(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6977941
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】アンカー荷重計の補修再生方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/80 20060101AFI20211125BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
G01L5/00 103D
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-30409(P2020-30409)
(22)【出願日】2020年2月26日
(65)【公開番号】特開2021-134528(P2021-134528A)
(43)【公開日】2021年9月13日
【審査請求日】2020年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】596053585
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング中国株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391007460
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391005950
【氏名又は名称】株式会社東横エルメス
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】中対 克孝
(72)【発明者】
【氏名】金子 雅博
(72)【発明者】
【氏名】川波 敏博
(72)【発明者】
【氏名】有本 行秀
(72)【発明者】
【氏名】山崎 充
(72)【発明者】
【氏名】関口 将司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
(72)【発明者】
【氏名】峯尾 卓光
(72)【発明者】
【氏名】樋川 健次
(72)【発明者】
【氏名】内倉 孝之
【審査官】
亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−098603(JP,A)
【文献】
特開2017−003370(JP,A)
【文献】
特開2008−070205(JP,A)
【文献】
実開昭63−165540(JP,U)
【文献】
中国特許出願公開第103837279(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20−5/80
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起歪筒と、該起歪筒の外周を保護する外筒とを有するアンカー荷重計の補修再生方法であって、
前記外筒を取り外す工程と、
露出した前記起歪筒の外周に新たにひずみゲージを固定する工程と、
前記ひずみゲージを固定した前記起歪筒の外周に防水材を巻き付ける工程と、
前記防水材を巻き付けた前記起歪筒の外周に、取り外した前記外筒を固定する工程と、からなり、
前記各工程は、引張材の引張力を維持した状態で行うことを特徴とする、
アンカー荷重計の補修再生方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアンカー荷重計の補修再生方法において、
前記ひずみゲージは、前記起歪筒の外周に、軸感度方向に円周4等配に固定することを特徴とする、
アンカー荷重計の補修再生方法。
【請求項3】
露出した起歪筒を有するアンカー荷重計の補修再生方法であって、
露出した前記起歪筒の外周に新たにひずみゲージを固定する工程と、
前記ひずみゲージを固定した前記起歪筒の外周に防水材を巻き付ける工程と、
前記防水材を巻き付けた前記起歪筒の外周に、保護筒を固定する工程と、からなり、
前記各工程は、引張材の引張力を維持した状態で行うことを特徴とする、
アンカー荷重計の補修再生方法。
【請求項4】
請求項3に記載のアンカー荷重計の補修再生方法において、
前記ひずみゲージは、前記起歪筒の外周に、軸感度方向に円周4等配に固定することを特徴とする、
アンカー荷重計の補修再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー荷重計の補修再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラウンドアンカーとは、地中に造成する定着部と地表付近に設ける法枠や擁壁等の構造物を高強度の引張材で連結し、引張材に作用させた引張力を利用して、構造物を安定させるシステムである。
従来知られているグラウンドアンカーは、地盤101中に造成した定着部102と構造物103を、引張材104を介して連結する。そして、引張材104の頭部に設けた定着具105、受圧体106、支圧板107を介して、構造物103に形成した台座108から構造物103に引張力を作用させる(
図11)。
【0003】
グラウンドアンカーに作用する引張力は、設置した地盤の変形や引張材等の劣化により変動する。このため、引張力を計測することにより、地盤の変形やグラウンドアンカーの健全性の指標とすることができる。
【0004】
引張力の計測は、受圧体106と支圧板107の間に設ける荷重計109にかかる荷重を計測して行うことが一般的である(
図11)。
荷重計109の内部には、引張力により変形する起歪体109aと、起歪体109aに取り付けるひずみゲージ109bを有しており、ひずみゲージ109bにより起歪体109aの変形量を検出することにより、荷重を測定する(
図12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−26338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的なひずみゲージは時間経過により劣化して、正しい計測値が得られなくなる。また、落雷や浸水等により破損した場合にも計測値が得られなくなる。
正しい計測値が得られなくなると引張力が測定できなくなり、地盤の変形やグラウンドアンカーの健全性の確認もできなくなってしまう。
荷重計により引張力が測定できなくなった場合、従来は荷重計全体の交換や、新たに荷重計を追加する必要があった。
【0007】
荷重計を交換する場合、定着具や受圧体を取り外した後に荷重計の交換を行う。
このとき、引張材に作用する引張力がゼロとなるため、グラウンドアンカーにより安定させている構造物や地盤が一時的に不安定となってしまい、破損、崩壊のリスクが生じてしまう。
また、新たに荷重計を追加する場合には、新たな荷重計の他、受圧板や支圧板の追加コストが必要となる。
【0008】
本発明は、引張材に作用する引張力を維持した状態で、安価に行うことができる、アンカー荷重計の補修再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本願の第1発明は、起歪筒と、該起歪筒の外周を保護する外筒とを有するアンカー荷重計の補修再生方法であって、前記外筒を取り外す工程と、露出した前記起歪筒の外周に新たにひずみゲージを固定する工程と、前記ひずみゲージを固定した前記起歪筒の外周に防水材を巻き付ける工程と、前記防水材を巻き付けた前記起歪筒の外周に、取り外した前記外筒を固定する工程と、からな
り、前記各工程は、引張材の引張力を維持した状態で行うことを特徴とする、アンカー荷重計の補修再生方法を提供する。
本願の第2発明は、第1発明のアンカー荷重計の補修再生方法において、前記ひずみゲージは、前記起歪筒の外周に、軸感度方向に円周4等配に固定することを特徴とする、アンカー荷重計の補修再生方法を提供する。
本願の第3発明は、露出した起歪筒を有するアンカー荷重計の補修再生方法であって、露出した前記起歪筒の外周に新たにひずみゲージを固定する工程と、前記ひずみゲージを固定した前記起歪筒の外周に防水材を巻き付ける工程と、前記防水材を巻き付けた前記起歪筒の外周に、保護筒を固定する工程と、からな
り、前記各工程は、引張材の引張力を維持した状態で行うことを特徴とする、アンカー荷重計の補修再生方法を提供する。
本願の第4発明は、第3発明のアンカー荷重計の補修再生方法において、前記ひずみゲージは、前記起歪筒の外周に、軸感度方向に円周4等配に固定することを特徴とする、アンカー荷重計の補修再生方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
(1)起歪筒や外筒はそのまま再使用できるため、安価に荷重計を補修再生することができる。
(2)引張材の引張力を維持した状態で補修再生できるため、引張力の除荷による構造物や地盤の破損、崩壊のリスクがない。
(3)作業が容易であるため、短時間で補修再生を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法の説明図(1)
【
図2】第1実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法の説明図(2)
【
図3】第1実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法の説明図(3)
【
図4】第1実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法の説明図(4)
【
図5】第1実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法の説明図(5)
【
図6】第1実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法の説明図(6)
【
図7】第2実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法を適用する荷重計の説明図
【
図8】第2実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法の説明図(1)
【
図9】第2実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法の説明図(2)
【
図10】第2実施例にかかる本発明のアンカー荷重計の補修再生方法の説明図(3)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明のアンカー荷重計の補修再生方法を詳細に説明する。
【0013】
[実施例1]
(1)既設の荷重計の構成
本発明の補修対象となる既設の荷重計は、起歪体である起歪筒1と、起歪筒1の外周を保護する外筒2を有し、起歪筒1の外周には既設のひずみゲージ3が設けられている(
図1)。
【0014】
(2)既設ひずみゲージの交換
一般的なひずみゲージは時間経過により劣化して、正しい計測値が得られなくなる。また、落雷や浸水等により破損した場合にも計測値が得られなくなる。
本発明は、以下の方法により既設のひずみゲージ3を交換することで、荷重計の補修再生を行う。
【0015】
(3)外筒の取り外し
まず、サンダーやマルチツール、タガネ等の工具を用いて、外筒2に軸方向の切り込み21を入れる(
図2)。切り込み21は外筒2の軸を対称に2本設けて外筒2を上下に切断し、外筒2を略半円状に分割して取り外す。なお、外筒の一部が地中にある等、上記工具による作業が困難な場合には、プラズマ溶断機を用いて外筒2に切り込み21を入れて取り外すこともできる。
荷重計を使用するときは起歪筒1が荷重を受け持つため、外筒2には荷重が作用していない。このため、外筒2は取り外すことができる。
外筒2を取り外す方法としては、外筒2の一箇所のみを切断し、切断した部分から外筒2を開いて取り外したり、3本以上の切り込みにより外筒2を切断して取り外したりしても良い。
【0016】
(4)既設ひずみゲージの除去
外筒2を取り外すと、起歪筒1の外周に設けられた既設ひずみゲージ3が露出する(
図3)。
そして、露出した既設ひずみゲージ3を除去する。
起歪筒1の外周に防水用のゴムや防湿剤等が設けられている場合には、工具等で大まかに除去した後、溶剤を用いてそれらを拭き取る。
起歪筒1の内側に既設ひずみゲージ3が設けられている場合にはそのまま残す。
【0017】
(5)新たなひずみゲージの設置
起歪筒1の外周に、新たなひずみゲージ4を固定する(
図4)。新たなひずみゲージ4を取り付ける位置は予め紙やすり等によりサンディングを行う。
新たなひずみゲージ4は、起歪筒1の外周に、軸感度方向に円周4等配に貼りつける。そして、その平均ひずみを出力値として測定する。この構成は偏心荷重の影響を受けにくく精度が高い。
新たなひずみゲージ4は防水性の高い防水ひずみゲージを使用し、ひずみゲージ4を起歪筒1に固定する接着剤は、長期安定性のある2液混合型のポリエステル樹脂を主成分としたものを使用するのが好ましい。
新たなひずみゲージは、既設ひずみゲージ3と同位置に固定しても良いし、他の位置に固定しても良い。
【0018】
(6)起歪筒の防水保護
接着剤が硬化した後、ひずみゲージを固定した起歪筒1の外周に、ひずみゲージ4の上から樹脂製のテープ5等の防水材を多重に巻き付けて防水保護を行う(
図5)。このとき、ひずみゲージのリード線と接続したブリッジ基板(図示せず)を多層に形成されるテープ5の間に巻き込んでもよい。
樹脂製のテープ5の種類とその使用手順としては、まず防水ブチルテープを多重に巻き付けてひずみゲージ4及びブリッジ基板を覆い、その上からハイボンテープを巻き付け、最後にビニールテープを巻き付けて防水保護を行うことが好適である。
【0019】
(7)外筒の固定
防水保護を行った起歪筒1を風雨や落石などから防護するために、取り外した外筒2を起歪筒1の外周に配置し、テープ5等により固定する(
図6)。外筒2に既存のケーブルが取り付けられている場合には、ブリッジ基板からの配線をケーブルに接続する。
【0020】
(8)出力調整
既設の荷重計では、既設のひずみゲージからの出力が2倍となるブリッジ回路が組まれている場合がある。このような場合には、既設の出力に新たなひずみゲージの出力を合わせる係数を用いる等、出力調整を行う。
【0021】
上記手順により、グラウンドアンカーに荷重計を設置した状態での補修再生が可能となり、補修再生後の荷重の増減を測定できるようになる。
上記手順は、起歪筒1や外筒2はそのまま再使用できるため、安価に荷重計を補修再生することができる。
また、上記手順は引張材の引張力を維持した状態で補修再生できるため、引張力の除荷による構造物や地盤の破損、崩壊のリスクがない。そして、作業が容易であるため短時間で補修再生することができる。
【0022】
[実施例2]
上記の実施例1は、起歪筒1が外筒2で保護されているタイプの荷重計の補修再生方法に関する発明である。
実施例2として、起歪筒1が露出しているタイプの荷重計(
図7(a)〜(c))の補修再生方法を説明する。
【0023】
(1)起歪筒の表面仕上げ
まず、既設の起歪筒1の外周の塗装をベルトサンダー等により除去する。そして、紙やすりにより表面を仕上げ磨きする。
【0024】
(2)新たなひずみゲージの設置
次に、起歪筒1の外周に残った油を、溶剤を用いて除去した後、実施例1と同様に新たなひずみゲージ4を接着剤により固定する(
図8)。
新たなひずみゲージ4は、実施例1と同様に、起歪筒1の外周に、軸感度方向に円周4等配に貼りつける。
【0025】
(3)起歪筒の防水保護
接着剤が硬化した後、実施例1と同様に樹脂製のテープ5等を用いて起歪筒の防水保護を行う(
図9)。
【0026】
(4)起歪筒の保護
防水保護を行った起歪筒1を風雨や落石などから防護するために、板体を湾曲して形成した保護筒6を起歪筒1の外周に沿って配置し、テープ5等により固定する(
図10)。
保護筒6を形成する板体としてはペット板が好適である。
【符号の説明】
【0027】
1 起歪筒
2 外筒
21 切り込み
3 既設ひずみゲージ
4 ひずみゲージ
5 テープ
6 保護筒