合物を使用する場合、これを反応系に吹き込む方法が好適に採用できる。
【0037】
前記酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、ピリジン等の有機塩基あるいはこれらの混合物などが用いられる。酸結合剤の使用割合も、上記同様に、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜定めればよい。具体的には、オリゴマーの形成に使用する二価フェノール(I)のモル数(通常1モルは2当量に相当)に対して2当量若しくはこれより若干過剰量の酸結合剤を用いることが好ましい。
【0038】
前記溶媒としては、公知のポリカーボネートの製造に使用されるものなど各種の反応に不活性な溶媒を1種単独であるいは混合溶媒として使用すればよい。代表的な例としては、例えば、キシレン等の炭化水素溶媒、塩化メチレン、クロロベンゼンをはじめとするハロゲン化炭化水素溶媒などが挙げられる。特に塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒が好適に用いられる。
【0039】
オリゴマー生成の反応圧力は特に制限はなく、常圧、加圧、減圧のいずれでもよいが、通常常圧下で反応を行うことが有利である。反応温度は−20℃〜50℃の範囲から選ばれ、多くの場合、重合に伴い発熱するので、水冷又は氷冷することが望ましい。反応時間は他の条件に左右され一概に規定できないが、通常、0.2時間〜10時間で行われる。オリゴマー生成反応のpH範囲は、公知の界面反応条件と同様であり、pHは常に10以上に調製される。
【0040】
本開示では、このようにして、末端クロロホルメート基を有する二価フェノール(I)のオリゴマーを含む混合溶液を得た後、該混合溶液を攪拌しながら、分子量分布(Mw/Mn)が3以下まで高度に精製された上記一般式(6)で表わされるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)を該混合溶液に加え、該ヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)と該オリゴマーを界面重縮合させることにより、ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体を得る。
【0041】
界面重縮合反応を行うにあたり、酸結合剤を反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜追加してもよい。酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、ピリジン等の有機塩基あるいはこれらの混合物などが用いられる。具体的には、使用するヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)、又は上記の如く二価フェノール(I)の一部を後添加モノマーとしてこの反応段階に添加する場合には、後添加分の二価フェノール(I)とヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)との合計モル数(通常1モルは2当量に相当)に対して2当量若しくはこれより過剰量のアルカリを用いることが好ましい。
【0042】
二価フェノール(I)のオリゴマーとヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)との界面重縮合反応による重縮合は、上記混合液を激しく攪拌することにより行われる。
【0043】
かかる重合反応においては、末端停止剤或いは分子量調節剤が通常使用される。末端停止剤としては一価のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられ、通常のフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、トリブロモフェノールなどの他に、長鎖アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸クロライド、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル、ヒドロキシフェニルアルキル酸エステル、アルキルエーテルフェノールなどが例示される。その使用量は用いる全ての二価フェノール系化合物100モルに対して、100モル〜0.5モル、好ましくは50モル〜2モルの範囲であり、二種以上の化合物を併用することも当然に可能である。
【0044】
重縮合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミン又は第四級アンモニウム塩などの触媒を添加してもよい。
【0045】
かかる重合反応の反応時間は、好ましくは30分以上、更に好ましくは50分以上である。所望に応じ、亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイドなどの酸化防止剤を少量添加してもよい。
【0046】
分岐化剤を上記の二価フェノール系化合物と併用して分岐化ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサンとすることができる。かかる分岐ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。分岐ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂中の多官能性化合物の割合は、芳香族ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂全量中、好ましくは0.001モル%〜1モル%、より好ましくは0.005モル%〜0.9モル%、さらに好ましくは0.01モル%〜0.8モル%、特に好ましくは0.05モル%〜0.4モル%である。なお、かかる分岐構造量についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0047】
反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでも可能であるが、通常は、常圧若しくは反応系の自圧程度で好適に行い得る。反応温度は−20℃〜50℃の範囲から選ばれ、多くの場合、重合に伴い発熱するので、水冷又は氷冷することが望ましい。反応時間は反応温度等の他の条件によって異なるので一概に規定はできないが、通常、0.5時間〜10時間で行われる。
【0048】
場合により、得られたポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂に適宜物理的処理(混合、分画など)及び/又は化学的処理(ポリマー反応、架橋処理、部分分解処理など)を施して所望の還元粘度[ηSP/c]のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂として取得することもできる。
【0049】
得られた反応生成物(粗生成物)は公知の分離精製法等の各種の後処理を施して、所望の純度(精製度)のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂として回収することができる。
【0050】
ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂成形品中のポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズ(平均ドメインサイズ)は、1nm〜40nmの範囲が好ましい。かかる平均サイズはより好ましくは1nm〜30nm、更に好ましくは5nm〜25nmである。かかる好適な範囲では、平均ドメインサイズが十分に大きいことによって、耐衝撃性や難燃性が十分に発揮される場合があり、かつ平均ドメインサイズが大きすぎないことによって、耐衝撃性が安定して発揮される場合がある。これにより、特に耐衝撃性および外観に優れたポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0051】
本開示におけるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂成形品のポリジオルガノシロキサンドメインの平均ドメインサイズは、小角エックス線散乱法(Small Angle X−ray Scattering:SAXS)により評価した。小角エックス線散乱法とは、散乱角(2θ)<10°以内の小角領域で生じる散漫な散乱・回折を測定する方法である。この小角エックス線散乱法では、物質中に1nm〜100nm程度の大きさの電子密度の異なる領域があると、その電子密度差によりエックス線の散漫散乱が計測される。この散乱角と散乱強度に基づいて測定対象物の粒子径を求める。ポリカーボネートポリマーのマトリックス中にポリジオルガノシロキサンドメインが分散した凝集構造となるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂の場合、ポリカーボネートマトリックスとポリジオルガノシロキサンドメインの電子密度差により、エックス線の散漫散乱が生じる。散乱角(2θ)が10°未満の範囲の各散乱角(2θ)における散乱強度Iを測定して、小角エックス線散乱プロファイルを測定し、ポリジオルガノシロキサンドメインが球状ドメインであり、粒径分布のばらつきが存在すると仮定して、仮の粒径と仮の粒径分布モデルから、市販の解析ソフトウェアを用いてシミュレーションを行い、ポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズを求める。小角エックス線散乱法によれば、透過型電子顕微鏡による観察では正確に測定できない、ポリカーボネートポリマーのマトリックス中に分散したポリジオルガノシロキサンドメインの平均サイズを、精度よく、簡便に、再現性良く測定することができる。平均ドメインサイズとは個々のドメインサイズの数平均を意味する。
【0052】
本開示に関連して用いる用語「平均ドメインサイズ」は、かかる小角エックス線散乱法により、実施例記載の方法で作製した3段型プレートの厚み1.0mm部を測定することにより得られる測定値を示す。また、粒子間相互作用(粒子間干渉)を考慮しない孤立粒子モデルにて解析を行った。
【0053】
ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂の粘度平均分子量(M)は、特に限定されないが、好ましくは1.8×10〜4.0×10であり、より好ましくは2.0×10〜3.5×10、さらに好ましくは2.2×10〜3.0×10である。粘度平均分子量が1.8×10以上のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂では、良好な機械的特性が得られる場合があり、また、ポリオレフィン樹脂との十分な溶融粘度差が確保されるため、外観および耐テープ剥離性が良好となる場合がある。一方、粘度平均分子量が4.0×10以下のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂から得られる樹脂組成物は、射出成形時の流動性に優れる点で汎用性に優れる場合がある。
【0054】
なお、前記ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂は、その粘度平均分子量が前記範囲外のものを混合して得られたものであってもよい。殊に、前記範囲(5×10)を超える粘度平均分子量を有するポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂は、樹脂のエントロピー弾性が向上する。その結果、強化樹脂材料を構造部材に成形する際に使用されることのあるガスアシスト成形、および発泡成形において、良好な成形加工性を発現する。より好適な態様としては、粘度平均分子量7×10〜3×10のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A−1−1−1成分)、および粘度平均分子量1×10〜3×10のポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A−1−1−2成分)からなり、その粘度平均分子量が1.6×10〜3.5×10であるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A−1−1成分)(以下、“高分子量成分含有ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂”と称することがある)も使用できる。
【0055】
かかる高分子量成分含有ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A−1−1成分)において、A−1−1−1成分の分子量は7×10〜2×10が好ましく、より好ましくは8×10〜2×10、さらに好ましくは1×10〜2×10、特に好ましくは1×10〜1.6×10である。またA−1−1−2成分の分子量は1×10〜2.5×10が好ましく、より好ましくは1.1×10〜2.4×10、さらに好ましくは1.2×10〜2.4×10、特に好ましくは1.2×10〜2.3×10である。
【0056】
高分子量成分含有ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A−1−1成分)は前記A−1−1−1成分とA−1−1−2成分を種々の割合で混合し、所定の分子量範囲を満足するよう調整して得ることができる。好ましくは、A−1−1成分100重量%中、A−1−1−1成分が2重量%〜40重量%の場合であり、より好ましくはA−1−1−1成分が3重量%〜30重量%であり、さらに好ましくはA−1−1−1成分が4重量%〜20重量%であり、特に好ましくはA−1−1−1成分が5重量%〜20重量%である。
【0057】
また、A−1−1成分の調製方法としては、
(1)A−1−1−1成分とA−1−1−2成分とを、それぞれ独立に重合しこれらを混合する方法、
(2)特開平5−306336号公報に示される方法に代表される、GPC法による分子量分布チャートにおいて複数のポリマーピークを示す芳香族ポリカーボネート樹脂を同一系内において製造する方法を用い、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂を本開示のA−1−1成分の条件を満足するよう製造する方法、および
(3)かかる製造方法((2)の製造法)により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂と、別途製造されたA−1−1−1成分および/またはA−1−1−2成分とを混合する方法
などを挙げることができる。
【0058】
本開示でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−4M0.83
c=0.7
【0059】
尚、本開示のポリカーボネート樹脂組成物におけるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂の粘度平均分子量の算出は次の要領で行なわれる。すなわち、該組成物を、その20〜30倍重量の塩化メチレンと混合し、組成物中の可溶分を溶解させる。かかる可溶分をセライト濾過により採取する。その後得られた溶液中の溶媒を除去する。溶媒除去後の固体を十分に乾燥し、塩化メチレンに溶解する成分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、上記と同様にして20℃における比粘度を求め、該比粘度から上記と同様にして粘度平均分子量Mを算出する。
【0060】
(B成分:ポリエステル系樹脂)
本開示のB成分として使用するポリエステル系樹脂は、芳香族ジカルボン酸またはその反応性誘導体と、ジオール、またはそのエステル誘導体とを主成分とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体である。
【0061】
ここでいう芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、4,4’−p−ターフェニレンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸等の芳香族系ジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、及びβ−ヒドロキシエトキシ安息香酸から選ばれるものが好適に用いられ、特にテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく使用できる。芳香族ジカルボン酸は二種以上を混合して使用してもよい。なお少量であれば、該ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を一種以上混合使用することも可能である。
【0062】
また本開示のポリエステル系樹脂の成分であるジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール等、2,2−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等の芳香環を含有するジオール等及びそれらの混合物等が挙げられる。更に少量であれば、分子量400〜6,000の長鎖ジオール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合してもよい。
【0063】
また本開示のポリエステル系樹脂は少量の分岐剤を導入することにより分岐させることができる。分岐剤の種類に制限はないがトリメシン酸、トリメリチン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0064】
具体的なポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート、等の他、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、等の共重合ポリエステル系樹脂が挙げられる。これらのうち、機械的性質等のバランスがとれたポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートおよびこれらの混合物が好ましく使用できる。
【0065】
また得られたポリエステル系樹脂の末端基構造は特に限定されるものではなく、末端基における水酸基とカルボキシル基の割合がほぼ同量の場合以外に、一方の割合が多い場合であってもよい。またかかる末端基に対して反応性を有する化合物を反応させる等により、それらの末端基が封止されているものであってもよい。
【0066】
かかるポリエステル系樹脂の製造方法については、常法に従い、チタン、ゲルマニウム、アンチモン等を含有する重合触媒の存在下に、加熱しながらジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを重合させ、副生する水または低級アルコールを系外に排出することにより行われる。例えば、ゲルマニウム系重合触媒としては、ゲルマニウムの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラート、フェノラート等が例示でき、さらに具体的には、酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、テトラメトキシゲルマニウム等が例示できる。
【0067】
有機チタン化合物の重合触媒としては、好ましい具体例としてチタンテトラブトキシド、チタンイソプロポキシド、蓚酸チタン、酢酸チタン、安息香酸チタン、トリメリット酸チタン、テトラブチルチタネートと無水トリメリット酸との反応物などを挙げることができる。また、上記以外の特定のチタン系触媒を使用して製造された際に、より熱安定性が優れたポリエステル系樹脂が得られるため、より好適に使用される。
【0068】
上記の特定のチタン系触媒は、下記のチタン化合物成分(A)と、リン化合物成分(B)との反応生成物を含むものである。
【0069】
チタン化合物成分(A)は、下記一般式(I)により表されるチタン化合物(1)及び、チタン化合物(1)と下記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸またはその無水物とを反応させて得られたチタン化合物(2)からなる群より選ばれた少なくとも1種のチタン化合物成分である。
【0070】
【化9】
〔但し、式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ互いに独立に2〜10個の炭素原子を有するアルキル基を表し、kは1〜3の整数を表し、かつkが2又は3の場合、2個又は3個のR及びRは、それぞれ互いに同一であってもよく、或いは異なっていてもよい。〕
【0071】
【化10】
〔但し、式(II)中、mは2〜4の整数を表す。〕
【0072】
リン化合物成分(B)は、下記一般式(III)で表されるリン化合物(3)の少なくとも1種からなるリン化合物成分である。
【0073】
【化11】
〔但し、式(III)中、Rは、未置換の又は置換された、6〜20個の炭素原子を有するアリール基、又は1〜20個の炭素原子を有するアルキル基を表す。〕
【0074】
上記の特定のチタン系触媒を用いることにより製造されるポリエステル系樹脂は、ゲルマニウム、アンチモンおよび他のチタン系触媒を用いた場合に比べ、熱安定性と耐湿熱性に優れる。上記の特定のチタン系触媒を用いた場合、他の触媒を使用した場合よりも製造時の色相安定剤や熱安定剤等の添加剤の添加量が少なくても品質が安定しており、そのため熱環境下や湿熱環境下での添加剤の分解が低減されることから、熱安定性と耐湿熱性に優れたものとなると推定される。
【0075】
チタン化合物成分(A)と、リン化合物成分(B)との反応生成物において、チタン化合物成分(A)のチタン原子換算モル量(mTi)と、リン化合物成分(B)のリン原子換算モル量(mP)との反応モル比(mTi/mP)は、1/3〜1/1の範囲内にあることが好ましく、1/2〜1/1の範囲内にあることがより好ましい。
【0076】
チタン化合物成分(A)のチタン原子換算モル量とは、チタン化合物成分(A)に含まれる各チタン化合物のモル量と、当該チタン化合物の1分子中に含まれるチタン原子の個数との積の合計値であり、リン化合物成分(B)のリン原子換算モル量とは、リン化合物成分(B)に含まれる各リン化合物のモル量と、当該リン化合物の1分子中に含まれるリン原子の個数との積の合計値である。但し、式(III)で表されるリン化合物は1分子当たり1個のリン原子を含むものであるから、リン化合物のリン原子換算モル量は当該リン化合物のモル量に等しい。
【0077】
反応モル比(mTi/mP)が1/1以下である場合には、すなわち、チタン化合物成分(A)の量が多すぎない場合には、得られる触媒を用いて得られるポリエステル系樹脂の良好な色調(b値が高すぎない)がもたらされ、かつその耐熱性が良好となる場合がある。また、反応モル比(mTi/mP)が、1/3以上である場合には、すなわちチタン化合物成分(A)の量が少なすぎない場合には、得られる触媒のポリエステル生成反応に対する触媒活性が十分になる場合がある。
【0078】
チタン化合物成分(A)に用いられる前記一般式(I)で表されるチタン化合物(1)としては、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、及びチタンテトラエトキシドなどのチタンテトラアルコキシド類、並びにオクタアルキルトリチタネート類及びヘキサアルキルジチタネート類などのアルキルチタネート類を挙げることができるが、これらのなかでも、本開示において使用されるリン化合物成分との反応性の良好なチタンテトラアルコキシド類を用いることが好ましく、特にチタンテトラブトキシドを用いることがより好ましい。
【0079】
チタン化合物成分(A)に用いられるチタン化合物(2)はチタン化合物(1)と、前記一般式(II)で表される芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応により得られる。前記一般式(II)の芳香族多価カルボン酸及びその無水物は、フタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物からなる群より選ばれることが好ましい。特にチタン化合物(1)との反応性がよく、また得られる重縮合触媒のポリエステルとの親和性の高いトリメリット酸無水物を用いることがより好ましい。
【0080】
チタン化合物(1)と前記一般式(II)の芳香族多価カルボン酸又はその無水物との反応は、前記芳香族多価カルボン酸又はその無水物を溶媒に混合してその一部または全部を溶媒中に溶解し、この混合液にチタン化合物(1)を滴下し、0℃〜200℃の温度で30分間以上、好ましくは30℃〜150℃の温度で40分間〜90分間加熱することによって行われる。この際の反応圧力については特に制限はなく、常圧で充分である。なお、前記触媒としては、所要量の式(II)の化合物又はその無水物の一部または全部を溶解し得るものから適宜に選択することができるが、好ましくは、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン及びキシレン等から選ばれる。
【0081】
チタン化合物(1)と式(II)で表される化合物又はその無水物との反応モル比には限定はない。しかし、チタン化合物(1)の割合が高すぎない場合には、得られるポリエステル系樹脂の色調が良好となり、軟化点の低下が防止されうる。逆にチタン化合物(1)の割合が低すぎない場合には、重縮合反応が良好に進行しうる。このため、チタン化合物(1)と式(II)の化合物又はその無水物との反応モル比は、2/1〜2/5の範囲内にコントロールされることが好ましい。この反応によって得られる反応生成物を、そのまま前述のリン化合物(3)との反応に供してもよく、或はこれを、アセトン、メチルアルコール及び/又は酢酸エチルなどからなる溶剤を用いて再結晶して精製した後、これをリン化合物(3)と反応させてもよい。
【0082】
リン化合物成分(B)に用いられる前記一般式(III)のリン化合物(3)において、Rにより表される6〜20個の炭素原子を有するアリール基、又は1〜20個の炭素原子を有するアルキル基は、未置換であってもよく、或は1個以上の置換基により置換されていてもよい。この置換基は、例えば、カルボキシル基、アルキル基、ヒドロキシル基及びアミノ基などを包含する。
【0083】
前記一般式(III)のリン化合物(3)は、例えば、モノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノトリメチルホスフェート、モノ−n−ブチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノノニルホスフェート、モノデシルホスフェート、モノドデシルホスフェート、モノラウリルホスフェート、モノオレイルホスフェート、モノテトラデシルホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、モノ(4−ドデシル)フェニルホスフェート、モノ(4−メチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−エチルフェニル)ホスフェート、モノ(4−プロピルフェニル)ホスフェート、モノ(4−ドデシルフェニル)ホスフェート、モノトリルホスフェート、モノキシリルホスフェート、モノビフェニルホスフェート、モノナフチルホスフェート、及びモノアントリルホスフェート等のモノアルキルホスフェート類及びモノアリールホスフェート類を包含し、これらは単独で用いられてもよく、或は2種以上の混合物として、例えばモノアルキルホスフェートとモノアリールホスフェートとの混合物として用いられてもよい。但し、上記リン化合物を2種以上の混合物として用いる場合、モノアルキルホスフェートの比率が50%以上を占めていることが好ましく、90%以上を占めていることがより好ましく、特に100%を占めていることがさらに好ましい。
【0084】
チタン化合物成分(A)とリン化合物成分(B)とから触媒を調製するには、例えば、式(III)の少なくとも1種のリン化合物(3)からなるリン化合物成分(B)と溶媒とを混合して、リン化合物成分(B)の一部又は全部を溶媒中に溶解し、この混合液にチタン化合物成分(A)を滴下し、通常反応系を好ましくは50℃〜200℃、より好ましくは70℃〜150℃の温度において好ましくは1分間〜4時間、より好ましくは30分間〜2時間、加熱することによって行われる。この反応において、反応圧力については格別の制限はなく、加圧下(0.1MPa〜0.5MPa)、常圧下、又は減圧下(0.001MPa〜0.1MPa)のいずれであってもよいが、通常常圧下において行われている。
【0085】
また上記触媒調製反応に用いられる式(III)のリン化合物成分(B)用溶媒は、リン化合物成分(B)の少なくとも一部を溶解し得る限り格別の制限はないが、例えば、エタノール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン、及びキシレン等から選ばれた少なくとも1種からなる溶媒が好ましく用いられる。特に、最終的に得ようとするポリエステルを構成しているグリコール成分と同一の化合物を溶媒として用いることが好ましい。
【0086】
チタン化合物成分(A)と、リン化合物成分(B)との反応生成物は、それを反応系から、遠心沈降処理又は濾過などの手段により分離された後、これを精製することなく、ポリエステル系樹脂製造用触媒として用いてもよく、或は、この分離された反応生成物を、再結晶剤、例えばアセトン、メチルアルコール及び/又は水などにより再結晶して精製し、それによって得られた精製物を触媒として用いてもよい。また、前記反応生成物を、その反応系から分離することなく、反応生成物含有反応混合物をそのまま触媒含有混合物として用いてもよい。
【0087】
チタン系触媒として、前記式(I)(但し、kは1を表す)の少なくとも1種のチタン化合物(1)、すなわちチタンテトラアルコキシド、からなるチタン化合物成分(A)と、前記式(III)の少なくとも1種のリン化合物からなるリン化合物成分(B)との反応生成物が触媒として用いられることが好ましい。
さらに、チタン系触媒として下記一般式(IV)で表される化合物が好ましく使用される。
【0088】
【化12】
〔上記式中R及びRは、それぞれ互いに独立に、2〜12個の炭素原子を有するアルキル基、又は6〜12個の炭素原子を有するアリール基を表す〕
【0089】
式(IV)で表されるチタン/リン化合物を含む触媒は、高い触媒活性を有し、これを用いて製造されたポリエステル系樹脂は、良好な色調(低いb値)を有し、実用上十分に低いアセトアルデヒド、残留金属及び芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールとのエステルの環状三量体の含有量を有し、かつ実用上十分なポリマー性能を有する。
【0090】
チタン系触媒において、前記一般式(IV)のチタン/リン化合物が50重量%以上含まれていることが好ましく、70重量%以上含まれることがより好ましい。
【0091】
チタン系触媒の使用量は、そのチタン原子換算ミリモル量が重合出発原料中に含まれる芳香族ジカルボン酸成分の合計ミリモル量に対して、2ミリ%〜40ミリ%となる量であることが好ましく、5ミリ%〜35ミリ%であることがさらに好ましく、10ミリ%〜30ミリ%であることがより一層好ましい。2ミリ%以上である場合には、重合出発原料の重縮合反応に対する触媒の促進効果が十分になり、ポリエステル製造効率が十分になり、かつ所望の重合度を有するポリエステル系樹脂を得ることができる場合がある。また、40ミリ%以下である場合には、得られるポリエステル系樹脂の色調(b値)が良好となり、黄味を帯びることが抑制され、その実用性が確保されうる。
【0092】
芳香族ジカルボン酸のアルキレングリコールエステルおよび/またはその低重合体の製造方法について制限はないが、通常、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、アルキレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とを、加熱反応させることによって製造される。例えばポリエチレンテレフタレートの原料として用いられるテレフタル酸のエチレングリコールエステルおよび/またはその低重合体は、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、或はテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、或はテレフタル酸にエチレンオキサイドを付加反応させる方法により製造される。なお、上記の芳香族ジカルボン酸のアルキレングリコールエステルおよび/またはその低重合体には、それと共重合可能な他のジカルボン酸エステルが、追加成分として、本開示の方法の効果が実質的に損なわれない範囲内の量の、具体的には酸成分合計モル量を基準として10モル%以下、好ましくは5モル%以下の範囲内の、添加量で含まれていてもよい。
【0093】
前記共重合可能な追加成分は、好ましくは、酸成分として、例えば、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族及び脂環式のジカルボン酸、並びにヒドロキシカルボン酸、例えば、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸などの1種以上と、グリコール成分として、例えば、構成炭素数が2個以上のアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのような脂肪族、脂環式、芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコール、の1種以上とのエステル又はその無水物から選ばれる。上記追記成分エステルは、単独で用いられてもよく、或はその二種以上を併用してもよい。但しその共重合量は上記の範囲内であることが好ましい。
【0094】
なお、出発原料としてテレフタル酸及び又はテレフタル酸ジメチルを用いる場合には、ポリアルキレンテレフタレートを解重合することによって得られた回収テレフタル酸ジメチル又はこれを加水分解して得られる回収テレフタル酸を、ポリエステルを構成する全酸成分の重量を基準として70重量%以上使用することもできる。この場合、目的ポリアルキレンテレフタレートはポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、特に回収されたPETボトル、回収された繊維製品、回収されたポリエステルフィルム製品、さらには、これら製品の製造工程において発生するポリマー屑などをポリエステル製造用原料源として用いることは、資源の有効活用の観点から好ましいことである。
【0095】
ここで、回収ポリアルキレンテレフタレートを解重合してテレフタル酸ジメチルを得る方法には特に限定はなく、従来公知の方法をいずれも採用することができる。例えば、回収ポリアルキレンテレフタレートをエチレングリコールを用いて解重合した後、解重合生成物を、低級アルコール、例えばメタノールによるエステル交換反応に供し、この反応混合物を精製してテレフタル酸の低級アルキルエステルを回収し、これをアルキレングリコールによるエステル交換反応に供し、得られたフタル酸/アルキレングリコールエステルを重縮合すればポリエステル系樹脂を得ることができる。また、上記回収された、テレフタル酸ジメチルからテレフタル酸を回収する方法にも特に制限はなく、従来方法のいずれを用いてもよい。例えばエステル交換反応により得られた反応混合物からテレフタル酸ジメチルを再結晶法及び/又は蒸留法により回収した後、高温高圧下で水とともに加熱して加水分解してテレフタル酸を回収することができる。この方法によって得られるテレフタル酸に含まれる不純物において、4−カルボキシベンズアルデヒド、パラトルイル酸、安息香酸及びヒドロキシテレフタル酸ジメチルの含有量が、合計で1ppm以下であることが好ましい。また、テレフタル酸モノメチルの含有量が、1ppm〜5000ppmの範囲にあることが好ましい。上述の方法により回収されたテレフタル酸と、アルキレングリコールとを直接エステル化反応させ、得られたエステルを重縮合することによりポリエステル系樹脂を製造することができる。
【0096】
本開示に使用するポリエステル系樹脂において、触媒を重合出発原料に添加する時期は、芳香族ジカルボン酸アルキレングリコールエステルおよび/またはその低重合体の重縮合反応の開始時期の前の任意の段階であればよく、さらに、その添加方法にも制限はない。例えば、芳香族ジカルボン酸アルキレングリコールエステルを調製し、この反応系内に触媒の溶液またはスラリーを添加して重縮合反応を開始してもよいし、或は、前記芳香族ジカルボン酸アルキレングリコールエステルを調製する際に出発原料とともに、又はその仕込み後に、触媒の溶液又はスラリーを、反応系に添加してもよい。
【0097】
本開示に使用するポリエステル系樹脂の製造反応条件にも格別の制限はない。一般に重縮合反応は、230℃〜320℃の温度において、常圧下、又は減圧下(0.1Pa〜0.1MPa)において、或はこれらの条件を組み合わせて、15分間〜300分間重縮合することが好ましい。
【0098】
本開示に使用するポリエステル系樹脂において、反応系に、必要に応じて反応安定剤、例えばトリメチルホスフェートをポリエステル系樹脂の製造における任意の段階で加えてもよく、さらに必要により、反応系に酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、整色剤、消泡剤、その他の添加剤の1種以上を配合してもよい。特に、ポリエステル系樹脂中には、少なくとも1種のヒンダードフェノール化合物を含む酸化防止剤が含まれることが好ましいが、その含有量は、ポリエステル系樹脂の重量に対して、1重量%以下であることが好ましい。その含有量が1重量%以下である場合には、酸化防止剤自身の熱劣化が防止されることにより、得られた生成物の品質が確保されうる。
【0099】
本開示に使用するポリエステル系樹脂に用いられる酸化防止剤用ヒンダードフェノール化合物は、ペンタエリスリトール−テトラエキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス{2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンなどから選ばれ、これらヒンダードフェノール系酸化防止剤とチオエーテル系二次酸化防止剤とを併用して用いることも好ましく実施される。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤のポリエステル系樹脂への添加方法には特に制限はないが、好ましくはエステル交換反応、またはエステル化反応の終了後、重合反応が完了するまでの間の任意の段階で添加される。
【0100】
さらに、得られるポリエステル系樹脂の色調を微調整するために、ポリエステル系樹脂の製造段階において、その反応系中にアゾ系、トリフェニルメタン系、キノリン系、アントラキノン系、フタロシアニン系等の有機青色顔料及び無機青色顔料の1種以上からなる整色剤を添加することができる。なお、本開示の製造方法においては、当然のことながら、ポリエステル系樹脂の溶融熱安定性を低下させるコバルト等を含む無機青色顔料を整色剤としては用いる必要はない。従って本開示に使用されるポリエステル系樹脂には実質的にコバルトが含まれていないものとなる。
【0101】
本開示に使用するポリエステル系樹脂は、上記触媒由来のチタン元素を0.001ppm〜100ppm含有することが好ましい。該含有量は0.001ppm〜50ppmであることがより好ましく、1ppm〜50ppmであることがさらに好ましい。含有するチタン元素が100ppmより多いと熱安定性や耐湿熱性の悪化を生ずる場合があり、0.001ppmより少ないと使用するポリエステル系樹脂の触媒残量を大幅に下回っており、ポリエステル系樹脂の製造が困難となることを意味しており、本組成の特徴である良好な機械強度・熱安定性や湿熱安定性が得られない場合がある。
【0102】
本開示に使用するポリエステル系樹脂において、通常、ハンター型色差計より得られるL値が80.0以上、b値が−2.0〜5.0の範囲にあることが好ましい。ポリエステル系樹脂のL値が80.0未満であると、得られるポリエステル系樹脂の白色度が低くなるため実用に供し得る高白色度成形物を得ることができないことがある。また、b値が−2.0未満であると、得られるポリエステル系樹脂の黄味は少ないが、青味が増し、またb値が5.0を越えると、得られるポリエステル系樹脂の黄味が強くなるため、実用上有用な成形物の製造に供することができないことがある。本開示の方法により得られるポリエステル系樹脂のL値はより好ましくは82以上、特に好ましくは83以上であり、b値のより好ましい範囲は−1.0〜4.5であり、特に好ましくは0.0〜4.0である。
【0103】
本開示により得られたポリエステル系樹脂の固有粘度は、0.4〜1.5であることが好ましい。前記固有粘度のより好ましい範囲は、0.45〜1.4であり、さらに好ましくは0.50〜1.3である。ポリエステル系樹脂の固有粘度が0.4以上である場合には、十分な衝撃特性と耐薬品性が得られる場合があり、1.5以下である場合には、射出成形時の流動性が確保され、フローマークや着色不良といった外観不良の発生が防止されうる。ポリエステル系樹脂の固有粘度は、ポリエステル系樹脂をオルソクロロフェノールに溶解し、35℃の温度において測定される。なお、固相重縮合により得られたポリエステル系樹脂は、一般的ボトルなどに利用する場合が多く、そのため、ポリエステル系樹脂中に含まれ、0.70〜0.90の固有粘度を有する。前記芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールとのエステルの環状三量体の含有量が0.5wt%以下であり、かつアセトアルデヒドの含有量が5ppm以下であることが好ましい。前記環状三量体は、アルキレンテレフタレート、例えばエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、及びヘキサメチレンテレフタレートなど、並びにアルキレンナフタレート、例えば、エチレンナフタレート、トリメチレンナフタレート、テトラメチレンナフタレート及びヘキサメチレンナフタレートなどを包含する。
【0104】
また本開示では、従来公知の重縮合の前段回であるエステル交換反応において使用される、マンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等の化合物を併せて使用でき、およびエステル交換反応終了後にリン酸または亜リン酸の化合物等により、かかる触媒を失活させて重縮合することも可能である。
【0105】
ポリエステル系樹脂の製造方法は、バッチ式、連続重合式のいずれの方法をとることも可能である。
【0106】
B成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部中、20〜70重量部であることが好ましく、30〜70重量部であることがより好ましく、35〜65重量部であることがさらに好ましく、40〜60重量部であることが特に好ましい。B成分の含有量が少なすぎる場合には、耐薬品性が発現しないことがあり、B成分の含有量が多すぎる場合には、良好な機械特性、難燃性および防汚性が低下する場合がある。
【0107】
(C成分:ポリオルガノシロキサンゴムおよびアルキル(メタ)アクリレ−トゴムを含む成分からなる複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物単量体単位およびアルキル(メタ)アクリレート化合物単量体単位よりなる群より選ばれる少なくとも1種の単位がグラフト重合されたコアシェル構造を有するグラフト共重合体)
本開示の樹脂組成物は、C成分として、ポリオルガノシロキサンゴムおよびアルキル(メタ)アクリレ−トゴムを含む成分からなる複合ゴムに、芳香族アルケニル化合物単量体単位およびアルキル(メタ)アクリレート化合物単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種も単位がグラフト重合されたコアシェル構造を有するグラフト共重合体を含有する。
【0108】
C成分のゴム成分は、ポリオルガノシロキサンゴムおよびアルキル(メタ)アクリレ−トゴムを含む成分からなる複合ゴム成分である。複合ゴムとは、2種のゴム成分を共重合したゴムまたは分離できないよう相互に絡み合ったIPN構造をとるように重合したゴムをいう。また、防汚性の観点から、ゴム成分中のポリオルガノシロキサンゴムの割合が10%以上であるものが好ましく、15%以上であるものがより好ましい。ゴム成分中のポリオルガノシロキサンゴムの割合の上限は、特に限定されないが、好ましくは、95%以下、90%以下、80%以下、又は70%以下である。コアシェル型グラフトポリマーにおいて、そのコアの粒径は重量平均粒子径において0.05μm〜0.8μmが好ましく、0.1μm〜0.6μmがより好ましく、0.15μm〜0.5μmがさらに好ましい。0.05μm〜0.8μmの範囲であればより良好な耐衝撃性が達成されることがあり好ましい。
【0109】
コアシェル型グラフトポリマーのシェルにグラフト重合させる芳香族アルケニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、アルコキシスチレン、ハロゲン化スチレン等を挙げることができる。またアルキル(メタ)アクリレート化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル等のアクリル酸エステルや、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等のメタクリル酸エステルを挙げることができる。
【0110】
芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性の観点から、芳香族アルケニル化合物単量体単位およびアルキル(メタ)アクリレート化合物単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単位を複合ゴムにグラフト重合することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂の有する良好な耐衝撃性がより効果的に発揮され、結果として樹脂組成物の耐衝撃性が向上する。
【0111】
ポリオルガノシロキサンゴムおよびアルキル(メタ)アクリレ−トゴムを含む成分からなる複合ゴムを含有する弾性重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの重合法で製造したものであってもよく、共重合の方式は一段グラフトであっても多段グラフトであっても差し支えない。また製造の際に副生するグラフト成分のみのコポリマーとの混合物であってもよい。さらに重合法としては一般的な乳化重合法の他、過硫酸カリウム等の開始剤を使用するソープフリー重合法、シード重合法、二段階膨潤重合法等を挙げることができる。また懸濁重合法において、水相とモノマー相とを個別に保持して両者を正確に連続式の分散機に供給し、粒子径を分散機の回転数で制御する方法、および連続式の製造方法において分散能を有する水性液体中にモノマー相を数〜数十μm径の細径オリフィスまたは多孔質フィルターを通すことにより供給し粒径を制御する方法などを行ってもよい。コアシェル型のグラフト重合体の場合、その反応はコアおよびシェル共に、1段であっても多段であってもよい。
【0112】
かかる重合体は市販されており容易に入手することが可能である。例えば、三菱ケミカル(株)製の、コア成分がシリコーン‐アクリル複合ゴムでシェル成分がメチルメタクリレートを主成分とするメタブレンS−2501やS−2030、SX−005、あるいはシェル成分がアクリロニトリルとスチレンを主成分とするSRK−200AやSX−200Rという商品名で市販されているものが挙げられる。
【0113】
C成分として、上記のグラフト共重合体以外のグラフト共重合体を使用した場合、耐薬品性、防汚性が発現しない。
【0114】
C成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、3重量部〜15重量部であり、好ましくは4重量部〜12重量部、より好ましくは5重量部〜10重量部である。C成分の添加により、耐衝撃性および耐薬品性、防汚性がさらに向上する。15重量部以下である場合には、良好な外観が確保される。
【0115】
(D成分:防汚性付与剤)
本開示の樹脂組成物はD成分として、防汚性付与剤を含有する。本開示の防汚性付与剤としては、具体的にはシリコーンオイル、シリコーンガム、シリコーン樹脂微粒子、ポリオレフィン、シリコーン変性ポリオレフィン、ワックス等が挙げられ、その中でも効果的かつ持続的な防汚性の発現という観点でシリコーンガム、シリコーン変性ポリオレフィンが特に望ましい。
【0116】
本開示で用いられるシリコーンガムは、分子量が10万以上のガム状になっているポリオルガノシロキサンであることが好ましい。ポリオルガノシロキサンとは、ケイ素原子が酸素原子を介して他のケイ素原子と結合した構造に有機基が付加している高分子物質である。ポリオルガノシロキサンの骨格は、直鎖状、分岐状、環状でもよく、又はこれらの混合物でもよい。
【0117】
ポリオルガノシロキサンの構造としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、アラルキル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アルキル変性ポリジメチルシロキサン、高級脂肪酸変性ポリジメチルシロキサン、フルオロアルキル変性ポリジメチルシロキサン、アミノ変性ポリジメチルシロキサン、エポキシ変性ポリジメチルシロキサン、カルビノール変性ポリジメチルシロキサン、カルボキシル変性ポリジメチルシロキサン、フェノール変性ポリジメチルシロキサン、シラノール変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。これらのうち、性能とコストのバランスから、ポリジメチルシロキサンが最も好適に使用される。
【0118】
分子量が10万以上になることにより非常に高粘度となりうる。ハンドリング性を向上させる観点から、熱可塑性樹脂により希釈されたマスターバッチ品が、好適に用いられる。かかるマスターバッチ品は市販されており容易に入手することが可能である。例えば、東レダウコーニング(株)製のポリカーボネート50%マスターバッチ品であるMB50−315やポリプロピレン50%マスターバッチ品であるBY27−001、ポリエステルエラストマー50%マスターバッチ品であるBY27−009という商品名で市販されているものが挙げられる。
【0119】
また、本開示では、シリコーン変性ポリオレフィンも使用することができる。シリコーン変性ポリオレフィンとは、ポリオレフィン系樹脂にポリオルガノシロキサンが化学的に結合したものである。シリコーン変性ポリオレフィンとしては、例えば、ポリオルガノシロキサングラフトポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、ラジカル重合性二重結合を有するオレフィン系単量体を重合又は共重合させてなる合成樹脂である。オレフィン系単量体としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィンや、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンなどが挙げられる。オレフィン系単量体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレンの単独重合体、エチレンとエチレン以外のα−オレフィンとの共重合体、プロピレンの単独重合体、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体、ブテンの単独重合体、ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンの単独重合体又は共重合体などが挙げられ、プロピレンの単独重合体、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンとの共重合体が好ましい。更に好ましくは、プロピレンの単独重合体である。ポリオレフィン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。本開示では汎用性および剛性の観点から、ポリプロピレン系樹脂がより好適に用いられる。
【0120】
また、ポリオルガノシロキサンの骨格は、直鎖状、分岐状、環状でもよく、又はこれらの混合物でもよい。ポリオルガノシロキサンの構造としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、アラルキル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アルキル変性ポリジメチルシロキサン、高級脂肪酸変性ポリジメチルシロキサン、フルオロアルキル変性ポリジメチルシロキサン、アミノ変性ポリジメチルシロキサン、エポキシ変性ポリジメチルシロキサン、カルビノール変性ポリジメチルシロキサン、カルボキシル変性ポリジメチルシロキサン、フェノール変性ポリジメチルシロキサン、シラノール変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。これらのうち、性能とコストのバランスから、ポリジメチルシロキサンが最も好適に使用される。かかる重合体は市販されており容易に入手することが可能である。例えば、東レダウコーニング(株)製のポリオルガノシロキサングラフトポリプロピレンであるBY27−201やBY27−201Cという商品名で市販されているものが挙げられる。
【0121】
D成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.5重量部〜6.0重量部であり、好ましくは1.0重量部〜5.0重量部、より好ましくは1.5重量部〜4.0重量部である。D成分が0.5重量部以上である場合には、防汚性が発現する。なお、D成分の含有量が4.0重量部以下である場合には、ブリードアウトといったような外観不良が発生しない。なお、上記のマスターバッチ品を使用した場合、D成分の含有量はマスターバッチ品に含まれる防汚性付与剤の量を示す。
【0122】
≪難燃性ポリカーボネート樹脂組成物≫
本開示の1つの実施態様では、ポリカーボネート樹脂組成物が、下記の難燃剤をさらに含む:
(E)ハロゲン系難燃剤(E成分)、および
(F)下記式(1)で表される構造を有するリン系難燃剤(F成分)
【化13】
(式中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記一般式(I)で表される芳香族置換アルキル基である。)
【化14】
(式中、ALは炭素数1〜5の分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基であり、Arはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、nは1〜3の整数を示し、ArはALの任意の炭素原子に結合することができる。)。
【0123】
電気電子機器等の用途では、難燃化の要求が高まっており、種々の難燃性樹脂組成物が提案されている。しかしながら、いずれの提案も、機械特性、外観、難燃性、耐薬品性、防汚性、及び熱安定性を併せ持つ難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供するには至っていないのが現状である。
【0124】
本開示の上記実施態様に係るポリカーボネート樹脂組成物は、難燃剤として上述のE成分及びF成分をさらに含有していることによって、優れた機械特性、耐薬品性、防汚性、および外観に加えて、難燃性および熱安定性を高い次元で満たしている。したがって、屋外/屋内に限らず、住宅設備用途、建材用途、生活資材用途、インフラ設備用途、自動車用途、OA・EE用途、屋外機器用途、その他の各種分野において、特に幅広く有用である。
【0125】
(E成分:ハロゲン系難燃剤)
本開示の1つの実施態様に係る樹脂組成物は、E成分としてハロゲン系難燃剤を含有する。ハロゲン系難燃剤としては、臭素化ポリカーボネート(オリゴマーを含む)が特に好適である。臭素化ポリカーボネートは耐熱性に優れ、かつ大幅に難燃性を向上できる。本開示で使用する臭素化ポリカーボネートは、下記式(7)で表される構成単位が全構成単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも80モル%であり、特に好ましくは実質的に下記式(7)で表される構成単位からなる臭素化ポリカーボネート化合物である。
【0126】
【化15】
【0127】
式(7)中、Xは臭素原子、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、炭素数1〜4のアルキリデン基または−SO−である。
また、かかる式(7)において、好適にはRはメチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基、−SO−、特に好ましくはイソプロピリデン基を示す。
【0128】
臭素化ポリカーボネートは、残存するクロロホーメート基末端が少なく、末端塩素量が0.3ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2ppm以下である。かかる末端塩素量は、試料を塩化メチレンに溶解し、4−(p−ニトロベンジル)ピリジンを加えて末端塩素(末端クロロホーメート)と反応させ、これを紫外可視分光光度計(日立製作所製U−3200)により測定して求めることができる。末端塩素量が0.3ppm以下であると、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性がより良好となり、更に高温の成形が可能となり、その結果成形加工性により優れた樹脂組成物が提供される。
【0129】
また臭素化ポリカーボネートは、残存する水酸基末端が少ないことが好ましい。より具体的には臭素化ポリカーボネートの構成単位1モルに対して、末端水酸基量が0.0005モル以下であることが好ましく、より好ましくは0.0003モル以下である。末端水酸基量は、試料を重クロロホルムに溶解し、H−NMR法により測定して求めることができる。かかる末端水酸基量であると、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性が更に向上し好ましい。
【0130】
臭素化ポリカーボネートの比粘度は、好ましくは0.015〜0.1の範囲、より好ましくは0.015〜0.08の範囲である。臭素化ポリカーボネートの比粘度は、前述した本開示のA成分であるポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量を算出するに際し使用した上記比粘度の算出式に従って算出されたものである。
【0131】
E成分の含有量はA成分とB成分との合計100重量部に対し、5重量部〜35重量部であり、好ましくは8重量部〜30重量部、より好ましくは10重量部〜25重量部である。E成分の含有量が5重量部以上では、難燃性が発現する場合があり、かつ35重量部以下では、良好な機械特性、外観および耐薬品性が確保される場合がある。
【0132】
また、ハロゲン系難燃剤は一般に酸化アンチモン化合物との併用により樹脂組成物の難燃性をさらに高めることができるが、本開示においては、熱安定性が著しく低下するため、望ましくない。
【0133】
(F成分:リン系難燃剤)
本開示のリン系難燃剤は、下記一般式(1)で表される有機リン化合物である。
【0134】
【化16】
【0135】
上記式(1)中、XおよびXは、同一もしくは異なり、下記一般式(I)で表される芳香族置換アルキル基を示す。
【0136】
【化17】
【0137】
上記式(I)中、ALは炭素数1〜5、好ましくは1または2の分岐状もしくは直鎖状の脂肪族炭化水素基である。具体的にはALは下記式(8)で表されるアルキル基であることが好ましい。またArはフェニル基、ナフチル基またはアントリル基であり、そのうちフェニル基が好ましい。nは1〜3の整数を示すが好ましくは1または2である。ArはALの任意の炭素に結合することができる。
【0138】
【化18】
【0139】
上記式(1)で表される有機リン系難燃剤は、芳香族ポリエステル樹脂に対して極めて優れた難燃効果を発現する。
有機リン系難燃剤は、前記一般式(1)で表されるが、最も好ましい代表的化合物は下記式(B−a)〜(B−d)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。これらの化合物は一種でもまたは二種以上でも使用することができる。
【0140】
【化19】
【0141】
【化20】
【0142】
【化21】
【0143】
【化22】
【0144】
これら式(B−a)〜(B−d)のうち、式(B−a)で表されるB−a成分または式(B−c)で表されるB−c成分は難燃効果あるいは合成の容易性などの点で好適である。なお、該リン系難燃剤以外のリン系難燃剤を使用した場合、本開示の範囲内での添加量では、難燃性が発現しない。
【0145】
本開示における前記有機リン系難燃剤の合成法については公知の方法によって合成され、以下に説明する方法以外の方法によって製造されたものであってもよい。
【0146】
有機リン系難燃剤は例えばペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、続いて酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属化合物により処理し、次いでアラルキルハライドを反応させることにより得られる。また、ペンタエリスリトールにアラルキルホスホン酸ジクロリドを反応させる方法や、ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させることによって得られた化合物にアラルキルアルコールを反応させ、次いで高温でArbuzov転移を行う方法により得ることもできる。後者の反応は、例えば米国特許第3,141,032号明細書、特開昭54−157156号公報、特開昭53−39698号公報に開示されている。
【0147】
具体的合成法を以下説明するが、この合成法は単に説明のためであって、本開示において使用される有機リン系難燃剤は、これら合成法のみならず、その改変およびその他の合成法で合成されたものであってもよい。より具体的な合成法は後述する調製例1で説明する。
(i)前記(B−a)の有機リン化合物;
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、次いでターシャリーブタノールにより酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシドにより処理し、ベンジルブロマイドを反応させることにより得ることができる。
(ii)前記(B−b)の有機リン化合物;
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、続いてターシャリーブタノールにより酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシドにより処理し、1−ブロモエチルベンゼンを反応させることにより得ることができる。
(iii)前記(B−c)の有機リン化合物;
ペンタエリスリトールに三塩化リンを反応させ、続いてターシャリーブタノールにより酸化させた反応物を、ナトリウムメトキシドにより処理し、2−ブロモエチルベンゼンを反応させることにより得ることができる。
(iv)前記(B−d)の有機リン化合物;
ペンタエリスリトールとジフェニルメチルホスホン酸ジクロリドを反応させることにより得ることができる。
【0148】
有機リン系難燃剤の酸価は0.7mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mgKOH/g以下である。酸価がこの範囲の有機リン系難燃剤を使用することにより、ポリエステル樹脂の分解が起り難く熱安定性の良好となるため、加工性の良好な組成物となる。有機リン系難燃剤は、その酸価が0.4mgKOH/g以下のものが最も好ましい。ここで酸価とは、サンプル1g中の酸成分を中和するのに必要なKOHの量(mg)を意味する。該酸価が0.7mgKOH/g以下である場合には、良好な熱安定性が確保され、加工性に優れる場合があるため、好ましい。
【0149】
さらに、有機リン系難燃剤は、そのHPLC純度が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であるものが使用される。かかる高純度のものは成形品の難燃性や色相に優れ好ましい。ここでF成分のHPLC純度の測定は、以下の方法を用いることにより効果的に測定が可能となる。カラムは野村化学(株)製Develosil ODS−7 300mm×4mmφを用い、カラム温度は40℃とした。溶媒としてはアセトニトリルと水の6:4(容量比)の混合溶液を用い、5μlを注入した。検出器はUV−260nmを用いた。F成分中の不純物を除去する方法としては、特に限定されるものではないが、水、メタノール等の溶剤でリパルプ洗浄(溶剤で洗浄、ろ過を数回繰り返す)を行う方法が最も効果的で、且つコスト的にも有利である。
【0150】
F成分の含有量は、A成分およびB成分の合計100重量部に対して、0.5重量部〜5重量部であり、好ましくは0.8重量部〜4重量部、より好ましくは1重量部〜3重量部の範囲である。F成分の含有量が0.5重量部以上の場合、難燃性が発現し、含有量が5重量部以下である場合、良好な機械特性、外観、および耐薬品性が確保される場合がある。
【0151】
(G成分:ドリップ防止剤)
本開示の樹脂組成物は、G成分としてドリップ防止剤を含有することができる。このドリップ防止剤の含有により、成形品の物性を損なうことなく、良好な難燃性を達成することができる。
【0152】
G成分のドリップ防止剤としては、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーを挙げることができ、かかるポリマーとしてはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、など)、米国特許第4379910号公報に示されるような部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート樹脂などを挙げることができる。中でも好ましくはポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称することがある)である。
【0153】
フィブリル形成能を有するPTFEの分子量は極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において100万〜1000万、より好ましく200万〜900万である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。またかかるフィブリル形成能を有するPTFEは樹脂中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。
【0154】
かかるフィブリル形成能を有するPTFEの市販品としては例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)6J、ダイキン工業(株)のポリフロンMPA FA500およびF−201Lなどを挙げることができる。PTFEの水性分散液の市販品としては、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業(株)製のフルオンD−1およびD−2、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)30Jなどを代表として挙げることができる。
【0155】
混合形態のPTFEとしては、
(1)PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行い、共凝集混合物を得る方法(特開昭60−258263号公報、特開昭63−154744号公報などに記載された方法)、
(2)PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4−272957号公報に記載された方法)、
(3)PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06−220210号公報、特開平08−188653号公報などに記載された方法)、
(4)PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9−95583号公報に記載された方法)、および
(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、さらに該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11−29679号などに記載された方法)により得られたものが使用できる。
これら混合形態のPTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)の「メタブレン A3800」(商品名)、およびGEスペシャリティーケミカルズ社製 「BLENDEX B449」(商品名)などを挙げることができる。
【0156】
混合形態におけるPTFEの割合としては、PTFE混合物100重量%中、PTFEが1重量%〜60重量%が好ましく、より好ましくは5重量%〜55重量%である。PTFEの割合がかかる範囲にある場合は、PTFEの良好な分散性を達成することができる。なお、上記G成分の割合は正味のドリップ防止剤の量を示し、混合形態のPTFEの場合には、正味のPTFE量を示す。
【0157】
G成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜2重量部、より好ましくは0.1重量部〜1.5重量部、さらに好ましくは0.2重量部〜1重量部である。ドリップ防止剤が上記範囲を超えて少なすぎる場合には難燃性が不十分となる場合がある。一方、ドリップ防止剤が上記範囲を超えて多すぎる場合にはPTFEが成形品表面に析出し外観不良となる場合があるばかりでなく、樹脂組成物のコストアップに繋がり、好ましくない。
【0158】
また本開示のポリテトラフルオロエチレン系混合体に使用される有機系重合体に使用されるスチレン系単量体としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基およびハロゲンからなる群より選ばれた1つ以上の基で置換されてもよいスチレン、例えば、オルト−メチルスチレン、メタ−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチル−スチレン、パラ−tert−ブチルスチレン、メトキシスチレン、フルオロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、およびトリブロモスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレンが例示されるが、これらに制限されない。前記スチレン系単量体は単独又は2つ以上の種類を混合して使用することができる。
【0159】
本開示のポリテトラフルオロエチレン系混合体に使用される有機系重合体に使用されるアクリル系単量体は、置換されてもよい(メタ)アクリレート誘導体を含む。具体的に前記アクリル系単量体としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、アリール基、及びグリシジル基からなる群より選ばれた1つ以上基により置換されてもよい(メタ)アクリレート誘導体、例えば(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートおよびグリシジル(メタ)アクリレート、炭素数1〜6のアルキル基、又はアリール基により置換されてもよいマレイミド、例えば、マレイミド、N−メチル−マレイミドおよびN−フェニル−マレイミド、マレイン酸、フタル酸およびイタコン酸が例示されるが、これらに制限されない。前記アクリル系単量体は単独又は2つ以上の種類を混合して使用することができる。これらの中でも(メタ)アクリロニトリルが好ましい。
【0160】
コーティング層に用いられる有機重合体に含まれるアクリル系単量体由来単位の量は、スチレン系単量体由来単位100重量部に対して好ましくは8重量部〜11重量部、より好ましくは8重量部〜10重量部、さらに好ましくは8重量部〜9重量部である。アクリル系単量体由来単位が8重量部以上である場合には、コーティング強度が確保される場合があり、11重量部以下である場合には、成形品の良好な表面外観が確保されうる。
【0161】
本開示のポリテトラフルオロエチレン系混合体は、残存水分含量が0.5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2重量%〜0.4重量%、さらに好ましくは0.1重量%〜0.3重量%である。残存水分量が0.5重量%以下である場合には、難燃性への悪影響が回避されうる。
【0162】
本開示のポリテトラフルオロエチレン系混合体の製造工程には、開始剤の存在下でスチレン系単量体及びアクリル単量体からなるグループより選ばれた1つ以上の単量体を含むコーティング層を分岐状ポリテトラフルオロエチレンの外部に形成するステップが含まれる。さらに、前記コーティング層形成のステップ後に残存水分含量を0.5重量%以下、好ましくは0.2重量%〜0.4重量%、より好ましくは0.1重量%〜0.3重量%となるように乾燥させるステップを含むことが好ましい。乾燥のステップは、例えば、熱風乾燥又は真空乾燥方法のような当業界に公知にされた方法を用いて行うことができる。
【0163】
本開示のポリテトラフルオロエチレン系混合体に使用される開始剤は、スチレン系及び/又はアクリル系単量体の重合反応に使用されるものであれば制限なく使用され得る。前記開始剤としては、クミルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ハイドロゲンパーオキサイド、およびポタシウムパーオキサイドが例示されるが、これらに制限されない。本開示のポリテトラフルオロエチレン系混合体には、反応条件に応じて前記開始剤を1種以上使用することができる。前記開始剤の量は、ポリテトラフルオロエチレンの量及び単量体の種類/量を考慮して使用される範囲内で自由に選択され、全組成物の量を基準として0.15重量部〜0.25重量部使用することが好ましい。
【0164】
本開示のポリテトラフルオロエチレン系混合体は、懸濁重合法により下記の手順にて製造を行った。
【0165】
まず、反応器中に水および分岐状ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン(固形濃度:60%、ポリテトラフルオロエチレン粒子径:0.15〜0.3μm)を入れた後、攪拌しながらアクリルモノマー、スチレンモノマーおよび水溶性開始剤としてクメンハイドロパーオキサイドを添加し80℃〜90℃にて9時間反応を行なった。反応終了後、遠心分離機にて30分間遠心分離を行うことにより水分を除去し、ペースト状の生成物を得た。その後、生成物のペーストを熱風乾燥機にて80℃〜100℃にて8時間乾燥した。その後、かかる乾燥した生成物の粉砕を行い本開示のポリテトラフルオロエチレン系混合体を得た。
【0166】
かかる懸濁重合法は、特許3469391号公報などに例示される乳化重合法における乳化分散による重合工程を必要としないため、乳化剤および重合後のラテックスを凝固沈殿するための電解質塩類を必要としない。また乳化重合法で製造されたポリテトラフルオロエチレン混合体では、混合体中の乳化剤および電解質塩類が混在しやすく取り除きにくくなるため、かかる乳化剤、電解質塩類由来のナトリウム金属イオン、カリウム金属イオンを低減することは難しい。本開示で使用するポリテトラフルオロエチレン系混合体は、懸濁重合法で製造されているため、かかる乳化剤、電解質塩類を使用しないことから混合体中のナトリウム金属イオン、カリウム金属イオンが低減することができ、熱安定性および耐加水分解性を向上することができる。
【0167】
また、本開示ではドリップ防止剤として被覆分岐PTFEを使用することができる。被覆分岐PTFEは分岐状ポリテトラフルオロエチレン粒子および有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体であり、分岐状ポリテトラフルオロエチレンの外部に有機系重合体、好ましくはスチレン系単量体由来単位及び/又はアクリル系単量体由来単位を含む重合体からなるコーティング層を有する。前記コーティング層は、分岐状ポリテトラフルオロエチレンの表面上に形成される。また、前記コーティング層はスチレン系単量体及びアクリル系単量体の共重合体を含むことが好ましい。
【0168】
被覆分岐PTFEに含まれるポリテトラフルオロエチレンは分岐状ポリテトラフルオロエチレンである。含まれるポリテトラフルオロエチレンが分岐状ポリテトラフルオロエチレンでない場合、ポリテトラフルオロエチレンの添加が少ない場合の滴下防止効果が不十分となる。分岐状ポリテトラフルオロエチレンは粒子状であり、好ましくは0.1μm〜0.6μm、より好ましくは0.3μm〜0.5μm、さらに好ましくは0.3μm〜0.4μmの粒子径を有する。0.1μmより粒子径が小さい場合には成形品の表面外観に優れるが、0.1μmより小さい粒子径を有するポリテトラフルオロエチレンを商業的に入手することは難しい。また0.6μm以下の粒子径である場合には、成形品の良好な表面外観が確保される場合がある。本開示に使用されるポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は1×10〜1×10が好ましく、より好ましくは2×10〜9×10であり、一般的に高い分子量のポリテトラフルオロエチレンが安定性の側面においてより好ましい。粉末又は分散液の形態いずれも使用され得る。
【0169】
被覆分岐PTFEにおける分岐状ポリテトラフルオロエチレンの含有量は、被覆分岐PTFEの総重量100重量部に対して、好ましくは20重量部〜60重量部、より好ましくは40重量部〜55重量部、さらに好ましくは47重量部〜53重量部、特に好ましくは48重量部〜52重量部、最も好ましくは49重量部〜51重量部である。分岐状ポリテトラフルオロエチレンの割合がかかる範囲にある場合は、分岐状ポリテトラフルオロエチレンの良好な分散性を達成することができる。
【0170】
(その他の添加剤)
(i)リン系安定剤
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル、並びに第3級ホスフィンなどが例示される。
【0171】
具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0172】
更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、および2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイトなどが例示される。
【0173】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0174】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0175】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0176】
第3級ホスフィンとしては、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリアミルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリナフチルホスフィン、およびジフェニルベンジルホスフィンなどが例示される。特に好ましい第3級ホスフィンは、トリフェニルホスフィンである。
【0177】
上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でも、ホスホナイト化合物もしくは下記一般式(9)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【0178】
【化23】
(式(9)中、RおよびR’は炭素数6〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0179】
上記の如く、ホスホナイト化合物としてはテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイトが好ましく、該ホスホナイトを主成分とする安定剤は、Sandostab P−EPQ(商標、Clariant社製)およびIrgafos P−EPQ(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)として市販されておりいずれも利用できる。
【0180】
また上記式(9)の中でもより好適なホスファイト化合物は、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイトである。
【0181】
ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトは、アデカスタブPEP−8(商標、旭電化工業(株)製)、JPP681S(商標、城北化学工業(株)製)として市販されておりいずれも利用できる。ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトは、アデカスタブPEP−24G(商標、旭電化工業(株)製)、Alkanox P−24(商標、Great Lakes社製)、Ultranox P626(商標、GE Specialty Chemicals社製)、Doverphos S−9432(商標、Dover Chemical社製)、並びにIrgaofos126および126FF(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)などとして市販されておりいずれも利用できる。ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトはアデカスタブPEP−36(商標、旭電化工業(株)製)として市販されており容易に利用できる。またビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイトは、アデカスタブPEP−45(商標、旭電化工業(株)製)、およびDoverphos S−9228(商標、Dover Chemical社製)として市販されておりいずれも利用できる。
【0182】
上記リン系安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。リン系安定剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.01重量部〜1.0重量部であることが好ましく、より好ましくは0.03重量部〜0.8重量部、さらに好ましくは0.05重量部〜0.5重量部である。含有量が0.01重量部以上である場合には、加工時の熱分解抑制効果が発現し、良好な機械特性が確保される場合があり、1.0重量部以下である場合にも、良好な機械特性が確保される場合がある。
【0183】
(ii)フェノール系安定剤
本開示の樹脂組成物はフェノール系安定剤を含有することができる。フェノール系安定剤としては一般的にヒンダードフェノール、セミヒンダードフェノール、レスヒンダードフェノール化合物が挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂に対して熱安定処方を施すという観点で特にヒンダードフェノール化合物がより好適に用いられる。かかるヒンダードフェノール化合物としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)アセテート、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)アセチルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、テトラキス[メチレン−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)ベンゼン、およびトリス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)イソシアヌレートなどが例示される。上記化合物の中でも、テトラキス[メチレン−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好適に用いられ、さらに加工時の熱分解による機械特性低下の抑制に優れるものとして、下記式(10)で表される(3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、および下記式(11)で表される1,3,5−トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンがより好適に用いられる。
【0184】
【化24】
【0185】
【化25】
【0186】
上記フェノール系安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。フェノール系安定剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.05重量部〜1.0重量部であることが好ましく、より好ましくは0.07重量部〜0.8重量部、さらに好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。含有量が0.05重量部以上である場合には、加工時の熱分解抑制効果が発現し、良好な機械特性が確保される場合があり、1.0重量部以下である場合にも、良好な機械特性が確保される場合がある。
【0187】
リン系安定剤およびフェノール系安定剤はいずれかが配合されることが好ましく、これらの併用は更に好ましい。併用の場合はA成分とB成分との合計100重量部に対し、0.01重量部〜0.5重量部のリン系安定剤および0.01重量部〜0.5重量部のフェノール系安定剤が配合されることが好ましい。
【0188】
(iii)紫外線吸収剤
本開示のポリカーボネート樹脂組成物は紫外線吸収剤を含有することができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系では、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンソフェノン、および2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノンなどが例示される。
【0189】
ベンゾトリアゾール系では、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾ−ル、並びに2−(2’−ヒドロキシ−5−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体や2−(2’―ヒドロキシ−5−アクリロキシエチルフェニル)―2H―ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体などの2−ヒドロキシフェニル−2H−ベンゾトリアゾール骨格を有する重合体などが例示される。
【0190】
ヒドロキシフェニルトリアジン系では、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−メチルオキシフェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−エチルオキシフェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−プロピルオキシフェノール、および2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ブチルオキシフェノールなどが例示される。さらに2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールなど、上記例示化合物のフェニル基が2,4−ジメチルフェニル基となった化合物が例示される。
【0191】
環状イミノエステル系では、例えば2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、および2,2’−p,p’−ジフェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが例示される。
【0192】
シアノアクリレート系では、例えば1,3−ビス−[(2’−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、および1,3−ビス−[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼンなどが例示される。
【0193】
さらに上記紫外線吸収剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/または光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。前記紫外線吸収性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格、およびシアノアクリレート骨格を含有する化合物が好適に例示される。
【0194】
上記化合物の中でも、本開示において、下記式(12)、(13)および(14)のいずれかで表される化合物がより好適に用いられる。
【0195】
【化26】
【0196】
【化27】
【0197】
【化28】
【0198】
上記紫外線吸収剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
紫外線吸収剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.1重量部〜2重量部であることが好ましく、より好ましくは0.12重量部〜1.5重量部、さらに好ましくは0.15重量部〜1重量部である。紫外線吸収剤の含有量が0.1重量部以上である場合には、十分な耐光性が発現する場合があり、2重量部以下である場合には、ガス発生による外観不良や物性低下などが回避されうる点から好ましい。
【0199】
(iv)ヒンダードアミン系光安定剤
本開示のポリカーボネート樹脂組成物はヒンダードアミン系光安定剤を含有することができる。ヒンダードアミン系光安定剤は一般にHALS(Hindered Amine Light Stabilizer)と呼ばれ、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン骨格を構造中に有する化合物であり、例えば、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(フェニルアセトキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−フェノキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(エチルカルバモイルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(シクロヘキシルカルバモイルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(フェニルカルバモイルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)カーボネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)オキサレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)マロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アジペート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)テレフタレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)カーボネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)オキサレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)マロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アジペート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)テレフタレート、N,N’−ビス−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル−1,3−ベンゼンジカルボキシアミド、1,2−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシ)エタン、α,α’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシ)−p−キシレン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルトリレン−2,4−ジカルバメート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−ヘキサメチレン−1,6−ジカルバメート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、N,N’,N’’,N’’’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−ベンゼン−1,3,4−トリカルボキシレート、1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及び1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物などが挙げられる。
【0200】
ヒンダードアミン系光安定剤はピペリジン骨格中の窒素原子の結合相手により大きく分けて、N−H型(窒素原子に水素が結合)、N−R型(窒素原子にアルキル基(R)が結合)、N−OR型(窒素原子にアルコキシ基(OR)が結合)の3タイプがあるが、ポリカーボネート樹脂に適用する際、ヒンダードアミン系光安定剤の塩基性の観点から、低塩基性であるN−R型、N−OR型を用いるのがより好ましい。
【0201】
上記化合物の中でも、本開示において、下記式(15)、(16)で表される化合物がより好適に用いられる。
【0202】
【化29】
【0203】
【化30】
【0204】
ヒンダードアミン系光安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0重量部〜1重量部であることが好ましく、0.05重量部〜1重量部がより好ましく、さらに好ましくは0.08重量部〜0.7重量部、特に好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が1重量部以下である場合には、ガス発生による外観不良やポリカーボネート樹脂の分解による物性低下が回避される場合があり好ましい。また、0.05重量部以上である場合には、十分な耐光性が発現する場合がある。
【0205】
(v)離型剤
本開示のポリカーボネート樹脂組成物には、その成形時の生産性向上や成形品の歪みの低減を目的として、更に離型剤を配合することが好ましい。かかる離型剤としては公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1−アルケン重合体など。酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。中でも好ましい離型剤として脂肪酸エステルが挙げられる。かかる脂肪酸エステルは、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステルである。かかる脂肪族アルコールは1価アルコールであっても2価以上の多価アルコールであってもよい。また該アルコールの炭素数としては、3〜32の範囲、より好適には5〜30の範囲である。かかる一価アルコールとしては、例えばドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エイコサノール、テトラコサノール、セリルアルコール、およびトリアコンタノールなどが例示される。かかる多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリグリセロール(トリグリセロール〜ヘキサグリセロール)、ジトリメチロールプロパン、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトールなどが挙げられる。本開示の脂肪酸エステルにおいては多価アルコールがより好ましい。
【0206】
一方、脂肪族カルボン酸は炭素数3〜32であることが好ましく、特に炭素数10〜22の脂肪族カルボン酸が好ましい。該脂肪族カルボン酸としては、例えばデカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、ベヘン酸、イコサン酸、およびドコサン酸などの飽和脂肪族カルボン酸、並びにパルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エイコサペンタエン酸、およびセトレイン酸などの不飽和脂肪族カルボン酸を挙げることができる。上記の中でも脂肪族カルボン酸は、炭素原子数14〜20であるものが好ましい。なかでも飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。特にステアリン酸およびパルミチン酸が好ましい。
【0207】
ステアリン酸やパルミチン酸など上記の脂肪族カルボン酸は通常、牛脂や豚脂などに代表される動物性油脂およびパーム油やサンフラワー油に代表される植物性油脂などの天然油脂類から製造されるため、これらの脂肪族カルボン酸は、通常炭素原子数の異なる他のカルボン酸成分を含む混合物である。したがって本開示の脂肪酸エステルの製造においてもかかる天然油脂類から製造され、他のカルボン酸成分を含む混合物の形態からなる脂肪族カルボン酸、殊にステアリン酸やパルミチン酸が好ましく使用される。
【0208】
本開示の脂肪酸エステルは、部分エステルおよび全エステル(フルエステル)のいずれであってもよい。しかしながら部分エステルでは通常水酸基価が高くなり高温時の樹脂の分解などを誘発しやすいことから、より好適にはフルエステルである。本開示の脂肪酸エステルにおける酸価は、熱安定性の点から好ましく20以下、より好ましくは4〜20の範囲、更に好ましくは4〜12の範囲である。尚、酸価は実質的に0を取り得る。また脂肪酸エステルの水酸基価は、0.1〜30の範囲がより好ましい。更にヨウ素価は、10以下が好ましい。尚、ヨウ素価は実質的に0を取り得る。これらの特性はJIS K 0070に規定された方法により求めることができる。
【0209】
離型剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、好ましくは0.005重量部〜2重量部、より好ましくは0.01重量部〜1重量部、更に好ましくは0.05重量部〜0.5重量部である。かかる範囲においては、ポリカーボネート樹脂組成物は良好な離型性および離ロール性を有する。特にかかる量の脂肪酸エステルは良好な色相を損なうことなく良好な離型性および離ロール性を有するポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【0210】
(vi)染顔料
本開示のポリカーボネート樹脂組成物は更に各種の染顔料を含有し多様な意匠性を発現する成形品を提供できる。蛍光増白剤やそれ以外の発光をする蛍光染料を配合することにより、発光色を生かした更に良好な意匠効果を付与することができる。また極微量の染顔料による着色、かつ鮮やかな発色性を有するポリカーボネート樹脂組成物もまた提供可能である。
【0211】
本開示で使用する蛍光染料(蛍光増白剤を含む)としては、例えば、クマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、ペリレン系蛍光染料、アンスラキノン系蛍光染料、チオインジゴ系蛍光染料、キサンテン系蛍光染料、キサントン系蛍光染料、チオキサンテン系蛍光染料、チオキサントン系蛍光染料、チアジン系蛍光染料、およびジアミノスチルベン系蛍光染料などを挙げることができる。これらの中でも耐熱性が良好でポリカーボネート樹脂の成形加工時における劣化が少ないクマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、およびペリレン系蛍光染料が好適である。
【0212】
上記ブルーイング剤および蛍光染料以外の染料としては、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、紺青等のフェロシアン化物、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料、およびフタロシアニン系染料などを挙げることができる。更に本開示の樹脂組成物はメタリック顔料を配合してより良好なメタリック色彩を得ることもできる。メタリック顔料としては、各種板状フィラーに金属被膜または金属酸化物被膜を有するものが好適である。
【0213】
上記の染顔料の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、0.00001重量部〜1重量部が好ましく、0.00005重量部〜0.5重量部がより好ましい。
【0214】
(vii)その他の熱安定剤
本開示のポリカーボネート樹脂組成物には、上記のリン系安定剤およびフェノール系安定剤以外の他の熱安定剤を配合することもできる。かかるその他の熱安定剤は、これらの安定剤および酸化防止剤のいずれかと併用されることが好ましく、特に両者と併用されることが好ましい。かかる他の熱安定剤としては、例えば3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンとの反応生成物に代表されるラクトン系安定剤(かかる安定剤の詳細は特開平7−233160号公報に記載されている)が好適に例示される。かかる化合物はIrganox HP−136(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)として市販され、該化合物を利用できる。更に該化合物と各種のホスファイト化合物およびヒンダードフェノール化合物を混合した安定剤が市販されている。例えば上記社製のIrganox HP−2921が好適に例示される。本開示においてもかかる予め混合された安定剤を利用することもできる。ラクトン系安定剤の配合量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、好ましくは0.0005重量部〜0.05重量部、より好ましくは0.001重量部〜0.03重量部である。
【0215】
またその他の安定剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、およびグリセロール−3−ステアリルチオプロピオネートなどのイオウ含有安定剤が例示される。かかる安定剤は、樹脂組成物が回転成形に適用される場合に特に有効である。かかるイオウ含有安定剤の配合量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、好ましくは0.001重量部〜0.1重量部、より好ましくは0.01重量部〜0.08重量部である。
【0216】
(viii)充填材
本開示のポリカーボネート樹脂組成物には、本開示の効果を発揮する範囲において、強化フィラーとして各種充填材を配合することができる。例えば、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、グラファイト、気相成長法極細炭素繊維(繊維径が0.1μm未満)、カーボンナノチューブ(繊維径が0.1μm未満であり、中空状)、フラーレン、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、金属酸化物粒子、金属酸化物繊維、金属酸化物バルーン、並びに各種ウイスカー(チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、および塩基性硫酸マグネシウムなど)などが例示される。これらの強化フィラーは1種もしくは2種以上を併用して含むものであってもよい。これらの充填材の含有量はA成分とB成分との合計100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜60重量部、より好ましくは0.5重量部〜50重量部である。
【0217】
(ix)光高反射用白色顔料
本開示のポリカーボネート樹脂組成物には、光高反射用白色顔料を配合して光反射効果を付与することができる。かかる白色顔料としては酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、焼成カオリンなどが挙げられ、特に酸化チタンが公的に用いられる。使用される酸化チタンとしては、有機物で表面処理された平均粒子径が0.1〜5.0μmの酸化チタンが好ましい。(尚、本開示においては酸化チタン顔料の酸化チタン成分を“TiO”と表記し、表面処理剤を含む顔料全体について“酸化チタン”と表記する)TiOは結晶形がアナタース型、ルチル型のいずれのものでもよく、それらは必要に応じて混合して使用することもできる。初期の機械特性や長期耐候性の点でより好ましいのはルチル型である。尚、ルチル型結晶中にアナタース型結晶を含有するものでもよい。更にTiOの製法は硫酸法、塩素法、その他種々の方法によって製造された物を使用できるが、塩素法がより好ましい。また本開示の酸化チタンは、特に、その形状を限定するものではないが粒子状のものがより好適である。酸化チタンは、通常各種着色用途に使用されており、本開示の白色顔料として使用される酸化チタンの平均粒子径は、0.10μm〜5.0μmであることが好ましく、0.15μm〜2.0μmがより好ましく、0.18μm〜1.5μmがさらに好ましい。平均粒子径が0.10μm以上である場合には、高充填した場合であってもシルバー等の外観不良が回避される場合があり、また、5.0μm以下である場合には、良好な外観及び機械特性が確保される場合がある。なお、かかる平均粒子径は電子顕微鏡観察から、個々の単一粒子径を測定しその数平均により算出される。
【0218】
本開示で使用される酸化チタンは有機化合物で表面処理されていることが好ましい。有機処理されていない酸化チタンを使用した場合、黄変により、外観が悪化し、また成形体の反射率が著しく低下し、充分な日射反射率が得られない場合があるため、屋外での使用には適さない場合がある。かかる表面処理剤としては、ポリオール系、アミン系、およびシリコーン系などの各種処理剤を使用することができる。ポリオール系表面処理剤としては、例えばペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、およびトリメチロールプロパンなどが挙げられ、アミン系表面処理剤としては、例えばトリエタノールアミンの酢酸塩、およびトリメチロールアミンの酢酸塩などが挙げられ、シリコーン系表面処理剤としては、例えばアルキルクロロシラン(トリメチルクロロシランなど)、アルキルアルコキシシラン(メチルトリメトキシシランなど)、およびハイドロジェンポリシロキサンなどを挙げることができる。ハイドロジェンポリシロキサンとしては、アルキルハイドロジェンポリシロキサン、およびアルキルフェニルハイドロジェンポリシロキサンなどが例示される。かかるアルキル基としてはメチル基およびエチル基が好適である。かかるアルキルアルコキシシランおよび/またはハイドロジェンポリシロキサンで表面処理された酸化チタンは、本開示の樹脂組成物により良好な光反射性を与える。表面処理に使用される有機化合物の量は、酸化チタン100重量部当り、好ましくは0.05重量部〜5重量部、より好ましくは0.5重量部〜3重量部、更に好ましくは1.5重量部〜2.5重量部の範囲である。表面処理量が0.05重量部以上である場合には、十分な熱安定性が得られる場合があり、5重量部以下である場合には、シルバーなどの成形不良が回避されうる点から好ましい。有機化合物の表面処理剤は、予め酸化チタン(より好適には他の金属酸化物で被覆された酸化チタン)になされることが好ましい。しかしながら、樹脂組成物の原材料を溶融混練する際に該表面処理剤を別途添加し、その溶融混練工程において酸化チタンの表面処理が行われる方法であってもよい。
【0219】
光高反射用白色顔料の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.1重量部〜10重量部であることが好ましく、0.15重量部〜7.5重量部がより好ましく、さらに好ましくは0.15重量部〜5重量部である。光高反射用白色顔料の含有量が0.1重量部以上である場合には、充分な白色外観や遮光性が得られる場合があり、10重量部以下である場合には、シルバーなどの成形不良や物性の著しい低下が回避されうるため好ましい。尚、光高反射用白色顔料は2種以上を併用することができる。
【0220】
(x)他の樹脂やエラストマー
本開示の樹脂組成物には、他の樹脂やD成分以外のグラフトポリマーを本開示の効果を発揮する範囲において、少割合使用することもできる。
【0221】
かかる他の樹脂としては、例えばABS等のスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0222】
また、エラストマーとしては、例えばイソブチレン/イソプレンゴム、エチレン/プロピレンゴム、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。
【0223】
(xi)A成分以外のポリカーボネート樹脂
本開示の樹脂組成物には、A成分以外のポリカーボネート系樹脂を、本開示の効果を発揮する範囲において、少量使用することもできる。
【0224】
本開示において使用されるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(A成分)以外のポリカーボネート系樹脂は、一般に二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0225】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールAが特に好ましく、汎用されている。
【0226】
本開示では、汎用のポリカーボネートであるビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の2価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ−トをA成分として使用することが可能である。
【0227】
例えば、2価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis−TMC”と略称することがある)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ−ト(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の2価フェノールは、該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用するのが好ましい。
【0228】
殊に、高剛性かつより良好な耐加水分解性が要求される場合には、樹脂組成物を構成するA成分以外のポリカーボネート系樹脂が次の(1)〜(3)のいずれかの共重合ポリカーボネートであるのが特に好適である:
(1)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20モル%〜80モル%(より好適には40モル%〜75モル%、さらに好適には45モル%〜65モル%)であり、かつBCFが20モル%〜80モル%(より好適には25モル%〜60モル%、さらに好適には35モル%〜55モル%)である共重合ポリカーボネート
(2)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPAが10モル%〜95モル%(より好適には50モル%〜90モル%、さらに好適には60モル%〜85モル%)であり、かつBCFが5モル%〜90モル%(より好適には10モル%〜50モル%、さらに好適には15モル%〜40モル%)である共重合ポリカーボネート
(3)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20モル%〜80モル%(より好適には40モル%〜75モル%、さらに好適には45モル%〜65モル%)であり、かつBis−TMCが20モル%〜80モル%(より好適には25モル%〜60モル%、さらに好適には35モル%〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0229】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
【0230】
これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報及び特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。
【0231】
なお、上述した各種のポリカーボネートの中でも、共重合組成等を調整して、吸水率及びTg(ガラス転移温度)を下記の範囲内にしたものは、ポリマー自体の耐加水分解性が良好で、かつ成形後の低反り性においても格段に優れているため、形態安定性が要求される分野では特に好適である。
(i)吸水率が0.05%〜0.15%、好ましくは0.06%〜0.13%であり、かつTgが120%〜180℃であるポリカーボネート、あるいは
(ii)Tgが160℃〜250℃、好ましくは170℃〜230℃であり、かつ吸水率が0.10%〜0.30%、好ましくは0.13%〜0.30%、より好ましくは0.14%〜0.27%であるポリカーボネート。
【0232】
ここで、ポリカーボネートの吸水率は、直径45mm、厚み3.0mmの円板状試験片を用い、ISO62−1980に準拠して23℃の水中に24時間浸漬した後の水分率を測定した値である。また、Tg(ガラス転移温度)は、JIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
【0233】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0234】
前記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によって芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本開示の芳香族ポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0235】
分岐ポリカーボネート樹脂は、本開示の樹脂組成物に、ドリップ防止性能などを付与できる。かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0236】
分岐ポリカーボネートにおける多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、2価フェノールから誘導される構成単位とかかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.01モル%〜1モル%、より好ましくは0.05モル%〜0.9モル%、さらに好ましくは0.05モル%〜0.8モル%である。
【0237】
また、特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造単位が生ずる場合があるが、かかる分岐構造単位量についても、2価フェノールから誘導される構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.001モル%〜1モル%、より好ましくは0.005モル%〜0.9モル%、さらに好ましくは0.01モル%〜0.8モル%であるものが好ましい。なお、かかる分岐構造の割合についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0238】
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、およびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
【0239】
本開示のポリカーボネート系樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマー固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などの反応形式は、各種の文献および特許公報などで良く知られている方法である。
【0240】
(xi)その他の添加剤
その他、本開示のポリカーボネート樹脂組成物には、成形品に種々の機能の付与や特性改善のために、それ自体知られた添加物を少割合配合することができる。これら添加物は本開示の目的を損なわない限り、通常の配合量である。
【0241】
かかる添加剤としては、摺動剤(例えばPTFE粒子)、着色剤(例えばカーボンブラックなどの顔料、染料)、光拡散剤(例えばアクリル架橋粒子、シリコン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、炭酸カルシウム粒子)、蛍光染料、無機系蛍光体(例えばアルミン酸塩を母結晶とする蛍光体)、帯電防止剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛)、ラジカル発生剤、赤外線吸収剤(熱線吸収剤)、およびフォトクロミック剤などが挙げられる。
【0242】
(ポリカーボネート樹脂組成物の製造)
本開示のポリカーボネート樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば、B成分を除くA成分〜D成分又はA成分〜F成分、および任意に他の添加剤を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどによりかかる予備混合物の造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、その後ペレタイザーによりペレット化する方法が挙げられる。
【0243】
他に、各成分をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法や、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。各成分の一部を予備混合する方法としては例えば、A成分およびB成分以外の成分を予め予備混合した後、A成分の熱可塑性樹脂に混合または押出機に直接供給する方法が挙げられる。
【0244】
予備混合する方法としては例えば、A成分としてパウダーの形態を有するものを含む場合、かかるパウダーの一部と配合する添加剤とをブレンドしてパウダーで希釈した添加剤のマスターバッチを製造し、かかるマスターバッチを利用する方法が挙げられる。更に一成分を独立に溶融押出機の途中から供給する方法なども挙げられる。尚、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融押出機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。
【0245】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0246】
溶融混練機としては二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機などを挙げることができる。
【0247】
上記の如く押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の低減、運送または輸送時に発生する微小粉の低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。またペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1mm〜5mm、より好ましくは1.5mm〜4mm、さらに好ましくは2mm〜3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1mm〜30mm、より好ましくは2mm〜5mm、さらに好ましくは2.5mm〜3.5mmである。
【0248】
(本開示の樹脂組成物からなる成形品について)
本開示における樹脂組成物は、通常上述の方法で得られたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0249】
また本開示における樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本開示の樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより成形品とすることも可能である。
【0250】
本開示の樹脂組成物が利用される成形品の具体例としては、生活資材・住宅設備資材・建材・インテリア用品やOA機器・家電製品の内部部品やハウジングなどへの応用に好適なものである。これらの製品としては例えば、パソコン、ノートパソコン、CRTディスプレー、プリンター、携帯端末、携帯電話、コピー機、ファックス、記録媒体(CD、CD−ROM、DVD、PD、FDDなど)ドライブ、パラボラアンテナ、電動工具、VTR、テレビ、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器、照明機器、冷蔵庫、エアコン、タイプライター、ワードプロセッサー、スーツケースや清掃用具などの生活資材、浴室、トイレタリー、洗面化粧台などの住宅設備資材などを挙げることができ、これらの筐体などの各種部品に本開示のポリカーボネート樹脂組成物から形成された樹脂製品を使用することができる。またその他の樹脂製品としては、ディフレクター部品、カーナビケーション部品、カーステレオ部品などの車両用部品を挙げることができる。
【0251】
本開示に係る発明を実施するための形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本開示はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0252】
以下に実施例をあげて本開示に係る発明を更に説明する。なお、特に説明が無い限り実施例中の部は重量部、%は重量%である。なお、評価は下記の方法によって実施した。
【0253】
(ポリカーボネート樹脂組成物の評価)
(i)シャルピー衝撃強度
下記の方法で得られたISO曲げ試験片を用いて、ISO 179に従い、ノッチ付きのシャルピー衝撃強度の測定を実施した。
(ii)難燃性
下記の方法で得られたUL試験片を用いて、UL94に従い、V試験を実施した。なお、判定がV−0、V−1、V−2のいずれの基準も満たすことが出来なかった場合を「notV」と示した。
(iii)耐薬品性
下記の方法で得られたISO引張試験片を用いて、3点曲げ試験法にて、1%歪みをかけた後、マジックリン、バスマジックリンおよびトイレマジックリン(全て、花王(株)製)を含浸させた布をかけ、23℃で96時間放置した後に、外観変化の有無を確認した。なお、評価は下記の基準で実施した。
○:外観変化が見られないもの
△:微細なクラックの発生が見られるもの
×:破断にいたるような大きなクラックが見られるもの
(iv)防汚性(対水接触角)
下記の方法で得られた見本板(穴つき3段プレート)の表面の対水接触角を接触角測定機G−I−1000(株式会社エルマ製)も用いて測定した。対水接触角が100°以上になった場合を「○」、100°未満になった場合を「×」として評価を実施した。
(v)熱安定性
下記の方法と同条件のままシリンダー内で10分滞留させた後に成形して得られた試験片とペレットの間の粘度平均分子量の低下量ΔMvを下記式に基づいて算出した。
粘度平均分子量の低下量ΔMv=(ペレットの粘度平均分子量)−(10分滞留後の成形品の粘度平均分子量)
なお、評価は下記の基準で実施した。
○:ΔMv<3,000
△:3,000≦ΔMv<5,000
×:5,000≦ΔMv
(vi)外観
下記の方法で作製して得られた見本板(穴つき3段プレート)の外観について、目視で
評価した。なお、評価は下記の基準で実施した。
○:ゲート付近に目立った外観不良が見られない
×:ゲート付近に大きなフローマーク、あるいは剥離が発生
【0254】
[実施例1〜33、比較例1〜11]
表1〜3に示す組成で、B成分のポリエステル系樹脂を除く成分からなる混合物を押出機の第1供給口から供給した。なお、実施例1〜13、15〜29および31〜33、並びに比較例1〜4、6、7、10、11におけるD成分の含有量は、括弧内に示したD−1〜D−3に含まれる防汚性付与剤の量である(括弧外の数字は、濃度50%のマスターバッチであるD−1〜D−3の量を表す。)。かかる混合物はV型ブレンダーで混合して得た。B成分のポリエステル系樹脂は、第2供給口からサイドフィーダーを用いて供給した。押出は径30mmφのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所TEX30α−38.5BW−3V)を使用し、スクリュー回転数230rpm、吐出量25kg/h、ベントの真空度3kPaで溶融混練しペレットを得た。なお、押出温度については、第1供給口からダイス部分まで260℃で実施した。得られたペレットの一部は、80℃で6時間熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃にて評価用の試験片(ISO引張試験片(ISO527−1及びISO527−2準拠)、ISO曲げ試験片(ISO178、ISO179、ISO75−1及びISO75−2準拠))、UL試験片(幅13mm×長さ125mm×厚さ1.5mm)、および見本板(穴つき3段プレート))を作製した。
【0255】
なお、表1〜3中の記号表記の各成分は下記の通りである。
【0256】
(A成分)
A:ポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(粘度平均分子量25,000、PDMS量8.4%、PDMS重合度37、帝人(株)製パンライトW−0111)
【0257】
(B成分)
B−1:ポリブチレンテレフタレート樹脂(長春人造樹脂公司製 1100−211MD(製品名)、固有粘度:0.965dl/g)
B−2:ポリブチレンテレフタレート樹脂(長春人造樹脂公司製 1100−211XG(製品名)、固有粘度:1.26dl/g)
B−3:ポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人(株)製 TRN−8550FF(製品名)、固有粘度:0.77dl/g)
【0258】
(C成分)
C−1:シリコーン系コアシェル型グラフトポリマー(コアがアクリル−シリコーン複合ゴムを主成分、シェルがメチルメタクリレートを主成分とするコアシェル構造を有するグラフト共重合体、三菱レイヨン(株)製 メタブレンS−2030(製品名))
C−2:ブタジエン系コアシェル型グラフトポリマー(コアがブタジエンゴムを主成分、シェルがメチルメタクリレートを主成分とするコアシェル構造を有するグラフト共重合体、(株)カネカ製 カネエースM−711(製品名))
C−3:アクリル系コアシェル型グラフトポリマー(コアがブチルアクリレートを主成分、シェルがメチルメタクリレートを主成分とするコアシェル構造を有するグラフト共重合体、三菱レイヨン(株)製 メタブレンW−600A(製品名))
【0259】
(D成分)
D−1:シリコーンガムPCマスター(超高分子量ポリジメチルシロキサンのポリカーボネート50%マスターバッチ品、東レダウコーニング(株)製 MB50−315(製品名))
D−2:シリコーンガムPEstマスター(超高分子量ポリジメチルシロキサンのポリエステルエラストマー50%マスターバッチ品、東レダウコーニング(株)製 BY27−009(製品名))
D−3:シリコーンガムPPマスター(超高分子量ポリジメチルシロキサンのポリプロピレン50%マスターバッチ品、東レダウコーニング(株)製 BY27−001(製品名))
D−4:シリコーン変性ポリプロピレン(ポリプロピレンにポリオルガノシロキサンをグラフト重合した重合体、東レダウコーニング(株)製 BY27−201(製品名))
【0260】
(E成分)
E:臭素系難燃剤(ビスフェノールA骨格を有する臭素化カーボネートオリゴマー、帝人(株)製 FG−8500(製品名))
【0261】
(F成分)
F−1:リン系難燃剤(2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン,3,9−ジベンジル−3,9−ジオキサイド、帝人(株)製 FCX−210(製品名))
【0262】
(G成分)
G−1:被覆PTFE(スチレン−アクリロニトリル共重合物で被覆されたポリテトラフルオロエチレン(ポリテトラフルオロエチレン含有量50重量%)、Shine polymer社製 SN3307PF(商品名))
G−2:被覆PTFE(メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル共重合物で被覆されたポリテトラフルオロエチレン(ポリテトラフルオロエチレン含有量50重量%)、三菱レイヨン(株)製 メタブレンA3750(商品名))
【0263】
(その他の成分)
PC:芳香族ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量25,100のポリカーボネート樹脂粉末、帝人(株)製 パンライトL−1250WQ(製品名))
STB−1:フェノール系熱安定剤(オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、分子量531、BASFジャパン(株)製 Irganox 1330(製品名))
STB−2:リン系熱安定剤(トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト、BASFジャパン(株)製 Irgafos 168(製品名))
STB−3:リン系熱安定剤(トリメチルホスフェート、大八化学工業(株)製 TMP(製品名))
【0264】
【表1】
【0265】
【表2】
【0266】
【表3】