(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976865
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】ICタグ
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20211125BHJP
G06K 19/02 20060101ALI20211125BHJP
H01Q 1/40 20060101ALI20211125BHJP
H01Q 9/27 20060101ALI20211125BHJP
B42D 25/305 20140101ALI20211125BHJP
【FI】
G06K19/077 280
G06K19/077 144
G06K19/02
H01Q1/40
H01Q9/27
B42D25/305 100
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-866(P2018-866)
(22)【出願日】2018年1月5日
(65)【公開番号】特開2019-121933(P2019-121933A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2020年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】島井 俊治
(72)【発明者】
【氏名】辻本 博文
【審査官】
甲斐 哲雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−033748(JP,A)
【文献】
特開2006−197440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/00−19/18
H01Q 1/40
H01Q 9/27
B42D 25/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップと、
前記ICチップに格納された情報を電気的に送受信するダイポールアンテナと、
前記ICチップ及びダイポールアンテナを支持するシート状の基材と、
を備え、
前記ダイポールアンテナの両端部間の抵抗値R、及び、前記ダイポールアンテナに沿って当該ダイポールアンテナの両端部を繋ぐ経路の長さであって、前記ICチップを通過しない経路の長さLを設定したとき、0.1≦R/L≦2.5を充足する、ICタグ。
【請求項2】
前記長さLが、120mm以上200mm以下である、請求項1に記載のICタグ。
【請求項3】
前記ダイポールアンテナを構成する材料は、銀、アルミニウム、及び銅のいずれかを含有する、請求項1または2に記載のICタグ。
【請求項4】
前記基材との間で、前記ICチップ及びアンテナを覆うシート状のカバーと、
前記カバーと基材とを接着する粘着剤と、
をさらに備えている、請求項1から3のいずれかに記載のICタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICタグの1種として、インレットと呼ばれるプラスチックや紙からなるベースシート上に電波通信用のアンテナパターンとICチップが搭載された構成のものが提案されている。そして、このようなインレットを、樹脂で封止したものを物品へ取り付けたり、物品へ埋め込むことで物品の管理に使用されている。
【0003】
ところで、上記のようなICタグは、リネン物品に取付けられ、管理されることがあるが、リネン物品は出荷に際して金属探知機で金属異物の混入を検査することが一般的である。これに対して、ICタグは、アンテナパターンが金属で形成されているため、ICタグが取付けられたリネン物品を金属探知機で検査すると、リネン物品に金属異物が混入されていなくてもICタグが金属として検出されてしまう。そのため、本来の金属異物の検査を円滑に行うことができないという問題がある。
【0004】
これに対して、特許文献1には、アンテナの抵抗値を50〜1000ΩとしたICタグが開示されており、このような範囲の抵抗値を有するICタグは、金属探知機に反応しないことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−33748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のICタグであっても、金属探知機による検出が行われることがあり、さらなる改良が望まれていた。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、金属探知機による検出をより確実に防止することができるICタグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るICタグは、ICチップと、前記ICチップに格納された情報を電気的に送受信するダイポールアンテナと、前記ICチップ及びダイポールアンテナを支持するシート状の基材と、を備え、前記ダイポールアンテナの両端部間の抵抗値R、及び、前記ダイポールアンテナに沿って当該ダイポールアンテナの両端部を繋ぐ経路の長さであって、前記ICチップを通過しない経路の長さLを設定したとき、0.1≦R/L≦2.5を充足する。
【0008】
上記ICタグにおいては、前記長さLを、120mm以上200mm以下とすることができる。
【0009】
上記各ICタグにおいて、前記ダイポールアンテナを構成する材料は、銀、アルミニウム、及び銅のいずれかを含有することができる。
【0010】
上記各ICタグにおいては、前記基材との間で、前記ICチップ及びアンテナを覆うシート状のカバーと、前記カバーと基材とを接着する粘着剤と、をさらに備えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属探知機による検出をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るICタグの一実施形態を示す平面図である。
【
図3】
図1のICタグのアンテナを説明する平面図である。
【
図4】実施例1及び比較例1に用いたダイポールアンテナの形状を示す平面図である。
【
図5】実施例2に用いたダイポールアンテナの形状を示す平面図である。
【
図6】実施例3及び比較例2に用いたダイポールアンテナの形状を示す平面図である。
【
図7】実施例4に用いたダイポールアンテナの形状を示す平面図である。
【
図8】実施例5に用いたダイポールアンテナの形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.ICタグの概要>
以下、本発明に係るICタグの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るICタグの平面図、
図2は
図1の断面図である。但し、
図1は説明の便宜のため、カバーを省略している。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るICタグは、矩形状に形成されたシート状の基材1と、この基材1上に配置されたICチップ2及びダイポールアンテナ3と、これらICチップ2及びダイポールアンテナ3を覆う矩形状に形成されたシート状のカバー4と、を備えている。そして、基材1とカバー4とは、粘着剤5によって接着されている。以下、これら各部材について詳細に説明する。
【0014】
基材1とカバー4とは、同形状に形成されており、これらの間に粘着剤5が全面に亘って配置されている。すなわち、粘着剤5によって、ICチップ2及びダイポールアンテナ3が覆われ、基材1とカバー4との隙間からICチップ2やダイポールアンテナ3が露出しないようになっている。
【0015】
基材1及びカバー4を構成する材料は特には限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニルなどで形成することができる。また、基材1及びカバー4の厚みは、例えば、25〜200μmとすることが好ましく、25〜100μmとすることがさらに好ましい。
【0016】
また、以下では、説明の便宜のため、
図1に示すように、基材1及びカバー4の長手方向の辺を第1辺101、第2辺102と称し、短手方向の辺を第3辺103、第4辺104と称することとする。したがって、これらの辺は、第1辺101,第3辺103,第2辺102,及び第4辺104の順で連結されている。
【0017】
ICチップ2は、メモリ機能を有する公知のものであり、導体で形成されたダイポールアンテナ3と、電気的に接続されている。
【0018】
本実施形態では、一例として、
図1に示すようなダイポールアンテナが用いられる。すなわち、このダイポールアンテナ3は、基材1の長手方向の中央付近に配置されたインピーダンス整合部31と、このインピーダンス整合部31から基材1の長手方向に延びる一対のダイポール部32と、を備えている。インピーダンス整合部31は、第1〜第4辺を有する矩形の枠状に形成されている。より詳細には、インピーダンス整合部31の第1辺311は基材1の第1辺101からやや離れた位置に配置され、第2辺312は、基材1の第2辺102に沿うように配置されている。すなわち、インピーダンス整合部31は、第1辺311,第3辺313,第2辺312,及び第4辺314がこの順で連結されている。そして、ICチップ2は、インピーダンス整合部31の第1辺311の中央付近に配置されている。
【0019】
ダイポール部32は、左右対称な形状であるため、一方のみ説明する。ダイポール部32は、インピーダンス整合部31における第1辺311から、基材1の第1辺101側に延び、そこから基材1の第1辺101、第3辺103、及び第2辺102に沿うように延び、さらに、インピーダンス整合部31の第3辺313に沿うように矩形状に枠を形成した後、その内側で渦状に延びている。
【0020】
ダイポールアンテナ3を構成する材料は特には限定されないが、例えば、銀、銅、アルミニウムにより形成することができる。銀を用いる場合には、銀を含有する銀ペーストをスクリーン印刷により基材1上に塗布することで、ダイポールアンテナ3を形成することができる。一方、銅やアルミニウムを用いる場合には、エッチングにより、ダイポールアンテナ3を形成することができる。また、ICチップ2は、例えば、電子部品用の公知のフリップチップ実装などでアンテナ3に固定することができる。
【0021】
以上のようなダイポールアンテナ3により、例えば、UHF帯の電波によってICチップ2に格納された情報を送受信することができる。
【0022】
粘着剤5は、例えば、天然ゴムや合成ゴムを主成分とするゴム系粘着剤とすることができる。ゴム系粘着剤5の厚さは、特には限定されないが、28〜500μmであることが好ましく、28〜72μmであることがさらに好ましい。ゴム系粘着剤5に用いられる合成ゴムは、特には限定されないが、例えば、スチレン―イソプレン―スチレンブロック共重合体、スチレン―ブタジエン―スチレンブロック共重合体、前記スチレン系ブロック共重合体の水素添加物、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリイソブチレン(PIB)、ブチルゴム(IIR)などを挙げることができる。
【0023】
また、上記天然ゴム、合成ゴムに加えて、ゴム系粘着剤5には、粘着付与剤を含んでいてもよい。粘着付与剤としては、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂、石油系樹脂などが挙げられる。粘着付与樹脂の使用量は、粘着性能を損なわない範囲で適宜選択できる。さらに、ゴム系粘着剤には、上述した成分以外に、必要に応じて軟化剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などの適宜な添加剤が含まれていてもよい。
【0024】
なお、粘着剤5としては、ゴム系粘着剤以外に、アクリル系、あるいはシリコーン系の粘着剤を用いることもできる。
【0025】
<2.ダイポールアンテナの物性及び電気特性>
本実施形態に係るダイポールアンテナ3は、次のような物性及び電気特性を有している。この点について、
図3を参照しつつ説明する。同図に示すように、まず、ダイポールアンテナ3の両端部S1,S2間の抵抗値R(Ω)、及び、このダイポールアンテナ3に沿ってダイポールアンテナ3の両端部S1,S2を繋ぐ経路の長さであって、ICチップ2を通過しない経路(以下、アンテナ経路という:
図3の破線)の長さL(cm)を設定したとき、本実施形態に係るダイポールアンテナ3は、以下の式(1)を充足する。なお、アンテナ経路は、ダイポールアンテナ1の線幅の中心を通る経路である。
0.1≦R/L≦2.5 (1)
【0026】
これにより、アンテナ経路の単位長さ当たりの抵抗が設定されるが、R/Lが0.1以上であれば、電流が流れにくくなるため、金属探知機により検出されるのが防止される。一方、R/Lが2.5より大きくなると、通信距離が短くなり、対象となるアプリケーションが限定されるおそれがある。したがって、R/Lは2.5以下であることが好ましい。なお、金属探知機による検出をさらに防止するため、R/Lは、以下の式(2)を充足することがさらに好ましい。
1.5≦R/L≦2.5 (2)
【0027】
アンテナ3の両端部S1,S2間の抵抗値R(Ω)は特には限定されないが、例えば、10〜50Ωであることが好ましく、20〜44Ωであることがさらに好ましい。これは、抵抗値Rが10Ω以上であれば、電流が流れにくくなるためであり、50Ω以下であれば、通信距離が長くなり、通信が安定するためである。
【0028】
上述したアンテナ経路の長さLも特には限定されないが、例えば、120〜200mmであることが好ましく、130〜180mmであることが好ましい。これは、アンテナ経路の長さLが短いと、通信が不安定になるからであり、アンテナ経路が長すぎると、金属探知機により検出されやすくなるからである。
【0029】
また、ダイポールアンテナ3の外形の大きさは、特には限定されないが、金属探知機による検出を防止するには、例えば、ダイポールアンテナ3の外形の長手方向の長さXは60mm以下であることが好ましく、40mm以下であることが好ましい。また、ダイポールアンテナ3の外形の短手方向の長さYは、20mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがさらに好ましい。したがって、ダイポールアンテナの外形の面積(X*Y)は、1200mm
2であることが好ましく、400mm
2以下であることがさらに好ましい。
【0030】
ダイポールアンテナ3の厚みは、特には限定されないが、例えば、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。例えば、上述した銀ペーストを用いて印刷によりダイポールアンテナ3を形成すると、銅やアルミニウムを用いてエッチングによりダイポールアンテナ3を形成するよりも、ダイポールアンテナ3の厚みの調整が容易になり、10μm以下の厚みにすることができる。これによって、金属探知機による検出をさらに防止することができる。
【0031】
<3.金属探知機>
本実施形態に係るICタグが検出されないことを想定する金属探知機は、例えば、非鉄金属を検出する金属探知機とすることができる。これは、上記のように、ダイポールアンテナが銀、銅、アルミニウム等の非鉄金属で形成されることがあることによる。そして、検出感度としては、例えば、金属探知機として、ニッカ電測株式会社のMUK−500を用いたときに、検出されないことが好ましい。この装置は、検出できる最小の物質として、外径が1.5mm以上のSUSの球を検出できる検出感度を有している。したがって、一例として、本実施形態に係るICタグが検出されない金属探知機として、非鉄金属に対し、上記のような検出感度を有する金属探知機を規定することができる。但し、これは一例であり、鉄を検出する金属探知機を基準とすることもできる。
【0032】
<4.特徴>
以上のように、本実施形態に係るICタグによれば、ダイポールアンテナ3が上記式(1)を充足するように構成されているため、金属探知機で検出されるのを防止することができる。
【0033】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。そして、以下に示す複数の変形例は適宜組合わせることが可能である。
【0034】
<5−1>
上述したダイポールアンテナ3の形状は、一例であり、上記式(1)を充足する限りは、種々の形状にすることができる。また、ICタグの形状、つまり、基材1やカバー4の形状も特には限定されず、上記のような長尺状のほか、矩形状、円形状、多角形状など、用途に合わせて種々の形状にすることができる。また、基材1とカバー4とを同形状にしなくてもよい。
【0035】
<5−2>
上記実施形態では、基材1とカバー4との間の全面に亘って、粘着剤5が塗布されているが、これに限定されるものではない。例えば、基材1とカバー4の周縁にのみゴム系粘着剤5を塗布し、ICチップ2及びアンテナ3が粘着剤5によって囲まれるようにすることもできる。また、カバー4及び粘着剤5は、必須ではなく、設けないようにすることもできる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
<1.実施例及び比較例の準備>
以下のように、実施例1〜5及び比較例1,2に係るICタグを準備した。これら実施例及び比較例において、基材及びICチップは同じであるが、ダイポールアンテナが相違している。ここでは、
図4〜
図8に示す5種類のアンテナ形状を準備し、3種類の材料を準備した。
図4〜
図8の点線は経路Lであり、数値は外形の長さX,Yを示している。また、基材及びカバーとして、厚みが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを準備し、ダイポールアンテナを基材とカバーとの間に配置し、上述したゴム系粘着剤により固定した。そして、実施例1〜5及び比較例1,2に係るICタグを以下の表1に示すように準備した。以下のように、実施例及び比較例のアンテナは非鉄金属で構成されている。
【表1】
【0038】
<2.評価>
金属探知機として、ニッカ電測株式会社製MUK−500を用い、上記実施例及び比較例を検知できるかを試験した。この装置における検知レベルは0〜12である。具体的には次の通りである。すなわち、SUS304の球を用いた場合、この装置では、直径が1mmの球は検知できないが、直径2mm以上の球が検知できる。そして、直径2mmの球を検知したときの検知レベルは8であり、直径3mmの球を検知したときの検知レベルは12である。一方、検知レベルが0とは、この金属探知機での検出が全くできないことを意味する。すなわち、検知レベルが0に近いほど、この金属探知機での検出ができなくなることを意味する。
【表2】
【0039】
実施例1〜3は、R/Lが1.5以上であり、検知レベルはいずれも0であった。すなわち、金属探知機に全く検知されなかった。また、実施例4,5は、R/Lが実施例1〜3よりも低く1以下であるが、0.1以上であった。そして、金属探知機による検知レベルは3であった。すなわち、わずかではあるが、検知されているが、用途によっては使用できるレベルである。一方、比較例1,2は、いずれもR/Lが0.1より低く、検知レベルは12であった。すなわち、金属探知機に確実に検知されるレベルである。したがって、R/Lに基づく評価で、実施例1〜5がいずれも比較例1,2よりも優れていることが分かった。
【符号の説明】
【0040】
1 基材
2 ICチップ
3 ダイポールアンテナ
4 カバー
5 粘着剤