(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6977023
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】有用層を移動させるための方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20211125BHJP
H01L 27/12 20060101ALI20211125BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/02 B
H01L21/265 Q
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-507163(P2019-507163)
(86)(22)【出願日】2017年8月1日
(65)【公表番号】特表2019-531594(P2019-531594A)
(43)【公表日】2019年10月31日
(86)【国際出願番号】FR2017052161
(87)【国際公開番号】WO2018029419
(87)【国際公開日】20180215
【審査請求日】2020年5月20日
(31)【優先権主張番号】1657722
(32)【優先日】2016年8月11日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507088071
【氏名又は名称】ソイテック
(73)【特許権者】
【識別番号】510094104
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ エナジーズ アルタナティブス
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディディエ ランドリュ
(72)【発明者】
【氏名】ナディア ベン モハメッド
(72)【発明者】
【氏名】オレグ コノンチュク
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック マゼン
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン マッシー
(72)【発明者】
【氏名】シェイ ルボ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ リュトール
【審査官】
宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−507868(JP,A)
【文献】
特開平11−317509(JP,A)
【文献】
特開2015−213161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/265
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有用層(3)を支持体(4)上に移動させるための方法であって、
第1の基板(1)に軽化学種を注入することによって脆化面(2)を形成して、そのような面(2)と前記第1の基板(1)の一方の表面との間に有用層(3)を形成するステップと、
前記第1の基板(1)の前記表面上に前記支持体(4)を貼り付けて、破断すべき集成体(5)を形成するステップと、
前記破断すべき集成体(5)を脆化させるための熱処理を施すステップと、
前記第1の基板(1)内に前記脆化面(2)に沿って破断波を開始および伝搬させるステップと
を含み、前記方法が、
前記破断波が前記脆化面(2)の中心領域内で開始すること、および
そのような波の伝搬速さが、前記破断波の前記開始および/または伝搬時に放出される音響波の速さの3分の1よりも大きい速度を有するように制御されること
を特徴とし、
前記破断波と前記破断波の前記開始および/または伝搬時に放出される音響振動との相互作用が、前記有用層(3)の周辺領域に限定されるようになっている、方法。
【請求項2】
前記第1の基板(1)はシリコンで作製され、前記破断波の前記伝搬は、2km/秒を上回る速度を有するように制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記破断波の前記伝搬は、2km/秒から4.5km/秒の範囲の速度を有するように制御される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記破断波の前記伝搬は、3.8km/秒から4.2km/秒の範囲の速度を有するように制御される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記破断波は、前記脆化熱処理を施すことによって開始され、前記伝搬速さは、前記開始時のそのような熱処理の温度を選択することによって制御される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記脆化熱処理の温度は、400℃または500℃を上回る、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記破断波の前記開始は、前記脆化面(2)の前記中心領域内またはそのような中心領域の付近に位置付けられた、初期破断部によって引き起こされる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記初期破断部は、前記脆化面(2)内の平均濃度に比べて超過した軽化学種を含有する体積部から成る、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記初期破断部は、前記第1の基板(1)と前記支持体(4)との間の境界面のところに前記脆化面(2)の前記中心領域と一致して位置付けられた、キャビティまたはボディから成る、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記破断波は、前記脆化面(2)の前記中心領域でのエネルギー入力によって開始される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
伝搬速さは、ターゲット成熟率に少なくとも等しい成熟率を前記脆化面が有するように、前記脆化熱処理をキャリブレーションすることによって制御される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の基板(1)は円盤状ボードから成り、前記中心領域は前記ボードの幾何学的中心を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記周辺領域は、前記周辺領域の内側円半径が前記第1の基板(1)の半径の2/3よりも大きい、好ましくはその80%よりも大きい、環状領域から成る、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記周辺領域は、前記有用層(3)の1つの除外領域内に全体的に包含されている、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用層を移動させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有用層3を支持基板4上に移動させるための方法が文献から
図1に示すように知られており、(例えば、特許文献1参照)、そのような方法は、以下の主要な、
− ステップa)における、第1の基板1に軽化学種(light species)を注入することによって脆化面2を形成して、そのような面と第1の基板1の一方の表面との間に有用層3を形成するステップと、
− ステップb)における、第1の基板1のその表面上に支持体4を貼り付けて、2つの露出表面S1、S2を有する破断すべき集成体(assembly to be fractured)5を形成するステップと、
− ステップc)における、破断すべき集成体5を脆化させるための熱処理を施すステップと、
− ステップd)における、第1の基板内に脆化面2に沿って破断波(fracture wave)を開始および伝搬させるステップと
を含む。
【0003】
この文献によれば、破断波の開始および/または伝搬時に、音響振動が放出される。破断波とそのような音響振動との間の相互作用の結果、形成された有用層の厚さばらつきの周期的パターンが形成され、それは、その層の表面全体上に延在する。換言すれば、破断波は、それが通過する材料の瞬間応力の状態に従って、その進行面に対して垂直に偏向し、そのような応力状態は、音響波による影響を受ける。かくして
図2は、上で開示した方法に従って移動された有用層の厚さばらつきのパターンを示す。図示の例では、パターンは、サイドパターンおよび円形パターン(それぞれこの図ではaおよびbで示す)を含む。そのようなパターンは、通例の英語の専門用語である、層表面によって放散された(broadcast)光の強度に対応する「ヘイズ(haze)」を、KLA−Tencor社による検査ツールSurfscan(商標)を使用して測定することによって、明らかにされている。そのような検査技法に関するさらなる情報については、文献を参照することができる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
この問題を解決するために、上記の文献では、放出された音響波を検出して消散させるとともにそのような有用層の厚さばらつきのパターンの形成を防止または制限するための吸収要素(absorbing element)を、破断すべき集成体に装備している。この方法は、完全に効率的であるが、それにもかかわらず、破断すべき集成体の両面のうちの少なくとも一方上への1つの吸収要素の実装を要し、そのことが、有用層を移動させるための方法をより複雑にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】仏国特許出願公開第3020175号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2010330779号明細書
【特許文献3】国際公開第2013140065号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F. Holsteyns,<<Seeing through the haze>>, Yield Management Solution, Spring 2004, pp50−54
【非特許文献2】D. Massy et Al,<<fracture dynamics in implanted silicon>>, Applied Physics Letters 107 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の1つの目的は、有用層を、そのような有用層が程度の抑えられた厚さばらつきのパターンを有した状態で移動させるための、単純な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目標を達成するために、本発明は、有用層を支持体上に移動させるための方法であって、
− 第1の基板に軽化学種を注入することによって脆化面を形成して、そのような面と第1の基板の一方の表面との間に有用層を形成するステップと、
− 第1の基板のその表面上に支持体を貼り付けて、破断すべき集成体を形成するステップと、
− 破断すべき集成体を脆化させるための熱処理を施すステップと、
− 第1の基板内に脆化面に沿って破断波を開始および伝搬させるステップと
を含む方法を提供する。
【0009】
本方法は、破断波が脆化面の中心領域内で開始すること、およびそのような波の伝搬速さが、その速度が十分であるように制御されることを特徴とする。したがって、破断波とその開始および/または伝搬時に放出される音響振動との相互作用が、有用層3の周辺領域に限定される。
【0010】
本発明は、厚さばらつきの周期的パターンの形成を、有用層の一部分のみに限定することを可能にする。
【0011】
別々に、または任意の技術的に実現可能な組合せで選択される、本発明の他の有利で非限定的な特徴によれば、
・破断波の伝搬速さは、音響波の速さの3分の1よりも大きい速度を有するように制御される、
・第1の基板はシリコンで作製され、破断波の伝搬は、2km/秒を上回る速度を有するように制御される、
・破断波の伝搬は、2km/秒から4.5km/秒の範囲の、好ましくは、3.8km/秒から4.2km/秒の範囲の速度を有するように制御される、
・破断波は、脆化熱処理を施すことによって開始し、伝搬速さは、その開始時のそのような熱処理の温度を選択することによって制御される、
・脆化熱処理の温度は、400℃または500℃を上回る、
・破断波の開始は、脆化面の中心領域内またはそのような中心領域の付近に位置付けられた、初期破断部によって引き起こされる、
・初期破断部は、脆化面内の平均濃度に比べて超過した軽化学種を含有する体積部から成る、
・初期破断部は、第1の基板と支持体との間の境界面において脆化面の中心領域と一致して位置付けられた、キャビティまたはボディから成る、
・破断波は、脆化面の中心領域におけるエネルギー入力によって開始する、
・伝搬速さは、ターゲット成熟率(maturing rate)に少なくとも等しい成熟率を脆化面が有するように脆化熱処理をキャリブレーションすることによって制御される、
・第1の基板は円盤状ウェーハから成り、中心領域はウェーハの幾何学的中心を含む、
・周辺領域は、その内側円半径(inner radius of circle)が第1の基板の半径の2/3よりも大きく、好ましくはその80%よりも大きい環状領域から成る、
・周辺領域は、有用層の1つの除外領域内に全体が包含される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図を参照して行われる本発明の詳細な説明から明白となろう。
【
図1】従来技術による有用層を移動させるための方法を示す図である。
【
図2】厚さばらつきの周期的パターンを示す、従来技術の有用層によって放出されたヘイズの図である。
【
図3】破断波の速さと音響波の速さとの間の実験上の関係の図である。
【
図4】本発明による有用層を移動させるための方法を示す図である。
【
図5a】本発明による方法によって得られた有用層によって放出されたヘイズの図である。
【
図5b】本発明による方法のシミュレーションによって得られた有用層の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本出願の本発明者らは、有用層を移動させるためのオリジナルの方法を提供するために、従来技術のプレゼンテーション内に開示された現象を徹底的に研究した。このオリジナルの手法は、音響波の発達を、例としてそれを収集することによって、かつ/またはそれを吸収することによって、制限することを目的とするものではなく、それと破断波との相互作用を制限することを目的とするものである。したがって、厚さばらつきの周期的パターンの形成が、そのような層の一部分のみに限定される。
【0014】
かくして本発明者らは、音響波が、破断開始点から破断波のそれよりも大きい速さで伝搬すること、および波パターンの発生が、破断波と、音響波が破断すべき集成体の端部に反射した波との間の衝突によって引き起こされた干渉に端を発することに気付いた。音響波の伝搬特性、具体的にはその速さは、破断すべき集成体の一方および/または他方の面上に位置付けられた圧電センサによって測定することができる。
【0015】
そのような干渉を制限するために、本発明では、一方では、破断の開始点を、破断すべき集成体の端部から離れて配置し、すなわち、そのような開始点を、基板縁部から距離を隔てて、脆化面の中心領域に配置する。したがって、反射した音響波が破断波と出会う瞬間が、破断開始時間に対して遅延する。
【0016】
同時に、本発明では、破断波の伝搬速さを制御する。後者は、破断波と反射した音響波(が有用層の厚さばらつきの周期的パターンを有することになる)領域が、破断すべき集成体の周辺領域に閉じ込められるのに十分なほど大きいものが選択される。最も有利な状況では、具体的には破断波の速さが十分に大きい場合、周辺領域を、有用層の1つの除外領域、すなわち、一般に構成要素の形成が計画されない領域内に包含することができる。そのような除外領域は、有用層の周辺部の0.5から2または3ミリメートルとすることができる。周辺領域内に包含されない有用層の表面には概ね周期的パターンがなく、したがって、その表面は、厚さ均一性に関して要求される特性を有する。
【0017】
本発明の原理は、音響波の伝搬速さには、破断波の伝搬速さとの直接的な(例として比例的な)関連性がないという、本出願の本発明者らによって調査された仮定に基づくことに留意されたい。
【0018】
実際のところ、円形形状および半径Rを有する破断すべき集成体について考え、Vgが、破断すべき集成体によって画定される平面内での音響波の速さを示し、Vfが破断波の速さである場合、破断すべき集成体の中心(破断が開始するところ)と両波が衝突する場所との間の距離dは、出会点において、破断波が速さVfで距離d上を進んできており、反射した音響波が速さVgで距離(2R−d)上を進んできていると仮定すると、以下の式、
d/Vf=(2R−d)/Vg
を満たす。したがって、そのような距離dが以下の式、
d=2R/1+Vg/Vf)
を満足させることを、計算により求めることができる。
【0019】
したがって、そのような距離dは、Vg/Vf比も1に近くなるように制御することができる限り、可能な限りRに近くなるように制御することができる、と述べることができる。
【0020】
図3は、本発明者らが本発明の準備として行った実験の結果を示し、破断波のさまざまな速さVfについてのVg/Vf比を示す。そのような測定は、層を移動させるための方法を第1のシリコン基板に適用した際に得られたものである。
【0021】
Vg/Vf比は、破断波速さVfの値を選択することによって、1から2の広い範囲から選択することができる、と述べることができる。1km/秒程度の小さい速さの破断波の場合、音響波の速さは、ほぼ2倍の大きさである(2に近いVg/Vf)。したがって、出会領域は、その内側半径が破断すべき集成体の半径Rの2/3に等しい環状領域である。
【0022】
大きい速さの破断波の場合、音響波の速さは、破断波のそれよりもわずかに大きい(1に近いVg/Vf)。その場合、出会領域は、その内側半径が破断すべき集成体の半径Rに非常に近い環状領域に限定され、したがってほとんど存在しない。
【0023】
この研究に基づき、本発明は、
図4aから
図4dに示すステップを含む、有用層3を支持体4上に移動させるための方法を提供する。
【0024】
第1のステップa)では、
図4aに示すように、例として第1の基板1に軽化学種を注入することによって脆化面2が形成される。第1の基板1は、シリコンで作製されてもよく、半導体か否かにかかわらず、他のどんな材料で作製されてもよい。それは、例としてゲルマニウムでもよく、窒化ガリウム、タンタル酸リチウム、またはサファイアでもよい。堆積または熱処理を使用して、表面上に事前に層が堆積されてよい。それは、シリコンボードの熱酸化によって得られる二酸化シリコンでできた層でもよく、任意の種類のエピタキシャル堆積によって得られる、SiGe、InGaN、AlGaN、Geなどの層でもよい。
【0025】
第1の基板1は、標準的な寸法の、例として直径200mmもしくは300mmの、または450mmですらある、円盤状ウェーハとすることができる。しかし、本発明は、これらの寸法またはこの形状に決して限定されない。
【0026】
軽化学種に関して、これらは、第1の基板1をその脆化面において脆化させることの可能な任意の化学種とすることができる。それは、水素および/またはヘリウムとすることができる。
【0027】
脆化面2は、第1の基板の表面とともに、有用層3を画定する。
【0028】
第2のステップb)では、第1の基板1のその表面上に支持体4が貼り付けられて、破断すべき集成体5を形成する。支持体は、シリコンウェーハ、または任意の材料で作製され任意の形状を有する、例としてサファイアもしくはガラスで作製された基板から成ってよい。第1の基板1と同様に、支持体4にも、事前に任意の種類の表面層が設けられてよい。
【0029】
支持体4は第1の基板の表面上に、分子付着、熱圧着、静電接合などの任意の直接集成方法を使用して貼り付けることができる。それには、支持体4および/または第1の基板1上に接着剤などの接着層を貼り付けることも含まれてよい。支持体4の貼り付けは、第1の基板1の表面上への材料の堆積に対応してもよく、この堆積された層が支持体4を成す。
【0030】
さらなるステップc)では、次いで、破断すべき集成体5に脆化熱処理が施される。そのような熱処理は、第1の基板1を脆化面2において弱化させ、破断波が開始すると自己持続的に伝搬するのに十分なだけのエネルギーを供給する。そのような熱処理は、典型的には、150℃から600℃の範囲で30分から8時間にわたり、例として、400℃で4時間にわたる。
【0031】
第1の代替的実施形態では、熱処理はそれ自体で、破断波を開始させるのに十分である。熱処理が完了すると、
図4dに示すように、有用層3全体が第1の基板1から取り外される。
【0032】
図4c’に示す第2の代替的実施形態では、方法は、脆化熱処理の前または脆化熱処理中の、破断波を開始させるためのエネルギーの局所追加を含む。そのようなエネルギーは、機械的な、熱的な、または他の任意の発生源を有してよい。それが発生するのは、例としてレーザによる局所加熱が理由であってもよく、超音波エネルギー入力が理由であってもよい。
【0033】
どんな代替的実施形態であれ、破断波は開始すると自己持続的に伝搬し、それにより、
図4のステップd)に示すように、有用層2が切り離されて、支持体4上に移動する。
【0034】
本発明によれば、
図4cおよび
図4c’に示すステップのうちの一方中に生み出される破断波は、脆化面2の中心領域のところで開始する。これらの図では、中心領域内での開始が大矢印によって記号表示されている。
【0035】
破断波は、そのような面2の正確に幾何学的中心で開始されなくてもよい。したがって、開始の中心領域は、脆化面の幾何学的中心を実質的に中心とする円形表面に対応してよい。そのような表面は、脆化面2の総表面の20%、10%、または5%に対応してよい。上で説明したように、この領域の一点で破断が開始するとき、それは破断すべき集成体5の縁部から、破断波が反射した音響波と相互作用する瞬間を遅延させるのに十分なほど遠くにある。
【0036】
そのような中心領域内での破断の開始を引き起こすためのいくつかの手法が可能である。したがって、熱処理ステップの前のステップにおいて、この領域内またはその近くに初期破断部を配置することができる。このステップ中、初期破断部は、そのような破断を開始させるのに有利な場所となる。
【0037】
したがって、そのような初期破断部は、第1の基板1の脆化面2の中心領域に軽化学種を導入することによって形成することができる。したがって、初期破断部を画定する体積部が形成され、それは、脆化面2の平均濃度に比べて超過した軽化学種を有する。したがって、そのような超過した軽化学種は、脆化面2を形成するステップの前、脆化面2を形成するステップ中、または脆化面2を形成するステップの後、かついずれの場合も集成ステップの前に、導入することができる。初期破断部の主要な寸法は、10nmから数ミリメートルの範囲に及ぶことができる。超過した化学種は第1の基板1に、そのような基板1を予めマスキングして、または予めマスキングせずに、局所注入を用いて導入することができる。例として、直径1mmの表面上に、(脆化面を形成するものに加えて)1e16at/cm
2のドーズ量で水素を局所注入すると、脆化熱処理ステップ中に、具体的には初期破断部を成すそのような過注入した領域で、破断を開始させることが可能になる。
【0038】
初期破断部は、第1の基板1と支持体4との間の集成境界面において脆化面2の中心領域と一致して形成することもできる。それは、例としてエッチングによって第1の基板1または支持体4の表面のところに作製されたキャビティから成ってもよく、そのような境界面のところに位置付けられた、低減された寸法を有するボディから成ってもよい。例として文献に開示されているように、(例えば、特許文献2参照)、そのようなボディまたはキャビティが存在する結果、脆化熱処理中に局所応力が生じ、それが、中心領域内での破断波の開始に好都合に働く。
【0039】
初期破断部が存在するために破断波が脆化熱処理ステップ中に引き起こされるとき、そのような熱処理は、破断すべき集成体5に均一に施すことができる。
【0040】
初期破断部の挿入に代わる手段として、またはそれに加えて、開始は、脆化熱処理ステップ中または脆化熱処理ステップ後の、中心領域での局所エネルギー入力によって引き起こすこともできる。この件は、処理中に中心領域が周辺領域よりも多くの熱エネルギーを受け取るように熱処理機器を構成することであってよい。
【0041】
それは、光ビーム(例としてレーザ)または粒子ビーム(イオン、電子)を使用したエネルギーの局所印加であってもよい。
【0042】
この件は、例えば超音波発生器、例として圧電ジェネレータによって伝達される振動などの機械的エネルギーを、中心領域において追加で印加することであってもよい。
【0043】
最後の2つの例では、局所エネルギー入力は、脆化熱処理ステップ中またはそのような局所エネルギー入力専用の可能な追加ステップ中に行うことができる。
【0044】
脆化面2の中心領域において破断を開始するために選択される実施形態が何であれ、本発明は、破断波伝搬速さを制御することも含み、それが十分な速さを有することでその開始および/または伝搬時に放出される音響振動との相互作用を制限するようにする。
【0045】
上で説明したように、十分な速さにより、そのような相互作用を周辺領域内に限定することが可能になる。また、速さが大きいほど、周辺領域の表面が小さくなる。したがって、厚さばらつきの周期的パターンが、有用層3のこの周辺領域に限定される。したがって、第1の基板がシリコンで作製されているとき、破断波伝搬は、有利には、2km/秒を上回る、好ましくは2から4.5km/秒の間の、またはより好ましくは4km/秒に等しいかそれに近い、例えば3.8から4.2km/秒の速さを有するように制御することができる。
【0046】
より一般には、本発明の好ましい一実施形態によれば、周期的パターンが限定される周辺領域がR/2よりも小さくなるように、破断波伝搬速さは、音響波速さの3分の1(すなわちVg/3)以上となるように制御される。
【0047】
破断を開始させるために選択される方法(熱的および/または機械的かどうか)に応じて、そのような方法の動作パラメータを、破断波伝搬速さを制御するように選択することができる。この目的のために、文献に開示された破断波速さを測定するためのデバイスを使用することができる(例えば、特許文献3参照)。
【0048】
したがって、破断開始が温度に関して得られる場合、例として、脆化熱処理がそのような開始をそれ自体によって引き起こす場合は、文献を参照して、ターゲットとする破断波速さを得ることを可能にする温度を選択することができる(例えば、非特許文献2参照)。特に、400℃または500℃を上回る温度を選択することができる。この文献では、破断波伝搬速さの波脆化および/または開始動作パラメータへの関連付けを可能にする方法について開示している。それは、第1のシリコン基板の場合、破断の開始時に温度が約300℃から700℃に変化すると、破断波伝搬速さをおよそ1km/秒から4km/秒の間に制御することができる、と具体的に言及している。
【0049】
破断波を開始するための局所エネルギー入力を含む第2の代替的実施形態では、脆化熱処理の完了時に得られる脆化面の成熟率が変化し得る。成熟率は、局所エネルギーを印加すると破断の開始を引き起こす、脆化面内に形成された微小亀裂によって覆われた表面に対応する。実際のところ、破断波伝搬速さは成熟率に応じて変わり、このパラメータが大きいほど、破断波伝搬速さが大きくなる。
【0050】
微小亀裂によって覆われた表面を、例として赤外線顕微鏡を使用して測定することによって、成熟率を測定して、ターゲット破断速さに到達することを可能にする脆化熱処理をキャリブレーションすることができる。そのような熱処理は、ターゲットとする破断速さに到達するかまたはそれを超過することを可能にするターゲット成熟率に少なくとも等しい成熟率を脆化領域が有するように、調整することもできる。
【0051】
図5aは、本発明による方法によって得られた有用層によって放出されたヘイズの図を示す。
【0052】
図5aの有用層3は、シリコンボードから成る第1の基板の幾何学的中心において1.10^16at/cm
2量の水素を注入することによって初期破断部を形成するステップを含む方法によるものである。やはりシリコンボードで作製された支持体と組み立てた後、350℃で30時間にわたる脆化熱処理中に、初期破断部で破断が開始した。破断波は、2.8km/秒程度の速さで伝搬した。
【0053】
図5aに示す有用層は、厚さばらつきの周期的パターンを有し、それらは、その内側円半径が有用層の半径の80%よりも大きい周辺環状領域に限定されている、と述べることができる。有用層の中心表面には、厚さばらつきの周期的パターンがない。
【0054】
図5bは、本発明による方法のシミュレーションによって得られた、破断波が4km/秒で伝搬するときの有用層の図を示す。
【0055】
有用層3のこの図は、厚さばらつきの周期的パターンを含む非常に狭い環状領域が周辺部にもたらされることを示す。
【0056】
この最後の図は、本発明から得ることのできる、均一性の向上した有用層を形成することの利点を、完全に例示するものである。