特許第6976441号(P6976441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976441
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】イオンビームを制御する装置および方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20211125BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   H01J37/317 Z
   H01L21/265 603B
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-532963(P2020-532963)
(86)(22)【出願日】2018年12月12日
(65)【公表番号】特表2021-507461(P2021-507461A)
(43)【公表日】2021年2月22日
(86)【国際出願番号】US2018065160
(87)【国際公開番号】WO2019125860
(87)【国際公開日】20190627
【審査請求日】2020年7月22日
(31)【優先権主張番号】62/608,879
(32)【優先日】2017年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/948,736
(32)【優先日】2018年4月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500239188
【氏名又は名称】ヴァリアン セミコンダクター イクイップメント アソシエイツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100134577
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】スヴェトラナ ラドヴァノフ
(72)【発明者】
【氏名】アナ サモロフ
(72)【発明者】
【氏名】シェンウー チャン
(72)【発明者】
【氏名】フランク シンクレア
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ケラーマン
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−506385(JP,A)
【文献】 特表2015−523702(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0155921(US,A1)
【文献】 特開2005−190979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極を含む電極アセンブリであって、前記複数の電極はイオンビームを誘導するように配置された複数の電極対に配置され、所与の電極対は、公称中心光線軌道を表す円弧の半径に沿って位置し、第1の電極対の半径と隣接する電極対の半径が角度間隔を規定し、前記複数の電極対が複数の角度間隔を規定し、第1の構成では、前記複数の角度間隔がすべて等しいとは限らない、電極アセンブリと、
前記電極アセンブリと通電し、前記複数の電極に独立して電圧を供給するように構成されている電源と、を備え、
前記電極アセンブリの少なくとも1つの電極が、第1の電極位置から第2の電極位置に移動可能である、イオンビームを制御する装置。
【請求項2】
前記複数の電極対は、第1電極のセットと、前記第1電極のセットの下流ですぐ隣の抑制電極のセットと、前記抑制電極のセットの下流の接地電極のセットとを含み、
前記円弧は、前記第1電極のセットと前記接地電極のセットとの間の経路長を規定し、
前記第1の構成では、前記電極アセンブリの減速長さは第1の長さであり、前記減速長さは、前記抑制電極のセットの位置から前記接地電極のセットの位置までの円弧に沿った距離に等しく、
前記電極アセンブリがすべての電極を等角度間隔に規定する第2の構成では、前記減速長さは第2の長さであり、前記第2の長さは前記第1の長さを10パーセント以上の差だけ超える、請求項1に記載のイオンビームを制御する装置。
【請求項3】
前記抑制電極のセットは、前記第1電極のセットの下流ですぐ隣の第2電極のセットを含む、請求項に記載のイオンビームを制御する装置。
【請求項4】
前記電極アセンブリは5つの電極対を含む、請求項1に記載のイオンビームを制御する装置。
【請求項5】
前記電極アセンブリを通してイオンビームを方向付けるイオン源をさらに含み、前記イオンビームは、前記電極アセンブリの上部電極と下部電極との間に配置される、請求項1に記載のイオンビームを制御する装置。
【請求項6】
イオンビームを制御する方法であって、
前記イオンビームを静電レンズの複数の電極を含む電極アセンブリを通して誘導するステップと、
前記複数の電極に複数の電極電圧を割り当てるステップであって、前記複数の電極電圧は、第1のパービアンスを有する第1のイオンビームに対して、第1の動作モードにおいて、第1の減速長さを規定するステップと、
第1のパービアンスよりも大きい第2のパービアンスを有する第2のイオンビームに対して、第2の動作モードにおいて、前記電極アセンブリの第1の減速長さを減少させるステップと、を備える、方法。
【請求項7】
前記第1の減速長さを減少させるステップは、前記複数の電極の電極電圧を調整された電極電圧のセットに変更するステップを含み、前記調整された電極電圧のセットは、前記第1の減速長さよりも短い第2の減速長さを規定する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記電極電圧を変更するステップは、
前記電極アセンブリの入口に配置された第1の電極対の前記電極電圧をビーム端子電圧に割り当て、空間電荷中和を維持する、ステップと、
前記第1の電極対の下流の第2の電極対に抑制電圧を供給するステップと、
前記電極アセンブリの偏向電圧を調整して、前記複数の電極電圧によって生成されるイオンビームの出口軌道を生成するステップで、前記出口軌道は前記第1の動作モードの公称軌道と実質的に同じであるステップと、
を含む請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の減速長さを減少させるステップは、前記第2の動作モードにおいて、抑制電極対を前記第1の動作モードにおける第1の位置から前記第1の位置の下流の前記第2の位置に移動させるステップを含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
第1の電極セットが入口電極を含み、前記第1の動作モードにおいて、抑制電圧が第1の電極セットの下流ですぐ隣の第2の電極のセットに供給され、第1の減速長さを減少させるステップは、第2の電極セットの下流の第3の電極セットに抑制電圧を割り当てることをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の減速長さを減少させるステップは、前記第3の電極セットを前記第1の動作モードの第1の位置から前記第2の動作モードの第2の位置に移動させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
イオンビームを制御する方法であって、
静電レンズの電極アセンブリを通してイオンビームを誘導するステップで、前記電極アセンブリは複数の電極を含前記複数の電極はイオンビームを誘導するように配置された複数の電極対に配置され、所与の電極対は、公称中心光線軌道を表す円弧の半径に沿って位置し、第1の電極対の半径と隣接する電極対の半径が角度間隔を規定し、前記複数の電極対が複数の角度間隔を規定し、第1の構成では、前記複数の角度間隔がすべて等しいとは限らず、前記電極アセンブリの少なくとも1つの電極が、第1の電極位置から第2の電極位置に移動可能である、ステップと、
公称中心光線軌道を規定する円弧に沿ってイオンビームを誘導するために、複数の未調整の電極電圧を複数の電極に割り当てるステップと、
前記複数の未調整電極電圧を一組の調整済み電極電圧に調整するステップで、実際のビーム経路が前記公称中心光線軌道からそれ、イオンビームの少なくとも1つのビーム特徴が変更される、ステップと、を含む、方法。
【請求項13】
前記イオンビームを制御する方法は、さらに、
記電極アセンブリ内の第1の位置でイオンビームの減速をするために、前記複数の未調整の電極電圧を用いるステップと
前記電極アセンブリの第2の位置でイオンビームの減速をするために前記一組の調整済み電極電圧を用いるステップと、を含み
第2の位置は、第1の位置に対して上流であり、且つ
イオンビームのエネルギー汚染が低減される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記イオンビームを制御する方法は、さらに、
オンビームを第1の入射角度で基板に衝突させるために、前記複数の未調整の電極電圧を用いるステップと、を含み
前記一組の調整済み電極電圧はイオンビームを前記第1の入射角度と異なる第2の入射角度で基板に入射させる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2017年12月21日に出願された、「エネルギーフィルタを用いてイオンビーム特性を制御する装置及び方法」と題する、米国特許仮出願第62/608,879号の優先権を主張するものであり、その開示内容はその全てが参照により本願明細書に組み込まれるものとする。
【技術分野】
【0002】
本発明は、概して、基板注入技術に関し、より詳細には、エネルギーフィルタを通して輸送されるイオンビームを改善するための構成要素および技術に関する。
【背景技術】
【0003】
イオン注入は、衝撃によって基板にドーパントまたは不純物を導入するプロセスである。半導体製造において、電気的、光学的、または機械的特性を変更するためにドーパントが導入される。
【0004】
イオン注入システムは、イオン源と一連のビームラインコンポーネントを備えることができる。イオン源は、イオンを生成するチャンバを備えることができる。イオン源はまた、チャンバの近くに配置された電源および引出し電極アセンブリを備えることができる。ビームラインコンポーネントは、例えば、質量分析器、第1の加速または減速段、コリメータ、および第2の加速または減速段を含むことができる。光ビームを操作するための一連の光学レンズと同様に、ビームラインコンポーネントは、特定の種、形状、エネルギー、および/またはその他の性質を有するイオンまたはイオンビームをフィルタリングし、集束し、および操作することができる。イオンビームはビームラインコンポーネントを通過し、プラテンまたはクランプに取り付けられた基板に向けることができる。基板は、ロプラトと呼ばれることもある装置によって、1次元以上の次元で動かす(たとえば、平行移動させ、回転させ、および傾ける)ことができる。
【0005】
多くのイオン注入装置において、下流の静電モジュールは、イオンビームエネルギー、イオンビーム形状、およびイオンビームサイズを制御するための静電レンズとして機能することができる。静電モジュールは、イオンビームの方向を変えながら、イオンビームを最終エネルギーまで加速または減速することができる。イオンビームの方向を変更することによってエネルギー中性原子を排除することができ、明確に決定されたエネルギーを有する最終ビームを得ることができる。
【0006】
既知の静電モジュールは、複数の電極対、例えば、対に配置された7つの上部および下部電極、を使用することができ、これらの電極は、そこを通過するイオンビームを拘束し、案内する。これらの電極は、イオンビームから等距離に離間されたロッドとして配置することができる。これらのロッド/電極電位は、すべてのロッド/電極電圧が下流のビームラインに対して負のままであるという制約を維持しながら、イオンビームを減速、偏向、集束させる電界を静電モジュール内に生成するように設定される。このような静電モジュールの別の特徴は、連続する電極対の間隔が等角間隔であることにある。この配置によって、ターゲットセットのイオンビームプロパティを生成するための電極電位の計算と設定をより簡単にすることができる。静電モジュールの既知の設計は、特に低エネルギーまたは高パービアンスのイオンビームの場合に、ビーム電流やビームフォーカスなどの特性を改善する能力を制限する可能性がある。
【0007】
本発明は、これらのおよび他の考慮事項に対して提供される。
【発明の概要】
【0008】
一実施形態において、イオンビームを制御する装置は電極アセンブリを含むことができ、電極アセンブリは、イオンビームを誘導するように配置された複数の電極対に配置された複数の電極を含む。所与の電極対は、公称中心光線軌道を表す円弧の半径に沿って位置し、第1の電極対の半径と隣接する電極対の半径が角度間隔を規定する。複数の電極対は複数の角度間隔を規定し、第1の構成では、複数の角度間隔がすべて等しいわけではない。装置はまた、電極アセンブリと通電する電源を含むことができ、電源は、複数の電極に独立して電圧を供給するように構成される。
【0009】
さらなる実施態様において、イオンビームを制御するための方法は、静電レンズの電極アセンブリを通してイオンビームを方向付けるステップを含むことができ、電極アセンブリは複数の電極を含む。この方法は、複数の電極電圧を複数の電極に割り当てるステップを含むことができ、複数の電極電圧は、第1の性能を有する第1のイオンビームのために第1の動作モードにおいて第1の減速長さを規定する。この方法はまた、第1のパービアンスよりも大きい第2のパービアンスを有する第2のイオンビームのために第2の動作モードにおいて電極アセンブリの減速長さを減少させるステップを含むことができる。
【0010】
追加の実施態様において、イオンビームを制御するための方法は、静電レンズの電極アセンブリを通してイオンビームを方向付けるステップを含むことができ、電極アセンブリは複数の電極を含む。この方法はさらに、公称中心光線軌道を規定する円弧に沿ってイオンビームを誘導するために、複数の未調整の電極電圧を複数の電極に割り当てるステップを含むことができる。この方法はさらに、複数の未調整電極電圧を一組の調整済み電極電圧に調整するステップを含むことができ、実際のビーム経路が中心光線軌道からそれ、イオンビームの少なくとも1つのビーム特徴が変更される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態による、システムを示す例示的な実施形態を示す
図2】本発明の例示的な実施形態によるEMの構造および動作を示す。
図3】減速長さの関数としての基板におけるビーム電流のシミュレーションの結果を示すモデリング結果を示す。
図4A】参照電極アセンブリを通して輸送された低エネルギーイオンビームのモデリングの結果を示す。
図4B】本発明の実施形態による電極アセンブリを通して輸送された低エネルギーイオンビームのモデリングの結果を示す。
図5】2つの異なる電極アセンブリに対する抑制電圧の関数としてのビーム高さのシミュレーションの結果を示す。
図6】本発明のいくつかの実施形態による例示的なプロセスフローを示す。
【発明の実施の形態】
【0012】
図面は必ずしも縮尺通りではない。図面は、代表的なものにすぎず、本開示の特定のパラメータを表すことを意図していない。さらに、図面は、本開示の例示的な実施形態を表すことを意図しており、そのため、発明の範囲を限定するとはみなされない。
【0013】
本発明によるシステム及び方法がそれらのいつかの実施形態を示す添付図面を参照して、以下でより詳細に説明される。これらのシステム及び方法は多くの異なる形態で実施することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。代わりに、これらの実施形態は、本発明が詳細かつ完全であり、要旨の範囲を当業者に十分に伝えるべく提供される。図面全体にわたって、同様の番号は同様の要素を示す。
【0014】
利便性と明確性のために、「上」、「下」、「上方」、「下方」、「垂直」、「水平」、「横方向」、及び「縦方向」という用語は、本明細書において、図面に現れる半導体製造装置のコンポーネントの形状及び向きに対して、これらのコンポーネント及びそれらの構成部の相対的な位置および向きを説明するために用いられる。技術用語は、特に述べられた用語、その派生語、並びに類似の意味及び/又は類義語を含む。
【0015】
単数で記載された、「1つの(”a” or “an”)」という用語に続く要素又は動作は、本明細書で用いられるとき、明確に除外されることが述べられていない限り、複数の要素又は動作を含むと理解されるべきである。さらに、本発明の「一実施形態」の参照は、追加の実施形態の存在を排除することも、記載された特徴の組み込みを排除することも意図するものではない。
【0016】
本明細書では、例えば、減速段でのイオンビームの輸送および制御を改善するための手法が提供される。例示的な実施形態では、改善された構成を採用し、イオンビームの処理の柔軟性、改善されたビーム特性、および改善された有用性を提供するEMタイプのコンポーネントが提供される。様々な実施形態において、電極アセンブリは、蓄積された堆積物を洗浄すべきロッド/電極の容易な除去を提供する。さらに、EMを通して輸送されるビーム電流は、特に低エネルギーの高パービアンスイオンビームについては、既知のEMコンポーネントに対して増加させることができる。
【0017】
図1を参照すると、システム10を示す例示的な実施形態が示されており、システム10は、本発明によるイオン注入システムに使用することができる。システム10は、とりわけ、リボンビームまたはスポットビームなどのイオンビーム18を生成するためのイオン源14と、一連のビームラインコンポーネントとを含む。図1において、イオンビーム18として示される円弧状の矢印は、イオンビーム18の中心光線軌道(CRT)の位置も表すこともできる。イオン源14は、ガス流24を受けてイオンを生成するためのチャンバを含み得る。イオン源14はまた、チャンバの近くに配置された電源および引出し電極アセンブリを含み得る。ビームラインコンポーネント16は、例えば、質量分析器34、第1の加速または減速段36、コリメータ38、および第2の加速または減速段に対応する静電モジュール(EM)40を含み得る。
【0018】
例示的な実施形態では、ビームラインコンポーネント16は、特定の種、形状、エネルギー、および/または他の性質を有するイオンまたはイオンビーム18をフィルタリングし、集束し、処理することができる。ビームラインコンポーネント16を通過するイオンビーム18は、プロセスチャンバ46内のプラテンまたはクランプに取り付けられた基板に向けることができる。基板は、1以上の次元内で移動(例えば、並進、回転、および傾動)させることができる。
【0019】
EM40は、イオンビーム18の偏向、減速、および集束を独立して制御するように構成されたビームラインコンポーネントである。いくつかの実施形態では、EM40は、垂直静電エネルギーフィルタ(VEEF)または静電フィルタ(EF)である。以下でより詳細に説明されるように、EM40は、少なくとも1つの電極構成を規定する電極アセンブリとして構成してよい。電極構成は、イオンビーム18の上に配置された1組の上部電極と、イオンビーム18の下に配置された1組の下部電極とを含み得る。1組の上部電極と1組の下部電極との間の電位差は、中心イオンビーム軌道に沿って変化させてイオンビームを中心線軌道(CRT)に沿ったさまざまな点で偏向させることもできる。システム10は、電圧源50として示される電極電圧源と、電極駆動部52とをさらに含むことができ、その動作は以下でより詳細に説明される。
【0020】
ここで図2A図2Bを参照して、例示的な実施形態によるEM40の構造および動作をより詳細に説明する。図2Aには、EM40、電圧源50、および電極駆動部52を含む、EMシステム100の側断面図が示されている。図に示されるように、EM40は、EM40上を延在し且つイオンビーム18を通過させる入口アパーチャ104および出口アパーチャ106を残してEM40を部分的に収容するEMチャンバ102を含む。EM 40は、複数の電極対からなる電極アセンブリ108を含み、電極対の所与の電極は、イオンビーム18の上の上部電極が接尾辞「A」で示され(電極110−A〜電極118−A)、ビーム下部電極が接尾辞「B」で示される(電極110−B〜電極118−B)。様々な実施形態によれば、電極アセンブリ108の電極は、図示のデカルト座標系のX軸に沿って細長くしてもよい。その結果、電極は、X軸に沿って細長い断面をもつリボンビームを制御するのに役立ち、そのリボンビームは、X軸に沿って数十センチメートルの幅を有し、数センチメートル程度の高さを有するものとすることができる。実施形態は、この文脈に限定されない。
【0021】
電圧源50は、電極アセンブリ108の電極に電圧を互いに独立して供給するように構成してもよい。いくつかの実施形態では、電極対の上部および下部電極は、互いに電気的に結合してもよい。いくつかの実施形態では、各電極対の上部および下部電極は、そこを通過するイオンビーム18を偏向させるために、(例えば、別個の導電ピースで)異なる電位を有し得る。様々な実施形態では、電圧源50は、以下でより詳細に説明するように、電極アセンブリ108への電圧を計算し供給する電圧ルーチンを含むことができる。電圧ルーチンは、ソフトウェア、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせで実装することができ、いくつかの実施形態では、少なくとも1つのコンピュータ可読媒体に格納されたコードを使用して実行することができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、電極アセンブリ108を通過するイオンビーム18は、ホウ素、リン、ヒ素、または注入用の他の元素を含むことができる。イオンビーム18の静電集束は、異なる電極を使ってイオンビームラインに沿った電位の勾配を制御することによって達成することができる。その結果、入力イオンビームをエネルギー範囲で使用して、極めて低いエネルギーの出力ビームでも、より高品質のビームを可能にすることができる。非限定的な一例では、イオンビーム18が電極アセンブリ108の電極を通過するとき、イオンビーム18は、10keV以下、5keV以下、または1keV以下の最終エネルギーまで減速することができる。イオンビーム18はまた、任意の角度、例えば20度で偏向させることもできる。したがって、イオンビーム18は、左からEMに入り、退出軌道で右へ退出し、退出軌道は異なる動作モード間で操作することができる。いくつかの例では、所与のモードの出口軌道は別のモードの公称軌道になるように維持することができるが、EM40の減速長さなどの他の特性は異なるモード間で変更される。
【0023】
様々な実施形態によれば、EM40は、以下に詳述するように、既知のEMと同様の弧長を提供するために、既知のEMと同様のサイズで動作するように構成され得る。したがって、EM40を通過するイオンビームの減速、偏向および集束は、既知のEMと同様の円弧長にわたって実行され得る。図2Bを参照すると、本開示の実施形態によるEMの電極形状の概略図が示されている。様々な実施形態によれば、電極アセンブリは、全偏向角θに対応する円弧長にわたって配置することができ、円弧長Lは、入口電極(電極110−A、110−B参照)と出口電極(電極118−A、118−B参照)の間のイオンビーム18の経路を規定する円弧の長さを表す。
【0024】
図2Bに示されるように、光線120として示される様々な光線は、電極110−Aおよび電極110−Bなどの一対の電極の位置を規定する角度位置を表すことができる。図2Bに示されるように、様々な実施形態では、電極は、既知のEMの構成とは異なり、不等角度間隔で円弧に沿って配置される。その不等角度間隔が図2Bに示され、電極対を規定する連続する光線120の間の角度θは円弧の長さに沿って変化する。
【0025】
様々な実施形態によれば、電極112-Aおよび電極112-Bとして示される、第2の電極対(入口電極のすぐ隣で下流にある、すなわち出口アパーチャ106に近い)は、抑制電極として配置してよい。いくつかの実施形態によれば、抑制電極の位置から接地電極(電極118−Aおよび電極118−B参照)までの円弧長に沿った距離を表す減速長さは、既知のEMと比較して短い。したがって、入口電極と出口電極(110〜118)との間の総円弧長は、既知のEMと同じであり得るが、抑制電極は、減速長さを短縮するように配置することができる。別の言い方をすれば、減速長さと全円弧長との比は、既知のEMと比較して、EM40ではより小さくすることができる。有利なことに、減速長さの減少により、所与のイオンエネルギーでの所与のイオン種のビーム電流が増加し、最終的に基板スループットを増加させることができる。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、電極の少なくともいくつかの相対位置は、手動または遠隔のいずれかで調整可能であり得る。例えば、抑制電極112−Aおよび抑制電極112−Bは、円弧に沿った相対位置に関して調整可能にすることができる。同じことが電極114−Aおよび電極114−B、または他の電極にも当てはまる。一実施形態では、電極駆動部52を、ユーザが電極アセンブリ108内の電極を第1の電極位置から第2の電極位置などに遠隔移動できるように構成してもよい。いくつかの実施形態によれば、第1の構成では、電極対を不等角度間隔で置くことができ、第2の構成では、電極対を等角度間隔(等角度スペーシング)で置くことができる。第2の構成は、20kVを超えるイオンエネルギーを有するイオンビームのような比較的低いパービアンスのイオンビームをEM40を通して方向づけるときの操作に適している。
【0027】
上述のように、EM40の機能は、イオンビーム18の減速、曲げ(偏向)および集束を含み得る。
【0028】
様々な実施形態では、以下に詳述するように、特定のアルゴリズムに基づいてEMの電極に電圧を割り当てるために電圧ルーチンを実装することができる。本開示のいくつかの実施形態では、電極アセンブリの電極に印加すべき電界および電圧は、いわゆるアルファアルゴリズムに基づいて計算することができる。EMの電極によって生成される電界は、3つの電界の重ね合わせと見なすことができるが、すべての電極電圧が下流のコンポーネントに対して負のままであるという制約が課される。CRTの電圧の一般方程式は、次の式で与えられる。
【数1】
ここで、Vss=−D1−Vs、θiは電極角度位置、θn−0は接地電極角度位置、θsは抑制電極角度位置、D1は減速電位、Vsは抑制電圧、θs−θnは減速長さ、およびθs−θn-1は偏向長さである。
【0029】
上記の方程式において、接地電極は、電極アセンブリの最終(最下流)電極であり得る。様々な実施形態によれば、電極アセンブリの電極が不等角度間隔で配置される場合には、n対のロッド/電極と仮定して、電極アセンブリ内の抑制および接地ロッド/電極間の電圧勾配を計算するいわゆるアルファアルゴリズムに修正を加えることができる。さらに、イオンビームの中心のようなイオンビームの実際の経路を電極アセンブリの中心線によって定義される公称中心光線軌道からそらせることができる。
【0030】
様々な実施形態において、イオンビームは円弧状経路に沿って進むことができるが、垂直ビーム角度補正に必要な偏向長さは、同様の円弧長を有する既知のEMと比較して短い。いくつかの実施形態では、EMの偏向および集束場は、電極アセンブリの円弧状経路に沿って異なる長さにわたって作用し、上述のように、イオンビームがCRTからそれて実際の軌道または実際の経路を進むことができる。
【0031】
次の方程式は、グレーデッドレンズの円弧状経路に沿ったイオンエネルギーを定義し、ビーム集束と残留エネルギー汚染を制御するためのレンズ減速のグレーディングに使用される。
【数2】
ここで、UiはCRTに沿うイオンエネルギー関数であり、Ufは最終イオンエネルギーであり、Usは抑制電極におけるイオンエネルギーである。
【0032】
減速および偏向電圧分布の重ね合わせは、以下の方程式によって与えられる:
【数3】
ここで、giは電極ギャップ、f=dθ/dz偏向係数、およびqはイオン電荷である。
【0033】
レンズの長さに沿う線形偏向を仮定すると、ロッド/電極電圧グレーディングに関する上記の方程式は次のように変化する:
【数4】
ここで、CおよびDはイオンビーム角度制御のための仮想調整ノブを表し、一方Rは電極アセンブリの円弧状中心線の半径である。
【0034】
本発明の実施形態によれば、有効減速および偏向長さと集束の制御は、θsおよびθn(θs−θn)減速長さおよび(θs−θn-1)偏向長さ)を注意深く選択することによって達成される。
【0035】
EMの集束力の増加は空間電荷デフォーカスにより支配される高パービアンスビームの輸送に有用である。数値解析によってEMスケールの集束力はリボンビームなどのイオンビームのパービアンス(P)とともにd/PL2で示された。ここで、
【数5】
はリボンビームのパービアンスであり、dはビームの高さ/フィルファクタであり、Lは減速長さである。このスケーリング則から、dの20%の増加およびLの30%の減少は、1.20/0.7=2.44倍の輸送イオンビーム電流の増加を生じる。
【0036】
図3は、基板(ROI)におけるビーム電流のシミュレーションの結果を上記の方程式で定義された減速長の関数として示すモデリング結果を示す。 図3の結果は、ビーム電流が、250mmのL値より実質的に下で増加し、特に200mmより下で急速に増加することを明示している。 本実施形態の利点は、減速長さおよび偏向長さを調整して、広範囲のビームエネルギーにわたってEMのビーム輸送を増加または最大にする能力にある。例えば、図3に示すように、1keV未満のエネルギーでは、より短い減速長さを使用すると、イオンビーム電流の大幅な増加を得ることができる。5keV未満のエネルギーでは、減速長さと偏向長さの両方を短くするのがビーム輸送の強化に最適である。 20keV以上のエネルギーでは、角度補正のために偏向長さを延長する必要があるが、減速長さの延長は収差の低減に役立つ。
【0037】
上記の結果を考慮して、本発明の様々な実施形態によれば、静電モジュールは、減速長さが既知の静電モジュール構成の減速長さよりも実質的に短くなるように構成することができる。したがって、同じフォームファクターの場合、第1電極セットと接地電極セットの間の経路長は同じであり、等角度間隔で配置された電極対を持つ既知のEMの減速長さは、本実施形態に従って配置されたEMの減速長さを10パーセント以上超える可能性がある。
【0038】
本実施形態のEMのよりコンパクトな構成は、他の利点も提供することができる。様々な実施形態によれば、EMの電極アセンブリ内の電極は、集束力を改善するように配置してもよい。図4Aおよび図4Bは、それぞれ、参照電極アセンブリおよび実施形態による電極アセンブリを通して輸送される低エネルギーイオンビームのモデリングの結果を提示する。図4Aの参照電極アセンブリ410および図4Bの電極アセンブリ420は同じ寸法を有し、入口電極(左端)と接地電極(右端)との間の距離が同じであるEMを使用する。参照電極アセンブリ410は7つの電極対を使用し、一方電極アセンブリ420は5つの電極対を使用する。別の違いは、電極アセンブリ420の第2の電極対(減速電極)が、参照電極アセンブリ410の対応する減速電極に対して下流に配置されていることにある(参照電極アセンブリ410の第2の電極対も減速電極である)。言い換えると、第1の電極対と第2の電極対との間の角度の広がりは、電極アセンブリ420の方が大きい。その結果、減速長さ、抑制電極と接地電極との間の円弧長は、電極アセンブリ420の方が短い。
【0039】
図4Aおよび図4Bのシミュレーションでは、3keVのリン(P+)イオンビームの輸送が、33から3keVの減速比で示されている。これらのシミュレーションでは、参照電極アセンブリ410は、L = 250mmの有効減速長さを有し、一方、電極アセンブリ420は、L = 225mmの減速長さを有する。結果は、電極アセンブリ420がより大きな集束を生成することを示し、参照電極アセンブリ410は、垂直クロスオーバーが基板平面を越えて生じるとき、電極アセンブリ420と比較して、より高いイオンビームを基板に生成する。電極アセンブリの集束力が参照電極アセンブリに対して45%増加すると見なすことができる。
【0040】
次に、図5を参照すると、33から3keVの減速比を有する参照電極アセンブリ410および電極アセンブリ420に対する、3keVのP+イオンビームの抑制電圧の関数としてのビーム高さのシミュレーションの結果が示されている。図に示されるように、低いエネルギービームについては、図示の抑制電圧範囲にわたって、ビーム高さは、本開示の実施形態に従ってより短い減速長さで配置された電極アセンブリ420の方が実質的に小さい。
【0041】
本発明の様々な実施形態によれば、偏向場の有無にかかわらず、任意の数の電極を有するグレーデッド形レンズ(電極アセンブリ)は、コンピュータプログラムコードによって調整され制御された減速および偏向電圧分布を有し得る。このコンピュータプログラムコードを特定のロッド/電極配線と組み合わせることで、電位分布を簡単に再調整して、ビームパービアンスに一致する所望の集束、減速、偏向を有する異なるレンズ構造を形成することができる。このようなシステムは、分離されたレンズモジュールを使用することができ、それらのモジュールは可変の減速、偏向および焦点領域を有効にするために容易に再配線することができる。
【0042】
図6は、本発明のいくつかの実施形態による例示的なプロセスフロー600を示す。ブロック602において、イオンビームを静電レンズの電極アセンブリを通して誘導する。いくつかの実施形態では、イオンビームはリボンビームであってよく、電極アセンブリは複数の電極を含み得る。ブロック604において、複数の電極に複数の電極電圧を割り当て、複数の電極電圧は、第1のパービアンスを有する第1のイオンビームに対して、第1の動作モードにおいて、第1の減速長さを規定する。いくつかの例では、ビーム端子電圧は、電極アセンブリの入口に配置された第1の電極対に割り当てることができる。
【0043】
ブロック606において、電極アセンブリの減速長さを、第1のパービアンスよりも大きい第2のパービアンスを有する第2のイオンビームに対して、第2の動作モードにおいて、第2の減速長さに減少させる。いくつかの実施形態では、減速長さは動作モードの間で5%、10%、または20%短縮することができる。
【0044】
要約すると、本実施形態は、円弧に沿って不等角度間隔で配置されたロッド/電極を使用して、グレーデッド減速レンズ(静電レンズ)として具体化されたEMを提供する。様々な実施形態は、EMの有効偏向長さおよび減速長さを制御する方法を提供する。特定の実施形態では、イオンビームを制御するための方法は、減速/偏向レンズ内の電極電圧を割り当てるためのコンピュータコードを含み、スケーリング則に従って、減速長さ/偏向長さをビームパービアンスに一致するように調整することができる。この方法は式1〜4で例証され、例えばビーム端子電圧、偏向電圧などの複数の電圧をEMの電極に割り当て、これらの電圧が減速長さおよび/または偏向長さをビームパービアンスに一致するように調整する。一例として、所定の数の電極対を有する実施形態では、電極対を移動する代わりに、またはそれに加えて、異なる電極対間の電圧の割り当てを切り替えることによって減速長さを調整して、第2の電極対が第1の電極対とは対照的に抑制電極対になるようにすることができる。
【0045】
異なる電極対への電圧の割り当ての切り替えの1つの結果は、電極アセンブリの中心線によって決まる公称中心光線軌道とは異なる実際の経路に沿って向けて、ウェーハ面におけるエネルギー汚染の制御を達成する能力である。特定の実施形態では、偏向長さを制御してゼロとは異なる平均ビーム角度を達成するための「ノブ」が提供される。この制御は、パターニングなどのリアルタイムの角度制御が必要な材料処理にとって重要であり得る。
【0046】
特定の実施形態では、未調整の電極電圧のセットは、イオンビームを第1の入射角で基板に衝突させ、一方、調整した電極電圧のセットは、イオンビームを第1の入射角とは異なる第2の入射角で基板に衝突させることができる。
【0047】
上記を考慮すると、少なくとも以下の利点が、本開示の実施形態によって達成される。グレーデッドレンズ(電極アセンブリ)における調整可能な減速/偏向長さは、本開示のEMによって実現される。利点の1つは、EMのビーム輸送が改善され、高パービアンスビームが可能になることである。別の利点として、ビームの収差が小さく、減速領域内で平行ビームを得ることができ、静電フォーカスと空間電荷デフォーカスの良いバランスをとることができる。スループットの増加、すなわち、EMを通して輸送されるビーム電流の増加が、本開示の実施形態によって提供される。いくつかの実施形態では、グレーデッドレンズの有用性の向上が提供される。
【0048】
本明細書では本発明の特定の実施形態について説明したが、本発明は当技術分野で許容される範囲に亘って広範囲であり、明細書も同様に読み取ることができるため、本発明示はそれらに限定されない。したがって、上記の説明は、限定として解釈されるべきではない。当業者であれば本明細書に添付された特許請求の範囲および主旨の範囲内で他の変更を想定するであろう。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6