特許第6976908号(P6976908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976908
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】樹脂被覆コード及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20211125BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20211125BHJP
   B60C 15/04 20060101ALI20211125BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   B60C1/00 C
   B60C9/20 G
   B60C15/04 G
   D07B1/06 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-119352(P2018-119352)
(22)【出願日】2018年6月22日
(65)【公開番号】特開2019-218033(P2019-218033A)
(43)【公開日】2019年12月26日
【審査請求日】2020年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】藏田 崇之
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−199689(JP,A)
【文献】 特開2017−144997(JP,A)
【文献】 特表2013−509501(JP,A)
【文献】 特表2017−532416(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/190390(WO,A1)
【文献】 特開2017−109619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
B60C 9/20
B60C 15/04
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔を空けて配置されたn本のコードと、
前記コードを被覆する被覆樹脂と、
前記コードと前記被覆樹脂との間に配置され、前記被覆樹脂より引張弾性率が大きい接着樹脂と、を備え、
前記接着樹脂は、幅方向に連結され、
前記コード及び前記接着樹脂が配置された部分の幅方向寸法の合計値をAとし、厚み方向寸法の最大値をBとした時に、次の(1)式を満たす、
樹脂被覆コード。
B<(A/n) (n≧1) ・・・(1)
【請求項2】
一対のビードコアに跨って形成されたカーカスと、
前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置され、互いに間隔を空けて配置されたn本のコードと、前記コードを被覆する被覆樹脂と、前記コードと前記被覆樹脂との間に配置され、前記被覆樹脂より引張弾性率が大きい接着樹脂と、を備え、前記コード及び前記接着樹脂が配置された部分の幅方向寸法の合計値をAとし、厚み方向寸法の最大値をBとした時に、次の(1)式を満たす樹脂被覆コードを螺旋状に巻回して形成した樹脂被覆ベルト層と、
を備えた空気入りタイヤ。
B<(A/n) (n≧1) ・・・(1)
【請求項3】
互いに間隔を空けて配置されたn本のコードと、前記コードを被覆する被覆樹脂と、前記コードと前記被覆樹脂との間に配置され、前記被覆樹脂より引張弾性率が大きい接着樹脂と、を備え、前記コード及び前記接着樹脂が配置された部分の幅方向寸法の合計値をAとし、厚み方向寸法の最大値をBとした時に、次の(1)式を満たす、樹脂被覆コードを螺旋状に巻回して形成した一対のビードコアと、
前記ビードコアに跨って形成されたカーカスと、
前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置されたベルト層と、
を備えた空気入りタイヤ。
B<(A/n) (n≧1) ・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂被覆コード及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤ骨格部材のクラウン部に、補強コードを樹脂被覆層で被覆して形成された補強コード部材(樹脂被覆コード)を螺旋状に巻回してベルト層を形成したタイヤが開示されている。このように樹脂を用いてベルト層(樹脂被覆ベルト層)を形成したタイヤは、ゴムを用いてベルト層(ゴム被覆ベルト層)を形成したタイヤと比較して、クラウン部の面外剛性が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−210487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されたような樹脂被覆ベルト層を形成するためには、樹脂被覆コードにおいて補強コードと被覆樹脂との一体性を高めるために、補強コードの周囲に接着樹脂を設けることが好ましい。ところが、接着樹脂の形状や弾性率次第では、樹脂被覆コード及び樹脂被覆コードによって形成される樹脂被覆ベルト層の面内剛性が確保し難い場合がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮して、樹脂被覆コードの面内剛性及び樹脂被覆コードによって形成される部材の面内剛性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の樹脂被覆コードは、互いに間隔を空けて配置されたn本のコードと、前記コードを被覆する被覆樹脂と、前記コードと前記被覆樹脂との間に配置され、前記被覆樹脂より引張弾性率が大きい接着樹脂と、を備え、前記接着樹脂は、幅方向に連結され、前記コード及び前記接着樹脂が配置された部分の幅方向寸法の合計値をAとし、厚み方向寸法の最大値をBとした時に、次の(1)式を満たす。
B<(A/n) (n≧1) ・・・(1)
【0007】
請求項1の樹脂被覆コードにおいては、コードと被覆樹脂とが、接着樹脂により接着されている。被覆樹脂にはn本のコードが埋設されており、「コード及び接着樹脂が配置された部分の幅方向寸法の合計値」Aをnで除した値が、「コード及び接着樹脂が配置された部分の厚み方向寸法の最大値」Bより大きい。
【0008】
つまり接着樹脂は、コード1本あたりの幅方向寸法が厚み方向寸法より大きい。また、接着樹脂は被覆樹脂より引張弾性率が大きい。これにより、コード1本あたりの幅方向寸法が厚み方向寸法以下の場合と比較して、樹脂被覆コードの幅方向に沿った剛性(面内剛性)が高い。
【0009】
一態様の樹脂被覆コードは、前記接着樹脂は、幅方向に連結されている。
【0010】
一態様の樹脂被覆コードにおいては、n本のコードを被覆する接着樹脂同士が連結されている。このため、接着樹脂同士が連結されていない場合と比較して引張弾性率が小さい部分が少なく、剛性向上効果を高めることができる。
【0011】
請求項2の空気入りタイヤは、一対のビードコアに跨って形成されたカーカスと、
前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置され、互いに間隔を空けて配置されたn本のコードと、前記コードを被覆する被覆樹脂と、前記コードと前記被覆樹脂との間に配置され、前記被覆樹脂より引張弾性率が大きい接着樹脂と、を備え、前記コード及び前記接着樹脂が配置された部分の幅方向寸法の合計値をAとし、厚み方向寸法の最大値をBとした時に、次の(1)式を満たす樹脂被覆コードを螺旋状に巻回して形成した樹脂被覆ベルト層と、を備える。
B<(A/n) (n≧1) ・・・(1)
【0012】
請求項2の空気入りタイヤにおいては、樹脂被覆コードを螺旋状に巻回して樹脂被覆ベルト層を形成している。このため、コードをゴムで被覆したゴム被覆ベルト層や樹脂被覆コードを螺旋状に巻回しない樹脂被覆ベルト層と比較して、リング剛性が高くなる。このため、トレッドはタイヤ周方向及びタイヤ幅方向に沿った環状面の面外へ変形し難くなり、空気入りタイヤの変形が抑制される。
【0013】
また、樹脂被覆コードは面内剛性が高められているため、この樹脂被覆コードが適用された樹脂被覆ベルト層はせん断変形し難く、コーナリングパワーが大きくなる。
【0014】
さらに、樹脂被覆コードはコード周りのひび割れが抑制されているため、樹脂被覆ベルト層の面外変形抑制効果が高い。また、ひび割れから樹脂被覆コード内部への水の浸入が抑制されるため、空気入りタイヤの耐久性を高くできる。
【0015】
請求項3の空気入りタイヤは、互いに間隔を空けて配置されたn本のコードと、前記コードを被覆する被覆樹脂と、前記コードと前記被覆樹脂との間に配置され、前記被覆樹脂より引張弾性率が大きい接着樹脂と、を備え、前記コード及び前記接着樹脂が配置された部分の幅方向寸法の合計値をAとし、厚み方向寸法の最大値をBとした時に、次の(1)式を満たす、樹脂被覆コードを螺旋状に巻回して形成した一対のビードコアと、前記ビードコアに跨って形成されたカーカスと、前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置されたベルト層と、を備える。
B<(A/n) (n≧1) ・・・(1)
【0016】
請求項3の空気入りタイヤにおいては、樹脂被覆コードを螺旋状に巻回してビードコアを形成している。このため、コードをゴムで被覆したビードコアと比較して、ビードコアのねじり剛性が高くなる。これによりビード部がリムから外れにくくなる。
【0017】
また、樹脂被覆コードはコード周りのひび割れが抑制されているため、面外変形抑制効果が高い。これによりビード部のリム外れ抑制効果が高められている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、樹脂被覆コードの面内剛性及び樹脂被覆コードによって形成される部材の面内剛性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る樹脂被覆コードを用いて形成された空気入りタイヤの一例を示す半断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る樹脂被覆コードを用いて形成された樹脂被覆ベルト層の一例を示す斜視図である。
図3】(A)は空気入りタイヤにおける樹脂被覆ベルト層の部分断面図であり、(B)は樹脂被覆ベルト層を形成する樹脂被覆コードの断面図である。
図4】(A)は本発明の実施形態に係る樹脂被覆コードを長方形の断面となるように形成した変形例を示す断面図であり、(B)は樹脂被覆コードに2本の補強コードを埋設した変形例を示す断面図であり、(C)は接着樹脂にくびれ部が形成された変形例を示す断面図であり、(D)は樹脂被覆コードに3本の補強コードを埋設した変形例を示す断面図である。
図5】(A)は本発明の実施形態に係る樹脂被覆コードにおいて2本の補強コードを取り囲む接着樹脂が分断された変形例を示す断面図であり、(B)は2本の補強コードを取り囲む接着樹脂が樹脂被覆コードの延設方向において部分的に分断された変形例を示す断面図であり、(C)は3本の補強コードを取り囲む接着樹脂が分断された変形例を示す断面図である。
図6】(A)は本発明の実施形態に係る空気入りタイヤにおいてビードコアを樹脂被覆コードで形成した変形例を示す側面図であり、(B)はビードコアの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1には、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤ(以下、「タイヤ10」と称する。)のタイヤ幅方向及びタイヤ径方向に沿って切断した切断面(タイヤ周方向に沿った方向から見た断面)の片側が示されている。なお、図中矢印Wはタイヤ10の幅方向(タイヤ幅方向)を示し、矢印Rはタイヤ10の径方向(タイヤ径方向)を示す。ここでいうタイヤ幅方向とは、タイヤ10の回転軸と平行な方向を指している。また、タイヤ径方向とは、タイヤ10の回転軸と直交する方向をいう。また、符号CLはタイヤ10の赤道面(タイヤ赤道面)を示している。なお、図1は、空気入りタイヤ10の空気充填前の自然状態の形状を示している。
【0021】
また、本実施形態では、タイヤ径方向に沿ってタイヤ10の回転軸に近い側を「タイヤ径方向内側」、タイヤ径方向に沿ってタイヤ10の回転軸から遠い側を「タイヤ径方向外側」と記載する。一方、タイヤ幅方向に沿ってタイヤ赤道面CLに近い側を「タイヤ幅方向内側」、タイヤ幅方向に沿ってタイヤ赤道面CLから遠い側を「タイヤ幅方向外側」と記載する。
【0022】
(タイヤ)
図1に示されるように、タイヤ10は、一対のビード部12と、それぞれのビード部12に埋設されたビードコア12Aに跨り端部がビードコア12Aに係止されたカーカス16と、ビード部12に埋設されビードコア12Aからタイヤ径方向外側へカーカス16の外面に沿って伸びるビードフィラー12Bと、カーカスプライ14のタイヤ径方向外側に設けられた樹脂被覆ベルト層40と、樹脂被覆ベルト層40のタイヤ径方向外側に設けられたトレッド60と、を備えている。なお、図1では、片側のビード部12のみが図示されている。
【0023】
(ビード部)
一対のビード部12には、ワイヤ束であるビードコア12Aがそれぞれ埋設されている。これらのビードコア12Aには、カーカスプライ14が跨っている。ビードコア12Aは、断面が円形や多角形状など、様々な構造を採用することができ、多角形としては例えば六角形を採用することができるが、本実施形態においては四角形とされている。
【0024】
ビード部12においてビードコア12Aに係止されたカーカスプライ14で囲まれた領域には、ビードコア12Aからタイヤ径方向外側へ延び、タイヤ径方向外側に向けて厚さが漸減するビードフィラー12Bが埋設されている。タイヤ10においては、ビードフィラー12Bのタイヤ径方向外側端12BEからタイヤ径方向内側の部分がビード部12とされている。
【0025】
(カーカス)
カーカス16は、複数本のコードを被覆ゴムで被覆して形成された一枚のカーカスプライ14によって形成されている。カーカスプライ14は、一方のビードコア12Aから他方のビードコア12Aへトロイド状に延びてタイヤの骨格を構成している。また、カーカスプライ14の端部側は、ビードコア12Aに係止されている。具体的には、カーカスプライ14は、一方のビードコア12Aから他方のビードコア12Aに跨る本体部14Aと、ビードコア12Aからタイヤ径方向外側へ折り返されている折り返し部14Bと、を備えている。
【0026】
なお、本実施形態においてカーカスプライ14はラジアルカーカスとされている。また、カーカスプライ14の材質は特に限定されず、レーヨン、ナイロン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アラミド、ガラス繊維、カーボン繊維、スチール等が採用できる。なお、軽量化の点からは、有機繊維コードが好ましい。また、カーカスの打ち込み数は20〜60本/50mmの範囲とされているが、この範囲に限定されるものではない。また、本実施形態においては、一枚のカーカスプライ14によってカーカス16が形成されているが、カーカス16は複数のカーカスプライによって形成することもできる。
【0027】
カーカス16のタイヤ径方向内側にはゴムからなるインナーライナー22が配置されており、カーカス16のタイヤ幅方向外側には、ゴムからなるサイドゴム層24が配置されている。なお、本実施形態では、ビードコア12A、カーカス16、ビードフィラー12B、インナーライナー22、及びサイドゴム層24によってタイヤケース25が構成されている。タイヤケース25は、換言すると、空気入りタイヤ10の骨格を成すタイヤ骨格部材のことである。
【0028】
(樹脂被覆ベルト層)
カーカス16のクラウン部の外側、換言するとカーカス16のタイヤ径方向外側には、樹脂被覆ベルト層40が配設されている。図2に示すように、樹脂被覆ベルト層40は、1本の樹脂被覆コード42がカーカス16の外周面に対して、タイヤ周方向に螺旋状に巻かれて形成されたリング状の箍(たが)であり、樹脂被覆コード42の周方向における先端面42E1、42E2は、タイヤ幅方向及び径方向に沿った面とされ、タイヤ周方向において異なる位置に配置されている。なお、「螺旋状」とは、1本の樹脂被覆コード42がカーカス16の周囲において少なくとも1周以上巻回されている状態を示す。また、本明細書において、「樹脂被覆ベルト層」は、適宜「ベルト層」と表記することがある。
【0029】
樹脂被覆コード42は、1本の補強コード44を樹脂層46で被覆して構成されており、図3(A)に示すように、断面形状が略正方形状とされている。樹脂層46は、カーカス16の外周面に接着剤又は加硫接着により密着して接合されている。なお、樹脂被覆ベルト層40とトレッド60とは、接着剤又は加硫接着で一体化されている。
【0030】
また、タイヤ幅方向に互いに隣接する樹脂層46同士は、融着により接合されている。これにより、補強コード44が樹脂層46によって被覆された樹脂被覆ベルト層40が形成される。
【0031】
樹脂層46は、接着樹脂46Aと被覆樹脂46Bとで形成されている。接着樹脂46Aは、補強コード44と被覆樹脂46Bとの一体性を高めるための接着層である。図3(B)に示すように、補強コード44及び接着樹脂46Aが配置された部分の幅方向(W方向)寸法をAとし、厚み方向(R方向)寸法の最大値をBとすると、次の(1−1)式が成立する。つまり接着樹脂46Aは、補強コード44を含んだ断面の幅方向寸法が厚み方向寸法より大きい。
【0032】
B<A ・・・(1−1)
【0033】
なお、「厚み方向」とは樹脂被覆コード42をカーカス16の外周面に配置した際に、タイヤ径方向と一致する方向である。また、「幅方向」とはタイヤ幅方向と一致する方向である。また、樹脂層46の内部に補強コード44が複数本埋設されている場合(詳しくは後述)は、「幅方向」とは補強コード44の並び方向と略一致する方向である。
【0034】
被覆樹脂46Bの引張弾性率(JIS K7113:1995に規定される)は、100MPa以上が好ましい。また、被覆樹脂46Bの引張弾性率の上限は、1000MPa以下とすることが好ましい。なお、被覆樹脂46Bの引張弾性率は、200〜700MPaの範囲内が特に好ましい。一方、接着樹脂46Aの引張弾性率は、被覆樹脂46Bの引張弾性率より大きく、1〜5倍に設定することが好ましい。
【0035】
被覆樹脂46Bは、熱可塑性樹脂とされている。但し本発明の実施形態はこれに限らず、例えば樹脂材料として、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂、及び(メタ)アクリル系樹脂、EVA樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等の汎用樹脂のほか、エンジニアリングプラスチック(スーパーエンジニアリングプラスチックを含む)等を用いることができる。なお、ここでの樹脂材料には、加硫ゴムは含まれない。
【0036】
熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)とは、温度上昇と共に材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になる高分子化合物をいう。本明細書では、このうち、温度上昇と共に材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になり、かつ、ゴム状弾性を有する高分子化合物を熱可塑性エラストマーとし、温度上昇と共に材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になり、かつ、ゴム状弾性を有しない高分子化合物をエラストマーでない熱可塑性樹脂として、区別する。
【0037】
熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)としては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、及び、動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)、ならびに、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリスチレン系熱可塑性樹脂、ポリアミド系熱可塑性樹脂、及び、ポリエステル系熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0038】
また、上記の熱可塑性材料としては、例えば、ISO75−2又はASTM D648に規定されている荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)が78℃以上、JIS K7161に規定される引張降伏強さが10MPa以上、同じくJIS K7161に規定される引張破壊伸びが50%以上、JIS K7206に規定されるビカット軟化温度(A法)が130℃であるものを用いることができる。
【0039】
熱硬化性樹脂とは、温度上昇と共に3次元的網目構造を形成し、硬化する高分子化合物をいい、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
【0040】
なお、被覆樹脂46Bには、既述の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)及び熱硬化性樹脂のほか、(メタ)アクリル系樹脂、EVA樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等の汎用樹脂を用いてもよい。
【0041】
接着樹脂46Aとしては、被覆樹脂46Bよりも水分が浸透し難いもの、言い換えれば、水分を吸収し難いものが用いられている。接着樹脂46Aを構成する接着剤としては、例えば、変性オレフィン系樹脂(変性ポリエチレン系樹脂、変性ポリプロピレン系樹脂等)、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、変性ポリエステル系樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の1種又は2種以上の熱可塑性樹脂を主成分(主剤)として含むものが挙げられる。
【0042】
これらの中でも、金属部材(補強コード44)及び樹脂層(被覆樹脂46B)との接着性の観点から、変性オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、変性ポリエステル系樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、及びエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むホットメルト接着剤が好ましく、変性オレフィン系樹脂及び変性ポリエステル系樹脂より選ばれる少なくとも1種を含むホットメルト接着剤がより好ましく、その中でも酸変性オレフィン系樹脂(不飽和カルボン酸で酸変性された変性オレフィン系樹脂)及び変性ポリエステル系樹脂より選ばれる少なくとも1種を含むホットメルト接着剤がさらに好ましく、酸変性ポリエステル系樹脂を含むホットメルト接着剤が特に好ましい。
【0043】
ここで、「不飽和カルボン酸で酸変性された変性オレフィン系樹脂」とは、ポリオレフィンに、不飽和カルボン酸をグラフト共重合させた変性オレフィン系樹脂を意味する。
【0044】
樹脂被覆ベルト層40における補強コード44は、外周面がコバルトでメッキされたスチールコードとされている。このスチールコードは、スチールを主成分とし、炭素、マンガン、ケイ素、リン、硫黄、銅、クロムなど種々の微量含有物を含むことができる。また、メッキ材料はコバルトに限定されず、ニッケル等を用いる事ができる。
【0045】
タイヤ軸方向に沿って計測する樹脂被覆ベルト層40の幅BW(ベルト端40EW間の距離)は、タイヤ軸方向に沿って計測するトレッド60の接地幅TWに対して75%以上とすることが好ましい。これにより、ショルダー39付近の剛性を高めることができる。なお、樹脂被覆ベルト層40の幅BWの上限は、接地幅TWに対して110%とすることが好ましい。これにより、タイヤ10の重量増加を抑制することができる。
【0046】
ここで、トレッド60の接地幅TWとは、タイヤ10をJATMA YEAR BOOK(2018年度版、日本自動車タイヤ協会規格)に規定されている標準リムに装着し、JATMA YEAR BOOKでの適用サイズ・プライレーティングにおける最大負荷能力(内圧−負荷能力対応表の太字荷重)に対応する空気圧(最大空気圧)の100%の内圧を充填し、静止した状態で水平な平板に対して回転軸が平行となるように配置し、最大の負荷能力に対応する質量を加えたときのものである。なお、使用地又は製造地において、TRA規格、ETRTO規格が適用される場合は各々の規格に従う。
【0047】
なお、本発明の実施形態はこれに限らず、樹脂被覆ベルト層40における補強コード44として用いるスチールコードは、モノフィラメントコードや複数のフィラメントを撚り合せたコードを用いることができる。また、材質はスチールに代えてアラミド等の有機繊維、カーボンなどを用いてもよい。撚り構造も種々の設計が採用可能であり、断面構造、撚りピッチ、撚り方向、隣接するフィラメント同士の距離も様々なものが使用できる。さらには異なる材質のフィラメントを撚り合せたコードを採用することもで、断面構造としても特に限定されず、単撚り、層撚り、複撚りなど様々な撚り構造を取ることができる。
【0048】
(トレッド)
図1に示すように、樹脂被覆ベルト層40のタイヤ径方向外側には、トレッド60が設けられている。トレッド60は、走行中に路面に接地する部位であり、トレッド60の踏面には、タイヤ周方向に延びる周方向溝62が複数本形成されている。周方向溝62の形状や本数は、タイヤ10に要求される排水性や操縦安定性等の性能に応じて適宜設定される。
【0049】
(作用・効果)
本発明の実施形態に係る樹脂被覆コード42は、補強コード44と被覆樹脂46Bとが、接着樹脂46Aにより接着されている。そして、(1−1)式に示されるように、接着樹脂46Aは、補強コード44を含んだ断面の幅方向寸法が厚み方向寸法より大きい。また、接着樹脂46Aは被覆樹脂46Bより引張弾性率が大きい。
【0050】
これにより、接着樹脂46Aの幅方向寸法が厚み方向寸法以下の場合と比較して、樹脂被覆コード42の幅方向(W方向)に沿った剛性(面内剛性)が高い。また、接着樹脂46Aの引張弾性率が被覆樹脂46Bの引張弾性以下の場合と比較して、補強コード44周りの引張弾性率の変化(剛性段差)がなだらかになるため、補強コード44周りのひび割れを抑制できる。
【0051】
また、本発明の実施形態に係るタイヤ10においては、樹脂被覆コード42を螺旋状に巻回して樹脂被覆ベルト層40を形成している。このため、補強コード44をゴムで被覆したゴム被覆ベルト層や、樹脂被覆コード42を螺旋状に巻回しない樹脂被覆ベルト層と比較して、リング剛性が高くなる。このため、トレッド60はタイヤ周方向及びタイヤ幅方向に沿った環状面の面外へ変形し難くなり、タイヤ10の変形が抑制される。
【0052】
また、接着樹脂46Aの幅方向寸法が厚み方向寸法より大きく形成されることにより樹脂被覆コード42の面内剛性が高められているため、この樹脂被覆コード42が適用された樹脂被覆ベルト層40はせん断変形し難く、コーナリングパワーが大きくなる。
【0053】
さらに、樹脂被覆コード42は補強コード44周りの引張弾性率の変化をなだらかにしてひび割れが抑制されているため、樹脂被覆ベルト層40の面外変形抑制効果が高い。また、ひび割れから樹脂被覆コード42内部への水の浸入が抑制されるため、タイヤ10の耐久性が高い。
【0054】
さらに、補強コード44の外周に、被覆樹脂46Bよりも水分の浸透し難い接着樹脂46Aを設けているので、水分の浸透し易い接着層を設けた場合と比較して、補強コード44の腐食(錆)を効果的に抑制することができる。
【0055】
なお、本発明の実施形態においては、図3(B)に示すように、樹脂被覆コード42が1本の補強コード44を樹脂層46で被覆して構成され、断面形状は略正方形状とされているが本発明の実施形態はこれに限らない。
【0056】
例えば図4(A)に示すように、樹脂層46の断面形状を幅方向(W方向)に沿った方向を長辺とする長方形状としてもよい。また、樹脂層46の断面形状は、図4(A)に二点鎖線で示すように、タイヤ幅方向の端面を厚み方向(R方向)に対して傾斜させた平行四辺形状としてもよい。この場合においても、接着樹脂46Aは、補強コード44を含んだ断面の幅方向寸法Aが厚み方向寸法Bより大きく、上述した(1−1)式が成立するものとする。
【0057】
また、樹脂被覆コード42には、複数本の補強コード44を埋設してもよい。例えば図4(B)には、2本の補強コード44を樹脂層46で被覆して樹脂被覆コード42を形成した例が示されている。また、図4(C)には、2本の補強コード44を樹脂層46で被覆し、接着樹脂46Aの幅方向中央部(補強コード44の間)にくびれ部が形成された例が示されている。さらに、図4(D)には、3本の補強コード44を樹脂層46で被覆し、補強コード44の間にそれぞれくびれ部が形成された例が示されている。図4(B)、(C)、(D)において、各補強コード44の周りの接着樹脂46Aは連結されている。
【0058】
このように、複数本の補強コード44を被覆する接着樹脂46A同士が連結されていると、接着樹脂46A同士が連結されていない場合と比較して引張弾性率が小さい部分が少なく、面内剛性向上効果を高めることができる。これらの場合においても、接着樹脂46Aは、補強コード44を含んだ断面の幅方向寸法Aが厚み方向寸法Bより大きく、上述した(1−1)式が成立するものとする。
【0059】
なお、図4(A)、(B)に示されるように、複数本の補強コード44を樹脂層46で被覆して樹脂被覆コード42を形成する場合、補強コード44の本数をn本とすると、(1−1)式に加えて、次の(1−2)式が成立するものとする。すなわち、「補強コード44及び接着樹脂46Aが配置された部分の幅方向寸法」Aをnで除した値が、「補強コード44及び接着樹脂46Aが配置された部分の厚み方向寸法の最大値」Bより大きい。
【0060】
B<(A/n) ・・・(1−2)
【0061】
「厚み方向寸法の最大値」とは、接着樹脂46Aの厚み方向に沿って引いた直線が、補強コード44及び接着樹脂46Aが配置された部分と交わる寸法の最大値のことである。
【0062】
なお、樹脂被覆コード42に複数本の補強コード44を埋設した場合において、各補強コード44の周りの接着樹脂46Aは必ずしも連結しなくてもよい。例えば図5(A)、(B)、(C)に示すように、接着樹脂46Aは補強コード44毎に分断してもよい。
【0063】
例えば図5(A)に示した例においては、2本の補強コード44を囲む接着樹脂46Aが連結されず分断されているが、本発明はこのような実施形態も含むものとする。この場合、補強コード44及び接着樹脂46Aが配置された部分の幅方向寸法a1、a2の「合計値」をAとして、上述した(1−2)式が成立するものとする。
【0064】
同様に、図5(C)においては、補強コード44及び接着樹脂46Aが配置された部分の幅方向寸法a1、a2、a3の「合計値」をAとして、上述した(1−2)式が成立するものとする。
【0065】
また、本発明の実施形態においては、補強コード44を被覆する接着樹脂46Aが、樹脂被覆コード42の延設方向に沿って部分的に連結したり分断してもよい。つまり、例えば樹脂被覆コード42の延設方向に沿って、部分的に図4(B)に示した形状、図4(C)に示した形状及び図5(B)に示した形状等をとることができる。
【0066】
このような場合においては、図5(B)に示すように、補強コード44を囲む接着樹脂46Aがそれぞれ分断された断面において、補強コード44及び接着樹脂46Aが配置された部分の幅方向寸法a1、a2の「合計値」をAとして、上述した(1−2)式が成立すればよい。
【0067】
なお、本実施形態においては、樹脂被覆コード42を用いて樹脂被覆ベルト層40を形成しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば樹脂被覆ベルト層40に「加えて」または樹脂被覆ベルト層40に「代えて」、樹脂被覆コード42を用いて図1に示すビードコア12Aを形成してもよい。
【0068】
この場合、図6(A)、(B)に示すように、樹脂被覆コード42は、タイヤ周方向(矢印Sで示す方向)に約3周巻回して配置されている。タイヤ径方向に互いに隣接する被覆樹脂46B同士は、融着により接合されている。これにより、補強コード44が樹脂層46によって被覆されたビードコア12Aが形成される。なお、樹脂被覆コード42の巻回数(本実施形態では3巻)及び1巻あたりに配置される補強コード44の本数(本実施形態では3本)は、目的に応じて適宜増減することができる。このように、本発明は様々な態様で実施できる。
【符号の説明】
【0069】
10…タイヤ(空気入りタイヤ)、 12A…ビードコア、 16…カーカス、
40…樹脂被覆ベルト層、 42…樹脂被覆コード、44…補強コード(コード)、
46A…接着樹脂、 46B…被覆樹脂、 60…トレッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6