(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0012】
なお、本明細書において、「シート面(板面、フィルム面)」とは、対象となるシート状(板状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるシート状部材(板状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。
【0013】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0014】
図1乃至
図24は、本発明による一実施の形態およびその変形例を説明するための図である。このうち
図1は、透明発熱板を備えた自動車を概略的に示す図であり、
図2は、透明発熱板をその板面の法線方向から見た図であり、
図3は、
図2の透明発熱板の横断面図である。
【0015】
図1に示されているように、乗り物の一例としての自動車1は、フロントウィンドウ、リアウィンドウ、サイドウィンドウ等の窓ガラスを有している。ここでは、フロントウィンドウ5が透明発熱板10で構成されている例を説明する。また、自動車1はバッテリー等の電源7を有している。
【0016】
図2及び
図3に示すように、本実施の形態における透明発熱板10は、一対の基板11,12と、一対の基板11,12の間に配置された導電体付きシート20と、各基板11,12と導電体付きシート20とを接合する一対の接合層13,14と、を有している。なお、
図1及び
図2に示した例では、透明発熱板10、基板11,12は湾曲しているが、他の図では、理解の容易のため、透明発熱板10及び基板11,12を平板状にて図示している。
【0017】
導電体付きシート20は、基材フィルム21と、基材フィルム21の一方の基板11に対面する面上に設けられ且つ導電性細線31を含む発熱用導電体30と、発熱用導電体30に通電するための一対のバスバー25と、を有する。
【0018】
また、
図1及び
図2によく示されているように、透明発熱板10は、発熱用導電体30に通電するための配線部15を有している。図示された例では、バッテリー等の電源7によって、配線部15から導電体付きシート20のバスバー25を介して発熱用導電体30に通電し、発熱用導電体30を抵抗加熱により発熱させる。発熱用導電体30で発生した熱は基板11,12に伝わり、基板11,12が温められる。これにより、基板11,12に付着した結露による曇りを取り除くことができる。また、基板11,12に雪や氷が付着している場合には、この雪や氷を溶かすことができる。したがって、乗員の視界が良好に確保される。
【0019】
なお、透明発熱板の「透明」とは、当該透明発熱板を介して当該透明発熱板の一方の側から他方の側を透視し得る程度の透明性を有していることを意味しており、例えば、30%以上、より好ましくは70%以上の可視光透過率を有していることを意味する。可視光透過率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV−3100PC」、JISK0115準拠品)を用いて測定波長380nm〜780nmの範囲内で測定したときの、各波長における透過率の平均値として特定される。
【0020】
また、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「導電体付きシート」は板やフィルムと呼ばれ得るような部材をも含む概念であり、したがって、「導電体付きシート」は、「導電体付き板(基板)」や「導電体付きフィルム」と呼ばれる部材と、呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
【0021】
以下、透明発熱板10の各構成要素について説明する。
【0022】
まず、基板11,12について説明する。基板11,12は、
図1で示された例のように自動車のフロントウィンドウに用いる場合、乗員の視界を妨げないよう可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。このような基板11,12の材質としては、ソーダライムガラスや青板ガラスが例示できる。基板11,12の可視光透過率は90%以上であることが好ましい。ただし、基板11,12の一部または全体に着色するなどして、この一部分の可視光透過率を低くしてもよい。この場合、太陽光の直射を遮ったり、車外から車内を視認しにくくしたりすることができる。
【0023】
また、基板11,12は、1mm以上5mm以下の厚みを有していることが好ましい。このような厚みであると、強度及び光学特性に優れた基板11,12を得ることができる。一対の基板11,12は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
【0024】
次に、接合層13,14について説明する。一方の接合層13が、一方の基板11と導電体付きシート20との間に配置され、一方の基板11と導電体付きシート20とを互いに接合する。他方の接合層14が、他方の基板12と導電体付きシート20との間に配置され、他方の基板12と導電体付きシート20とを互いに接合する。
【0025】
このような接合層13,14としては、種々の接着性または粘着性を有した材料からなる層を用いることができる。また、接合層13,14は、可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。典型的な接合層としては、ポリビニルブチラール(PVB)からなる層を例示することができる。接合層13,14の厚みは、それぞれ0.15mm以上1mm以下であることが好ましい。一対の接合層13,14は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
【0026】
なお、透明発熱板10には、図示された例に限られず、特定の機能を発揮することを期待されたその他の機能層が設けられても良い。また、1つの機能層が2つ以上の機能を発揮するようにしてもよいし、例えば、透明発熱板10の基板11,12、接合層13,14、後述する導電体付きシート20の基材フィルム21の、少なくとも一つに何らかの機能を付与するようにしてもよい。透明発熱板10に付与され得る機能としては、一例として、反射防止(AR)機能、耐擦傷性を有したハードコート(HC)機能、赤外線遮蔽(反射)機能、紫外線遮蔽(反射)機能、防汚機能等を例示することができる。
【0027】
次に、導電体付きシート20について説明する。導電体付きシート20は、基材フィルム21と、基材フィルム21の一方の基板11に対面する面上に設けられ且つ導電性細線31を含む発熱用導電体30と、発熱用導電体30に通電するための一対のバスバー25と、を有する。導電体付きシート20は、基板11,12と略同一の平面寸法を有して、透明発熱板10の全体にわたって配置されてもよいし、
図1の例における運転席の正面部分等、透明発熱板10の一部にのみ配置されてもよい。
【0028】
基材フィルム21は、発熱用導電体30を支持する基材として機能する。基材フィルム21は、可視光線波長帯域の波長(380nm〜780nm)を透過する一般に言うところの透明である電気絶縁性のフィルムである。基材フィルム21としては、可視光を透過し、発熱用導電体30を適切に支持し得るものであればいかなる材質のものでもよいが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン等を挙げることができる。また、基材フィルム21は、光透過性や、発熱用導電体30の適切な支持性等を考慮すると、0.03mm以上0.20mm以下の厚みを有していることが好ましい。
【0029】
次に、
図17、
図19、
図21及び
図23を参照しながら、発熱用導電体30について説明する。
図17、
図19、
図21及び
図23は、いずれも導電体付きシート20をそのシート面の法線方向から見た平面図であるが、発熱用導電体が互いに異なるパターンを有している。
【0030】
発熱用導電体30は、一対のバスバー25の間に配置された導電性細線31を有している。導電性細線31は、バッテリー等の電源7から、配線部15及びバスバー25を介して通電され、抵抗加熱により発熱する。そして、この熱が接合層13,14を介して基板11,12に伝わることで、基板11,12が温められる。
【0031】
導電性細線31は、種々のパターンで配列することができる。
図17、
図19及び
図21に示された例では、発熱用導電体30は、導電性細線31が多数の開口33を画成するメッシュ状のパターンで配置されることによって形成されている。発熱用導電体30は、2つの分岐点32の間を延びて、開口33を画成する複数の接続要素34を含んでいる。すなわち、発熱用導電体30の導電性細線31は、両端において分岐点32を形成する多数の接続要素34の集まりとして構成されている。
【0032】
一方、
図23に示された例のように、発熱用導電体30は、一対のバスバー25を連結する複数の導電性細線31からなっていてもよい。
図23に示された例において、複数の導電性細線31は、それぞれ規則的な構造で一方のバスバー25から他方のバスバー25へ延在している。複数の導電性細線31は、当該導電性細線31の延在方向と非平行な方向に、互いから離間して配列されている。とりわけ、複数の導電性細線31は、当該導電性細線31の延在方向と直交する方向に配列されている。これにより、隣接する2つの導電性細線31の間には、隙間35が形成される。
【0033】
なお、発熱用導電体30の具体的な配置パターンの例については、図を用いて後述する。
【0034】
このような発熱用導電体30を構成するための材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン、及び、これらの合金の一以上を例示することができる。
【0035】
発熱用導電体30は、上述したように不透明な金属材料を用いて形成され得る。その一方で、発熱用導電体30によって覆われていない基材フィルム21上の領域の割合、すなわち非被覆率は、70%以上90%以下程度と高くなっている。また、導電性細線31の線幅は、2μm以上20μm以下程度となっている。このため、発熱用導電体30が設けられている領域は、全体として透明に把握され、発熱用導電体30の存在が透明発熱板10の透視性を害さないようになっている。
【0036】
図3に示された例では、導電性細線31は、全体として矩形状の断面を有している。導電性細線31の幅W、すなわち、透明発熱板10の板面に沿った幅Wは2μm以上20μm以下とし、高さ(厚さ)H、すなわち、透明発熱板10の板面への法線方向に沿った高さ(厚さ)Hは1μm以上60μm以下とすることが好ましい。このような寸法の導電性細線31によれば、その導電性細線31が十分に細線化されているので、発熱用導電体30を効果的に不可視化することができる。
【0037】
また、
図3に示されたように、導電性細線31は、導電性金属層36、導電性金属層36の表面のうち、基材フィルム21に対向する側の面を覆う第1の暗色層37、導電性金属層36の表面のうち、基板11に対向する側の面及び両側面を覆う第2の暗色層38を含むようにしてもよい。優れた導電性を有する金属材料からなる導電性金属層36は、比較的高い反射率を呈する。そして、発熱用導電体30の導電性細線31をなす導電性金属層36によって光が反射されると、その反射した光が視認されるようになり、乗員の視界を妨げる場合がある。また、外部から導電性金属層36が視認されると、意匠性が低下する場合がある。そこで、第1及び第2の暗色層37,38が、導電性金属層36の表面の少なくとも一部分を覆っている。第1及び第2の暗色層37,38は、導電性金属層36よりも可視光の反射率が低い層であればよく、例えば黒色等の暗色の層である。この暗色層37,38によって、導電性金属層36が視認されづらくなり、乗員の視界を良好に確保することができる。また、外部から見たときの意匠性の低下を防ぐことができる。
【0038】
なお、前述したように、透明発熱板10の透視性または透明発熱板10を介した視認性を確保する観点から、非被覆率が高くなるように、発熱用導電体30の導電性細線31は基材フィルム21上に形成されている。このため、
図3に示すように、接合層13と導電体付きシート20の基材フィルム21とは、導電性細線31の非被覆部、すなわち隣り合う導電性細線31の間となる領域を介して接触している。このため、発熱用導電体30は、接合層13内に埋め込まれた状態となっている。
【0039】
ところで、上述したように、電熱線を含んだ透明発熱板を介して光、例えば対向車の照明を観察した場合、尾を引くように観察される光の筋、すなわち光芒が当該照明の周囲に観察される。このような光芒の発生は、透明発熱板を介した視認性を悪化させることになる。そして、本件発明者らは、鋭意検討を重ねた結果として、光芒の発生する方向が、透明発熱板への入射光が電熱線で回折される方向と一致することを知見した。本件発明者らの知見に基づけば、発熱用導電体20をなす導電性細線31の長手方向を不規則化することにより、特定の方向へ光芒が延びることを防止し、光芒を目立たなくさせることができる。しかしながら、導電性細線31の配列を完全に不規則化することは、設計負荷を増加させ好ましくない。また、導電性細線31の配列を不規則化することは、面内での発熱むらを生じさせる可能性もある。さらに、近接して目視したとき、透過率、もしくは反射率の面内ムラとして認識され易い。そこで本件発明者らは、さらに鋭意検討を重ね、導電性細線31の配列の規則性を大きく崩すことなく、さらには導電性細線31の配列の規則性を維持しながら、導電性細線31の向きを工夫することで極めて効果的に光芒を目立たなくさせることを可能にした。以下、光芒の発生原理、及び、光芒を目立たなくさせる方法について、
図4乃至
図16を参照して説明する。
【0040】
一般に、構造に形成された隙間や開口の透過部を光が通過するとき、当該光は回折する。このとき生成される回折像が、光芒として視認され得る。回折像の形状は、構造の透過部の形状、より詳しくは、透過部と遮蔽部の境界の形状によって決定される。回折像は、0次以外の各次数の回折光の集合として視認されるようになる。各次数の回折効率は、物体の開口率(非被覆率)D〔%〕に依存する。0次から無限次の回折光の回折効率の総和、すなわち全透過率は、D〔%〕となる。このうち、0次回折光の回折効率は(D/100)
2×100〔%〕となり、光芒に寄与する0次回折光以外の回折光の回折効率の総和は((D/100)−(D/100)
2)×100〔%〕となる。したがって、0次回折光以外の回折光の回折効率の総和は、言い換えると、光芒の視認されやすさに相当する回折像の強度は、開口率(非被覆率)Dが50%で最も大きくなり、50%から小さくなる又は大きくなるにつれて低下する。しかも、この回折像の強度の値は、50%を中心として対称的となる。
【0041】
ある構造に光が入射した際に観察される0次以外の回折像は、当該ある構造の透過部と遮蔽部が反転した相補的な構造に光が入射した際に観察される0次以外の回折像と形状・強度ともに一致する。このことは、バビネの原理として知られている。つまり、例えば
図4に示されたハニカム配列で配列された正六角形状の透過部50a(開口領域)を有する構造50に光が入射した際に観察されるようになる0次以外の回折像は、
図4の構造と相補的な構造60、すなわち、
図5に示されたハニカム配列で配列された正六角形状の遮蔽部60bを有する構造60に光が入射した際に観察される0次以外の回折像と同一となる。回折像の考察において、
図4のように開口が複雑な形状(六角形)よりも、
図5のように単純な形状(矩形)の集合のほうが見通しがよい。また、以降「回折像」とは0次以外の回折光による像を表すこととする。
【0042】
次に、観察される回折像の形状を検討する。回折像の形状は、以下の方法によって特定される。ここでは、例として、ハニカム配列で透過部50a(開口領域、非被覆領域)が規則性を持って配列された
図4のパターン構造50に光が入射した際に観察される回折像について検討する。まず、
図4のパターン構造50で観察される回折像は、前述のように、
図5のパターン構造60で観察される回折像と同一となる。したがって、
図4のパターン構造50を、ハニカム配列で遮蔽部60bが規則性を持って配列された
図5のパターン構造60に置き換えて、観察される回折像について検討を行う。
図5のパターン構造60において、透過部60aは、正六角形状の遮蔽部60bの周囲を取り囲む一定の幅を有したスリットとなっている。
図5のパターン構造60の透過部60bは、平行なスリット毎に分割すると、3つの単位パターン要素61、62、63に分類することができる。したがって、
図5のパターン構造60を光が進む際に生じる回折現象は、
図6〜
図8に示された3つの単位パターン要素61、62、63の各々を光が進む際に生じる回折現象の総和となる。
【0043】
このうち、
図6の単位パターン要素61について考える。ここでは、この単位パターン要素61は、長さ2l、線幅2dのスリットが中心間隔aで無数に配置されてなる透過部、言い換えると窓要素である。この単位パターン要素61は、2つの成分、すなわち
図9のような長さ2l、線幅2dの1つの基準要素61Aと、
図10のような間隔aで無数に配置される点群61Bとの畳み込みで表される。次に、構造50から観測者が十分離れているとして、空間振幅分布をフラウンホーファの回折とし、空間振幅分布を畳み込みの定理を用いてフーリエ変換して回折像を求める。回折する光の波長をλとすると、
図9の基準要素61Aのフーリエ変換は、
図11のような1次の明線が線幅λ/l、長さλ/dである中心部が最も強いカーディナル・サイン型の分布61A1が得られる。ただし、この寸法はラジアンで表した回折角度である。観測者からパターン構造50の距離をRとすると、パターン平面上にて、1次の明線が線幅λR/l、長さλR/dとなると考えてもよい。
図11には、幅方向の分布は十分小さいので一周期まで、長さ方向の分布は簡略化のため二周期までしか記載されていない。また、二周期目は振幅が強調されて描かれている。
図10の無数に配置された点のフーリエ変換からは、
図12のような間隔2λ/(√3×a)の無数に配置された点の分布61B1が得られる。これらの分布61A1と61B1の積が、
図6の単位パターン要素61の振幅回折像となる。ただし、分布61A1と61B1の積において、
図12の無数に配置された点の分布61B1は、目視できない微細構造となって
図11の振幅分布61A1の内部に配置されるので、
図11の振幅分布61A1を
図6の構造61の実質的な振幅回折像と考えることができる。
【0044】
同様の操作によって、
図7の単位パターン要素62からは
図13の振幅分布62A1が、
図8の単位パターン要素63からは
図14の振幅分布63A1が、それぞれ空間振幅分布として得られる。それぞれの振幅分布61A1,62A1,63A1を重ね合わせたものが、もとのパターン構造60の振幅回折像であり、その2乗が観測される回折像の強度分布となる。すなわち、
図4のパターン構造50からは、
図11、
図13、
図14の振幅分布61A1,62A1,63A1を重ね合わせて2乗した強度分布である
図15の強度分布60A1が回折像として観測される。
【0045】
以上のように、
図4に例示したパターン構造50から観測される回折像は、
図15の強度分布60A1のように異なる3方向に延びる3つの筋状の光となる。この筋状の光が、光芒として観察される。そして、このような光芒は、透明発熱板10を介した視認性に強い影響を及ぼす。
【0046】
透明発熱板10を介した視認性に対して影響が小さい回折像とは、筋状の光、すなわち光芒を含まない像である。このような回折像の一例として、多数次回折光の回折効率が低いもの、光芒が全方向に延び出して個々の光芒が識別できなくなっているものが考えられる。後者については、
図16のように円形状の回折像70として観察されることが好ましい。
【0047】
図6に示された単位パターン要素61によって生じる
図11に示された振幅分布61A1、
図7に示された単位パターン要素62によって生じる
図13に示された振幅分布62A1、
図8に示された単位パターン要素63によって生じる
図14に示された振幅分布63A1、から理解されるように、長手方向を有する線状の構造に起因して生じる回折像は、当該構造の長手方向に直交する方向に延びて光芒となる。したがって、光芒が全方向に亘って延び出し、結果として多数の光芒が互いに重なって円形状に視認されるには、一つの構造をなす各構造要素の長手方向に直交する法線が全方向に亘って分布していればよい。このような構造には、例えばボロノイパターンで形成された構造が考えられる。また、構造が規則性を有し、一つの規則を形成する単位パターン構造をなす各成分の長手方向に直交する法線が全方向に亘って分布している場合には、単位パターン構造に起因して生じる光芒だけでなく、パターン構造全体に起因して生じる光芒も円形状の明部として把握されるようになる。
【0048】
そのような構造として、ここでは一つの単位パターン構造が、円弧に沿って延びる一以上の区域からなり、各区域を平行移動すること、及び/または各区域を180°回転させた後に平行移動することにより、一つの単位パターン構造を形成する全ての成分を用いて、一以上の自然数個の半円が形成されるパターン構造を考える。区域の法線方向は互いに反対の2方向ある。そのため、区域の集合が半円をなせば、法線方向は全方向に亘る。また、各区域を180°回転しても、法線方向の分布は変わらない。よって、各区域の法線が全方向に亘って分布するためには、各区域を、一部は180°回転した後、平行移動して、半円となればよい。
【0049】
上述のようなパターン構造を有する発熱用導電体30の例について、
図17乃至
図24を参照して以下で述べる。
【0050】
(第1のパターン構造例)
まず、第1のパターン構造例として、
図17及び
図18に示されるパターン構造について述べる。
図17に示すように配置される発熱用導電体30の導電性細線31によるパターン構造は、
図18に示す単位パターン構造が平面内に多数配置されて形成されている。
【0051】
図18の単位パターン構造は、中心角90°で切り取られた同一の半径を有する4つの円弧に沿って区域31a1、31b1、31c1、31d1がこの順で反時計回りに接続されて形成されている。図の右方向に延びる基準軸に対して反時計回りになす角度を用いて表現すると、区域31a1は、一つの円のうちの中心角0°から45°の範囲及び315°から360°の範囲に位置する円弧をなしている。区域31b1は、一つの円のうちの中心角225°から315°の範囲に位置する円弧をなしている。区域31c1は、一つの円のうちの中心角135°から225°の範囲に位置する円弧をなしている。区域34d1は、一つの円のうちの中心角45°から135°の範囲に位置する円弧をなしている。この単位パターン構造をなす全ての区域の各位置での法線は、360°全体に分布している。言い換えると、単位パターン構造についての各位置での法線は、全方向に亘って分布している。更に、区域31b1と31d1の位置を平行移動によって入れ替えると、区域31a1、31b1、31c1、31d1によって、2つの半円が形成される。言い換えると、単位パターン構造は、円弧に沿って延びる一つの区域からなり、各区域を平行移動すること、及び/または各区域を180°回転させた後に平行移動することにより、単位パターン構造の全ての区域を用いて、2つの半円が形成される。
【0052】
上述の
図18の単位パターン構造を隙間無く規則的に敷き詰めることによって、
図17のパターン構造は形成されている。よって
図17のパターン構造を有する発熱用導電体30を用いた透明発熱板10では、各方向への光芒が同様に形成され且つ光芒があらゆる方向に発生する。したがって、多数の光芒が互いに重なって円形状に視認される。
【0053】
(第2のパターン構造例)
次に、第2のパターン構造例として、
図19及び
図20に示されるパターン構造について述べる。
図19に示すように配置される発熱用導電体30の導電性細線31によるパターン構造は、
図20に示す単位パターン構造が平面内に多数配置されて形成されている。
【0054】
図20の単位パターン構造は、中心角60°で切り取られた同一の半径を有する3つの円弧に沿って区域31a2、31b2,31c2がこの順で反時計回りに一点で接続されて形成されている。図の右方向に延びる基準軸に対して反時計回りになす角度を用いて表現すると、区域31a2は、一つの円のうちの中心角0°から30°の範囲及び330°から360°の範囲に位置する円弧をなしている。区域31b2は、一つの円のうちの中心角90°から150°の範囲に位置する円弧をなしている。区域31c2は、一つの円のうちの中心角210°から270°の範囲に位置する円弧をなしている。この単位パターン構造をなす全ての区域の各位置での法線は、360°全体に分布している。言い換えると、単位パターン構造についての各位置での法線は、全方向に亘って分布している。更に、区域31a2を180°回転させた後に平行移動することで、区域31a2、31b2,31c2によって一つの半円が形成される。言い換えると、単位パターン構造は、円弧に沿って延びる一つの区域からなり、各区域を平行移動すること、及び/または各区域を180°回転させた後に平行移動することにより、単位パターン構造の全ての区域を用いて、2つの半円が形成される。
【0055】
上述の
図20の単位パターン構造を隙間無く規則的に敷き詰めることによって、
図19のパターン構造は形成されている。よって
図19のパターン構造を有する発熱用導電体30を用いた透明発熱板10では、各方向への光芒が同様に形成され且つ光芒があらゆる方向に発生する。したがって、多数の光芒が互いに重なって円形状に視認される。また、
図19のパターン構造は、
図17のパターン構造より開口33を広くとることができるので、より導電性細線31の不可視化に寄与することができる。
【0056】
(第3のパターン構造例)
次に、第3のパターン構造例として、
図21及び
図22に示されるパターン構造について述べる。
図21に示すように配置される発熱用導電体30の導電性細線31によるパターン構造は、
図22に示す単位パターン構造が平面内に多数配置されて形成されている。
【0057】
図22の単位パターン構造は、中心角90°で切り取られた同一の半径を有する8つの円弧に沿って延びる区域31a3、31b3、31c3、31d3、31e3、31f3、31g3、31h3がこの順で反時計回りに接続されて形成されている。図の右方向に延びる基準軸に対して反時計回りになす角度を用いて表現すると、区域31a3及び31d3は、それぞれ、一つの円のうちの中心角0°から45°の範囲及び315°から360°の範囲に位置する円弧をなしている。区域31b3及び31g3は、それぞれ、一つの円のうちの中心角225°から315°の範囲に位置する円弧をなしている。区域31c3及び31f3は、それぞれ、一つの円のうちの中心角45°から135°の範囲に位置する円弧をなしている。区域31e3及び31h3は、それぞれ、一つの円のうちの中心角135°から225°の範囲に位置する円弧をなしている。この単位パターン構造において、全ての区域の各位置での法線は、法線は360°全体に分布している。言い換えると、単位パターン構造についての各位置での法線は、全方向に亘って分布している。更に、区域31a3、31b3、31c3、31d3を平行移動させることによって一つの円が形成され、また、区域31e3、31f3、31g3、31h3を平行移動させることにより一つの円が形成される。つまり、
図22の単位パターン構造を形成する全ての区域を用いて同じ大きさの円が二つ形成される。言い換えると、単位パターン構造は、円弧に沿って延びる一以上の区域からなり、各区域を平行移動すること、及び/または各区域を180°回転させた後に平行移動することにより、単位パターン構造の区域を用いて、4つの半円が形成される。
【0058】
上述の
図22の単位パターン構造を隙間無く規則的に敷き詰めることによって、
図21のパターン構造は形成されている。よって
図21のパターン構造を有する発熱用導電体30を用いた透明発熱板10では、各方向への光芒が同様に形成され且つ光芒があらゆる方向に発生する。したがって、多数の光芒が互いに重なって円形状に視認される。また、
図21のパターン構造は、
図19のパターン構造より開口33を広くとることができるので、更に導電性細線31の不可視化に寄与することができる。
【0059】
(第4のパターン構造例)
最後に、第4のパターン構造例として、
図23及び
図24に示されるパターン構造について述べる。
図23に示すように配置される発熱用導電体30の導電性細線31によるパターン構造は、
図24に示す単位パターン構造が連続して接続されて形成されている。
【0060】
図24の単位パターン構造は、中心角180°で切り取られた同一の半径を有する2つの円弧に沿って延びる区域31a4、31b4が互いに逆向きに接続されて形成されている。この単位パターン構造において全ての区域の各位置での法線は、360°全体に分布している。言い換えると、単位パターン構造についての各位置での法線は、全方向に亘って分布している。更に、区域31a4、31b4はそれぞれ半円なので、単位パターン構造の全ての区域を用いて、同じ大きさの半円が2つ形成される。言い換えると、単位パターン構造は、円弧に沿って延びている一以上の区域からなり、各区域を平行移動すること、及び/または各区域を180°回転させた後に平行移動することにより、単位パターン構造の全ての区域を用いて、2つの半円が形成される。
【0061】
上述のような
図24の単位パターン構造のみによる規則的なパターンによって、
図23の発熱用導電体30は形成されている。よって
図23のパターン構造を有する発熱用導電体30からなる透明発熱板10では、各方向への光芒が同様に形成され且つ光芒があらゆる方向に発生する。したがって、多数の光芒が互いに重なって円形状に視認される。
【0062】
以上で第1から第4の発熱用導電体30を配置するパターン構造例を示したが、これらは例示に過ぎず、実施の形態を限定するものではない。
【0063】
以上のように、本実施の形態における透明発熱板10は、一対の基板11,12と、電圧を印加される一対のバスバー25と、一対のバスバー25を連結し、少なくとも一部分が一対の基板11,12の間に配置された発熱用導電体30と、を備え、発熱用導電体30は、導電性細線31を用いて形成された一定の単位パターン構造を規則的に並べることによって形成されたパターン構造31を有し、単位パターン構造についての各位置での法線は、全方向に亘って分布している。このような透明発熱板10によれば、発生する光芒の長手方向を360°に亘って分布させることができる。従って、光芒が全方向に延び出し、結果として、各光芒が他の光芒から識別されることなく、多数の光芒が互いに重なって円形状に視認される。よって、光芒の視認性への影響を減少させることができ、透明発熱板10を通しても良好な視界を確保することができる。また、一定のパターン構造が規則的に配置されていることから、透明発熱板10に発熱ムラが生じにくい。従って、透明発熱板10を一様に発熱させることができるので、一部分の曇りが取れなかったり、雪を溶かせなかったりすることがなく、機能を確実に発揮することができる。加えて、導電性細線31を規則的に配置することは、設計負荷が少なく、製造が容易である。このため、製造コストを下げることができる。
【0064】
また、本実施の形態における透明発熱板10では、単位パターン構造は、円弧に沿って延びる一以上の区域からなり、各区域を平行移動すること、及び/または各区域を180°回転させた後に平行移動することにより、単位パターン構造の全ての区域を用いて、一以上の自然数個の半円が形成される。このような透明発熱板10によれば、光芒が全方向に延び出し、しかも、各方向への光芒の強度を均一化することができる。したがって、多数の光芒が互いに重なって円形状に視認され、各光芒が他の光芒から区別されて認識されることを効果的に防止することができる。従って、光芒の視認性への影響を減少させることができ、透明発熱板10を通してより良好な視界を確保することができる。
【0065】
前述した実施の形態において、透明発熱板10が曲面状に形成されている例を示したが、この例に限られず、透明発熱板10が、平板状に形成されていてもよい。
【0066】
透明発熱板10は、自動車1のリアウィンドウ、サイドウィンドウやサンルーフに用いてもよい。また、自動車以外の、鉄道、航空機、船舶、宇宙船等の乗り物の窓に用いてもよい。
【0067】
更に、透明発熱板10は、乗り物以外にも、特に室内と室外とを区画する箇所、例えばビルや店舗、住宅の窓等に使用することもできる。