(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反射防止膜は、前記基板から離れる方向に、互いに直接接触したHI層/VHI層/LI層/VHI層/任意選択的なHI層/及びLI層を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の眼科用レンズ。
【背景技術】
【0002】
一生を通じて、眼は太陽輻射の光束に日々晒される。太陽輻射は、海抜ゼロメートル地点において太陽エネルギーの約80%が紫外線領域における約300nmから赤外線領域における1100nmまでの狭いスペクトル帯に制限されるよう地球の大気により濾過される。長い波長は主として大気の水蒸気により濾過され、一方、短い波長はオゾン層により吸収される。さらに、角膜に入射する太陽光のいくつかのスペクトル成分は人間の網膜へ到達する前に部分的に濾過される。角膜と水晶体の両方は、赤外線の一部(主として980nm、1200nm及び1430nmの水帯域)を吸収する。硝子体は、1400nm超から10μmまでの光を吸収する。
【0003】
したがって、網膜に到達する非電離放射線は、電磁スペクトル(380〜780nm)の所謂「可視光成分」と、近赤外線(780〜1400nm、NIR)の一部である。
【0004】
しかし、人間の網膜に到達する可視及び赤外光は、そのフルエンス率、総線量及びスペクトル特性に応じて3つの基本的過程(フォトメカニカル(又は光音響)、光熱(光凝固)、及び光化学)の少なくとも1つを介し組織損傷を誘起し得る。
【0005】
特に、強いNIRは網膜に有害だろう。NIRがドライアイ及び白内障の潜在的原因のうちの1つである可能性があるということも報告されている。
【0006】
現在、透明眼鏡レンズなどの眼科用レンズにとって、必要要件は反射防止被覆を使用することによる可視領域における高透過率だけである。
【0007】
実際、従来の反射防止被覆は、可視領域における(典型的には380〜780nmのスペクトル範囲内の)レンズ面上の反射を低減するために設計され最適化されるが、近赤外線(NIR)領域においてはそうではない。通常、眼科用レンズの前面及び/又は裏面上の可視領域における平均光反射率R
vは1.5〜2.5%である。これらの反射防止膜のいくつかはまた、315〜400nmのUVA帯域及び/又は280〜315nmのUVB帯域内のレンズ面上の反射を低減するように設計及び最適化され得る。
【0008】
反射防止覆は通常、干渉薄層を含む多層(通常は、高屈折率の誘電材料と低屈折率の誘電材料とに基づく交互層)からなる。透明基板上に蒸着されると、このような被覆の機能は、その光反射を低減し、したがってその光透過を増加することである。したがって、このようにして被覆された基板はその透過光/反射光比を増加させ、これにより、その背後に位置する物体の可視性を改善する。最大反射防止効果を実現することが求められる場合、基板の両面(前面と裏面)にこのタイプの被覆を備えることが好ましい。
【0009】
したがって、可視領域において非常に低い反射率を有する効率的被覆をどのように実現するかは今日良く知られているが、可視領域において非常に低い反射率及びNIR領域において高反射率の両方を有する効率的被覆を実現するのは、特に、非常に薄い反射防止膜を必要とする眼科分野では困難である。
【0010】
通常40層を越える層を有する干渉多層IRフィルタをデジタル画像装置(米国特許出願第2004/0202897号明細書)又は眼科用レンズ(中国特許第101866063号明細書)に設けることは当該技術分野で知られている。これらの種類の積層は、厚く、かつ多くの層を有し、これは眼科用レンズ用途には実用的に許容可能でない。
【0011】
加えて、NIR領域全体にわたる反射特性の最適化は可視領域における反射防止特性にとって通常有害であるということが明らかになった。逆に、可視領域における反射防止性能だけの最適化は、満足な反射特性がNIR領域において得られるようにしない。
【0012】
しかし、最近、Indo Opticalに委譲された米国特許出願公開第2015/0146161号明細書は、標準的反射防止フィルタ技術を適合化することにより、残留反射における角度分散を制限し、可視光における反射防止特性を維持する一方で赤外線のかなりの割合を反射する複数層について記載している。本特許文書に提示された例示的積層は、4層:TiO
2/SiO
2/TiO
2/SiO
2、又は5層:SiO
2/TiO
2/SiO
2/TiO
2/SiO
2、又は6層:TiO
2/SiO
2/TiO
2/SiO
2/TiO
2/SiO
2を有する。最も好適な例は、以後「Indoレンズ」と称すSiO
2(15nm)/TiO
2(127nm)/SiO
2(176nm)/TiO
2(59nm)/ZrO
2(50nm)/SiO
2(62nm)である。
【0013】
この出願において説明される反射防止膜(特に、最も好適な例)は、NIR領域において極めて効率的である(T IR−A=72.0%、したがってR
mNIR<30%)一方で、同時に可視領域における反射を比較的低減することができる(R
v15°=0.9%及びR
v60°=4.7%)。
【0014】
しかし、この特許文献に記載された複数層被覆を改善することが望ましいだろう。
【0015】
したがって、少なくとも可視領域と恐らくUVA及びUVB帯域とにおいて非常に良好な反射防止特性を有し同時に従来技術の反射防止膜に対しNIR領域において高反射率を有する新規な反射防止膜を提供する必要性が依然としてある。
【発明を実施するための形態】
【0021】
用語「含む」(及びその任意の文法的変形)、「有する」(及びその任意の文法的変形)、「含有する」(及びその任意の文法的変形)は開放型連結動詞である。これらの用語は、上述の特徴、整数、工程、又は部品、又はこれらのグループの存在を規定するために使用されるが、他の特徴、整数、工程、又は部品、又はこれらのグループの存在又は追加を排除しない。その結果、1つ又は複数の工程又は要素を「含む」又は「有する」方法又は方法内の工程はそれらの1つ又は複数の工程又は要素を保有するが、それらの1つ又は複数の工程又は要素だけを保有することに限定されない。
【0022】
特に示されない限り、本明細書で使用される成分の量、範囲、反応条件などを参照するすべての数又は表現は、すべての場合において用語「約」により修飾されるものと理解される。
【0023】
また特に示されない限り、本発明による「X〜Y」又は「XとYの間」の値の間隔の指示はXとYの値を含むことを意味する。
【0024】
本出願では、光学物品がその表面上に1つ又は複数の被覆を含む場合、表現「物品上に層又は被覆を蒸着する」は、光学物品の外側被覆の外(露出)表面上に層又は被覆(すなわち、基板から最も遠い被覆)が蒸着されることを意味するように意図されている。
【0025】
基板「上」に存在する又は基板「上に」蒸着されると言われる被覆は、(i)基板の上に位置する被覆として、(ii)基板とは必ずしも接触していない(すなわち、1つ又は複数の中間被覆が基板と当該被覆間に配置され得る)被覆として、(iii)基板を必ずしも完全には覆わない被覆として定義される。
【0026】
好適な実施形態では、基板上の被覆又は基板上へ蒸着される被覆はこの基板と直接接触する。
【0027】
「層1が層2の下に位置する」場合、層2は層1より基板からより離れていることを意味するように意図されている。
【0028】
本明細書で使用されるように、基板の裏(又は内側)面は、物品を使用する際に装着者の眼から最も近い表面を意味するように意図されており、通常は凹面である。逆に、基板の前面は、物品を使用する際に装着者の眼から最も遠い面であり、通常は凸面である。
【0029】
加えて、本発明によると、「入射角(シンボルθ)」は眼科用レンズ表面上の入射光線と入射点における表面に対する法線とのなす角度である。この光線は、例えば国際比色分析CIE L
*a
*b
*において定義された標準光源D65などの光源である。通常、入射角は0°(法線入射)から90°(すれすれの入射)まで変化する。入射角の通常の範囲は0°〜75°である。
【0030】
国際比色分析系(international colorimetric system)CIE L
*a
*b
*における本発明の光学物品の比色分析係数は、標準光源D65と観察者と(10°の角度)を考慮して380〜780nmの間で計算された。観察者は、国際比色分析系CIE L
*a
*b
*において定義された「標準観測者」である。反射防止被覆をそれらの色相角(h)に関する制限無しに作製することが可能である。
【0031】
本発明に従って作製される光学物品は、透明な光学物品、好適にはレンズ又はレンズブランク、より好適には眼科用レンズ又はレンズブランクである。光学物品は、本発明の方法を使用することによりその凸主面(前側)、凹主面(後側)、又は両側に被覆され得る。
【0032】
一般的に言えば、本発明による光学物品の反射防止被覆(以降、単に「反射防止被覆」と呼ぶ)は、任意の基板上へ、好適には有機レンズ基板(例えば、熱可塑性材料又は熱硬化性プラスチック材料)上へ蒸着され得る。
【0033】
加熱可塑性物は、例えば以下のものから選択され得る:ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート及びその共重合体、ポリ(エチレン・テレフタレート)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)。
【0034】
熱硬化性材料は、例えば以下のものから選択され得る:エチレン/ノルボルネン又はエチレン/シクロペンタジエン共重合体などのシクロオレフィン共重合体、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)(CR39(登録商標))の単独重合体などの直鎖又は分岐脂肪族又は芳香族多価アルコールのアリルカーボネートの単独共重合体と共重合体、ビスフェノールAから導出され得る(メタ)アクリル酸及びそのエステルの単独共重合体と共重合、チオ(メタ)アクリル酸及びそのエステルの重合体と共重合体、スチレンなどのビスフェノールA又はフタル酸及びアリル芳香薬から導出され得るアリル・エステルの重合体及び共重合体、ウレタン及びチオウレタンの重合体及び共重合体、エポキシの重合体及び共重合体、及び、硫化物、ジスルフィド及びエピスルフィドの重合体及び共重合体、及びそれらの組合せ。
【0035】
本明細書で使用されるように、(共)重合体は共重合体又は重合体を意味するように意図されている。本明細書で使用されるように、(メタ)アクリル酸塩はアクリル酸塩又はメタクリル酸塩を意味するように意図されている。本明細書で使用されるように、ポリカーボネート(PC、polycarbonate)はホモポリカーボネート又はコポリカーボネート及びブロックコポリカーボネートのいずれかを意味するように意図されている。
【0036】
1.54〜1.58の屈折率を有するジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)(CR39(登録商標))の単独重合体、アリル及び(メタ)アクリル共重合体、チオウレタンの重合体及び共重合体、ポリカーボネートが好適である。
【0037】
基板は、本発明の反射防止被覆を蒸着する前に1つ又は複数の機能被覆で被覆され得る。光学系において伝統的に使用されるこれらの機能皮膜は限定しないが耐衝撃性プライマ層、耐摩耗性被覆及び/又は耐擦傷性被覆、偏光被覆、フォトクロミック被覆、又は着色被覆であり得る。以下では、基板は裸基板又はこのような被覆基板のいずれかを意味する。
【0038】
反射防止膜を蒸着する前に、前記基板の表面は通常、反射防止膜の接着性を強化するように物理的又は化学的表面活性化処理を受ける。このような前処理は通常、真空下で行われる。このような前処理は、エネルギー種及び又は反応種による(例えばイオンビーム(「イオン前洗浄」すなわち「IPC、Ion Pre−Cleaning」)又は電子ビームによる)、コロナ放電処理、イオン粉砕処理、紫外線処理、又は通常は酸素又はアルゴンプラズマを使用する真空下のプラズマ媒介処理であり得る。このような前処理はまた、酸性又はアルカリ性処理及び/又は溶媒(水、過酸化水素又は任意の有機溶媒)ベース処理であり得る。
【0039】
前述のように、本発明による光学物品は、前主面と裏主面とを有する透明基板を含み、上記主面の少なくとも1つは反射防止膜、特に多層反射防止膜により被覆される。
【0040】
前記多層反射防止膜は、前記反射防止膜の層の数が5以上であることを特徴とする。前記多層反射防止膜は、
− 「LI層」として定義される<1.6の低屈折率を有する少なくとも1つの層、
− 「VHI層」として定義される≧2.2の非常に高い屈折率を有する少なくとも1つの層、及び
− 「HI層」として定義される≧1.6かつ<2.2の高屈折率を有する少なくとも1つの層を含み、HI層は前記LI、HI及びVHIの中でも前記基板から最も近い層であり、したがって、前記反射防止膜の近赤外線(NIR)領域における平均反射率R
mNIRは35°より低い入射角において40%以上である。
【0041】
ここでは、近赤外線(NIR)領域における特徴的平均反射率R
mNIR(780〜1400nm)は、次式により定義される:
【数1】
ここで、R(λ)は所与の波長における反射率を表す。
【0042】
本出願人は驚いたことに、本発明による多層反射防止膜が比較的薄い物理的厚さ(一般的に450〜550nm)を有する一方でNIR領域における低いR
vと高い平均反射率との良好な妥協点を示すということを発見した。
【0043】
実際、以下の例に示されるように、本発明による多層反射防止膜は、NIR領域(780〜1400nm)において最小達成可能R
v≦0.1%と高い平均反射率(≧45%)とを得ることを可能にする。これらの良好な結果は、例えば高い及び低い屈折率材料で作られた4つの交互層を含む以下の構造に基づく従来の設計では達成可能ではない:ZrO
2/SiO
2/ZrO
2/SiO
2、Ta
2O
5/SiO
2/Ta
2O
5/SiO
2、TiO
2/SiO
2/TiO
2/SiO
2及び/又はNb
2O
5/SiO
2/Nb
2O
5/SiO
2。
【0044】
加えて、本発明による多層反射防止膜は、良好な頑強性及び美的外観を有するという利点を提供する。本明細書では、レンズの用語「頑強性」は、このレンズがその製造過程により誘発される変動にもかかわらず変化に抵抗するレンズの能力として定義される。これらの変動は、例えば使用される基板のタイプ、製造機械の設定(温度スケジュール、適切な時間、電子銃の設定等)、及び/又はその使用モード、前記製造機械と別のものとの交換に依存する。
【0045】
好適には、反射防止膜の近赤外線(NIR)領域における平均反射率R
mNIRは、35°より低い入射角において42%以上、特には45%以上である。
【0046】
本出願において説明される多層反射防止膜は可視領域において非常に効率的である。特に、反射防止膜の可視領域における平均光反射率R
vは、35°より低い少なくとも入射角に対して、2.5%以下、好適には2.0%以下、より好適には1.5%以下であり、通常は1.0%以下(例えば0.5%以下)である。
【0047】
R
vと標記される「平均光反射率」は、例えばISO13666、1998標準規格において定義され、ISO8980−4に従って測定される、すなわち、これは、380〜780nmの可視スペクトル全体にわたる重み付けスペクトル反射平均である。R
vは通常、17°より低い(典型的には15°の)入射角に対して測定されるが、任意の入射角に対して評価され得る。
【0048】
本発明の多層反射防止膜は、非常に高い屈折率(VHI)、高屈折率(HI)及び低屈折率(LI)を有する誘電体材料で作られた少なくとも5つの層の積層を含む。本発明の多層反射防止膜はここでは、反射防止膜内の総層数が5以上、好適には6以上かつ10以下、より好適には9以下、さらに好適には8以下(例えば7以下)、最も好適には5又は6層であるので簡単な積層である。
【0049】
より好適には、反射防止膜は、低屈折率(LI)を有する少なくとも2つの層、非常に高い屈折率層(VHI)を有する少なくとも2つの層、及び高屈折率層(HI)を有する少なくとも1つの層(例えば高屈折率層(HI)を有する少なくとも2つの層)を含む。
【0050】
本明細書で使用されるように、反射防止被覆の層は1nm以上の厚さを有するものとして定義される。したがって、反射防止被覆の層の数をカウントする場合、1nm未満の厚さを有するいかなる層も考慮されない。反射防止膜の層の数をカウントする場合、副層(以下に述べるような)も考慮されない。
【0051】
別途記載の無い限り、本出願に開示されるすべての厚さは物理的厚さに関する。
【0052】
HI層、VHI層及びLI層は、本発明の一実施形態によると積層内で交互になる必要は無いがそのようにしてもよい。したがって、2つの(又は3以上の)VHI層が互いの上に蒸着され得、2つの(又は3以上の)LI層又は2つの(又は3以上の)HI層も同様に互いの上に蒸着され得る。
【0053】
前述のように、多層反射防止膜のHI層は前記LI、HI及びVHI層の中でも基板から最も近い層である。本発明の実施形態によると前記HI層は基板と直接接触し、別の実施形態によると、前記HI層は、以下に説明するように、1つ又は複数の機能性被覆により被覆され得るので、基板と直接接触しない。
【0054】
特に、VHI層は、二重層HI/VHIを形成するように基板から最も近い前記HI層上に直接配置される。
【0055】
本発明の特徴によると、前記二重層HI/VHI上に直接蒸着される層はLI層である。
【0056】
好適には、反射防止膜は、それぞれが交互配置されかつLI層と又はLI層及びHI層と直接接触する少なくとも2つのVHI層を含む。
【0057】
一般的に、基板から最も遠くにある前記反射防止膜の外側層はLI層である。
【0058】
本発明の一実施形態によると、反射防止膜は、基板から離れる方向に、互いに直接接触したHI層/VHI層/LI層/VHI層/任意選択的なHI層/及びLI層を含み得る。
【0059】
この実施形態によると、反射防止膜は通常、基板から離れる方向に、22〜79nmの範囲の物理的厚さを有するHI層、53〜117nmの範囲の物理的厚さを有するVHI層、160〜192nmの範囲の物理的厚さを有するLI層、81〜98nmの範囲の物理的厚さを有するVHI層、0〜26nmの範囲の物理的厚さを有する任意選択的なHI層、及び53〜81nmの範囲の物理的厚さを有するLI層を含む。
【0060】
別の実施形態によると、反射防止膜は、基板から離れる方向に、互いに直接接触したHI層/VHI層/LI層/好適にはZrO
2を含む任意選択的なHI層/VHI層及びLI層を含み得る。
【0061】
特に、この実施形態によると、反射防止膜は、基板から離れる方向に、31〜54nmの範囲の物理的厚さを有するHI層、74〜98nmの範囲の物理的厚さを有するVHI層、165〜190nmの範囲の物理的厚さを有するLI層、0〜5nm(好適には0〜2nm)の範囲の物理的厚さを有する任意選択的なHI層、87〜98nmの範囲の物理的厚さを有するVHI層、及び64〜85nmの範囲の物理的厚さを有するLI層を含み得る。
【0062】
本出願では、反射防止膜の層は、その屈折率が2.2以上、好適には2.3以上、さらに好適には2.35以上、さらに好適には2.37以上であると、非常に高い屈折率(VHI)を有する層であると言われる。前記VHI層は好適には3未満の屈折率を有する。反射防止膜の層は、その屈折率が1.60未満、好適には1.50以下、より好適には1.48以下であると低屈折率層(LI)であると言われる。LI層は好適には1.1を越える屈折率を有する。さらに、反射防止膜の層は、その屈折率が1.6(下限は含まれる)〜2.2(上限は含まれない)であると高屈折率(HI)であると言われる。
【0063】
特に規定されない限り、本出願において参照される屈折率は550nmの波長、25°Cにおいて表される。
【0064】
HI層は、当該技術領域においてよく知られている伝統的高屈折率層である。HI層は通常、限定しないがジルコニア(ZrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化プラセオジム(Pr
2O
3)、チタン酸プラセオジム(PrTiO
3)、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化イットリウ(Y
2O
3)及びそれらの混合物など1つ又は複数の金属酸化物を含む。好適な材料はジルコニア(ZrO
2)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)を含む。任意選択的に、HI層はさらに、上に示したように1.6以上の屈折率を有するという条件で低屈折率を有するシリカ又は他の材料を含む。
【0065】
LI層もまたよく知られており、限定しないがMgF
2、SiO
2、シリカとアルミナの混合物特にアルミナドープシリカ(後者は反射防止膜耐熱性を増加することに寄与する)、又はその混合物を含み得る。LI層は、層全重量に対し好適には少なくとも重量比80%のシリカ、より好適には少なくとも重量比90%のシリカを含む層、さらに好適にはシリカ層(SiO
2)からなる層である。任意選択的に、LI層はさらに、結果層の屈折率が1.6未満であるという条件で高屈折率又は非常に高い屈折率を有する材料を含み得る。
【0066】
SiO
2とAl
2O
3の混合物を含むLI層が使用される場合、LI層は、このような層内にSiO
2+Al
2O
3全重量に対する重量比で、好適には1〜10%、より好適には1〜8%、さらに好適には1〜5%のAl
2O
3を含む。
【0067】
例えば、重量比4%又はそれ以下のAl
2O
3でドープされたSiO
2、又は重量比8%のAl
2O
3でドープされたSiO
2が採用され得る。Umicore Materials AG社により市販されるLIMA(登録商標)(550nmにおける屈折率n=1.48〜1.50)又はMerck KGaA社により市販されるL5(登録商標)(500nmにおける屈折率n=1.48)など市場で入手可能なSiO
2/Al
2O
3混合物が使用され得る。
【0068】
本発明によるVHI層は、限定しないが酸化ニオブ(Nb
2O
5)、二酸化チタン(TiO
2)、又はその混合物から選択される1つ又は複数の金属酸化物を含み得る。任意選択的に、VHI層はさらに、上に示したように2.2以上の屈折率を有するという条件で低屈折率又は高屈折率を有する材料を含み得る。
【0069】
通常、VHI層は、70〜150nm、好適には75〜120nm、典型的には75〜115nmの範囲の物理的厚さを有する。特に、HI層は、4〜90nm、好適には25〜85nm、典型的には30〜80の範囲の物理的厚さを有し得る。加えて、LI層は、40〜200nm、好適には55〜182nm(例えば50〜190nm)の範囲の物理的厚さを有し得る。一般的に、外側LI層は、50〜90nm、好適には55〜82nmの範囲の厚さを有する。
【0070】
通常、反射防止被覆合計厚は、1マイクロメートル未満、好適には800nm以下、より好適には700nm以下、さらに好適には600nm以下である。反射防止膜合計厚は、通常は100nm超、好適には200nm超、より好適には300nm以上、さらに好適には400nm以上である。典型的には、前記反射防止膜の物理的厚さは450〜500nmの範囲である。
【0071】
したがって、本発明は、改善された概念を有する反射防止膜であって、その厚さ及び材料が頑強特性を有する一方で可視領域及びNIR領域の両方において満足な反射防止性能を得るように選択された層で作られた比較的薄い積層を含む反射防止膜を提供する。
【0072】
本発明の一実施形態では、反射防止膜は副層上に蒸着され得る。このような反射防止被覆副層は反射防止被覆に属さないということに注意すべきである。
【0073】
本明細書で使用されるように、反射防止被覆副層又は接着層は、比較的厚い被覆を意味するように意図されており、前記被覆の耐摩耗性及び/又は耐擦傷性などの機械的性質を改善するために及び/又は基板又は下位被覆に対するその接着性を強化するように使用される。
【0074】
その比較的厚い厚さのために、副層は、特に下位基板(通常、摩耗防止及び擦傷防止被覆又は裸の基板である)のものに近い屈折率を有する場合は、反射防止光学的活動に通常関与するわけではない。
【0075】
副層は、反射防止膜の耐摩耗性を増進するために十分な厚さを有すべきであるが、好適には、副層性質に応じて相対的透過率τ
vを著しく低減する可能性がある光吸収が引き起こされる可能性がある程度の厚さではない。その厚さは通常300nm未満、より好適には200nm未満であり、通常は90nmより厚く、より好適には100nmより厚い。
【0076】
副層は好適には、層全重量に対して好適には少なくとも重量比80%のシリカ、より好適には少なくとも重量比90%のシリカを含むSiO
2ベース層を含み、さらに好適にはシリカ層からなる。このようなシリカベース層の厚さは、通常は300nm未満、より好適には200nm未満であり、通常90nmより厚い、より好適には100nmより厚い。
【0077】
別の実施形態では、このSiO
2ベース層は上に定義されたような量のアルミナでドープされたシリカ層であり、好適にはアルミナドープシリカ層からなる。
【0078】
特定の実施形態では、副層はSiO
2層からなる。
【0079】
単層型の副層が好適には使用されることになる。しかし、副層は、特に副層と下位基板とが実質的に異なる屈折率を有する場合は積層化(多層化)され得る。これは、特に下位被覆が高屈折率(すなわち1.55以上、好適には1.57以上の屈折率)を有する場合に適用される。
【0080】
この場合、副層は、主層と呼ばれる90〜300nmの厚い層に加えて、任意選択的被覆基板と通常はシリカベース層であるこのような90〜300nm厚の層との間にはさまれた好適には最大で3つの追加層、より好適には最大で2つの追加層を含み得る。これらの追加層は好適には、その機能が必要に応じて副層/下位被覆界面又は副層/基板界面における反射を制限することを目的とする薄層である。
【0081】
多層副層は好適には、主層に加え、高屈折率と80nm以下、より好適には50nm以下、最も好適には30nm以下の厚さを有する層を含む。高屈折率を有するこのような層は、必要に応じて、高屈折率を有する基板又は高屈折率を有する下位被覆に直接接触する。当然、この実施形態は基板(又は下位被覆)が1.55未満の屈折率を有したとしても使用され得る。
【0082】
代替案として、副層は、主層と高屈折率を有する前述の層とに加え、1.55以下、好適には1.52以下、より好適には1.50以下の屈折率を有するSiO
2ベース材料(すなわち、好適には少なくとも重量比80%のシリカを含む)であって、高屈折率を有する層がその上に蒸着された80nm以下、より好適には50nm以下、さらに好適には30nm以下の厚さを有するSiO
2ベース材料で作られた層を含む。通常は、この場合、副層は、任意選択的被覆基板上に25nm厚のSiO
2層、10nm厚のZrO
2又はTa
2O
5層、その後副層主層の順番で蒸着される層を含む。
【0083】
一般的に、反射防止膜は上述のような副層上には蒸着されない。
【0084】
本発明の光学物品は、光学物品の表面上に存在する積層内に少なくとも1つの導電層を取り込むことにより帯電防止にされ得る(すなわち、かなりの静電荷を保持及び/又は発現しないように)。
【0085】
静電荷(コロナ放電などにより印加される電荷)を生成するために布で摩擦した又は任意の他の手順を使用した後に得られる静電荷をガラスが排出する能力は、電荷が消散するのにかかる時間を測定することにより定量化され得る。したがって、帯電防止ガラスは約数百ミリ秒(好適には500ms以下)の放電時間を有し、一方、帯電ガラスは約数十秒の放電時間である。本出願では、放電時間は仏国特許出願第2,943,798号明細書に開示された方法に従って測定される。
【0086】
本明細書で使用されるように、「導電層」又は「帯電防止層」は、「非帯電防止」基板の表面(すなわち、500msを越える放電時間を有する)上のその存在のために静電荷がその表面上へ印加された後に500ms以下の放電時間を有することができるようにする層を意味するように意図されている。
【0087】
導電層は、その反射防止特性が影響を受けないという条件で積層内の様々な場所に(通常は反射防止被覆内に又はそれと接触して)配置され得る。導電層は、好適には反射防止膜の2つの層の間に位置する及び/又はこのような反射防止膜の高屈折率を有する層に隣接する。好適には、導電層は、反射防止被覆の低屈折率を有する層の直下に配置され、最も好適には、反射防止被覆のシリカベース外側層の直下に配置されることにより反射防止被覆の最後から2番目の層である。
【0088】
導電層は反射防止被覆の透明性を変えることがないように十分に薄くあるべきである。導電層は、好適には導電性及び高透明性材料から、一般的には任意選択的ドープ金属酸化物から作られる。この場合、厚さは、好適には1〜15nm、より好適には1〜10nmの範囲である。好適には、導電層は、インジウム、錫、酸化亜鉛及びそれらの混合物から選択された任意選択的ドープ金属酸化物を含む。錫酸化インジウム(In
2O
3、錫ドープ酸化インジウム)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、酸化インジウム(In
2O
3)及び酸化錫(SnO
2)が好適である。最も好適な実施形態では、導電性及び光学的透明層はITO層と標記される錫インジウム酸化物層又は酸化錫層である。
【0089】
一般的には、導電層は、その薄い厚さのために積層内でしかし限定されたやり方で、反射防止特性を得ることに貢献し、反射防止被覆内の高屈折率を有する層を表す。これは、ITO層などの導電性及び高透明性材料から作られた層の場合である。
【0090】
反射防止被覆は、酸化インジウムに基づく20nm以上の厚さ(好適には15nmを越える厚さ)のいかなる層も含まない。複数の酸化インジウムベース層が反射防止被覆内に存在する場合、それらの合計厚は好適には20nm未満、より好適には15nm未満である。本明細書で使用されるように、酸化インジウムベース層は層全重量に対して少なくとも重量比50%の酸化インジウムを含む層を意味するように意図されている。
【0091】
好ましい実施形態によると、反射防止被覆は、酸化インジウム、酸化錫又は酸化亜鉛を含む20nm以上の厚さ(好適には15nmを越える暑さ)を有するいかなる層も含まない。酸化インジウム、酸化錫又は酸化亜鉛を含む複数の層が反射防止被覆内に存在する場合、それらの合計厚は好適には20nm未満、より好適には15nm未満である。
【0092】
反射防止膜の様々な層及び任意選択副層は好適には、以下の方法のうちの任意のものに従って真空下で化学気相蒸着により蒸着される、i)任意選択的にイオンビーム支援蒸着により、ii)イオンビームスパッタリングにより、iii)陰極スパッタにより、iv)プラズマ支援化学気相蒸着により。これらの様々な方法は、非特許文献“Thin Film Processes”及び“Thin Film Processes II,”Vossen & Kern,Ed.,Academic Press,1978及び1991にそれぞれに記載されている。特に推奨される方法は真空下の蒸着である。
【0093】
好適には、反射防止被覆の層及び任意選択的副層のそれぞれの蒸着は真空下の蒸着により行われる。
【0094】
通常、光学物品は眼科用レンズ(特には眼鏡レンズ)である。
【0095】
前面と裏面の反射防止被覆は同じであっても異なってもよい。
【0096】
本発明の一実施形態では、本発明の光学物品の前面及び裏面は上述の反射防止膜により被覆される。別の実施形態では、本発明の光学物品の裏面は、本発明による前面上に設けられたものとは異なり、UV領域(国際公開第2012076714号パンフレットにおいて定義されたような)において平均反射率R
uv≦10%(好適にはR
uv≦5%)を有する従来の反射防止膜で被覆される。
【0097】
通常、反射防止膜が蒸着される基板の前主面及び/又は裏主面は、耐衝撃性プライマ層で、摩耗防止及び/又は擦傷防止被覆で、又は摩耗防止及び/又は擦傷防止被覆で被覆された耐衝撃性プライマ層で、被覆される。
【0098】
本発明の反射防止膜は好適には、摩耗防止及び/又は擦傷防止被覆上に蒸着される。摩耗防止及び/又は擦傷防止被覆は、眼科用レンズの分野における摩耗防止及び/又は擦傷防止被覆として伝統的に使用される任意の層であり得る。
【0099】
摩耗防止及び/又は耐擦傷性被覆は好適には、硬化されると被覆の硬度及び/又は屈折率を増加するように意図された1つ又は複数の無機充填材を通常は含むポリ(メタ)アクリレート又はシランに基づく硬質被膜である。
【0100】
硬質摩耗防止及び/又は耐擦傷性被覆は好適には、少なくとも1つのアルコキシシラン及び/又はその水解物(例えば塩化水素酸溶液及び任意選択的に凝結及び/又は硬化触媒との加水分解により得られる)を含む成分から作製される。
【0101】
本発明のために推薦される好適な被覆としては、仏国特許第2,702,486号明細書(欧州特許第0,614,957号明細書)、米国特許第4,211,823号明細書及び米国特許第5,015,523号明細書に記載されたものなどのエポキシシラン水解物に基づく被覆が挙げられる。
【0102】
摩耗防止及び/又は耐擦傷性被覆成分は、浸漬又は回転塗布により基板の主面上へ蒸着され、次に、好適な方法により(好適には熱又は紫外線を使用して)硬化される。
【0103】
摩耗防止及び/又は耐擦傷性被覆の厚さは、通常2〜10μm、好適には3〜5μmの範囲である。
【0104】
耐摩耗性被覆及び/又は耐擦傷性被覆を蒸着する前に、最終製品における後の層の耐衝撃性及び/又は接着性を改善するために基板上へプライマ被覆を塗布することが可能である。この被覆は、眼科用レンズなどの透明な高分子材料の物品に伝統的に使用される任意の耐衝撃性プライマ層であり得る。
【0105】
好ましいプライマ組成物は、ポリウレタンに基づく組成物とラテックス(特にはポリエステルユニットを任意選択的に含むポリウレタン型ラテックス)に基づく組成物である。
【0106】
このようなプライマ組成物は浸漬又は回転塗布により物品面上に蒸着され得、その後、硬化後に0.2〜2.5μm、好適には0.5〜1.5μmの厚さを有するプライマ層を形成するために、2分〜2時間(一般的には約15分)の期間少なくとも70℃〜100℃の温度(好適には約90℃)で乾燥される。
【0107】
本発明による光学物品はまた、反射防止膜上に形成されるとともに表面性質を修正することができる疎水性及び/又は疎油性被覆(汚れ止め上部被膜)などの被覆を含み得る。これらの被覆は好適には、反射防止被覆の外側層上へ蒸着される。通常、これらの厚さは10nm以下であり、好適には1〜10nm、より好適には1〜5nmである。
【0108】
疎水性被覆の代わりに、防曇性を提供する親水性被覆、又は界面活性剤を伴うと防曇性を提供する防曇性前駆体被覆が使用され得る。このような防曇性前駆体被覆の例は国際公開第2011/080472号パンフレットに記載されている。
【0109】
通常、本発明による光学物品は、その裏面上に耐衝撃性プライマ層、摩耗防止及び耐擦傷性層、UV防止、反射防止膜、及び疎水性及び/又は撥油性被覆、又は防曇性を提供する親水性被膜、又は防曇前駆体被覆により逐次的に被覆される基板を含む。本発明による光学物品は好適には、眼鏡(眼鏡レンズ)のための眼科用レンズ又は眼科用レンズのためのブランクである。レンズは、着色されてもされなくてもよくかつ補正されてもされなくてもよい偏光レンズ、フォトクロミックレンズ又は太陽レンズであり得る。
【0110】
光学物品の基板の前面は、本発明による耐衝撃性プライマ層、耐摩耗性層及び/又は耐擦傷性層、反射防止膜により、そして疎水性及び/又は撥油性被覆により逐次的に被覆され得る。
【0111】
一実施形態では、本発明による光学物品は可視領域においては吸収しない又はあまり多くは吸収しなく、このことは本出願の文脈では、可視範囲におけるその透過率τ
v(可視範囲における相対的透過率とも呼ばれる)が90%より高い、より好適には95%より高い、さらに好適には96%より高い、及び最も好適には97%より高いということを意味する。
【0112】
透過率τ
vは、国際標準化定義(ISO13666、1998標準規格)により定義されるように理解されなければならなく、ISO8980−3標準規格に従って測定される。透過率τ
vは380〜780nmの波長範囲内で定義される。
【0113】
好適には、多層反射防止膜は、35°以下、好適には30以下、特には25°以下、典型的には20°以下の入射角θに対する国際的比色分析CIEL
*a
*b
*に従って275°〜350°、好適には280°〜325°、より好適には300°〜320°の色調(h)を有する。
【0114】
したがって、本発明の反射防止膜は入射角θに準じ一定の知覚残色変動を示す。実際、本発明者らは、本発明による眼科用レンズが大きな比色分析信頼性を有する、すなわち色相角h及び色度C
*が時間及び反復にわたって特に安定していた(σh
*≦9.8及びσ
*≦9)ということを観察した。
【0115】
以下の実施例は本発明をさらに詳細であるが非限定的なやり方で示す。
【実施例】
【0116】
1.基本手順
これらの実施例において使用される光学物品は、コロイドシリカ及びアルミニウムアセチルアセトナートの(GLYMO及びDMDESで構成された水解物に基づく)欧州特許第0,614,957号明細の実施例3において開示された摩耗防止及び耐擦傷性被覆(HC1.5)(1.47に等しい屈折率と3.5μmの厚さ)を有するその前及び裏面上に被覆された65mm径、1.50の屈折率、−2.00ジオプタの度数、及び1.2mmの中心厚さを有するESSILOR社のORMA(登録商標)レンズ基材を含み、その後前面上に本発明による反射防止膜を備える。
【0117】
前記摩耗防止及び耐擦傷性被覆は、GLYMOの224重量部、HCl 0.1Nの80.5重量部、DMDESの120重量部、メタノール中の重量比30%コロイドシリカの718重量部、アルミニウムアセチルアセトナートの15重量部、及びエチルセロソルブの44重量部を含む組成を蒸着及び硬化することにより得られた。この組成はまた、組成全重量に対して重量比で、3M社により製造される界面活性剤FLUORADTM(商標)FC−430(登録商標)の0.1%を含んだ。
【0118】
反射防止膜の層は、真空下(蒸発源、電子銃)で蒸着により基板を加熱することなく蒸着された。
【0119】
蒸着枠は、酸化物を蒸発させるための電子銃(ESV14(8kV))と、予備段階中にアルゴンイオンを使用して基板の表面を作製(IPC)するイオン銃(Commonwealth Mark II)とを備えたLeybold 1104マシンである。
【0120】
層の厚さは石英微量天秤により制御された。スペクトル測定は、URAアクセサリ(Universal Reflectance Accessory)を有する可変入射分光器Perkin−Elmer Lambda 850上で行われた。
【0121】
2.試験手順
光学物品を作製する方法は、その裏面上に摩耗防止及び耐擦傷性被覆で被覆された基板を真空蒸着室内に導入する工程と、高真空が得られるまでポンピングする工程と、アルゴンイオンビーム(陽極電流:1A、陽極電圧:100V、中和電流:130mA)により基板の表面を活性化する工程と、イオン照射を止める工程と、摩耗防止及び耐擦傷性被覆上に副層を形成し、その後連続蒸着により反射防止膜の様々な層を形成する工程と、最後に換気工程と、を含む。
【0122】
3.結果
実施例1〜14において得られた眼科用レンズの構造特性と光学性能について以下に詳述する。作製された幾つかの物品の280〜780nmの反射グラフを様々な入射角と共に
図1〜10に示す。
【0123】
光学値は前面のものである。反射光の係数R
mNIR、R
v、色度(C
*)及び色調(h)が15°の入射角、標準光D65、及び標準観測者(角度10°)に対して提供される。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
本発明の光学物品が美観性及び頑強特性へのいかなる有害な影響も無く(σh
*≦9.8とσC
*≦9)可視領域において非常に良好な反射防止特性(R
v<1.50%)とNIR領域において高反射率(≧44.0%)の両方を保有するということを観測できた。
【0127】
さらに、実施例1〜14において得られたレンズは突出した透過特性、摩耗及びスクラッチに対する良好な抵抗力、及び表面への機械的応力を伴う熱水浸漬処理に対する良好な抵抗力を有する。被覆の基板への接着性もまた非常に満足だった。
【0128】
4.比較例(
図11〜
図13)
図11〜
図13は、本発明による反射防止膜の様々な積層(ZTiQTiZQ、ZTiQZTiQ、ZNbQNbZQ、ZTiQTiZQ)と、今日市場でかなり人気のある製品(Indoレンズ、ZQZQ、TiQTiQなどの)の様々な積層又は比較被覆様々な積層(TiZQZTiQ、TiZQTiZQ)とのR
mNIR/R
v妥協点を示す。
【0129】
これらのグラフは以下の方法に従ってプロットされる。特定R
v値が選択される。次に、反射防止膜構造(すなわち各金属酸化物層の厚さ)が、定義された材料及び層の順番でもって最高R
mNIR値に到達するように最適化される。
【0130】
図11〜
図13から、我々は、反射防止膜が、定義された材料及び層の順番を使用する一方で標的R
mNIR性能の曲線の上の領域に到達し得ないということを学ぶ。
【0131】
【表3】
【0132】
図11から、MI1.5基板上に6層ZTiQTiZQ(ZrO
2、TiO
2及びSiO
2層)を含む本発明による反射防止膜は4層ZQZQ及びTiQTiQを含む従来技術による反射防止膜と比較してそして商品Indoレンズと比較して低R
vと高R
mNIRの両方を示すということが観察できた。本発明によるZTiQTiZQ被覆に関し、最小達成可能R
vは0.1%程の低さであり得る。さらに、ZTiQTiZQ積層のNIR反射率もまた、4層TiQTiQ被覆のものより高くなり得る。ZTiQTiZQ積層の合計厚は、すべてが500nmより低い4層ZQZQ被覆の合計厚と4層TiQTiQ被覆の合計厚との間であるということを指摘すべきである。
【0133】
図12はまた、MI1.5基板上に6層ZNbQNbZQ(ZrO
2,Nb
2O
5及びSiO
2層)を含む本発明による反射防止膜は4層ZQZQ及びNbQNbQを含む従来技術による反射防止膜と比較してそして商品Indoレンズと比較して低R
vと高R
mNIRの両方を示すということを示す。ZNbQNbZQ被覆の最小達成可能R
vもまた約0.1%であり、一方、NIR領域における反射率は4層NbQNbQ被覆のものより高くなり得る。ZNbQNbZQ被覆の合計厚は、すべてが500nmより低い4層ZQZQ被覆の合計厚と4層NbQNbQ被覆の合計厚との間である。
【0134】
加えて、
図13は、本発明による基板から最も近い反射防止膜の層が低R
vと高R
mNIRの両方を有する被覆を得るようにHI層でありVHI層ではないということが重要であるということを示す。