(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガラスは、酸素を除き、珪素を最も多く含み、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの少なくともいずれかを含んでいることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の多孔質セラミック体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について詳細に説明する。本実施形態の多孔質セラミック体は、例えば、吸着用部材、ガス分散板、成膜用治具またはフィルタとして用いられる。
【0014】
本実施形態の多孔質セラミック体とは、例えば、平均気孔径が20μm以上100μm以下であり、気孔率が25体積%以上50体積%以下である。平均気孔径については、JIS R 1655−2003に準拠した水銀圧入法により求めることができる。また、気孔率については、アルキメデス法によって求めることができる。
【0015】
本実施形態の多孔質セラミック体は、酸化アルミニウムを主成分とする複数の粒子がガラスを介して接合された多孔質セラミック体であって、少なくとも一部の表面の拡散反射光処理によるCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が58以上71以下であり、クロマティクネス指数a*が−1以上3以下であり、クロマティクネス指数b*が−1以上9以下であり、この表面の少なくとも一部に複数の暗色部が分散して位置している。なお、分散とは、表面を顕微鏡等で観察した場合に、1cm
2あたり約50個以上確認される状態をいう。 本実施形態の多孔質セラミック体は、明度指数L*が58以上71以下であり、クロマティクネス指数a*が−1以上3以下であり、クロマティクネス指数b*が−1以上9以下である。いうなれば全体として灰色がかった色調を帯びており、さらに、表面の少なくとも一部に複数の暗色部が分散して位置している。
【0016】
このような本実施形態の多孔質セラミック体は、灰色がかった色調を有しているとともに、周りにくらべて色味が著しく濃い(黒く見える)暗色部が点在している。このため、本実施形態の多孔質セラミック体を、例えばダイシング装置用の真空チャック等、吸着用部材に用いた場合など、ダイシング工程において接触する各種部材からの色移りが目立ちにくいため、見た目による交換を低減することができる。一方で、全体は灰色がかった色調であるので、例えば酸化物等の粉体からなる白色系のパーティクル、光沢がある金属粉等のパーティクル、炭化物等の黒色のパーティクルのいずれかが吸着用部材の表面に付着してもパーティクルを視認することができる。
【0017】
また、明度指数L*が58以上71以下であり、クロマティクネス指数a*が−1以上
3以下であり、クロマティクネス指数b*が−1以上9以下であるので、白みが強すぎる(光を反射し過ぎる)ことも、黒みが強すぎる(光を吸収し過ぎる)こともないため、センサ等を用いた位置検出等における検出精度の安定性が比較的高い。
【0018】
本実施形態の多孔質セラミック体は、明度指数L*の標準偏差が1以上2以下であってもよい。明度指数L*の標準偏差が1以上であると、表面のコントラストが視認されやすくなるので、黒い汚れとなる色移りがあっても汚れが目立ち難い。明度指数L*の標準偏差が2以下である場合、明度指数L*に影響を与える不可避不純物の含有量が比較的制御された状態となっており、これら不純物による周囲の汚染が抑制される。
【0019】
また、上記表面は、以下の式(1)で規定される色調感の差である色差(△E*ab)の平均値が1以上であってもよい。△E*ab=((△L*)
2+(△a*)
2+(△b*)
2))
1/2・・・(1)
色差(△E*ab)の平均値が1以上であると、表面の色調が不均一に視認されるので、様々な色味の色移りがあっても、この色移りによる汚れが目立ち難い。
【0020】
本実施形態では、暗色部は、1つ1つの円相当径が約100μm以上400μm以下であり、1cm
2あたり50個以上分散して位置している。そして暗色部とは、例えば、組成式がTiOx(1.5≦x<2)で示されるチタン酸化物を主成分とするものであってもよい。チタン酸化物は、アルカリ性の強い溶液に対する溶解度が低くなるので、研削液等、アルカリ性の強い溶液に繰り返し曝されても長期間に亘って用いることができる。
【0021】
なお、チタンの酸化物は種々の形態があるため、本明細書においては、TiO
2を二酸化チタンと表記し、TiO
2およびTiOx(1.5≦x<2)を含むものを酸化チタンと表記し、TiOx(1.5≦x<2)をチタン酸化物と表記している。
【0022】
また、本実施形態の多孔質セラミック体では、結晶構造がルチルである二酸化チタンを含有していてもよい。ルチルは高温型の結晶構造であることから、安定であり、変色しにくく、二酸化チタンの結晶構造がアナターゼである場合に比べて、高温に晒した場合も多孔質セラミック体の表面の色調も変色しにくくなる。二酸化チタンの結晶構造は、X線回折装置を用いて同定することができる。
【0023】
多孔質セラミック体における酸化アルミニウムを主成分とする複数の粒子とは、例えば、結晶形態として、一般的なα型の酸化アルミニウムからなる粒子が挙げられる。なお、α型以外にδ型およびδ*型のいずれかを含んでいてもよい。また、酸化アルミニウムを主成分とする複数の粒子は、アルミニウムおよび酸素以外の成分を含んでいてもよく、酸素を除く元素を酸化物に換算したとき、酸化アルミニウムの割合が50質量%を越えていればよい。
【0024】
本実施形態の多孔質セラミック体では、組成式がCaAl
2Si
2O
8およびCa
3Al
2O
6として示される複合酸化物の少なくともいずれかを含んでいてもよい。この複合酸化物は、いずれも融点が高いので、加熱および冷却を繰り返しても、多孔質セラミック体の機械的強度の低下が抑制されるため、長期間に亘って用いることができる。
【0025】
さらに、本実施形態の多孔質セラミック体では、組成式がAlFe
2O
4として示される複合酸化物を含んでいてもよい。
【0026】
多孔質セラミック体に含まれる粒子の結晶構造の同定は、CuKα線を用いたX線回折装置で測定することにより行うことができる。また、多孔質セラミック体に含まれる元素の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分
光分析装置(ICP)または蛍光X線分析装置(XRF)を用いて測定すればよい。また、それぞれの元素を酸化物に換算してもよい。
【0027】
多孔質セラミック体に含まれる個別の粒子やガラスを構成する成分については、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて粒子に電子線を照射し、このときに生じる元素固有の特性X線から知ることができる。
【0028】
また、本実施形態の多孔質セラミック体では、酸化アルミニウムを主成分とする粒子の形状は球状であってもよい。粒子の形状が球状であると、多孔質セラミック体における密度のばらつきが抑制されているため、多孔質セラミック体内の流体の通過における通気抵抗のばらつきを抑制することができる。
【0029】
ここで、球状とは全体的に丸みを帯びている形状を指し、厳密に球であることに限定されない。球状の粒子とは、例えば、切断した断面における粒子の円形度が0.7以上であることをいう。円形度は0.8以上であってもよい。
【0030】
粒子の円形度は、例えば、以下の方法で求めることができる。走査型電子顕微鏡を用いて上記断面を150倍の倍率で観察してCCDカメラで撮影する。次に、撮影した画像を用いて、画像解析ソフト「A像くん(ver2.52)」(登録商標、旭化成エンジニアリング(株)製、なお、以降に画像解析ソフト「A像くん」と記した場合、旭化成エンジニアリング(株)製の画像解析ソフトを示すものとする。)を用いて粒子解析という手法で求めればよい。この手法の設定条件としては、例えば、明度を明、小図形除去面積を0μm
2、雑音除去フィルタを有とし、粒子の円形度は、画像解析ソフト「A像くん」で規定する円形度2を用いればよい。画像の明暗を示す指標であるしきい値は、画面上に現れるマーカーが粒子の形状と一致するように、しきい値を調整すればよい。
【0031】
本実施形態の多孔質セラミック体では、酸化アルミニウムを主成分とする複数の粒子同士をガラスが接合している。ここでガラスは、酸素を除き、珪素を最も多く含み、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの少なくともいずれかを含んでいてもよい。珪素を骨格とするガラスは、比較的、化学的に安定である。また、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムは、ガラスの軟化点を調整するとともに、これらを含むガラスは、比較的、化学的に安定である。
【0032】
特に、ガラスがバリウムを含んでいるときには、ガラスに比べて熱伝導率が高い、アルミニウムと他の元素を含む複合酸化物が形成されやすくなる。そして、前述の複合酸化物が存在するときには、放熱性が上がるため、多孔質セラミック体の耐熱性が向上する。
【0033】
ガラスには、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくともいずれかを含んでいてもよい。これらの成分は、ガラスの耐酸性を向上させる傾向がある。
【0034】
本実施形態の多孔質セラミック体では、ガラスは、さらに亜鉛を含んでいてもよい。亜鉛を含むガラスは、酸性の強い溶液に対する溶解度が低くなる傾向があるため、繰り返し酸性の強い溶液に曝されても長期間に亘って用いることができる。
【0035】
本実施形態の多孔質セラミック体を構成する成分およびその含有量は、元素を酸化物換算した場合に、例えば、酸化アルミニウムが40質量%以上50質量%以下、酸化珪素が20質量%以上30質量%以下、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの少なくともいずれかの酸化物が10質量%以上20質量%以下、酸化チタンが2質量%以上7質量%以下、酸化亜鉛が5質量%以上10質量%以下、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくともいずれかの酸化物が1質量%以下であり、酸化第二鉄等の不可避不
純物を含んでいてもよい。なお、チタンの含有量は、チタンに結合している酸素が2未満の場合もあるが、全て二酸化チタンとして換算した値である。
【0036】
本実施形態の吸着用部材は、上述した本実施形態の多孔質セラミック体を用いてなる吸着用部材である。
【0037】
図1は、本実施形態の吸着用部材である真空チャック1の一例を示す、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
【0038】
図1に示す真空チャック1は、凹状部3aを有する、緻密質セラミック体からなる支持部3に、多孔質セラミック体からなり、板状体等の被吸着体(不図示)を吸着する載置面2aを備えた載置部2が接合または一体的に成形されており、支持部3は、載置部2との底面に向けて形成された吸引路3bと、底面に形成されて吸引路3bが開口した溝3cとを備えている。
【0039】
ここで、支持部3を構成する緻密質セラミック体は、酸化アルミニウムを主成分とする、相対密度が、例えば、98体積%以上のセラミック体である。
【0040】
載置部2は、吸着作用をなす気孔が連続した三次元網目構造を有する多孔質セラミック体からなる円板形状の板状体であって、その載置面2aは平面度を維持するために使用頻度に応じて研磨される。ウエハやガラス基板(いずれも不図示)等の被吸着体は、断面が円形状の吸引路3bと、この吸引路3bに対応するように同心円状に形成された溝3c(ただし、対応する同心円状の溝3cが形成できない支持部3の中央に位置する吸引路3bは除外する。)および載置部2の気孔を介して真空ポンプ等の吸引手段(不図示)により吸引することで、載置部2の載置面2aに吸着して保持されるようになっている。
【0041】
なお、支持部3は、円周方向に帯状部3dを備えており、帯状部3dには円周方向に沿って等間隔に取り付け穴3eが設置され、ボルト(不図示)等を介して、固定ベース(不図示)に連結、固定される。
【0042】
図1に示す吸着用部材の載置部2を構成する多孔質セラミック体は、被吸着体を載置する載置面2aに露出する粒子を有し、粒子の周囲をガラスが被覆してなることが好適である。
【0043】
このような構成であると、載置面2aを研磨しても載置面2aに露出する粒子の周囲からパーティクルが生じにくくなるので、被吸着体に損傷を与えにくくなる。
【0044】
次に、本実施形態の多孔質セラミック体の製造方法の一例について説明する。
【0045】
まず、酸化アルミニウムを主成分とし、酸化チタンを含有する粉体を加熱処理する。具体的には、平均粒径D
50が、例えば、120μm以上180μm以下の粉体を短時間で2000℃以上3200℃以下に昇温させて溶融させた後に、短時間で降温する。平均粒径D
50は、JIS R 1629:1997に準拠して求められる値である。
【0046】
粉体を構成する成分は、酸化アルミニウムおよび酸化チタン以外に、例えば、ナトリウム、鉄、珪素およびこれら各元素の酸化物等を含有していてもよい。
【0047】
次に、加熱処理された粉体と、ガラス粉体とを混合する。より詳しくは、ガラス粉体は、珪素を主成分とし、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの少なくともいずれかを含んでいてもよい。さらにジルコニウムおよびハフニウムを含んでいてもよい。ガラス粉体は、また、亜鉛を含んでいてもよい。
【0048】
なお、ガラス粉体に含まれる上述の元素は、酸素や他の元素と結合して、ガラスとなっている。
【0049】
次に、粉体およびカラス粉体との混合粉末を加圧成形法によって円板形状の成形体とする。
【0050】
次に、成形体を構成するガラス粉体を溶融して粉体同士を結合する。具体的には、上記ガラスの軟化点以上の温度、例えば、750℃以上940℃以下で、大気雰囲気中で熱処理することによってガラス粉体のみを溶融させた後、降温させてガラスを固化することで粉体同士が結合された多孔質セラミック体を得ることができる。この多孔質セラミック体の表面の色調を変化させるために、大気雰囲気中で、例えば、1200℃以上1400℃以下でさらに熱処理を施す。このような熱処理をすることで、粉体に含まれていた酸化チタンの酸素原子数が減少して、組成式がTiOx(1.5≦x<2)で示される比較的色みの暗いチタン酸化物となることで、表面の少なくとも一部に分散した暗色部が形成される。
【0051】
なお、粉体に含まれている酸化チタンは、具体的にはルチルを用いてもよい。多孔質セラミック体に占めるルチルの割合は、調合時に2〜7質量%とするとよい。
【0052】
次に、本実施形態の吸着用部材の製造方法の他の例について説明する。
【0053】
まず、凹状部を有する、緻密質セラミック体からなる支持部を準備する。
【0054】
予め加熱処理された粉体と、ガラス粉体とを混合して凹状部に充填する。
【0055】
凹状部に充填された粉体およびガラス粉体を加圧成形法によって円板形状の成形体とする。
【0056】
次に、成形体を構成するガラス粉体を溶融して粉体同士を結合する。具体的には、上記ガラスの軟化点以上の温度、例えば、750℃以上940℃以下で、大気雰囲気中で熱処理することによりガラス粉体のみを溶融させた後、降温させてガラスを固化することで粉体同士が結合された多孔質セラミック体を得ることができる。
【0057】
この熱処理によって、成形体は、多孔質セラミック体となり、この多孔質セラミック体は凹状部に固着される。
【0058】
さらに、多孔質セラミック体の表面の色調を変化させるために、大気雰囲気中あるいは窒素雰囲気中で、例えば、1200℃以上1400℃以下でさらに熱処理を施す。このような熱処理をすることで、粉体に含まれていた酸化チタンの酸素原子数が減少して、組成式がTiOx(1.5≦x<2)で示される比較的色みの暗いチタン酸化物となることで、分散した暗色部が形成される。
【0059】
そして、多孔質セラミック体および凹状部のそれぞれの上面を研削することにより、載置部が形成され、吸着用部材を得ることができる。本実施形態の製造方法を用いることで、色移りが目立ちにくい一方で、パーティクルの付着が適度に視認でき、かつ、センサ等を用いた位置検出精度の安定性が比較的高い多孔質セラミック体および吸着用部材を、少ない工程で簡単に製造することができる。
【0060】
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良、組合せ等が可能である。