【文献】
SAEKHO, Suit,Fast-kz Three-Dimensional Tailored Radiofrequency Pulse for Reduced B1 Inhomogeneity,Magnetic Resonance in Medicine,2006年,Vol. 55, Issue 4,pp. 719 - 724
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2算出部は、前記関係式における位相が零度よりも閾値以上ずれる場合、当該関係式の近似方法を変更する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記制御部は、第1のRFパルスの振幅を複数のRFパルスの振幅の総和で除算した値と、所望のフリップ角とを乗算し、当該第1のRFパルスによるフリップ角を算出する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を用いて、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置及びパルス設計方法を詳細に説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0010】
図1を用いて、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング(Magnetic resonance imaging:以下、MRIと呼ぶ)装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るMRI装置100の構成を示す図である。
【0011】
同図に示すように、本実施形態に係るMRI装置100は、静磁場磁石101と、傾斜磁場コイル103と、傾斜磁場電源105と、寝台107と、寝台制御回路109と、送信コイル113と、送信回路(送信部)115と、受信コイル117と、受信回路(受信部)119と、シーケンス制御回路(シーケンス制御部)121と、バス123と、インタフェース回路(入力部)125と、ディスプレイ(表示部)127と、記憶装置(記憶部)129と、処理回路(処理部)131とを備える。なお、MRI装置100は、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間において中空の円筒形状のシムコイルを有していてもよい。
【0012】
静磁場磁石101は、中空の円筒、形状に形成された磁石であり、内部の空間に一様な静磁場(B
0)を発生する。この静磁場磁石101としては、例えば、超伝導磁石等が使用される。なお、不図示のシムコイルが、静磁場磁石101の内側において中空の円筒形状に形成されてもよい。シムコイルは、不図示のシムコイル電源に接続され、シムコイル電源から供給される電源により、静磁場磁石101により発生された静磁場を均一化する。
【0013】
傾斜磁場コイル103は、中空の円筒形状に形成されたコイルであり、静磁場磁石101の内側に配置される。傾斜磁場コイル102は、互いに直交するX、Y、Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成される。Z軸方向は、静磁場と同じ方向であるとする。また、Y軸方向は、鉛直方向とし、X軸方向は、Z軸及びY軸に垂直な方向とする。傾斜磁場コイル102における3つのコイルは、傾斜磁場電源105から個別に電流供給を受けて、X、Y、Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生させる。
【0014】
ここで、傾斜磁場コイル102によって発生するX、Y、Z各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場、位相エンコード用傾斜磁場及び周波数エンコード用傾斜磁場(リードアウト傾斜磁場ともいう)にそれぞれ対応している。スライス選択用傾斜磁場は、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じて磁気共鳴(Magnetic resonance:以下、MRと呼ぶ)信号の位相を変化させるために利用される。周波数エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じてMR信号の周波数を変化させるために利用される。
【0015】
傾斜磁場電源105は、シーケンス制御回路121の制御により、傾斜磁場コイル103に電流を供給する電源装置である。
【0016】
寝台107は、被検体Qが載置される天板1071を備えた装置である。寝台107は、寝台制御回路109による制御のもと、被検体Qが載置された天板1071を、ボア111内へ挿入する。通常、寝台107は、長手方向が静磁場磁石101の中心軸と平行になるように、本MRI装置100が設置された検査室内に設置される。
【0017】
寝台制御回路109は、寝台107を制御する回路であり、例えばプロセッサにより実現される。寝台制御回路109は、インタフェース回路125を介した操作者の指示により寝台107を駆動し、天板1071を長手方向及び上下方向へ移動する。
【0018】
送信コイル113は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRF(Radio Frequency)コイルである。送信コイル113は、送信回路115から高周波パルス(RFパルス)の供給を受けて、高周波磁場に相当する送信RF波を発生する。送信コイルは、例えば、全身用コイル(whole body coil:WBコイル)である。WBコイルは、送受信コイルとして使用されてもよい。WBコイルと傾斜磁場コイル103との間には、これらのコイルを磁気的に分離するための円筒状のRFシールドが設置される。
【0019】
送信回路115は、シーケンス制御回路121の制御により、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信コイル113に供給する。具体的には、送信回路115は、発振部、位相選択部、周波数変換部、振幅変調部、高周波電力増幅部等を有する。発振部は、静磁場中における対象原子核に固有の共鳴周波数の高周波信号を発生する。位相選択部は、上記高周波信号の位相を選択する。周波数変換部は、位相選択部から出力された高周波信号の周波数を変換する。振幅変調部は、周波数変調部から出力された高周波信号の振幅を例えばsinc関数に従って変調する。高周波電力増幅部は、振幅変調部から出力された高周波信号を増幅する。これらの各部の動作の結果として、送信回路115は、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信コイル113に出力する。
【0020】
受信コイル117は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルであり、高周波磁場によって被検体Qから放射されるMR信号を受信する。受信コイル117は、受信したMR信号を受信回路119へ出力する。受信コイル117は、例えば、1以上、典型的には複数のコイルエレメントを有するコイルアレイである。なお、
図1において送信コイル113と受信コイル117とは別個のRFコイルとして記載されているが、送信コイル113と受信コイル117とは、一体化された送受信コイルとして実施されてもよい。送受信コイルは、例えば、被検体Qの撮像対象に対応し、頭部コイルのような局所的な送受信RFコイルである。
【0021】
受信回路119は、シーケンス制御回路121の制御により、受信コイル117から出力されたMR信号に基づいて、デジタル化された複素数データである磁気共鳴データ(以下、MRデータと呼ぶ)を生成する。具体的には、受信回路119は、受信コイル117から出力されたMR信号に対して、前置増幅、中間周波変換、位相検波、低周波増幅、フィルタリング等の各種信号処理を施した後、各種信号処理が施されたデータに対してアナログ/デジタル(A/D(Analog to Digital))変換を実行する。受信回路119は、AD変換されたデータに対して標本化(サンプリング)を実行する。これにより、受信回路119は、MRデータを生成する。受信回路119は、生成したMRデータを、シーケンス制御回路121に出力する。受信回路119により生成されたMRデータは、生データとも呼ばれる。
【0022】
シーケンス制御回路121は、処理回路131から出力されたパルスシーケンス情報に従って、傾斜磁場電源105、送信回路115及び受信回路119を制御し、被検体Qに対する撮像を行う。パルスシーケンス情報には、傾斜磁場電源105により傾斜磁場コイル103に供給される電流の大きさ、傾斜磁場電源105により電流が傾斜磁場コイル103に供給されるタイミング、送信回路115により送信コイル113に供給されるRFパルスの大きさ、送信回路115により送信コイル113にRFパルスが供給されるタイミング、受信回路119によりMR信号が受信されるタイミング等が定義される。傾斜磁場電源105により傾斜磁場コイル103に供給される電流の大きさは、パルスシーケンスに応じた傾斜磁場の波形に対応する。
【0023】
バス123は、インタフェース回路125と、ディスプレイ127と、記憶装置129と、処理回路131との間でデータが伝送する伝送路である。バス123には、ネットワーク等を介して、各種生体信号計測器、外部記憶装置等が適宜接続されてもよい。
【0024】
インタフェース回路125は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける回路である。インタフェース回路125は、例えば、マウス等のポインティングデバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスに関する回路である。なお、インタフェース回路125は、マウス、キーボード等の物理的な操作部品に関する回路に限定されない。例えば、本MRI装置100とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、受け取った電気信号を種々の回路へ出力するような電気信号の処理回路もインタフェース回路125の例に含まれる。
【0025】
ディスプレイ127は、処理回路131におけるシステム制御機能1311による制御のもとで、画像生成機能1315により再構成されたMR画像等の各種の情報を表示する。ディスプレイ127は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイ、モニタ等の表示デバイスである。
【0026】
記憶装置129は、データ配列機能1313を介してk空間に配列されたMRデータ、画像生成機能1315により生成された画像データ等を記憶する。記憶装置129は、各種撮像プロトコル、撮像プロトコルを規定する複数の撮像パラメータを含む撮像条件等を記憶する。記憶装置129は、処理回路131で実行される各種機能に対応するプログラムを記憶する。記憶装置129は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスクドライブ(hard disk drive)、ソリッドステートドライブ(solid state drive)、光ディスク等である。また、記憶装置129は、CD−ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。
【0027】
処理回路131は、ハードウェア資源として図示していないプロセッサ、ROMやRAM等のメモリ等を有し、本MRI装置100を総括的に制御する。処理回路131は、システム制御機能1311、データ配列機能1313、画像生成機能1315、逆特性算出機能1317、関数決定機能1319及びSpoke(スポーク)算出機能1321を有する。システム制御機能1311、データ配列機能1313、画像生成機能1315、逆特性算出機能1317、関数決定機能1319及びSpoke算出機能1321にて行われる各種機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶装置129へ記憶されている。処理回路131は、これら各種機能に対応するプログラムを記憶装置129から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読みだした状態の処理回路131は、
図1の処理回路131内に示された各機能を有する。
【0028】
なお、
図1においては単一の処理回路131にてこれら各種機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路131を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路が各プログラムを実行する場合であってもよいし、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。なお、処理回路131が有するシステム制御機能1311、データ配列機能1313、画像生成機能1315、逆特性算出機能1317、関数決定機能1319及びSpoke算出機能1321は、それぞれ制御部、データ配列部、画像生成部、第1算出部、フィッティング部及び第2算出部の一例である。
【0029】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。
【0030】
プロセッサは、記憶装置129に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶装置129にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは、回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、寝台制御回路109、送信回路115、受信回路119、シーケンス制御回路121等も同様に、上記プロセッサ等の電子回路により構成される。
【0031】
処理回路131は、システム制御機能1311により、MRI装置100を統括的に制御する。具体的には、処理回路131は、記憶装置129に記憶されているシステム制御プログラムを読み出してメモリ上に展開し、展開されたシステム制御プログラムに従って本MRI装置100の各回路を制御する。
【0032】
次に、本実施形態で想定するB
1感度マップの不均一性の改善手法について
図2の概念図を参照して説明する。
【0033】
一般にB
1分布の設計段階では、設計B
1分布(a)のように、撮像領域においてB
1分布が均一となるように設計される。しかし実際には、グラデーションで示すようなRFコイルの感度ムラや人体による磁場への影響(b)がある。よって、実際にRFコイルで取得される受信コイルの空間感度を示すB
1感度マップとしては、設計B
1分布(a)と磁場への各影響(b)とがピクセル毎に重畳され、不均一な取得B
1感度マップ(c)が取得されることになる。
【0034】
そこで、B
1分布に強度分布を重畳させ、不均一なB
1感度マップ(c)の逆特性に対応する設計B
1分布(d)を生成することができれば、設計B
1分布(d)と磁場への各影響(b)とが重畳されることで、磁場への影響(b)が相殺されうる。結果として、MRI装置は、均一な取得B
1感度マップ(e)を取得できる。
【0035】
しかし、B
1感度マップ(c)の逆特性は理論的に計算できるものの、B
1感度マップ(c)の逆特性に対応する設計B
1分布(d)を、実際に送信コイルから発生するRFパルスで実現することは難しい。
【0036】
そこで、本実施形態に係るMRI装置は、B
1感度マップの逆特性を表す多項式関数と、RFパルスとk空間との関係式(本実施形態ではSpokeの関係式)とを関連づけることにより、Spoke技術で使用する、RFパルスのパラメータ(k空間上の位置、振幅及び位相)を算出する。つまり、算出されたk空間上の位置、振幅及び位相に基づいてRFパルスが印加されることで、B
1感度マップの逆特性に高精度に近似した設計B
1分布を実際のRFパルスで生成することができ、MRI装置は、磁場への各影響が相殺された、均一なB
1感度マップを得ることができる。
【0037】
以下、本実施形態に係るMRI装置による撮像処理について、
図3のフローチャートを参照して説明する。
【0038】
ステップS301では、撮像条件が設定される。例えば、インタフェース回路125を介して入力された操作者の指示に基づき、処理回路131が、記憶装置129に記憶される撮像条件を読み出して撮像条件を設定すればよい。撮像条件としては、例えば、被検体の撮像部位、撮像時間及びコントラスト等が設定されればよい。
【0039】
ステップS302では、位置決めスキャンが実行される。位置決めスキャンは、本撮像の位置決めのために用いられる位置決め画像を生成するために実行される撮像プロトコルによるスキャンである。具体的には、シーケンス制御回路121は、位置決めスキャン用の撮像プロトコルに従って、撮像対象に対して位置決め撮像を実行する。処理回路131は、画像生成機能1315により、位置決め撮像によるMRデータに基づいて位置決め画像を生成する。
【0040】
ステップS303では、位置決めスキャンにより発生した位置決め画像上に撮像領域が設定される。具体的には、例えば、インタフェース回路125を介した操作者の指示により、本撮像における撮像位置が入力される。撮像位置の入力により撮像領域が決定される。
【0041】
ステップS304では、撮像領域に対してB
1感度マップを取得するためのプリスキャンが実行され、B
1感度マップが取得される。具体的には、シーケンス制御回路121は、B
1感度マップを取得するためのプリスキャン用のパルスシーケンスと撮像領域とに従って、傾斜磁場電源105及び各種回路を制御し、被検体に対して撮像を行う。処理回路131は、画像生成機能1315により、収集されたMRデータに基づいて、撮像領域におけるB
1感度マップを生成する。B
1感度マップは、2次元座標空間(xy平面)で表現され、各ピクセルにおいて画素値を有する。
【0042】
なお、同一の被検体に対して連続して撮像する等、B
1感度マップの変化が少ないと考えられる場合は、以前に1度撮像したB
1感度マップを用い、ステップS304が省略されてもよい。
【0043】
ステップS305では、処理回路131は、Spoke算出機能1321により、B
1感度マップに基づいてSpokeを決定し、Spokeに対応するRFパルスのk空間上での位置とRFパルスの振幅及び位相とを算出する。
【0044】
ステップS306では、k空間上での位置、振幅及び位相に基づいて、Spokeのトラジェクトリに沿った順序でRFパルスが印加される送信パルスが生成されて、本スキャンであるデータ収集シーケンスに組み込まれてデータ収集が実行される。具体的には、処理回路131が、制御機能1311により、Spokeを用いた本スキャン用の撮像プロトコルと撮像領域とに従い、後述するSpokeのトラジェクトリに沿って、RFパルスが印加されるようにシーケンス制御回路121を制御することで、本スキャンを実行する。なお、Spokeの決定方法及びSpokeに基づく印加方法の詳細については後述する。
【0045】
ステップS307では、本スキャンであるデータ収集シーケンスで生じたMR信号が、MRデータとして収集され、MR画像が生成される。具体的には、処理回路131は、画像生成機能1315により、収集されたMRデータに基づいてMR画像を生成する。以上で撮像処理が終了する。
ここで本スキャンであるデータ収集シーケンスは、FE(Field Echo)法(または、GRE(Gradient Echo)法とも呼ぶ)やSE(Spin Echo)法、FSE(Fast Spin Echo)法といったMRIで用いられる様々な撮像パルスシーケンスを示し、Spoke技術で設計された本送信パルスは、少なくともこのデータ収集シーケンスの一部の送信パルスとして用いられて、それより得られたデータより画像生成がなされることになる。
【0046】
次に、
図3のステップS305に示すSpokeの決定処理について
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
ステップS401では、処理回路131が、逆特性算出機能1317により、被検体Qを含めた撮像領域内のB
1感度マップの逆特性を取得する。B
1感度マップの逆特性は、例えば、B
1感度マップの各座標値(画素値)の逆数を計算することにより算出する等、一般的な手法により算出されればよい。
【0048】
ステップS402では、処理回路131が、関数決定機能1319により、B
1感度マップの逆特性にフィッティングする。ここでは2次元の多項式関数をフィッティングに用いる。「フィッティングする」とは、例えば、以下の式(1)に示される多項式関数Pの係数及び定数の値を決定することである。つまり、B
1感度マップの逆特性を多項式関数Pに当てはめ、B
1感度マップの逆特性を多項式関数Pで表現する。
【0050】
x,yは、B
1感度マップのxy平面におけるx方向及びy方向のピクセル位置を示す。
各係数(a,b,c,d,e)及び定数fの値は、B
1感度マップの逆特性における座標値を式(1)に代入して求めればよく、例えば、B
1感度マップがn×nピクセルで表されるとすると、以下の式(2)の行列を演算することにより決定すればよい。
【0052】
ここで、p
i(i=1,...,n)は、B
1感度マップの逆特性の各座標(x
i,y
i)の画素値である。
ステップS403では、処理回路131が、Spoke算出機能1321により、ステップS402においてフィッティングにより係数が決定された多項式関数PとSpokeの関係式(ここでは2次式)とを関連づけ、多項式関数Pを用いてSpokeの関係式を解析的に解く。
【0053】
Spokeは、コサイン関数の重ね合わせで表すことができ、k空間上のSpoke位置に関する
図5の表記に従うと、以下の式(3)のように2次式で置き換えることができる。
【0055】
よって、処理回路131が、Spoke算出機能1321により、多項式関数PとSpokeの関係式とを関連づけて、Spokeの関係式を解析的に解くことで、RFパルスに関するパラメータであるk空間上の位置(k
x,k
y)、振幅及び位相(A
n,φ
n)を一意に決定される。
【0056】
なお、処理回路131は、多項式関数PとSpokeの関係式とを解析的に解くことに限らず、近似的に解いてもよい。
【0057】
次に、Spoke技術を用いたRFパルスの印加方法の一例について、
図6及び
図7を参照して説明する。
【0058】
Spoke技術は、k空間上に分散配置されたスライス選択パルスによって生成可能なB
1分布により、B
1分布の不均一性を抑制する技術である。フリップ角が小さいとき、STA(Small Tip Angle)近似により、横磁化は、磁化ベクトルの大きさM
0を用いて線形近似できる。これにより、ブロッホ方程式を簡易化できるため、k空間と実空間とをフーリエ変換対として考えることができる。
【0059】
図6は、k空間上のSpokeのトラジェクトリを示す。Spoke技術では、k空間上にk
z軸に平行なインパルス(デルタ関数)の線(k
x−k
y平面で見れば点)があり、この線をSpokeとも呼ぶ。
図6の例では、5本のSpoke601があり、「開始」の位置から「終了」の位置まで、トラジェクトリ602に沿って各Spoke601が結ばれる(選択される)。トラジェクトリ602は、k
x軸、k
y軸及びk
z軸により表現されるk空間上のSpoke601の位置、及びSpoke601に対応するRFパルスの印加順序を示す軌跡である。
各Spoke601には、各Spoke601のk空間上の位置に対応するRFパルスのパラメータ(振幅及び位相)が対応付けられる。各Spoke601に対応する振幅及び位相を有するRFパルスは、サブパルスとして印加される。すなわち、複数個のサブパルス全体として1つの励起パルスとなるようにRFパルスが設計される。なお、Spoke技術を単にSpokeと呼ぶこともある。
【0060】
なお、
図6の例では、5本のSpokeを用いる例を示すが、これに限らず、オフセットに用いるk空間上の原点のSpokeを含む、3本以上のSpoke601であってもよい。
【0061】
なお、Spoke601の本数が多ければ、その分印加すべきサブパルスの数が増加し、励起パルスとなるまでに時間がかかるため、撮像時間を考慮して適宜Spoke601の本数が設定されればよい。
【0062】
次に、
図6に示すSpoke601のトラジェクトリ602にそった、送信パルスの一例を
図7に示す。
【0063】
図7の各グラフは、上から順に、RFパルスの振幅、z方向の傾斜磁場Gz、x方向の傾斜磁場Gx及びy方向の傾斜磁場Gyを示す。各グラフ共に、縦軸が強度、横軸が時間である。傾斜磁場Gzはスライス選択用傾斜磁場に、及び傾斜磁場Gxは周波数エンコード用傾斜磁場に、及び傾斜磁場Gyは位相エンコード用傾斜磁場にそれぞれ対応している。スライス選択用傾斜磁場は、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じてMR信号の位相を変化させるために利用される。周波数エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じてMR信号の周波数を変化させるために利用される。
【0064】
Spoke601のトラジェクトリ602に沿って、各Spokeに対応したRFパルスを印加できるように傾斜磁場Gx、Gy及びGzを掛けつつ、各RFパルスをサブパルスとして印加されればよい。なお、以下では、例えばシステム制御機能1311の制御に基づいて、シーケンス制御回路121がRFパルスの印加を制御すればよい。
【0065】
具体的に、Spokeを用いたパルスシーケンスによるRFパルスの印加について、
図6及び
図7の例を参照して説明する。まず、「開始」の位置から1つ目のSpokeについて、傾斜磁場Gzを掛けながら、1つ目のSpokeに対応する位相及び振幅でRFパルスが1つ目のサブパルスとして印加される。
【0066】
1つ目のサブパルスが印加された後、正の値の傾斜磁場Gxをかける。その後、負の値の傾斜磁場Gzを掛けながら、2つ目のSpokeに対応する位相及び振幅でRFパルスが2つ目のサブパルスとして印加される。これにより、本実施形態に係るMRI装置は、
図6のSpoke601のトラジェクトリ602に沿ってRFパルスを印加することができる。
【0067】
このように、傾斜磁場Gx及び傾斜磁場Gyを掛けてトラジェクトリに沿ってk空間を移動しつつ、傾斜磁場Gzを掛けながら3つ目及び4つ目のSpokeに対応するRFパルスを印加する。最後に、k空間のk
x−k
y平面の原点に戻り、5つ目のSpokeに対応するRFパルスを印加すればよい。
【0068】
なお、
図7では、傾斜磁場Gzにおいてリワインダを掛けることで、3次元k空間の原点に移動するように設定しているが、必須ではない。GzのリワインダはGzの1パルスの面積の約50%になる。Gx,Gyも図に記載されていないが、印加されたパルス面積の総和が0になるように、Gzのリワインダと同じ時間上に、リワインダパルスを挿入してもよい。
なお、実空間における撮像領域の座標をピクセルで表す場合、k空間の座標の単位は「1/ピクセル」となる。ここで、例えば、処理回路131のシステム制御機能1311又はSpoke算出機能1321が、ピクセルとcmとの変換式を用いて、k空間の座標の単位が「1/cm=cm
−1」となるように変換してもよい。
【0069】
例えば、実空間において128×128ピクセルの画像であれば、k空間では1ピクセルが「1/128」である。ここで実空間において128×128ピクセルが10×10cmである場合、変換式として「cm/ピクセル」の比率を求めることにより、実空間では、1ピクセルが10/128cmに変換できるので、k空間の単位を「1/cm」に変換、すなわちk空間の単位を(128/10)cm
−1と変換できる。これにより、変換後の値を用いれば、例えば傾斜磁場G
x、G
y及びG
zを掛ける際に値をそのまま利用することができるといった実益がある。
【0070】
また、算出される振幅は、各サブパルスの振幅の相対量を表す指標であるため、無次元の値である。よって、各サブパルスのフリップ角を求める場合は、例えば処理回路131が、システム制御機能1311により、所望のフリップ角×(RFサブパルスの振幅/RFサブパルスの振幅の総和)を計算すればよい。例えば、5本のSpokeにそれぞれ対応する第1のRFパルスから第5のRFパルスを印加することにより、フリップ角を90度とする場合を想定する。第1のRFパルスのフリップ角が知りたい場合は、処理回路131が、システム制御機能1311により、第1のRFパルスから第5のRFパルスまでの振幅をそれぞれA1〜A5とすると、90度×(A1/(A1+A2+A3+A4+A5))を計算すればよい。
【0071】
なお、フィッティングに用いる多項式関数は、撮像領域において得られるB
1感度マップの状態に応じて使い分けてもよい。多項式関数の使い分けの一例について、
図8A及び
図8Bを参照して説明する。
【0072】
図8Aは、頭部のB
1感度マップの一例を示す。B
1感度マップのxy平面において中心部分がB
1強度が強く、中心から外側向かって同心円状に減少していく強度分布となっており、原点中心に対称性を有する。
【0073】
このような対称性を有するB
1感度マップの場合、k空間のk
x軸上、k
y軸上に位置するSpokeにより、B
1感度マップのムラを対称に補正することができる。よって、関連づけられる多項式関数としては、x
2,y
2,x,y及び定数の項を有する多項式関数(P=ax
2+by
2+cx+dy+e)をフィッティングに用いればよい。
【0074】
一方、
図8Bは、腹部のB
1感度マップの一例を示す。このように、原点から非対称の構成である場合、複雑な補正が必要であり、k空間のk
x軸上、k
y軸上ではない位置にSpokeが位置する必要がある。よって、「xy」の項を有する上述の式(1)の多項式関数をフィッティングに用いて計算すればよい。
【0075】
すなわち、撮像領域のB
1感度マップが対称であるか非対称であるかに応じて、フィッティングに用いる多項式関数を使い分け、対称性がある場合は、項数を減らすことができるので、多項式関数とSpokeの関係式との関連づけが簡易となる。よって、当該関連づけからk空間上の位置、振幅及び位相を決定するための解析が簡易化できる。
【0076】
具体的な処理としては、例えば、記憶装置129等に上述した2種類の多項式関数に関するアルゴリズムを格納する。処理回路131のシステム制御機能1311が、撮像領域のB
1感度マップが対称であるか非対称であるかを判定する。B
1感度マップが対称である場合、処理回路131の関数決定機能1319が、多項式関数(P=ax
2+by
2+cx+dy+e)を用いて、B
1感度マップの逆特性に対してフィッティングすればよい。一方、B
1感度マップが非対称である場合、処理回路131の関数決定機能1319が、多項式関数(P=ax
2+by
2+cx+dy+exy+f)を用いて、B
1感度マップの逆特性に対してフィッティングすればよい。
【0077】
また、用いられる多項式関数の次元や項数に合わせ、処理回路131のSpoke算出機能1321が、多項式関数に関連づけるSpokeの関係式を使い分ける。
【0078】
なお、B
1感度マップが対称であるときに用いる多項式関数(P=ax
2+by
2+cx+dy+e)でフィッティングする場合、例えば、処理回路131のシステム制御機能1311が、多項式関数の2次関数が上に凸となる場合と、下に凸となる場合とを判定してもよい。2次関数が下に凸となる場合は、処理回路131のSpoke算出機能1321が、Spokeの関係式において、位相をπずらしたものを用いる。これにより、フィッティングに用いた多項式関数とSpokeの関係式とを解析において最適に関係づけることができる。
【0079】
また、上述の式(1)に示す多項式関数Pを用いて、多項式関数PとSpokeの関係式とを解析的に解く場合、振幅がマイナス(負)になる等、非現実的な数値が解として出てくる場合も考えられる。よって、処理回路131のSpoke算出機能1321が、解として現実的な値が得られるように、原点を通る中心のSpokeの振幅が負にならないようk空間座標の条件式を設定してもよい。
【0080】
さらに、上述の式(1)に示す多項式関数Pを用いる場合、判別式を用いて、2次曲線(双曲線、楕円、放物線等)の性質を利用してもよい。例えば、処理回路131のSpoke算出機能1321が、2次曲線の焦点や軸を基準として、k空間上の位置及び位相を設定してもよい。
【0081】
また、上述の式(1)に示す多項式関数Pを用いる際、処理回路131のSpoke算出機能1321が、Spokeの関係式における位相が零度よりも閾値以上ずれる場合、関係式を解析的に解く場合に、Spokeの関係式で用いる近似方法を変更してもよい。
【0082】
例えば、θが零度から閾値未満のずれである、例えば零度に近づけたい場合は、「cosθ=1−θ
2/2」と近似されればよく、θが零度から閾値以上のずれである、例えばπに近づけたい場合は、「cosθ=−1+(θ−π)
2/2」と近似されればよい。
【0083】
次に、Spokeの適用前後におけるB
1感度マップの一例について
図9A及び
図9Bを参照して説明する。
【0084】
図9Aは、Spoke適用前の腹部のB
1感度マップを示す。
図9Bは、Spoke適用後の腹部のB
1感度マップを示す。
図9A及び
図9B共に、縦軸はy方向のピクセル値、横軸はx方向のピクセル値である。また、磁場の強度分布をグラデーションで示す。
【0085】
図9Aに示すように、Spoke適用前のB
1感度マップには、磁場の強度にムラが生じているため、磁場分布が不均一である。
【0086】
一方、
図9Bに示すように、Spoke適用後のB
1感度マップには、磁場の強度にムラはなく、均一となる。
【0087】
以上に示した本実施形態によれば、B
1感度マップの逆特性を多項式関数でフィッティングし、当該多項式関数とSpokeの関係式とを関連づけて解析的に解く。これにより、Spoke技術で使用する、RFパルスのk空間上の位置、振幅及び位相を一意に算出できる。よって、算出されたk空間上の位置、振幅及び位相に基づいたRFパルスを用いることで、RFパルスにより生成されるB
1分布を、B
1感度マップの逆特性に高精度に近づけることができる。結果として、B
1感度マップの不均一性を簡易かつ高精度に改善することができる。
【0088】
なお、本実施形態では、取得したB
1感度マップの逆特性に応じてSpokeを決定しているが、被検体の年齢、性別、体重、撮像部位等の撮像条件に対応して、適用すべきSpokeが予め決定されてもよい。
【0089】
例えば、撮像条件と適用すべきSpokeの関係式との対応関係を予めテーブルとして用意し、当該テーブルを、例えば記憶装置129等に格納する。撮像領域が決定された場合、処理回路131のSpoke算出機能1321が、被検体の撮像条件に基づいて、テーブルを参照して適用すべきSpokeの関係式を決定する。決定されたSpokeのトラジェクトリに沿ってRFパルスが印加され、本スキャンが実行されればよい。
【0090】
これにより、撮像の都度Spokeを決定する処理を行うことなく、Spokeの生成処理に係る時間を短縮できる。
【0091】
また、上述のフィッティングに用いる多項式関数及びSpokeの関係式とは、共に2次元の関数で対応付けを行っているが、これに限らず、多項式関数とSpokeの関係式との次元数が一致していれば、より高次元の関数を用いてもよい。例えば、Spokeの関係式は、コサイン関数のテイラー展開でより高次元の関数、具体的には(2n−1)次元の関数として表せる。よって、フィッティングに用いる多項式関数とSpokeの関係式とを2次元よりも高次元の多項式とすることで、2次元の場合と同様の処理が可能でありながら、フィッティング関数によるB1感度マップの再現性をより高めることができる。結果として、より高精度にB1感度マップの不均一性を改善できる。
【0092】
上述した実施形態の中で説明した処理回路131の各機能は、ソフトウェアであるプログラムに基づいて実行されることが可能である。処理回路131の各機能は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク(フレキシブルディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD±R、DVD±RW等)、半導体メモリ、又はこれに類する記録媒体に記録される。コンピュータ又は組み込みシステムが読み取り可能な記憶媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であってもよい。このとき、コンピュータは、この記録媒体からプログラムを読み込み、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させれば、上述した処理回路131の各機能を実現することができる。また、記憶媒体は、コンピュータあるいは組み込みシステムと独立した媒体に限らず、LAN(Local Area Network)やインターネット等により伝達されたプログラムをダウンロードして記憶又は一時記憶した記憶媒体も含まれる。また、記憶媒体は1つに限られず、複数の媒体から、処理回路131の各機能が実行される場合も、実施形態における記憶媒体に含まれ、媒体の構成は何れの構成であってもよい。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。