特許第6977062号(P6977062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6977062グラフェン被覆粉末材料を調製する方法およびその生成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6977062
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】グラフェン被覆粉末材料を調製する方法およびその生成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20211125BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20211125BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20211125BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20211125BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20211125BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20211125BHJP
   C01G 45/12 20060101ALI20211125BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20211125BHJP
【FI】
   H01M4/36 C
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/58
   C01G53/00 A
   C01G51/00 A
   C01G45/12
   C01B32/194
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-566086(P2019-566086)
(86)(22)【出願日】2017年5月31日
(65)【公表番号】特表2020-528635(P2020-528635A)
(43)【公表日】2020年9月24日
(86)【国際出願番号】CN2017086632
(87)【国際公開番号】WO2018049844
(87)【国際公開日】20180322
【審査請求日】2020年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】519235807
【氏名又は名称】ベイジン ドンシュー カーボン アドヴァンスト マテリアルズ テクノロジー カンパニー,リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】519235829
【氏名又は名称】ドンシュー グループ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】リ,チン
(72)【発明者】
【氏名】トン,ユンシャオ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ヘラン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ツォンフイ
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第104538606(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103427072(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103500826(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/58
C01G 53/00
C01G 51/00
C01G 45/12
C01B 32/194
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン被覆粉末材料を調製する方法であって、
A)第1の有機溶媒中に分散した、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の第1の有機溶媒分散液を用意するステップ;
B)第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒と混合し、沈殿物を分離するステップ;ならびに
C)不活性雰囲気で沈殿物をアニーリングして、グラフェン被覆粉末材料を得るステップ
を含み、ポリマー性補助被覆剤が第1の有機溶媒に可溶であるが、第2の有機溶媒に不溶であり;
粉末材料が、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、三元材料、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるリチウムイオン電池カソード材料である、方法。
【請求項2】
グラフェン被覆粉末材料を調製する方法であって、
A)第1の有機溶媒中に分散した、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の第1の有機溶媒分散液を用意するステップ;
B)第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒と混合し、沈殿物を分離するステップ;ならびに
C)不活性雰囲気で沈殿物をアニーリングして、グラフェン被覆粉末材料を得るステップ
を含み、ポリマー性補助被覆剤が第1の有機溶媒に可溶であるが、第2の有機溶媒に不溶であり;かつ、
アニーリングが、
1)室温からA℃の中間温度まで1〜3℃/分の傾斜率で温度を上げ、次にX時間保持するステップ;および
2)B℃の最高温度まで3〜6℃/分の傾斜率で温度をさらに上げ、次にY時間保持するステップ
を含み、Y≧2X≧2および300≦A<B≦800である、方法。
【請求項3】
粉末材料がリチウムイオン電池カソード材料である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
リチウムイオン電池カソード材料が、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、および三元材料からなる群から選択される1種または複数である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
三元材料が、ニッケル−コバルト−マンガン三元材料、ニッケル−コバルト−アルミニウム三元材料、およびリチウムリッチ三元材料からなる群から選択される1種または複数である、請求項1または4に記載の方法。
【請求項6】
ポリマー性補助被覆剤が、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、セルロース、ポリシロキサン、ポリニトリル、ポリ尿素、およびポリスルホンからなる群から選択される1種または複数である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ポリマー性補助被覆剤が、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルエーテル、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチルおよびポリカーボネートからなる群から選択される1種または複数である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1の有機溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、およびアセトンからなる群から選択される1種または複数である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第2の有機溶媒が、メタノール、エタノールおよびジエチルエーテルからなる群から選択される1種または複数である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップA)が、
A1)グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末を第1の有機溶媒中で超音波によって分散させて、グラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液を形成するステップ;
A2)グラフェンで被覆される粉末材料を第1の有機溶媒中で均一に分散させ、ポリマー性補助被覆剤を添加し、混合物を撹拌して粉末材料分散液をもたらすステップ;ならびに
A3)グラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液を粉末材料分散液と混合して、第1の有機溶媒分散液を得るステップ
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップB)が、
B1)第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒に攪拌しながら注入するステップ;
B2)ステップB1)の混合物を沈降させ、沈殿物をもたらすステップ;および
B3)沈殿物を分離し乾燥させるステップ
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
アニーリングが、
1)室温から300〜500℃の中間温度まで1〜3℃/分の傾斜率で温度を上げ、次に1〜2時間保持するステップ;および
2)500〜800℃の最高温度まで3〜6℃/分の傾斜率で温度をさらに上げ、次に2〜3時間保持するステップ
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末が、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の全重量に対して、1重量%〜25重量%の量で使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ポリマー性補助被覆剤が、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の全重量に対して、0.01重量%〜20重量%の量で使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第2の有機溶媒が第1の有機溶媒より低い沸点を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
使用される第2の有機溶媒の第1の有機溶媒に対する体積比が、2:1またはそれ以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
グラフェン粉末が、レドックスプロセスおよび/または液相超音波剥離プロセスによって調製されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン被覆の技術分野に関する。特に本発明は、グラフェン被覆粉末材料を調製する方法、およびそれによって生成された生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、単一平面の炭素原子として理論上具体化されている炭素の同素体である。文献では、グラフェンは、sp結合炭素原子を有する二次元のセル状格子(cellular lattice)として一般に表現される。実際上当業者は、しばしばグラフェンを単一の平面としてだけではなく、単一の炭素平面の多層としても表現される炭素材料として言及する。その独特の構造に起因して、グラフェンは非常に高い比表面積および優れた電子伝導性を有し、したがって優れたキャリヤとして使用することができる。グラフェンの特性によって、ある特定の用途、例えば半導体および光起電性製品で、グラフェンは非常に広い用途の可能性を有することになる。
【0003】
リチウムイオン電池は、カソードとアノードの間のリチウムイオンの移動によって作動する、充電式電池である。それは、例えば、高い使用電圧、高いエネルギー密度、長いサイクル寿命、および安定した電圧プラットフォームなどの利点を提供する。現在、それは3Cエレクトロニクスで広く使用され、電気自動車および電動工具用の電源電池の主な選択肢でもある。電極材料、特にカソード材料は、リチウムイオン電池の構成で相当な割合を占め、リチウムイオン電池の性能に影響を与える主な要因でもある。現在、製品化されたリチウムイオン電池カソード材料としては、主としてコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウムおよび三元材料が挙げられる。しかしながら、これらの材料の電子伝導性は低く、その結果不十分なレートおよびサイクル性能をもたらす。このため、より良好な伝導性を有する材料をドープすることによる変性を通して、それらの元の性能をさらに改善する必要がある。
【0004】
近年、カソード材料の問題、例えば、大きなレートで充放電下での電極と電解質間の不十分な電子伝導性および高い比抵抗を解決するために、異なる構成要素間の相乗効果を十分に発揮する試みで、グラフェンはリチウムイオン電池の電極材料へ導入されてきた。
【0005】
現在、ほとんどのグラフェンは、導電性添加物としてリチウム電池カソード材料に直接添加され、液相で混合された後、溶媒を蒸留除去してグラフェン変性リチウムイオン電池カソード材料を得ている。この方法によりある特定の効果は達成されたが、こうした物理的な混合によって、グラフェンによるリチウムイオンカソード材料の良好な被覆はほとんど達成することができない。この問題を解決するために、化学的被覆方法が提案された。化学的被覆方法は、原材料としてのグラフェン酸化物をリチウムイオン電池カソード材料と混合するステップ、および還元剤を添加して、グラフェン間のπ−πスタッキングを使用することによる被覆効果を達成しつつ、グラフェン酸化物の還元を達成するステップを含む。しかしながら、ほとんどのリチウムイオン電池カソード材料は、水分に関して非常に厳密な要件を有している。化学的被覆プロセスは、(200℃を超える)高沸点を有する有機溶媒中で実行される。このため、次の溶媒除去は大きな課題になる。そのうえ、被覆された材料は、何回かの充放電の後、技術的問題を起こす傾向があり、例えば、被覆が緩くなり容易にはがれ落ち、そのため良好な被覆効果を達成することができない。
【0006】
このため、グラフェン被覆粉末材料、例えば、リチウムイオン電池カソード材料を調製するための斬新な方法、およびこの方法により調製された生成物への需要が存在する。特に、グラフェンによる粉末材料の被覆がより効果的に改善された、方法および生成物の需要が存在する。粉末材料がリチウムイオン電池カソード材料である場合、良好なグラフェンの被覆によって、リチウムイオン電池カソード材料のレート性能および/またはサイクル性能を改善することが期待される。より有利には、プロセスが単純で、環境にやさしく、および/または工業的生産に好適な方法および生成物への需要が存在する。
【発明の概要】
【0007】
本出願の発明者らは粉末材料をグラフェンで被覆する方法を開発し、これはリチウムイオンカソード材料のグラフェンによる被覆を達成するのに特に好適である。
【0008】
第1の態様では、本発明は、グラフェン被覆粉末材料を調製する方法であって、
A)第1の有機溶媒中に分散した、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤(polymeric co−coating agent)の第1の有機溶媒分散液を用意するステップ;
B)第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒と混合し、沈殿物を分離するステップ;ならびに
C)不活性雰囲気で沈殿物をアニーリングして、グラフェン被覆粉末材料を得るステップ
を含み、ポリマー性補助被覆剤は第1の有機溶媒に可溶であるが、第2の有機溶媒に不溶である、方法に関する。
【0009】
第2の態様では、本発明は、本発明による方法により調製されたグラフェン被覆粉末材料に関する。
【0010】
本発明では、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末は、異なる有機溶媒中でのポリマー性補助被覆剤の溶解度の差を利用した溶媒置換、およびポリマーの高分子ネットワーク構造を通して、ポリマー性補助被覆剤の助けにより、粉末材料の表面で被覆される。次に不活性雰囲気でアニーリングすることによって、ポリマー性補助被覆剤はさらに確実に炭化され(グラフェン酸化物粉末を使用する場合は、グラフェン酸化物はグラフェンに、高温で還元もされる)、それによって粉末材料のグラフェンによる安定した被覆を達成する。従来技術での単純な物理的ブレンド方法および化学的被覆方法と比較して、本発明は以下の利点の少なくとも1つを提供する。1)従来の物理的ブレンド方法に存在する問題、例えば、不均一な分散および不十分な被覆効果が改善される;2)従来の化学的被覆方法に存在する、グラフェン被覆が緩く、容易にはがれ落ちる問題が改善される;3)この方法により、リチウムイオンカソード材料がグラフェンで被覆された場合、リチウムイオンカソード材料の電子伝導性は著しく改善され、そのためそのサイクル性能およびレート性能が著しく改善される;および4)調製のプロセスが単純で実行が容易であり、高温での溶媒除去プロセスによって引き起こされるエネルギー消費および有毒ガスの放出を回避し、工業的生産に好適である。本発明の方法は、有機溶媒中で実行することができるグラフェン被覆プロセスにとって、特に好適である。
【0011】
本発明は、当業者が本発明をよりよく理解できるように、以下の詳細な記述および添付の図を参照して、詳細に説明される。しかしながら、それらは本発明の範囲を限定するとは、決して解釈されるべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態により調製された、グラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(リチウムイオン電池カソード材料)の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】グラフェンで被覆されていないコバルト酸リチウム粉末、従来の物理的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末、従来の化学的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末、および本発明の方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末の、異なる電流でのレート試験のグラフである。
図3】グラフェンで被覆されていないコバルト酸リチウム粉末、従来の物理的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末、従来の化学的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末、および本発明の方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末の、3C/1Cでのサイクル試験のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は以下の実施形態を提供する。
【0014】
1.グラフェン被覆粉末材料を調製する方法であって、
A)第1の有機溶媒中に分散した、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の第1の有機溶媒分散液を用意するステップ;
B)第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒と混合し、沈殿物を分離するステップ;ならびに
C)不活性雰囲気で沈殿物をアニーリングして、グラフェン被覆粉末材料を得るステップ
を含み、ポリマー性補助被覆剤は第1の有機溶媒に可溶であるが、第2の有機溶媒に不溶である、方法。
【0015】
2.粉末材料がリチウムイオン電池カソード材料である、項目1に記載の方法。
【0016】
3.リチウムイオン電池カソード材料が、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、および三元材料からなる群から選択される1種または複数である、項目2に記載の方法。
【0017】
4.三元材料が、ニッケル−コバルト−マンガン三元材料、ニッケル−コバルト−アルミニウム三元材料、およびリチウムリッチ三元材料からなる群から選択される1種または複数である、項目3に記載の方法。
【0018】
5.ポリマー性補助被覆剤が、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、セルロース、ポリシロキサン、ポリニトリル、ポリ尿素、およびポリスルホンからなる群から選択される1種または複数である、項目1から4のいずれか1つに記載の方法。
【0019】
6.ポリマー性補助被覆剤が、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルエーテル、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチルおよびポリカーボネートからなる群から選択される1種または複数である、項目1から4のいずれか1つに記載の方法。
【0020】
7.第1の有機溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、およびアセトンからなる群から選択される1種または複数である、項目1から6のいずれか1つに記載の方法。
【0021】
8.第2の有機溶媒が、メタノール、エタノールおよびジエチルエーテルからなる群から選択される1種または複数である、項目1から7のいずれか1つに記載の方法。
【0022】
9.ステップA)が、
A1)グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末を第1の有機溶媒中で超音波によって分散させて、グラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液を形成するステップ;
A2)グラフェンで被覆される粉末材料を第1の有機溶媒中で均一に分散させ、ポリマー性補助被覆剤を添加し、混合物を撹拌して粉末材料分散液をもたらすステップ;ならびに
A3)グラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液を粉末材料分散液と混合して、第1の有機溶媒分散液を得るステップ
を含む、項目1から8のいずれか1つに記載の方法。
【0023】
10.ステップB)が、
B1)第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒に撹拌しながら注入するステップ;
B2)ステップB1)の混合物を沈降させ、沈殿物をもたらすステップ;および
B3)沈殿物を分離し乾燥させるステップ
を含む、項目1から9のいずれか1つに記載の方法。
【0024】
11.アニーリングが、
1)室温からA℃の中間温度まで1〜3℃/分の傾斜率(ramping rate)で温度を上げ、次にX時間保持するステップ;および
2)B℃の最高温度まで3〜6℃/分の傾斜率で温度をさらに上げ、次にY時間保持するステップ
を含み、Y≧2X≧2および300≦A<B≦800である、項目1から10のいずれか1つに記載の方法。
【0025】
12.グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末が、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の全重量に対して、1重量%〜25重量%の量で使用される、項目1から11のいずれか1つに記載の方法。
【0026】
13.ポリマー性補助被覆剤が、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の全重量に対して、0.01重量%〜20重量%の量で使用される、項目1から12のいずれか1つに記載の方法。
【0027】
14.第2の有機溶媒が第1の有機溶媒より低い沸点を有する、項目1から13のいずれか1つに記載の方法。
【0028】
15.使用される第2の有機溶媒の第1の有機溶媒に対する体積比が、2:1またはそれ以上である、項目1から14のいずれか1つに記載の方法。
【0029】
16.グラフェン粉末が、レドックスプロセスおよび/または液相超音波剥離(liquid phase ultrasonic exfoliation)プロセスによって調製されている、項目1から15のいずれか1つに記載の方法。
【0030】
17.項目1から16のいずれか1つに記載の方法により調製された、グラフェン被覆粉末材料。
【0031】
本明細書の数値範囲は、ある特定の増分でのより低い値からより高い値までのすべての値を含み、より低い値およびより高い値を含む。例えば、数値範囲が100〜500である場合、すべての個別値、例えば、100、101、102、...、498、および499が列挙されたと考えるべきであり、すべてのサブ範囲、例えば100〜144、155〜170、197〜200、268〜390、420〜500等もまた列挙されたと考えるべきである。
【0032】
粉末材料
本明細書で使用する場合、「粉末」という用語は、複数の粒子および粒子間の空隙から構成された凝集体を意味する。具体的には、粉末の構成は以下の3つの基準を満たすべきである。1)顕微鏡的基本単位は小さな固体粒子であり;2)巨視的に、それは複数の粒子の凝集体であり;3)粒子間の相互作用が存在する。言い換えれば、固体粒子の凝集体は粉末として規定され、「顆粒」、「粉末顆粒」、「粒子」、またはこれに類するものとも呼ばれ得る。
【0033】
粒子は粉末を構成する最も小さな単位である。本発明での使用に好適な粉末材料の粒子は、10−9m〜10−3mの範囲の粒径を有する粒子であり得る。一実施形態では、本発明の粉末材料は、0.1〜500マイクロメートル、好ましくは0.5〜200マイクロメートル、より好ましくは1〜100マイクロメートル、さらにより好ましくは1〜20マイクロメートルの範囲の粒径を有する粒子からなる。
【0034】
本発明での使用に好適な粉末材料の例としては、限定されるものではないが、金属粉末、酸化物粉末、窒化物粉末、炭化物粉末、水酸化物粉末、金属塩粉末、リチウムイオン電池カソード材料、リチウムイオン電池アノード材料、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0035】
一実施形態では、粉末材料はリチウムイオン電池カソード材料である。現在開発され使用されているリチウムイオン電池カソード材料では、限定されるものではないが、層状の塩構造を有するリチウムマンガン酸化物、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム(lithium nickel cobaltate)、ニッケルマンガン酸リチウム(lithium nickel manganate)およびニッケルマンガンコバルト酸リチウム三元材料(lithium nickel manganese cobaltate ternary material)、スピネル型マンガン酸リチウム、ならびにオリビン型リン酸鉄リチウムを含む、遷移金属酸化物が最高の性能を示す。
【0036】
特定の実施形態では、リチウムイオン電池カソード材料は、マンガン酸リチウム(LiMnO)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、および三元材料からなる群から選択される1種または複数である。
【0037】
好ましい実施形態では、リチウムイオン電池カソード材料は、三元材料である。リチウムイオン電池で使用される三元材料は、LiNi1−x−yCoMn(0<x<0.5、および0<y<0.5)の構造式を有するニッケル−コバルト−マンガンの三元遷移金属酸化物複合物として1999年に最初に報告された。この材料は、複合の利点、例えば、LiCoOの良好なサイクル性能、LiNiOの高い比容量、ならびにLiMnOの高い安全性および低いコストを提供する。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、三元材料は、ニッケル−コバルト−マンガン三元材料、ニッケル−コバルト−アルミニウム三元材料、およびリチウムリッチ三元材料からなる群から選択される1種または複数である。好ましくは、ニッケル−コバルト−マンガン三元材料は、LiNi1−x−yCoMn(0<x<0.5、および0<y<0.5)の構造式を有する。一実施形態では、ニッケル−コバルト−マンガン三元材料は、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(333型)、LiNi0.5Co0.3Mn0.2(532型)、LiNi0.4Co0.4Mn0.2(442型)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2(622型)、およびLiNi0.8CO0.10Mn0.10(811型)三元材料からなる群から選択される1種または複数である。本発明の別の実施形態によれば、ニッケル−コバルト−アルミニウム三元材料は、LiNi0.5Co0.3Al0.2(532型)、LiNi0.6Co0.2Al0.2(622型)、およびLiNi0.8CO0.10Al0.10(811型)からなる群から選択される1種または複数である。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、三元材料は結晶性粉末の形態で存在する。一実施形態では、三元材料結晶は、α−NaFeO型層状構造およびR3mの空間群を有する六方晶結晶系に属し、Liおよび遷移金属イオンは位置3a(0,0,0)および3b(0,0,1/2)を交互に占め、O2−は位置6c(0,0,z)に配置される。位置6cのOは立方晶の細密であり、遷移金属層はNi、Mn、およびCoから構成される。各遷移金属原子は6個の酸素原子に包囲され、MO八面体構造を形成する。位置3bの遷移金属イオンおよび位置3aのLiは、八面体の空隙を交互に占め、Liは遷移金属原子および酸素から形成されたLiNi1−x−yCoMn層の間にインターカレートされる。
【0040】
遷移金属の割合が異なる場合、三元材料は異なる電気化学の特性を有する。一般に、Co含量の増加は化合物の層状構造の安定化に有益であり、それによってサイクル性能を改善し;Ni含量の増加はより高い容量を達成することができるが、サイクル性能の劣化をもたらし;Mnの組み込みはコストを下げ、マトリックスの安定性を改善することができるが、過剰な量のMnはスピネル相の形成につながり、それによって層状構造を破壊する。
【0041】
グラフェン/グラフェン酸化物粉末
二次元の遊離状態原子結晶(free−state atomic crystal)としてのグラフェンは、ゼロ次元のフラーレン、一次元のカーボンナノチューブおよび三次元のグラファイトを構築するための基本的な構造単位である。それは特別な物理的および化学的特性、例えば、高い電気伝導度、高い熱伝導度、高硬度および高強度を有し、したがって、エレクトロニクス、情報、エネルギー、材料およびバイオ医薬品の分野で広い用途を見出すことができる。グラフェン粉末を製造する一般的なプロセスとしては、液相超音波剥離プロセス(機械的剥離プロセス、または機械的超音波プロセスとも呼ばれる)、レドックスプロセス、SiCエピタキシャル成長プロセスなどが挙げられる。しかしながら、グラフェンが疎水性で、強いファンデルワールス力に起因して凝集を起こしやすいので、グラフェンの用途は限定されている。グラフェン酸化物の出現によって、上記の問題はまさに解決される。
【0042】
グラフェンの酸化物としてのグラフェン酸化物は、多数の酸素含有基が、炭素原子の1つの層から構成された二次元空間に無限に広がるベース平面(base plane)に結びつき、−OHおよびC−O−Cが平面に存在し、C=OおよびCOOHがシート層の端部に含有されている点を除いて、実質的にグラフェンと同じ構造を有している。グラフェンと比較して、グラフェン酸化物は、より優れた特性を有し、それは単に良好な湿潤性および表面活性だけでなく、小さな分子またはポリマーのインターカレーションではがされる能力も含む。グラフェン酸化物は、材料の包括的な性能、例えば、熱的、電気的および機械特性を改善するのに非常に重要な役割を果たす。
【0043】
グラフェン酸化物は、必要に応じて様々な方法、例えば、限定されるものではないが、還元剤還元法、高温熱処理還元法、電気化学的還元法、ソルボサーマル(solvothermal)還元法、触媒還元法、マイクロ波還元法などによって還元することができる。高温熱処理還元法は以前にグラフェン酸化物を還元するのに使用された方法であり、例えばある特定の温度、例えば800℃超へグラフェン酸化物を不活性雰囲気で急速に加熱して酸素含有基を除去し、グラフェン酸化物の十分な剥離を達成し、実際上はグラフェン酸化物シート層間の十分な剥離を達成することを含む。グラフェン酸化物の表面のほとんどの酸素含有基は非常に温度の影響を受けやすく、温度が約230℃に上昇するとグラフェン酸化物の表面からはがれ落ち、それによってグラフェン酸化物の還元を達成する。
【0044】
本発明では、グラフェンおよびグラフェン酸化物は粉末の形態で使用される。グラフェンおよびグラフェン酸化物の粒径は、0.01〜50マイクロメートル、好ましくは0.05〜20マイクロメートル、より好ましくは0.1〜10マイクロメートル、さらにより好ましくは0.1〜5マイクロメートルの範囲にあることが好ましい。
【0045】
一実施形態では、グラフェン粉末は、レドックスプロセスおよび/または液相超音波剥離プロセスによって調製される。
【0046】
グラフェン被覆粉末材料
本発明者らは、異なる有機溶媒中でのポリマーの溶解度の差、およびポリマーが溶解した状態から溶解しない状態に変わる時に堆積が生じる現象を利用することによって、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末が有機溶媒中に分散した粉末材料の表面で被覆され得ること、ならびにポリマーの高分子ネットワーク構造がこの被覆をより安定で緊密にするのを助けることを見出した。
【0047】
具体的には、本発明によるグラフェン被覆粉末材料を調製する方法は、第1の有機溶媒中に分散した、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の第1の有機溶媒分散液を用意するステップ;第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒と混合し、沈殿物を分離するステップ;ならびに、不活性雰囲気で沈殿物をアニーリングして、グラフェン被覆粉末材料を得るステップを含み、ポリマー性補助被覆剤は第1の有機溶媒に可溶であるが、第2の有機溶媒に不溶である。
【0048】
本明細書で使用する場合、「可溶」という用語は、2種またはそれ以上の物質が互いに混合された場合に、それらが分子レベルで均一な相を形成することができることを意味する。2つの物質が互いに溶解する場合、より大きなマスを有する物質は一般に溶媒と呼ばれ、より小さなマスを有する物質は溶質と呼ばれる。「不溶性」という用語は、2種またはそれ以上の物質が互いと混合された場合に、それらが分子レベルで均一な相を形成できない、またはほとんど形成することができず、層分離または相分離が生じることを意味する。
【0049】
その構造的な複雑性に起因して、溶媒中でのポリマーの溶解は、小さな分子の溶解よりはるかに複雑である。溶媒中でのポリマーの溶解プロセスは通常2つの段階を含む。最初に、溶媒分子がポリマーの内部に入り込んでポリマーの体積を拡大し(「膨潤」と呼ばれる);次に、ポリマー分子は溶媒中で均一に分散して、完全に溶解した分子のレベルで均一系を形成する。ポリマーが溶媒中に溶解され得るか否かの判断は、通常、「類似したもの同士が溶解する(like dissolves like)」原理および「同様の極性(similar polarity)」の原理に従う。結晶性ポリマーの溶解は、非晶性ポリマーの溶解よりはるかに困難である。非晶性ポリマーは、比較的緩い分子充填(molecular packing)および比較的弱い分子間相互作用を有するので、溶媒分子は、容易にポリマーの内部に入り込むことができ、膨潤し溶解することが可能になる。溶媒分子が非極性の結晶性ポリマーの内部に入り込むことは、その規則的な分子配列、緊密な充填、および強い分子間相互作用力に起因して、非常に困難である。極性の結晶性ポリマーは、極性溶媒に溶解することができる。架橋ポリマーは一般に膨潤することだけができ、溶解することができない。
【0050】
本発明の一実施形態では、ポリマー性補助被覆剤は、非晶性線状ポリマー、非極性の結晶性線状ポリマー、および極性の結晶性線状ポリマーからなる群から選択される1種または複数である。
【0051】
一般に、1種または複数の有機溶媒に可溶なポリマーは、ポリマーまたはそれらの溶媒の使用が、グラフェン/グラフェン酸化物または粉末材料に悪影響を及ぼさない限り、本発明で使用するのに好適であると考えられる。ポリマーおよびそれらの溶媒の選択については、例えば、Polymer Physics(改訂版)(Manjun He他編、Fudan University Press刊行、1st edition、1990年10月)の3章1節を参照することができる。
【0052】
非限定的な例として、本発明で使用することができる一般的なタイプのポリマー性補助被覆剤のいくつか、ならびに、選択し、使用することができる第1および第2の有機溶媒を、以下の表1に列挙する。
【0053】
【表1】
【0054】
本発明の一実施形態では、ポリマー性補助被覆剤は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、セルロース、ポリシロキサン、ポリニトリル、ポリ尿素、およびポリスルホンからなる群から選択される1種または複数である。
【0055】
本発明の一実施形態では、ポリマー性補助被覆剤は、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルエーテル、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチルおよびポリカーボネートからなる群から選択される1種または複数である。
【0056】
本発明の一実施形態では、第1の有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、およびアセトンからなる群から選択される1種または複数である。特定の実施形態では、第1の有機溶媒は、2種またはそれ以上の溶媒の混合物、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、およびアセトンからなる群から選択される2種またはそれ以上の溶媒の混合物であり得る。
【0057】
本発明の一実施形態では、第2の有機溶媒は、メタノール、エタノール、およびジエチルエーテルからなる群から選択される1種または複数である。
【0058】
第1の有機溶媒中に分散した、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の第1の有機溶媒分散液を用意するステップは、単一のステップ、または複数のステップで実施することができる。例えば、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤を、ある特定の量の第1の有機溶媒中で一緒に分散させて、第1の有機溶媒分散液を形成することができる。代わりに、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤を、ある特定の量の第1の有機溶媒中で別々に分散させ、次に混合して第1の有機溶媒分散液を形成することができる。
【0059】
グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末ならびにグラフェンで被覆される粉末材料を、様々な好適な様式によって第1の有機溶媒中で分散させることができる。好ましくは、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末を、超音波分散プロセスによって第1の有機溶媒中で分散させる。グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末は、一般に大きな比表面積を有しており、したがって凝集する傾向があり、そのために特性の性能に影響を与える。超音波の分散は、粉末を非凝集化させる(de−agglomerate)のに役立ち、またグラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末それ自体のシート層のさらなる解離も助け、サイズがより小さく、溶媒中でより均一に分散したグラフェンおよび/またはグラフェン酸化物をもたらす。
【0060】
一実施形態では、第1の有機溶媒分散液は以下のステップによって用意することができる。A1)グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末を第1の有機溶媒中で超音波によって分散させて、グラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液を形成するステップ;A2)グラフェンで被覆される粉末材料を第1の有機溶媒中で均一に分散させ、ポリマー性補助被覆剤を添加し、混合物を撹拌して粉末材料分散液をもたらすステップ;ならびにA3)グラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液を粉末材料分散液と混合して、第1の有機溶媒分散液を得るステップ。この場合、ステップA1)およびA2)は、同時にまたは任意の順で連続して実施することができる。ステップA1)およびA2)での第1の有機溶媒は、互いに独立して選択することができ、同じかまたは異なっていてもよい。
【0061】
代わりの実施形態では、第1の有機溶媒分散液は以下のステップによって用意することができる。A1)グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末を第1の有機溶媒中で超音波によって分散させて、グラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液を形成するステップ;A2)グラフェンで被覆される粉末材料をグラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液中で均一に分散させ、ポリマー性補助被覆剤を添加し、混合物を撹拌して第1の有機溶媒分散液を得るステップ。
【0062】
さらに別の代わりの実施形態では、第1の有機溶媒分散液は以下のステップによって形成することができる。A1)グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末を第1の有機溶媒中で超音波によって分散させて、グラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液を形成するステップ;A2)グラフェンで被覆される粉末材料を第1の有機溶媒中で均一に分散させ、混合物を撹拌して粉末材料分散液をもたらすステップ;A3)ポリマー性補助被覆剤を第1の有機溶媒に添加し、混合物を十分に撹拌してポリマー性補助被覆剤溶液をもたらすステップ;およびA4)グラフェンおよび/またはグラフェン酸化物分散液、粉末材料分散液ならびにポリマー性補助被覆剤溶液を混合して第1の有機溶媒分散液を得るステップ。この場合、ステップA1、A2)およびA3)は同時にまたは任意の順に連続して実施することができる。ステップA1、A2)およびA3)での第1の有機溶媒は、互いに独立して選択することができ、同じまたは異なっていてもよい。
【0063】
第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒と混合するステップは、特に限定されず、任意の好適な様式で実行することができる。
【0064】
一実施形態では、第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒と混合するステップは、第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒に撹拌しながら注入することを含んでもよい。
【0065】
代わりの実施形態では、第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒と混合するステップは、第2の有機溶媒を第1の有機溶媒分散液に撹拌しながら注入することを含んでもよい。
【0066】
第1の有機溶媒分散液を第2の有機溶媒と混合する場合、沈殿物が発生するであろう。好ましくは、混合は撹拌下で実行される。沈殿物は任意の好適な方法により分離することができ、好ましくは乾燥され得る。例えば、結果として得られる混合物を沈降させることによって、沈殿物を分離することができる。一実施形態では、沈殿物は重力沈降によって分離される。別の実施形態では、沈殿物は遠心沈降によって分離される。さらに、遠心分離、洗浄、真空乾燥、またはこれらの組み合わせによって、乾燥した沈殿物を得ることができる。
【0067】
好ましい実施形態では、第2の有機溶媒は第1の有機溶媒より低い沸点を有する。これによって、結果として得られる沈殿物の後処理中に、溶媒をより低い温度で除去することが可能になる。
【0068】
好ましい実施形態では、使用する第2の有機溶媒の第1の有機溶媒に対する体積比は、1:1またはそれ以上、好ましくは2:1またはそれ以上、好ましくは、3:1またはそれ以上である。いずれの理論によっても拘束されることを望むものではないが、第2の有機溶媒の量が多いほど、結果として得られる沈殿物中に残存する第1の有機溶媒は少なく、したがって分離された沈殿物から除去する必要がある第1の有機溶媒はより少ないと考えられる。
【0069】
不活性雰囲気で沈殿物をアニーリングするステップは、ポリマー性補助被覆剤の炭化およびグラフェンの安定した被覆の形成を促進する、任意の様式で実行することができる。
【0070】
一実施形態では、不活性雰囲気は、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、およびキセノンの1種または複数が保護ガスとして使用される雰囲気である。好ましくは、不活性雰囲気での酸素含量は5ppm未満、より好ましくは1ppm未満、最も好ましくはゼロである。
【0071】
本発明では、「アニーリング」という用語は、ある特定のアニーリング温度に十分なアニーリング時間加熱し、次に好適な速度で冷却する(徐冷または制御冷却)ことを含む、熱処理プロセスを意味する。アニーリングによって、ポリマー性補助被覆剤を炭化し、グラフェン被覆層中の酸素含有官能基の数を低減し、グラフェンの純度を増加させ、電気伝導度を改善することができる。そのうえ、アニーリングによってグラフェン表面上の残留酸素原子の分布を変化させることができ、そのため酸素原子を規則的に集めることができ、一方、純粋なグラフェンの空隙が残され、その結果としてグラフェンの元の構造を不変に保ち、欠陥を回避するであろう。
【0072】
一実施形態では、アニーリングは、1)室温からA℃の中間温度まで1〜3℃/分の傾斜率で温度を上げ、次にX時間保持するステップ;および2)B℃の最高温度まで3〜6℃/分の傾斜率で温度をさらに上げ、次にY時間保持するステップを含み、Y≧2X≧2、および300≦A<B≦800である。
【0073】
特定の実施形態では、アニーリングは、1)室温から300〜500℃の中間温度まで1〜3℃/分の傾斜率で温度を上げ、次に1〜2時間保持するステップ;および2)500〜800℃の最高温度まで3〜6℃/分の傾斜率で温度をさらに上げ、次に2〜3時間保持するステップを含む。
【0074】
本発明で「被覆」という用語は、物体の表面の少なくとも一部、好ましくは表面の大部分、より好ましくは表面のすべてが、別の物質によって覆われることを意味する。本発明により調製されたグラフェン被覆粉末材料は、粉末材料の表面の少なくとも一部がグラフェンによって覆われていることを意味する。本発明により調製されたグラフェン被覆粉末材料では、粉末材料の表面の少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも80%が、グラフェンによって覆われていることが好ましい。
【0075】
一実施形態では、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末は、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の全重量に対して、1重量%〜25重量%、好ましくは3重量%〜20重量%、より好ましくは5重量%〜15重量%、最も好ましくは8重量%〜13重量%の量で使用される。
【0076】
一実施形態では、ポリマー性補助被覆剤は、グラフェン粉末および/またはグラフェン酸化物粉末、グラフェンで被覆される粉末材料、ならびにポリマー性補助被覆剤の全重量に対して、0.01重量%〜20重量%、好ましくは0.1重量%〜15重量%、より好ましくは0.5重量%〜10重量%、最も好ましくは0.8重量%〜1.5重量%または1重量%〜5重量%の量で使用される。
【0077】
本発明の方法により調製されたグラフェン被覆粉末材料は、より安定した被覆特性を有する。特に、本発明の方法により調製されたグラフェン被覆リチウムイオン電池カソード材料は、改善されたレート性能およびサイクル性能を有する。
【0078】
実施例
当業者が本発明の技術的解決法およびこれらの利点をより明確に理解することができるように、本発明のある特定の実施形態が、実施例を参照して以下で説明される。実施例は本発明を限定するものとして、決して解釈されるべきでない。
【0079】
実施例で使用される原料および装置は以下のとおりである。
【0080】
レドックスプロセスによって調製されたグラフェン:Sinocarbon TM−02PI−02導電性グラフェン、Shanxi Institute of Coal Chemistry、Chinese Academy of Sciencesから入手可能。
【0081】
機械的超音波プロセスによって調製されたグラフェン:グラフェン粉末TA−001A、Xiamen Knano Graphene Technology Co.,Ltd.から入手可能。
【0082】
グラフェン酸化物:Sinocarbon TM−01PI−01グラファイト酸化物粉末、Shanxi Institute of Coal Chemistry、Chinese Academy of Sciencesから入手可能。
【0083】
ポリフッ化ビニリデン、J&K Scientific Co.,Ltd.から入手可能(CAS:24937−79−9)。
【0084】
コバルト酸リチウム:Beijing Easpring Material Technology Co.,Ltd.から入手可能。
【0085】
三元材料:NCM532、Ningbo Jinhe New Materials Co.,Ltd.から入手可能。NCM811、Ningbo Jinhe New Materials Co.,Ltd.から入手可能。NCM622、Ningbo Jinhe New Materials Co.,Ltd.から入手可能。
【0086】
ポリアクリロニトリル:Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd.から入手可能(CAS:25014−41−9)。
【0087】
マンガン酸リチウム:Changsha Shanshan Power Battery Co.,Ltd.から入手可能。
【0088】
ポリスチレン:Aladdin Reagentsから入手可能(CAS:9003−53−6)。
【0089】
管状炉:Shanghai Jvjing Precision Instrument Manufacturing Co.,Ltd.から入手可能(SKGL−1200C)。
【0090】
調製されたグラフェン被覆材料を、レート試験およびサイクル試験用にボタン電池に組み立て、試験装置はNeware Electronics Co.,Ltd.製、高精度電池性能試験システム(モデルCT−4008−5V20mA−S4)であった。
【0091】
ボタン電池の組み立て:グラフェンで被覆または非被覆のカソード材料、導電性カーボンブラックおよびポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、N−メチルピロリドン(NMP)中で90:5:5の質量比でよく混合し、被覆され得る電極スラリーを調製した。次に、それをアルミ箔に被覆し、1cmの直径を有する電極プレートを調製した。電極プレートをカソードとして使用し、リチウムプレートをアノードとして使用し、これらをポリプロピレン(PP)セパレーターによって分離した。アルゴングローブボックス中で、1MのLiPF電解質を滴下し、次に電池(CR2032)シェルを密封して成型した。一晩静置の後に性能試験した。
【0092】
0.2C、0.5C、1C、2C、3C、5Cおよび10Cのレート試験電流で、比容量を測定した。サイクル試験中、充電電流は3C充電/1C放電であった。
【実施例1】
【0093】
1.レドックスプロセスによって調製された3gのグラフェンを秤量し、N−メチルピロリドン(NMP)中で分散させた。混合物を細胞破砕器(cell disruptor)で2時間超音波にかけ、次に攪拌してNMP中グラフェン分散液を得た。
【0094】
2.コバルト酸リチウム20gを秤量し、NMP中で分散させ、0.5時間機械的に撹拌し、0.25gのポリフッ化ビニリデン(PVDF)添加後に2時間撹拌した。
【0095】
3.NMP中グラフェン分散液をコバルト酸リチウム分散液に注ぎ、撹拌した。混合物をメタノール溶液に、機械的に攪拌しながら素早く注いだ。沈降の後、沈殿物を分離し、エタノールで洗浄し、減圧下で乾燥して黒色粉末を得た。
【0096】
4.黒色粉末を管状炉に配置した。アルゴン雰囲気で、室温から300℃の中間温度まで2℃/分の速度で温度を上げて、1時間保持し、次に500℃の最終炭化温度まで5℃/分の傾斜率で上げ、3時間保持して、最終のグラフェン被覆コバルト酸リチウム材料を得た。
【0097】
5.調製された材料を、3V〜4.4Vの範囲の電圧での試験用にボタン電池に組み立てた。0.2Cのレート試験電流での比容量は170mAh/gであり;5Cでの容量保持率は85%であり;150 3C/1Cサイクル後の容量保持率は97%であった。
【0098】
図1は、上記のように調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム材料の走査型電子顕微鏡写真を示す。図1からわかるように、グラフェンは、コバルト酸リチウム材料の表面に均一に緊密に被覆されており、コバルト酸リチウム材料とほぼ一体化している。
【実施例2】
【0099】
1.機械的超音波プロセスによって調製された3.5gのグラフェンを秤量し、DMF中で分散させた。混合物を細胞破砕器で2時間超音波にかけ、次に攪拌してDMF中グラフェン分散液を得た。
【0100】
2.三元材料(NCM532)20gを秤量し、DMF中で分散させ、0.5時間機械的に撹拌し、0.3gのポリアクリロニトリル(PAN)添加後に2時間攪拌した。
【0101】
3.DMF中グラフェン分散液を三元材料(NCM532)分散液に注ぎ、攪拌した。混合物をエタノール溶液に、機械的に攪拌しながら素早く注いだ。沈降の後、沈殿物を分離し、エタノールで洗浄し、減圧下で乾燥して黒色粉末を得た。
【0102】
4.黒色粉末を管状炉に配置した。アルゴン雰囲気で、室温から400℃の中間温度まで3℃/分の速度で温度を上げて、1時間保持し、次に700℃の最終炭化温度まで5℃/分の傾斜率で上げ、2時間保持して、最終のグラフェン被覆三元材料(NCM532)を得た。
【0103】
5.調製された材料を、3V〜4.3Vの範囲の電圧での試験用にボタン電池に組み立てた。0.2Cのレート試験電流で比容量は155mAh/gであり;5Cでの容量保持率は85%であり;150 3C/1Cサイクル後の容量保持率は85%であった。
【実施例3】
【0104】
1.機械的超音波プロセスによって調製された5gのグラフェンを秤量し、ジメチルホルムアミド(DMF)中で分散させた。混合物を細胞破砕器で2時間超音波にかけ、次に撹拌してDMF中グラフェン分散液を得た。
【0105】
2.三元材料(NCM811)20gを秤量し、DMF中で分散させ、0.5時間機械的に撹拌し、0.5gのPVDF添加後に2時間撹拌した。
【0106】
3.DMF中グラフェン分散液を三元材料(NCM811)分散液に注ぎ、撹拌した。混合物をメタノール溶液に、機械的に攪拌しながら素早く注いだ。沈降の後、沈殿物を分離し、エタノールで洗浄し、減圧下で乾燥して黒色粉末を得た。
【0107】
4.黒色粉末を管状炉に配置した。アルゴン雰囲気で、室温から500℃の中間温度まで3℃/分の速度で温度を上げて、1時間保持し、次に800℃の最終炭化温度まで6℃/分の傾斜率で上げ、2時間保持して、最終のグラフェン被覆三元材料(NCM811)を得た。
【0108】
5.調製された材料を、3V〜4.3Vの範囲の電圧での試験用にボタン電池に組み立てた。0.2Cのレート試験電流での比容量は190mAh/gであり;5Cでの容量保持率速度は83%であり;150 3C/1Cサイクル後の容量保持率は87%であった。
【実施例4】
【0109】
1.機械的超音波プロセスによって調製された0.3gのグラフェンを秤量し、ジメチルスルホキシド(DMSO)中で分散させた。混合物を細胞破砕器で2時間超音波にかけ、次に撹拌してDMSO中グラフェン分散液を得た。
【0110】
2.マンガン酸リチウム20gを秤量し、DMSO中に分散し、0.5時間機械的に撹拌し、0.5gのポリスチレン(PS)添加後に2時間撹拌した。
【0111】
3.DMSO中グラフェン分散液をマンガン酸リチウム分散液に注ぎ、撹拌した。混合物をメタノール溶液に、機械的に攪拌しながら素早く注いだ。沈降の後、沈殿物を分離し、エタノールで洗浄し、減圧下で乾燥させて黒色粉末を得た。
【0112】
4.黒色粉末を管状炉に配置した。アルゴン雰囲気で、室温から400℃の中間温度まで1℃/分の速度で温度を上げて、1時間保持し、次に500℃の最終炭化温度まで3℃/分の傾斜率で上げ、4時間保持して、最終のグラフェン被覆マンガン酸リチウム材料を得た。
【0113】
5.調製された材料を、3V〜4.3Vの範囲の電圧での試験用にボタン電池に組み立てた。0.2Cのレート試験電流での比容量は109mAh/gであり;5Cでの容量保持率は82%であり;150 3C/1Cサイクル後の容量保持率は88%であった。
【実施例5】
【0114】
1.レドックスプロセスによって調製された0.5gのグラフェンを秤量し、DMF中で分散させた。混合物を細胞破砕器で2時間超音波にかけ、次に撹拌してDMF中グラフェン分散液を得た。
【0115】
2.三元材料(NCM622)20gを秤量し、DMF中で分散させ、0.5時間機械的に撹拌し、0.7gのポリスチレン(PS)添加後に2時間撹拌した。
【0116】
3.DMF中グラフェン分散液を三元材料(NCM622)分散液に注ぎ、撹拌した。混合物をメタノール溶液に、機械的に攪拌しながら素早く注いだ。沈降の後、沈殿物を分離し、エタノールで洗浄し、減圧下で乾燥して黒色粉末を得た。
【0117】
4.黒色粉末を管状炉に配置した。アルゴン雰囲気で、室温から300℃の中間温度まで2℃/分の速度で温度を上げて、1.5時間保持し、次に700℃の最終炭化温度まで5℃/分の傾斜率で上げ、3時間保持して、最終のグラフェン被覆三元材料を得た。
【0118】
5.調製された材料を、3V〜4.3Vの範囲の電圧での試験用にボタン電池に組み立てた。0.2Cのレート試験電流での比容量は180mAh/gであり;5Cでの容量保持率は80%であり;150 3C/1Cサイクル後の容量保持率は70%であった。
【0119】
比較例1.物理的方法によるグラフェン被覆
1.レドックスプロセスによって調製された3gのグラフェンを秤量し、N−メチルピロリドン(NMP)中で分散させた。混合物を細胞破砕器で2時間超音波にかけ、次に撹拌してNMP中グラフェン分散液を得た。
【0120】
2.コバルト酸リチウム20gを秤量し、NMP中で分散させ、2時間機械的に撹拌した。
【0121】
3.NMP中グラフェン分散液をコバルト酸リチウム分散液に注ぎ、撹拌により、よく混合した。溶媒を直接蒸留除去した後、混合物を減圧下で乾燥し、物理的方法による最終のグラフェン被覆コバルト酸リチウム材料を得た。
【0122】
4.調製された材料を、3V〜4.4Vの範囲の電圧での試験用にボタン電池に組み立てた。0.2Cのレート試験電流での比容量は170mAh/gであり;5Cでの容量保持率は68%であり;150 3C/1Cサイクル後の容量保持率は94%であった。
【0123】
比較例2.化学的方法によるグラフェン被覆
1.グラフェン酸化物3gを秤量し、N−メチルピロリドン(NMP)中で分散させた。混合物を細胞破砕器で2時間超音波にかけ、次に撹拌してNMP中グラフェン酸化物分散液を得た。
【0124】
2.コバルト酸リチウム20gを秤量し、NMP中で分散させ、2時間機械的に撹拌した。
【0125】
3.NMP中グラフェン酸化物分散液をコバルト酸リチウム分散液に注ぎ、撹拌により、よく混合した。次に、還元剤としての9gのビタミンCを添加し、室温で5時間反応した。遠心分離および洗浄の後、黒色混合物を得た。真空乾燥の後、化学的方法による最終のグラフェン被覆コバルト酸リチウム材料を得た。
【0126】
4.調製された材料を、3V〜4.4Vの範囲の電圧での試験用にボタン電池に組み立てた。0.2Cのレート試験電流での比容量は170mAh/gであり;5Cでの容量保持率は72%であり;150 3C/1Cサイクル後の容量保持率は95%であった。
【0127】
図2は、グラフェンで被覆されていないコバルト酸リチウム粉末、従来の物理的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(比較例1)、従来の化学的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(比較例2)、および本発明の方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(実施例1)の、異なる電流でのレート試験のグラフを示す。レート試験では、試験サイクル数の増加とともに、電流は徐々に増加した。例えば図2で、サイクル数が1〜3である場合、電流は0.2Cであり;サイクル数が4〜8である場合、電流は0.5Cであり;サイクル数が9〜13である場合、電流は1Cであり;サイクル数が14〜18である場合、電流は2Cであり;サイクル数が19〜23である場合、電流は3Cであり;サイクル数が24〜28である場合、電流は5Cであり;サイクル数が29〜33である場合、電流は10Cである。
【0128】
図2からわかるように、本発明の方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末は、グラフェンで被覆されていないコバルト酸リチウム粉末、従来の物理的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(比較例1)、および従来の化学的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(比較例2)の初期比容量に非常に近い、初期比容量を有した。しかしながら、試験電流が増加するにつれて、本発明の方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末は、他の3つの材料の比容量より著しく優れた比容量を示し、優れたレート性能を示した。
【0129】
図3は、グラフェンで被覆されていないコバルト酸リチウム粉末、従来の物理的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(比較例1)、従来の化学的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(比較例2)、および本発明の方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(実施例1)の3C/1Cでのサイクル試験のグラフを示す。図3からわかるように、本発明の方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末は、グラフェンで被覆されていないコバルト酸リチウム粉末、従来の物理的方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(比較例1)、および従来の化学的手法によって調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末(比較例2)の初期比容量に非常に近い、初期比容量を有した。しかしながら、3C/1Cサイクル数が増加するにつれて、本発明の方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末は、他の3つの材料の比容量より著しく優れた比容量を示した。本発明の方法により調製されたグラフェン被覆コバルト酸リチウム粉末は、150 3C/1Cサイクル後に、93%の容量保持率とともに、初期比容量に非常に近い比容量をまだ有していた。
【0130】
このため、本発明の方法は、グラフェンによる粉末材料の被覆を改善する。本発明の方法は単純であり、実行することが容易である。この方法により調製されたグラフェン被覆リチウムイオン電池カソード材料は、より均一で安定したグラフェン被覆特性を有し、複数のサイクルの後に安定していて、容易にはがれ落ちない。電気化学試験の結果は、従来技術と比較して、著しく改善されたレート性能およびより安定したサイクル性能を示す。
【0131】
本発明を添付の図に関連して上に記述してきたが、本発明は上に記述する特定の実施形態に限定されない。上に記述する特定の実施形態は、単に例示であって限定的ではない。本発明の教示により、当業者は本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、上記実施形態に変更および修正を加えることができる。こうした変更および修正はすべて、本発明の保護範囲内にある。
図1
図2
図3