(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
(I−組成物の成分)
本発明によるゴム組成物は、少なくとも1種のエラストマーと、補強充填剤と、架橋系と、およびシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される単位から主に構成される水素添加されていてもよい炭化水素系樹脂とをベースとし、前記炭化水素系樹脂は、2000g/mol未満の平均分子量Mz、および
Tg≧80−2*(%HA)
である単位℃で表されるガラス転移温度Tgを有し、式中、%HAは前記樹脂の芳香族プロトン含有率を表し、前記炭化水素系樹脂の含有率は15〜150phr(エラストマーの100質量部に対する質量部)の範囲である。
【0008】
「をベースとする組成物」という表現は、使用される各種基本成分のその場での混合物および/または反応生成物を含む組成物を意味するものと理解すべきであり、これらの基本成分のいくつかは、少なくとも一部が、組成物製造の各種段階において、またはその後の硬化中に、相互に反応し、開始時点で調製された組成物を改質する能力および/または傾向を有する。従って、本発明に用いられる組成物は、非架橋状態と架橋状態で異なる場合がある。
本明細書の記載において、明示的な指示がない限り、示された全て百分率(%)は質量百分率である。更に、「aからbの間」という表現により示される値の範囲は、aより大きい値からbより小さい値に及ぶ範囲を表す(即ち、限界値であるaおよびbは除外される)のに対して、「a〜b」という表現により示される値の範囲は、aからbに及ぶ値の範囲を意味する(即ち、厳密な限界値であるaおよびbを含む)。
【0009】
「主な」化合物に言及するとき、「主な」とは、本発明の意味の範囲内において、その化合物が組成物中の同型の化合物の中で主なものであること、即ち、同型の化合物のうち最大の質量を示す化合物であることを意味すると理解される。従って、例えば、主なポリマーとは、組成物中のポリマーの総質量に対して最大の質量を示すポリマーである。同様に、「主な」充填剤とは、組成物中の充填剤のうち最大の質量を示す充填剤である。例えば、本発明の意味の範囲内において、1種のみのポリマーを含む系では、そのポリマーが主なものであり、2種のポリマーを含む系では、主なポリマーは、2種のポリマーの質量の半分を超える質量を示すものとなる。これに対して、「少量の(minor)」化合物は、同型の化合物のうち最大の質量分率を示さない化合物である。
【0010】
本発明の目的に関して、同じ化合物(またはポリマー)中の「主な」単位(またはモノマー)に言及するとき、その単位(またはモノマー)が、化合物(またはポリマー)を形成する単位(またはモノマー)の中で主なものであること、即ち、化合物(またはポリマー)を形成する単位(またはモノマー)のうち最大の質量分率を示す単位(またはモノマー)であるという意味が意図されている。従って、例えば、シクロペンタジエン単位から主に構成される樹脂は、シクロペンタジエン単位が、前記樹脂を構成する全単位のうち最大の質量を示す樹脂である。同様に、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される単位から主に構成される樹脂は、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される単位全体が、前記樹脂を構成する全単位のうち最大の質量を示す樹脂である。換言すれば、「主な」モノマーとは、ポリマー中で最大の質量分率を示すモノマーである。これに対して、「少量の」モノマーとは、ポリマー中で最大の質量分率を示さないモノマーである。
本出願において、化合物Aと化合物Bの量の比、または化合物Aの含量と化合物Bの含量の比に言及するとき、この比は常に、化合物Aの量対化合物Bの量の数学的意味における比である。
(I−1.エラストマー)
エラストマーは、ジエンエラストマーおよびこれらの混合物からなる群から選択されてよい。
ここで、「ジエン」型のエラストマー(または「ゴム」、この2つの用語は同義語として解釈される)とは、公知の通り、少なくとも一部分(即ち、ホモポリマーまたはコポリマー)について、ジエンモノマー(2つの共役または非共役炭素間二重結合を持つモノマー)から生じる1種(1種以上と理解される)のエラストマーを意味するものと理解すべきことに留意されたい。
【0011】
ジエンエラストマーは、「本質的に不飽和」または「本質的に飽和」という2つのカテゴリーに分類することができる。「本質的に不飽和」とは、一般に、少なくとも一部分が共役ジエンモノマーから生じるジエンエラストマーであり、ジエン由来(共役ジエン)の単位の含有率が15%(mol%)を超えることを意味すると理解される。従って、ブチルゴムまたはジエンのコポリマーおよびEPDM型のα−オレフィンのコポリマーなどのジエンエラストマーは、上記定義に当てはまらず、「本質的に飽和」のジエンエラストマー(ジエン由来単位の含有率は低いか、非常に低く、常に15%未満である)として特に記載することができる。「本質的に不飽和」のジエンエラストマーのカテゴリーにおいて、「高不飽和」ジエンエラストマーとは、ジエン由来(共役ジエン)単位の含有率が50%を超えるジエンエラストマーを特に意味するものと理解される。
【0012】
これらの定義に基づいて、本発明の組成物中で使用できるジエンエラストマーは、より詳細には、
(a)4〜12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーの重合により得られるホモポリマー;
(b)1つ以上の共役ジエンと別の1つの共役ジエンとの重合、または1つ以上の共役ジエンと8〜20個の炭素原子を有する1つ以上のビニル芳香族化合物との重合により得られるコポリマー;
(c)エチレンおよび3〜6個の炭素原子を有するα−オレフィンと、6〜12個の炭素原子を有する非共役ジエンモノマー、例えばエチレンおよびプロピレンから得られるエラストマーと、前述の型の非共役ジエンモノマー、特に1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネンまたはジシクロペンタジエンと、の共重合により得られる三成分系コポリマー;
(d)イソブテンおよびイソプレン(ブチルゴム)と、この型のポリマーのハロゲン化物、特に塩素化または臭素化物とのコポリマー
を意味すると理解される。
本発明はいずれの型のジエンエラストマーにも適用されるが、タイヤの技術分野の当業者であれば、本発明は、本質的に不飽和のジエンエラストマー、特に上記の型(a)または(b)に用いられることが好ましいことを理解するであろう。
【0013】
以下の化合物:1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジ(C
1−C
5アルキル)−1,3−ブタジエン、例えば、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−3−エチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−3−イソプロピル−1,3−ブタジエン、アリール−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンまたは2,4−ヘキサジエンは、共役ジエンとして特に好適である。例えば、以下の化合物:スチレン、オルト−、メタ−、もしくはパラ−メチルスチレン、「ビニルトルエン」市販混合物、パラ−(tert−ブチル)スチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼンまたはビニルナフタレンは、ビニル芳香族化合物として特に好適である。
【0014】
コポリマーは、99質量%から20質量%の間のジエン単位および1質量%から80質量%の間のビニル芳香族単位を含有してもよい。エラストマーは、用いられる重合条件に応じた、特に改質および/またはランダム化剤の有無ならびに用いられる改質および/またはランダム化剤の量に応じた、微細構造を有し得る。エラストマーは、例えば、ブロック、ランダム、逐次またはミクロ逐次エラストマーであってもよく、分散液中または溶液中で調製され得る。それらのエラストマーは、カップリングおよび/または星状枝分れされていてもよく、あるいはカップリング剤および/または星状枝分れ剤もしくは官能基化剤により官能基化されていてもよい。ここで、「官能基」とは、組成物の補強充填剤と相互作用する化学基を意味するものと優先的に理解される。
【0015】
要約すると、本組成物のジエンエラストマーは、望ましくは、ポリブタジエン(「BR」と略記)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる高不飽和ジエンエラストマーの群から選択される。そのようなコポリマーは、より望ましくは、ブタジエン/スチレン(SBR)コポリマーからなる群から選択される。
従って、本発明は、好ましくは、前記ジエンエラストマーが、本質的に不飽和のジエンエラストマーからなる群、特にポリブタジエン、合成ポリイソプレン、天然ゴム、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選択される、組成物に関する。
【0016】
本発明の特に好ましい態様によれば、エラストマーは、−70℃未満、好ましくは−70℃から−110℃の間のガラス転移温度Tgを有するエラストマー、望ましくはジエンエラストマーを主に含む。より望ましくは、エラストマーは、−80℃から−110℃の間、好ましくは−90℃から−110℃の間のガラス転移温度Tgを有するエラストマーを主に含む。
主なジエンエラストマーは、ポリブタジエン、ブタジエンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選択され、より望ましくはポリブタジエン、ブタジエンとスチレンのコポリマー、およびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選択されることが好ましい。
この実施形態によれば、非常に低いTgを有する主な(望ましくはジエン)エラストマーが、望ましくは60phr以上、より望ましくは70phr以上、更に望ましくは80phr以上の含有率で、組成物中に存在する。より好ましくは、組成物は、100phrの、上記定義の非常に低いTgを有するエラストマーを含む。
(I−2補強充填剤)
本発明による組成物は補強充填剤を含む。タイヤ製造者が使用し得るゴム組成物を補強する能力が公知である、いずれの型の補強充填剤を使用してもよく、例えば、カーボンブラックなどの有機充填剤、シリカまたはアルミナなどの無機補強充填剤、またはこれら2つの型の充填剤のブレンドを使用してもよい。
【0017】
全てのカーボンブラック、特に「タイヤグレード」ブラックが、カーボンブラックとして好適である。より詳細には、「タイヤグレード」ブラックのうち、例えばN115、N134、N234、N326、N330、N339、N347もしくはN375ブラックなどの、100、200または300シリーズ(ASTMグレード)、あるいは、目的とする用途に応じて、上位シリーズのブラック(例えば、N660、N683もしくはN772)の補強カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックは、例えば、マスターバッチの形態でイソプレンエラストマー中に混和されていてもよい(例えば、出願WO97/36724またはWO99/16600を参照されたい)。
カーボンブラック以外の有機充填剤の例としては、出願WO2006/069792、WO2006/069793、WO2008/003434およびWO2008/003435に記載されたような官能化ポリビニル有機充填剤を挙げることができる。
【0018】
組成物は、1つの型のシリカまたは複数のシリカのブレンドを含んでよい。使用されるシリカは、当業者に公知であるいずれの補強シリカであってもよく、特に、BET比表面積とCTAB比表面積の両方が450m
2/g未満、好ましくは30〜400m
2/gである、沈降シリカまたはヒュームドシリカであってもよい。高分散性沈降シリカ(「HDS」)としては、例えば、Degussa社製Ultrasil7000およびUltrasil7005シリカ、Rhodia社製Zeosil1165MP、1135MPおよび1115MPシリカ、PPG社製Hi−Sil EZ150Gシリカ、Huber社製Zeopol8715、8745および8755シリカ、例えば出願EP0735088に記載のアルミニウムにより「ドープ」されたシリカまたは出願WO03/16837に記載の高比表面積を有するシリカなどの処理済み沈降シリカが挙げられる。
シリカは、好ましくは、45m
2/gから400m
2/gの間、より望ましくは60m
2/gから300m
2/gの間のBET比表面積を有する。
【0019】
これらの組成物は、カップリング剤に加えて、カップリング活性剤、無機充填剤の被覆剤、またはより一般的には、公知の通り、ゴム母材中の充填剤の分散性向上および組成物の粘度低下により未加工状態における加工性を向上させることができる、加工助剤を含んでいてもよく、これらの剤は、例えば、アルキルアルコキシシラン、ポリオール、脂肪酸、ポリエーテル、第一級、第二級もしくは第三級アミン、またはヒドロキシル化もしくは加水分解性ポリオルガノシロキサンなどの加水分解性シランである。
例えば出願WO03/002648(または米国特許出願公開第2005/016651号)およびW03/002649(または米国特許出願公開第2005/016650号)に記載されているように、特定の構造に応じて「対称」または「非対称」と呼ばれるシランポリスルフィドが特に使用される。
【0020】
以下の定義により限定するものではないが、下記一般式(III):
(III)Z−A−Sx−A−Z
に相当する、「対称」と呼ばれるシランポリスルフィドが特に好適であり、
式中、
− xは、2〜8(好ましくは2〜5)の整数であり;
− Aは、二価の炭化水素基(好ましくは、C
1−C
18アルキレン基またはC
6−C
12アリーレン基、より詳細にはC
1−C
10アルキレン、特にC
1−C
4アルキレン、特にプロピレン)であり;
−Zは、下記式:
【化1】
の1つに対応し、
式中、
−R
1基は、置換または非置換基であり、互いに同一であるか異なり、C
1−C
18アルキル、C
5−C
18シクロアルキルまたはC
6−C
18アリール基(好ましくはC
1−C
6アルキル、シクロヘキシルまたはフェニル基、特にC
1−C
4アルキル基、より詳細にはメチルおよび/またはエチル)を表し、
−R
2基は、置換または非置換基であり、互いに同一であるか異なっており、C
1−C
18アルコキシ基またはC
5−C
18シクロアルコキシ基(好ましくは、C
1−C
8アルコキシおよびC
5−C
8シクロアルコキシから選択される基、より好ましくはC
1−C
4アルコキシ、特にメトキシおよびエトキシから選択される基)を表す。
【0021】
上記式(III)に対応するアルコキシシランポリスルフィドの混合物、特に通常の市販混合物の場合、指数「x」の平均値は、好ましくは2から5の間、より好ましくは約4の分数である。ただし、本発明は、有利には、例えばアルコキシシランジスルフィド(x=2)を用いて実施してもよい。
【0022】
より詳細には、シランポリスルフィドの例として、ビス((C
1−C
4)アルコキシ(C
1−C
4)アルキルシリル(C
1−C
4)アルキル)ポリスルフィド(特に、ジスルフィド、トリスルフィドまたはテトラスルフィド)、例えば、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)またはビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドが挙げられる。特に、これらの化合物のうち、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPTと略記)、式[(C
2H
5O)
3Si(CH
2)
3S
2]
2、またはビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPDと略記)、式[(C
2H
5O)
3Si(CH
2)
3S]
2が使用される。望ましい例として、ビス(モノ(C
1−C
4)アルコキシジ(C
1−C
4)アルキルシリルプロピル)ポリスルフィド(特にジスルフィド、トリスルフィドまたはテトラスルフィド)、より詳細には、特許出願WO02/083782(または米国特許出願公開第2004/132880号)に記載された、ビス(モノエトキシジメチルシリルプロピル)テトラスルフィドも挙げられる。
【0023】
アルコキシシランポリスルフィド以外のカップリング剤として、特許出願WO02/30939(または米国特許第6774255号)およびWO02/31041(または米国特許出願公開第2004/051210号)に記載された、二官能性POS(ポリオルガノシロキサン)またはヒドロキシシランポリスルフィド(上記式IIIではR
2=OH)、または例えば特許出願WO2006/125532、WO2006/125533およびWO2006/125534に記載された、アゾジカルボニル官能基を有するシランまたはPOSも挙げられる。
本発明のゴム組成物において、カップリング剤の含有率は、望ましくは1phrから15phrの間、より望ましくは3phrから14phrの間である。
【0024】
当業者は、本節に記載されたシリカと等価の充填剤として、別の性質の補強充填剤、特に有機補強充填剤を用いることもできるが、その条件として、この補強充填剤がシリカ層で被覆されていること、またはその表面に官能部位、特にヒドロキシル部位を含んでいることがあり、充填剤とエラストマーとの間の結合を形成するためにカップリング剤の使用が必要になることを理解するであろう。
補強充填剤が提供される物理的状態は、粉末、ミクロパール、顆粒、ビーズまたはその他の適切な高密度化形態という形態を問わず、重要ではない。
本発明の目的に関して、補強充填剤全体(カーボンブラックおよび/またはシリカなどの補強無機充填剤)の含有率は、5〜200phr、より好ましくは40〜160phrの範囲である。充填剤が5phr未満である場合、組成物は十分に補強されない可能性があり、充填剤が200phrを超える場合、組成物の転がり抵抗の性能が低下する可能性がある。
【0025】
シリカを主な充填剤として、好ましくは40〜150phr、より望ましくは90〜150phrの範囲の含有率で使用することが好ましく、カーボンブラックを使用してもよい。カーボンブラックは、存在する場合、少量で使用され、好ましくは0.1〜10phr、より望ましくは0.5〜10phr、特に1〜5phrの範囲の含有率で使用される。
(I−3架橋系)
本発明の組成物中では、ゴム組成物の当業者にとって公知である任意の型の架橋系を用いてよい。
【0026】
架橋系は、好ましくは加硫系であり、即ち、硫黄(または硫黄供与剤)および一次加硫促進剤をベースとする。公知の各種二次加硫促進剤または加硫活性剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸もしくは同等の化合物、またはグアニジン誘導体(特にジフェニルグアニジン)を、このベース加流系に添加して、後述する第1の非生産段階および/または生産段階において組み入れてもよい。
硫黄は、好ましくは0.5phrから10phrの間、より望ましくは0.5phrから5phrの間、特に0.5phrから3phrの間の含有率で使用される。
【0027】
本発明による組成物の加硫系は、1種以上の追加の促進剤、例えば、チウラム系化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛誘導体、スルフェンアミド、グアニジンまたはチオホスフェートを含んでもよい。特に、硫黄の存在下でジエンエラストマー加流の促進剤として作用できる任意の化合物、とりわけ、チアゾール型の促進剤およびそれらの誘導体、チラウム型の促進剤、ならびにジチオカルバミン酸亜鉛を使用してもよい。これらの促進剤は、より望ましくは、2−メルカプトベンゾチアゾールジスルフィド(「MBTS」と略記)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(「CBS」と略記)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(「DCBS」と略記)、N−(tert−ブチル)−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(「TBBS」と略記)、N−(tert−ブチル)−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(「TBSI」と略記)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(「ZBEC」と略記)およびこれらの化合物の混合物からなる群から選択される。スルフェンアミド型の一次促進剤を使用することが好ましい。
(I−4特定の炭化水素系樹脂)
本発明による組成物は、特定の炭化水素系樹脂を含む。
この水素添加されていてもよい炭化水素系樹脂は、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される単位から主に構成される。
本発明の目的で使用する炭化水素系樹脂は、50%未満、好ましくは0〜20%の範囲、より好ましくは0〜15%の範囲の芳香族プロトン含有率を有することが好ましい。
望ましい実施形態によれば、本発明の目的で使用する炭化水素系樹脂は、5%未満、好ましくは0%から4%の範囲、好ましくは0%から2%の範囲、好ましくは0%の芳香族プロトン含有率を有する。
別の望ましい実施形態によれば、本発明の目的で使用する炭化水素系樹脂は、3〜15%、好ましくは5〜10%の範囲の芳香族プロトン含有率を有する。
また好ましくは、本発明の目的で使用する炭化水素系樹脂は、0.5%未満、好ましくは0.1%未満のエチレンプロトン含有率を有する。より望ましくは、樹脂はエチレン単位を含まない。
本発明の目的で使用する炭化水素系樹脂は、2000g/mol未満、好ましくは1500g/mol未満の平均分子量Mzを有する。
【0028】
本発明の目的で使用する炭化水素系樹脂はまた、Tg≧80−2*(%HA)である単位℃で表されるガラス転移温度Tgを有し、式中、%HAは、前記樹脂の芳香族プロトン含有率を表し、好ましくはTg≧85−2*(%HA)である。TgはASTM D3418(1999)に従って測定される。
本発明の目的で使用する炭化水素系樹脂は、1.7未満、好ましく1.6未満の多分散指数(PI)を有することが好ましい。
多数の炭化水素系樹脂が市販されている。これらの樹脂は、特に化学組成について、供給者によって異なる、Mz、Tg、芳香族プロトン含有率またはPIの特性を有する場合がある。
【0029】
炭化水素系樹脂のマクロ構造(Mw、Mn、PIおよびMz)は、ISO16014規格(サイズ排除クロマトグラフィーを用いたポリマーの平均分子質量および分子質量分布の決定)、ASTM D5296(高速サイズ排除クロマトグラフィーによるポリスチレンの分子質量平均および分子量分布)およびDIN55672(サイズ排除クロマトグラフィー)に基づいて、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定される。
【0030】
これらの測定のために、樹脂試料を非抗酸化テトラヒドロフラン中に最大1.5g/lの濃度で溶解させた。例えばフィルターに取り付けた使い捨て注射器を使用して、細孔率0.45μmのテフロン(登録商標)フィルターにより溶液を濾過した。サイズ排除クロマトグラフィーカラムのセットを通して、容量100μlを注入した。1ml/分の流速で移動相を溶出した。カラムはオーブン内で35℃にサーモスタット制御した。35℃にサーモスタット制御した屈折計により検出を行った。カラムの固定相は、細孔率を制御したポリスチレンジビニルベンゼンゲルをベースとする。ポリマー鎖は、溶媒中に溶解したときに占有する空間に応じて分離される。占有する容積が大きいほど、ポリマー鎖が入ることができるカラムの細孔は少なくなり、溶出時間は短くなる。
モル質量の対数(logM)と溶出時間(te)を関連づけるムーア較正曲線を、ポリスチレン標準により予め作成し、三次多項式:Log(ポリスチレンのモル質量)=a+bte+cte2+dte3を用いてモデル化した。
較正曲線を得るために、狭い分子分布を有するポリスチレン標準を使用した(多分散指数PIは1.1以下)。これらの標準のモル質量の範囲は160〜約70,000g/molの範囲である。これらの標準を、各群間のlogM増分が約0.55である4または5つの標準の「群」に分類してもよい。
【0031】
認証済み(ISO13885およびDIN 55672)標準キット、例えば、PSS社製バイアルキット(Polymer Standard Service、参照名PSS−pskitr1l−3)、およびWp=162g/molの追加の標準PS(Interchim、参照名178952)を用いてもよい。これらのキットには、好適な量の一群のポリスチレン標準を収容する下記の3つのバイアルの形態:
− 黒色バイアル:Wp=1220、4850、15,500および67,500g/mol
− 青色バイアル:Wp=376、3470、10,400、46,000g/mol
− 黄色バイアル:Wp=266、1920、7200、28,000g/mol
− PS162:Wp=162g/mol
がある。
分析する樹脂の数平均モル質量(Mn)、質量平均モル質量(Mw)、Mzおよび多分散度を、この較正曲線から計算した。このため、ポリスチレン較正に対するモル質量を参照した。
【0032】
平均質量およびPIの計算のために、試料注入に対応するクロマトグラム上に生成物溶出の積分の極限を定義した。2つの積分の極限間に定義された屈折計信号を1秒毎に「切り出した」。これらの「基本切り出し区間(elementary cut)」のそれぞれについて、溶出時間tiおよび検出器からの信号の面積Aiを読み取った。
ここで、PI=Mw/Mnであり、Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量であることに留意されたい。また、質量Mw、MnおよびMzは、下記式:
【数1】
(式中、Aiは、質量Miおよび溶出時間tiに対応する、屈折率検出器からの信号の振幅である)
に従って計算された平均質量であることにも留意されたい。
【0033】
SEC測定に使用した装置は、液体クロマトグラフィーシステム、例えば、ポンプ、デガッサーおよび注入器;示差屈折計(例えば、Waters 2410屈折計)、データ取得および処理用ソフトウェア(例えばWaters Empowerソフトウェア)、カラムオーブン(例えばWaters社製「Columns Heater Module」)および以下の順序で直列に取り付けられた4つのカラムを備えたWaters Alliance 2690システムである。
【0035】
芳香族プロトン含有率(%HA)およびエチレンプロトン含有率(%HE)を
1H NMRにより測定した。検出された全ての信号に対して、この含有率を決定した。従って、得られた結果はピーク面積の%として表される。
【0036】
溶媒約1ml中に樹脂約10mgの量で、重水素化クロロホルム(CDCl
3)中に試料を溶解させた。Bruker社製「広帯域」BBO z−grad 5mmプローブを装備したBruker Avance 500MHz分光計上で、スペクトルを観測した。
1H NMR実験において、30°単一パルス系列および各観測間5秒の繰返し時間を用いた。周囲温度で64回の積算を行った。重水素化クロロホルムのプロトン化した不純物に対して化学シフトを較正した(7.20ppmにおけるδppm 1H)。芳香族プロトンの
1H NMR信号を8.5ppmから6.2ppmの間で特定した。エチレンプロトンは6.2ppmから4.5ppmの間に信号を生じさせた。最後に、脂肪族プロトンに対応する信号を4.5ppmから0ppmの間で特定した。プロトンの各カテゴリーの面積をこれらの面積の合計に関連付け、それによりプロトンの各カテゴリーの面積の%を基準にした分布を得た。
上記の方法を用いて、下記の市販樹脂を分析し、それらの特性を決定した。得られた結果を表1に要約する。
【0037】
【表2】
市販樹脂の分析により、樹脂7〜10が本発明の目的での樹脂の使用の基準に合致することが表1に示されている。
シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンおよびこれらの混合物からなる群から選択される単位から主に構成される、本発明の目的のために使用される樹脂は、これらの単位に加えて、少量で、脂肪族もしくは芳香族単位、または脂肪族/芳香族型の単位、即ち、脂肪族および/または芳香族モノマーをベースとする単位を含んでもよい。
【0038】
芳香族モノマーとして好適なものは、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、オルト−、メタ−、またはパラ−メチルスチレン、ビニルトルエン、パラ−(tert−ブチル)スチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、インデン、またはC
9画分(もしくは、より一般的にはC
8−C
10画分)から得られるビニル芳香族モノマーである。ビニル芳香族モノマーは、スチレン、またはC
9画分(もしくは、より一般的にはC
8−C
10画分)から得られるビニル芳香族モノマーであることが好ましい。
【0039】
特に望ましい実施形態によれば、本発明の目的のために使用される樹脂は、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンまたはこれらの混合物のホモポリマーの樹脂、またはシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンおよびこれらの混合物からなる群から選択されたモノマーからなるコポリマーの樹脂、およびこれらのコポリマー樹脂の混合物からなる群から選択される。同様に、本発明の目的のために使用される樹脂は、上記のモノマーまたはコポリマー樹脂の混合物であってもよい。
また、非常に望ましい別の実施形態によれば、本発明の目的のために使用される樹脂は、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンおよび少量の芳香族単位、または脂肪族/芳香族型の単位からなる群から選択された単位から主に構成される樹脂、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0040】
本発明による組成物中の樹脂の含有率15〜150phr、望ましくは25〜120phr、より望ましくは40〜115phr、更に望ましくは50〜110phr、更に好ましくは65〜110phrの範囲である。実際上、本発明の目的のために使用される樹脂が15phr未満である場合、樹脂の効果は不十分になり、組成物にグリップの問題が生じる場合があるが、150phr超では、全ての樹脂を組成物中に十分に混和させるという点で、組成物の製造が困難になる可能性がある。
(I−5その他の可能な添加剤)
本発明によるゴム組成物は、特にトレッド製造を目的とするエラストマー組成物中で通例的に使用される通常の添加剤、例えば、顔料、保護剤、例えばオゾン劣化防止ワックス、化学的オゾン劣化防止剤または酸化防止剤、上記以外の可塑剤、抗疲労剤、強化用樹脂、またはメチレン受容体(例えば、ノボラックフェノール樹脂)もしくは供与体(例えば、HMTもしくはH3M)の全部または一部を含む。
本発明による組成物は、可塑化系を含んでいてもよい。この可塑化系は、上記の特定の炭化水素系樹脂に加えて、20℃超のTgを有する炭化水素系樹脂、および/または可塑化オイルから構成されてもよい。
当然ながら、本発明による組成物は、単独で、またはタイヤ製造に使用できる他の任意のゴム組成物とのブレンド(即ち、混合物)中で、使用することができる。
本発明が、「未硬化」または非架橋状態(即ち、硬化前の状態)、および「硬化」または架橋もしくは加流状態(即ち、架橋もしくは加硫後の状態)にある、上記のゴム組成物に関することは明らかである。
(II−ゴム組成物の調製)
本組成物は、当業者にとって周知である順次的な2つの調製段階を用いて、適切な混合機内で製造される。即ち、110℃から200℃の間、好ましくは130℃から180℃の間の最高温度まで、高温にて熱機械的に加工または混練を行う第1段階(「非生産」段階と称することがある)、続いて、典型的には110℃未満、例えば60℃から100℃の間の低い温度で機械加工する第2段階(「生産」段階と称することがある)を経て、第2段階における仕上げ段階で架橋系または加流系を組み入れる。このような段階は、例えば、出願EP0501227、EP0735088、EP0810258、WO00/05300またはWO00/05301に記載されている。
【0041】
第1の(非生産)段階は、望ましくは、複数の熱機械的工程において実施される。第1のステップにおいて、エラストマー、補強充填剤および炭化水素系樹脂(架橋系を除く、カップリング剤および/またはその他の成分を使用してもよい)を、20℃から100℃の間、好ましくは25℃から100℃の間の温度で、通例的な密閉式混合機などの適切な混合機に投入する。数分後、望ましくは0.5〜2分後、かつ90℃または100℃への温度上昇後、架橋系を除く、他の成分(即ち、開始時に全ての成分を投入しない場合の残りの成分)を、20秒から数分間混合しながら、一度に全部または小分けにして添加する。この非生産段階における混練の総継続時間は、180℃以下、望ましくは170℃以下の温度において、好ましくは2分間から10分間の間である。
こうして得られた混合物を冷却した後、次いで、一般的には開放形ロール機などの外部混合機に、低温(典型的には100℃未満)で、架橋系を組み入れる。次いで、一緒にした混合物を、数分間、例えば5分間から15分間の間にわたり混ぜる(生産段階)。
こうして得られた最終組成物は、その後、特に実験室での特性決定のために、例えばシートまたはスラブ状に圧延されるか、例えばタイヤ用半完成品の製造に使用するゴムプロファイル要素を形成するために押出し加工される。次いで、これらの製品は、タイヤ硬化前の層同士の良好な粘着性という本発明の利点と共に、当業者に公知の技術に従い、タイヤ製造に使用することができる。
【0042】
架橋(または硬化)は、特に硬化時間、使用する架橋系、検討対象となる組成物の架橋の反応速度論またはタイヤのサイズの関数として、例えば5分間から90分間の間で変わり得る十分な時間にわたり、圧力下で、通例130℃から200℃の間の温度にて、公知の方法により実施される。
以下の例は本発明の例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
(III−本発明の例示的実施形態)
(III−1例の調製)
以下の例では、上記の通り、ゴム組成物を製造した。
(III−2例の特性決定)
例において、以下に示すように、硬化前および/または後に、ゴム組成物の特性決定を行った。
【0043】
(動的特性(硬化後):)
ASTM D 5992−96規格に従い、粘度分析器(Metravib V A4000)で、動的特性G*およびtan(δ)maxを測定した。0.7MPaの最大応力下で、+1.5℃/分の温度勾配で−80〜+100℃までの温度掃引中に、周波数10Hzで単純な交互の(simple alternating)正弦剪断応力に曝した、加硫組成物の試料(厚さ4mmおよび直径10mmの円筒形試験片)の反応を記録した。次いで、0℃および60℃で、損失角の接線値(tan(δ))を記録した。
【0044】
60℃でのtan(δ)値が小さいほど、組成物のヒステリシスが低くなり、従って、転がり抵抗も小さくなる。結果は性能基準100に換算して表し、即ち、100の値を最良の対照に任意に割り当て、その後、各種試験溶液の60℃でのtan(δ)(即ち、ヒステリシス、従って転がり抵抗)を比較した。基準100における値を、演算:(対照の60℃でのtan(δ)値/試料の60℃でのtan(δ)値)*100に従って計算した。この場合、より小さな値はヒステリシス性能の低下(即ち、ヒステリシスの増大)を表し、より大きな値はより良好なヒステリシス性能(即ち、ヒステリシスの低減)を表す。
【0045】
0℃でのtan(δ)の値については、この値が大きいほど、組成物は良好なウエットグリップを持つことになる。結果は性能基準100に換算して表し、即ち、100の値を最良の対照に任意に割り当て、各種試験溶液の0℃でのtan(δ)を計算し、その後比較した。基準100における値を、演算:(試料の0℃でのtan(δ)値/対照の60℃でのtan(δ)値)*100に従って計算した。この場合、より小さな値はグリップ性能の低下(即ち、より低い0℃でのtan(δ)値)を表し、より大きな値はより良好なグリップ性能(即ち、より高い0℃でのtan(δ)値)を表す。
(III−3例)
本組成物は、加流系を除く成分の全てを密閉式混合機に投入して製造する。加硫剤(硫黄および促進剤)を低温で外部混合機に投入した(混合機の成分ローラーは約30℃であった)。
【0046】
表2に示す例の目的は、対照組成物(T0〜T7)の各種ゴム特性と本発明による組成物(C1〜C4)の特性について比較することである。硬化前および硬化後に測定した特性を表3に示す。
【0049】
対照組成物と比較すると、本発明によるものではなく可塑化樹脂を含まない組成物T0は、低く改善を要するグリップ(0℃でのtan(δ)値により測定)を有することに留意されたい。従って、この組成物のグリップは、他の組成物の性能と比較するための基準100を示す。樹脂を含む全ての組成物が、この性能の改善を可能にすることに留意されたい。一方で、組成物C1〜C4およびT4のみが、グリップの60%超の改善を可能にする。一方で、本発明による組成物(C1〜C4)とは対照的に、組成物T4は、ヒステリシス性能が大幅に低下しており、本発明にとって適切ではない可能性がある。従って、組成物C1〜C4(T0と比較して25%以上改善された性能特性の平均を有する)のみが、良好なヒステリシス性能(60℃でのtan(δ)値により測定)と60%を超えて改善されたグリップを有すると言える。