(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0023】
(膜−電極接合体)
図3は、本発明による膜−電極接合体を示している。この図に示した膜−電極接合体1は、酸化還元反応を行う一対の電極3と、電極3間に設けられ、両電極3を分離する隔膜2とを備える。ここで、電極3は繊維状構造体により形成された多孔質体であり、繊維状構造体の少なくとも一部が隔膜2に埋没していることを特徴とする。
【0024】
本発明による膜−電極接合体1は、隔膜2の少なくとも一方の表面に電極3が接合された接合体である。ここで、隔膜2と電極3とが「接合」している状態とは、隔膜2を把持した際に、電極3が自重により脱落しない状態を指す。本明細書では、上記接合の要件を満たさないものを「膜−電極積層体」と呼び、「膜−電極接合体」と明確に区別する。
【0025】
また、本明細書において、電極3の繊維状構造体の部分が隔膜2に「埋没」している状態とは、膜厚方向に平行に切断した膜−電極接合体1の任意の断面を電子顕微鏡で観察したときに、
図4(a)に模式的に示すように、電極3を構成する繊維状構造体の部分Eの断面の外周Sについて、その全てが隔膜2を構成する物質Mで被覆されている状態を指す。
図4(b)に示すように、外周Sの一部のみが隔膜2を構成する物質Mで被覆されている場合には、埋没しているとは見做さない。より具体的には、
図5に例示する膜−電極接合体断面の電子顕微鏡画像において、電極を構成する繊維状構造体の部分E1〜E4については隔膜に埋没していると見做すのに対し、部分E5、E6については、その外周の一部が隔膜より露出しているため、埋没しているとは見做さない。
【0026】
なお、隔膜2と電極3の繊維状構造体の部分との境界である外周Sが判別しづらい場合には、エネルギー分散型X線分析法(Energy−Dispersive X−ray spectroscopy,EDX)等の定性分析を利用してよい。具体的には、面分析により隔膜2と電極3の構成元素の分布画像を取得すれば、隔膜2と電極3の構成元素の違いにより画像中の隔膜2の部分と電極3の部分にコントラストが生まれるため、その境界を外周Sと判断することにより、EDX法により外周Sを判別して、電極3を構成する繊維状構造体の部分が隔膜2に埋没しているか否かを判別することができる。
【0027】
−隔膜−
本実施形態における隔膜2は高分子電解質膜である。高分子電解質膜の種類は特に限定されないが、レドックスフロー電池に用いる観点からは、プロトン伝導性を有する膜が好ましい。
【0028】
プロトン伝導性を有する膜としては、特開2005−158383号公報に記載されたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン樹脂)多孔膜、ポリオレフィン系多孔膜、ポリオレフィン系不織布といった多孔膜系のもの、特公平6−105615号公報記載の多孔膜と含水性ポリマーとを組み合わせた複合膜、特公昭62−226580号公報に記載のセルロース又はエチレンービニルアルコール共重合体の膜、特開平6−188005号公報に記載のポリスルホン系膜陰イオン交換膜、特開平5−242905号公報に記載のフッ素系又はポリスルホン系イオン交換膜、特開平6−260183号公報に記載のポリプロピレンなどにより形成された多孔膜の孔に親水性樹脂を備えた膜、ポリプロピレン製多孔膜の両表面に薄く数μmのフッ素系イオン交換樹脂(Nafion(登録商標))を被覆した膜、特開平10−208767号公報に記載のピリジウム基を有する陰イオン交換型とスチレン系及びジビニルベンゼンとを共重合した架橋型重合体からなる膜、特開平11−260390号公報に記載のカチオン系イオン交換膜(フッ素系高分子又は炭化水素系高分子)とアニオン系イオン交換膜(ポリスルホン系高分子等)とを交互に積層した構造を有する膜、特開2000−235849号公報に記載の多孔質基材に2個以上の親水基有するビニル複素環化合物(アミン基を有する、ビニルピロリドン等)の繰り返し単位を有する架橋重合体を複合してなるアニオン交換膜等が挙げられる。これらの中でも、パーフルオロスルホン酸(PFSA)系樹脂からなる膜が好ましい。
【0029】
−−パーフルオロスルホン酸系樹脂−−
パーフルオロスルホン酸系樹脂としては、例えば、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位とを含む重合体が挙げられる。
−[CX
1X
2−CX
3X
4]− ・・・(1)
(式(1)中、X
1、X
2、X
3、X
4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であり、X
1、X
2、X
3、X
4のうち少なくとも1つは、フッ素原子又は炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基である。)
−[CF
2−CF(−(O
a−CF
2−(CFX
5)
b)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
3R)]− ・・・(2)
(式(2)中、X
5はハロゲン原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であり、Rは、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、若しくはカリウム原子等のアルカリ金属原子、NH
4、NH
3R
1、NH
2R
1R
2、NHR
1R
2R
3、若しくはNR
1R
2R
3R
4(R
1、
R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基を示す)等のアミン類である。また、aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜8の整数であり、dは0又は1であり、eは0〜8の整数である。ただし、bとeは同時に0でない。)
なお、パーフルオロスルホン酸系樹脂に複数の上記一般式(1)で表される繰り返し単位、及び/又は複数の上記一般式(2)で表される繰り返し単位が含まれる場合、各繰り返し単位は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂としては、下記一般式(3)〜(7)で表される繰り返し単位の1つ以上を有する化合物が好ましい。
−[CF
2−CX
3X
4]
f−[CF
2−CF(−O−CF
2−CFX
5)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(3)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF(−O−CF
2−CF(CF
3))
c−O−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(4)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF−O−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(5)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF(−O−CF
2−CFX
5)
c−O
d−(CF
2)
e−SO
3H]
g ・・・(6)
−[CF
2−CF
2]
f−[CF
2−CF−(CF
2)
e−SO
3R)]
g− ・・・(7)
(式(3)〜(7)中、X
3、X
4、X
5、Rは、式(1)、(2)と同様である。また、c、d、eは、式(1)、(2)と同様であり、0≦f<1、0<g≦1、f+g=1である。ただし、式(5)、(7)においてeは0でない。)
【0031】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂は、上記一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位以外の、他の構成単位をさらに含んでいてもよい。上記他の構成単位としては、例えば、下記一般式(I)で表される構成単位等が挙げられる。
【化1】
(式(I)中、R
1は、単結合又は炭素数1〜6の2価のパーフルオロ有機基(例えば、炭素数1〜6のパーフルオロアルキレン基等)であり、R
2は、炭素数1〜6の2価のパーフルオロ有機基(例えば、炭素数1〜6のパーフルオロアルキレン基等)である。)
【0032】
上記パーフルオロスルホン酸系樹脂としては、プロトンを透過しやすく、抵抗が一層低い高分子電解質膜が得られる観点から、式(4)又は式(5)で表される繰り返し単位を有する樹脂が好ましく、式(5)で表される繰り返し単位のみからなる樹脂がより好ましい。
【0033】
前記PFSA樹脂の当量質量EW(プロトン交換基1当量あたりのPFSA樹脂の乾燥質量グラム数)は、300〜1300に調整されているものが好ましい。本実施形態におけるPFSA樹脂の当量質量EWは、より好ましくは350〜1000、更に好ましくは400〜900、最も好ましくは450〜750である。
【0034】
また、電極3の繊維状構造体が埋没していない隔膜2の部分の厚みが2μm以上であることが好ましい。5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。さらには20μm以上であることが最も好ましい。正負極の短絡を抑制することができるのと同時に、正負極電解液のクロスオーバーも抑制することができる。なお、本明細書において、上記繊維状構造体が埋没していない隔膜2の部分の厚みは、下記の3つの手順にて算出する。
【0035】
1.定量標的元素の選出
電極3を構成する繊維状構造体および隔膜2について、それぞれを構成する比率の多い元素を定量標的元素として選出する。ただし、繊維状構造体の定量標的元素Xと隔膜2の定量標的元素Yとは異なる元素とする。繊維状構造体または隔膜2を構成する元素の比率を得る方法は特に限定されない。例えば、組成情報から求めてもよいし、組成分析を行ってもよい。組成分析の方法としては、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)、EDX法等、種々の方法を用いることができる。中でも、電子顕微鏡像にて観察した部分と同位置を簡便に分析できる点でEDX法を用いることが好ましい。
【0036】
2.バルク元素比率の測定
膜厚方向に平行に切断した接合体断面において、隔膜部分について元素X、Yについて例えばEDX法により定量分析を行い、下記の式(8)により元素比率Rmを算出する。
隔膜部分の元素比率Rm
=隔膜部分の元素Xの定量値÷隔膜部分の元素Yの定量値 ・・・(8)
このとき、元素Xの定量値がYの定量値の100分の1を下回る場合には、Rmを0.01とする。
【0037】
3.埋没していない隔膜部分の厚みの算出
膜厚方向に平行に切断した接合体断面の隔膜を含む視野において、EDXによる元素X、Yの定量線分析を、隔膜を横断するよう膜厚方向に行い、下記式(9)により元素比率Rの膜厚方向における推移を算出する。
元素比率R
=算出点における元素Xの定量値÷算出点における元素Yの定量値 ・・・(9)
その際、膜長方向(膜の延在方向)に平均化された元素比率Rを得るため、分析領域を膜長方向に180μmとして線分析する。
【0038】
算出された元素比率Rについて、下記の式(10)、すなわち
1.5Rm>R>0.7Rm ・・・(10)
を満たす範囲を、繊維状構造体が埋没していない隔膜部分とし、その厚みを、電極3を構成する繊維状構造体が埋没していない隔膜2の部分の厚みとする。
【0039】
また、隔膜2の厚み(隔膜2全体の厚み)は、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、75μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが最も好ましい。これにより、電池サイズを小さくすることができるのと同時に、内部抵抗を低減するこができる。
【0040】
−電極−
本実施形態における電極3は、繊維状構造体により形成された多孔質体である。ここで、繊維状構造体の少なくとも一部が隔膜に埋没していることが肝要である。これにより、アンカー効果により隔膜2の膨潤による寸法変化を抑制し、電解や充放電等の繰返しによって隔膜2が電極3から剥離して性能が低下するのを抑制することができる。
【0041】
本実施形態における電極3を構成する繊維状構造体は、炭素を有することが好ましい。炭素の繊維状構造体としては、炭素繊維不織布や炭素繊維ペーパ、炭素フォーム等を挙げることができる。以下、電極3として炭素繊維不織布、炭素繊維ペーパ及び炭素フォームを用いる場合の要件を具体的に説明する。
【0042】
−−炭素繊維不織布−−
<炭素繊維の繊維径>
電極3を構成する繊維状構造体が炭素繊維不織布である場合、炭素繊維不織布を構成する炭素繊維の繊維径は、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。これにより、繊維を不織布に加工する際のハンドリング性を高めることができる。また、繊維径は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。これにより、電極として用いる際にその単位質量当たりの表面積を大きくすることができる。
【0043】
<かさ密度>
また、炭素繊維不織布のかさ密度は、0.01g/cm
3以上であることが好ましく、0.02g/cm
3以上であることがより好ましく、0.05g/cm
3以上であることがさらに好ましい。これにより、電極として用いる際にその表面積を大きくすることができる。また、炭素繊維不織布のかさ密度は、0.3g/cm
3以下であることが好ましく、0.2g/cm
3以下であることがより好ましく、0.1g/cm
3以下であることがさらに好ましい。これにより、空隙率を増大させ、電極として用いる際に電解液の流通を容易にすることができる。
【0044】
<厚み>
炭素繊維不織布の厚みは、1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることがさらに好ましい。これにより、十分な電極表面積が確保でき、電気化学反応に伴う抵抗を低減できる。また、炭素繊維不織布の厚みは、15mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましく、8mm以下であることがさらに好ましい。これにより、電極内の電子の移動に伴う抵抗を低減できるとともに、セルを小型化することができる。
【0045】
−−炭素繊維ペーパ−−
<炭素繊維の繊維径>
また、電極3を構成する繊維状構造体が炭素繊維ペーパである場合、炭素繊維ペーパを構成する炭素繊維の繊維径は、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。これにより、繊維をペーパに加工する際のハンドリング性を高めることができる。また、繊維径は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。これにより、電極として用いる際にその単位質量当たりの表面積を大きくすることができる。
【0046】
<炭素繊維の平均長さ>
また、炭素繊維ペーパにおける炭素繊維の平均長さは、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましく、15mm以上であることがさらに好ましい。これにより、繊維間の接触密度の増大によって、機械的強度を高めることができる。また、炭素繊維の平均長さは、50mm以下であることが好ましく、40mm以下であることがより好ましく、30mm以下であることがさらに好ましい。これにより、抄紙工程における開繊を容易にすることができる。
【0047】
<かさ密度>
また、炭素繊維ペーパのかさ密度は、0.1g/cm
3以上であることが好ましく、0.15g/cm
3以上であることがより好ましく、0.2g/cm
3以上であることがさらに好ましい。これにより、電極として用いる際にその表面積を大きくすることができる。また、炭素繊維ペーパのかさ密度は、0.6g/cm
3以下であることが好ましく、0.5g/cm
3以下であることがより好ましく、0.4g/cm
3以下であることがさらに好ましい。これにより、空隙率を増大させ、電極として用いる際に電解液の流通を容易にすることができる。
【0048】
<厚み>
炭素繊維ペーパの厚みは、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。これにより、十分な電極表面積が確保でき、電気化学反応に伴う抵抗を低減できる。また、炭素繊維ペーパの厚みは、600μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることがさらに好ましい。これにより、電極内の電子の移動に伴う抵抗を低減できるとともに、セルを小型化することができる。
【0049】
−−炭素フォーム−−
<空隙率>
さらに、電極3を構成する繊維状構造体が炭素繊維フォームである場合、炭素フォームの空隙率は90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。空隙率が90%未満の場合には、レドックスフロー電池の電極として用いた場合に、電極の表面積を充分に大きくすることができず、セル抵抗が大きくなってしまうおそれがある。
【0050】
なお、本明細書において、炭素フォームの空隙率は、かさ密度および真密度から求めた値である。かさ密度は、炭素フォームに含まれる空隙も含めた体積に基づいた密度である。これに対して、真密度は、炭素フォームの材料が占める体積に基づいた密度である。
【0051】
[かさ密度の測定]
まず、ノギス等を用いて炭素フォームの寸法を測定し、得られた寸法から、炭素フォームのかさ体積V
bulkを求める。次に、精密天秤を用いて、炭素フォームの質量Mを測定する。得られた質量Mおよびかさ体積V
bulkから、下記の式(11)を用いて炭素フォームのかさ密度ρ
bulkを求めることができる。
ρ
bulk=M/V
bulk ・・・(11)
【0052】
[真密度の測定]
炭素フォームの真密度ρ
realは、n−ヘプタン、四塩化炭素および二臭化エチレンからなる混合液を用いて浮沈法によって求めることができる。具体的には、まず、共栓試験管に適当なサイズの炭素フォームを入れる。次に、3種の溶媒を適宜混合して試験管に加え、30℃の恒温槽に漬ける。試料片が浮く場合は、低密度であるn−ヘプタンを加える。一方、試験片が沈む場合は、高密度である二臭化エチレンを加える。この操作を繰り返して、試験片が液中に漂うようにする。最後に、液の密度をゲーリュサック比重瓶を用いて測定する。
【0053】
[空隙率の算出]
上述のように求めたかさ密度ρ
bulkおよび真密度ρ
realから、下記の式(12)を用いて空隙率V
f,poreを求めることができる。
V
f,pore=((1/ρ
bulk)−(1/ρ
real))/(1/ρ
bulk)×100 (%)
・・・(12)
【0054】
炭素フォームは、例えばメラミン樹脂フォームを加熱して形成すると、炭素フォームの骨格を構成する繊維状炭素が全ての方向に均等に広がった構造を有するものとなるが、上記メラミン樹脂フォームの加熱を、所定の方向に圧力を負荷しつつ行うと、繊維状炭素の拡がりに異方性を有する骨格構造となる。本実施形態においては、炭素フォームは、繊維状炭素が等方的に拡がった等方的な骨格構造を有しても、繊維状炭素の拡がりに異方性を有する異方的な骨格構造を有してもよい。
【0055】
等方的な骨格構造を有する炭素フォームは、形成の際に圧力を負荷していないため、形成された炭素フォームの空隙率が高く(例えば、99%以上)、小さな応力で圧縮できるより柔軟性に富んだものとなり、電解や電池の充放電の際の隔膜の膨潤収縮に対してより柔軟に対応できるものとなる。これに対して、異方的な骨格構造を有する炭素フォームは、形成の際に圧力を負荷するため、等方的な骨格構造を有するものに比べて空隙率は低いが(例えば、95%以上)、セルを形成する際に集電板によって強く挟まれて大きな圧縮応力が印加された際にも、繊維状構造体の破断による劣化や粉落ちを抑制することができる。
【0056】
<平均直径>
また、走査型電子顕微鏡観察によって測定した、炭素フォームを構成する繊維状炭素(線状部)の平均直径d
aveが10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。これにより、比表面積の増大によって隔膜2と炭素フォームとの間の接合強度を向上させることができる。
【0057】
[平均直径の測定方法]
炭素フォームを構成する繊維状炭素の平均直径d
aveは、走査型電子顕微鏡像を画像解析することによって求める。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて10,000倍の倍率で炭素フォームを観察する。得られた観察像から、繊維状炭素の太さを無作為に20か所測定する。断面形状が円形であると仮定して、この平均太さを平均直径d
aveとする。
【0058】
<比表面積>
また、炭素フォームの真密度と炭素フォームを構成する繊維状炭素の平均直径から求めた比表面積Sが、0.5m
2/g以上であることが好ましく、1m
2/g以上であることがより好ましい。これによって、隔膜2との接合面積が充分に確保することができ、耐剥離性能を向上させることができる。
【0059】
[比表面積の算出]
炭素フォームの比表面積Sは、構成する繊維状炭素の形状が円柱状であることを仮定して、上述のように求めた真密度ρ
realと平均直径d
aveから、下記(13)を用いて求めることができる。
S=4/(ρ
real×d
ave) ・・・(13)
【0060】
炭素フォームは、例えばメラミン樹脂発泡体を不活性雰囲気下で800〜2500℃にて炭素化することによって形成することができる。メラミン樹脂発泡体としては、例えば、特開平4−349178号公報に開示されている方法により製造されるメラミン/ホルムアルデヒド縮合発泡体を用いることができる。
【0061】
上記方法によれば、まず、メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物と、乳化剤、気化性発泡剤、硬化剤、および必要に応じて周知の充填剤とを含有する水溶液又は分散液を発泡処理した後、硬化処理を施すことによりメラミン/ホルムアルデヒド縮合発泡体を得ることができる。
【0062】
上記方法において、メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物としては、例えばメラミン:ホルムアルデヒド=1:1.5〜1:4、平均分子量が200〜1000のものを使用することができる。また、乳化剤としては、例えばアルキルスルホン酸やアリールスルホン酸のナトリウム塩などを0.5〜5質量%(メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物基準、以下同じ)、気化性発泡剤としては、例えばペンタンやヘキサンなどを1〜50質量%、硬化剤としては塩酸や硫酸などを0.01〜20質量%が挙げられる。発泡処理および硬化処理は、使用した気化性発泡剤などの種類に応じて設定される温度に、上記成分からなる溶液を加熱すればよい。
【0063】
次に、このメラミン樹脂フォームを炭素化する。炭素化は、不活性ガス気流中あるは真空中などの不活性雰囲気下にて行うことができる。また、熱処理温度の下限については、導電性を高める観点から、800℃以上であることが好ましい。一方、熱処理温度の上限については、電極の柔軟性を維持する観点から、2500℃以下であることが好ましい。
【0064】
炭素フォームの厚みは、20μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることがさらに好ましい。これにより、十分な電極表面積が確保でき、電気化学反応に伴う抵抗を低減できる。また、炭素フォームの厚みは、2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。これにより、電極内の電子の移動に伴う抵抗を低減できるとともに、セルを小型化することができる。
【0065】
なお、隔膜2や電極3の形状は特に限定されないが、取扱いや加工が容易な点から、シート状であることが好ましい。
【0066】
(膜−電極接合体の形成方法)
隔膜2と電極3とを接合して膜−電極接合体1を形成するには、ホットプレス法や膜と同種の高分子の溶液によって貼り合わせる方法などがある。この中でも、ホットプレス法は、加工性の点から好ましい。
図6に、ホットプレス法を説明する模式図を示す。ホットプレス法による膜−電極接合体1の形成は、具体的にはまず、
図6(a)に示すように、隔膜2を2枚の電極3(例えば、炭素繊維不織布)によって挟み、適当な厚みのスペーサ23とともにホットプレス機の圧板24間に置く。次に、
図6(b)に示すように、圧板24を所定の温度まで加熱した後、プレスする。所定の時間保持した後、圧板24を開放して室温まで冷却する。こうして膜−電極接合体1を形成することができる。
【0067】
上記ホットプレス法において、加熱温度は80℃以上200℃以下とすることが好ましく、120℃以上160℃以下とすることがより好ましい。これにより、隔膜2を熱的に劣化させることなく、軟化した隔膜2が電極3に密着することによって、強固に接合させることができる。また、スペーサ23の厚みは、隔膜2と2枚の電極3の合計厚みに対して、10%以上50%以下とすることが好ましく、20%以上40%以下とすることがより好ましい。プレス後の保持時間は、5min以上30min以下とすることが好ましく、10min以上20min以下とすることがより好ましい。これにより、電極3間の短絡を引き起こすことなく、隔膜2と電極3を強固に接合させることができる。
【0068】
電極3の繊維状構造体
を構成する繊維が、膜−電極接合体1の膜厚方向断面において、膜長方向1cm当り5
本以上埋没してい
ることが好ましい。これにより、隔膜2と電極3との間の接合をより強固なものにすることができる。なお、「膜−電極接合体1の膜厚方向断面において、膜長方向1cm当り5
本以上埋没してい
る」とは、一辺30mmの正方形状の膜−電極接合体の部分において、上記正方形の対角線上で膜厚方向に平行に切断された第1の断面を上記膜厚方向断面として、第1の断面上で膜長方向1cmの互いに重複しない異なる3視野で
繊維状構造体を構成する繊維のうち埋没
された繊維の
本数を評価し、該
本数の平均値が1cm当り5
本以上であることを意味している。なお、
繊維状構造体を構成する繊維が、膜−電極接合体上の任意の一辺30mmの正方形状の部分において、膜長方向1cm当り5
本以上埋没してい
ることがより好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
<膜−電極接合体の作製>
まず、電極として寸法:30mm×30mm×6mmの炭素繊維不織布(SGL CARBON社製SIGRACELL(登録商標) GFA6EA)を2枚、隔膜として寸法:25mm×25mm×55μmの電解質膜(Dupon社製Nafion212)1枚をそれぞれ用意した。次に、隔膜の両面に炭素繊維不織布を配置し、ホットプレス法により炭素繊維不織布と隔膜とを接合した。具体的には、電解質膜を2枚の炭素繊維不織布で挟み、厚み4mmのスペーサとともにホットプレス機の圧板間に置いた。続いて、圧板を200℃まで加熱し、プレスした。この状態で20min保持した後、圧板を開放して室温まで冷却した。こうして実施例1による膜−電極接合体を作製した。
【0071】
(実施例2)
実施例1と同様に、実施例2による膜−電極接合体を作製した。ただし、ホットプレスの際の加熱時間を7minとした。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0072】
(実施例3)
実施例1と同様に、実施例3による膜−電極接合体を作製した。ただし、ホットプレスの際の加熱時間を3minとした。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0073】
(実施例4)
実施例1と同様に、実施例4による膜−電極接合体を作製した。ただし、加熱温度は180℃、加熱時間は15分とした。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0074】
(実施例5)
実施例1と同様に、実施例5による膜−電極接合体を作製した。ただし、加熱温度は160℃、加熱時間は30分とした。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0075】
(比較例1)
実施例1において、ホットプレス法により電極と隔膜とを炭素繊維不織布とを接合せずに、比較例1による膜−電極積層体を作製した。
【0076】
(比較例2)
実施例1と同様に、比較例2による膜−電極接合体を作製した。ただし、スペーサの厚みを8mmとし、加熱温度を80℃、加熱時間を10minとした。その他の条件は実施例1と全て同じである。
【0077】
<繊維状構造体の埋没部分の数の測定>
実施例1について、下記の手順にて電極を構成する繊維状構造体の埋没部分の数を調べた。まず、一辺30mmの略正方形状のサンプル接合体を作製した。次に、サンプル接合体の対角線上で膜厚方向に平行に切断し、その切断面上で長さ1cmの互いに重複しない異なる3つのサンプルを作製した。そして、得られた3つのサンプルの各々について埋没部分を評価した。この評価は、具体的には、各サンプルの切断面を(株)日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡S4700にて、加速電圧:1.5kV、作動距離WD:12mm、倍率:250倍にて観察した。その際、長さ1cmのサンプルを観察するために、サンプルを載置したステージを移動して観察を行った。各サンプルの埋没部分の数は以下の通りである。
【0078】
【表1】
【0079】
上記3つのサンプルにおける埋没部分の数の平均値を、実施例1に対する繊維状構造体の埋没部分の数とする。同様の評価を実施例2〜5、比較例1、2についても行った。得られた結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
<繊維状構造体が埋没していない隔膜部分の厚みの算出>
実施例1について、下記の手順にて電極を構成する繊維状構造体が埋没していない隔膜部分の厚みを算出した。まず、(株)日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡S4700にて、加速電圧:7.0kV、作動距離WD:12mm、倍率:250倍にて、
図7に示す分析画像を得た。本分析画像にて、(株)堀場製作所製EMAX−7000にて定量分析を行った。定量標的元素Xとして炭素(以下、「C」)の、および定量標的元素Yとしてフッ素(以下、「F」)の隔膜部分のスポット分析を行った。その際、測定時間は60秒とした。得られたCとFの強度比よりRmを0.25とした。
【0082】
続いて、
図7に示した分析画像における幅180μmの範囲について、膜厚方向にCおよびFの定量線分析を行った。その際、測定時間は30秒/ライン、積算回数は10回とした。得られたCおよびFの膜厚方向の強度プロファイルを
図8に示す。
図8に示した強度プロファイルから、CおよびFの強度比を算出し、上記式(10)を満たす範囲を調べた。その結果、分析画像左端より81μmから109μmの範囲内で式(10)を満たすことから、繊維状構造体が埋没していない隔膜部分の厚みを109μm−81μm=28μmと算出した。同様に、実施例2〜5、比較例2についても、繊維状構造体が埋没していない隔膜部分の厚みを算出した。得られた結果を表2に示す。なお、比較例1については、隔膜と電極とが接合されていないため、上記算出を行わなかった。
【0083】
<耐剥離性能の評価>
実施例1〜5および比較例1、2による膜−電極接合体(比較例1は膜−電極積層体)の耐剥離性能を評価した。具体的には、膜−電極接合体(比較例1は膜−電極積層体)をエチレングリコール及びエタノールに浸漬した際の剥離を評価した。以下、各評価について説明する。
【0084】
[エチレングリコール浸漬による評価]
実施例1〜5、比較例2による膜−電極接合体、および比較例1による膜−電極積層体の各々について、エチレングリコールに浸漬した際に、電極と隔膜との間で剥離が発生するか否かを評価した。具体的には、エチレングリコールを容器内に供給し、エチレングリコールの温度を25℃に維持した状態で、膜−電極接合体(比較例1は膜−電極積層体)をエチレングリコールに浸漬した。20分経過後の時点において、電極と隔膜との間で剥離が生じているか否かを目視観察により評価した。評価結果を表2に示す。なお、表2において、○は、剥離が発生しなかったことを示しており、×は、隔膜と電極とが完全に剥離したことを示している。また、エチレングリコール浸漬後に実施例および比較例による膜−電極接合体(比較例1は膜−電極積層体)の寸法がどれだけ変化したかを測定した。得られた結果を表2に示す。
【0085】
[エタノール浸漬による評価]
エタノールを用いて、上記エチレングリコール浸漬による評価と同様の評価を行った。具体的には、エタノールを容器内に供給し、エタノールの温度を25℃に維持した状態で、実施例および比較例の膜−電極接合体(比較例1は膜−電極積層体)をエタノールに浸漬した。20分経過後の時点において、電極と隔膜との間で剥離が生じているか否かを目視観察により評価した。評価結果を表2に示す。なお、表2において、○は、剥離が発生しなかったことを示しており、×は、隔膜と電極とが完全に剥離したことを示している。また、エタノール浸漬後に実施例および比較例による膜−電極接合体(比較例1は膜−電極積層体)の寸法がどれだけ変化したかを測定した。得られた結果を表2に示す。
【0086】
表2から明らかなように、実施例1〜4による膜−電極接合体は、エチレングリコール浸漬およびエタノール浸漬による剥離評価の何れにおいても、剥離は発生しなかった。また、実施例5による膜−電極接合体については、エチレングリコール浸漬による剥離評価では剥離が生じなかったが、エタノール浸漬による剥離評価では剥離が発生した。しかしながら、エタノール浸漬による剥離評価は、通常の電解や電池における環境よりも厳しい環境での評価であり、エチレングリコール浸漬による剥離評価において剥離が生じていなければ問題はない。これに対して、比較例1、2は、エチレングリコール浸漬およびエタノール浸漬による剥離評価の何れにおいても、剥離が発生した。
【0087】
<短絡発生の有無の評価>
実施例1〜5、比較例2の膜−電極接合体および比較例1の膜−電極積層体について、隔膜を挟んで対向する電極間の抵抗を測定することにより、電極間で短絡が発生するか否かを評価した。具体的には、隔膜を挟んで対向する電極のそれぞれにカスタム社製デジタルマルチメーター CDM−11Dの針を当て、電極間の抵抗を測定した。そして、電極間の抵抗が300Ω以上の場合には、短絡は発生しないと評価した。得られた結果を表2に示す。表2に示すように、実施例1〜5、比較例2の膜−電極接合体および比較例1の膜−電極積層体の全てについて、短絡は発生しないと評価された。