(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車内部品のインストルメントパネル(instrument panel 以下、「インパネ」と略称する)のような樹脂成形部材を成形する成形技術として、射出成形法が広く用いられている。射出成形法は、固定型と可動型とで形成される空間内に、溶融した樹脂を射出し、固化させることで樹脂成形部材を成形するものである。従来、射出成形法で形成されたインパネに別部品を追加したり塗装することで、色や材質の違いを表現して、意匠性を付与していた。しかしながら、別部品を追加する場合、当該別部品の加工や取り付け工程の追加により製造コストが増加し、また、別部品を追加することで重量が増加するという問題があった。また、塗装する場合も、塗装工程の追加により製造コストが増加するという問題があった。
【0003】
この問題を解消して、製造コストや重量の増加を抑制しつつ意匠性を付与したインパネを成形する方法として、多色成形による射出成形法が知られている。多色成形は、異なる樹脂材料からなる各部分を一体に有する樹脂成形部材を同一金型内で成形するものである。多色成形は、デザイン上の観点から異なる色の樹脂材料を用いたり、強度、耐熱性、コストなどの性質の異なる樹脂材料を用いる場合に利用される。特許文献1には、2種類の樹脂材料を用いる多色(2色)成形が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インパネの例えば寸法の小さい開口部の周縁に、色の異なる樹脂材料による部分を成形する場合、溶融した樹脂材料を射出するためのゲートを設けることが困難である場合がある。2色成形にはスライド型が用いられるが、当該スライド型の配置スペースを確保する必要があるので、ゲートの配置に制約がある。また、開口部の面積が小さいことで、意匠性に影響を及ぼさないようにゲートを設けることが困難になる。
【0006】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、多色成形によって寸法の小さい開口部の周縁に異なる樹脂材料による部分を成形した場合でも、ゲートの跡が意匠性に影響を及ぼさない樹脂成形部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明によって提供される樹脂成形部材は、意匠面、前記意匠面の反対側の面である裏面、および、前記意匠面から前記裏面まで貫通する開口部を有する第1の部分と、前記第1の部分と一体として成形され、かつ、前記第1の部分とは異なる樹脂材料からなる第2の部分とを備え、前記第2の部分は、前記開口部の周縁に形成された周縁部と、前記第1の部分の前記裏面に積層され、かつ、前記周縁部に繋がる積層部と、前記積層部に繋がり、かつ、前記意匠面から露出する露出部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、第2の部分において、第1の部分の開口部の周縁に形成された周縁部と、第1の部分の意匠面から露出する露出部とが、第1の部分の裏面に積層される積層部を介して繋がっている。第2の部分は、金型において、露出部が形成される部分にゲートが設けられて、樹脂材料が積層部を介して周縁部に充填されることで、形成される。ゲートの跡が残る露出部は、周縁部から離れた位置に配置でき、他の部材で隠すことができる。また、積層部は第1の部分の裏面に配置される。したがって、寸法の小さい開口部の周縁に第2の部分の周縁部を形成する場合でも、意匠性に影響を及ぼさない。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1〜
図4は、第1実施形態に係る樹脂成形部材を説明するための図である。
図1は、第1実施形態に係る樹脂成形部材10の概略斜視図である。
図2は、樹脂成形部材10の要部拡大斜視図である。
図3(a)は、樹脂成形部材10の要部拡大正面図である。
図3(b)は樹脂成形部材10の要部拡大背面図である。
図4(a)は、
図3(a)のA−A線に沿う要部拡大断面図である。
図4(b)は、
図3(a)のB−B線に沿う要部拡大断面図である。
図4(c)は
図3(a)のC−C線に沿う要部拡大断面図である。樹脂成形部材10は、自動車のインパネであり、2色成形の射出成形法によって成形される。樹脂成形部材10は、第1の部分11および第2の部分12を備える。
【0014】
第1の部分11は、樹脂成形部材10の大部分を占める。第1の部分11は、第1の樹脂材料からなり、溶融された第1の樹脂材料が固化されることで形成される。第1の部分11は、開口部11a、意匠面11bおよび裏面11cを備える。意匠面11bは、搭乗者から見える側の面であり、様々な意匠が施されている。裏面11cは、意匠面11bの反対側の面である。開口部11aは、略矩形状の開口であり、意匠面11bから裏面11cまで貫通している。開口部11aは、エアコンの送風口(いわゆるサイドレジスタ)であり、長辺が10cm程度の小さな開口である。なお、開口部11aの寸法は限定されない。
図2〜
図4では、運転席側の(
図1において右側に配置されている)開口部11aを示している。
【0015】
第2の部分12は、第1の部分11の開口部11aの周縁の全周にわたって形成されており、第1の部分11と一体として形成されている。第2の部分12は、第1の樹脂材料とは異なる第2の樹脂材料からなり、溶融された第2の樹脂材料が固化されることで形成される。樹脂成形部材10は、第1の部分11と第2の部分12とが一体となっており、2色成形の射出成形法によって、一組の金型内で成形される。第2の部分12は、周縁部12a、積層部12b、露出部12c、および取付部12dを備える。
【0016】
周縁部12aは、第1の部分11の開口部11aの周縁に形成されている部分であり、正面視において略矩形の環形状をなす。積層部12bは、周縁部12aに繋がっており、第1の部分11の裏面11cに積層されている。したがって、積層部12bは、正面視において第1の部分11に隠れており、搭乗者からは見えない。また、積層部12bは、露出部12cにも繋がっている。露出部12cは、周縁部12aから離れた位置に配置され、意匠面11bから露出している。露出部12cは、正面視において、略矩形状である。露出部12cは、製造に用いられる金型において、第2の樹脂材料が注入されるゲートが配置される部分に形成される。したがって、露出部12cにはゲートの跡が残っている。露出部12cは、搭乗者から見えないように、他の部材によって隠される。なお、露出部12cの形状および配置位置は限定されない。取付部12dは、積層部12bから裏面11cの向く方向に突出する部分であり、貫通する孔が設けられている。本実施形態では、
図3(b)に示すように、4個の取付部12dが設けられている。取付部12dには、エアコンの送風用のダクトが取り付けられる。なお、取付部12dの数および形状は限定されない。
【0017】
本実施形態では、第2の樹脂材料の色は、第1の樹脂材料の色と異なる。
図1および
図3では、樹脂材料が異なることを明確にするために、第2樹脂材料からなる第2の部分12に、点描を付している。
図1および
図3(a)に示すように、開口部11aの周縁に配置された周縁部12aは、周囲の第1の部分11とは色が異なり、意匠性に優れる。また、本実施形態では、第2の樹脂材料は第1の樹脂材料より強度が強い。したがって、エアコンの送風用のダクトが取り付けられる取付部12dの強度を、第1の部分11より強くできる。また、
図4に示すように、第1の部分11と第2の部分12とが重なる部分(積層部12b)は、より肉厚になるので、強度が増している。
【0018】
次に、樹脂成形部材10を成形するための金型について、
図5を参照して説明する。
【0019】
図5は、樹脂成形部材10を成形するための射出成形用の金型5を示す要部拡大断面図である。金型5は、固定型51、可動型52およびスライド型53を備える。固定型51は、溶融した樹脂材料を射出する射出成形装置(図示なし)に固定される金型である。固定型51は、成形面51aを備える。成形面51aは、固定型51の内側の面であり、樹脂成形部材10の意匠面(第1の部分11の意匠面11b、および、第2の部分12の意匠面)を成形する面である。また、固定型51には、溶融された樹脂材料の通路としてのスプール、ランナおよびゲートが設けられている。
図5には、第2の樹脂の通路としてのランナ51bおよびゲート51cが示されている。ゲート51cは、露出部12cが形成される部分に設けられている。可動型52は、固定型51に対して図の左右方向に移動可能に設けられる金型である。可動型52は、成形面52aおよび孔52bを備える。なお、成形面52aは、
図5には表れていない。成形面52aは、樹脂成形部材10の裏面(第1の部分11の裏面11c)を成形する面である。孔52bは、成形面52aに設けられ、スライド型53を収容する。
【0020】
スライド型53は、2色成形のためにスライドする金型であり、可動型52の孔52bの内部にスライド移動可能に配置されている。スライド型53は、成形面53aを備える。成形面53aは、スライド型53の移動する方向に位置し、かつ、固定型51の成形面51aに対向する面である。成形面53aは、第2の部分12の裏面(搭乗者から見えない側の面)を成形する面である。スライド型53は、孔52bの内面に接触しながら、図に示す太線矢印の方向にスライド移動する。
【0021】
スライド型53は、太線矢印の右方向に移動して、成形面53aの一部が固定型51の成形面51aに当接した状態(
図5において実線で示す)のときに、固定型51の成形面51a、可動型52の成形面52a(
図5には表れていない)、およびスライド型53の成形面53aで囲まれた第1の空間61を形成する。当該第1の空間61に、第1の部分11となる溶融された第1の樹脂材料71が射出される。このとき、ゲート51cは、スライド型53の成形面53aでふさがれている。また、スライド型53は、太線矢印の左方向に移動して、成形面53aの全体が固定型51の成形面51aから離間した状態(
図5において破線で示す)のときに、その移動により第2の空間62を形成する。当該第2の空間62に、第2の部分12となる溶融された第2の樹脂材料72が射出される。
【0022】
次に、樹脂成形部材10の製造方法について、
図6を参照して説明する。
図6は、樹脂成形部材10の製造方法を説明するための要部拡大断面図である。
【0023】
まず、
図6(a)に示すように、固定型51と可動型52とを型締めし、スライド型53を太線矢印の右方向に移動させて、スライド型53の成形面53aの一部が固定型51の成形面51aに当接した状態にする。このとき、固定型51の成形面51a、可動型52の成形面52a(
図6には表れていない)、およびスライド型53の成形面53aで囲まれた第1の空間61が形成される。当該第1の空間61は、樹脂成形部材10の第1の部分11を成形するための空間である。次に、第1の空間61に、溶融された第1の樹脂材料71を射出する。第1の樹脂材料71は、固定型51の第1の空間61に位置する部分に設けられたゲート(図示なし)から、第1の空間61に射出される。
図6(a)は、溶融された第1の樹脂材料71が、第1の空間61の途中まで充填されている状態を示している。次に、第1の空間61に充填された第1の樹脂材料71を固化させる。これにより、第1の部分11が成形される。
【0024】
次に、
図6(b)に示すように、スライド型53を太線矢印の方向に移動させて、スライド型53の成形面53aの全体が固定型51の成形面51aから離間した状態にする。この移動により、第2の空間62が形成される。第2の空間62は、固定型51の成形面51aおよび形成された第1の部分11の裏面11cとスライド型53の成形面53aとの間に位置する。第2の空間62は、樹脂成形部材10の第2の部分12を成形するための空間である。スライド型53の移動により、成形面53aでふさがれていたゲート51cは、第2の空間62に繋がっている。
【0025】
次に、
図6(c)に示すように、第2の空間62に、溶融された第2の樹脂材料72を射出する。第2の樹脂材料72は、ゲート51cから、第2の空間62に射出される。
図6(c)は、溶融された第2の樹脂材料72が、第2の空間62の途中まで充填されている状態を示している。次に、第2の空間62に充填された第2の樹脂材料72を固化させる。これにより、第2の部分12が、第1の部分11と一体として成形される。以上により、第1の樹脂材料71からなる第1の部分11と、第2の樹脂材料72からなる第2の部分12とを一体に有する樹脂成形部材10が、一組の金型5内で成形される。
【0026】
本実施形態によると、第2の部分12において、第1の部分11の開口部11aの周縁に形成された周縁部12aと、第1の部分11の意匠面11bから露出する露出部12cとが、第1の部分11の裏面11cに積層される積層部12bを介して繋がっている。第2の部分12は、金型5において、露出部12cが形成される部分にゲート51cが設けられて、第2の樹脂材料72が第2の空間62に充填されることで形成される。ゲート51cの跡が残る露出部12cは、周縁部12aから離れた位置に配置でき、他の部材で隠すことができる。また、積層部12bは第1の部分11の裏面11cに配置される。つまり、周縁部12a以外の積層部12bおよび露出部12cは、搭乗者から見えないように隠される。したがって、寸法の小さい開口部11aの周縁に第2の部分12の周縁部12aを形成する場合でも、意匠性に影響を及ぼさない。また、ゲート51cは周縁部12aが形成される部分に設けられないので、色替えのための複数のゲート51cを設けることも可能である。
【0027】
なお、本実施形態においては、開口部11aが略矩形状の場合について説明したが、これに限られず、開口部11aの形状は限定されない。開口部11aは、例えば
図7(a)に示すように、円形状であってもよい。また、本実施形態においては、開口部11aの周縁の全周にわたって周縁部12aが形成される場合について説明したが、これに限られない。周縁部12aは、開口部11aの周縁の一部、例えば
図7(b)に示すように、下方の1辺のみに形成されてもよい。
【0028】
本実施形態においては、インパネの、エアコンの送風口である開口部11aの周縁に第2の樹脂材料72を用いた第2の部分12を形成する場合について説明したが、これに限られない。その他の開口部の周縁に第2の部分を形成してもよい。
【0029】
本実施形態においては、樹脂成形部材10が自動車のインパネである場合について説明したが、これに限られない。樹脂成形部材10は、自動車のその他の樹脂成形部材であってもよいし、自動車以外の樹脂成形部材であってもよい。本発明は、多色成形によるあらゆる樹脂成形部材に適用することができる。
【0030】
本発明に係る樹脂成形部材は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る樹脂成形部材の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。