【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物 :2017年ソサイエティ大会講演論文集 発行日 :平成29年8月29日 集会名 :2017年電子情報通信学会ソサイエティ大会 開催日 :平成29年9月13日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。本実施形態に係るアンテナ装置1は、以下の説明の通り、第1周波数f1と第2周波数f2の所定の2つの周波数の電波を送受信可能に構成されている。第2周波数f2は、第1周波数f1とは独立した周波数である。換言すれば第2周波数f2は、第1周波数f1とは無関係に設定可能な任意の値に設定されている。ここでは一例として第1周波数f1は1.58GHzに設定されており、第2周波数f2は3.78GHzに設定されている。送受信の対象とする2つの周波数のうち、相対的に低いほうが第1周波数f1に該当する。
【0022】
もちろん、送受信の対象とする電波(以降、対象電波)は適宜設計されれば良く、他の態様として例えば760MHzや、900MHz、1.17GHz、1.28GHz、1.55GHz、5.9GHz等の電波としてもよい。当該アンテナ装置1は、送信と受信の何れか一方のみに供されても良い。電波の送受信には可逆性があるため、或る周波数の電波を送信可能な構成は、当該周波数の電波を受信可能な構成でもある。第1周波数の電波を送受信可能な構成には、第1周波数の電波の送信のみを行う構成や、受信のみを行う構成も含まれるものとする。第2周波数の電波を送受信可能な構成についても同様とする。
【0023】
このアンテナ装置1は、例えば同軸ケーブルを介して図示しない無線機と接続されており、アンテナ装置1が受信した信号は逐次無線機に出力される。また、アンテナ装置1は無線機から入力される電気信号を電波に変換して空間に放射する。無線機は、アンテナ装置1が受信した信号を利用するとともに、当該アンテナ装置1に対して送信信号に応じた高周波電力を供給するものである。
【0024】
なお、本実施形態ではアンテナ装置1と無線機とを同軸ケーブルで接続する場合を想定して説明するが、他の態様としてフィーダ線など、その他の通信ケーブル(ワイヤ等を含む)を用いて接続しても良い。また、アンテナ装置1と無線機とは、同軸ケーブルのほかに、整合回路やフィルタ回路などを介して接続される構成となっていても良い。
【0025】
<アンテナ装置1の構成>
以下、アンテナ装置1の具体的な構成について述べる。
図1は、本実施形態に係るアンテナ装置1の概略的な構成の一例を示す外観斜視図である。また、アンテナ装置1の上面図を
図2に示す。
図3は、
図2に示すIII−III線におけるアンテナ装置1の断面図である。
【0026】
アンテナ装置1は、
図1〜
図3に示すように、地板10、支持部30、パッチ部20、第1短絡部40、第2短絡部50、及び給電線路60を備える。便宜上以降では、地板10に対してパッチ部20が設けられている側を、アンテナ装置1にとっての上側として各部の説明を行う。
【0027】
地板10は、銅などの導体を素材とする板状の導電部材である。ここでの板状には、箔のような薄膜状も含まれる。つまり、地板10はプリント配線板等の樹脂製の板の表面にパターン形成されたものでもよい。この地板10は、同軸ケーブルの外部導体と電気的に接続されて、アンテナ装置1におけるグランド電位(換言すれば接地電位)を提供する。地板10はパッチ部20以上の大きさを有するように形成されていればよい。
【0028】
また、地板10を上側から見た形状(以降、平面形状)は適宜設計されればよい。ここでは一例として地板10の平面形状を長方形状とするが、他の態様として地板10の平面形状は、六角形などその他の多角形状であってもよい。また、円形状であってもよい。もちろん、直線部分と曲線部分とを組み合わせた形状であってもよい。
【0029】
パッチ部20は、銅などの導体を素材とする板状の部材である。パッチ部20は、正六角形状に形成されている。パッチ部20は、後述する支持部30を介して地板10と平行となるように対向配置されている。パッチ部20の板状には箔のような薄膜状も含まれる。つまり、パッチ部20はプリント配線板等の、樹脂製の板の表面に導体パターン形成されたものでもよい。また、ここでの平行とは完全な平行に限らない。数度から十度程度傾いていても良い。つまり概ね平行である状態(いわゆる略平行な状態)を含みうる。
【0030】
パッチ部20と地板10とは、互いに対向配置されることで、パッチ部20の面積や、パッチ部20と地板10との間隔に応じた静電容量を形成する。パッチ部20の面積は、例えば、アンテナ装置1として要求されているサイズに応じて適宜設計されればよい。なお、ここでは一例としてパッチ部20の形状は正六角形とするが、その他の構成として、パッチ部20の平面形状は、円形や、正八角形、正方形、正三角形などであってもよい。また、パッチ部20の縁部は、部分的に又は全体的にミアンダ形状に設定されていても良い。さらに、パッチ部20は縁部に切欠きが設けられたり、角部を丸められたりしていても良い。
【0031】
支持部30は、地板10に対するパッチ部20の位置及び姿勢を支持するための部材である。ここでは一例として支持部30は、樹脂などの電気絶縁材料を素材とする、所定の高さを備える板状の部材とする。支持部30により地板10とパッチ部20とは所定の間隔をおいて互いに対向した状態が保持される。支持部30の高さ(換言すれば厚み)は適宜設計されればよい。便宜上、支持部30において、パッチ部20が配置される面を上面、地板10が配置される面を下面と称する。
【0032】
なお、支持部30は前述の役割を果たせればよく、支持部30の形状は板状に限らない。支持部30は、地板10とパッチ部20とを所定の間隔をおいて対向するように支持する複数の柱であってもよい。また、本実施形態において地板10とパッチ部20の間は、樹脂(すなわち支持部30)で充填される構成としているが、これに限らない。地板10とパッチ部20の間は、中空や真空となっていてもよいし、所定の誘電比率を有する誘電体で充填されていても良い。さらに、以上で例示した構造が組み合わさっていてもよい。なお、アンテナ装置1がプリント配線板を用いて実現される場合には、プリント配線板が備える複数の導体層を、地板10や、パッチ部20として利用するとともに、導体層を隔てる樹脂層を支持部30として利用してもよい。
【0033】
第1短絡部40は、パッチ部20と地板10と電気的に接続する構成である。第1短絡部40は、パッチ部20と地板10とを電気的に接続する複数の第1導電素子41を備える。複数の第1導電素子41のそれぞれは、高さ方向の長さに対して相対的に径が小さい(つまり細い)円柱状の導電部材である。第1導電素子41は導電性のピン(以降、導電ピン)を用いて実現することができる。つまり、ここでの円柱状には針状も含まれる。第1導電素子41の一端は地板10と接続されており、他端はパッチ部20と接続されている。なお、プリント配線板を用いてアンテナ装置1を実現する場合には、プリント配線板が備えるビアを第1導電素子41として利用可能である。第1導電素子41は、円柱状である必要はなく、角柱状であってもよい。また、断面形状が半円や扇型となる柱状であってもよい。
【0034】
複数の第1導電素子41は、
図4等に示すように、パッチ部20の中心(以降、パッチ中心点21)からの距離が所定の第1距離R1となる円周上に等間隔で配置されている。つまり、複数の第1導電素子41は、パッチ中心点21を中心とする半径R1の円周上に均等配置されている。パッチ中心点21は、パッチ部20の重心に相当する。特に、本実施形態におけるパッチ中心点21とは、正六角形を形成する各頂点からの距離が等しい点に相当する。なお、複数の第1導電素子41が設けられる円の中心は、厳密にパッチ中心点21(換言すればパッチ部20の重心)と一致している必要はない。指向性の偏りが所定の許容範囲に収まる限りにおいて、複数の第1導電素子41が設けられる円の中心はパッチ中心点21からずれていてもよい。
【0035】
また、第1導電素子41同士の間隔は厳密に等間隔である必要はない。指向性の偏りが所定の許容範囲に収まる限りにおいて不均一であってもよい。つまり、ここでの等間隔という表現には略等間隔も含めることができる。「実質的に等間隔」という表現には上記のように略等間隔に配置された態様も含まれる。複数の第1導電素子41は、半径R1の円周上に、全体としてバランス良く配置されていれば良い。
【0036】
便宜上以降では、第1導電素子41が円周上に配される半径R1の円のことを内側円とも称する。内側円は本実施形態においてはパッチ中心点21を中心とする半径R1の円に相当する。また、ここでは地板10においてパッチ中心点21と対向する点(以降、地板中心点)と、パッチ中心点21とを通る直線を、アンテナ中心軸Axと称する。地板中心点はパッチ中心点21から地板10に下ろした垂線の足に相当する。また、アンテナ中心軸Axと直交する平面のことを便宜上、アンテナ水平面と称する。アンテナ水平面は、パッチ部20や地板10と平行な平面に相当する。
【0037】
複数の第1導電素子41はそれぞれ地板10に対して直立する姿勢で(換言すればアンテナ中心軸Axに対して平行に)配置されている。第1短絡部40が備える第1導電素子41の数(以降、第1素子数)Mは適宜設計されればよい。第1素子数Mは、第1短絡部40を形成する第1導電素子41の数に相当する。ここでは一例として第1素子数Mは12に設定されているものとする。なお、第1素子数Mは、半径R1に相当する大きな径φe1を有する1つのビアであってもよい。そのような構成においても並列共振は生じうる。
【0038】
各第1導電素子41の径φe1は、適宜設計されればよい。個々の第1導電素子41は、その高さ方向の長さ及び径φe1に応じたインダクタンスを提供する。径φe1が大きいほど、第1導電素子41が提供するインダクタンスの値は小さくなる。便宜上、個々の第1導電素子41が備えるインダクタンスをLe1とする。
【0039】
ところで、内側円周上に配置された複数の第1導電素子41は、
図4に示すように、第1距離R1に応じた径φ1を有する1つの円柱状の導電部材(以降、円柱状導電体)として振る舞う。つまり、第1短絡部40は、円柱の中心がアンテナ中心軸Axと重なるように配置された1つの円柱状導電体と見なすことができる。さらに別の観点によれば、第1短絡部40はパッチ部20の中央領域と地板10とを接続する1つの円柱状導電体に相当する。便宜上、1つの円柱状導電体としての第1短絡部40が提供するインダクタンスL1のことを第1等価インダクタンスL1と称する。
【0040】
発明者らは、第1距離R1や第1素子数M、第1導電素子41の径φe1が第1等価インダクタンスL1に与える影響を試験した結果、第1等価インダクタンスは、主として第1距離R1によって定まるといった知見を得た。つまり、第1等価インダクタンスL1を決める支配的な要素は、第1距離R1である。第1距離R1を長くするほど、第1短絡部40は、径φ1が大きい円柱状導電体として振る舞う。つまり、第1距離R1を長くするほど、第1等価インダクタンスL1は小さい値となる。
【0041】
内側円の半径として機能する第1距離R1は、第1等価インダクタンスL1が、パッチ部20が提供する静電容量と第1周波数f1において並列共振する値となるように設定されている。第1等価インダクタンスL1の調整は、第1距離R1の調整によって実現されればよい。なお、第1等価インダクタンスL1を調整するためのパラメータとして補足的に第1素子数Mや第1導電素子41の径を採用しても良い。
【0042】
第2短絡部50は、パッチ部20と地板10とを電気的に接続するための構成である。第2短絡部50は、第1短絡部40と同様に、円柱状の導電部材である第2導電素子51を複数備える。第2導電素子51もまた、導電性のピン(以降、導電ピン)を用いて実現することができる。プリント配線板を用いてアンテナ装置1を実現する場合には、プリント配線板が備えるビアを第2導電素子51として利用可能である。
【0043】
複数の第2導電素子51は、
図5等に示すように、パッチ中心点21からの距離が所定の第2距離R2となる円周上に等間隔で配置されている。つまり、複数の第2導電素子51は、パッチ中心点21を中心とする半径R2の円周上に均等配置されている。便宜上以降では、パッチ中心点21を中心とする半径R2の円のことを外側円とも称する。なお、第2導電素子51同士の間隔は、第1導電素子41の配置態様と同様に、厳密に等間隔である必要はない。複数の第2導電素子51は、半径R2の円周上に、全体としてバランス良く配置されていれば良い。外側円や内側円は真円であることが好ましいが、外側円や内側円は指向性の偏りが許容レベルに収まる範囲において楕円であってもよい。ここでの円形には楕円形も含めることができる。
【0044】
複数の第2導電素子51はそれぞれ地板10に対して直立する姿勢で(換言すればアンテナ中心軸Axに対して平行に)配置されている。第2短絡部50が備える第2導電素子51の数(以降、第2素子数)Nは適宜設計されればよい。ここでは一例として第2素子数Nは、第1導電素子と同数の12に設定されているものとする。尚、他の態様として第2素子数Nは第1素子数Mよりも少なくても良い。例えば第2素子数Nは6や10であってもよい。また、第2素子数Nは2であってもよい。第2素子数Nが2である場合も別途後述する動作原理に従って並列共振は生じうる。ただし第2素子数N=2の場合、磁界が第2導電素子51の周囲に集中し、放射パターンが楕円状となる。故に、放射パターンを無指向性とする観点では、第2素子数Nは3以上とすることが好ましい。一方、指向性の偏りを許容する場合には第2素子数Nは2であってもよい。また、第2素子数Nは第1素子数Mよりも多くても良い。例えば第2素子数Nは14や18であっても良い。
【0045】
各第2導電素子51の径φe2もまた、適宜設計されればよい。個々の第2導電素子51は、その高さ方向の長さ及び径φe2に応じたインダクタンスを提供する。個々の第2導電素子51が提供するインダクタンスは、径φe2が大きいほど小さくなる。便宜上、個々の第2導電素子51が備えるインダクタンスをLe2とする。
【0046】
外側円周上に配置された複数の第2導電素子51は、
図5に示すように、第2距離R2に応じた径φ2を有する1つの円柱状導電体として振る舞う。つまり、第2短絡部50は、中心軸がアンテナ中心軸Axと重なるように配置された1つの円柱状導電体と見なすことができる。第2短絡部50は、上面視においてパッチ部20の中央領域に配置されている。
【0047】
便宜上、1つの円柱状導電体としての第2短絡部50が提供するインダクタンスL2のことを第2等価インダクタンスL2と称する。第2等価インダクタンスL2もまた、主として第2距離R2によって定まる。第2距離R2を長くするほど、第2短絡部50は、径φ2が大きい円柱状導電体として振る舞う。つまり、第2距離R2を長くするほど、第2等価インダクタンスL2は小さい値となる。
【0048】
外側円の半径として機能する第2距離R2は、少なくとも第1距離R1よりも大きい(換言すれば長い)値に設定される。また、一般的に金属円柱の作るインダクタンスは、半径が大きくなるにつれて小さくなる。第2距離R2は第1距離R1よりも大きいため、第2等価インダクタンスL2は第1等価インダクタンスL1よりも小さい値となる。つまり、L1>L2の関係を有する。
【0049】
第2距離R2は、別途後述するようにパッチ部20が提供する静電容量等と第2等価インダクタンスL2が第2周波数f2において並列共振する値に設定されている。第2等価インダクタンスL2の調整は、第2距離R2の調整によって実現されればよい。なお、第2等価インダクタンスL2を調整するためのパラメータとして補足的に第2素子数Nや第2導電素子51の径を採用しても良い。
【0050】
第2導電素子51の一端は地板10と直接的に(換言すれば電気的に)接続されている一方、他端は
図6に示すようにコンデンサ70を介してパッチ部20と接続されている。つまり、第2導電素子51とパッチ部20との間には、コンデンサ70が介設されている。
【0051】
コンデンサ70が備える静電容量の具体的な値Cfは、第1周波数f1、第2周波数f2、第1導電素子41のインダクタンスLe1に応じて適宜設計される。具体的には、次の通りである。まず、コンデンサ70は、第2導電素子51と直列接続されている。そのため、コンデンサ70は、第2導電素子51が提供するインダクタンスLe2と組み合わさってなるLC直列共振回路を、地板10とパッチ部20との間に形成する。当該LC共振回路の共振周波数fcは、1/2π√(Le2×Cf)で与えられる。
【0052】
コンデンサ70の静電容量Cfは、少なくとも共振周波数fcが第1周波数f1よりも高い値となる値に設定されている。具体的には、コンデンサ70の静電容量Cfは下記の式1を満たす値に設定されている。
【数1】
【0053】
このような設定によれば、第2導電素子51とコンデンサ70とが形成するLC直列共振回路は、第1周波数f1においては容量性リアクタンスとして作動する。コンデンサ70の静電容量Cfが上記式1を満たす場合、第1周波数f1が共振周波数fcよりも低くなるためである。なお、上記式1に示すように、共振周波数fcが第1周波数f1よりも高い値に設定するための変数としては第2導電素子51のインダクタンスLe2も利用可能である。よって、第2導電素子51のインダクタンスLe2及びコンデンサ70の静電容量Cfの両方を調整して、f1<fcを成立させても良い。
【0054】
このコンデンサ70は、チップコンデンサでも良いし、基板内部に埋め込む内蔵コンデンサでも良いし、所定のギャップを設けた平板パターンでも良い。コンデンサ70を導入する位置は適宜設計されればよい。例えばコンデンサ70は第2導電素子51と地板10との間に配置されていてもよいし第2導電素子51の途中に挿入されていてもよい。基板を用いてアンテナ装置1を実現する場合、コンデンサ70を導入する位置は、上層でも内層でもどの層でも良い。
【0055】
なお、
図6は上面図であり、断面図ではないが、各部材の位置関係及び素材を明示するために便宜上ハッチングを施している。また、
図1〜
図3においては、図の簡略化のため、コンデンサ70の図示を省略している。
【0056】
給電線路60は、パッチ部20に給電するために、例えば支持部30の上面に設けられたマイクロストリップ線路である。給電線路60の一端は、同軸ケーブルの内部導体と電気的に接続されており、他端は、パッチ部20の縁部と電磁結合するように形成されている。同軸ケーブルを介して給電線路60に入力された電流は、パッチ部20に伝搬し、パッチ部20を励振させる。パッチ部20の縁部において、給電線路60と最も近い点が給電点22として機能する。
【0057】
なお、本実施形態ではパッチ部20への給電方式として、マイクロストリップ線路等を用いた電磁結合給電方式を採用しているが、これに限らない。他の態様として、給電線路60をパッチ部20に直接接続させた直結給電方式を採用しても良い。直結給電方式は、導電性のピンやビアを用いて実現されても良い。また、給電点22は、パッチ部20の縁部と外側円の間に配置されていてもよい。
【0058】
以上で述べたアンテナ装置1は、例えば、車両などの移動体で用いられる。当該アンテナ装置1を車両で用いる場合には、車両の屋根部において、地板10が略水平であって、地板10からパッチ部20に向かう方向が天頂方向と略一致するように設置されればよい。
【0059】
<アンテナ装置1の動作原理について>
次に、当該アンテナ装置1の動作について、
図7等を用いて説明する。アンテナ装置1は、第1短絡部40を主たる電流経路とする動作モードと、第2短絡部50を主たる電流経路とする動作モードとを備える。第1短絡部40を主たる電流経路とする動作モードとは以下の説明の通り、第1周波数f1で動作するモードであり、第2短絡部50を主たる電流経路とする動作モードとは第2周波数f2で動作するモードである。
【0060】
まずは、第1周波数f1で動作する際の原理について説明する。なお、アンテナ装置1が電波を送信する際の作動と、電波を受信する際の作動は、互いに可逆性を有する。したがって、ここでは一例として、第1周波数f1と第2周波数f2のそれぞれの電波を放射する際の作動について説明し、電波を受信する際の作動についての説明は省略する。
【0061】
図7は、第1周波数の信号にとってのアンテナ装置1の電気的な機能を説明するための構成を概念的に表した図である。なお、
図7は地板10とパッチ部20との間隔等を誇張して示しているとともに、第1短絡部40を半径R1の円柱状導電体として図示している。また、図の簡略化のため第2導電素子51に係る構成を3組しか図示していないが、実際には第2素子数Nだけ備えている。第2導電素子51に係る構成とは、第2導電素子51が備える第2等価インダクタンスLe2と、コンデンサ70が提供する静電容量Cfとが直列接続した構成である。
【0062】
第1周波数において導電電流は第1短絡部40を主たる電流経路として流れる。その際、半径R1の円周上に配置されている複数の第1導電素子41は前述の通り、一体となって半径R1の円柱状導電体として動作し、導電電流は主としてその円柱導電部材の側面(換言すれば円筒面)上を流れる。その結果、その内側の領域には電磁界はほとんど進入しない。
【0063】
半径R1の円の内側には電磁界が進入しないため、パッチ部20全体のうちの半径R1の円の外側領域が、地板10との間の静電容量の形成に寄与する。つまり、パッチ部20のうちの半径R1の円の外側部分が、その面積と地板10との離隔によって決まる静電容量Cp1を形成する。
図7においてドットパターンのハッチングを施している部分は、パッチ部20のうちの半径R1の円の外側部分を示している。
【0064】
また、半径R2の円周状に配置されている第2導電素子51とコンデンサ70とからなるLC直列共振回路は、共振周波数fcが第1周波数f1よりも高くなるように構成されている。そのため、第2導電素子51とコンデンサ70とからなるLC直列共振回路は
図8に示すように、静電容量Cxを備えるコンデンサとして動作する。
【0065】
以上をまとめると、第1周波数f1では、アンテナ装置1は
図9に示すように、半径R1の円柱状導電体が提供するインダクタンス(つまり第1等価インダクタンス)L1と、パッチ部20において半径R1の円の外側部分と地板10とが形成する静電容量Cp1と、第2導電素子51に係る構成が形成する静電容量Cxとが並列接続した構成として振る舞う。また、静電容量Cxは、第1等価インダクタンスL1や静電容量Cp1に対して、第2素子数Nだけ並列接続されることになる。そのため、第1等価インダクタンスL1に並列接続する静電容量の総和はCp1+N×Cxである。
【0066】
このようにアンテナ装置1は、第1短絡部40が提供する第1等価インダクタンスL1に対して、静電容量Cp1+N×Cxが並列接続している。故に、アンテナ装置1は下記の式2で定まる周波数f1xにおいて並列共振を生じさせる。
【数2】
【0067】
この共振周波数f1xは、地板10とパッチ部20の大きさ、地板10とパッチ部20との間隔、第1距離R1や、第2導電素子51の径、コンデンサ70の静電容量Cf等に応じて定まるため、これらのパラメータを調整することにより、f1xをf1と一致させることができる。つまり第1周波数f1で並列共振し、第1周波数f1の電波を送受信可能となる。
【0068】
なお、給電線路60もまた、その形状及び材質に応じた大きさのインダクタンス及び抵抗値を備える。ただし、これら給電線路60に対応する要素については、アンテナ装置1の動作原理を説明する上は省略可能であるため、
図9に示す等価回路においては図示を省略している。
【0069】
次に、第2周波数f2で動作する際の原理について説明する。
図10は、第2周波数の信号にとってのアンテナ装置1の電気的な機能を説明するための構成を概念的に表した図である。なお、
図10は
図7と同様に、地板10とパッチ部20との間隔等を誇張して示しているとともに、第2短絡部50を半径R2の円柱状導電体として図示している。また、図の簡略化のためコンデンサ70に対応する構成を3つしか図示していない。コンデンサ70に対応する構成は実際には第2素子数Nだけ存在する。コンデンサ70に対応する構成とは、静電容量Cfを備える素子である。
【0070】
第2周波数において導電電流は第2短絡部50を主たる電流経路として流れる。その際、半径R2の円周上に配置されている複数の第2導電素子51は前述の通り、一体となって半径R2の円柱状導電体として動作し、導電電流は主としてその円柱導電部材の側面(換言すれば円筒面)上を流れる。その結果、その内側の領域には電磁界はほとんど進入しない。従って、半径R1の円周上に配置された第1導電素子41は励振にあまり寄与しない。
【0071】
また半径R2の円の内側には電磁界が進入しないため、パッチ部20全体のうちの半径R2の円の外側領域が、地板10との間の静電容量の形成に寄与する。つまり、パッチ部20のうちの半径R2の円の外側部分が、その面積と地板10との離隔によって決まる静電容量Cp2を形成する。なお、第1周波数f1での動作時に比べて、静電容量の形成に寄与するパッチ部20の面積が小さくなるため、静電容量はCp2<Cp1の関係を有する。
図12においてドットパターンのハッチングを施している部分は、パッチ部20のうちの半径R2の円の外側部分を示している。
【0072】
さらに、複数のコンデンサ70のそれぞれが提供する静電容量Cfは互いに並列接続の関係であって、第2短絡部50が提供するインダクタンス(つまり第2等価インダクタンス)L2に対して直列接続されている。複数のコンデンサ70のそれぞれが提供する静電容量Cfは互いに並列な関係であるため、複数のコンデンサ70のそれぞれが提供する静電容量の合計値はCf×Nである。
【0073】
以上をまとめると、第2周波数f2では、アンテナ装置1は
図11に示すように、半径R2の円柱状導電体が提供する第2等価インダクタンスL2と、コンデンサ70に由来する静電容量Cf×Nと、パッチ部20と地板10とが形成する静電容量Cp2とを備える構成として振る舞う。回路全体としての静電容量Cyは、コンデンサ70に由来する静電容量Cf×Nと、パッチ部20と地板10とが形成する静電容量Cp2とは直列接続で与えられる。つまり回路全体としての静電容量Cy=Cp2×N×Cf/(Cp2+N×Cf)である。
【0074】
従ってアンテナ装置1は第2短絡部50を主たる電流経路として作動する場合、下記の式3で定まる周波数f2xで共振する。
【数3】
【0075】
この共振周波数f2xは、地板10とパッチ部20の大きさ、地板10とパッチ部20との間隔、第2距離R2や、コンデンサ70の静電容量Cf、第2素子数N等に応じて定まるため、これらのパラメータを調整することにより、f2xをf2と一致させることができる。つまり所望の第2周波数f2の電波を送受信可能となる。
【0076】
ここで、Cp1>Cp2、L1>L2等の関係から、第2導電素子51を主電流経路とする際の共振周波数f2xは、第1導電素子41を主電流経路とする際の共振周波数f1xよりも高い周波数となる。なお、第2素子数Nが3程度と相対的に少ない場合、半径R2の内側領域に磁界が分布する量が相対的に増加する。その結果、第2短絡部50に集まる磁気エネルギーが増加し、第2等価インダクタンスL2は大きくなる。
【0077】
<アンテナ装置1の指向性について>
次に、アンテナ装置1の電波の放射特性について説明する。まずは、第1周波数f1の電波の放射特性について説明する。なお、アンテナ装置1が第1周波数f1の電波を放射する場合とは、第1周波数f1で並列共振している場合である。すなわち、第1導電素子41が主たる電流経路として作動している場合である。
【0078】
アンテナ装置1が第1周波数f1で並列共振している場合、パッチ部20には共振電流が誘起される。並列共振によってパッチ部20に生じる第1周波数f1の電流は、パッチ部20の縁部から第1短絡部40に向かう方向に流れる。また、第1周波数f1の電流は主として半径R1の円柱状導電体の側面(換言すれば円筒面)を通って地板10に伝搬する。つまり、電流はパッチ部20の中央領域に集中し、電流定在波の振幅は、半径R1の円周部分で最大、パッチ部20の縁部で0となる。
【0079】
また、円柱導体部材として機能する第1短絡部40は、その中心軸がアンテナ中心軸Axと一致するように設けられていることから、電圧定在波の振幅は、パッチ部20の縁部で最大、半径R1の円周部分付近で0となる。電圧の符号は、いずれの領域でも垂直方向において同じ符号となる。そして、垂直電界は電圧の分布に比例する。故に、地板10とパッチ部20との間に発生する垂直電界は、上面視において、パッチ中心点21を回転軸として点対称に分布する。
【0080】
そして、パッチ部20と地板10との間に誘起される垂直電界はパッチ部20の縁部付近において垂直偏波となって空間を伝搬していく。このようにしてアンテナ装置1は、パッチ部20の外縁部において、遠心方向に垂直偏波を放射する。なお、遠心方向は、アンテナ中心軸Axに対して垂直であって且つアンテナ中心軸Axから離れていく方向である。
【0081】
また、アンテナ装置1はアンテナ中心軸Axに対して対称性を有する構成である。具体的には、パッチ部20はパッチ中心点を対称の中心として点対称な形状となっている。故にアンテナ装置1は第1周波数f1において、パッチ部20の中心から外縁部に向かう全方向に、同程度の利得で垂直偏波を放射する。
【0082】
図12は、アンテナ装置1のアンテナ水平面における、第1周波数f1の電波の放射特性をシミュレーションした結果を示す図である。
図12中の実線は垂直偏波の放射利得を、破線は水平偏波の放射利得をそれぞれ示している。
図12からも、アンテナ装置1の第1周波数f1の垂直偏波の放射特性はほぼ無指向性であることがわかる。よって、地板10が水平となるようにアンテナ装置1が載置されている場合には、アンテナ装置1は水平方向に対して無指向性のアンテナとして動作する。
【0083】
また、以上では第1周波数f1の電波の放射原理及び指向性について説明したが、第2周波数f2の電波の放射原理及び指向性についても同様である。すなわち、第2短絡部50もまた第1短絡部40と同様に、パッチ部20の中央領域に配置された1つの円柱状導電体として見なすことができる。そのため、並列共振によってパッチ部20に生じる第2周波数f2の電流は、パッチ部20の縁部から第2短絡部50に向かう方向に流れる。その結果、電圧定在波の振幅は、パッチ部20の縁部で最大、第2短絡部50付近で0となる。地板10とパッチ部20との間に形成される垂直電界は、第2短絡部50から遠心方向に進行していく。
【0084】
また、垂直電界の伝搬方向はアンテナ中心軸Axについて対称であるため、アンテナ装置1は第2周波数f2においても、第2短絡部50から縁部に向かう全方向に、同程度の利得で垂直偏波を放射する。特に、アンテナ水平面が実際の水平面と平行となるようにアンテナ装置1が載置されている場合、アンテナ装置1は水平方向に対して無指向性のアンテナとして動作する。
【0085】
図13は、アンテナ装置1のアンテナ水平面における、第2周波数f2の電波の放射特性をシミュレーションした結果を示す図である。
図13中の実線は垂直偏波の放射利得を、破線は水平偏波の放射利得をそれぞれ示している。
図13に示されている通り、第2周波数f2の垂直偏波の放射特性はほぼ無指向性である。
【0086】
<アンテナ装置1の設計手順について>
上述したアンテナ装置1は、例えば以下の手順で設計されればよい。なお、以下に示す手順は一例であって、適宜変更可能である。地板10とパッチ部20の大きさ、地板10とパッチ部20との間隔、支持部30の材質を設定したうえで、まず、コンデンサ70の静電容量Cf及び第2導電素子51の径の仮値を決定して、第1周波数f1においてLC直列共振回路が提供する静電容量Cxを特定する。また、第2素子数Nを決定し、N×Cx成分や、N×Cf成分の大きさを決定する。
【0087】
次に、N×Cx成分に対して所望の静電容量Cp1、第1等価インダクタンスL1が得られるように、パッチ部20の総面積を考慮しつつ、第1距離R1を設定する。前述の通り、第1周波数f1での動作時には半径R1の円柱状導電体の内側に電磁界が進入しないことから、パッチ部20が形成する静電容量Cp1は、第1短絡部40とパッチ部20の縁部に挟まれた面積により定められる。また、第1距離R1を大きくすると第1等価インダクタンスL1は小さくなる。つまり、第1距離R1を増加させれば、第1等価インダクタンスL1と静電容量Cp1は減少していく。第1等価インダクタンスL1と静電容量Cp1が第1距離R1に応じて同時に変化することを考慮しつつ、動作周波数f1xが第1周波数f1と一致するように第1距離R1を定める。
【0088】
また、N×Cf成分に対して所望の静電容量Cp2、第2等価インダクタンスL2が得られるように、パッチ部20の総面積を考慮しつつ、第2距離R2を設定する。第2周波数において、パッチ部20が形成する静電容量Cp2もまた、第1周波数の場合と同様に、第2短絡部50とパッチ外縁の間の面積により定められる。第2距離R2を増加させれば、第2等価インダクタンスL2と静電容量Cp2は減少していく。第2等価インダクタンスL2と静電容量Cp2が第2距離R2に応じて同時に変化することを考慮しつつ、動作周波数f2xが第2周波数f2と成るように第2距離R2を定める。なお、仮決めした第2素子数Nやコンデンサ70の静電容量Cfは、第1距離R1、第2距離R2を決定する仮定において微調整されてもよい。
【0089】
<アンテナ装置1の効果について>
上述した構成によれば、1つのパッチ部20を用いて第1周波数f1の垂直偏波と第2周波数f2の垂直偏波を放射することができる。また、受信も同様である。
図14は、アンテナ装置1の周波数毎の入力反射係数を解析した結果を示すグラフである。なお、入力反射係数は、いわゆるSパラメータにおけるS11に相当するものであって、順方向反射係数とも称される。
【0090】
図14に示すように、本実施形態の構成によれば、第1周波数f1の入力反射係数は−7.5dBであり、第2周波数f2の入力反射係数は−20dBである。一般的に、入力反射係数は−5dB以下であれば、実用可能な構成であると見なされることが多い。つまり、本実施形態の構成によれば第1周波数f1と第2周波数f2のそれぞれを送受信するためのアンテナとして十分に実用可能である。
【0091】
なお、第1周波数f1は、第1短絡部40が電流経路として作用する場合の0次共振時の動作周波数であり、第2周波数f2は、第2短絡部50が電流経路として作用する場合の0次共振時の動作周波数である。
図14に示すf1a(具体的には2.2GHz)は第1短絡部40が電流経路として作用する場合の1次共振時の動作周波数である。
【0092】
また、上記のアンテナ装置1は、特許文献1に開示のアンテナ装置と同様の原理で動作するアンテナ装置(つまり並列共振系のアンテナ装置)であるため、直列共振系のアンテナ装置よりも、高さを抑制する(換言すれば薄くする)ことができる。直列共振系のアンテナ装置とは、例えばモノポールアンテナである。具体的には、第1周波数f1を送受信するためのモノポールアンテナの高さの7%程度の高さで実現できる。すなわち、上述した実施形態によれば、アンテナ装置1の薄型化と、動作周波数の複数化を両立させることができる。
【0093】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は矛盾が生じない範囲において組み合わせて実施することができる。
【0094】
なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0095】
[変形例1]
上述した実施形態では、上面視においてパッチ中心点21から各第1導電素子41に向かう半直線上に、第2導電素子51を配置した構成を開示した。換言すれば、パッチ中心点21から各第1導電素子41に向かう方向(以降、第1素子方向)と、パッチ中心点21から各第2導電素子51に向かう方向(以降、第2素子方向)とが重なるように、第1短絡部40及び第2短絡部50を形成する構成を開示した。
【0096】
一方、
図16に示すように、第1素子方向と第2素子方向とが重ならないように、第1短絡部40に対して第2短絡部50を形成してもよい。
図16は第1素子数Mと第2素子数Nを同じ数(具体的には4)に設定している場合に、第1素子方向と第2素子方向とが重ならないように、第1短絡部40に対して第2短絡部50を形成する態様の一例を表したものである。
【0097】
図16中の四角形の記号“□”は第1導電素子41の設置位置を表しており、三角形の記号“△”は第2導電素子51の設置位置を示している。また、
図16中の一点鎖線は第1導電素子41が配置されるべき内側円を示しており、二点鎖線は第2導電素子51が配置されるべき外側円を示している。
図16において地板10等の図示は省略している。
【0098】
第1導電素子41と第2素子数NがともにN(Nは3以上の整数)である場合には、第1素子方向に対して第2素子方向が、180÷N度ずれるように第2導電素子51を配置することが好ましい。例えば第1導電素子41と第2素子数Nが4(つまりN=4)である場合には、第1素子方向に対して第2素子方向が45度ずれるように第2導電素子51を配置すれば良い。
【0099】
そのような態様によれば、第1導電素子41と第2導電素子51との離隔を大きくとることができ、これらが電磁気的に相互に干渉し合う恐れを低減することができる。つまり、第1周波数f1での動作と第2周波数f2での動作の独立性を高めることができる。
【0100】
なお、
図16では第1素子数Mと第2素子数Nとが等しい場合の配置態様を開示したが、上記の思想は第1素子数Mと第2素子数Nとが異なる場合も同様である。すなわち、第1素子方向と第2素子方向が重ならないように(換言すればずれるように)第1短絡部40に対して第2短絡部50を配置することで、第1導電素子41と第2導電素子51の結合力を弱めることができ、上記効果を得ることができる。
【0101】
[変形例2]
上述した実施形態では、第2導電素子51を通る電流経路上に容量性素子としてのコンデンサ70を介在させた構成を開示したが、他の構成として
図15に示すように、第1導電素子41を通る電流経路上にもコンデンサ80を配置しても良い。コンデンサ80は、チップコンデンサでも良いし、基板内部に埋め込む内蔵コンデンサでも良いし、所定のギャップを設けた平板パターンでも良い。
【0102】
なお、コンデンサ80を導入する位置は適宜設計されればよい。例えばコンデンサ80は第1導電素子41とパッチ部20との間に配置されていても良いし、地板10との間に配置されていてもよい。また、第1導電素子41の途中に挿入されていてもよい。基板を用いてアンテナ装置1を実現する場合、コンデンサ80を導入する位置は、上層でも内層でもどの層でも良い。
【0103】
このような態様によれば、第1周波数f1もコンデンサ80が備える静電容量の大きさによって調整することが可能となる。なお、コンデンサ80が第1容量性素子に対応する。また、この変形例2におけるコンデンサ70は第2容量性素子に相当する。
【0104】
[変形例3]
上述した実施形態ではパッチ部20の表面にコンデンサ70を配置する構成を開示した。しかしながら、容量性素子としてのコンデンサ70の実現方法はこれに限らない。例えば
図17に示すように、支持部30の内部に、所定の面積の板状の導体(以降、内部導体板)90をパッチ部20に対して対向するように配置することによって第1周波数f1での電流経路と第2周波数f2での電流経路とを別々にしてもよい。パッチ部20において内部導体板90と対向する部分(以降、対向部)と、内部導体板90とを含む構造91が容量性素子(換言すればコンデンサ70)として機能しうる。なお、支持部30の内部とはパッチ部20と地板10との間に相当する。
図17は第2短絡部50付近の断面図である。
【0105】
内部導体板90とパッチ部20との離隔d、及び、内部導体板90の面積は、内部導体板90とパッチ部20との間に形成される静電容量が、コンデンサ70と同様の機能を提供するように設計されれば良い。すなわち、第2周波数f2の信号を通過させる一方、第1周波数f1の信号を遮断する値となるように設定されればよい。内部導体板90の平面形状はどのような形であってもよい。内部導体板90を形成する代わりに、チップコンデンサを挿入しても良い。
【0106】
内部導体板90は第2導電素子51と上面視において重なる位置に配置されている。内部導体板90は、第2導電素子51毎に設けられている。第2導電素子51は内部導体板90と地板10とを接続するように形成される。なお、内部導体板90は、第1導電素子41とは電気的に接触しないように配置されている。
【0107】
このような態様によっても前述の実施形態と同様に作動する。なお、変形例3として開示の上記構成は、例えばIV基板等を用いて実現することができる。内部導体板90は、多層基板が備える1つの導体層を用いて実現すればよい。
【0108】
[変形例4]
以上ではアンテナ装置1の構成として、第1、第2周波数f2の2つの周波数の電波を送受信するための構成について開示したが、これに限らない。アンテナ装置1は、3以上の周波数の電波を送受信可能に構成されていても良い。
【0109】
例えば、
図18に示すようにパッチ中心点21からの距離が第2距離R2よりも大きい所定の第3距離R3となる円周上に複数の導電素子(以降、第3導電素子)を配置することで、第3周波数の電波を送受信可能に構成されていても良い。
図18中のX字型の記号“×”は第3導電素子の設置位置の一例を示している。
【0110】
第3導電素子は、第2導電素子と同様の技術的思想に基づいて導入される構成であって、地板10とパッチ部20とを接続するための構成である。第3導電素子は、第1周波数f1や第2周波数f2に応じた静電容量を提供するコンデンサ等を介してパッチ部20と接続されていれば良い。第1導電素子41や第2導電素子51、第3導電素子を互いに区別しない場合には、単に導電素子とも記載する。
【0111】
[変形例5]
パッチ部20の周囲には、
図19から
図24に示すように、ループ状の導体部材であるループ部100を配置してもよい。そのような構成の一例を変形例5として以下に説明する。便宜上、本変形例5及び後述の種々の変形例ではパッチ部20を仮想的又は実体的に複数に分割してなるサブパッチ部23の概念を導入して、第1導電素子41や第2導電素子51の配置態様について説明する。
【0112】
サブパッチ部23は、パッチ中心点21からパッチ部20の縁部が備える各頂点に向かって延びる複数の半直線によって、パッチ部20を仮想的に分割してなる個々の領域を指す。つまり、正六角形状のパッチ部20は6つのサブパッチ部23に分割される。
図19においてパッチ部20上に示している破線は、サブパッチ部23の境界線(以降、サブパッチ境界線)を示している。サブパッチ境界線は、パッチ中心点21とパッチ部20の縁部が備える各頂点とを接続する線に相当する。なお、パッチ部20上に示している一点鎖線や二点鎖線は、
図16と同様に、パッチ中心点21からの距離が第1距離R1となる円(つまり内側円)や、パッチ中心点21からの距離が第2距離R2となる円(つまり外側円)を表している。
【0113】
ループ部100は、支持部30の上面において、パッチ部20の縁部と所定の間隔Gを有するように形成される。間隔Gは、第2周波数f2の波長に対して十分に小さければ良く、具体的な値はシミュレーションや試験(以降、試験等)によって適宜決定されれば良い。間隔Gは、少なくとも第2周波数f2の波長の50分の1以下とすることが好ましい。ループ部100の幅もまた、第2周波数f2の波長に対して十分に小さければ良く、その具体的な値は適宜設計されればよい。
【0114】
本変形例5の給電線路60は、ループ部100に給電するように構成されている。給電線路60の一端は、同軸ケーブルの内部導体と電気的に接続されており、他端は、ループ部100と電磁結合するように上面に形成されている。給電線路60から入力された電流は、ループ部100を介して、パッチ部20に伝搬し、パッチ部20を励振させる。給電線路60においてループ部100側の端部をループ側端部と称する。ループ部100において、ループ側端部と最も近い点が給電点101として機能する。
【0115】
本実施形態ではより好ましい態様としてサブパッチ境界線の延長線上に給電点が位置するように、給電線路60が配置されている。このような構成によれば給電線路60からの電流を同時に(換言すれば並行して)複数のサブパッチ部23に流入させることができる。
【0116】
第1短絡部40を形成する第1導電素子41は、複数のサブパッチ部23のそれぞれに、少なくとも1つずつ存在するように配置することが好ましい。また、より好ましくは、
図20に示すように第1導電素子41は、パッチ中心点21を通ってサブパッチ部23を二等分する線(以降、サブパッチ二等分線)上に配置されていることが好ましい。
図18中の一点鎖線は、サブパッチ二等分線を示している。
【0117】
なお、必ずしも全てのサブパッチ部23に第1導電素子41が存在するように第1短絡部40を形成する必要はない。第1導電素子41が存在しないサブパッチ部23が存在しても良い。第1導電素子41は一点鎖線で示す内側円の円周上に等間隔で配置されていればよい。また、第1導電素子41は、サブパッチ二等分線からずれた位置に配置されていてもよい。
【0118】
第2短絡部50を形成する第2導電素子51も、第1導電素子41と同様に、複数のサブパッチ部23のそれぞれに、少なくとも1つずつ存在するように配置することが好ましい。また、より好ましくは、第2導電素子51はサブパッチ二等分線上に配置されていることが好ましい。
【0119】
ここでは一例として、第1導電素子41及び第2導電素子51は、各サブパッチ部23に1つずつ配置されている。つまり、第1素子数M及び第2素子数Nはサブパッチ部23の数と一致している。また、複数の第1導電素子41及び複数の第2導電素子51のそれぞれはサブパッチ二等分線上に配置されている。
【0120】
このような構成によっても上述した実施形態と同様の効果を奏する。また、ループ部100を設けた構成によれば、各周波数での放射利得を高めることができる。これは、ループ部100が、複数のサブパッチ部23への給電の際に隣接するサブパッチ部23間の位相差を同相に揃えたり、もしくは、パッチ部20全体としての放射利得が向上するように各サブパッチ部23に対して適切な位相差を与えたりする要素として機能しているためであると考えられる。
【0121】
[変形例6]
変形例5として開示の構成において、第1周波数f1や第2周波数f2といった、個々の動作周波数での動作帯域を広げるために、
図21に示すように、パッチ部20の縁部の各頂点からパッチ中心点21に向かう方向に、所定の長さを有する直線状のスリット24をパッチ部20に設けてもよい。このような構成を変形例6とする。なお、スリット24は、別の観点によれば、パッチ部20を電気的に6つのサブパッチ部23に分割する構成に相当する。
【0122】
スリット24は、パッチ部20の縁部が有する頂点(換言すれば角)からパッチ中心点21に向かって延びる切り込みである。スリット24は、別の観点によればサブパッチ境界線に沿って形成された切り込みに相当する。スリット24の一端は、ループ部100とパッチ部20との間隙と接続している。スリット24においてパッチ中心点21側に位置する端部を、便宜上、中心側端部と称する。
【0123】
スリット24の長さは、適宜設計されれば良い。ただし、この変形例6の構成においては、各サブパッチ部23が他のサブパッチ部23と物理的に分断されないように、中心側端部とパッチ中心点21との距離は、第1周波数f1の波長の100分の1以上とすることが好ましい。各サブパッチ部23は、パッチ中心点近傍において連結した構成となっている。スリット24の幅は適宜設計されれば良い。例えば第2周波数f2の波長の10分の1程度に設定されればよい。
【0124】
この変形例6として開示の構成によれば、第1周波数f1や第2周波数f2といった、個々の周波数での動作帯域を広げることができる。この理由は次のように推測される。パッチ部20に複数のスリット24を設けることによって、サブパッチ部23同士の結合が弱まり、各サブパッチ部23への電流の流入量に偏りが生じやすくなる。
【0125】
その結果、或る周波数においては、給電点から相対的に遠いサブパッチ部23が励振しづらくなり、パッチ部20において電界が分布する領域が減少する。換言すれば、或る周波数においては、給電点に比較的近い複数のサブパッチ部23が結合して、1つのパッチ部として機能する。当然、一部のサブパッチ部23が結合してなる領域の面積は、元のパッチ部20よりも面積よりも小さいため、並列励振に寄与する静電容量が減少し、対象周波数から僅かにずれた周波数で並列共振するようになる。換言すれば、スリット24を配置することにより、サブパッチ部23同士の結合が相対的に疎となり、送受信の対象とする周波数からずれた周波数でも励振しやすくなる。このような作用により、第1周波数f1や第2周波数f2といった、個々の周波数での動作帯域が広がる。
【0126】
なお、パッチ部20に電流を供給する役割を担うループ部100は、全てのサブパッチ部23の外側に配置されている。そのため、全てのサブパッチ部23が結合した状態でも動作する。つまり、第1周波数f1や第2周波数f2といった、送受信の対象とする本来の周波数でも動作する。なお、ここでのサブパッチ部23同士が結合してなる領域とは、比較的強い電界が分布する領域を指す。
【0127】
[変形例7]
変形例6にて導入したスリット24の中心線上に、
図22に示すように、ループ部100からパッチ中心点21に向かって延びる線状の導体部材(以降、線状エレメント)110を設けてもよい。なお、スリット24の中心線とは、サブパッチ境界線に相当する。
【0128】
線状エレメント110は、スリット24の中心線上において、一端がループ部100と接続し、他端がパッチ中心点近傍でパッチ部20と接続するように形成する。つまり、線状エレメント110は、パッチ部20のパッチ中心点近傍となる領域とループ部100とを電気的に接続するとともに、サブパッチ部23間の容量結合を弱める役割を担う。ループ部100に流入した電流は、ループ部100だけでなく、線状エレメント110からもサブパッチ部23へと流入する。
【0129】
つまり、この変形例7の構成によれば、給電点からの電流がサブパッチ部23へ供給されやすくなる。そのため、ループ部100とパッチ部20との間隔Gの上限値を、実施形態に比べて大きくすることができる。換言すれば、ループ部100とパッチ部20との間隔Gに対する制約を緩和することができる。なお、
図22では線状エレメント110の明示のため一部の部材についての符号の記載は省略している。
【0130】
[変形例8]
図23は、変形例7のさらなる変形例であって、スリット24を他のスリット24と接続するまで延長させ、サブパッチ部23を他のサブパッチ部23と分断させた構成を示している。すなわち、パッチ部20を実体的に分割してなるそれぞれの領域が、サブパッチ部23として機能する。なお、
図23も
図22と同様に、一部の部材についての符号の記載は省略している。
【0131】
このような構成は、サブパッチ部23同士が所定の間隔を有するように実体的にパッチ部20を実体的に分割した構成において、サブパッチ部23同士の間隙に、パッチ中心点21からループ部100に向かって線状エレメント110を延設した構成に相当する。
【0132】
この変形例8の構成によれば、給電点101からの電流がサブパッチ部23へ供給されやすくなる。そのため、ループ部100とパッチ部20との間隔Gの上限値を、変形例5〜7に開示の構成に比べて大きくすることができる。換言すれば、ループ部100とパッチ部20との間隔Gに対する制約を緩和することができる。
【0133】
[変形例9]
上述した実施形態等ではパッチ部20の平面形状を正六角形とする態様について説明したが、これに限らない。パッチ部20の平面形状は、円形や、正八角形、正方形、正三角形などであってもよい。例えば
図24に示すように円形であっても良い。
図24は変形例5におけるパッチ部20の平面形状を円形とした場合の態様を概略的に示している。変形例5等のサブパッチ部23の概念を用いる構成において、パッチ部20の平面形状を円形とする場合には、サブパッチ部23の設定は、円の中心を通る直線によって実施されればよい。個々のサブパッチ部23は同一寸法となるように設定されればよい。
図24では、6つのサブパッチ部23を設定した態様を示しているが、パッチ部20の平面形状を円形とする場合のサブパッチ部23の数は適宜設計されればよく、例えば4や8などであっても良い。