特許第6977981号(P6977981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6977981
(24)【登録日】2021年11月15日
(45)【発行日】2021年12月8日
(54)【発明の名称】生体親和性シートを歯に接着する方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/12 20060101AFI20211125BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20211125BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20211125BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20211125BHJP
   A61L 15/08 20060101ALI20211125BHJP
【FI】
   A61L27/12
   A61K33/42
   A61P1/02
   A61K9/70
   A61L15/08
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-227105(P2016-227105)
(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公開番号】特開2018-82832(P2018-82832A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本津 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小峰 陽比古
(72)【発明者】
【氏名】井手上 拓
【審査官】 星 功介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/014887(WO,A1)
【文献】 特開2014−090850(JP,A)
【文献】 Key Engineering Materials,2016, Vol.696,pp.99-102
【文献】 Key Engineering Materials,2015, Vol.631,pp.258-261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00−27/60
A61L 15/00−15/64
A61K 33/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 6/00− 6/90
A61C 5/00−13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)歯に生体親和性シートを付着させる工程
(b)生体親和性シート又は歯に、貼付液を適用する工程
(c)生体親和性シートを口腔内用保護シートで覆う工程

(a)、(b)、(c)の順、
(b)、(a)、(c)の順、
(c)、(a)、(b)の順、又は
(c)、(b)、(a)の順で
含み、
当該貼付液が、リン酸カルシウムを0.1w/v%以上含み、且つpHが1より大きく4未満である、リン酸カルシウム水溶液であり、
当該口腔内用保護シートが、以下の(i)又は(ii)のシートである、
生体親和性シートを歯に接着する方法(ただし、医療行為を除く)
(i)直径100〜1500μmの貫通孔が開いている樹脂シート
(ii)基板層部と接着層部の二層の積層体を備えた樹脂シート
【請求項2】
生体親和性シートの片面に口腔内用保護シートが積層してなる積層体に、貼付液を適用する工程、及び
歯に当該積層体を付着させる工程、
を含み、
当該貼付液が、リン酸カルシウムを0.1w/v%以上含み、且つpHが1より大きく4未満である、リン酸カルシウム水溶液であり、
当該口腔内用保護シートが、以下の(i)又は(ii)のシートである、
生体親和性シートを歯に接着する方法(ただし、医療行為を除く)
(i)直径100〜1500μmの貫通孔が開いている樹脂シート
(ii)基板層部と接着層部の二層の積層体を備えた樹脂シート
【請求項3】
生体親和性シートが、生体親和性セラミックス膜である、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
生体親和性セラミックス膜が、リン酸カルシウムシートである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
生体親和性シート、口腔内用保護シート、及び貼付液を備えるか、又は
生体親和性シート及び口腔内用保護シートが積層してなる積層体、及び貼付液を備え、当該貼付液が、リン酸カルシウムを0.1w/v%以上含み、且つpHが1より大きく4未満である、リン酸カルシウム水溶液であり、
当該口腔内用保護シートが、以下の(i)又は(ii)のシートである、
生体親和性シートを歯に接着させるためのキット。
(i)直径100〜1500μmの貫通孔が開いている樹脂シート
(ii)基板層部と接着層部の二層の積層体を備えた樹脂シート
【請求項6】
生体親和性シートが、生体親和性セラミックス膜である、請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体親和性シートを歯に接着する方法に関する。また、当該方法に用いる生体親和性シートや当該シートを備える積層体、接着のために用いる貼付剤、並びに当該シートや積層体、貼付剤等を備えるキットなどにも関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロキシアパタイト等の生体親和性セラミックスは生体親和性が高く、これを薄膜としてコーティングした金属やセラミックスは生体材料として優れており、これらの基板上で細胞を培養することによって、細胞の増殖や分化が早められることが確認されている(特許文献1)。
【0003】
ただ、生体親和性セラミックスをコーティングした基板は、柔軟性に欠けるので使用範囲が限られており、薄膜上で培養した細胞は目的の機能が発現する組織状態で回収することもできず、移植後に生体内に吸収される細胞シートを作製することも困難であった。
【0004】
この問題点については、生体親和性セラミックスを溶解しない溶媒に可溶な基材の上に透明生体親和性セラミックス膜を成膜したのち、前記溶媒により基材を溶解することによって、生体親和性透明シートを製造する方法が開発されており、当該生体親和性シートは細胞培養用の足場として利用でき、培養した細胞は剥離などの操作を必要とせず直接移植することもできるようになっている(特許文献2)。
【0005】
しかし、生体親和性シートを直接生体組織に貼付するに当たっては、各生体組織によってはうまく貼付することができず、貼付方法を検討する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−278609号公報
【特許文献2】特許第4919519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生体親和性シートを歯に貼付する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の貼付剤を用いることにより、生体親和性シートを歯に好適に貼付させ得ることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
(a)歯に生体親和性シートを付着させる工程
(b)生体親和性シート又は歯に、貼付液を適用する工程
を含み、
当該貼付液が、リン酸カルシウムを0.1w/v%以上含み、且つpHが1より大きく4未満である、リン酸カルシウム水溶液である、
生体親和性シートを歯に接着する方法。
項2.
さらに(c)生体親和性シートを口腔内用保護シートで覆う工程
を(a)及び(b)両工程の前又は後に含む、
項1に記載の方法。
項3.
生体親和性シートの片面に口腔内用保護シートが積層してなる積層体に、貼付液を適用する工程、及び
歯に当該積層体を付着させる工程、
を含み、
当該貼付液が、リン酸カルシウムを0.1w/v%以上含み、且つpHが1より大きく4未満である、リン酸カルシウム水溶液である、
生体親和性シートを歯に接着する方法。
項4.
生体親和性シートが、生体親和性セラミックス膜である、項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5.
生体親和性セラミックス膜が、リン酸カルシウムシート(好ましくは、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)シート又はハイドロキシアパタイト(HAP)シート)である、項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6.
リン酸カルシウムを0.1w/v%以上含み、且つpHが1より大きく4未満である、リン酸カルシウム水溶液からなる、生体親和性シートを歯に接着させるための貼付液。
項7.
生体親和性シート、口腔内用保護シート、及び貼付液を備えるか、又は
生体親和性シート及び口腔内用保護シートが積層してなる積層体、及び貼付液を備え、
当該貼付液が、リン酸カルシウムを0.1w/v%以上含み、且つpHが1より大きく4未満である、リン酸カルシウム水溶液である、
生体親和性シートを歯に接着させるためのキット。
項8.
生体親和性シート及び口腔内用保護シートが積層してなる積層体。
項9.
生体親和性シートを歯に接着させるための、項8に記載の積層体。
項10.
生体親和性シートが、生体親和性セラミックス膜である、項6に記載の貼付液、又は項7に記載のキット、又は項8若しくは9に記載の積層体。
項11.
口腔内用保護シートが、以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の構成を備えたシートである、項2若しくは項3に記載方法、項7に記載のキット、又は項8若しくは9に記載の積層体。
(i)直径10〜100μm程度の貫通孔が開いている樹脂シート
(ii)基板層部と接着層部の二層の積層体樹脂シート
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体親和性シートを歯に好適に接着することができる。また、このため、歯の再石灰化や修復を促すことができ、例えばう蝕予防及び治療、歯の健康維持(歯を丈夫に保つ)のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】牛歯を切断して板状のディスクとする手順の概要を示す。
図2】Ca(HPO飽和貼付液を用いた場合の、リン酸カルシウムシートの歯への接着を検討した結果を示す。
図3】歯への貼付液の影響(為害性)を検討するために用いる、レジン包埋された牛歯ブロックの作成手順の概要を示す。
図4】レジン包埋された牛歯ブロックを用いて、歯への貼付液の影響(為害性)を検討した結果を示す。
図5】貼付液のCa(HPO濃度によるリン酸カルシウムシート接着能力の変化を検討した結果を示す。
図6】貼付液に用いるリン酸カルシウムの種類の違いにより、リン酸カルシウムシート接着能力が変化するかを検討した結果を示す。
図7】貼付液に用いるカルシウムイオン及びリン酸イオンの供給源となる成分の違いにより、リン酸カルシウムシート接着能力が変化するかを検討した結果を示す。
図8】貼付液に用いるカルシウムイオン及びリン酸イオンの供給源となる成分の違いにより、リン酸カルシウムシート接着能力が変化するかを検討した結果を示す。
図9】口腔内保護シートを用いて、歯へのリン酸カルシウムシートを接着する検討の結果(人工唾液中静置時間:1日)を示す。デジタルマイクロスコープ観察結果を上側に、SEM観察画像を下段に示す。
図10】口腔内保護シートを用いて、歯へのリン酸カルシウムシートを接着する検討の結果(人工唾液中静置時間:2時間又は1時間)を示す。
図11】、口腔内保護シートに代えて、不織布テープ又は歯のマニキュアを用いて歯へのリン酸カルシウムシート接着を検討した結果(人工唾液中静置時間:1時間)を示す。
図12】口腔内保護シートに代えて、0.5重量%NaHCO(pH8.3)水溶液、又は0.5重量%NaCO(pH11.3)水溶液、のいずれかをACPシートの上に添加した場合の、歯へのリン酸カルシウムシート接着を検討した結果(人工唾液中静置時間:1時間)を示す。
図13】口腔内保護シートに代えて、0.5重量%NaHCO(pH8.3)水溶液、又は0.5重量%NaCO(pH11.3)水溶液、のいずれかをACPシートの上に添加した場合の、歯へのリン酸カルシウムシート接着を検討した結果(人工唾液中静置時間:3分間)を示す。
図14】口腔内保護シートとして、酢酸ビニル樹脂(基板層部)及びカルボキシビニルポリマー(接着層部)からなる2層の積層体を用いて、歯へのリン酸カルシウムシートを接着する検討の結果(人工唾液中静置時間:1時間)を示す。なお、以上の図において、sat.との記載は飽和水溶液であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明に包含される、生体親和性シートを歯に接着する方法は、(a)歯に生体親和性シートを付着させる工程、及び(b)生体親和性シート又は歯に、貼付液を適用する工程、を含む。これら(a)工程及び(b)工程は、いずれを先に行ってもよい。つまり、歯に生体親和性シートを付着させてから貼付液を適用してもよいし(a→b)、生体親和性シート又は歯に貼付液を適用してから生体親和性シートを歯に付着させてもよい(b→a)。好ましくはb→aの順である。
【0014】
生体親和性シートに貼付液を適用する方法としては、特に制限されず、例えば、何らかの器具(例:スポイトやブラシなど)により貼付液を生体親和性シートに付着させる方法や、あるいは生体親和性シートを貼付液に浸漬する方法などが挙げられる。また、歯に貼付液を適用する方法としても、特に制限されず、例えば、何らかの器具(例:スポイトやブラシなど)により貼付液を歯に付着させる方法などが挙げられる。
【0015】
生体親和性シートとしては、生体分解性ポリマーを含んでなる膜や、生体親和性セラミックス膜などが例示でき、生体親和性セラミックス膜がより好適に用いられる。当該生体親和性セラミックス膜は、生体親和性セラミックスで構成され、何ら支持体を有さないものである。このような支持体を有さない生体親和性セラミックス膜は、例えば特許文献2(特許第4919519公報)に記載の方法により製造することができる。より具体的には、例えば、生体親和性セラミックスを溶解しない溶媒に溶解する基材に、生体親和性セラミックス膜を成膜したのち、生体親和性セラミックス膜が成膜された基材を前記溶媒に浸漬して基材を溶解することにより製造することができる。より詳細に説明すると、例えば、塩化ナトリウムなどの基材に、レーザーアブレーション法等により生体親和性セラミックス膜を成膜し、これを純水や細胞培養用緩衝液等の溶媒に浸漬して基材を溶解させて、製造することができる。あるいはまた、例えば、レジスト膜付きのシリコン基板を基材とし、このレジスト膜状に生体親和性セラミックス膜を成膜した後、レジスト膜を溶解することにより、製造することができる。また、特許文献2に記載されるように、突起物によるパターンを形成した基材を用いることにより、貫通孔の開いた膜を調製することもできる(特許文献2の図3(b)〜(d)参照)。あるいはまた、作成した生体親和性セラミックス膜にレーザーを照射して貫通孔を形成することもできる。このような貫通孔の開いた生体親和性セラミックス膜も、生体親和性シートとして用いるのに好ましい。この場合、特に制限はされないが、貫通孔としては直径50〜200μm程度が好ましく、60〜150μm程度がより好ましく、80〜120μm程度がさらに好ましい。また、貫通孔と貫通孔との間隔は、500〜2000μm程度が好ましく、750〜1500μm程度がより好ましく、900〜1200μm程度がさらに好ましい。
【0016】
また、生体親和性シートの厚みは、特に制限はされないが、生体親和性シートが可撓性及び柔軟性を有し、かつ、一定の強度を維持するためには、1〜100μm程度が好ましく、2〜50μm程度がより好ましい。
【0017】
生体親和性セラミックスは、アパタイト、その原材料、又はこれらを含む組成物(特に混合物)のことである。ここで、アパタイトとはM10(ZOの組成を持った鉱物群であり、式中のMは例えばCa、Na、Mg、Ba、K、Zn、Alであり、ZOは例えばPO、SO、COであり、Xは例えばOH、F、O、COである。生体親和性セラミックス膜には、これらのいずれの組み合わせからなる生体親和性セラミックスを用いてもよいが、中でもMがCa、ZOがPOである組み合わせからなる膜、すなわちリン酸カルシウムシートが好ましい。リン酸カルシウムシートにおけるXはOHであることが特に好ましい。なお、MがCa、ZOがPO、XがOHの生体親和性セラミックスは、特にハイドロキシアパタイト(HAP)と呼ばれる。
【0018】
また、アパタイトの原材料としてリン酸三カルシウム(TCP)を例示することができ、アパタイトを含む組成物として牛等の骨から採取した生体アパタイトを例示することができる。
【0019】
またさらに、生体内では結晶性の高いハイドロキシアパタイトが直に生成するのではなく、まずコラーゲンの繊維間にアモルファス状リン酸カルシウム(ACP)が生成し、成長及び結晶化を経て低結晶性のハイドロキシアパタイトが生成することが知られている。従って、本発明に係る生体親和性セラミックス膜(特にリン酸カルシウムシート)には、アモルファス状リン酸カルシウムシートも好ましく包含される。
【0020】
貼付液は、生体親和性シートを好適に歯に付着させる。本発明は、当該添付液をも包含する。当該貼付液は、好ましくは、リン酸カルシウムを0.1w/v%以上含み、且つpHが1より大きく4未満である、リン酸カルシウム水溶液である。
【0021】
貼付液に含まれるリン酸カルシウムは、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウムのいずれをも用いることができ、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、及び第三リン酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種のリン酸カルシウムを用いることができる。また、リン酸カルシウム濃度も、特に制限はされないが、濃い方が好ましい。例えば、0.1w/v%以上であることが好ましく、0.2w/v%以上であることがより好ましく、0.3w/v%以上であることがさらに好ましく、0.4w/v%以上であることがよりさらに好ましく、0.5w/v%以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されず、例えば飽和リン酸カルシウムを好ましく用いることができる。上限濃度としては、例えば0.6w/v%以下が挙げられる。より具体的には、例えば0.1w/v%以上飽和以下のリン酸カルシウム水溶液を好適に用いることができる。
【0022】
貼付液のpHは、1より大きく4未満であり、1.5以上3.5以下であることが好ましく、2以上3以下であることがより好ましい。pHが1未満であると、酸が強すぎて、生体親和性シートそのものが損なわれるおそれがある。また、pHが1未満という強酸であると、歯に適用する、すなわち口腔内で使用するには危険である。また、pHが4以上であると、生体親和性シートが歯に十分接着せず、剥がれ落ちるおそれがある。
【0023】
pHを上記適切な範囲に調整するため、貼付液はpH調整剤を含んでもよい。pH調整剤としては、例えば塩酸、クエン酸ナトリウム、リン酸等が挙げられる。
【0024】
なお、上記(a)及び(b)工程を経ることにより、貼付液が生体親和性シートに適用された状態で歯に付着させた後、貼付液のpHを中性付近にすることにより、生体親和性シートが歯に強固に接着する。口腔内には、使用貼付液量よりも多量の唾液が存在しており、唾液によって貼付液のpHが中性付近になることから、実際に生体親和性シートを貼付液を用いて口腔内の歯に接着させる場合には、唾液によりpHが中性付近に調整され、強固な接着が達成され得る。しかし、さらに(a)及び(b)工程後に、積極的に(d)貼付液のpHを中性付近に調整する工程、を含んでいてもよい。当該工程(d)においてpHを中性付近に調整する方法としては、特に制限されず、例えば水又は緩衝液により、歯に付着した生体親和性シートを洗浄する(より具体的には、例えば口腔内を水又は緩衝液で(軽く)ゆすぐ)方法が挙げられる。あるいは、貼付液適用部位にさらにアルカリ性溶液を適用して、貼付液のpHを中性付近に調整する方法も例示できる。アルカリ性溶液としては、口腔内に損傷を与えることなく適用することが可能であれば特に制限はされないが、例えば炭酸水素ナトリウム水溶液や炭酸ナトリウム水溶液が例示できる。
【0025】
限定的な解釈をのぞむものではないが、pHが1より大きく4未満の貼付液を用いることにより、歯表面を脱灰(だっかい)させ、凹凸が生じて表面積が広くなったところで、pHを中性にしてやると、貼付液中のリン酸カルシウムが析出して、歯とシートとの間が埋められて接着し、さらには、リン酸カルシウムが石灰化することでハイドロキシアパタイトになり、歯と一体化し、より強固な接着が達成されるのではないかと推測される。
【0026】
また、当該生体親和性シートを歯に接着する方法は、工程(a)及び(b)工程に加えて、(c)生体親和性シートを口腔内用保護シートで覆う工程、を含んでもよい。工程(c)は、工程(a)及び(b)の後に行ってもよいし(すなわち、(a→b→c)又は(b→a→c)であってよく)、工程(a)及び(b)の前に行ってもよい(すなわち、(c→a→b)又は(c→b→a)であってもよい)。好ましくは、b→a→c又はc→b→aの順である。なお、c工程をa工程及びb工程の前に行う場合は、口腔内用保護シートにより生体親和性シートの片面が覆われ、覆われていないもう一方の面が歯に接着する面になる。
【0027】
口腔内用保護シートとしては、口腔内に適用される(好ましくは歯に適用される)公知のシートであれば特に制限はされない。例えば、歯肉や口腔粘膜の病変部、外科処置部、歯面などの湿潤面接着し、物理的又は化学的な刺激から保護するために用いられるシートが好適である。また、矯正器具から口腔内が刺激を受けるのを避けるため、矯正器具や歯の上に接着させるシートも好適である。このようなシートとしては、市販品を購入して用いることができる。好ましい市販品としては、例えばComfortBrace(ComfortBrace LLC)が例示できる。また、シートの素材としては、特に制限はされず、例えば適当な樹脂を選択して用いることができる。また、当該シートは、基板層部と接着層部の二層の積層体であることが好ましい。接着層部が生体親和性シートと付着し、且つ歯表面とも接着することで、生体親和性シートをは表面に固定することができる。このような積層体としては、例えば酢酸ビニル樹脂(基板層部)及びカルボキシビニルポリマー(接着層部)の積層体を好ましく例示できる。またさらに、口腔内用保護シートは、貫通孔が開いているものも好ましく用いることができる。この場合、特に制限はされないが、貫通孔としては直径100〜1500μm程度が好ましく、200〜1200μm程度がより好ましく、300〜1000μm程度がさらに好ましい。また、貫通孔と貫通孔との間隔は、約0.5〜2mm程度が好ましく、0.75〜1.5mm程度がより好ましい。
【0028】
また、口腔内用保護シートは、生体親和性シートを覆い(すなわち、歯と口腔内用保護シートの間に生体親和性シートが保持され)、生体親和性シートを歯に固定して強固に接着するのを補助することが期待される。そして、上記の通り、貼付液が生体親和性シートに適用された状態で歯に付着させた後、例えば唾液や水等により貼付液のpHが中性付近になることにより、生体親和性シートが歯に強固に接着するから、口腔内用保護シートは、唾液や水、アルカリ性溶液等を通過させるものであることが好ましい。このような口腔内用保護シートとしては、生体親和性シートの一部のみを覆うが生体親和性シートの外側にも存在する形状(例えば十字型や#型)のものや、生体親和性シートの一部又は全体を覆うが適当な数の孔が存在する(ことにより、当該孔から唾液や水などが生体親和性シートへ通じる)もの(特に上記貫通孔を備えたもの)などが、好ましく例示できる。
【0029】
なお、当該方法が工程(a)、(b)、及び(c)を含み、且つ工程(d)を含む場合、工程(d)はこれらの工程の中では最後に行われる。
【0030】
また、本発明は、上記生体親和性シート及び上記口腔内用保護シートが積層してなる積層体も包含する。当該積層体は、生体親和性シートの両面又は片面(好ましくは片面)に口腔内用保護シートが積層してなるものが好ましい。当該積層体の生体親和性シートに貼付液を適用し、そのまま歯の表面に接着させることで、口腔内用保護シートも併せて歯に適用され、生体親和性シートをは表面に簡便に固定することができる。従って、本発明は、生体親和性シートの片面に口腔内用保護シートが積層してなる積層体に、貼付液を適用する工程、及び歯に当該積層体を付着させる工程、を含む、生体親和性シートを歯に接着する方法も包含する。
【0031】
また、本発明は、生体親和性シートを歯に接着する準備をする方法も包含しており、当該方法としては、例えば、上記(b)の工程に包含される工程:(b−1)生体親和性シートに貼付液を適用する工程、を含有する方法が挙げられる。また、例えば、上記(c)の工程を含有する方法が挙げられる。またこれらの他にもさらに、例えば、上述した各生体親和性シートを歯に接着する方法において、歯に生体親和性シートを付着させる工程又は歯に貼付液を適用する工程の前段階の工程までを含む方法が挙げられる。
【0032】
また、本発明は、生体親和性シートを歯に接着させるためのキットも包含する。当該キットとしては、生体親和性シート、口腔内用保護シート、及び貼付液を備えるキットや、生体親和性シート及び口腔内用保護シートが積層してなる積層体、及び貼付液を備えるキットが好ましく例示できる。これら、キットが備える備品についても、上記の説明が当てはまる。
【0033】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0035】
アモルファス状リン酸カルシウム(ACP)シートの作成
レジスト膜付きのシリコン基板を基材とし、このレジスト膜状に生体親和性セラミックス(アモルファスリン酸カルシウム:ACP))膜を成膜した後、レジスト膜を溶解して、ACPシートを作製した。
【0036】
まず、レジスト膜付きのシリコン基盤にレーザーアブレーション法により、ACP膜を成膜した。より詳細には、20mm×15mmのレジスト膜付きのシリコン基盤をレーザーアブレーション装置の試料把持装置に把持させ、真空中でAr Fエキシマレーザー(λ=193nm、パルス幅=20n秒)を使用するレーザーアブレーション法を2時間行って、厚さ2μmのACP膜を被覆した。次に、ACP膜を成膜したレジスト膜付きのシリコン基盤を純水に浸漬してレジスト膜を溶解してACP膜のみを単離した。
【0037】
さらに当該ACP膜に穴のあいた金属マスクを被せ、大気中で上記と同条件のレーザー光を照射することにより、直径100μm程度の貫通孔を約1000μm間隔で形成した。この貫通孔を備えるACP膜を以下の検討に使用した。
【0038】
牛歯ディスクの調製
牛歯を切断して板状のディスクとし(図1参照)、表面を耐水研磨紙(粒度2500)で研磨し、10%次亜塩素酸で30秒処理(浸漬)し、超音波処理(1分)を施して、検討に用いる牛歯ディスクを調製した。
【0039】
貼付液の調製
第一リン酸カルシウム一水和物の飽和水溶液(pHが6.0、5.0、4.0、3.0、2.0、又は1.0)を調製し、貼付液とした。各貼付液の第一リン酸カルシウム一水和物の重量%を次の表に示す。なお、以下においても、調製した貼付液は全て水溶液である。また、特に断らない限り重量%はw/v%を示す。また、pHの調整は塩酸を用いて行った。
【0040】
【表1】
【0041】
歯へのシート接着検討
100mm dishに人工唾液を浸したキムタオル片を入れ、その上で検討試験を行った。具体的には、次の手順に従って検討した。各貼付液を牛歯ディスクに添加し、ACPシートの貼付面を象牙質に貼付し、指で押さえつけ、10分間インキュベートし、さらに20分間、1分毎に人工唾液を添加して指で押さえつけた。その後、24時間(37℃)人工唾液湿潤状態で静置した。静置後、ACPシートをブラッシングし、剥離しないかを検証した。なお、ブラッシングは、荷重160g、150rpmで20ストローク(GUM211Mのヘッドを使用)の条件で行った。以下も同様である。
【0042】
Ca(HPO飽和貼付液による検討結果を図2に示す(pH1.0、2.0、3.0又は4.0の貼付液を用いた場合の結果は、拡大図も併せて示す。)。pH1.0、2.0又は3.0の貼付液を用いた場合には、ACPシートはブラッシング後も牛歯ディスクに接着していた。しかし、pH1.0の貼付駅を用いた場合においては、シートそのものが一部溶解していた。pH4.0の貼付液を用いた場合には、ブラッシング後は部分部分(斑模様的に)シートが剥離していた。pH5.0又は6.0の貼付液を用いた場合には、ブラッシング後はシートが完全に剥離していた。
【0043】
このことから、Ca(HPO飽和貼付液においては、pH4.0の液を用いた場合には接着が完全ではなく、pH5.0以上の液を用いた場合には接着が不完全であることがわかった。
【0044】
歯への貼付液の影響(為害性)の検討
牛歯から切り出した5mm四方の象牙質(象牙ブロック)を、その一面の表面のみ外部に見えるようにレジン包埋し、その表面について耐水研磨紙(粒度2500)で研磨し、10%次亜塩素酸で30秒処理(浸漬)し、超音波処理(1分)を施して、さらに当該表面の中心3mm四方を残してマニキュアでコートした(図3参照)。
【0045】
そして、露出している3mm四方の象牙質表面を貼付液又は蒸留水で覆い、室温で10分間静置し、人工唾液で十分に洗浄してから、象牙質露出表面の中心付近からブロックを縦に切断してデジタルマイクロスコープ(KEYENCE, VHX−5000)にて観察した。結果を図4に示す。図4から分かるように、pH1.0の貼付液を用いた時のみ、象牙質が溶解していた。
【0046】
このことから、pH1.0以下の貼付液を用いた場合、強酸により象牙質が溶解してしまうおそれがあることがわかった。
【0047】
貼付液の濃度の検討
pH3.0のCa(HPO飽和貼付液(0.54重量%)の他に、pH3.0の0.36重量%又は0.18重量%のCa(HPO貼付液を調製し、これらの接着性能について、上記と同様の手順で検討した。それぞれの貼付液につき、3シート(n=3)検討した。結果を図5に示す。図5に示すように、pH3.0のCa(HPO飽和貼付液(0.54重量%)を用いた場合は3シートとも接着し、pH3.0の0.36重量%又は0.18重量%のCa(HPO貼付液を用いた場合は3シート中2シートが接着した。なお、図5に示される写真は、接着したシートの写真である。
【0048】
このことから、貼付液のリン酸カルシウム濃度は高い方が好ましいことが分かった。
【0049】
貼付液に用いるリン酸カルシウムの種類の検討
pH3.0のCa(HPO飽和貼付液(0.54重量%)の他に、pH3.0のCaHPO飽和貼付液(0.58重量%)、及びpH3.0のCa(PO飽和貼付液(0.37重量%)を調製し、これらの接着性能について、上記と同様の手順で検討した。それぞれの貼付液につき、3シート(n=3)検討した。結果を図6に示す。図6に示すように、いずれの貼付液を用いた場合も3シートとも接着した。
【0050】
このことから、貼付液のリン酸カルシウムとしては、Ca(HPO、CaHPO、Ca(POのいずれを用いてもよいことがわかった。
【0051】
貼付液に用いるカルシウムイオン及びリン酸イオンの供給源の検討
pH3.0のCa(HPO飽和貼付液(0.54重量%)の他に、pH3.0のCaCl飽和貼付液(42.7重量%)、pH3.0のNaHPO飽和貼付液(59.2重量%)、及びpH3.0のCaSO飽和貼付液(0.24重量%)、を調製し、これらの接着性能について、上記と同様の手順で検討した。但し、Ca(HPO飽和貼付液及びCaSO飽和貼付液を用いた場合においては、ブラッシング処理後、さらに超音波処理を施した。
【0052】
それぞれの貼付液につき、3シート(n=3)検討した。結果を図7及び図8に示す。図7に示すように、CaCl飽和貼付液又はNaHPO飽和貼付液を用いた場合には、ACPシートは歯に接着しなかった。また、図8に示すように、CaSO飽和貼付液を用いた場合には、ブラッシング後はACPシートは接着していたが、超音波処理(超音波洗浄機US−4;アズワン株式会社、を使用)を施すと剥離してしまった。
【0053】
このことから、貼付液の成分としては、リン酸カルシウムが最適であることがわかった。
【0054】
口腔内保護シートの調製
Comfort Brace(Comfort Brace LLC)を裏面から、1〜1.5mm間隔で、歯科技工用ドリルで孔を開けた。孔の直径は1000μm程度とした。当該貫通孔を有するComfort Braceを約5mm×8mmの長方形になるように切り出し、口腔内保護シートとして以下の検討に用いた。
【0055】
口腔内保護シートを用いての、歯へのシート接着検討
100mm dishに人工唾液を浸したキムタオル片を入れ、その上で検討試験を行った。まず、pH2.0のCa(HPO飽和貼付液(2.97重量%)を牛歯ディスクに添加し、ACPシート(孔開き)を貼り付け、10分間静置した。口腔内保護シート(孔開きの約5mm×8mmの長方形Comfort Brace)を人工唾液で湿らせ、ACPシートの上に貼付した。この状態で人工唾液で満たした50mLチューブに入れ、37℃で静置した。検討はn=2で行った。
【0056】
当該チューブ内で1日静置した時の、デジタルマイクロスコープ観察結果を図9上側に示す。ほぼシート全体の残存が確認できた。また、SEM観察画像(シートの端の部分)を図9下段に示す。SEM観察画像においては、穴(象牙細管)が開いている部分がシートが無い部分であり、象牙細管が見えない部分がシートで覆われている部分である。当該画像から、シートが象牙細管を封鎖していることが確認できた。
【0057】
以上のことから、口腔内保護シートでACPシートを覆うことにより、シートの位置がずれることなくしっかりと接着ができたことが確認された。
【0058】
また、当該チューブ内で2時間又は1時間静置した後、さらにブラッシングを行ってからデジタルマイクロスコープ観察した際の結果(n=3)の結果を図10に示す。人工唾液への浸漬時間は2時間又は1時間であっても、接着強度に問題は見られなかった。
【0059】
また、口腔内保護シートに代えて、不織布テープ又は歯のマニキュア(ハニックデンティキュア:株式会社ハニックス)を用いて歯へのシート接着を検討した(チューブへの浸漬時間は1時間)。結果を図11に示す。不織布テープや歯のマニキュアでは、ACPシートをずれないように固定させることはできたが、接着強度は非常に弱かった。
【0060】
アルカリ液塗布による、歯へのシート接着の検討
口腔内保護シートに加えて、アルカリ液を塗布した場合の、歯へのACPシート接着について検討した。
【0061】
pH2.0のCa(HPO飽和貼付液(2.97重量%)を牛歯ディスクに添加し、ACPシート(孔開き)を貼り付け、10分間静置した。口腔内保護シート(孔開きの約5mm×8mmの長方形Comfort Brace)を人工唾液で湿らせ、ACPシートの上に貼付した。また、この際に、口腔内保護シートに代えて、0.5重量%NaHCO(pH8.3)水溶液、又は0.5重量%NaCO(pH11.3)水溶液、のいずれかをACPシートの上に添加したものも調製した。
【0062】
この状態で人工唾液で満たした50mLチューブに入れ、37℃で1時間静置し、その後ブラッシングした。検討はn=3で行った。
【0063】
結果を図12に示す。いずれの場合でも、シートの接着強度に大きな問題は無かった。
【0064】
またさらに、次の検討も行った。pH2.0のCa(HPO飽和貼付液(2.97重量%)を牛歯ディスクに添加し、ACPシート(孔開き)を貼り付け、10分間静置した。口腔内保護シート(孔開きの約5mm×8mmの長方形Comfort Brace)を人工唾液で湿らせ、ACPシートの上に貼付した。また、この際に、口腔内保護シートに代えて、0.5重量%NaHCO(pH8.3)水溶液、又は0.5重量%NaCO(pH11.3)水溶液、のいずれかをACPシートの上に添加したものも調製した。
【0065】
この状態で人工唾液で満たした50mLチューブに入れ、37℃で3分間静置し、その後指で擦過した。検討はn=3で行った。
【0066】
結果を図13に示す。いずれの場合でも、シートの接着強度に大きな問題は無かったが、0.5重量%NaHCO(pH8.3)水溶液、又は0.5重量%NaCO(pH11.3)水溶液を用いたものの方が接着強度が強かった。
【0067】
口腔内保護シートを用いての、歯へのシート接着検討2
100mm dishに人工唾液を浸したキムタオル片を入れ、その上で検討試験を行った。まず、pH2.0のCa(HPO飽和貼付液(2.97重量%)を牛歯ディスクに添加し、ACPシート(孔開き)を貼り付け、10分間静置した。口腔内保護シートを人工唾液で湿らせ、ACPシートの上に貼付した。この状態で人工唾液で満たした50mLチューブに入れ、37℃で1時間静置し、ブラッシングした。検討はn=3で行った。なお、当該検討で用いた口腔内保護シートは、酢酸ビニル樹脂(基板層部)及びカルボキシビニルポリマー(接着層部)からなる2層の積層体であり、その総厚みは65μmであり、直径1cm程度の円形である。なお、当該構成の口腔内保護シートは吸水性があるため、貫通孔は有していないものの、人工唾液が吸収されてACPシートまで到達していると考えられる。
【0068】
結果を図14下段に示す(上段は、口腔内保護シートとして、孔開きの約5mm×8mmの長方形Comfort Braceを用いたときの結果を示し、下段が本検討の結果を示す。)。当該積層体の保護シートを用いた場合も、ACPシートの歯への強固な接着が認められた。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
図11
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図14