特許第6976492号(P6976492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6976492
(24)【登録日】2021年11月11日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】磁束変調型磁気ギア
(51)【国際特許分類】
   F16H 49/00 20060101AFI20211125BHJP
【FI】
   F16H49/00
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2021-530857(P2021-530857)
(86)(22)【出願日】2021年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2021009984
【審査請求日】2021年5月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】特許業務法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 広大
(72)【発明者】
【氏名】北尾 純士
【審査官】 鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/137392(WO,A1)
【文献】 特開2013−044361(JP,A)
【文献】 特表2017−507639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極を有する少極機構と、
前記少極機構よりも多くの磁極を有する多極機構と、
前記少極機構と前記多極機構の間に設けられたポールピースと、
を備えた磁束変調型磁気ギアであって、
前記多極機構の磁極には、永久磁石と界磁コイルとが設けられており、
前記界磁コイルには、直流電源がオンオフ可能に接続されていることを特徴とする磁束変調型磁気ギア。
【請求項2】
前記少極機構と前記多極機構と前記ポールピースとは、同芯となる回転中心を有し、
前記少極機構と前記多極機構と前記ポールピースとのうちのいずれか一つが入力軸に接続され、他の一つが出力軸に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項3】
前記少極機構の磁極に設けられた永久磁石の磁化方向の厚さは、前記多極機構に設けられた永久磁石の磁化方向の厚さよりも厚いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項4】
前記多極機構は、回転固定された固定子であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項5】
前記多極機構は、磁気ギャップ面に向かって突き出したティース部を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項6】
前記永久磁石は、前記多極機構に設けられたティース部の先端に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項7】
前記永久磁石は、前記多極機構に設けられたティース部に埋め込まれていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項8】
前記多極機構に設けられたティース部には、前記永久磁石と前記界磁コイルとが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項9】
前記多極機構には、前記永久磁石が配置されたティース部と、前記界磁コイルが巻装されたティース部とが設けられており、
前記永久磁石が設けられた前記ティース部の磁化方向は磁気ギャップ面に向けて同方向であり、
前記界磁コイルが設けられた前記ティース部の磁化方向は磁気ギャップ面に向けて前記永久磁石が設けられた前記ティース部の磁化方向とは逆方向であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項10】
前記多極機構には、前記永久磁石が配置されたティース部と、前記界磁コイルが巻装されたティース部とが設けられており、
前記永久磁石が設けられた前記ティース部の磁化方向は磁気ギャップ面に向けて前記ティース部ごとに反転しており、
前記界磁コイルが設けられた前記ティース部は、各磁極の起磁力が同じとなる方向と強度で磁化されていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項11】
前記永久磁石は、隣り合うティース部の間に周方向に磁化されて配置されていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項12】
前記永久磁石は、前記界磁コイルへの通電により発生磁束量が調整可能な可変磁石材料で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項13】
前記少極機構は内径側に、前記多極機構は外径側に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【請求項14】
前記少極機構と前記ポールピースとの間、および前記ポールピースと前記多極機構との間には、軸方向にそれぞれ磁気ギャップが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の磁束変調型磁気ギア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、磁束変調型磁気ギアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な磁気ギアは、機械式ギアの歯を単純に永久磁石に置き換えた構成となっている。そのため、磁気ギアは非接触で増減速が可能であり、振動および騒音が小さく、保守性の向上が期待される。しかしながら、永久磁石によるトルクの伝達では、トルク伝達に寄与するのは互いに対向した磁石同士のみとなるため、機械式ギアと比較してトルクが小さい。これに対して、トルクを大きくするために、隣接する永久磁石の極性が交互逆向きとなるよう配置した多極機構と少極機構、および多極機構と少極機構が向かい合う磁気ギャップ間に、ポールピースと呼ばれる周方向に等間隔に配置された複数の磁極片を構成することで、構造内においてトルクの伝達に寄与する磁束量を増加させた磁束変調型磁気ギアが採用されている。
【0003】
磁束変調型磁気ギアは伝達トルクを向上できる一方で、磁気ギャップ部を介して構造内を通過する磁束量が大きいことに起因する渦電流損失およびヒステリシス損失が発生し、発熱および効率の悪化を招く。特に、磁気ギャップ部近傍に配置された永久磁石には、多くの磁束が通過し、かつ時間的な磁束変動が大きいことから、渦電流損失が発生しやすく効率が悪化する主要因となっている。そこで特許文献1では、磁石内部に発生する渦電流を低減し、効率よくトルクを伝達するために、少極機構および多極機構を構成する永久磁石を磁性材料の内部に埋め込むことで、磁気ギャップ部近傍の磁束変動から永久磁石を遠ざけ、かつ永久磁石を分割構造とすることで、効率悪化の主要因である渦電流損失を低減する構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2012/114368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、永久磁石を磁性材料に埋め込むと、磁気ギャップ部から永久磁石が遠ざかるため、トルク伝達に寄与する有効磁束量が低下する。また、永久磁石の分割により構造内部に空隙が生まれるため、磁束の絶対量が低下する傾向があるという課題があった。また、永久磁石を磁性材料に埋め込むと渦電流損失は低減されるものの、渦電流損失は磁束変動の周波数の2乗に比例するため、磁気歯車が高速回転となる場合に効率が悪化するという特性は、特許文献1においても変わらないという課題があった。
特に、磁束変調型磁気歯車を、多様な速度条件およびトルク条件における高効率特性が求められる車両の駆動システム内の磁束変調型磁気歯車として使用する場合には、10000r/min以上の高速回転となる条件も想定されるため、駆動システム全体の効率が低下する要因となり適用が困難であるという問題があった。
【0006】
本願は、上記のような課題を解決するためになされたものである。多様な速度条件およびトルク条件において、必要な伝達トルクを確保しながらも、損失の少ない駆動状態を実現し、効率の高い磁束変調型磁気ギアを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に係わる磁束変調型磁気ギアは、複数の磁極を有する少極機構と、前記少極機構よりも多くの磁極を有する多極機構と、前記少極機構と前記多極機構の間に設けられたポールピースと、を備えた磁束変調型磁気ギアであって、前記多極機構の磁極には、永久磁石と界磁コイルとが設けられており、前記界磁コイルには、直流電源がオンオフ可能に接続されたものである。

【発明の効果】
【0008】
本願によれば、磁束変調型磁気ギアの多極機構の磁極に、永久磁石と界磁コイルとを設けたので、必要な伝達トルクを確保しながらも、多様な速度条件およびトルク条件において、損失の少ない駆動状態を実現する高効率な磁束変調型磁気ギアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係わる磁束変調型磁気ギアを示す断面図である。
図2】実施の形態1に係わる磁束変調型磁気ギアの磁極構造を示す斜視図である。
図3】実施の形態1に係わる磁束変調型磁気ギアの磁極構造を示す断面図である。
図4】実施の形態1に係わる磁束変調型磁気ギアの磁極構造を示す断面拡大図である。
図5A】実施の形態1に係わる磁束変調型磁気ギアの回転速度とトルク特性を示す図である。
図5B】実施の形態1に係わる磁束変調型磁気ギアの回転速度とトルク特性を示す図である。
図6】実施の形態1に係わる磁束変調型磁気ギアの損失を示す図である。
図7】実施の形態2に係わる磁束変調型磁気ギアの磁極構造を示す断面拡大図である。
図8】実施の形態3に係わる磁束変調型磁気ギアの磁極構造を示す断面拡大図である。
図9】実施の形態3に係わる磁束変調型磁気ギアの磁極構造を示す断面拡大図である。
図10】実施の形態4に係わる磁束変調型磁気ギアの磁極構造を示す断面拡大図である。
図11】実施の形態4に係わる磁束変調型磁気ギアの磁極構造を示す断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1に実施の形態1に係わる磁束変調型磁気ギアの断面図を示す。入力軸1は少極機構10に接続固定され、出力軸2はポールピース20に接続固定されており、入力軸の回転力を所定のギア比で出力軸2に減速し、増トルク化して出力する。少極機構10とポールピース20はそれぞれ第一回転子11、第二回転子21に対応する。また多極機構30は外部に固定されたフレーム3に接続された固定子31を構成している。入力軸1に接続された少極機構10および出力軸に接続されたポールピース20は、ベアリング41、42、43、44を介して回転自在になるようにフレーム3内に収納されている。また、入力軸1、出力軸2、少極機構10およびポールピース20は、多極機構30と同芯となる回転中心Cを有している。
【0011】
図2は実施の形態1における磁束変調型磁気ギアの磁極構造を示す斜視図である。少極機構10、ポールピース20および多極機構30の磁極を構成する部分を切り出したものである。多極機構30は32個の永久磁石32と、界磁磁束を発生させるための界磁コイル33を有し、すべての界磁コイル33は、直流電源5とスイッチ51を介して接続されている。スイッチ51は、磁束変調型磁気ギアの動作中にオンオフ可能に設けられており、界磁コイル33の通電と無通電を切り替えることができる。また、少極機構10は16個の永久磁石12を有し、ポールピース20は少極機構10と多極機構30の間に24個の磁極片で構成されている。すなわち、本実施の形態の磁気ギアのギア比は24/(16/2)=3であり、入力軸1の回転力を1/3倍に減速し、かつ3倍に増トルク化して出力軸2に出力する。
【0012】
図3は、実施の形態1における磁束変調型磁気ギアの横断面図である。図3は、図1の断面P−Pを示している。多極機構30は磁気ギャップ面に向かい突出したティース部331を有しており、ティース部331の磁気ギャップ面側の先端部分に設けられた磁石挿入穴部に、永久磁石32が埋め込まれている、各ティース部331に配置された永久磁石32は、図3の矢印で示すように、周方向に隣接するティース部331と反対方向の磁極となるよう交互に磁化されている。各ティース部にはそれぞれコイルが巻装されて界磁コイル33を構成しており、各界磁コイル33のコイルには通電時にティース部331の永久磁石32の磁化方向と一致するよう、直流電源5が結線されている。少極機構10の永久磁石12についても、多極機構30と同様に図3の矢印で示すように、周方向に隣接する磁極と反対方向になるよう交互に磁化されている。
【0013】
図4は実施の形態1における磁束変調型磁気ギアの横断面図の拡大図である。多極機構30の永久磁石32の磁化方向(本実施の形態においては径方向)の厚さをL1、少極機構10の永久磁石12の磁化方向の厚さをL2とすると、L1<L2の関係にすることで、永久磁石12および32に発生する磁石渦損が低減できる。
【0014】
図5Aおよび図5Bは実施の形態1における磁束変調型磁気ギアの回転速度とトルク特性を示す図である。ここで回転速度とトルクは、ともに入力軸1に入力される回転力を示している。同一の最大伝達トルクを発生する従来構造の特性を図5Aに、本願の特性を図5Bで示している。従来構造は、本願で用いられる界磁コイル33が存在していない状態であり、本願の界磁コイル33の直流電源5のスイッチ51を切った状態と同等な条件となる。図5Aおよび図5Bにおいて、磁気ギアの効率が低い領域から高い領域までを4つに分けて、効率の低い方から効率低L、効率中低Lm、効率中高Hm、効率高Hとして表示している。また、効率高Hの領域では、等高線で効率が高い領域を示している。図中の破線矢印の方向に効率が高いことを示す。
【0015】
従来構造の特性を示す図5Aでは効率高Hとなる動作領域が低速かつ高トルク領域に限定されているのに対し、本願の通電時を示す図5Bでは効率高Hとなる動作領域が低から中トルク領域に移動し、高速領域における効率も改善されていることがわかる。従来構造は本願における無通電時の状態と同じであることから、各界磁コイル33への直流電源5による通電を、大きなトルクが必要な限定的な駆動条件時のみに行い、その他の小から中トルクでの通常の駆動条件時については無通電とすることで、回転速度の低い領域から高い領域までを高効率で使用することができる。
【0016】
また、大きなトルクが必要な条件では図5Bに示す通電時の状態で使用できるので、無通電時の通常の駆動条件時は必要最低限の伝達トルク(図5Bの一点鎖線で示すAのレベル)を発生する磁束量となるよう、永久磁石量を従来構造より少ない構成とすることができる。そうすることによって、永久磁石における渦電流損失をはじめとする、磁束に起因する損失を低減することができ、高速回転時の効率を向上できる。
なお、通電時については界磁コイル33のコイル部で銅損が発生するため、従来構造よりも高トルク域の効率が低下する傾向がみられるが、通電による駆動条件は限定的であり、車両の駆動システムにおいては低から中トルク領域での運転条件が支配的であることから、通電時の銅損が大きな問題となることはない。
【0017】
図6は実施の形態1における磁束変調型磁気ギアについて、ある一定の回転速度とトルク条件における効率向上効果を示す図である。磁束変調型磁気ギアにおいて支配的な効率悪化要因である、磁性材料部で発生する渦電流損失とヒステリシス損失の和である鉄損と、永久磁石部で発生する渦電流損失である磁石渦損とを考慮した解析結果を比較したものである。鉄損だけでは約50%、鉄損と磁石渦損を含めると約40%の損失低減の効果が確認できる。このことは、高周波成分の通過により鉄損および磁石渦損が増大し易い多極機構30に、ティース部331を構成し界磁コイル33を配置することで、界磁コイル33の軸方向断面積と同量以上の鉄面積を削減することができ、鉄損が低減されていることを示している。また、同一の最大伝達トルクを発生する従来構造と比較して小さな永久磁石を用いるため、磁石渦損が低減されていることを示している。
【0018】
なお、効率をより向上させるためには、多極機構30の永久磁石32は磁化方向厚さを小さくし、ティース部331のコア部を広くとる構造が望ましい。一般的に、特許文献1にも示されているように多極機構30の磁石渦損は少極機構10より大きく、主な効率悪化要因となるため、図4で示したように少極機構10の永久磁石12よりも薄くL1<L2となる構成とすることで、磁石渦損の低減効果を高められる。
また、従来構造の磁束変調型磁気ギアは多数の永久磁石を必要とするため、製造コストの高騰が懸念されるが、少極機構10と多極機構30で使用する永久磁石を共通とすることでコスト低減が図られる。例えば、少極機構10の永久磁石12を1磁極あたり磁化方向および磁化直交方向に2個以上に分割する構成とし、分割磁石を挿入可能な寸法の磁石挿入穴を多極機構のティース部331に設け、多極機構30の1磁極を少極機構10の1磁極より少ない個数の永久磁石で構成することで、製造コストを低減できる。
【0019】
さらに、永久磁石32を先端部に備えたティース部331に直流通電の界磁コイル33を設けることで、磁気回路においては起磁力源が直列に配置された構造となり、かつ界磁コイル33の巻装される位置と永久磁石32の配置される位置が一致することから、多極機構30の永久磁石32の磁化が界磁コイル33の直流通電により強められる。これにより、永久磁石32の磁化方向の厚さを小さくしながらも、減磁耐性を向上する相乗効果が得られる。
【0020】
また界磁コイル33を有する多極機構30を、図3に示すように外径側の回転固定された固定子31として配置することで、冷却機構の構成が容易となるほか、内径側に位置する第一回転子11に界磁コイルを配置する場合と比較しティース部間のスロットの面積を広くとることができ、より多くの界磁コイル33を巻装可能であり、通電時のトルク向上効果と、発熱量の低減効果が得られる。また、直流通電のコイルの結線を固定子31の上で構成しやすく、製造上有利である。
【0021】
また、本願は電動機と異なり駆動時に常時交流通電を行う電機子を有さないため、ティース部間のスロットはすべて直流通電の界磁コイル33のスペースとして利用可能である。さらに直流通電は多極機構30の永久磁石32の磁化を一時的に強めるためのものであり、電動機の駆動に必要な電力と比較しはるかに小さく、電動機と比較し発熱量を低く抑えることができる。
なお、実施の形態1では多極機構30におけるティース部331に設けた磁石挿入穴部に永久磁石32が埋め込まれる例を示したが、永久磁石32がティース部331の磁気ギャップ側の先端部に貼付けられる構成とした場合についても、同様の効果が得られる。
【0022】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2における磁束変調型磁気ギアの横断面図の拡大図である。永久磁石32が配置されているティース部331と、界磁コイルが巻装されているティース部331が異なり、かつティース部331に配置された永久磁石32の極性は同方向であり、界磁コイル33には永久磁石32と逆方向の極性となるよう通電される。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0023】
本構成は多極機構30に着目すると、S極を永久磁石32とするのに対しN極を鉄芯とするコンシクエント型モータの固定子構造であることがわかる。本構成によりティース間のスロット面積の拡大、および多極機構の永久磁石の寸法拡大を図ることができ、設計自由度を向上できる。
なお、実施の形態2では多極機構30におけるティース部331に設けた磁石挿入穴部に永久磁石32が埋め込まれる例を示したが、永久磁石32がティース部331の磁気ギャップ側の先端部に貼付けられる構成とした場合についても、同様の効果が得られる。
【0024】
実施の形態3.
図8は、実施の形態3における磁束変調型磁気ギアの横断面図の拡大図である。多極機構30の各磁極は3本のティース部331で構成され、うち中央の1本に永久磁石32が配置され、両隣に隣接する2本にそれぞれ界磁コイル33が巻装されている。1磁極を構成する2つの界磁コイル33に直流通電することで、中央のティース部331に配置された永久磁石32の磁化を基準として起磁力が強められる。
【0025】
すなわち、永久磁石32が配置されているティース部331と、界磁コイル33が巻装されているティース部331が異なっている。また、永久磁石32が配置されているティース部の永久磁石32の極性は、ティース部ごとに反転しており、界磁コイル33が設けられた前記ティース部は、各磁極の起磁力が同じとなる方向と強度で通電され磁化されている。その他の構成は実施の形態1と同様である。本構成においても実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0026】
図9は、実施の形態3の変形例における磁束変調型磁気ギアの横断面図の拡大図である。多極機構30の各磁極は2本のティース部331で構成され、片方のティース部331に永久磁石32が配置され、もう片方のティース部331に界磁コイル33が巻装されている。界磁コイル33に直流通電することで、隣接するティース部331に配置された永久磁石32の磁化を基準として起磁力が強められる。その他の構成は図8に示した実施の形態3と同様である。多極機構30の起磁力波形が回転方向により非対称となるが、ティース部331の間のスロット面積が拡大できるので、界磁コイル33の設計の自由度を向上できる。
【0027】
なお実施の形態3では多極機構30におけるティース部331に設けた磁石挿入穴部に永久磁石32が埋め込まれる例を示したが、永久磁石がティース部331の磁気ギャップ側の先端部に貼付けられる構成とした場合についても、同様の効果が得られる。
また、本実施の形態では多極機構30の1磁極あたり永久磁石32を配置するティース部331が1本、界磁コイル33を巻装するティース部331が2本または1本の例を示したが、永久磁石32を配置するティース部331の本数と界磁コイル33を巻装するティース部331の本数を任意としても、多極機構30における磁極が周方向で逆転し磁気減速機として成立するように配置されている限りは同様の効果が得られる。
【0028】
実施の形態4.
図10は、実施の形態4における磁束変調型磁気ギアの横断面図の拡大図である。周方向に着磁された永久磁石32が、隣り合うティース部331の先端部の周方向の間に配置されており、すべてのティース部331に界磁コイル33が巻装されている。隣接するティース部331が異なる磁極となるように界磁コイル33の直流通電の向きおよび永久磁石32の磁化方向が構成されている。また、永久磁石32の磁化方向は周方向に向き合うように配置されている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
本構成はコイル通電時に磁気ギャップ部に向かう永久磁石32の磁束を誘導するハイブリッド界磁構造である。本構成により、無通電時の磁束量と通電時の磁束量の差を大きくすることができ、可変磁束量を大きくとることができるため、多極機構30の設計自由度を向上することができる。
【0029】
図11は、実施の形態4の変形例における磁束変調型磁気ギアの横断面図の拡大図である。周方向に着磁された永久磁石32が、隣り合うティース部331の根本部の周方向の間に配置されている。その他の構成は図10に示した実施の形態4と同様である。永久磁石32を磁気ギャップ部から遠ざける構成とし、磁石渦損のさらなる低減が図られる。
【0030】
なお、実施の形態4では周方向に着磁された永久磁石がティース部331の先端部またはティース部331の根本部に配置された場合を示したが、先端部から根本部の中間に配置された場合についても同様の効果が得られる。また永久磁石32が多極機構30の外縁となるヨーク部側に埋め込まれるか、または分割独立したティース部331が永久磁石32をヨーク部として互いに接続されている場合についても、同様の効果が得られる。
【0031】
その他の実施の形態として、永久磁石32を発生磁束量が調整可能な可変磁石材料であるSmCo(samarium−cobalt magnet)系などの材料で構成し、界磁コイル33への通電により発生磁束量を調整可能とする。その他の構成は実施の形態1と同様とする。これにより可変磁束量をさらに拡大することができ、設計自由度をさらに向上できる。
【0032】
また、前述の実施の形態では、減速および増トルク化とする減速ギアの例を示したが、入力軸1と出力軸2を逆の構成とし増速および減トルク化とする増速ギアの構成においても、同様の効果が得られる。
また、前述の実施の形態では、多極機構30を固定子31、少極機構10を第一回転子11、ポールピース20を第二回転子21とする例を示したが、多極機構30を第3回転子としてもよく、さらに少極機構10またはポールピース20を固定子とした場合についても、同様の効果が得られる。
【0033】
また、前述の実施の形態では、各磁極の永久磁石12、32は単体である例を示したが、永久磁石を磁化方向、磁化直交方向ならびに軸方向、およびその他の方向に分割する場合についても同様の効果が得られる。
また、前述の実施の形態では、回転中心Cに対し直交する径方向に磁気ギャップ部を有するラジアル型の例を示したが、回転中心Cに対し平行な軸方向に磁気ギャップ部を有するアキシャル型においても同様の効果が得られる。すなわち、少極機構10とポールピース20との間、およびポールピース20と多極機構30との間の軸方向にそれぞれ磁気ギャップが設けられている場合であっても同様の効果が得られる。
【0034】
また、前述の実施の形態では、すべて少極機構10が16極、多極機構30が32極、ポールピース20が24個の例を示したが、少極機構10の極数が多極機構30の極数より小さく、かつ磁気ギアを構成する組合せ(少極機構10の極対数をN1、多極機構30の極対数をN2、ポールピースの数をNp、とおいたとき、(2m−1)Np=N2±(2n−1)N1、(mとnはともに自然数)となる場合についても同様の効果が得られる。
【0035】
また、前述の実施の形態では、ティース部331、ポールピース20、永久磁石12、32の形状はいずれも最も単純な形状で示していた。しかし、ティース部331とポールピース20の形状を磁気ギャップ部に向かって径方向に末広がりとするまたは裾を絞る形状とする場合、永久磁石12、32にボンド磁石を用いる場合、1磁極あたり2個以上の永久磁石を用いてV字状に埋め込む場合など、磁気ギャップ部の極配置が前述の実施の形態と同様の関係性を有していれば、ティース部331、ポールピース20、永久磁石12、32の形状に関わらず同様の効果が得られる。
【0036】
本願は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0037】
1 入力軸、2 出力軸、3 フレーム、10 少極機構、11 第一回転子、12 永久磁石、20 ポールピース、21 第二回転子、30 多極機構、31 固定子、32 永久磁石、33 界磁コイル、331 ティース部、41,42,43,44 ベアリング、5 直流電源、51 スイッチ。
【要約】
複数の磁極を有する少極機構(10)と、前記少極機構よりも多くの磁極を有する多極機構(30)と、前記少極機構と前記多極機構の間に設けられたポールピース(20)と、を備えた磁束変調型磁気ギアであって、前記多極機構の磁極には、永久磁石(32)と界磁コイル(33)とが設けられている。
図1
図2
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図5A
図5B
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