(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976911
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】階段構造
(51)【国際特許分類】
E04F 11/025 20060101AFI20211125BHJP
E04F 11/18 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
E04F11/025
E04F11/18
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-129401(P2018-129401)
(22)【出願日】2018年7月6日
(65)【公開番号】特開2020-7779(P2020-7779A)
(43)【公開日】2020年1月16日
【審査請求日】2020年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】六車 政宣
(72)【発明者】
【氏名】佐分利 和宏
(72)【発明者】
【氏名】熊野 豪人
(72)【発明者】
【氏名】奥村 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】森脇 康富
(72)【発明者】
【氏名】松下 仁士
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−074935(JP,A)
【文献】
実開昭56−084630(JP,U)
【文献】
特開2015−148122(JP,A)
【文献】
特開平06−158808(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3115856(JP,U)
【文献】
特開平02−279859(JP,A)
【文献】
米国特許第06231031(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/025
E04F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の鋼材製のササラ桁と、その一対のササラ桁の間に亘って配置されて当該ササラ桁により支持される複数段の踏み板と、前記ササラ桁の上方に配置され手摺支持材を介して当該ササラ桁により支持される手摺とを備えた階段構造であって、
前記ササラ桁が、断面L字状のL形鋼材と平板状の平鋼材を溶接して構成されて、その断面形状が、縦長で上方開放かつ中空のU字状に形成され、前記踏み板が、そのササラ桁のL形鋼材に支持され、前記手摺支持材が、前記ササラ桁の上方開放口から当該ササラ桁の内部空間内に挿入されて、当該空間内において前記ササラ桁に支持される階段構造。
【請求項2】
前記ササラ桁のL形鋼材が、その一辺の一部を切除した山形鋼で構成される請求項1に記載の階段構造。
【請求項3】
前記手摺支持材を支持する支持ブラケットが、前記ササラ桁の内部空間内において、その下方に配線用空間を確保した状態で配設され、その支持ブラケットに前記手摺支持材の下端部が支持される請求項1または2に記載の階段構造。
【請求項4】
前記ササラ桁の振動を検知する振動センサとその振動センサからの情報に基づいて前記ササラ桁に逆位相の振動を付与するアクチュエータを備えた制振システムが設けられ、前記振動センサが、前記ササラ桁の長手方向のほぼ中央に支持される踏み板に配設され、前記アクチュエータが、前記ササラ桁を構成するL形鋼材の端部の下面に取り付けられるとともに、前記制振システム用の配線が、前記配線用空間内に配置される請求項3に記載の階段構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対の鋼材製のササラ桁と、その一対のササラ桁の間に亘って配置されて当該ササラ桁により支持される複数段の踏み板と、前記ササラ桁の上方に配置され手摺支持材を介して当該ササラ桁により支持される手摺とを備えた階段構造に関する。
【背景技術】
【0002】
このような階段構造では、従来、左右一対のササラ桁が、断面コの字状の溝形鋼で構成され、そのコの字状の開放部が横外方を向くように配置されて、手摺を支持する手摺支持材が、各ササラ桁の上面に溶接された手摺支持部材を介してササラ桁に支持される構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−77729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載の従来技術によれば、左右一対のササラ桁が、断面コの字状の溝形鋼で構成されるので、当該溝形鋼のコの字状断面全体でササラ桁の有効断面積の確保が可能となり、ササラ桁による踏み板と手摺の支持は確実になる。
しかしながら、手摺支持材をササラ桁に支持させるための手摺支持部材が、各ササラ桁の上面から上方へ大きく突出した状態で配設されるなど、外観的に美観に優れたものとは言い難い。
また、美観を向上させるべく手摺支持部材の配置構造などを改変すると、どうしてもササラ桁が大型化することになり、それを避けようとすると、必要な有効断面積の確保が困難となるなど、種々の問題が生じる。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目したもので、その目的は、ササラ桁が比較的大きな有効断面積を有し、踏み板と手摺を確実に支持することができ、かつ、外観的にもスッキリとした階段構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、左右一対の鋼材製のササラ桁と、その一対のササラ桁の間に亘って配置されて当該ササラ桁により支持される複数段の踏み板と、前記ササラ桁の上方に配置され手摺支持材を介して当該ササラ桁により支持される手摺とを備えた階段構造であって、前記ササラ桁が、断面L字状のL形鋼材と平板状の平鋼材を溶接して構成されて、その断面形状が、縦長で上方開放かつ中空のU字状に形成され、前記踏み板が、そのササラ桁のL形鋼材に支持され、前記手摺支持材が、前記ササラ桁の上方開放口から当該ササラ桁の内部空間内に挿入されて、当該空間内において前記ササラ桁に支持される点にある。
【0007】
本構成によれば、ササラ桁が、断面L字状のL形鋼材と平板状の平鋼材を溶接して構成されて、その断面形状が、縦長で上方開放かつ中空のU字状に形成されるので、比較的少ない溶接量で必要な有効断面積を有するササラ桁を構成することができる。
すなわち、鋼材でU字状のササラ桁を構成する場合、左右一対の側板とその側板の底部を繋ぐ底板の全てを鋼板材で構成し、それらを溶接して構成することも可能である。しかし、その場合には、溶接量が多くなり、かつ、有効断面積も比較的小さくなる。
その点、L形鋼材と平鋼材で構成する場合には、溶接量がほぼ半分程度で済み、かつ、側板と底板が一体構造のL形鋼材の存在により有効断面積も比較的大きく、その分、ササラ桁の成を小さくすることが可能となる。
そして、複数段の踏み板が、そのササラ桁のL形鋼材に支持されるので、ササラ桁による踏み板の支持は、強固で確実なものとなる。更に、手摺を支持する手摺支持材が、そのササラ桁の上方開放口から内部空間内に挿入されて、当該空間内においてササラ桁に支持されるので、手摺支持材とササラ桁との支持部分は、ササラ桁の内部空間内に完全に隠された状態となり、外観的にもスッキリとした美観となる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記ササラ桁のL形鋼材が、その一辺の一部を切除した山形鋼で構成される点にある。
【0009】
本構成によれば、ササラ桁のL形鋼材が、その一辺の一部を切除した山形鋼で構成されるので、市販の山形鋼を使用し、その一辺の一部を切除するだけで済み、ササラ桁のL形鋼材を簡単かつ安価に作製することができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、前記手摺支持材を支持する支持ブラケットが、前記ササラ桁の内部空間内において、その下方に配線用空間を確保した状態で配設され、その支持ブラケットに前記手摺支持材の下端部が支持される点にある。
【0011】
本構成によれば、手摺支持材を支持する支持ブラケットが、ササラ桁の内部空間内において、その下方に配線用空間を確保した状態で配設され、その支持ブラケットに手摺支持材の下端部が支持されるので、ササラ桁の上方に配置される手摺は、手摺支持材と支持ブラケットを介してササラ桁により確実に支持される。
そして、支持ブラケットの下方には、配線用空間が確保されるので、例えば、各種安全装置や警報装置の信号伝達用の配線、あるいは、給電用の電線など、階段に沿って敷設する必要のある配線類をその配線用空間内に外から見えない状態で安全に配置することができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記ササラ桁の振動を検知する振動センサとその振動センサからの情報に基づいて前記ササラ桁に逆位相の振動を付与するアクチュエータを備えた制振システムが設けられ、前記振動センサが、前記ササラ桁の長手方向のほぼ中央に支持される踏み板に配設され、前記アクチュエータが、前記ササラ桁を構成するL形鋼材の端部の下面に取り付けられるとともに、前記制振システム用の配線が、前記配線用空間内に配置される点にある。
【0013】
本構成によれば、ササラ桁の振動を検知する振動センサとササラ桁に逆位相の振動を付与するアクチュエータを備えた制振システムが設けられるので、階段を昇降する際、歩行により生じる歩行振動が抑制されて安全に昇降することができる。
その制振システムの振動センサは、ササラ桁の長手方向のほぼ中央に支持される踏み板に配設されるので、歩行振動を的確かつ迅速に検知することができ、アクチュエータは、平坦なL形鋼材の端部の下面に取り付けられるので、ササラ桁側へのアクチュエータの取り付けは簡単かつ容易となる。
そして、制振システム用の配線、つまり、ササラ桁の長手方向のほぼ中央に位置する踏み板に配設の振動センサやササラ桁の端部に配設のアクチュエータなどを繋ぐ配線類が、ササラ桁の内部の配線用空間内に配置されるので、外から見えないように安全に配置することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による階段構造の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の階段構造は、
図1に示すように、左右一対の鋼材製のササラ桁1と、その一対のササラ桁1の間に亘って配置されて当該ササラ桁1により支持される複数段の踏み板4と、各ササラ桁1の上方に配置され手摺支持材5を介して各ササラ桁1により支持される手摺6などを備えている。
各ササラ桁1は、下層階の躯体Dに支持される下方部位1aと上層階の躯体Uに支持される上方部位1b、および、両部位1a、1bを繋ぐ中間部位1cを備えている。そして、下方部位1aと上方部位1bをそれぞれ水平にして各躯体D、Uに支持させることにより、中間部位1cが、下層階の床DFから上層階の床UFに亘って所定の傾斜角で設置されるように設定される。
【0016】
各ササラ桁1を構成する下方部位1a、上方部位1b、および、中間部位1cは、
図2に示すように、市販の山形鋼の一辺の一部を切除して構成した断面L字状のL形鋼材2と、平板状の平鋼材の一例である市販の平鋼(フラットバー)3をタップ溶接して構成され、その断面形状が、縦長で上方開放かつ中空のU字状に形成される。そして、それら下方部位1a、上方部位1b、および、中間部位1cを所定の角度を有する状態で溶接することにより各ササラ桁1が構成され、一対のササラ桁1が、そのL形鋼材2を内側に平鋼3を外側に位置させて配置される。
複数段の踏み板4は、例えば、鋼材と鋼材の上に打設のコンクリートで構成され、
図1に示すように、ササラ桁1の中間部位1cに沿って配置され、
図2に示すように、その内側に位置して対向するL形鋼材2の間に亘って配置されて、その鋼材がL形鋼材2に溶接されて支持される。
【0017】
手摺支持材5は、透明のガラス板で構成され、その上端部に手摺6が配設され、その下端部は、
図2に示すように、U字状のササラ桁1の上方開放口から内部空間内に挿入され、その空間内に配設の支持ブラケット7の上に載置される。その際、図示はしないが、必要に応じてグレーチングチャンネルなどを介して支持ブラケット7の上に載置され、ササラ桁1と手摺支持材5の間に充填材などが充填されて支持される。支持ブラケット7は、例えば、平鋼材で構成され、その下方に配線用空間8を確保した状態で平鋼3またはL形鋼材2に溶接されて支持され、配線用空間8の内部には、制振システム9のための配線などが配置される。
制振システム9は、階段を昇降する際、歩行により生じる歩行振動を抑制して安全な昇降を可能にするもので、ササラ桁1の振動を感知する振動センサ10とその振動センサ10からの情報に基づいてササラ桁1に逆位相の振動を付与する膜型圧電セラミックス製のアクチュエータ11を備え、その振動センサ10とアクチュエータ11を繋ぐ制振システム9用の配線12が、配線用空間8の内部に配置される。
【0018】
制振システム9を構成する振動センサ10は、
図1に示すように、ササラ桁1の長手方向のほぼ中央に支持される踏み板4に配設され、更に、
図2に示すように、その踏み板4の左右方向のほぼ中央においてコンクリート内に埋設される。そして、その振動センサ10からの配線12が、踏み板4のコンクリート内に埋設され、かつ、L形鋼材2に開口の貫通孔を通って配線用空間8の内部に配置される。
他方、膜型圧電セラミックス製のアクチュエータ11は、
図1および
図3に示すように、ササラ桁1の下方部位1aと下層階の躯体Dとの間に亘って左右に2個配設され、かつ、
図1に示すように、ササラ桁1の上方部位1bと上層階の躯体Uとの間に亘って左右に2個配設される。つまり、膜型圧電セラミックス製のアクチュエータ11は、合計4個配設され、各アクチュエータ11は、ササラ桁1の側において、ササラ桁1の下方部位1aまたは上方部位1bを構成するL形鋼材2の下面に貼着されて取り付けられ、壁材13の裏側に配置される。
【0019】
膜型圧電セラミックス製のアクチュエータ11は、歩行によってササラ桁1に振動が生じると、ササラ桁1の下方部位1aおよび上方部位1bの下面と下層階の躯体Dおよび上層階の躯体Uとの間で伸縮することにより、ササラ桁1の下方部位1aおよび上方部位1bにササラ桁1の幅方向に沿う軸を中心とする回転モーメントを付加して、ササラ桁1に逆位相の振動を付与するものである。そのため、左右一対のササラ桁1は、下層階の躯体Dと上層階の躯体Uに対して、一定の範囲内で相対回転可能な状態で支持される。
そして、階段を昇降する際、歩行によってササラ桁1に歩行振動が生じると、振動センサ10からの情報に基づいて、各膜型圧電セラミックス製のアクチュエータ11が適宜伸縮してササラ桁1に逆位相の振動を付与して、ササラ桁1の振動を抑制する。
【0020】
以上詳述したように、本発明においては、ササラ桁1が、断面L字状のL形鋼材2と平鋼3をタップ溶接して構成されるので、比較的少ない溶接量で必要な有効断面積を有するササラ桁1を構成することができる。
すなわち、鋼材でU字状のササラ桁を構成する場合、例えば、
図4の(a)に示すように、左右一対の側板2a、3とその側板2a、3の底部を繋ぐ底板2bの全てを鋼板材で構成し、それらをタップ溶接して構成することも可能である。しかし、その場合には、溶接量が多くなり、かつ、内側の側板2aのみで必要な有効断面積を確保することになるため、有効断面積が比較的小さくなり、有効断面積を確保しようとすると、ササラ桁の成を大きくする必要がある。
また、
図4の(b)に示すように、底板2bに開先を設け、その全長に亘って内側の側板2aに連続溶接して構成することも可能である。しかし、その場合には、有効断面積の確保は可能になるものの、溶接量が極端に多くなる。
その点、L形鋼材2と平鋼3で構成する場合には、溶接量が少なく、かつ、有効断面積も比較的大きく、その分、ササラ桁の成を小さくすることが可能となる。
【0021】
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、L形鋼材2に関し、市販の山形鋼の一辺の一部を切除して構成した例を示したが、その他、市販のT形鋼や溝形鋼などを使用して構成することもでき、平鋼材に関しても、市販の平鋼3で構成する以外に、例えば、市販の平板鋼や各種の形鋼を切断して構成することも可能である。
また、手摺支持材5に関し、透明のガラス板で構成した例を示したが、その他、半透明のガラス板、透明または半透明のアクリル板、更には、複数本の棒材などで構成することも可能である。
【0022】
(2)先の実施形態では、ササラ桁1の歩行振動を抑制するために、制振システム9を設けた例を示したが、ササラ桁1にあまり歩行振動が生じない場合には、制振システム9を設けることなく実施することも可能である。その場合、配線用空間8には、各種の安全装置や警報装置の信号伝達用の配線や給電用の配線など、階段に沿って敷設する必要のある配線類を配置することになる。
更には、配線用空間8をなくして実施することも可能で、その場合には、手摺支持材5をササラ桁1で支持するに際し、手摺支持材5の下端部をササラ桁1の底部によって直接支持することも可能である。
【0023】
(3)先の実施形態では、ササラ桁1に振動を付与するアクチュエータとして膜型圧電セラミックス製のアクチュエータ11を使用した例を示したが、その他、油圧式や電磁式などの各種アクチュエータを使用することができる。更に、そのアクチュエータ11を左右一対のササラ桁1のうちの一方のササラ桁1の上下端部にのみ取り付けて実施することも、また、上下端部の一方にのみ取り付けて実施することも可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 ササラ桁
2 L形鋼材
3 平鋼材
4 踏み板
5 手摺支持材
6 手摺
7 支持ブラケット
8 配線用空間
9 制振システム
10 振動センサ
11 アクチュエータ
12 制振システム用の配線