特許第6976655号(P6976655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976655
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20211125BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20211125BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20211125BHJP
【FI】
   B41J2/01 125
   B41J2/01 501
   B41J2/01 127
   B41J2/01 401
   B41M5/00 100
   B41M5/00 120
   C09D11/322
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-221349(P2017-221349)
(22)【出願日】2017年11月16日
(65)【公開番号】特開2019-89289(P2019-89289A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2020年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
【審査官】 山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−025311(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/135425(WO,A1)
【文献】 特開2002−256180(JP,A)
【文献】 特開2005−074654(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/138437(WO,A1)
【文献】 特開2004−330535(JP,A)
【文献】 特開2015−168114(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01690694(EP,A1)
【文献】 特開2017−128040(JP,A)
【文献】 特開2007−045872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
B41M 5/00
C09D 11/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、
沸点が互いに異なる2種類の溶媒を少なくとも含むインクを前記媒体上へ吐出するインクジェットヘッドと、
前記媒体上のインクにエネルギー線を照射することにより前記媒体上のインクを加熱するエネルギー線照射部と
を備え、
前記インクは、
前記2種類の溶媒のうちで沸点が低い方の溶媒である低沸点溶媒と、
前記2種類の溶媒のうちで沸点が高い方の溶媒である高沸点溶媒と
を、それぞれ20重量%以上含み、
前記媒体上に前記インクが着弾した後、前記インク中の溶媒が全て蒸発するまでの間の少なくとも一部の期間において、前記エネルギー照射部は、前記媒体上のインクへエネルギー線を照射することにより、前記媒体上の前記インクの温度について、前記低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、前記高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまで上昇させ
かつ、前記媒体上に前記インクが着弾した後、前記インク中の溶媒が全て蒸発するまでの間において、前記エネルギー線照射部は、前記媒体上のインクに対し、第1の条件及び第2の条件でエネルギー線を照射し、
前記第1の条件は、前記媒体上の前記インクの温度について、前記低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、前記高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまで上昇させる条件であり、
前記第2の条件は、前記媒体上の前記インクの温度について、前記高沸点溶媒の沸点以上の温度にまで上昇させる条件であり、
前記媒体上の前記インクに対し、前記エネルギー線照射部は、前記第1の条件でエネルギー線を照射することにより、前記インクに含まれる前記低沸点溶媒の半分以上を蒸発させ、
かつ、前記第1の条件でのエネルギー線の照射を行った後に、前記第2の条件でエネルギー線を照射することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記高沸点溶媒の沸点は、前記低沸点溶媒の沸点よりも、30℃以上高いことを特徴とする請求項に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記低沸点溶媒の沸点は、110℃以下であり、前記高沸点溶媒の沸点は、130℃以上であることを特徴とする請求項に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記低沸点溶媒の沸点は、60℃以上100℃未満であり、前記高沸点溶媒の沸点は、100℃以上であることを特徴とする請求項に記載の印刷装置。
【請求項5】
25℃での前記低沸点溶媒の蒸気圧は、25℃での前記高沸点溶媒の蒸気圧の4倍以上であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
前記インク中に含まれる前記低沸点溶媒の8割以上を蒸発させた場合、前記インクの粘度は、100mPa・sec以上になることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記少なくとも一部の期間において、前記エネルギー照射部は、前記媒体上のインクへエネルギー線を照射することにより、前記インクの粘度について、前記媒体上で滲みが発生せず、かつ、その後の時間の経過により平坦化が進む粘度に高めることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
前記インクは、乾燥後に前記媒体上に樹脂が残るインクであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
前記インクは、色材として顔料を含むインクであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の印刷装置。
【請求項10】
前記エネルギー線照射部は、エネルギー線として、紫外線を照射することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の印刷装置。
【請求項11】
前記エネルギー照射部は、紫外線を照射する照射手段として、UVLEDを用いることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項12】
媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、
沸点が互いに異なる2種類の溶媒を少なくとも含むインクをインクジェットヘッドにより前記媒体上へ吐出し、
前記媒体上のインクにエネルギー線を照射することにより前記媒体上のインクを加熱し、
前記インクは、
前記2種類の溶媒のうちで沸点が低い方の溶媒である低沸点溶媒と、
前記2種類の溶媒のうちで沸点が高い方の溶媒である高沸点溶媒と
を、それぞれ20重量%以上含み、
前記媒体上に前記インクが着弾した後、前記インク中の溶媒が全て蒸発するまでの間の少なくとも一部の期間において、前記媒体上のインクへエネルギー線を照射することにより、前記媒体上の前記インクの温度について、前記低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、前記高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまで上昇させ
かつ、前記媒体上に前記インクが着弾した後、前記インク中の溶媒が全て蒸発するまでの間において、前記媒体上のインクに対し、第1の条件及び第2の条件でエネルギー線を照射し、
前記第1の条件は、前記媒体上の前記インクの温度について、前記低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、前記高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまで上昇させる条件であり、
前記第2の条件は、前記媒体上の前記インクの温度について、前記高沸点溶媒の沸点以上の温度にまで上昇させる条件であり、
前記媒体上の前記インクに対し、前記第1の条件でエネルギー線を照射することにより、前記インクに含まれる前記低沸点溶媒の半分以上を蒸発させ、
かつ、前記第1の条件でのエネルギー線の照射を行った後に、前記第2の条件でエネルギー線を照射することを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット方式で印刷を行う印刷装置(インクジェットプリンタ)が広く用いられている。また、近年、インクジェットプリンタで行う印刷の方法に関し、紫外線等のエネルギー線を照射することで瞬間的に乾燥する瞬間乾燥型のインクを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/135425号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
瞬間乾燥型のインクを用いる場合、瞬間的にインクを乾燥させることにより、インクの滲み等を適切に防止することができる。また、これにより、従来は滲みの問題が大きかった媒体(メディア)に対しても、高精細な印刷を行うことが可能になる。しかし、瞬間乾燥型のインクは、まだ新しい技術である。そのため、瞬間乾燥型のインクについては、より好ましいインクの構成や、より好ましいインクの乾燥のさせ方を見出すことが望まれている。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の発明者は、瞬間乾燥型のインクを用いる場合の様々な特徴について、鋭意研究を行った。そして、この鋭意研究において、瞬間乾燥型のインクを用いる場合には、インクが極めて短時間で乾燥することで新たな問題が生じる場合があることを見出した。より具体的に、例えば、プラスチック等の非浸透性の媒体(例えば、光沢性の媒体等)に対し、瞬間乾燥型のインクを用いて印刷を行う場合、媒体への着弾の直後にエネルギー線(紫外線等)を照射することで、滲みの発生を抑えることができる。しかし、この場合、インクが瞬間的に加熱されることで、インクのドットが十分に平坦化しない状態で乾燥し、インクの表面がマット状になる場合がある。また、この場合において、照射するエネルギー線の量が過剰であると、インクが突沸現象を起こす場合がある。そして、この場合、インクの表面が多孔質の被膜状になり、光沢性の高い印刷面を得ることが難しくなる場合がある。
【0006】
また、インクの表面がマット化や多孔質化により粗面化することを防ぐためには、例えば光量の小さな紫外線等を照射して、インクをゆっくり乾燥させればよいようにも思われる。しかし、この場合、滲みが発生しやすくなり、瞬間乾燥型のインクを用いる効果が十分に得られなくなるおそれがある。また、例えば色材として顔料を含むインクを用いる場合等には、インクが乾燥するまでの間に顔料が偏るコーヒーステイン現象等が生じる場合もある。そのため、単にインクをゆっくり乾燥させるのみでは、他の様々な問題が生じるおそれがある。
【0007】
これに対し、本願の発明者は、瞬間乾燥型のインクの乾燥のさせ方について、単にゆっくり乾燥をさせるのではなく、沸点が互いに異なる複数種類の溶媒を含むインクを用いて、溶媒の沸点の違いを利用してインクを乾燥させることを考えた。また、そのような構成のインクを用いることで、上記の様々な問題を解決し得ることを見出した。また、更なる鋭意研究により、このような効果を得るために必要な特徴を見出し、本発明に至った。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、沸点が互いに異なる2種類の溶媒を少なくとも含むインクを媒体上へ吐出するインクジェットヘッドと、前記媒体上のインクにエネルギー線を照射することにより前記媒体上のインクを加熱するエネルギー線照射部とを備え、前記インクは、前記2種類の溶媒のうちで沸点が低い方の溶媒である低沸点溶媒と、前記2種類の溶媒のうちで沸点が高い方の溶媒である高沸点溶媒とを、それぞれ20重量%以上含み、前記媒体上に前記インクが着弾した後、前記インク中の溶媒が全て蒸発するまでの間の少なくとも一部の期間において、前記エネルギー照射部は、前記媒体上のインクへエネルギー線を照射することにより、前記媒体上の前記インクの温度について、前記低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、前記高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまで上昇させることを特徴とする。
【0009】
このように構成した場合、低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまでインクを加熱することで、インク中の高沸点溶媒の蒸発を抑えつつ、低沸点溶媒を適切かつ十分に蒸発させることができる。また、これにより、例えば、媒体上のインクの粘度を高め、滲みの発生を防ぐことができる。また、この場合、高沸点溶媒がインク中に残った状態にすることで、例えばその後にインクのドットの平坦化が進む状態にして、インクの表面のマット化を適切に防ぐことができる。また、より具体的に、上記の少なくとも一部の期間において、エネルギー照射部は、例えば、媒体上のインクへエネルギー線を照射することにより、インクの粘度について、媒体上で滲みが発生せず、かつ、その後の時間の経過により平坦化が進む粘度に高める。このように構成すれば、例えば、滲みの発生を抑えつつ、インクのドットを適切に平坦化できる。また、この場合、インクの温度を高沸点溶媒の沸点よりも低くすることで、インクの突沸現象等を適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば、インクの表面が多孔質の被膜状になること等を適切に防ぐことができる。そのため、このように構成すれば、例えば、エネルギー線の照射によりインクを乾燥させる場合において、インクの滲みの防止と粗面化の防止とを適切に両立できる。
【0010】
また、この構成において、インクとしては、例えば、乾燥後に媒体上に樹脂が残るインク等を用いることが考えられる。この場合、単に短時間に強いエネルギー線を照射して、インクを瞬間的に乾燥させると、媒体上に残る樹脂が粗面化することで、光沢性の高い印刷を行うことが難しくなる場合がある。これに対し、上記のように構成すれば、このようなインクを用いる場合にも、樹脂の粗面化等を防いで、光沢性の高い印刷をより適切に行うことができる。また、この構成において、インクが含む色材としては、例えば顔料を用いること等が考えられる。この場合、単に短時間に強いエネルギー線を照射して、インクを瞬間的に乾燥させると、顔料の状態が乱れ、光沢性の高い印刷を行うことが難しくなる場合がある。また、反対に、単にインクをゆっくり乾燥させた場合、コーヒーステイン現象等が生じやすくなる。これに対し、上記のように構成すれば、インクの着弾の直後において、インクの粘度を十分に高め、かつ、完全には乾燥しない状態を実現できる。また、これにより、顔料を含むインクを用いる場合にも、インクを媒体により適切に定着させることができる。
【0011】
また、この構成において、エネルギー線照射部は、エネルギー線として、例えば紫外線を照射する。このように構成すれば、例えば、エネルギー線の照射によるインクの加熱を適切に行うことができる。また、この構成において、このインクは、例えば3種類以上の溶媒を含んでもよい。この場合、低沸点溶媒及び高沸点溶媒は、例えば、インクが含む溶媒の中で最も多く含まれる2種類の溶媒であることが好ましい。また、高沸点溶媒としては、低沸点溶媒の沸点よりも沸点が30℃以上高い溶媒を用いることが好ましい。また、より具体的に、この場合、例えば、低沸点溶媒の沸点を110℃以下として、高沸点溶媒の沸点を130℃以上にすること等が考えられる。また、他の例として、低沸点溶媒の沸点を60℃以上100℃未満として、高沸点溶媒の沸点を100℃以上にすること等も考えられる。これらのように構成すれば、例えば、上記の条件でのインクの加熱を適切に行うことができる。また、この場合、25℃での低沸点溶媒の蒸気圧について、25℃での高沸点溶媒の蒸気圧の4倍以上であることがより好ましい。また、インク中に含まれる低沸点溶媒の8割以上を蒸発させた場合において、インクの粘度は、100mPa・sec以上になることが好ましい。これらのように構成すれば、例えば、低沸点溶媒及び高沸点溶媒を用いて行う印刷をより適切に行うことができる。エネルギー線照射部においてエネルギー線を照射する照射手段としては、UVLED(UV−LED)を用いることが特に好ましい。これは、照射するエネルギー線の強度の制御について、非印字時のタイミングやエネルギー線を照射する領域等に応じたON/OFFの操作で容易に行うことができるためである。また、UVLEDに次いで、照射手段としては、半導体レーザを用いることが好ましい。また、求められる条件等に応じて、照射手段として、メタルハライドランプ等を用いることも可能である。
【0012】
また、この構成においては、低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまでのインクの加熱をエネルギー線の照射で行った後に、インクの乾燥を完了させるための加熱を更に行うことが考えられる。また、この場合、インクの乾燥を完了させるための加熱についても、エネルギー線の照射により行うことが考えられる。より具体的に、この場合、例えば、媒体上にインクが着弾した後、インク中の溶媒が全て蒸発するまでの間において、エネルギー照射部は、媒体上のインクに対し、第1の条件及び第2の条件でエネルギー線を照射する。この場合、第1の条件は、例えば、媒体上のインクの温度について、低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまで上昇させる条件である。また、第2の条件は、媒体上のインクの温度について、少なくとも一部のタイミングにおいて、高沸点溶媒の沸点以上の温度にまで上昇させる条件である。また、この場合、媒体上のインクに対し、エネルギー線照射部は、第1の条件でエネルギー線を照射することにより、インクに含まれる低沸点溶媒の半分以上を蒸発させる。また、第1の条件でのエネルギー線の照射を行った後において、エネルギー線照射部は、第2の条件でエネルギー線を照射する。また、これにより、例えば、インク中の高沸点溶媒を更に蒸発させ、インクを媒体に定着させる。また、第1の条件でのエネルギー線の照射時には、インクに含まれる低沸点溶媒について、80重量%以上を蒸発させることがより好ましい。このように構成すれば、例えば、インクの着弾の直後において、インクの粘度をより適切に高めることができる。
【0013】
また、インクの乾燥を完了させるための加熱については、例えば、エネルギー線の照射以外の方法で行うことも考えられる。この場合、媒体を加熱することで間接的にインクを乾燥させる各種のヒータ等を用いてインクを加熱することが考えられる。このように構成した場合も、インク中の高沸点溶媒を適切に蒸発させて、インクを媒体に定着させることができる。また、本発明の構成として、上記と同様の特徴を有する印刷方法等を用いることも考えられる。この場合も、例えば、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、エネルギー線の照射によりインクを乾燥させる場合において、インクをより適切に乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷装置10の要部の構成の一例を示す上面図である。
図2】本例におけるインクの乾燥のさせ方について更に詳しく説明をする図である。
図3】インクの乾燥のさせ方の他の例について説明をする図である。
図4】インクの乾燥のさせ方の他の例について説明をする図である。
図5】印刷装置10の構成の変形例について要部の構成の一例を示す図である。
図6】印刷装置10の構成の更なる変形例について要部の構成の一例を示す図である。
図7】印刷装置10の構成の更なる変形例について説明をする図である。図7(a)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す。図7(b)は、紫外線照射部104における光源部202a、bにより紫外線を照射する照射条件について説明をする図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置10の要部の構成の一例を示す上面図である。本例において、印刷装置10は、インクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタであり、ヘッド部12、走査駆動部14、及び制御部20を備える。尚、以下に説明をする点を除き、印刷装置10は、公知のインクジェットプリンタと同一又は同様の特徴を有してよい。例えば、印刷装置10は、図1に示した構成以外に、印刷の動作に必要な各種の構成等を更に備えてもよい。
【0017】
また、本例において、印刷装置10は、ヘッド部12に主走査動作を行わせるシリアル型のインクジェットプリンタである。この場合、主走査動作とは、例えば、予め設定された主走査方向(図中のY軸方向)へ移動しつつインク(インク滴)を吐出する動作のことである。また、ヘッド部12に主走査動作を行わせるとは、ヘッド部12におけるインクジェットヘッドに主走査動作を行わせることである。
【0018】
ヘッド部12は、印刷対象の媒体(メディア)50に対してインクを吐出する部分であり、複数のインクジェットヘッド及び紫外線照射部104を有する。また、複数のインクジェットヘッドとして、図中に示すように、インクジェットヘッド102c、インクジェットヘッド102m、インクジェットヘッド102c、及びインクジェットヘッド102k(以下、インクジェットヘッド102c〜kという)を有する。また、本例において、インクジェットヘッド102c〜kは、主走査方向と直交する副走査方向(図中のX軸方向)における位置を揃えて、主走査方向へ並べて配設されている。また、インクジェットヘッド102c〜kは、互いに異なる色のインクを吐出するインクジェットヘッドであり、フルカラーの表現に用いるプロセスカラーの各色のインク(カラーインク)を吐出する。より具体的に、インクジェットヘッド102cは、シアン色(C色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102mは、マゼンタ色(M色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102yは、イエロー色(Y色)のインクを吐出する。また、インクジェットヘッド102kは、ブラック色(K色)のインクを吐出する。
【0019】
また、本例において、インクジェットヘッド102c〜kのそれぞれは、蒸発乾燥型のインクを吐出する。この場合、蒸発乾燥型のインクとは、例えば、溶媒を蒸発させることで媒体50に定着するインクのことである。また、溶媒とは、例えば、インク中の他の成分を溶解又は分散させる液体のことである。溶媒としては、例えば、水性の溶媒や、各種の溶剤(有機溶剤)等を好適に用いることができる。また、より具体的に、本例においては、蒸発乾燥型のインクとして、エネルギー線を照射することで発熱するインクを用いる。エネルギー線を照射することでインクが発熱するとは、例えば、照射されたエネルギー線をインクが吸収することで、インク自体が発熱することである。
【0020】
また、更に具体的に、本例において、エネルギー線としては、紫外線を用いる。インクとしては、例えば、色材、紫外線吸収剤、及び溶媒を少なくとも含むインクを用いる。この場合、紫外線吸収剤とは、例えば、紫外線を吸収することで発熱する物質のことである。また、紫外線を吸収することで発熱する物質とは、例えば、照射された紫外線のエネルギーを熱エネルギーに変換する物質のことである。このような紫外線吸収剤としては、紫外線に応じて発熱する専用の物質を用いることが考えられる。また、この場合、例えば、インクを構成するインクビヒクルのいずれかの成分に紫外線吸収剤を添加することが考えられる。また、このような紫外線吸収剤としては、公知の紫外線吸収剤を好適に用いることができる。また、紫外線吸収剤は、インク中の他の添加物と兼用の物質であってもよい。例えば、インクのいずれかの成分(例えば、インクに含まれる色材、樹脂、又は溶媒等)として紫外線を十分に吸収する物質を用いる場合等には、専用の紫外線吸収剤を添加せずに、その成分に紫外線吸収剤の機能を兼用させることもできる。また、インクは、印刷の用途や求められる品質等に応じて、更に他の物質等を含んでもよい。例えば、インクは、バインダ樹脂等を更に含んでもよい。
【0021】
また、本例において用いるインクは、沸点が互いに異なる2種類の溶媒を少なくとも含む。より具体的に、このインクは、例えば、沸点が異なる2種類の溶媒として、これらのうちで沸点が低い方の溶媒である低沸点溶媒と、沸点が高い方の溶媒である高沸点溶媒とを、それぞれ20重量%以上含む。そして、本例においては、このような溶媒を含むインクの特徴を利用して、インクを乾燥させる。本例におけるインクのより具体的な特徴や、インクの乾燥のさせ方については、後に更に詳しく説明をする。
【0022】
また、本例のヘッド部12において、紫外線照射部104は、エネルギー線照射部の一例であり、エネルギー線の一例である紫外線を媒体50上のインクへ照射する。また、これにより、紫外線照射部104は、媒体50上のインクを加熱する。また、より具体的に、本例において、紫外線照射部104は、複数の光源部202a、bを有する。複数の光源部202a、bは、図中に示すように、インクジェットヘッド102c〜kと副走査方向における位置を揃えて、主走査動作時にインクジェットヘッド102c〜kの後方側になる位置に配設される。また、この場合、光源部202aがインクジェットヘッド102c〜kに近い側になり、光源部202bがインクジェットヘッド102c〜kから遠い側になるように、主走査方向へ並べて配設される。
【0023】
また、本例において、光源部202a、bのそれぞれは、互いに異なる照射条件での紫外線の照射を行う。より具体的に、本例において、光源部202aは、予め設定された第1の条件である照射条件1での紫外線の照射を行う。この場合、照射条件1は、媒体50上のインクの温度について、低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまで上昇させるように設定される。また、光源部202bは、照射条件1とは異なるように設定された第2の条件である照射条件2での紫外線の照射を行う。この場合、照射条件2は、媒体50上のインクの温度について、少なくとも一部のタイミングにおいて高沸点溶媒の沸点以上の温度にまで上昇させるように設定される。
【0024】
また、この場合、照射条件1については、例えば、相対的に弱い強度の照射条件と考えることができる。また、照射条件2については、例えば、相対的に強い強度の照射条件と考えることができる。また、この場合、紫外線照射部104は、主走査動作時に光源部202a、bから紫外線を照射することで、媒体50上にインクが着弾した後、インク中の溶媒が全て蒸発するまでの間に、媒体50上のインクに対し、照射条件1及び照射条件2で、順次紫外線を照射する。また、これにより、例えば、低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまでのインクの加熱を行った後に、インクの乾燥を完了させるための加熱を更に行う。
【0025】
また、本例において、光源部202a、bとしては、例えば、UVLEDを用いた紫外線光源(UVLED照射手段)を用いる。このように構成すれば、例えば、様々な照射条件を柔軟かつ適切に設定できる。光源部202a、bが発生する紫外線の波長については、上記及び以下に説明をするようにインクを加熱することが可能な波長であれば、特定の波長に限定されない。また、このような紫外線の波長については、例えば、400nm以下の波長を好適に用いることができる。また、本例において行う紫外線の照射の仕方や、その効果等についても、後に更に詳しく説明をする。
【0026】
走査駆動部14は、媒体50に対して相対的に移動する走査動作をヘッド部12に行わせる駆動部である。この場合、ヘッド部12に走査動作を行わせるとは、例えば、ヘッド部12におけるインクジェットヘッド102c〜kに走査動作を行わせることである。また、本例において、走査駆動部14は、走査動作として、主走査動作及び副走査動作をヘッド部12に行わせる。この場合、走査駆動部14は、ヘッド部12に主走査動作を行わせることにより、媒体50の各位置に対し、ヘッド部12のインクジェットヘッド102c〜kにインクを吐出させる。また、主走査動作時にインクジェットヘッド102c〜kと共に紫外線照射部104を移動させることにより、媒体50上のインクへ紫外線照射部104に紫外線を照射させて、インクを乾燥させる。
【0027】
また、走査駆動部14は、主走査動作の合間に副走査動作をヘッド部12に行わせることで、媒体50においてヘッド部12と対向する位置を順次変更する。この場合、副走査動作とは、例えば、主走査方向と直交する副走査方向へ媒体50に対して相対的に移動する動作のことである。また、より具体的に、本例において、走査駆動部14は、図中にX軸方向として示した方向と平行な搬送方向へ媒体50を搬送することにより、ヘッド部12に副走査動作を行わせる。この場合、例えば図示を省略したローラ等を用いて、図中に示したX+方向へ媒体50を搬送する。
【0028】
また、制御部20は、例えば印刷装置10のCPUであり、印刷装置10の各部の動作を制御する。制御部20は、例えば、各回の主走査動作時において、印刷すべき画像に応じて設定されるタイミングにインクジェットヘッド102c〜kにインクを吐出させることにより、インクジェットヘッド102c〜kに画像を描画させる。本例によれば、例えば、印刷装置10により所望の画像を適切に印刷することができる。
【0029】
尚、本例において、印刷装置10は、図中にY+方向(プリント方向)として示した一方の向きでの主走査動作(片方向)のみを行う片方向プリンタである。また、図1に示した構成において、ヘッド部12は、上記のように、CMYKの各色のカラーインクを吐出する。この場合、各回の主走査動作において、媒体50に着弾直後のインクへ紫外線を照射することで、滲みの発生を抑え、高精細な印刷を適切に行うことができる。また、ヘッド部12の構成の変形例においては、例えば、クリアインク等を更に用いること等も考えられる。この場合、クリアインクとは、例えば、色材を含まないインクのことである。また、この場合、例えばオーバーコート層を形成する場合等に、着弾の直後ではなく、ある程度の時間を待ってインクのドットを平坦化させてからインクを乾燥させることが好ましい場合もある。そのような場合には、例えばY+方向へヘッド部12を移動させる往路の主走査動作時にインクを吐出し、ヘッド部12を元の位置へ復帰させる復路でのヘッド部12の移動時に紫外線を照射すること等も考えられる。この場合、片方向プリンタにおける復路の主走査動作とは、例えば、インクの吐出を行わせずに、ヘッド部12を移動させる動作のことである。このように構成すれば、例えば、紫外線を照射するまでの時間を空けることで、インクのドットを適切に平坦化することができる。
【0030】
続いて、本例において用いるインクの特徴や、インクの乾燥のさせ方等について、詳しく説明をする。上記においても説明をしたように、本例において、インクジェットヘッド102c〜kでは、低沸点溶媒及び高沸点溶媒をそれぞれ20重量%以上含むインクを用いる。また、このインクは、例えば3種類以上の溶媒を含んでもよい。この場合、低沸点溶媒及び高沸点溶媒は、例えば、インクが含む溶媒の中で最も多く含まれる2種類の溶媒(主要溶媒)である。また、この場合、インクが含む全ての溶媒の中での低沸点溶媒及び高沸点溶媒のそれぞれの含有率(溶媒成分中の含有率)については、30重量%以上であることが好ましい。
【0031】
また、高沸点溶媒としては、低沸点溶媒の沸点よりも沸点が30℃以上高い溶媒を用いることが好ましい。また、高沸点溶媒の沸点と、低沸点溶媒の沸点とは、40℃以上離れていることがより好ましい。より具体的に、インクの例(第1のタイプのインク)としては、例えば、低沸点溶媒の沸点を110℃以下として、高沸点溶媒の沸点を130℃以上にすること等が考えられる。この場合、低沸点溶媒としては、例えば水等を用いることが考えられる。また、高沸点溶媒としては、例えば、ジエチレングリコール等を用いることが考えられる。また、インクの他の例(第2のタイプのインク)としては、例えば、低沸点溶媒の沸点を60℃以上100℃未満として、高沸点溶媒の沸点を100℃以上にすること等も考えられる。この場合、低沸点溶媒としては、例えば、エチルアルコール等のアルコール類等を用いることが考えられる。また、高沸点溶媒としては、例えば、水、大豆油、又はジエチレングリコール類等を用いることが考えられる。
【0032】
これらのようなインクを用いることにより、後に詳しく説明をするように紫外線を照射した場合に、インクを適切に乾燥させることができる。また、この場合、低沸点溶媒及び高沸点溶媒の室温における蒸気圧についても、十分に離れていることが好ましい。より具体的に、25℃での蒸気圧に着目した場合、低沸点溶媒の蒸気圧が高沸点溶媒の蒸気圧の4倍以上であることが好ましい。また、本例のインクは、更に、インク中の低沸点溶媒を蒸発させることで十分に粘度が高まるように構成されている。より具体的に、本例のインクについて、インク中に含まれる低沸点溶媒の8割以上を蒸発させた場合、インクの粘度は、100mPa・sec以上になる。また、低沸点溶媒の8割以上を蒸発させた場合のインクの粘度は、好ましくは500mPa・sec以上、更に好ましくは、1000mPa・sec以上である。
【0033】
図2は、本例におけるインクの乾燥のさせ方について更に詳しく説明をする図であり、紫外線照射部104(図1参照)を用いて紫外線の照射した場合のインクの状態の例をグラフにより示す。上記においても説明をしたように、本例において、紫外線照射部104は、光源部202a、b(図1参照)のそれぞれから紫外線を照射することで、互いに異なる照射条件1及び照射条件2の間で、照射条件の選択を可能にしている。また、この場合、時間をずらして各条件での紫外線の照射を行うことで、図中に期間A、Bとして示すように、2段階に分けてインクを乾燥させる。
【0034】
また、図2のグラフにおいて、一点破線(イ)は、低沸点溶媒の沸点を示している。一点破線(ロ)は、高沸点溶媒の沸点を示している。また、期間Aは、紫外線照射部104における光源部202aにより照射条件1での紫外線の照射を行う期間を示している。期間Bは、紫外線照射部104における光源部202bにより照射条件2での紫外線の照射を行う期間を示している。また、実線(a)は、紫外線照射部104から照射する紫外線の強度の時間変化を示している。破線(b)は、媒体上に着弾したインクにおいて紫外線照射部104により紫外線が照射されることで生じるインクの温度変化を示している。また、点線(c)は、インクの粘度の変化を示している。
【0035】
また、上記においても説明をしたように、本例において、照射条件1は、媒体上のインクの温度について、低沸点溶媒の沸点以上であり、かつ、高沸点溶媒の沸点よりも低い温度にまで上昇させる条件である。また、より具体的に、照射条件1は、照射する紫外線の強度と、その条件で紫外線を照射する期間Aの長さ(照射時間)の積で求まる照射のエネルギーが上記の条件を満たすように設定される。また、図2に示す場合においては、期間Aに対応する区間の最後において、インクの温度について、低沸点溶媒の沸点を超えるが高沸点溶媒Bの沸点を越えないように設定されている。
【0036】
このように構成した場合、期間Aにおいて、インク中の高沸点溶媒の蒸発を抑えつつ、低沸点溶媒を適切かつ十分に蒸発させることができる。また、この場合、インクの着弾の直後に低沸点溶媒を蒸発させ、インクの粘度を高めることにより、インクの滲みを適切に防止することができる。また、この段階では、高沸点溶媒がインク中に残る効果により、突沸等で低沸点溶媒が爆発的に蒸発することを防ぐことができる。また、この場合、点線(c)で示すように、インクの粘度は、急上昇せずに、中間状態に保たれることになる。また、その結果、媒体上のインクにおいて、例えば、時間の経過によりインクの層の被膜化や平坦化が進む状態が維持されることになる。そのため、本例によれば、例えば、インクの滲みを適切に防止しつつ、インクの表面のマット化等を適切に防ぐことができる。また、この場合、インクの突沸等を防ぐことにより、インクの乾燥時にインクの表面が多孔質の被膜状になること等を適切に防ぐこともできる。また、これにより、例えば、インクの層の粗面化や、粗面化によりインクの層の均一性が損なわれること等を適切に防ぐこともできる。このように、本例によれば、例えば、光沢性の高いインクの層を形成すること(プリント層の平坦化)と、滲みの防止とを適切に両立することができる。また、この場合、例えばインクのドットを十分に平坦化することで、印刷結果において、バンディング等を目立ちにくくすること等も可能になる。そのため、本例によれば、例えば、印刷結果を適切に高画質化すること等も可能になる。
【0037】
ここで、期間Aについては、例えば、照射条件1での紫外線の照射を行うことで低沸点溶媒を蒸発させて、滲みを止める期間等と考えることができる。また、期間Aは、媒体上にインクが着弾した後、インク中の溶媒が全て蒸発するまでの間の少なくとも一部の期間の一例である。また、本例において照射条件1で紫外線を照射する動作については、例えば、インク中の低沸点溶媒の蒸発を優先して選択的に行わせ、インクの粘度を高める動作等と考えることができる。また、期間Aの後には、期間Bにおいて、照射条件2での紫外線の照射を行う。また、上記においても説明をしたように、本例において、照射条件2は、媒体上のインクの温度について、少なくとも一部のタイミングにおいて高沸点溶媒の沸点以上の温度にまで上昇させるように設定される。本例によれば、例えば、期間Bにおいて、インクの温度を十分に高め、インク中の高沸点溶媒を更に蒸発させることができる。また、これにより、例えば、媒体上のインクの溶媒を完全に蒸発させることができる。
【0038】
尚、インクの溶媒を完全に蒸発させるとは、例えば、インクの粘度が十分に高まるように、溶媒を十分に蒸発させることである。また、期間Bについては、例えば、高沸点溶媒を蒸発させることでインクの乾燥定着を行う期間等と考えることができる。また、この場合、高沸点溶媒については、低沸点溶媒と比べて蒸発しにくい溶媒であるため、加熱時に突沸等の問題は生じにくいと考えられる。また、照射条件2での紫外線の照射を行うタイミングにおいては、それまでの間にインクのドットの平坦化が進み、インクがある程度薄く広がることで、より広い範囲からより均一に溶媒が蒸発しやすくなっているとも考えられる。また、その結果、高沸点溶媒の蒸発時には、溶媒の蒸発による粗面化が生じにくい状態になっているとも考えられる。また、この場合、期間Aにおいてインクの粘度が既にある程度以上に高まっているため、溶媒の蒸発による粗面化が生じにくい状態になっているとも考えられる。そのため、本例においては、照射条件2での紫外線の照射時にも、インクの層の粗面化等を適切に防ぐことができる。
【0039】
また、本例において、インク中の低沸点溶媒と高沸点溶媒との比率(添加比率)については、上記のようにして滲みを防止することや、インクの層(被膜)の平坦化や粗面化の防止等を求められる印刷の品質に応じて両立するように、最適化することが好ましい。また、図2のグラフに示した結果は、インク中の全溶媒中に占める比率について、低沸点溶媒を20〜60重量%とし、高沸点溶媒を40〜80重量%として行った実験の結果の一例である。また、より具体的に、この実験においては、溶媒を68重量%含み、色材である顔料を12重量%含み、樹脂を20重量%含むインクを用いた。また、68重量%の溶媒は、45重量%の低沸点溶媒と、23重量%の高沸点溶媒とを合わせたものである。また、このインクは、乾燥後において、顔料が37.5重量%(19〜57重量%)になり、樹脂が62.5重量%(43〜81重量%)になる。
【0040】
また、この実験において、照射条件1の工程で必要な照射エネルギー量は、光源部202aとして385nmの発光波長のUVLED照射手段を使用し、かつ、例えば250〜400nmの範囲のUVLEの発光波長のエネルギーを有効に吸収できる紫外線吸収剤を含むインクを使用した場合において、例えば、0.1〜1.0J/cm程度である。このような条件で紫外線を照射することにより、インク中の低沸点溶媒が十分に蒸発し、インクの滲みが止まる程にインクの粘度が上昇する。また、これにより、媒体上のインクは、例えば、仮定着の状態になる。また、この場合、紫外線照射部104は、照射条件1で紫外線を照射することにより、例えば、媒体上のインクに含まれる低沸点溶媒の半分以上を蒸発させることが好ましい。このように構成すれば、例えば、インクの着弾の直後において、インクの粘度をより適切に高めることができる。また、この場合、インクに含まれる低沸点溶媒のうち、80重量%以上を蒸発させることがより好ましい。このように構成すれば、例えば、ほとんどの低沸点溶媒を蒸発させることで、インクの粘度をより適切に高めることができる。
【0041】
また、照射条件2において照射することが必要な紫外線の照射エネルギー量については、例えば600×6001dpiの解像度で、約20μmの厚さのインクの層(プリント層)を形成する場合において、例えば1〜10J/cm程度である。この場合、照射条件2において照射することが必要な紫外線の照射エネルギー量とは、例えば、高沸点溶媒の沸点を超える温度にまでのインクの層を昇温させて、インクの層をほぼ乾燥した状態にするために必要なエネルギー量である。また、本例においては、期間Bの間に照射条件2での紫外線を照射することで、インク中の溶媒をほぼ全てを蒸発させる。また、これにより、インクは、媒体に乾燥定着する。また、照射条件2において照射することが必要な紫外線の照射エネルギー量については、紫外線の照射強度を強くして、短時間でインクを加熱するほど小さくなる。より具体的に、この場合、媒体からの放熱の時定数よりも短い時間で紫外線の照射を行う断熱加熱条件に近づけるほど、媒体を通して熱が逃げる伝熱の損失(ロス)を低減できるため、インクを乾燥させるために必要な照射エネルギー量を低減できる。
【0042】
また、本例において、媒体上にインクへ照射する紫外線のエネルギーの最大値(最大供給エネルギー)は、光源部202a、bによる紫外線の照射強度と、照射時間により決まる。そして、この場合、最大供給エネルギーについては、例えば、印刷装置において実行する印刷の条件(プリント条件)においてインクや媒体に焦げ等が発生しないように設定する必要がある。そのため、光源部202a、bによる紫外線の照射強度や照射時間については、設定される印刷の速度(プリント速度)、印刷のパス数、媒体上に形成されるインクのドットの密度(プリントドット密度)等に応じて、自動的又はオペレータの操作(手動)により変更することが好ましい。
【0043】
また、紫外線を照射する具体的な条件(照射条件1及び照射条件2)については、図2に示した条件に限らず、様々に変更が可能である。図3及び図4は、インクの乾燥のさせ方の他の例について説明をする図であり、紫外線を照射する具体的な条件について図2を用いて説明をした場合と異ならせた場合について、インクの状態の例をグラフにより示す。尚、図3及び図4において、図2と同じ符号を付して示した各種の線や期間は、図2における線や期間と同じものを示している。
【0044】
また、より具体的に、図3に示した場合においては、実線(a)で示すように、期間A及び期間Bにおいて、紫外線の強度(照射強度)が漸増するように、照射条件1及び照射条件2を設定する。紫外線の照射強度が漸増するとは、例えば、単位時間あたりの紫外線の照射強度が漸次上昇することである。また、この場合、それぞれの期間での照射強度の上昇勾配については、例えば、低沸点溶媒及び高沸点溶媒の沸点、紫外線照射部104における光源部202a、b(図1参照)が紫外線を照射する幅(照射幅)、及び、紫外線の強度分布等を勘案して決定することが好ましい。このように構成すれば、例えば、照射強度の上昇率を変化させることで、溶媒の突沸等を抑えることがより容易になる。また、この場合も、媒体上のインクの温度や粘度について、図2を用いて説明をした場合と同一又は同様に変化させることができる。また、これにより、例えば、光沢性の高いインクの層を形成することと、滲みの防止とを適切に両立することができる。
【0045】
また、図4に示した場合においては、図2に示した場合のように各期間において一定の強度の紫外線を照射するのではなく、実線(a)で示すように、期間Aにおいて、パルス状に紫外線を照射する。このように構成すれば、例えば、破線(b)の曲線(温度上昇曲線)により示すように、媒体上のインクの温度について、過熱しない程度に適切かつ細かく制御することが可能となる。このように構成した場合も、媒体上のインクの温度や粘度について、図2を用いて説明をした場合と同一又は同様に変化させることができる。また、これにより、例えば、光沢性の高いインクの層を形成することと、滲みの防止とを適切に両立することができる。
【0046】
尚、図4に示した例においては、期間Aにおいてのみ、パルス状に紫外線を照射している。しかし、紫外線の照射の仕方の更なる変形例においては、求められる条件等に応じて、期間Bでも同様に、パルス状に紫外線を照射してもよい。また、上記の説明等からも明らかなように、紫外線照射部104による紫外線の照射の仕方については、印刷装置の構成に合わせて設定する必要がある。そのため、印刷装置10の構成を変形させた場合には、その印刷装置10の構成に合わせた方法で紫外線を照射することが望ましい。そこで、以下、印刷装置10の変形例等について、更に詳しく説明をする。
【0047】
図5は、印刷装置10の構成の変形例について要部の構成の一例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図5において、図1〜4と同じ符号を付した構成は、図1〜4における構成と、同一又は同様の特徴を有してよい。
【0048】
本変形例においても、印刷装置10は、片方向プリンタであり、図1に示した印刷装置10と同様に、図中にY+方向(プリント方向)として示した一方の向きでの主走査動作(片方向)のみを行う。また、本変形例において、紫外線照射部104は、図1に示す構成における複数の光源部202a、bに代えて、1つの光源部202のみを有する。また、光源部202は、制御部20の制御に応じて、照射条件1及び照射条件2の両方の条件で、紫外線を照射する。また、以下において説明をする各変形例においても、照射条件1及び照射条件2としては、図1〜4を用いて上記において説明をした場合と同一又は同様の条件を用いる。
【0049】
より具体的に、本変形例において、光源部202は、主走査動作の往路において、光源部202により、照射条件1での紫外線の照射を行う。この場合、主走査動作の往路において紫外線を照射するとは、例えば、図中のY+方向へヘッド部12が移動する間に紫外線を照射することである。また、これにより、主走査動作時にインクジェットヘッド102c〜kが吐出するインクに対し、媒体50への着弾の直後に、照射条件1での紫外線の照射を行う。このように構成すれば、例えば、インクの滲みが発生する前にインクの粘度を適切に高めることができる。また、この場合、弱い照射条件である照射条件1で紫外線を照射することにより、インクの突沸等を適切に防ぐことができる。
【0050】
また、この場合、各回の主走査動作の後にヘッド部12を元の位置へ復帰させる主走査動作の復路において、光源部202により、照射条件2での紫外線の照射を行う。主走査動作の往路において紫外線を照射するとは、例えば、図中のY−方向へヘッド部12が移動する間に紫外線を照射することである。このように構成すれば、往路において滲みが止められたインクに対し、強い照射条件である照射条件2で紫外線を照射することにより、インクを十分に乾燥させ、媒体50にインクを定着させることができる。そのため、本変形例においても、例えば、光沢性の高いインクの層を形成することと、滲みの防止とを適切に両立することができる。
【0051】
また、印刷装置10の構成については、更に変形を行ってもよい。図6は、印刷装置10の構成の更なる変形例について要部の構成の一例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図6において、図1〜5と同じ符号を付した構成は、図1〜5における構成と、同一又は同様の特徴を有してよい。
【0052】
本変形例においても、印刷装置10は、片方向プリンタであり、図1に示した印刷装置10と同様に、図中にY+方向(プリント方向)として示した一方の向きでの主走査動作(片方向)のみを行う。また、本変形例において、ヘッド部12は、図1に示したヘッド部12と比べて、インクジェットヘッド102wを更に有する。インクジェットヘッド102は、白色のインクを吐出するインクジェットヘッドであり、インクジェットヘッド102c〜kと副走査方向の位置をずらして配設される。
【0053】
また、本変形例におけるヘッド部12の構成については、例えば、複数のインクジェットヘッドを複数列に分けて配置した構成と考えることもできる。また、インクジェットヘッド102wは、特色用のインクジェットヘッドの一例である。印刷装置10の構成の更なる変形例において、ヘッド部12は、特色用のインクジェットヘッドとして、インクジェットヘッド102wに代えて、他の色用のインクジェットヘッドを有してもよい。この場合、特色用のインクジェットヘッドとして、例えばクリアインク用のインクジェットヘッド等を用いることが考えられる。
【0054】
また、本変形例において、紫外線照射部104は、図1に示した紫外線照射部104と比べ、複数の光源部202c、dを更に有する。この場合、光源部202c、dは、インクジェットヘッド102wに対応して設けられる光源部である。光源部202cは、光源部202aと同様に、照射条件1で、紫外線を照射する。また、光源部202dは、光源部202bと同様に、照射条件2で、紫外線を照射する。本変形例によれば、例えば、多くのインクジェットヘッドを用い、一部のインクジェットヘッドについて、副走査方向における位置を他のインクジェットヘッドとずらして配置する場合にも、各インクジェットヘッドが吐出するインクに対し、照射条件1及び照射条件2での紫外線の照射を適切に行うことができる。また、これにより、例えば、光沢性の高いインクの層を形成することと、滲みの防止とを適切に両立することができる。
【0055】
尚、印刷物の用途等によっては、例えば特定の色のインクについて、他の色のインクと異なる方法で乾燥をさせることが好ましい場合もある。例えば、特色のインクとしてクリアインクを用いて、カラーインクで形成したインクの層の上にクリアインクでオーバーコート層を形成する場合等には、クリアインクの層について、より平坦で、透明な層を形成することが望まれる。そして、このような場合、クリアインクについて、カラーインクと異なる方法で乾燥させることも考えられる。より具体的に、この場合、クリアインクの着弾の直後には紫外線を照射しないことや、インクのドットが十分に平坦化する時間が経過した後に紫外線を照射することが考えられる。また、この場合、例えば、図6に示した構成において、インクジェットヘッド102wに代えて、クリアインク用のインクジェットヘッドを用いる。また、インクジェットヘッド102c〜kにより吐出するカラーインクについては、上記において説明をした場合と同一又は同様にして、各回の主走査動作の往路において、着弾の直後に、光源部202aにより紫外線を照射する。一方、クリアインク用のインクジェットヘッドにより吐出するクリアインクについては、例えば、各回の主走査動作の往路において、紫外線の照射は行わずに、インクの吐出のみを行うことも考えられる。また、この場合、主走査動作の復路において、光源部202c、dから紫外線を照射する。このように構成すれば、例えば、クリアインクのドットが十分に平坦化した後に、インクを乾燥させることができる。また、この場合、例えば光源部202dにより照射条件1で紫外線を照射して、光源部202cにより照射条件2で紫外線を照射することが考えられる。このように構成すれば、例えば、媒体50上のクリアインクに対しも、先に照射条件1で紫外線を照射して、その後に照射条件2で紫外線を照射することができる。
【0056】
また、上記においては、印刷装置10の構成に関し、主に、片方向プリンタの場合の構成について、説明をした。この場合、例えば図1図5、及び図6等に図示したように、ヘッド部12におけるインクジェットヘッド102c〜kの一方側に設けた光源部を用いて、照射条件1及び照射条件2のそれぞれの条件で、連続的に紫外線を照射する。また、この場合、図1図6を用いて説明をしたように、照射条件1用の光源部と照射条件2用の光源部とを分けて配設することが考えられる。また、この場合、複数の光源部の位置について、各光源での紫外線の照射のタイミングや照射時間等の時間間隔が求められる条件を満たすように調整することが好ましい。また、ヘッド部12の構成の変形例のおいては、1つの光源部を前側の部分と後側の部分に分けて制御して、部分によって照射の駆動条件を異ならせ、複数の光源部と同様に動作させてもよい。また、印刷装置10の動作に応じて、例えば図5を用いて説明をしたように、1つの光源部を用いて照射条件1及び照射条件2での紫外線の照射を行ってもよい。
【0057】
また、印刷装置10としては、例えば、双方向プリンタを用いること等も考えられる。この場合、双方向プリンタとは、例えば、主走査方向と平行な一方及び他方の向きでの主走査動作を行う構成のことである。この場合、紫外線照射部104を構成する光源部については、インクジェットヘッド102c〜kの一方側のみではなく、主走査方向におけるインクジェットヘッド102c〜kの両側に配設することが考えられる。
【0058】
図7は、印刷装置10の構成の更なる変形例について説明をする図である。図7(a)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す。図7(b)は、紫外線照射部104における光源部202a、bにより紫外線を照射する照射条件について説明をする図である。尚、以下に説明をする点を除き、図7において、図1〜6と同じ符号を付した構成は、図1〜6における構成と、同一又は同様の特徴を有してよい。
【0059】
本変形例において、印刷装置10は、図中にY+方向(往路プリント方向)及びY−方向(復路プリント方向)として示した双方向の主走査動作を行う双方向プリンタである。この場合、双方向の主走査動作を行うとは、例えば、往路の向きへ移動しつつインクを吐出する主走査動作と、復路の向きへ移動しつつインクを吐出する主走査動作とを行うことである。また、本変形例において、ヘッド部12は、図1に示したヘッド部12と比べて、例えば、紫外線照射部104における複数の光源部202a、bの位置が異なっている。
【0060】
また、この場合、光源部202a、bにより紫外線を照射する照射条件については、図7(b)に示すように、主走査動作時にヘッド部12が移動する向きに応じて異ならせる。より具体的に、この場合、Y+方向へヘッド部12が移動する往路の主走査動作時には、図7(b)の上側に示すように、移動方向においてインクジェットヘッド102c〜kの後ろ側になる光源部202bにより、照射条件1で、紫外線を照射する。このように構成すれば、例えば、着弾の直後にインク中の低沸点溶媒を蒸発させ、インクの滲みを適切に防ぐことができる。また、この場合、ヘッド部12の移動方向においてインクジェットヘッド102c〜kの前側になる光源部202aは、照射条件2で、紫外線を照射する。この場合、光源部202aは、その回の主走査動作(往路の主走査動作)で着弾するインクではなく、それ以前の主走査動作(例えば、直前の復路の主走査動作)で着弾したインクに対し、紫外線を照射することになる。また、これにより、光源部202aは、既に光源部202bにより紫外線が照射され、低沸点溶媒が蒸発しているインクに対し、高沸点溶媒を蒸発させるための紫外線を照射する。
【0061】
また、Y−方向へヘッド部12が移動する復路の主走査動作時には、ヘッド部12の移動の向きが往路と反対側になるのに合わせ、光源部202a、bによる紫外線の照射条件の設定も、往路と反対にする。また、より具体的に、この場合、図7(b)の下側に示すように、光源部202aにより照射条件1で紫外線を照射して、光源部202bにより、照射条件2で紫外線を照射する。このように構成すれば、例えば、往路及び復路の主走査動作において、媒体50上のインクに対し、照射条件1及び照射条件2での紫外線の照射を適切に行うことができる。そのため、本変形例においても、例えば、光沢性の高いインクの層を形成することと、滲みの防止とを適切に両立することができる。
【0062】
尚、上記のように、本変形例においては、各回の主走査動作において媒体50上に着弾したインクに対し、次の回の主走査動作時に、照射条件2での紫外線の照射を行う。そのため、ヘッド部12のより具体的な構成においては、例えば、主走査動作の合間に行う副走査動作等を考慮して、副走査方向における光源部202a、bの幅を、インクジェットヘッド102c〜kの幅よりも大きくすることが好ましい。より具体的に、この場合、副走査方向における光源部202a、bの幅について、副走査動作時の送り量分以上、媒体50の搬送方向の下流側へ大きくすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、双方向の主走査動作をより適切に行うことができる。
【0063】
続いて、上記において説明をした各構成に関する補足説明等を行う。また、以下においては、説明の便宜上、図1〜7を用いて説明をした各構成について、まとめて、本例という。
【0064】
上記においても説明をしたように、本例においては、媒体上にインクに紫外線を照射することにより、インクを乾燥させる。また、この場合、紫外線のエネルギーをインク中で熱エネルギーに変換することで、インクの溶媒を短時間で適切に蒸発させることができる。そのため、本例において用いるインクについては、紫外線の照射により瞬間的にインクを蒸発乾燥させることが可能な瞬間乾燥型のインク(UV瞬間乾燥インク)等を考えることができる。また、本例においては、このような瞬間乾燥型のインクを用いることにより、従来は滲みが問題になって適切に印刷を行うことが困難であった媒体に対しても、より適切に印刷を行うことが可能になる。この場合、例えば、従来のソルベントインク、水性インク、ラテックスインク、又はエマルジョンタイプのような従来の蒸発乾燥型のインクでは適切に印刷を行うことが難しかった様々な媒体に対しても、直接かつ適切に印刷を行うことが可能になる。
【0065】
また、より具体的に、媒体としては、例えば、紙や布等の滲みの発生しやすい浸透性の媒体を用いることが考えられる。また、布の媒体としては、例えば、加工前の布地や、Tシャツ等の縫製品等を好適に用いることができる。また、媒体として、非浸透性の媒体(例えば、プラスチックフィルムや塩化ビニルのシート等)を用いることも考えられる。このような場合も、インクを短時間で乾燥させることにより、滲みを適切に防止することができる。また、上記以外にも、様々な媒体を好適に用いることができる。また、この場合、例えば、様々な媒体として、滲みを防止するための受容層等が形成されていない媒体等を好適に用いることができる。このように、本例によれば、例えば、様々な媒体に対して印刷が可能なメディアフリーな印刷装置を適切に提供できる。また、この場合、滲みを適切に防ぐことにより、印刷速度を高速化すること等も可能になる。そのため、本例の印刷装置の構成については、例えば、様々な媒体を用いて印刷を行う場合に高速印刷を実現する構成等と考えることもできる。また、この場合、印刷装置の具体的な構成としては、例えば、1パスでの印刷から、マルチパス方式での印刷まで、幅広い高速プリンタの構成を用いることができる。
【0066】
また、上記においても説明をしたように、本例によれば、単に滲みを防ぐのではなく、例えばインクの突沸によりインクの層が粗面化することを防ぐことで、光沢性の高いインクの層を形成することも可能になる。そのため、例えば、単に紫外線を照射するのみでは粗面化等が生じやすいインクを用いる場合にも、高い品質の印刷をより適切に行うことができる。また、より具体的に、このようなインクとしては、例えば、乾燥後に媒体上に樹脂が残るインク等を用いることが考えられる。この場合、単に短時間に強い紫外線を照射して、インクを瞬間的に乾燥させると、媒体上に残る樹脂が粗面化することで、光沢性の高い印刷を行うことが難しくなる場合がある。これに対し、本例によれば、このようなインクを用いる場合にも、樹脂の粗面化等を防いで、光沢性の高い印刷をより適切に行うことができる。また、この場合、樹脂を含むインクを用いることにより、例えば布の媒体を用いる場合等において、インクを媒体に強固に付着させることが可能になる。また、これにより、例えば、耐摩擦性や洗濯堅牢度を適切に高めることもできる。
【0067】
また、例えば、色材として顔料を含むインクを用いる場合等にも、単に短時間に強い紫外線を照射して、インクを瞬間的に乾燥させると、顔料の状態が乱れ、光沢性の高い印刷を行うことが難しくなる場合がある。また、このようなインクを用いる場合、反対に、インクを単にゆっくり乾燥させると、他の領域と比べて短時間の間に乾燥が進みやすいインクのドットの周縁部や画像の周縁部に顔料の粒子が集まり、コーヒーステイン現象等が生じやすくなる。また、その結果、画像の平均濃度の低下や、顔料の偏在による粗面化が生じ、印刷の画質が低下する場合もある。また、このような問題は、プラスチックフィルム等の非浸透性の媒体のような、インクの接触角が小さくなる媒体を用いる場合に顕著になる。これに対し、本例においては、このようなインクを用いる場合にも、インクの着弾の直後において、インクの粘度を十分に高め、かつ、完全には乾燥しない状態を実現できる。また、これにより、顔料を含むインクを用いる場合にも、上記のような問題を適切に防いで、インクを媒体により適切に定着させることができる。
【0068】
また、本例のように、紫外線の照射によりインクを乾燥させる場合、例えば自身が発熱することで媒体を加熱するヒータ等を用いる場合と比べ、消費電力を大幅に低減することができる。より具体的に、この場合、従来のヒータを用いる場合と比べ、平均消費電力を数分の1以下にすることができる。また、待機電力については、ほぼゼロにまで低減することができる。また、本例の構成を用いる場合には、従来のヒータと比べて、放熱が容易になるため、印刷装置10の小型化や低価格化等を実現することも可能になる。
【0069】
また、本例において行うインクの乾燥のさせ方については、複数種類の照射条件を用い、時間を分割して各照射条件で紫外線を照射することでインクを瞬間的に乾燥せる方式(時分割瞬間乾燥方式)等を考えることもできる。また、上記においては、紫外線の照射条件について、主に、照射条件1及び照射条件2の2種類の条件を用いる場合について、説明をした。しかし、照射条件の数については、2種類に限らず、3種類以上にしてもよい。この場合も、上記において説明をした照射条件1及び照射条件2を少なくとも用いて紫外線の照射を行うことで、インクを適切に乾燥させることができる。
【0070】
また、上記においては、印刷装置10の構成について、主に、ヘッド部12に主走査動作を行わせるシリアル型の構成の例を説明した。しかし、媒体への着弾後のインクに照射条件1及び照射条件2で紫外線を照射することが可能であれば、印刷装置10として、ライン型(ラインプリンタ方式)の構成を用いてもよい。この場合、例えば、媒体の搬送方向においてインクジェットヘッドの下流側に紫外線照射部を設け、複数種類の照射条件で紫外線を照射することが考えられる。また、より具体的に、ライン型の構成を用いる場合、印刷に使用する各色のインク用のインクジェットヘッドに対し、媒体の搬送方向におけるその下流側に、個別又は一括して紫外線照射部を配設することが考えられる。
【0071】
また、印刷装置10においては、例えば、紫外線照射部に加え、ヒータを更に用いてインクを乾燥させてもよい。この場合、ヒータとは、例えば、自身が発熱することで媒体を加熱する加熱手段のことである。また、ヒータについては、例えば、媒体を加熱することで間接的にインクを乾燥させる加熱手段等と考えることもできる。また、例えば、自身が発生する熱エネルギーを媒体に供給することで媒体を加熱する加熱手段等と考えることもできる。また、この場合、ヒータは、例えば、照射条件1での紫外線の照射が行われた後に、媒体を加熱する。また、この場合、ヒータについて、インクの乾燥を完了させるためのアフターヒータ等と考えることもできる。
【0072】
また、印刷装置10の構成の更なる変形例においては、例えば、インクの乾燥を完了させるための加熱について、紫外線の照射以外の方法で行うことも考えられる。この場合、例えば、インクへの紫外線の照射は照射条件1でのみ行い、照射条件2での紫外線の照射を行う代わりに、例えば、各種のヒータ等を用いて、インクを加熱する。このように構成した場合も、インク中の高沸点溶媒を適切に蒸発させて、インクを媒体に定着させることができる。
【0073】
また、上記においては詳しい説明を省略したが、照射条件1及び照射条件2で照射する紫外線については、例えば、同じ波長の紫外線を用いることが考えられる。また、印刷に求められる条件等によっては、例えば、照射条件1で照射する紫外線と、照射条件2で照射する紫外線との間で、波長(例えば、ピーク波長)を異ならせること等も考えられる。また、この場合、例えば、媒体上のインクに対して先に紫外線を照射する照射条件1では、インクのドットの内部まで侵入する波長(波長A)の紫外線を用い、後で紫外線を照射する照射条件2では、波長Aの紫外線と比べてインクの表面付近で吸収されやすい波長(波長B)の紫外線を用いること等が考えられる。また、上記においては、エネルギー線の照射によりインクを乾燥させる方法について、主に、紫外線を照射する場合について、説明をした。しかし、印刷装置10の構成の更なる変形例においては、紫外線に代えて、紫外線以外のエネルギー線(例えば赤外線)を照射すること等も考えられる。また、印刷装置10の各部の具体的な構成等についても、上記において説明をした構成に限らず、更に様々な変形を行うこともできる。例えば、印刷に使用するインクについて、上記において説明をした色以外のインクを用いることも考えられる。この場合、印刷の目的等に応じて、例えば、RGBの各色や、メタリック色又はパール色等の様々な特色を用いること等が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えば印刷装置に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0075】
10・・・印刷装置、12・・・ヘッド部、14・・・走査駆動部、20・・・制御部、50・・・媒体、102・・・インクジェットヘッド、104・・・紫外線照射部、202・・・光源部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7