特許第6976645号(P6976645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976645
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】特性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/02 20060101AFI20211125BHJP
   G01N 29/36 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   G01N29/02 501
   G01N29/36
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-131462(P2017-131462)
(22)【出願日】2017年7月4日
(65)【公開番号】特開2019-15545(P2019-15545A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100192599
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 雅之
(72)【発明者】
【氏名】吹野 幸治
(72)【発明者】
【氏名】笠井 俊
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−087271(JP,A)
【文献】 特開2017−020937(JP,A)
【文献】 米国特許第06408679(US,B1)
【文献】 特開2008−160689(JP,A)
【文献】 特開2016−001834(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/084917(WO,A1)
【文献】 特開2016−024117(JP,A)
【文献】 特開2015−052524(JP,A)
【文献】 特開平05−223790(JP,A)
【文献】 特開2005−106950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器からの発振信号を受信し、前記発振信号の基準周波数に基づき入力信号を生成する入力信号生成手段と、
前記入力信号を受信し、被測定物の特性に応じた出力信号を出力する特性センサと、
前記入力信号と、前記出力信号とを乗算し、所定の周波数のベースバンド信号を出力するミキサ手段と、
前記ベースバンド信号をアンダーサンプリングし、所定のサンプルレートでデジタル信号に変換して出力する変換手段と、
前記デジタル信号を、前記所定のサンプルレートに従って同相成分信号と直交成分信号とに分け、該同相成分信号と該直交成分信号とをそれぞれ所定の時間積分する直交検波手段と、を備え、
前記所定のサンプルレートの時間間隔は、前記特性センサ内に生じる多重反射の影響が低減して精度が確保される時間から、前記ベースバンド信号の周期の4分の1の時間を減じた値である、
ことを特徴とする弾性表面波センサを備えた特性測定装置。
【請求項2】
前記特性センサは、前記入力信号の弾性表面波の伝搬特性の変化を検出する弾性表面波センサである、
ことを特徴とする請求項1に記載の特性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の特性を測定する特性測定装置に関し、例えば、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)センサを備えた特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物である液体の特性、例えば濃度、粘性率、導電率、誘電率等を測定する特性測定装置には、特性センサとして、例えば、弾性表面波センサが用いられる。弾性表面波センサは、水晶などの圧電性基板上に、櫛型(IDT:InterDigital Transducer)電極・弾性表面波素子が配置されたセンサであり(例えば、特許文献1等参照。)、対象物である液体を弾性表面波センサに滴下し、弾性表面波センサに入力信号を入力して、弾性表面波センサからの出力信号の振幅および位相を検出することで、液体の特性を測定するセンサである。
【0003】
具体的には、例えば図6に示す特性測定装置100は、デジタル回路120とアナログ回路130とを備え、装置全体の源振である発振器140からの出力信号を、デジタル回路120ではクロック源として使用し、アナログ回路130ではPLL回路(位相同期回路)131のリファレンス信号として使用する。PLL回路131は、アナログ回路130において送受信の変復調に使用されるローカルキャリア信号を生成、出力する発振器である。すなわち、位相比較器と電圧制御発振器とで構成され、周波数が低く安定した信号をリファレンス信号として、高周波信号の発振回路として利用される。なお、ここでは、ローカルキャリア信号のローカル周波数は261.5MHzとする。PLL回路131からのローカルキャリア信号は、直交変調器134とミキサ回路(mixer)137とに入力される。
【0004】
一方、デジタル回路120のベースバンド部(10MHz CW Baseband Signal)121は、NCO(数値制御発振器)122で生成される10MHzの複素キャリア信号に基づいて、10MHzの複素ベースバンド信号を2値(I値とQ値)で出力する。この出力信号はそれぞれ、アナログ回路130の第1のLPF(低域通過フィルタ)132および第2のLPF133によって、基本波である10MHzの信号だけが通過され、10MHzの正弦波と余弦波とが直交変調器134に入力される。
【0005】
直交変調器134は、10MHzの複素ベースバンド信号とローカルキャリア信号とを乗算することで、つまり双方の差分によって、ベースバンド信号を251.5MHzの周波数に遷移する。この直交変調器134からの出力信号は、パワーアンプ135によって電力増幅されてSAWセンサ(弾性表面波センサ)150に入力される。SAWセンサ150は、デバイスとしてはSAWフィルタであり、251.5MHz付近の信号だけを通過させるように構成、設計されている。従って、センサとして狭帯域な検査信号と組み合わせることで、検査信号以外の周波数帯の雑音を抑圧し、高いSN比(信号雑音比)を得ることができるものである。
【0006】
SAWセンサ150からの出力信号は、LNA136で電力増幅された後に、ミキサ回路137に入力される。ミキサ回路137には、PLL回路131からの261.5MHzのローカルキャリア信号と、LNA136からの251.5MHzの信号とが入力され、これらの信号を乗算することで、つまり双方の差分によって、10MHzのベースバンド信号と高調波成分とに分けられる。このように、SAWセンサ150の検査信号である251.5MHzの信号と、デジタル回路120におけるベースバンド信号である10MHzの信号とを生成するために、PLL回路131では、261.5MHzのローカルキャリア信号が生成され、ミキサ回路137では、乗算処理が行われる。
【0007】
続いて、第3のLPF138で高調波成分を取り除いた後に、ベースバンド信号は、デジタル信号に変換されるためにA/D変換器139に入力される。A/D変換器139のサンプルレートは、ナイキストのサンプリング定理により、通常、入力信号の周波数の2倍以上必要である。つまり、入力信号が10MHzの場合、20MHz以上の高いサンプルレートを要する。A/D変換器139によってデジタル信号に変換された検査信号は、デジタル回路120の乗算回路123、124によって、NCO122で生成される10MHzの複素キャリア信号と乗算されて、振幅情報と位相情報を含んだDC成分と高調波成分とに分解される。続いて、第4のLPF125および第5のLPF126によって高調波成分を取り除いて、DC成分を取り出す。
【0008】
ここで、各データ(DC成分)には雑音が含まれており、要求精度を満足するために、十分な量のデータをRAM127に格納、保存する。その後、上位制御部(CPU)160は、RAM127に格納されたデータを回収して平均化処理を行い、SAWセンサ150を通過した検査信号の振幅と位相を演算、取得する。そして、取得した検査信号の振幅と位相を、SAWセンサ150の種類に応じて、濃度やその他の様々な情報に変換するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−181178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、このような特性測定装置を電池駆動式の携帯型として商品化する場合、回路規模を削減して、低消費電力化、小型化および低価格化することが求められる。そのためには、全ての回路構成を1チップのICに搭載することが望ましい。しかしながら、上記のような特性測定装置は、回路構成が複雑で消費電力も高いものであり、回路構成の簡素化、消費電力の低減が必要であった。
【0011】
そこで本発明は、回路構成を簡素化し、消費電力を低減することが可能な特性測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、発振器からの発振信号を受信し、前記発振信号の基準周波数に基づき入力信号を生成する入力信号生成手段と、前記入力信号を受信し、被測定物の特性に応じた出力信号を出力する特性センサと、前記入力信号と、前記出力信号とを乗算し、所定の周波数のベースバンド信号を出力するミキサ手段と、前記ベースバンド信号をアンダーサンプリングし、所定のサンプルレートでデジタル信号に変換して出力する変換手段と、前記デジタル信号を、前記所定のサンプルレートに従って同相成分信号と直交成分信号とに分け、該同相成分信号と該直交成分信号とをそれぞれ所定の時間積分する直交検波手段と、を備え、前記所定のサンプルレートの時間間隔は、前記特性センサ内に生じる多重反射の影響が低減して精度が確保される時間から、前記ベースバンド信号の周期の4分の1の時間を減じた値である、ことを特徴とする特性測定装置である。
【0013】
この発明によれば、入力信号生成手段によって生成された入力信号が特性センサに入力されると、特性センサから被測定物の特性に応じた出力信号が出力される。この出力信号は、ミキサ手段によって入力信号と乗算されて周波数シフトされ、変換手段によってアンダーサンプリングされ、所定のサンプルレートでデジタル信号に変換される。このとき、所定のサンプルレートの時間間隔は、特性センサの精度が確保される所定の時間から、ベースバンド信号の周期の4分の1の時間を減じた値である、この値は、特性センサからの出力信号の周波数よりも低いサンプルレートである。変換されたデジタル信号は、直交検波手段によって、所定のサンプルレートに従って同相成分信号と直交成分信号とに分けられ、さらに、同相成分信号と直交成分信号とがそれぞれ所定の時間積分される。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の特性測定装置において、前記特性センサは、前記入力信号の弾性表面波の伝搬特性の変化を検出する弾性表面波センサである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、特性センサからの出力信号がミキサ手段によって周波数シフトされ、特性センサからの出力信号の周波数よりも低いサンプルレートでアンダーサンプリングされてデジタル信号に変換されるので、サンプルレートが低いA/D変換器で変換手段を構成することができる。そのため、消費電力を低減することが可能になる。また、直交変調器、NCO、及び乗算回路等を備えなくても、弾性表面波センサからの出力信号の振幅と位相とを取得することができるため、構成を簡素化することができる。請求項1に記載の発明によれば、また、変換手段における所定のサンプルレートの時間間隔は、特性センサ内に生じる多重反射の影響が低減して精度が確保される時間から、ベースバンド信号の周期の4分の1の時間を減じた値であるため、直交検波手段により1バースト毎に位相が90°回転するので、乗算回路を備える必要がなくなるため、回路構成を簡素化することが可能になる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、特性センサを、入力信号の弾性表面波の伝搬特性の変化を検出する弾性表面波センサで構成したことにより、直交検波手段によって、所定時間分の同相成分信号と直交成分信号とに基づいて弾性表面波センサからの出力信号の振幅と位相を演算、取得することが可能である。これにより、測定対象物である液体の濃度、粘性率、導電率、誘電率等を測定する特性測定装置を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施の形態に係る特性測定装置1の概略を示すブロック構成図である。
図2図1の入力信号IS、出力信号OS、及びベースバンド信号BSの波形を示す波形図である。
図3図1の直交検波回路5を示すブロック構成図である。
図4図3の直交検波回路5による演算を示すイメージ図である。
図5図3の直交検波回路5によるI値及びQ値の演算結果(真理値)を示す図である。
図6】従来の弾性表面波センサを備えた特性測定装置を示す構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
図1は、この発明の実施の形態に係る特性測定装置1を示す構成ブロック図である。この特性測定装置1は、測定対象物の特性、例えば、液体の濃度、粘性率、導電率、誘電率などを測定するための装置であり、主として、発振器2と、アナログ回路3と、SAWセンサ(特性センサ)4と、デジタル回路5と、上位制御部(CPU)6とを備えている。
【0022】
発振器2は、特性測定装置1全体の源振であり、例えば10MHzの発振信号WSを出力し、その発振信号WSが、後述するアナログ回路3のPLL回路(位相同期回路)31にリファレンス信号として入力されるとともに、デジタル回路5のクロック源として使用される。ここで、発振器2は、高い精度が要求されるため、水晶発振器が望ましい。また、後述するように、アナログ回路3のミキサ回路(mixer)32に入力され、PLL回路31の出力信号と乗算されることで、例えば250MHzの周波数に遷移するために使用される。
【0023】
アナログ回路3は、PLL回路(入力信号生成手段)31と、ミキサ回路32と、パワーアンプ33と、LNA(低雑音増幅器)34と、ミキサ回路(ミキサ手段)35と、LPF(低域通過フィルタ)36と、A/D変換器(変換手段)37とを備えている。
【0024】
PLL回路31は、所定の周波数の入力信号ISを生成してSAWセンサ4に入力する回路である。すなわち、位相比較器と電圧制御発振器とで構成され、発振器2から入力された周波数が低く安定した発振信号WSをリファレンス信号として、高周波信号の発振回路として機能し、所定の周波数の入力信号IS(RF信号)、この実施の形態では260MHzの入力信号ISを生成する。この入力信号ISは、ミキサ回路32に入力される。
【0025】
ミキサ回路32は、260MHzの入力信号ISと10MHzの発振信号WSとを乗算することで、つまり双方の差分によって、入力信号ISを250MHzの周波数に遷移する回路である。この入力信号ISは、パワーアンプ33に入力され、パワーアンプ33で電力増幅されてSAWセンサ4に入力される。
【0026】
SAWセンサ4は、この実施の形態では、デバイスとしての実態がSAWフィルタであり、250MHz付近の信号だけを通過させるように構成、設計されている。従って、センサとして狭帯域な入力信号ISと組み合わせることで、入力信号IS以外の周波数帯の雑音を抑圧し、高いSN比(信号雑音比)を得ることができるものである。このようなSAWセンサ4に入力される入力信号ISと、SAWセンサ4から出力される出力信号OSとは、周波数は同じであるが、SAWセンサ4に滴下等される測定対象物の特性に応じて、振幅や位相が異なり(変化し)、あるいは遅延が生じる。ここで、SAWセンサ4はSAWフィルタでなくてもよく、センサとして測定したい特性・事象を電気信号の振幅や位相または遅延に変換可能なものであればよい。また、SAWセンサ4と並列にリファレンスチャネル(入力信号ISをパワーアンプ33からLNA34に通過させるだけの経路)を設け、スイッチの切り換えによって、検査信号をSAWセンサ4に通過させたり通過させなかったりすることで、測定対象物の特性を測定する(比較測定する)ようにしてもよい。
【0027】
このようなSAWセンサ4を通過した検査信号は、250MHzの出力信号OSとしてLNA34に入力され、LNA34によって電力増幅された後に、ミキサ回路35に入力される。ミキサ回路35は、ミキサ回路32と同様の構成であり、250MHzの出力信号OSと、PLL回路31から出力される260MHzの入力信号ISとを乗算することで、つまり双方の差分によって、出力信号OSを10MHzの周波数に遷移してベースバンド信号BSを出力する回路である。このベースバンド信号BSは、LPF36に入力される。このLPF36は、高調波成分を取り除くフィルタであり、10MHz付近の信号のみを通過させることで、SN比を改善するものである。従って、所定のSN比を満たす場合には、LPF36を設けなくてもよい。このLPF36を通過したベースバンド信号BSは、A/D変換器37に入力される。
【0028】
A/D変換器37は、10MHzのベースバンド信号BSをアンダーサンプリングして、例えば、11.975μsのサンプルレートの時間間隔でデジタル信号DSに変換するアナログデジタル変換器である。このA/D変換器37には、アナログドライバ(増幅器)が内蔵され、アナログドライバの帯域は、要求精度に応じて、高周波信号を無歪みに、あるいは低い歪みで入力可能となっている。
【0029】
ここで、このサンプルレートの時間間隔を11.975μsに設定する理由について説明する。SAWセンサ4には、250MHzの周波数に遷移された入力信号ISがバースト信号として入力され、測定対象物が滴下等され、測定対象物の特性に応じて出力信号OSの振幅や位相が変化し、あるいは遅延が生じる。これにより、SAWセンサ4内にバースト信号の多重反射が生じるが、この影響が一定以下になる時間、すなわち、SAWセンサ4の精度が確保される所定の時間が、12μsである。また、A/D変換器37に入力されるベースバンド信号BSの周波数は10MHzであるため、周期が0.1μsであるが、後述するように、デジタル信号DSを直交変調し、1サンプリング毎に1/4波長(1象限、90°)ずつ回転するので、1象限毎のベースバンド信号BSの周期は、0.1μsの4分の1(=0.025μs)になる。そのため、SAWセンサ4の精度が確保される時間12μsから、ベースバンド信号BSの1象限毎の周期0.025μsを減じた値11.975μsを、サンプルレートの時間間隔にする。
【0030】
図2は、図1のパワーアンプ33から出力される入力信号IS、LNA34に入力される出力信号OS、及びA/D変換器37に入力されるベースバンド信号BSの波形を示す波形図である。図2に示すように、サンプルレートの時間間隔を11.975μsにすると、A/D変換器37にベースバンド信号BSが入力されているタイミング(ベースバンド信号BSの波形が上下に開いているタイミング)でサンプリングが行われるので、等価的にサンプリングを行うことが可能になる。なお、このサンプルレートの時間間隔は、上記のようなSAWセンサ4内の多重反射の影響が一定以下になる時間、及びベースバンド信号BSの周波数の関係が成立する値であれば、11.975μsに限られない。
【0031】
デジタル回路5は、アナログ回路3のA/D変換器37から出力されるデジタル信号DSをデジタル信号処理する回路であり、2ビットカウンタ51と、直交検波回路(直交検波手段)7とを備えている。2ビットカウンタ51は、所定のサンプルレート時間間隔、つまり11.975μsごとにカウントし、「0」、「1」、「2」、「3」、「0」、「1」・・・という制御信号(カウント値)を繰り返し出力するカウンタである。
【0032】
直交検波回路7は、A/D変換器37から出力されるデジタル信号DSを、11.975μsごとに同相成分信号と直交成分信号とに分け、この同相成分信号と直交成分信号とをそれぞれ所定の時間積分する回路である。具体的には、この実施の形態では、図3に示すように、第1の論理回路71と、第2の論理回路72と、第1のフリップフロップ73と、第2のフリップフロップ74とを備えている。
【0033】
第1の論理回路71は、2ビットカウンタ51の制御信号に従って、A/D変換器37から出力されてデジタル信号DSに変換された出力信号OSの同相成分信号を、所定の時間積分する論理回路である。すなわち、A/D変換器37からのデジタル信号DSと、第1のフリップフロップ73に格納、蓄積されたI値が入力され、図4に示すように、2ビットカウンタ51の制御信号が「0」(初期位相θ+0°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値(x−x)にデジタル信号DS(x)を加算して、第1のフリップフロップ73に出力する。また、制御信号が「1」(初期位相θ+90°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値(x−x)をそのまま第1のフリップフロップ73に出力し、制御信号が「2」(初期位相θ+180°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値(x−x)からデジタル信号DS(x)を減算して、第1のフリップフロップ73に出力し、制御信号が「3」(初期位相θ+270°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値(x−x)をそのまま第1のフリップフロップ73に出力する。
【0034】
同様に、第2の論理回路72は、2ビットカウンタ51の制御信号に従って、A/D変換器37から出力されデジタル信号DSに変換された出力信号OSの直交成分信号を、所定の時間積分する論理回路である。すなわち、A/D変換器37からのデジタル信号DSと、第2のフリップフロップ74に格納、蓄積されたQ値が入力され、制御信号が「0」(初期位相θ+0°)の場合には、第2のフリップフロップ74のQ値(x−x)をそのまま第2のフリップフロップ74に出力する。また、制御信号が「1」(初期位相θ+90°)の場合には、第2のフリップフロップ74のQ値(x−x)にデジタル信号DS(x)を加算して、第2のフリップフロップ74に出力し、制御信号が「2」(初期位相θ+180°)の場合には、第2のフリップフロップ74のQ値(x−x)をそのまま第2のフリップフロップ74に出力し、制御信号が「3」(初期位相θ+270°)の場合には、第2のフリップフロップ74のQ値(x−x)からデジタル信号DS(x)を除算して、第2のフリップフロップ74に出力する。
【0035】
このように、サンプルレート時間間隔の11.975μsごとの制御信号(制御タイミング)に従って、制御信号が「0」(初期位相θ+0°)の場合には、デジタル信号DSを「+」の同相成分信号に分け、制御信号が「1」(初期位相θ+90°)の場合には、デジタル信号DSを「+」の直交成分信号に分け、制御信号が「2」(初期位相θ+180°)の場合には、デジタル信号DSを「−」の同相成分信号に分け、制御信号が「3」(初期位相θ+270°)の場合には、デジタル信号DSを「−」の直交成分信号に分けて、同相成分信号と直交成分信号とをそれぞれ所定の時間積分、蓄積するものである。
【0036】
第1のフリップフロップ73と第2のフリップフロップ74は、複数のビットで構成され、データ(1、0)を保持、記憶する論理回路・レジスタであり、第1のフリップフロップ73は第1の論理回路71からの出力値を記憶し、第2のフリップフロップ74は第2の論理回路72からの出力値を記憶する。このような両フリップフロップ73、74には、振幅情報と位相情報を含んだDC成分・複素数(フーリエ変換の直流成分)のみが記憶、蓄積され、雑音や干渉成分は抑圧されるようになっている。また、積分時間、つまり両フリップフロップ73、74のビット数は、長くすればアンダーサンプリングによって劣化したSN比を改善でき、各デジタル信号(サンプル)に含まれる雑音を抑圧して要求精度を満足するのに最適な時間に設定されている。
【0037】
このような両フリップフロップ73、74に記憶、蓄積されたI値およびQ値は、積分時間に達すると上位制御部6に入力され、ゼロクリアされる。つまり、積分時間ごとに、積分とダンプ(Integrate and Dump)を繰り返す。ここで、両フリップフロップ73、74の出力値は、すでに平均化処理が行われているため、上位制御部6への出力値(測定結果)の転送は、比較的低レートな伝送でよい。
【0038】
前述の第1の論理回路71と第2の論理回路72との出力値により、第1のフリップフロップ73のI値及び第2のフリップフロップ74のQ値は、図5に示すように出力される。すなわち、制御信号が「0」(初期位相θ+0°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値は1であり、第2のフリップフロップ74のQ値は0である。また、制御信号が「1」(初期位相θ+90°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値は0であり、第2のフリップフロップ74のQ値は1であり、制御信号が「2」(初期位相θ+180°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値は−1であり、第2のフリップフロップ74のQ値は0であり、制御信号が「3」(初期位相θ+270°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値は0であり、第2のフリップフロップ74のQ値は−1である。
【0039】
上位制御部6は、両フリップフロップ73、74から出力されるI値およびQ値に基づいて、SAWセンサ4から出力された出力信号OSの振幅と位相を演算して、測定対象物の特性を測定する演算処理部である。すなわち、SAWセンサ4を通過する入力信号ISの振幅と位相を、SAWセンサ4の種類に応じて濃度やその他の情報に変換する。ここで、上位制御部6は、このような上位制御の役割を担うものであればよく、スマートフォン(多機能携帯電話)やパーソナルコンピュータで構成してもよい。また、デジタル回路5内にハード的に実装してもよい。
【0040】
次に、このような構成の特性測定装置1の作用および特性測定方法等について説明する。ここで、SAWセンサ4には測定対象物が滴下等され、SAWセンサ4は測定対象物にさらされているものとする。
【0041】
まず、アナログ回路3のPLL回路31によって260MHzの入力信号ISが生成され、ミキサ回路32で周波数遷移され、パワーアンプ33で電力増幅されてSAWセンサ4に入力される。次に、SAWセンサ4を通過して振幅や位相が変化されて出力信号OSが出力され、この出力信号OSがLNA34によって電力増幅され、ミキサ回路35で周波数遷移されたベースバンド信号BSが、LPF36により高調波成分を取り除かれ、10MHzのベースバンド信号BSがA/D変換器37に入力される。続いて、A/D変換器37によって、11.975μsのサンプルレートの時間間隔でデジタル信号DSに変換される。
【0042】
一方、デジタル回路5の2ビットカウンタ51によって、サンプルレート時間間隔11.975μsごとにカウントされ、その制御信号(カウント値)に従って、A/D変換器37から出力されたデジタル信号が、直交検波回路7によって同相成分信号と直交成分信号とに分けられ、それぞれが所定の時間積分される。そして、積分されたI値とQ値とが出力される。すなわち、制御信号が「0」(初期位相θ+0°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値は1であり、第2のフリップフロップ74のQ値は0である。また、制御信号が「1」(初期位相θ+90°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値は0であり、第2のフリップフロップ74のQ値は1であり、制御信号が「2」(初期位相θ+180°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値は−1であり、第2のフリップフロップ74のQ値は0であり、制御信号が「3」(初期位相θ+270°)の場合には、第1のフリップフロップ73のI値は0であり、第2のフリップフロップ74のQ値は−1である。
【0043】
その後、積分された上記のI値とQ値とが上位制御部6に入力され、上位制御部6において、I値およびQ値に基づいてSAWセンサ4から出力された検査信号の振幅と位相が演算され、その結果、測定対象物の特性が測定されるものである。
【0044】
以上のように、このような構成の特性測定装置1によれば、SAWセンサ4から出力された250MHzの出力信号OSがミキサ回路35によって周波数シフトされることにより、11.975μsという長いサンプルレートの時間間隔でアンダーサンプリングされてデジタル信号DSに変換されるので、A/D変換器37のサンプルレートが低くても良くなる。そのため、特性測定装置1の消費電力を低減することが可能になる。また、特性測定装置1は、直交検波回路7を備えたことにより、直交変調器、NCO、及び乗算回路等を備える必要がないので、構成が簡素化されたSAWセンサを実現することができる。
【0045】
さらに、A/D変換器37が、SAWセンサ4の精度が確保される時間12μsからベースバンド信号BSの1象限毎の周期0.025μsを減じた値11.975μsの時間間隔でサンプリングするので、入力信号ISの1バーストに対して1回のサンプリングになる。これにより、等価的にアンダーサンプリングを行うことができる。
【0046】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、特性センサをSAWセンサ4で構成したが、被測定物の特性に応じて、入力信号を変換して出力信号を出力するセンサであれば、SAWセンサ以外のセンサであっても良い。
【符号の説明】
【0047】
1 特性測定装置
2 発振器
3 アナログ回路
31 PLL回路(入力信号生成手段)
32 ミキサ回路(mixer)
33 パワーアンプ
34 LNA(低雑音増幅器)
35 ミキサ回路(ミキサ手段)
36 LPF(低域通過フィルタ)
37 A/D変換器(変換手段)
4 SAWセンサ(特性センサ)
5 デジタル回路
51 2ビットカウンタ
6 上位制御部(CPU)
7 直交検波回路(直交検波手段)
71 第1の論理回路
72 第2の論理回路
73 第1のフリップフロップ
74 第2のフリップフロップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6