特許第6977913号(P6977913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6977913プレス部品の製造方法、及びブランク材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6977913
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】プレス部品の製造方法、及びブランク材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/20 20060101AFI20211125BHJP
   B21D 22/26 20060101ALN20211125BHJP
【FI】
   B21D22/20 Z
   B21D22/20 E
   !B21D22/26 D
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2021-536795(P2021-536795)
(86)(22)【出願日】2021年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2021011181
【審査請求日】2021年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2020-63178(P2020-63178)
(32)【優先日】2020年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 栄治
(72)【発明者】
【氏名】新宮 豊久
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛史
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6090464(JP,B2)
【文献】 特開平02−034226(JP,A)
【文献】 実開昭63−080026(JP,U)
【文献】 特許第2506400(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20
B21D 22/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は2以上のプレス成形を経てプレス部品を製造するプレス部品の製造方法において、
上記1又は2以上のプレス成形のうちの少なくとも1つのプレス成形で、被プレス材の端部に遅れ破壊による端部割れが懸念されると推定される場合、上記遅れ破壊が懸念されるプレス成形の前処理として、上記遅れ破壊が懸念される箇所を少なくとも含む端部の切断処理を2度行う2度切断処理を有し、
上記2度切断処理は、1度目の切断の際に、上記遅れ破壊が懸念される箇所を含む位置に部分的な梁状の張出部を形成する切断を行い、2度目の切断で上記張出部を切断することを特徴とするプレス部品の製造方法。
【請求項2】
上記張出部の幅は、上記端部割れが懸念されるフランジ部の端縁の長さの1/3以下の長さとすることを特徴とする請求項1に記載したプレス部品の製造方法。
【請求項3】
上記張出部の幅は、上記被プレス材の板厚の150倍以下とすることを特徴とする請求項1に記載したプレス部品の製造方法。
【請求項4】
上記張出部の張出量は、上記被プレス材の板厚の10倍以下とすることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したプレス部品の製造方法。
【請求項5】
上記張出部の張出量は、5.0mm以下とすることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したプレス部品の製造方法。
【請求項6】
上記プレス成形は、フォーム成形又はドロー成形であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載したプレス部品の製造方法。
【請求項7】
1又は2以上のプレス成形を経てプレス部品となるブランク材の製造方法において、
上記1又は2以上のプレス成形のうちの少なくとも1つのプレス成形で、被プレス材の端部に遅れ破壊による端部割れが懸念されると推定される場合、上記遅れ破壊が懸念される箇所を少なくとも含む端部の切断処理を2度行う2度切断処理を有し、
上記2度切断処理は、1度目の切断の際に、上記遅れ破壊が懸念される箇所を含む位置に部分的な梁状の張出部を形成する切断を行い、2度目の切断で上記張出部を切断することを特徴とするブランク材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形で遅れ破壊が発生する懸念のある部品形状を有するプレス部品の製造に関する技術である。
本発明は、特に、引張強度が980MPa以上の高強度鋼板からなる金属板を用いたプレス部品の製造に好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車には、軽量化による燃費向上と衝突安全性の向上が求められている。そして、車体の軽量化と衝突時の搭乗者保護を両立する目的で、自動車用構造部品には高強度鋼板が使用される傾向にある。特に近年では、高強度鋼板として、更に高強度の引張強度980MPa以上を有する超高強度鋼板が車体に適用されてきている。
高強度鋼板の車体適用時における課題の一つに遅れ破壊がある。特に、高強度鋼板のうち、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板では、せん断加工後の端面(以下せん断端面とも呼ぶ)から発生する遅れ破壊が重要な課題となっている。
【0003】
ここで、せん断端面には、大きな引張応力が残留することが知られている。この引張応力の残留によって、プレス後の製品(プレス部品)において、経時的な、せん断端面での遅れ破壊の発生が懸念される。せん断端面での遅れ破壊を抑制するためには、せん断端面の引張残留応力を低減させる必要がある。
せん断端面の引張残留応力を低減する方法としては、例えば、せん断加工時の鋼板温度を上昇させる方法(非特許文献1、2)や、穴抜き加工時に段付きパンチを用いる方法(非特許文献3)、更にシェービングによる方法(非特許文献4、特許文献1)がある。
【0004】
しかし、せん断加工時に鋼板の温度を上昇させる方法は、鋼板の加熱に時間を要する。このため、この方法は自動車などの量産工程に適していない。また、段付きパンチを用いる方法は、耐遅れ破壊特性の改善効果が小さいという課題がある。更に、シェービングによる方法は、シェービング工程でのクリアランス管理が難しいという課題がある。
また、非特許文献5には、2度抜きによる削り抜き法について記載がある。しかし、非特許文献5の方法は、打抜き加工の技術であり、製品外周部には適用できない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】森健一郎他:塑性と加工,52-609(2011),1114-1118
【非特許文献2】森健一郎他: 塑性と加工,51-588(2010),55-59
【非特許文献3】第326回塑性加工シンホ゜シ゛ウム「せん断加工の最前線」,21-28
【非特許文献4】M. Murakawa, M. Suzuki, T. Shinome, F. Komuro, A. Harai, A. Matsumoto, N. Koga: Precision piercing and blanking of ultrahigh-strength steel sheets, Procedia Engineering, 81(2014), pp.1114-1120
【非特許文献5】塑性と加工Vol.10 no.104 (1969-9)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−174542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、目的とするプレス部品形状の制約の発生を抑えつつ、経時的に発生する遅れ破壊を抑制可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するために、本発明の一態様は、1又は2以上のプレス成形を経てプレス部品を製造するプレス部品の製造方法において、上記1又は2以上のプレス成形のうちの少なくとも1つのプレス成形で、被プレス材の端部に遅れ破壊が懸念されると推定される場合、上記遅れ破壊による端部割れが懸念されるプレス成形の前処理として、上記遅れ破壊が懸念される箇所を少なくとも含む端部の切断処理を2度行う2度切断処理を有し、上記2度切断処理は、1度目の切断の際に、上記遅れ破壊が懸念される箇所を含む位置に部分的な梁状の張出部を形成する切断を行い、2度目の切断で上記張出部を切断することを要旨とする。
【0009】
また、本発明の他の態様は、1又は2以上のプレス成形を経てプレス部品となるブランク材の製造方法において、上記1又は2以上のプレス成形のうちの少なくとも1つのプレス成形で、被プレス材の端部に遅れ破壊による端部割れが懸念されると推定される場合、上記遅れ破壊が懸念される箇所を少なくとも含む端部の切断処理を2度行う2度切断処理を有し、上記2度切断処理は、1度目の切断の際に、上記遅れ破壊が懸念される箇所を含む位置に部分的な梁状の張出部を形成する切断を行い、2度目の切断で上記張出部を切断することを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、目的とするプレス部品形状の制約の発生を抑えつつ、プレス成形後の遅れ破壊を抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に基づく実施形態に係る2度切断処理及びその後のプレス成形を説明する概念図である。
図2】本発明を適用しない場合のプレス成形を説明する概念図である。
図3】加工途中で、本発明に基づく2度切断処理を行う場合を例示する概念図である。
図4】絞り加工に対して本発明に基づく2度切断処理を行う場合を例示する平面図である。
図5】絞り加工に対して本発明に基づく2度切断処理を行う場合を例示する断面図である。
図6】張出量と遅れ破壊の関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態のプレス部品の製造方法は、1又は2以上のプレス成形を経て目的のプレス部品を製造するプレス部品の製造方法である。各プレス成形でのプレス成形は、例えば、フォーム成形若しくはドロー成形で行われる。そして、本実施形態のプレス部品の製造方法は、少なくとも1つのプレス成形で、プレス成形後に、板端縁に沿って遅れ破壊が発生する場合の技術である。
【0013】
本実施形態では、説明を簡易にするため、一回のプレス成形(一回のプレス工程)で、図1(d)に示す形状のプレス部品10を製造する場合を例に挙げて説明する。
図1(d)に例示したプレス部品10の部品形状は、天板部11と、天板部11に連続する縦壁部12と当該縦壁部12に連続するフランジ部13とを有する。また、図1(d)に例示したプレス部品10の部品形状は、長手方向に沿って、上面視で図1中右側に凸となるように湾曲した形状となっている。
【0014】
本例では、本発明を適用しないプレス成形を実施した場合(図2のように図1の(b)の工程を省略した場合)、湾曲凸側のフランジ部13の一部に遅れ破壊による端部割れが懸念される割れ懸念部があるとする。なお、図1(d)中、符号3は、遅れ破壊による割れ懸念部の位置を示し、図2(d)中、符号3′は、遅れ破壊により実際に端部割れが発生した割れ懸念部に対応する位置を示す。図1(b)、図1(c)、図2(c)における符号3Aは、被プレス材での遅れ破壊による割れ懸念部3の位置を示している。
また符号1Aは、被プレス材1における、フランジ部13となる領域に相当するフランジ対応部を示している。ここで、本実施形態では、遅れ破壊による割れ懸念部3の位置が、フランジ部13で形成される端面の場合を例示しているが、これに限定されない。遅れ破壊による割れ懸念部3の位置が、フランジ部の端面以外のせん断面の場合も想定される。
【0015】
ここで、せん断端面には、大きな引張応力が残留することが知られている。この引張応力の残留によって、プレス後の製品(プレス部品)において、経時的な、せん断端面での遅れ破壊の発生が懸念される。更に、プレス成形の際に圧縮応力が入力される端部は、プレス後に、引張残留応力が発生して、プレス後の製品(プレス部品)において、経時的な遅れ破壊の発生が懸念される。したがって、せん断端面であって、プレスの際に圧縮応力が入力される端部は、遅れ破壊の発生が、特に懸念される。
【0016】
遅れ破壊による割れ懸念部3の有無の確認、及びその割れ懸念部3の位置の特定は、例えば、CAE解析などのシミュレーション解析の実行によって求める。また、実際にプレス成形を実施して各プレス成形後の部品を観察して、遅れ破壊による割れ懸念部3の有無の確認、及びその割れ懸念部3の位置を特定しても良い。
上述のように、シミュレーション解析の場合には、離型後の引張残留応力を演算することで遅れ破壊を評価すればよい。また、実プレスの場合には、作製したサンプルについて、例えばX線によるせん断端面の引張残留応力値を測定して遅れ破壊を評価する。若しくは、作製したサンプルに対し、例えば、pHが3の塩酸に96時間浸漬し、その後のサンプルの端部割れの有無や割れの大きさにより、遅れ破壊を評価する。
【0017】
本実施形態では、プレス成形を行う前処理として、被プレス材を例示するブランク材1の外周を、プレス部品10の部品形状に応じた輪郭形状にせん断するトリム工程を有する。
ただし、本実施形態では、このトリム工程において、遅れ破壊による端部割れが懸念されるフランジ部13に相当するフランジ対応部の端部(少なくとも割れ懸念部3の位置)に対し、図1の(b)及び(c)に示すような、本発明に基づく2度の切断を実行する2度切断処理を施す。
上記の遅れ破壊による端部割れが懸念される端部位置は、プレス成形の離型後に、引張残留応力を有する部分である。
【0018】
したがって、例えば、CAE解析などで、目的とするプレス部品に対し、予め設定した所定以上の引張残留応力が発生する場合に、端部に遅れ破壊による端部割れが懸念されると推定される場合とし、その所定以上の引張残留応力が発生する箇所を、遅れ破壊が懸念される箇所とする。また例えば、本発明を適用しない場合に、遅れ破壊が発生した箇所を、遅れ破壊が懸念される箇所とする。
【0019】
本実施形態では、被プレス材であるブランク材1における、2度切断処理を施すフランジ対応部1Aの端部に対し、1度目の切断の際に、図1(b)のように、遅れ破壊による端部割れが懸念される箇所を含む位置に部分的な梁状の張出部2が形成されるように切断を行う。続いて、2度目の切断で、図1(c)のように、上記張出部2を切断して、ブランク材1を目的の端縁の輪郭形状とする。
【0020】
すなわち、本実施形態では、トリム工程で、ブランク材1を目的の輪郭形状に切断する際に、フランジ対応部1Aの辺(端縁)については、割れ懸念部3Aを含む位置に、部分的に片持ち梁状に張り出した張出部2を有する形状に一旦切断する。続いて、2度目の切断でその張出部2を切断して、目的の輪郭形状とする。このように、従来の処理を示す図2の(c)の切断処理が、本実施形態では、図1の(b)及び(c)の2工程で実行される。図1の(b)及び(c)の工程を一工程で実行してもよい。
なお、本発明に基づく2度切断処理は、トリム工程と独立して実行されても良い。例えば、図1の(c)〜(d)の間に複数の工程(不図示)を設け、その複数の工程中に、本発明に基づく2度切断処理を実行しても良い。
【0021】
ここで、張出部2の幅W(材料の端縁に沿った長さ)は、フランジ部13の端縁に沿った長さLの1/3以下、若しくはブランク材1の板厚の150倍以下とすることが好ましい。
1度目の切断(せん断)で、上記の幅Wからなる一時的な梁状の張出部2を形成することで、梁状の張出部2を一時的に形成しない場合(図2参照)に比べて、2度目の切断(せん断)の切断量(抜き代)を稼ぎつつ、割れ懸念部3へのせん断による歪入力を、より確実に抑制することができる(後述の実施例を参照)。
なお、張出部2の幅Wの下限値は、割れ懸念部3が発生すると推定される位置を含み且つせん断が可能な幅であれば、特に限定はない。幅Wの下限値は、例えば、遅れ破壊による端部割れによる端縁での開き量以上とする。張出部2の幅Wは、せん断による切断の容易性等を考慮すると、20mm以上が好ましい。
【0022】
また張出部2の張出量H(目的の輪郭位置からの張出量(突出量)の最大値)は、ブランク材1の板厚の10倍以下若しくは5.0mm以下が好ましい。
2度目の切断部分を片持ち梁状の張出部2とすることで、2度目の切断(せん断)の切断量(抜き代)を稼ぎつつ、割れ懸念部3へのせん断による歪入力をより確実に抑制することができる。
張出部2の張出量Hの下限値は、特になく、0mmより大きく張り出してせん断可能であれば構わない。張出量Hの下限値は、せん断のしやすさなどかを考慮すると、1mm以上、更に好ましくは3mm以上が好ましい。
【0023】
そして、以上の2度切断処理の後に、プレス成形で目的とするプレス部品10を製造する。
上記の2度切断処理を端部割れが懸念されるプレス成形の前処理として行うことで、通常のプレス成形を使用し且つ部品形状に制約を加えること無く、遅れ破壊による割れ懸念部3での割れを防止することができる。
ここで、上記説明では、プレス成形の前処理として、上記の2度切断処理を実行する場合を例に挙げて説明した。もっとも、図1(b)→(c′)→(d)のように、目的の部品形状にプレス成形(図1(c′))してから、2度目の切断(張出部2の切断)を実行(図1(d))するように構成しても良い。効果は同様である。
なお、上記説明では、割れ懸念部3が一カ所の場合を例示しているが、本発明は、遅れ破壊による割れ懸念部3が2カ所以上あっても適用可能である。各割れ懸念部3毎に、端部割れが懸念されるプレス成形の前処理として、上述のような2度切断処理を行えば良い。ただし、隣り合う割れ懸念部3が近接している場合には、隣り合う割れ懸念部3を含む一つの張出部2を1度目の切断で形成するようにしても良い。
【0024】
ここで、1度目の切断で形成した部分的な片持ち梁状の張出部を、2度目の切断で切断する2度切断処理の作用・効果について説明する。
一般に、せん断加工を行うと、被プレス材の端縁に対し、大きな引張応力が残留する。このため、その後のプレス成形として、フランジ部13の端縁に沿ったフランジ部13の端部13aに対し引張残留応力が発生するようなプレス成形を実行すると、端部割れが発生する可能性が高くなる傾向にある。
これに対し、遅れ破壊による端部割れが発生する懸念がある部分に対し、本発明に基づく2度切断処理を施すことで、せん断端面での引張残留応力が低減する(実施例参照)。この結果、本実施形態では、部品形状に制約が発生することを防止しつつ、引張残留応力で生じる遅れ破壊による端部割れを防止できる。
【0025】
ここで、従来処理の例である図2に示すように、1度のせん断による切断でフランジとなる位置の端部を形成する場合、図2(a)で示す一点鎖線で示す切断位置(右側の切断位置)で切断されることから、切断部の幅W1と切断位置からの張出量H1からなる切断面積が大きい。
これに対し、図1に示すように、本発明に基づき、1度目の切断(図1(a)の一点鎖線の位置での切断)で部分的な梁状の張出部2を形成し、2度目の切断でその張出部2を切断する2度切断処理の場合は、2度目の切断での切断部の幅Wと張出量Hからなる切断面積が小さい(図1(b)(c)参照)。そして、本発明に基づく2度切断処理では、部分的な片持ち梁状の張出部2を1度目の切断で形成することで、2度目の切断で切断する切断部(張出部2)は、図1(b)のように切断部分の幅Wが大幅に小さく且つ片持ち梁状に張り出している。このため、2度目の切断で張出部2を切断すると、切断の進行方向への鋼板のたわみが大きくなり、切断時の歪入力が緩和されることで切断時の大変形領域が緩和され、引張残留応力を緩和させることができると推定される。
【0026】
なお、遅れ破壊は、引張強度が高い材料ほど発生しやすいため、本発明は、例えば引張強度が590MPa以上の高張力鋼板に好適である。もっとも、ブランク材1の素材は、鉄鋼に限らず、ステンレス等の鉄合金、更には非鉄材料、非金属材料に対しても適用することが可能である。また、本実施形態で製造されるプレス部品10は、例えば自動車部品として好適であるが、本発明は、自動車部品に限らず板材をプレス成形する加工全てに対して適用することが可能である。
【0027】
また、以上の実施形態では、1段階のプレス成形で目的のプレス部品10を製造する場合を例示した。一般に、プレス部品の部品形状が複雑になるほど、2以上のプレス成形(複数のプレス工程)を経て目的のプレス部品を製造する傾向にある。また、複数のプレス成形で目的のプレス部品を製造する場合に、遅れ破壊が発生するプレス成形が最終工程とは限らない。また、2段階以上のプレス成形で個別に遅れ破壊が発生する場合もある。
例えば、5段階のプレス成形を経て目的のプレス部品を製造する際に、CAEなどのシミュレーションで、4段階目のプレス成形で、所定値以上の引張応力が残留して遅れ破壊の懸念があると推定した場合には、上述の2度切断処理を4段階目のプレス成形よりも前に実施すればよい。
【0028】
図3に、多段階のプレス成形で、目的のプレス部品(図3(e)参照)を製造する場合の例を示す。図3に示す例は、図3(b)、(e)がそれぞれプレス成形後の形状であり、図3(e)の形状へのプレス成形でのプレス部品に遅れ破壊による割れ懸念部3が存在する場合の例である。この例では、1度目のプレス成形でのプレス部品(図3(b))のフランジ部13に対して、図3(c)のように、端部割れが懸念される箇所を含む位置に部分的な梁状の張出部2が形成されるように切断を行い、2度目の切断で、図3(d)のように、張出部2を切断して、目的の端縁の輪郭形状とする。その後、2度目のプレス成形を行う(図3(e)参照)。これによって、割れ懸念部3での端部割れが抑えられる。
【0029】
また、本発明の2度切断処理は、図4図5に示すように、絞り加工であっても適用することができる。図4図5に示す例では、絞り加工で中央部を膨らませるプレス成形(図4(d)、図5(d))を実行する前に、遅れ破壊による割れ懸念部に対し、2度切断処理を施す。
この例では、ブランク1は目的のサンプル形状に切断する際に、遅れ破壊が懸念される箇所を含む位置に梁状の張出部2を形成する(図4(b)、図5(b))。その後、2度目の切断を行って、梁状の張出部2を切断する(図4(c)、図5(c))。
【0030】
その後に、中央部に絞り加工を行って(図4(d)、図5(d))、中央部を立ち上げる。符号17が絞り加工で膨らませた部分である。ここで、冷延材は2方向へ、熱延材はC方向に割れやすい異方性の傾向がある。上記の絞り加工で割れ懸念部3が存在する端部に上記の張出部2を形成すればよい。
上記説明では、絞り加工の前処理として、上記の2度切断処理を実行する場合を例に挙げて説明した。図3(b)→(c′)→(d)のように、目的の部品形状に絞り加工(図3(c′))してから、2度目の切断(張出部2の切断)を実行(図3(d))するように構成しても良い。効果は同様である。
【0031】
ここで、2度切断処理は、上述のプレス成形前のトリム工程に限定されず、2度切断処理として、1度目の切断と2度目の切断を、トリム工程と独立して施しても良い。また、2度切断処理における1度目の切断と2度目の切断の間に、複数のプレス成形工程がある場合、そのプレス成形工程のうち、少なくとも1つのプレス成形を実施する前に2度切断処理を実行する構成としても良い。
また、せん断に使用するカッターについて特に限定はなく、従来公知に設備を使用すればよい。例えば、被プレス材の板厚tに対するカッターの上刃と下刃の隙間dの比(d/t)の100分率である、クリアランスCは、5.0%以上30.0%以下が好ましい。
【0032】
クリアランスCが5.0%より小さい場合、せん断加工時に2次せん断面が発生し、せん断端面の状態として好ましくない。その上、引張残留応力が大きくなるおそれがある。
一方、クリアランスCが30.0%より大きい場合、せん断端面に所定以上のバリが発生し、せん断端面の成形性を大きく損なうおそれがある。更に、せん断加工終了までに加工面に不均一な変形応力が付与されるため、せん断加工終了後の引張残留応力が大きくなるおそれがある。
より好ましいクリアランスCは10.0%以上かつ20.0%未満である。
【実施例1】
【0033】
次に、本実施形態に関する実施例について説明する。
ここでは、板厚が1.4mmの高強度鋼板からなる、二種類の供試材A、Bを対象とした。供試材A、Bのせん断前の寸法は、100mm×100mmである。
まず、供試材を、1度目の切断で100mm×50mmの寸法に切断した。ただし、1度目の切断の際に、張出部2OCを形成した(図6(b))。
次に、1度目の切断加工後に、張出部2OCを切断する2度目の切断を実施した(図6(c))。なお、1度目と2度目の切断加工ともに切断加工時のクリアランスは12.5%とした。
以上の切断加工を張出部2OCの張出量Hを変更して複数回実施して、複数のサンプルを作製した。
【0034】
サンプル作製後、張出部2OCを切断した端面部分における、X線による切断後のせん断端面の残留応力測定を実施した。更に、作製したサンプルに対し、pHが3の塩酸に96時間浸漬し、その後、サンプルの端部割れの有無を確認し、耐遅れ破壊特性を評価した。
その割れの確認は、X線による測定であり、測定範囲を直径300μmとした。また、せん断加工後のせん断端面の板面、板厚の両方向に対して中央の位置の応力を測定した。
表1に、供試材の引張強度及び張出部2OCの張出量H(板厚tに対する比で示した)、せん断端面の残留応力及び浸漬試験の割れ判定結果を示す。
表1中、張出部2OCの張出量Hの欄が「−」のサンプルは、張出部2OCを設けず、2度目の切断を実行しなかった場合の例である。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から分かるように、1度目で張出部2OCを設け2度目の切断加工で張出部2OCを切断することにより、せん断端面の引張残留応力が低減しており、また、浸漬試験の割れ判定結果も対応していることが分かる。
ただし、2度目の切断加工の切り代を板厚の20倍とした場合には、引張残留応力低減効果が小さい。このように、表1から分かるように、張出部2OCの張出量Hを、金属板10の板厚の1.2倍以上20倍未満とすることで、耐遅れ破壊特性が大幅に向上することが分かった。
そして、本発明に基づく場合、遅れ破壊による端部割れを簡易に抑制できることが分かった。
【0037】
ここで、本願が優先権を主張する、日本国特許出願2020−063178(2020年03月31日出願)の全内容は、参照により本開示の一部をなす。ここでは、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく各実施形態の改変は当業者にとって自明なことである。
【符号の説明】
【0038】
1 ブランク材(被プレス材)
1A フランジ対応部
2、20C 張出部
3、3A 割れ懸念部
10 プレス部品
13 フランジ部
H 張出量
W 幅
【要約】
目的とするプレス部品形状の制約を受けずに、遅れ破壊による端部割れを抑制可能な技術を提供する。プレス成形で、被プレス材の端部に遅れ破壊による端部割れが懸念されると推定される場合、上記端部割れが懸念されるプレス成形の前処理として、端部割れが懸念される箇所を少なくとも含む端部の切断処理を2度行う2度切断処理を有する。2度切断処理は、1度目の切断の際に、端部割れが懸念される箇所を含む位置に部分的な梁状の張出部を形成する切断を行い、2度目の切断で上記張出部を切断する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6