(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  前記第2ウェル領域または前記第3ウェル領域上に前記ソース電極とオーミック接続され、前記第2ウェル領域または前記第3ウェル領域にオーミック接続されない導電性層をさらに備える、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【背景技術】
【0002】
  炭化珪素(SiC)を用いて構成されるpnダイオードに、順方向電流すなわちバイポーラ電流を流し続けると、結晶中に積層欠陥が発生して順方向電圧がシフトする、という信頼性上の問題が知られている。これは、pnダイオードを通して注入された少数キャリアが多数キャリアと再結合する際の再結合エネルギーにより、炭化珪素基板に存在する基底面転位などを起点として、面欠陥である積層欠陥が拡張するためと考えられている。この積層欠陥は、電流の流れを阻害するため、積層欠陥の拡張により電流が減少して順方向電圧が増加し、半導体装置の信頼性の低下を引き起こす。
【0003】
  このような順方向電圧の増加は、炭化珪素を用いた縦型MOSFET(Metal  Oxide  Semiconductor  Field  Effect  Transistor)においても同様に発生する。縦型MOSFETは、ソース−ドレイン間に寄生pnダイオード(ボディダイオード)を備えており、順方向電流がこのボディダイオードに流れると、pnダイオードと同様の信頼性低下を引き起こす。従って、SiC−MOSFETのボディダイオードをMOSFETの還流ダイオードとして用いる場合には、MOSFET特性の低下が発生する場合がある。
【0004】
  上記のような寄生pnダイオードへの順方向電流の通電による信頼性上の問題を解決する方法の一つとして、特許文献1で示されるように、寄生pnダイオードに順方向電流を長時間流すストレス印加を行ない、ストレス印加前後での順方向電圧の変化を測定して、順方向電圧の変化の大きい素子を製品から排除(スクリーニング)する方法がある。しかしながら、この方法では、通電時間が長くなり、欠陥の多いウエハを使用すると不良品が多く発生するというデメリットがある。
【0005】
  また、別の方法として、MOSFET等、ユニポーラ型トランジスタである半導体装置に、多数キャリアのみで通電するユニポーラ型ダイオードを還流ダイオードとして内蔵する方法がある。例えば特許文献2と特許文献3には、ユニポーラ型ダイオードであるショットキバリアダイオード(SBD:Schottky  Barrier  Diode)をMOSFETのユニットセル内に内蔵させる方法が記載されている。
【0006】
  このような、活性領域にユニポーラ型ダイオードを内蔵したユニポーラ型トランジスタを炭化珪素半導体装置に適用する場合、ユニポーラ型ダイオードの拡散電位すなわち通電動作が始まる電圧をpn接合の拡散電位よりも低く設計することにより、還流動作時にボディダイオードにバイポーラ電流が流れないようにして、活性領域のユニポーラ型トランジスタの特性劣化を抑制することができる。
【0007】
  また、特許文献4には、活性領域であるp型のウェル領域上にn型のチャネルエピ層が形成されたMOSFETが開示されている。チャネルエピ層は閾値電圧以下のゲート電圧でユニポーラ型ダイオードとして動作する。そして、ユニポーラ型ダイオードの立ち上がり電圧はp型のウェル領域とn型のドリフト層とから形成されるpnダイオードの動作電圧よりも低く設計される。このようなMOSFETも、活性領域にユニポーラ型ダイオードを内蔵したユニポーラ型トランジスタの一つと言うことができ、SBDを内蔵したMOSFETと同様の効果が期待できる。
【0008】
  しかしながら、活性領域にユニポーラ型ダイオードが内蔵されたユニポーラ型トランジスタにおいても、活性領域以外の領域である終端領域では、構造上ユニポーラ型ダイオードを配置し難いところに寄生pnダイオードが形成されることがある。例えば、ゲートパッド近傍または半導体装置終端部近傍の領域では、ソース電極よりも外周側に張り出した終端ウェル領域が形成されており、終端ウェル領域とドリフト層との間で寄生pnダイオードが形成されている。そして、この箇所には、ショットキ電極が形成されておらず、ユニポーラ型ダイオードが形成されていない。終端ウェル領域にショットキ電極が無いため、終端ウェル領域とドリフト層とによって形成されるpnダイオードにソース電極とドレイン電極との間の電圧が印加され、このpnダイオードにバイポーラ電流が流れることになる。以下、この現象を「バイポーラ通電」と称する。
【0009】
  このような箇所に基底面転位などの起点が存在すると、積層欠陥が拡張し、トランジスタの耐圧が低下してしまうことがある。具体的にはトランジスタがオフ状態のときに漏れ電流が発生し、漏れ電流による発熱によって素子または回路が破壊してしまうことがある。
【0010】
  この問題を回避するためには、終端ウェル領域とドリフト層とによって形成されるpnダイオードにバイポーラ電流が流れないようにすればよく、例えば半導体装置の動作中にソース−ドレイン間の印加電圧を一定値以下に制限すればよい。その方法として、チップサイズを拡大し、1チップ当たりの内蔵SBDの微分抵抗を低減すれば、還流電流が流れた際に発生するソース−ドレイン間電圧が低減される。しかし、チップサイズが大きくなり、コストが増大するデメリットが生じる。
【0011】
  チップサイズを拡大することなく、終端ウェル領域とドリフト層によって形成されるpnダイオードの順方向動作を抑制する方法として、終端ウェル領域の各箇所とソース電極との間に形成される通電経路の抵抗を高める方法がある。通電経路の抵抗を高める方法として、特許文献5には、終端ウェル領域とソース電極とのコンタクト抵抗を高めた構成が開示されている。このような構成にすると、終端ウェル領域とドリフト層とによって形成されるpnダイオードにバイポーラ電流が流れた際、コンタクト抵抗の抵抗成分によって電圧降下が生じるため、終端ウェル領域の電位がソース電位と乖離し、その分、pnダイオードにかかる順方向電圧が低減する。したがって、バイポーラ電流の通電を抑制することができる。
【0012】
  一方、炭化珪素に代表されるワイドギャップ半導体装置において特に顕著な現象として、スイッチング時にウェル領域に流れる変位電流による素子の破壊が知られている。MOS構造を有する炭化珪素半導体装置がスイッチングしたときに、比較的面積の大きなp型のウェル領域内を素子の平面方向に変位電流が流れ、この変位電流とウェル領域のシート抵抗とによって、ウェル領域内に高電圧が発生する。そして、ウェル領域上に絶縁膜を介して形成された電極との間で絶縁膜の絶縁破壊が起こることにより、素子が破壊される。例えば、ウェル領域の電位が50V以上に変動し、その上に、厚さ50nmの酸化珪素膜を介して電位がおよそ0Vのゲート電極が形成されている場合、酸化珪素膜に10MV/cmの高電界が印加され、絶縁破壊する場合がある。
【0013】
  この現象がワイドギャップ半導体装置において顕著に発生する理由は、以下の2つである。一つは、ワイドギャップ半導体に形成されたp型ウェル領域の不純物準位が、シリコンに形成されたp型ウェル領域の不純物準位に比べて深いため、ワイドギャップ半導体におけるp型ウェル領域のシート抵抗がシリコンにおけるp型ウェル領域のシート抵抗より格段に高くなるためである。もう一つは、ワイドギャップ半導体の絶縁破壊電界がシリコン半導体の絶縁破壊電界よりも高いことを活かし、ワイドギャップ半導体装置では低抵抗で不純物濃度が高いn型ドリフト層が使用されるためである。そのため、ワイドギャップ半導体装置ではシリコン半導体装置に比べて、n型ドリフト層とp型ウェル領域との間に形成されるpn接合に生じる空乏層の容量が非常に大きくなり、その結果、スイッチング時に大きな変位電流が流れる。
【0014】
  スイッチング速度が大きくなるほど、変位電流は大きくなり、ウェル領域に発生する電圧も高くなる。変位電流によって発生する電圧を低減する方法として、例えば特許文献6には、p型ウェル領域の一部に低抵抗なp型層を形成する方法が提案されている。
【0015】
  以上をまとめると、活性領域にユニポーラ型ダイオードを内蔵した炭化珪素MOSFETにおいては、外周領域など一部のp型ウェル領域からバイポーラ通電しやすいという特徴がある。バイポーラ通電を抑制するために、当該p型ウェル領域とソース電極の抵抗を高くするという方策が考えられる。しかし、この方策はスイッチング時の変位電流通電時に大電圧を発生させてしまう。当該p型ウェル領域は、還流動作時には高抵抗で電流を流さないが、変位電流通電時には、上部にある絶縁膜を破壊するような電圧を発生させないことが求められる。
【0016】
  これらの要請を満たす構造として、例えば特許文献7のように、外周領域などのp型ウェル領域とソース電極との接続をpnpスリット構造のような非線形抵抗にする構造が考えられる。この構造であれば、還流動作時に印加される程度の電圧ではバイポーラ通電を抑制でき、スイッチング時には、絶縁膜が破壊されるような電圧に到達するまでに、降伏することで破壊を防止できる。
【0017】
  他にも、外周領域などのp型ウェル領域上に、p型ウェル領域にオーミック接続せずソース電極に接続された導電性層を形成し、ソース電極がp型ウェル領域の空乏層容量を介してp型ウェル領域に接続することで、変位電流は低い電圧で通電しつつ、還流動作時のバイポーラ通電は抑制する、といった方策が考えられる。
 
【発明を実施するための形態】
【0028】
  以下、添付の図面を参照しながら実施形態について説明する。なお、図面は模式的に示されるものであり、異なる図面にそれぞれ示されている画像のサイズおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得る。また、以下の説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称および機能も同様のものとする。よって、それらについての詳細な説明を省略する場合がある。
 
【0029】
  本明細書に記載の実施の形態においては、半導体装置の一例として、炭化珪素(SiC)半導体装置であり、第1導電型をn型、第2導電型をp型としたnチャネル炭化珪素MOSFETを例に挙げて説明する。電位の高低についての記述は、第1導電型をn型、第2導電型をp型とした場合に対する記述であり、第1導電体をp型、第2導電型をn型とした場合には、電位の高低の記述も逆になる。
 
【0030】
  本明細書においては、半導体装置全体のうち、ユニットセルが周期的に並ぶ領域を活性領域とし、活性領域以外の領域を終端領域とする。
 
【0031】
  <A.実施の形態1>
  <A−1.構成>
  まず、実施の形態1の炭化珪素半導体装置の構成を説明する。
 
【0032】
  図1は、実施の形態1の炭化珪素半導体装置であるショットキダイオード(SBD)を内蔵した炭化珪素MOSFET(以下、単に「SiC−MOSFET」と称する)101を上面から見た平面模式図である。
図1において、SiC−MOSFET101の上面の一部にはゲートパッド81が形成されており、これに隣接してソース電極80が形成されている。また、ゲートパッド81から延びるように、ゲート配線82が形成されている。なお、本明細書では以下に様々な実施の形態のSiC−MOSFETを説明するが、
図1はそれら各実施の形態のSiC−MOSFETの上面図でもある。
 
【0033】
  図2は、SiC−MOSFET101のソース電極80からゲート配線82にかけてのa−a´断面を示している。また、
図3は、SiC−MOSFET101の主に炭化珪素半導体の部分を示す上面図である。
 
【0034】
  図2において、n型で低抵抗の炭化珪素で構成される半導体基板10の表面上に、n型の炭化珪素で構成されるドリフト層20が形成されている。ドリフト層20のうち、
図1に示したゲート配線82が設けられている領域にほぼ対応する位置の表層には、
図3に示すように、p型の炭化珪素で構成される第3ウェル領域32が設けられている。
 
【0035】
  ドリフト層20の表層のうち、
図1に示したソース電極80が設けられている領域の下部には、
図2に示すように、p型の炭化珪素で構成される第1ウェル領域30が複数設けられている。各第1ウェル領域30の表層には、第1ウェル領域30の外周から所定の間隔だけ内部に入った位置に、n型の炭化珪素で構成されるソース領域40が形成されている。
 
【0036】
  各第1ウェル領域30の表層のソース領域40より内側には、低抵抗p型の炭化珪素で構成されるコンタクト領域35が形成されている。各第1ウェル領域30のコンタクト領域35より内側には、各第1ウェル領域30を厚み方向に貫通する離間領域21が形成されている。離間領域21を第1離間領域とも称する。離間領域21は、ドリフト層20と同じn型の炭化珪素で構成される。離間領域21のn型不純物濃度は、ドリフト層20のn型不純物濃度と同じでもよいし、ドリフト層20のn型不純物濃度より高くても低くてもよい。さらに離間領域21は、ドリフト層20の表面上に彫り込むように形成されたトレンチ構造に一部または全領域が含まれていてもよい。
 
【0037】
  離間領域21の上面には、離間領域21とショットキ接続するショットキ電極71が形成されている。ここで、ショットキ電極71は、上面から見て、少なくとも対応する離間領域21を含むように形成されていることが望ましい。
 
【0038】
  また、ソース領域40の上面にはオーミック電極70が形成されている。オーミック電極70とショットキ電極71の上には、コンタクト領域35に接続されるソース電極80が形成されている。第1ウェル領域30は、低抵抗のコンタクト領域35を介して、オーミック電極70との間で電子および成功の授受を容易に行うことができる。
 
【0039】
  隣り合う2つの第1ウェル領域30の間のドリフト層20の領域は、n型の離間領域22である。離間領域22のn型不純物濃度は、ドリフト層20のn型不純物濃度と同じでもよいし、ドリフト層20のn型不純物濃度より高くても低くてもよい。第1ウェル領域30、隣り合う第1ウェル領域30の間の離間領域22、および各第1ウェル領域30内のソース領域40、の上面には、ゲート絶縁膜50が形成されている。ゲート絶縁膜50上の少なくとも第1ウェル領域30の上部には、ゲート電極60が形成されている。第1ウェル領域30のうち、ゲート絶縁膜50を介してゲート電極60に対向する表層をチャネル領域と呼ぶ。
 
【0040】
  ドリフト層20の表層において、最外周の第1ウェル領域30の外側には、離間領域23を挟んで第2ウェル領域31が形成されている。言い換えれば、離間領域23は、第1ウェル領域30と第2ウェル領域31との間の領域である。離間領域23は、ドリフト層20と同じn型の炭化珪素で構成される。離間領域23のn型不純物濃度は、ドリフト層20のn型不純物濃度と同じでもよいし、ドリフト層20のn型不純物濃度より高くても低くてもよい。離間領域23と、これを両側から挟む第1ウェル領域30および第2ウェル領域31は、平面方向にpnpの接触構造を形成している。本明細書では、このような構造をpnpスリットと称する。離間領域23を第2離間領域とも称する。第2ウェル領域31上にもゲート絶縁膜50が形成されている。第2ウェル領域31上のゲート絶縁膜50上には、第1ウェル領域30上に形成されたゲート電極60と電気的に接続されたゲート電極60が形成されている。
 
【0041】
  第2ウェル領域31は、離間領域23を介して第1ウェル領域30と隣接する。第2ウェル領域31はソース電極80と非オーミック接続されている。
図2では、第2ウェル領域31上の層間絶縁膜55、ゲート電極60、およびゲート絶縁膜50を開口して第2ウェル領域コンタクトホール91が形成され、第2ウェル領域コンタクトホール91の下部に第1非オーミックコンタクト領域76が形成されている。そして、第2ウェル領域31は第1非オーミックコンタクト領域76を介してソース電極80と接続されている。しかし、
図2に示す構成は一例であり、第2ウェル領域31がソース電極80と非オーミック接続されていれば他の構成でもよい。
 
【0042】
  例えば、第2ウェル領域31はソース電極80とショットキ接続されていてもよい。あるいは、第2ウェル領域31上にn型炭化珪素領域が形成され、n型炭化珪素領域とソース電極80とがオーミック接続されることで、ソース電極80と第2ウェル領域31とがpn接合によりダイオード接続されてもよい。また、明示的にソース電極80とのコンタクトを形成しなくとも、離間領域23の幅を一定以上短く設計することにより、pnpスリットのパンチスルーを利用した非線形抵抗を介して、第2ウェル領域31がソース電極80と非オーミック接続されていてもよい。また、第2ウェル領域31はn型の離間領域によって分断され、複数の領域で構成されていてもよい。その場合、全ての第2ウェル領域31が離間領域23を介して第1ウェル領域と隣接している必要はないし、全ての第2ウェル領域31上にゲート絶縁膜50が形成されている必要はない。
 
【0043】
  ドリフト層20の表層において、第2ウェル領域31の外側には、離間領域24を挟んで第3ウェル領域32が形成されている。言い換えれば、離間領域24は、第2ウェル領域31と第3ウェル領域32との間の領域である。離間領域24を第3離間領域とも称する。離間領域24は、ドリフト層20と同じn型の炭化珪素で構成される。離間領域24のn型不純物濃度は、ドリフト層20のn型不純物濃度と同じでもよいし、ドリフト層20のn型不純物濃度より高くても低くてもよい。離間領域24と、これを両側から挟む第2ウェル領域31および第3ウェル領域32は、平面方向にpnpの接触構造、すなわちpnpスリットを形成している。
 
【0044】
  第3ウェル領域32はソース電極80と非オーミック接続されている。
図2では、第3ウェル領域32上の層間絶縁膜55、ゲート電極60、およびゲート絶縁膜50を開口して第3ウェル領域コンタクトホール92が形成され、第3ウェル領域コンタクトホール92の下部に第2非オーミックコンタクト領域77が形成されている。そして、第3ウェル領域32は第2非オーミックコンタクト領域77を介してソース電極80と接続されている。しかし、
図2に示す構成は一例あり、第3ウェル領域32がソース電極80と非オーミック接続されていれば他の構成でもよい。
 
【0045】
  例えば、第3ウェル領域32はソース電極80とショットキ接続されていてもよい。あるいは、第3ウェル領域32上にn型炭化珪素領域が形成され、n型炭化珪素領域とソース電極80とがオーミック接続されることで、ソース電極80と第3ウェル領域32とがpn接合によりダイオード接続されてもよい。また、明示的にソース電極80とのコンタクトを形成しなくとも、離間領域24の幅を一定以上短く設計することにより、pnpスリットのパンチスルーを利用した非線形抵抗を介して、第3ウェル領域32がソース電極80と非オーミック接続されていてもよい。
 
【0046】
  ゲート電極60とソース電極80の間には、層間絶縁膜55が形成されている。また、第3ウェル領域32の上方のゲート電極60は、層間絶縁膜55を開口して形成されたゲートコンタクトホール95を介してゲート配線82と接続されている。また、第3ウェル領域32の外周側、すなわち第1ウェル領域30と反対の側には、ドリフト層20の表層にJTE領域37が形成されている。JTE領域37はp型の炭化珪素で構成され、その不純物濃度は第2ウェル領域31の不純物濃度より低い。
 
【0047】
  第3ウェル領域32上には、ゲート絶縁膜50より膜厚の大きなフィールド絶縁膜51、または、ゲート絶縁膜50が形成されている。フィールド絶縁膜51は、離間領域24をまたぎ、第2ウェル領域31上にまで形成されていてもよい。
 
【0048】
  活性領域において、オーミック電極70、ショットキ電極71およびコンタクト領域35上のソース電極80は、層間絶縁膜55およびゲート絶縁膜50を貫通して形成された第1ウェル領域コンタクトホール90を介して、層間絶縁膜55上のソース電極80と接続されている。
 
【0049】
  半導体基板10の裏面側には、ドレイン電極84が形成されている。
 
【0050】
  離間領域23と離間領域24において、pnpスリットのパンチスルー現象を用いて、スイッチング時のパンチスルー電圧を一定値に制限する場合、スリット幅をWとして、特許文献7と同様に下記の一次元ポアソン方程式においてx=Wの解として与えられるパンチスルー電圧Vを制御すればよい。
 
【0052】
  上記のポアソン方程式においてx=Wの解であるパンチスルー電圧Vは、
【数2】
と示される。ここでφは電位分布、xは平面方向の距離、qは素電荷、Nは実効不純物濃度、εが半導体の誘電率である。
 
【0053】
  次に、第1ウェル領域30、第2ウェル領域31、第3ウェル領域32の平面的な位置関係について、
図3を用いて説明する。まず、SiC−MOSFET101の活性領域を形成する第1ウェル領域30を取り囲むように第2ウェル領域31が形成される。さらにその外側を取り囲むように第3ウェル領域32が形成される。そのためゲート配線82またはゲートパッド81は主に第3ウェル領域32上に形成される。
 
【0054】
  図3ではゲート配線82が、活性領域を取り囲むように形成される場合を考えたが、ゲートパッド81またはゲート配線82がSiC−MOSFET101の中心線付近に形成される場合も考えられる。この場合も、第3ウェル領域32はゲートパッド81およびゲート配線82の下部に形成され、第3ウェル領域32と第1ウェル領域30の間に第2ウェル領域31が形成される。
 
【0055】
  <A−2.製造方法>
  次に、本実施の形態の炭化珪素半導体装置であるSiC−MOSFET101の製造方法について説明する。
 
【0056】
  まず、半導体基板10の上に、化学気相堆積法(chemical  Vapor  Deposition:CVD法)により、5から200μmの厚さのドリフト層20をエピタキシャル成長させる。半導体基板10は、第1主面の面方位がオフ角を有する(0001)面であり、4Hのポリタイプを有し、n型で低抵抗の炭化珪素からなる。ドリフト層20は、n型不純物濃度が1×10
14から1×10
17cm
−3の炭化珪素である。
 
【0057】
  続いて、ドリフト層20の表面の所定の領域にフォトレジスト等により注入マスクを形成し、p型不純物のAl(アルミニウム)をイオン注入する。このとき、Alのイオン注入の深さはドリフト層20の厚さを超えない0.3から3μm程度とする。また、Alのドーピング濃度は、1×10
17から1×10
19cm
−3の範囲であり、ドリフト層20の不純物濃度より高くする。その後、注入マスクを除去する。本工程によりAlがイオン注入された領域が第1ウェル領域30、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32となる。
 
【0058】
  次に、ドリフト層20の表面にフォトレジスト等により注入マスクを形成し、p型不純物のAlをイオン注入する。このとき、Alのイオン注入の深さはドリフト層20の厚さを超えない0.3から3μm程度とする。また、Alのドーピング濃度は、1×10
16から1×10
18cm
−3の範囲であり、ドリフト層20の不純物濃度より高く、かつ、第1ウェル領域30の不純物濃度よりも低いものとする。その後、注入マスクを除去する。本工程によりAlがイオン注入された領域がJTE領域37となる。同様に、第1ウェル領域30の表面の所定の領域に第1ウェル領域30の不純物濃度より高い不純物濃度でAlをイオン注入することにより、コンタクト領域35を形成する。
 
【0059】
  つづいて、ドリフト層20の表面の第1ウェル領域30の内側の所定の箇所が開口するようにフォトレジスト等により注入マスクを形成し、n型の不純物であるN(窒素)をイオン注入する。Nのイオン注入深さは第1ウェル領域30の厚さより浅いものとする。また、Nのドーピング濃度は、1×10
18から1×10
21cm
−3の範囲であり、第1ウェル領域30のp型の不純物濃度を超えるものとする。本工程でNが注入された領域のうちn型を示す領域がソース領域40となる。
 
【0060】
  次に、熱処理装置により、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガス雰囲気中で、1300から1900℃の温度で、30秒から1時間のアニールを行う。このアニールにより、イオン注入されたNおよびAlを電気的に活性化させる。
 
【0061】
  つづいて、CVD法またはフォトリソグラフィ技術等を用いて、第1ウェル領域30が形成された領域にほぼ対応する活性領域を除く領域の炭化珪素半導体層の上に、膜厚が0.3から2μmの酸化珪素からなるフィールド絶縁膜51を形成する。
 
【0062】
  次に、フィールド絶縁膜51に覆われていない炭化珪素表面を熱酸化して、所望の厚みのゲート絶縁膜50である酸化珪素膜を形成する。つづいて、ゲート絶縁膜50およびフィールド絶縁膜51の上に、導電性を有する多結晶シリコン膜を減圧CVD法により形成し、これをパターニングすることによりゲート電極60を形成する。次に、酸化珪素からなる層間絶縁膜55を減圧CVD法により形成する。つづいて、層間絶縁膜55とゲート絶縁膜50を貫き、活性領域内のコンタクト領域35とソース領域40とに到達する第1ウェル領域コンタクトホール90を形成する。同様に、第2ウェル領域31に到達する第2ウェル領域コンタクトホール91と、第3ウェル領域32に到達する第3ウェル領域コンタクトホール92の一部分を形成する。この時、フォトマスクを1枚増やし、2段階で加工する等の方法により、第1ウェル領域コンタクトホール90は半導体基板10まで完全に開口するが、第2ウェル領域コンタクトホール91と第3ウェル領域コンタクトホール92に関しては、完全には開口しない状態とし、次の工程にてシリサイドが形成されないようにする。
 
【0063】
  もちろん、シリサイドが形成された場合でも、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32とのオーミック接続が形成されない程度のアクセプタ濃度に設計されている場合は、この限りでない。この場合、マスク枚数を一枚削減することができる。
 
【0064】
  次に、スパッタ法等によりNiを主成分とする金属膜を形成後、600から1100℃の温度の熱処理を行ない、Niを主成分とする金属膜と第1ウェル領域コンタクトホール90内の炭化珪素層とを反応させて、炭化珪素層と金属膜との間にシリサイドを形成する。つづいて、反応してできたシリサイド以外の残留した金属膜をウェットエッチングにより除去する。これにより、残ったシリサイドがオーミック電極70となる。なお、第2ウェル領域コンタクトホール91と第3ウェル領域コンタクトホール92は、それぞれ完全には開口されていないため、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32にはシリサイドは形成されない。
 
【0065】
  つづいて、半導体基板10の裏面である第2主面に、Niを主成分とする金属膜を形成し、熱処理することにより、裏面オーミック電極(図示せず)を形成する。
 
【0066】
  次に、フォトレジスト等によるパターニングを用いて、離間領域21上の層間絶縁膜55、ゲート絶縁膜50、およびゲートコンタクトホール95となる位置の層間絶縁膜55を除去する。また、同時に第2ウェル領域コンタクトホール91と第3ウェル領域コンタクトホール92の下部に残存している層間絶縁膜55を除去する。除去する方法としては、ショットキ界面となる炭化珪素層の表面にダメージを与えないウェットエッチングとする。
 
【0067】
  つづいて、スパッタ法等により、ショットキ電極となる金属膜を堆積し、フォトレジスト等によるパターニングを用いて、第1ウェル領域コンタクトホール90内の離間領域21上にショットキ電極71を形成する。
 
【0068】
  同時に、第2ウェル領域コンタクトホール91と第3ウェル領域コンタクトホール92においても、金属膜の堆積によりショットキ性の非オーミックコンタクト(第1非オーミックコンタクト領域76、第2非オーミックコンタクト領域77)が形成される。
 
【0069】
  次に、半導体基板10の表面側に、スパッタ法または蒸着法によりAl等の配線金属を形成し、フォトリソグラフィ技術により所定の形状に加工することで、ソース電極80、ゲートパッド81、およびゲート配線82を形成する。ソース電極80は、オーミック電極70、ショットキ電極71、第1非オーミックコンタクト領域76、および第2非オーミックコンタクト領域77に接触し、ゲートパッド81はゲート電極60に接触する。
 
【0070】
  最後に、半導体基板10の裏面に形成された裏面オーミック電極(図示せず)の表面上に、金属膜であるドレイン電極84を形成すれば、
図1から
図3に示したSiC−MOSFET101が完成する。
 
【0071】
  <A−3.動作>
  次に、SiC−MOSFET101の動作について説明する。以下、半導体材料が4H型の炭化珪素であるSiC−MOSFETを例に説明する。この場合、pn接合の拡散電位はおおよそ2Vである。
 
【0072】
  以下、主に還流動作について説明する。還流動作では、ソース電圧に対してドレイン電圧が低くなる。ここで、ソース電圧はソース電極80の電圧であり、ドレイン電圧はドレイン電極84の電圧である。ドレイン電圧は、−数Vから−数10Vである。活性領域においては、離間領域21とショットキ電極71によりSBDが形成されており、このSBDは第1ウェル領域30より低電圧でオンする。そのため、原則として還流電流はSBDに流れ、第1ウェル領域30には流れない。終端領域においては、第2ウェル領域31と第3ウェル領域32がソース電極80にオーミック接続される場合、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32とドリフト層20との間に形成されるpn接合に、ソース−ドレイン間の電位差の多くが印加される。第2ウェル領域31とドリフト層20とで形成されるpnダイオードに順方向電流が流れることで、多くのバイポーラ電流が流れることになる。しかしながら、SiC−MOSFET101では、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32がソース電極80とオーミック接続していない。そのため、原則的には、還流動作時に印加される負のドレイン電圧がある程度の値までは、還流動作時に第2ウェル領域31および第3ウェル領域32にはバイポーラ電流が流れない。
 
【0073】
  一方で、例えば高耐圧品などにおいて耐圧保持のためにドリフト層20の膜厚が極端に厚くなった場合には、還流動作時に第2ウェル領域31と第3ウェル領域32に印加される電圧が大きくなる。これは、活性領域における最大電流密度(J
ucmax)が、主に内蔵SBDの立ち上がり電圧と離間領域21の抵抗とによって決まり、ドリフト層20の抵抗には依存しないことに起因する。
 
【0074】
  活性領域に内蔵されたショットキ電極71が構成するSBDの離間領域21に相当する部分の面積当たりの合成抵抗をR
SBD(Ωcm
2)、SBDの立ち上がり電圧をV
SBD、第1ウェル領域30とドリフト層20からなるpnダイオードの立ち上がり電圧をV
pnとする。この場合、pnダイオードが立ち上がり、バイポーラ電流が流れ始めるまでに活性領域で流せる最大電流密度J
ucmaxは近似的に以下の式で表される。
 
【0076】
  一方で、この時にドレイン−ソース間に印加される電圧V
dsは、ドリフト層20の面積当たりの抵抗をR
drift(Ωcm
2)とし、半導体基板10の面積当たりの抵抗を無視すると、下記のように表現される。
 
【0078】
  ここで、活性領域の電流密度がJ
ucmaxである場合にチップ発熱密度が一定値となるよう、チップ設計が行われると仮定する。還流動作時のチップ発熱密度E
diodeは下記の式で表される。
 
【0080】
  高耐圧品においてはドリフト層抵抗R
driftが相対的に大きくなり、かつJ
ucmax実現時の電圧も大きくなる。そのため、E
diodeに対するV
SBDとR
SBDの寄与を無視できると仮定すると、
【数6】
としてチップ設計が行われる。したがって、耐圧がk倍になるとドリフト層20の厚さがk倍、不純物濃度が1/kとなり、ドリフト層20の抵抗はk
2倍になる。このとき、J
ucmaxは1/k倍にすれば、E
diodeを一定に保つことができる。ゆえに、式(4)において還流動作時に印加されるV
dsは、V
SBDの項を無視するとk倍になる。そのため、第2ウェル領域31と第3ウェル領域32においてバイポーラ通電を抑制するために必要な非オーミック接続構造の設計制約、すなわち、前記非オーミック接続構造においてV
dsが−何Vまで通電を防止すればよいか、は耐圧に比例してk倍に増大する。このため、非オーミック接続構造は、後述するターンオフおよびターンオン時の動作のために一定電圧で低抵抗化する特徴と、還流動作時のバイポーラ通電抑制との両立が極めて困難となる。このような傾向は、具体的にはドリフト層20の不純物濃度が5×10
15cm
−3以下で耐圧が3kV以上の高耐圧品の場合において、特に顕著となる。
 
【0081】
  SiC−MOSFET101の特徴は、チップ終端領域に離間領域24を有することである。離間領域24は、最外周の離間領域21が構成するSBD(以下、「最外周SBD」と称する)からみて、少なくともドリフト層20よりも近距離に設けられていることが望ましい。このとき、離間領域24の内側の第2ウェル領域31に還流動作時に印加される電位差は、ソース-ドレイン間の電位差より小さくなる。これは、SBDから通電される電流による電圧降下が、最外周SBDからの距離に応じて大きくなるためである。具体的には、デバイスの深さ方向と外周方向の断面視で見たときに、還流電流による電圧降下による等電位線は、最外周SBDを起点として円弧上に分布する。したがって、この円弧の可能な限り内側に離間領域24を形成することによって、第2ウェル領域31に還流動作時に印加される電位差を、ソース-ドレイン間の電位差よりも小さくすることができる。離間領域24を最外周SBDに近づければ近づけるほど、第2ウェル領域31に印加される電位差をより小さく抑えることができる。
 
【0082】
  次に、離間領域24と最外周SBDとの位置に応じて、第2ウェル領域31に印加される電位差がどの程度低下するかについて具体的に説明する。
図4は、ドリフト層20を模擬した抵抗体15を示している。抵抗体15の表面の一部には電極1が形成され、裏面には電極2が形成されている。抵抗体15の厚さは、電極1,2の長さに対して十分小さい。例えば、電極1の長さを300、電極2の長さを600とすると、抵抗体15の厚さは30である。この抵抗体15は、SiC−MOSFET101に対して、ドリフト層20における還流電流の通電により最外周SBDの外側に生じる電流分布および電位分布に関してよ
い近似となる。
図4の抵抗体15について、T−CADシミュレーションを用いて電流分布、電位分布を求めた。
 
【0083】
  図5は、電極1を接地し、電極2に−20Vを印加することにより、両電極間の電位差を20Vとした場合の、抵抗体15における電位分布を示している。なお、電極1,2は、SiC−MOSFET101におけるソース電極80とドレイン電極84に相当する。
図5に示すように、SiC−MOSFET101の最外周SBDに相当する電極1の端部点Cから終端方向点C´に向けて、等電位線が円弧上に分布している。また、C−C´線上では、点Cからの距離に応じて電圧降下が生じている。
 
【0084】
  図6は、C−C´線上の電位分布を示している。
図6の横軸は、抵抗体15の厚さで規格化した点Cからの距離を示している。
図6より、抵抗体15の表面において、電極1の端部点Cからの電圧降下が、電極1,2間の電位差よりも10%以上小さくなるのは、電極1の端部点Cからの距離が抵抗体15の厚さの1.15倍以下のときである。同様に、抵抗体15の表面において、電極1の端部点Cからの電圧降下が電極1,2間の電位差よりも30%以上または50%以上小さくなるのは、それぞれ電極1の端部点Cからの距離が抵抗体15の厚さの0.47倍以下または0.20倍以下となるときである。
 
【0085】
  この結果より、SiC−MOSFET101において、離間領域24と最外周SBDとの距離をドリフト層20の厚さの1.15倍以内とすれば、第2ウェル領域31に印加される電位差を、ソース電極80とドレイン電極84の間の電位差に対して10%以上低減することができ、一定の効果が得られる。同様に、離間領域24と最外周SBDとの距離をドリフト層20の厚さの0.47倍以内とすれば、第2ウェル領域31に印加される電位差を、ソース電極80とドレイン電極84の間の電位差に対して30%以上低減することができ、より一層の効果が得られる。さらに、離間領域24と最外周SBDとの距離をドリフト層20の厚さの0.20倍以内とすれば、第2ウェル領域31に印加される電位差を、ソース電極80とドレイン電極84の間の電位差に対して50%以上低減することができ、各段の効果が得られる。
 
【0086】
  次に、SiC−MOSFET101のその他の定常状態として、オン状態とオフ状態について述べる。一般的なFETと同様、ゲート電極60に閾値電圧を超える正の電圧が印加されると、ゲート電極60と対抗する第1ウェル領域30の表面の電位が上昇する。これにより、炭化珪素半導体表面の伝導帯がフェルミ準位に近づく。この時、ソース領域40から電子が供給されることで、第1ウェル領域30の表面に反転層が形成される。この反転層がソース領域40とドリフト層20を低抵抗で接続するため、ソース電極80とドレイン電極84との電気抵抗が低抵抗となり、オン状態となる。
 
【0087】
  また、ゲート電極60に閾値以下の電圧を印加すると、第1ウェル領域30の表面に反転層が形成されないため、ソース電極80とドレイン電極84の間が高抵抗となる。さらに、ドレイン電極84に印加されたオフ電圧により、第1ウェル領域30、第2ウェル領域31、および第3ウェル領域32とドリフト層20とからなるpn接合に逆バイアスが印加され、主に不純物濃度の低いドリフト層20側に空乏層が広がる。これにより、ソース電極80とドレイン電極84の間が高耐圧を保持できる高抵抗状態となり、オフ状態となる。
 
【0088】
  次に、ターンオフ動作について説明する。ターンオフ動作中は、ドレイン電極84の電位が急激に増大する。そして、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32とドリフト層20との間に形成されるpn接合に逆バイアスが印加され、pn接合面から第2ウェル領域31および第3ウェル領域32とドリフト層20との両側に空乏層が広がる。この時、この空乏層の広がりによって第2ウェル領域31、第3ウェル領域32内の空乏化していない領域の正孔密度が増大する。これにより、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32から第1非オーミックコンタクト領域76および第2非オーミックコンタクト領域77を介してソース電極80に向かう変位電流が発生する。第1非オーミックコンタクト領域76および第2非オーミックコンタクト領域77はソース電極80と非オーミック接続されており、具体的には絶縁され、またはショットキ接続されている。
 
【0089】
  第1非オーミックコンタクト領域76において、ソース電極80が第2ウェル領域31とショットキ接続され、第2非オーミックコンタクト領域77において、ソース電極80が第3ウェル領域32とショットキ接続されている場合は、第2ウェル領域31または第3ウェル領域32からソース電極80にむけて順方向電流が流れる。そのため、第2ウェル領域31または第3ウェル領域32上の絶縁膜が破壊するような高電圧は発生しない。
 
【0090】
  第1非オーミックコンタクト領域76または第2非オーミックコンタクト領域77において、例えば薄い絶縁膜によってソース電極80が第2ウェル領域31または第3ウェル領域32と絶縁されている場合でも、絶縁膜の膜厚が薄ければ、ソース−ドレイン電圧が一定値以上となったときに当該絶縁膜が破壊されるため、第2ウェル領域31または第3ウェル領域32上の絶縁膜を破壊するような高電圧は発生しない。
 
【0091】
  この時、ソース電極80と第2ウェル領域31または第3ウェル領域32とが、第1非オーミックコンタクト領域76または第2非オーミックコンタクト領域77において空間的に密接に隣接している。そのため、接触部分の寄生容量が非常に大きくなり、大きな寄生容量を介して第2ウェル領域31または第3ウェル領域32からソース電極80へ小さな電圧降下で変位電流を流すことが出来る。
 
【0092】
  なお、離間領域23と離間領域24が、一定電圧で降伏するpnpスリットを構成する場合には、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32上の絶縁膜を破壊するような高電圧が抑制される。例えば、式(2)で示されるパンチスルー電圧Vを50V以下に設計すれば、第2ウェル領域31における発生電圧を50V以下、第3ウェル領域32における発生電圧を100V以下に抑制することができる。
 
【0093】
  つづいて、ターンオン特性について説明する。ターンオン動作時にはドレイン電圧が急速に低下する。この時、オフ状態のときにドリフト層20と第2ウェル領域31および第3ウェル領域32との間に形成されている空乏層が、急速に縮小する。そのため、ソース電極80から第2ウェル領域31および第3ウェル領域32との間に形成されている空乏層が急速に縮小する。そのため、ソース電極80から、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32へ変位電流が流れ込む。
 
【0094】
  ソース電極80が第1非オーミックコンタクト領域76において第2ウェル領域31とショットキ接続され、第2非オーミックコンタクト領域77において第3ウェル領域32とショットキ接続されている場合には、ターンオン動作時に流れる電流が第2ウェル領域31または第3ウェル領域32とソース電極80との間に形成されるSBDの順方向とは逆向きになる。しかし、SBDが一定の逆方向電圧で降伏するように設計することで、第2ウェル領域31または第3ウェル領域32に発生する電圧を、その上部の絶縁膜を破壊するような電圧以下に抑制することができる。
 
【0095】
  ソース電極80と第2ウェル領域31または第3ウェル領域32との間が絶縁されている場合も同様で、一定値以下の電圧で絶縁破壊が発生し、ソース電極80と第2ウェル領域31または第3ウェル領域32とが通電するように設計することで、第2ウェル領域31または第3ウェル領域32に発生する電圧を、その上部の絶縁膜を破壊するような電圧以下に抑制することができる。
 
【0096】
  ソース電極80と第2ウェル領域31または第3ウェル領域32とが、第1非オーミックコンタクト領域76または第2非オーミックコンタクト領域77において空間的に密接に隣接している。そのため、接触部分の寄生容量が非常に大きくなり、大きな寄生容量を介した過渡電流の通電により、第2ウェル領域31または第3ウェル領域32からソース電極80へ小さな電圧降下で変位電流を流すことが出来る。第2ウェル領域31または第3ウェル領域32に発生する電圧を、その上部の絶縁膜を破壊するような電圧以下に十分に抑制することができる。
 
【0097】
  なお、ターンオフ時と同様に、離間領域23と離間領域24が、一定電圧で降伏するpnpスリットを構成する場合には、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32上の絶縁膜を破壊するような高電圧が抑制される。例えば、式(2)で示されるパンチスルー電圧Vを50V以下に設計すれば、第2ウェル領域31における発生電圧を50V以下、第3ウェル領域32における発生電圧を100V以下に抑制することができる。
 
【0098】
  <A−4.変形例>
  
図7は、実施の形態1の変形例のSiC−MOSFET101Aの、
図1のa−a´線に沿った断面図である。SiC−MOSFET101Aは、第2ウェル領域31を厚み方向に貫通する離間領域25を備えている。離間領域25は、ドリフト層20と同じn型の炭化珪素で構成される。離間領域25のn型不純物濃度は、ドリフト層20のn型不純物濃度と同じでもよいし、ドリフト層20のn型不純物濃度より高くても低くてもよい。離間領域25を第4離間領域とも称する。
 
【0099】
  離間領域25の上面には、離間領域25とショットキ接続する外周ショットキ電極75が形成されている。離間領域25は、外周ショットキ電極75を介してソース電極80とコンタクトを取る。これにより、SiC−MOSFET101Aでは外周領域にSBDが形成される。このような構成によれば、外周領域の還流動作時における電圧降下を抑制することができるため、第2ウェル領域31、第3ウェル領域32、および第2ウェル領域31に隣接する第1ウェル領域30からのバイポーラ通電をさらに抑制することができる。
 
【0100】
  <B.実施の形態2>
  <B−1.構成>
  
図8は、実施の形態2の炭化珪素半導体装置であるSBDを内蔵したSiC−MOSFET102の、
図1のa−a´線に沿った断面図である。SiC−MOSFET102は、第2ウェル領域31と第3ウェル領域32の上に導電性層47を有する点で、実施の形態1のSiC−MOSFET101と異なる。導電性層47は、第2ウェル領域31とはオーミック接続されず、ソース電極80とは第2ウェル領域コンタクトホール91および第3ウェル領域コンタクトホール92を介してオーミック接続される。
 
【0101】
  ソース電極80は、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32とオーミック接続されていない。しかし、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32は導電性層47と接触しており、導電性層47はソース電極80とオーミック接続されている。従って、導電性層47と第2ウェル領域31および第3ウェル領域32とは、主に空乏層容量からなる高い接続容量を介して接続されている。
 
【0102】
  SiC−MOSFET102では、導電性層47と第2ウェル領域31および第3ウェル領域32との間の高い接続容量により、ターンオンおよびターンオフ動作時に、第2ウェル領域31と第3ウェル領域32から生じる変位電流を低い発生電圧で導電性層47とやり取りすることできる。導電性層47のシート抵抗を低くすることにより、第2ウェル領域31または第3ウェル領域32からソース電極80までの電流経路における発生電圧を低く抑える事が可能となる。結果として、SiC−MOSFET102によれば、離間領域24の導入による還流動作維持の高いバイポーラ通電抑制能力を保ちつつ、スイッチング時の変位電流による第2ウェル領域31、第3ウェル領域32および導電性層47上の絶縁膜の破壊を防ぎ、信頼性を格段に向上させることが出来る。
 
【0103】
  図8では、導電性層47が第2ウェル領域31と第3ウェル領域32の上に形成されているが、いずれか一方の上にのみ形成されていてもよい。その場合、導電性層47が形成されない側のウェル領域とソース電極80とのコンタクトは、実施の形態1に示した第1非オーミックコンタクト領域76または第2非オーミックコンタクト領域77と同様の形態で形成されることが望ましい。
 
【0104】
  <B−2.製造方法>
  SiC−MOSFET102は、基本的には実施の形態1のSiC−MOSFET102と同様のプロセスで作成可能である。導電性層47が高濃度ドープしたポリシリコンである場合、フィールド絶縁膜51の形成前に、チップ外周領域にポリシリコンを形成しパターニングする工程を追加するだけでよい。なお、導電性層はAl,Ti,Niなどの金属であってもよいし、グラファイトなどの半金属であってもよい。
 
【0105】
  <B−3.変形例>
  
図9は、実施の形態2の変形例のSiC−MOSFET102Aの、
図1のa−a´線に沿った断面図である。SiC−MOSFET102Aは、導電性層47と第2ウェル領域31および第3ウェル領域32との間に薄い絶縁膜56を備えており、それ以外の点でSiC−MOSFET102と同様である。
 
【0106】
  SiC−MOSFET102では、導電性層47が第2ウェル領域31および第3ウェル領域32上に接触していた。しかし、導電性層47と第2ウェル領域31および第3ウェル領域32との間に大きな容量成分があれば、実施の形態2の効果を得られる。そのため、SiC−MOSFET102Aのように、導電性層47と第2ウェル領域31および第3ウェル領域32との間に絶縁膜56があってもよい。
 
【0107】
  導電性層47は、ゲート配線と同じ工程で形成することができるため、マスク枚数を削減することができる。
 
【0108】
  <C.実施の形態3>
  <C−1.構成>
  
図10は、実施の形態3の炭化珪素半導体装置であるSBDを内蔵したSiC−MOSFET103の、
図1のa−a´線に沿った断面図である。SiC−MOSFET103は、実施の形態2のSiC−MOSFET102において導電性層47を第1導電型の炭化珪素導電性層42で置き換えたものである。炭化珪素導電性層42は、第2ウェル領域31と第3ウェル領域32の表層に形成される。
 
【0109】
  炭化珪素導電性層42の不純物濃度は、ドリフト層20の不純物濃度よりも高く、例えば1×10
18から1×10
20cm
−3程度である。炭化珪素導電性層42は高濃度の第1導電型の半導体であるため、第2ウェル領域コンタクトホール91および第3ウェル領域コンタクトホール92を介してソース電極80とオーミック接続される。
 
【0110】
  <C−2.動作>
  炭化珪素導電性層42は、導電性層47と同様の機能を示す。まず、炭化珪素導電性層42は第2ウェル領域31および第3ウェル領域32とpnダイオードを形成する。そのため、還流動作時において、炭化珪素導電性層42から第2ウェル領域31および第3ウェル領域32への電流はダイオードの逆方向通電となるため、ほとんど流れない。そのため、還流動作時の外周領域のバイポーラ通電を大幅に抑制することが可能となる。
 
【0111】
  さらに、離間領域24の存在により、ドレイン電極84に大きな負電圧が印加されても、第2ウェル領域31に印加される負電圧が小さく抑えられる。そのため、実施の形態1,2と同様に、より大きな負のドレイン電圧の印加に対してもバイポーラ通電の抑制を実現できる。
 
【0112】
  ターンオフ状態では、ドレイン電圧の急激な上昇に伴う変位電流が、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32と炭化珪素導電性層42からなるpnダイオードの順方向電流として、低い発生電圧でソース電極80へと流れる。そのため、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32上の絶縁膜を破壊するような大きな電圧は発生しない。これにより信頼性の高い炭化珪素半導体装置を実現できる。
 
【0113】
  ターンオン状態においては、ドレイン電圧の急激な低下に伴う変位電流が、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32と炭化珪素導電性層42からなるpnダイオードの逆方向電流として流れる。しかしながら、pnダイオードはドリフト層20の表面付近に形成され、不純物濃度の高い、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32と炭化珪素導電性層42とからなる。したがって、逆バイアス印加時のpnダイオードの空乏層容量は非常に大きい。そのため空乏層容量を介して変位電流を通電することができる。これにより、第2ウェル領域31および第3ウェル領域32中には絶縁膜を破壊するような高電圧が発生しない。そのため信頼性の高い炭化珪素半導体装置を実現できる。
 
【0114】
  <C−3.製造方法>
  実施の形態1のSiC−MOSFET101の製造工程において、ソース領域40およびコンタクト領域35をイオン注入により作成する工程の後に、または同時に窒素またはリンなどのイオンを注入することによって、炭化珪素導電性層42を作成してもよい。あるいは、炭化珪素導電性層42は、CVD法によるエピタキシャル成長で第2ウェル領域31、第3ウェル領域32上に形成されてもよい。
 
【0115】
  図10では、炭化珪素導電性層42が第2ウェル領域31と第3ウェル領域32の内部に形成されているが、いずれか一方の内部にのみ形成されていてもよい。例えば、還流動作時により大きな電圧が印加される第3ウェル領域32の内部にのみ、炭化珪素導電性層42が形成されていてもよい。これにより、還流動作時に、より高い電圧までバイポーラ通電を抑制できる。また、第2ウェル領域31と第3ウェル領域32中の炭化珪素導電性層42の不純物濃度は必ずしも等しい必要はなく、違っていてもよい。
 
【0116】
  <D.実施の形態4>
  <D−1.構成>
  
図11は、実施の形態4の炭化珪素半導体装置であるSBDを内蔵したSiC−MOSFET104の、
図1のa−a´線に沿った断面図である。SiC−MOSFET104は、実施の形態2のSiC−MOSFET102において、第2ウェル領域31を厚み方向に貫通する離間領域25を備えたものである。離間領域25は、ドリフト層20と同じn型の炭化珪素で構成される。離間領域25のn型不純物濃度は、ドリフト層20のn型不純物濃度と同じでもよいし、ドリフト層20のn型不純物濃度より高くても低くてもよい。
 
【0117】
  離間領域25の上面には、導電性層47が形成されている。ソース電極80とオーミック接続された導電性層47は、離間領域25とショットキ接続される。これにより、第2ウェル領域31中にもSBDが形成されることになる。
 
【0118】
  第2ウェル領域31中にSBDが形成されることにより、還流動作時の外周領域における電圧降下が抑制される。そのため、離間領域24が最外周SBDから遠くに設置される場合でも、離間領域24に印加される電圧を高く保つことが可能となる。これにより、第2ウェル領域31、導電性層47および第1ウェル領域30と、離間領域23を含むpnpスリットとに印加される電位差を低減することで、降伏動作を抑制でき、還流動作時におけるバイポーラ通電をさらに抑制することが可能となる。SiC−MOSFET104のターンオンおよびターンオフ動作については、実施の形態2のSiC−MOSFET102と同様である。また、SiC−MOSFET104の作成方法もSiC−MOSFET102とほぼ同じである。
 
【0119】
  <D−2.変形例>
  
図12は、実施の形態4の第1変形例の炭化珪素半導体装置であるSBDを内蔵したSiC−MOSFET104Aの、
図1のa−a´線に沿った断面図である。SiC−MOSFET104Aは、SiC−MOSFET104の構成において、離間領域25に代えて離間領域26を設けたものである。離間領域26は、第3ウェル領域32を厚み方向に貫通する。離間領域26は、ドリフト層20と同じn型の炭化珪素で構成される。離間領域26のn型不純物濃度は、ドリフト層20のn型不純物濃度と同じでもよいし、ドリフト層20のn型不純物濃度より高くても低くてもよい。導電性層47と離間領域26により、SBDが形成される。これにより、離間領域24および第2ウェル領域31の周囲の電位の低下を低減することが可能となる。これにより、還流動作時にドレインに大きな負電圧が印加された際でも、第2ウェル領域31と第1ウェル領域30との間の印加電圧、および第2ウェル領域31と導電性層47との間の印加電圧が低減され、バイポーラ通電の抑制を実現する。
 
【0120】
  図13は、実施の形態4の第2変形例の炭化珪素半導体装置であるSBDを内蔵したSiC−MOSFET104Bの、
図1のa−a´線に沿った断面図である。SiC−MOSFET104Bは、実施の形態2のSiC−MOSFET102において、導電性層47が離間領域24を跨いで形成された構成である。これにより、離間領域24と導電性層47とからなるSBDが形成される。従って、還流動作時における第2ウェル領域31の電位降下を低減することが出来る。還流動作時に、大きな負電圧がドレインに印加された場合に、第2ウェル領域31と第1ウェル領域30のパンチスルーによる通電を抑制できることから、バイポーラ通電をさらに抑制できる。これにより信頼性を高める事ができる。
 
【0121】
  上記の各実施の形態では、活性領域に離間領域21があり、離間領域21がその上部に形成されたショットキ電極71を介してソース電極80と接続された、内蔵SBDを有するSiC−MOSFETについて説明した。しかし、必ずしもSiC−MOSFETはSBDを内蔵している必要はなく、MOSFETに逆方向電圧が印加されたときに、ユニポーラ型の動作をするダイオード、すなわちユニポーラ型ダイオードが内蔵されていれば良い。例えば特許文献4のような、逆導通ダイオード構造を内蔵したSiC−MOSFETも、素子の外周領域において、内蔵SBDを有するSiC−MOSFETと同様の課題があり、上記の各実施の形態の構成が適用可能であり、各実施の形態の効果を享受できる。
 
【0122】
  具体的には、
図14に示す通りである。
図14は、実施の形態4の第3変形例の炭化珪素半導体装置である逆導通ダイオード構造を内蔵したSiC−MOSFET104Cの、
図1のa−a´線に沿った断面図である。SiC−MOSFET104Cは、実施の形態1のSiC−MOSFET101において、活性領域にSBDを設けず、第1導電型のチャネルエピ層27を設けたものである。チャネルエピ層27は、ソース領域40が形成されていない第1ウェル領域30の表面上に形成され、ソース領域40より第1導電型の不純物濃度が低い。ソース電極80はチャネルエピ層27に接続する。すなわち、SiC−MOSFET104Cは、活性領域において逆導通するユニポーラ型のダイオードを内蔵している。この構造により、逆方向動作時にはチャネル部分からユニポーラ電流が通電されるため、第1ウェル領域30からのバイポーラ電流を抑制することができる。このような活性領域を有する半導体装置に各実施の形態の構成を適用しても、各実施の形態の効果を享受できる。
 
【0123】
  SiC−MOSFET104Cにおいて、最外周の第1ウェル領域30の表面上に形成されたチャネルエピ層27から第3離間領域である離間領域24までの距離が、ドリフト層20の膜厚の1.15倍より短ければ、第2ウェル領域31に印加される電位差を、ソース電極80とドレイン電極84の間の電位差に対して10%以上低減することができる。
 
【0124】
  また、上記の各実施の形態で説明したSiC−MOSFETは、活性領域においてプレーナ型のMOSFETを有していた。しかし、各実施の形態が効果を有する範囲はプレーナ型のMOSFETに限定されない。例えば、ゲート構造の炭化珪素基板表面を彫り込んで形成されるトレンチ型のMOSFETに対しても、各実施の形態の構成が適用可能であり、各実施の形態の効果を享受できる。
 
【0125】
  また、上記の各実施の形態で説明したSiC−MOSFETにおいて外周構造が平坦であったが、例えばトレンチ型MOSFETのトレンチ形成工程を用いて、外周構造が深さ方向に彫り込まれていても良い。
 
【0126】
  <E.実施の形態5>
  本実施の形態は、上述した実施の形態1−4の炭化珪素半導体装置を電力変換装置に適用したものである。本発明は特定の電力変換装置に限定されるものではないが、以下、実施の形態5として、三相のインバータに実施の形態1−4の炭化珪素半導体装置を適用した場合について説明する。
 
【0127】
  図15は、本実施の形態にかかる電力変換装置を適用した電力変換システムの構成を示すブロック図である。
 
【0128】
  図15に示す電力変換システムは、電源100、電力変換装置200、および負荷300を備えて構成される。電源100は、直流電源であり、電力変換装置200に直流電力を供給する。電源100は種々のもので構成することが可能である。電源100は、例えば、直流系統、太陽電池、または蓄電池で構成することができるし、交流系統に接続された整流回路またはAC/DCコンバータで構成することができる。また、電源100を、直流系統から出力される直流電力を所定の電力に変換するDC/DCコンバータによって構成することとしてもよい。
 
【0129】
  電力変換装置200は、電源100と負荷300の間に接続された三相のインバータである。電力変換装置200は、電源100から供給された直流電力を交流電力に変換し、負荷300に交流電力を供給する。電力変換装置200は、
図15に示すように、主変換回路201、駆動回路202、および制御回路203を備えている。主変換回路201は、直流電力を交流電力に変換して出力する。駆動回路202は、主変換回路201の各スイッチング素子を駆動する駆動信号を出力する。制御回路203は、駆動回路202を制御する制御信号を駆動回路202に出力する。
 
【0130】
  駆動回路202は、ノーマリオフ型の各スイッチング素子を、ゲート電極の電圧とソース電極の電圧とを同電位にすることによってオフ制御している。
 
【0131】
  負荷300は、電力変換装置200から供給された交流電力によって駆動される三相の電動機である。なお、負荷300は特定の用途に限られるものではなく、各種電気機器に搭載された電動機であり、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、鉄道車両、エレベーター、または空調機器向けの電動機として用いられる。
 
【0132】
  以下、電力変換装置200の詳細を説明する。主変換回路201は、スイッチング素子と還流ダイオードを備えており(図示せず)、スイッチング素子がスイッチングすることによって、電源100から供給される直流電力を交流電力に変換し、負荷300に供給する。主変換回路201の具体的な回路構成は種々のものがあるが、本実施の形態にかかる主変換回路201は2レベルの三相フルブリッジ回路であり、6つのスイッチング素子とそれぞれのスイッチング素子に逆並列された6つの還流ダイオードから構成することができる。主変換回路201の各スイッチング素子には、上述した実施の形態1−4のいずれかにかかる炭化珪素半導体装置が適用される。6つのスイッチング素子は2つのスイッチング素子ごとに直列接続され上下アームを構成し、各上下アームはフルブリッジ回路の各相(U相、V相、W相)を構成する。そして、各上下アームの出力端子、すなわち主変換回路201の3つの出力端子は、負荷300に接続される。
 
【0133】
  駆動回路202は、主変換回路201のスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成し、主変換回路201のスイッチング素子の制御電極に供給する。具体的には、後述する制御回路203からの制御信号に従い、スイッチング素子をオン状態にする駆動信号とスイッチング素子をオフ状態にする駆動信号とを各スイッチング素子の制御電極に出力する。スイッチング素子をオン状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以上の電圧信号(オン信号)であり、スイッチング素子をオフ状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以下の電圧信号(オフ信号)となる。
 
【0134】
  制御回路203は、負荷300に所望の電力が供給されるよう主変換回路201のスイッチング素子を制御する。具体的には、負荷300に供給すべき電力に基づいて主変換回路201の各スイッチング素子がオン状態となるべき時間(オン時間)を算出する。例えば、出力すべき電圧に応じてスイッチング素子のオン時間を変調するPWM制御によって主変換回路201を制御することができる。そして、各時点においてオン状態となるべきスイッチング素子にはオン信号を、オフ状態となるべきスイッチング素子にはオフ信号が出力されるよう、駆動回路202に制御指令(制御信号)を出力する。駆動回路202は、この制御信号に従い、各スイッチング素子の制御電極にオン信号またはオフ信号を駆動信号として出力する。
 
【0135】
  本実施の形態に係る電力変換装置では、主変換回路201のスイッチング素子として各実施の形態1−4の炭化珪素半導体装置を適用するため、低損失、かつ、高速スイッチングの信頼性を高めた電力変換装置を実現することができる。
 
【0136】
  本実施の形態では、2レベルの三相インバータに実施の形態1−4の炭化珪素半導体装置を適用する例を説明した.しかし、実施の形態1−4の炭化珪素半導体装置は、これに限らず種々の電力変換装置に適用することができる。本実施の形態では、2レベルの電力変換装置としたが3レベルまたはマルチレベルの電力変換装置であっても構わないし、単相負荷に電力を供給する場合には単相のインバータに実施の形態1−4の炭化珪素半導体装置を適用しても構わない。また、直流負荷等に電力を供給する場合にはDC/DCコンバータまたはAC/DCコンバータに実施の形態1−4の炭化珪素半導体装置を適用することも可能である。
 
【0137】
  また、実施の形態1−4の炭化珪素半導体装置を適用した電力変換装置は、上述した負荷が電動機の場合に限定されるものではなく、例えば、放電加工機、レーザー加工機、もしくは誘導加熱調理器または非接触器給電システムの電源装置として用いることもでき、さらには太陽光発電システムまたは蓄電システム等のパワーコンディショナーとして用いることも可能である。
 
【0138】
  なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての態様において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。