(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。なお、各図において、共通な機能を有する構成要素には同一の番号を付与し、その重複する説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態における鉄道車両システム全体の構成例を示す図である。
図1を用いて本実施形態の鉄道車両システム構成を説明する。
図1では、鉄道車両Aと鉄道車両Bがそれぞれ、同じ軌道レール3上を移動する。
【0015】
鉄道車両Aは、重回帰特性算出のための情報を収集する鉄道車両である。鉄道車両Aには、乗心地を評価するセンサである振動加速度センサ5が搭載される。また、鉄道車両Aは、鉄道車両Aの走行位置や走行速度、乗車率、走行総距離などの車両運行システム情報を管理する車両情報管理システム6を搭載している。さらに、鉄道車両Aは、車両情報取得部11と、閾値超過情報取得部12と、閾値超過箇所情報取得部13から成る状態監視システム10を搭載している。
【0016】
状態監視システム10は、振動加速度センサ5で取得した振動加速度の情報である振動加速度センサ信号50a、及び、車両情報管理システム6から車両情報管理システム情報51aを入力する。そして、状態監視システム10から走行パターン処理システム20へ閾値超過時の車両情報54a及び閾値超過箇所の車両情報55aをそれぞれ出力する。
【0017】
車両情報取得部11は、振動加速度センサ5からの振動加速度センサ信号50a、及び、車両情報管理システム6からの車両情報管理システム情報51aを入力する。そして、車両情報取得部11は、車両情報52aを閾値超過情報取得部12へ出力し、車両情報53aを閾値超過箇所情報取得部13へ出力する。なお、車両情報としては、例えば、その車両における、走行位置、走行速度、乗車率、走行総距離、車種、走行する路線情報等を含むものであり、これらのうち少なくとも1つを利用する。
【0018】
閾値超過情報取得部12は、車両情報52aを車両情報取得部11から入力する。そして、閾値超過情報取得部12は、閾値超過時の車両情報54aを走行パターン処理システム20へ出力すると共に、閾値超過箇所情報56aを閾値超過箇所情報取得部13へ出力する。
【0019】
閾値超過箇所情報取得部13は、車両情報53aを車両情報取得部11から入力すると共に、閾値超過箇所情報56aを閾値超過情報取得部12から入力する。そして、閾値超過箇所情報取得部13は、閾値超過箇所の車両情報55aを走行パターン処理システム20へ出力する。
【0020】
次に、走行パターン処理システム20は、状態監視システム10から出力される閾値超過時の車両情報54a、及び、閾値超過箇所の車両情報55aを入力する。さらに、走行パターン処理システム20は、乗心地向上走行パターン要求システム30から出力される車両情報63aを入力する。そして、走行パターン処理システム20から乗心地向上走行パターン要求システム30へ最適走行パターン61aを出力する。走行パターン処理システム20は、閾値超過情報記憶部21と、重回帰特性抽出部22と、重回帰特性記憶部23と、重回帰特性マッチング処理部24と、走行パターン生成部25とを備えている。
【0021】
閾値超過情報記憶部21は、閾値超過情報取得部12から、閾値超過時の車両情報54aを入力し、閾値超過箇所情報取得部13から閾値超過箇所の車両情報55aを入力する。そして、閾値超過情報記憶部21は、閾値超過情報57aを重回帰特性抽出部22へ出力する。
【0022】
重回帰特性抽出部22では、閾値超過情報記憶部21から閾値超過情報57aを入力する。そして、重回帰特性抽出部22は、重回帰特性抽出結果58aを重回帰特性記憶部23へ出力する。
【0023】
重回帰特性記憶部23では、重回帰特性抽出部22から重回帰特性抽出結果58aを入力する。そして、重回帰特性記憶部23は、重回帰特性59aを重回帰特性マッチング処理部24へ出力する。
【0024】
重回帰特性マッチング処理部24では、重回帰特性記憶部23から重回帰特性59aを入力し、加えて、乗心地向上走行パターン要求システム30の走行パターン要求処理部31から車両情報63aを入力する。そして、重回帰特性マッチング処理部24は、最適重回帰特性60aを走行パターン生成部25へ出力する。
【0025】
走行パターン生成部25では、重回帰特性マッチング処理部24から最適重回帰特性60aを入力する。そして、走行パターン生成部25は、最適走行パターン61aを乗心地向上走行パターン要求システム30へ出力する。
【0026】
鉄道車両Bは、走行パターンに基づき走行させるための鉄道車両である。鉄道車両Bには、鉄道車両Bの走行位置や走行速度、乗車率、走行総距離などの車両運行情報を管理する車両情報管理システム6’と、運転士8が運転操作する運転台7を搭載している。なお運転台7には走行パターンなどを表示させることができる表示部を備えている。また、運転台7には音声により知らせるシステムを備えていてもよい。さらに、鉄道車両Bは、乗心地向上走行パターン要求システム30を搭載している。
【0027】
乗心地向上走行パターン要求システム30は、車両情報管理システム6’から車両情報管理システム情報62a、及び、走行パターン処理システム20から最適走行パターン61aを入力する。そして、乗心地向上走行パターン要求システム30は、運転台7の表示部に走行パターン64aを出力する。乗心地向上走行パターン要求システム30の内部では、走行パターン要求処理部31と提示部32を備えている。
【0028】
走行パターン要求処理部31は、車両情報管理システム情報62aを鉄道車両Bの車両情報管理システム6から入力する。そして、走行パターン要求処理部31は、車両情報63aを乗心地向上走行パターン要求システム30の重回帰特性マッチング処理部24へ出力する。
【0029】
提示部32は、最適走行パターン61aを走行パターン生成部25から入力する。そして、提示部32は、走行パターン64aを運転台7へ出力する。
【0030】
なお、
図1において、走行パターン処理システム20は、例えば、地上側の車両運行システムの中にあればよい。また、鉄道車両Aが閾値超過箇所の情報を収集し、鉄道車両Bが収集された情報から最適な走行パターンを利用するシステム構成図となっているが、これ以外のパターンも適用することができる。例えば、各鉄道車両A、Bで状態監視システム10及び乗心地向上走行パターン要求システム30をいずれも搭載して、複数の鉄道車両同士で相互に利用できるようにすることもできる。また、複数(2以上)の鉄道車両に状態監視システム10を搭載し、多くの閾値超過情報を収集することができるシステム構成としても良い。
【0031】
図2は、
図1に示す状態監視システム10の処理フローの一例を示す図である。
図2のフロー図を用いて、
図1の状態監視システム10の処理フローを説明する。
【0032】
まず、監視処理を開始する前に、乗心地向上箇所を抽出する閾値等の初期設定を実施する(S100)。ここでは、対象となる箇所ごとに閾値を設定することができる。なお、閾値の対象は、乗心地指標などに対して設定できる。乗心地指標は、例えば、振動加速度センサ信号50aそのもの、或いは、振動加速度センサ信号50aに対してバンドパスフィルタ等のある周波数帯域を取り出した振動加速度、或いは、振動加速度に対する2乗平均平方根(以後、RMS(Root Mean Square)値)、或いは、振動加速度のパワースペクトル密度(以後、PSD(Power Spectrum Density))に対するある重み付け関数で処理された乗心地レベルなどとすればよい。これらの値に対して、予め定められた仕様値などを閾値として設定すれば良い。
【0033】
次に、状態監視で得られた閾値判定の対象が過去の閾値超過箇所であるかを判定する(S101)。なお、超過箇所であるかを判定するために、鉄道車両Aの車両情報管理システム6における車両情報管理システム情報にある位置情報(GPS:Global Positioning System)やキロ程情報を利用すればよい。
【0034】
S101において、過去の閾値超過箇所であると判定された場合、S104へ行く。ここで過去の閾値超過箇所は、例えば、車両情報管理システム6の車両情報管理システム情報に記録させることができる。そして、S104では、乗心地評価に用いる指標と、走行位置や走行速度、乗車率、走行総距離などの車両運行情報を閾値超過情報として伝送する(S104)。
【0035】
S101において、過去の閾値超過箇所でないと判定された場合、閾値超過検出処理を実施する(S102)。ここで、閾値超過検出処理は、例えば、S100で設定された閾値に対して、実際の鉄道車両Aにおける振動加速度センサ信号50aに基づく値などが超過しているか否かで判定することができる。この時、閾値超過検出されなければ、S101へ戻り、閾値超過検出されれば、S104へ行く(S103)。S104では、乗心地評価に用いる指標と、走行位置や走行速度、乗車率、走行総距離などの車両運行情報を閾値超過情報として伝送する。
【0036】
次に、次回から閾値超過箇所を抽出するために、閾値超過箇所を記録する(S105)。この時、記録する範囲として、車両情報管理システム情報にあるGPSなどの位置情報を活用すれば良い。ここでの記録は、走行パターン処理システム20の閾値超過情報記憶部21に記録することができる。
【0037】
次に、監視終了判定(S106)を実施し、終了しない場合はS101へ戻り、終了する場合は、監視処理を終了する。
【0038】
なお、本処理は、鉄道車両Aが車両運行されている間実施すればよい。以上より、閾値を越える箇所を見つけて、該当箇所の車両情報を収集することができる。
【0039】
図3は、
図1に示す走行パターン処理システム20における重回帰特性抽出フローの一例を示す図である。
図3のフロー図を用いて、
図1の走行パターン処理システム20の重回帰特性抽出フローを説明する。ここでは、重回帰特性抽出部22で処理することができる。重回帰特性は、例えば、後述する
図6に示されるような、通過速度と乗心地指標の関係等である。
【0040】
まず、重回帰特性を演算する前に、演算条件に関する閾値等(データ個数等)の初期設定を実施する(S200)。例えば、重回帰特性を算出するために必要なデータ個数等の初期設定を行う。
【0041】
次に、処理システムが記憶部の閾値超過箇所における車両情報を取得する(S201)。車両情報は、走行速度、乗車率、走行総距離等の情報である。閾値超過箇所は
図2の処理で記憶されている。
【0042】
次に、重回帰特性算出のための演算条件を満たすかどうか判定する(S202)。すなわち、S200の初期設定された重回帰特性を演算するための条件を満たすかどうかを判定する。この時、初期設定条件を満たす場合、処理システムは閾値超過箇所における重回帰特性を抽出し、その抽出結果を蓄積する(S203)。ここでの重回帰特性は車両条件(車両情報)と共に蓄積しておくことで、後述する
図4における重回帰特性の選定が行える。また、これらの蓄積は重回帰特性記憶部23に記憶させておくことができる。一方、初期設定条件を満たさない場合、処理システムは初期設定条件を満たすまで処理を待つ(S201)。
【0043】
次に、重回帰特性の抽出対象がさらにある場合は、S203へ戻り、ない場合は、本処理は終了する(S204)。
【0044】
また、本処理は、例えば1週間毎等の一定の周期によるタイミングで実施することができる。また、閾値超過箇所の車両情報を予め定められた条件で得られた際に、実施することもできる。以上より、閾値超過時における重回帰特性を得ることができる。閾値超過時とすることで、データの記憶容量や処理量を抑えることができる。
【0045】
図4は、
図1に示す走行パターン処理システム20における走行パターン生成フローの一例を示す図である。
図4のフロー図を用いて、
図1の走行パターン処理システム20の走行パターン生成フローを説明する。ここでは、走行パターン生成部25等で処理することができる。
【0046】
まず、走行パターンが要求された車両条件の重回帰特性を選定する際の車両条件等の初期設定を実施する(S300)。車両条件は、例えば、乗車率、車種、走行総距離等である。
【0047】
次に、処理システムが走行パターン生成の要求有無を監視し(S301)、走行パターンの要求があった場合に、初期設定の車両条件に合致した重回帰特性を選定する(S302)。ここで、
図1であれば、走行パターン生成の要求は、鉄道車両Bから行われる。車両条件の合致は、重回帰特性を選定するための所定の車両条件が合致すればよい。例えば、鉄道車両Bがこれから走行する路線において、重回帰特性が得られた車種の一致や、乗車率、取得期間がある範囲内で一致した場合の重回帰特性を選定する。ここでの重回帰特性は、
図1であれば、鉄道車両Aによって得られた重回帰特性である。また、重回帰特性は、重回帰特性記憶部23に記憶されている。
【0048】
次に、S302の選定結果により、走行パターン生成に適用できる重回帰特性が存在するか否か判定する(S303)。走行パターン生成に適用できる重回帰特性が存在した場合、走行パターンを生成する(S304)。走行パターンの生成方法の具体例は、
図7により後述する。
【0049】
次に、最適走行パターンを生成した結果、車両運行に適用できるか否かを判定する(S305)。S305で、車両運行に走行パターンを適用できる場合、処理システムが走行パターン生成を要求してきた鉄道車両(
図1では鉄道車両B)に対して、最適走行パターンを提示する(S306)。一方、S305で、車両運行に走行パターンを適用できない場合(S305)、処理システムが走行パターン生成を要求してきた鉄道車両(
図1では鉄道車両B)に対して、提示できる走行パターンが存在しないことを連絡する(S307)。ここで、最適走行パターンが適用できないとは、例えば、所定の走行ダイヤを守る走行パターンが生成できなかった場合等を意味する。
【0050】
また、S302の選定結果により、走行パターン生成に適用できる重回帰特性が存在しない場合(S303)、処理システムが走行パターン生成を要求してきた鉄道車両(
図1では鉄道車両B)に対して、提示できる走行パターンが存在しないことを連絡する(S307)。なお、ここで、走行パターン生成に適用できる重回帰特性が存在しない場合は、例えば、適用箇所における重回帰特性のデータが存在しない場合などである。
【0051】
なお、本処理は、走行パターン生成の要求処理があった場合に実施すればよい。以上より、最適な走行パターンを生成することができる。
【0052】
図5は、
図1に示す乗心地向上走行パターン要求システム30の処理フローの一例を示す図である。
図5のフロー図を用いて、
図1の乗心地向上走行パターン要求システム30の処理フローを説明する。ここでの要求は、
図1に示すように、鉄道車両Bから行われる。
【0053】
まず、走行パターン生成の要求条件に対する初期設定を実施する(S400)。ここでの初期設定は条件に対する要求可否などである。
【0054】
次に、走行パターン生成を要求するか否かを判定する(S401)。ここでの判定はS400で設定された要求条件に基づいて行うこともできるし、運転士8が運転台7から要求処理を行ったことを判定してもよい。S401で走行パターン生成を要求する場合は、鉄道車両Bの車両情報を走行パターン処理システム20へ伝送する(S402)。ここでの車両情報は、例えば、車両条件に合致した重回帰特性を選定する際に必要となる情報であり、これから走行する路線情報、車種情報、乗車率等である。
【0055】
次に、走行パターン処理システム20からの最適走行パターンの提示があるか否かを判定する(S403)。ここでの走行パターンは、
図4のフローで生成されたものである。S403で、最適走行パターンの提示がある場合は、運転台7に最適走行パターンの表示を行う(S404)。一方、S403で、最適走行パターンの提示がない場合は、運転台7に提示する走行パターンがないことの表示を行う(S405)。このような運転台7への表示に際して、運転士8が運転台7の画面で走行パターンを直接確認できるようにしても良いし、運転台7から音声情報として運転士8に与えられてもよい。
【0056】
なお、S401で走行パターン生成を要求しない場合は、処理は終了する。
【0057】
本処理は、駅停車後、あるいは駅停車の既定時間前に、走行パターン生成を走行パターン処理システム20に対して要求処理すればよい。以上より、要求処理により、最適走行パターンを運転台7へ表示することができる。
【0058】
図6は、
図1に示す走行パターン処理システムにおける重回帰特性抽出の一例を示す図である。
図6を用いて、重回帰特性抽出部22での重回帰特性抽出の一例を説明する。ここでは、
図2、3で示される処理により行われる重回帰特性抽出の一例である。
【0059】
図6の例では、軌道レール3上の特定の閾値超過箇所における通過速度と乗心地指標の関係を示したものである。ここで、仕様値72は、
図2のS100で特定した閾値に相当する。また、複数の過去の車両情報70に基づき通過速度と乗心地指標のデータがグラフ上にプロットされている。このとき、車両情報70の集合73に基づき通過速度と乗心地指標の関係74が算出される。
【0060】
鉄道車両(
図1では鉄道車両A)が本箇所を通過した際に、仕様値72を超過したことをきっかけとして、この閾値超過箇所での車両情報70が収集される。鉄道車両が本箇所を異なる速度で通過することで、複数の車両情報70を収集することができる集合73とすることができる。集合73がある一定以上のデータ個数となった時点で、通過速度と乗心地指標間の相関、及び、傾きである重回帰係数71を算出し、本特性を抽出した際の車両条件と併せて蓄積することができる。乗心地指標は高くなるほど乗心地が悪くなることを示しているので、仕様値72を越えないような通過速度とすることで、一定以上の乗心地とすることができる。
【0061】
また、
図6の関係は、通過速度だけでなく、初期設定の車両条件に適合したふさわしい重回帰特性とすることができる。例えば
[乗心地指標]=a11×[通過速度]+a12×[乗車率]+a13×[車種]
+・・・ (式1)
とすることができる。ここで、「a11」、「a12」、「a13」は重み付けの係数であり、予めもしくは初期条件の設定で決定することができる。すなわち、通過速度だけでなく、乗車率や車種等の通過速度以外の車両条件も考慮して乗心地指標を決定することもできる。上記の式1は、一例であり、これに限らず、高次の関数など必要に応じて式を設定することができる。また、その他の車両条件を考慮してもよい。
【0062】
さらに、重回帰特性は、目的変数として、振動加速度センサ信号50aから演算した乗心地レベル、加速度RMS(Root Mean Square)値、最大最小加速度のいずれか、もしくはこれらの組合せとして適用できる。さらに、重回帰特性の説明変数として、車両情報管理システム情報62aである車両速度、車両の加減速度、車両の走行総距離、車両の車種、車両質量、車両の乗車率、適用区間の天候状況、データ記録時期、車両メンテナンス時期のいずれか、もしくはこれらの組合せとして適用できる。これらにより、各種の条件をふまえた重回帰特性を抽出することが可能となる。ここで、
図6の例であれば、目的変数が乗心地指標、説明変数が通過速度ということになる。また式1では、説明変数として、通過速度、乗車率、車種を利用している。
【0063】
図7は、
図1に示す走行パターン処理システム20における走行パターン生成の一例を示す図である。
図7を用いて、走行パターン生成部25での走行パターン生成の一例を説明する。ここでは、
図4のフローにより生成される走行パターンの一例である。
【0064】
図7の例では、ある駅間(S駅〜T駅)における走行距離と走行速度との関係を示したものである。鉄道車両は営業最高速度89以下で、所定のダイヤである走行パターン80で運行されるものとする。このとき、走行パターン80の走行速度では、乗心地仕様を超過する区間82が存在する場合についての例について説明する。
【0065】
まず区間82における、初期設定の車両条件に合致した重回帰特性(
図6の例では通過速度と乗り心地指標の関係)を選定する。そして、その重回帰特性により、
図2のS100の初期設定により定められた閾値(
図6の例では乗心地指標の仕様値72)における通過速度を算出する。そして、算出した通過速度を区間82における上限速度81aとして決定する。このことで、本区間82における上限速度81aが、これまでの重回帰特性の抽出結果により決定する。
【0066】
次に、走行パターン80から区間82の上限速度81aに減速するための減速ポイント84を決める。減速ポイント84は、鉄道車両(
図1では鉄道車両B)の乗車率や車両長、区間82の手前区間の曲率や勾配、カントなどの軌道情報、天候情報から推定する。この時、ブレーキを使わずに惰行状態で減速できるポイントを推定することで、乗心地を維持しながら無駄な消費電力を節約できる。次に、鉄道車両の最後尾が乗心地仕様を超過する区間82を出るポイント83で、鉄道車両を再加速させる。このようにして、乗心地仕様を超過する区間82では、乗心地仕様を満たす上限速度81a内で通過できる、一連の走行パターン81を生成することができる。
【0067】
以上より、第1の実施形態によれば、重回帰特性を用いて乗心地仕様を超過する軌道箇所を検出し、本箇所で速度を低減することで、乗心地仕様を満たすオペレーションが可能となる。適用の具体例としては、例えば、軌道が劣化した地点のみの重回帰特性を抽出して、乗心地仕様を満たすようにする等である。
【0068】
(第2の実施形態)
図8は、第2の実施形態の鉄道車両システムにおける鉄道車両の状態監視システム全体の構成例を示す図である。第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる点について主に説明し、同一の箇所には同一の符号を付してあり、特に説明がない部分は同じ説明を省略している。
【0069】
図8のシステム構成図のうち、
図1のシステム構成図に対する変更点について説明する。
【0070】
図8では、状態監視システム10’は車両情報取得部11のみから構成されている。車両情報取得部11は、鉄道車両Aの振動加速度センサ信号50aと鉄道車両Aの車両情報管理システム情報51aを入力する。そして、車両情報取得部11は、車両情報65aとして、走行パターン処理システム20へ出力する。
【0071】
図8では、走行パターン処理システム20’は、
図1の閾値超過情報記憶部21の代わりに車両情報記憶部26が車両情報65aを入力する。そして、車両情報記憶部26は重回帰特性抽出部22へ車両情報66aを出力するシステム構成とする。
【0072】
これらのような構成により、閾値超過区間のみ車両情報を収集するという、ある特定条件に限らず、全路線・全区間に亘って車両情報を収集する。ここで、全路線・全区間をある任意区間(たとえば、1km毎など)で整理した上で車両情報を収集してもよい。また、曲線区間や分岐器区間や橋梁区間といった特徴区間毎に車両情報を収集してもよい。
【0073】
なお、本システム構成とすることで、
図2で説明した状態監視システムのフロー図では、(閾値超過箇所だけでなく)常時、車両情報65aを走行パターン処理システム20側へ伝送すればよい。なお、
図3、
図4、
図5に示す、重回帰特性抽出フロー、走行パターン生成フロー、走行パターン要求システムのフローはそのまま適用する。
【0074】
図9は、
図8に示す走行パターン処理システムにおける走行パターン生成の一例を示す図である。
図9を用いて、走行パターン生成部25での走行パターン生成の一例を説明する。
【0075】
ここでは、ある駅間(S駅〜T駅)における走行距離と走行速度との関係を示したものである。鉄道車両は営業最高速度89以下において、所定のダイヤである走行パターン80で運行されるものとする。このとき、乗心地仕様を超過する区間82が存在する場合に、本区間82における上限速度81aを重回帰特性の抽出結果により決定する。これは、
図7で説明した方法と同様である。
【0076】
さらに、対象の駅間(S駅〜T駅)の全区間における重回帰特性を利用して、区間82での遅延を挽回する区間を算出する。例えば、走行パターン80に対して、区間85や区間86で乗心地仕様を満たす走行速度を上げることが把握できれば、本特性を基に、走行パターン81’を生成することができる。
【0077】
具体的に説明する。区間82、区間85、区間86の重回帰特性はそれぞれ異なる。ここで、同じ閾値(
図6の例では乗心地指標の仕様値72)に対して、乗心地仕様を満たす速度が、走行パターン80の速度よりも、区間85、区間86の方が高い場合、この速度を上限速度81b、81cとする。このことで、上限速度81b、81cを走行パターン80の速度よりも上げることができる。このようにして、走行パターン80に対して、乗心地仕様を満足できる範囲で、区間85と区間86で上限速度を上げ、区間82で上限速度を下げることができる。
【0078】
ここで、区間85から区間82へ減速するに際して、減速ポイント84’を鉄道車両の乗車率や車両長、区間82の手前区間の曲率や勾配、カントなどの軌道情報、天候情報から推定する。このとき、ブレーキを使わずに惰行状態で減速できるポイントを推定することで、無駄な消費電力を節約できる。次に、鉄道車両の最後尾が乗心地仕様を超過する区間82を出るポイント83’で、鉄道車両を再加速させる。
【0079】
以上より、第2の実施形態によれば、走行区間全体で重回帰特性を活用する。このことで、乗心地仕様を超過する軌道箇所を検出し、この箇所で速度を低減するだけでなく、走行速度を上げることができる区間も検出して走行パターンを生成する。これにより、所定の走行時間を満足しつつ乗心地仕様を満たすオペレーションが可能となる。
【0080】
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態における鉄道車両システムにける状態監視システム全体の構成例を示す図である。第3の実施形態では、第1の実施形態と異なる点について主に説明し、同一の箇所には同一の符号を付してあり、特に説明がない部分は同じ説明を省略している。
【0081】
図10のシステム構成図のうち、
図1のシステム構成図に対する変更点について説明する。
【0082】
走行パターン処理システム20’’は、新たに、軌道情報記憶部27と、解析モデル記憶部28が追加される。ここで、走行パターン処理システム20’’における重回帰特性抽出部22は、閾値超過情報57aを入力することに追加して、軌道情報記憶部27から軌道情報67aと、解析モデル記憶部28から解析モデル情報68aを入力するシステム構成とする。
【0083】
図11は、
図10に示す重回帰特性抽出のための解析モデルの一例を示す図である。
図11を用いて、重回帰特性抽出部22で適用する解析モデルと軌道情報を活用した重回帰特性抽出の一例を説明する。
図11において、鉄道車両の車種に応じて選定された車両運動を模擬する解析モデル93に対して、閾値超過情報が取得された区間の軌道情報90、車両速度91、乗車率92等を入力し、乗心地評価指標94を出力する。ここで、解析モデル93とは車体と台車の各要素モデル及び要素モデル間をバネ・ダンパ等で結合した物理モデルを意味する。解析モデル93は、モデルのパラメータと軌道入力から車両各部の振動加速度を出力するものである。本解析モデル93を基に、状態監視システム10で実際に取得された乗心地評価指標94と合致するように、解析モデル93のパラメータを調整する。この調整には、例えば多目的最適化に活用する遺伝的アルゴリズムなどを適用すればよい。
【0084】
図12は、
図11の解析モデル93による重回帰特性抽出の一例を示す図である。解析モデル93が適用できる場合、1つの車両情報70で、通過速度と乗心地指標の関係74が算出される。このとき、乗心地評価指標94が仕様値72内に収まる通過速度75を算出する。また、軌道情報が必ずしも得られるとは限らないため、軌道情報90と解析モデル93をパラメータとして、多目的最適化で最適値を調整しても良い。
【0085】
以上より、第3の実施形態によれば、解析モデルや軌道情報を活用することで、車両情報70のデータ数が少ない場合(
図12の例では1つ)でも、乗心地仕様を超過する軌道箇所を検出することができる。これにより、この箇所で乗心地仕様を満たすオペレーションを実現するまでの所要時間の短縮が可能となる。
【0086】
以上のように、第1の実施形態から第3の実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0087】
例えば、
図5では、走行パターンは、運転台7に表示させることを説明したが、走行パターンに基づいて、鉄道車両が自動走行するシステムでも適用することができる。
【0088】
また、
図8、10においても、例えば、各鉄道車両A、Bで状態監視システム10(10’)及び乗心地向上走行パターン要求システム30をいずれも搭載して、複数の鉄道車両同士で相互に利用できるようにすることもできる。また、複数(2以上)の鉄道車両に状態監視システム10を搭載し、閾値超過情報を収集するシステム構成としてもよい。
【0089】
また、振動加速度センサ5は、乗心地を検知するためのセンサであれば、これ以外のセンサも適用することができる。