(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに連続しない複数の被成膜部を有する成膜対象部品と、コールドスプレー装置のノズルと、を相対的に移動させながら、前記複数の被成膜部のそれぞれと前記ノズルとを順次対向させ、
前記ノズルに対向した前記被成膜部に、コールドスプレー法により原料粉末を吹き付けて前記複数の被成膜部のそれぞれに皮膜を形成する成膜方法であって、
皮膜が形成された一の被成膜部から、次に皮膜が形成される他の被成膜部に至る前記ノズルのノズル移動経路においては、前記ノズルからの前記原料粉末の吐出を継続するとともに、前記成膜対象部品に対する前記ノズルの角度を、前記ノズルが前記被成膜部に皮膜を形成する際の角度よりも大きく若しくは小さくする成膜方法。
本体部に、シリンダブロック取付面と、前記シリンダブロック取付面に設けられた燃焼室上壁部と、前記燃焼室上壁部に互いに連続しないように設けられた複数の吸気用又は排気用のポートの開口部と、を有するシリンダヘッド粗材と、コールドスプレー装置のノズルと、を相対的に移動させながら、前記複数の開口部のそれぞれと前記ノズルとを順次対向させ、
前記ノズルに対向した前記開口部の環状縁部に、コールドスプレー法により原料粉末を吹き付けて前記複数の開口部のそれぞれにバルブシート膜を形成する成膜方法であって、
前記バルブシート膜が形成された一の開口部から、次にバルブシート膜が形成される他の開口部に至る前記ノズルのノズル移動経路においては、前記ノズルからの前記原料粉末の吐出を継続する成膜方法。
前記ノズル移動経路は、前記ノズルが、前記吸気用のポートの開口部と、前記排気用のポートの開口部との間を移動するように設定されている請求項3〜6のいずれか1項に記載の成膜方法。
前記シリンダヘッド粗材が複数の前記燃焼室上壁部を有し、前記複数の燃焼室上壁部のそれぞれに複数の前記開口部を備える場合に、前記燃焼室上壁部ごとに前記複数の開口部の環状縁部に前記バルブシート膜を形成する請求項3〜9のいずれか1項に記載の成膜方法。
前記ノズル移動経路における前記ノズルの角度を、前記開口部の環状縁部における前記ノズルの角度よりも大きく若しくは小さくする請求項2〜10のいずれか1項に記載の成膜方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず初めに、本実施形態に係る成膜方法を用いて形成されたバルブシート膜を備えるエンジン1について説明する。
図1は、エンジン1の断面図であり、主にシリンダヘッド周りの構成を示している。
【0011】
エンジン1は、シリンダブロック11と、シリンダブロック11の上部に組み付けたシリンダヘッド12とを備える。このエンジン1は、例えば、4気筒のガソリンエンジンであり、シリンダブロック11は、図面奥行き方向に配列した4つのシリンダ11aを有する。各シリンダ11aは、図中の上下方向に往復移動するピストン13を収容している。各ピストン13は、コネクティングロッド13aを介して、図面奥行き方向に延びるクランクシャフト14と連結している。
【0012】
シリンダヘッド12のシリンダブロック11への取り付け面であるシリンダブロック取付面12aには、各シリンダ11aに対応する位置に、各気筒の燃焼室15を構成する4つの燃焼室上壁部12bが設けられている。燃焼室15は、燃料と吸入空気との混合気を燃焼するための空間であり、シリンダヘッド12の燃焼室上壁部12bと、ピストン13の頂面13bと、シリンダ11aの内周面とで構成されている。
【0013】
シリンダヘッド12は、燃焼室15と、シリンダヘッド12の一方の側面12cとを連通する吸気用のポート(以下、吸気ポートという)16を備えている。吸気ポート16は、屈曲した略円筒形状をしており、側面12cに接続したインテークマニホールド(図示せず)からの吸入空気を燃焼室15内へ供給する。燃焼室15に供給された空気は、図示しないインジェクタから供給されたガソリンと混合されて混合気が生成される。
【0014】
また、シリンダヘッド12は、燃焼室15と、シリンダヘッド12の他方の側面12dとを連通する排気用のポート(以下、排気ポートという)17を備えている。排気ポート17は、吸気ポート16と同様に屈曲した略円筒形状をしており、燃焼室15での混合気の燃焼によって生じた排気を、側面12dに接続したエキゾーストマニホールド(図示せず)へ排出する。なお、本実施形態のエンジン1は、マルチバルブタイプのエンジンであり、1つのシリンダ11aに対し、吸気ポート16と排気ポート17とを2つずつ備えている。
【0015】
シリンダヘッド12は、燃焼室15に対して吸気ポート16を開閉する吸気バルブ18と、燃焼室15に対して排気ポート17を開閉する排気バルブ19とを備える。吸気バルブ18及び排気バルブ19は、丸棒状のバルブステム18a、19aと、バルブステム18a、19aの先端に設けた円盤状のバルブヘッド18b、19bとを備えている。バルブステム18a、19aは、シリンダヘッド12に組み付けた略円筒形状のバルブガイド18c、19cにスライド自在に挿通されている。これにより、吸気バルブ18及び排気バルブ19は、燃焼室15に対し、バルブステム18a、19aの軸方向に沿って移動自在とされている。
【0016】
図2に、燃焼室15と、吸気ポート16及び排気ポート17との連通部分を拡大して示している。吸気ポート16は、燃焼室15との連通部分に略円形の開口部16aを備える。この開口部16aの環状縁部に、吸気バルブ18のバルブヘッド18bと当接する環状のバルブシート膜16bを備える。吸気バルブ18は、バルブステム18aの軸方向に沿って上方に移動した場合に、バルブヘッド18bの上面がバルブシート膜16bに当接して吸気ポート16を閉塞する。また、吸気バルブ18は、バルブステム18aの軸方向に沿って下方に移動した場合に、バルブヘッド18bの上面とバルブシート膜16bとの間に隙間を形成して吸気ポート16を開放する。
【0017】
排気ポート17は、吸気ポート16と同様に、燃焼室15との連通部分に略円形の開口部17aを備えており、この開口部17aの環状縁部に、排気バルブ19のバルブヘッド19bと当接する環状のバルブシート膜17bを備えている。排気バルブ19は、バルブステム19aの軸方向に沿って上方に移動した場合に、バルブヘッド19bの上面がバルブシート膜17bに当接して排気ポート17を閉塞する。また、排気バルブ19は、バルブステム19aの軸方向に沿って下方に移動した場合に、バルブヘッド19bの上面とバルブシート膜17bとの間に隙間を形成して排気ポート17を開放する。
【0018】
たとえば、4サイクルのエンジン1は、ピストン13の下降時に吸気バルブ18のみが開き、吸気ポート16からシリンダ11a内に混合気が導入される。なお、筒内噴射方式、いわゆる、直噴方式のエンジンでは、インジェクタからシリンダ11a内にガソリンが噴射され、吸気ポート16からシリンダ11a内に空気が導入されて混合気が生成される。続いて吸気バルブ18および排気バルブ19が閉じた状態でピストン13が上昇してシリンダ11a内の混合気を圧縮し、ピストン13が略上死点に達したときに図示しない点火プラグにより点火して混合気が爆発する。この爆発によりピストン13は下死点まで下降し、連結されたクランクシャフト14を介して爆発を回転力に変換する。ピストン13が下死点に達し、再び上昇を開始すると、排気バルブ19のみが開き、シリンダ11a内の排気を排気ポート17へ排出する。エンジン1は、以上のサイクルを繰り返し行うことにより出力を発生する。
【0019】
バルブシート膜16b、17bは、シリンダヘッド12の開口部16a、17aの環状縁部にコールドスプレー法によって直接形成したものである。コールドスプレー法とは、原料粉末の融点又は軟化点よりも低い温度の作動ガスを超音速流とし、作動ガス中に搬送ガスによって搬送された原料粉末を投入してノズル先端より噴射し、固相状態のまま基材に衝突させ、原料粉末の塑性変形により皮膜を形成するものである。このコールドスプレー法は、材料を溶融させて基材に付着させる溶射法に比べ、大気中で酸化のない緻密な皮膜が得られ、材料粒子への熱影響が少ないので熱変質が抑えられ、成膜速度が速く、厚膜化が可能であり、付着効率が高いといった特性を有する。特に成膜速度が速く、厚膜が可能なことから、エンジン1のバルブシート膜16b、17bのような構造材料としての用途に適している。
【0020】
図3は、コールドスプレー法に用いられるコールドスプレー装置の概略構成を示している。コールドスプレー装置2は、作動ガス及び搬送ガスを供給するガス供給部21と、原料粉末を供給する原料粉末供給部22と、原料粉末をその融点以下の作動ガスを用いて超音速流として噴射するコールドスプレーガン23とを備える。
【0021】
ガス供給部21は、圧縮ガスボンベ21a、作動ガスライン21b及び搬送ガスライン21cを備える。作動ガスライン21b及び搬送ガスライン21cは、それぞれ圧力調整器21d、流量調節弁21e、流量計21f及び圧力ゲージ21gを備えている。圧力調整器21d、流量調節弁21e、流量計21f及び圧力ゲージ21gは、圧縮ガスボンベ21aからの作動ガス及び搬送ガスの圧力及び流量の調整に供される。
【0022】
作動ガスライン21bには、電力源21hにより加熱されるヒータ21iを設置している。作動ガスは、ヒータ21iによって原料の融点又は軟化点より低い温度に加熱した後、コールドスプレーガン23中のチャンバ23a内に導入される。チャンバ23aには、圧力計23bと温度計23cが設置され、圧力及び温度のフィードバック制御に供される。
【0023】
一方、原料粉末供給部22は、原料粉末供給装置22aと、これに付設される計量器22b及び原料粉末供給ライン22cを備えている。圧縮ガスボンベ21aからの搬送ガスは、搬送ガスライン21cを通り、原料粉末供給装置22aに導入される。計量器22bにより計量された所定量の原料粉末は、原料粉末供給ライン22cを経て、チャンバ23a内に搬送される。
【0024】
コールドスプレーガン23は、搬送ガスによりチャンバ23a内に搬送された原料粉末Pを、作動ガスにより超音速流としてノズル23dの先端から噴射し、固相状態又は固液共存状態で基材24に衝突させて皮膜24aを形成する。本実施形態では、基材24としてシリンダヘッド12を適用し、このシリンダヘッド12の開口部16a、17aの環状縁部にコールドスプレー法によって原料粉末Pを噴射することにより、バルブシート膜16b、17bを形成している。
【0025】
シリンダヘッド12のバルブシートには、燃焼室15内におけるバルブからの叩き入力に耐える高い耐熱性及び耐磨耗性と、燃焼室15の冷却のための高い熱伝導性とが要求される。これらの要求に対し、例えば、析出硬化型銅合金の粉末により形成したバルブシート膜16b、17bによれば、鋳物用アルミ合金で形成したシリンダヘッド12よりも硬く、耐熱性及び耐磨耗性に優れたバルブシートを得ることができる。
【0026】
また、バルブシート膜16b、17bは、シリンダヘッド12に直接形成しているので、ポート開口部に別部品のシートリングを圧入して形成する従来のバルブシートに比べ、高い熱伝導性を得ることができる。さらには、別部品のシートリングを利用する場合に比べ、冷却用のウォータージャケットとの近接化を図ることができる他、吸気ポート16及び排気ポート17のスロート径の拡大、ポート形状の最適化によるタンブル流の促進などの副次的効果も得ることができる。
【0027】
バルブシート膜16b、17bの形成に用いる原料粉末としては、鋳物用アルミ合金よりも硬質で、バルブシートに必要な耐熱性、耐磨耗性及び熱伝導性が得られる金属であることが好ましく、例えば、上述した析出硬化型銅合金を用いることが好ましい。また、析出硬化型銅合金としては、ニッケル及びケイ素を含むコルソン合金や、クロムを含むクロム銅、ジルコニウムを含むジルコニウム銅等を用いてもよい。さらに、例えば、ニッケル、ケイ素及びクロムを含む析出硬化型銅合金、ニッケル、ケイ素及びジルコニウムを含む析出硬化型銅合金、ニッケル、ケイ素、クロム及びジルコニウムを含む析出硬化型合金、クロム及びジルコニウムを含む析出硬化型銅合金等を適用することもできる。
【0028】
また、複数種類の原料粉末、例えば、第1の原料粉末と第2の原料粉末とを混合してバルブシート膜16b、17bを形成してもよい。この場合、第1の原料粉末には、鋳物用アルミ合金よりも硬質で、バルブシートに必要な耐熱性、耐磨耗性及び熱伝導性が得られる金属を用いることが好ましく、例えば、上述した析出硬化型銅合金を用いることが好ましい。また、第2の原料粉末としては、第1の原料粉末よりも硬質な金属を用いることが好ましい。この第2の原料粉末には、例えば、鉄基合金、コバルト基合金、クロム基合金、ニッケル基合金、モリブデン基合金等の合金や、セラミックス等を適用してもよい。また、これらの金属の1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0029】
第1の原料粉末と、第1の原料粉末よりも硬質な第2の原料粉末とを混合して形成したバルブシート膜は、析出硬化型銅合金のみで形成したバルブシート膜よりも優れた耐熱性、耐磨耗性を得ることができる。このような効果が得られるのは、第2の原料粉末により、シリンダヘッド12の表面に存在する酸化皮膜が除去されて新生界面が露出形成され、シリンダヘッド12と金属皮膜との密着性が向上するためと考えられる。また、第2の原料粉末がシリンダヘッド12にめり込むことによるアンカー効果により、シリンダヘッド12と原料皮膜との密着性が向上するためとも考えられる。さらには、第1の原料粉末が第2の原料粉末に衝突したときに、その運動エネルギの一部が熱エネルギに変換され、あるいは第1の原料粉末の一部が塑性変形する過程で発生する熱により、第1の原料粉末として用いた析出硬化型銅合金の一部における析出硬化がより促進されるためとも考えられる。
【0030】
次に、本実施形態のシリンダヘッド12の製造方法について説明する。
図4は、シリンダヘッド12の製造工程のうち、吸気ポート16と排気ポート17とにバルブシート膜16b、17bを形成するための手順を示す工程図である。この工程図に示すように、本実施形態のシリンダヘッド12は、鋳造工程(ステップS1)と、切削工程(ステップS2)と、成膜工程(ステップS3)と、仕上工程(ステップS4)とによって、バルブシート膜16b、17bが形成される。なお、バルブシート膜16b、17bを形成するための工程以外の工程については、説明の簡略化のため詳しい説明は省略する。
【0031】
鋳造工程S1では、砂中子がセットされた金型に鋳物用アルミ合金を流し込み、本体部に吸気ポート16や排気ポート17等が形成されたシリンダヘッド粗材3(
図5参照)を鋳造成形する。吸気ポート16及び排気ポート17は砂中子により形成され、燃焼室上壁部12bは金型で形成される。
【0032】
図5は、鋳造工程S1で鋳造成形されたシリンダヘッド粗材3を、シリンダブロック取付面12a側から見た斜視図である。シリンダヘッド粗材3は、4気筒ガソリンエンジンのシリンダヘッド粗材であり、シリンダブロック取付面12aには、その長手方向に沿って配列するように、4つの燃焼室上壁部12b
1〜12b
4が設けられている。シリンダブロック取付面12aには、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の周囲に、冷却水が流されるウォータージャケットの複数の開口部12eが設けられている。ウォータージャケットの開口部12eは、シリンダヘッド12がシリンダブロック11に取り付けられた際に、シリンダブロック11のウォータージャケットの開口部と連通する。
【0033】
燃焼室上壁部12b
1〜12b
4は、略円形状をしており、シリンダブロック取付面12aに対して凹状に窪んでいる。燃焼室上壁部12b
1には、吸気ポート16の2つの開口部16a
1、16a
2と、排気ポート17の2つの開口部17a
1、17a
2と、プラグ孔12f
1と、インジェクタ孔12g
1とが設けられている。同様に、燃焼室上壁部12b
2には、吸気ポート16の2つの開口部16a
3、16a
4と、排気ポート17の2つの開口部17a
3、17a
4と、プラグ孔12f
2と、インジェクタ孔12g
2とが設けられている。また、燃焼室上壁部12b
3には、吸気ポート16の2つの開口部16a
5、16a
6と、排気ポート17の2つの開口部17a
5、17a
6と、プラグ孔12f
3と、インジェクタ孔12g
3とが設けられている。燃焼室上壁部12b
4には、吸気ポート16の2つの開口部16a
7、16a
8と、排気ポート17の2つの開口部17a
7、17a
8と、プラグ孔12f
4と、インジェクタ孔12g
4とが設けられている。
【0034】
プラグ孔12f
1〜12f
4は、点火プラグを取り付けるための孔であり、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の略中央に配置されている。したがって、シリンダヘッド粗材3に設けられている4つのプラグ孔12f
1〜12f
4は、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って配列されている。
【0035】
吸気ポート16の2つの開口部16a
1、16a
2は、燃焼室上壁部12b
1の縁部に接する位置で、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿うように配列されている。また、開口部16a
3〜16a
8も同様に、燃焼室上壁部12b
2〜12b
4の縁部に接する位置で、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿うように配列されている。したがって、シリンダヘッド粗材3に設けられている8つの吸気用の開口部16a
1〜16a
8は、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って配列されている。各燃焼室上壁部12b
1〜12b
4にそれぞれ設けられた2本の吸気ポート16は、シリンダヘッド粗材3内で1本に集合され、シリンダヘッド粗材3の側面まで連通されている。
【0036】
また、排気ポート17の2つの開口部17a
1、17a
2は、燃焼室上壁部12b
1の開口部16a
1、16a
2に対し、プラグ孔12f
1を挟んだ反対側の縁部に接する位置で、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿うように配列されている。また、開口部17a
1〜17a
8も同様に、燃焼室上壁部12b
2〜12b
4の縁部に接する位置で、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿うように配列されている。したがって、シリンダヘッド粗材3に設けられている8つの排気用の開口部17a
1〜17a
8は、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って配列されている。各燃焼室上壁部12b
1〜12b
4にそれぞれ設けられた2本の排気ポート17は、シリンダヘッド粗材3内で1本に集合され、シリンダヘッド粗材3の側面まで連通されている。
【0037】
インジェクタ孔12g
1〜12g
4は、燃料噴射用のインジェクタ装置を取り付けるための孔である。インジェクタ孔12g
1は、2つの開口部16a
1、16a
2の間で、かつ、燃焼室上壁部12b
1の縁部に接するように配置されている。また、インジェクタ孔12g
1と同様に、インジェクタ孔12g
2〜12g
4も燃焼室上壁部12b
2〜12b
4に配置されている。したがって、シリンダヘッド粗材3に設けられた4つのインジェクタ孔12g
1〜12g
4は、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って配列されている。
【0038】
次に、切削工程S2について説明する。
図6Aは、
図5のVI−VI線に沿うシリンダヘッド粗材3の断面図であり、燃焼室上壁部12b
1の吸気ポート16の断面形状を示している。吸気ポート16には、シリンダヘッド粗材3の燃焼室上壁部12b
1内に露呈された円形の開口部16a
1が設けられている。切削工程S2では、シリンダヘッド粗材3にエンドミルやボールエンドミル等によるフライス加工を施し、
図6Bに示すように、吸気ポート16の開口部16a
1の環状縁部に環状バルブシート部16cが形成される。環状バルブシート部16cは、バルブシート膜16bのベース形状となる環状溝であり、開口部16a
1の外周に形成される。
【0039】
本実施形態のシリンダヘッド12は、環状バルブシート部16cにコールドスプレー法により原料粉末Pを吹き付けて皮膜を形成し、この皮膜を基にしてバルブシート膜16b(
図6D参照)を形成する。そのため、環状バルブシート部16cは、バルブシート膜16bよりも一回り大きなサイズで形成されている。
【0040】
成膜工程S3では、シリンダヘッド粗材3の開口部16a
1〜16a
8に、本実施形態のコールドスプレー装置2を利用して原料粉末Pを吹き付けて、バルブシート膜16bが形成される。シリンダヘッド粗材3は、本発明の成膜対象部品に相当し、開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8は、本発明の被成膜部に相当する。成膜工程S3では、環状バルブシート部16cと、コールドスプレーガン23のノズル23dとを同じ姿勢で一定距離に保ちながら、原料粉末Pが環状バルブシート部16cの全周に吹き付けられるように、シリンダヘッド粗材3とノズル23dとを一定速度で相対的に移動させる。
【0041】
この実施形態では、例えば、
図7に示すワーク回転装置4を利用し、シリンダヘッド粗材3を、固定配置されたコールドスプレーガン23のノズル23dに対して移動させる。ワーク回転装置4は、シリンダヘッド粗材3を保持するワークテーブル41と、チルトステージ部42と、XYステージ部43と、回転ステージ部44と、コントローラ45とを備える。
【0042】
チルトステージ部42は、ワークテーブル41を支持し、ワークテーブル41を水平方向に配したA軸の周りで回動させて、シリンダヘッド粗材3を傾けるステージである。XYステージ部43は、チルトステージ部42を支持するY軸ステージ43aと、Y軸ステージ43aを支持するX軸ステージ43bとを備える。Y軸ステージ43aは、水平方向に配したY軸に沿ってチルトステージ部42を移動する。X軸ステージ43bは、水平面上においてY軸に直交するX軸に沿って、Y軸ステージ43aを移動する。これにより、XYステージ部43は、シリンダヘッド粗材3をX軸及びY軸に沿って任意の位置に移動する。回転ステージ部44は、その上面にXYステージ部43を支持する回転テーブル44aを有し、この回転テーブル44aを回転することにより、シリンダヘッド粗材3を略垂直方向のZ軸の周りで回転する。
【0043】
コントローラ45は、チルトステージ部42と、XYステージ部43と、回転ステージ部44との移動を制御する制御装置である。コントローラ45には、シリンダヘッド粗材3をコールドスプレー装置2のノズル23dに対して移動させるティーチングプログラムがインストールされている。
【0044】
コールドスプレーガン23のノズル23dの先端は、チルトステージ部42の上方で、回転ステージ部44のZ軸の近傍に固定配置されている。コントローラ45は、
図6Cに示すように、チルトステージ部42により、バルブシート膜16bが形成される吸気ポート16の中心軸Cが垂直になるようにワークテーブル41を傾ける。また、コントローラ45は、XYステージ部43により、バルブシート膜16bが形成される吸気ポート16の中心軸Cが、回転ステージ部44のZ軸に一致するようにシリンダヘッド粗材3を移動する。この状態で、ノズル23dから環状バルブシート部16cに原料粉末Pを吹き付け、回転ステージ部44によりシリンダヘッド粗材3をZ軸周りで回転させることにより、環状バルブシート部16cの全周にバルブシート膜16bを形成する。
【0045】
コントローラ45は、シリンダヘッド粗材3がZ軸の周りで1回転して、開口部16a
1に対するバルブシート膜16bの形成が終了すると、回転ステージ部44の回転を一旦停止する。この回転停止中に、XYステージ部43は、次にバルブシート膜16bが形成される開口部16a
2の中心軸Cが回転ステージ部44のZ軸に一致するように、シリンダヘッド粗材3を移動する。コントローラ45は、XYステージ部43によるシリンダヘッド粗材3の移動終了後、回転ステージ部44の回転を再開させ、次の開口部16a
2の環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する。以降、この動作を繰り返すことにより、シリンダヘッド粗材3の全ての開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8にバルブシート膜16b、17bが形成される。なお、吸気ポート16と排気ポート17との間でバルブシート膜の形成対象が切り替わる際には、排気ポート17の中心軸が垂直になるように、チルトステージ部42によってシリンダヘッド粗材3の傾きが変更される。
【0046】
仕上工程S4では、バルブシート膜16b、17bと、吸気ポート16及び排気ポート17の仕上加工が行われる。バルブシート膜16b、17bの仕上加工では、ボールエンドミルを用いたフライス加工によりバルブシート膜16b、17bの表面を切削し、バルブシート膜16bを所定形状に整える。
【0047】
また、吸気ポート16の仕上加工では、開口部16a
1から吸気ポート16内にボールエンドミルを挿入し、
図6Dに示す加工ラインPLに沿って吸気ポート16の開口部16a
1側の内周面を切削する。加工ラインPLは、吸気ポート16内に原料粉末Pが飛散して付着した余剰皮膜Sfが比較的厚く形成される範囲、より具体的には、余剰皮膜Sfが吸気ポート16の吸気性能に影響を及ぼす程度に厚く形成される範囲である。
【0048】
このように、仕上工程S4により、鋳造成形による吸気ポート16の表面荒れが解消されるとともに、成膜工程S3で形成された余剰皮膜Sfを除去することができる。
図6Eに、仕上工程S4後の吸気ポート16を示す。
【0049】
なお、排気ポート17は、吸気ポート16と同様に、鋳造成形による排気ポート17の形成、切削加工による環状バルブシート部17c(
図2参照)の形成、コールドスプレー法によるバルブシート膜16b、17bの形成、仕上加工を経てバルブシート膜17bが形成される。そのため、排気ポート17に対するバルブシート膜17bの形成手順については、詳しい説明を省略する。
【0050】
《第1実施形態》
ところで、以上で説明した成膜工程S3には、(1)成膜工程のサイクルタイムが長くなる、(2)余剰皮膜が形成される、という2つの問題がある。問題(1)は、コールドスプレー装置2の特性によるものである。すなわち、コールドスプレー装置2は、原料粉末Pの吹き付けをいったん停止すると、再び原料粉末Pが安定して吹き付けられるようになるまでに数分間の待機時間を必要とする。そのため、複数の開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8にバルブシート膜16b、17bを形成する場合に、開口部毎に原料粉末Pの吹き付けと、吹き付けの停止とを繰り返すと、成膜工程S3のサイクルタイムが長くなる。
【0051】
問題(2)は、問題(1)を解決するために、本発明を適用することによって発生する問題である。すなわち、本発明の実施形態では、成膜工程S3のサイクルタイムに関する問題(1)を解決するために、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出を継続したまま、ノズル23dを開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の間で移動させるものである。これによれば、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出を停止しないので、待機時間は不要となり、成膜工程S3のサイクルタイムは短くなるが、シリンダヘッド粗材3の開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8以外の部分に原料粉末Pが付着して余剰皮膜が形成される、という問題(2)が発生する。特に、余剰皮膜が吸気ポート16及び排気ポート17の加工ラインPLよりも奥に形成されると、後加工で余剰皮膜を除去することができないので、エンジン性能に影響を及ぼす可能性がある。
【0052】
図8Aは、上述した問題(2)が発生する吸気用ノズル移動経路Inp、及び排気用ノズル移動経路Enpを示している。吸気用ノズル移動経路Inpは、ノズル23dにより吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8にバルブシート膜16bを形成する際に、シリンダヘッド粗材3に対して移動されるノズル23dの移動経路である。また、排気用ノズル移動経路Enpは、ノズル23dにより排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8にバルブシート膜17bを形成する際に、シリンダヘッド粗材3に対して移動されるノズル23dの移動経路である。吸気用ノズル移動経路Inp、及び排気用ノズル移動経路Enpは、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿うように設定されている。
【0053】
ノズル23dは、吸気用ノズル移動経路Inpに沿って移動する間に、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8に対し、順にバルブシート膜16bを形成する。また、ノズル23dは、バルブシート膜16bの形成を終えた開口部(例えば、開口部16a
1)から、次にバルブシート膜16bが形成される開口部(例えば、開口部16a
2)へ移動する際に、バルブシート膜16bの形成を終えた開口部(例えば、開口部16a
1)の上方を移動する。同様に、ノズル23dは、排気用ノズル移動経路Enpに沿って移動する間に、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8に対し、順にバルブシート膜17bを形成する。また、ノズル23dは、バルブシート膜17bの形成を終えた開口部(例えば、開口部17a
1)から、次にバルブシート膜17bが形成される開口部(例えば、開口部17a
2)へ移動する際に、バルブシート膜17bの形成を終えた開口部(例えば、開口部17a
1)の上方を移動する。
【0054】
図8Bは、吸気用ノズル移動経路Inp、及び排気用ノズル移動経路Enpに沿って移動されたノズル23dにより、バルブシート膜16b、17bが形成されたシリンダヘッド粗材3のシリンダブロック取付面12aを示している。この
図8Bに示すように、ノズル23dが開口部16a1〜16a8及び開口部17a1〜17a8の上方を移動するので、吸気ポート16及び排気ポート17の加工ラインPLよりも奥には、除去できない余剰皮膜Sfが形成されてしまう。
【0055】
本実施形態に係る成膜工程S3は、本発明に係る成膜方法を実施する一実施の形態であり、上述した問題(1)、(2)を解決するために、
図9Aに示すように、
図8Aの吸気用ノズル移動経路Inp、及び排気用ノズル移動経路Enpとは異なる吸気用ノズル移動経路Inp1、及び排気用ノズル移動経路Enp1を設定している。ここで、ノズル移動経路とは、バルブシート膜が形成された開口部から、次にバルブシート膜が形成される開口部へと至るノズル23dの移動経路である。このノズル移動経路には、ノズル23dがシリンダヘッド粗材3の外部から、最初にバルブシート膜が形成される開口部(例えば、開口部16a
1)まで移動する経路と、最後にバルブシート膜が形成された開口部(例えば、開口部16a
8)から、シリンダヘッド粗材3の外部まで移動する経路とが含まれる。また、以下では、開口部にバルブシート膜を形成するために、ノズル23dが開口部の上をなぞるように移動する経路を成膜経路と言う。
【0056】
図9Aは、シリンダヘッド粗材3のシリンダブロック取付面12aを示す平面図であり、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8にバルブシート膜16bを形成するための吸気用ノズル移動経路Inp1と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8にバルブシート膜17bを形成するための排気用ノズル移動経路Enp1とを示している。また、
図10は、
図9Aに示すシリンダヘッド粗材3のうち、左端の燃焼室上壁部12b
1を拡大して示している。
【0057】
吸気用ノズル移動経路Inp1は、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との間で、開口部16a
1〜16a
8に接するように、開口部16a
1〜16a
8の配列方向に沿って直線状に設定されている。ノズル23dは、図中左方から右方に向かって、吸気用ノズル移動経路Inp1上を移動する。この吸気用ノズル移動経路Inp1により、ノズル23dは、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との上方を移動せず、その代わりに、シリンダブロック取付面12aの上方と、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の上方とを移動する。
【0058】
このように設定された吸気用ノズル移動経路Inp1に対し、各開口部16a
1〜16a
8の環状バルブシート部16cの上には、環状の吸気用成膜経路Idp1が吸気用ノズル移動経路Inp1に接するように設定されている。また、吸気用ノズル移動経路Inp1と吸気用成膜経路Idp1とが接する位置には、ノズル23dにより、開口部16a
1〜16a
8の環状バルブシート部16cに対する原料粉末Pの吹き付けが開始される成膜開始位置Is1と、環状バルブシート部16cに対する原料粉末Pの吹き付けが終了される成膜終了位置Ie1とが設定されている。
【0059】
排気用ノズル移動経路Enp1は、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との間で、開口部17a
1〜17a
8に接するように、開口部17a
1〜17a
8の配列方向に沿って直線状に設定されている。ノズル23dは、図中左方から右方に向かって、排気用ノズル移動経路Enp1上を移動する。この排気用ノズル移動経路Enp1により、ノズル23dは、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との上方を移動せず、その代わりに、シリンダブロック取付面12aの上方と、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の上方とを移動する。
【0060】
このように設定された排気用ノズル移動経路Enp1に対し、各開口部17a
1〜17a
8の環状バルブシート部17cの上には、環状の排気用成膜経路Edp1が排気用ノズル移動経路Enp1に接するように設定されている。また、排気用ノズル移動経路Enp1と排気用成膜経路Edp1とが接する位置には、ノズル23dにより、開口部17a
1〜17a
8の環状バルブシート部17cに原料粉末Pの吹き付けが開始される成膜開始位置Es1と、環状バルブシート部17cに対する原料粉末Pの吹き付けが終了される成膜終了位置Ee1とが設定されている。
【0061】
なお、
図9Aでは、吸気用成膜経路Idp1の成膜開始位置Is1と、成膜終了位置Ie1とを離れた位置に描いているが、実際には、成膜開始位置Is1の上に成膜終了位置Ie1が重なるように設定されている。
図11は、開口部16a
1の環状バルブシート部16cに、バルブシート膜16bを形成した直後の成膜開始位置Is1と、成膜終了位置Ie1とを示す断面図である。この断面図に示すように、成膜開始位置Is1と成膜終了位置Ie1は同じ位置に設定されており、成膜開始位置Is1で形成されたバルブシート膜16bの端部16b
1の上に、成膜終了位置Ie1で形成されたバルブシート膜16bの端部16b
2が重なるように形成されている。したがって、バルブシート膜16bは、開口部16a
1〜16a
8の全周に渡って隙間なく形成される。なお、成膜開始位置Is1と成膜終了位置Ie1とが重なる位置では、他の部分よりも皮膜は厚くなるが、仕上工程S4で厚みが均一になるように切削される。また、排気用成膜経路Edp1における成膜開始位置Es1と成膜終了位置Ee1との位置関係は、吸気用成膜経路Idp1の成膜開始位置Is1と成膜終了位置Ie1との位置関係と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0062】
ノズル23dは、吸気用ノズル移動経路Inp1及び吸気用成膜経路Idp1を次のように移動する。なお、本実施形態では、実際にはノズル23dが固定されて、シリンダヘッド粗材3が移動されているが、吸気用ノズル移動経路Inp1及び吸気用成膜経路Idp1におけるノズル23dの動きを明確にするために、以下では、ノズル23dが移動している状態として説明している。
【0063】
ノズル23dは、原料粉末Pの吹き付けを行いながら、開口部16a
1〜16a
8の配列方向、すなわち、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って、吸気用ノズル移動経路Inp1上を直線的に移動する。ノズル23dは、シリンダヘッド粗材3の外部からシリンダブロック取付面12aの上方に移動すると、シリンダブロック取付面12aの上方を通過して最初の開口部16a
1の上方まで移動する。ノズル23dは、最初の成膜開始位置Is1に到達すると、逆方向に折り返すようにして進行方向を転換し、吸気用成膜経路Idp1に沿って、環状バルブシート部16cの上をなぞるように反時計周りに移動し、開口部16a
1の環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する。
【0064】
ノズル23dは、最初の成膜終了位置Ie1まで移動すると、逆方向に折り返すようにして進行方向を転換し、再び吸気用ノズル移動経路Inp1に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方を移動し、次の開口部16a
2の成膜開始位置Is1まで移動する。ノズル23dは、開口部16a
2の成膜開始位置Is1に到達すると、吸気用成膜経路Idp1に沿って、2つ目の開口部16a
2をなぞるように開口部16a
2の上方を図中反時計周りに移動し、開口部16a
2の環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する。
【0065】
ノズル23dは、開口部16a
2の成膜終了位置Ie1まで移動すると、再び吸気用ノズル移動経路Inp1に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、次の燃焼室上壁部12b
2の開口部16a
3の成膜開始位置Is1に移動する。以後、燃焼室上壁部12b
2〜12b
4の開口部16a
3〜16a
8に対し、開口部16a
1、16a
2と同様にバルブシート膜16bを形成する。ノズル23dは、最後の開口部16a
8に対するバルブシート膜16bの形成を終えた後、吸気用ノズル移動経路Inp1に沿って燃焼室上壁部12b
4の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、シリンダヘッド粗材3の外部に移動される。
【0066】
吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8に対するバルブシート膜16bの形成を終えると、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8に対するバルブシート膜16bの形成が開始される。ノズル23dは、原料粉末Pの吹き付けを行いながら、開口部17a
1〜17a
8の配列方向、すなわち、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って、排気用ノズル移動経路Enp1上を直線的に移動する。ノズル23dは、シリンダヘッド粗材3の外部からシリンダブロック取付面12aの上方に移動すると、シリンダブロック取付面12aの上方を通過して最初の開口部17a
1の上方まで移動する。ノズル23dは、最初の成膜開始位置Es1に到達すると、逆方向に折り返すようにして進行方向を転換し、排気用成膜経路Edp1に沿って、環状バルブシート部の上をなぞるように時計周りに移動し、開口部17a
1の環状バルブシート部17cにバルブシート膜16bを形成する。
【0067】
ノズル23dは、開口部17a
1の成膜終了位置Ee1まで移動すると、再び、排気用ノズル移動経路Enp1に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方を移動し、次の開口部17a
2の成膜開始位置Es1まで移動する。ノズル23dは、次の開口部17a
2の成膜開始位置Es1に到達すると、排気用成膜経路Edp1に沿って、2つ目の開口部17a
2をなぞるように開口部17a
2の上方を図中時計周りに移動し、開口部17a
2の環状バルブシート部17cにバルブシート膜17bを形成する。
【0068】
ノズル23dは、開口部17a
2の成膜終了位置Ee1まで移動すると、再び排気用ノズル移動経路Enp1に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、次の燃焼室上壁部12b
2の開口部16a
3の成膜開始位置Es1に移動する。以後、燃焼室上壁部12b
2〜12b
4の開口部17a
3〜17a
8に対し、開口部17a
1、17a
2と同様にバルブシート膜17bを形成する。ノズル23dは、最後の開口部17a
8に対するバルブシート膜17bの形成を終えた後、排気用ノズル移動経路Enp1に沿って燃焼室上壁部12b
4の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、シリンダヘッド粗材3の外部に移動される。
【0069】
図9Bは、バルブシート膜16b、17bが形成された後のシリンダヘッド粗材3のシリンダブロック取付面12aを示す。この
図9Bに示すように、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8にはバルブシート膜16bが形成され、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8にはバルブシート膜17bが形成される。また、シリンダブロック取付面12aと、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4とに余剰皮膜Sfが形成されるが、吸気ポート16及び排気ポート17の奥には余剰皮膜Sfは形成されない。
【0070】
このように、ノズル23dによる原料粉末Pの吹き付けを継続しながら、ノズル23dを開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の間で移動させるので、原料粉末Pの吹き付けと、吹き付け停止とを繰り返して複数の開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8にバルブシート膜16b、17bを形成する場合よりも、成膜工程S3のサイクルタイムを短くすることができる。
【0071】
また、吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1は、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との上方を移動せず、その代わりに、シリンダブロック取付面12aの上方と、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の上方とを移動するように設定されているので、余剰皮膜Sfが吸気ポート16や排気ポート17の奥の除去できない位置に形成されるのを防ぐことができる。
【0072】
また、シリンダブロック取付面12aの上には余剰皮膜Sfが形成されるが、シリンダブロック取付面12aは、平面度を高めるために従来からフライス盤などで後加工されているので、新たな工程を設けなくてもシリンダブロック取付面12aに形成された余剰皮膜Sfは除去することが可能である。さらに、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4にも余剰皮膜Sfは形成されるが、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4は外部に露呈されているので、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の余剰皮膜Sfは比較的簡単に除去することができる。なお、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4に形成された余剰皮膜Sfは、エンジン1の燃焼性能に影響を及ぼさない場合には、除去せずに残しておいてもよい。
【0073】
また、吸気用ノズル移動経路Inp1は、開口部16a
1〜16a
8に接するように、開口部16a
1〜16a
8の配列方向に沿って直線状に設定されており、吸気用ノズル移動経路Inp1上に成膜開始位置Is1と、成膜終了位置Ie1とが設定されている。同様に、排気用ノズル移動経路Enp1は、開口部17a
1〜17a
8に接するように、開口部17a
1〜17a
8の配列方向に沿って直線状に設定されており、排気用ノズル移動経路Enp1上に成膜開始位置Es1と、成膜終了位置Ee1とが設定されている。したがって、ノズル23dから原料粉末Pが無駄に吐出する距離、すなわち、余剰皮膜Sfが形成される距離を短くすることができる。これにより、原料粉末Pの無駄が抑えられるとともに、余剰皮膜Sfを除去するための工数を削減することができる。
【0074】
さらに、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との間に、吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1を設定して、原料粉末Pを吹き付けて余剰皮膜Sfを形成することにより、吸気ポート16と排気ポート17との間に圧縮残留応力を付与し、開口部16a
1〜16a
8と開口部17a
1〜17a
8との間の強度をより高めることが可能である。
【0075】
シリンダヘッド12は、シリンダブロック11に取り付けられた拘束状態で高温の繰返し加熱を受けるので、熱疲労現象により、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との間に亀裂が発生する可能性がある。すなわち、シリンダヘッド12のシリンダブロック取付面12aは、燃焼室15からの熱を受けて加熱されることにより伸びようとするが、シリンダヘッド12はシリンダブロック11に拘束されているので、圧縮荷重を受けて降伏し、圧縮応力が発生する。このような状態で、エンジン1が停止されてシリンダヘッド12が冷却されると、シリンダヘッド12のシリンダブロック取付面12aは縮もうとするので、シリンダブロック取付面12aの降伏面には引張応力が発生する。この圧縮応力と引張応力との繰り返しにより、最も熱的に厳しい条件下にさらされる開口部16a
1〜16a
8と開口部17a
1〜17a
8との間に、亀裂が発生する場合がある。
【0076】
このような問題に対し、本実施形態では、開口部16a
1〜16a
8と開口部17a
1〜17a
8との間に、吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1を設定して余剰皮膜Sfを形成することにより、ショットピーニング加工を行った場合と同様に、圧縮残留応力を付与することができる。
図12は、バルブシート膜16bを形成した後の吸気ポート16の開口部16a
1を示す断面図である。この
図12に示すように、開口部16a
1に形成されたバルブシート膜16bには、圧縮残留応力Cs1(例えば、350〜467Mpa)が発生し、バルブシート膜16bの外側には、圧縮残留応力Cs2(例えば、23〜118Mpa)が発生する。これに対し、吸気ポート16の開口部16a
1と排気ポート17の開口部17a
1との間には、バルブシート膜16bの外側よりも大きな、圧縮残留応力Cs3(例えば、34〜223Mpa)が発生する。したがって、この圧縮残留応力により、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との間の強度が向上するので、亀裂の発生を防ぐことができる。
【0077】
また、吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1は、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との間に設定されているので、インジェクタ孔12g
1〜12g
4内には余剰皮膜Sfは形成されない。なお、吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1を利用することにより、プラグ孔12f
1〜12f
4内に余剰皮膜Sfが形成されるが、プラグ孔12f
1〜12f
4は、点火プラグ用のネジ孔を形成するために必ず後加工されるので、この後加工により余剰皮膜Sfは除去することができる。
【0078】
《第2実施形態》
次に、ノズル移動経路に関する第2実施形態について説明する。
図13Aは、シリンダヘッド粗材3のシリンダブロック取付面12aを示す平面図であり、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8にバルブシート膜16bを形成するための吸気用ノズル移動経路Inp2と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8にバルブシート膜17bを形成するための排気用ノズル移動経路Enp2とを示している。また、
図14は、
図13Aに示すシリンダヘッド粗材3のうち、左端の燃焼室上壁部12b
1を拡大して示している。
【0079】
吸気用ノズル移動経路Inp2は、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の縁部と、開口部16a
1〜16a
8との間で、開口部16a
1〜16a
8に接するように、開口部16a
1〜16a
8の配列方向に沿って直線状に設定されている。ノズル23dは、図中左方から右方に向かって、吸気用ノズル移動経路Inp2上を移動する。この吸気用ノズル移動経路Inp2により、ノズル23dは、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との上方を移動せず、その代わりに、シリンダブロック取付面12aの上方と、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の上方とを移動する。
【0080】
このように設定された吸気用ノズル移動経路Inp2に対し、各開口部16a
1〜16a
8の環状バルブシート部16cの上には、環状の吸気用成膜経路Idp2が吸気用ノズル移動経路Inp2に接するように設定されている。また、吸気用ノズル移動経路Inp2と吸気用成膜経路Idp2とが接する位置には、ノズル23dにより、開口部16a
1〜16a
8の環状バルブシート部16cに対する原料粉末Pの吹き付けが開始される成膜開始位置Is2と、環状バルブシート部16cに対する原料粉末Pの吹き付けが終了される成膜終了位置Ie2とが設定されている。
【0081】
排気用ノズル移動経路Enp2は、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の縁部と、開口部17a
1〜17a
8との間で、開口部17a
1〜17a
8に接するように、開口部17a
1〜17a
8の配列方向に沿って直線状に設定されている。ノズル23dは、図中左方から右方に向かって、排気用ノズル移動経路Enp2上を移動する。この排気用ノズル移動経路Enp2により、ノズル23dは、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との上方を移動せず、その代わりに、シリンダブロック取付面12aの上方と、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の上方とを移動する。
【0082】
このように設定された排気用ノズル移動経路Enp2に対し、各開口部17a
1〜17a
8の環状バルブシート部17cの上には、環状の排気用成膜経路Edp2が排気用ノズル移動経路Enp2に接するように設定されている。また、排気用ノズル移動経路Enp2と排気用成膜経路Edp2とが接する位置には、ノズル23dにより、開口部17a
1〜17a
8の環状バルブシート部17cに対する原料粉末Pの吹き付けが開始される成膜開始位置Es2と、環状バルブシート部17cに対する原料粉末Pの吹き付けが終了される成膜終了位置Ee2とが設定されている。
【0083】
なお、吸気用ノズル移動経路Inp2の成膜開始位置Is2と、成膜終了位置Ie2は、第1実施形態の成膜開始位置Is1と成膜終了位置Ie1と同様に、皮膜が重なり合うように設定されている。したがって、バルブシート膜16bは、開口部16a
1〜16a
8の全周に渡って隙間なく形成される。また、排気用ノズル移動経路Enp2の成膜開始位置Es2と、成膜終了位置Ee2は、第1実施形態の成膜開始位置Es1と成膜終了位置Ee1と同様に、皮膜が重なり合うように設定されている。したがって、バルブシート膜17bは、開口部17a
1〜17a
8の全周に渡って隙間なく形成される。
【0084】
ノズル23dは、吸気用ノズル移動経路Inp2及び吸気用成膜経路Idp2を次のように移動する。ノズル23dは、原料粉末Pの吹き付けを行いながら、開口部16a
1〜16a
8の配列方向、すなわち、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って、吸気用ノズル移動経路Inp2上を直線的に移動する。ノズル23dは、シリンダヘッド粗材3の外部からシリンダブロック取付面12aの上方に移動すると、シリンダブロック取付面12aの上方を通過して最初の開口部16a
1の上方まで移動する。ノズル23dは、最初の成膜開始位置Is2に到達すると、逆方向に折り返すようにして進行方向を転換し、吸気用成膜経路Idp2に沿って、環状バルブシート部16cの上をなぞるように時計周りに移動し、開口部16a
1の環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する。
【0085】
ノズル23dは、最初の成膜終了位置Ie2まで移動すると、再び、吸気用ノズル移動経路Inp2に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方を移動し、次の開口部16a
2の成膜開始位置Is2まで移動する。ノズル23dは、次の開口部16a
2の成膜開始位置Is2に到達すると、吸気用成膜経路Idp2に沿って、2つ目の開口部16a
2をなぞるように開口部16a
2の上方を図中時計周りに移動し、開口部16a
2の環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する。
【0086】
ノズル23dは、開口部16a
2の成膜終了位置Ie2まで移動すると、再び吸気用ノズル移動経路Inp2に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、次の燃焼室上壁部12b
2の開口部16a
3の成膜開始位置Is2に移動する。以後、燃焼室上壁部12b
2〜12b
4の開口部16a
3〜16a
8に対し、開口部16a
1、16a
2と同様にバルブシート膜16bを形成する。ノズル23dは、最後の開口部16a
8に対するバルブシート膜16bの形成を終えた後、吸気用ノズル移動経路Inp2に沿って燃焼室上壁部12b
4の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、シリンダヘッド粗材3の外部に移動される。
【0087】
吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8に対するバルブシート膜16bの形成を終えると、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8に対するバルブシート膜16bの形成が開始される。ノズル23dは、原料粉末Pの吹き付けを行いながら、開口部17a
1〜17a
8の配列方向、すなわち、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って、排気用ノズル移動経路Enp2上を直線的に移動する。ノズル23dは、シリンダヘッド粗材3の外部からシリンダブロック取付面12aの上方に移動すると、シリンダブロック取付面12aの上方を通過して最初の開口部17a
1の上方まで移動する。ノズル23dは、最初の成膜開始位置Es2に到達すると、逆方向に折り返すようにして進行方向を転換し、排気用成膜経路Edp2に沿って、環状バルブシート部17cの上をなぞるように反時計周りに移動し、開口部17a
1の環状バルブシート部17cにバルブシート膜17bを形成する。
【0088】
ノズル23dは、開口部16a
2の成膜終了位置Ee2まで移動すると、再び、排気用ノズル移動経路Enp2に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方を移動し、次の開口部17a
2の成膜開始位置Es2まで移動する。ノズル23dは、次の開口部17a
2の成膜開始位置Es2に到達すると、排気用成膜経路Edp2に沿って、2つ目の開口部17a
2をなぞるように開口部17a
2の上方を図中反時計周りに移動し、開口部17a
2の環状バルブシート部17cにバルブシート膜17bを形成する。
【0089】
ノズル23dは、開口部17a
2の成膜終了位置Ee2まで移動すると、再び排気用ノズル移動経路Enp2に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、次の燃焼室上壁部12b
2の開口部16a
3の成膜開始位置Es2に移動する。以後、燃焼室上壁部12b
2〜12b
4の開口部17a
3〜17a
8に対し、開口部17a
1、17a
2と同様にバルブシート膜17bを形成する。ノズル23dは、最後の開口部17a
8に対するバルブシート膜17bの形成を終えた後、排気用ノズル移動経路Enp2に沿って燃焼室上壁部12b
4の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、シリンダヘッド粗材3の外部に移動される。
【0090】
図13Bは、バルブシート膜16b、17bが形成された後のシリンダヘッド粗材3のシリンダブロック取付面12aを示す。この
図13Bに示すように、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8にはバルブシート膜16bが形成され、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8にはバルブシート膜17bが形成される。また、シリンダブロック取付面12aと、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4とに余剰皮膜Sfが形成されるが、吸気ポート16及び排気ポート17の奥には余剰皮膜Sfは形成されない。
【0091】
このように、本実施形態は、ノズル23dによる原料粉末Pの吹き付けを継続しながら、ノズル23dを開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の間で移動させるとともに、ノズル23dを開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の上方で移動させないようにしているので、第1実施形態と同様に問題(1)、(2)を解消することができる。
【0092】
なお、本実施形態では、開口部16a
1〜16a
8と、開口部17a
1〜17a
8との間に余剰皮膜Sfは形成されないので、圧縮残留応力による強度の向上を図ることはできない。しかしながら、吸気用ノズル移動経路Inp2と、排気用ノズル移動経路Enp2とを、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4を挟む離れた位置に設定しているので、コールドスプレー時に発生する熱を分散し、残留応力が溜まりにくいバルブシート膜16b、17bを形成することができる。
【0093】
また、本実施形態では、成膜開始位置Is2、Es2と成膜終了位置Ie2、Ee2とを、エンジン1の稼働中の温度が高く、かつ熱負荷が大きくなる燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の中央部には配置せず、中央部よりも温度が低く、中央部よりも熱負荷が小さくなる燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の縁部側に設定している。したがって、バルブシート膜16bの成膜開始位置Is2及び成膜終了位置Ie2と、バルブシート膜17bの成膜開始位置Es2及び成膜終了位置Ee2との強度が、予め設定していた所定の強度よりも低くなった場合でも、バルブシート膜16b、17bの性能に影響は生じない。
【0094】
さらに、本実施形態では、吸気用ノズル移動経路Inp2を燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の縁部と、開口部16a
1〜16a
8との間に設定し、排気用ノズル移動経路Enp2を、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の縁部と開口部17a
1〜17a
8との間に設定しているので、プラグ孔12f
1〜12f
4内には余剰皮膜Sfは形成されない。
【0095】
なお、筒内噴射方式のエンジンには、燃焼室の略中心上方から燃料室内に燃料を下向きに噴射するようにインジェクタを配置した、スプレーガイド式(センター噴射式)エンジンがある。このようなスプレーガイド式エンジンのシリンダヘッド粗材3Aは、
図15に示すように、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の中央部に、プラグ孔12f
1〜12f
4と並んでインジェクタ孔12g
1〜12g
4が配置されている。本実施形態の吸気用ノズル移動経路Inp2及び排気用ノズル移動経路Enp2は、このようなスプレーガイド式エンジンのシリンダヘッド粗材3Aに適用することにより、吸気ポート16及び排気ポート17内だけでなく、プラグ孔12f
1〜12f
4及びインジェクタ孔12g
1〜12g
4に対する余剰皮膜Sfの形成を抑制することができる。
【0096】
《第3実施形態》
次に、ノズル移動経路に関する第3実施形態について説明する。この実施形態は、第1実施形態で説明した吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1と、第2実施形態で説明した吸気用ノズル移動経路Inp2及び排気用ノズル移動経路Enp2とを組み合わせたものである。例えば、
図16に示すシリンダヘッド粗材3では、吸気ポート16に第1実施形態の吸気用ノズル移動経路Inp1を適用し、排気ポート17に第2実施形態の排気用ノズル移動経路Enp2を適用している。また、
図17に示すシリンダヘッド粗材3では、吸気ポート16に第2実施形態の吸気用ノズル移動経路Inp2を適用し、排気ポート17に第1実施形態の排気用ノズル移動経路Enp1を適用している。
【0097】
この実施形態によれば、ノズル23dによる原料粉末Pの吹き付けを継続しながら、ノズル23dを開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の間で移動させるとともに、ノズル23dを開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の上方で移動させないようにしているので、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、問題(1)、(2)を解消することができる。
【0098】
また、
図16に示す実施形態では、第1実施形態の効果と、第2実施形態の効果とを組み合わせた効果を得ることができる。すなわち、開口部16a
1〜16a
8と、開口部17a
1〜17a
8との間に原料粉末Pを吹き付けて余剰皮膜を形成することにより、圧縮残留応力を付与して、強度の向上を図ることができる。また、排気ポート17においては、コールドスプレー時に発生する熱を分散し、残留応力が溜まりにくいバルブシート膜17bを形成することができる。さらに、インジェクタ孔12g
1〜12g
4内への余剰皮膜Sfの形成を防ぐことができる。
【0099】
また、
図17に示す実施形態でも、第1実施形態の効果と、第2実施形態の効果とを組み合わせた効果を得ることができる。すなわち、開口部16a
1〜16a
8と、開口部17a
1〜17a
8との間に原料粉末Pを吹き付けて余剰皮膜を形成することにより、圧縮残留応力を付与して、強度の向上を図ることができる。また、吸気ポート16においては、コールドスプレー時に発生する熱を分散し、残留応力が溜まりにくいバルブシート膜16bを形成することができる。さらに、プラグ孔12f
1〜12f
4内への余剰皮膜Sfの形成を防ぐことができる。
【0100】
《第4実施形態》
次に、ノズル移動経路に関する第4実施形態について説明する。
図18Aは、シリンダヘッド粗材3のシリンダブロック取付面12aを示す平面図であり、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8とに、バルブシート膜16b、17bを形成するためのノズル移動経路Npを示している。また、
図19は、
図18Aに示すシリンダヘッド粗材3のうち、左端の燃焼室上壁部12b
1を拡大して示している。
【0101】
ノズル移動経路Npは、シリンダヘッド粗材3が複数の燃焼室上壁部12b
1〜12b
4を有し、複数の燃焼室上壁部12b
1〜12b
4のそれぞれに、複数の開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8をそれぞれ備える場合に、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4毎にバルブシート膜16b、17bを形成するものである。ノズル移動経路Npには、開口部16a
1〜16a
8にバルブシート膜16bを形成するための吸気用成膜経路Idp4と、開口部17a
1〜17a
8にバルブシート膜17bを形成するための排気用成膜経路Edp4とが接続されている。
【0102】
具体的には、ノズル23dは、ノズル移動経路Npを次のように移動する。ノズル23dは、原料粉末Pの吹き付けを行いながら、開口部16a
1〜16a
8の配列方向、すなわち、シリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って、ノズル移動経路Np上を直線的に移動する。ノズル23dは、シリンダヘッド粗材3の外部からシリンダブロック取付面12aの上方に移動すると、シリンダブロック取付面12aの上方を通過して最初の開口部16a
1の上方まで移動する。ノズル23dは、ノズル移動経路Npと吸気用成膜経路Idp4とが接する最初の成膜開始位置Is4に到達すると、吸気用成膜経路Idp4に沿って、開口部16a
1をなぞるように開口部16a
1の上方を図中時計周りに移動し、開口部16a
1の環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する。
【0103】
ノズル23dは、開口部16a
1の成膜終了位置Ie4まで移動すると、シリンダヘッド粗材3の幅方向に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方を移動し、次の開口部17a
1の成膜開始位置Es4まで移動する。ノズル23dは、開口部17a
1の成膜開始位置Es4に到達すると、排気用成膜経路Edp4に沿って、開口部17a
1をなぞるように開口部17a
1の上方を図中時計周りに移動し、開口部17a
1の環状バルブシート部17cにバルブシート膜17bを形成する。
【0104】
ノズル23dは、開口部17a
1の成膜終了位置Ee4まで移動すると、再びシリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方を移動し、次の開口部17a
2の成膜開始位置Es4に移動する。ノズル23dは、開口部17a
2の成膜開始位置Es4に到達すると、排気用成膜経路Edp4に沿って、開口部17a
2をなぞるように開口部17a
2の上方を図中時計周りに移動し、開口部17a
2の環状バルブシート部17cにバルブシート膜17bを形成する。
【0105】
ノズル23dは、開口部17a
2の成膜終了位置Ee4まで移動すると、再びシリンダヘッド粗材3の幅方向に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方を移動し、次の開口部16a
2の成膜開始位置Is4に移動する。ノズル23dは、開口部16a
2の成膜開始位置Is4に到達すると、吸気用成膜経路Idp4に沿って、開口部16a
2をなぞるように開口部16a
2の上方を図中反時計周りに移動し、開口部16a
2の環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する。
【0106】
ノズル23dは、開口部16a
2の成膜終了位置Ie4まで移動すると、再びシリンダヘッド粗材3の長手方向に沿って燃焼室上壁部12a
1の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、次の燃焼室上壁部12a
2の開口部16a
3の成膜開始位置Is4に移動する。以後、ノズル23dは、燃焼室上壁部12b
2〜12b
4の開口部16a
3〜16a
8及び開口部17a
3〜17a
8に対し、開口部16a
1、16a
2、17a
1、17a
2と同様にバルブシート膜16b、17bを形成する。ノズル23dは、最後の開口部16a
8に対するバルブシート膜16bの形成を終えた後、ノズル移動経路Npに沿って燃焼室上壁部12b
4の上方と、シリンダブロック取付面12aの上方とを移動し、シリンダヘッド粗材3の外部に移動される。
【0107】
図18Bは、バルブシート膜16b、17bが形成された後のシリンダヘッド粗材3のシリンダブロック取付面12aを示す。この
図18Bに示すように、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8にはバルブシート膜16bが形成され、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8にはバルブシート膜17bが形成される。また、シリンダブロック取付面12aと、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4とに余剰皮膜Sfが形成されるが、吸気ポート16及び排気ポート17の奥には余剰皮膜Sfは形成されない。
【0108】
この実施形態によれば、ノズル23dによる原料粉末Pの吹き付けを継続しながら、ノズル23dを開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の間で移動させるとともに、ノズル23dを開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の上方で移動させないようにしているので、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、問題(1)、(2)を解消することができる。また、吸気ポート16及び排気ポート17内だけでなく、プラグ孔12f
1〜12f
4及びインジェクタ孔12g
1〜12g
4に対する余剰皮膜Sfの形成を抑制することができる。
【0109】
さらに、コールドシート法では、皮膜が形成される被成膜部の温度が高いほど被成膜部と原料粉末Pとが塑性変形しやすくなるので、皮膜が形成される被成膜部の温度が高いほど、原料粉末Pを強固に付着させることができる。本実施形態によれば、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4毎にバルブシート膜16b、17bを形成することにより、バルブシート膜16b、17bが形成されている燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の温度を高い状態で維持することができるので、原料粉末Pが強固に付着させて、優れた高温耐磨耗性を有するバルブシート膜16b、17bを形成することができる。
【0110】
さらに、本実施形態では、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4毎にバルブシート膜16b、17bを形成するので、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4毎にバルブシート膜16b、17bの補修を行うこともできる。
【0111】
《第5実施形態》
次に、ノズル移動経路に関する第5実施形態について説明する。この実施形態では、ノズル23dがノズル移動経路を移動する際に、原料粉末Pが吐出される吐出面に対する原料粉末Pの吐出角度、すなわち、シリンダブロック取付面12aや燃焼室上壁部12b
1〜12b
4に対する原料粉末Pの吐出角度を、被成膜部である開口部16a
1〜16a
8又は開口部17a
1〜17a
8に対する原料粉末Pの吐出角度θ1と異ならせることにより、シリンダブロック取付面12aや燃焼室上壁部12b
1〜12b
4に形成される余剰皮膜の幅や厚さを変更するものである。以下では、ノズル移動経路において、シリンダブロック取付面12aや燃焼室上壁部12b
1〜12b
4に対する原料粉末Pの吐出角度を略水平にするパターン(1)と、シリンダブロック取付面12aや燃焼室上壁部12b
1〜12b
4に対する原料粉末Pの吹き付け角度を略垂直にするパターン(2)について説明する。
【0112】
まず、第1実施形態の原料粉末Pの吐出角度について説明する。第1実施形態では、ノズル23dを開口部16a
1上の吸気用成膜経路Idp1上で移動させ、環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する際に、
図20A(A)に示すように、環状バルブシート部16cに対して略垂直な方向から原料粉末Pが吹き付けられるように、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出角度θ1を設定している。また、第1実施形態では、ノズル23dを吸気用ノズル移動経路Inp1上で移動させる際に、
図20A(B)に示すように、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出角度θ1を変更しない。したがって、シリンダブロック取付面12aには、吐出角度θ1に応じた幅W1、厚みT1で余剰皮膜Sf1が形成される。
【0113】
これに対し、本実施形態のパターン(1)では、ノズル23dを開口部16a
1上の吸気用成膜経路Idp1上で移動させ、環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する際には、
図20B(A)に示すように、第1〜第4実施形態と同様に、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出角度をθ1に設定している。しかしながら、本実施形態では、ノズル23dを吸気用ノズル移動経路Inp1上で移動させる際には、
図20B(B)に示すように、シリンダブロック取付面12aに対する原料粉末Pの吐出角度θ2を、吐出角度θ1よりも小さく、例えば、できるだけシリンダブロック取付面12aに対して平行に近くなるようにしている。これにより、シリンダブロック取付面12aに形成される余剰皮膜Sf2の幅W2は、第1〜第4実施形態の幅W1よりも広くなるが、厚みT2は、余剰皮膜Sf1の厚みT1よりも薄くなる。
【0114】
また、本実施形態のパターン(2)では、ノズル23dを開口部16a
1上の吸気用成膜経路Idp1上で移動させ、環状バルブシート部16cにバルブシート膜16bを形成する際には、
図20C(A)に示すように、パターン(1)と同様に、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出角度をθ1に設定している。しかしながら、本実施形態では、ノズル23dを吸気用ノズル移動経路Inp1上で移動させる際には、
図20C(B)に示すように、シリンダブロック取付面12aに対する原料粉末Pの吐出角度θ3を、吐出角度θ1よりも大きく、例えば、シリンダブロック取付面12aに対して略垂直にしている。これにより、シリンダブロック取付面12aに形成される余剰皮膜Sf3の幅W3は、第1〜第4実施形態の幅W1よりも狭くなるが、厚みT3は、余剰皮膜Sf1の厚みT1よりも厚くなる。
【0115】
本実施形態のパターン(1)によれば、余剰皮膜Sf2を除去するためにシリンダヘッド粗材3に施す後加工の面積は、余剰皮膜Sf2の幅W2が余剰皮膜Sf1の幅W1よりも広いので、第1実施形態よりも広くなる。しかしながら、余剰皮膜Sf2の厚みT2は、余剰皮膜Sf1の厚みT1よりも薄いので、後加工の深さは第1実施形態よりも浅くなる。したがって、仕上工程S4で全面が切削されるシリンダブロック取付面12aに余剰皮膜Sf2が形成されるようにすれば、第1実施形態よりも後加工が容易になる。
【0116】
また、本実施形態のパターン(2)によれば、余剰皮膜Sf3を除去するためにシリンダヘッド粗材3に施す後加工の深さは、余剰皮膜Sf3の厚みT3が余剰皮膜Sf1の厚みT1よりも厚いので、第1実施形態よりも深くなる。しかしながら、余剰皮膜Sf3の幅W3は、余剰皮膜Sf1の幅W1よりも狭いので、後加工の面積は第1実施形態よりも狭くなる。したがって、シリンダブロック取付面12aよりも面積が狭く、曲面や傾斜面を有する燃焼室上壁部12b
1〜12b
4に余剰皮膜Sf3が形成されるようにすれば、第1実施形態よりも後加工が容易になる。
【0117】
なお、詳しくは図示しないが、本実施形態は、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8にバルブシート膜17bを形成する際にも適用される。また、第2〜第4実施形態でノズル23dを移動させる際にも適用可能である。さらに、本実施形態は、シリンダブロック取付面12aと、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4との両方にパターン(1)を適用してもよいし、シリンダブロック取付面12aと、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4との両方にパターン(2)を適応してもよい。また、シリンダブロック取付面12aにパターン(1)を適用し、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4にパターン(2)を適用してもよい。
【0118】
上記の第5実施形態では、ノズル23dがノズル移動経路を移動する際に、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出角度を変化させるようにしたが、例えば、ノズル23dがノズル移動経路を移動する際に、ノズル23dの移動速度をバルブシート膜16b、17bを形成する際の移動速度よりも速くしてもよい。これによれば、シリンダブロック取付面12aと、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4とに形成される余剰皮膜の厚みを薄くすることができる。
【0119】
なお、上記の第1〜第5実施形態では、例えば、
図10に示すように、ノズル23dが成膜開始位置is1に到達した場合に、ノズル23dの移動方向を略逆方向に切り換えて吸気用成膜経路Idp1に移動させ、吸気用成膜経路Idp1を移動したノズル23dが成膜終了位置Ie1に到達した場合に、再びノズル23dの移動方向を略逆方向に切り換えて吸気用ノズル移動経路Inp1に移動させている。これにより、ノズル23dの移動方向を略逆方向に切り換えるタイミングを調整することで、バルブシート膜16bが重なって厚く形成される幅を変化させることができる。しかしながら、
図21に示すように、ノズル23dが成膜開始位置is1に到達した場合に、そのままノズル23dの移動方向を略逆方向に切り換えずに吸気用成膜経路Idp1に移動させ、ノズル23dが成膜開始位置is1に到達した場合に、ノズル23dの移動方向を略逆方向に切り換えずに吸気用ノズル移動経路Inp1に移動させてもよい。
【0120】
また、上記の第1〜第5実施形態では、成膜対象部品の複数の被成膜部として、シリンダヘッド粗材3の吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8、及び排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8を例に挙げて説明したが、本発明は、その他の成膜対象部品に対しても適用することが可能である。
【0121】
例えば、
図1に示すシリンダブロック11において、図面奥行き方向に配列されている4つのシリンダ11aの内周面に、コールドスプレー装置2を利用して皮膜を形成する際に、本発明を適用してもよい。具体的には、ノズル23dで4つのシリンダ11aの内周面に皮膜を形成する際に、皮膜が形成されたシリンダ11aから、次に皮膜が形成される隣のシリンダ11aまでノズル23dを移動させる際に、このノズル移動経路上でノズル23dによる原料粉末Pの吐出を継続することにより、サイクルタイムの短縮を図ることが可能である。
【0122】
また、
図1に示すクランクシャフト14において、図面奥行き方向に設けられている複数のジャーナル部14aに、コールドスプレー装置2を利用して皮膜を形成する際に、本発明を適用してもよい。具体的には、ノズル23dで複数のジャーナル部14aに皮膜を形成する際に、皮膜が形成されたジャーナル部14aから、次に皮膜が形成される隣のジャーナル部14aまでノズル23dを移動させる際に、このノズル移動経路上でノズル23dによる原料粉末Pの吐出を継続することにより、サイクルタイムの短縮を図ることが可能である。また、ジャーナル部14aの間に配置されているクランクピン14bに余剰皮膜が形成されないように、ノズル移動経路と、クランクシャフト14の回転位置とを調整しながら成膜を行うことが好ましい。
【0123】
以上で説明したように、本発明の実施形態に係る成膜方法は、シリンダヘッド粗材3やシリンダブロック11、あるいはクランクシャフト14などの成膜対象部品に設けられている、互いに連続しない複数の被成膜部のそれぞれに皮膜を形成するために、成膜対象部品とコールドスプレー装置2のノズル23dとを相対的に移動させて、複数の被成膜部とノズル23dとを順次対向させるとともに、ノズル23dに対向した被成膜部にノズル23dによって原料粉末Pを吹き付ける成膜方法であり、ノズル23dが、皮膜が形成された被成膜部から、次に皮膜が形成される被成膜部へ相対的に移動されるノズル移動経路にあるときに、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出を継続するものである。これにより、原料粉末Pの吹き付けと、吹き付け停止とを繰り返して複数の被成膜部に皮膜を形成する場合に比べ、サイクルタイムを短くすることができる。
【0124】
また、本発明の第1〜第5実施形態に係る成膜方法によれば、成膜対象部品であるシリンダヘッド粗材3において、複数の被成膜部である開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の環状縁部にバルブシート膜16b、17bを形成する際に、シリンダヘッド粗材3とコールドスプレー装置2のノズル23dとを相対的に移動させて、複数の開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の環状縁部とノズル23dとを順次対向させるとともに、ノズル23dに対向された開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8の環状縁部に、ノズル23dによって原料粉末Pを吹き付けている。そして、ノズル23dが、バルブシート膜が形成された開口部から、次にバルブシート膜が形成される開口部へ相対的に移動される吸気用ノズル移動経路Inp1、Inp2と、排気用ノズル移動経路Enp1、Enp2と、ノズル移動経路Npとにあるときに、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出を継続している。これにより、原料粉末Pの吹き付けと、吹き付け停止とを繰り返して複数の開口部16a
1〜16a
8及び開口部17a
1〜17a
8にバルブシート膜16b、17bを形成する場合よりも、成膜工程S3のサイクルタイムを短くすることができる。
【0125】
また、第1〜第5実施形態に係る成膜方法によれば、吸気用ノズル移動経路Inp1、Inp2と、排気用ノズル移動経路Enp1、Enp2と、ノズル移動経路Npは、ノズル23dが、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と、排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との上方を移動しないように設定されているので、余剰皮膜Sfが吸気ポート16や排気ポート17の奥の除去できない位置に形成されるのを防ぐことができる。
【0126】
また、第1〜第5実施形態に係る成膜方法によれば、吸気用ノズル移動経路Inp1、Inp2と、排気用ノズル移動経路Enp1、Enp2と、ノズル移動経路Npは、ノズル23dがシリンダブロック取付面12aの上方を移動するように設定されているので、シリンダブロック取付面12aの上には余剰皮膜Sfが形成される。しかしながら、シリンダブロック取付面12aは、平面度を高めるために従来からフライス盤などで後加工されているので、新たな工程を設けなくてもシリンダブロック取付面12aに形成された余剰皮膜Sfは除去することが可能である。
【0127】
また、第1〜第5実施形態に係る成膜方法によれば、吸気用ノズル移動経路Inp1、Inp2と、排気用ノズル移動経路Enp1、Enp2と、ノズル移動経路Npは、ノズル23dが燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の上方を移動するように設定されているので、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の上には余剰皮膜Sfが形成される。しかしながら、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4は外部に露呈されているので、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の余剰皮膜Sfは比較的簡単に除去することができ、エンジン1の燃焼性能に影響がなければ、除去する必要もないので、シリンダヘッド粗材3のサイクルタイムに対する影響は生じない。
【0128】
また、第1〜第5実施形態に係る成膜方法によれば、吸気用ノズル移動経路Inp1、Inp2は、開口部16a
1〜16a
8の配列方向に沿って直線状に設定されており、吸気用ノズル移動経路Inp1、Inp2上に成膜開始位置Is1、Is2と、成膜終了位置Ie1、Ie2とが設定されている。同様に、排気用ノズル移動経路Enp1、Enp2、は、開口部17a
1〜17a
8の配列方向に沿って直線状に設定されており、排気用ノズル移動経路Enp1、Enp2上に成膜開始位置Es1、Es2と、成膜終了位置Ee1、Ee2とが設定されている。また、ノズル移動経路Npは、開口部16a
1〜16a
8の配列方向に沿って直線状に設定されており、ノズル移動経路Np上に成膜開始位置Is4と成膜終了位置Ie4とが設定されている。したがって、ノズル23dから原料粉末Pが無駄に吐出る距離、すなわち、余剰皮膜Sfが形成される距離を短くすることができる。これにより、原料粉末Pの無駄が抑えられるとともに、余剰皮膜Sfを除去するための工数を削減することができる。
【0129】
また、第1実施形態に係る成膜方法によれば、吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1は、吸気ポート16の開口部16a
1〜16a
8と排気ポート17の開口部17a
1〜17a
8との間に設定されているので、開口部16a
1〜16a
8と開口部17a
1〜17a
8との間に原料粉末を吹き付けて余剰皮膜Sfを形成し、圧縮残留応力を付与することができる。これにより、開口部16a
1〜16a
8と開口部17a
1〜17a
8との間の強度をより高めることが可能である。
【0130】
また、第1実施形態に係る成膜方法によれば、吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1は、開口部16a
1〜16a
8と開口部17a
1〜17a
8との間に設定されているので、インジェクタ孔12g
1〜12g
4内には余剰皮膜Sfは形成されない。なお、吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1を利用することにより、プラグ孔12f
1〜12f
4内に余剰皮膜Sfが形成されるが、プラグ孔12f
1〜12f
4は、点火プラグ用のネジ孔を形成するために必ず後加工されるので、この後加工により余剰皮膜Sfは除去することができる。
【0131】
また、第2実施形態に係る成膜方法によれば、吸気用ノズル移動経路Inp2は、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の縁部と、開口部16a
1〜16a
8との間に設定されている。同様に、排気用ノズル移動経路Enp2は、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の縁部と、開口部17a
1〜17a
8との間に設定されている。したがって、コールドスプレー時に発生する熱を分散し、残留応力が溜まりにくいバルブシート膜16b、17bを形成することができる。
【0132】
また、第3実施形態に係る成膜方法によれば、第1実施形態の吸気用ノズル移動経路Inp1及び排気用ノズル移動経路Enp1と、第2実施形態の吸気用ノズル移動経路Inp2及び排気用ノズル移動経路Enp2とを適宜組み合わせることにより、第1実施形態により得られる効果と、第2実施形態により得られる効果とを組み合わせた効果を得ることができる。すなわち、開口部16a
1〜16a
8と開口部17a
1〜17a
8との間に原料粉末を吹き付けて余剰皮膜Sfを形成することにより、圧縮残留応力を付与して、開口部16a
1〜16a
8と開口部17a
1〜17a
8との間の強度をより高めるとともに、コールドスプレー時に発生する熱を分散し、残留応力が溜まりにくいバルブシート膜16bまたはバルブシート膜17bを形成することができる。
【0133】
また、第4実施形態に係る成膜方法によれば、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4毎にバルブシート膜16b、17bを形成することにより、バルブシート膜16b、17bが形成されている燃焼室上壁部12b
1〜12b
4の温度を高い状態で維持することができるので、原料粉末Pが強固に付着させて、優れた高温耐磨耗性を有するバルブシート膜16b、17bを形成することができる。また、燃焼室上壁部12b
1〜12b
4毎にバルブシート膜16b、17bの補修を行うこともできる。
【0134】
また、第5実施形態に係る成膜方法によれば、吸気用ノズル移動経路Inp1、Inp2と、排気用ノズル移動経路Enp1、Enp2と、ノズル移動経路Npにおける、ノズル23dによる原料粉末Pの吐出角度θ2又はθ3を、被成膜部である開口部16a
1〜16a
8又は開口部17a
1〜17a
8に対する原料粉末Pの吐出角度θ1と異ならせることにより、シリンダブロック取付面12aや燃焼室上壁部12b
1〜12b
4に形成される余剰皮膜の幅や厚さを変更することができる。したがって、余剰皮膜が形成される面の形状や、後加工の有無等に応じて余剰皮膜の幅や厚さを変更することができるので、余剰皮膜の幅や厚さを適切に選択することで、余剰皮膜の除去が容易になる。