(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6977227
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】パワートレインバックラッシュを除去するための制御システム
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20211125BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20211125BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20211125BHJP
B60K 7/00 20060101ALI20211125BHJP
B60K 1/02 20060101ALI20211125BHJP
B60W 10/10 20120101ALN20211125BHJP
B60W 20/17 20160101ALN20211125BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60K6/52ZHV
B60K6/54
B60K7/00
B60K1/02
B60L15/20 K
!B60W10/10 900
!B60W20/17
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-225337(P2019-225337)
(22)【出願日】2019年12月13日
(65)【公開番号】特開2020-115737(P2020-115737A)
(43)【公開日】2020年7月30日
【審査請求日】2020年2月5日
(31)【優先権主張番号】16/250,122
(32)【優先日】2019年1月17日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515301041
【氏名又は名称】アティエヴァ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−フィリップ ゴティエ
【審査官】
佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2018/0312078(US,A1)
【文献】
特開2007−106171(JP,A)
【文献】
特開2015−077834(JP,A)
【文献】
特開2017−093125(JP,A)
【文献】
国際公開第2018/229140(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00−58/40
B60K 6/20− 6/547
B60W 10/00−20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のパワートレインであって、前記第1のパワートレインが電気自動車(EV)を前進方向に推進するように構成され、前記第1のパワートレインが第1のモータを備える、第1のパワートレインと、
第2のパワートレインであって、前記第2のパワートレインが前記EVを後進方向に推進するように構成され、前記第2のパワートレインが第2のモータを備える、第2のパワートレインと、
前記第1のパワートレインおよび前記第2のパワートレインに結合された車両コントローラであって、前記車両コントローラが複数の前進トルク需要を前記第1のパワートレインに伝達するよう構成され、かつ複数の逆進トルク需要を前記第2のパワートレインに伝達するよう構成され、ギアを入れたEVの運転中に、前記車両コントローラが、前記第1のパワートレインに対する少なくとも最小の前進トルク需要を維持し、かつ前記第2のパワートレインに対する少なくとも最小の逆進トルク需要を維持し、前記最小の前進トルク需要はゼロより大きく、前記最小の逆進トルク需要はゼロより大きい、車両コントローラと、
前記車両コントローラに結合されたスロットルアセンブリであって、前記スロットルアセンブリは前記EVの運転者からトルク要求を受け取り、前記トルク要求を前記車両コントローラに伝達するよう構成され、前記トルク要求は一連の可能なトルク要求の中から選択され、前記一連の可能なトルク要求は一連の前進トルク要求および一連の逆進トルク要求を含む、スロットルアセンブリと、
を備え、前記トルク要求が前記一連の前進トルク要求から選択される前進トルク要求に対応する場合、前記車両コントローラが、現在の車両速度を予め設定された速度値と比較するとともに前記トルク要求を予め設定されたトルク値と比較し、前記現在の車両速度が前記予め設定された速度値を上回る又は前記トルク要求が前記予め設定されたトルク値を上回る場合、逆進トルク需要を前記第2のパワートレインに伝達することを一時的に停止し、前進トルク需要を前記第2のパワートレインに伝達するようさらに構成される、パワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項2】
ギアを入れたEVの運転中に前記EVを停止する場合、前記前進方向のEVの移動を防止し、かつ前記後進方向のEVの移動を防止するために、前記最小の前進トルク需要が前記最小の逆進トルク需要で相殺される、請求項1に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項3】
前記第1のパワートレインがさらに第3のモータを備える、請求項1または2に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項4】
前記第2のパワートレインがさらに第4のモータを備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項5】
前記車両コントローラが前記スロットルアセンブリから前記トルク要求を受け取る場合、前記車両コントローラが、対応するトルク需要を前記第1のパワートレインおよび前記第2のパワートレインのうち少なくとも1つに伝達し、前記対応するトルク需要は前記複数の前進トルク需要および前記複数の逆進トルク需要から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項6】
前記予め設定されたトルク値は、前記第1のパワートレインから得られる最大トルクに対応し、前記予め設定されたトルク値は、前記最大トルクより小さいトルク値である、請求項1から5のいずれか一項に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項7】
前記トルク要求が前記一連の逆進トルク要求から選択された逆進トルク要求に対応する場合、前記車両コントローラが、前記トルク要求を第2の予め設定されたトルク値と比較するよう構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項8】
前記トルク要求が前記第2の予め設定されたトルク値を上回る場合、前記車両コントローラが、前進トルク需要を前記第1のパワートレインに伝達することを一時的に停止し、逆進トルク需要を前記第1のパワートレインに伝達するよう構成される、請求項7に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項9】
前記第2の予め設定されたトルク値は、前記第2のパワートレインから得られる最大トルクに対応し、前記第2の予め設定されたトルク値は、前記最大トルクより小さいトルク値である、請求項7または8に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項10】
前記トルク要求が前記一連の逆進トルク要求から選択される逆進トルク要求に対応する場合、前記車両コントローラが、前記現在の車両速度を第2の予め設定された速度値と比較するよう構成される、請求項1から9のいずれか一項に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【請求項11】
前記現在の車両速度が前記第2の予め設定された速度値を上回る場合、前記車両コントローラが、前進トルク需要を前記第1のパワートレインに伝達することを一時的に停止し、逆進トルク需要を前記第1のパワートレインに伝達するよう構成される、請求項10に記載のパワートレインバックラッシュ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して電気自動車に関し、より詳細には、電気自動車のパワートレイン内の機械的なバックラッシュを除去するために構成される制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のパワートレイン内の構成要素は、車両のモータまたはエンジンによって生成される出力を車両のホイールに伝達する。たとえばトランスミッション、ドライブシャフト、ディファレンシャルなど、これらの構成要素の多くは、この動力伝達を実現するためにギアの配列を用いる。製造工程の制約、および様々な温度での動作を可能にするための、ある程度のクリアランスの必要性から、ギア間には通常バックラッシュと呼ばれるある程度の遊びがある。
図1は、2つのギア103と104との間のバックラッシュ101を例示する。典型的な電気モータの重さ、およびモータとホイールとの間の通常高い速度伝達比(たとえば、10:1)が原因で、電気自動車はこの問題を悪化させる。さらに、電気自動車が回生制動を用いるとすれば、正トルクと負トルクとの間の移行はより頻繁かつより激しい。
【0003】
車両のパワートレイン内のバックラッシュに関する主な懸念は、種々のギアの連携内のバックラッシュがトラバースする場合に、たとえば、加速と制動またはその逆の間で車がシフトする場合に生じる振動とノイズである。バックラッシュがトラバースするたびに、車両の運転者および乗員は、車の振動またはジャーク、つまりノイズを伴うことが多い、ギアの歯が互いに衝突するという感覚を感じる。
【0004】
車の設計者らは、この問題を克服するために種々の技法を用い、それによって、車両の乗員に、よりスムーズで不快感のない乗り心地を提供する。一般的に、これらの技法はパワートレインの個々の部材の間に介在する、ある種のメカニカルフィルタを用いる。たとえば、柔軟なゴムカップリングが車両のドライブシャフトとディファレンシャルとの間に介在してもよく、ゴムカップリングはパワートレインバックラッシュによって生じる振動の多くを吸収する。メカニカルフィルタに加えて、車の設計者らは、この同じ機能を実行するための種々のエンジン制御システムも用いるが、制御システムはバックラッシュを推定し、次にその影響を最小にするためにフィードバックシステムを用いる。しかし、フィルタリング技法は、パワートレインバックラッシュの影響を確かに低下させる一方、それらはパワートレインの応答性も低下させる。したがって、必要とされているのは、車両の応答性を低下させることなく、パワートレインバックラッシュの影響を、全て除去しないとしても最小化するシステムである。本発明はそのような制御システムを提供する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は電気自動車(EV)のためのパワートレインバックラッシュ制御システムを提供し、制御システムは(i)1つまたは複数のモータを含み、かつEVを前進方向に推進するように構成される第1のパワートレインと、(ii)1つまたは複数のモータを含み、かつEVを後進方向に推進するように構成される第2のパワートレインと、(iii)第1のパワートレインおよび第2のパワートレインに結合された車両コントローラであって、車両コントローラが複数の前進トルク需要を第1のパワートレインに伝達し、かつ複数の逆進トルク需要を第2のパワートレインに伝達するよう構成され、ギアを入れたEVの運転中に、車両コントローラが、第1のパワートレインに対する少なくとも最小の前進トルク需要を維持し、かつ第2のパワートレインに対する少なくとも最小の逆進トルク需要を維持し、最小の前進トルク需要はゼロより大きく、最小の逆進トルク需要はゼロより大きい、車両コントローラとを含む。ギアを入れたEVの運転中にEVを停止する場合、最小の前進トルク需要は最小の逆進トルク需要で相殺され、それによって前進方向または後進方向のEVの移動が防止される。
【0006】
1つの態様では、制御システムはさらに、車両コントローラに結合されたスロットルアセンブリを含んでもよい。スロットルアセンブリはEVの運転者からトルク要求を受け取り、トルク要求を車両コントローラに伝達するよう構成され、トルク要求は一連の前進トルク要求および一連の逆進トルク要求を含む一連の可能なトルク要求の中から選択される。トルク要求を受け取った後、車両コントローラは、対応するトルク需要を第1のパワートレインおよび第2のパワートレインのうち少なくとも1つに伝達し、対応するトルク需要は複数の前進トルク需要および複数の逆進トルク需要から選択される。
【0007】
別の態様では、トルク要求が前進トルク要求に対応する場合、車両コントローラが、トルク要求を予め設定された値と比較するよう構成されてもよい。トルク要求が予め設定された値を上回る場合、車両コントローラが、逆進トルク需要を第2のパワートレインに伝達することを一時的に停止し、前進トルク需要を第2のパワートレインに伝達するよう構成されてもよい。同様に、トルク要求が後進トルク要求に対応する場合、車両コントローラが、トルク要求を第2の予め設定された値と比較するよう構成されてもよい。トルク要求が第2の予め設定された値を上回る場合、車両コントローラが、前進トルク需要を第1のパワートレインに伝達することを一時的に停止し、逆進トルク需要を第1のパワートレインに伝達するよう構成されてもよい。予め設定された値は、第1のパワートレインから得られる最大トルクに対応してもよい。第2の予め設定された値は、第2のパワートレインから得られる最大トルクに対応してもよい。
【0008】
別の態様では、トルク要求が前進トルク要求に対応する場合、車両コントローラが、現在の車両速度を予め設定された値と比較するよう構成されてもよい。現在の車両速度が予め設定された値を上回る場合、車両コントローラが、逆進トルク需要を第2のパワートレインに伝達することを一時的に停止し、前進トルク需要を第2のパワートレインに伝達するよう構成されてもよい。同様に、トルク要求が後進トルク要求に対応する場合、車両コントローラが、現在の車両速度を第2の予め設定された値と比較するよう構成されてもよい。現在の車両速度が第2の予め設定された値を上回る場合、車両コントローラが、前進トルク需要を第1のパワートレインに伝達することを一時的に停止し、逆進トルク需要を第1のパワートレインに伝達するよう構成されてもよい。
【0009】
本発明の性質及び利点のさらなる理解は、本明細書の残りの部分および図面を参照することによって実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
添付の図は、本発明の範囲を限定することではなく、例示することのみを意図しており、正確な縮尺であると見なされるべきではないことを理解されたい。さらに、異なる図上の同じ参照ラベルは、同じ構成要素または同様の機能を有する構成要素を指すと理解されたい。
【0011】
【
図1】2つのギアの間のバックラッシュを例示しており、ここでは各ギアの一部のみが示されている。
【0012】
【
図2】2つのモータを備えるEVにおける本発明の好適な実施形態を例示する。
【0013】
【
図3】車両の各モータによって印加されるトルクの方向以外は、
図2に示される実施形態と同様の実施形態を例示する。
【0014】
【
図4A】本発明を仮想の駆動サイクルを用いて例示し、アクセルペダル踏み込みを図示する。
【
図4B】本発明を仮想の駆動サイクルを用いて例示し、車両速度を図示する。
【
図4C】本発明を仮想の駆動サイクルを用いて例示し、モータトルクを図示する。
【0015】
【
図5】2つではなく3つのモータが使われている以外は、
図2および
図3に示される実施形態と同様の実施形態を例示する。
【0016】
【
図6】2つではなく4つのモータが使われている以外は、
図2および
図3に示される実施形態と同様の実施形態を例示する。
【0017】
【
図7A】システム変更形態を仮想の駆動サイクルを用いて例示し、アクセルペダル踏み込みを図示する。
【
図7B】システム変更形態を仮想の駆動サイクルを用いて例示し、車両速度を図示する
【
図7C】システム変更形態を仮想の駆動サイクルを用いて例示し、モータトルクを図示する
【0018】
【
図8A】システム変更形態を仮想の駆動サイクルを用いて例示し、車両速度を図示する。
【
図8B】システム変更形態を仮想の駆動サイクルを用いて例示し、モータトルクを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で使用されるとき、単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、および「the(その)」は、文脈が明らかに他の意味を指示していない限り、複数形も含むことが企図されている。本明細書で使用されるとき、「comprise(備える)」、「comprising(備える)」、「include(含む)」、および/または「including(含む)」という用語は、記載された特徴、整数、段階、動作、要素、および/または構成要素の存在を明示するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、段階、動作、要素、構成要素、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。本明細書で使用されるとき、「および/または」という用語および「/」という記号は、関連づけられ列挙された項目のうち1つまたは複数のいかなる組合せおよび全ての組合せを含むことを意図している。さらに、第1、第2などの用語は、本明細書で様々な段階または計算を説明するために使用され得るが、これらの段階または計算はこれらの用語によって制限されてはならず、これらの用語は、ある段階または計算を別のものから区別するためにのみ使用される。たとえば、全て本開示の範囲から逸脱することなく、第1の計算は第2の計算と称され得るし、同様に第1の段階は第2の段階と称され得るし、同様に第1の構成要素は第2の構成要素と称され得る。本明細書で使用されるとき、「バッテリパック」という用語は、所望の電圧および容量を実現するために電気的に相互接続された1つまたは複数のバッテリを指す。「電気自動車」および「EV」という用語は互換的に使用される場合があり、かつ完全電気自動車、PHEVとも呼ばれるプラグインハイブリッド自動車、またはHEVとも呼ばれるハイブリッド自動車を指す場合があり、ハイブリッド自動車は電気駆動システムを含む複数の推進源を用いる。本明細書で使用されるとき、「前進トルク」は走行の前進方向に印加されるトルクを指し、「逆進トルク」は走行の後進方向に印加されるトルクを指す。したがって、車が前進方向に走行している場合、前進トルクは車の前進運動を促進し維持するモータトルクを指し、一方、逆進トルクは車を減速または逆方向に走行させるために反対方向に印加されるモータトルクを指す。さらに、EVにおいて、逆進トルクは、車両の前進走行を減速するために回生制動を介して印加されてもよく、前進トルクは、車両の後進走行を減速するために回生制動を介して印加されてもよい。
【0020】
本発明によれば、特定のパワートレイン内でモータトルクを常に同じ方向に維持することによって、パワートレインバックラッシュは除去される。前進方向および後進方向の両方に走行手段を提供することが必要な車両に適用される場合、本発明は、車両を前進方向に推進するための1つのパワートレインと、車両を後進方向に推進するための1つのパワートレインという、少なくとも2つのパワートレインを含むEVに限定されることに留意されたい。
【0021】
図2は、好適な実施形態の実装を模式的に例示する。図示の通り、EV200は第1のモータ201および第1のトランスミッション203、ならびに第2のモータ205および第2のトランスミッション207を含んでいる。モータ201/トランスミッション203はトルクをホイール209およびホイール210に提供し、モータ205/トランスミッション207はトルクをホイール211およびホイール212に提供する。
【0022】
前述のパワートレインバックラッシュの問題を除去するために、モータ201とトランスミッション203は前進トルクのみを提供し、それによって車両200を方向213に推進する。同様に、モータ205およびトランスミッション207は逆進トルクのみを提供し、それによって車両200を方向215に推進する。バックラッシュを防止するために、モータ201は常に前進トルクを提供する一方、モータ205は常に逆進トルクを提供する。どちらかのモータによって印加されるトルクの量は、運転者の所望の走行方向次第である。たとえば、運転者が前進方向、すなわち方向213に加速している場合、大きな前進トルクがモータ201によって生成される。同時に、小さな逆進トルクがモータ205によって生成される。モータ205によって生成される逆進トルクの量は、運転者が減速または方向転換を所望する場合、そのパワートレインに確実にバックラッシュがないようにするのには十分であるものの、前進車両走行および全体的な車両効率には比較的わずかな影響しか及ぼさないほど少量である。運転者が減速する決定をした場合、車両が摩擦制動に加えてまたは摩擦制動の代わりに回生制動を使うと想定すると、モータ201によって生成される前進トルクは低下し、モータ205によって生成される逆進トルクは増大する。同様に、運転者が後進方向、すなわち方向215に走行することを所望する場合、大きな逆進トルクがモータ205によって生成され、同時に小さな前進トルクがモータ201によって生成される。上述の例のように、モータ201によって生成される前進トルクの量は、そのパワートレインに確実にバックラッシュがないようにするのには十分であるものの、後進車両走行および全体的な車両効率には比較的わずかな影響しか及ぼさないほど少量である。車両が静止しており、かつギアが入っている(すなわち、駐車している状態と逆である)場合、少量の前進トルクがモータ201によって生成され、かつ少量の逆進トルクがモータ205によって生成され、前進トルクの量は、前進車両走行を生じさせるほど大きくなることなく、モータ205によって生成される逆進トルクを無効にするのに十分であることに留意されたい。同様に、逆進トルクの量は、後進車両走行を生じさせるほど大きくなることなく、モータ201によって生成される前進トルクを無効にするのに十分である。
【0023】
上述の例において、モータ201のみが前進トルクを提供し、モータ205のみが逆進トルクを提供する。モータ201が逆進トルクを生成する(すなわち、方向215に車両走行を生じさせる)ことのみに使われ、かつモータ205が前進トルクを生成する(すなわち、方向213に車両走行を生じさせる)ことのみに使われる場合、同じ利点が得られることを理解されたい。
図3に示される車両300は、この構成を例示する。
【0024】
図4Aから
図4Cは、本発明を仮想の駆動サイクルを用いて例示する。本例の駆動サイクルは、具体的には、(i)車両が停止(領域401)、(ii)車両が前進方向に加速(領域402)、(iii)車両が回生制動を用いて減速(領域403)、(iv)車両が停止(領域404)、(v)車両が後進方向に加速(領域405)、(vi)車両が回生制動を用いて減速(領域406)、(vii)車両が停止(領域407)という、7つの期間に分割される。
図4Aはアクセルペダルの踏み込みを図示し、アクセルペダルは、完全な踏み込み(すなわち、100%踏み込み)と完全な解放(すなわち、0%踏み込み)との間の運動範囲を有する。
図4Bは車両速度を図示し、前進車両運動が正の値として示され、後進車両運動が負の値として示される。
図4Cはモータトルクを図示し、前進トルクが正の値(実線411)として示され、逆進トルクが負の値(破線413)として示される。本発明を用いると、前進トルクは正のままであり、かつ逆進トルクは負のままであるため、モータが正負を変える(すなわち、前進トルクから逆進トルクに、または逆進トルクから前進トルクに移行する)場合に生じるバックラッシュを除去する。
【0025】
図2に例示する実施形態の使用を想定すると、この仮想の駆動サイクルにおける前進トルクはモータ201によって生成され、逆進トルクはモータ205によって生成される。
図3に例示する実施形態の使用を想定すると、この仮想の駆動サイクルにおける前進トルクはモータ205によって生成され、逆進トルクはモータ201によって生成される。
図4Aから
図4Cで提供された例において、第2の期間(領域402)の間、車は継続的に加速している、すなわち、車は一定速度に到達することがないことに留意されたい。同様に、第5の期間(領域405)の間、車は継続的に後進方向に加速している、すなわち、車は一定速度に到達することがない。
【0026】
上記で提供された本発明の例示は2つのモータ、すなわち、前進トルクを提供するモータ1つと逆進トルクを提供するモータ1つとを用いるが、上述の通り、本発明は2つを超えるモータを用いるEVにも同様に適用できる。たとえば、
図5に例示する実施形態では、車両500を方向505に推進するために、2つのモータ501および502がトルク(たとえば、前進トルク)をホイール503およびホイール504に提供する。本実施形態では、車両500を方向511に推進するために、単一のモータ507がトルク(たとえば、逆進トルク)をホイール509およびホイール510に提供する。さらに別の例では、車両600(
図6)は、車両600を方向605に推進するためにトルク(たとえば、前進トルク)をホイール603およびホイール604に提供する2つのモータ601および602と、車両600を方向611に推進するためにトルク(たとえば、逆進トルク)をホイール609およびホイール610に提供する2つのモータ607および608とを用いる。
【0027】
上述の手法はパワートレインバックラッシュを除去し、したがって、パワートレインバックラッシュに通常伴うギクシャク感またはノイズを除去する。しかし、各モータが、車両の別のモータによって生成されるトルクと逆のトルクを継続的に印加するので、車両のパワートレイン効率が低下する。パワートレインバックラッシュを除去するために、ほんの少量のトルクが生成されなけらばならないとすれば、その低下の程度は微小であるが、少量の低下であっても状況によっては望ましくない場合があることが理解されるであろう。少なくとも1つのモータが少なくとも1つの他のモータによって生成されるトルクと逆のトルクを生成することに起因した効率の損失に加えて、上述の手法はEVの複合モータ能力を十分に生かしていない。2つのモータを有するEVでは明らかに、両方のモータが互いに逆に動作するのではなく、一致して動作している場合、さらなる加速および最高速度が実現され得る。こうした制約を克服するために、発明者は上記のシステムにいくつかの変更形態を想定している。
【0028】
上述のシステムの1つの変更形態において、車両のシステムコントローラが、運転者によって要求されるトルク需要(Td)を監視する。トルク需要は、運転者がアクセル(スロットルとも呼ばれる)を踏み込むことによって、または別の方法でアクセルを利かすことによって要求される。通常の状態では、上述のように、運転者がトルク需要を増大させるにつれて、要求方向のトルク(すなわち、前進トルクまたは逆進トルクのいずれか)を生成するモータは生成トルクを増大させ、一方、反対方向のトルク(すなわち、逆進トルクまたは前進トルクのいずれか)を生成するモータは最小のトルクを生成し、それによってパワートレインバックラッシュを除去する。しかし、この変更手法では、要求方向のトルクを生成するモータによって生成され得るトルクを上回るトルクを運転者が要求する場合、反対方向のトルクを生成するのに使われるモータは、要求方向に追加のトルクを提供する。たとえば、
図2に例示される2モータ構成を想定すると、運転者が前進運動を(すなわち、車を前進ギアに入れることによって)要求し、モータ201によって生成される最大トルク(TP−max)によってトルク需要(Td)が満たされ得ない程度までアクセルを踏み込む(または別の方法でスロットル217を作動させる)と、変更システムでは、車両コントローラ219は、追加の前進トルクを生成するためにモータ205を用いる。つまり、TdがTP−maxより大きければ、車両コントローラは、トルク需要を満たすためにモータ201およびモータ205の両方を用いる。
【0029】
上記の変更システムでは、システムコントローラ219が、TP−maxとではなく予め設定された値とTdを比較するよう構成され得ることを理解されたい。たとえば、システムコントローラ210は、TP−maxの90%であるトルク値とTdを比較するよう構成され得るので、パワートレインを不必要なストレス下に置くことが回避される。
【0030】
図7Aから
図7Cは、変更されたシステムを仮想の駆動サイクルを用いて例示する。本例の駆動サイクルは、具体的には、(i)車両が停止(領域701)、(ii)車両が前進方向に徐々に加速(領域702)、(iii)車両が定速を維持(領域703)、(iv)車両が回生制動を用いて減速(領域704)、(v)車両が停止(領域705)、(vi)車両が前進方向に急速に加速(領域706)、(vii)車両が回生制動を用いて減速(領域707)、(viii)車両が停止(領域708)という、8つの期間に分割される。
図7Aは、アクセルペダルの踏み込みを図示する。
図7Bは、車両速度を図示する。
図7Cはモータトルクを図示し、主に前進トルクのために使われるモータによって提供されるトルクが実線711で示され、主に逆進トルクのために使われるモータによって提供されるトルクが破線713で示される。運転者がアクセルペダルを床まで踏み込むこと(たとえば、100%のペダル踏み込み)によって急速な加速を求めている期間706の間に、線713は短時間、負の値(逆進トルク)から正の値(前進トルク)に切り替わることに留意されたい。したがって、前進トルクパワートレインおよび逆進トルクパワートレインの両方が、短期間、前進トルクを車両に供給する。前進トルク(Td)に対する需要が前進トルクパワートレインから得られる最大トルク(TP−max)または予め設定されたトルク値を下回ると、逆進トルクパワートレインは図示の通り負のトルク値に再度切り替わる。
【0031】
本発明のシステムの別の変更形態では、車両のシステムコントローラが車両速度を監視する。低速運転の間、車両は、前進運動を提供するパワートレインに対して前進トルクを、かつ後進運動を提供するパワートレインに対して逆進トルクを維持し、それによってパワートレインバックラッシュを除去する。したがって、パワートレインバックラッシュが最も顕著である車両の低速運転の間、システムは、最初の説明および
図4Aから
図4Cの例示の通りに動作する。予め設定した速度、たとえば30mphに到達すると、車両コントローラ219は、同じ方向のトルクを生成するために、全てのEVのパワートレイン(すなわち、前進トルクパワートレインおよび逆進トルクパワートレイン)が一致して動作する通常のパワートレイン動作に戻る。この方法による動作は車両速度が予め設定された速度を下回るまで続き、それからシステムは本発明のシステムに戻り、前進トルクを提供するパワートレインに対し前進トルクを維持し、逆進トルクを提供するパワートレインに対し後進トルクを維持することによってバックラッシュが除去される。
【0032】
図8Aおよび
図8Bは、速度感応型の変更されたシステムを仮想の駆動サイクルを用いて例示する。本例示において、予め設定された速度は、約30mphに設定されているとする。
図8Aは車両速度を図示し、
図8Bはモータトルクを図示し、主に前進トルクのために使われるパワートレインによって提供されるトルクが実線817で示され、主に逆進トルクのために使われるパワートレインによって提供されるトルクが破線819で示される。本例の駆動サイクルは、具体的には(i)車両が停止(領域801)、(ii)車両が前進方向に徐々に加速(領域802)、(iii)車両が約15mphの定速を維持(領域803)、(iv)車両が回生制動を用いて減速(領域804)、(v)車両が停止(領域805)、(vi)車両が後進方向に徐々に加速(領域806)、(vii)車両が約10mphの後進方向の定速を維持(領域807)、(viii)車両が回生制動を用いて減速(領域808)、(ix)車両が停止(領域809)、(x)車両が徐々に約70mphに加速(領域810)、(xi)車両が約70mphの定速を維持(領域811)、(xii)車両が約15mphに減速(領域812)、(xiii)車両が約15mphの前進方向の定速を維持(領域813)、(xiv)車両が回生制動を用いて減速(領域814)、(xv)車両が停止(領域815)という、15個の期間に分割される。車両が0mphから70mphに徐々に加速する期間810の間、前進トルクは最初、前進パワートレインによってのみ提供されることに留意されたい。速度が、予め設定された速度(たとえば、30mph)を超えた後、前進トルクは逆進パワートレインによっても提供される。車が70mphで定速走行している期間811の間、前進トルクパワートレインおよび逆進トルクパワートレインの両方が前進トルクを提供する。車両が減速期間812の間に15mphに減速すると、逆進トルクパワートレインが回生制動を提供する。その後、車両が定速15mphで走行しているとき(領域813)、前進トルクパワートレインのみがトルクを提供する。
【0033】
本明細書中、(i)EVの前進トルクパワートレインおよび逆進トルクパワートレインが一致して動作するときを決定するためにトルク需要が用いられる、および(ii)EVの前進トルクパワートレインおよび逆進トルクパワートレインが一致して動作するときを決定するために車両速度が用いられる、という別々の例が変更されたシステムに対し提供されているが、発明者は明らかに、これらの変更形態の両方が単一のシステムに統合されるシステムを想定していることを理解されたい。そのようなシステムにおいては、通常の動作において、すなわちトルク需要Tdが予め設定されたトルク値(たとえば、TP−max)を上回らず、かつ車両速度が予め設定された値(たとえば、30mph)を上回らない場合、パワートレインバックラッシュを除去するために、前進トルクが前進トルクパワートレイン内で維持され、逆進トルクが逆進トルクパワートレイン内で維持される。トルク需要が予め設定されたトルク値を上回るまたは車両速度が予め設定された値を上回る場合はいつでも、所望の方向のトルクを生成するため、前進トルクパワートレインおよび逆進トルクパワートレインの両方が一緒に動作する。
【0034】
特定のパワートレインのトルク値は、当該のパワートレインの詳細(たとえば、モータ特性など)次第であるので、
図4Aから
図4C、
図7Aから
図7C図、および
図8A/8Bに示される例示的な駆動サイクルで提供されたトルク値は、本発明を制限することではなく、例示することのみが企図されていることを理解されたい。
【0035】
システムおよび方法が、本発明の詳細を理解するための一助として一般的な用語で説明されてきた。一部の例においては、本発明の態様を曖昧にすることを回避するために、周知の構造、材料、および/または動作は具体的に示されていないか、詳細に説明されていない。他の例においては、本発明の完全な理解を提供するために、具体的な詳細が示されている。当業者は、本発明がその精神と本質的な特徴から逸脱することなく、たとえば特定のシステム、装置、状況、材料、構成要素に適合するため、他の特定の形態でも実施され得ることを理解するであろう。したがって、本明細書の開示や説明は、本発明の範囲を制限することではなく、例示することを企図されている。