(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
特許文献1のように、管内で磁気分離することにより目的の細胞を分離及び回収することが行われている。管内で磁気分離する手法は、流路構造を持つためシステム化や装置化しやすいという利点や、管の内径を小さくすることで標識した粒子懸濁液と磁気との距離を近くすることができるという利点がある。特に磁気を用いる場合、磁力は距離の二乗に反比例するため、距離を近づけることによる磁気分離の性能向上は極めて重要である。しかしながら、この方法にはいくつか課題が残されている。
1つ目は、回収したい細胞を管内から効率的に回収することが困難である点である。ポジティブ選択であれ、ネガティブ選択であれ、回収したい粒子は磁力や重力等によって管の壁へ集められる。壁に集められた粒子を回収するために、一般的には管内に液体を送液するが、管の壁面は液流れが生じにくく、管の中央は速い速度で液は流れるが、壁面の速度は極めて遅い。このため、送液によって効率的に壁面の細胞を移動させることが困難となり、結果として目的の粒子の回収率を低下させる。
2つ目は、管内で処理(分離)する前の液量に対して、管内で処理(分離)後の回収液量を維持する又は削減することが困難、すなわち分離処理後の回収液の液量が処理前の液量と比較して増加する傾向があるため、稀少な粒子の取り扱いとして適さない点である。
1つ目の課題である回収したい粒子の回収効率が悪いことを補うための手段としては、例えば、追加の送液を行うことで回収されなかった粒子を回収する手段がある。しかしながらこの場合、処理後の回収液量が増えることになる。回収対象の粒子が稀少な粒子である場合、回収液量が増えると粒子の濃度が極めて薄くなり、取り扱いが困難となる。稀少な粒子を扱う場合は、むしろ回収液量を減らして少量での取り扱いが望まれるため、稀少な粒子の取り扱いとして適していない。
【0012】
本開示は、一態様において、分離を行う懸濁液中に含まれる目的粒子(検出対象の粒子)の数が少ない場合、検出対象外の粒子を標識して分離することによって、検出対象の粒子の分離及び回収精度を向上できる、という本発明者が見出した新たな知見に基づく。
また、本開示は、一態様において、検出対象の粒子を流路の底面側に移動させ、かつ検出対象外の粒子を流路の底面以外の部分に捕捉(固定)した状態で、流路内に気相を導入し流路内の懸濁液を回収することによって、検出対象の粒子の分離及び回収精度を向上できる、という本発明者が見出した新たな知見に基づく。
【0013】
本開示によって、検出対象の粒子を高い精度で分離し、回収できるメカニズムは明らかではないが、以下のように推測される。
検出対象の粒子を含む懸濁液が存在する流路に気相を導入すると流路内に気液界面が形成される。さらに気相を導入することによって気液界面に押出圧力が加わり、気液界面が流入口側から流出口側に向かって流路内を移動する。この気液界面の移動によって、懸濁液とともに流路内の検出対象の粒子は押し出されるが、検出対象外の粒子は流路内に捕捉(固定)されているため押し出されることなく保持される。また、検出対象外の粒子が、検出対象の粒子とは異なる流路の壁面に捕捉されていれば、検出対象の粒子が押し出される際の障害になることなく、スムーズに検出対象の粒子を押し出すことができる。この結果、検出対象の粒子を高い精度で分離し、回収できると考えられる。ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
血中循環腫瘍細胞/Circulating Tumor Cell(CTC)等の稀少細胞は、通常、10mlの血液中に通常0〜10個程度しか含まれていない。本開示の方法によれば、一又は複数の実施形態において、稀少細胞よりも多量に白血球を含有する試料から、稀少細胞と白血球とを分離し、稀少細胞を高い回収率で回収することができる。血液中のCTC数は、転移性のがんの治療効果の判定や予後予測の因子としての有用性が認められており、より正確な分析を行うことが求められている。よって、本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、これらの分野における治療効果の判定及び予後予測においてきわめて重要な技術であるといえる。
【0015】
[分離方法]
本開示は、一態様において、標識されている粒子と標識されていない粒子とを分離する方法(本開示の分離方法)に関する。本開示の分離方法は、流路の一端から、標識されている粒子と標識されていない粒子とを含む懸濁液を供給すること、前記流路内において、前記標識されている粒子を、重力方向とは異なる方向に偏向させること、前記標識されている粒子を流路内壁面に固定すること、及び前記標識されている粒子が流路内壁面に固定された状態で、前記流路の一端から流路内に気相を導入して前記流路の他端から前記流路内の懸濁液を排出し、前記標識されていない粒子を回収することを含む。本開示の分離方法によれば、一又は複数の実施形態において、標識されている粒子と標識されていない粒子とを高い精度で分離することができるとともに、標識されていない粒子を高い精度で回収することができる。
【0016】
本開示の分離方法は、流路の一端から、標識されている粒子と標識されていない粒子とを含む懸濁液を供給することを含む。これにより、懸濁液を流路内に充填する。
【0017】
流路は、一又は複数の実施形態において、流入口と流出口とを有する。流路の長手方向の長さは、一又は複数の実施形態において、流路中での標識されていない粒子(目的粒子)のロスを低減する点から、80cm以下、60cm以下若しくは40cm以下であり、又は2cm以上、5cm以上若しくは10cm以上である。
【0018】
流路の内径は、一又は複数の実施形態において、安定した気液界面を形成でき、標識されていない粒子の回収精度をより向上できる点から、50mm以下、20mm以下若しくは10mm以下であり、又は0.5mm以上、1mm以上若しくは2mm以上である。
【0019】
流路の体積は、一又は複数の実施形態において、標識されていない粒子の回収精度をより向上できる点から、1,0000μl以下、5,000μl以下若しくは2,000μl以下であり、又は10μl以上、50μl以上若しくは100μl以上である。
【0020】
流路は、流入口と流出口との直線方向(流路の長手方向)に対して直交する断面形状が、一又は複数の実施形態において、円形、楕円形、矩形や、三角形、四角形、五角形、六角形、七角形及び八角形等の多角形等が挙げられる。路中での標識されていない粒子(目的粒子)のロスを防止する点から、円形又は楕円形が好ましい。流路の形状は、一又は複数の実施形態において、中空状の円筒形状、略直方体形状又は多角形筒状等が挙げられる。
【0021】
流路は、一又は複数の実施形態において、垂直方向(重力方向)に対して直交する方向(略水平方向)に配置されることが好ましい。
【0022】
本開示の分離方法の一又は複数の実施形態において、標識されていない粒子が検出対象の粒子(目的粒子)であり、標識されている粒子が検出対象外の粒子である。懸濁液は、一又は複数の実施形態において、標識されていない粒子よりも標識されている粒子を多く含む。懸濁液における標識されている粒子に対する標識されていない粒子の割合([標識されていない粒子]/[標識されている粒子])は、一又は複数の実施形態において、1%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下又は0.09%以下である。本開示の分離方法は、一又は複数の実施形態において、標識されていない粒子よりも標識されている粒子を多く含む懸濁液から、標識されていない粒子を分離・回収する場合に有用な技術である。
【0023】
粒子の標識は、一又は複数の実施形態において、磁気標識又は金属標識等が挙げられる。磁気標識の場合、粒子の標識は、一又は複数の実施形態において、粒子の結合分子と、磁性ビーズ(磁気ビーズ)の表面に固定された物質(結合分子に特異的に反応する物質)とが結合して粒子に磁気ビーズが固定化されることにより行うことができる。磁性ビーズに固定される物質は、一又は複数の実施形態において、標識する粒子の結合分子に応じて適宜決定できる。磁性ビーズとしては、一又は複数の実施形態において、表面にアビジンが固定された磁性ビーズ、表面にストレプトアビジンが固定された磁性ビーズ、表面にニュートラアビジンが固定された磁性ビーズ、表面にビオチンが固定された磁性ビーズ、表面にビオチン誘導体が固定された磁性ビーズ、表面に抗体が固定された磁性ビーズ、表面に抗原が固定された磁性ビーズ等があげられる。磁性ビーズのサイズは、特に制限されるものではなく、標識対象となる粒子のサイズに応じて適宜決定できる。標識対象となる粒子のサイズが、白血球やCTCのように直径が5〜20μmである場合、一又は複数の実施形態において、標識効率向上の点から、1μm以下、800μm以下、又は500μm以下である。また、磁気応答性の点から、50μm以上、又は100μm以上である。
【0024】
懸濁液の供給は、一又は複数の実施形態において、流路の他端(懸濁液の供給側とは反対側の流路の端)が閉じられた状態で行われることが好ましい。流路内に供給された懸濁液は、一又は複数の実施形態において、略全量が流路内に充填することが好ましい。懸濁液の供給は、流路への懸濁液の充填をスムーズに行う点から、流路内に磁界又は電界を生じさせない状態で行うことが好ましい。
【0025】
流路に供給する懸濁液の量は、一又は複数の実施形態において、標識されていない粒子の回収精度をより向上できる点から、10,000μl以下、5,000μl以下若しくは2,000μl以下であり、又は10μl以上、50μl以上若しくは100μl以上である。
【0026】
本開示の分離方法は、一又は複数の実施形態において、充填された懸濁液を静置することを含んでもよい。これにより、標識されていない粒子を、該粒子に作用する重量等を利用することによって、標識されていない粒子を流路の底面側に移動させることができる。静置時間は、細胞の沈降速度と効率的な磁気分離の点から、一又は複数の実施形態において、1分以上、5分以上若しくは10分以上であり、又は60分以下若しくは30分以下である。
【0027】
本開示の分離方法は、流路内において、標識されている粒子を、重力方向とは異なる方向に偏向させることを含む。
【0028】
偏向は、一又は複数の実施形態において、流路内に磁界又は電界を生じさせることにより行うことができる。磁界又は電界は、一又は複数の実施形態において、流路の長手方向全体に発生させてもよいし、流路の一部に発生させていてもよい。
標識されている粒子を標識されていない粒子とは異なる方向、つまり重力方向とは異なる方向に偏向させることとしては、一又は複数の実施形態において、標識されていない粒子を流路の底面側に移動させ、かつ標識されている粒子を流路の底面以外の部分に移動させることにより行うことができる。磁界は、一又は複数の実施形態において、流路の磁場照射体を配置すること等により行うことができる。配置箇所は、標識されている粒子を偏向させる方向に応じて適宜決定でき、流路の底面以外の部分に移動させる場合は、一又は複数の実施形態において、流路の上部及び側面の少なくとも一方に配置すればよく、流路上面に配置した場合と比較して弱い磁界で標識されている粒子を偏向できることから、流路の側面の一方又は双方に配置することが好ましい。磁場照射体は、一又は複数の実施形態において、流路の長手方向にわたって配置してもよいし、流路の長手方向の少なくとも一部に配置してもよい。磁場照射体の数は、一又は複数の実施形態において、1個であってもよいし、2個以上の複数であってもよい。磁場照射体としては、一又は複数の実施形態において、磁石又は電磁石等が挙げられる。
【0029】
本開示の分離方法は、一又は複数の実施形態において、標識されている粒子と標識されていない粒子とを含む懸濁液を流路内で静置することにより、標識されていない粒子に作用する重力を利用して標識されていない粒子を流路の底面側に移動させること、及び、流路内に磁界又は電界を生じさせることにより、標識されている粒子を流路の底面以外の部分に移動させることを含む。
【0030】
本開示の分離方法は、偏向させた標識されている粒子を流路内壁面に固定することを含む。
【0031】
固定は、標識されている粒子の標識方法によって適宜決定できる。標識されている粒子が磁気標識されている粒子である場合、固定は、流路内に磁界を発生させることにより行うことができる。
【0032】
本開示の分離方法における一又は複数の実施形態において、懸濁液の静置、並びに標識されている粒子の偏向及び固定は同時に行ってもよいし、別々のタイミングで行ってもよい。
【0033】
本開示の分離方法は、一又は複数の実施形態において、標識されている粒子が流路内壁面に固定された状態で、気相を流路の一端から流路内に導入して流路の他端から流路内の懸濁液を排出し、標識されていない粒子を回収することを含む。気相を導入することにより、気液界面の移動によって懸濁液を排出させて流路内の標識されていない粒子を押し出すことにより、効率よく粒子を回収することができる。また、気相を導入することにより、粒子回収時の液量を、分離前の懸濁液の液量と同量又は少ない量にすることが可能である。
【0034】
本開示における「気相」とは、気体によって構成される相のことをいう。気相の導入は、一又は複数の実施形態において、導入された気相の圧力で流路内の懸濁液を標識されていない粒子とともに流路の他端側から排出されるように行うことができる。気相の導入は、一又は複数の実施形態において、流路内の懸濁液と導入した気相との間に気液界面が形成されるように行うことができ、さらには、この気液界面が流路の一端(流入口)から他端(流出口)に向かって移動するように行うことができる。本開示において導入される気相は、一又は複数の実施形態において、流路の内壁面において、点でも線でもない一定の領域を占拠することが好ましく、気相がこのような形態をとる場合、泡とは相違するものとなる。また、気相を導入することにより形成される気液界面と流路の内壁面との接触点は、一又は複数の実施形態において、連続したラインを形成している。気体としては、一又は複数の実施形態において、空気、酸素、窒素、アルゴン又は炭酸ガス等が使用できる。
【0035】
気相は、一又は複数の実施形態において、流路の一端に配置された圧力発生機構等によって導入することができる。圧力発生機構としては、一又は複数の実施形態において、シリンジポンプ、チューブポンプ又は真空ポンプ等が挙げられる。
【0036】
気相の流量は、安定した気液界面形成でき、標識されていない粒子の回収精度をより向上できる点、及び流路内壁面に固定した標識粒子の固定を維持する点から、一又は複数の実施形態において、25μl/分以上、50μl/分以上若しくは75μl/分以上であり、又は500μl/分以下若しくは250μl/分以下である。
【0037】
懸濁液の排出は、一又は複数の実施形態において、流路内の全量を排出してもよいし、少なくとも一部の量を排出してもよい。排出量を流路内の懸濁液の一部とすることによって、一又は複数の実施形態において、標識されていない粒子を濃縮した状態で回収することができる。
【0038】
本開示の分離方法は、一又は複数の実施形態において、標識されている粒子の固定を解除し、流路内に液体を導入することにより、標識されている粒子を回収することを含んでいてもよい。
【0039】
本開示において懸濁液としては、一又は複数の実施形態において、標識されている粒子と標識されていない粒子とを含む試料であって、ヒト、患者又は動物等から得られる試料が挙げられる。試料は、一又は複数の実施形態において、血液、血漿又は血清等を調製して得ることができる。
本開示における粒子としては、特に限定されるものではなく、ヒト又はヒト以外の動物の細胞が挙げられる。特に限定されない細胞の例としては、稀少細胞、白血球、赤血球、血小板およびそれらの未分化細胞等が挙げられる。稀少細胞とは、ヒト又はヒト以外の動物の血液中に含まれ得る血球成分(赤血球、白血球、及び血小板)以外の細胞をいう。稀少細胞としては、一又は複数の実施形態において、がん細胞、循環腫瘍細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、がん幹細胞、上皮細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、胎児細胞、幹細胞、未分化白血球、未分化赤血球及びこれらの組み合わせからなる群から選択される細胞等が挙げられる。
本開示において、標識されている粒子は検出対象粒子であり、前記標識されていない粒子は検出対象外の粒子である。検出対象粒子としては、一又は複数の実施形態において、稀少細胞が挙げられ、検出対象外の粒子としては、一又は複数の実施形態において、白血球が挙げられる。
【0040】
[分離装置]
本開示は、一態様において、標識されている粒子と標識されていない粒子とを分離するための装置(本開示の分離装置)に関する。本開示の分離装置は、標識されている粒子と標識されていない粒子とを含む懸濁液を供給可能な流路と、標識されている粒子を、重力方向とは異なる方向に偏向させ、流路内壁面に固定する手段と、流路内の懸濁液を排出するための気相を導入するための導入手段とを有する。本開示の分離装置によれば、一又は複数の実施形態において、標識されている粒子と標識されていない粒子とを高い精度で分離することができるとともに、標識されていない粒子を高い精度で回収することができる。
【0041】
流路は、上記のとおりである。導入手段は、上記の圧力発生機構等が挙げられる。標識されている粒子を、標識されていない粒子とは異なる方向、つまり重力方向とは異なる方向に偏向させ、流路内壁面に固定する手段は、一又は複数の実施形態において、偏向及び固定の双方を行うことができる手段であってもよいし、偏向手段と固定手段と別々の手段であってもよい。偏向及び固定の双方を行うことができる手段としては、一又は複数の実施形態において、磁場照射体等が挙げられる。
【0042】
[分離システム]
本開示は、一態様において、標識されている粒子と標識されていない粒子とを分離するためのシステム(本開示の分離システム)に関する。本開示の分離システムは、標識されている粒子と標識されていない粒子とを含む懸濁液を供給可能な流路、及び標識されている粒子を、標識されていない粒子とは異なる方向、つまり重力方向とは異なる方向に偏向させ、流路内壁面に固定する手段を有する分離部と、流路内の懸濁液を排出するための気相を導入するための導入手段とによって構成されている。本開示の分離システムによれば、一又は複数の実施形態において、標識されている粒子と標識されていない粒子とを高い精度で分離することができるとともに、標識されていない粒子を高い精度で回収することができる。
【0043】
[その他の態様]
本開示は、その他の態様において、検出対象粒子と前記検出対象粒子より多数を占める検出対象外の粒子を含む検体中の前記検出対象外の粒子を標識し、前記検体中の標識した前記検出対象外の粒子を捕捉し、前記検体中の検出対象粒子を分離する方法に関する。検体としては、一又は複数の実施形態において、ヒト、患者又は動物等から得られる試料が挙げられる。試料は、一又は複数の実施形態において、血液、血漿又は血清等が挙げられる。
【0044】
以下に、本開示の分離方法について、限定されない一実施形態を説明する。
【0045】
図1に示す分離装置を用い、標識されていない粒子(目的粒子)がCTCであり、標識されている粒子が磁気標識された白血球である場合を例にとり説明する。懸濁液中には、磁気標識された白血球が、磁気標識されていない粒子(CTC)よりも多く含まれている。なお、本開示は、該実施形態に限定されるものではない。
【0046】
本開示の分離方法に利用可能な分離装置の一例を
図1に示す。
図1に示す分離装置は、流路1と、磁場照射体2と、気相導入手段(圧力発生機構)3と、流路1と気相導入手段3とを連通する管4とを有する。流路1は、流入口11と流出口12とを備え、流出口12には回収容器5を配置可能である。流路1は、長手方向の中心軸が略水平になるように配置されている。
図2に、
図1の分離装置における流路1と磁界照射体2との配置の一例を示す。
図2に示すように、磁場照射体2は、略水平方向に配置された流路1の一方の側面に長手方向に沿って配置されている。管4には三方弁41が配置され、三方弁41により流路1内に懸濁液を導入可能である。
【0047】
つぎに、
図1の分離装置を用いた、標識されていない粒子と標識されている粒子とを分離する方法の一例について説明する。
【0048】
まず、CTCと、磁気標識された白血球とを含有する懸濁液を三方弁41から流入口11を通じて流路1内に供給して充填する。流路1への懸濁液の充填をスムーズに行う点から、懸濁液の充填は磁界を発生しない状態で行うことが好ましい。白血球の磁気標識は、結合分子を結合させた抗体等により白血球を抗体染色した後、該結合分子に特異的に反応する物質が固定化された磁性ビーズと反応させることにより行うことができる。結合分子としては、一又は複数の実施形態において、ビオチン等が挙げられる。特異的に反応する物質としては、一又は複数の実施形態において、ストレプトアビジン及びニュートラアビジン等のタンパク質が挙げられる。
【0049】
充填終了後、流路1内で懸濁液を静置するとともに、流路1の一方の側面に配置された磁場照射体2により流路1内に磁界を発生させる。これにより、磁気標識された白血球は偏向して流路1の磁場照射体2が配置された側の内壁面に移動するとともにその内壁面(流路1の底面以外の内壁)で捕捉(固定)される。一方、標識されていない粒子(CTC)は、磁界の影響は受けないため、重力によって流路1の底面側に移動する。
【0050】
CTCが流路1の底面に位置し、磁気標識された白血球が流路1の底面以外の内壁に捕捉された状態で、気相導入手段3から管4及び流入口11を通じて流路1内に気相を導入する。気相は、流路内1の懸濁液及び標識されていない粒子(CTC)が流路1の外部に排出可能であって、かつ流路1の底面以外の内壁に捕捉された白血球が流路1の内部に捕捉された状態が維持されるように導入すればよい。流路1の外部に排出されたCTCを含む懸濁液は、流出口12を通じてチューブ等の回収容器5に回収される。これにより、標識されていない粒子(CTC)と、磁気標識された白血球とを分離することができるとともに、標識されていない粒子(CTC)を回収することができる。気相を導入することにより、って、気液界面の移動によって懸濁液を排出させて流路内の標識されていない粒子を押し出すことにより、効率よく粒子を回収することができる。また、気相を導入することより、白血球の分離前後で液量を増やすことなく回収することができる。また、流路1の外部に排出する懸濁液の量を調整することによって、CTCを濃縮した状態で回収することもできる。
【0051】
上記実施形態では、懸濁液及び気相をいずれも流入口11から導入する形態を例にとり説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、懸濁液の導入方向と気相の導入方向とが異なる方向であってもよい。例えば、懸濁液を流入口11から導入し、気相を流出口12から導入してもよい。
また、上記実施形態では、流路1内に懸濁液を充填後、流路1内に磁界を発生させる形態を例にとり説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。流路1内に磁界を発生させた状態で懸濁液を充填し、懸濁液の充填と標識されている粒子の移動方向の偏向とを同時に行ってもよい。
上記実施形態では、磁場照射体2を流路1の一方の側面に配置に配置した形態を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。標識されていない粒子は、重力によって流路1の底面側に向かって移動するため、磁気標識されていない粒子が磁気標識された粒子に巻き込まれて捕捉されることを避け、磁気標識されていない粒子の回収率を向上させる点から、磁場照射体2は流路1の底面側以外の位置に配置するのが望ましい。また、流路1上面に配置した場合と比較して弱い磁界で標識されている粒子を偏向できることから、磁場照射体2は、流路1の側面に配置することが好ましい。
【0052】
本開示は、以下の一又は複数の実施形態に関しうる。
〔1〕 標識されている粒子と標識されていない粒子とを分離する方法であって、
流路の一端から、標識されている粒子と標識されていない粒子とを含む懸濁液を供給すること、
前記流路内において、前記標識されている粒子を、重力方向とは異なる方向に偏向させること、
前記標識されている粒子を流路内壁面に固定すること、及び
前記標識されている粒子が流路内壁面に固定された状態で、前記流路の一端から流路内に気相を導入して前記流路の他端から前記流路内の懸濁液を排出し、前記標識されていない粒子を回収すること、を含む分離方法。
〔2〕 前記標識されている粒子は、磁気標識されている粒子である、〔1〕記載の分離方法。
〔3〕 前記偏向は、前記流路内に磁界又は電界を生じさせることにより行う、〔1〕又は〔2〕に記載の分離方法。
〔4〕 前記固定は、前記流路内に磁界を生じさせることにより行う、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の分離方法。
〔5〕 前記懸濁液は、前記標識されていない粒子よりも前記標識されている粒子を多く含む、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の分離方法。
〔6〕 標識されている粒子と標識されていない粒子とを分離するための装置であって、
標識されている粒子と標識されていない粒子とを含む懸濁液を供給可能な流路と、
前記標識されている粒子を、重力方向とは異なる方向に偏向させ、流路内壁面に固定する手段と、
前記流路内の懸濁液を排出するための気相を導入するための導入手段とを有する、分離装置。
〔7〕 標識されている粒子と標識されていない粒子とを分離するためのシステムであって、
標識されている粒子と標識されていない粒子とを含む懸濁液を供給可能な流路、及び前記標識されている粒子を、重力方向とは異なる方向に偏向させ、流路内壁面に固定する手段を有する分離部と、
前記流路内の懸濁液を排出するための気相を導入するための導入手段とによって構成された、分離システム。
【0053】
以下に、実施例を用いて本開示をさらに説明する。以下の実施例では、標識した粒子を磁界により偏向させているが、電圧を印加した電線などを用いて電界により偏向させてもよい。但し、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
磁気粒子で標識した白血球とヒト結腸腺癌細胞とを含有する懸濁液を用い、
図1に示す磁気分離装置による分離及び回収を行った。
【0055】
[磁気分離装置]
図1に示す磁気分離装置を準備した。
サフィード(商標)チューブ(内径3.1mm、チューブ長26cm、容積2cm
3)の一端には、三方弁及びシリンジ(10mL)を介してシリンジポンプを接続し、かつ、他端にはサフィード(商標)チューブから排出された液を回収するための容器を配置した。サフィード(商標)チューブの側面には、磁石(ネオジム磁石(N40、角型、200x15x5(mm)、5mm方向、表面磁束密229mT))を配置した。
【0056】
[細胞懸濁液の調製]
細胞懸濁液は、全血から採取した白血球(WBC)とヒト結腸腺癌細胞とをそれぞれ別々に染色後、細胞数を調整した後、磁気粒子と両方の細胞(白血球及びヒト結腸腺癌細胞)とを混合して、磁気粒子で標識することにより、準備した。白血球はビオチン標識し、ストレプトアビジンをコーティングした磁気粒子を使用することにより、上記の混合によって磁気粒子は白血球に特異的に結合し、白血球のみが磁気標識される。
<白血球の調製>
真空採血管(EDTA・2K入り)を用いてヒトから採血を行った。HetaSep(STEMCELL社)の添付文書に従い、採血した全血から白血球の分離を行った。
<癌細胞の調製>
常法に従い、培養したヒト結腸腺癌細胞株(SW620 American Type Culture Collection(ATCC)社)を、トリプシン(インビトロジェン社)を用いて回収した。回収した癌細胞の細胞懸濁液を遠心し、上清を除いた。ダルベッコPBS(-)(ニッスイ社)で再懸濁して、遠心し、再度上清を除き、癌細胞(SW620)を得た。
<白血球のBiotin標識及び染色>
常法に従い、血球計算盤を用いて、細胞数をカウントし、HetaSepで分離した白血球を分取し、10
5個〜10
6個の白血球を含有する試料(細胞懸濁液)を調製した。遠心し上清を除いてから、10%ヤギ血清、0.000001%Avidin、0.2%BSAをダルベッコPBS(−)に溶解したブロッキング液で23℃、10分間反応させた。遠心し上清を除き、ダルベッコPBS(−)を用いて再懸濁した。再度遠心し、上清を除いた。10%ヤギ血清、0.01%Biotin、0.2%BSAを溶解したダルベッコPBS(−)に抗CD45抗体及び、抗CD50抗体をそれぞれ添付文書に従い添加した1次抗体反応液で細胞を懸濁し、23℃、15分間反応させた。遠心し上清を除き、ダルベッコPBS(−)を用いて懸濁した。遠心し、再度上清を除く工程を合計3回行い、細胞を十分に洗浄する。2μg/ml Hoechst33342、10%ヤギ血清、0.2%BSAを溶解したダルベッコPBS(−)にAlexa594標識抗マウスIgG(Fab)及び、Biotin標識抗マウスIgG(Fc)をそれぞれ添付文書に従い添加した2次抗体反応液で細胞を懸濁し、23℃、15分間反応させた。遠心し上清を除き、ダルベッコPBS(−)を用いて懸濁した。遠心し、再度上清を除く工程を合計3回行い、細胞を十分に洗浄した。
<がん細胞の追加染色>
NeuroDio(緑色標識)を添付文書に従い添加した反応液にSW620を懸濁し、23℃、10分間反応させた。遠心し上清を除き、ダルベッコPBS(−)を用いて懸濁した。遠心し、再度上清を除く工程を合計3回行い、細胞を十分に洗浄した。
<磁気標識>
0.2%BSAを溶解したダルベッコPBS(−)に懸濁した磁気粒子(Bio-Adembeads StreptaDivin、粒径300nm:アデムテック社)を添付文書に従い調製し、NeuroDioで染色したSW620とBiotin標識した白血球とを混合し、30分間反応させた。懸濁液を短軸径5μm、長軸径88μmの孔を有するフィルターに通し、未反応の余剰磁気粒子を除去した。0.2%BSAを溶解したダルベッコPBS(−)を送液し、フィルター上の細胞を回収して細胞懸濁液を得た。
【0057】
[分離方法]
液相のない、空気で満たされた気相の状態のサフィード(商標)チューブに、三方弁(三方活栓弁)を通じて細胞懸濁液1000μLを導入し、細胞懸濁液からなる液相をサフィード(商標)チューブ内で構築した。細胞懸濁液を導入した導入口を三方弁で閉じることで、シリンジポンプ内から細胞懸濁液の末端界面までを一続きの気相にした。その後にネオジム磁石(N40、角型、200x15x5(mm)、5mm方向)をサフィード(商標)チューブの側面に隣接する位置に移動させ15分間、室温で静置した。シリンジポンプから流量100μL/minでサフィード(商標)チューブに空気を導入し、サフィード(商標)チューブ内の液体すべてをサフィード(商標)チューブから排出し、排出した液体をチューブに回収した。チューブに回収された液体に含まれる白血球及びSW620を蛍光検出した。その結果を表1に示す。
なお、上述のように気相の形成と空気の導入を行うことで、流路内の懸濁液と導入した気相との間に気液界面を形成することができ、かつ、この気液界面を流路の導入口から流出口に向かって移動させることができる。当該気相は、上述のとおり、シリンジポンプから懸濁液の末端界面まで一続きになっており、当該気相は、流路の内壁において、点でも線でもない一定の領域を占拠している。また、気液界面と流路の内壁面との接触点は、連続したラインを形成している。
【0058】
(比較例1)
実施例1で使用した細胞懸濁液1000μLを1.5mLチューブに加えた。Magical Trapper(TOYOBO製)磁石スタンドにあてた状態で15分間室温で静置した。ついで、ピペットで上清を全量回収し。回収した上清中に含まれる白血球及びSW620を計測した。その結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
ネオジム磁石を当てなかった以外は、実施例1と同様に磁気分離を行った。その結果を表1に示す。
【0060】
(比較例3)
空気に替えて0.2%BSAを溶解したダルベッコPBS(−)を流量100μl/minで送液した以外は、実施例1と同様に磁気分離を行った。その結果を表1に示す。
(比較例4)
空気に替えて0.2%BSAを溶解したダルベッコPBS(−)を流量1000μl/minで送液した以外は、実施例1と同様に磁気分離を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、実施例1によれば、標識されている粒子(WBC)と標識されていない粒子(SW620)とを効果的に分離することができ、目的の細胞(SW620)を高い回収率で回収できることが確認できた。
表1に示すように、ネオジム磁石を当てない比較例2では、サフィード(商標)チューブから排出されるWBCの量が多く、十分に分離できなかった。空気(気相)に替えて実施例1と同じ流量で液体(液相)により回収した比較例3では、SW620もWBCも全く回収できなかった。この理由としては、空気(気相)と同じ流量で送液したが、液体の場合、流路の中央でのみ高い流速が乗じるが、壁面では流速が生じにくく、自重により流路に沈降した細胞を押し出す効果がこの流量では不十分であったと考えられる。また、特許文献1の実施例に開示された流量(1000μL/分)の液体を送液して回収した比較例4では、WBCは全く回収されなかったものの、SW620の回収率が12%と極めて低く、SW620(標識されていない粒子)が十分に回収できないという結果となった。
【0063】
(実施例2)
サフィード(商標)チューブから排出される液体を100μLずつ10回に分けて回収した以外は、実施例1と同様に磁気分離を行った。回収した順番に100μLごとにフラクション番号を付し、各フラクションに含まれるSW620の数を計測した。その結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
全フラクション(フラクション1〜10の合計)におけるSW620の回収率は88%であり、白血球の回収率(残存率)は0.097%であった。これにより、回収目的以外の細胞(白血球)を磁石で保持した状態で、気相(空気)を導入することによって、回収目的の細胞(稀少細胞)を効果的に回収できることが確認できた。
また、表2に示すように、本実施例で回収された稀少細胞のうち8割以上が、最後の3フラクションに含まれていた。このため、排出される液体を分取するか又は後半のみを回収することによって、回収目的の細胞(稀少細胞)と回収目的以外の細胞(白血球)との分離を行うとともに濃縮できることが示された。