特許第6977063号(P6977063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6977063
(24)【登録日】2021年11月12日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】被覆された金属基板及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20211125BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20211125BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20211125BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20211125BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20211125BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   C23C28/00 B
   C22C38/00 302X
   C22C21/02
   C22C18/04
   B32B9/00 A
   C22C19/05 B
【請求項の数】25
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-566207(P2019-566207)
(86)(22)【出願日】2018年5月31日
(65)【公表番号】特表2020-523474(P2020-523474A)
(43)【公表日】2020年8月6日
(86)【国際出願番号】IB2018053872
(87)【国際公開番号】WO2018220567
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2020年1月17日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/000668
(32)【優先日】2017年5月31日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(73)【特許権者】
【識別番号】311016455
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】518170446
【氏名又は名称】ソルボンヌ ウニベルシテ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴニアコウスキー,ヤセク
(72)【発明者】
【氏名】レ,ティ・ハ・リン
(72)【発明者】
【氏名】ノゲラ,クローディーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジュピユ,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】ラッツァリ,レミ
(72)【発明者】
【氏名】マテーニュ,ジャン−ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】コルツォフ,アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】カバロッティ,レミ
(72)【発明者】
【氏名】シャレックス,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ガウヤット,リュシー
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−512909(JP,A)
【文献】 特開2006−334606(JP,A)
【文献】 特表2016−530401(JP,A)
【文献】 特開平04−028852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
C22C 38/00
C22C 21/02
C22C 18/04
B32B 9/00
C22C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物の少なくとも1つの層を備える被覆された金属基板であって、かかる層のすぐ上に、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆層が存在し、Tiの量は5重量%以上であり、並びに以下の式:8重量%<Cr+Ti<40重量%が満たされており、残りがFe及びNiであり、かかる中間被覆層のすぐ上に、防食金属被覆層が存在する、被覆された金属基板。
【請求項2】
中間被覆層が15〜42重量%のNiを含む、請求項1に記載の被覆された金属基板。
【請求項3】
中間被覆層が22〜40重量%のNiを含む、請求項2に記載の被覆された金属基板。
【請求項4】
中間被覆層が25〜30重量%のNiを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の被覆された金属基板。
【請求項5】
中間被覆層が10〜60%の鉄を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の被覆された金属基板。
【請求項6】
中間被覆層が30〜60%の鉄を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の被覆された金属基板。
【請求項7】
中間被覆層が5〜30重量%のTiを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の被覆された金属基板。
【請求項8】
中間被覆層が5〜20重量%のTiを含む、請求項7に記載の被覆された金属基板。
【請求項9】
中間被覆層が5〜30重量%のCrを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の被覆された金属基板。
【請求項10】
中間被覆が5〜20重量%のCrの層を含む、請求項9に記載の被覆された金属基板。
【請求項11】
中間被覆層が1〜100nmの厚さを有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の被覆された金属基板。
【請求項12】
中間被覆層が1〜50nmの厚さを有する、請求項11に記載の被覆された金属基板。
【請求項13】
中間被覆層が1〜20nmの厚さを有する、請求項12に記載の被覆された金属基板。
【請求項14】
金属基板が防食金属被覆層で直接被覆されており、かかる防食金属被覆層のすぐ上に酸化物の層が存在する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の被覆された金属基板。
【請求項15】
1又は複数の防食金属被覆層が、亜鉛、アルミニウム、銅、ケイ素、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びこれらの合金を含む群の中から選択される金属を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の被覆された金属基板。
【請求項16】
防食金属被覆が、15%未満のSi、5.0%未満のFeを含み、0.1〜8.0%のMgを任意に含み、及び0.1〜30.0%のZnを任意に含み、残りがAlであるアルミニウムをベースとする被覆である、請求項15に記載の被覆された金属基板。
【請求項17】
防食金属被覆が、0.01〜8.0%のAlを含み、0.2〜8.0%のMgを任意に含み、残りがZnである亜鉛をベースとする被覆である、請求項16に記載の被覆された金属基板。
【請求項18】
金属基板が、アルミニウム基板、鋼基板、ステンレス鋼基板、銅基板、鉄基板、銅合金基板、チタン基板、コバルト基板又はニッケル基板の中から選択される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の被覆された金属基板。
【請求項19】
金属基板が鋼板である、請求項18に記載の被覆された金属基板。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の被覆された金属基板の製造方法であって、以下の工程:
A.酸化物の少なくとも1つの層を備える金属基板の提供、
B.真空蒸着又は電着法による請求項1〜13のいずれか一項に記載の中間被覆層の堆積、
C.請求項1〜17のいずれか一項に記載の防食金属被覆層の堆積、
を含む、方法。
【請求項21】
工程B)において、中間被覆層の堆積が、マグネトロン陰極微粉化法又はジェット蒸着法によって行われる、請求項20に記載の被覆された金属基板の製造方法。
【請求項22】
工程C)において、被覆層の堆積が、溶融めっきによって、電着法によって、又は真空蒸着によって行われる、請求項20又は21に記載の被覆された金属基板の製造方法。
【請求項23】
工程C)において、被覆層の堆積が、マグネトロン陰極微粉化法又はジェット蒸着法によって行われる、請求項20〜22のいずれか一項に記載の被覆された金属基板の製造方法。
【請求項24】
方法が、中間被覆の堆積の前に、金属基板上の酸化物の層を除去するための酸洗を含まない、請求項20〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
自動車両の一部の製造のための、請求項1〜19のいずれか一項に記載の、又は請求項20〜24のいずれか一項に記載の方法から得られる被覆された金属基板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆された金属基板及びその製造方法に関する。被覆された金属基板は、自動車両の製造に特に適している。
【背景技術】
【0002】
鋼板は、一般に、金属被覆で覆われており、金属被覆の組成は鋼板の最終用途に応じて変動する。この被覆は、例えば、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム又はこれらの合金であり得、1つ以上の層を含むことができ、例えば、真空蒸着法、溶融めっき又は電着などの当業者に既知の様々な被覆技術を用いて塗布することができる。
【0003】
通常、金属被覆は溶融めっきによって堆積され、この方法は、一般に以下の工程を含む。
−鋼板の表面の酸化を制限するために不活性又は還元雰囲気下で鋼板が炉を通過する際の鋼板の焼鈍、
−板が浴を出るときに板が金属/金属合金で被覆されるように、板が液体状態の金属又は金属合金の浴を通過する際の板の溶融めっき。
−板が液体浴を出た後、金属/金属合金の層の均一で一定な厚さを保証するために、表面上に気体を噴霧することによって、金属/金属合金の層が拭われる。
【0004】
焼鈍工程の間、鋼板が金属浴(本明細書の以下の部分では、「金属浴」及び「金属層」という用語は、あらゆる金属合金浴及び対応する金属合金層を表記するためにも使用される。)に入る前に、一般に、板は、直火で又は放射管焼鈍炉内で加熱される。しかしながら、不活性雰囲気の制御など数多くの措置が講じられているにもかかわらず、鋼板を加熱するためのこれらの炉の使用は、表面上に金属酸化物の形成をもたらすことがあり、これは、鋼板の表面上での液体金属の適切な濡れ性を妨げ、板の表面上に被覆されていない領域の発生を誘導する。
【0005】
鋼の組成が著しい量の、Si、Mn、Al、Cr、B、Pなどの容易に酸化される元素を含む場合に、この問題に特に遭遇する。例えば、0.2重量%のMn、0.02重量%のSi及び5ppmのBを含有するIF(Interstitial−Free)鋼は、板の表面に素早く拡散し、連続的なフィルムの形態のMn、B及びSiの混合酸化物を沈殿させて乏しい濡れをもたらすBの存在の結果として、これらの濡れ性の問題に既にさらされている。
【0006】
二相鋼、TRIP(変態誘起塑性)鋼、TWIP(双晶誘起塑性)、電気鋼など、全ての高強度鋼は、鉄より酸化されやすいこれらの元素の少なくとも1つを含有しているので、より一般的には、全ての高強度鋼においても液体金属による乏しい濡れのリスクに遭遇する。
【0007】
二相鋼に関しては、Mnの量は、一般に3重量%未満であり、Cr、Si又はAlの添加量は一般に1重量%未満である。TRIP鋼に関しては、Mnの量は、一般に2重量%未満であり、最大2重量%のSi又はAlを伴う。TWIP鋼に関しては、Mnの量は、最大25重量%であり得、Al又はSi(最大3重量%)と組み合わされ得る。
【0008】
金属被覆は、電着によっても塗布することが可能である。通常、表面上に存在する金属酸化物を除去するために、電着工程の前に、鋼板は酸洗工程を経なければならない。実際に、電解工程が効果的であるためには、媒体は必ず導体でなければならないが、被覆されるべき鋼板の表面上に金属酸化物が存在する場合には、このことが満たされない。さらに、金属酸化物の存在は、被覆の堆積に影響を及ぼし得るので、被覆の付着及び質の(微細構造、密度など)の問題をもたらし得る。
【0009】
金属被覆は、真空蒸着によっても塗布することが可能である。真空蒸着の様々な種類間では、とりわけ、気相を形成するために使用される手段に応じて区別が為される。気相が化学反応又は分子の分解から生じる場合には、この方法はCVD又は化学蒸着と称される。他方、この蒸気が、熱蒸発又はイオンスパッタリングなどの純粋に物理的な現象によって生成される場合には、この方法は物理蒸着又はPVDと称される。PVD蒸着法には、スパッタリング、イオン注入及び真空蒸発が含まれる。
【0010】
しかしながら、通常、使用される真空蒸着技術に関わらず、金属被覆の適切な付着を保証し、これにより、被覆の剥離の問題を防ぐために、被覆されるべき鋼板の表面が金属酸化物を含まないように、表面の前処理が必要とされる。
【0011】
使用される被覆法に関わらず、最終被覆の品質において、被覆前の鋼帯の表面の状態は重要な因子である。被覆されるべき鋼板の表面上に金属酸化物が存在すると、塗布されるべき被覆の適切な付着を妨げ、最終製品上に被覆が存在しない領域又は被覆の剥離に関する問題を生じ得る。これらの金属酸化物は、鋼板の表面上に連続的フィルムの形態で又は不連続な点の形態で存在し得る。また、金属酸化物は方法の異なる工程中に形成され得、当該板が作られている鋼の等級に応じて、金属酸化物の組成は変動する。この種類の酸化物には、例えば、酸化鉄FeO、Fe、Fe及び水酸化鉄、酸化アルミニウムAl及び水酸化アルミニウム、酸化ケイ素(SiO)並びに混合酸化物MnSi、AlSi又はMnBが含まれる。
【0012】
これらの金属酸化物の除去には、追加の作業工程、すなわち、酸洗の実行が必要とされる。本明細書の残部において、酸洗とは、金属酸化物を除去する方法ではあるが、下に存在する金属層を露出させずに金属酸化物の表面層を除去することのみを目的とする例えば研磨法と比較して、下に存在する金属層が表面上に現れるように、下に存在する金属層の酸化によって形成された金属酸化物の除去をもたらすあらゆる方法を意味する。
【0013】
金属酸化物のこの除去は、例えば、エッチングとも称されるマグネトロン微粉化による真空酸洗によって達成され得る。塩酸又は硫酸などの強酸の1つ以上の連続する浴に帯を通過させることによって、帯の酸洗を行うことも可能である。最後に、機械的作用によって、例えば、金属酸化物がその中で除去されるショットブラスト法を使用することによって、金属酸化物の層の全部又は一部を除去することが可能である。しかしながら、これらの方法は制御すること及び産業的規模で実施することが常に困難である。
【0014】
1つの既知の表面処理は、金属基板上に存在する酸化物層の除去を回避することを可能にする。実際に、特許出願WO2015/150850は、複数の層を含む基板であって、層の少なくとも1つが金属酸化物を含み、その上には、少なくとも8重量%のニッケル及び少なくとも10重量%のクロムを含有し、残余が鉄、さらなる元素及び製造工程から生じた不純物である金属被覆の層が存在し、この金属被覆層自体のすぐ上に防食被覆層が存在する、基板を開示している。例えば、金属被覆の層は、16〜18重量%のCr及び10〜14重量%のNiを含み、残りがFeである316ステンレス鋼である。金属被覆のこの層は、基板上の後続の被覆の付着を改善し、表面上に存在する酸化物を除去する工程を必要としない。
【0015】
しかしながら、金属基板上に、ニッケル、クロム及び鉄を含有する金属被覆の層を付加することを含むこの表面処理は、唯一知られた表面処理であり、したがって、基板表面上に存在する酸化物を除去する工程が不要な市場で利用可能な唯一の表面処理である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2015/150850号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このため、本発明の目的は、とりわけ、基板上へのその後の被覆の付着を改善することを可能とし、及び表面上に存在する酸化物を除去する工程を必要としない別の表面処理法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、請求項1に記載の被覆された金属基板を提供することによって達成される。この方法は、請求項2〜19の特徴も包含し得る。
【0019】
この目的は、請求項20に記載の被覆された金属基板の製造方法を提供することによって達成される。この方法は、請求項21〜24の特徴も包含し得る。
【0020】
最後に、目的は、請求項25に記載の被覆された金属基板の使用を提供することによって達成される。
【0021】
本発明のその他の特徴及び利点は、以下の発明の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0022】
本発明を説明するために、特に以下の図面を参照しながら、様々な実施形態及び非限定的な実施例の試験試料を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の第一の実施形態における基板の模式図である。
図2図2は、本発明の第二の実施形態における基板の模式図である。
図3図3は、本発明の第三の実施形態における基板の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
全ての図面において、表示されている層の厚さは専ら説明のためのものであり、異なる層を原寸に比例して表示したものと考えることはできない。
【0025】
以下の用語が定義される。
【0026】
−全ての百分率「%」は、重量によって定義される。
【0027】
「鋼」又は「鋼板」という呼称は、鋼のあらゆる既知の等級を含み、例えば、HSS(High Strength Steel(高強度鋼)、一般に450〜900MPa)又はAHSS(Advanced High Strength Steel(先進高張力鋼)、一般に900MPa超)、大量の酸化可能な元素を含有する鋼の以下の等級の1つであり得る。
【0028】
−最大0.1重量%のTiを含有し得る、侵入型元素を含まない鋼(IF−Interstitial Free);
【0029】
−最大1重量%のSi、Cr及び/又はAlとともに最大3重量%のMnを含有し得る、DP500鋼〜最高DP1200鋼などの二相鋼;
【0030】
−例えば、約1.6重量%のMn及び1.5重量%のSiを含有する、TRIP780などのTRIP(TRansformation Induced Plasticity(変態誘起塑性))鋼;
【0031】
−リンを含有する、TRIP又は二相鋼;
【0032】
−TWIP(TWinning−Induced Plasticity(双晶誘起塑性))鋼−高含有率のMn(一般に17〜25重量%)を有する鋼、
【0033】
−例えば、最大10重量%のAlを含有し得る、Fe−Al鋼などの低密度鋼;
【0034】
−他の合金元素(Si、Mn、Alなど)とともに高含有率のクロム(一般に13〜35重量%)を有するステンレス鋼。
【0035】
この目的のために、本発明は、酸化物の少なくとも1つの層を備える被覆された金属基板であって、かかる層のすぐ上に、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆層が存在し、Tiの量は5重量%以上であり、並びに以下の式:8重量%<Cr+Ti<40重量%が満たされており、残りがFe及びNiであり、かかる中間被覆層のすぐ上に、防食金属被覆である被覆層が存在する、被覆された金属基板を提供する。
【0036】
いかなる理論にも拘泥するものではないが、本発明によるFe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆層は、その後の被覆の付着を改善し、金属基板上に存在する自然酸化物層の除去を必要としないようである。実際に、中間層中に存在する酸化クロム又は酸化チタンは、金属基板上に存在する自然酸化物と防食金属被覆の間の界面において強い結合をもたらすと考えられる。
【0037】
Ti量が5重量%未満である場合、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆層は酸化物層に十分に付着しないリスクが存在すると考えられる。さらに、Cr及びTiの量が8重量%未満である場合、酸化物層が鋼板の表面上で十分に覆われず、防食金属被覆の不良な付着をもたらすリスクが存在する。最後に、Cr+Tiの量が40重量%を上回ると、中間層中において、酸化されたチタンとCr−Ti金属層との間で弱い結合が出現し、金属基板表面上の防食金属被覆の乏しい付着をもたらすので、付着が低下するリスクが存在する。
【0038】
図1は、本発明に従う第一の実施形態を図解する。この例では、金属基板は、その表面の少なくとも1つの上に酸化物の層2を備える鋼板1である。この酸化物層2は、鋼表面1上で連続的又は非連続的であり得、酸化鉄、酸化クロム、酸化マンガン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ホウ素又は混合Mn−Si若しくはAl−Si若しくはMn−B酸化物などの鋼の合金元素を含有する1つ以上の混合酸化物を含む群から得られる金属酸化物を含み得る。金属酸化物のこの第一の層2の厚さは、一般に、3〜約60nm、例えば、好ましくは3〜約20nmで変動し得る。
【0039】
したがって、酸化物層2は除去されず、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆層3で覆われており、Tiの量は5重量%以上であり、並びに以下の式:8重量%<Cr+Ti<40重量%が満たされており、残りがFe及びNiである。例えば、この被覆3は、27重量%のNi、10重量%のCr、10重量%のTiを含むことができ、残りはFeである。Fe−Ni−Cr−Ti金属被覆の層3は、防食金属被覆の層4で覆われている。
【0040】
本発明によれば、好ましくは、中間被覆層は、15〜42重量%、より好ましくは22〜40重量%、有利には25〜30重量%のNiを含む。
【0041】
好ましくは、中間被覆は、10〜60重量%、より好ましくは30〜60重量%の鉄を含む。
【0042】
有利には、中間被覆は、5〜30重量%、好ましくは5〜20重量%のTiを含む。
【0043】
好ましくは、中間被覆は、5〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%のCrを含む。
【0044】
好ましい実施形態において、中間被覆層は、1〜100nmの間、好ましくは1〜50nmの間、より好ましくは1〜20nmの間の厚さを有する。
【0045】
別の好ましい実施形態において、金属基板は、防食層で直接被覆されており、このような防食層のすぐ上には、酸化物の層が存在する。
【0046】
好ましくは、1又は複数の防食被覆層は、亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、ケイ素、鉄、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びこれらの合金を含む群の中から選択される金属を含む。
【0047】
より好ましくは、防食被覆は、15%未満のSi、5.0%未満のFeを含み、0.1〜8.0%のMgを任意に含み、及び0.1〜30.0%のZnを任意に含み、残りがAlである、アルミニウムをベースとする被覆である。
【0048】
別の好ましい実施形態において、防食被覆は、0.01〜8.0%のAlを含み、0.2〜8.0%のMgを任意に含み、残りがZnである、亜鉛をベースとする被覆である。
【0049】
金属基板は、アルミニウム基板、鋼基板、ステンレス鋼基板、銅基板、鉄基板、銅合金基板、チタン基板、コバルト基板又はニッケル基板の中から選択され得る。好ましくは、金属基板は鋼板である。
【0050】
図2は、本発明の第二の実施形態を図解する。この実施形態において、基板は鋼板21である。この鋼板21は、例えば、9〜12重量%の間のSiを含むアルミニウムをベースとする被覆など、防食被覆の層25で被覆されている。このアルミニウムをベースとする被覆25は、例えば、10〜30μmの間の厚さを有し得る。このアルミニウムをベースとする被覆層25の上には、金属酸化物の層22が存在する。この層22は、当該アルミニウムをベースとする被覆25の表面上において連続的又は非連続的であり得、酸化アルミニウム及び/又はAl−Si酸化物などの混合酸化アルミニウムを含み得る。この金属酸化物の層22の厚さは、一般に、3〜約60ナノメートル、好ましくは3〜約20nmで変動し得る。
【0051】
したがって、この酸化物の層22は除去されず、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆の層23によって覆われており、Tiの量は5重量%以上であり、並びに以下の式:8重量%<Cr+Ti<40重量%が満たされており、残りがFe及びNiである。例えば、この被覆23は、29重量%のNi、12重量%のCr、22重量%のTiを含み、残りはFeである。
【0052】
この第二の実施形態におけるこの金属被覆の層23の上には、防食金属被覆の層24、例えば亜鉛をベースとする被覆が存在する。この事例では、好ましくは、亜鉛をベースとする被覆は、0.01〜0.2%のAl、1.0〜5%のMgを含み、残りがZnである、Zn−Mg合金の防食被覆である。
【0053】
図3は、本発明の第三の実施形態を図解する。この第三の実施形態では、基板は、その表面の少なくとも1つの上に酸化物の第一の層32を備える鋼板31である。
【0054】
酸化物の層32は除去されず、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆33によって覆われており、Tiの量は5重量%以上であり、並びに以下の式:8重量%<Cr+Ti<40重量%が満たされており、残りがFe及びNi及び製造工程から生じた不純物である。
【0055】
この実施形態において、Fe−Ni−Cr−Ti金属被覆の層33は、防食金属被覆の第一の層34によって覆われている。この防食金属被覆の第一の層34は、例えば、純粋な亜鉛又はZn−Al、Zn−Al−Mg、Zn−Mg若しくはZn−Niなどの亜鉛合金を含み得る。層34は、アルミニウム、銅、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、純粋なマンガン(製造工程から生じる可能性がある不純物を含有する)又は、例えば、Al−Si若しくはMg−Alなどのこれらの合金も含み得る。
【0056】
この第三の実施形態において、防食金属被覆の第一の層34の上には、金属酸化物の第二の層36が存在する。この層36は、防食金属被覆34の表面上において連続的又は非連続的であり得、酸化物を含むことができ、その組成は防食金属被覆34の構成材料に依存する。例えば、これらの酸化物は、酸化亜鉛、酸化アルミニウム又は混合Al−Si、Zn−Mg若しくはZn−Al酸化物であり得る。この金属酸化物の層36の厚さは、一般に、3〜約60nm、例えば、好ましくは3〜約20nmで変動し得る。
【0057】
酸化物のこの第二の層36は除去されず、Fe−Cr−Ni−Tiを含む中間被覆の層によって覆われている。この金属被覆の層37の厚さは、例えば、2nm以上であり得る。
【0058】
この第三の実施形態において、この金属被覆の層37の上には、防食金属被覆の第二の層38が存在する。例えば、鋼の層31、酸化鉄の第一の層32、Fe−Cr−Ni−Tiを含む第一の中間被覆33、Al−Si合金からなる第一の防食金属被覆34、混合Al−Si酸化物からなる酸化物の第二の層36、Fe−Cr−Ni−Tiを含む第二の中間被覆37及びZn−Al−Mg合金からなる第二の防食金属被覆38を考慮することができる。
【0059】
本発明は、本発明の前記被覆された金属基板の製造方法であって、以下の工程、すなわち
A.酸化物の少なくとも1つの層を備える金属基板の提供、
B.真空蒸着又は電着法による中間被覆層の堆積、及び
C.防食金属被覆である被覆層の堆積、
を含む、方法にも関する。
【0060】
好ましくは、工程B)において、中間被覆層の堆積は、マグネトロン陰極微粉化法又はジェット蒸着法によって行われる。
【0061】
好ましくは、工程C)において、被覆層の堆積は、溶融めっきによって、電着法によって、又は真空蒸着によって行われる。被覆が真空蒸着によって堆積される場合には、被覆はマグネトロン陰極微粉化法又はジェット蒸着法によって堆積され得る。
【0062】
好ましくは、方法は、中間被覆の堆積の前に金属基板上の酸化物の層を除去するための酸洗を含まない。
【0063】
最後に、本発明は、自動車両の一部の製造のための、被覆された金属基板の使用に関する。
【実施例】
【0064】
ここで、例示のみを目的として行われ、限定を意図されていない試験に基づいて本発明を説明する。
【0065】
[実施例1]
<付着>
T曲げ試験を実施した。この試験の目的は、被覆された板を180°の角度で曲げることによって、被覆の付着を測定することである。適用される曲げ半径は、用いられる基板の厚さの2倍に等しい(「2T」曲げに相当する)。被覆の付着は、粘着テープを充てることによって確認する。粘着テープを剥がした後に試験された板上に被覆が残存しており、粘着テープ上に被覆が見られない場合に、試験の結果は良好であると判断する。
【0066】
下記の試験においてこの試験の実施のために用いられた粘着テープは、市販の粘着テープTESA4104である。
【0067】
試料のために用いた鋼の組成は、0.15%のC、1.9%のMn、0.2%のSi、0.2%のCr及び0.013%のTiである。百分率は重量百分率であり、残りは鉄及び製造によって生じる可能性がある不純物である。
【0068】
試験試料1〜11は、比較例である。
【0069】
試験試料1〜9は、WO2015/150850にしたがって調製される。
【0070】
試験試料10については、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆の組成は以下のとおりである。3重量%のCr、15重量%のNi、3重量%のTi、残りはFe。
【0071】
試験試料11については、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆の組成は以下のとおりである。3重量%のCr、40重量%のNi、47重量%のTi、残りはFe。
【0072】
試験試料12については、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆の組成は以下のとおりである。3重量%のCr、15重量%のNi、6重量%のTi、残りはFe。
【0073】
試験試料13については、Fe、Ni、Cr及びTiを含む中間被覆の組成は以下のとおりである。3重量%のCr、40重量%のNi、10重量%のTi、残りはFe。
【0074】
試験試料10〜13を下記の工程に供した。
【0075】
−圧力P<10−3mbarを有する真空チャンバー中への帯の挿入。
−Fe−Ni−Cr−Ti被覆の10nmの層の真空蒸着
−亜鉛の5μmの層の真空蒸着
【0076】
各試験試料の特徴が、下表に記されている。
【0077】
【表1】
【0078】
次いで、これらの試料の全てを上述のT曲げに供した。結果が、下表に記されている。
【0079】
【表2】
【0080】
本発明の試験試料12及び13は、試験試料1、5及び9のように、亜鉛の良好な付着を示した。
図1
図2
図3