(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項3に記載の堤体において、鉛直方向に複数積み重ねられた前記プレキャスト壁体のうちの最上段の前記プレキャスト壁体を、面内方向に延びて下方のみ開口した壁体孔を有するプレキャスト壁体に置き換えたことを特徴とする堤体。
前記壁体連結用鋼材の上端は、鉛直方向に複数積み重ねられた前記プレキャスト壁体のうちの最上段の前記プレキャスト壁体の高さの2分の1以上の高さ位置に達していることを特徴とする請求項3または4に記載の堤体。
複数の前記杭用さや管のうち少なくとも2つの前記杭用さや管は、上方から見て、前記プレキャスト壁体の法線方向と略直交する方向にあって、かつ、お互いに隣り合っており、
お互いに隣り合っている前記杭用さや管同士の間を連結している一方、前記突出鋼材とは連結していない法直連結鋼材が前記フーチング内にさらに備えられていることを特徴とする請求項9に記載の堤体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この原因は、壁高がそれほど高くない中型の堤体や壁高の低い小型の堤体においては、応力的に壁体下端部を三重管構造にする必要がないことが多く、また、フーチング内に配置されている法直連結鋼材と突出さや管との取り合い部の設計においては、さや管の板厚規定(さや管径の1/50以上)によって、突出さや管の板厚が応力的に必要な厚さよりも過大になることが多いからである。また、三重管構造の各鋼管の間には一定のクリアランス(50〜100mm程度)を取る必要があり、このため、壁体下端部に生じる応力の大きさとは関わりなく、壁体さや管の最小径は一定の大きさ以上になってしまい、プレキャスト壁体の壁厚を薄くすることが困難だからである。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、壁体下端部に三重管構造を用いず、かつ、施工性良く短工期で構築することが可能な堤体および該堤体に適用可能な堤体用プレキャストフーチングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の堤体および堤体用プレキャストフーチングにより、前記課題を解決したものである。
【0011】
即ち、本発明に係る堤体の第1の態様は、鋼管杭と、該鋼管杭に支持されたフーチングと、該フーチングの上方に配置され、面内方向に貫通する壁体貫通孔を有するプレキャスト壁体と、を備えた堤体であって、前記プレキャスト壁体および前記フーチングを連結する壁体連結用鋼材をさらに備え、前記フーチングは、該フーチングの上面よりも上方の位置まで延伸している突出鋼材を備え、また、前記フーチングは少なくとも下方に開口した下方開口孔を、上方から見て、前記突出鋼材に対して前記プレキャスト壁体の法線方向と略直交する方向に間隔を開けて有し、該下方開口孔の内面には杭用さや管が備えられ、前記突出鋼材には前記壁体連結用鋼材が上方に延伸するように接合され、前記プレキャスト壁体の前記壁体貫通孔には前記突出鋼材および前記壁体連結用鋼材のうちの少なくとも一方が差し込まれ、前記突出鋼材および前記壁体連結用鋼材のうちの少なくとも一方と前記壁体貫通孔の内面との間には、前記突出鋼材および前記壁体連結用鋼材のうちの少なくとも一方と前記壁体貫通孔の内面との間で水平力を伝達できるように間隙材が配置されており、前記鋼管杭は前記杭用さや管に差し込まれ、前記杭用さや管と該杭用さや管に差し込まれた前記鋼管杭とは一体化しており、さらに、前記突出鋼材と前記杭用さや管との間を連結する法直連結鋼材が前記フーチング内に備えられていることを特徴とする堤体である。
【0012】
ここで、本願において、「上方」および「下方」や「上端」および「下端」のように、上下の方向がその概念に含まれる文言は、堤体または堤体の構成部材として使用されている状態を基準として、上下の方向を判断するものとする。
【0013】
また、本願における鋼管杭は、全長が鋼管である鋼管杭だけでなく、上端部(頭部)が鋼管で、それよりも下方の部位が鋼管以外の部材(例えばコンクリート製の部材)で形成されているような杭も含むものとする。
【0014】
また、前記プレキャスト壁体の法線方向とは、該プレキャスト壁体の壁面の延長方向のことであり、前記堤体の延びる方向(海岸線にほぼ沿う方向となることが多い。)のことである。
【0015】
また、「法直連結鋼材」とは、前記プレキャスト壁体の法線方向(前記堤体の延びる方向)と略直交する方向に部材同士を連結する鋼材のことである。
【0016】
また、「前記杭用さや管と該杭用さや管に差し込まれた前記鋼管杭とは一体化しており」とは、前記杭用さや管と該杭用さや管に差し込まれた前記鋼管杭との間で、軸力、せん断力および曲げモーメントが伝達可能な状態であることを意味し、例えば、このような構造としては、鋼管杭外面に凸(又は凹)部、杭用さや管内面に凹(又は凸)部が形成されていて、鋼管杭外面と杭用さや管内面との間にグラウト材などの充填材が充填されてなるせん断抵抗機構(シアキー接合機構)を備えた構造などがある。
【0017】
本発明に係る堤体の第2の態様は、鋼管杭と、該鋼管杭に支持されたフーチングと、該フーチングの上方に配置され、面内方向に延びて下方のみ開口した壁体孔を有するプレキャスト壁体と、を備えた堤体であって、前記プレキャスト壁体および前記フーチングを連結する壁体連結用鋼材をさらに備え、前記フーチングは、該フーチングの上面よりも上方の位置まで延伸している突出鋼材を備え、また、前記フーチングは少なくとも下方に開口した下方開口孔を、上方から見て、前記突出鋼材に対して前記プレキャスト壁体の法線方向と略直交する方向に間隔を開けて有し、該下方開口孔の内面には杭用さや管が備えられ、前記突出鋼材には前記壁体連結用鋼材が上方に延伸するように接合され、前記プレキャスト壁体の前記壁体孔には前記突出鋼材および前記壁体連結用鋼材のうちの少なくとも一方が差し込まれ、前記突出鋼材および前記壁体連結用鋼材のうちの少なくとも一方と前記壁体孔の内面との間には、前記突出鋼材および前記壁体連結用鋼材のうちの少なくとも一方と前記壁体孔の内面との間で水平力を伝達できるように間隙材が配置されており、前記鋼管杭は前記杭用さや管に差し込まれ、前記杭用さや管と該杭用さや管に差し込まれた前記鋼管杭とは一体化しており、さらに、前記突出鋼材と前記杭用さや管との間を連結する法直連結鋼材が前記フーチング内に備えられていることを特徴とする堤体である。
【0018】
本発明に係る堤体の第3の態様は、鋼管杭と、該鋼管杭に支持されたフーチングと、該フーチングの上方に配置され、面内方向に貫通する壁体貫通孔を有する複数のプレキャスト壁体と、を備えた堤体であって、複数の前記プレキャスト壁体および前記フーチングを連結する壁体連結用鋼材をさらに備え、前記フーチングは、該フーチングの上面よりも上方の位置まで延伸している突出鋼材を備え、また、前記フーチングは少なくとも下方に開口した下方開口孔を、上方から見て、前記突出鋼材に対して前記プレキャスト壁体の法線方向と略直交する方向に間隔を開けて有し、該下方開口孔の内面には杭用さや管が備えられ、前記突出鋼材には前記壁体連結用鋼材が上方に延伸するように接合され、前記プレキャスト壁体は、前記壁体貫通孔同士が連結するように鉛直方向に複数積み重ねられ、前記プレキャスト壁体の前記壁体貫通孔には前記突出鋼材および前記壁体連結用鋼材のうちの少なくとも一方が差し込まれ、該壁体連結用鋼材は鉛直方向に複数積み重ねられた前記プレキャスト壁体の最上段の前記プレキャスト壁体の天端付近に達し、前記突出鋼材および前記壁体連結用鋼材のうちの少なくとも一方と前記壁体貫通孔の内面との間には、前記突出鋼材および前記壁体連結用鋼材のうちの少なくとも一方と前記壁体貫通孔の内面との間で水平力を伝達できるように間隙材が配置されており、前記鋼管杭は前記杭用さや管に差し込まれ、前記杭用さや管と該杭用さや管に差し込まれた前記鋼管杭とは一体化しており、さらに、前記突出鋼材と前記杭用さや管との間を連結する法直連結鋼材が前記フーチング内に備えられていることを特徴とする堤体である。
【0019】
本発明に係る堤体の第4の態様は、前記第3の態様の堤体において、鉛直方向に複数積み重ねられた前記プレキャスト壁体のうちの最上段の前記プレキャスト壁体を、面内方向に延びて下方のみ開口した壁体孔を有するプレキャスト壁体に置き換えたことを特徴とする堤体である。
【0020】
本発明に係る堤体の第3または第4の態様において、前記壁体連結用鋼材の上端は、鉛直方向に複数積み重ねられた前記プレキャスト壁体のうちの最上段の前記プレキャスト壁体の高さの2分の1以上の高さ位置に達していることが好ましい。
【0021】
前記間隙材は、例えばグラウト材を用いてもよい。
【0022】
前記杭用さや管と該杭用さや管に差し込まれた前記鋼管杭との間隙にはグラウト材が充填されていてもよい。
【0023】
前記杭用さや管が複数ある場合、上方から見て、前記突出鋼材および複数の前記杭用さや管は前記プレキャスト壁体の法線方向と略直交する方向に間隔を開けて配置されており、かつ、上方から見て、前記突出鋼材は前記プレキャスト壁体の法線方向と略直交する方向に配置された前記杭用さや管の間に位置しているように構成してもよい。
【0024】
前記杭用さや管は複数ある場合、上方から見て、前記突出鋼材および複数の前記杭用さや管は前記プレキャスト壁体の法線方向と略直交する方向に間隔を開けて配置されており、かつ、上方から見て、前記突出鋼材は前記プレキャスト壁体の法線方向と略直交する方向に配置された前記杭用さや管の間に位置していないように構成してもよい。この構成において、複数の前記杭用さや管のうち少なくとも2つの前記杭用さや管が、上方から見て、前記プレキャスト壁体の法線方向と略直交する方向にあって、かつ、お互いに隣り合っている場合、お互いに隣り合っている前記杭用さや管同士の間を連結している一方、前記突出鋼材とは連結していない法直連結鋼材が前記フーチング内にさらに備えられているように構成してもよい。
【0025】
前記法直連結鋼材は、鋼板からビルドアップして製作してもよい。
【0026】
前記杭用さや管は複数ある場合、複数の前記杭用さや管のうち少なくとも2つの前記杭用さや管は、上方から見て、前記プレキャスト壁体の略法線方向に間隔を開けて配置されており、前記略法線方向に配置された少なくとも2つの前記杭用さや管のうちお互いに隣り合う前記杭用さや管同士の間を連結する鋼材がさらに前記フーチング内に備えられているように構成してもよい。
【0027】
前記壁体連結用鋼材は既製の形鋼であってもよい。
【0028】
前記壁体連結用鋼材は、鋼板からビルドアップして製作してもよい。
【0029】
前記壁体連結用鋼材は、断面形状がH形であってもよい。
【0030】
前記フーチングはプレキャスト部材であってもよい。
【0031】
前記プレキャスト壁体は、両端部に前記壁体貫通孔が備えられているように構成してもよい。
【0032】
前記壁体貫通孔の内面に壁体さや管を有していてもよい。
【0033】
本発明に係る堤体用プレキャストフーチングは、上面よりも上方の位置まで延伸している突出鋼材を備える堤体用プレキャストフーチングであって、前記堤体用プレキャストフーチングを堤体の構成部材として用いた状態において、前記堤体用プレキャストフーチングは少なくとも下方に開口した下方開口孔を、上方から見て、前記突出鋼材に対して前記堤体の壁体の法線方向と略直交する方向に間隔を開けて有し、該下方開口孔の内面には杭用さや管が備えられており、さらに、前記突出鋼材と前記杭用さや管との間を連結する法直連結鋼材が内部に備えられていることを特徴とする堤体用プレキャストフーチングである。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る堤体および堤体用プレキャストフーチングによれば、壁体下端部に三重管構造を用いず、かつ、施工性良く短工期で、堤体を構築することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0037】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る堤体10を示す斜視図であり、
図2は、複数の堤体10を一定の方向に隣り合うように配置した状態を示す斜視図である。
図1は、1つの堤体10の完成した状態を示しているが、
図2では、一部の部材の記載を省略しており、手前から順に((A)から(F)の順に)各施工段階も示している。
【0038】
図3は、本発明の第1実施形態に係る堤体10を堤体10の法線方向から見た側面図であり、
図4は、
図3のIV−IV線断面図である。ただし、
図3および
図4では図示をわかりやすくする都合上、本来は見えない内部の構造を記載した箇所もあり、当該箇所では、本来隠れ線として破線で記載すべき線も実線で記載している箇所もある。また、
図3および
図4は、壁体貫通孔16X、18Xの内部空間にグラウト材22を充填した後の状態を示しているが、グラウト材22を充填する前の壁体貫通孔16X、18Xの内面の箇所に符号16X1、18X1を付している。
【0039】
図5は、本発明の第1実施形態に係るプレキャストフーチング14を堤体10の法線方向から見た側面図であり、
図6は、突出鋼材14Aと法直連結鋼材14Cとの連結部および突出鋼材14Aと壁体連結用鋼材20との接合部を拡大して示す斜視図である。
図7は、壁体連結用鋼材20同士の接合部を拡大して示す斜視図である。ただし、
図5では図示をわかりやすくする都合上、コンクリートを2点鎖線で表し、他の構成要素を実線で表している。
【0040】
本第1実施形態に係る堤体10は、鋼管杭12と、プレキャストフーチング14と、壁体部15と、壁体連結用鋼材20と、を備えてなる。壁体部15は、1〜3段目に積まれたプレキャスト壁体16および最上段(4段目)に積まれた最上段プレキャスト壁体18からなる。
【0041】
1つの堤体10は、
図1に示すように、1つの壁体部15と、壁体部15の両端部(法線方向の両端部)を下方から支持する2つのプレキャストフーチング14と、2つのプレキャストフーチング14をそれぞれ2本ずつで下方から支持する合計4本の鋼管杭12と、を備えている。
【0042】
プレキャストフーチング14は、壁体部15の法線方向(堤体10の延びる方向)と直交する水平方向(以下、法直方向と記すことがある。)が長手方向となるように配置されており、プレキャストフーチング14の中央部の上方に壁体部15の端部(法線方向の端部)が位置している。プレキャストフーチング14の両端部(法直方向の両端部)は、鋼管杭12によって下方から支持されている。鋼管杭12は、壁体部15の両端部(法線方向の両端部)それぞれにおいて、壁体部15が中心となるように法直方向に2本ずつ配置されていて、1つの堤体10あたり合計4本配置されている。
【0044】
(1−1)鋼管杭12
鋼管杭12は円筒状の鋼管であり、所定の支持力が確保できる深さまで地中に打ち込まれており、プレキャストフーチング14を下方から支持して堤体10を安定させて、大津波に対しても堤体10全体が転倒することのないようにする役割を有する。
【0045】
前述したように、プレキャストフーチング14の両端部(法直方向の両端部)は、鋼管杭12によって下方から支持されており、鋼管杭12は、壁体部15の端部(法線方向の端部)において、壁体部15が中心となるように法直方向に2本ずつ配置されている。
【0046】
鋼管杭12は、その上端部がプレキャストフーチング14の杭用さや管14Bに差し込まれている。鋼管杭12と杭用さや管14Bとの間にはグラウト材22が充填されており、これにより鋼管杭12はプレキャストフーチング14と一体化している。グラウト材22は、プレキャストフーチング14の天端まで充填されており、鋼管杭12の上端はグラウト材22で覆われている。
【0047】
本第1実施形態に係る堤体10では、全長が鋼管である鋼管杭12を用いているが、本発明に係る堤体において適用可能な杭は全長が鋼管である鋼管杭に限定されるわけではなく、例えば、上端部(頭部)が鋼管で、それよりも下方の部位がコンクリートで形成されているような杭も、本発明に係る堤体に使用可能である。
【0048】
(1−2)プレキャストフーチング14
プレキャストフーチング14は、プレキャスト化されたフーチングである。プレキャストフーチング14は、鋼管杭12と連結されて強固に地盤に固定され、かつ、受圧面積の広い土台であり、堤体10の壁体部15(プレキャスト壁体16および最上段プレキャスト壁体18)を安定性よく支持する役割を有する。
【0049】
図3〜
図5に示すように、プレキャストフーチング14は、1つの突出鋼材14Aと、2つの杭用さや管14Bと、1つの法直連結鋼材14Cと、コンクリート14Dと、を備えてなる。また、
図5に示すように、プレキャストフーチング14は、2つの杭用さや管貫通孔14Xを有し、杭用さや管貫通孔14Xの内面には杭用さや管14Bが備えられている。杭用さや管14Bは、円筒状の鋼管である。
【0050】
前述したように、杭用さや管14Bには、鋼管杭12の上端部が差し込まれていて、杭用さや管14Bと鋼管杭12との間にはグラウト材22が充填されており、これによりプレキャストフーチング14は鋼管杭12と一体化している。
【0051】
充填するグラウト材22はプレキャストフーチング14の天端まで充填して、鋼管杭12の上端をグラウト材22で覆うようにしている。通常は、鋼管杭12の上端の高さ位置はプレキャストフーチング14の天端よりも100mm程度低い位置であるので、鋼管杭12の上端のかぶりは通常100mm程度となる。
【0052】
また、杭用さや管貫通孔14Xに代えて、天端が閉塞された杭用非貫通孔をプレキャストフーチング14に備えさせてもよい。
【0053】
突出鋼材14Aは、
図6に示すように、法直連結鋼材14Cの上フランジ14C1の中央部付近の上面に溶接で接合されて、立設されている。そして、この接合部を補強するべく、法直連結鋼材14Cには、突出鋼材14Aの下方の部位に、板状のリブ材14C4が、上フランジ14C1の下面、下フランジ14C2の上面、およびウェブ14C3に沿って溶接されて取り付けられている。
【0054】
突出鋼材14Aの形状は、必要な性能を有しているのであれば、特には限定されないが、
図6に示すように、例えば断面形状がH形の鋼材を用いることができる。また、突出鋼材14Aの上端には、
図2および
図6に示すように、壁体連結用鋼材20が、添接板50およびボルト50Aによって接合されており、プレキャスト壁体16、18が受けた津波流等の外力は、壁体連結用鋼材20から突出鋼材14Aに伝達され、そして、突出鋼材14Aから法直連結鋼材14Cに伝達される。
【0055】
したがって、突出鋼材14Aは、堤体10の壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が受けた津波流等の外力をプレキャストフーチング14に伝達して、鋼管杭12を介して地盤に伝達する役割を有している。即ち、突出鋼材14Aは、堤体10の上部構造である壁体部15(プレキャスト壁体16、18)と、堤体10の下部構造(プレキャストフーチング14、鋼管杭12)と、を力学的に連結する要となる部材であり、堤体10がその機能を発揮する上で不可欠の部材である。
【0056】
このため、突出鋼材14Aは、津波流等の外力によって生じる断面力を伝達可能な強度および剛性を有することが必要であり、突出鋼材14Aの断面形状は、想定される津波流等の外力に応じて計算により算出される。このため、各種規格に基づく既製の形鋼に、突出鋼材14Aとして適切なものが存在しないことも考えられるので、そのような場合には、鋼板からフランジ、ウェブを切り出し、溶接によりH型断面の部材をビルドアップで製作して、最適な断面の突出鋼材14Aを作製することが好ましい。
【0057】
突出鋼材14Aを、ビルドアップして製作した断面H形の鋼材にする場合、H形の高さおよびフランジ幅ならびにウェブおよびフランジの厚さを調節しやすく、最適なH形の断面にして経済的な設計を行いやすい。なお、断面H形の鋼材とは、断面形状がH形の鋼材のことであり、本願の他の箇所の記載においても同様である。また、断面H形の鋼材をH形鋼と記すことがある。
【0058】
突出鋼材14Aがプレキャストフーチング14の上面から上方に突出している長さは、壁体連結用鋼材20と接合するために用いる添接板50と十分な耐力で接合できる長さであることが必要であり、少なくとも50cmはプレキャストフーチング14の上面から上方に突出していることが好ましい。プレキャストフーチング14の厚さ(通常は1.2〜1.5m程度)および我が国の道路の法規制(運搬対象物の高さについての我が国の道路の法規制)に鑑みると、突出鋼材14Aがプレキャストフーチング14の上面から上方に突出している長さは、通常は、1.5〜1.8m程度に設定することが多くなると考えられる。
【0059】
突出鋼材14Aと壁体連結用鋼材20との接合に用いる添接板50としては、十分な接合耐力が得られる部材であれば用いることができるが、通常は厚さ6〜20mm程度の鋼板を用いることが多くなると考えられる。また、添接板50を、突出鋼材14Aおよび壁体連結用鋼材20と接合する際に用いるボルト50Aは、高力ボルトであることが好ましい。
【0060】
プレキャストフーチング14においては、1つの突出鋼材14Aに対して2つの杭用さや管14Bが、突出鋼材14Aの海側と陸側のそれぞれの側に配置されており、突出鋼材14Aの中心(水平断面の図心)と2つの杭用さや管14Bの中心(水平断面の図心)は、プレキャスト壁体16の法線方向(堤体10の延びる方向)と直交する水平方向(法直方向)の一直線上に位置している。そして、そのような位置関係にある突出鋼材14Aと杭用さや管14Bとは、法直連結鋼材14Cにより連結されている。法直連結鋼材14Cはその材軸方向がプレキャスト壁体16の法直方向となるように配置されている。ここで、突出鋼材14Aの中心(水平断面の図心)とは突出鋼材14Aをその長手方向に対する垂直面で切断して得られる断面の図心のことである。本明細書では、突出鋼材14Aおよび壁体連結用鋼材20ならびに杭用さや管14Bについて「中心」と記載したときには以下同様に解釈する。
【0061】
法直連結鋼材14Cは、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が津波流等から受けた力を、壁体連結用鋼材20および突出鋼材14Aから鋼管杭12に伝達する役割を有する。法直連結鋼材14Cの形状は、必要な性能を有しているのであれば、特には限定されないが、
図6に示すように、例えば断面形状がH形の鋼材を用いることができる。
【0062】
法直連結鋼材14Cが存在することにより、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が津波流等から受けた力は、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)→壁体連結用鋼材20→突出鋼材14A→法直連結鋼材14C→鋼管杭12→地盤のように効率的に伝達していき、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が津波流等から受けた力は地盤に効率的に伝達され、堤体10は津波流に対して強力な抵抗力を発揮することができる。
【0063】
また、法直連結鋼材14Cが存在することにより、前記のような応力伝達経路が確保されるので、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が鋼管杭12の真上に位置していなくても、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が津波流等から受ける力は、鋼管杭12に伝達されて地盤に伝達可能となる。即ち、法直連結鋼材14Cが存在することにより、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)と鋼管杭12との法直方向の位置関係をある程度自由に設定することができるようになる。
【0064】
前記のような応力伝達経路を確保するべく、法直連結鋼材14Cは、津波流等の外力によって生じる断面力を伝達可能な強度および剛性を有することが必要であり、法直連結鋼材14Cの断面形状は、想定される津波流等の外力に応じて計算により算出される。このため、各種規格に基づく既製の形鋼に、法直連結鋼材14Cとして適切なものが存在しないことも考えられるので、そのような場合には、鋼板からフランジ、ウェブを切り出し、溶接によりH型断面の部材をビルドアップで製作して最適な断面とすることが好ましい。
【0065】
法直連結鋼材14Cを、ビルドアップして製作した断面H形の鋼材にする場合、H形の高さおよびフランジ幅ならびにウェブおよびフランジの厚さを調節しやすく、最適なH形の断面にして経済的な設計を行いやすい。
【0066】
プレキャストフーチング14においては、法直連結鋼材14Cはその両端が杭用さや管14Bに溶接により取り付けられているが、必要な応力伝達能力を確保できるのであれば、溶接ではなく機械的な連結機構を用いてもよい。
【0067】
なお、
図2および
図4に示す近接するプレキャストフーチング14同士(例えば、
図4において、符号14P、14Qで示すプレキャストフーチング14)を一体化して、1つのプレキャストフーチングに、2つの突出鋼材14Aと、4つの杭用さや管14Bと、2つの法直連結鋼材14Cと、コンクリート14Dと、を備えさせるようにしてもよい。この場合には、法線方向に隣り合う杭用さや管14B同士を鋼材で連結してもよい。
【0068】
また、
図6に示すように、突出鋼材14Aは、法直連結鋼材14Cの上フランジ14C1の中央部付近の上面に溶接で接合されて、立設されており、本第1実施形態で用いる法直連結鋼材14Cのフランジ14C1、14C2およびウェブ14C3は、突出鋼材14Aによって分断されておらず、それぞれ単一の鋼材からなるが、突出鋼材14Aの下端を法直連結鋼材14Cの下フランジ14C2の下面の位置まで伸ばして、法直連結鋼材を2つに分断するように構成してもよい。その場合は、分断した2つの法直連結鋼材の一端を、それぞれ突出鋼材の両フランジの外面に溶接して、突出鋼材と法直連結鋼材との連結部を構成するようにする。
【0069】
次に、プレキャストフーチング14が備える杭用さや管14Bについて説明する。前述したように、プレキャストフーチング14は、杭用さや管貫通孔14X(以下、貫通孔14Xと記すことがある。)を有し、杭用さや管貫通孔14Xの内面に杭用さや管14Bを備えている(
図5参照)。杭用さや管14Bは円筒状の鋼管である。杭用さや管14Bには鋼管杭12の上端部が差し込まれて一体化される。
【0070】
図3および
図5では、杭用さや管14Bの上端および下端の位置はプレキャストフーチング14の上面および下面と同じ高さ位置となるように描いているが、杭用さや管14Bの下端位置は、プレキャストフーチング14の下面よりも上方に位置してもよく、また、杭用さや管14Bの上端位置はプレキャストフーチング14の上面よりも下方に位置するようにしてもよい。即ち、杭用さや管14Bは杭用さや管貫通孔14Xの内面を全面覆っていなくてもよい。杭用さや管14Bの腐食を防止する観点からは、杭用さや管14Bの下端位置は、プレキャストフーチング14の下面よりも上方に位置した方が好ましく、杭用さや管14Bの上端位置は、プレキャストフーチング14の上面よりも下方に位置した方が好ましい。即ち、杭用さや管14Bが外界に暴露しないようにある程度のかぶりを設けておくことが好ましい。
【0071】
また、杭用さや管14Bは、プレキャストフーチング14のコンクリート打設時には杭用さや管貫通孔14Xの型枠の役割を果たし、杭用さや管14Bの外面はコンクリート打設と同時にプレキャストフーチング14に埋め込まれ、コンクリートとの付着力により、プレキャストフーチング14と一体化している。換言すれば、杭用さや管14Bはコンクリートとの付着力により杭用さや管貫通孔14Xの内面へ取り付けられている。コンクリートとの付着力を向上させる点で、杭用さや管14Bの外面にはずれ止め(シアキー)を設けることが好ましい。ずれ止め(シアキー)としては、例えば丸鋼、溶接ビード、角鋼等を用いることができる。
【0072】
本第1実施形態に係る堤体10においては、杭用さや管14Bとして円筒状の鋼管を用いているが、本発明に係る堤体において用いる杭用さや管の材質は特には限定されず、所定以上の強度、弾性率、およびグラウト材との所定以上の接着力等を有する材料であればよく、例えば鉄鋼材料を好適に用いることができる。また、本発明に係る堤体において用いる杭用さや管の形状は角筒状であってもよい。
【0073】
また、プレキャストフーチング14の上面と地表面との位置関係は特に限定されず、プレキャストフーチング14の上面が地表面とほぼ一致するようにしてもよい。また、プレキャストフーチング14の上面に盛土があってもよく、この場合はプレキャストフーチング14の上面は地表面よりも下方になる。また、プレキャストフーチング14の海側前面に遮水矢板を設ける場合は、プレキャストフーチング14の下面が地表面とほぼ一致するようにしてもよく、この場合はプレキャストフーチング14の上面は地表面よりも上方になる。
【0074】
また、本実施形態では、杭用さや管14Bは杭用さや管貫通孔14Xの内面に備えられているが、杭用さや管14Bが設けられる孔は必ずしも貫通孔である必要はなく、少なくとも下方に開口した孔(下方開口孔)であればよい。
【0075】
(1−3)壁体部15(プレキャスト壁体16および最上段プレキャスト壁体18)ならびに壁体連結用鋼材20
壁体部15を構成するプレキャスト壁体16および最上段プレキャスト壁体18は、プレキャスト化された壁体であり、津波流の進行を直接的に遮り、津波流の内陸への侵入を防止する役割や津波流のエネルギーを減じる役割を有する。本発明の第1実施形態に係る堤体10において、プレキャスト壁体は壁面が鉛直になるように4段に積み重ねられており、下から1〜3段目にはプレキャスト壁体16が用いられており、最上段には最上段プレキャスト壁体18が用いられている。最下段(1段目)のプレキャスト壁体16の壁体貫通孔16Xには、突出鋼材14Aが挿入され、壁体貫通孔16Xの内面16X1と突出鋼材14Aの間にはグラウト材22が充填されて一体化している。このグラウト材22は、壁体貫通孔16Xの内面16X1と突出鋼材14Aの間に配置される間隙材であり、かつ、壁体貫通孔16Xの内面16X1と突出鋼材14Aとを一体化させており、壁体貫通孔16Xの内面16X1と突出鋼材14Aとの間で少なくとも水平力を伝達することができる。
【0076】
また、突出鋼材14Aの上端に壁体連結用鋼材20が接合されて立設しており、1〜3段目のプレキャスト壁体16ならびに最上段プレキャスト壁体18のそれぞれの壁体貫通孔16X、18Xには、
図2および
図3に示すように、上下方向に壁体連結用鋼材20が差し込まれており、4段に積まれた壁体(1〜3段目のプレキャスト壁体16ならびに最上段プレキャスト壁体18)が連結されている。突出鋼材14Aおよび壁体連結用鋼材20は断面形状がH形の鋼材であり、壁体貫通孔16X、18Xは、円柱状の形状である。ただし、本発明に係る堤体に用いるプレキャスト壁体の壁体貫通孔の形状は円柱状に限定されるわけではなく、例えば角柱状であってもよい。
【0077】
壁体連結用鋼材20は、プレキャストフーチング14の突出鋼材14Aの上端に添接板50を介して高力ボルト接合で接合されて立設されており、1〜3段目に配置するプレキャスト壁体16の壁体貫通孔16X、最上段に配置する最上段プレキャスト壁体18の壁体貫通孔18Xに差し込まれ、プレキャストフーチング14と、1〜3段目に配置するプレキャスト壁体16と、最上段に配置する最上段プレキャスト壁体18と、を連結する役割を有する。このため、壁体連結用鋼材20の長さは、最上段プレキャスト壁体18の天端よりもわずかに下(例えば100mm程度下)の位置にまで達する長さとなっている。また、突出鋼材14Aおよび壁体連結用鋼材20と、壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1との間にはグラウト材22が充填されて一体化している。このグラウト材22は、壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1と突出鋼材14Aおよび壁体連結用鋼材20との間に配置される間隙材であり、かつ、壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1と突出鋼材14Aおよび壁体連結用鋼材20とを一体化させており、壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1と突出鋼材14Aおよび壁体連結用鋼材20との間で少なくとも水平力を伝達することができる。
【0078】
ここで、壁体連結用鋼材20は一体的に成形されたものでなくてもよく、
図7に示すように、添接板54およびボルト54A等によって現場で連結して必要な長さを確保するようにしてもよい。また、壁体連結用鋼材20は高さ位置によってその外形(大きさ)や中心(水平断面の図心)の位置が変動してもよい。例えば、壁体連結用鋼材20の高さが高くなるほど壁体部15(プレキャスト壁体16、18)から受ける水平方向の力は小さくなるので、設計計算で安全性を確認した上で、壁体連結用鋼材20の高さが高い位置ほど壁体連結用鋼材20の外形(大きさ)を小さくするようにしてもよい。
【0079】
図8はプレキャスト壁体16の正面図であり、
図9は
図8のIX−IX線断面図である。
図10は最上段プレキャスト壁体18の正面図であり、
図11は
図10のXI−XI線断面図である。なお、説明の都合上、
図8および
図9には壁体さや管16Aを付記しており、
図10および
図11には壁体さや管18Aを付記している。
【0080】
図8、
図9に示すように、プレキャスト壁体16は面内方向(堤体10完成後の鉛直方向)に貫通した壁体貫通孔16Xを両端部に有する。両端部の壁厚は中央部の壁厚よりも厚くなっており、テーパー部16Bにおいて壁厚が変化している。
【0081】
プレキャスト壁体16の標準的な形状は、法線方向の幅が5〜6mで、高さが1.5〜2mで、両端部の壁厚が1.0〜1.4mで、中央部の壁厚が0.5〜0.8mである。
【0082】
また、
図10、
図11に示すように、最上段プレキャスト壁体18(以下、プレキャスト壁体18と記すことがある。)は面内方向(堤体10完成後の鉛直方向)に貫通した壁体貫通孔18Xを両端部に有する。両端部の壁厚は中央部の壁厚よりも厚くなっており、テーパー部18Bにおいて壁厚が変化している。
【0083】
最上段プレキャスト壁体18の標準的な形状は、前述したプレキャスト壁体16の標準的な形状と同様である。
【0084】
なお、プレキャスト壁体16の壁体貫通孔16Xの内面16X1に、
図8および
図9に示すように、壁体さや管16Aを設けてもよい。壁体さや管16Aの上端の高さ位置はプレキャスト壁体16の上面と同じ高さ位置となるようにし、壁体さや管16Aの下端の高さ位置はプレキャスト壁体16の下面と同じ高さ位置となるようにして、壁体さや管16Aが壁体貫通孔16Xの内面16X1を全面覆うようにしてもよい。
【0085】
また、壁体さや管16Aの下端位置は、プレキャスト壁体16の下面よりも上方に位置させてもよく、また、壁体さや管16Aの上端位置はプレキャスト壁体16の上面よりも下方に位置させてもよい。即ち、壁体さや管16Aは壁体貫通孔16Xの内面16X1を全面覆っていなくてもよい。
【0086】
また、最上段プレキャスト壁体18の壁体貫通孔18Xの内面18X1に、
図10および
図11に示すように、壁体さや管18Aを設けてもよい。壁体さや管18Aの上端の高さ位置は、プレキャスト壁体18の上面よりもわずかに下(例えば100mm程度下)の高さ位置とするのがよい、これは、かぶりを確保して壁体さや管18Aの腐食を防止するためである。壁体さや管18Aの下端の高さ位置は、最上段プレキャスト壁体18の下面と同じ高さ位置となるようにしてもよいし、最上段プレキャスト壁体18の下面よりも上方の高さ位置にしてもよい。
【0087】
壁体さや管16A、18Aは、壁体連結用鋼材20の外周を取り囲んで、壁体さや管16A、18Aと壁体連結用鋼材20との間のグラウト材22を拘束し、大津波を受けた時の断面力を確実にプレキャスト壁体16、18から壁体連結用鋼材20に伝達できるようにする役割を果たすことができる。したがって、プレキャスト壁体16に壁体さや管16Aを設け、最上段プレキャスト壁体18に壁体さや管18Aを設ける場合、壁体さや管16Aの高さはプレキャスト壁体16の高さの2分の1以上あることが好ましく、壁体さや管18Aの高さは最上段プレキャスト壁体18の高さの2分の1以上あることが好ましい。
【0088】
また、壁体貫通孔16X、18Xの形状に合わせて、壁体さや管16A、18Aとして円筒状の鋼管を用いることができる。ただし、本発明に係る堤体に用いるプレキャスト壁体の壁体貫通孔の形状が例えば角柱状の場合は、その形状に合わせて、壁体さや管として角筒状の鋼管を用いる。本発明に係る堤体において用いることができる壁体さや管の材質は特には限定されず、所定以上の強度、弾性率、およびグラウト材との所定以上の接着力等を有する材料であればよく、例えば鉄鋼材料を好適に用いることができる。
【0089】
また、大津波を受けた時にプレキャスト壁体16、18に生じる断面力は、上方に位置する壁体ほど断面力が小さくなると考えられるので、安全性を確保できる範囲で上方に位置するプレキャスト壁体の厚さを下方に位置するプレキャスト壁体の厚さよりも薄くしてもよい。ただし、上下のプレキャスト壁体の間で段差が生じないように、上方に位置するプレキャスト壁体の最下部の壁厚は下方に位置するプレキャスト壁体の最上部の壁厚と同じにし、上方に位置するプレキャスト壁体の下部にテーパー部を設けて、最下部から上方に向かって徐々に壁厚が薄くなるようにしておくことが好ましい。
【0090】
また、プレキャスト壁体16、18はそれぞれテーパー部16B、18Bを有するが、テーパー部16B、18Bはなくてもよく、
図12に示す第1実施形態の第1変形例の堤体30のように、直方体の形状であるプレキャスト壁体32および最上段プレキャスト壁体34を用いて堤体を構成してもよい。
【0091】
図12に示す第1実施形態の第1変形例の堤体30において用いるプレキャスト壁体32および最上段プレキャスト壁体34においては、1つのプレキャスト壁体32に1つの壁体貫通孔が設けられ、1つの最上段プレキャスト壁体34に1つの壁体貫通孔が設けられており、1つのプレキャスト壁体32には1本の芯材(突出鋼材14Aおよび壁体連結用鋼材20の少なくとも一方)が挿通され、1つの最上段プレキャスト壁体34には1本の芯材(壁体連結用鋼材20)が挿通されるだけであるので、壁体の安定性の観点から、法線方向に隣り合うプレキャスト壁体32の対向する側面にはお互いに嵌合し合うシアキー(図示せず)をそれぞれ設けておくことが好ましく、法線方向に隣り合う最上段プレキャスト壁体34の対向する側面にはお互いに嵌合し合うシアキー(図示せず)をそれぞれ設けておくことが好ましい。
【0092】
また、
図13に示す第1実施形態の第2変形例の堤体36のように、片方の壁面のみ平坦な面にし、他方の壁面は壁体貫通孔を設けた部位を突出させて形成したプレキャスト壁体38および最上段プレキャスト壁体40を用いて堤体を構成してもよい。
【0093】
なお、
図12および
図13においては、第1実施形態の堤体10を構成する部材と同様の部材には同一の符号を付しており、その部材についての説明は省略する。
【0094】
次に、壁体連結用鋼材20と壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1との間の力の伝達について説明する。
【0095】
壁体連結用鋼材20と壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1との間の力の伝達は、相互に水平方向の力の伝達ができればよいので、壁体連結用鋼材20と壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1との間にグラウト材22を注入してもよいが、例えば、壁体連結用鋼材20と壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1との間に支圧力を伝達する鋼製の支圧板(図示せず)を設置することで断面力の伝達を図ってもよい。この支圧板の形状は、壁体連結用鋼材20の外形および壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1の形状に合う形状にすればよく、かつ、想定される水平力を伝達するのに必要な所定以上の面積で壁体連結用鋼材20および壁体貫通孔16X、18Xの内面16X1、18X1に接触するような形状にすればよい。この支圧板は壁体連結用鋼材20の高さ方向の全長にわたって配置する必要はなく、力の伝達の必要に応じて離散的に配置すればよい。また、この支圧板の材質は、必要な支圧力の伝達ができる材質であれば特に限定されず、鋼に限られない。
【0096】
次に、最上段プレキャスト壁体18の天端の納まり(壁体連結用鋼材20の上端の納まり)について説明する。
【0097】
本第1実施形態に係る堤体10を将来的に嵩上げする必要がない場合には、突出鋼材14Aおよびそれに接合された壁体連結用鋼材20が差し込まれた壁体貫通孔16X、18X(合計4段積まれたプレキャスト壁体16、18の壁体貫通孔16X、18X)の内部に、グラウト材22を、最上段プレキャスト壁体18の天端まで充填して、壁体連結用鋼材20の上端までグラウト材22で覆う。通常は、壁体連結用鋼材20の上端の高さ位置は、最上段プレキャスト壁体18の天端よりも100mm程度低い位置であるので、壁体連結用鋼材20の上端のかぶりは通常100mm程度となる。
【0098】
本第1実施形態に係る堤体10を将来的に嵩上げする可能性がある場合には、グラウト材22の充填高さを、壁体連結用鋼材20の上端から所定の長さだけ下の位置までに止め、将来の嵩上げの際に、嵩上げ用鋼材(図示せず)を壁体連結用鋼材20の上端に連結させることができるようにしておく。グラウト材22で覆われていない壁体連結用鋼材20の上端部には、腐食や損傷防止のための養生を行い、さらにその上に取り外し可能な蓋材を設けて最上段プレキャスト壁体18の壁体貫通孔18Xを塞ぐ。
【0099】
なお、本第1実施形態に係る堤体10を将来的に嵩上げする必要がない場合には、上下に貫通する壁体貫通孔18Xに代えて、天端が閉塞された非貫通孔(下方にのみ開口した非貫通孔)を最上段プレキャスト壁体18に備えさせてもよい。
【0100】
また、壁体連結用鋼材20の上端は、最上段プレキャスト壁体18を安定して支持する点で、最上段プレキャスト壁体18の高さの2分の1以上の高さ位置に達していることが好ましい。
【0101】
また、図示はしていないが、プレキャスト壁体16、18においては、通常の堤体の壁体と同様に、壁体の面内方向に縦横に鉄筋が配置されているとともに壁体の厚さ方向にも鉄筋が配置されている。
【0102】
(1−4)部材についての補足説明
以上説明した第1実施形態に係る堤体10では、1〜3段目の3つのプレキャスト壁体16と最上段プレキャスト壁体18を鉛直方向に合計4段に重ねたが、本発明に係る堤体では、鉛直方向に重ねるプレキャスト壁体の段数は4段に限定されるわけではなく、5段以上に重ねてもよい。また、鉛直方向に重ねるプレキャスト壁体の段数は1〜3段にしてもよい。プレキャスト壁体を何段に重ねるかは、必要な堤体の高さや適用可能なクレーンの種類等によって適宜に設定すればよい。
【0103】
また、第1実施形態に係る堤体10で用いるプレキャスト壁体16、18は、両端部に壁体貫通孔16X、18Xが設けられており、1つのプレキャスト壁体に2つの壁体貫通孔が設けられているが、本発明に係る堤体で用いることができるプレキャスト壁体は、2つの壁体貫通孔を有するプレキャスト壁体に限定されるわけではなく、1つのみの壁体貫通孔を有するプレキャスト壁体(例えば、
図12に示すプレキャスト壁体32、34)であっても本発明に係る堤体に適用可能であり、また、3つ以上の壁体貫通孔を有するプレキャスト壁体であっても本発明に係る堤体に適用可能である。
【0104】
また、法線方向に隣り合うプレキャスト壁体16、18同士の間には、適宜に目地材を原則として配置する。プレキャスト壁体16、18を複数段積む場合には、上下のプレキャスト壁体16、18の間に適宜に目地材を原則として配置する。
【0105】
また、第1実施形態に係る堤体10では、フーチングにプレキャストフーチング14を用いたが、本発明に係る堤体では、フーチングはプレキャスト部材でなくてもよく、現場打ちコンクリートにより形成したフーチングを用いてもよい。
【0106】
また、第1実施形態に係る堤体10のプレキャストフーチング14では、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)の法線方向(堤体10の延びる方向)と直交する水平方向(法直方向)の鋼管杭12の列は1列になっているが、法直方向の鋼管杭12の列は1列でなくてもよく、2列以上であってもよい。
【0107】
また、第1実施形態に係る堤体10では、鋼管杭12、杭用さや管14Bとして円筒状の鋼管を用いたが、本発明に係る堤体で用いることができる鋼管杭および杭用さや管は、必ずしも円筒状の鋼管に限定されるわけではない。
【0108】
なお、プレキャスト部材(プレキャストフーチング14、プレキャスト壁体16、最上段プレキャスト壁体18)の製作は、運搬の手間を少なくするため、現地近傍で行うのがよい。また、運搬の行いやすさの観点から、プレキャスト部材(プレキャストフーチング14、プレキャスト壁体16、最上段プレキャスト壁体18)の重量は、例えば20〜25t程度を目安とすることができる。
【0109】
(1−5)設置手順
第1実施形態に係る堤体10の設置手順の一例を、
図2等を参照しつつ、ステップに分けて説明する。
図2は、第1実施形態に係る堤体10の斜視図であるが、一部の部材の記載を省略しており、手前から順に((A)から(F)の順に)各施工段階の順になっている。
【0110】
<ステップS1>
まず、鋼管杭12を、所定の位置において、所定の支持力が確保できる深さまで地中に打ち込む(
図2(A)参照)。
【0111】
<ステップS2>
次に、クレーンを用いてプレキャストフーチング14を持ち上げ、鋼管杭12の頭部にプレキャストフーチング14の杭用さや管14Bを外挿してプレキャストフーチング14を所定の位置に設置する(
図2(B)参照)。杭用さや管14Bの中心が鋼管杭12の中心と一致していることが好ましいが、厳密に一致することまでは求める必要はない。納まればよいということを原則にしてもよい。
【0112】
そして、プレキャストフーチング14の杭用さや管14Bと該杭用さや管14Bに差し込まれた鋼管杭12との間隙にグラウト材22を充填して、鋼管杭12とプレキャストフーチング14との一体化を行う。グラウト材22は、プレキャストフーチング14の天端まで充填する。
【0113】
<ステップS3>
次に、クレーンを用いて壁体連結用鋼材20を持ち上げ、壁体連結用鋼材20の下端を突出鋼材14Aの上端に添接板50を介して高力ボルト接合で接合する(
図2(C)参照)。
【0114】
<ステップS4>
法線方向に隣り合うプレキャストフーチング14同士の間で、プレキャスト壁体16の下方の領域に現場打ちコンクリート52を打設する(
図2(D)参照)。この現場打ちコンクリート52は洗掘防止のために設けるものである。
【0115】
現場打ちコンクリート52に用いるコンクリートは、設計基準強度24N/mm
2以上のコンクリートであれば使用可能である。
【0116】
<ステップS5>
次に、クレーンを用いて1段目に配置するプレキャスト壁体16を持ち上げ、このプレキャスト壁体16の壁体貫通孔16Xを、壁体連結用鋼材20およびプレキャストフーチング14の突出鋼材14Aに外挿して、プレキャスト壁体16を所定の位置に設置する。
【0117】
その次に、クレーンを用いて2段目に配置するプレキャスト壁体16を持ち上げ、このプレキャスト壁体16の壁体貫通孔16Xを、壁体連結用鋼材20に外挿して、2段目のプレキャスト壁体16を1段目のプレキャスト壁体16の上に設置する(
図2(E)参照)。
【0118】
<ステップS6>
次に、クレーンを用いて3段目に配置するプレキャスト壁体16を持ち上げ、このプレキャスト壁体16の壁体貫通孔16Xを、壁体連結用鋼材20に外挿して、3段目のプレキャスト壁体16を2段目のプレキャスト壁体16の上に設置する。
【0119】
その次に、クレーンを用いて4段目(最上段)に配置する最上段プレキャスト壁体18を持ち上げ、この最上段プレキャスト壁体18の壁体貫通孔18Xを、壁体連結用鋼材20に外挿して、4段目(最上段)の最上段プレキャスト壁体18を3段目のプレキャスト壁体16の上に設置する(
図2(F)参照)。
【0120】
<ステップS7>
合計で4段積まれたプレキャスト壁体16、18の壁体貫通孔16X、18Xの中にグラウト材22を充填して、プレキャスト壁体16、18と、壁体連結用鋼材20および突出鋼材14Aとを一体化する。充填するグラウト材22は特には限定されず、セメント(モルタル)系グラウト材、ガラス系グラウト材、合成樹脂系グラウト材等を用いることができる。
【0121】
なお、グラウト材22の充填は、1〜3段目に配置するプレキャスト壁体16と最上段プレキャスト壁体18の全てを所定の位置に配置した段階で行ってもよいし、1段積むごとに行ってもよいし、あるいは2段積むごとに行ってもよい。
【0122】
なお、前述したように、将来堤体10の嵩上げの可能性がないのであれば、最上段プレキャスト壁体18の天端までグラウト材22を充填し、将来堤体10の嵩上げの可能性があるのであれば、グラウト材22の充填高さを、壁体連結用鋼材20の上端から所定の長さだけ下の位置までに止める。
【0123】
以上のように施工することにより、
図1に示すような堤体10を得ることができる。
【0124】
なお、通常の場合、複数の堤体10を法線方向に隣り合うように配置するが、法線方向に隣り合うように配置した堤体10同士は構造的に連結することは不要である。ただし、法線方向に隣り合うように配置することで生じる隙間は、原則として、シーリング材やコーキング材等の目地材で塞ぐようにする。
【0125】
(1−6)第1実施形態の作用効果
本第1実施形態に係る堤体10においては、突出鋼材14Aと法直連結鋼材14Cとの接合は工場において溶接によりなされており、また、突出鋼材14Aと壁体連結用鋼材20との連結は添接板50を介しての機械的な接合によってなされている。このため、本第1実施形態に係る堤体10においては、壁体部15とプレキャストフーチング14との連結部は、突出鋼材14Aおよび壁体連結用鋼材20の周囲をグラウト材22が取り囲んだだけのコンパクトな構造となっており、特許文献1に記載の技術のような3重管構造にはなっていない。
【0126】
このため、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)の壁体貫通孔16X、18Xの径を小さくすることができ、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)の壁厚を小さくすることができる。
【0127】
また、突出鋼材14Aおよび法直連結鋼材14Cを、ビルドアップして製作した断面H形の鋼材にする場合、H形の高さおよびフランジ幅ならびにウェブおよびフランジの厚さを調節しやすく、最適なH形の断面にして経済的な設計を行いやすい。この点も、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)の壁厚を小さくすることに寄与する。
【0128】
また、特許文献1に記載の技術においては、フーチング内の法直連結鋼材と突出さや管とが構造的に接合しており、さや管の板厚規定(さや管の板厚はさや管径の1/50以上)により、さや管の板厚が想定外力に対して必要な板厚よりも厚くなってしまうことがあったが、本第1実施形態に係る堤体10においては、法直連結鋼材14Cと接合するさや管はないため、このようなことは起こらない。
【0129】
また、本第1実施形態に係る堤体10は、杭式構造物であるので、地盤条件が悪い場所への適用も可能である。
【0130】
施工においては、特許文献1に記載の技術の場合、突出さや管に壁体連結用鋼材を差し込んだ後、突出さや管と壁体連結用鋼材との間にグラウト材を充填して一体化を行い、壁体連結用鋼材を立設してから、プレキャスト壁体の設置を行うが、突出さや管と壁体連結用鋼材との間に充填したグラウト材が初期強度を発現するまで3日間ほどの養生期間を確保することが必要である。これに対して、本第1実施形態に係る堤体10においては、突出鋼材14Aと壁体連結用鋼材20との連結は添接板50を介しての機械的な接合によって行うため、前記3日間ほどの養生期間は不要である。
【0131】
また、前述したように、本第1実施形態に係る堤体10は、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)の壁厚を小さくすることができるので、プレキャスト壁体16、18の重量を小さくすることができ、輸送作業および現地据付作業の容易化を可能にする。
【0132】
(2)第2実施形態
図14は、本発明の第2実施形態に係る堤体60を堤体60の法線方向から見た側面図である。本第2実施形態に係る堤体60の部材のうち、第1実施形態に係る堤体10の部材と対応する同一の部材には同一の符号を付して説明は省略する。
【0133】
第1実施形態に係る堤体10においては、法直方向に並んだ鋼管杭12同士の間の中間位置付近に壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が位置していたが、本第2実施形態に係る堤体60においては、法直方向に並んだ鋼管杭12同士の間に壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が位置しておらず、法直方向に並んだ鋼管杭12同士の間の外側に壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が位置している。このため、堤体60のプレキャストフーチング64内には2つの法直連結鋼材64C、64Dが配置されており、法直方向に並んだ突出鋼材14Aと杭用さや管64Bとを法直連結鋼材64Cが連結し、法直方向に並んだ杭用さや管64B同士の間を法直連結鋼材64Dが連結している。
【0134】
(3)鋼管杭12と壁体部15(プレキャスト壁体16、18)との位置関係
本発明に係る堤体における鋼管杭12と壁体部15(プレキャスト壁体16、18)との位置関係は、第1実施形態に係る堤体10のように、法直方向に並んだ鋼管杭12の間に壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が位置する位置関係でもよく、また、第2実施形態に係る堤体60のように、法直方向に並んだ鋼管杭12同士の間に壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が位置しておらず、法直方向に並んだ鋼管杭12の間の外側に壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が位置する位置関係でもよい。
【0135】
また、法直方向に並んだ鋼管杭12の間に壁体部15(プレキャスト壁体16、18)が位置する場合、鋼管杭12と壁体部15(プレキャスト壁体16、18)との位置関係は、第1実施形態に係る堤体10のように、壁体部15(プレキャスト壁体16、18)の位置が、法直方向に並んだ鋼管杭12同士の間の中間位置付近に位置する位置関係でもよく、また、法直方向に並んだ鋼管杭12同士の間の中間位置付近ではなく、法直方向に並んだ鋼管杭12同士の間の中間位置からずれた位置に位置する位置関係でもよい。