(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976937
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】酵素的方法によって人参のサポニンからジンセノサイドF2、コンパウンドMcおよびコンパウンドOを選択的に製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/44 20060101AFI20211125BHJP
C12P 33/00 20060101ALI20211125BHJP
C07J 9/00 20060101ALI20211125BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20211125BHJP
A61K 36/258 20060101ALN20211125BHJP
A61K 125/00 20060101ALN20211125BHJP
【FI】
C12P19/44
C12P33/00
C07J9/00
!A61P43/00 105
!A61K36/258
A61K125:00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-519910(P2018-519910)
(86)(22)【出願日】2016年10月21日
(65)【公表番号】特表2018-531018(P2018-531018A)
(43)【公表日】2018年10月25日
(86)【国際出願番号】KR2016011900
(87)【国際公開番号】WO2017069561
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2019年9月27日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0147353
(32)【優先日】2015年10月22日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506213681
【氏名又は名称】アモーレパシフィック コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】ナム ギ ベク
(72)【発明者】
【氏名】キム ドン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ホン ヨン ドク
(72)【発明者】
【氏名】パク ジュン ソン
(72)【発明者】
【氏名】ピョン キョン ヒ
【審査官】
中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−527233(JP,A)
【文献】
特表2007−530531(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2009−0061107(KR,A)
【文献】
Process Biochemistry, 2011.12.17, vol. 47, no. 3, pp. 538-543
【文献】
Chem Pharm Bull., 2007.07.25, vol. 55, no. 10, pp. 1522-1527
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
AGRICOLA/BIOTECHNO/CABA/FSTA/
SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルスアクレアタスから分離したペクチナーゼを用いて、人参のサポニンを転換させることによって、下記の化学式1で示すジンセノサイドF2、下記の化学式2で示すコンパウンドMcまたは下記の化学式3で示すコンパウンドOを選択的に製造する方法
であって、
[化学式1]
【化1】
[化学式2]
【化2】
[化学式3]
【化3】
(1)基質である人参のサポニンを水性溶媒または水性溶媒と有機溶媒との混合液中に溶解させ、酵素として前記ペクチナーゼを添加して、加温状態の水浴槽上で撹拌しながら30〜60℃で24〜96時間反応させ、前記水性溶媒または水性溶媒と有機溶媒との混合液はpHが3〜6の範囲であり、前記の基質である人参のサポニンはジンセノサイドRb1、Rb2、Rc又はRdを含み、前記酵素は基質の量に対して10〜400重量%の量で用いられる段階と、
(2)前記の基質が完全消失したら、酵素を不活性化させて反応を終了させる段階と、
(3)前記段階(2)で得た反応液に酢酸エチルを添加して抽出した後に濃縮させて、ジンセノサイドF2、コンパウンドMcまたはコンパウンドOを分離する段階と、
を含む方法。
【請求項2】
前記(1)の酵素の反応は、基質の量に対して200重量%の量で用いられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)の酵素の反応は、30℃の温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(1)の酵素の反応は、24時間行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記の水性溶媒または水性溶媒と有機溶媒との混合液は、pHが3.5〜5.5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人参のサポニンから、本来人参内に微量に存在するジンセノサイドF2、コンパウンドMcおよびコンパウンドOを選択的に製造する方法に関し、さらに詳細には、人参から得られるサポニンに特定の酵素を処理して、上記サポニンを構造転換させることによって所望する目標化合物、すなわち、ジンセノサイドF2、コンパウンドMcおよびコンパウンドOを高収率に収得することのできる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人参サポニンは他の植物から発見されるサポニンとは異なる特異な化学構造を有しており、これによって薬理効能も特異なため、人参(ginseng)配糖体(glycoside)という意味で“ジンセノサイド(ginsenoside)”とも呼ばれる。人参サポニンの具体的な種類としては、パナキサジオール系であるジンセノサイドRb1、Rb2、Rc、Rd、コンパウンドK、コンパウンドMc、コンパウンドOなど、およびパナキサトリオール系であるジンセノサイドRe、Rf、Rg1、Rg3、Rg5、Rh1、Rh2などがあって、これら人参サポニンはそれぞれ異なる効能を表す。
【0003】
[反応式1]
【化1】
【0004】
上記の反応式1に示すように、特にパナキサジオール系サポニンであるジンセノサイドRb1、Rb2、Rcなどは微生物代謝によって他の人参サポニンに転換され得るため、人参サポニンから他の種類の特定の人参サポニンに転換させる方法として酵素を用いる方法が以前から使用されている。
【0005】
しかしながら、従来の酵素を用いる転換反応は、基質に対する酵素の非特異性が大きいため用いられるサポニン基質対比極めて多い量の酵素を使用せざるを得ず、酵素反応が所望する人参サポニンで終了されるのではなく、追加反応が非特異的に行われるため、所望する人参サポニンにのみ転換されずに他の人参サポニンが多様に生成されて所望する人参サポニンの収率が極めて低かった。
【0006】
また、人参サポニンを収得する従来の方法は、所望する特定の人参サポニンだけに転換させるのではなく、転換された多様な人参サポニンを抽出などを通して収得した後、これを精製して、所望する人参サポニンのみを分離することを技術的解決策としている。
【0007】
ところが、このような従来方法は、純粋な特定の人参サポニンを収得するために精製による追加的な費用、時間などが所要されるため、人参サポニンの販売価が上昇せざるを得ず、これによって関連製品に人参サポニンを多量に適用するには限界がある。
【0008】
さらに、ジンセノサイドRb1において糖の非選択的除去によりジンセノサイドRd、ジンセノサイドXVII、ジンセノサイドLXXV、コンパウンドKなどが生成され、ジンセノサイドRb2において糖の非選択的除去によりコンパウンドYが生成され、ジンセノサイドRcにおいて糖の非選択的除去によりコンパウンドMc1が生成され得るため、酵素反応が非特異的に行われると、ジンセノサイドF2、コンパウンドMcなどのような代謝物を高収率に得ることは難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】大韓民国公開特許第10−2002−0058153号(2002年7月12日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の方法により特定の人参サポニンを収得するためには、費用が多くかかるのみならず、所望する人参サポニンを大量に入手することが困難であった。したがって、目標人参サポニンを大量に生産することができ、かつ費用を節減することのできる製造方法を開発する必要性が存在した。
【0011】
それゆえ、本発明は、所望する特定の人参サポニンを高収率に収得することができ、かつ実施が容易な人参サポニンの転換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、アスペルギルス属から分離したペクチナーゼおよびベータ‐グルカナーゼからなる群より選択される一種以上を用いて、人参のサポニンを転換させることによって、ジンセノサイドF2、コンパウンドMc、コンパウンドOを製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明による人参サポニンへの転換方法を用いることによって、所望する人参サポニンを高収率で容易に収得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、人参サポニンへの転換反応後に生成されるジンセノサイドF2、コンパウンドMc、コンパウンドOをシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は酵素的方法によって人参のサポニン、特にパナキサジオール系サポニンを転換させて下記の化学式1で示すジンセノサイドF2、下記の化学式2で示すコンパウンドMcおよび下記の化学式3で示すコンパウンドOを選択的に製造する方法に関する。具体的に、糖の選択的除去を通じてジンセノサイドRb1をジンセノサイドF2に転換することができ、ジンセノサイドRcをコンパウンドMcに転換することができ、ジンセノサイドRb2をコンパウンドOに転換することによって、所望する人参サポニンを選択的に製造することができる。
【0019】
本発明の方法によると、微生物由来の酵素を用いることによって、人参のサポニンから所望する人参サポニンへの転換が効率的に行われるようにして、高収率にジンセノサイドF2、コンパウンドMcおよびコンパウンドOを収得することができる。
【0020】
具体的には、本発明において用いられる酵素は、好ましくはアスペルギルス属の微生物、特にアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルスアクレアタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルスルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)およびアスペルギルスオリゼ(Aspergillus oryzae)からなる群より選択される一種以上の微生物から得られるものであって、最も好ましくはアスペルギルスアクレアタスから得られるものである。
【0021】
さらに、本発明において用いられる酵素は、アスペルギルス属の微生物から分離したラクターゼ、セルラーゼ、ベータ‐ガラクトシダーゼ、ナリンギナーゼ、ヘミセルラーゼ、ベータ‐グルカナーゼ、ペクチナーゼ、またはこれらの混合物であることができ、好ましくはペクチナーゼ、ベータ‐グルカナーゼ、またはこれらの混合物である。
【0022】
大部分が同一な作用を行う同じ種類の酵素であっても、酵素が由来した微生物の種によって、具体的に酵素が基質内で作用する部位が相違して基質特異性に差が生じる。したがって、本発明においては、最も好ましくはアスペルギルスアクレアタスから得られるペクチナーゼおよびベータ‐グルカナーゼからなる群より選択される一種以上を用いることである。
【0023】
本発明においては、人参のサポニンを溶媒に0.01〜20重量%の量で溶解させた後、上記酵素を用いて酵素的方法によって、サポニンを所望する人参サポニンに転換させる。このとき用いられる溶媒としては、酵素の活性を阻止しないものを使用することが好ましく、例えば、水または緩衝溶液のような水性溶媒、あるいは水または緩衝溶液のような水性溶媒と有機溶媒との混合液を使用することができる。具体的にこのとき用いられる緩衝溶液としては酢酸、クエン酸、リン酸またはクエン酸‐リン酸などであり、有機溶媒としてはアセトニトリル、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノールなどである。好ましくは、用いられる溶媒としてはpH範囲が2.5〜7.5、より好ましくは3〜6、さらに好ましくは3.5〜5.5である。
【0024】
本発明の方法において、用いられる酵素は、使用する基質の量に対して、1〜500重量%の量で添加されるのが好ましく、より好ましくは10〜400重量%、さらに好ましくは10〜200重量%の量で添加される。
【0025】
反応温度は、酵素の不活性化が行われない温度条件でなければならないが、好ましくは30〜60℃、より好ましくは35〜60℃、さらに好ましくは40〜55℃の範囲で温度を維持することである。
【0026】
さらに、反応時間も酵素の活性が維持される期間であれば特に制限を受けないが、1〜120時間、好ましくは1〜96時間、より好ましくは24〜96時間、さらに好ましくは24〜72時間撹拌しながら反応させることである。
【0027】
以降、沸騰水浴槽における加熱のような公知の方法を用いて、酵素を不活性化することによってジンセノサイドF2、コンパウンドMcおよびコンパウンドOを多量含有した反応液を得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。但し、次の実施例で本発明の範疇が限定されるものではない。
【0029】
[参考例1]人参精製サポニンの製造
紅参、白参、水参、尾参あるいはこれらの人参の葉、人参の花、人参の実2kgにエタノール20リットル(L)を入れ、3回還流抽出した後、15℃で6日間沈積させた。その後、ろ過布ろ過と遠心分離を通じて残渣とろ液を分離し、分離されたろ液を減圧濃縮して得られたエキスを水に懸濁した後に、エーテル1Lで5回抽出して色素を除去し、水層を1‐ブタノール1Lで3回抽出した。これから得られた総1‐ブタノール層を5%KOHで処理した後に、蒸留水で洗浄し、減圧濃縮して1‐ブタノールエキスを収得し、これを少量のメタノールに溶かした後、大量の酢酸エチルに加えて、生成された沈殿物を乾燥させることによって、人参精製サポニン(ジンセノサイドRb1、Rb2、Rc、Rd、Re、Rg1、Rfなどを含む)40〜80gを収得した。
【0030】
[実施例1]酵素反応を通じたジンセノサイドF2、コンパウンドMc、コンパウンドOの製造
上記参考例1の人参精製サポニン(ジンセノサイドRb1、Rb2、Rc、Rd、Re、Rg1、Rfなどを含む)10gを水1Lに入れて溶解した。
その後、上記混合液にアスペルギルスアクレアタスから分離したペクチナーゼを基質対比200重量%添加した後、30℃で24時間反応させた。薄層クロマトグラフィーによって周期的に確認して基質が完全に消失されると、沸騰水浴槽で10分間加熱して酵素を不活性化させて、反応を終了させた。最後に、反応液に酢酸エチルを1:1の比率(反応液に対する体積比)で入れて、3回抽出した後に濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=9:1)によって、
図1に示すようにジンセノサイドF2、コンパウンドMc、コンパウンドOを分離した。
【0031】
使用した参考例1の人参サポニン10gには、2.66gのジンセノサイドRb1、0.73gのジンセノサイドRb2、1.23gのジンセノサイドRcおよび0.38gのジンセノサイドRdが存在した。ジンセノサイドF2は、ジンセノサイドRb1およびジンセノサイドRdから95%以上の収率で転換し、コンパウンドMcは、ジンセノサイドRcから95%以上の収率で転換し、コンパウンドOはジンセノサイドRb2から95%以上の収率で転換した。