特許第6976807号(P6976807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976807
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】輸液装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/44 20060101AFI20211125BHJP
【FI】
   A61M5/44 510
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-202668(P2017-202668)
(22)【出願日】2017年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-72421(P2019-72421A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000138037
【氏名又は名称】株式会社メテク
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】星野 正格
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 憲昭
【審査官】 磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−536846(JP,A)
【文献】 特開2002−113095(JP,A)
【文献】 特開2015−157041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/14−1/32
A61M 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液用の液体を送液する輸液装置であって、
前記液体が流れる流路と、
前記流路の液体の温度を検出するための温度センサと、
前記流路の所定区間において、前記温度センサの検出結果に基づいて前記流路の液体の温度を調整する温度調整部と、
前記温度センサと前記流路の間に設けられた押さえ平板と、
を備え、
前記温度センサは、前記流路の所定区間の入口部もしくはそれより上流側に設けられ、熱時定数3sec以下の応答性を有し、
前記温度調整部は、表面に前記流路の所定区間が配置され、当該流路の所定区間の液体を加熱する熱板を有し、
前記押さえ平板は、前記流路の所定区間を前記熱板側に押圧し当該流路の所定区間に密着し、
前記温度センサは、前記押さえ平板を介して、前記押さえ平板と密着した前記流路の所定区間の液体の温度を検出する、輸液装置。
【請求項2】
前記温度センサは、前記流路の所定区間の出口部もしくはそれより下流側にも設けられている、請求項1に記載の輸液装置。
【請求項3】
前記温度センサは、赤外線センサである、請求項1又は2に記載の輸液装置。
【請求項4】
前記温度センサは、センサ受光面が前記流路に対し平行になるように配置されている、請求項3に記載の輸液装置。
【請求項5】
前記温度センサは、前記流路の液体の層が1mm以上存在する位置に取り付けられている、請求項3又は4に記載の輸液装置。
【請求項6】
前記温度センサを保持するセンサ保持体をさらに備え、
前記センサ保持体は、先端側に前記押さえ平板を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の輸液装置。
【請求項7】
前記熱板及び流路は、一対の断熱板の間に挟まれており、
前記流路側にある断熱板には、貫通孔が設けられ、
前記センサ保持体は、前記貫通孔に嵌め込まれている、請求項6に記載の輸液装置。
【請求項8】
前記流路の所定区間は、軟質チューブである、請求項1〜7のいずれかに記載の輸液装置。
【請求項9】
前記流路の所定区間は、流路方向に直角の断面が扁平円状である、請求項1〜8のいずれかに記載の輸液装置。
【請求項10】
前記流路の所定区間を面内に備えた軟質バッグをさらに備えた、請求項8又は9に記載の輸液装置。
【請求項11】
前記流路の液体を送液するポンプを、さらに備え、
前記流路の所定区間の入口部は、前記流路の所定区間の出口部よりも低い位置に配置されている、請求項1〜10のいずれかに記載の輸液装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病院では患者に輸液する血液製剤の機能を維持するため、血液製剤を冷蔵保管している。血液製剤を患者に輸液する際には、患者の負担を軽減するため、血液製剤を適切な温度まで加温して輸液する。また大量または危機的出血が発生した緊急時には、血液製剤を短時間で大量に輸液する必要がある。よって、この際には、低温の大量の血液製剤を患者体温まで急速に加温して患者に輸液する必要がある。
【0003】
上述の輸液には、血液製剤を加温しながら患者に輸液する輸液装置が知られている。この輸液装置は、貯留バッグの血液製剤をポンプで液体流路に流し、液体流路の所定区間のヒータで血液製剤を加温して、患者に送り込む構成を有している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−073848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の輸液装置において、患者に大量の血液製剤を短時間で輸液しようとする場合、例えば4℃程度の低温の血液製剤を大流量で流しながら、ヒータのある限られた加温領域で患者の体温の37℃程度まで30℃以上一気に加温する必要がある。この場合、ヒータによる血液製剤の温度制御が難しくなり、加温後の血液製剤の温度がばらつきやすくなる。患者に投入される血液製剤の温度がばらつくと、患者の負担になり好ましくない。特に血液製剤は、42℃以上の高温になると形態学的・機能的に異常または溶血となるため、血液製剤の温度には絶対的な上限がある。
【0006】
本出願はかかる点に鑑みてなされたものであり、血液製剤などの輸液用の液体を高精度に安定的に温度制御可能な輸液装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、熱時定数3sec以下の応答性を有する温度センサを、温度調節部のある液体流路の入口部もしくはそれより上流側に設けることにより、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)輸液用の液体を送液する輸液装置であって、前記液体が流れる流路と、前記流路の液体の温度を検出するための温度センサと、前記流路の所定区間において、前記温度センサの検出結果に基づいて前記流路の液体の温度を調整する温度調整部と、を備え、前記温度センサは、前記流路の所定区間の入口部もしくはそれより上流側に設けられ、熱時定数3sec以下の応答性を有する、輸液装置。
(2)前記温度センサは、前記流路の所定区間の出口部もしくはそれより下流側にも設けられている、(1)に記載の輸液装置。
(3)前記温度センサは、赤外線センサである、(1)又は(2)に記載の輸液装置。
(4)前記温度センサは、センサ受光面が前記流路に対し平行になるように配置されている、(3)に記載の輸液装置。
(5)前記温度センサは、前記流路の液体の層が1mm以上存在する位置に取り付けられている、(3)又は(4)に記載の輸液装置。
(6)前記温度調整部は、表面に前記流路の所定区間が配置され、当該流路の所定区間の液体を加熱する熱板を有し、前記温度センサは、前記熱板表面の前記流路に対向配置されている、(3)〜(5)のいずれかに記載の輸液装置。
(7)前記温度センサと前記流路の間に設けられ、赤外線を透過する押さえ平板を、さらに備え、前記押さえ平板は、前記流路に密着している、(6)に記載の輸液装置。
(8)前記温度センサを保持するセンサ保持体をさらに備え、前記センサ保持体は、先端側に前記押さえ平板を有する、(7)に記載の輸液装置。
(9)前記熱板及び流路は、一対の断熱板の間に挟まれており、前記流路側にある断熱板には、貫通孔が設けられ、前記センサ保持体は、前記貫通孔に嵌め込まれている、(8)に記載の輸液装置。
(10)前記流路の所定区間は、軟質チューブである、(7)〜(9)のいずれかに記載の輸液装置。
(11)前記流路の所定区間は、流路方向に直角の断面が扁平円状である、(7)〜(10)のいずれかに記載の輸液装置。
(12)前記流路の所定区間を面内に備えた軟質バッグをさらに備えた、(10)又は(11)に記載の輸液装置。
(13)前記流路の液体を送液するポンプを、さらに備え、前記流路の所定区間の入口部は、前記流路の所定区間の出口部よりも低い位置に配置されている、(7)〜(12)のいずれかに記載の輸液装置。
(14)前記温度センサは、センサ受光面が前記流路の通液方向の正面に位置するように配置されている、(3)に記載の輸液装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、輸液用の液体を高精度に安定的に温度制御可能な輸液装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】輸液装置の構成の概略を示す模式図である。
図2】加温装置の構成の概略を示す斜視図である。
図3】加温装置の構成の概略を示す部分分解図である。
図4】温度センサの取り付け構造を示す加温装置の断面図である。
図5】センサ保持体の構成を示す説明図である。
図6】センサ保持体の構成を示す説明図である。
図7】温度センサの他の取り付け位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、輸液装置1の構成の一例を示す。図1に示すように輸液装置1は、輸液用の液体としての血液製剤を収容する液体容器10と、血液製剤を加温する加温装置11と、血液製剤中の気泡を除去する気泡除去チャンバ12と、液体容器10と加温装置11を接続する第1の流路13と、加温装置11と気泡除去チャンバ12を接続する第2の流路14と、気泡除去チャンバ12と患者に輸液を行う輸液部15を接続する第3の流路16と、気泡除去チャンバ12と液体容器10を接続する第4の流路17と、第1の流路13に設けられた第1のポンプ18と、第3の流路16に設けられた第2のポンプ19と、制御装置20等を備えている。
【0013】
液体容器10は、例えば血液製剤の供給源となる液体バッグ30に接続されている。液体容器10には、第1の流路13に流出する血液製剤の不要成分を除去するフィルター31が設けられている。液体容器10は、例えば樹脂製であり、例えば0.5L以上の容量を有している。
【0014】
気泡除去チャンバ12の上部に第2の流路14と第4の流路17が接続され、気泡除去チャンバ12の下部に第3の流路16が接続されている。
【0015】
第1の流路13、第2の流路14、第3の流路16及び第4の流路17は、軟質の可撓性のあるチューブにより構成されている。
【0016】
第1のポンプ18及び第2のポンプ19には、例えばチューブポンプが用いられる。第1のポンプ18及び第2のポンプ19は、例えば100mL/min以上、好ましくは
250mL/min以上、さらに好ましくは500mL/min以上の送液能力を有する。第1のポンプ18及び第2のポンプ19の動作は、制御装置20により制御される。
【0017】
加温装置11は、全体が例えば図2に示すように方形で厚みのある平盤形状を有している。加温装置11は、図3に示すように血液製剤が流れる加温流路40を有する軟質バッグとしての加温バッグ41と、加温流路40に接触して給熱する熱板42と、熱板42と加温バッグ41を両側から挟む一対の断熱板43、44を備えている。
【0018】
加温バッグ41は、軟質で可撓性のある樹脂製であり、方形状に形成されている。加温流路40は、例えば軟質の可撓性のあるチューブ状に形成され、加温バッグ41面内で蛇行するように設けられている。加温流路40は、複数の往復路を上下に並べて繋げた形状を有している。加温流路40は、流路方向に対し直角の断面が扁平の円形状になるように形成されている。なお、加温流路40のチューブの壁は、0.4mm以下、好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下の厚さを有している。
【0019】
加温流路40の上流側は第1の流路13に接続され、加温流路40の下流側は第2の流路14に接続されている。本実施の形態において、血液製剤の送液する流路は、加温流路40、第1の流路13、第2の流路14、第3の流路16及び第4の流路17で構成され、加温流路40は、その流路の所定区間を構成している。
【0020】
加温流路40の入口部(上流部)50は、加温バッグ41の下部に位置し、加温流路40の出口部(下流部)51は、加温バッグ41の上部に位置している。加温流路40の入口部50と出口部51は、例えば加温バッグ41の同一方向の側部に設けられている。
【0021】
熱板42は、加温バッグ41よりも大きい方形状に形成されている。熱板42は、熱伝導率の高い材質、例えばアルミニウム、銅、ステンレスにより形成されている。熱板42の一方の第1の面42aには、加温バッグ41が設けられている。熱板42の他方の第2の面42bには、給電により発熱する所定パターンのヒータ60が配置されている。ヒータ60のパターンは、例えば一続きの電熱線であり、加温流路40に対応する位置にジグザグ状に形成されている。ヒータ60は、例えば発熱量(ヒータ電力)が、加温流路40の上流側から下流側に向かって段階的に減少し、なおかつ各段階(領域)における発熱量の減少割合(傾き)が、上流側から下流側に向かって小さくなるように配置されている。
【0022】
断熱板43、44は、熱板42と同程度の大きさで熱板42よりも厚い方形状に形成されている。断熱板43、44は、熱伝導率の低い材質、例えば例えば樹脂、無機質断熱材、有機質と無機質の複合板により形成されている。第1の断熱板43が熱板42の加温バッグ41側に配置され、第2の断熱板44が熱板42のヒータ60側に配置されている。
【0023】
第1の断熱板43、加温バッグ41、熱板42及び第2の断熱板44は、この順に水平方向に積層され、互いに一体的に固定されている。なお、本実施の形態においては、熱板42、ヒータ60及び断熱板43、44により温度調整部が構成されている。
【0024】
図1図2及び図4に示すように加温流路40の入口部50に対応する位置には、第1の温度センサ80が設けられ、加温流路40の出口部51に対応する位置には、第2の温度センサ81が設けられている。温度センサ80、81は、図4に示すように赤外線センサとしてのサーモパイルセンサであり、熱時定数(ゼロ負荷の状態でセンサ周囲温度を急変させたとき、センサの素子の温度が、最初の温度と最終到達温度との温度差の63.2%変化するのに要する時間を表す定数)3sec以下、好ましくは1sec以下、より好ましくは0.5sec以下の応答性を有している。熱時定数は、3sec以下であれば、ヒータ制御におけるオーバシュートを防ぐ観点で好ましく、1sec以下であれば、外乱ノイズ除去例えば制御装置20でノイズ除去する際に、移動平均にて平滑化する際はサンプリング数を多くとれる等の観点で好ましく、0.5sec以下であれば、更にサンプリング数がより多くとれるのでノイズ除去の観点でより好ましい。
【0025】
温度センサ80、81は、赤外線を受光する先端の受光部90と、受光部90から後方に延びる端子部91と、端子部91に電気的に接続された方形の電子基板92等を有している。温度センサ80、81は、電子基板92を介してセンサ保持体100に保持されている。
【0026】
センサ保持体100は、図4図5及び図6に示すように先端側の端面が閉口し後端側の端面が開口した略円筒形状を有している。センサ保持体100は、閉口した先端側の端面に円盤状の押さえ平板110を有している。押さえ平板110は、温度センサ80、81の受光部90の先端側を覆っている。押さえ平板110は、赤外線を透過する材質、例えば 結晶性樹脂(高密度ポリエチレン、ポリアセタール等)、非結晶性樹脂(アクリル樹脂、ポリカーボネード等)により形成されている。押さえ平板110の径は、受光部90よりも大きく、加温流路40の流路幅よりも小さい。押さえ平板110の厚みは、0.3mm〜1mm程度が好ましい。なお、押さえ平板110の厚みに依存して、赤外線の透過率等が変わり、受光するエネルギーが変わるが、その分は、制御装置20で補正してもよい。
【0027】
センサ保持体100は、押さえ平板110を先端に備え、その押さえ平板110と同径の側壁を有する円筒状の第1の本体部111と、第1の本体部111の後方側で第1の本体部111よりも径の大きい円筒状の第2の本体部112を有している。第2の本体部112は、後端側に開口部を有し、この開口部に電子基板92が取り付けられている。電子基板92は、第2の本体部112の開口部よりも大きく、第2の本体部112の左右に突出している。電子基板92は、締結部材113により第2の本体部112に固定されている。かかる構成により、温度センサ80、81の受光部90の受光面と押さえ平板110とが平行に維持され、互いの距離が一定に維持されている。
【0028】
一方、図4に示す断熱板43の加温流路40の入口部50に対応する位置と出口部51に対応する位置には、断熱板43を厚み方向に貫通する貫通孔130が形成されている。貫通孔130には、センサ保持体100と温度センサ80、81が嵌め込まれている。センサ保持体100及び温度センサ80、81は、電子基板92に挿通する締結部材131により断熱板43に対し固定されている。センサ保持体100の押さえ平板110は、加温流路40の流路幅方向の中央部を押圧し密着している。こうして温度センサ80、81の受光部90は、押さえ平板110を介して加温流路40に対し対向配置される。温度センサ80、81の受光部90と熱板42とは、温度測定対象物が視野角αに収まる、1mm以上の距離Lに離されている。また、温度センサ80、81は、加温流路40の血液製剤の層が1mm以上存在する位置に取り付けられている。温度センサ80、81による加温流路40の入口部50と出口部51の血液製剤の温度の検出結果は、制御装置20に出力される。
【0029】
制御装置20は、例えば汎用コンピュータであり、メモリに記録されたプログラムをCPUで実行することにより、加温装置11、第1のポンプ18、第2のポンプ19等を制御して、輸液装置1における輸液プロセスを実行できる。例えば制御装置20は、温度センサ80、81の検出結果に基づいて、ヒータ60の発熱量を制御して、加温流路40の出口部51から流出する血液製剤の温度を目標温度に制御できる。
【0030】
例えば制御装置20は、加温流路40の入口部50の第1の温度センサ80により検出された温度に基づいて、ヒータ60の発熱量を制御し、出口部51における血液製剤の温度をフィードフォワード制御する。また、制御装置20は、出口部51の第2の温度センサ81により検出された温度に基づいて、出口部51における血液製剤の温度をフィードバック制御する。このように制御装置20は、フィードフォワード制御とフィードバック制御を併用して加温流路40の血液製剤の温度を制御する。
【0031】
次に、以上のように構成された輸液装置1の動作について説明する。先ず、図1に示すように、例えば4℃程度の低温の血液製剤が貯留された液体バッグ30が液体容器10に接続され、液体バッグ30の血液製剤が液体容器10内に貯留される。その後第1のポンプ18と第2のポンプ19が作動し、液体容器10の血液製剤が第1の流路13を通って加温装置11に送られる。加温装置11では、血液製剤が加温流路40を通過し、その際にヒータ60を熱源とする熱板42により血液製剤が、体温に近い37℃程度の目標温度まで加温される。加温流路40を通過する血液製剤の流量は、例えば0.2mL/min〜1200mL/min程度に調整される。
【0032】
この際温度センサ80、81が作動し、加温流路40の入口部50と出口部51の血液製剤の温度が検出され、制御装置20に出力される。図4に示すように温度センサ80、81は、加温流路40のそれぞれ入口部50、出口部51を流れる血液製剤から放射される赤外線を受光し、温度を検出する。
【0033】
制御装置20は、温度センサ80、81の検出温度に基づいて、ヒータ60の発熱量を調整し、加温流路40の出口部51における血液製剤の温度が目標温度になるように制御する。例えば制御装置20は、加温流路40の入口部50における第1の温度センサ80の検出温度に基づいて、出口部51における血液製剤の温度をフィードフォワード制御し、出口部51における第2の温度センサ81の検出温度に基づいて、出口部51における血液製剤の温度をフィードバック制御する。
【0034】
加温装置11により目標温度まで加温された血液製剤は、第2の流路14を通過し、気泡除去チャンバ12に流入する。その後、血液製剤は、第2のポンプ19により第3の流路16を通過し、輸液部15から患者に輸液される。患者への輸液量は、第2のポンプ19の液送流量を調整することにより制御される。
【0035】
加温装置11において血液製剤中に生じた気泡は、気泡除去チャンバ12で捕捉される。気泡除去チャンバ12内の一部の血液製剤と気体は、第4の流路17を通って液体容器10に戻される。この第4の流路17を通過する気体を含む流体の流量は、第1のポンプ18の送液流量を調整することにより制御される。例えば第1のポンプ18の送液流量を増やすことにより、気泡除去チャンバ12から第4の流路17に流出する流体の流量が増え、第1のポンプ18の送液流量を減らすことにより、気泡除去チャンバ12から第4の流路17に流出する液体の流量が減る。
【0036】
本実施の形態によれば、加温装置11の加温流路40の入口部50に、熱時定数3sec以下の応答性を有する温度センサ80を設けたので、加温流路40の入口部50において血液製剤の温度を遅滞なく検出することができ、それに基づいて加温流路40の出口部51における血液製剤の温度を精度よく安定的に制御することができる。よって、輸液装置1において低温の血液製剤を大流量で流しながら、加温流路40で一気に加温する場合にも高精度の温度制御が可能となる。特に、血液製剤の輸液開始直後から温度の精度の高いフィードフォワード制御が可能であり、血液製剤の温度を上限温度以上にオーバーシュートさせることなく、血液製剤の変質、溶血、火傷等を防止することができる。また血液製剤の輸液開始直後の温度の立ち上げを早くし、患者の体温低下を防ぎ、患者に適正温度の血液製剤を迅速に送液することができる。さらに、より血液製剤の送液流量を上げることができるので、救命率を上げることができる。
【0037】
加温流路40の出口部51にも第2の温度センサ81を設けたので、加温流路40の出口部51における血液製剤の温度を測定し、血液製剤が目標温度に加温されていることを確認することができる。また、第2の温度センサ81の検出温度に基づいてヒータ60の出力をフィードバック制御して出口部51における血液製剤の温度を微調整することもできる。
【0038】
接液型のサーミスタ等のセンサであると、再利用するにはセンサを洗浄等する必要があるが、温度センサ80、81が赤外線センサであるので、血液製剤を非接触で温度測定可能であり、そのまま再利用可能である。また、高精度の温度制御を好適に行うことができる。
【0039】
温度センサ80、81は、センサ受光面が加温流路40に対し平行になるように配置されているので、温度センサ80、81による温度検出をより正確に安定的に行うことができる。温度センサ80、81が、熱板42の表面に配置された加温流路40に対向配置されているので、加温流路40の血液製剤から放射される赤外線の検出を適切に行うことができる。よって、温度センサ80、81による温度検出をより正確に安定的に行うことができる。
【0040】
温度センサ80、81は、加温流路40の血液製剤の層が1mm以上存在する位置に取り付けられているので、背景の輻射熱の影響をなくし血液製剤の温度を正確に測定することができる。また、温度センサ80、81を熱板42の表面から1mm以上離すことで、熱板42の輻射熱が直接センサに検出されることがなく、加温流路40の血液製剤の温度をより正確に検出することができる。
【0041】
温度センサ80、81と加温流路40との間に、赤外線を透過する押さえ平板110が設けられ、押さえ平板110が加温流路40に密着している。これにより、加温流路40に一定以上の圧力をかけて加温流路40を押さえつけて固定し、押さえ平板110と加温流路40との間の隙間をなくすことができる。この結果、温度センサ80、81が加温流路40の血液製剤以外の熱を検出することがなく、また加温流路40が動かないので、血液製剤からの赤外線を正確かつ安定的に検出することができる。この結果、温度センサ80、81による温度検出の精度をさらに向上することができる。
【0042】
温度センサ80、81が、押さえ平板110を有するセンサ保持体100に保持されるので、温度センサ80、81が適切に固定される。また温度センサ80、81と加温流路40との位置関係が固定されるので、温度センサ80、81による温度検出の精度を向上することができる。
【0043】
第1の断熱板43に貫通孔130が設けられ、その貫通孔130にセンサ保持体100が嵌め込まれているので、センサ保持体100及び温度センサ80、81の固定を適切に行うことができる。
【0044】
加温流路40は、軟質チューブであるので、押さえ平板110により押さえつけて加温流路40と押さえ平板110との密着性を向上でき、この結果、温度センサ80、81により温度検出の精度をさらに向上することができる。
【0045】
加温流路40は、流路方向に直角の断面が扁平円状であるので、温度センサ80、81の視野角(赤外線を受光する範囲)α(図4に示す)を十分に確保することができる。また、加温流路40と押さえ平板110との密着性をさらに向上できる。
【0046】
加温流路40は、軟質の加温バッグ41に形成されているので、加温流路40の柔軟性をさらに上げることができる。この結果、加温流路40と押さえ平板110との密着性をさらに向上できる。
【0047】
加温流路40の血液製剤を第1のポンプ18により送液し、加温流路40の入口部50は出口部51よりも低い位置に配置されている。この結果、加温流路40の入口部50には、重力による一定の内部圧力がかかり、これにより押さえ平板110と加温流路40との密着性を向上できる。この結果、温度センサ80による血液製剤の温度検出の精度をさらに向上することができる。なお、ポンプ18の流量を調整して、加温流路40の入口部50の内部圧力を高く維持し、加温流路40と押さえ平板110との密着性を向上してもよい。
【0048】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0049】
例えば上記実施の形態において、温度センサは、サーモパイルセンサであったが、熱時定数3sec以下の応答性のあるものであれば、他の温度センサでもよい。例えば温度センサは、サーモパイルをはじめとする熱起電力型赤外線センサ、焦電型赤外線センサ、ボロメータやNCセンサなどの導電型赤外線センサ、光起電力型赤外線センサ等であってもよい。熱起電力型赤外線センサは約30msecの熱時定数を有し、焦電型赤外線センサは約12msecの熱時定数を有し、導電型赤外線センサは約1.3secの熱時定数を有し、光起電力型赤外線センサは約1msecの熱時定数を有している。なお、NCセンサは、高精度の2つのサーミスタで構成されており、1つのサーミスタは物体から放射される赤外線を検知し、もう1つのサーミスタは温度補償用として周囲温度を測定し、この2つのサーミスタの出力を演算することにより測定対象物の温度を検出できる。
【0050】
第1の温度センサ81が加温流路40の入口部50に設けられていたが、加温流路40の出口部50よりも上流側の流路、例えば第1の流路13に設けられていてもよい。第2の温度センサ81が加温流路40の出口部51に設けられていたが、加温流路40の出口部51よりも下流側の流路、例えば第2の流路14に設けられていてもよい。また第2の温度センサ81はなくてもよい。温度センサ80、81を保持するセンサ保持体100は、熱板42のある加温装置11以外の部分に取り付けられていてもよい。かかる場合、例えば図7に示すように血液製剤の流路150をL字状やT字状にし、受光部90の受光面が流路方向に対し正面の位置になるように赤外線センサ80、81を設けてもよい。その他、加温装置11の全体構成、熱板42、ヒータ60、断熱板43、44、センサ保持体100等の構成、加温流路40の構成等は、本実施の形態のものに限られない。以上の実施の形態において、温度調整部は、血液製剤を加温するものであったが、冷却するものであってもよい。また、輸液装置1で送液される輸液用の液体は血液製剤であったが、これに限られず、例えば新鮮凍結血漿(FFP)、アルブミン、細胞外液であってもよい。
【0051】
参考までに、温度センサ80、81、センサ保持体100を含む温度センサの取り付け構造は、輸液用の液体以外の液体の温度測定、温度制御に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、輸液用の液体を高精度に安定的に温度制御可能な輸液装置を提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 輸液装置
11 加温装置
20 制御装置
40 加温流路
42 熱板
60 ヒータ
80、81 温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7