【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による球面滑り装置用基礎の一態様は、
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持するコンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎であって、
前記ベースプレートは、前記スライダーに作用する荷重が該スライダーの下面から前記下沓と前記ベースプレートを経て前記コンクリート基礎に伝達される、荷重伝達領域よりも平面視寸法の小さなコンクリート打設開口を備えており、
前記コンクリート打設開口が閉塞蓋により閉塞されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、ベースプレートがコンクリート打設開口を備えているものの、コンクリート打設開口が閉塞蓋によって閉塞されていることにより、コンクリート打設開口に起因する断面欠損によってスライダーから作用する大きな集中荷重をベースプレートとコンクリート基礎に伝達できないといった課題を解消できる。そのため、球面滑り装置用基礎の施工時には、ベースプレートに設けられているコンクリート打設開口からのコンクリート打設が可能になり、ベースプレートの下方において可及的に短い流動距離にてコンクリートを流すことで、ベースプレートの下方に生じ得る隙間を抑制もしくは抑止しながら密実なコンクリート基礎を施工することが可能になる。すなわち、施工においては無収縮モルタル工程を不要として、隙間のない密実なコンクリート基礎をベースプレートの下方に備えている球面滑り装置用基礎となる。
【0014】
また、ベースプレートに設けられているコンクリート打設開口の寸法に関し、スライダーに作用する荷重がスライダーの下面から下沓とベースプレートを経てコンクリート基礎に伝達される、荷重伝達領域よりも平面視寸法の小さな大きさに設定されていることから、ベースプレートの全域に対するコンクリート打設開口の平面視寸法の割合が大きくなり過ぎることに起因するベースプレートの剛性低下を抑制でき、さらには、コンクリート打設開口を閉塞する閉塞蓋の平面視寸法の内部に荷重伝達領域が含まれることに起因する荷重伝達の不確実性を解消することができる。
【0015】
後者の荷重伝達の不確実性に関してさらに言及すると、コンクリート打設開口の内部に閉塞蓋が係合等によって固定されることから、スライダーからの伝達荷重を閉塞蓋のみが受ける構成では、係合部の固定度が高くないと下方のコンクリート基礎への確実な荷重伝達性を担保できない。本態様では、荷重伝達領域が閉塞蓋(コンクリート打設開口)の周囲のベースプレートに及ぶこと(このようにコンクリート打設開口の範囲を規制していること)から、スライダーからの伝達荷重を例えば閉塞蓋とその周囲のベースプレートを介してコンクリート基礎に確実に伝達することが可能になる。
【0016】
ここで、スライダーの下面から下沓とベースプレートを介してコンクリート基礎の上面に形成される荷重伝達領域は、荷重の広がり角度を0度乃至60度程度の範囲内で設定することにより様々に変化し得るが、この広がり角度の設定は設計者の判断に依拠するものであり、例えば30度や45度に設定できる。具体的には、スライダーと下沓とベースプレートとコンクリート基礎を縦断面的に見た際に、スライダー(の下面)の幅をBとし、下沓とベースプレートの厚みの合計をHとし、さらに、スライダーの左右端から鉛直下方へ延ばした鉛直線と荷重の広がり角度をθとした際に、縦断面におけるコンクリート基礎の上面における荷重伝達領域の幅は、B+2Htanθとなる。例えば、θ=0度に設定した際は、スライダーの幅がそのまま、コンクリート基礎の上面における荷重伝達領域の幅になる。
【0017】
また、本明細書において、「荷重伝達領域」とは、上記するように、コンクリート基礎の上面において伝達される荷重の幅や、コンクリート基礎の上面を上から見た平面視における伝達荷重の平面視寸法(平面視円形の範囲等)を意味する。
【0018】
さらに、ベースプレートに開設されるコンクリート打設開口の平面視形状は、円形、矩形(正方形や長方形)、矩形以外の多角形等、多様な平面視形状が適用できる。また、例えば平面視矩形のベースプレートの内部に、当該ベースプレートに相似な形状で相対的に平面視寸法が小さなコンクリート打設開口が設けられ、当該開口に同形状及び同寸法の閉塞蓋が嵌まり込む形態や、平面視形状が矩形のベースプレートが複数の縦片もしくは横片に等分され、その中の一つの縦片もしくは横片がコンクリート打設開口に設定され、当該開口に同形状及び同寸法の閉塞蓋が嵌まり込む形態等が挙げられる。後者の形態の具体的な例として、ベースプレートを三等分した際の中央の縦片が、コンクリート打設開口に設定されている形態等を例示できる。
【0019】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様は、
前記スライダーよりも前記コンクリート打設開口の平面視寸法が小さいことを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、コンクリート打設開口の平面視寸法がスライダーよりも小さい大きさに設定されていることにより、スライダーの下面の平面視寸法と荷重伝達領域の平面視寸法が同じとなるように設計する場合であっても、コンクリート打設開口(及び閉塞蓋)とその周囲のベースプレートを含む範囲を荷重伝達領域とすることができ、スライダーからの伝達荷重をコンクリート基礎に確実に伝達することが可能になる。また、コンクリート打設開口の平面視寸法がコンクリートを打設可能な最低限の範囲に規制されることにより、ベースプレートの剛性低下を最小限に抑えることができる。
【0021】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記コンクリート打設開口の平面視形状が円形であり、孔径が100mm乃至800mmの範囲にあることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、コンクリート打設開口が孔径100mm乃至800mmの範囲にある平面視円形を呈していることにより、一般に適用される打設ホースのうち、最小寸法であるφ100mmの打設ホースをコンクリート打設開口に設置してコンクリート打設を行うことができ、さらに、コンクリート打設開口の最大寸法を、市販されている、もしくは市販の可能性のあるスライダーの最大径であるφ800mm以下に規制することができる。
【0023】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの上面から下面にかけて平面視寸法が小さくなるテーパー状内壁面を有しており、
前記閉塞蓋が前記ベースプレートの前記テーパー状内壁面に相補的な形状の側面を有していることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、ベースプレートの上面から下面にかけて平面視寸法が小さくなるテーパー状内壁面(切頭円錐形状の内壁面)を備えたコンクリート打設開口に対して、相補的な形状の側面を有する閉塞蓋が落とし込まれて双方が係合していることにより、双方の係合面積が大きくなり、コンクリート打設開口と閉塞蓋との間の安定した係合構造を形成できる。
【0025】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記コンクリート打設開口の内部の下方、もしくは、該コンクリート打設開口の下端には、該コンクリート打設開口の内側へ張り出す係止突起が設けられており、
前記コンクリート打設開口に落とし込まれた前記閉塞蓋が前記係止突起に係止されていることを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、コンクリート打設開口の内部の下方、もしくは、コンクリート打設開口の下端に設けられている、コンクリート打設開口の内側へ張り出す係止突起に対して、閉塞蓋が係止されていることにより、コンクリート打設開口と閉塞蓋との間の安定した係合構造を形成できる。
【0027】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記閉塞蓋が、前記ベースプレートの上面に係止される係止プレートを備えており、
平面視において、前記係止プレートが前記ベースプレートの上面の全部もしくは一部を被覆していることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、閉塞蓋に連続する係止プレートがベースプレートの上面に係止されることにより、係止プレートとベースプレートが二枚重ねとなって、従来一般の一枚もののベースプレートと同様に球面滑り装置を支持することになるため、ベースプレートと係止プレートの双方の厚みを、例えば従来一般の一枚もののベースプレートの半分程度の厚みにすることができる。このことにより、可及的に薄くなったベースプレートと係止プレート(を備える閉塞蓋)の取り回し性(ハンドリング性)が良好になり、ベースプレート等の加工性も良好になる。
【0029】
ここで、係止プレートとベースプレートの平面視形状と平面視寸法が同一の場合は、ベースプレートのコンクリート打設開口に閉塞蓋を嵌め込んだ際に、ベースプレートと係止プレートが平面視において完全にラップした構成となる。一方、ベースプレートよりも係止プレートの平面視寸法が小さい場合は、ベースプレートのコンクリート打設開口に閉塞蓋を嵌め込んだ際に、ベースプレートの一部と係止プレートがラップし、ベースプレートの残りの他部には別途の係止プレートが載置されることにより、同様に一枚のベースプレートと一枚の係止プレートの二枚重ね構造が形成される。
【0030】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の他の態様において、
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、コンクリート打設開口がベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることにより、コンクリート打設開口を介してベースプレートの下方にコンクリートを打設する際に、ベースプレートの全周縁に対して可及的に均等かつ短い流動距離にてコンクリートを流動させることができ、ベースプレートの下面の全域において隙間のない、密実なコンクリート基礎が形成される。
【0032】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の施工方法の一態様は、
上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間で摺動するスライダーと、を備える球面滑り装置を支持する、球面滑り装置用基礎の施工方法であって、
下部構造体の天端の上方のコンクリート基礎用空間の上に、コンクリート打設開口を備えたベースプレートを設置し、該コンクリート基礎用空間の周囲に型枠を設置する、設置工程と、
前記コンクリート打設開口から、前記ベースプレートの下方の前記コンクリート基礎用空間にコンクリートを打設し、該コンクリートが硬化する前に該コンクリート打設開口を閉塞蓋により閉塞する、打設工程と、
打設された前記コンクリートが硬化し、前記型枠を脱型することによりコンクリート基礎が形成され、前記球面滑り装置を支持するベースプレートと、該ベースプレートを支持する前記コンクリート基礎とを有する、球面滑り装置用基礎を施工する、脱型工程とを有することを特徴とする。
【0033】
本態様によれば、打設工程において、ベースプレートの備えるコンクリート打設開口からベースプレートの下方のコンクリート基礎用空間に(フレッシュ)コンクリートを打設することにより、コンクリート打設開口に起因する断面欠損によってスライダーから作用する大きな集中荷重をベースプレートとコンクリート基礎に伝達できないといった課題を解消でき、かつ、ベースプレートの下方において可及的に短い流動距離にてコンクリートを流すことで、ベースプレートの下方に生じ得る隙間を抑制もしくは抑止しながら密実なコンクリート基礎を施工することが可能になる。従って、球面滑り装置用基礎の施工において、無収縮モルタル工程を不要にしながら、隙間のない密実なコンクリート基礎をベースプレートの下方に施工することができる。また、コンクリートが硬化する前にコンクリート打設開口を閉塞蓋によって閉塞することにより、閉塞蓋とコンクリート基礎との密着性が高まり、閉塞蓋を含むベースプレートの全域がコンクリート基礎と高い密着性を有して一体とされた球面滑り装置用基礎を施工することができる。
【0034】
ここで、ベースプレートには、平面視寸法が小さな空気抜き孔を設けておくことにより、ベースプレートの下面までコンクリートが充填された際の空気抜きを行うことができ、この空気抜き孔からコンクリートが溢れ出すことにより、ベースプレートの下面までコンクリートが隙間なく打設されたことを確認することができる。また、閉塞蓋にも空気抜き孔が設けられていているのが好ましい。
【0035】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の施工方法の他の態様において、
前記コンクリート打設開口の平面視寸法は、前記スライダーに作用する荷重が、該スライダーの下面から前記下沓と前記ベースプレートを経て、前記コンクリート基礎に伝達される荷重伝達領域よりも小さな範囲に設定されていることを特徴とする。
【0036】
本態様によれば、ベースプレートに設けられているコンクリート打設開口の寸法に関し、スライダーに作用する荷重がスライダーの下面から下沓とベースプレートを経てコンクリート基礎に伝達される、荷重伝達領域よりも平面視寸法の小さな大きさに設定されていることから、ベースプレートの全域に対するコンクリート打設開口の平面視寸法の割合が大きくなり過ぎることに起因するベースプレートの剛性低下を抑制でき、コンクリート打設開口を閉塞する閉塞蓋の平面視寸法の内部に荷重伝達領域が含まれることに起因する荷重伝達の不確実性が解消された球面滑り装置用基礎を施工することができる。
【0037】
また、本発明による球面滑り装置用基礎の施工方法の他の態様において、
前記コンクリート打設開口が、前記ベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることを特徴とする。
【0038】
本態様によれば、コンクリート打設開口がベースプレートの平面視形状の中央に設けられていることにより、コンクリート打設開口を介してベースプレートの下方にコンクリートを打設する際に、ベースプレートの全周縁に対して可及的に均等かつ短い流動距離にてコンクリートを流動させることができ、ベースプレートの下面の全域において隙間のない、密実なコンクリート基礎を施工することができる。