(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976551
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】回転体のバランス修正装置および方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/16 20060101AFI20211125BHJP
G01M 1/34 20060101ALI20211125BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
H02K15/16 A
G01M1/34
H02K1/22 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-155231(P2017-155231)
(22)【出願日】2017年8月10日
(65)【公開番号】特開2019-37021(P2019-37021A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2020年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】591097780
【氏名又は名称】電子精機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】奥村 廣光
【審査官】
三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−245030(JP,A)
【文献】
特開平10−307071(JP,A)
【文献】
特開昭53−147901(JP,A)
【文献】
特開平03−170827(JP,A)
【文献】
特開2012−026796(JP,A)
【文献】
特開2000−321162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/16
G01M 1/34
H02K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体のバランスを修正するために前記回転体の一部を切削する回転体のバランス修正装置において、
前記回転体の一直径線の延長線の両側に配置される2つのカッター刃と、
前記2つのカッター刃に個別に設けられ、修正ベクトル量に応じて、各カッター刃を、前記一直径線と平行方向に前記回転体に押圧しつつ回転駆動する一対の回転軸とを備えて構成されることを特徴とする回転体のバランス修正装置。
【請求項2】
前記カッター刃は、前記回転体の一直径線の延長線に対して相互に対称の形状に形成されることを特徴とする請求項1記載の回転体のバランス修正装置。
【請求項3】
前記カッター刃は、Rカッターであることを特徴とする請求項1または2記載の回転体のバランス修正装置。
【請求項4】
前記回転体は整流子モータの回転子であって、前記Rカッターの刃幅は、コア幅とスリット幅との和の長さであることを特徴とする請求項3記載の回転体のバランス修正装置。
【請求項5】
回転体のバランスを、該回転体の一部を切削することで修正する回転体のバランス修正方法において、
前記切削のために回転軸で回転駆動されるカッター刃を、前記回転体の一直径線の延長線の両側に配置し、
各カッター刃を回転駆動する前記回転軸に、修正ベクトル量に応じた前記一直径線と平行方向の変位をそれぞれ与えて、該カッター刃に前記切削を行わせることを特徴とする回転体のバランス修正方法。
【請求項6】
前記カッター刃は、Rカッターであり、前記回転体は整流子モータの回転子であって、前記Rカッターの刃幅は、コア幅とスリット幅との和の長さであることを特徴とする請求項5記載の回転体のバランス修正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流子モータの回転子などの回転体のバランスを修正するために、前記回転体を切削して修正する回転体のバランス修正装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの電機子やファンなどの回転体のバランスにズレがあると、回転ムラを生じ、振動や故障の原因となる。そのため、従来から、バランス測定装置で前記バランスを測定し、バランス修正装置において、前記の測定の結果得られたベクトル量に応じて、回転体の一部を削ることで、バランスが許容値内に入るように修正が行われている。そのような切削によるバランス修正は、たとえば特許文献1,2で示されている。
【0003】
上記の件は、コア(ティース)にVカットの溝を形成するものであるが、Rカッター(鼓カッターとも言う)をカッター刃に用いた従来の調整方法を、
図4で示す。
図4は、12極の整流子付きモータの回転子(電機子)1を示す。コア11には前記12個のスロット13が形成され、そのスロット13で切出されたティース14に、コイル15が巻回されている。この
図4の例では、切削するコア11が2箇所の例を示す。
【0004】
先ず、
図4(a)で示すように、1箇所目の修正位置V1に、回転軸21で回転されるカッター刃22が、矢符23で示すように押し当てられ、軸線方向(
図4の紙面に垂直方向)に移動される。その押し当てる量、すなわち削り落とす深さ、および移動する範囲、すなわち削り落す長さは、前記バランス測定装置で測定された調整量のベクトルに応じて決定される。なお、カッター刃22の対向位置には、ワーク押え24が設けられている。
【0005】
こうして1箇所目の修正位置V1の修正が終了すると、ワーク押え24およびカッター刃22が離され、
図4(b)で示すように、コア11(回転子(電機子)1)が、360/12=30°だけ回転され、
図4(c)で示すように、2箇所目の修正位置V2にカッター刃22が押し当てられ、対向位置にワーク押え24が押し当てられる。このようなベクトル修正は、回転子(電機子)1の局数などにもよるが、1〜4箇所行われるのが通常である。
【0006】
カッター刃22は、前記Rカッター(鼓カッター)であり、
図5(a)はその側面図であり、
図5(b)は正面図である。カッター刃22には、上述のように、回転軸21が固着されている。回転軸21には、その外周面に切り欠き211が形成されて、スピンドルのチャック(クランパ)への取付け角が規定されたり、フランジ212が設けられて前記チャック(クランパ)への噛込み量が規定されたりして、前記修正位置V1,V2に正確に位置決めされる。
【0007】
カッター刃22は、その外形線が鼓状或いは糸巻き状となっており、
図5(a)の側面視で、側面は円弧(R)状に形成される。その円弧の外周面に、周方向に等間隔(
図5では6箇所)に、かつ捻れて(急な(角度の深い)螺旋を描くように)、切り刃221が形成されている。この切り刃221で前記修正位置V1,V2の切削を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−89254号公報
【特許文献2】特開2011−101444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の従来技術では、2箇所の修正位置V1,V2に、順次、カッター刃22を当ててゆくので、たとえば1箇所目V1の修正に1.5秒、コア11(回転子(電機子)1)の修正位置V1からV2への回転に0.5秒、2箇所目V2の修正に1.5秒の計3.5秒を要しており、複数箇所の修正に時間が掛るという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、回転体の切削によるバランス調整を複数箇所で行うにあたって、短時間で行うことができる回転体のバランス修正装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の回転体のバランス修正装置は、回転体のバランスを修正するために前記回転体の一部を切削する回転体のバランス修正装置において、前記回転体の一直径線の延長線の両側に配置される2つのカッター刃と、前記2つのカッター刃に個別に設けられ、修正ベクトル量に応じて、各カッター刃を、
前記一直径線と平行方向に前記回転体に押圧しつつ回転駆動する一対の回転軸とを備えて構成されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の回転体のバランス修正方法は、回転体のバランスを、該回転体の一部を切削することで修正する回転体のバランス修正方法において、前記切削のために回転軸で回転駆動されるカッター刃を、前記回転体の一直径線の延長線の両側に配置し、各カッター刃を回転駆動する前記回転軸に、修正ベクトル量に応じた
前記一直径線と平行方向の変位をそれぞれ与えて、該カッター刃に前記切削を行わせることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、回転体のバランスを、該回転体の一部を切削することで修正するにあたって、その切削を行うカッター刃およびカッター刃を回転駆動する回転軸を2組設け、それらのカッター刃および回転軸を、前記回転体の一直径線の延長線の両側に設ける。そして、各カッター刃には、修正ベクトル量に応じて、変位、つまり削り落とす深さ、および移動する範囲、すなわち削り落す長さがそれぞれ定められ、個別に切削加工を行う。
【0014】
したがって、2箇所の修正位置を同時に切削することができ、短時間でバランス修正を行うことができる。
【0015】
さらにまた、本発明の回転体のバランス修正装置では、前記カッター刃は、前記回転体の一直径線の延長線に対して相互に対称の形状に形成されることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、前記2組のカッター刃は、たとえばVカッターとRカッターとのように、異なる種類の組合わせであってもよいが、前記回転体の一直径線の延長線に対して相互に対称とすることで、削れ方が等しくなる。
【0017】
したがって、たとえば3箇所以上切削する場合など、バランス測定装置の測定結果(ベクトル量)を何れのカッター刃でも反映することができ、利便性を向上することができる。
【0018】
また、本発明の回転体のバランス修正装置では、前記カッター刃は、Rカッターであることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、カッター刃には、Vカッターなどもあるが、回転体の外周に沿ったRカッターは、1つのコアを一様に切削するので、切削する深さを抑え、磁路やエアギャップに対する影響を少なくすることができる。
【0020】
さらにまた、本発明の回転体のバランス修正装置では、前記回転体は整流子モータの回転子であって、前記Rカッターの刃幅は、コア(ティース)幅とスリット幅との和の長さであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の回転体のバランス修正方法では、前記カッター刃は、Rカッターであり、前記回転体は整流子モータの回転子であって、前記Rカッターの刃幅は、コア幅とスリット幅との和の長さであることを特徴とする。
【0022】
上記の構成によれば、上述のように、Rカッターはコアを一様に削るので、それを利用し、カッターの刃幅を、コア(ティース)幅ぎりぎりに設定するのではなく、スリット幅を加えた長さに設定する。
【0023】
したがって、コア(ティース)とカッター刃の中心が一致した状態では、カッター刃の周方向の両端部はスリット幅の1/2ずつはみ出すことになり、そのはみ出した範囲内であれば、コア(ティース)の回転位置がずれても、同様に切削することができる。これによって、前記スリット幅の1/2以内であれば、角度誤差無しに修正することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の回転体のバランス修正装置および方法は、以上のように、回転体の切削によるバランス修正を複数箇所で行うにあたって、切削を行うカッター刃およびカッター刃を回転駆動する回転軸を、回転体の一直径線の延長線の両側に設け、各カッター刃には、修正ベクトル量に応じて、個別に切削加工を行わせる。
【0025】
それゆえ、2箇所の修正位置を同時に切削することができ、短時間でバランス修正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の一形態に係るバランス修正装置における修正方法を説明する模式的な断面図である。
【
図2】前記バランス修正装置で修正された整流子付きモータの回転子の斜視図である。
【
図3】カッター刃の刃幅の設定方法を説明する模式図である。
【
図4】従来技術のバランス修正装置における修正方法を説明する模式的な断面図である。
【
図5】
図4のバランス修正装置に用いられるカッター刃の図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の実施の一形態に係るバランス修正装置における修正方法を説明する模式的な断面図である。本実施形態のバランス修正装置で修正される整流子付きモータの回転子1は、
図4と同様であり、
図2に、その調整後の斜視図を示し、
図1および
図2において、
図4に対応する部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0028】
図2の例では、回転子1は、前記12極のコア11(ティース14)の2極に、参照符号111,112で示すように、Rカッターによる切削によって、バランスの修正が行われている。本実施形態では、コア11の整流子10側の一部分が切削対象となっており、切削部111は切削部112に比べて大きく削られている。この削り取りの量は、前述のように、前工程のバランス測定装置によって計測されている。
【0029】
図1を参照して、注目すべきは、本実施形態のバランス修正装置およびバランス修正方法では、回転体である回転子1のバランスを、該回転子1の一部を切削することで修正するにあたって、その切削を行うカッター刃51,52およびそのカッター刃51,52を回転駆動する回転軸53,54を2組設け、それらのカッター刃51,52および回転軸53,54を、回転子1の一直径線の延長線19の両側に設けることである。そして、2つのカッター刃51,52には、回転軸53,54から、前記のバランス測定装置によって求められた修正ベクトル量に応じて、参照符号55,56で示す変位、つまり削り落とす深さD1,D2、および移動する範囲、すなわち削り落す長さL1,L2(
図2参照)がそれぞれ定められ、個別に切削加工が行われる。回転軸53,54は、それをチャック(クランプ)したスピンドルで回転駆動される。
【0030】
したがって、本実施形態のバランス修正装置およびバランス修正方法によれば、2箇所の修正位置V1,V2を同時に切削することができ、短時間でバランス修正を行うことができる。たとえば、
図4の例と比較すると、最初の1.5秒の切削だけ行えばよく、0.5秒のコア11(回転子(電機子)1)の回転や、2回目の1.5秒の切削が不要になり、切削時間を3/7に削減することができる。
【0031】
たとえば、バランス測定装置で測定して、本実施形態のバランス修正装置で修正して、また結果を測定するという3工程が連続して行われる場合、バランス測定装置には、回転子1を規定の速度にまで加速して、測定し、減速するという作業が必要で、たとえば1.9秒を要する。したがって、本実施形態では、2箇所の修正が1.5秒で済むので、その測定の間に修正を済ませることができる。
【0032】
ここで、前記2組のカッター刃51,52は、たとえばVカッターとRカッターとのように、異なる種類の組合わせであってもよいが、本実施形態のバランス修正装置およびバランス修正方法では、回転子1の一直径線の延長線19に対して、相互に対称な形状に形成されている。
図1の例では、Rカッター(鼓カッター)である。これによって、たとえば3箇所以上切削する場合など、バランス測定装置の測定結果(ベクトル量)を何れのカッター刃51,52でも反映することができ、利便性を向上することができる。
【0033】
また、カッター刃51,52が、Rカッターであることで、回転子1の外周に沿ったRカッターは、1つのコア11を一様に切削するので、切削する深さD1,D2を抑え、磁路やエアギャップに対する影響を少なくすることもできる。
【0034】
ところで、前述の
図5で示すカッター刃22は、Rカッターでも、大径から小径になって大径に膨らむ両大径端部の径は相互に等しいのに対して、本実施形態のカッター刃51,52は、
図1のように、互いに対向する前記一直径線の延長線19側が小径に、反対側が大径に形成される概略円錐台の形状に形成される。これによって、2箇所の修正位置V1,V2を、それぞれ均一に切削することができるようになっている。
【0035】
そして、
図4で示す両大径端部の径が相互に等しいカッター刃22を用いると、本実施形態のように2箇所の修正位置V1,V2を同時に切削する場合、回転軸21をV字に傾けて配置し、その傾きは回転子1の径に応じて切替えなければならない。これに対して、本実施形態のように概略円錐台形状のカッター刃51,52を用いることで、回転子1の径に応じて該カッター刃51,52を交換するだけでよく、回転軸53,54は、初期位置では一直線に並ぶように配置するだけでよい。
【0036】
また、
図3には、本実施形態におけるカッター刃51の刃幅Wの設定方法を説明する模式図を示す。カッター刃52についても同様であり、説明は省略する。注目すべきは、回転体が整流子モータの回転子1であり、コア11(ティース14)を有し、Rカッターはコア11(ティース14)を一様に削るので、それの性質を利用し、カッター刃51の幅Wを、コア11(ティース14)の幅W1ぎりぎりに設定するのではなく、該幅W1とスリット(13)の幅W2との和の長さに設定することである。
【0037】
したがって、コア11(ティース14)とカッター刃51の中心が一致した状態では、カッター刃51の周方向の両端部はスリット幅の1/2ずつはみ出すことになり、そのはみ出した範囲内であれば、コア11(ティース14)の回転位置がずれても、同様に切削することができる。
図3では、カッター刃51とコア11(ティース14)との相対位置が最もずれた状態を、参照符号51a,51bで示しており、相対位置がこれらの範囲内にあれば、削り残しを生じることはない。これによって、前記スリット幅の1/2以内であれば、角度誤差無しに修正することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 整流子付きモータの回転子(電機子)
10 整流子
11 コア
111,112 バランス調整のための切削部
13 スロット
14 ティース
15 コイル
19 一直径線の延長線
24 ワーク押え
51,52 カッター刃
53,54 回転軸