特許第6976941号(P6976941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6976941白血病に罹患している対象の治療レジメンを選択するためのアッセイ及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6976941
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】白血病に罹患している対象の治療レジメンを選択するためのアッセイ及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7068 20060101AFI20211125BHJP
   A61K 31/404 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/497 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/505 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/553 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20211125BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20211125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   A61K31/7068
   A61K31/404
   A61K31/44
   A61K31/4709
   A61K31/496
   A61K31/497
   A61K31/505
   A61K31/517
   A61K31/5377
   A61K31/553
   A61K31/704
   A61K45/00
   A61P35/02
   A61P43/00 121
【請求項の数】4
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-525429(P2018-525429)
(86)(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公表番号】特表2018-535975(P2018-535975A)
(43)【公表日】2018年12月6日
(86)【国際出願番号】US2016061444
(87)【国際公開番号】WO2017083592
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2019年9月12日
(31)【優先権主張番号】62/254,109
(32)【優先日】2015年11月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507250966
【氏名又は名称】セレーター ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】518164548
【氏名又は名称】オレゴン ヘルス アンド サイエンス ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】OREGON HEALTH & SCIENCE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン, マックス
(72)【発明者】
【氏名】ターディ, ポール
(72)【発明者】
【氏名】タイナー, ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー, ローレンス
【審査官】 新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】 Blood,[online],2010年11月19日,Vol.116, Issue 21,Abstract 2886,https://ashpublications.org/blood/article/116/21/2886/111972/Evaluation-of-CPX-351-cytarabine-daunorubicin,[2020年7月27日検索]
【文献】 Blood,2014年05月22日,Vol.123, Number 21,pp.3239-3246
【文献】 Blood,2010年01月21日,Vol.115, Number 3,pp.453-474
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 45/00
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FLT−3中に活性化変異を示す血液由来癌を有する対象におけるCPX−351による治療の有効性を増強させる方法において使用するためのFLT阻害剤及びCPX−351の組合せキットであって、前記方法は、CPX−351と組み合わせて有効量のFLT−3阻害剤を投与することを含み、ここで、CPX−351及びFLT−3阻害剤は、同時に投与されるか、又はCPX−351は、FLT−3阻害剤による治療の前に投与される、組合せキット
【請求項2】
CPX−351及びFLT−3阻害剤が同じ組成物中で投与される、請求項1に記載の組合せキット
【請求項3】
血液由来癌が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫からなる群から選択される、請求項1に記載の組合せキット
【請求項4】
FLT−3阻害剤が、キザルチニブ、ミドスタウリン、タンヅチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、レスタウルチニブ、クレノラニブ、ギルテリチニブ、AST−487、ドビチニブ、又はリニファニブである、請求項1〜3のいずれかに記載の組合せキット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年11月11日に出願された米国仮出願62/254,109号の優先権を主張する。この文書の内容は本明細書中に参照により組み込まれる。
【0002】
本発明は、癌の診断及び治療の分野に属する。より詳細には、本発明は、ダウノルビシンとシタラビンの相乗的な組合せリポソームを用いた治療により最も利益を得られる患者の同定に関する。
【背景技術】
【0003】
CPX−351は、5:1のモル比で共にカプセル封入されたシタラビン及びダウノルビシンを含有する、ナノスケール(直径100nm)の低コレステロールリポソーム製剤であり(米国特許第8,022,279号及び第8,431,806号)、ex vivo及びin vivoのどちらにおいても最適な相乗作用を有することが示されている。慣用の遊離薬物の組合せから劇的に改善された有効性を示すことがいくつかの前臨床研究において観察されている。より重要なことに、CPX−351は、臨床試験(一方は新規に診断された高齢の急性骨髄性白血病(AML)患者、他方は成人の初回再発のAML患者)において、標準療法と比較して完全寛解及び生存率の増加をもたらしている。AMLの現在の治療法は「標準療法」であり、「7+3」治療とも呼ばれている。
【0004】
本発明は、現在の「標準療法」に対してCPX−351による治療が有益である患者集団を同定すること、及び個々の患者間で発生する癌の異種性を考慮した分析を提供することに焦点を置いている。
【0005】
CPX−351を用いた臨床試験で観察された有効性は、1)シタラビン:ダウノルビシンの高濃度が長期間にわたって相乗的な比で循環系中に維持されること(したがって拮抗的な比を回避する)2)骨髄におけるCPX−351の蓄積の増加及び持続、ならびに3)骨髄における正常細胞と比較した白血病細胞によるインタクトなCPX−351リポソームの選択的蓄積及び細胞毒性、に起因する。CPX−351治療の直前の7+3シタラビン:ダウノルビシン治療による「標準療法」に応答しなかった患者、ならびに進行性の成人急性リンパ球性白血病(ALL)及び脊髄形成異常症候群(MDS)患者を含む高リスクのAML患者の高い割合において、CPX−351は、循環系及び骨髄から白血病細胞を迅速に排除する効果が高いことが示されている。
【0006】
血液悪性腫瘍を有する患者から単離したばかりの白血病細胞を使用した短期間のex vivo細胞毒性アッセイは、血液悪性腫瘍に対する治療剤の活性範囲の指標を得るために有用である。このことから、本発明者らは、個々の患者における抗新生物活性を評価するために、急性骨髄性白血病(AML)、ALL、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫を含む広範にわたる血液悪性腫瘍を有する患者から新たに入手した血液サンプルから循環中の芽球を採取及び精製するプロセスを確立した。また、出願人らは、血液悪性腫瘍の種類、及びその悪性腫瘍内の患者の亜型の特定の表現型プロファイルに基づいて分類することにより、多くの新しい治験薬の抗増殖活性/細胞毒性活性のプロファイルを確立した。このアッセイにおける50及び90パーセント増殖阻害濃度(それぞれIC50及びIC90)は、治療感度が許容可能な薬物濃度を反映しているかどうか、及び臨床試験を設定する上で試験を正当とするために所定の患者クラスの何割が十分な感受性を有するか予測することに用いることができる。よって、薬物感受性と亜集団の表現型との相関により、患者選択の情報を与えるバイオマーカーが同定される。
【0007】
しかし、ナノ粒子(例えば、リポソーム及びナノ粒子)薬物製剤は典型的にはin situにおける薬剤注入リザーバーとして設計されており、それによりビヒクルは癌増殖部位に優先的に蓄積され、当該部位に到達すると遊離薬物をゆっくりと放出し、その後、癌細胞によって取り込まれることから、歴史的に、ex vivoにおけるナノ粒子薬物製剤の癌細胞に対する細胞毒性評価は行われていない。通常、ex vivoでの薬物放出速度はin vivoで観察されるよりもはるかに遅いため、ex vivoにおけるカプセル封入された抗癌薬の細胞毒性効果は、対応する遊離薬物で観察される効果よりも数桁低いことが多く、ex vivo試験によるin vivoの成功の予測は信頼性が低い。
【0008】
CPX−351の場合、出願人らは独自に、ヒト白血病細胞が、ex vivo及びin vivoの両方で、エネルギー依存性の機構を介してリポソームにカプセル封入した形態のシタラビン及びダウノルビシンを取り込むことを実証した。細胞質内の液胞中に取り込まれた後、リポソームは生物利用可能な薬物を生成し、細胞殺傷活性をもたらす。このことは、シタラビン:ダウノルビシンの相乗的な5:1のモル比の送達を確実にするだけでなく、本明細書中に示すように遊離薬物に匹敵する、場合によってはより強力な、CPX−351のex vivo細胞毒性効果(IC50値に基づく)ももたらす。
【0009】
様々な白血病状態由来の新鮮な白血病芽球に対するCPX−351のex vivo細胞毒性の試験的検討から、培地中でリポソームからの薬物放出が検出不可能なインキュベーション条件下で50nMシタラビン:10nMダウノルビシンと同程度の低いIC50値が得られた(Tyner,J.ら、Blood(2010)116:アブストラクト2886)。これにより、以前記述したインタクトなCPX−351リポソームの白血病細胞株に対する直接的な抗白血病活性が、患者から新たに入手した芽球に関連していることが確認された。また、これにより、遺伝子型/表現型の細胞特性が、PKの寄与とは独立してどのように芽球のCPX−351に対する感受性に影響を与えるか精査できる。
【0010】
したがって、一般的なナノ粒子組成物の性能とは対照的に、新鮮な患者サンプルに対するCPX−351の細胞毒性及び/又は新鮮な患者サンプルによるCPX−351の取り込みのex vivo検査は、個々の患者及び集団型におけるCPX−351の抗新生物活性を予測する方法となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
白血病の慣用の標準療法は40年以上も同じであり、「7+3」治療として、アントラサイクリン及びシタラビンを連続的にその遊離形態で用いる。この治療は「標準」ではあるが、一部の患者では副作用及び/又は予後不良が存在する。CPX−351はそのような患者に有益な他の手段を提供することができる。よって、CPX−351を適切な治療として受けられるように、血液由来癌に罹患している患者を階層化することが必要である。CPX−351及び/又は慣用の治療レジメンはどの個体にも有効とは言えないため、血液由来癌患者のための適切な治療レジメンの選択を容易とする、診断試験、薬剤、及び/又はマーカーを同定する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一態様では、AML及びCLLなどの主要な血液癌群ならびに様々な疾患亜型由来の細胞を含む、血液悪性腫瘍患者から新たに採取した広範囲の芽球種に対するCPX−351の細胞毒性及び/又は取り込みのex vivo評価に基づく。結果はin vivo治療後の患者の結果と関連付けられる。
【0013】
血液癌は、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫が含まれる。
【0014】
よって、本態様では、本発明は、CPX−351のヒト対象への投与が、当該対象の血液癌治療に有効である可能性を予測する方法であって、
前記対象由来の癌細胞を、細胞培養物中でCPX−351処理にex vivoで曝露すること、及び
前記細胞の前記処理に対する応答性を測定すること、を含み;
ここで、その細胞が前記処理に応答性を示す対象が、CPX−351による治療が有効である可能性が高い対象として同定される、方法に関する。応答性は、例えば、IC50若しくはIC90の決定を用いた細胞毒性として、又はCPX−351の取り込みを測定することにより測定することができる。
【0015】
このように同定された対象に、CPX−351を有効量で投与する。
【0016】
第2の態様では、本発明は、標準療法の代わりにより高価なCPX−351治療に置き換えることで最も利益を得られる対象を同定し、それによって、これらの対象に対するCPX−351の使用について規制当局の承認をもたらし得ることに関する。これらの対象は、以下に記載する特定の遺伝子型及び表現型の特徴による同定される。
【0017】
特定の実施形態では、同定方法は、前記対象においてFms様チロシン受容体キナーゼ3(FLT−3)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定することを含み、これによって、前記FLT−3遺伝子に変異を示す対象が、CPX−351による治療から利益を得られる対象として同定され、一部の実施形態では、更に、有効量のCPX−351を前記対象に投与することを含み;かつ/あるいは、前記対象においてヌクレオフォスミン1(NPM−1)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定することを含み、これによって、前記NPM−1遺伝子に変異を示す対象が、CPX−351による治療から利益を得られる対象として同定され、一部の実施形態では、更に、有効量のCPX−351を前記対象に投与することを含み;かつ/あるいは、前記対象においてCCAATエンハンサー結合タンパク質アルファ(CEBPα)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定することを含み、これによって、前記CEBPα遺伝子に変異を示す対象が、CPX351による治療から利益を得られる対象として同定され、一部の実施形態では、更に、有効量のCPX351を前記対象に投与することを含む。
【0018】
FLT−3変異の場合、当該変異は、この遺伝子の活性化変異、特にFLT3−IDT損傷であり得る。
【0019】
CPX−351を含む治療レジメンに適した患者(例えば、白血病であるか又は白血病のリスクがある患者)の指標となり得る、上述などのバイオマーカーの1つ又は組合せは、これに限定されるものではないが、FLT3−ITD損傷若しくはFLT3−TKD損傷、及びFLT3の変異の任意の組合せを含むFLT−3遺伝子の少なくとも1つ又はそれ以上の変異、又はそれとNPM−1遺伝子及び/若しくはCEBPα遺伝子の変異などの他の遺伝子マーカーとの組合せを含む。承認された場合、CPX−351は、本明細書中に記載された少なくとも1つ又はそれ以上のバイオマーカーを保有すると選択された対象の血液由来癌に対して、他の抗癌治療(例えば、放射線、手術)が行われていても行われていなくても使用することができる。他の実施形態では、承認された場合、CPX−351は、本明細書中に記載された少なくとも1つ又はそれ以上のバイオマーカーを保有すると選択された対象のそのような癌を治療するための骨髄前処置剤として使用することができる。
【0020】
FLT−3、NPM−1、及びCEBPαマーカーに加えて、他の核型は、以下の実施例1中に記載の欧州白血病ネット(European LeukemiaNet、ELN)の指針に従って、1つ又は2つのCPX−351応答性の対立遺伝子を含んでいてもよい。
【0021】
したがって、本発明はまた、対象を好適リスク(favorable risk)、中間−I(intermediate−I)、中間−II(intermediate−II)、又は有害リスク(adverse risk)に分類するために、ELNシステムに従って対象の遺伝子型を決定することを含む、CPX−351による治療から利益を得られる癌患者を同定する方法に関する。中間−II又は有害リスクである患者はCPX−351治療により利益を得られる可能性が高いと同定され、そのように治療される。ELNシステムは標準の7+3療法に対する応答性に基づいており、有害リスクを有する者の応答は良好ではない。
【0022】
治療から利益を得られる対象を決定するために、ELNに従った分類と前述の遺伝子マーカーとを組み合わせることができることは明らかである。
【0023】
したがって、一般に、上述の態様では、本発明は、血液由来癌(例えば白血病)であるか若しくは血液由来癌(例えば白血病)のリスクがある対象の治療レジメンを選択するため、血液由来癌(例えば白血病)である対象を治療するため、並びに/あるいは、血液由来癌(例えば白血病)であるか若しくは血液由来癌(例えば白血病)のリスクがある対象に推奨され若しくは投与される治療レジメンの有効性を改善するための、アッセイ、方法、システム、及びキットに関する。
【0024】
本明細書中に記載のアッセイ、方法、システム、又はキットにおいて使用するための被検サンプルは、骨髄などの対象の生体サンプル、あるいは対象からの血液サンプル又は血漿若しくは血清サンプルに由来することができる。
【0025】
本明細書中に記載の少なくとも1つのバイオマーカーの選択に応じて、例えば、これに限定されるものではないが、遺伝子型決定アッセイ、発現アッセイ(例えば、タンパク質及び/若しくは転写物のレベル)、遺伝子型を同定することができる他のアッセイ、又はそれらの任意の組合せを含む、1つ以上の分析を被験サンプルについて行うことができる。多数のそのようなアッセイが当分野で知られており、マイクロアレイ(例えばAffymetrix(商標))及びシーケンシング(例えばIllumina)などの多くが市販されている。
【0026】
血液癌は、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫を含む。
【0027】
別の態様では、本発明は、FLT−3遺伝子に活性化変異を有する血液癌患者における、CPX−351による治療の有効性を増強させる方法であって、CPX−351と組み合わせて有効量のFLT−3阻害剤を投与することを含む方法に関する。組合せは、同時に若しくは同じ組成物中で投与することができ、又はCPX−351が最初に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】CPX−351に対するAML患者細胞のex vivoにおける感受性を示すチャートである。IC50値は、チャート上に注釈をつけたより詳細なAMLリスク亜型と相関している。これらのリスク群のそれぞれに含まれる患者のCPX−351のIC50値を示す。
図1B】IC50に関して、リスク分類とex vivo応答との相関を示す。図に見られるように、中間−I、中間−II、及び有害群の対象のほとんどが有利なIC50値を示した一方で、好適リスク群の対象では大部分が示さなかった。各場合において一部の外れ値が存在しており、個々の応答性が重要であることを指摘している。
図1C】標準療法7+3レジメンに対する臨床反応と、IC50 ex vivoとして決定された応答性との間の相関を示す。7+3標準療法に対する応答において低い範囲のIC50 ex vivoを示した群間では、大差が見られなかった。
図2A】CPX−351に対するALL患者細胞のex vivoにおける感受性を示す。127人のALL患者から得られた末梢血又は骨髄検体からの白血病細胞を分析した。IC50値を、具体的な診断の注釈と共に示す。
図2B】CPX−351に対するMDS/MPN患者細胞のex vivoにおける感受性を示す。127人のMDS/MPN患者から得られた末梢血又は骨髄検体からの白血病細胞を分析した。これらの場合のIC50値を、具体的な診断の注釈と共に示す
図2C】CPX−351に対するCLL患者細胞のex vivoにおける感受性を示す。127人のCLL患者からえら得た末梢血又は骨髄検体からの白血病細胞を分析した。これらの場合のIC50値を、具体的な診断の注釈と共に示す。
図3図3Aは、FLT3−ITDを有するAML細胞のCPX−351誘導性の細胞毒性に対する感受性が増加していることを示すグラフである。FLT3−ITDは14人の患者で陽性であり、28人で陰性であった。図3B及び3Cは、それぞれ、変異NPM−1及び変異CEBPαを有する対象の結果を示す。NPM−1における挿入が13人の患者で同定され、29人では観察されなかった。CEBPαにおける挿入/欠失が4人の患者で観察され、34人では検出されなかった。値は平均±標準誤差を表し、p値をそれぞれのチャート上に示す。
図4A】CPX−351の薬物取り込みをフローサイトメトリー分析したものを示し、薬物取り込みと細胞毒性との間の相関を実証する結果が得られた。
図4B】同上
図4C】同上
図5】正常な骨髄細胞と比較した、骨髄中の白血病細胞によるインタクトなCPX−351の取り込みを示す。図5A及び図5Bは、それぞれ、CPX−351からのシタラビン及びダウノルビシンの取り込みを示し、図5Cは脂質の取り込みを示す。
図6】標準の7+3療法と比較した場合の、臨床試験においてCPX−351で治療された、FLT−3、NPM−1、及びCEBPαに変異のある患者の応答率を示す。
図7A】FLT−3の変異を有する、標準の7+3で治療した患者と比較した、CPX−351で治療した患者の生存率の比較を示す。
図7B】NPM−1の変異を有する、標準の7+3で治療した患者と比較した、CPX−351で治療した患者の生存率の比較を示す。
図7C】CEBPαの変異を有する、標準の7+3で治療した患者と比較した、CPX−351で治療した患者の生存率の比較を示す。
図8A】FLT−3変異有り及び無しを含む様々な細胞株について、IC50値の比較を示す。
図8B】FLT−3変異有り及び無しを含む様々な細胞株について、CPX−351の取り込みの測定値を正規化したものの比較を示す。
図9A】FLT−3の変異を有する2種類の異なる細胞株について、キザルチニブによる前処置がある場合及びない場合のCPX−351の取り込みの比較を示す。
図9B】同上
図9C】同上
図9D】同上
図10A図10A〜Cは、CPX−351と、キザルチニブ又はミドスタウリンのどちらかとの、相乗的な相互作用を決定した結果を示す。図10Aは、示された薬物の様々な濃度に基づいて作成される図表の性質を示す。
図10B】超過ブリス相加性(Excess Over Bliss Additivity、EOBA)アルゴリズム(Berenbaum,M.C.、Adv.Cancer Res.(1981)35:269〜335)に従った相乗効果を描写する図である。
図10C】個々の細胞株の生存率の結果、及び組合せの様々な投与プロトコルを、EOBA分析の結果と共に示す。
図11A図11A〜Cは、Chou−Talalayアルゴリズム(Chou及びTalalay、Adv.Enzyme Reg.(1984)22:27〜55)を使用して相乗効果を決定した結果を示す。図11Aは、分析に供した薬物の様々な濃度の組合せについて、マルチウェルプレート中の位置を示す。
図11B】各組合せの結果をプロットするため用いられるダイアグラムの一例を示す。
図11C】試験した組合せの結果を示す。
図11D】試験した組合せの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
血液由来の癌は異種性である、すなわち、AML又は他の血液癌の全ての患者が同じ予後又は基本的な遺伝子型を有するものではないため、対象となる特定の個体に有益な治療を決定するために個々のヒトサンプルを試験することが重要である。
【0030】
上述のように、リポソーム及びナノ粒子薬物製剤による過去の経験とは対照的に、CPX−351は、封入されたシタラビン及びダウノルビシンの投与された比と共に、(正常な骨髄細胞より優先して)白血病細胞に取り込まれることができる。(Lim,W.S.ら、Leuk.Res.(2010)34:1214〜1223。)これにより、CPX−351による治療に対する個々の血液癌の感受性をex vivoで試験することが可能となる。アッセイは、細胞が顕著な量のCPX−351を取り込む能力、及び/又は患者サンプルに対するCPX−351の細胞毒性の一方又は両方を含み得る。このことは、一般に治療に対する個々の患者の応答の異種性、及びCPX−351による治療が特定の個体に有効かどうかを予め把握できる利点があることから重要である。ナノ粒子製剤は、血流中に蓄積され、薬剤そのもののみが癌細胞に入るように内包された治療剤を放出するように設計されているため、一般に、そのようなex vivo試験は、ナノ粒子製剤中で送達される薬物とは対照的に、遊離薬物に限定されている。
【0031】
したがって、本発明の一態様は、個々の患者がCPX−351に対してうまく応答するかどうかを決定するためのex vivoアッセイを提供する。よって、血液癌患者から癌細胞を採取し、該細胞をCPX−351と接触させ、例えばこれらの細胞に対するIC50若しくはIC90を決定することによりかつ/又は任意の適切な方法でリポソーム系の取り込みを測定することにより、細胞毒性を決定するex vivo試験に供される。以下に示すように、CPX−351がインタクトな状態で白血病細胞に送達されることが、このex vivo試験に信頼性をもたらす。新鮮なAML芽球、ならびに急性リンパ球性白血病(ALL)、リンパ腫、及び骨髄増殖性新生物患者からの芽球に対するCPX−351のex vivo細胞毒性は、遺伝子型及び表現型のプロファイルならびに芽球サンプルを得た患者の臨床成績と相関する。
【0032】
また、特定の遺伝子、特にはFLT−3、NPM−1、及びCEBPαにおける変異は、対象がこれらの変異を示す場合、特に標準の7+3療法と比較して、CPX−351に対する血液癌の感受性を増強させることが判明した。したがって、標準の7+3レジメンに対してCPX−351を用いたin vivo治療が成功する癌マーカーとしてこれらの変異を使用することができる。これらの変異の存在は、遺伝子検査を行うことにより直接、又は下流の発現産物として変異を示すマーカーを評価することによって、測定することができる。例えば、FLT−3を活性化させる変異は、対象又は癌細胞におけるFLT−3活性の増強によって同定することができる。このような判定の適切な材料には、血液、血漿、血清、及び唾液が含まれる。
【0033】
例えば、一部の実施形態では、適切なアッセイは、白血病であるか又は白血病のリスクを有すると診断されたヒト対象からの被験サンプルを、FLT−3遺伝子変異(例えばFLT3−ITD)の遺伝子型を決定するように設定された少なくとも1つの遺伝子型決定アッセイに供すること、及び任意で、有効量のCPX−351を含む治療レジメンでヒト対象に投与することを含むことができる。
【0034】
同様の結果が、NPM−1遺伝子変異、CEBPα遺伝子変異、ならびにその癌がELNシステムの中間−II及び有害リスク分類に該当する個体について示される。
【0035】
上述のように、あらゆる適切な方法で測定した変異の組合せを使用して、アッセイを改善することができる。特に、これらの遺伝子変異状態と特定の核型との組み合わせを使用して、標準の7+3療法に対する応答性に応じて患者を群分けできることが知られている。この分類はRollig,C.ら、J.Clin.Oncol.(2011)29:1〜7に記載されており、オンラインでは2011年5月31日に10.1200/JCO.210.32.8500として公開されている。このランク付けシステムは欧州白血病ネット(ELN)システムと命名され、AML患者は好適リスク、中間−I、中間−II、及び有害リスクに分類される。中間−II又は有害リスクとして分類された者は、定義によれば7+3標準レジメンに良好に応答しない。対照的に、本出願人らは、臨床試験においてこれらの患者がCPX−351に応答性であることを見出した。したがって、特定の患者の癌細胞が中間−II又は有害リスクを示すと同定されることは、その患者がCPX−351で治療することが望ましいことを明示する。出願人らによって示された結果は、標準療法での経験からは予想外のことである。
【0036】
前述の事例の全てにおいて、適切な対象の同定の後、これらの治験で承認されたプロトコルに従ってCPX−351を適宜投与する。その結果、血液癌に関連する少なくとも1つの症状を軽減させるために有効な量のCPX−351が投与される。上述のように、血液癌は、急性骨髄性白血病(AML)、ALL、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫などを含む、多数の癌のうちの1つであり得る。
【0037】
有効量のCPX−351は、選択されたヒト対象に、適切な投与経路、例えば静脈内投与を介して、CPX−351投薬レジメンによって投与することができる。CPX−351を用いた治療プロトコルは、本明細書中に参考として組み込まれている米国特許第8,092,828号に記載されている。
【0038】
本発明のさらに別の態様は、FLT−3阻害剤と組み合わせたCPX−351の組合せを、ITDなどのFLT−3の変異を有する個体の血液癌を治療するための増強されたシステム設計である。FLT−3阻害剤は当分野で利用可能であり、キザルチニブ、ミドスタウリン、タンヅチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、レスタウルチニブ、クレノラニブ、ギルテリチニブ、AST−487、ドビチニブ、及びリニファニブが含まれる。予想外なことに、投与のタイミングが重要であることが判明した。2つの薬物は、同時に、ある場合には同じ組成物中で投与されなければならず、あるいは、CPX−351を該阻害剤の前に投与しなければならず、これは、CPX−351投与の10〜24時間前若しくはその間に含まれる時間前の投与を含む。CPX−351投与前にFLT−3阻害剤に長期間曝露されることは効果的ではないことが示されている。
【0039】
また、本明細書中に記載のアッセイ及び/又は方法の任意の態様に使用するためのコンピュータシステムも提供される。例えば、本明細書が提供する一実施形態は、少なくとも1人の対象から入手した少なくとも1つの被験サンプルからデータを得るためのコンピュータシステムである。
【0040】
ある実施形態では、コンピュータシステムの決定モジュールは、少なくとも1つの被験サンプルを分析して、上述の状態のうちの少なくとも2つの存在又は非存在を決定するように構成することができる。
【0041】
ある実施形態では、決定モジュールは、決定モジュールからのデータ出力を、記憶装置に格納されている参照データと比較するように適応された比較モジュールをさらに含むことができる。
【0042】
ある実施形態では、記憶装置は、少なくとも1人の対象の身体的情報を格納するようにさらに構成することができ、このような情報は、例えば、測定方法に関わらず、FLT−3遺伝子及び/又はNPM−1遺伝子及び/又はCEBPα遺伝子及び/又はELN核型の1つ以上の変異を被検体が有するかどうかの指標を含む。
【0043】
本明細書中に記載のアッセイ、方法、システム、及び/又はキットは、これらの機能を命令及び管理する1人の責任者の指示の下、複数の組織(entity)によって行われかつ/又は使用されることができる。そのような組織は、ヒト対象の被験サンプルにおける本明細書中に記載の少なくとも1つの状態の存在又は非存在を決定するために提供するサービスに料金を課してもよく、例えば、この決定はヒト対象の治療レジメンを選択する方法の一部としてヒト血液癌患者の治療レジメンの選択を容易にするためであってもよい。一例では、適切なアッセイは、(a)AMLである、又はそのリスクを有すると診断されたヒト対象から被験サンプルを入手すること;(b)該被験サンプルを、少なくとも1つのバイオマーカー分析(例えば、これに限定されるものではないが、遺伝子型決定アッセイ、発現アッセイ(例えば、タンパク質及び/又は転写物レベル)、活性化FLT−3を同定することができる他のアッセイ、又はそれらの任意の組合せを含む)に供して、本明細書中に記載の少なくとも1つのバイオマーカー(例えば、これに限定されるものではないが、FLT3−ITD)のパラメータを決定すること;(c)選択されたバイオマーカーのパラメータから、少なくとも1つの要求された状態の存在を決定すること;及び、(d)要求された状態のうちの少なくとも1つが被験サンプルにおいて検出されたかどうかを示す出力結果(例えば、これに限定されるものではないが、FLT3遺伝子変異のリスト)を提供することを含む。少なくとも1つの状態が存在すれば、責任者はさらに有効量のCPX−351を含む治療レジメンを選択して該ヒト対象に投与することができる。
【0044】
ある実施形態では、上記方法のステップのうちの1つ以上は、ヒトではなく機械によって行われる。
【0045】
本明細書における文献又は文書の引用は、それらの全てが関連する先行技術であると認めることを意図せず、かつ、これらの文献又は文書の内容又は日付のいかなる承認をも構成しない。本明細書中で引用する全ての文書は、参照により本明細書中に組み込まれる。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]FLT−3中に活性化変異を示す血液由来癌を有する対象におけるCPX−351による治療の有効性を増強させる方法において使用するためのFLT阻害剤及びCPX−351の組合せであって、前記方法は、CPX−351と組み合わせて有効量のFLT−3阻害剤を投与することを含み、ここで、CPX−351及びFLT−3阻害剤は、同時に投与されるか、又はCPX−351は、FLT−3阻害剤による治療の前に投与される、組合せ。
[実施形態2]CPX−351及びFLT−3阻害剤が同じ組成物中で投与される、実施形態1に記載の組合せ。
[実施形態3]血液由来癌が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫からなる群から選択される、実施形態1に記載の組合せ。
[実施形態4]FLT−3阻害剤が、キザルチニブ、ミドスタウリン、タンヅチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、レスタウルチニブ、クレノラニブ、ギルテリチニブ、AST−487、ドビチニブ、又はリニファニブである、実施形態1〜3のいずれかに記載の組合せ。
[実施形態5]FLT−3中に活性化変異を示す血液由来癌を有する対象におけるCPX−351による治療の有効性を増強させる方法であって、CPX−351と組み合わせて有効量のFLT−3阻害剤を投与することを含み、ここで、CPX−351及びFLT−3阻害剤が、同時に投与されるか、又はCPX−351が、FLT−3阻害剤による治療の前に投与される、方法。
[実施形態6]CPX−351及びFLT−3阻害剤が同じ組成物中で投与される、実施形態5に記載の方法。
[実施形態7]血液由来癌が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫からなる群から選択される、実施形態5に記載の方法。
[実施形態8]FLT−3阻害剤が、キザルチニブ、ミドスタウリン、タンヅチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、レスタウルチニブ、クレノラニブ、ギルテリチニブ、AST−487、ドビチニブ、又はリニファニブである、実施形態5〜7のいずれかに記載の方法。
[実施形態9]血液由来癌を有するヒト対象の、CPX−351による治療に対する感受性を決定する方法であって、前記対象の生体サンプルをアッセイして以下を決定することを含む方法:
a)前記対象におけるFms様チロシン受容体キナーゼ3(FLT−3)遺伝子における変異の存在又は非存在;及び/又は
b)前記対象におけるヌクレオフォスミン1(NPM−1)遺伝子における変異の存在又は非存在;及び/又は
c)前記対象におけるCCAATエンハンサー結合タンパク質アルファ(CEBPα)遺伝子における変異の存在又は非存在;及び/又は
d)好適リスク、中間−I、中間−II又は有害リスクとしての前記対象の遺伝子型。
[実施形態10]血液由来癌が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫からなる群から選択される、実施形態9に記載の方法。
[実施形態11]前記生体サンプルが血液、血清、血漿、唾液、又は芽球を含む、実施形態9に記載の方法。
[実施形態12]前記対象におけるFms様チロシン受容体キナーゼ3(FLT−3)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定することを含む、実施形態9〜11のいずれかに記載の方法。
[実施形態13]前記変異がFLT−3活性化変異である、実施形態12に記載の方法。
[実施形態14]前記変異がFLT−3−ITD又はFLT−3−TKDである、実施形態12に記載の方法。
[実施形態15]前記対象においてヌクレオフォスミン1(NPM−1)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定することを含む、実施形態9〜11のいずれかに記載の方法。
[実施形態16]前記対象においてCCAATエンハンサー結合タンパク質アルファ(CEBPα)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定することを含む、実施形態9〜11のいずれかに記載の方法。
[実施形態17]前記対象の遺伝子型を好適リスク、中間−I、中間−II又は有害リスクとして決定することを含む、実施形態9〜11のいずれかに記載の方法。
[実施形態18]血液由来癌を有するヒト対象の、CPX−351による治療に対する応答性を決定する方法であって、
(a)前記対象由来の血液由来癌細胞を、細胞培養物中のCPX−351にex vivoで曝露すること、及び
(b)前記細胞の前記曝露に対する応答性を測定すること
を含む、方法。
[実施形態19]前記細胞の応答性が、前記細胞培養物中の細胞のCPX−351のIC50又はIC90を測定することによって決定される、実施形態18に記載の方法。
[実施形態20]前記細胞の応答性が、前記細胞培養物中の細胞によるCPX−351の取り込みを測定することによって決定される、実施形態18に記載の方法。
[実施形態21]前記血液由来癌が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫からなる群から選択される、実施形態18〜20のいずれかに記載の方法。
[実施形態22]ヒト対象において血液由来癌を治療する方法であって、
(a)前記対象におけるFms様チロシン受容体キナーゼ3(FLT−3)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定すること、及び
(b)前記FLT−3遺伝子に変異を示す対象に有効量のCPX−351を投与すること、ならびに/又は
(c)前記対象におけるヌクレオフォスミン1(NPM−1)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定すること、及び
(d)前記NPM−1遺伝子に変異を示す対象に有効量のCPX−351を投与すること、ならびに/又は
(e)前記対象におけるCCAATエンハンサー結合タンパク質アルファ(CEBPα)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定すること、及び
(f)前記CEBPα遺伝子に変異を示す対象に有効量のCPX−351を投与すること、ならびに/又は
(g)前記対象の遺伝子型を好適リスク、中間−I、中間−II、若しくは有害リスクとして決定すること、及び
(h)その遺伝子型が有害リスク若しくは中間−IIである対象に治療上有効な量のCPX−351を投与すること
を含む、方法。
[実施形態23](a)前記対象においてFms様チロシン受容体キナーゼ3(FLT−3)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定すること、及び
(b)前記FLT−3遺伝子に変異を示す対象に有効量のCPX−351を投与することを含む、実施形態22に記載の方法。
[実施形態24]変異がFLT−3活性化変異である、実施形態23に記載の方法。
[実施形態25]変異がFLT−3−ITD又はFLT−3−TKDである、実施形態24に記載の方法。
[実施形態26](a)前記対象においてヌクレオフォスミン1(NPM−1)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定すること、及び
(b)前記NPM−1遺伝子に変異を示す対象に有効量のCPX−351を投与することを含む、実施形態22に記載の方法。
[実施形態27](a)前記対象においてCCAATエンハンサー結合タンパク質アルファ(CEBPα)遺伝子における変異の存在又は非存在を決定すること、及び
(b)前記CEBPα遺伝子に変異を示す対象に有効量のCPX−351を投与することを含む、実施形態22に記載の方法。
[実施形態28](a)前記対象の遺伝子型を好適リスク、中間−I、中間−II、又は有害リスクとして決定すること、及び
(b)その遺伝子型が有害リスク又は中間−IIである対象に治療上有効な量のCPX−351を投与することを含む、実施形態22に記載の方法。
[実施形態29]ヒト対象における血液由来癌を治療する方法であって、
(a)前記対象由来の血液由来癌細胞を、細胞培養物中のCPX−351にex vivoで曝露すること;及び
(b)前記細胞の前記曝露に対する応答性を測定すること;及び
その細胞が前記曝露に対して応答を示す対象に治療上有効な量のCPX−351を投与すること
を含む、方法。
[実施形態30]前記細胞の応答性が、前記細胞培養物中の細胞のCPX−351のIC50又はIC90を測定することによって決定される、実施形態29に記載の方法。
[実施形態31]前記細胞の応答性が、前記細胞培養物中の細胞によるCPX−351の取り込みを測定することによって決定される、実施形態29に記載の方法。
[実施形態32]血液由来癌が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性新生物(MPN)、及びリンパ腫からなる群から選択される、実施形態29〜31のいずれかに記載の方法。
【実施例】
【0046】
以下の実施例は、本発明を例示するためのものであり本発明を限定するものではない。
【0047】
製剤A
CPX−351製剤及び単純な調製
CPX−351(シタラビン:ダウノルビシンの注射用リポソーム)は、50mLのバイアル中に、無菌的で発熱物質を含まない紫色の凍結乾燥製品として供給されている。1単位を1.0mgのシタラビン+0.44mgのダウノルビシン(ベースとして)とすると、各バイアルは100単位を含有する。これらの物質は19mLの注射用水で再構成し、室温で10分間穏やかに回旋させた。再構成した生成物の作業用アリコートは、−20℃で12カ月を超えない期間、凍結保存した。
【0048】
患者の検体採取及び調製法;末梢血(PB)又は骨髄(BM)検体を、AML、ALL、MPN、又はCLLと診断された患者から治療前に入手した。全ての検体は、オレゴンヘルスアンドサイエンス大学の学内審査委員会によって承認されたプロトコルに基づき、インフォームドコンセントを得て入手した。血液又は骨髄検体を、フィコール勾配、次いで塩化アンモニウムカリウム(ACK)緩衝液を用いた赤血球溶解により分離した。
【0049】
(実施例1)患者の白血病細胞に対するCPX−351のex vivo細胞毒性の決定
薬物感受性試験を、標準の既知の方法によって実施した。簡潔には、患者骨髄検体からの単核細胞を、10−4Mの2−メルカプトエタノール(Sigma)を添加したR10(10%FBS(Atlanta Biologicals、ジョージア州Lawrenceville)、L−グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen、カリフォルニア州Carlsbad)、及びFungizone(登録商標)(Invitrogen)を添加したRPMI−1640培地)中で培養した。リンパ系白血病サンプルからの細胞を、10−4Mの2−メルカプトエタノール(Sigma)及びインスリン−トランスフェリン−亜セレン酸ナトリウム(Invitrogen)を添加したR20(20%FBS(Atlanta Biologicals、ジョージア州Lawrenceville)、L−グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen、カリフォルニア州Carlsbad)、及びFungizone(登録商標)(Invitrogen)を添加したRPMI−1640培地)中で培養した。
【0050】
細胞を96ウェルプレート(50,000細胞/ウェル)中で培養し、段階的な濃度のCPX−351に3日間曝露し、この時点でテトラゾリウムベースのMTSアッセイ(96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay、Promega)を使用して、各ウェル中の生細胞の相対数を評価した。薬物全く存在しないウェルに播種した細胞の細胞生存率の値を生存率100%として、CPX−351用量応答曲線の各点を、この薬物なしの条件の細胞生存率の値に対して正規化した。三次多項式曲線適合を使用して、各検体のIC50値を得た。
【0051】
AMLは現在CPX−351が標的とする適応症であることから、異なる臨床的特徴を示すAML患者のコホートに関する複数の臨床研究において有効性を示す有望な証拠が得られている。53人のAML患者から得た末梢血又は骨髄検体からのAML芽球を段階的な濃度のCPX−351(10:2μM;1:0.2μM;0.1:0.02μM;0.01:0.002μM)と共に、又は薬物なしで3日間培養し、生細胞の相対数をテトラゾリウムベースのMTSアッセイで評価した。薬物の非存在下で培養した細胞のMTS値を100%として、各用量点のMTS値を、未処置の細胞のMTS値に対して正規化した。三次多項式曲線適合を使用して、各検体のIC50値を計算した。完全な患者統計データ及び臨床データはこれらのうち42名について利用可能であり、表1に要約した。AMLリスク群を評価するための完全な細胞遺伝学的データは40人の患者について利用可能であり、欧州白血病ネット(ELN)指針を用いた分類により、3、21、12、及び4人の患者が、それぞれ好適、中間−I、中間−II、及び有害の群に該当していた。
【0052】
好適リスクには、t(8;21)(q22;q22)、inv(16)(p13.1q22)又はt(16;16)(p13.1q22)の正常な核型と変異NPM1、及び正常な核型と変異CEBPαが含まれる。
【0053】
中間−Iリスクには、FLT3−ITDと変異NPM1及び正常な核型、FLT3−ITDと野生型NPM1及び正常な核型、FLT3−ITDが無い野生型NPM1及び正常な核型が含まれる。
【0054】
中間−IIリスクには、t(9;11)(p22;q23)、及び好適又は有害と分類されないあらゆる細胞遺伝学的型が含まれる。
【0055】
有害リスクには、inv(3)(q21q26.2)又はt(3;3)(q21q26.2)、t(6;9)(p23;q34)、t(v;11)(v;q23)、モノソミー5又はdel(5q)、モノソミー7、異常な17p、及び複合核型(3つ以上の異常)が含まれる。
【0056】
検体の大多数はde novoでAMLと新しく診断された患者から入手し(34/42人、81%)、患者の大多数はサンプル採取後に7+3療法レジメンを受けた(32/42人、76%)。研究対象のAML患者のうちの35人を、検体採取後に7+3レジメンで治療された。これらの患者のうちの24人が初期の完全応答を達成した一方で、11人の患者が進行(progressive disease)を示した。完全応答又は進行を示す患者のCPX−351のIC50値を表す。診察時の基本的な患者統計学的特徴及びWBC数などの臨床的パラメータの割合、並びに、遺伝学的−細胞遺伝学的なリスク層は、AML患者の一般的な集団の代表的なものであった。
【0057】
図1A及び表2のデータが示すとおり、原発性AML白血病芽球は一般にex vivoでCPX−351細胞毒性に対して感受性があった。IC50値は0.035:0.007μM〜9.77:1.95μMの範囲であった。1つ以外の全てのサンプル(98%)が投与の72時間後のヒト血漿CPX−351濃度の1/10よりも低いIC50を示し(60:12μMのシタラビン:ダウノルビシン)、これらの患者において、CPX−351治療により臨床応答を潜在的に達成できることを示唆している。
【0058】
図1Bに示すように、ex vivoでのCPX−351処理(低IC50)に対する強力な抗増殖応答が、典型的には悪い予後と慣用の化学療法への耐性と関連する中間−II又は有害な細胞遺伝子学的異常を有する細胞で観察された。
【0059】
表2中で強調するように、中間−II又は有害の細胞遺伝学的リスク分類の患者から合計17個のサンプルを入手した。図1Bに示すように、この患者亜群の全体的なex vivoでのCPX−351への応答は、中間−II及び好適リスクの患者のそれと同様であり、4つのリスク群間でCPX−351に対するex vivoでの応答性に有意差はなかった。このex vivoでの応答性は、慣用のリスク層別化とは無関係に多様な亜分類にわたるAML患者において完全応答の誘発が幅広く観察されたCPX−351の臨床活性と良く相関している。
【0060】
慣用の7+3シタラビン:ダウノルビシン治療に対する臨床反応を、その芽球を採取した後に7+3療法レジメンを受けた35人のAML患者におけるCPX−351に対するex vivo応答と比較し、評価した。図1Cに示すように、これら35人の患者のうち、24人が完全応答(CR)を達成し、11が進行(PD)を示した。これらの患者由来の白血病芽球は、最初に7+3に応答したかどうかにかかわらず、ex vivoでCPX−351細胞毒性に対して同様の感受性を示した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
CPX−351のex vivoにおける感受性はまた、血液悪性腫瘍の様々な亜型にわたって特徴づけられた。ALL(38人)、MPN/MDS(18人)、及びリンパ腫(71人)を含む127人の追加の患者検体を用いた。IC50により推定されるCPX−351の細胞毒性効力を、各個人の患者サンプルについてex vivoで決定し、図2A〜2Cに示した。各診断的分類の中で広範囲のIC50値が観察された(0.03/0.006μM〜10/2μM)。試験した180個全ての患者サンプル(53人のAMLが含まれる)のIC50の中央値は0.558:0.112μMであり、大多数(153/180個、85%)が2.0:0.4μM未満のIC50値を示し、これは、白血病患者で観察された72時間血漿薬物濃度として報告された60:12μM(Gordon,M.ら、Proceedings of the AACR(2016年4月)57:アブストラクト#287)よりも30倍低い。観察された、循環薬物濃度に対して低いCPX−351のIC50の中央値は、広範囲の診断からの白血病細胞の増殖又は生存を潜在的に阻害する、CPX−351の一般に高い効力を示している。
【0064】
(実施例2)遺伝子変異の効果
より高いCPX−351の効力が、FLT3−ITD表現型を有するAML患者の芽球で観察される。FMS様チロシン受容体キナーゼ(FLT3)は正常な造血及び白血病誘発において重要な役割を果たし、ほとんどのAML芽球中で発現している。AML患者の20%〜25%で、FLT3遺伝子はFLT3の膜近傍ドメイン内に内部タンデム複製(FLT3−ITD)を獲得し、患者の予後不良に関連している。FLT3−ITDの状態が既に判明している、実施例1の研究の42人のAML患者のうち、14人の患者がFLT3−ITD変異を保有すると特定され、残りの28人はFLT3−ITD陰性であった。ex vivo細胞毒性の結果は、FLT3−ITDの陽性が、驚くべきことに、CPX−351誘導性の細胞毒性へのより高い感受性に関連していることを示している(図3A参照)。具体的には、FLT3−ITDを示す白血病芽球は、FLT3−ITD陰性患者の芽球サンプル(IC50=1.32:0.26μmol)と比較して十分に低いIC50値(0.29:0.058μmol)を示した。FLT3−ITD陽性と陰性のサンプル間の、CPX−351細胞毒性に対する応答の相違は統計的に有意であった(p=0.047)。また、FLT3−ITD陽性患者は、白血球数(WBC)の平均値が91,000/mmであり、診断時の平均の29,000/mmに対して有意に(p=0.0002)多いことも注目された。
【0065】
ヌクレオフォスミン(NPM1)及びCCAAT/エンハンサー結合タンパク質アルファ(CEBPα)を含む他のよく知られた変異は、それぞれ、13人及び4人の患者で見つかった。しかし、CEBPα陽性例で感受性がより高い傾向があったものの、これら2つのよく知られた変異はいずれも、ex vivoのCPX−351処理への応答に顕著な影響を示さなかった。(図3B及び3C。)
【0066】
(実施例3)患者の白血病芽球におけるex vivo感受性とCPX−351の取り込みとの相関
前臨床の白血病動物モデルにより、CPX−351を注射した際、これらの動物に移植した骨髄中の白血病細胞は、シタラビン及びダウノルビシンを大部分は相乗的な薬物比を維持するインタクトなリポソーム形態で素早く取り込むことができ、その結果、遊離薬物のカクテル投与と比較して白血病細胞中での薬物蓄積が増加し長期化することが実証された。以下のデータは、遊離薬物と比較して増強されたCPX−351の取り込みを示す。したがって、ex vivoでのCPX−351の取り込み及び細胞毒性は、臨床的なCPX−351の成功の予測に用いることができる。
【0067】
ex vivoでCPX−351への感受性についてスクリーニングした患者検体からの生存凍結細胞を、最大試験濃度のCPX−351(10:2μMのシタラビン:ダウノルビシン)で24時間曝露した。その後、細胞をPBSで3回洗浄し、ダウノルビシン蛍光の取り込みについてBD FACSAriaフローサイトメーターを用いて分析した。
【0068】
ダウノルビシンの固有の蛍光を細胞内で生物利用可能な薬物の半定量的指標として利用して、フローサイトメトリー分析を上述の12個の患者サンプルについて行った。サンプルは6人のAML及び6人のCLLのものであり、初期ex vivoスクリーニングで広範囲のIC50値を示した。細胞を段階的な濃度のCPX−351に24時間曝露した後、BD FACSAriaフローサイトメーターでダウノルビシンの取り込みについて分析した。生細胞をFSC対SSCの散布図中で特定し、全蛍光強度を定量した(図4A、左)。未処理の細胞に対するCPX−351に曝露した細胞の平均蛍光強度の比を使用して薬物取り込みの指数を生成した。ここで、指数1は取り込みなしを示し、1より高い数値はダウノルビシンの取り込みを示す。
【0069】
統計分析:片側p値を用いた独立t検定を用いて、変異型と野生型のFLT3(ITD)、NPM1、及びCEBPα群におけるCPX−351活性を比較した。<0.05のp値を有意であるとみなした。一方向ANOVA分析を用いて、複数の遺伝学的−細胞遺伝学的リスク群間の効果を比較した。統計分析はPrismソフトウェアバージョン5.0aを使用して行った。
【0070】
未処理の細胞と比較して、CPX−351で処理した細胞は細胞内蛍光強度の量が著しく増加していた。CPX−351内にカプセル封入されたダウノルビシンの蛍光は完全に消光されることから、このことは遊離ダウノルビシンが存在することを示している。ダウノルビシンの取り込みにおける処理と未処理の細胞サンプルの相違は、細胞集団の平均蛍光強度(MFI)のシフトとして示されている(図4A、右)。図4Bは取り込み及び細胞毒性の比較を示す。12個のサンプルに対するCPX−351のIC50値を対応するMFI値に対してプロットすると、CPX−351に対する細胞感受性(IC50)とCPX−351の取り込み効率(MFI)との間に強い相関があることが明らかとなり、その相関係数は0.703であった(図4C)。
【0071】
白血病骨髄細胞によるCPX−351のインタクトなままの選択的取り込みは以下のように示された。1用量(dose)のCPX−351で処理した、CCRF−CEM(白血病)移植マウスの大腿骨髄細胞を、薬物投与の18時間後に採取した。白血病細胞及び正常な骨髄細胞をヒトCD45特異的磁気ビーズで分離し、CPX−351の取り込みについて分析した。シタラビン及びリポソーム脂質をそれぞれH及び14Cで標識し、液体シンチレーションで定量した。ダウノルビシンはHPLCで分析した。結果を図5A〜5Cに示す。1回の試験あたり10本の大腿骨(5匹のマウス)を用い、各バーは、3回の反復試験の平均±標準偏差を表す。
【0072】
図5Cに示すように、10細胞あたり約225pmolのリポソームの標識した脂質が白血病細胞に取り込まれたが、正常な骨髄には約110pmol/10細胞しか取り込まれなかった。リポソーム内に含有されていた薬物のレベルも、白血病細胞によって良好に取り込まれ、白血病細胞ではシタラビンは24pmol/10細胞が、ダウノルビシンは約16pmol/10細胞が取り込まれ、いずれの薬物についても正常な骨髄ではより低いレベルであった(シタラビンは約3pmol/10細胞、ダウノルビシンは約7pmol/10細胞)。リポソームの脂質とそれに内包されていた薬物とのモル比は約10:1であり、この結果は、これらの細胞によって取り込まれる際に薬物がリポソーム内に留まっていたことを示している。
【0073】
(実施例4)CPX−351はFLT3−ITD+AML患者に優れた抗腫瘍効果を示す
本実施例では、FLT−3遺伝子に活性化変異を有するかどうかを決定するようにAML患者をスクリーニングして、第3相臨床試験を行った。活性化変異AML−ITD+を持つことが判明したAML患者には、3用量のCPX−351を、1日目に1回目の投与ステップ、3日目に2回目の投与ステップ、及び5日目に3回目の投与ステップからなる投与サイクルで投与した。CPX−351を用いた治療プロトコルは米国特許第8,092,828号に記載されている。血漿及び/又は骨髄サンプルの分析を含む患者の応答性を測定及びモニタリングし、応答率及び生存率を測定した。NPM1及び/又はCEBPαの変異が陽性であった患者の亜群も含まれていた。初期研究はFLT−3の変異に焦点をあて、NPM−1及びCEBPαの変異を持つ個体も含まれていた。研究に参加した患者を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
FLT−3の変異を有する又は有さない対象に関する応答性を表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
図6では、これらの変異の保有者のCPX−351と7+3療法の応答率を比較した。図6に示すように、FLT−3にITD又はTKD変異のどちらかを有する者は、CPX−351に対して68.2%の応答率を示したが、7+3に対しては25.0%の応答率しか示さなかった。NPM−1変異を有する患者は、CPX−351に対して92.3%の応答率を示したが、7+3に対しては58.3%の応答率しか示さなかった。CEBPαの変異を有する個体では、CPX−351の応答率は33.3%であり、7+3の応答率は20.0%であった。
【0078】
本研究におけるFLT−3変異陽性及びFLT−3の変異陰性の両方の参加者の生存率を表5に示す。
【0079】
【表5】
【0080】
様々なコホートの生存率を図7A〜7Cに示す。全ての事例において、生存率は変異の保有者において大きく改善されており、特に、CEBPαに変異を有する対象の25%が、CPX−351で治療した場合に27カ月を超える生存を示した一方で、7+3で治療した患者では、3カ月を超えて生存した者はいなかった。
【0081】
(実施例5)FLT−3変異細胞のCPX−351に対する感受性、及びCPX−351+FLT−3阻害剤の併用治療に対する感受性
本実施例では、細胞生存率、及びフローサイトメトリーによって決定されたダウノルビシン蛍光に基づく細胞内取り込みを、実施例1及び3に記載のとおり測定した。
【0082】
A.AML細胞株(FLT−3−ITDを有するMOLM−13及びMOLM−14、ならびにME−1(変異体を含み、FLT−3が活性化されている)を含む)の、CPX−351に対する感受性及びCPX−351の取り込みを決定した。また、FLT−3変異を持たない、U−937、HL−60、KG−1、及びGDM−1を含む細胞についても比較した。これらの細胞の培養物をCPX−351で処理し、IC50及びCPX−351の取り込みについてアッセイした。図8Aは、細胞生存率パーセントをCPX−351のnM濃度に対してプロットすることによって、IC50に関する結果を示す。図8Aに見られるように、FLT−3変異細胞は、FLT−3非変異細胞よりも低いIC50を示す。図8Bは取り込みの結果を示す。CPX−351のnMによる濃度を、本来有する蛍光を考慮するために正規化した平均蛍光強度(MFI)に対してプロットしている。FLT−3変異を有する細胞は、有しない細胞よりもCPX−351の取り込みがより効率的である。
【0083】
B.FLT−3阻害剤との併用効果を決定するために、キザルチニブ又はミドスタウリン(FLT−3阻害剤)処理と共に又は当該処理なしで、細胞をCPX−35に曝露した。一つのプロトコルでは、ME−1及びMOLM−14細胞を、10nMのキザルチニブによる前処理に0、2、8、16、及び24時間曝露し、その後、100μMのCPX−351を2時間添加した。CPX−351の取り込みを、未処理の対照に対して正規化したフローサイトメトリーによって決定したダウノルビシン蛍光によって測定した。結果を図9A〜9Dに示す。グラフ中のx軸はCPX−351の取り込みを蛍光の標準単位で示し、y軸は正規化した細胞数を表す。図9A及び9Bに示すとおり、全ての未処理細胞が取り込みを全く示さなかった一方で、CPX−351で処理した細胞は最終的には2つの細胞集団に分かれ、その一方は他方よりもCPX−351の取り込みが効率的であった。図9A及び9Bから、前処置時間を延長するにつれて一部の細胞のCPX−351取り込み能力が減少することが明らかである。図9C及び9Dに示す結果は、24時間までの様々な時点の合成である。
【0084】
C.相乗作用を決定するために、細胞株を384ウェルプレートに播き、カスタマイズした、用量が段階的に増加する濃度のCPX−351及びFLT−3阻害剤に曝露した。CPX−351及びFLT−3阻害剤を、(a)同時に(C+Q又はC+M)、(b)24時間のCPX−351の前処理(C→Q若しくはC→M)、又は(c)24時間のFLT−3阻害剤の前処理(Q→C若しくはM→C)のいずれかで加えた。各薬物の組合せの相乗作用を決定するために、EOBAアルゴリズムを用いた。
【0085】
図10Aは、プロトコルの概要をCPX−351又はFLT−3阻害剤の対応する濃度をnMの数値と共に示す。図10Bは、用いた2つの薬物の様々な濃度の生存率を測定し、EOBAアルゴリズムを使用して得られる結果を拮抗的、相加的、又は相乗的として示す。図10Cは、様々な濃度の組合せ及び上述の様々なプロトコルの結果として得られた生存率の結果、ならびにそれにより得られた、EOBAアルゴリズムに基づいた相乗作用の決定を示す。上述のプロトコルについて、KG−1、ME−1、MOLM−13、及びMOLM−14の結果を図10Cに示す。示すように、CPX−351とキザルチニブ又はミドスタウリンのどちらかとの特定の組合せは、CPX−351の投与がFLT−3阻害剤の投与に先行する場合、又はこれらを同時に投与する場合に、高い相乗作用を示す。
【0086】
D.FLT−3阻害剤及びプロトコルの様々な組合せを2つの細胞株で比較して、相乗作用を他の方法で決定した。段落Cの実験手順を行い、Chou−Talalayアルゴリズムを使用して結果を分析した。図11Aに示すように、CPX−351とFLT−3阻害剤の様々な組合せを、陰影をつけたボックスによって表すウェル中で試験した。図11Bは、上述の3つのプロトコル全てについて、Chou−Talalay分析の結果、すなわち組合せ指数(CI)を図11Aに示すそれぞれの濃度についてプロットする、アイソボログラムの一例を示す。図11Cは、これらの3つのプロトコル及び図11Aに示す濃度レベルの、GDM−1細胞及びMOLM−14細胞の結果を示す。各グラフ上の円は、図11Aに示す各四角の濃度の組合せを表す。図に見られるように、MOLM−14細胞では、キザルチニブ又はミドスタウリンのどちらかと共に又はその前にCPX−351を投与することはにより、相乗作用を示す多数のウェルが得られた一方で、これらの薬物をCPX−351の前に投与すると、より拮抗的な結果を示した。GDM−1細胞の結果には有意差はなかった。図11Dは、図11Cに示す各プロトコルについて、その組合せ指数(CI)値に基づいて様々な分類に該当させたデータ点の数を示す一連のグラフである。
【0087】
E.要約すると、FLT−3−ITD又はFLT−3−活性化変異を含有する細胞株は、他の遺伝子異常を有する細胞株と比較して、CPX−351に対してより感受性が高く、増加したCPX−351の取り込みを示した。
【0088】
16時間のキザルチニブを用いた前処理により、全細胞集団の約50%がダウノルビシン蛍光の減少を示し、これは、FLT−3阻害への長期の事前曝露がこの亜集団においてCPX−351の取り込みを減少させ得ることを示している。
【0089】
しかし、CPX−351及びFLT−3阻害剤を同時に提供した場合、又はFLT−3阻害剤の曝露の24時間前に細胞をCPX−351に曝露した場合に、強い相乗作用が観察された。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図11D