【実施例1】
【0033】
はじめに、
図1を参照しながら本発明の実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具の基本構成について説明する。
図1は本発明の実施形態に係る肩甲上腕関節外転装具の要部のイメージ図である。
実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1は、人体の上体に装着する装具であり、主に目的とする腱板の減張を助長するために用いられる装具である。より詳細には、例えば腱板修復術後に目的とする腱板の減張を助長するために用いられる装具である。
図1に示すように、例えば実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1は主に、減張すべき腱板35側の肘を曲げた状態で同腱板35側の腕を外転位に保持するとともに、同腱板35側の前腕を正面に向かって突き出した状態で保持する腋下パッド8と、減張すべき腱板35側の腕38の荷重を直接及び/又は間接的に同腱板35側の肩に伝達する腕荷重伝達手段と、減張すべき腱板35側の肩23において背側から正面側に架け渡され、上記腕荷重伝達手段から伝達される荷重を受けて肩23を鉛直下方側に押し下げる肩保定帯2を備えている。
また、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1は、例えば
図1に示すように腕荷重伝達手段として、減張すべき腱板35側の肘26を曲げた状態でその前腕25を吊下げ保持する前腕吊具3を備えている。
そして、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の前腕吊具3は、
図1に示すように、減張すべき腱板35側の腕38を吊下げ保持する際の腕38の荷重を肩保定帯2に伝達する前腕吊りバンド4を備えており、肩甲上腕関節外転装具1を装着した状態で平面視した際の、つまり、
図1中の使用者22を頭上から見下ろした際の、前腕吊りバンド4の配設方向Qは、肩保定帯2の配設方向Pに対して傾斜している。
加えて、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1は、肩保定帯2を使用者22の上体(特に肩23)に固定しておくための第1の固定構造と、腋下パッド8を使用者22の上体(特に腹部及び腰部)に固定しておくための第2の固定構造をそれぞれ備えている(
図1中には示されていない)。なお、第1の固定構造と第2の固定構造の具体的態様の一例については後段において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
このような実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、使用者22の肩23に配設される肩保定帯2に、前腕吊具3の前腕吊りバンド4が連結されており、かつこの前腕吊りバンド4に腕38が吊下げ保持されていることで、減張すべき腱板35側の腕38の荷重を直接肩保定帯2に伝達することができる。
つまり、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1によれば、その装着時に減張すべき腱板35側の肩23に、より具体的には肩鎖関節部周囲に、この部分を鉛直下方側に押し下げるような力を作用させることができる。
これにより、使用者22が減張すべき腱板35側の肩23を外転させた際に、その肩23が鉛直上方側に浮き上がった状態になる(
図13を参照)のを防止することができる。
より具体的には、使用者22が減張すべき腱板35側肩23を外転した際に、同腱板35側の肩甲骨34(
図13を参照)が、体の中心側から外上方に向かって高くなるように傾斜するのを抑制することができる。
なお、上述のような肩甲骨34が傾斜した状態(例えば、先の
図13中に実線で示す状態)を、専門用語では肩甲骨34が上方回旋した状態と呼ぶ。この場合、見かけ上、上腕骨33が外転していても、肩甲上腕関節は全く外転しておらず、
図13中の破線で示す状態(肩甲骨34が上方回旋していない状態)に比べて、腱板35には依然として上腕骨頭の周方向に引張力が作用し続ける。このことは、腱板35が十分に減張されていないことを意味している。
したがって、目的とする腱板35をより確実に減張するには、上腕24を外転する際に、肩甲骨34の上方回旋を極力抑制する必要がある。そして、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1によれば、その装着時に上述の通り減張すべき腱板35側の肩を鉛直下方に押し下げることができ、これにより同腱板35側の肩23を外転した際の肩甲骨34の上方回旋を抑制することができる。
つまり、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1を用いることで、肩甲胸郭関節外転θ
3(後段における
図7を参照)を抑制して、肩甲上腕関節外転角度θ
4(後段における
図7を参照)を大きくすることができる。
また、腱板35の減張効果の有無は、肩甲上腕関節を外転させた際の腱板35の減張距離の大小により判断することができる。さらに、腱板35の減張距離は、後段において
図7、11を参照しながら詳細に説明するが、肩甲上腕関節の外転角度θ
4の大きさに比例して大きくなることから、肩甲上腕関節の外転角度θ
4をより大きくすることで、腱板35を高い確実性を持って減張することが可能となる。(効果1)。
【0035】
また、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、傾斜面8bを備えた腋下パッド8を用いることで、減張すべき腱板35側の上腕24を所望に外転させた状態で保持することができる。
より具体的には、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1は、
図1に示すように、使用者22の肩外転させる上腕24側の体側において、体から離れる方向でかつ鉛直上方側から下方側に向かって下降する傾斜面8bを有する腋下パッド8を備えている。
また、上述のような腋下パッド8を使用者22の腋下29に挿入した際に、その傾斜面8b上に、肘26を曲げた状態で減張すべき腱板35側の腕38を載置して保持することができる。この時、同腱板35側の前腕25は、前腕吊具3で吊下げ保持されるため、使用者22の手28を前方に突出させた状態になる。つまり、肩外転させた上腕24側の前腕25は、使用者22の体の正面側(腹部31上)でなく、体側に配置されることになる。
よって、使用者22が腋下パッド8を装着することで、減張すべき腱板35側の上腕24が所望角度で肩外転された状態で保持される。これにより、減張すべき腱板35(
図11を参照)に、同腱板35側の腕38を鉛直下方側に下垂させることに伴って生じる引張力(以下、この引張力を「引張力S」という。)が作用するのを抑制することができる。
この結果、減張すべき腱板35に作用する外力(引張力S)を軽減することができるので、同腱板35を好適に減張することができる(効果2)。
【0036】
なお、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8の形態は、先にも述べた通り、体から離れる方向でかつ鉛直上方側から下方側に向かって下降する傾斜面8bを有していればどのような形態であってもよい。
また、腋下パッド8の形態はさらに望ましくは、使用者22の腋下29に配設される部分の鉛直方向横断面形状が鋭角状をなし、かつ使用者22の体の前後方向(
図1中のXY方向)に中心軸8gが配されている角柱体であることが好ましい。さらには、腋下パッド8の形態はより望ましくは、三角柱状をなしていることが好ましい。
【0037】
加えて、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、腋下パッド8が傾斜面8bを備えていることで、減張すべき腱板35側の腕38を傾斜面8b上に載置した際に、同腱板35側の前腕25が使用者22の正面側に移動しようとするのを妨げることができる。より具体的には、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8が傾斜面8bを備えていることで、その前腕25が使用者22の胸部30又は腹部31に接触するように移動するのを妨げることができる。つまり、腋下パッド8の傾斜面8bは、減張すべき腱板35側の腕38の、正面側への回動動作を妨げるという作用を有する。
この場合、減張すべき腱板35(
図11を参照)に、同腱板35側の前腕25を使用者22の正面側に移動させることに伴って生じる引張力(以下、この引張力を「引張力T」という。)が作用するのを抑制することができる。
これにより、減張すべき腱板35に作用する外力(引張力T)を軽減することができる。この結果、肩外転させた上腕24側の腱板35の減張効果が減殺されるのを抑制することができる(効果3)。
【0038】
加えて、実施例1係る肩甲上腕関節外転装具1では、
図1に示すように、この肩甲上腕関節外転装具1を装着した状態で平面視した際に、肩保定帯2に前腕吊りバンド4が、肩保定帯2の配設方向Pに対して前腕吊りバンド4の配設方向Qが傾斜した状態で連結されている。
より具体的には、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、肩保定帯2の平面形状が略矩形状をなしている。このため、肩保定帯2の長手方向における中心線2a
1の延長線2a
2が肩保定帯2の配設方向Pと略一致する。つまり、肩保定帯2の配設方向Pは、これを鉛直方向(または上下方向または頭足方向;
図1中におけるZ方向)に沿って見た場合に、使用者22の立位における前後方向(
図1中におけるXY方向)と略一致している。
さらに、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、前腕吊具3を構成する前腕吊りバンド4は細長帯状をなしている。このため、その長手方向における中心線が前腕吊りバンド4の配設方向Qとなる。
【0039】
そして、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、肩保定帯2の中心線2a
1の延長線2a
2と、前腕吊りバンド4の中心線は、同一線上に配置されない。すなわち、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、肩保定帯2の配設方向Pに対して前腕吊りバンド4の配設方向Qが傾斜しているのである。詳細には、配設方向Qは、これをZ方向から見下ろした場合に(平面視した場合に)、枢軸7を中心として配設方向Pから傾斜角度θ
1で体側側に回動している。
この場合、前腕吊具3により減張すべき腱板35側の前腕25を吊下げ保持した際に、その手首27を使用者22の前方に突出させた状態に維持しておくことが容易になる。
このことは、前腕吊具3により前腕25を吊下げ保持した際に、減張すべき腱板35側の前腕25に、この前腕25を使用者22の正面側に移動させようとする力が作用し難くなることを意味している。
つまり、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1によれば、目的とする肩23を外転させてその腱板35の減張効果を発揮させようとする際に、同腱板35に対して上述の引張力Tが意図せず作用して、腱板35の減張効果が減殺されてしまうのを防止することができる。
【0040】
この点をより詳細に説明すると、例えば肩甲上腕関節を外転させておくための装具において、肩保定帯2の中心線2a
1の延長線2a
2上に、前腕吊りバンド4の中心軸を配設する場合は、前腕吊りバンド4から肩外転させた上腕24側の前腕25に対して、この前腕25を使用者22の正面側に移動させようとする外力(引張力T)が常に作用することになる。
この場合、目的とする肩23を外転させることでその腱板35の減張効果が発揮される一方で、同腱板35には上述の引張力Tも同時に作用するため、結果として上記減張効果が減殺されてしまう。
これに対して、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、肩保定帯2の配設方向Pに対して、前腕吊りバンド4の配設方向Qが傾斜していることによっても、腱板35に作用する引張力Tを軽減することができる。
この結果、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1によれば、肩23を外転させることによる腱板35の減張効果が減殺されるのを抑制することができる(効果4)。
【0041】
したがって、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1によれば上述の効果1乃至4を同時に発揮させることができる。
つまり、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1によれば、肩甲上腕関節を外転させることで発揮される腱板35の減張効果が、肩甲上腕関節を外転させること以外の動作によって減殺されてしまうのを好適に防ぐことができる。
この結果、使用者22が実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1を装着することで、目的とする腱板35を高い確実性をもって減張することができる。
この場合、特に腱板修復術後に腱板35の再生を促進するとともに、修復された腱板35の再断裂を防止することができる。この結果、使用者22の肩痛の緩和や、肩関節の機能回復に寄与することができる。
なお、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1は主に、腱板修復術後の腱板35の修復再生を促進するのに最適であるが、上記以外にも腱板35に上述のような引張力Sや引張力Tが作用することに伴う骨折転位の抑制、肩痛の軽減や、肩機能低下の回復に対しても効果が期待できる。
【0042】
なお、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1において、この肩甲上腕関節外転装具1を装着した状態で平面視した際の肩保定帯2の配設方向Pに対する前腕吊りバンド4の配設方向Qの傾斜角度θ
1は、肩甲上腕関節の外転角度や、前腕25における前腕吊具3の装着位置によって変わるため一概に特定することはできないが理論上は0°<θ
1≦90°の範囲内になる。
【0043】
次に、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の任意選択構成要素について説明する。
実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、
図1に示すように、肩保定帯2の正面側端部2bに前腕吊りバンド4を枢設するための枢軸7を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、肩保定帯2の配設方向Pに対する前腕吊りバンド4の配設方向Qの傾斜角度θ
1を所望に変更することが可能になる。
これにより、前腕吊具3を使用者22の前腕25のどの位置に装着しても、また肩甲上腕関節の外転角度を所望に変更した場合でも、減張すべき腱板35に作用する引張力Tが極力小さくなるような傾斜角度θ
1にすることができる。
したがって、肩保定帯2と前腕吊りバンド4が枢軸7を介して連結される場合は、使用者22の体格や、肩甲上腕関節の外転角度に応じて傾斜角度θ
1をその都度変更又は調整する必要がなくなる。
よって、上述のような実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1によれば、使用時の利便性に優れた装具を提供することができる。
【0044】
また、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1における前腕吊具3は、前腕吊りバンド4において肩保定帯2に連結される側とは反対側の端部にループを形成しておき、このループに減張すべき腱板35側の前腕25を挿通させて吊下げ保持してもよい(図示せず)。
この場合は、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の形態をシンプルにできる反面、長期間(例えば、腱板修復術後の6週間程度)に亘って実施例1に係る装具を装着する場合に、使用者22の前腕25に前腕吊りバンド4が食い込むなどの不都合が生じる懸念がある。
【0045】
このような事情に鑑み、実施例1に係る前腕吊具3は、例えば
図1に示すように、前腕吊りバンド4に加えて、使用者22の前腕25を保持するための可撓性及びクッション性を有する略半割筒状の前腕保持部5と、この前腕保持部5と前腕吊りバンド4を接続するための連結部6を備えていてもよい(いずれも任意選択構成要素)。
なお、前腕吊具3における前腕保持部5と連結部6は、一体に構成してもよいし、別体に構成して、これらを例えば面ファスナ等の接合部材により着脱可能に構成してもよい。
このように、前腕吊具3が前腕保持部5を、又は前腕保持部5及び連結部6を備える場合は、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の装着時における使用者22の前腕25への負担(痛みや擦れ等)を軽減することができる。
さらに、
図1には特に示していないが、前腕保持部5はさらに、前腕保持部5の中空部内に収容される前腕25の位置ずれを防止するための前腕固定構造(図示せず)を、前腕保持部5と一体に、又は前腕保持部5に対して着脱可能に備えていてもよい(任意選択構成要素)。
なお、このような前腕固定構造としては、例えば前腕保持部5において互いに対向して配される端部同士を連結するバンド体等を用いることができる。
【0046】
さらに、
図1には示していないが、前腕吊りバンド4の長さを調整可能に構成してもよい(任意選択構成要素)。
より具体的には、前腕吊りバンド4と連結部6を、例えばアジャスターバックル等を介して連結することで前腕吊りバンド4の長さを変更可能にしてもよい。
この場合、使用者22の体格に応じて前腕吊りバンド4の長さを適宜調整することができる。これにより、使用者22の体格に対する汎用性の高い肩甲上腕関節外転装具1を提供することができる。
【0047】
次に、
図2を参照しながら、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8の変形例について説明する。
図2は本発明の実施形態に係る肩甲上腕関節外転装具の腋下パッドの変形例を示すイメージ図である。なお、
図1に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図2に示すように、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8は、その傾斜面8bに、使用者22の上腕24を固定するための上腕固定ベルト9を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
このように、腋下パッド8が傾斜面8bに上腕固定ベルト9を備えている場合は、立位、臥位のいずれにおいても、腋下パッド8の傾斜面8b上における上腕24の位置ずれを好適に防ぐことができる。この結果、目的とする腱板35の減張効果を継続的に発揮させることができる。
【0048】
さらに、腋下パッド8の傾斜面8bに、上腕固定ベルト9に加えて、使用者22の前腕25を固定するための前腕固定ベルト10を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
後段において詳細に説明するが、使用者22が体を横たえている状態(臥位)では、腕荷重伝達手段(前腕吊りバンド4及び/又は第1の腋下パッド固定ベルト14)を介して肩保定帯2に腕38の荷重を伝達することができない。このため、肩保定帯2により肩23を鉛直下方側に押し下げる効果は発揮されない。しかしながら、腋下パッド8の傾斜面8bから腕38が離間すると、上述の張力Sや張力Tにより目的とする腱板35の減張効果が継続的に発揮されなくなるため、好ましくない。このため、使用者22が実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1を装着している場合は、臥位でも腋下パッド8の傾斜面8bに腕38密着させておく必要がある。
したがって、腋下パッド8の傾斜面8bが上腕固定ベルト9に加えて前腕固定ベルト10を備えている場合は、特に使用者22の臥位における腕38の位置ずれを確実に防止することができる。この結果、目的とする腱板35の減張効果を継続的に発揮させることができる。
【0049】
つまり、上腕固定ベルト9は、立位、臥位のいずれにおいても有用であるのに対し、前腕固定ベルト10は特に臥位において有用である。
また、傾斜面8bへの上腕固定ベルト9や前腕固定ベルト10の着脱構造としては、例えば面ファスナ等を用いることができる。
【0050】
続いて、
図3を参照しながら、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッドの別の変形例について説明する。
図3は本発明の実施形態に係る肩甲上腕関節外転装具の腋下パッドの別の変形例を示すイメージ図である。なお、
図1又は
図2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図3に示すように、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8は、傾斜面8bの延長で、かつ使用者22が装着した際の前方側(
図1,3中の符号Xで示す方向)に突設される前腕補助部8eを備えていてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、腋下パッド8が前腕補助部8eを備えない場合に比べて、減張すべき腱板35側の前腕25を支持する領域を広くすることができる。より具体的には、腋下パッド8が前腕補助部8eを備えていることで、同腱板35側の前腕25における手関節付近まで支持することが可能になる。
これにより、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の装着時に、減張すべき腱板35側の前腕25が、使用者22の正面側に移動しようとするのを一層確実に妨げることができる。また、この状態を使用者22の意思に関わらず、常時実現することができる。
このように、腋下パッド8が前腕補助部8eを備えていることで、肩外転させる上腕24側の腱板35を減張するために最適な腕38の配置を実現することができる。この結果、目的とする腱板35の減張効果を最大化することができる。
【0051】
なお、
図3では、腋下パッド8における傾斜面8bの端縁の一部に前腕補助部8eを突設される場合を例に挙げて説明しているが、前腕補助部8eは傾斜面8bの端縁の全域に突設されてもよい(任意選択構成要素)。
この場合は、特に夜間等に体を横たえた際に、使用者22が自らの意思で傾斜面8b上における腕38の位置を制御することができなくとも、腕38が意図せず体の正面側(腹部31側)に移動してしまうのを防ぐことができる。
【0052】
さらに、前腕補助部8eの長さL
2は、腋下パッド8を使用者22の腋下29に配設した際に、柱状パッド本体8aから離れる側の前腕補助部8eの端部Rが、使用者22の手首27の位置に、又は手首27の近辺に位置するように設定しておいてもよい。そして、前腕補助部8eの長さL
2が上述のように特定される場合は、腋下パッド8を装着したままの状態で使用者22は、手首27の動きが妨げられることなく手28を使用することができるので、肩甲上腕関節外転装具1の装着時の快適性を向上させることができる。
あるいは、腋下パッド8が前腕補助部8eを備える場合の端部Rの位置を、手関節を基準にして手28側に5cm程度離れた位置に設定してもよい。この場合は、腋下パッド8を使用者22の腋下29に配設した際に、使用者が前腕補助部8eの端部Rに指を係止できる状態になる。そして、この場合は、特に夜間等に使用者22が体を横たえた際に、腕38が腹部31側に移動するのを確実に妨げることができる。
【0053】
なお、前腕補助部8eの長さL
2は、傾斜面8bの中心軸8g(
図1を参照)方向長さL
1の大きさによって変動する。
そして、腋下パッド8が前腕補助部8eを備える場合は、柱状パッド本体8aの中心軸8g方向における傾斜面8bの長さが(L
1+L
2)である腋下パッド8を用いる場合に比べて、腋下パッド8の形態をコンパクトにすることができる。
【0054】
さらに、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8が上述のような前腕補助部8eを備えている場合は、必要に応じてこの前腕補助部8eに前腕吊具3を固定しておくことができる。
より具体的には、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1は、腋下パッド8の前腕補助部8eに、前腕吊具3の前腕保持部5及び/又は連結部6を、例えば面ファスナやスナップボタン、あるいは固定用バンド等の接合部材(図示せず)を用いて着脱可能に構成してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、例えば夜間等の就寝時に、前腕吊具3の前腕保持部5及び/又は連結部6を、前腕補助部8eに固定しておくことができる。つまり、例えば夜間等の就寝時に、使用者22は減張すべき腱板35側の腕38を、腋下パッド8に固定しておくことができる。
【0055】
夜間等の就寝時は、使用者22が体を横たえるため、使用者22が肩甲上腕関節外転装具1を装着していたとしても、減張すべき腱板35側の腕38の荷重を同腱板35の肩23に作用させることはできない。
しかしながら、使用者22が体を横たえた際に、減張すべき腱板35側の腕38が腋下パッド8から離れてしまった場合は、減張すべき腱板35に、その減張を妨げるような外力(例えば引張力Sや引張力Tなど)が意図せず作用してしまい、腱板35の再生に好ましくない状態になってしまう。あるいは、修復された腱板が再断裂するおそれもある。
このため、腋下パッド8に前腕補助部8eを設けるとともに、この前腕補助部8eに前腕吊具3の前腕保持部5及び/又は連結部6を固定できるよう構成しておくことで、使用者22が自身の体を横たえた場合でも、減張すべき腱板35側の腕38の配置を、同腱板35の減張状態を維持するのに適したものにすることができる。
よって、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1において、前腕補助部8eを備えた腋下パッド8を用いることで、夜間等の就寝時も目的とする腱板35の再生が促進されやすい状態に維持しつつ、修復された腱板の再断裂を防止することができる。
【0056】
さらに、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8は、
図3に示すような三角筒体であってもよい(任意選択構成要素)。
この場合、使用者22の上体への肩保定帯2の固定構造(第1の固定構造)や、腋下パッド8の固定構造(第2の固定構造)をシンプルにすることができる。この点について
図4を参照しながら詳細に説明する。
【0057】
図4は本発明の実施形態に係る肩甲上腕関節外転装具における第1の固定構造及び第2の固定構造の一例を示すイメージ図である。なお、
図1乃至
図3に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。また、
図4では
図1中に示される前腕吊具3の記載を省略している。
まず、使用者22の上体への肩保定帯2を固定するための第1の固定構造について説明する。
図4に示すように、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の肩保定帯2は第1の固定構造11として、肩保定帯2の正面側端部2bと背面側端部2cを連結するとともに、使用者22の胸部30及び背部に架け渡される肩保定帯固定ベルト12を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
先にも述べたように、肩保定帯2には前腕吊具3が連結されている。このため、肩保定帯2には、使用者22の肩23からこの肩保定帯2を滑り落して外そうとする力が常時作用している。
【0058】
これに対して、肩保定帯2が第1の固定構造11として肩保定帯固定ベルト12を備えている場合は、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の装着時に、使用者22の肩23から肩保定帯2が滑り落ちて外れる、あるいは肩保定帯2が位置ずれを起こすのを防ぐことができる。
この結果、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の装着時に、使用者22の肩23から意図せず肩保定帯2が外れてしまい、使用者22の肩23を鉛直下方側に押し下げる力が働かなくなって、減張すべき腱板35側の肩23が浮き上がった状態になるのを防止することができる。
この結果、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の装着時に、上述の効果1をより確実に発揮させることができる。
なお、
図4には特に示していないが、肩保定帯固定ベルト12は、使用者22の胸部30及び背部に肩保定帯固定ベルト12を着脱させるための連結具(例えば、アジャスターバックル、面ファスナ等)を備えている。
また、特に図示していないが、肩保定帯固定ベルト12は、例えば、アジャスターバックル、面ファスナ等を備えることでその長さを調整可能に構成しておいてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、使用者22の体格が一様でない場合でも1種類の肩甲上腕関節外転装具1で対応することが可能となり、便利である。
【0059】
次に、使用者22の上体に腋下パッド8を固定しておくための第2の固定構造について
図4を参照しながら説明する。
図4に示すように、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8は第2の固定構造13として、肩保定帯2の正面側端部2bと背面側端部2cを連結するとともに、三角筒体状をなす腋下パッド8の中空部8d内に挿通される第1の腋下パッド固定ベルト14を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
なお、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、角柱状をなす腋下パッド8において鉛直最上位に配される側辺8cと対向する位置に肩保定帯2が配されている。
この場合、あたかもショルダーバッグを肩23に掛止するようにして腋下パッド8を使用者22の腋下29に保持させることができる。
さらに、腋下パッド8が第1の腋下パッド固定ベルト14を備える場合は、腋下パッド8自体の荷重、及び腋下パッド8に作用する上腕24の荷重の両方を、第1の腋下パッド固定ベルト14及び肩保定帯2を介して使用者22の肩23に作用させることができる。
したがって、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1が、第1の腋下パッド固定ベルト14を備えている場合は、上述の効果1の発揮を一層助長することができる。
さらに、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1が、肩保定帯固定ベルト12及び第1の腋下パッド固定ベルト14の両者を備えている場合は、肩保定帯固定ベルト12によっても腋下パッド8の位置ずれを防止することができる。
【0060】
なお、
図4には特に示していないが、腋下パッド8の中空部8dの内側面に第1の腋下パッド固定ベルト14を着脱可能の固定するための図示しない固定構造(例えば、面ファスナやスナップボタン等)を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、腋下パッド8の使用時に、第1の腋下パッド固定ベルト14に吊下げ保持される腋下パッド8が、第1の腋下パッド固定ベルト14上をスライドするのを防止できる。
これにより、腋下パッド8の傾斜面8b上に載置される腕38が、腋下パッド8から意図せず離れてしまい、目的とする腱板35の減張が妨げられるのを防止できる。
【0061】
さらに、
図4には特に示していないが、第1の腋下パッド固定ベルト14の長さを調節可能に構成してもよい(任意選択構成要素)。
より具体的には、第1の腋下パッド固定ベルト14に連結具(例えば、アジャスターバックル、面ファスナ等)を設けておき、必要に応じて第1の腋下パッド固定ベルト14の長さを変更可能に構成してもよい。
この場合、使用者22の体格が一様でない場合でも、それぞれの使用者22の体格に応じた最適な位置に腋下パッド8を配置することができる。
加えて、
図4に示す実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1では、肩保定帯2と第1の腋下パッド固定ベルト14を別体として備える場合を例に挙げて説明しているが、第1の腋下パッド固定ベルト14と肩保定帯2を一体化させて1本の帯状のベルトにより構成してもよい(任意選択構成要素)。
この場合も、肩保定帯2と第1の腋下パッド固定ベルト14を別体として備え、これらを連結して用いる場合と同様の作用・効果を奏する。なお、第1の腋下パッド固定ベルト14と肩保定帯2を一体化させて1本の帯状のベルトとする場合は、この帯状のベルトの所望の位置に前腕吊りバンド4や肩保定帯固定ベルト12を直接あるいは必要に応じて枢軸7を介して取設すればよい。
【0062】
なお、特に図示しないが、腋下パッド8が先の
図1,2に示すような中実な角柱体である場合は、第1の腋下パッド固定ベルト14を2本のベルトにより構成し、そのうちの一方のベルトにより肩保定帯2の正面側端部2bと腋下パッド8の正面側端面8f
1を連結するとともに、他方のベルトにより肩保定帯2の背面側端部2cと腋下パッド8の背面側端面8f
2を連結してもよい。
この場合も、1本の第1の腋下パッド固定ベルト14を、三角筒体からなる腋下パッド8の中空部8dに挿通させて用いる場合と同様の効果を発揮させることができる。
【0063】
また、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1が、例えば前腕吊りバンド4、肩保定帯固定ベルト12及び第1の腋下パッド固定ベルト14を備えている場合は、これらの端部の全てをひとまとめにして肩保定帯2の正面側端部2b及び正面側端部2bのそれぞれに枢軸7により固定してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、肩保定帯2の配設方向Pに対する、前腕吊りバンド4、肩保定帯固定ベルト12及び第1の腋下パッド固定ベルト14のそれぞれの配設方向のなす角度を所望に変更することが可能になる。
この場合、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の装着時に、前腕吊りバンド4、肩保定帯固定ベルト12及び第1の腋下パッド固定ベルト14のそれぞれを、使用者22に対する負荷を最大限軽減した状態で掛止することができる。
この結果、肩甲上腕関節外転装具1の装着時の使用者22の身体的な負担を大幅に軽減することができる。
なお、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1において前腕吊りバンド4以外の肩保定帯固定ベルト12や第1の腋下パッド固定ベルト14については、枢軸7を介することなく肩保定帯2に直接取設してもよい。
【0064】
さらに、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8は、第2の固定構造13として、上述の第1の腋下パッド固定ベルト14とは別に、三角筒体からなる腋下パッド8の中空部8d内に挿通されるとともに、使用者22の腹部31及び腰部に巻回される第2の腋下パット固定ベルト15を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
このように、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1が第2の固定構造13として第2の腋下パット固定ベルト15を備える場合は、腋下パッド8を使用者22の腹部31及び腰部にも固定することができる。
この場合、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1と、肩外転させる上腕24側の腕38と、使用者22の上体の位置関係を略一定に保つことができる。
つまり、肩外転させる上腕24側の腱板35の減張に、最適な状態となるに腕38を保持しておくことができる。
この場合、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1を装着している間中、目的とする腱板35を高い確実性を持って減張し続けることができるので、その再生に寄与することができる。
なお、上述の第1の腋下パッド固定ベルト14は、肩保定帯2を使用者22の上体に固定しておくための第1の固定構造11としての機能も兼ね備えている。
【0065】
さらに、
図4には特に示していないが、第2の腋下パット固定ベルト15の長さを調節可能に構成してもよい(任意選択構成要素)。
より具体的には、第2の腋下パット固定ベルト15に連結具(例えば、アジャスターバックル、面ファスナ等)を設けておき、必要に応じて第2の腋下パット固定ベルト15の長さを変更可能に構成してもよい。
この場合、使用者22の胴囲が一様でない場合でも、第2の腋下パット固定ベルト15の長さを、それぞれの使用者22の胴囲に応じた最適な状態にして使用することができる。
【0066】
続いて、
図5を参照しながら三角筒体からなる腋下パッド8の細部構造について説明する。
図5(a)は本発明の実施形態に係る肩甲上腕関節外転装具における腋下パッドの断面図であり、(b)は同腋下パッドを分解した状態の断面図である。なお、
図1乃至
図4に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
三角筒体からなる腋下パッド8は、
図5(a)に示すように、例えば断面略V字形をなす折曲板16と、この折曲板16の折曲板16同士をつなぐように配置される略矩形状の底板17により構成してもよい(任意選択構成要素)。
さらに、折曲板16は、底板17との連結構造として、例えば折曲板16の開放端部16aのそれぞれに延設される舌状片18を備えていてもよい。
この場合、折曲板16と底板17を連結して一体化する際に、底板17と舌状片18とが重なり合う領域に、例えば面ファスナやスナップボタン等の接合材を設けておくことで、折曲板16の開放端部16aに容易に底板17を着脱させることができる。
【0067】
このように三角筒体からなる腋下パッド8が、折曲板16と底板17により構成されていることで、腋下パッド8の中心軸8g(
図1及び
図5(b)を参照)と直交する方向における底板17の長さW(
図5を参照)を変更することにより、折曲板16の山折り部分の角度θ
2(鉛直方向に対する傾斜面8bのなす角度)を所望に変更することができる。
これにより、腋下パッド8の傾斜面8b上に使用者22の腕38を載置した際の、上腕24の外転角度を所望に変更することが可能になる。なお、折曲板16の山折り部分の角度θ
2は、20°≦θ
2≦85°の範囲内であればよい。
この場合、使用者22の肩甲上腕関節の外転角度を変更するために、様々な外転角度に応じた腋下パッドを別々に準備する、あるいはブロック状の腋下パッドを複数個準備しておきこれらを連結させて用いる必要等がなくなる。つまり、上述のような腋下パッド8を備える場合は、腱板修復術後の腱板35の回復の程度に応じて、肩甲上腕関節の外転角度を変更する場合でも、1つの腋下パッド8で対応することができるというメリットを有する。
よって、上述のような底板17の長さWを変更可能な三角筒体状の腋下パッド8を備えることで、肩甲上腕関節の外転角度に対する汎用性が高い肩甲上腕関節外転装具1を提供することができる。
なお、折曲板16の山折り部分の角度がθ
2である(鉛直方向に対する傾斜面8bのなす角度がθ
2である)腋下パッド8を、使用者22の腋下29に装着した際の、使用者22の肩23の肩外転角度θ
5(後段における
図7を参照)は、θ
2と略一致する。
【0068】
さらに、
図5では折曲板16の開放端部16a側に舌状片18を設ける場合を例に挙げて説明しているが、舌状片18は底板17の相対する一対の辺のそれぞれに延設されていてもよい(図示せず)。この場合も、折曲板16の開放端部16a側に舌状片18を備える場合と同様の作用効果を発揮させることができる。
さらに、実施例1に係る肩甲上腕関節外転装具1の腋下パッド8は、
図5に示すように、折曲板16の外側面上でかつ、使用者22の体と接触する部分にクッション材20及び/又はカバー21を備えてもよい(任意選択構成要素)。
このように、腋下パッド8がクッション材20を備えている場合は、使用者22の腋下29に腋下パッド8を装着した際の痛みや違和感を軽減することができる。
また、腋下パッド8がカバー21を備えている場合は、折曲板16の外側面又はクッション材20の表面をカバー21により保護して、使用時の汚損や破損を防ぐことができる。
【0069】
また、実施例1においては、肩保定帯2及び腋下パッド8の固定構造(第1の固定構造11及び第2の固定構造13)として主に、バンド体(肩保定帯固定ベルト12、第1の腋下パッド固定ベルト14、第2の腋下パット固定ベルト15)を用いる場合を例に挙げて説明しているが、これらはバンド体以外のもので代用することもできる。例えば、衣服のベスト様のものを準備し、その肩に肩保定帯2及び腋下パッド8を固設して用いてもよい。
あるいは、肩保定帯2の固定構造(第1の固定構造11)として、肩保定帯2の裏面側に合成樹脂やシリコン等からなる滑り止めシートを貼設しておき、肩保定帯固定ベルト12を用いることなく使用者22の肩23に肩保定帯2を固定できるよう構成してもよい。
【実施例3】
【0074】
ここで、
図6を参照しながら本発明の実施例3に係る肩甲上腕関節外転装具1´について説明する。
上述の実施例1,2に係る肩甲上腕関節外転装具を装着する使用者22の体形が中肉中背である場合は特に問題はない。しかしながら、特に使用者22の胴囲が大きい場合や使用者22の肩幅が狭い場合は、実施例1,2に係る肩甲上腕関節外転装具において、腕荷重伝達手段を介して腕38の荷重を肩保定帯2に伝達している状態が、使用者22の肩23から肩保定帯2を滑り落すように力を作用させている状態と同じになってしまい、結果として、使用者22の肩23に肩保定帯2を固定しておくことが困難な場合がある。この場合は、本発明の目的とする効果を発揮させることができなくなる。
つまり、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具1の装着時に目的とする効果を確実に発揮させるためには、使用者22の肩23における肩保定帯2の位置ずれを確実に防止する必要がある。
【0075】
図6は本発明の実施例3に係る肩甲上腕関節外転装具における第1の固定構造及び第2の固定構造の配置例を示すイメージ図である。なお、
図1乃至
図5,
図12,13に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。また、
図6では、腕荷重伝達手段(前腕吊りバンド4及び/又は第1の腋下パッド固定ベルト14)の一部又は全部の記載を省略している。
図6に示すように、実施例3に係る肩甲上腕関節外転装具1´は、腋下パッド8を貫通するとともに、使用者22の腹部31及び腰部32に架け渡されて腋下パッド8を使用者22の上体に固定する第2の腋下パット固定ベルト15を備え、さらに肩保定帯2´の正面側端部2b´、背面側端部2c´のそれぞれを、直接第2の腋下パット固定ベルト15に接続して固定してなるものである。
【0076】
上述のような実施例3に係る肩甲上腕関節外転装具1´では、肩保定帯2´が第2の腋下パット固定ベルト15に接続されて固定されていることで、使用者22の胴囲が大きい場合や使用者22の肩幅が狭い場合でも、肩保定帯2´が使用者22の肩23から滑り落ちて外れる心配がない。
つまり、実施例3に係る肩甲上腕関節外転装具1´によれば、使用者22の体形がどうであれ、肩保定帯2´を使用者22の肩23における背側から正面側に架け渡しておくことができる。
この結果、使用者22の肩23に腕38の荷重が確実に作用し、使用者22の肩23を常時鉛直下方側に押し下げることができる。したがって、実施例3に係る肩甲上腕関節外転装具1´によれば、目的とする腱板35の減張効果を確実に発揮させることができる。
【0077】
なお、
図6に示す実施例3に係る肩甲上腕関節外転装具1´では、長いバンド状の肩保定帯2´を用い、その正面側端部2b´及び背面側端部2c´の両方を直接第2の腋下パット固定ベルト15に接続する場合を例に挙げて説明しているが、先の実施例1,2に係る肩保定帯2の正面側端部2b、背面側端部2cのそれぞれに別体のバンドを設け、この別体のバンドを介して間接的に肩保定帯2を第2の腋下パット固定ベルト15に接続して固定してもよい(任意選択構成要素)。この場合も上記の場合と同様の作用・効果を発揮させることができる。
さらに、
図6では、腋下パッド8が角筒状をなす場合を例に挙げているが、腋下パッド8の立体形状は、先の
図1,2に示すような角柱体でもよい。この場合は、第2の腋下パット固定ベルト15の端部のそれぞれを、腋下パッド8の端面8f
1,8f
2のそれぞれに接続して用いればよい。
【0078】
さらに、
図6に示すように、実施例3に係る肩甲上腕関節外転装具1´は、必要に応じて肩保定帯固定ベルト12を備えていてもよい。
この場合、実施例3に係る肩甲上腕関節外転装具1´の装着時における肩保定帯2´の位置ずれを一層効果的に防止することができる。
【0079】
さらに、実施例1乃至実施例3では、腋下パッド8の中心軸8gに対する垂直断面形状が略三角形である場合を例に挙げて説明しているが、腋下パッド8の立体形状は上述のものに限定される必要はない。
すなわち、腋下パッド8の立体形状は、使用者22の減張すべき腱板35側の体側に配設された際に、同腱板35側の肘26を曲げた状態で同腱板35側の腕38を外転位に保持するとともに、同腱板35側の前腕25を正面(
図1中の符号Xで示す方向)に向かって突き出した状態で保持することができるような形状を有していれば、どのような立体形状を有していてもよい。
【0080】
最後に、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を用いることによる効果を、X線画像等を参照しながら説明する。
まず、
図7を参照しながら肩外転について説明する。
図7は肩外転を説明するためのイメージ図である。なお、
図1乃至
図5及び
図12,13に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図7に示すように、肩外転(θ
5)は、肩甲胸郭関節外転(θ
3)と肩甲上腕関節外転(θ
4)の総和である。つまり、肩外転(θ
5)が一定である場合、肩甲胸郭関節の外転角度(θ
3)が大きくなるにつれ肩甲上腕関節の外転角度(θ
4)は小さくなる。逆に、肩甲上腕関節の外転角度(θ
4)が大きくなるにつれ肩甲胸郭関節の外転角度(θ
3)は小さくなる。なお、
図7中の実線Zは垂線を、破線Eは肩甲骨34の傾斜を、一点鎖線Fは上腕骨軸をそれぞれ示している。なお、ここでいう「垂線」は正中線と略平行な線であり、より具体的には
図1中の鉛直上下方向と略同一である。
【0081】
図8(a)は従来技術に係る装具(設定角度45度)を装着した状態の正面図であり、(b)は本発明に係る肩甲上腕関節外転装具(
図5中のθ
2=45度)を装着した状態の正面像である。
図8(a)に示すように、従来技術に係る装具では、減張すべき腱板35側の肩23と反対側の肩に肩保定帯2に相当する構成が配置されている。
次に、
図9に示すようなX線画像を用いて、見かけの肩外転角度(
図9中において実線と一点鎖線の間の成す角度;θ
5)、肩甲上腕関節の外転角度(
図9中において一点鎖線と破線の間の成す角度;θ
4)および肩甲胸郭関節の外転角度(
図9中において破線と実線の間の成す角度;θ
3)を測定した結果を示す。なお、θ
3及びθ
4の計測には検査情報管理システム(製品名;SYNAPSE(登録商標)、富士フイルム株式会社製)を用いた。
図9(a), (b)はそれぞれ
図8(a), (b)に示す状態で撮影された右肩の単純X線画像である。なお、
図9(a), (b)中の実線、破線及び一点鎖線はそれぞれ先の
図7中の実線、破線及び一点鎖線と同様に、垂線(正中線と略平行な線)、肩甲骨の傾斜及び上腕骨軸を示している。
従来技術に係る装具を装着した場合(
図8(a)及び
図9(b)を参照)では、見かけの肩外転角度(θ
5)は23度であるが、肩甲上腕関節外転角度(θ
4)はわずか1度であった。この原因として肩甲骨が大きく上方回旋していることが分かる。
その一方で、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を装着した場合(
図8(b)及び
図9(b)を参照)は、見かけの肩外転角度(θ
5)が39度とより大きな外転角度が得られ、かつ肩甲上腕関節外転角度(θ
4)29度、肩甲胸郭関節外転角度(θ
3)10度であった。このため、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を装着した場合は、より大きな肩甲上腕関節外転(θ
4)機能を達成するとともに、肩甲胸郭関節の外転(θ
3)を抑制していることがわかる。
【0082】
図10は肩腱板縫合術後の10例に、従来技術に係る装具を装着した場合と、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を45度肩外転保持を目的として装着した場合、の肩外転(θ
5)、肩甲上腕関節外転(θ
4)、肩甲胸郭関節外転(θ
3)のX線計測結果の平均値(度)をグラフ化したものである。なお、
図10中の棒グラフ内に示す数値は全て角度を示しており、その単位はいずれも「度」である。
図10に示される通り、上記10例の場合も先の
図9に示すケースと同様に、従来技術に係る装具を用いた場合の肩甲上腕関節外転角度(θ
4)はわずか平均13度であった。これに対して、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を装着した場合の上腕関節外転角度(θ
4)は平均32度であった。
また、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を装着した場合の肩甲胸郭関節外転(θ
3)は平均10度に抑制されていた。
よって、
図9,10に示す結果から、従来技術に係る装具を装着した場合、つまり減張すべき腱板35側の肩23と反対側の肩に肩保定帯2に相当する構成を配置する場合は、肩外転保持能力が乏しく、かつ肩甲骨が上方回旋するため、肩甲上腕関節外転(θ
4)能力が弱いといえる。
他方、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を装着した場合、つまり減張すべき腱板35側の肩23に肩保定帯2を配置する場合は、肩甲骨の上方回旋を抑制するとともに、肩甲上腕関節外転(θ
4)能力を格段に上げることができることが示された。
【0083】
さらに、修復された上方腱板の減張距離(mm)は、肩甲上腕関節外転角度(θ
4)に基づき下記関係式2により求めることができる。
【0084】
【数2】
【0085】
上記関係式2から明らかなように、上方腱板の減張距離(mm)は、肩甲上腕関節外転角度(θ
4)に比例して大きくなる。そして、上方腱板の減張距離(mm)が大きいほど、肩甲上腕関節を外転した際の腱板35の減張効果は大きくなる(以下に示す
図11を参照)。
また、先の
図10に示す肩腱板縫合術後の10例のそれぞれの肩甲上腕関節外転角度(θ
4)の測定値に基づき、上記関係式2を用いて修復された上方腱板の減張距離(mm)を試算した。
図11は上方腱板の減張距離(mm)を説明するためのイメージ図である。また、
図11中に、先の
図10に示10例の肩甲上腕関節外転角度(θ
4)の計測値に基づいて試算された上方腱板の減張距離(mm)の平均値を併せて示した。
【0086】
図11に示すように、従来技術に係る装具を肩外転45度設定で装着した場合(
図8(a)および
図9(a)を参照)は、腱板の減張距離が平均5.5mmと推測される一方で、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を肩外転45度設定で装着した場合の腱板の減張距離は平均14mmと推測された。
したがって、従来技術に係る装具を装着した場合、見かけの肩外転の約6割以上が肩甲胸郭関節で外転してしまい、これに伴って肩甲上腕関節外転角度が小さくなることが明らかになった。よって、減張すべき腱板35側の肩23を鉛直下方側に押し下げない場合は、同腱板35の減張効果が少ないことが明らかになった。
他方、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を装着した場合は、見かけ上の外転角度の76%が肩甲上腕関節で外転しており、これに伴って肩甲胸郭関節の外転角度が小さくなることが明らかになった。よって、減張すべき腱板35側の肩23を鉛直下方側に押し下げた場合は、同腱板35の減張効果が十分に発揮されることが明らかになった。
つまり、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を装着する場合は、腋下パッド8を構成する折曲板16の屈曲角度θ
2(
図5を参照;略鉛直方向に対する傾斜面8bのなす角度)の大きさに比例して、肩甲上腕関節の外転角度θ
4を確実に大きくすることができる。
より具体的には、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具を用いる場合は、腋下パッド8を構成する折曲板16の屈曲角度θ
2(略鉛直方向に対する傾斜面8bのなす角度)と減張すべき腱板35側の肩甲上腕関節外転角度θ
4の関係、並びに、減張すべき腱板35側の肩外転角度θ
5と同腱板35側の肩甲上腕関節外転角度θ
4の関係、を下記関係式3のように示すことができる。ただし、θ
4,θ
5の計測は検査情報管理システム(製品名;SYNAPSE、富士フイルム株式会社製)による。また、略鉛直方向に対する傾斜面8bのなす角度がθ
2である腋下パッド8を装着した場合の肩外転角度θ
5(
図7を参照)は、角度θ
2と略一致する。
【0087】
【数3】
【0088】
したがって、本発明に係る肩甲上腕関節外転装具によれば、腋下パッド8を構成する折曲板16の屈曲角度θ
2(略鉛直方向に対する傾斜面8bのなす角度)を適宜調整することで目的とする腱板を高い確実性をもって減張することができる。