(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976653
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】耐軸力部材
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20211125BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20211125BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04B1/58 F
F16F7/12
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-190763(P2017-190763)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2019-65532(P2019-65532A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】509200613
【氏名又は名称】株式会社横河NSエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】前島 稔
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−144901(JP,A)
【文献】
特開2012−197591(JP,A)
【文献】
特開2006−002505(JP,A)
【文献】
特開2002−088912(JP,A)
【文献】
特開平02−088833(JP,A)
【文献】
特開2001−207533(JP,A)
【文献】
特開2016−023417(JP,A)
【文献】
特開2017−082904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/58
E04B 1/24
E01D 19/00
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面欠損部を有し、かつ引張り荷重によって前記断面欠損部で塑性変形する塑性変形部を備えた耐軸力部材であって、前記塑性変形部は平板状に形成され、当該塑性変形部の上下縁端部に前記断面欠損部が上下対称に設けられ、前記塑性変形部の側面に前記断面欠損部と交差する面で互いに当接し、かつ引張り荷重の作用方向に連続する座屈補強リブが取り付けられていることを特徴とする耐軸力部材。
【請求項2】
請求項1記載の耐軸力部材において、前記塑性変形部は複数枚が平行に対向して配置され、前記塑性変形部のそれぞれの上下縁端部に前記断面欠損部が上下対称に設けられ、前記塑性変形部のそれぞれの側面に前記座屈補強リブが前記上下断面欠損部と交差する面で互いに当接し、かつ引張り荷重の作用方向に連続して取り付けられていることを特徴とする耐軸力部材。
【請求項3】
断面欠損部を有し、かつ引張り荷重によって前記断面欠損部で塑性変形する塑性変形部を備えた耐軸力部材であって、前記塑性変形部は、平行に配置された一対のフランジと、当該一対のフランジ間で当該フランジと連続するウェブとから断面略H形状に形成され、前記フランジの縁端部と前記ウェブにそれぞれ前記断面欠損部が設けられ、前記フランジと前記ウェブの側面に前記断面欠損部と交差する面で互いに当接し、かつ引張り荷重の作用方向に連続する座屈補強リブがそれぞれ取り付けられていることを特徴する耐軸力部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の耐軸力部材において、前記断面欠損部として切欠き部または貫通孔が形成されていることを特徴とする耐軸力部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の耐軸力部材において、前記座屈補強リブは、前記塑性変形部の片面または両面に複数取り付けられていることを特徴とする耐軸力部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大地震時における建物の揺れを減少させる粘性ダンパー、座屈拘束ブレース等の制振ダンパーや橋梁の落橋防止装置等の接合部、さらには建物の梁やブース材などとしても用いられる耐軸力部材等の接合部に関し、特に圧縮荷重に対する高い座屈耐力を保持しつつ、引張り荷重時の塑性変形能力とエネルギー吸収能力の向上を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の柱梁接合部の設計手法として、柱梁接合部から梁の材軸方向の少し離れた位置に塑性変形部を形成し、当該塑性変形部を柱梁接合部より先に降伏させることで、大地震時に柱と梁の接合部の溶接部の破断や脆性破壊を未然に回避する設計方法が知られている(RBS(reduced beam section)設計)。
【0003】
この設計方法では、柱と梁の接合部から梁の材軸方向の少し離れた位置に、切欠きまたは孔を設けて梁の断面を部分的に小さくすることによりどの部位よりも先行して部材降伏をさせ塑性ヒンジを形成することで、柱梁接合部の溶接部の破断や脆性破壊といった柱梁接合部の致命的破壊を回避することができる。
【0004】
また、構造物の主要骨組の層間に組み込まれ、地震時の材軸方向の引張りおよび圧縮荷重に対して、芯材の弾性領域および弾塑性領域に応じて地震エネルギーを吸収して建物の揺れを減少させる座屈拘束ブレースの発明が知られている。さらに、橋梁の橋桁端部と橋桁端部を支える橋台または橋脚間に設置され、地震時の衝撃を吸収し、かつ橋桁端部の橋台または橋脚からの落下を防止する落橋防止装置の発明が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、柱(1)に梁(2)が接合された鋼構造の柱と梁の接合部において、梁フランジ(3)に梁(2)の材軸方向に沿って補強プレート(5)を有し、かつ当該補強プレート(5)および梁フランジ(3)の柱梁接合部より少し離れた位置に、切欠き(6)と(7)をそれぞれ有する柱梁接合部の発明が開示されている。
【0006】
当該発明によれば、梁(2)の切欠き(6)を有する部分が他の部分より曲げ耐力が低いため、地震力を受けたとき切欠き(6)を有する部分が他の部分より先に部材降伏することで、柱梁接合部の溶接部の破断や脆性破壊を回避することができる。
【0007】
また、特許文献2には、軸力を負担する鋼製で断面略十字形の芯材(2)と、引張りおよび圧縮荷重により部材降伏変形する芯材(2)を拘束して、圧縮時の芯材(2)の座屈を防止する鋼製で断面山形の4本の拘束材(3)と、芯材(2)を挟む一対の拘束材(3)どうしをスペーサー(4)を介して接合する複数の接合ボルト(5)および芯材(2)と拘束材(3)との間に配置される緩衝材(7)とからなる座屈拘束ブレースの発明が開示されている。
【0008】
特に、芯材(2)の中間部には材軸方向に所定長に渡って小径とすることにより、引張りおよび圧縮荷重で降伏変形する降伏部(2A)が形成され、その両端部には柱梁などの構造部材への取付け部(2B)が形成されている。
【0009】
また、拘束材(3)、スペーサ(4)および取付け部(2B)には、接合ボルト(5)が挿通されるボルト孔(8)が形成され、さらに、拘束材(3)の一端部における取付け部(2B)のボルト孔(8a)は、芯材(2)の塑性変形に対応できるように材軸方向に長い長孔に形成されている。
【0010】
当該座屈拘束ブレースが建物の主要骨組の層間に組み込まれ、建物に大きな層間変位が生じたとき、芯材(2)が部材降伏し変形することで地震エネルギーを吸収し、建物の揺れを減少させることができる。
【0011】
そして、特許文献3には、両端部に補強用のリブ(22)が取り付けられた鋼板のブレース芯材(2)と当該ブレース芯材(2)の中間部を板厚方向に挟み込み、その変形を拘束する鋼製の座屈拘束材(3)とからなる座屈拘束ブレースの発明が開示されている。
【0012】
当該座屈拘束ブレースを建物の主要骨組の層間に組み込み、建物に大きな層間変位が生じたときに、鋼板のブレース芯材(2)が部材降伏し塑性変形をすることで、地震エネルギーを吸収し、建物の揺れを減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002-88912号公報
【特許文献2】特開2006-328688号公報
【特許文献3】特開2000-265706号公報
【特許文献4】特開2017-145670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1の柱と梁の接合部の発明では、補強プレート(5)が、梁フランジ(3)の側面に切欠き(7)を有する位置を通って梁の材軸方向に取り付けられているが、補強プレート(5)は一枚であり、一枚の補強プレート(5)が切欠き(7)を有する部分を梁の材軸方向に連続して取り付けられているため、フランジ(3)の縁端部に切欠き(7)が設けられていても、曲げ引張り荷重に対する塑性変形能力とエネルギー吸収能力が希望通りに増大するとはいえない。
【0015】
また、曲げ引張り荷重に対する塑性変形能力とエネルギー吸収能力を増大させるためには、補強プレート(5)に図示するような切欠き(6)を設ける必要がり、そうすると曲げ圧縮荷重に対する強度が著しく低下してしまうおそれがある。
【0016】
特許文献2の座屈拘束ブレースの発明では、芯材(2)の降伏部(2A)は、芯材端部の取付け部(2B)に形成された長孔(8a)の範囲でのみ塑性変形するため、降伏部(2A)に長孔(8a)の範囲を超える塑性変形を引き起こすような想定外の引張荷重が作用したときは対応できない。また、取付け部(2B)は断面十字形に形成されているため、取付け部(2B)の塑性変形能力は降伏部(2A)より小さいと思われる。
【0017】
このため、上記するような想定外の大地震時に、取付け部(2B)が接合されている建物の主要骨組が、溶接破断といった致命的損傷を被るそれがあった。また、取付け部(2B)にも塑性変形能力を付与すべく平板状に形成すると、想定外の圧縮荷重時に首折れ座屈破壊を引き起こすおそれがあった。
【0018】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、特に圧縮荷重に対する高い座屈耐力能力を保持しつつ、引張り荷重時の塑性変形能力とエネルギー吸収能力が高く、かつ想定外の大地震にも充分対応できるようにした接合部における耐軸力部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は断面欠損部を有し、かつ引張り荷重によって前記断面欠損部を有する部分で塑性変形する塑性変形部を備えた接合部の耐軸力部材であって、前記塑性変形部の側面に前記断面欠損部と交差する面で互いに当接し、かつ引張り荷重の作用方向に連続する座屈補強リブが取り付けられていることを特徴とするものである。
【0020】
塑性変形部は平板状に形成し、当該塑性変形部の縁端部に断面欠損部として切欠きまたは貫通孔が形成してあればよい。
【0021】
また、前記塑性変形部は、平行に対設する一対のフランジと当該一対のフランジ間で当該フランジと連続するウェブとから断面略H形状またはI形状に形成し、前記フランジの縁端部に断面欠損部として切欠きまたは貫通孔を形成してもよい。さらに、ウェブにも断面欠損部を形成し、かつ一対の座屈補強リブを取り付けることにより塑性変形部の塑性変形能力を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、大地震時の引張り荷重に対して、接合部の設計荷重を超えた場合に、どの部位よりも先行して塑性変形部が断面欠損部を有する部分で部材降伏して塑性変形をすることにより、高い変形能力とエネルギー吸収能力を発揮する一方、圧縮荷重に対しては座屈補強リブによって接合部の首折れ座屈破壊を回避することができ、主として建物の梁やブレース、或いは橋梁の制振部材や落橋防止装置などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態であり、
図1(a)は建物の座屈拘束ブレースや橋梁の落橋防止装置などに用いられる耐軸力部材の平面図、
図1(b)は正面図である。
【
図2】
図1に図示する耐軸力部材の軸直角方向の断面を図示したものであり、
図2(a)は
図1(a)におけるイ−イ線断面図、
図2(b)は
図1(a)におけるロ−ロ線断面図、2(c)は
図1(a)におけるハ−ハ線断面図、
図2(d)は
図1(a)におけるニ−ニ線断面図である。
【
図3】
図1に図示する耐軸力部材の継手部を図示したものであり、
図3(a)は平面図、
図3(b)は正面図である。
【
図4】
図1に図示する耐軸力部材の継手部を図示したものであり、
図4(a)は破断する前の継手部の平面図、
図4(b)はその正面図である。
【
図5】
図1に図示する耐軸力部材の継手部を図示したものであり、
図5(a)は引張り荷重を受けて塑性変形する状態の平面図、
図5(b)はその正面図である。
【
図6】
図1に図示する耐軸力部材の継手部を図示したものであり、
図6(a)は引張り荷重を受けて塑性変形し、破断した継手部の平面図、
図6(b)はその正面図である。
【
図7】
図1に図示する耐軸力部材の継手部を図示したものであり、
図7(a)は破断する前の継手部の斜視図、
図7(b)は破断した後の継手部の斜視図である。
【
図8】
図1に図示する耐軸力部材の継手部の変形例を図示したものであり、
図8(a)は平面図、
図8(b)はその正面図である。
【
図9】
図8に図示する耐軸力部材の継手部を図示したものであり、
図9(a)は引張り荷重を受けて塑性変形する継手部の平面図、
図9(b)はその正面図である。
【
図10】
図8に図示する耐軸力部材の継手部を図示したものであり、
図10(a)は引張り荷重を受けて塑性変形し、破断した継手部の平面図、
図10(b)はその正面図である。
【
図11】橋台の側面部などに取り付けられ、落橋防止装置として取り付けられる耐軸力部材の継手部が連結される取付け金物を図示したものであり、
図11(a)はその斜視図、
図11(b)は引張り荷重を受けて塑性変形する取付け部の斜視図、
図11(c) は引張り荷重を受けて塑性変形し、破断した取付け部の斜視図、
図11(d)は取付けプレートを2枚使用した場合の実施例の斜視図である。
【
図12】建物の主要骨組のブレース材または梁材として用いられる耐軸力部材を図示したものであり、
図12(a),(b),(c)はその端部斜視図である。
【
図13】建物の主要骨組の層間にブレース材として組み込まれた耐軸力部材を図示したものであり、
図13(a)は柱梁接合部の正面図、
図13(b)はその横断面図である。
【
図14】建物の主要骨組の梁材として組み込まれた耐軸力部材を図示したものであり、
図14(a)は柱梁接合部の正面図、
図14(b)はその横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1〜
図11は本発明の一実施形態であり、建物の制震ブレースや橋梁の落橋防止装置として用いられる耐軸力部材を図示したものである。図において、耐軸力部材1は、引張りおよび圧縮荷重を負担するブレース芯材2と、引張りおよび圧縮荷重によって降伏変形するブレース芯材2を拘束して、圧縮時のブレース芯材2の座屈を防止する4本の座屈拘束材3を備えている。
【0025】
ブレース芯材2は所定長の鋼板プレートより形成され、一枚のプレートの両面中央にそれぞれプレートを材軸方向に沿って溶接固定することにより断面略十字形状に形成されている。
【0026】
また、その材軸方向の中間部分に両端部分より小径とすることにより、引張りおよび圧縮荷重によって降伏変形する降伏部2Aが材軸方向の一定長にわたって形成され、当該降伏部2Aの両端部分は座屈拘束材3に固定するための固定部2B,2Cになっている。
【0027】
さらに、各固定部2B,2Cの端部に柱梁などの構造部材に取り付けられる取付け部4と5がそれぞれ形成されている。取付け部4および5は、断面略十字形の固定部2B,2Cの水平フランジ6と同じ幅および同じ板厚を有し、かつ水平フランジ6と同一面内で連続する平板状に形成されている。
【0028】
また、固定部2Bの水平フランジ6と取付け部4との境界部に、円孤状の切欠き部7,7が形成されている。切欠き部7,7は水平フランジ6の両側縁端部に対称に形成されている。
【0029】
また、取付け部4の両面中央に、座屈補強リブ8,8が対称に取り付けられている。座屈補強リブ8は、切欠き部7,7と交差する、ブレース芯材2の軸直角方向の垂直面で、端面どうしが互いに当接(面タッチ)し、かつブレース芯材2の材軸方向に一定長に連続して形成されている。符号8aが座屈補強リブ8,8の当接面である。
【0030】
なお、当該実施形態においては、固定部2Bの垂直フランジ6bが一方の座屈補強リブ8を兼ねており、当該固定部2Cの垂直フランジ6bの端面に、座屈補強リブ8の端面が当接(面タッチ)し、かつブレース芯材2の材軸方向に一定長に連続して形成されている。
【0031】
このように、取付け部4が平板状に形成され、かつ取付け部4と水平フランジ6との境目の両縁端部に切欠き部7,7が形成されていることで、ブレース芯材2に降伏部2Aの降伏変形能力を超える大きさの引張り荷重が作用したとき、取付け部4の切欠き部7,7を有する部分が降伏して引張り方向に塑性変形するようになっている(
図4,5参照)。
【0032】
また、ブレース芯材2に引張り荷重に相当する圧縮荷重が作用したときは、取付け部4の両面中央に取り付けられている一対の座屈補強リブ8,8が、切欠き部7,7と交差する、ブレース芯材2の軸直角方向の垂直面で面タッチすることにより、取付け部4を座屈破壊しないように補強するようになっている(
図3参照)。
【0033】
座屈拘束材3は、山形鋼(アングル材)より形成され、ブレース芯材2の各隅部にブレース芯材2の各片を挟み込むように断面略十字形状に組み付けられ、引張りおよび圧縮時に降伏変形する降伏部2Aを拘束し、かつ圧縮時には降伏部2Aの座屈を拘束するようになっている。
【0034】
また、座屈拘束材3は、ブレース芯材2の降伏部2Aおよび取付け部2Cの全長に相当する長さに形成され、かつ隣り合う座屈拘束材3,3によって固定部2Cとスペーサ9を挟み、かつ材軸方向に所定ピッチで配置された複数の接合ボルト10によって互いに固定されている。
【0035】
さらに、座屈拘束材3、スペーサ9および固定部2B,2Cには、接合ボルト10が挿通されたボルト孔11が形成され、特に座屈拘束材3の一端側部における固定部2Bのボルト孔11aは、ブレース芯材2の拘束部2Aの降伏変形に対応できるように材軸方向に長い長孔に形成されている。
【0036】
このように構成された耐軸力部材1が、建物の主要骨組の層間に座屈拘束ブレースとして組み込まれ、建物に大きな層間変位が生じると、ブレース芯材2の降伏部2Aが降伏変形することで地震エネルギーを吸収し、建物の揺れを減少させることができる。
【0037】
また特に、ブレース芯材2に降伏部2Aの降伏変形能力を超える引張り荷重が作用したときは、取付け部4の切欠き部7,7を有する部分が降伏して塑性変形し、場合によっては破断することにより主要骨組の溶接部の破断といった致命的な損傷を回避することができる。
【0038】
また、想定外の圧縮荷重が作用したときは、取付け部4の両面中央に取り付けられた一対の座屈補強リブ8,8によって取付け部4を座屈破壊しないように補強することができる。
【0039】
図8〜
図10は、
図1〜
図7に図示する耐軸力部材の変形例の継手部を図示したものであり、特にブレース芯材2が全長にわたって同一幅、同一板厚に形成され、ブレース芯材2の全体が軸圧縮および引張り荷重に対して塑性変形することで、地震エネルギーを吸収するように形成されている。
【0040】
また、座屈拘束材3は無く、ブレース芯材2の両面中央に座屈補強リブ8が対称かつ全長に渡って形成されていることで、軸圧縮荷重時に座屈しないように形成されている。
【0041】
図11(a)〜(d)は、例えば橋台などの主要構造体の側面部に取り付けられ、落橋防止装置などの軸力負担部材の端部が連結される取付け部材を図示したものであり、一枚の取付けプレート12aの上下縁端部に切欠き部7,7が上下対称に形成されている。また、取付けプレート12aの両側面に上下切欠き部7,7と交差する鉛直面内で互いに当接(面タッチ)し、かつ軸圧縮荷重の作用方向に一定長に形成された複数対の座屈補強リブ8,8が一段または複数段取り付けられている。
【0042】
そして、軸力負担部材(図省略)を介して伝達される引張り荷重が想定外の荷重に達したとき、軸力負担部材の端部が連結される取付けプレート12aが、当該取付けプレート12aの上下縁端部に対称に形成された切欠き部7を有する部分で塑性変形の後、破断することにより、想定外の引張り荷重による主要構造体の致命的損傷を未然に回避することができる。また、軸力負担部材を介して伝達される軸圧縮荷重に対しては、取付けプレート12aの両側面に切欠き部7と交差する鉛直面内で当接(面タッチ)し、かつ軸圧縮荷重の作用方向に一定長に形成された上下複数対の座屈補強リブ8,8が抵抗することで、取付け部材12の座屈破壊を未然に回避することができる。
【0043】
破断させる取付けプレート12aは、その使用材料の降伏強度、引張強度を考慮した設計ができるので、設計荷重に応じて複数枚使用することで、コンパクトな取付け部材を提供できる。
【0044】
図11(d)は、
図11(a)に図示する取付け部材の取付けプレート12aを2枚使用した場合の実施例を図示したものであり、2枚の取付けプレート12a,12aが平行に取り付けられ、各取付けプレート12aの上下縁端部に切欠き部7,7が上下対称に形成されている。
【0045】
また、各取付けプレート12a,12aの内側面に切欠き部7,7と交差する鉛直面内で互いに当接(面タッチ)し、かつ軸圧縮荷重の作用方向に一定長に形成された複数対の座屈補強リブ8,8が一段または複数段取り付けられている。当該変形例によれば、取付けプレート12aが2枚取り付けられている等の理由により、強度の高い取付け部材とすることができる。
【0046】
図12〜
図14は本発明の他の実施形態であり、建物の主要骨組の層間にブレース材または主要骨組の梁材として用いられる耐軸力部材および当該耐軸力部材が組み込まれた主要骨組を図示したものである。
【0047】
図において、耐軸力部材13はH形鋼より形成され、H形鋼の材軸方向端部の上下フランジ13a,13aの左右縁端部に一対の切欠き部7,7が形成されている。切欠き部7は、フランジ13aの端面より材軸方向の一定長内側寄りに左右対称かつ上下フランジ13a,13aの同じ位置に形成されている。
【0048】
また、上下フランジ13a,13aの外側に、一対の座屈補強リブ8,8が上下フランジ13a,13a間のウェブ13bと同一鉛直面内に取り付けられている。一対の座屈拘束リブ8,8は、切欠き部7,7と交差する、H形鋼の軸直角方向の垂直な面で互いに当接(面タッチ)し、かつH形鋼の材軸方向に一定長に形成されている。
【0049】
なお、
図12(b)に図示するように、座屈補強リブ8,8は、H形鋼の材軸方向に複数対取り付けられていてもよい。また、ウェブ13bに断面欠損部として貫通孔13cを設け、かつウェブ13bの片面または両面に一対の座屈補強リブ8,8を取り付けることにより塑性変形能力をより高めることができる。符号14と15は主要骨組を構成する柱と梁である。
【0050】
このような構成において、耐軸力部材12に大地震時に想定外の引張り荷重が作用したとき、上下フランジ12a,12aの切欠き部8,8を有する部分(塑性変形部)が、降伏して塑性変形することにより、地震エネルギーを吸収して主要骨組の溶接部の破断といった致命的損傷を回避することができる。
【0051】
また、上記引張り荷重に相当する大きさの圧縮荷重が作用しても、一対の座屈補強リブ8,8が、切欠き部7,7を有することによる上下フランジ12a,12aの強度低下を補うことで、耐軸力部材12の座屈破壊を回避することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、座屈補強リブにより座屈耐力を保持しつつ、設計荷重を超える引張り荷重に対しては、特定部位の塑性変形能力により部材の接合部における首折れ座屈の問題を解決することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 耐軸力部材
2 ブレース芯材
2A 降伏部
2C 固定部
3 座屈拘束材
4 取付け部
5 取付け部
6a 水平フランジ
6b 垂直フランジ
7 切欠き部(断面欠損部)
7a 貫通孔(断面欠損部)
8 座屈補強リブ
8a 当接面(面タッチ)
9 スペーサ
10 接合ボルト
11 ボルト孔
11aボルト孔
12 取付け部材
12a取付けプレート
13 耐軸力部材
13a 上下フランジ
13b ウェブ
14 柱
15 梁