【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Junjie Wu et al.,Low-cost mussel inspired poly(catechol/polyamine) coating with superior anti-corrosion capability on,Journal of Colloid and Interface Science,2016年,463,214-221,ISSN 0021-9797
【文献】
Haeshin Lee et al.,Mussel-Inspired Surface Chemistry for Multifunctional Coatings,Science,2007年,318,426-430,ISSN 1095-9203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが8.5以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を、pHが9を超えるアルカリ性環境下で、基体に塗布してコーティング膜を形成する、コーティング膜の形成方法。
少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を、pHが9を超えるアルカリ性を有する基体に接触させて、前記基体の表層部の少なくとも一部に膜を形成する、コーティング膜の形成方法。
基体に対してアルカリ処理を行って前記基体の表面のpHが9を超える状態にするアルカリ処理工程と、少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を前記基体の前記表面に接触させてコーティング膜を形成するコーティング膜形成工程とを含む、コーティング膜の形成方法。
基体の上に、少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を塗布する塗布工程と、前記基体に塗布された前記コーティング剤を、アルカリ性の液体で処理してコーティング膜を形成するコーティング膜形成工程とを含む、コーティング膜の形成方法。
請求項1から6のいずれか1項に記載のコーティング膜の形成方法において、前記コーティング膜の形成後、アルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を前記コーティング膜に接触させる工程を含む、コーティング膜の形成方法。
前記ポリフェノール誘導体が、カテコールおよびカテコール誘導体から選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項1から7のいずれか1項に記載のコーティング膜の形成方法。
前記カテコール誘導体が、ドーパミン、ジヒドロキシ安息香酸およびジヒドロキシフェニルアラニンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項8に記載のコーティング膜の形成方法。
アルカリ性の基体の上に、少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を塗布すること、基体にアルカリ処理を行ってから前記コーティング剤を塗布すること、または基体の上に前記コーティング剤を塗布してから、アルカリ性の液体を用いてアルカリ処理をすること、のいずれかにより塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜にアルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を接触させて前記塗布膜の表面を疎水化処理する工程を含む、プライマー処理方法。
前記カテコール誘導体が、ドーパミン、ジヒドロキシ安息香酸およびジヒドロキシフェニルアラニンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項13に記載のプライマー処理方法。
コンクリートのひび割れを含む部分に、少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を充填し、前記ひび割れ部分に重合膜を形成する、コンクリートの補修方法。
前記カテコール誘導体が、ドーパミン、ジヒドロキシ安息香酸およびジヒドロキシフェニルアラニンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項18に記載のコンクリートの補修方法。
前記コーティング剤を基体に塗布する工程の後、前期撥水層形成工程の前に、アルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を塗布する工程を含む、請求項22に記載の道路の敷設方法。
前記カテコール誘導体が、ドーパミン、ジヒドロキシ安息香酸およびジヒドロキシフェニルアラニンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項24に記載の道路の敷設方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前述したドーパミンをはじめとする水性のコーティング材料を使用して、基体に対する密着性および接着性に優れ、かつ耐水性にも優れるコーティング膜を形成することは、先行技術文献には開示されていない。
【0007】
そこで本発明は、基体に対する密着性および接着性に優れ、かつ耐水性にも優れるコーティング膜を形成可能な、水性材料を主成分とするコーティング剤、ならびに該コーティング剤を用いたコーティング膜の形成方法、プライマー処理方法、コンクリートの補修方法および道路の敷設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが
8.5以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を、pHが9を超えるアルカリ性環境下で、基体に塗布してコーティング膜を形成する、コーティング膜の形成方法。
(構成2)
少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を、pHが9を超えるアルカリ性を有する基体に接触させて、前記基体の表層部の少なくとも一部に膜を形成する、コーティング膜の形成方法。
(構成3)
前記アルカリ性を有する基体がコンクリートまたはモルタルである、構成2記載のコーティング膜の形成方法。
(構成4)
基体に対してアルカリ処理を行って前記基体の表面のpHが9を超える状態にするアルカリ処理工程と、少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を前記基体の前記表面に接触させてコーティング膜を形成するコーティング膜形成工程とを含む、コーティング膜の形成方法。
(構成5)
基体の上に、少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を塗布する塗布工程と、前記基体に塗布された前記コーティング剤を、アルカリ性の液体で処理してコーティング膜を形成するコーティング膜形成工程とを含む、コーティング膜の形成方法。
(構成6)
前記基体が水に濡れている、構成2から5のいずれか1に記載のコーティング膜の形成方法。
(構成7)
構成1から6のいずれか1に記載のコーティング膜の形成方法において、前記コーティング膜の形成後、アルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を前記コーティング膜に接触させる工程を含む、コーティング膜の形成方法。
(構成8)
前記ポリフェノール誘導体が、カテコールおよびカテコール誘導体から選ばれる少なくとも1つの化合物である、構成1から7のいずれか1に記載のコーティング膜の形成方法。
(構成9)
前記カテコール誘導体が、ドーパミン、ジヒドロキシ安息香酸およびジヒドロキシフェニルアラニンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、構成8に記載のコーティング膜の形成方法。
(構成10)
前記コーティング剤のpHが7以下である、構成1から9のいずれか1に記載のコーティング膜の形成方法。
(構成11)
前記コーティング剤がpH調整剤を含む、構成1から10のいずれか1に記載のコーティング膜の形成方法。
(構成12)
アルカリ性の基体の上に、少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を塗布すること、基体にアルカリ処理を行った後、前記コーティング剤を塗布すること、または基体の上に前記コーティング剤を塗布した後、アルカリ性の液体を用いてアルカリ処理をすること、のいずれかにより塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜にアルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を接触させて前記塗布膜の表面を疎水化処理する工程を含む、プライマー処理方法。
(構成13)
前記ポリフェノール誘導体が、カテコールおよびカテコール誘導体から選ばれる少なくとも1つの化合物である、構成12に記載のプライマー処理方法。
(構成14)
前記カテコール誘導体が、ドーパミン、ジヒドロキシ安息香酸およびジヒドロキシフェニルアラニンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、構成13に記載のプライマー処理方法。
(構成15)
前記コーティング剤のpHが7以下である、構成12から14のいずれか1に記載のプライマー処理方法。
(構成16)
前記コーティング剤がpH調整剤を含む、構成12から15のいずれか1に記載のプライマー処理方法。
(構成17)
コンクリートのひび割れを含む部分に、少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を充填し、前記ひび割れ部分に重合膜を形成する、コンクリートの補修方法。
(構成18)
前記ポリフェノール誘導体が、カテコールおよびカテコール誘導体から選ばれる少なくとも1つの化合物である、構成17に記載のコンクリートの補修方法。
(構成19)
前記カテコール誘導体が、ドーパミン、ジヒドロキシ安息香酸およびジヒドロキシフェニルアラニンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、構成18に記載のコンクリートの補修方法。
(構成20)
前記コーティング剤のpHが7以下である、構成17から19のいずれか1に記載のコンクリートの補修方法。
(構成21)
前記コーティング剤がpH調整剤を含む、構成17から20のいずれか1に記載のプライマー処理方法。
(構成22)
基体の上に撥水層形成工程とアスファルト形成工程を順次行って、道路を敷設する方法であって、
前記撥水層形成工程の撥水層が、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、合成ゴム、ポリエステル系不織布の少なくともいずれか1つを含み、
前記撥水層形成工程の前に、アルカリ環境下で、少なくとも1つの芳香環において、2以上の水酸基が隣接して結合しているポリフェノール誘導体を含む主剤、ならびに1つの分子にアミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む重合剤を含み、pHが9以下であり、前記ポリフェノール誘導体に対する、前記アミノ基およびメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であるコーティング剤を基体に塗布する工程を含む、道路の敷設方法。
(構成23)
前記コーティング剤を基体に塗布する工程の後、前期撥水層形成工程の前に、アルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を塗布する工程を含む、構成22に記載の道路の敷設方法。
(構成24)
前記ポリフェノール誘導体が、カテコールおよびカテコール誘導体から選ばれる少なくとも1つの化合物である、構成22または23に記載の道路の敷設方法。
(構成25)
前記カテコール誘導体が、ドーパミン、ジヒドロキシ安息香酸およびジヒドロキシフェニルアラニンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、構成24に記載の道路の敷設方法。
(構成26)
前記コーティング剤のpHが7以下である、構成22から25のいずれか1に記載の道路の敷設方法。
(構成27)
前記コーティング剤がpH調整剤を含む、構成22から26のいずれか1に記載の道路の敷設方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基体に対する密着性および接着性に優れ、かつ耐水性にも優れるコーティング膜を形成可能な、水性材料を主成分とするコーティング剤、ならびに該コーティング剤を用いたコーティング膜の形成方法、プライマー処理方法、コンクリートの補修方法および道路の敷設方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
実施の形態1では本発明のコーティング剤について説明する。
【0012】
本発明のコーティング剤は、ポリフェノール誘導体を含む主剤と重合剤とを含み、pHが9以下であり、前記重合剤が、1つの分子にアミノ基またはメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む。
【0013】
前記ポリフェノール誘導体は、下記式(A1)から式(A7)に示すように、少なくとも1つの芳香環において2以上の水酸基が隣接して結合している化合物であることが好ましい。ここで、本発明では、ポリフェノール自体もポリフェノール誘導体の1つとみなす。
また、ポリフェノール誘導体は、1つの芳香環において2以上の水酸基が隣接して結合している化合物であることが好ましく、中でも、カテコールおよびカテコール誘導体いずれかから選ばれる少なくとも1つの化合物、または没食子酸およびタンニン酸から選ばれる少なくとも1つの化合物であることがより好ましい。
ポリフェノール誘導体として、具体的には、前述したカテコール、没食子酸およびタンニン酸に加えて、例えば、ドーパミン、ジヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシフェニルアラニン等を挙げることができる。これらのうち、材料コストが安い点で、カテコールが特に好ましい。なお、これらの物質のうち、カテコールは下記式(A3)、没食子酸は式(A4)、ジヒドロキシ安息香酸(2,3−DHBA)は式(A5)、ジヒドロキシフェニルアラニン(3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン)は式(A6)、タンニン酸は式(A7)で表される。
【0014】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0015】
ここで、タンニンは、加水分解で多価フェノールを生じる植物成分の総称であり、没食子酸やエラグ酸がグルコースなどにエステル結合し、酸や酵素で加水分解されやすい加水分解型タンニンと、フラバノール骨格を持つ化合物が重合した縮合型タンニンに大別される。いずれのタイプのタンニンであっても、また、それらの混合物であっても、本発明の効果が奏される。好ましくは加水分解型タンニンであり、例えば式(A7)で表されるタンニン酸を主成分とするものを挙げることができる。なお、タンニン酸には殺菌や抗菌等の効果がある。
【0016】
主剤としては、これらのポリフェノール誘導体の単体でも、ポリフェノール誘導体を主鎖に含んでいても、側鎖に含んでいても、またこれらが混在するものであってもよい。なお、主剤がポリフェノール誘導体単体である場合は、コスト面で有利である。
【0017】
前記重合剤は、1つの分子にアミノ基またはメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物を含む。
アミノ基としては、1級または2級アミンに基づくものが好ましく、中でも、脂肪族ポリアミン、アリール脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、複素環ポリアミンおよびポリアルコキシポリアミン(このアルコキシ基は、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシ−1,2−ブチレン、オキシ−1,4−ブチレンまたはそれらのコポリマーである。)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物に基づくものがより好ましい。
前記重合剤として好んで用いられる具体的な化合物としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、N−(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、N,N’−1,2−エタンジイルビス−1,3−プロパンジアミン、ジプロピレントリアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3−ビスアミノシクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、4,4’−メチレンビスシクロヘキサンアミン、4,4’−メチレンビス−(2−メチル−シクロヘキサンアミン)、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、4,7−ジオキサデカン−1,10−ジアミン、1−プロパンアミン、3,3’−(オキシビス(2,1−エタンジイルオキシ))ビス(ジアミノプロピル化ジエチレングリコール)、ポリ(オキシ(メチル−1,2−エタンジイル))α−(2−アミノメチルエチル)ω−(2−アミノメチルエトキシ)、トリエチレングリコールジアミン、ポリ(オキシ(メチル−1,2−エタンジイル))α,α’−(オキシジ−2,1−エタンジイル)ビス(ω−(アミノメチルエトキシ))、ビス(3−アミノプロピル)ポリテトラヒドロフラン、ビス(3−アミノプロピル)ポリテトラヒドロフラン750、ポリ(オキシ(メチル−1,2−エタンジイル))α−ヒドロ−ω−(2−アミノメチルエトキシ)エーテル、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオールを有するジアミノプロピルジプロピレングリコール、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、2,2’−チオジエタンチオール、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、1,2−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、トルエン−3,4−ジチオール、3−メルカプトブチレートおよび2−アミノエタンチオールからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を挙げることができる。
【0018】
重合剤として好んで用いられる化合物の化学式を挙げると、例えば下記式のようになる。ここで、式(A8)はジエチレントリアミン(DET)、式(A9)はヘキサメチレンジアミン(HMD)、式(A10)はトリス2‐アミノエチルアミン(TAEA)、式(A11)はポリエチレンイミン(PEI)、式(A12)はポリエチレングリコールビス(3−アミノ−プロピル)エーテル(PEG)、式(A14)は1,2−エタンジチオール、式(A15)は1,3−プロパンジチオール、式(A16)は1,4−ブタンジチオール、式(A17)は1,6−ヘキサンジチオール、式(A18)は2,2’−チオジエタンチオール、式(A19)は3,6’−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、式(A20)は1,2−ベンゼンジチオール、式(A21)はトルエン−3,4−ジチオール、式(A22)は1,4−ベンゼンジチオール、式(A23)は3−メルカプトブチレート、式(A24)は2−アミノエタンチオールである。
【0019】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【0020】
本発明のコーティング剤では、ポリフェノール誘導体に対する、1つの分子にアミノ基またはメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率が、0.1以上10以下であることが好ましく、0.5以上2以下であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。このモル比率を0.1以上とすることで、膜重合が十分に進行し、したがって丈夫なコーティング膜を形成することができる。また、このモル比率を10以下とすることで、基体との密着力が十分となり、コーティング膜の均質性も向上する。前記モル比率は、主剤中に含まれるカテコールおよびカテコール誘導体の合計に対する、重合剤を構成する1つの分子にアミノ基またはメルカプト基の群から選択される2以上の官能基を有する化合物のモル比率であることがより好ましい。
【0021】
本発明のコーティング剤のpHは9以下であり、好ましくは7以下である。pHが9を超えるとコーティング剤中で重合反応が起きて、保存安定性に問題が生じる。
保存安定性という観点からはpHは低いほど好ましいが、pHが7以下で保存安定性は十分なものとなる。なお、コーティング剤のpHが1というような極めて小さな値になると、コーティング膜を形成するときの環境を例えばpH13というような高アルカリ性とする必要が生じ、しかもコーティング膜を形成するための時間が長くかかるため、好ましくない。
【0022】
コーティング剤のpHを9以下、好ましくは7以下とするため、コーティング剤にはpH調整剤が含まれていることが好ましい。特に、pH調整剤が緩衝液であると、所定のpHが安定的に得られることで、保存安定性が高まる点で好ましい。コーティング剤のpHが安定すると、コーティング膜形成にかかる時間も安定するので、この意味からも緩衝液の使用が好ましい。ここで、pH調整剤に好適な緩衝液としては、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン溶液、リン酸バッファー、酢酸バッファー等を挙げることができる。
【0023】
次に、このコーティング剤によるコーティング膜について
図1を参照しながら説明する。
主剤であるポリフェノール誘導体は、アルカリ環境下でシッフ塩基反応あるいはマイケルソン付加反応により、1つの分子にアミノ基またはメルカプト基の群から選択される2以上の置換基を有する重合剤と反応することで、重合してコーティング膜を形成する。詳細に調べたところ、この重合反応は、pHが9を超えるアルカリ環境下で顕著に起こり、pHが9以下では殆ど起こらないことがわかった。したがって、pH9を超えるアルカリ環境下でコーティング膜を形成する。なお、この反応の際に熱処理は特には必要としない。
【0024】
主剤を構成するポリフェノール誘導体は、少なくとも1つの芳香環において2以上の水酸基が存在する。これらの水酸基が、コーティング膜の被形成体である基体上の酸素基(O)や水酸基(OH)と相互作用を起こすことで、コーティング膜は基体と密着する。基体の多くは酸素基(O)や水酸基(OH)をその表面に有しているため、このコーティング膜は様々な基体に対して密着性よく形成できる。
芳香環上の水酸基が隣接していると、この密着力は特に強くなる。このため、芳香環上に2つの水酸基があり、かつその水酸基が隣接しているカテコールあるいはその誘導体がコーティング膜の基体に対する密着性の観点から特に好ましい。
【0025】
<実施の形態2>
実施の形態2ではコーティング膜の形成方法を説明する。
【0026】
本発明のコーティング膜の形成方法は、上記のコーティング剤をpHが9を超えるアルカリ環境下で塗布することを特徴とする。
図1に示したように、コーティング剤をpHが9を超えるアルカリ環境下に置くと、シッフ塩基反応あるいはマイケルソン付加反応により重合が起きて膜が形成される。このコーティング膜の形成速度はアルカリ度に依存するため、コーティング膜の形成速度、すなわち即時成膜性の観点からはアルカリ度が高いほど、すなわち環境のpH値が大きいほど好ましい。
また、このコーティング膜はポリフェノール誘導体を含む。ポリフェノール誘導体は1つの芳香環に水酸基を2つ以上含み、これが基体上の酸素基(O)や水酸基(OH)と相互作用を起こすことで、コーティング膜は基体と密着する。基体の多くは酸素基や水酸基をその表面に有しているため、このコーティング膜は様々な基体に対して密着性よく形成できる。
【0027】
具体的には、第1の方法として、pHが9を超えるアルカリ性の基体を用い、その基体の上に実施の形態1で説明したコーティング剤を塗布する方法、第2の方法として、基体に対してアルカリ処理を行って基体の表面のpHが9を超える状態にした後、実施の形態1で説明したコーティング剤を基体に接触させてコーティング膜を形成する方法、第3の方法として、実施の形態1で説明したコーティング剤を基体に塗布した後、塗布されたコーティング剤上からpHが9を超えるアルカリ液を塗布する方法などがある。
ここで、第1の方法のアルカリ性の基体としては、コンクリート、モルタル、セメントなどを挙げることができる。
また、第2の方法における基体に対しアルカリ処理を行う方法としては、基体に水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)などの水溶液やアンモニア水(NH
3OH)などのアルカリ溶液を注入、あるいは塗布する方法などを挙げることができる。
また、第3の方法のアルカリ液としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)などの水溶液やアンモニア水(NH
3OH)などを挙げることができる。
【0028】
形成されたコーティング膜の防水性ないしは疎水性(撥水性)を特に高めたい場合は、上記方法によって形成されたコーティング膜に対してアルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を接触させる2次処理を行うとよい。この2次処理により、コーティング膜の防水性ないしは疎水性(撥水性)が向上する。ここで、アルキルアミンとしては、例えば、ドデシルアミン(DDA)、トリエチルアミン、n−ヘキシルアミンなどを挙げることができる。フッ化チオールとしては、例えば、下記式(A13)に示されるパーフルオロデカンチオール(PFDT)などを挙げることができる。
【0030】
これらの2次処理剤の処理時間、すなわちコーティング膜と2次処理剤が接触している時間は、十分な防水性ないしは疎水性(撥水性)を得るために、60分以上であることが好ましい。2次処理時間の上限は特にはないが、24時間を超えると疎水度の向上が飽和するので、処理時間短縮の観点から24時間以下とすることが好ましい。ここで、疎水度は、例えば、水の接触角で定量化することができる。なお、2次処理の温度は常温で構わない。また、2次処理剤をテトラヒドロフランのような水和性の溶媒と混合して用いると、コーティング膜の表面が水などに濡れている状態でも2次処理を行うことができる。
【0031】
上記方法により基体上に形成されたコーティング膜は、基体に対する密着性および接着性に優れ、かつ耐水性にも優れた膜となる。
また、コーティング膜の形成、すなわちコーティング剤の重合反応はシッフ塩基反応あるいはマイケルソン付加反応で起こるので、基体が水中にあったり水を被っていたりする状況でも膜形成反応が進行し、コーティング膜が形成されるという特徴がある。
さらに、上記方法により形成されたコーティング膜は、成膜条件の最適化や2次処理により、即時成膜性や防水性ないしは疎水性(撥水性)も付与できるという特徴も有する。
【0032】
<実施の形態3>
実施の形態3ではプライマー処理方法を説明する。
【0033】
プライマーとしては、その上に形成される様々な膜に対して優れた密着性および接着性を有し、併せて耐水性および防水性を有するものが嘱望されている。
上記のように、本発明のコーティング膜は様々な物質に対して優れた密着性および接着性を有し、併せて耐水性および防水性を有する。このため、本発明のコーティング膜はプライマーとして好適であり、また実施の形態2に示したコーティング膜の形成方法は、プライマー処理方法としても好適である。
【0034】
さらに、実施の形態2で説明した2次処理は、本実施形態におけるプライマーの2次処理としても有効である。すなわち、実施の形態2に記載の方法によって形成されたコーティング膜(ここでは、このコーティング膜がプライマー)に対してアルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を接触させる2次処理を行うとよい。したがって、好ましいプライマー処理方法は、アルカリ性の基体の上に実施の形態1に記載のコーティング剤を塗布して塗布膜を形成する工程、基体にアルカリ処理を行ってから実施の形態1に記載のコーティング剤を塗布して塗布膜を形成する工程、または基体の上に実施の形態1に記載のコーティング剤を塗布し、アルカリ性の液体を用いてアルカリ処理をして塗布膜を形成する工程のいずれか(以上が1次処理工程)と、前記塗布膜にアルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を接触させて塗布膜の表面を疎水化処理する2次処理工程とを含む。
この2次処理により、プライマーの防水性ないしは疎水性(撥水性)が向上する。さらに、プライマー表面が親油性になるため、各種有機溶媒を用いたペイントやアスファルトなどとの密着性も向上する。
ここで、アルキルアミンとしては、例えば、ドデシルアミン(DDA)、トリエチルアミン、n−ヘキシルアミンなどを挙げることができる。フッ化チオールとしては、例えば、パーフルオロデカンチオール(PFDT)などを挙げることができる。
【0035】
これらの2次処理剤の処理時間、すなわちプライマーと2次処理剤が接触している時間は、十分な防水性ないしは疎水性(撥水性)を得るために、60分以上であることが好ましい。2次処理時間の上限は特にはないが、24時間を超えると疎水度の向上が飽和するので、処理時間短縮の観点から24時間以下とすることが好ましい。なお、2次処理の温度は常温で構わない。また、2次処理剤をテトラヒドロフランのような水和性の溶媒と混合して用いると、プライマーの表面が水などに濡れている状態でも2次処理を行うことができる。
【0036】
<実施の形態4>
実施の形態4では、上記コーティング剤およびコーティング膜形成方法の適用について、コンクリートの補修方法および道路の敷設方法を例に挙げて説明する。
【0037】
コンクリートの補修や道路の敷設は通常乾燥状態下で行われるが、雨天のような対象物の上に水が被っている状態でも補修、敷設作業を予定通り行いたいという要望が強くある。しかしながら、水を被っている状態あるいは水中にある基体に対して密着性および接着性を有するコーティング膜を形成することは容易ではない。
また、コンクリート補修および道路の敷設では、補修や敷設の時間が問題で、コーティング膜には即時成膜性が要求されている。補修、敷設時間が短いほど早期に使用を開始することが可能で、ダウン時間が短い。社会インフラの中でも重要度の高い道路の敷設、補修にとって、処理、補修時間の短さは特に重要なものとなっている。
このようなことから、コンクリートの補修方法および道路の敷設方法は、水を被っている状態あるいは水中にある基体に対しても、優れた密着性および接着性を有すると共に、即時成膜性であり、しかも基体に対して防水性および疎水性(撥水性)を付与できる本発明のコーティング剤、コーティング膜およびその形成方法の好適な適用対象になっている。
【0038】
コンクリートおよびモルタルは、そのpHが高いため、コンクリートやモルタル上に実施の形態1で説明したコーティング剤を塗布すると、コンクリートまたはモルタルの内部から染み出した高pHの水分の影響で、コーティング剤のpHが10前後となり、コンクリートやモルタルとよく密着するコーティング膜が形成される。そして、基体に接触したコーティング剤のpHが10前後と高いため、そのコーティング膜の形成速度は速い。
【0039】
コンクリートやモルタルに亀裂やひびなどが入っていてその補修を行うときも、本発明のコーティング剤、コーティング膜およびその形成方法は有効である。すなわち、コンクリートやモルタルの亀裂やひびを含む部分に実施の形態1で説明したコーティング剤を充填すると、コンクリートやモルタルの内部から染み出した高pHの水分の影響で、コーティング剤のpHが10前後となるため、コンクリートやモルタルとよく密着した膜(補修膜)がこの亀裂やひびを含む部分に形成され、コンクリートやモルタルが補修される。
この補修膜は、アルカリ環境下での重合反応によって形成される膜であるため、水を被っている状態あるいは水中にあるコンクリートやモルタルに対しても形成可能である。
【0040】
この補修膜は疎水性の膜であるが、より一層疎水性、撥水性を高めた高い耐水、防水状態にしたい場合は、形成した補修膜にアルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を塗布する。このことにより、より疎水性、撥水性の高い補修膜となる。
【0041】
道路の敷設においては、コンクリートなどの基体の上にポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、合成ゴム、ポリエステル系不織布などからなる撥水層とアスファルト層とを順次形成することがよく行われている。この道路の敷設おいて、基体と撥水層との密着性の向上、および撥水層に入った亀裂等を通じて侵入してくる水(雨水など)の防止を目的に、基体と撥水層の間に本発明のコーティング膜(プライマー)を形成することが有効である。
すなわち、コンクリートなどによる基体を形成したのち、実施の形態1で述べたコーティング剤をその基体上に塗布し、その後撥水層とアスファルト層を形成する。コンクリートはpH10以上のアルカリ性であるため、コーティング剤は重合反応によりコーティング膜となる。このコーティング膜は、基体とも撥水層とも密着性がよく、疎水性(撥水性)であり、即時成膜性であり、しかも基体上に水が被っているような状態でも形成可能である。ここで、このコーティング膜(プライマー)の疎水性、撥水性をさらに一層高めて耐水、防水状態にしたい場合は、コーティング膜を形成した後、撥水層を形成する前にアルキルアミン、フッ化チオールまたは炭化フッ素の少なくともいずれか1つを含む溶液を塗布するとよい。
【0042】
上記道路の敷設では基体がコンクリートの場合を示したが、鉄橋用道路などで基体が鉄などpHが9を超えるアルカリ性材料からなっていない場合は、基体上に実施の形態1に記載したコーティング剤を塗布した後、pHが9を超えるアルカリ性溶液を塗布してコーティング膜を形成すればよい。ここで、pHが9を超えるアルカリ性溶液としては、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)などの水溶液やアンモニア水(NH
3OH)を挙げることができる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
実施例1では、コーティング剤、コーティング膜の形成方法、コーティング膜およびそれらの特性について述べる。
【0044】
カテコール0.7mMと等モル量のジエチレントリアミン(DET)とを純水に加え、さらにそこにリン酸バッファーを所定のpHになるように加えて、pHが5から10.5の各種pHを有するコーティング剤を室温(25℃)下で調製した。ここで、カテコールはナカライテスク(株)、DETは和光純薬工業(株)から入手した。リン酸バッファーは、Sodium Phosphate96%(ALDRICH製)、クエン酸(和光純薬工業(株))およびホウ酸(和光純薬工業(株))を用いて調製した。
【0045】
次に、このコーティング剤の吸光度の変化を366nmの光を用いて測定した。このコーティング剤の366nmの光の吸光度の変化は、カテコールとDETの相互作用の変化、すなわちカテコールとDETとの重合度の変化を表す。ここで、測定装置としてはV670紫外可視近赤外分光光度計(Jasco製)を用いた。
【0046】
コーティング剤を調製してから23時間後の各pHにおける吸光度を
図2に示す。この図からわかるようにpHが9以下では吸光度の変化は小さいが、pHが9を超えると急激に吸光度が高くなる。すなわち、このコーティング剤では、pH9がクリティカルポイントになっていて、pHが9以下ではカテコールとDETとの相互作用は少ない。
さらに、pH9以下の領域を詳細にみると、pH7を境に吸光度変化の傾きが変わっていて、pH7以下では吸光度の変化は極めて少ない。すなわち、pH9以下、特にpH7以下ではカテコールとDETとの相互作用は少なく、コーティング剤としての保存安定性が高い。
【0047】
一方、pHが9を超えるとカテコールとDETが急激に重合を起こす。そしてその吸光度の変化、すなわち重合度の変化はpHが高いほど大きくなる。
図3は、反応時間と吸光度の変化をこのコーティング剤のpHをパラメータにして示したものである。吸光度は、はじめ反応時間に対して略直線的に増加し、その後吸光度の増加が飽和する飽和曲線を描いている。そして、吸光度の増加が略直線となる反応時間領域は、pH9.0の場合が>9Hr、pH9.6の場合が約8Hr、pH10.5の場合が約4Hrであり、pHが高くなるほど短くなっている。この略直線領域での比較において、コーティング剤のpHが9.0で反応時間23Hr後の吸光度と同じ吸光度が、pHが9.6の場合は、反応時間約3.5Hr後に得られていて、pHを9.0から9.6に高めることにより、重合が約6.5倍の速度で進んでいる。
【0048】
これらのことは、コーティング剤を塗布したときの環境のpHを、9.0を超えるアルカリ環境とすることでコーティング剤の重合が進みコーティング膜が形成されること、およびこの環境のpHをより高くすることによりコーティング膜の形成速度が上がり、即時成膜性となることを意味する。実際、このコーティング剤をpH>9.0の環境下で塗布するとコーティング膜が形成される。また、pH10の環境下で塗布すると5分でコーティング膜が形成されることを確認している。
【0049】
カテコールとDETのモル比を、カテコール1に対してDETを0.1、1、10(カテコール:DET=1:0.1,1,10)と変化させたときのコーティング剤の反応時間と吸光度の変化を
図4に示す。なお、コーティング剤のpHは、いずれも8.5とした。この組成比の範囲では、すべての場合で反応時間とともに吸光度が高まって重合が進んでいることが分かる。したがって、このコーティング剤の組成比は、少なくともカテコール:DET=1:0.1〜10の範囲とすることができる。
この中でも、カテコール:DET=1:1は反応時間に対する吸光度変化の立ち上がりが速く(反応時間初期の吸光度の変化率が大きく)、即時成膜に適している。なお、DETの比率が大きいほど反応時間0での吸光度が大きくなっているが、これはDETが波長366nmの光に対して吸光度が高いことに起因している。
【0050】
次に、洗浄したモルタルの上に上記のコーティング剤を塗布してコーティング膜を形成し、そのコーティング膜の特性を評価した。
【0051】
まず、縦2cm、横2cmの大きさのモルタル板に対して超音波を印加した浴槽中で、エタノール、ヘキサンおよびアセトンによる有機洗浄を順次行った。洗浄時間は各々5分である。そして、80℃のオーブン中で乾燥して、洗浄を行ったコンクリートを基体として準備した。
このモルタル基体に対して、pHが8.5の上記のコーティング剤(カテコール0.7mMと等モル量のジエチレントリアミン(DET)を純水に加え、さらにそこにリン酸バッファーを加えてpHを8.5にしたコーティング剤)を塗布して、モルタル基体上にコーティング膜を形成した。塗布直後のコーティング膜のpHは約10であった。
コーティング後のモルタル表面の光学写真を
図5に示す。時間とともに濃淡のムラが変化しているが、塗布後20時間で均一な濃淡、すなわち均一な膜厚のコーティング膜となることが分かる。
【0052】
次に、コーティング膜の密着性を粘着テープ剥離試験により評価した。
ます、エタノールで超音波洗浄し、十分に乾燥を行ったガラス基板を基体として準備した。そして、その上に0.7mMのカテコールと等モル量のDETを純水に溶解させ、リン酸バッファー液を加えたコーティング剤を3mL滴下して上記ガラス基板上に塗り拡げた。ここで、このコーティング剤のpHは8.5であった。
コーティング剤に触れないように隙間を確保した覆いをかぶせて環境からの汚染などが無いようにして18時間置き、その後覆いを外して6時間置いた。この時点で、コーティング膜が形成されたガラス基板は十分乾燥した。そして、同じ場所に粘着テープ剥離試験を6回繰り返した。ここで、テープをコーティング膜上に貼り付けた際はテープ上から十分圧力をかけ、テープを剥がす際はゆっくり剥がした。用いたテープは、JISK5600付着試験適合の透明感圧付着テープ(Scapa、Tapes製)である。
粘着テープ密着性評価試験の様子を
図6に示す。
図6は、ガラス基板を上面から見た光学写真であり、(a)はコーティング後(粘着テープ試験直前)、(b)はテープ被着後、そして(c)はテープ剥離6回後を示す。
その結果、コーティング膜の剥離は一切認められず、コーティング膜がガラス基板に十分な密着力をもって密着していることがわかった。
【0053】
重合剤であるアミンの添加がコーティング膜の疎水性(撥水性)に与える影響を
図7に示す。同図は、コーティング剤の主剤をカテコール、重合剤をポリエチレンイミン(PEI)とし、PEIの含有量を変化させて形成したコーティング膜の水の接触角を示す。この実験に用いた基体(基板)は洗浄したコンクリートで、形成直後のコーティング膜のpHは約10であった。水の接触角はゲッコー社(Gecco INC.)製のDropmaster300機器を用いて、温度25℃の下で行った。滴下する水滴は20μLとし、液滴が見やすいように純水に僅かにローダミン色素を添加して測定を行った。
PEIの含有量を増やすほど水の接触角は直線的に小さくなっている。これは、PEIの量を増やすと、その分重合を起こしていない過剰のPEIが膜中に含まれることによると考えられる。
接触角を高めるには重合剤であるPEIの含有量を下げる必要があるが、PEIの場合、その含有量を下げても70°以上の接触角を得るのは難しい。より高い接触角を得るには、前述の2次処理を行うのが効果的であり、その例は実施例2で取り上げる。
【0054】
次に、コーティング膜の薬液に対する耐久性を以下に示す方法で評価した。
コーティング膜を水、5重量%の食塩水(NaCl水溶液)、クロロホルム(CHCl
3)の3種類の液で各々最大15分間リンスし、コーティング膜表面の水の接触角のリンス時間依存性を指標にして耐久性を評価した。ここで、コーティング膜は、上記と同様に洗浄を行ったコンクリート基体に対して、pHが8.5の上記のコーティング剤(純水にカテコール0.7mMとDET0.7mMを加え、さらにリン酸バッファーを加えてpHを8.5にしたコーティング剤)を塗布して形成した。水の接触角はゲッコー社(Gecco INC.)製のDropmaster300機器を用いて、温度25℃の下で行った。滴下する水滴は20μLとし、液滴が見やすいように純水に僅かにローダミン色素を添加して測定を行った。
その結果を
図8から10に示す。なお、これらの図には、上記方法によって形成されたコーティング膜に対して2次処理剤に24時間浸漬させた処理(2次処理)を行った後に、この3種類のリンス液でリンス処理をしたときの水の接触角のリンス時間依存性も合わせて示している。ここで、2次処理剤としては、テトラヒドロフラン(THF)溶媒1mL当たりにドデシルアミン(DDA)を2mgと、DDAの2倍のモル量のトリエチルアミンを加えたものを用いた。
これらの図から、水の接触角は、2次処理の有無にかかわらず、上記3種類のどのリンス液に対してもリンス時間には殆ど依存しておらず、このコーティング膜は薬液(リンス液)に対して高い耐性、すなわち表面の疎水性が変化しない特性を有することが示された。
【0055】
以上から、実施例1のコーティング剤は、pHを9以下、特にpH7以下にすることにより高い保存安定性が得られ、pH9を超える環境下で塗布すると主剤であるカテコールと重合剤であるジエチレントリアミンとが重合してコーティング膜が形成されること、およびpHを高くすることによりコーティング膜の形成速度を速めることができることが確認された。また、形成されたコーティング膜は十分な均一性をもち、基体(基板)との密着性も高く、薬液に対する耐性も高いことが確認された。
【0056】
(実施例2)
実施例2では、コーティング膜の疎水性を高める2次処理とその効果の例について述べる。
【0057】
図11は、コーティング剤の重合剤を各々ジエチレントリアミン(DET)、ヘキサメチレンジアミン(HMD)、トリス2−アミノエチルアミン(TAEA)、ポリエチレングリコールビス(3−アミノ−プロピル)エーテル(PEG)、ポリエチレンイミン(PEI)として形成されたコーティング膜(1次処理段階の膜)と、それらの膜に対して2次処理を行った膜とにおける水の接触角を示す。
ここで、コーティング膜の主剤にはカテコールを用い、重合剤と主剤の比率は等モルとした。コーティング剤の溶媒は純水である。また、コーティング材のpHは、実施例1で使用したリン酸バッファーを加えていずれも8.5に調整した。基体(基板)には洗浄したコンクリートを用いた。形成直後のコーティング膜のpHは約10であった。
2次処理剤としては、テトラヒドロフラン(THF)溶媒1mL当たりにドデシルアミン(DDA)を2mgと、DDAの2倍のモル量のトリエチルアミンを加えたものを用い、試料を2次処理剤に24時間浸漬させて2次処理を行った。
【0058】
2次処理を行う前の1次処理段階の接触角は、一番小さいものがHMDを重合剤に用いた場合でその値は33°、一番大きいものがDETを重合剤に用いた場合でその値は44°、5種類の重合剤の平均値は39°であった。一方、2次処理を行った後の接触角は、一番小さいものがDETを重合剤に用いた場合でその値は88°、一番大きいものがHMDを重合剤に用いた場合でその値は103°、5種類の重合剤の平均値は94°であり、2次処理により水の接触角は略倍増し、2次処理を施したコーティング膜は高い疎水性(撥水性)を有するものになることが確認された。
【0059】
図12は、2次処理の疎水化(撥水化)に対する効果を、2次処理剤と主剤の材料を変えて調べた結果である。
2次処理剤としては、テトラヒドロフラン(THF)溶媒1mL当たりにドデシルアミン(DDA)を2mgとDDAの2倍のモル量のトリエチルアミンを加えたもの(DDA+トリエチルアミン)、あるいはPFDTを用いた。主剤としては、カテコールあるいはジヒドロキシ安息香酸(2,3−DHBA)を用いた。
ここで、2次処理剤をDDA+トリエチルアミンあるいはPFDTとしたときの測定結果は、カテコールとDETとを等モル比率としたコーティング剤(実施例1で使用したリン酸バッファーを加えてpH8.5に調整)を洗浄したコンクリート基板に塗布し、その結果形成されたコーティング膜試料をこれらの2次処理剤に24時間浸漬し、乾燥した後、水の接触角を測定した結果である。
主剤をジヒドロキシ安息香酸(2,3−DHBA)としたときの測定結果は、主剤を2,3−DHBA、重合剤を等モル量のDETとして純水に溶解させたコーティング剤(実施例1で使用したリン酸バッファーを加えてpH8.5に調整)を用い、基体(基板)を洗浄したコンクリートとしてコーティング膜を形成し(この段階で測定された水の接触角が、二次処理「なし」の場合)、その後、2次処理を行って水の接触角を測定した結果である。ここで、2次処理剤としては、上述のDDA+トリエチルアミンを用いた。そして、試料を2次処理剤に24時間浸漬して2次処理を行い、乾燥した後、水の接触角を測定した。
【0060】
その結果、このようなコーティング剤と2次処理剤の様々な組み合わせにおいても、2次処理を行うことにより水の接触角は2倍以上に大きくなり、2次処理がコーティング膜の疎水化(撥水化)に有効であることが確認された。特に、2,3−DHBAとDETを含有するコーティング剤を用いた場合は、2次処理前の水の接触角1°に対して2次処理後は69°と極めて大幅にコーティング膜が疎水化される。
【0061】
(実施例3)
実施例3では、水を被った状態の基体に対するコーティング膜の形成とその効果について述べる。
ここでは、乾燥したモルタルと水に濡らしたモルタルを準備し、その上に2次処理まで行ったコーティング膜を形成して、そのコーティング膜における水の接触角から、水を被った状態での膜形成でもコーティング膜が疎水機能をもって形成できるかを調べた。
【0062】
まず、同種のモルタル片を基体として複数用意し、その中から5分間純水に浸潤させてその表面を水に濡らした浸水モルタルと、純水浸潤工程を行わず乾燥させた状態の乾燥モルタルを準備した。そして、リファレンスとして、乾燥モルタルの中の1つに対して水の接触角を測定した。その結果、リファレンスである何も行っていない乾燥モルタル(モルタル表面処理なし)の水の接触角は87°であった。なお、モルタル表面の水のpHは約10であった。
【0063】
次に、7mMのカテコールと7mMのDETを純水に溶解させたコーティング剤Aと、0.7mMのカテコールと0.7mMのDETを純水に溶解させたコーティング剤Bを準備した。いずれのコーティング剤も、実施例1で使用したリン酸バッファーを加えてpH8.5に調整した。そして、浸水モルタルの表面に50μLのコーティング剤Aを、また乾燥モルタルの表面に500μLのコーティング剤Bを滴下して、各々のモルタル上にそれぞれのコーティング膜を形成した。
また、ドデシルアミン200mgとトリエチルアミン218mgを100mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶かした2次処理剤を調製した。
そして、この2次処理剤を50mLずつ2つに分け、一方にコーティング膜を形成した浸水モルタルを、他方にコーティング膜を形成した乾燥モルタルを一晩浸した。
その後、各モルタルを2次処理剤から取り出して自然乾燥させ、しかる後各試料に対する水の接触角を前記の方法によって測定した。
【0064】
その測定結果を
図13に示す。乾燥モルタル上に2次処理を伴って形成したコーティング膜に対する水の接触角は平均約118°、浸水モルタル上のそれは平均約114°であった。より具体的には、乾燥モルタル上の接触角は、測定1回目で116.0°、2回目で115.0°、3回目で118.5°、4回目で120.5°、5回目で122.4°であり、浸水モルタル上の接触角は、測定1回目で112.4°、2回目で112.5°、3回目で117.9°、4回目で116.0°、5回目で113.4°であった。
【0065】
水の接触角は、リファレンスとした乾燥モルタルのみのときが87°であるのに対し、コーティング膜を形成することにより有意にその値が上がった。そして、その値は乾燥モルタル上で平均約118°、浸水モルタル上で平均約114°と基体(モルタル)が浸水状態にあってもほぼ同じ値であった。
本結果から、本発明のコーティング剤は、基体が水を被った状態での膜形成でも、乾燥状態で形成したときとほぼ同様の疎水(撥水)機能を付与できることが示された。