【実施例】
【0034】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0035】
アモルファス状リン酸カルシウム(ACP)シートの作成
レジスト膜付きのシリコン基板を基材とし、このレジスト膜状に生体親和性セラミックス(アモルファスリン酸カルシウム:ACP))膜を成膜した後、レジスト膜を溶解して、ACPシートを作製した。
【0036】
まず、レジスト膜付きのシリコン基盤にレーザーアブレーション法により、ACP膜を成膜した。より詳細には、20mm×15mmのレジスト膜付きのシリコン基盤をレーザーアブレーション装置の試料把持装置に把持させ、真空中でAr Fエキシマレーザー(λ=193nm、パルス幅=20n秒)を使用するレーザーアブレーション法を2時間行って、厚さ2μmのACP膜を被覆した。次に、ACP膜を成膜したレジスト膜付きのシリコン基盤を純水に浸漬してレジスト膜を溶解してACP膜のみを単離した。
【0037】
さらに当該ACP膜に穴のあいた金属マスクを被せ、大気中で上記と同条件のレーザー光を照射することにより、直径100μm程度の貫通孔を約1000μm間隔で形成した。この貫通孔を備えるACP膜を以下の検討に使用した。
【0038】
牛歯ディスクの調製
牛歯を切断して板状のディスクとし(
図1参照)、表面を耐水研磨紙(粒度2500)で研磨し、10%次亜塩素酸で30秒処理(浸漬)し、超音波処理(1分)を施して、検討に用いる牛歯ディスクを調製した。
【0039】
貼付液の調製
第一リン酸カルシウム一水和物の飽和水溶液(pHが6.0、5.0、4.0、3.0、2.0、又は1.0)を調製し、貼付液とした。各貼付液の第一リン酸カルシウム一水和物の重量%を次の表に示す。なお、以下においても、調製した貼付液は全て水溶液である。また、特に断らない限り重量%はw/v%を示す。また、pHの調整は塩酸を用いて行った。
【0040】
【表1】
【0041】
歯へのシート接着検討
100mm dishに人工唾液を浸したキムタオル片を入れ、その上で検討試験を行った。具体的には、次の手順に従って検討した。各貼付液を牛歯ディスクに添加し、ACPシートの貼付面を象牙質に貼付し、指で押さえつけ、10分間インキュベートし、さらに20分間、1分毎に人工唾液を添加して指で押さえつけた。その後、24時間(37℃)人工唾液湿潤状態で静置した。静置後、ACPシートをブラッシングし、剥離しないかを検証した。なお、ブラッシングは、荷重160g、150rpmで20ストローク(GUM211Mのヘッドを使用)の条件で行った。以下も同様である。
【0042】
Ca(H
2PO
4)
2飽和貼付液による検討結果を
図2に示す(pH1.0、2.0、3.0又は4.0の貼付液を用いた場合の結果は、拡大図も併せて示す。)。pH1.0、2.0又は3.0の貼付液を用いた場合には、ACPシートはブラッシング後も牛歯ディスクに接着していた。しかし、pH1.0の貼付駅を用いた場合においては、シートそのものが一部溶解していた。pH4.0の貼付液を用いた場合には、ブラッシング後は部分部分(斑模様的に)シートが剥離していた。pH5.0又は6.0の貼付液を用いた場合には、ブラッシング後はシートが完全に剥離していた。
【0043】
このことから、Ca(H
2PO
4)
2飽和貼付液においては、pH4.0の液を用いた場合には接着が完全ではなく、pH5.0以上の液を用いた場合には接着が不完全であることがわかった。
【0044】
歯への貼付液の影響(為害性)の検討
牛歯から切り出した5mm四方の象牙質(象牙ブロック)を、その一面の表面のみ外部に見えるようにレジン包埋し、その表面について耐水研磨紙(粒度2500)で研磨し、10%次亜塩素酸で30秒処理(浸漬)し、超音波処理(1分)を施して、さらに当該表面の中心3mm四方を残してマニキュアでコートした(
図3参照)。
【0045】
そして、露出している3mm四方の象牙質表面を貼付液又は蒸留水で覆い、室温で10分間静置し、人工唾液で十分に洗浄してから、象牙質露出表面の中心付近からブロックを縦に切断してデジタルマイクロスコープ(KEYENCE, VHX−5000)にて観察した。結果を
図4に示す。
図4から分かるように、pH1.0の貼付液を用いた時のみ、象牙質が溶解していた。
【0046】
このことから、pH1.0以下の貼付液を用いた場合、強酸により象牙質が溶解してしまうおそれがあることがわかった。
【0047】
貼付液の濃度の検討
pH3.0のCa(H
2PO
4)
2飽和貼付液(0.54重量%)の他に、pH3.0の0.36重量%又は0.18重量%のCa(H
2PO
4)
2貼付液を調製し、これらの接着性能について、上記と同様の手順で検討した。それぞれの貼付液につき、3シート(n=3)検討した。結果を
図5に示す。
図5に示すように、pH3.0のCa(H
2PO
4)
2飽和貼付液(0.54重量%)を用いた場合は3シートとも接着し、pH3.0の0.36重量%又は0.18重量%のCa(H
2PO
4)
2貼付液を用いた場合は3シート中2シートが接着した。なお、
図5に示される写真は、接着したシートの写真である。
【0048】
このことから、貼付液のリン酸カルシウム濃度は高い方が好ましいことが分かった。
【0049】
貼付液に用いるリン酸カルシウムの種類の検討
pH3.0のCa(H
2PO
4)
2飽和貼付液(0.54重量%)の他に、pH3.0のCaHPO
4飽和貼付液(0.58重量%)、及びpH3.0のCa
3(PO
4)
2飽和貼付液(0.37重量%)を調製し、これらの接着性能について、上記と同様の手順で検討した。それぞれの貼付液につき、3シート(n=3)検討した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、いずれの貼付液を用いた場合も3シートとも接着した。
【0050】
このことから、貼付液のリン酸カルシウムとしては、Ca(H
2PO
4)
2、CaHPO
4、Ca
3(PO
4)
2のいずれを用いてもよいことがわかった。
【0051】
貼付液に用いるカルシウムイオン及びリン酸イオンの供給源の検討
pH3.0のCa(H
2PO
4)
2飽和貼付液(0.54重量%)の他に、pH3.0のCaCl
2飽和貼付液(42.7重量%)、pH3.0のNaH
2PO
4飽和貼付液(59.2重量%)、及びpH3.0のCaSO
4飽和貼付液(0.24重量%)、を調製し、これらの接着性能について、上記と同様の手順で検討した。但し、Ca(H
2PO
4)
2飽和貼付液及びCaSO
4飽和貼付液を用いた場合においては、ブラッシング処理後、さらに超音波処理を施した。
【0052】
それぞれの貼付液につき、3シート(n=3)検討した。結果を
図7及び
図8に示す。
図7に示すように、CaCl
2飽和貼付液又はNaH
2PO
4飽和貼付液を用いた場合には、ACPシートは歯に接着しなかった。また、
図8に示すように、CaSO
4飽和貼付液を用いた場合には、ブラッシング後はACPシートは接着していたが、超音波処理(超音波洗浄機US−4;アズワン株式会社、を使用)を施すと剥離してしまった。
【0053】
このことから、貼付液の成分としては、リン酸カルシウムが最適であることがわかった。
【0054】
口腔内保護シートの調製
Comfort Brace(Comfort Brace LLC)を裏面から、1〜1.5mm間隔で、歯科技工用ドリルで孔を開けた。孔の直径は1000μm程度とした。当該貫通孔を有するComfort Braceを約5mm×8mmの長方形になるように切り出し、口腔内保護シートとして以下の検討に用いた。
【0055】
口腔内保護シートを用いての、歯へのシート接着検討
100mm dishに人工唾液を浸したキムタオル片を入れ、その上で検討試験を行った。まず、pH2.0のCa(H
2PO
4)
2飽和貼付液(2.97重量%)を牛歯ディスクに添加し、ACPシート(孔開き)を貼り付け、10分間静置した。口腔内保護シート(孔開きの約5mm×8mmの長方形Comfort Brace)を人工唾液で湿らせ、ACPシートの上に貼付した。この状態で人工唾液で満たした50mLチューブに入れ、37℃で静置した。検討はn=2で行った。
【0056】
当該チューブ内で1日静置した時の、デジタルマイクロスコープ観察結果を
図9上側に示す。ほぼシート全体の残存が確認できた。また、SEM観察画像(シートの端の部分)を
図9下段に示す。SEM観察画像においては、穴(象牙細管)が開いている部分がシートが無い部分であり、象牙細管が見えない部分がシートで覆われている部分である。当該画像から、シートが象牙細管を封鎖していることが確認できた。
【0057】
以上のことから、口腔内保護シートでACPシートを覆うことにより、シートの位置がずれることなくしっかりと接着ができたことが確認された。
【0058】
また、当該チューブ内で2時間又は1時間静置した後、さらにブラッシングを行ってからデジタルマイクロスコープ観察した際の結果(n=3)の結果を
図10に示す。人工唾液への浸漬時間は2時間又は1時間であっても、接着強度に問題は見られなかった。
【0059】
また、口腔内保護シートに代えて、不織布テープ又は歯のマニキュア(ハニックデンティキュア:株式会社ハニックス)を用いて歯へのシート接着を検討した(チューブへの浸漬時間は1時間)。結果を
図11に示す。不織布テープや歯のマニキュアでは、ACPシートをずれないように固定させることはできたが、接着強度は非常に弱かった。
【0060】
アルカリ液塗布による、歯へのシート接着の検討
口腔内保護シートに加えて、アルカリ液を塗布した場合の、歯へのACPシート接着について検討した。
【0061】
pH2.0のCa(H
2PO
4)
2飽和貼付液(2.97重量%)を牛歯ディスクに添加し、ACPシート(孔開き)を貼り付け、10分間静置した。口腔内保護シート(孔開きの約5mm×8mmの長方形Comfort Brace)を人工唾液で湿らせ、ACPシートの上に貼付した。また、この際に、口腔内保護シートに代えて、0.5重量%NaHCO
3(pH8.3)水溶液、又は0.5重量%Na
2CO
3(pH11.3)水溶液、のいずれかをACPシートの上に添加したものも調製した。
【0062】
この状態で人工唾液で満たした50mLチューブに入れ、37℃で1時間静置し、その後ブラッシングした。検討はn=3で行った。
【0063】
結果を
図12に示す。いずれの場合でも、シートの接着強度に大きな問題は無かった。
【0064】
またさらに、次の検討も行った。pH2.0のCa(H
2PO
4)
2飽和貼付液(2.97重量%)を牛歯ディスクに添加し、ACPシート(孔開き)を貼り付け、10分間静置した。口腔内保護シート(孔開きの約5mm×8mmの長方形Comfort Brace)を人工唾液で湿らせ、ACPシートの上に貼付した。また、この際に、口腔内保護シートに代えて、0.5重量%NaHCO
3(pH8.3)水溶液、又は0.5重量%Na
2CO
3(pH11.3)水溶液、のいずれかをACPシートの上に添加したものも調製した。
【0065】
この状態で人工唾液で満たした50mLチューブに入れ、37℃で3分間静置し、その後指で擦過した。検討はn=3で行った。
【0066】
結果を
図13に示す。いずれの場合でも、シートの接着強度に大きな問題は無かったが、0.5重量%NaHCO
3(pH8.3)水溶液、又は0.5重量%Na
2CO
3(pH11.3)水溶液を用いたものの方が接着強度が強かった。
【0067】
口腔内保護シートを用いての、歯へのシート接着検討2
100mm dishに人工唾液を浸したキムタオル片を入れ、その上で検討試験を行った。まず、pH2.0のCa(H
2PO
4)
2飽和貼付液(2.97重量%)を牛歯ディスクに添加し、ACPシート(孔開き)を貼り付け、10分間静置した。口腔内保護シートを人工唾液で湿らせ、ACPシートの上に貼付した。この状態で人工唾液で満たした50mLチューブに入れ、37℃で1時間静置し、ブラッシングした。検討はn=3で行った。なお、当該検討で用いた口腔内保護シートは、酢酸ビニル樹脂(基板層部)及びカルボキシビニルポリマー(接着層部)からなる2層の積層体であり、その総厚みは65μmであり、直径1cm程度の円形である。なお、当該構成の口腔内保護シートは吸水性があるため、貫通孔は有していないものの、人工唾液が吸収されてACPシートまで到達していると考えられる。
【0068】
結果を
図14下段に示す(上段は、口腔内保護シートとして、孔開きの約5mm×8mmの長方形Comfort Braceを用いたときの結果を示し、下段が本検討の結果を示す。)。当該積層体の保護シートを用いた場合も、ACPシートの歯への強固な接着が認められた。