(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の電気基板は、前記複数の素子基板が配列する面と異なる面に沿って2列に配列し、前記フレキシブル基板は湾曲した状態で前記素子基板と前記電気基板とを電気接続することを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
前記複数の素子基板のそれぞれは、当該複数の素子基板が配列する方向と交差する方向の両側で前記フレキシブル基板と接続し、当該フレキシブル基板は前記2列の電気基板のそれぞれに接続する請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の液体吐出ヘッド3をインクジェット記録ヘッドとして使用した例を示す図である。インクジェット記録装置1000は、フルラインタイプのカラーインクジェット記録装置であり、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクを吐出する4つの液体吐出ヘッド3が、X方向に配置している。液体吐出ヘッド3のそれぞれには、複数の吐出口がY方向に配列しており、搬送部1によって一定の速度でX方向に搬送される記録媒体2に対しZ方向にインクを吐出する。これにより、記録媒体2には、所望の画像が記録される。
【0010】
図2は、液体吐出ヘッド3に対するインクを供給及び回収するための循環流路を示す図である。ここでは、1色のインクについての循環流路を示しているが、記録装置1000にはこのような循環流路が、CMYKのインク色ごとに用意されている。バッファタンク1003は、循環ポンプP1〜P3と接続されており、これらポンプによって液体吐出ヘッド3を含む循環流路でインクが循環されるようになっている。一方、バッファタンク1003内のインク残量が少なくなると、補充ポンプP0が作動し、装置内に固定されている大容量のメインタンク1006からインクが補充される。バッファタンク1003には大気連通口が形成されており、流入した気泡を液体循環流路から排出できるようになっている。
【0011】
循環ポンプP1は、液体接続部111を介して液体供給ユニット4から流出されるインクを、バッファタンク1003に導く。循環ポンプP1を配備しておくことにより、液体吐出ヘッド3に対するバッファタンク1003の水頭圧の影響を低減し、結果として、インクジェット記録装置1000内におけるバッファタンク1003のレイアウトに自由度をもたせることができる。なお、循環ポンプP1の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対して所定の水頭差をもって配置された水頭タンクを接続しても、上記作用効果を得ることはできる。一方、循環ポンプP2及びP3は、バッファタンク1003に貯留されたインクを、液体接続部111を介して液体供給ユニット4に供給する。
【0012】
液体供給ユニット4は、液体接続部111より収容したインクを、フィルタ221を介して異物を取り除いた後、液体吐出ユニット300に供給する。一方、液体吐出ユニット300より回収されるインクは、液体供給ユニット4の負圧制御ユニット230に流入する。
【0013】
負圧制御ユニット230には、高流圧でインクを流出する負圧制御ユニットHと低流圧でインクを流出する負圧制御ユニットLがあり、これよりも上流に位置する液体吐出ユニット300内の共通供給流路621と共通回収流路622にそれぞれ連結されている。負圧制御ユニット230は所謂背圧レギュレータのように作用し、液体吐出ユニット300の吐出動作に伴うインクの消費に関わらず、共通供給流路621と共通回収流路622の流圧を一定範囲内に収めている。
【0014】
液体吐出ユニット300には、負圧制御ユニットHにより高圧力でインクが流れる共通供給流路621と、負圧制御ユニットLにより低圧力でインクが流れる共通回収流路622のほか、複数の記録素子を備えた記録素子基板10がY方向に複数配列されている。個々の記録素子基板10には、共通供給流路621と接続する個別供給流路521と、共通回収流路622と接続する個別回収流路522が接続されており、共通供給流路621と共通回収流路622の流圧差に伴うインク流れが発生する。すなわち、高圧力を有する共通供給流路621より個別供給流路521を介してインクが流入され、更にそのインクが個別回収流路522を介して共通回収流路622へ流出される。個々の記録素子基板10で吐出動作が行われると、循環中のインクの一部が吐出によって消費され、残りのインクは個別回収流路522及び共通回収流路622を経て、液体供給ユニット4に排出される。
【0015】
以上のような循環供給回路を用いた液体吐出ヘッド3においては、吐出動作で発生した熱を流動する液体が奪って行くので、蓄熱に伴う吐出不良が起こり難くなる。また、増粘インクや異物も停滞し難く、すべてのノズルの吐出状態を安定させることができる。更に、本実施形態のように、負圧制御ユニットHと負圧制御ユニットLを液体吐出ヘッド3の両端部に配した構成では、記録素子基板10を挟んで並列する共通供給流路621の流方向(右から左)と共通回収流路622の流方向(左から右)が対向する状態となる。このため、個々の記録素子基板10を介して共通供給流路621と共通回収流路622の間で熱交換が促進され、複数の記録素子基板10の温度も平均化される。結果、温度差に起因する吐出量のばらつきが抑えられ、濃度むらが低減される。
【0016】
図3(a)及び(b)は、液体吐出ヘッド3の外観斜視図である。本実施形態の液体吐出ヘッド3は、記録媒体2の全幅をカバーするフルライン型のカラーインクジェット記録ヘッドであり、Y方向には多数の記録素子基板10が配列し、個々の記録素子基板10が吐出データに従って所定色のインクをZ方向に吐出する。記録素子基板10内を循環するインクは、Y方向の両端に配された液体供給ユニット4を介して供給されたり排出されたりする。液体接続部111のそれぞれには、循環ポンプP1、P2、P3と連通するチューブが接続される。
【0017】
一方、吐出データや吐出動作のための電力は、様々な用途の電気配線がレイアウトされた電気基板90の信号入力端子91及び電力供給端子92に入力され、
図3では不図示のフレキシブル基板40を介して、個々の記録素子基板10に供給される。本実施形態において、信号入力端子91及び電力供給端子92は、電気基板90のX方向の両面に対称的に配されており、
図3では不図示のフレキシブル基板40も電気基板90の両面から個々の記録素子基板10の両側に接続されている。シールド板132は、このような電気基板90の電気的接続をX方向の両面から保護している。
【0018】
図4は、液体吐出ヘッド3の分解斜視図である。Y方向に延在する電気基板支持部82には、±X方向の両面において、複数の電気基板90がY方向に連続するように取り付けられる。そして、これら部材の+Z方向側には液体吐出ユニット300を構成する第2の流路部材60、第1の流路部材50、吐出モジュール200及びカバー部材130がこの順に積層される。液体吐出ヘッド3全体の剛性は、主に第2流路部材60によって担保されている。カバー部材130には開口131が形成されており、吐出モジュール200の一部として配列する記録素子基板10の吐出口面が露出されるようになっている。2つの液体吐出ユニット支持部81は、液体吐出ユニット300の±Y方向より取り付けられ、電気基板支持部82にビス止めされる。そして、片方には高圧力用の負圧制御ユニットHを備えた液体供給ユニット4が、もう片方には低圧力用の負圧制御ユニットLを備えた液体供給ユニット4が、それぞれ−Z方向側から装着される。これにより、液体供給ユニット4と第2流路部材60が流体的に接続される。
【0019】
図5(a)及び(b)は、液体吐出ユニット支持部81と電気基板支持部82との結合状態を示す図である。
図5(a)はX方向から見た側断面図、同図(b)は−Z方向から見た上面図である。
【0020】
電気基板支持部82は、片方の端部がX方向に突出した電気基板固定部82a、もう片方の端部が−X方向に突出した電気基板固定部82bとなっており、それぞれの側面に液体吐出ユニット支持部81がビス止めされる。2つの液体吐出ユニット支持部81が電気基板支持部82に対し点対称に固定されることにより、電気基板支持部82の剛性は強化され、液体吐出ヘッドの変形が抑えられる。
【0021】
この際、片方の電気基板固定部82bにおけるビス穴をY方向に長い可動穴としておくことにより、電気基板支持部82と第2流路部材60の間で線膨張係数の差に伴うずれが生じても、互いの連結状態を確保しておくことができる。更に、液体吐出ヘッド3が
図1のように複数並列する場合は、いずれの液体吐出ヘッドにおいても可動穴をY方向の同じ側に配備しておくことにより、各色の記録位置ずれを防ぐことができる。なお、このような可動穴はY方向についてのみ用意しておけば十分である。一般に、線形膨張係数の差に伴う材質間のズレは延在距離が大きい方向に現れやすく、短い方向すなわちX方向やZ方向にも可動領域を確保してしまうと、電気基板90の様々な方向への振動を許容してしまうからである。
【0022】
図では、可動領域を拡大するための一例として液体吐出ユニット支持部81bのビス穴を長径にする方法を示したが、長径のビス穴はもう片側の液体吐出ユニット支持部81aに設けてもよいし、液体吐出ユニット支持部81aと81bの両方に設けてもよい。また、電気基板支持部82と液体吐出ユニット支持部81a、81bは、段付ねじを用いて固定してもよいしネジ止め以外の方法で固定してもよい。
【0023】
図6(a)〜(e)は、第1流路部材50と第2流路部材60の詳細な連結構成を説明するための図である。
図6(a)及び(b)は第1流路部材50の表裏面、
図6(c)〜(e)は第2流路部材60の表面、断面、裏面をそれぞれ示している。
図6(a)が吐出モジュール200の記録素子基板10と当接する面となり、
図6(e)が液体供給ユニット4と当接する側の面となる。また、
図6(b)に示す第1流路部材50の面と
図6(c)に示す第2流路部材60の面が当接する。液体供給ユニット4より供給されたインクを吐出モジュール200の個々の記録素子基板10に導くための流路構成と、個々の記録素子基板10で消費されなかったインクを液体供給ユニット4に戻すための流路構成が、これら流路部材によって実現されている。
【0024】
液体吐出ヘッド3全体の剛性は、平板形状を有する第2流路部材60によって主に担保されている。このため、第2流路部材60の材質としては、液体に対する十分な耐食性と高い機械強度を有するものが好ましい。具体的にはSUSやTi、アルミナなどを好ましく用いることができる。一方、第1流路部材50は、第2流路部材60よりも小型であって個々の吐出モジュール200すなわち個々の記録素子基板10に対応する平板形状が、第2流路部材60に対応する距離だけY方向に配列することによって構成されている。
【0025】
第2流路部材60において、液体供給ユニット4と当接する面(
図5(e))には、
図2で説明した液体供給ユニット4の液体接続部111と接続する位置に、複数の連通口72が形成されている。連通口72は中間層に形成されたY方向に延在する共通流路溝71に連通しており、これら2本の共通流路溝71のうち、片方は共通供給流路621に、もう片方は共通回収流路622に相当する。また、第2流路部材60において、第1流路部材50の
図6(b)に示す面と当接する面(
図6(c))には、2つの共通流路溝71に沿って、複数の連通口61が個々の記録素子基板10に対応する位置に形成されている。
【0026】
第1流路部材50において、第2流路部材60の
図6(c)に示す面と当接する面(
図6(b))には、第2流路部材60に形成された連通口61に対応する位置に個別連通口53が形成されている。個別連通口53は、吐出モジュール200の記録素子基板10と当接する面(
図6(a))において、ノズル列が形成された位置までインクを導くための個別流路51に接続している。
【0027】
図7は、第1流路部材50と第2流路部材60をZ方向から見た透視図である。ここでは、1つ分の第1流路部材50(1つ分の記録素子基板)に対応する領域についてのみ示している。また、
図8は、
図7におけるVIII−VIII断面に記録素子基板10を追加して示した図である。記録素子基板10は開口部が形成された支持部材30に接着された状態で第1流路部材50に搭載される。支持部材30における開口部が、記録素子基板10と第1流路部材50との間において液体供給口31となる。
【0028】
第2流路部材60の共通供給流路621をY方向に進行するインクは、連通口61から第1流路部材50の個別連通口53に流入し、連通口51にてX方向に移動する。その後液体供給口31を介して記録素子基板10に供給される。記録素子基板10で消費されなかったインクは、上記とは別の液体供給口31、連通口51、個別連通口53、連通口61を経て、第2流路部材60の共通回収流路622に回収される。
図8における別の断面においては、このような回収時のインク経路が確認される。
図2で説明したように、共通供給流路621は高流圧用の負圧制御ユニットHに、共通回収流路622は低流圧用の負圧制御ユニットLにそれぞれ接続されている。このため、
図8に示す液体供給口31においては、記録素子基板10における吐出頻度に因らず、図の左から右に向かう安定したインク流れが生成される。
【0029】
図9(a)〜(c)は、記録素子基板10の層構造を説明するための図である。
図9(a)は記録素子基板10を吐出口面側(+Z方向側)から見た図、
図9(b)は内部構造図、
図9(c)は記録素子基板10を背面側(−Z方向側)から見た図である。これら図に示すように本実施形態の記録素子基板10は平行四辺形を呈し、その中心に対し点対照な構造を有している。
【0030】
図9(a)に示すように、記録素子基板10には複数の吐出口13がY方向に配列して成る吐出口列14がX方向に20列、並列配置している。記録素子基板10の内部には、
図9(b)に示すように、個々の吐出口列14に対応する液体供給路18と液体回収路19が、X方向に交互に20列ずつ並列配置している。記録素子基板10の背面においては、
図9(c)に示すように、液体供給路18と液体回収路19に接続する開口21が、それぞれに対応する位置に形成されたカバープレート20が配備されている。
【0031】
図10は、カバープレート20を除いた記録素子基板10の平面拡大図である。本実施形態の液体吐出ヘッド3において、1つの記録素子(ノズル)は、エネルギ発生素子15、圧力室23、及び吐出口13によって構成される。圧力室23はY方向に並ぶ2つの隔壁22によって規定され、1つの圧力室に1つのエネルギ発生素子が配備されている。エネルギ発生素子15は
図9(a)に示す端子16と電気的に接続されており、電気基板90及びフレキシブル基板40を介して、駆動制御される。このような構成のもと、吐出データに従ってエネルギ発生素子15に電圧パルスが印加されると、圧力室23に供給されたインク中に膜沸騰が生じ、その泡の成長エネルギによって、エネルギ発生素子15と対向する位置にある吐出口13からインクが吐出される。
【0032】
一方、吐出口列のX方向両側には、共通供給流路621と接続し圧力室23にインクを供給するための液体供給路18と、共通回収流路622と接続し圧力室23からのインクを回収するための液体回収路19が、Y方向に延在している。また、液体供給路18及び液体回収路19のそれぞれには、圧力室23と連通する供給口17aと回収口17bが形成されており、圧力室23が収容するインクは外部との間で循環される。
【0033】
以上の構成により、記録素子基板10において、インクは開口21→液体供給路18→供給口17a→圧力室23→回収口17b→液体回収路19→開口21の順にインクが流れる。そして、圧力室23内を流動する時にエネルギ発生素子15が駆動された場合に、その一部が吐出口13より吐出される。圧力室23のインクは吐出頻度によらず安定して流動しているので、増粘インク、泡、異物などが混在しても、これらは特定の位置に滞留せず、液体回収路19へ導出(排出)される。
【0034】
図11は、隣接する記録素子基板10の接続状態を示す図である。
図9(a)でも説明したように、本実施形態の記録素子基板10は平行四辺形を呈しており、夫々にY方向に延在する短尺の吐出口列が20列ずつ形成されている。そして、このような記録素子基板10の複数が、互いの側辺を当接させながらY方向に連続配置することにより、20列の吐出口列14が完成する。
【0035】
本実施形態の液体吐出ヘッドにおいて、X方向に搬送される記録媒体の同じ画素ラインは、異なるノズル列に含まれる20個のノズルによって代わる代わるドットを記録することができる。すなわち、1列のノズル列しか有さない液体吐出ヘッドに比べて、約20倍の周波数でドットを記録することができる。また、同じ画素ラインを記録する20個のノズルのうち一部に吐出不良が生じても、他のノズルによってその吐出動作を補うことができる。
【0036】
図11に示すように、2つの記録素子基板10の接続箇所において、一方の記録素子基板10の最端部の吐出口13と、もう一方の記録素子基板10の最端部の吐出口13は、Y方向の同じ画素位置にレイアウトされている。即ち、Y方向延在する液体吐出ヘッド3には、異なる記録素子基板がY方向に重複する領域が含まれている。言い換えると、そのようにレイアウト可能なように、平行四辺形の傾き角度が設計されている。図では、D線上の2つの吐出口13が、Y方向の同じ位置にレイアウトされている。
【0037】
このような構成によれば、液体吐出ヘッド製造時に2つの記録素子基板10が多少ずれて接続されてしまっても、接続部に相当する位置の画像は、オーバーラップ領域に含まれる複数の吐出口の協同によって記録することができる。よって、紙面上にされた画像においては、上記ずれに伴う黒スジや白抜けを目立たなくすることができる。
【0038】
図12は、記録素子基板10の断面図である。通常、記録素子基板10は、インク供給口が形成された基板301上にエネルギ発生素子15やこれに電力を供給する配線が形成され、更にその上に圧力室23や吐出口13及び隔壁22などが形成されたノズル部材が積層されて完成する。ここでは説明のため、ノズル部材を積層する前の状態を示している。
【0039】
エネルギ発生素子15(ヒータ)、これに電力を供給する配線303、パッド302等の配線機構は、
図10で説明した供給口17aや回収口17bが形成された基板301に対し、互いに干渉しないようにパターンニングされる。これらインク流路及び電気配線の構造は中心線203に対し左右対称に形成されており、電気配線については図の右側の領域と左側の領域で分離されている。そして、右側10列のノズル列14は右側のパッド302aと配線303aを介して、左側10列のノズル列14は左側のパッド302bと配線303bを介して、電力及び吐出信号が供給される。即ち、個々のエネルギ発生素子15は、パッド302aと302bのうち、より近い方から電力と吐出信号が供給されるようになっている。
【0040】
図13は、1つの記録素子基板10に対する吐出データの分配状態を示す図である。吐出データは、右側の領域と左側の領域に分配され、それぞれのパッド302aまたは302b、配線303aまたは303bを介して個々のエネルギ発生素子15に供給される。このとき、平行四辺形の記録素子基板10は電気的にも回点対称な構造を有しているため、片側のパッド列201aに入力する吐出データともう片側のパッド列201bに入力する吐出データとは、セグメント配置において反転した関係で分配することになる。
【0041】
図14(a)及び(b)は、1つの吐出モジュール200の詳細構成を示す図である。
図14(a)は斜視図、同図(b)は分解図をそれぞれ示している。吐出モジュール200は、
図14(b)に示すように、支持部材30の上に記録素子基板10を接着し、記録素子基板10の両側の端子16にフレキシブル基板40の第2端子42をワイヤーボンディングすることによって形成される。ワイヤーボンディングはコネクタ接続に比べて電気抵抗が小さいため、電圧降下を小さく抑えることができ、本実施形態のような長尺で高速駆動を行うインクジェット記録ヘッドには有効である。なお、ワイヤーボンディング部については、更に封止材400が塗布され電気的に封止される。支持部材30においては、記録素子基板10の背面を第1流路部材50と流体的に接続するための液体供給口31が設けられている。
【0042】
2つのフレキシブル基板40において、記録素子基板10との接続部とは反対の位置にある第1端子41は、電気基板90の接続端子93と電気的に接続される。支持部材30には、第1流路部材50の連通口51と接続するための液体連通口31が形成されている。支持部材30は、記録素子基板10の支持体であると同時に、記録素子基板10と第1流路部材50との間に位置する1つの流路部材でもある。このため、平面度が高く、十分に高い信頼性をもって記録素子基板10と接合できるものが好ましい。好適に使用可能な材質としては例えばアルミナや樹脂材料が挙げられる。
【0043】
図15(a)及び(b)は、
図14(a)で示した吐出モジュール200を36個並列させて、個々のフレキシブル基板40を電気基板90に接続した様子を示す図である。
図15(a)に示すように、本実施形態では、9個のフレキシブル基板40が接続された電気基板90が、記録素子基板10の配列方向の両側に4つずつ並列配置している。1つの記録素子基板10は、配列方向(Y方向)と交差する方向の両側に位置する2つの電気基板90に接続され、それぞれから電力及び吐出信号が供給される。なお、本実施形態のように1つの電気基板90に複数のフレキシブル基板40が接続させる場合、個々の記録素子基板10に対する電源系配線は、電気基板90上で纏めておくことが好ましい。このようにすれば電気接続端子の数を少なく抑え液体吐出ヘッドのコストを削減することが出来るからである。
【0044】
図15(b)は、同図(a)のように複数の吐出モジュール200と複数の電気基板90を接続した場合の電気回路レイアウトを示す図である。平行四辺形を呈する記録素子基板10の複数が一列に配列し、その両側に複数の電気基板90が対称的に配置され、電気回路全体としても点対称(回転対称)な構造になっている。
【0045】
この際、個々の記録素子基板10が平行四辺形であるため、向かい合う端子16は
図9(a)に示すように互いにY方向にずれた関係にある。よって、ここに接続されるフレキシブル基板40もY方向にずれ、電気基板支持部82の表裏面に配される電気基板90も、
図5(b)に示すようにY方向にずれた関係となる。但し、電気基板90に配されている信号入力端子91や電力供給端子92については、電気基板90を電気基板支持部82に取り付けた状態において、
図5(b)のようにY方向の同じ位置に来るようになっている。言い換えると、本実施形態の電気基板90は、電気基板支持部82の+X側に配されても−X側に配されても、信号入力端子91と電力供給端子92がY方向の同じ位置に配されるように設計されている。即ち、電気基板支持部82の両側に配され、記録装置装置本体の基板から信号入力端子91や電力供給端子92に接続される不図示のFPCやFFCについても、これらを並行且つ対称に配することができ、装置内の配線をシンプルに構成することができる。
【0046】
本実施形態では、記録素子基板10の配列数(36)が、その片側で配列する電気基板の配列数(4)の倍数になっているため、同数(9)ずつのフレキシブル基板40に接続される8つの電気基板90を全て同形にすることができる。また、個々の吐出モジュール200を構成する記録素子基板10とフレキシブル基板40も全て同形である。よって、これら記録素子基板10、フレキシブル基板40、電気基板90をそれぞれ多数製造し、電気検査を個別に行った後、合格品のみを
図15(a)のように組み合わせて長尺の液体吐出ヘッド3を製造することができる。このため、長尺の電気配線基盤や長尺の記録素子基板を製造する構成に比べ、液体吐出ヘッド3を製造する時の歩留まりを向上させ、製造コストを低減することができる。言い換えると、製造コストを大幅に増大させるこよなく、液体吐出ヘッドの長尺化を更に推し進めることができる。
【0047】
図16(a)及び(b)は、記録素子基板10と電気基板90を接続するフレキシブル基板40を示す拡大図である。
図16(a)は接続部に対して封止材を塗布する前、同図(b)は塗布した後をそれぞれ示している。
【0048】
本実施形態において、個々のフレキシブル基板40のY方向の幅は一様ではない。具体的には、電気基板90と接続する第1端子41の近傍の幅Waは、中央領域の幅Wbよりも小さくなっている。また、記録素子基板10と接続する第2端子42の近傍の幅Wcは、第1端子41の近傍の幅Waよりも大きく、中央領域の幅Wbよりも小さくなっている。すなわち、Wa<Wc<Wbの関係が成り立っている。そして、第1端子41の近傍であって幅Waを有する領域の長さLaは、中央領域の幅Wbを有する領域の長さLbよりも小さくなっている。すなわちLa<Lbの関係が満たされている。
【0049】
隣接する2つの電気基板90の間には、配線をレイアウトすることができない連結のための領域が必要になる。また、第1端子41及び第2端子42のそれぞれは、ワイヤーボンディングの後に封止材400が個別に塗布されるが、個々の第2端子42は互いに干渉が起こらないように十分な間隔dをおいて配置されることが好ましい。つまり、電気基板90の幅は、これに接続する9個のフレキシブル基板40の第1端子41の幅の総和よりも大きく設計され、9つのフレキシブル基板40は、互いに間隔dをおいて電気基板90に接続される。
【0050】
その一方、電気基板90と記録素子基板10を接続し10列分の記録素子列を高速駆動するための電流が流れるフレキシブル基板40において、経路内での電圧降下はできるだけ低く抑えること、即ち電気抵抗をできるだけ低く抑えることが求められる。特に、本実施形態のインク循環型の液体吐出ヘッドのように、個々のノズル列14に対し液体供給路18と液体回収路19の2列の流路が配される場合、
図9(b)に示すようにX方向の幅が大きくなり電圧降下の要因となる。このような状況を鑑み、本実施形態のフレキシブル基板40では、電流が流れる方向と直交する方向の幅Wbを出来るだけ広くし、長さ方向においてはそのような領域を出来るだけ多くLbを確保した構成としている。
【0051】
また、フレキシブル基板40においては、内部の配線が多層構造となっていることが好ましい。多層構造とすることで、複数の電源系の配線をまとめ、配線断面積を実質的に大きく電気抵抗を実質的に小さく抑えることができるからである。また、電源系配線内においては、電圧降下を抑制するためにコンデンサを実装することも効果的である。コンデンサを配しておけば、吐出頻度が増大し瞬間的に多大な電流が流れたとしても、急激な電圧降下を緩和することができる。
【0052】
図17は、
図3で示した液体吐出ヘッド3の断面図である。
図3では省略したが、
図17では記録素子基板10と電気基板90を接続するフレキシブル基板40も示している。
【0053】
液体吐出ヘッド3は、電気基板支持部82を中心に左右対称な構成になっている。電気基板支持部82は、記録素子基板10の面に対し直交する姿勢で真上中央に配され、その両側において電気基板90を平行に支持している。これら電気基板支持部82と電気基板90は、X方向において、液体吐出ヘッド3全体の剛性を担保する第2流路部材60の内側に収まっている。
【0054】
そして、記録素子基板10の両側に接続された2つのフレキシブル基板40は、第2流路部材60の外周囲に沿って配され、それぞれの電気基板90に接続している。詳しく説明すると、フレキシブル基板40は、第2流路部材60の底面から角に沿って内側に90度曲がり、第2流路部材60の側壁に沿って上昇し、再び角に沿って上面に湾曲し、更に第2流路部材60から離れる方向に湾曲した先で電気基板90に接続している。そして、シールド板132は、これら部材全体を保護している。
【0055】
以上のようなレイアウトによれば、電気基板90に実装された電気部品が多少突出していても、これらを第2流路部材60の幅領域(X方向の領域)からなるべくはみ出さないようにし、液体吐出ヘッド3全体を記録素子基板10の幅相当に抑えることができる。この際、電気基板支持部82は、記録素子基板10の面の真上において必ずしも直交する姿勢で配されていなくてもよい。電気基板支持部82は、記録素子基板10が配列する面の法線方向の領域に含まれる面に沿って2列に配列していれば、液体吐出ヘッド3の幅方向のサイズを抑えるという作用効果を得ることはできる。
【0056】
また、以上では、
図16(a)を用い、第1端子41の近傍の幅Wa、中央領域の幅Wb、及び第2端子42の近傍の幅WcにおいてWa<Wc<Wbの関係が成り立っている場合について説明したが、本発明はこの関係に限定されるものではない。少なくとも第1端子41の近傍の幅Waとそれ以外の領域の幅Wbにおいて、Wa<Wbの関係が成り立っていれば本発明の効果を発揮することができる。
【0057】
但し、第2端子42の近傍の幅WcにおいてもWbより小さくすれば、電気基板90同士の関係と同様、隣接する記録素子基板10同士の間で組み立て時の干渉や組み立て後の干渉を抑制することができる。その上で、記録素子基板は電気基板と比べて連結のための領域は小さくて済むことから、必要最小限の連結領域を確保しつつなるべく電気抵抗を抑えることを優先すると、Wa<Wc<Wbの関係が好ましいことになる。
【0058】
以上説明したように本実施形態によれば、個々の吐出モジュール200のフレキシブル基板40において、電気基板90と接続する側の端子近傍の幅Waよりもこれ以外の領域の幅を大きくしている。これにより、電圧降下を抑制し、高速記録が可能な長尺記録ヘッドを低コストに製造することが可能となる。
【0059】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、平行四辺形を呈する記録素子基板10をY方向に1列に配置し、9つの記録素子基板10に対し、両側に1つずつの電気基板90を配する構成とした。そして、1つの記録素子基板10には、2つずつのフレキシブル基板40を接続させる形態とした。しかしながら、本発明はそのような構成に限定されるものではない。
【0060】
図18(a)〜(c)は、本発明で使用可能な記録素子基板10、フレキシブル基板40、及び電気基板90の接続状態の別形態を示す図である。
図18(a)は、長方形の記録素子基板10を、X方向に交互にずらしながらY方向に連続するようにレイアウトした場合を示している。また、
図18(b)は、台形の記録素子基板10を、その向きを交互に変えながらY方向に連続するようにレイアウトした場合を示している。どちらの構成においても、記録素子基板10は、オーバーラッピング領域Rを含みながらY方向に配列しており、幅Wの記録領域が確保される。また、個々の記録素子基板10には1つのみのフレキシブル基板40が接続され、Y方向に並ぶ2つのフレキシブル基板40が1つの電気基板90に接続されている。
【0061】
一方、
図18(c)は、上記実施形態と同様に平行四辺形の記録素子基板10の両側に2つずつのフレキシブル基板40が接続された構成を示している。但し、本構成において、フレキシブル基板40は、個別の電気基板90に接続されている。
【0062】
これらいずれの構成であっても上記実施形態と同様、電気基板90と接続する第1端子41近傍の幅Waよりも中央領域の幅Wbを大きくしたフレキシブル基板40を用いることにより、電気基板90から記録素子基板10への電圧降下を抑えることができる。すなわち、高速記録が可能な長尺記録ヘッドを低コストに製造することが可能となる。
【0063】
なお、以上の実施形態では、エネルギ発生素子15としてヒータを用いた液体吐出ヘッドを例に説明してきたが、本発明においてエネルギ発生素子15はこれに限定されるものではない。例えば、電圧を印加することによってその体積を膨張するピエゾ素子等をエネルギ発生素子として用いることもできる。
【0064】
また、液体吐出ヘッド3より吐出する液体においても、必ずしも
図2に示した構成で循環させる必要は無い。例えば、液体吐出ヘッド3の上流側と下流側に2つのタンクを設け、一方のタンクから他方のタンクへインク流すことで、圧力室内のインクを流動させる形態とすることもできる。また、回収経路を備えず供給経路のみを備えた液体吐出ヘッドとすることもできる。
【0065】
いずれにしても、複数の液体吐出モジュールを並列させて構成される液体吐出ヘッドにおいて、複数の記録素子基板のそれぞれを、フレキシブル基板を介して複数の電気基板に接続する形態であれば、本発明の効果を有効に機能させることはできる。すなわち、フレキシブル基板において、電気基板と接続する側の端子近傍の幅よりもこれ以外の領域の幅を大きくすることにより電圧降下を抑制し、高速記録が可能な液体吐出ヘッドを実現することができる。